本発明は、高周波モジュール、特にFETスイッチを用いて特定周波数の通信信号を切り替える高周波スイッチモジュールに関する。
現在、携帯電話等の無線通信方式には複数の仕様が存在し、例えばヨーロッパではマルチバンドのGSM方式が採用されている。GSM方式では使用する周波数帯が異なる複数の通信信号(送受信信号)が存在し、各周波数帯としては850MHz帯、および900MHz帯が存在する。さらには、1800MHz帯や1900MHz帯も存在する。このようなそれぞれに異なる周波数帯を利用する複数の通信信号を1つのアンテナで送受信する場合、目的とする周波数帯の通信信号以外は不要となり、さらには、1つの通信信号であっても送信時には受信信号は不要となり、受信時には送信信号が不要となる。このため、1つのアンテナで送受信を行う場合には、目的とする通信信号の送信信号を伝送する経路や目的とする通信信号の受信信号を伝送する経路を切り替える必要があり、この切り替えにFETスイッチを用いた高周波スイッチモジュールが各種考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1には、図9に示すような高周波スイッチモジュールが備えられている。図9は従来の高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。従来の高周波スイッチモジュールは、第1通信信号の送信信号(第1送信信号)と第2通信信号の送信信号(第2送信信号)とが入力される送信ポートRF101、第1通信信号の受信信号(第1受信信号)を出力する第1受信ポートRF102、第2通信信号の受信信号(第2受信信号)を出力する第2受信ポートRF103、アンテナに対して第1、第2送信信号、第1受信信号、および第2受信信号の入出力を行うアンテナポートANT0、を有するFETスイッチSW100を備えている。このFETスイッチSW100としては、半導体、特にFETからなるスイッチが用いられ、現状では多く、GaAsスイッチが用いられている。そして、従来の高周波スイッチモジュールは、第1、第2送信信号の高調波を減衰するローパスフィルタLPF201を送信ポートRF101に接続し、第1受信信号の基本波を通過するバンドパルフィルタBPF301を第1受信ポートRF102に接続し、第2受信信号の基本波を通過するバンドパルフィルタBPF302を第2受信ポートRF103に接続している。
前述のような高周波スイッチモジュールでは、FETスイッチSW100の送信ポートRF101にローパスフィルタLPF201を介して接続された送信信号入力端子Tx1へ送信信号が入力される。この送信信号は通常前段に接続されたパワーアンプにより増幅されてから入力されるが、この増幅の際に送信信号の基本周波数foに対する高次高調波が発生して基本周波数foの送信信号とともに入力される。ここで、図9に示す高周波スイッチモジュールのローパスフィルタLPF201を、前記高次高調波を減衰させる設定にしておけば、FETスイッチSW100に入力される送信信号の高次高調波を抑制することができる。例えば、ローパスフィルタLPF201を、基本周波数foの2次高調波(2・fo)を減衰させるローパスフィルタと、基本周波数foの3次高調波(3・fo)を減衰させるローパスフィルタとから構成することで、これら2次高調波および3次高調波が抑制される。
しかしながら、FETスイッチSW100がGaAsスイッチで形成されている場合、高周波の送信信号が入力されるとFETスイッチSW100で高調波歪みが発生して各ポートに対して均等に2倍高調波や3倍高調波等の高調波が出力される。この時、前記高調波の周波数において送信ポートRF101からローパスフィルタLPF201を見るとインピーダンスが無限大に近いオープン状態となり、FETスイッチSW100で発生した高調波がローパスフィルタLPF201の送信ポートRF101側端で全反射してFETスイッチSW100に入力される。この結果、最初の高調波を「X」、全反射による高調波の増加分を「α」とすると、アンテナポートANT0からは「X+α」の高調波が出力されてしまう。
このような高調波を抑制するには、高調波の発生しにくいGaAsスイッチを用いればよいが、現実には高調波の発生しにくいGaAsスイッチは存在しない。また、ダイオードスイッチによるスイッチ回路を用いれば、高調波は発生し難いが、それぞれの通信信号の送受信の切り替えに対して少なくとも各2個のダイオードが必要であり、さらにこれらダイオードに付加する回路が必要であるので、高周波スイッチモジュールを小型化することができない。また、ダイオードスイッチを複数利用することで消費電力が増加し、さらには応答速度が低下してしまう。特にFETスイッチのポート数が増加するとこの影響を受けやすい。
したがって、この発明の目的は、GaAsスイッチ等のFETスイッチを用いながらも高調波歪みを抑制して、小型化された高周波スイッチモジュールを提供することにある。
前記課題を解決するために、本発明に係る高周波スイッチモジュールは、複数の誘電体層と配線電極とを積層することにより形成した多層基板と、前記多層基板の一方主面に実装され、送信信号が入力される送信入力ポート、受信信号を出力する受信出力ポート、および、アンテナへ前記送信信号を出力するまたは前記アンテナから前記受信信号を入力するアンテナポートを備え、該アンテナポートを送信入力ポートまたは受信出力ポートに切り替えて接続するFETスイッチと、前記多層基板の主面及び/又は内部に形成され、第1の入出力端子が前記送信入力ポートに接続され、第2の入出力端子が送信信号入力端子に接続され、前記送信信号の高次高調波を減衰させるフィルタと、を備えた高周波スイッチモジュールにおいて、前記多層基板の一方主面上には前記送信入力ポート、受信出力ポートおよびアンテナポートが接続素子を介してそれぞれ接続される送信入力ポート用電極、受信出力ポート用電極およびアンテナポート用電極が形成され、前記多層基板の他方主面上には前記送信信号入力端子に接続素子を介して接続される送信信号入力端子用実装電極が形成され、前記フィルタは、前記送信入力ポートと前記送信信号入力端子との間に直列に接続される少なくとも一つのインダクタと、一端が前記送信入力ポートに接続され他端が接地される第1のキャパシタと、一端が前記送信信号入力端子に接続され他端が接地される第2のキャパシタと、を備え、前記第1のキャパシタの容量値と前記第2のキャパシタの容量値とを異なる値とし、前記第1のキャパシタを構成する少なくとも一つのキャパシタ用電極は前記多層基板内に形成した導通ビアホールを介して前記送信入力ポート用電極に直接接続され、前記第2のキャパシタを構成する少なくとも一つのキャパシタ用電極は前記多層基板内に形成した導通ビアホールを介して前記送信信号入力端子用実装電極に直接接続されたことを特徴としている。
この構成にすることにより、素子を追加することなくFETスイッチの送信入力ポート側のフィルタの端部においてFETスイッチで発生する高次高調波の位相を変化させることができ、アンテナから放射される高次高調波の量を低減することができる。
