JPWO2008069122A1 - 間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー - Google Patents

間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー Download PDF

Info

Publication number
JPWO2008069122A1
JPWO2008069122A1 JP2008548256A JP2008548256A JPWO2008069122A1 JP WO2008069122 A1 JPWO2008069122 A1 JP WO2008069122A1 JP 2008548256 A JP2008548256 A JP 2008548256A JP 2008548256 A JP2008548256 A JP 2008548256A JP WO2008069122 A1 JPWO2008069122 A1 JP WO2008069122A1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
tgfβ3
differentiation
gene
mesenchymal stem
chondrocytes
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2008548256A
Other languages
English (en)
Inventor
淳也 戸口田
淳也 戸口田
朋樹 青山
朋樹 青山
林 浩司
浩司 林
原田 秀幸
秀幸 原田
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kyoto University
Sumitomo Chemical Co Ltd
Sumitomo Pharma Co Ltd
Original Assignee
Kyoto University
Sumitomo Dainippon Pharma Co Ltd
Sumitomo Chemical Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kyoto University, Sumitomo Dainippon Pharma Co Ltd, Sumitomo Chemical Co Ltd filed Critical Kyoto University
Publication of JPWO2008069122A1 publication Critical patent/JPWO2008069122A1/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C07ORGANIC CHEMISTRY
    • C07KPEPTIDES
    • C07K14/00Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof
    • C07K14/435Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof from animals; from humans
    • C07K14/475Growth factors; Growth regulators
    • C07K14/495Transforming growth factor [TGF]
    • GPHYSICS
    • G01MEASURING; TESTING
    • G01NINVESTIGATING OR ANALYSING MATERIALS BY DETERMINING THEIR CHEMICAL OR PHYSICAL PROPERTIES
    • G01N33/00Investigating or analysing materials by specific methods not covered by groups G01N1/00 - G01N31/00
    • G01N33/48Biological material, e.g. blood, urine; Haemocytometers
    • G01N33/50Chemical analysis of biological material, e.g. blood, urine; Testing involving biospecific ligand binding methods; Immunological testing
    • G01N33/53Immunoassay; Biospecific binding assay; Materials therefor
    • G01N33/569Immunoassay; Biospecific binding assay; Materials therefor for microorganisms, e.g. protozoa, bacteria, viruses
    • G01N33/56966Animal cells

Landscapes

  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Immunology (AREA)
  • Hematology (AREA)
  • Zoology (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Urology & Nephrology (AREA)
  • Medicinal Chemistry (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • Biomedical Technology (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Cell Biology (AREA)
  • Gastroenterology & Hepatology (AREA)
  • Microbiology (AREA)
  • Biophysics (AREA)
  • Tropical Medicine & Parasitology (AREA)
  • Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
  • Biotechnology (AREA)
  • Toxicology (AREA)
  • Virology (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Food Science & Technology (AREA)
  • Physics & Mathematics (AREA)
  • Analytical Chemistry (AREA)
  • General Physics & Mathematics (AREA)
  • Pathology (AREA)
  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)

Abstract

間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化マーカーを提供すること。TGFβ3(transforming growth factor-beta 3)遺伝子の塩基配列における、連続する少なくとも18塩基からなるポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー、前記マーカーを利用した間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能測定方法等。

Description

本発明は、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカーに関する。さらに詳しくは、TGFβ3を利用したヒト間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化マーカー、および当該マーカーを利用した軟骨分化能判定方法などに関する。
軟骨は主として骨組織の周辺である関節部分に存在し、その比較的柔軟な組織構造により骨組織の摩擦を和らげる働きをしているが、その部分が損傷・磨耗されることにより、関節部分の痛みや変性が生じる。高齢化に伴い、軟骨損傷や変性を特徴とする疾患、例えば変形性関節症等が近年増加している。
一般に、軟骨組織は血管侵入が無い組織であり、一度変性・磨耗が生じると修復するのは極めて困難であると言われている(非特許文献1を参照)。また、根本的な病態治療が行われていていない疾患でもある。例えば、変形性関節症に用いられている薬剤は、鎮痛剤・潤滑剤等の対症療法がほとんどであり、変性や磨耗に対する根本的治療は実施されていない。
そのような観点から、自家培養軟骨を移植する試みが行われており、米国では、すでに移植療法として実用化されている。しかしながら、採取可能な自家軟骨量が限られている、定着率が必ずしも高くない、といった問題点も指摘されている。
上記のような問題点を解決するため、比較的多くの量を採取可能な、未分化な細胞を患部に移植し、患部周辺の健常な組織という「場」の力を借りて、患部に埋めた未分化な細胞を正常に分化させる試みがなされている(非特許文献1を参照)。これには、主として骨髄に存在する間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells: MSC)が用いられているが、それは、このMSCが適切な培養条件の下では、脂肪細胞・骨芽細胞・軟骨細胞それぞれに分化することが明らかにされているからである(非特許文献2を参照)。
MSCを高い頻度で軟骨に分化させる方法については、これまでに検討が加えられており、TGFβ3やBMPの存在下で、それらが達成されることが報告されている(特許文献1を参照)。また、FGF存在下では比較的大量のMSCが得られることも示されている(特許文献2を参照)。一方、MSCから分化させた軟骨細胞についての「品質」に関する考察もなされており、増殖能や軟骨特異的遺伝子発現をモニターすることで、品質チェックが可能であることが示唆されている(特許文献3を参照)。
しかしながらこれまでの検討では、MSCから分化誘導した「移植用軟骨」の品質検定については述べられていたものの、「細胞移植治療の実用に耐え得るMSCを早期に選抜する」という観点からの検討は何もなされていなかった。
ちなみに既存の判定方法では、in vitroで特殊な培養条件下にMSCから軟骨細胞への分化誘導を行い、最終分化形態を判定することで、その細胞の性能(分化能)を確認しているが、判定までに約3週の期間を要し、かつ多くの細胞を用いる必要性がある。そのため早期にかつ簡便に、細胞移植治療に用いるMSCの品質を評価する方法が望まれている状況にある。
また、軟骨分化時のマーカー遺伝子を探索するという目的で、MSCや軟骨様細胞を軟骨分化条件下で培養した際に発現変動する遺伝子を同定する試みがなされており、分化時の軟骨の性質をさらに明らかにする遺伝子群の同定も行われている(非特許文献3および4を参照)。しかしながら、3次元培養や種々の成長因子の添加などの軟骨分化条件の煩雑さにも起因し、上述のような「実用に耐えうるMSCを早期に選抜する」という観点からは、これまで検討が行われてこなかった。
WO98/032333号公報 特開2006-59号公報 WO02/095399号公報 最新医学54(12)103-109、1999 Science 276:71-74, 1997 Proc.Natl Acad.Sci., USA 99(7) 4397-4402,2002 Cell Tissue Res 320: 269-276,2005
本発明は、軟骨移植に用いられるMSCの品質を早期に判定するためのマーカー、および当該マーカーを用いたMSCの軟骨細胞分化能の判定方法などを提供することを課題とする。
本発明者らは、MSCの品質を早期に判定できるマーカーを探索すべく、MSCが軟骨に分化する際に発現変動する遺伝子群の選抜を行った。その際、3次元培養や種々の成長因子の添加等、培養方法の煩雑さを克服するため、下記の工夫した手法を導入した。(1)軟骨に分化するMSCクローン、軟骨に分化しないMSCクローンを複数樹立し、3次元培養や種々成長因子の添加等の「分化」以外の要因を可能な限り低減した。(2)Microarrayによる網羅的な遺伝子発現解析を、軟骨分化誘導24時間という早期に、複数の独立したクローンについて実施し、共通に発現変動する遺伝子群を抽出した。またMicroarrayとは異なる手法(定量的RT-PCR法)により、選抜した遺伝子群の有効性を確認した。(3)選抜された遺伝子群の有効性を、独立したドナーから供給された複数の初代培養MSCについて検討実施し、有効性を確認した。
その結果、軟骨分化能を有さないMSCクローンを軟骨分化誘導しても発現しないが、軟骨分化能を有するMSCクローンを軟骨分化誘導した際に特異的に発現する遺伝子として、TGFβ3遺伝子が選抜された。TGFβ3遺伝子は、クローン化MSCのみならず、初代培養MSCにおいても、軟骨分化誘導24時間という初期に発現誘導することが明らかとなった。このことから、TGFβ3の発現誘導をMSCから軟骨細胞への分化の指標(MSCの軟骨細胞への分化能の指標)と出来ることが明らかとなった。
さらにTGFβ3の発現誘導と従来の軟骨分化評価結果が相関していたことから、培養初期でのTGFβ3の発現誘導値を指標として、移植に用いるMSCの品質評価を行うことの妥当性が証明された。
本発明は、以上のような知見に基づき完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、
(1) TGFβ3遺伝子の塩基配列における、連続する少なくとも18塩基からなるポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー、
(2) TGFβ3遺伝子が配列番号:1に記載の塩基配列からなる遺伝子である、前記(1)記載の分化マーカー、
(3) プライマーまたはプローブとして使用される、前記(1)または(2)記載の分化マーカー、
(4) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定方法:
(a) 被験用の間葉系幹細胞から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと、前記(1)〜(3)いずれか記載の分化マーカーとを結合させる工程、
(b) 各分化マーカーに結合した、間葉系幹細胞由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドの量を測定する工程、
(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、間葉系幹細胞が軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程、
(5) RT-PCR法により行われる、前記(4)記載の測定方法、
(6) 移植に用いる間葉系幹細胞の品質評価のために行われる、前記(4)または(5)記載の測定方法、
(7) 前記(1)〜(3)いずれか記載の分化マーカーを成分として含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能測定用キット、
(8) TGFβ3に特異的に結合する抗体を含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー、
(9) TGFβ3が配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、前記(8)記載の分化マーカー、
(10) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定方法:
(a) 被験用の間葉系幹細胞由来のタンパク質と前記(8)または(9)記載の分化マーカーとを結合させる工程、
(b) 各分化マーカーに結合した、間葉系幹細胞由来のタンパク質の量を測定する工程、
(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、間葉系幹細胞が軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程、
(11) ELISA法により行われる、前記(10)記載の測定方法、
(12) 移植に用いる間葉系幹細胞の品質評価のために行われる、前記(10)または(11)記載の測定方法、
(13) 前記(8)または(9)記載の分化マーカーを成分として含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能測定用キット、
(14) TGFβ3の発現調節領域とレポーター遺伝子とを含有するベクターよりなる、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー、
(15) TGFβ3の発現調節領域が配列番号:32に記載の塩基配列を含有する、前記(14)記載の分化マーカー、
(16) レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である、前記(14)または(15)記載の分化マーカー、
(17) 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定方法:
(a) 被験用の間葉系幹細胞に前記(14)〜(16)いずれか記載の分化マーカーを導入する工程、
(b) 各分化マーカーが含有するレポーター遺伝子の発現量を測定する工程、
(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、間葉系幹細胞が軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程、
(18) 移植に用いる間葉系幹細胞の品質評価のために行われる、前記(17)記載の測定方法、
(19) 前記(14)〜(16)いずれか記載の分化マーカーを成分として含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能測定用キット、
(20) 間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化能を測定するための、TGFβ3遺伝子の塩基配列における、連続する少なくとも18塩基を含有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドの使用、
(21) TGFβ3遺伝子が配列番号:1に記載の塩基配列からなる遺伝子である、前記(20)記載の使用、
(22) 間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化能を測定するための、TGFβ3に特異的に結合する抗体の使用、
(23) TGFβ3が配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、前記(22)記載の使用、
(24) 間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化能を測定するための、TGFβ3の発現調節領域とレポーター遺伝子とを含有するベクターの使用、
(25) TGFβ3の発現調節領域が配列番号:32に記載の塩基配列を含有する、前記(24)記載の使用、
(26) レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である、前記(24)または(25)記載の使用、ならびに
(27) 間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能を測定するための、前記(7)、(13)または(19)記載のキットの使用、に関する。
本発明により、MSCの軟骨細胞への分化マーカーが提供される。本発明の分化マーカーであるTGFβ3は、軟骨へ分化誘導するMSCが特異的かつ早期に発現する遺伝子であるため、TGFβ3の発現量を調べることにより、細胞移植治療に用いるのに適したMSCを早期に判定することができる。さらに本発明のTGFβ3の発現を指標として、移植直前のMSCの品質評価も行うことができる。
TGFβ3の発現誘導は、MSCから軟骨細胞への分化に特有の現象であるため、当該TGFβの発現量を調べることは、MSCから軟骨細胞への分化メカニズムの研究においても有用である。