また、本発明に係る高周波スイッチモジュールにおいては、接続素子としてボンディング用ワイヤを用い、前記ワイヤのインダクタンスと前記第1のキャパシタの容量値とで前記高次高調波の位相を変化させる位相調整回路を形成したことを特徴としている。このような構造にすることにより、位相調整の設計自由度を向上することができ、より確実に高次高調波を低減することができる。
また、本発明に係る高周波スイッチモジュールにおいては、前記インダクタは前記多層基板の積層方向において一方主面側に配置され、前記キャパシタ用電極は前記多層基板の積層方向において他方主面側に配置されていることを特徴としている。このような構造にすることにより、インダクタで発生した磁界と高周波スイッチモジュールを実装する実装基板上に形成した配線電極との結合を低減することができ、インダクタンス値の変化を抑えられるため高周波スイッチモジュールの特性変化を抑制することができる。
また、本発明に係る高周波スイッチモジュールにおいては、前記フィルタは前記高次高調波のうち、2次または3次高調波の周波数を阻止域に含むローパスフィルタであることを特徴としている。このような構成にすることにより、前段のパワーアンプから2次または3次の高調波が伝送されても、ローパスフィルタにおいて高次高調波を抑制することができる。
また、本発明に係る高周波スイッチモジュールにおいては、それぞれに特定の周波数帯を送信信号および受信信号で利用する通信信号を複数入出力し、前記FETスイッチは少なくとも前記通信信号ごとに受信出力ポートを備えることを特徴としている。このような構成にすることにより、複数の通信信号を入出力する高周波スイッチモジュールであっても、送信入力ポートにローパスフィルタを備えることで高調波が抑制される。
本発明によれば、素子を増やすことなくアンテナから放射される高次高調波の量を低減することができ、小型で高調波の少ない高周波スイッチモジュールを提供することができる。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールを示すブロック図である。
ローパスフィルタを示す回路図である。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールを示す概略斜視図である。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールの積層図である。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールの高調波歪み特性を示す特性図である。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールの高調波歪み特性を示す特性図である。
本発明に係る第2実施形態である高周波スイッチモジュールを示すブロック図である。
本発明におけるローパスフィルタの特性図である。
従来の高周波スイッチモジュールを示すブロック図である。
以下、本発明に係る高周波スイッチモジュールの実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
(第1実施形態、図1から図6参照)
図1は本発明に係る高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。なお、本実施形態の説明では送信信号入力端子Tx1からGSM850MHz送信信号またはGSM900MHz送信信号を入力し、受信信号出力端子Rx1からGSM850MHz受信信号を出力し、受信信号出力端子Rx2からGSM900MHz受信信号を出力する高周波スイッチモジュールについて説明する。GaAsスイッチからなるFETスイッチSW10は、アンテナANTに接続する入出力ポートRF11、RF12、RF13(以下、単に「RF11ポート」、「RF12ポート」、「RF13ポート」と称す。)と、を備える。また、FETスイッチSW10は、図示しないが、駆動電圧が入力される駆動電圧入力端子と、スイッチ切り替え制御に用いる制御信号が入力される制御信号入力端子とを備え、制御信号入力端子に入力される制御信号により、アンテナポートANT0をRF11、RF12、RF13の各ポートのいずれかに導通する。なお、本実施形態では、RF11ポートに送信信号入力端子Tx1が接続され、RF12ポート、RF13ポートのそれぞれに受信信号出力端子Rx1,Rx2が接続されているので、RF11ポートが本発明の「送信信号入力ポート」に相当し、RF12ポート、RF13ポートがそれぞれ「受信信号出力ポート」に相当する。
ローパスフィルタLPF20は、それぞれに異なる周波数特性(減衰特性)を有する2つのローパスフィルタLPF21aとローパスフィルタLPF21bとを備え、FETスイッチSW10側からローパスフィルタLPF21a、ローパスフィルタLPF21bの順に接続されている。ローパスフィルタLPF21aはGSM850MHz送信信号の基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の2倍の周波数が阻止域に存在し、且つGSM900MHz送信信号の基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の2倍の周波数が阻止域に存在する周波数特性を有する。また、ローパスフィルタLPF21bはGSM850MHz送信信号の少なくとも基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の3倍の周波数が阻止域に存在し、且つGSM900MHz送信信号の少なくとも基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の3倍の周波数が阻止域に存在する周波数特性を有する。
ローパスフィルタLPF20のFETスイッチSW10側の端部は、前段のパワーアンプ(図示せず)に接続する送信信号入力端子Tx1が接続されている。
図2にLPF20の回路構成を示す。LPF21aはLPF21bに接続し、このLPF21bが送信信号入力端子Tx1に接続している。また、LPF21aとLPF21bとの接続点はキャパシタGCu3を介してグランドに接続(接地)されている。LPF21aは、一方端がFETスイッチのRF11ポートに接続され、他方端がLPF21bに接続する伝送線路からなるインダクタGLt1と、このインダクタGLt1に並列接続されたキャパシタGCc1と、インダクタGLt1のFETスイッチSW10側とグランドとの間に挿入されたキャパシタGCu1とを備える。このLPF21aは、これらインダクタGLt1、キャパシタGCc1、GCu1によりGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号の2次高調波の周波数が阻止域に存在し、基本波の周波数が通過域に存在するように減衰特性が設定されている。