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC-IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖(正鎖)およびアンチセンス鎖(相補鎖)といった各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。すなわち本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、2本鎖DNA、cDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)、並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これによりコードされるタンパク質(配列番号:2)と生物学的機能が同等であるタンパク質(例えば同族体(ホモログやスプライスバリアントなど)、変異体及び誘導体)をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。かかる同族体、変異体または誘導体をコードする「遺伝子」または「DNA」としては、具体的には、後述の(1-1)項に記載のストリンジェントな条件下で、配列番号:1で示される塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
従って本明細書において「TGFβ3(transforming growth factor-beta 3)遺伝子」または「TGFβ3のDNA」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定塩基配列(配列番号:1)で示されるヒトTGFβ3遺伝子(DNA)や、その同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトTGFβ3遺伝子(GenBank Accession No. J03241)や、マウスTGFβ3遺伝子(GenBank Accession No. NM_009368)、ラットTGFβ3遺伝子(GenBank Accession No. NM_013174)などが包含される。また、これらヒトTGFβ3遺伝子、マウスTGFβ3遺伝子、ラットTGFβ3遺伝子の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有する遺伝子や、前記ヒト、マウス、ラットTGFβ3遺伝子と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%以上の配列同一性を有する塩基配列を有する遺伝子なども包含される。
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号:2)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、成熟体などが包含される。ここで変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、配列番号:2で示されるアミノ酸配列と、70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%以上の配列同一性を有するタンパク質を挙げることができる。
従って本明細書において「TGFβ3タンパク質」または単に「TGFβ3」といった用語を用いる場合、配列番号で特に指定しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:2)で示されるヒトTGFβ3やその同族体、変異体、成熟体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するヒトTGFβ3(GenBank Accession No.P10600)や、マウスTGFβ3(GenBank Accession No. NP_033394)、ラットTGFβ3(GenBank Accession No.NP_037306)などが包含される。また、これらヒトTGFβ3、マウスTGFβ3、ラットTGFβ3のアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質なども包含される。
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、またはFabフラグメントやFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメントなどのように抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
本明細書において「間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー」とは、間葉系幹細胞(MSC)が軟骨細胞へ分化する際に、特異的に発現上昇する因子を検出するためのマーカーを意味する。すなわち、MSCは適切な培養条件の下では、脂肪細胞・骨芽細胞・軟骨細胞の3方向に分化することが知られているが、脂肪細胞、骨芽細胞へ分化する際には発現しないが、軟骨細胞へ分化する際には発現する因子を検出するためのマーカーを意味する。本発明は、MSCから軟骨細胞への分化において、TGFβ3が特異的に発現上昇することを明らかにしたものである。従って前記マーカーとして具体的には、TGFβ3遺伝子を特異的に認識して結合することのできるポリヌクレオチドや、TGFβ3タンパク質を特異的に認識して結合することのできる抗体が包含される。さらにTGFβ3遺伝子の発現上昇の検出を代用し得るレポーターベクター(TGFβ3の発現調節領域とレポーター遺伝子とを含有するベクター)も、当該マーカーとして用いることができる。
前記ポリヌクレオチドは、培養MSCなどで発現したTGFβ3遺伝子を増幅するためのプライマー、またはTGFβ3遺伝子を検出するためのプローブとして有効に利用することができる。また前記抗体は、培養MSCなどで発現したTGFβ3タンパク質を検出するためのプローブとして有効に利用することができる。
本明細において「被験用MSC」とは、軟骨障害(軟骨欠損等)の患者より常法により採取して培養した後、TGFβ3により24時間程度軟骨分化誘導を行ったMSCを指す。誘導は、細胞にTGFβ3含有軟骨分化誘導培地(後述の実施例1を参照)を加え、平板(単層)培養若しくは三次元培養を24時間程度行うことにより実施される。より望ましくは三次元培養を行う。
以下TGFβ3遺伝子(以下本発明の遺伝子と称する場合がある)、TGFβ3タンパク(以下本発明のタンパク質と称する場合がある)、およびそれらの派生物について、具体的な用途を説明する(後述の(1)〜(3))。なおレポーターベクターの利用については後述する(後述の(4))。
(1)間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー
(1-1) ポリヌクレオチド
本発明における TGFβ3遺伝子は公知の遺伝子である。例えばヒトTGFβ3遺伝子としては、配列番号:1に示すポリヌクレオチドが知られている(GenBank Accession No.J03241)。またマウスTGFβ3遺伝子としてはGenBank Accession No. NM_009368が、ラットTGFβ3遺伝子としてはGenBank Accession No. NM_013174が、それぞれ知られている。
本発明のTGFβ3遺伝子は、配列番号:1に記載の塩基配列、または前記各アクセッション番号に開示された塩基配列の適当な部分をハイブリダイゼーションのプローブまたはPCRのプライマーに用いて、例えばヒト骨髄細胞由来のcDNAライブラリー(TaKaRa社製)をスクリーニングすることなどによりクローニングすることができる。該クローニングは、例えばMolecular Cloning 2nd Edt. Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等の基本書に従い、当業者ならば容易に行うことができる。
本発明は前記のように、TGFβ3の発現をMSCから軟骨細胞への分化の指標とできることを明らかにした。この新たな知見に基き、TGFβ3の遺伝子発現(発現量)を測定することによって、MSCが軟骨細胞への分化能を有することを容易に判定でき、移植用軟骨細胞の品質評価を正確に行うことができる。
従って上記ポリヌクレオチドは、被験用MSCにおけるTGFβ3の発現量を測定することによって、該被験用のMSCが軟骨細胞への分化能を有しているか否かを判定することのできるツール(マーカー)として有用である。
本発明の軟骨細胞分化マーカーは、TGFβ3遺伝子の塩基配列において、連続する少なくとも18塩基からなるポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有することを特徴とするものである。
ここで「相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)」とは、TGFβ3遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した18塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
ここで、正鎖側のポリヌクレオチドには、TGFβ3の塩基配列、またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
さらに上記正鎖のポリヌクレオチド及び相補鎖(逆鎖)のポリヌクレオチドは、各々一本鎖の形態でマーカーとして使用されても、また二本鎖の形態でマーカーとして使用されてもよい。
本発明の軟骨細胞分化マーカーは、具体的には、TGFβ3遺伝子の塩基配列(全長配列)からなるポリヌクレオチドであってもよいし、その相補配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。またTGFβ3遺伝子もしくは該遺伝子に由来するポリヌクレオチドを選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列またはその相補配列の部分配列からなるポリヌクレオチドであってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列またはその相補配列の塩基配列から任意に選択される少なくとも18個の連続した塩基長を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
ここで「少なくとも18塩基」との限定は、TGFβ3遺伝子の連続する少なくとも18塩基部分があれば、TGFβ3遺伝子を特定(検出)するのに十分であるという根拠に基くものである。
ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、TGFβ3遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に検出できること、またRT-PCR法においては、TGFβ3遺伝子またはこれらに由来するポリヌクレオチドが特異的に生成されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または生成物がTGFβ3遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。
本発明のマーカーは、例えば配列番号:1に記載のTGFβ3遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的にはTGFβ3の塩基配列を primer 3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含むポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして使用することができる。プライマーとしては、例えば配列番号:9、10、13、14、17、18、29、30または31に示される塩基配列を含有するポリヌクレオチドが例示される。
本発明のマーカーは、上述するように連続する少なくとも18塩基の長さを有するものであればよいが、具体的にはマーカーの用途に応じて、長さを適宜選択し設定することができる。
(1-2)プローブまたはプライマーとしてのポリヌクレオチド
MSCから軟骨細胞への分化能の測定(判定)は、被験用の間葉系幹細胞(MSC)における、TGFβ3遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することによって行われる。この場合、本発明のマーカーは、TGFβ3遺伝子の発現によって生じたRNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し増幅するためのプライマーとして、または該RNAまたはそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するためのプローブとして利用することができる。
本発明のマーカーを軟骨細胞への分化能の測定においてプライマーとして用いる場合には、通常18bp〜100bp、好ましくは18bp〜50bp、より好ましくは18bp〜35bpの塩基長を有するものが例示できる。具体的には、例えば配列番号:9、10、13、14、17、18、29、30または31に示される塩基配列を含有するポリヌクレオチドが例示される。また検出プローブとして用いる場合には、通常18bp〜全配列の塩基数、好ましくは18bp〜1kb、より好ましくは100bp〜1kbの塩基長を有するものが例示できる。
本発明のマーカーは、ノーザンブロット法、RT-PCR法、in situハイブリダーゼーション法、チップ解析などといった、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。該利用によってMSCにおけるTGFβ3遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することができる。
測定対象試料としては、使用する検出方法の種類に応じて、軟骨障害(軟骨欠損等)の患者より採取、培養して24時間程度軟骨分化誘導を行った被験用MSCから、常法に従って調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。
また、MSCにおけるTGFβ3遺伝子の遺伝子発現レベルは、DNAチップを利用して検出あるいは定量することができる。この場合、本発明のポリヌクレオチドに係るマーカーはDNAチップのプローブとして使用することができる(例えば、アフィメトリックス社の Gene Chip HG-U133Aの場合、25bpの長さのポリヌクレオチドプローブとして用いられる)。かかるDNAチップを、被験用MSCから調製されたRNAをもとに調製される標識DNAまたはRNAとハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズによって形成された上記プローブ(本発明のマーカー)と標識DNAまたはRNAとの複合体を、該標識DNAまたはRNAの標識を指標として検出することにより、細胞内でのTGFβ3遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)が評価できる。
(1-3)抗体
本発明は、MSCの軟骨細胞分化能を測定するためのマーカーとして、TGFβ3遺伝子の発現産物(TGFβ3)に特異的に結合する抗体を提供する。
本発明における TGFβ3(TGFβ3タンパク質)は公知のタンパク質である。例えばヒトTGFβ3としては、配列番号:2に示すタンパク資が知られている(GenBank Accession No. P10600)。またマウスTGFβ3としてはGenBank Accession No. NP_033394が、ラットTGFβ3としてはGenBank Accession No. NP_037306が、それぞれ知られている。当該TGFβ3は、クローニングしたTGFβ3遺伝子を含有する発現ベクターを細胞に導入し、当該細胞(形質転換細胞)から分泌されるTGFβ3を単離、精製することにより得ることができる(Molecular Endocrinology, Vol 3, 1977-1986, 1989)。
本発明は、軟骨分化能を有するMSCにおいてTGFβ3遺伝子が顕著に発現上昇しているという知見をもとに、TGFβ3の発現産物(タンパク質)の有無やその発現の程度を検出することによって、被験用MSCが軟骨分化能を有するか否かを判定することができるという発想に基づくものである。
上記抗体は、従って、被験用MSCにおけるTGFβ3の発現の有無またはその程度を検出することによって、該MSCが軟骨細胞分化能を有しているか否かを測定することのできるツール(マーカー)として有用である。
本発明の抗体は、その形態に特に制限はなく、TGFβ3を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよい。さらにTGFβ3のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチド(オリゴペプチドを含む)に対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology, Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌や動物細胞等で発現し精製したTGFβ3を用いて、あるいは常法に従って合成したTGFβ3の部分アミノ酸配列を有するポリペプチドを用いて、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌や動物細胞等で発現し精製したTGFβ3、あるいはその部分アミノ酸配列を有するポリペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
抗体の作製に免疫原として使用されるTGFβ3は、本発明により提供されるTGFβ3遺伝子の配列情報(配列番号:1)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。
具体的にはTGFβ3をコードする遺伝子が所望の宿主細胞中で発現できる組み換えDNA(発現ベクター)を作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養して得られる培養物からTGFβ3を回収することによって、本発明の抗体製造のための免疫原としてのTGFβ3を得ることができる。またTGFβ3の部分ペプチドは、本発明により提供されるTGFβ3のアミノ酸配列情報(配列番号:2)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。
なお、本発明のTGFβ3には、配列番号: 2に示す各アミノ酸配列を有するタンパク質のみならず、その相同物も包含される。該相同物としては、配列番号:2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、且つ改変前の元のタンパク質と同様にTGFβ3を認識する抗体を生じさせ得る(同等の免疫学的性質を有する)タンパク質を挙げることができる。
なお、タンパク質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その免疫学的活性が保持される限り制限はない。免疫学的活性を喪失することなくアミノ酸残基が、どのように、何個置換、挿入あるいは欠失されればよいかを決定する指標は、当業者に周知のコンピュータプログラム、例えばDNA Star softwareを用いて見出すことができる。例えば変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また置換されるアミノ酸は、置換後に得られるタンパク質が、TGFβ3と同等の免疫学的活性を保持している限り、特に制限されないが、タンパク質の構造保持の観点から、残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性並びに両親媒性など、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe及びTrpは互いに非極性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn及びGlnは互いに非荷電性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、Asp及びGluは互いに酸性アミノ酸に分類されるアミノ酸であり、またLys、Arg及びHisは互いに塩基性アミノ酸に分類されるアミノ酸である。ゆえに、これらを指標として同群に属するアミノ酸を適宜選択することができる。