LPF21bは、一方端がLPF21aに接続し、他方端が送信信号入力端子Tx1に接続する伝送線路からなるインダクタGLt2と、このインダクタGLt2に並列接続されたキャパシタGCc2と、インダクタGLt2の送信信号入力端子Tx1側とグランドとの間に挿入されたキャパシタGCu2とを備える。このLPF21bは、これらインダクタGLt2、キャパシタGCc2、GCu2によりGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号の3次高調波の周波数が阻止域に存在し、基本波の周波数が通過域に存在するように減衰特性が設定されている。
なお、FETスイッチSW10のRF12ポートは受信信号出力端子Rx1、RF13ポートは受信信号出力端子Rx2がそれぞれ接続されているが、RF12ポートと受信信号出力端子Rx1との間にGSM850MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタを、またRF13ポートと受信信号出力端子Rx2との間にGSM900MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタを接続しても構わない。
次に、本実施形態の高周波スイッチモジュールの概略図を図3に示す。図3(a)は本実施形態の概略斜視図であり、図3(b)は、FETスイッチの実装状態および電極配置を示す斜視図である。図3(a)に示すように本発明の高周波スイッチモジュールは、複数の誘電体層と配線電極とを積層した多層基板1の一方主面に樹脂等による保護膜5を形成して構成している。そして、図3(b)に示すように、多層基板1の一方主面2上には、AgやCuなどの導電性材料を用い、スクリーン印刷等により印刷、焼結することにより形成したFETスイッチ実装用電極17や端子電極15が配置されている。そして、FETスイッチ実装用電極17上には、FETスイッチ10の裏面が導電性接着剤等により接着、固定される。また、端子電極15の表面には、めっき等によりAu電極が形成されている。そして、FETスイッチ10の表面に配置されている接続用電極12と、多層基板1上の端子電極15とが、Auなどのボンディングワイヤ20により電気的に接続されている。また、FETスイッチ10に形成されるグランド電極は、そのグランド電極に対応した接続用電極12とFETスイッチ実装用電極17とがボンディングワイヤにより電気的に接続されている。
多層基板1の内部には、LPF20を構成するインダクタ電極およびキャパシタ電極が形成されている。それら電極のうち所定の電極は、多層基板1内に形成した導通ビアホールにより端子電極15と接続されている。端子電極15は、平面視で略D字型をしているが、その端子電極15の円弧状部分の近傍に導通ビアホールが形成され、その円弧状部分と対向する部分にボンディングワイヤを接続している。このような構成にすることにより、導電性ペーストなどを充填して形成した導通ビアホール上にボンディングワイヤを接続することがなくなる。
次に図3に示した高周波スイッチモジュールを構成する多層基板1の構造について図4を参照して説明する。
図4は、本実施形態における多層基板1の積層図である。図4は、多層基板1の各誘電体層1〜12を順に上から見た図であり、誘電体層13として示している図は誘電体層12の裏面、すなわち、高周波スイッチモジュールの底面である。この図4に示す記号は図2に示した各素子の記号に対応する。また、図4において円形は導通ビアホールを示し、円形以外の閉図形は配線電極を示している。
多層基板1は、誘電体層1を最上層として、番号順に上から誘電体層1〜誘電体層12を積層することにより形成される。最上層の誘電体層1の表面には、FETスイッチ10を実装するためのFETスイッチ実装用電極17と端子電極15が形成される。また、最下層の誘電体層12の裏面(図4における誘電体層13)には、グランド電極18が誘電体層12の中央付近、外部接続用電極19が誘電体層12の周縁部に形成されており、これらの電極によりこの高周波スイッチモジュールは外部の回路基板に実装される。なお、本実施形態において外部接続用電極19は、誘電体層12の縁端部近傍に形成されたいわゆるLGA(Land Grid Array)電極であるが、誘電体層12の底面だけでなく、多層基板1の側面に形成した電極と導通させても構わない。
また、FETスイッチ実装用電極17は、グランド電極18と導通ビアホールで電気的に接続されており、それらの導通ビアホールと導通するようにFETスイッチ実装用電極17の下部に電極31,32,33,34を配置している。これらの電極31,32,33,34は、FETスイッチ10のグランド接続を十分に行うためのものであり、導通ビアホール部で発生する寄生インダクタによるインダクタンス値を低減することができる。
さらに、LPF21aを構成するキャパシタGCu1の電極が誘電体層9に形成され、その電極の上下に配置された電極33との間でキャパシタを構成している。また、LPF21bを構成するキャパシタGCu2の電極が誘電体層11に形成され、その電極の上下に配置された電極34との間でキャパシタを構成している。これらの図からもわかるように、GCu1とGCu2とを構成する電極はその大きさが異なっており、その電極により発生する容量値も異なっている。このように、キャパシタの電極サイズを変更する以外に、GCu1と電極33およびGCu2と電極34との間の誘電体層の厚みを変更することでも両者の容量値を異ならせることができる。
さらに、本実施形態における多層基板においては、図4の誘電体層9〜11に示すようにキャパシタ用電極を多層基板の下層に配置し、誘電体層2〜5に示すようにインダクタ用電極を多層基板の上層に配置している。このような構造にすることにより、多層基板1を備える高周波スイッチモジュール25を実装用回路基板等に実装した場合、多層基板1内のインダクタ用電極で発生する磁界と実装用回路基板上の電極との磁界による結合を低減することができ、多層基板内のインダクタンス値の変動や、外部回路への影響を低減することができる。なお、本実施形態における誘電体層の材料としては、配線電極と同時焼結可能なセラミック基板の他に、液晶ポリマやポリイミドのような樹脂を使用しても構わない。
次に、本実施形態の高周波スイッチモジュールでのGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号(以下、総称して「GSM送信信号」と称す。)の伝送時の動作について説明する。なお、これら2つの送信信号は同時には入力されず、一方の送信信号のみが入力される。
FETスイッチSW10にGSM送信信号が入力されると、GaAsスイッチの非線形性によって高調波歪みが発生して、各ポート(RF11ポート、RF12ポート、RF13ポート、およびアンテナポートANT0)へ均等に所定の大きさの高調波が出力される。そして、RF11ポートから出力された高調波はローパスフィルタLPF20に伝送される。さらに、LPF20に伝送された高次高調波は、LPF20のSW10側の端部においてさらに反射され、再びSW10へ所定の大きさの高次高調波が入力される。再度SW10へ入力された高次高調波はアンテナから放射され、結果的にアンテナからはFETスイッチSW10で発生した高次高調波と、LPF20のSW10側端で反射してSW10へ戻る高次高調波とをあわせた高次高調波が出力されることになる。