本発明の抗体は、TGFβ3の部分アミノ酸配列を有するポリペプチド(オリゴぺプチドを含む)を免疫原として用いて調製されるものであってよい。かかる抗体の製造のために用いられるポリペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、TGFβ3と同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し、且つTGFβ3のアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドを例示することができる。
かかるポリペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
本発明の抗体は、TGFβ3に特異的に結合する性質を有することから、該抗体を利用することによって、被験用MSCにおいて発現したTGFβ3を特異的に検出することができる。すなわち本発明の抗体は、被験用MSCにおけるTGFβ3の発現を検出するためのプローブとして有用である。
具体的には、例えば軟骨障害の患者より採取、培養して24時間程度軟骨分化誘導を行った被験用MSCから、常法に従って細胞抽出液を調製し、例えばELISA法、RIA法、ウェスタンブロット法など公知の検出方法において、上記抗体を常法に従ってプローブとして使用することによって、細胞内のTGFβ3を検出することができる。
(2)間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定方法
本発明は、前述した本発明のマーカーを利用した、MSCの軟骨細胞分化能の測定方法を提供するものである。
具体的には、本発明の測定方法は、軟骨障害の患者から採取・培養し24時間程度軟骨分化誘導を行った被験用MSCにおけるTGFβ3の遺伝子発現量(レベル)、またはTGFβ3のタンパク発現量(レベル)を検出し、その遺伝子発現量またはそのタンパク質量を測定することにより、被験用MSCが軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断するものである。本発明の測定方法は、移植に用いるMSCの品質評価において有効に用いられる。
本発明の測定方法は次の(a)、(b)及び(c)の工程を含むものである:
(a) 被験用MSC由来の試料と本発明のマーカーを接触させる工程、
(b) 前記試料中のTGFβ3遺伝子の発現量(発現レベル)、またはTGFβ3のタンパク質量(発現レベル)を、上記マーカーを指標として測定する工程、
(c) (b)の結果をもとに、MSCが軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程。
ここで用いられる被験用MSC由来の試料としては、被験用MSCから調製されるRNA含有試料、若しくはそれからさらに調製されるポリヌクレオチドを含む試料、またはMSCから調製されるタンパク質を含む試料(細胞抽出物等)を挙げることができる。かかるRNA、ポリヌクレオチドまたはタンパク質を含む試料は、MSCから常法に従って調製することができる。
本発明の測定方法は、測定対象として用いる試料の種類に応じて、具体的には下記のようにして実施される。
(2-1) 測定対象の試料としてRNAを利用する場合
測定対象物としてRNAを利用する場合、MSCの軟骨細胞への分化能の測定は、具体的に下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a) 被験用のMSCから調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと、前記本発明の分化マーカー(TGFβ3遺伝子の塩基配列における、連続する少なくとも18塩基からなるポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有する、MSCの軟骨細胞分化マーカー)とを結合させる工程、
(b) 各分化マーカーに結合した、MSC由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドの量を測定する工程、
(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、MSCが軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程。
測定対象物としてRNAを利用する場合は、本発明の測定方法は、該RNA中のTGFβ3遺伝子の発現量(発現レベル)を検出し、測定することによって実施される。具体的には、前述のポリヌクレオチドからなる本発明のマーカー(TGFβ3遺伝子の塩基配列における、連続する少なくとも18塩基からなるポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有するマーカー)をプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などの公知の方法を行うことにより実施できる。
ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の上記マーカーをプローブとして用いることによって、RNA中のTGFβ3遺伝子の発現の有無や発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、本発明のマーカー(相補鎖)を放射性同位元素(32Pなど)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした被験用MSC由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成されたマーカー(DNA)とRNAとの二重鎖を、マーカーの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従ってマーカー(プローブDNA)を標識し、被験用MSC由来のRNAとハイブリダイズさせた後、マーカーの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法も使用することができる。
RT-PCR法を利用する場合は、本発明のマーカーをプライマーとして用いることによって、RNA中のTGFβ3遺伝子の発現の有無や発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、被験用MSC由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製してこれを鋳型とし、標的のTGFβ3遺伝子の領域が増幅できるように、本発明のマーカーから調製した一対のプライマーをハイブリダイズさせて、常法に従ってPCRを行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した本発明マーカーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。
また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)を用いて、該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出する方法や、PrimeScript RT-PCR reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)等を用いて添付のプロトコールに従って行う方法なども例示される。
RT-PCR法においては、簡便さと定量性の観点から、定量的RT-PCR法を用いることが好ましい。定量的RT-PCRについては後述の実施例に詳述しているが、例えばPrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)とSYBR Premix Ex Taq(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用いた方法について簡単に述べると以下のようになる。
まず、以下の反応液をトータル10μlの液量にて氷上で作製する:5×PrimeScript Buffer(for Real Time)2μl、PrimeScript RT Enzyme MixI 0.5μl、Oligo dT Primer 25pmol、Random 6 mers 50pmol、Total RNA 500ng、RNase Free 滅菌蒸留水。この反応液を37℃で15分間保温して逆転写反応を行い、85℃5秒間保温することで逆転写酵素を失活させ、逆転写反応を終結させる。
次に、以下の反応液を、トータル25μlの液量で作製する:SYBR Premix Ex Taq (2×)12.5μl、PCR Forward Primer 0.2μmol、PCR Reverse Primer 0.2μmol、逆転写反応液(cDNA溶液)2μl、滅菌蒸留水。次に、Thermal Cycler Dice Real Time System(タカラバイオ社製)を用い、Hold(初期変性)Cycle:1(95℃ 10sec)、 2 Step PCR Cycle:40(95℃ 5sec、60℃ 30sec)、Dissociationの反応を行い、終了後、解析を行う。リアルタイムPCRをTaqManプローブ検出で行う場合には、PrimeScript RT-PCR reagent Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)等を用いて実施する。
また最近、LAMP法(Loop-mediated Isothermal Amplification法;Nucleic Acids Research 28(12)e63, 2000、ウイルス54巻第1号107-112、2004等参照)と呼ばれる簡易かつ迅速な遺伝子増幅法が開発されており、本法も、RT-PCR法の好ましい手法として例示される。当該LAMP法の具体的実験方法を以下に示す。