このとき、ローパスフィルタLPF21aのFETスイッチSW10側におけるキャパシタGCu1の容量値を、FETスイッチSW10側とは反対側におけるキャパシタGCu2の容量値とは異なる値にすることにより、LPF20のSW10側端で反射する高次高調波の位相を変化させることができる。つまり、FETスイッチSW10で発生し、LPF20で反射され再びSW10へ入力される高次高調波の位相が0度近傍になるようにキャパシタGCu1の値を調整することにより、LPF20のSW10側端での高次高調波を全反射することができる。全反射された高次高調波は、FETスイッチSW10に戻るが、そのときFETスイッチSW10はANT0ポートとRF11ポートが導通し、さらにFETスイッチSW10上に形成されたANT0ポートとRF11ポートとの間の伝送ラインは極短く、線路インピーダンスも0で、かつ位相もほとんど変化しない。このため、LPF20からRF11ポートに戻ってきた2次高調波及び3次高調波はANT0ポートで全反射され、例えばRF11ポート以外のRF入出力ポートであるRF12ポートやRF13ポートなどへ導かれ、これらのRF入出力ポートに接続される外部回路へ分散される。これにより、ANT0ポートから出力される高次高調波の量を低減することができる。
前記キャパシタGCu1の容量値を変化させることにより、LPF20のSW10側端において反射してSW10へ入力される高次高調波の位相を変化させたときのアンテナから放射される2次高調波量と3次高調波量の変化を図5と図6に示す。図5(a)、図5(b)はGSM850MHz及びGSM900MHz帯の送信信号の2次高調波と3次高調波のアンテナから放射される量と、LPF20のSW10側端で反射する信号の位相との関係を示している。図5(a)では、LPF20のSW10側端で反射する2次高調波の位相を30度近傍にすることによりアンテナからの2次高調波の放射量が−82dBc程度になり、位相を180度付近にしたときの放射量と比べると7dBc程度減少できていることがわかる。また、図5(b)では、LPF20のSW10側端で反射する3次高調波の位相を−160度近傍にすることによりアンテナからの3次高調波の放射量が−76.5dBc程度になり、位相を40度付近にしたときの放射量よりも3dBc程度減少できていることがわかる。
GSM850MHz帯及びGSM900MHz帯の2次高調波と3次高調波の減衰量はLPF20のSW10側端で反射する信号の位相によって異なる結果となった。これは、LPF21bにおいては、SW10からの3次高調波が、LPF21aを通過する際に位相が変化するためである。図5(a)と図5(b)からも分かるように、2次高調波と3次高調波の絶対値は異なっており、本実施例においては3次高調波の量の方が大きくなっている。このため、3次高調波を積極的に減衰させたい場合は、キャパシタGCu1の容量値を調整して位相を−160度付近にすればよい。このように、所定の高次高調波を所望の放射量にする場合は、キャパシタGCu1の容量値を適宜設定すればよい。
また、前記実施形態においては、GSM850MHzとGSM900MHzの信号を切り換える高周波スイッチモジュールについて説明をしたが、それらの信号に替えてGSM1800MHzとGSM1900MHzの信号を切り換える高周波スイッチモジュールとしても使用することができる。そのときのLPF20のSW10側端で反射される高次高調波の位相と、アンテナから放射される高次高調波との関係を図6(a)、図6(b)に示す。これらの図から分かるように、GSM1800MHz帯とGSM1900MHz帯の2次高調波と3次高調波については、ともに位相を−40度近傍にすることでアンテナからの放射量を最も小さくすることができる。このように、キャパシタGCu1とGCu2を所定の値にすることにより、2次高調波と3次高調波をともに減衰させることもできる。
(第2実施形態、図7参照)
図7は本発明の第2実施形態に係る高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。第1実施形態と異なる点は、ローパスフィルタLPF20とFETスイッチSW10との間に、ボンディングワイヤによるインダクタであるLwを備え、そのLwを用いて高次高調波の位相調整を行う点である。なお、このボンディングワイヤは第1実施形態を示す概略斜視図である図3(b)のボンディングワイヤ20に相当するものである。
第1実施形態においては、FETスイッチSW10で発生する高次高調波の位相を、LPF20を構成するキャパシタGCu1とGCu2とを使って位相調整し、FETスイッチSW10からLPF20側へ出力される高次高調波と、LPF20のFETスイッチSW10側端で反射される高次高調波の位相を調整し、その位相が0度近傍になるようにすることにより、アンテナから出力される高次高調波を低減した。このように第1実施形態では、キャパシタのみで位相調整を行っているが、キャパシタのみでは位相の変化量や変化の増減方向に制約があるため、それを補うためにキャパシタとは異なる特性を持つインダクタを利用することにより、位相調整範囲を広げられ、2次高調波および3次高調波の両方に対して設計自由度を向上させることができる。
なお、LPF20は使用するFETスイッチSW10のSパラメータ等の特性や、FETスイッチSW10と多層基板上の実装用端子電極とを接続するボンディングワイヤのインダクタンス値も含めて設計を行うことにより、LPF20の特性を最適化することができる。
また、ボンディングワイヤのインダクタは、ローパスフィルタLPF20を構成する素子としても機能するため、LPF20の次数を増やすことができ、設計自由度を向上することができる。図8(a)、(b)は、LPF20の設計にボンディングワイヤによるインダクタを含めたときのLPF20の通過帯域の高周波側近傍における減衰特性を示している。図8(a)に示すように、ボンディングワイヤによるインダクタを含めずにLPF20を設計した場合、LPF20の通過帯域の高周波側である1.9GHz付近において所望の減衰量が得られていなかった。そこで、LPF20にボンディングワイヤによるインダクタを含めて設計を行ったところ、図8(b)に示すように、1.9GHz付近での減衰量が増加し、LPF20の通過帯域の高周波側における減衰特性を改善することができた。以上のように、SW10とLPF20とを接続するためのボンディングワイヤによるインダクタを高次高調波の減衰と、LPFの通過帯域の高周波側での減衰特性の改善に使用することにより、不要な素子を増やすことなく高周波スイッチモジュールの特性を向上することができる。
ANT…アンテナ
ANT0…アンテナポート
GCc1,GCc2…キャパシタ
GCu1,GCu2,GCu3…キャパシタ
GLt1,GLt2…インダクタ
LPF20…ローパスフィルタ
LPF21a…ローパスフィルタ
LPF21b…ローパスフィルタ
RF11,RF12,RF13…入出力ポート
Rx1,Rx2…受信信号出力端子
SW10…FETスイッチ
Tx1…送信信号入力端子
1…多層基板
5…保護膜
10…FETスイッチ
12…接続用電極
15…端子電極
17…FETスイッチ実装用電極
18…グランド電極