まず、25μlの反応系として、以下のものを含む反応液ミックスを氷上にて調製する:0.8μmolのFIPおよびBIPプライマー、0.2μmolのF3およびB3プライマー、400μmolのdNTPミックス、1Mのbetaine(シグマ社)、20mMのTris-HCl(pH.8.8)、10mMのKCl、10mMの硫酸アンモニウム、4mMの硫酸マグネシウム、0.1%のTriton X-100と1μgのトータルRNA、5UのeAMV逆転写酵素(シグマ社)、10UのRNase inhibitor(東洋紡)、4U/microL Bst DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)。これを65℃で1時間反応させた後、80℃で10分間反応させて反応を終了する。
なお、プライマー(FIP、BIP、F3、B3)の設計は、LAMP法専用プライマー設計支援ソフト(PrimerExplorer、http://primerexplorer.jp/)で実施する。
反応産物は、白濁の程度により遺伝子増幅の有無を検出することが出来るが、さらに信頼性を増す、若しくは定量性を持たせるためには電気泳動したほうが確実である。アガロース電気泳動した後、エチジウムブロマイドで染色し、UVにより反応産物を確認する。写真を撮り、反応産物のシグナルを定量化する。もしくは、定量的なサーマルサイクラー(Applied Biosystems 7900HT Fast リアルタイムPCRシステム等)で反応を実施し、定量化する。
DNAチップ解析を利用する場合は、本発明の上記マーカーをDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに被験用MSC由来のRNAから常法に従って調製されたcRNAとハイブリダイズさせて、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明のマーカーから調製される標識プローブと結合させて検出する方法を挙げることができる。また、上記DNAチップとして、本発明のTGFβ3の遺伝子発現レベルの検出、測定が可能な既存のDNAチップを用いることもできる。かかる遺伝子の発現レベルを検出、測定することができるDNAチップとしては、Affymetrix社のGene Chip Human Genome U133Aなどを挙げることができる。
(2-2) 測定対象の試料としてタンパク質を用いる場合
測定対象物としてタンパク質を用いる場合は、MSCの軟骨細胞への分化能の測定は、試料中のTGFβ3を検出し、その量を測定することによって実施される。具体的には下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a) 被験用MSC由来のタンパク質と抗体に関する本発明の分化マーカー(TGFβ3に特異的に結合する抗体)とを結合させる工程、
(b) 各分化マーカーに結合した、MSC由来のタンパク質の量を測定する工程、
(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、MSCが軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程。
より具体的には、本発明のマーカーとしてTGFβ3に特異的に結合する抗体を用いて、ウエスタンブロット法、ELISA法、RIA法などの公知方法で、TGFβ3を検出、定量する方法を挙げることができる。
ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明のマーカーを用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明のマーカーを用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
ELISA法は、一次抗体として本発明のマーカーを用いた後、二次抗体としてホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した標識抗体(一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる発色物質などに由来するシグナルをマイクロプレートリーダー(Molecular Probe社製など)、蛍光検出器などで検出し、固相における反応を測定することによって定量解析できる。
(2-3)間葉系幹細胞の軟骨細胞分化能の測定
MSCの軟骨細胞分化能の測定(判定)は、被験用MSCにおけるTGFβ3遺伝子の発現量(発現レベル)、もしくはこれらの遺伝子の発現産物であるTGFβ3のタンパク質量(発現レベル)を、軟骨細胞への分化能を有さないMSC(ネガティブコントロール)や初代培養軟骨細胞(ポジティブコントロール)における当該遺伝子発現レベルまたは当該タンパク質レベルと比較し、両者の違いを判定することなどによって行うことができる。
具体的には、本発明のマーカーを利用した、MSCの軟骨細胞分化能の測定は、患者から採取・培養し、24時間程度軟骨分化誘導を行った被験用MSCにおけるTGFβ3遺伝子若しくはTGFβ3タンパクの発現量を測定することにより行われる。被験用MSCが軟骨細胞への分化能を有すると判断されるためには、最低限、当該MSCにおけるTGFβ3遺伝子若しくはTGFβ3タンパクの発現量が、軟骨細胞への分化能を有さないMSC(例えば実施例におけるAOクローン)における発現量よりも多いことが必要である。
より具体的には、本発明のポリヌクレオチドに関するマーカーをプライマーに用いて定量的RT-PCRを行い、βアクチン遺伝子(補正用遺伝子)の発現量に対するTGFβ3遺伝子の発現量の比(TGFβ3遺伝子発現量/β-actin遺伝子発現量;以下補正値)を求める。この補正値が、初代培養軟骨細胞における補正値を1とした場合に 0.1以上を示した細胞を、軟骨分化能を有する細胞と判定することができる。
さらに、必要に応じて移植直前(約3日前)に前記と同じ判定を行い、陽性となった細胞を、移植用細胞と判定することができる。
本発明の抗体に関するマーカーを用いた場合も、前記と同様の基準に従い、ELISA法等を用いて判定を行うことができる。
以上のように、本発明のマーカーを用いたMSCの軟骨細胞分化能の測定は、従来法(最終分化形態を判定することでその細胞の分化能を確認する手法)に比して、少量の細胞で、早期に、かつ簡便に、移植に用いるMSCの品質評価を行うことができる。
なお、本発明のマーカーを用いた評価により、移植可能、すなわち軟骨細胞分化能を有すると判定されたMSCは、未分化なまま患者に移植する(戻す)こともできれば、軟骨細胞への分化途中、または分化させた後に、患者に移植する(戻す)ことも可能である。
(3)間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定キット
本発明は、本発明のマーカーを成分として含有する、MSCの軟骨細胞への分化能測定用キットを提供する。当該キットは、MSCの軟骨細胞分化能を測定するために有効に用いられる。
前記キットがTGFβ3遺伝子測定用キットの場合、当該キットは、前記本発明のポリヌクレオチドに係るマーカーのみからなるキットであっても、また本発明のマーカーと他の成分とを含むキットであっても良い。キットがRT-PCR用キットの場合、本発明のマーカー(RT-PCR用プライマー)以外の他の成分としては、TGFβ3、軟骨分化誘導培地(組成については実施例参照)、RNA抽出用デバイス(例えばRNeasy kit)、補正用のβ-actin遺伝子増幅用プライマー、標準軟骨cDNA、RT反応用混合液、PCR反応用混合液などを挙げることができる。
また前記キットがTGFβ3タンパク測定用キットの場合、当該キットは、前記本発明の抗体に係るマーカーのみからなるキットであっても、また本発明のマーカーと他の成分とを含むキットであっても良い。キットがELISA用キットの場合、本発明のマーカー(抗体)以外の他の成分としては、標準軟骨タンパク、ヒトTGFβ3タンパク、測定用プレート、プレート洗浄液、検出用2次抗体、発色液、発色反応停止液などを挙げることができる。
(4)レポーターベクターを利用した間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定
(4-1)レポーターベクターよりなる間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー
本発明はまた、TGFβ3の発現調節領域とレポーター遺伝子とを含有するベクターよりなる、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカーを提供する。
前記のように、本発明においては、被験用MSCにおけるTGFβ3遺伝子の発現量を測定することによって、当該被験用のMSCが軟骨細胞への分化能を有しているか否かを早期に判定できることが明らかとなった。従って、TGFβ3遺伝子の発現量そのものを測定する代わりに、TGFβ3遺伝子の発現調節領域とレポーター遺伝子とを含有するレポーターベクターを被験用MSCに導入し、レポーター遺伝子の発現量(レポーター活性)を測定することによっても、TGFβ3遺伝子の発現量を推量することができる。本発明は、このようなレポーターベクターよりなる、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカーをも提供するものである。
ここで「TGFβ3の発現調節領域」とは、TGFβ3の発現調節領域として知られている領域であれば、如何なる領域であっても用いることができる。具体的には、Genbank番号:AF107885に記載のヒトTGFβ3の発現調節領域が挙げられる。具体的には、TGFβシグナル伝達を担う転写因子であるsmadの結合部位を2箇所含む発現調節領域が挙げられる。さらに具体的には、配列番号:32に記載の塩基配列を含有する発現調節領域が挙げられる。また、当該配列番号:32に記載の塩基配列と同様に発現調節領域として機能するものであれば、当該配列に対して1または複数個の塩基の置換、欠失および/または付加された配列であっても使用することができる。