19…外部接続用電極
20…ボンディングワイヤ
21a…LPF
21b…LPF
25…高周波スイッチモジュール
31〜34…電極
本発明は、高周波モジュール、特にFETスイッチを用いて特定周波数の通信信号を切り替える高周波スイッチモジュールに関する。
現在、携帯電話等の無線通信方式には複数の仕様が存在し、例えばヨーロッパではマルチバンドのGSM方式が採用されている。GSM方式では使用する周波数帯が異なる複数の通信信号(送受信信号)が存在し、各周波数帯としては850MHz帯、および900MHz帯が存在する。さらには、1800MHz帯や1900MHz帯も存在する。このようなそれぞれに異なる周波数帯を利用する複数の通信信号を1つのアンテナで送受信する場合、目的とする周波数帯の通信信号以外は不要となり、さらには、1つの通信信号であっても送信時には受信信号は不要となり、受信時には送信信号が不要となる。このため、1つのアンテナで送受信を行う場合には、目的とする通信信号の送信信号を伝送する経路や目的とする通信信号の受信信号を伝送する経路を切り替える必要があり、この切り替えにFETスイッチを用いた高周波スイッチモジュールが各種考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1には、図9に示すような高周波スイッチモジュールが備えられている。図9は従来の高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。従来の高周波スイッチモジュールは、第1通信信号の送信信号(第1送信信号)と第2通信信号の送信信号(第2送信信号)とが入力される送信ポートRF101、第1通信信号の受信信号(第1受信信号)を出力する第1受信ポートRF102、第2通信信号の受信信号(第2受信信号)を出力する第2受信ポートRF103、アンテナに対して第1、第2送信信号、第1受信信号、および第2受信信号の入出力を行うアンテナポートANT0、を有するFETスイッチSW100を備えている。このFETスイッチSW100としては、半導体、特にFETからなるスイッチが用いられ、現状では多く、GaAsスイッチが用いられている。そして、従来の高周波スイッチモジュールは、第1、第2送信信号の高調波を減衰するローパスフィルタLPF201を送信ポートRF101に接続し、第1受信信号の基本波を通過するバンドパルフィルタBPF301を第1受信ポートRF102に接続し、第2受信信号の基本波を通過するバンドパルフィルタBPF302を第2受信ポートRF103に接続している。
前述のような高周波スイッチモジュールでは、FETスイッチSW100の送信ポートRF101にローパスフィルタLPF201を介して接続された送信信号入力端子Tx1へ送信信号が入力される。この送信信号は通常前段に接続されたパワーアンプにより増幅されてから入力されるが、この増幅の際に送信信号の基本周波数foに対する高次高調波が発生して基本周波数foの送信信号とともに入力される。ここで、図9に示す高周波スイッチモジュールのローパスフィルタLPF201を、前記高次高調波を減衰させる設定にしておけば、FETスイッチSW100に入力される送信信号の高次高調波を抑制することができる。例えば、ローパスフィルタLPF201を、基本周波数foの2次高調波(2・fo)を減衰させるローパスフィルタと、基本周波数foの3次高調波(3・fo)を減衰させるローパスフィルタとから構成することで、これら2次高調波および3次高調波が抑制される。
しかしながら、FETスイッチSW100がGaAsスイッチで形成されている場合、高周波の送信信号が入力されるとFETスイッチSW100で高調波歪みが発生して各ポートに対して均等に2倍高調波や3倍高調波等の高調波が出力される。この時、前記高調波の周波数において送信ポートRF101からローパスフィルタLPF201を見るとインピーダンスが無限大に近いオープン状態となり、FETスイッチSW100で発生した高調波がローパスフィルタLPF201の送信ポートRF101側端で全反射してFETスイッチSW100に入力される。この結果、最初の高調波を「X」、全反射による高調波の増加分を「α」とすると、アンテナポートANT0からは「X+α」の高調波が出力されてしまう。
このような高調波を抑制するには、高調波の発生しにくいGaAsスイッチを用いればよいが、現実には高調波の発生しにくいGaAsスイッチは存在しない。また、ダイオードスイッチによるスイッチ回路を用いれば、高調波は発生し難いが、それぞれの通信信号の送受信の切り替えに対して少なくとも各2個のダイオードが必要であり、さらにこれらダイオードに付加する回路が必要であるので、高周波スイッチモジュールを小型化することができない。また、ダイオードスイッチを複数利用することで消費電力が増加し、さらには応答速度が低下してしまう。特にFETスイッチのポート数が増加するとこの影響を受けやすい。
したがって、この発明の目的は、GaAsスイッチ等のFETスイッチを用いながらも高調波歪みを抑制して、小型化された高周波スイッチモジュールを提供することにある。
前記課題を解決するために、本発明に係る高周波スイッチモジュールは、複数の誘電体層と配線電極とを積層することにより形成し、送信信号が入力される送信信号入力端子用実装電極を含む外部接続用電極を備える多層基板と、前記多層基板の一方主面に実装され、前記送信信号が入力される送信入力ポート、受信信号を出力する受信出力ポート、および、アンテナへ前記送信信号を出力するとともに前記アンテナから前記受信信号を入力するアンテナポートを備え、該アンテナポートを送信入力ポートまたは受信出力ポートに切り替えて接続するFETスイッチと、前記多層基板の主面又は内部の少なくとも一方に形成され、第1の入出力端子が前記送信入力ポートに接続され、第2の入出力端子が前記送信信号入力端子用実装電極に接続され、前記送信信号の高次高調波を減衰させるフィルタと、を備えた高周波スイッチモジュールにおいて、前記外部接続用電極は前記多層基板の他方主面の縁端部近傍に形成され、前記多層基板の一方主面上には前記送信入力ポート、前記受信出力ポートおよび前記アンテナポートが接続素子を介してそれぞれ接続される送信入力ポート用電極、受信出力ポート用電極およびアンテナポート用電極が形成され、前記フィルタは、前記送信入力ポート用電極と前記送信信号入力端子用実装電極との間に直列に接続される少なくとも一つのインダクタと、一端が前記送信入力ポート用電極に接続され他端が接地される第1のキャパシタと、一端が前記送信信号入力端子用実装電極に接続され他端が接地される第2のキャパシタと、を備え、前記第1のキャパシタの容量値と前記第2のキャパシタの容量値とを異なる値とし、前記第1のキャパシタを構成する少なくとも一つのキャパシタ用電極は前記多層基板内に形成した導通ビアホールを介して前記送信入力ポート用電極に直接接続され、前記送信入力ポートと前記送信入力ポート用電極を接続する接続素子としてボンディング用ワイヤを用い、前記ボンディング用ワイヤのインダクタンスと前記第1のキャパシタの容量値とで前記高次高調波の位相を変化させる位相調整回路を形成したことを特徴としている。
この構成にすることにより、素子を追加することなくFETスイッチの送信入力ポート側のフィルタの端部においてFETスイッチで発生する高次高調波の位相を変化させることができ、アンテナから放射される高次高調波の量を低減することができる。このような構造にすることにより、位相調整の設計自由度を向上することができ、より確実に高次高調波を低減することができる。
また、本発明に係る高周波スイッチモジュールにおいては、前記インダクタは前記多層基板の積層方向において一方主面側に配置され、前記キャパシタ用電極は前記多層基板の積層方向において他方主面側に配置されていることを特徴としている。このような構造にすることにより、インダクタで発生した磁界と高周波スイッチモジュールを実装する実装基板上に形成した配線電極との結合を低減することができ、インダクタンス値の変化を抑えられるため高周波スイッチモジュールの特性変化を抑制することができる。
また、本発明に係る高周波スイッチモジュールにおいては、前記フィルタは前記高次高調波のうち、2次または3次高調波の周波数を阻止域に含むローパスフィルタであることを特徴としている。このような構成にすることにより、前段のパワーアンプから2次または3次の高調波が伝送されても、ローパスフィルタにおいて高次高調波を抑制することができる。
また、本発明に係る高周波スイッチモジュールにおいては、それぞれに特定の周波数帯を送信信号および受信信号で利用する通信信号を複数入出力し、前記FETスイッチは少なくとも前記通信信号ごとに受信出力ポートを備えることを特徴としている。このような構成にすることにより、複数の通信信号を入出力する高周波スイッチモジュールであっても、送信入力ポートにローパスフィルタを備えることで高調波が抑制される。
本発明によれば、素子を増やすことなくアンテナから放射される高次高調波の量を低減することができ、小型で高調波の少ない高周波スイッチモジュールを提供することができる。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールを示すブロック図である。
ローパスフィルタを示す回路図である。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールを示す概略斜視図である。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールの積層図である。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールの高調波歪み特性を示す特性図である。
本発明に係る第1実施形態である高周波スイッチモジュールの高調波歪み特性を示す特性図である。
本発明に係る第2実施形態である高周波スイッチモジュールを示すブロック図である。
本発明におけるローパスフィルタの特性図である。
従来の高周波スイッチモジュールを示すブロック図である。
以下、本発明に係る高周波スイッチモジュールの実施例について添付図面を参照して説明する。なお、各図において、共通する部品、部分には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
(第1実施形態、図1から図6参照)
図1は本発明に係る高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。なお、本実施形態の説明では送信信号入力端子Tx1からGSM850MHz送信信号またはGSM900MHz送信信号を入力し、受信信号出力端子Rx1からGSM850MHz受信信号を出力し、受信信号出力端子Rx2からGSM900MHz受信信号を出力する高周波スイッチモジュールについて説明する。GaAsスイッチからなるFETスイッチSW10は、アンテナANTに接続する入出力ポートRF11、RF12、RF13(以下、単に「RF11ポート」、「RF12ポート」、「RF13ポート」と称す。)と、を備える。また、FETスイッチSW10は、図示しないが、駆動電圧が入力される駆動電圧入力端子と、スイッチ切り替え制御に用いる制御信号が入力される制御信号入力端子とを備え、制御信号入力端子に入力される制御信号により、アンテナポートANT0をRF11、RF12、RF13の各ポートのいずれかに導通する。なお、本実施形態では、RF11ポートに送信信号入力端子Tx1が接続され、RF12ポート、RF13ポートのそれぞれに受信信号出力端子Rx1,Rx2が接続されているので、RF11ポートが本発明の「送信信号入力ポート」に相当し、RF12ポート、RF13ポートがそれぞれ「受信信号出力ポート」に相当する。
ローパスフィルタLPF20は、それぞれに異なる周波数特性(減衰特性)を有する2つのローパスフィルタLPF21aとローパスフィルタLPF21bとを備え、FETスイッチSW10側からローパスフィルタLPF21a、ローパスフィルタLPF21bの順に接続されている。ローパスフィルタLPF21aはGSM850MHz送信信号の基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の2倍の周波数が阻止域に存在し、且つGSM900MHz送信信号の基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の2倍の周波数が阻止域に存在する周波数特性を有する。また、ローパスフィルタLPF21bはGSM850MHz送信信号の少なくとも基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の3倍の周波数が阻止域に存在し、且つGSM900MHz送信信号の少なくとも基本周波数が通過域に存在してこの基本周波数の3倍の周波数が阻止域に存在する周波数特性を有する。
ローパスフィルタLPF20のFETスイッチSW10側の端部は、前段のパワーアンプ(図示せず)に接続する送信信号入力端子Tx1が接続されている。
図2にLPF20の回路構成を示す。LPF21aはLPF21bに接続し、このLPF21bが送信信号入力端子Tx1に接続している。また、LPF21aとLPF21bとの接続点はキャパシタGCu3を介してグランドに接続(接地)されている。LPF21aは、一方端がFETスイッチのRF11ポートに接続され、他方端がLPF21bに接続する伝送線路からなるインダクタGLt1と、このインダクタGLt1に並列接続されたキャパシタGCc1と、インダクタGLt1のFETスイッチSW10側とグランドとの間に挿入されたキャパシタGCu1とを備える。このLPF21aは、これらインダクタGLt1、キャパシタGCc1、GCu1によりGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号の2次高調波の周波数が阻止域に存在し、基本波の周波数が通過域に存在するように減衰特性が設定されている。