前記で「レポーター遺伝子」とは、レポーター遺伝子として公知の如何なる遺伝子であっても用いることができ、具体的にはルシフェラーゼ、GFP、CAT、ALP、βGalなどの遺伝子が挙げられる。これらレポーター遺伝子を組み込んだレポーターベクターが種々市販されており、例えばPGV-Bベクター(東洋インキ社)、MultiColor-Luc(登録商標)pSLG-test Vector(東洋インキ社)、pCAT(R)3-Basic Vector(プロメガ社)などを利用することができる。
TGFβ3遺伝子のエンハンサー領域を利用する場合に用いる外来プロモーターとしては、例えばSV40、βグロビン、チミジンキナーゼ等のプロモーターが例示される。既にこのようなプロモーターと前記レポーター遺伝子とが組みこまれたレポーターベクター(プロモーターベクター)も市販されており(例えばプロメガ社 pGL3-Promoter DNAベクター)、これらも好適に使用される。
(4-2)間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定
本発明は、前述したレポーターベクターよりなるマーカーを利用した、MSCの軟骨細胞分化能の測定方法を提供する。
具体的には、本発明の測定方法は、軟骨障害の患者から採取・培養し24時間程度軟骨分化誘導を行った被験用MSCにおけるレポーター遺伝子の発現量を測定することにより、被験用MSCが軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断するものである。本発明の測定方法は、移植に用いるMSCの品質評価において有効に用いられる。
本発明の測定方法は、次の(a)、(b)及び(c)の工程を含むものである:
(a) 被験用MSCに本発明のレポーターベクターよりなるマーカーを導入する工程、
(b) 各マーカーが含有するレポーター遺伝子の発現量を測定する工程、
(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、MSCが軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程。
ここで、被験用MSCに本発明のレポーターベクターを導入する方法としては、公知の手法、例えばリポフェクチン法、リン酸カルシウム法、DEAE デキストラン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法などが例示される。当該レポーターベクターは、患者から採取したMSCに対して、TGFβ3による分化誘導を行う前に導入しても良く、また24時間程度分化誘導を行った後に導入しても良い。好ましくは分化誘導を行った後に導入する。
レポーター遺伝子導入後、一定時間後に、レポーター遺伝子の発現量を測定する。例えばレポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子の場合、ルシフェラーゼ活性を測定することによってレポーター遺伝子の発現量を判定する。当該ルシフェラーゼ活性は、例えばPicaGene Dual SeaPansy system(東洋インキ)を用いて発光させ、発光量をルミノメーターで検出することにより、測定することができる。
MSCの軟骨細胞分化能の測定(判定)は、被験用MSCにおけるレポーター遺伝子の発現量(例えばルシフェラーゼ活性)を、軟骨細胞への分化能を有さないMSC(ネガティブコントロール)や初代培養軟骨細胞(ポジティブコントロール)における当該レポーター遺伝子の発現量と比較し、両者の違いを判定することなどによって行うことができる。
具体的には、患者から採取・培養し、24時間程度軟骨分化誘導を行った被験用MSCにおけるレポーター遺伝子の発現量を測定することにより行われる。被験用MSCが軟骨細胞への分化能を有すると判断されるためには、最低限、当該MSCにおけるレポーター遺伝子の発現量が、軟骨細胞への分化能を有さないMSC(例えば実施例におけるAOクローン)における発現量よりも多いことが必要である。
より具体的には、例えば、被験用MSCに、TGFβ3のプロモーター領域を挿入したホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子と、SV40プロモーター領域を挿入したウミシイタケルシフェラーゼレポーターベクターを導入し、24時間後、そのMSCにおけるレポーター活性を測定する。ホタルルシフェラーゼ活性とウミシイタケルシフェラーゼ活性の比を、被験用MSCにおける相対的TGFβ3プロモーター活性とする。別途、軟骨細胞への分化能を有さないAOクローンに上記と同じレポーター遺伝子を導入し、24時間後、そのAOクローンにおけるレポーター活性を測定し、AOクローンにおける相対的TGFβ3プロモーター活性を測定する。被験用MSCにおけるレポーター活性が、AOクローンにおけるそれに比して、2倍以上であれば、移植に適したMSCと判定する。あるいは、同様に測定した、初代培養軟骨細胞における相対的TGFβ3プロモーター活性と比較して、同等以上である場合に、移植に適したMSCと判定する。
以上のように、本発明のレポーターベクターを用いたMSCの軟骨細胞分化能の測定は、従来法(最終分化形態を判定することでその細胞の分化能を確認する手法)に比して、少量の細胞で、早期に、かつ簡便に、移植に用いるMSCの品質評価を行うことができる。またRNAやタンパク等を調製する手間も無く、レポーターベクターを導入するだけで測定可能であるという長所も有する。
なお、本発明のマーカーを用いた評価により、移植可能、すなわち軟骨細胞分化能を有すると判定されたMSCは、未分化なまま患者に移植する(戻す)こともできれば、軟骨への分化途中、または分化させた後に、患者に移植する(戻す)ことも可能である。
(4-3)間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定キット
本発明は、本発明のレポーターベクターよりなる分化マーカーを成分として含有する、MSCの軟骨細胞への分化能測定用キットを提供する。当該キットは、MSCの軟骨細胞分化能を測定するために有効に用いられる。
前記キットは、前記本発明のレポーターベクターのみからなるキットであっても、また他の成分とを含むキットであっても良い。ここで他の成分としては、TGFβ3、デキサメタゾン、セレン酸、アスコルビン酸、インスリン、トランスフェリン、プロリン、BSA、ピルビン酸ナトリウム、胎牛血清などを挙げることができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
MSCの軟骨分化誘導初期に変化する遺伝子の検索
MSCの分化誘導初期に変化する遺伝子群には分化を特定方向に決定し、維持する特異的遺伝子が含まれている可能性がある。MSC初代培養細胞はヘテロな細胞集団であることから、分化能の異なる不死化MSCクローン、すなわち軟骨分化能を持つクローンと持たないクローンを調製し、これ用いて解析を行った。
1.実験方法
1)試料
BIOWHITTAKER社より購入したヒトMSC(Mesenchymal stem cells)に対して、ヒトパピローマウイルスE6,E7(K. Munger, M. Scheffner, J.M. Huibregtse and P.M. Howley , Interactions of HPV E6 and E7 oncoproteins with tumour suppressor gene products. Cancer Surv., 12 (1992), pp. 197-217.)及びヒトTERT遺伝子(A.G. Bodnar, M. Ouellette, M. Frolkis, S.E. Holt, C.P. Chiu, G.B. Morin, C.B. Harley, J.W. Shay, S. Lichtsteiner and W.E. Wright , Extension of life-span by introduction of telomerase into normal human cells. Science 279 (1998), pp. 349-352.)を導入し、薬剤選抜(G418 100μg/ml、またはhygromycin B 50μg/ml)により不死化した親細胞株を取得した(Biochem Biophys Res Commun. 295(2):354-61,2002)。クローニングリング法を用い、親細胞株から100クローンを樹立した。これらのクローン(hBM01E6E7hT clone)については、それぞれ軟骨、骨、脂肪の3方向への分化能が異なることを、常法(Science 284: 143-7, 1999)に従い確認した。以下の解析には、軟骨、骨、脂肪の3方向に分化誘導可能な不死化MSCであるAOCクローン(クローン17とクローン51)と骨、脂肪の2方向のみ分化可能であるAOクローン(クローン9とクローン14)を用いた。
2)培養条件
AOCクローン2株およびAOクローン2株について、以下の(1)〜(3)の3種類の条件で培養を行い、24時間後にトータルRNAを抽出した。
(1)2×105個の細胞を60mm培養皿に播種し通常の培地(DMEM+10%FBS)にて平板培養(単層培養)、TGFβ3の添加なし
(2)三次元培養、TGFβ3の添加なし
(3)三次元培養、TGFβ3(10ng/mL)の添加あり
三次元培養は平板培養と比べ、より生体内に近い環境を保つことの可能な培養方法である。当該三次元培養は以下の通りに実施した。すなわち、2×105個の細胞に0.5mLの、TGFβ3の添加無しもしくは有りの、軟骨分化誘導培地[DMEM +high glucose (4.5%), Dexamethasone(0.1μM) ,Ascorbic acid(0.17mM), Insulin(6.25μg/ml), Linoleic acid (5.33μg/ml), Proline(0.35mM), Selenous acid(6.25ng/ml), Sodium pyruvate(1mM), Transferrin (6.25mg/ml), BSA (1.25mg/ml)]を添加した。15mLの遠心管内で懸濁した後、1200rpmで5分間遠心し、遠心管を試験管立てに立てたまま37℃、CO2 5%の培養槽内で静置した。
3)RNA抽出及びマイクロアレイ解析
上記(1)〜(3)の試料を細胞播種または軟骨分化誘導開始から24時間後に、RNeasy clean up kit(Qiagen社)を用いてトータルRNAを抽出した。