LPF21bは、一方端がLPF21aに接続し、他方端が送信信号入力端子Tx1に接続する伝送線路からなるインダクタGLt2と、このインダクタGLt2に並列接続されたキャパシタGCc2と、インダクタGLt2の送信信号入力端子Tx1側とグランドとの間に挿入されたキャパシタGCu2とを備える。このLPF21bは、これらインダクタGLt2、キャパシタGCc2、GCu2によりGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号の3次高調波の周波数が阻止域に存在し、基本波の周波数が通過域に存在するように減衰特性が設定されている。
なお、FETスイッチSW10のRF12ポートは受信信号出力端子Rx1、RF13ポートは受信信号出力端子Rx2がそれぞれ接続されているが、RF12ポートと受信信号出力端子Rx1との間にGSM850MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタを、またRF13ポートと受信信号出力端子Rx2との間にGSM900MHz受信信号の周波数が通過域内に存在するバンドパスフィルタを接続しても構わない。
次に、本実施形態の高周波スイッチモジュールの概略図を図3に示す。図3(a)は本実施形態の概略斜視図であり、図3(b)は、FETスイッチの実装状態および電極配置を示す斜視図である。図3(a)に示すように本発明の高周波スイッチモジュールは、複数の誘電体層と配線電極とを積層した多層基板1の一方主面に樹脂等による保護膜5を形成して構成している。そして、図3(b)に示すように、多層基板1の一方主面2上には、AgやCuなどの導電性材料を用い、スクリーン印刷等により印刷、焼結することにより形成したFETスイッチ実装用電極17や端子電極15が配置されている。そして、FETスイッチ実装用電極17上には、FETスイッチ10の裏面が導電性接着剤等により接着、固定される。また、端子電極15の表面には、めっき等によりAu電極が形成されている。そして、FETスイッチ10の表面に配置されている接続用電極12と、多層基板1上の端子電極15とが、Auなどのボンディングワイヤ20により電気的に接続されている。また、FETスイッチ10に形成されるグランド電極は、そのグランド電極に対応した接続用電極12とFETスイッチ実装用電極17とがボンディングワイヤにより電気的に接続されている。
多層基板1の内部には、LPF20を構成するインダクタ電極およびキャパシタ電極が形成されている。それら電極のうち所定の電極は、多層基板1内に形成した導通ビアホールにより端子電極15と接続されている。端子電極15は、平面視で略D字型をしているが、その端子電極15の円弧状部分の近傍に導通ビアホールが形成され、その円弧状部分と対向する部分にボンディングワイヤを接続している。このような構成にすることにより、導電性ペーストなどを充填して形成した導通ビアホール上にボンディングワイヤを接続することがなくなる。
次に図3に示した高周波スイッチモジュールを構成する多層基板1の構造について図4を参照して説明する。
図4は、本実施形態における多層基板1の積層図である。図4は、多層基板1の各誘電体層1〜12を順に上から見た図であり、誘電体層13として示している図は誘電体層12の裏面、すなわち、高周波スイッチモジュールの底面である。この図4に示す記号は図2に示した各素子の記号に対応する。また、図4において円形は導通ビアホールを示し、円形以外の閉図形は配線電極を示している。
多層基板1は、誘電体層1を最上層として、番号順に上から誘電体層1〜誘電体層12を積層することにより形成される。最上層の誘電体層1の表面には、FETスイッチ10を実装するためのFETスイッチ実装用電極17と端子電極15が形成される。また、最下層の誘電体層12の裏面(図4における誘電体層13)には、グランド電極18が誘電体層12の中央付近、外部接続用電極19が誘電体層12の周縁部に形成されており、これらの電極によりこの高周波スイッチモジュールは外部の回路基板に実装される。なお、本実施形態において外部接続用電極19は、誘電体層12の縁端部近傍に形成されたいわゆるLGA(Land Grid Array)電極であるが、誘電体層12の底面だけでなく、多層基板1の側面に形成した電極と導通させても構わない。
また、FETスイッチ実装用電極17は、グランド電極18と導通ビアホールで電気的に接続されており、それらの導通ビアホールと導通するようにFETスイッチ実装用電極17の下部に電極31,32,33,34を配置している。これらの電極31,32,33,34は、FETスイッチ10のグランド接続を十分に行うためのものであり、導通ビアホール部で発生する寄生インダクタによるインダクタンス値を低減することができる。
さらに、LPF21aを構成するキャパシタGCu1の電極が誘電体層9に形成され、その電極の上下に配置された電極33との間でキャパシタを構成している。また、LPF21bを構成するキャパシタGCu2の電極が誘電体層11に形成され、その電極の上下に配置された電極34との間でキャパシタを構成している。これらの図からもわかるように、GCu1とGCu2とを構成する電極はその大きさが異なっており、その電極により発生する容量値も異なっている。このように、キャパシタの電極サイズを変更する以外に、GCu1と電極33およびGCu2と電極34との間の誘電体層の厚みを変更することでも両者の容量値を異ならせることができる。
さらに、本実施形態における多層基板においては、図4の誘電体層9〜11に示すようにキャパシタ用電極を多層基板の下層に配置し、誘電体層2〜5に示すようにインダクタ用電極を多層基板の上層に配置している。このような構造にすることにより、多層基板1を備える高周波スイッチモジュール25を実装用回路基板等に実装した場合、多層基板1内のインダクタ用電極で発生する磁界と実装用回路基板上の電極との磁界による結合を低減することができ、多層基板内のインダクタンス値の変動や、外部回路への影響を低減することができる。なお、本実施形態における誘電体層の材料としては、配線電極と同時焼結可能なセラミック基板の他に、液晶ポリマやポリイミドのような樹脂を使用しても構わない。
次に、本実施形態の高周波スイッチモジュールでのGSM850MHz送信信号およびGSM900MHz送信信号(以下、総称して「GSM送信信号」と称す。)の伝送時の動作について説明する。なお、これら2つの送信信号は同時には入力されず、一方の送信信号のみが入力される。
FETスイッチSW10にGSM送信信号が入力されると、GaAsスイッチの非線形性によって高調波歪みが発生して、各ポート(RF11ポート、RF12ポート、RF13ポート、およびアンテナポートANT0)へ均等に所定の大きさの高調波が出力される。そして、RF11ポートから出力された高調波はローパスフィルタLPF20に伝送される。さらに、LPF20に伝送された高次高調波は、LPF20のSW10側の端部においてさらに反射され、再びSW10へ所定の大きさの高次高調波が入力される。再度SW10へ入力された高次高調波はアンテナから放射され、結果的にアンテナからはFETスイッチSW10で発生した高次高調波と、LPF20のSW10側端で反射してSW10へ戻る高次高調波とをあわせた高次高調波が出力されることになる。
このとき、ローパスフィルタLPF21aのFETスイッチSW10側におけるキャパシタGCu1の容量値を、FETスイッチSW10側とは反対側におけるキャパシタGCu2の容量値とは異なる値にすることにより、LPF20のSW10側端で反射する高次高調波の位相を変化させることができる。つまり、FETスイッチSW10で発生し、LPF20で反射され再びSW10へ入力される高次高調波の位相が0度近傍になるようにキャパシタGCu1の値を調整することにより、LPF20のSW10側端での高次高調波を全反射することができる。全反射された高次高調波は、FETスイッチSW10に戻るが、そのときFETスイッチSW10はANT0ポートとRF11ポートが導通し、さらにFETスイッチSW10上に形成されたANT0ポートとRF11ポートとの間の伝送ラインは極短く、線路インピーダンスも0で、かつ位相もほとんど変化しない。このため、LPF20からRF11ポートに戻ってきた2次高調波及び3次高調波はANT0ポートで全反射され、例えばRF11ポート以外のRF入出力ポートであるRF12ポートやRF13ポートなどへ導かれ、これらのRF入出力ポートに接続される外部回路へ分散される。これにより、ANT0ポートから出力される高次高調波の量を低減することができる。
前記キャパシタGCu1の容量値を変化させることにより、LPF20のSW10側端において反射してSW10へ入力される高次高調波の位相を変化させたときのアンテナから放射される2次高調波量と3次高調波量の変化を図5と図6に示す。図5(a)、図5(b)はGSM850MHz及びGSM900MHz帯の送信信号の2次高調波と3次高調波のアンテナから放射される量と、LPF20のSW10側端で反射する信号の位相との関係を示している。図5(a)では、LPF20のSW10側端で反射する2次高調波の位相を30度近傍にすることによりアンテナからの2次高調波の放射量が−82dBc程度になり、位相を180度付近にしたときの放射量と比べると7dBc程度減少できていることがわかる。また、図5(b)では、LPF20のSW10側端で反射する3次高調波の位相を−160度近傍にすることによりアンテナからの3次高調波の放射量が−76.5dBc程度になり、位相を40度付近にしたときの放射量よりも3dBc程度減少できていることがわかる。
GSM850MHz帯及びGSM900MHz帯の2次高調波と3次高調波の減衰量はLPF20のSW10側端で反射する信号の位相によって異なる結果となった。これは、LPF21bにおいては、SW10からの3次高調波が、LPF21aを通過する際に位相が変化するためである。図5(a)と図5(b)からも分かるように、2次高調波と3次高調波の絶対値は異なっており、本実施例においては3次高調波の量の方が大きくなっている。このため、3次高調波を積極的に減衰させたい場合は、キャパシタGCu1の容量値を調整して位相を−160度付近にすればよい。このように、所定の高次高調波を所望の放射量にする場合は、キャパシタGCu1の容量値を適宜設定すればよい。
また、前記実施形態においては、GSM850MHzとGSM900MHzの信号を切り換える高周波スイッチモジュールについて説明をしたが、それらの信号に替えてGSM1800MHzとGSM1900MHzの信号を切り換える高周波スイッチモジュールとしても使用することができる。そのときのLPF20のSW10側端で反射される高次高調波の位相と、アンテナから放射される高次高調波との関係を図6(a)、図6(b)に示す。これらの図から分かるように、GSM1800MHz帯とGSM1900MHz帯の2次高調波と3次高調波については、ともに位相を−40度近傍にすることでアンテナからの放射量を最も小さくすることができる。このように、キャパシタGCu1とGCu2を所定の値にすることにより、2次高調波と3次高調波をともに減衰させることもできる。
(第2実施形態、図7参照)
図7は本発明の第2実施形態に係る高周波スイッチモジュールの構成を示すブロック図である。第1実施形態と異なる点は、ローパスフィルタLPF20とFETスイッチSW10との間に、ボンディングワイヤによるインダクタであるLwを備え、そのLwを用いて高次高調波の位相調整を行う点である。なお、このボンディングワイヤは第1実施形態を示す概略斜視図である図3(b)のボンディングワイヤ20に相当するものである。
第1実施形態においては、FETスイッチSW10で発生する高次高調波の位相を、LPF20を構成するキャパシタGCu1とGCu2とを使って位相調整し、FETスイッチSW10からLPF20側へ出力される高次高調波と、LPF20のFETスイッチSW10側端で反射される高次高調波の位相を調整し、その位相が0度近傍になるようにすることにより、アンテナから出力される高次高調波を低減した。このように第1実施形態では、キャパシタのみで位相調整を行っているが、キャパシタのみでは位相の変化量や変化の増減方向に制約があるため、それを補うためにキャパシタとは異なる特性を持つインダクタを利用することにより、位相調整範囲を広げられ、2次高調波および3次高調波の両方に対して設計自由度を向上させることができる。
なお、LPF20は使用するFETスイッチSW10のSパラメータ等の特性や、FETスイッチSW10と多層基板上の実装用端子電極とを接続するボンディングワイヤのインダクタンス値も含めて設計を行うことにより、LPF20の特性を最適化することができる。
また、ボンディングワイヤのインダクタは、ローパスフィルタLPF20を構成する素子としても機能するため、LPF20の次数を増やすことができ、設計自由度を向上することができる。図8(a)、(b)は、LPF20の設計にボンディングワイヤによるインダクタを含めたときのLPF20の通過帯域の高周波側近傍における減衰特性を示している。図8(a)に示すように、ボンディングワイヤによるインダクタを含めずにLPF20を設計した場合、LPF20の通過帯域の高周波側である1.9GHz付近において所望の減衰量が得られていなかった。そこで、LPF20にボンディングワイヤによるインダクタを含めて設計を行ったところ、図8(b)に示すように、1.9GHz付近での減衰量が増加し、LPF20の通過帯域の高周波側における減衰特性を改善することができた。以上のように、SW10とLPF20とを接続するためのボンディングワイヤによるインダクタを高次高調波の減衰と、LPFの通過帯域の高周波側での減衰特性の改善に使用することにより、不要な素子を増やすことなく高周波スイッチモジュールの特性を向上することができる。
ANT…アンテナ
ANT0…アンテナポート
GCc1,GCc2…キャパシタ
GCu1,GCu2,GCu3…キャパシタ
GLt1,GLt2…インダクタ
LPF20…ローパスフィルタ
LPF21a…ローパスフィルタ
LPF21b…ローパスフィルタ
RF11,RF12,RF13…入出力ポート
Rx1,Rx2…受信信号出力端子
SW10…FETスイッチ
Tx1…送信信号入力端子
1…多層基板
5…保護膜
10…FETスイッチ
12…接続用電極
15…端子電極
17…FETスイッチ実装用電極
18…グランド電極
19…外部接続用電極
20…ボンディングワイヤ
21a…LPF
21b…LPF
25…高周波スイッチモジュール
31〜34…電極