マイクロアレイ解析はAffymetrix社GeneChip Human Genome U133Aを用いて行った。上記の試料より抽出したtotal RNA 各10μgから作製したcDNAをもとにラベル化cRNAを調製し、GeneChipアレイとハイブリダイズした。蛍光染色後、GeneChipアレイの染色像をスキャナーで読み込み、Microarray Suite version 5.0(Affymetrix社製)で解析した。こうして各試料の遺伝子発現量(Signal)と発現の有無(Detection)のデータを得た。
2試料間での遺伝子発現の比較についても、Microarray Suite version 5.0で解析した。2試料間での遺伝子発現の増減(Change)および発現変動倍率(Signal Log Ratio)のデータは発現変動遺伝子の選抜に利用した。
2.結果
1)軟骨分化誘導により2倍以上発現変動した遺伝子の選抜
AOCクローン2株、AOクローン2株のそれぞれについて、(1)軟骨分化誘導(三次元培養、TGFβ3添加)と三次元培養のみ(TGFβ3添加なし)の遺伝子発現の比較解析と、(2)軟骨分化誘導(三次元培養、TGFβ3添加)と平板培養(単層培養、TGFβ3添加なし)の遺伝子発現の比較解析を、Microarray Suite version 5.0によって解析した。2倍以上発現変動(増加、減少)遺伝子として、GeneChipプローブセットのうち、Signal Log Ratioが1以上でChangeがI(2倍以上増加)、あるいはSignal Log Ratioが-1以下でChangeがD(2倍以上減少)に該当するプローブセットを選抜した。さらにAOCクローン間、AOクローン間で共通に2倍以上発現増加、減少したプローブセットを選抜し、これを軟骨分化誘導によって2倍以上発現変動したプローブセットとした。このプローブセットの数を、まとめて表1に示す。
Figure 2008069122
各クローンで2倍以上発現変動したプローブセット(計641)の遺伝子発現量(Signal)のデータを用いて、Spotfire DecisionSite(Spotfire社)の階層型クラスタリングで分析した。すなわちプローブセットごとにSignalデータをZ-scoreに変換した後、Clustering method:UPGMA、Similarity measure:Correlationの条件で分析した。その結果、AOCクローン2株間、AOクローン2株間で、それぞれ類似した発現変動パターンを示した。
2)AOCクローンの軟骨分化誘導時のみに発現変動する遺伝子の選抜
AOCクローン2株で共通に2倍以上発現変動したプローブセットは66(増加39、減少27)あった。この中でいずれかのAOクローンで2倍以上発現変動したプローブセットを除くと、変動プローブセットは6(増加4、減少2)であった。
さらに上記以外の方法で、AOCクローンの軟骨分化誘導時のみで発現増加または減少した遺伝子を追加選抜した。発現増加遺伝子として、2つのAOCクローンの軟骨分化誘導の試料のみで発現しており(DetectionがPresent)、AOCクローンの他の試料、およびAOクローンの全試料での発現がない(DetectionがAbsent)プローブセットを選抜し、7プローブセットを得た。また発現減少遺伝子として、2つのAOCクローンの軟骨分化誘導の試料のみで発現が無く(DetectionがAbsent)、AOCクローンの他の試料、およびAOクローンの全試料で発現している(DetectionがPresent)プローブセットを選抜し、15プローブセットを得た。
以上のようにして、軟骨分化誘導時(三次元培養、TGFβ3処理)にAOCクローン2株で共通に発現増加し、AOクローン2株では発現増加していない遺伝子として最終的に10遺伝子を得た。またAOCクローンで共通に発現減少し、AOクローン2株で発現減少していない遺伝子として最終的に17遺伝子を得た。
RT-PCRによる遺伝子発現の確認
RT-PCRにより、前記マイクロアレイで抽出された遺伝子の発現結果を確認した。すなわち、AOCクローン2株、AOクローン2株においてマイクロアレイで用いたRNAを逆転写しcDNAを作製して確認を行った。具体的には、マイクロアレイで発現増加遺伝子として抽出されたCOMP遺伝子、TGFβ3遺伝子、DAPK3遺伝子およびKCNG1遺伝子を選択して、RT-PCRによる遺伝子発現の確認を行った。コントロールとしてBACT遺伝子を用いた。
各遺伝子の正式名称、GenBank Accession number、増幅される遺伝子の長さ、および用いたプライマー配列を以下に列挙する。
COMP:Cartilage oligomeric matrix protein(GenBank accession numbe:NM_000095, 314bp)
(sense; 5'-caggacgactttgatgcaga-3'(配列番号:3)、antisense;5'-aagctggagctgtcctggta-3'(配列番号:4))
DAPK:death-associated protein kinase 3 (GenBank accession number:NM_001348, 448bp)
(sense; 5'-catcctggagctggtctct-3'(配列番号:5)、antisense;5'-gtactcctcgtcgaagtcgt-3'(配列番号:6))
KCNG1:potassium voltage-gated channel, subfamily G, member 1 (GenBank accession number: AK128721, 522bp)
(sense; 5'-gcaacagctacctggacaa-3'(配列番号:7)、antisense;5'-cacttccgaacaagatgtcact-3'(配列番号:8))
TGFβ3:Transforming growth factor beta 3(GenBank accession number: J03241、678bp)
(sense:5'-acccaggaaaacaccgagtc-3'(配列番号:9);antisense: 5'- cacacagcagttctcctccaag-3'(配列番号:10))
BACT:beta actin (GenBank accession number NM_001101、218bp)
(sense: 5'- aagagaggcatcctcaccct-3'(配列番号:11)、antisense: 5'-tacatggctggggtgttgaa-3'(配列番号:12))
cDNA合成反応は、常法に従い実施した。すなわち、Random hexamerとdNTPを加え65℃で5分おき、氷上にて冷やした後に逆転写酵素(Superscript II)を加えて25℃で5分、40℃で50分、70℃で15分反応させた。PCR反応は、上記で合成したcDNAを用い、まずdenatureを95℃で5分行った後、「denature 95℃1分、annealing 58℃1分、extension 72℃1分」を30サイクル行い、最後に72℃で7分行った。遺伝子産物をアガロース電気泳動し、可視化した。
結果を図1に示す。軟骨分化誘導可能なAOCクローンを3次元培養し、TGFβ3で分化誘導した際に、調べたいずれの遺伝子についても発現増加が認められた。一方、軟骨分化誘導不可能なAOクローンに対して同様の処理(3次元培養、TGFβ3処理)を施しても、これらの遺伝子の発現増加は認められなかった。以上の結果より、これらCOMP遺伝子、TGFβ3遺伝子、DAPK3遺伝子およびKCNG1遺伝子は、軟骨細胞への分化誘導初期(誘導24時間後)に特異的に発現する遺伝子であること、すなわちMSCから軟骨細胞への分化のマーカーとなり得ることが明らかとなった。このうち遺伝子発現の変動が顕著であったTGFβ3に着目して、以下の解析を継続した。
TGFβ3遺伝子発現量の定量評価による比較
定量的RT-PCRにより、各クローンにおけるTGFβ3遺伝子の発現量を比較した。
1.実験方法
1)細胞
分化能の異なる不死化MSCクローン(hBM01E6E7hT clone)のうち軟骨、骨、脂肪の3方向に分化誘導可能な不死化MSCであるAOCクローン4株と骨、脂肪の2方向のみ分化可能であるAOクローン2株、及び初代培養MSC(hBM49)を用いた。
2)試料の調製
AOCクローン4株、AOクローン2株、初代培養MSC(hBM49:ドナー由来MSC、京都大学医学部の倫理委員会の承認受領済)について以下の2種類の条件で培養した。
1.単層培養、TGFβ3添加なし:2×105個の細胞を60mm培養皿に播種し、通常の培地(DMEM+10%FBS)にて平板培養した(分化誘導なし)。
2.三次元培養:TGFβ3(10ng/mL)添加あり:実施例1記載の方法で三次元培養を行い、TGFβ3を添加した(軟骨分化誘導)。
3)RNA抽出とRT反応
上記の細胞を細胞播種または軟骨分化誘導開始から24時間後にRNeasy clean up kit(Qiagen社)を用いてRNA抽出した。cDNAの作製は実施例2と同様に行った。
4)定量的RT-PCR
SYBR Green Mastermix(Applied Biosystems社)を用い、7300 real time PCR system(Applied Biosystems社)にて実施した。PCRプライマーは、以下のものを用い、「95℃15秒、58℃30秒、72℃1分」を40サイクル増幅した。
TGFβ3(sense:5'-acccaggaaaacaccgagtc-3'(配列番号:13);antisense:5'-cacacagcagttctcctccaag-3'(配列番号:14))
BACT(sense:5'-aagagaggcatcctcaccct-3'(配列番号:15);antisense:5'-tacatggctggggtgttgaa-3'(配列番号:16))
結果はTGFβ3発現量をBACT発現量で除することで補正した後、軟骨初代培養におけるTGFβ3の発現補正値を1として計算し、相対発現量をグラフ表示した。
2.結果
結果を図2に示す。軟骨分化誘導が不可能なクローン(AOクローン)では軟骨分化誘導処理を行ってもTGFβ3の発現が認められなかったが、軟骨分化誘導可能なクローン(AOCクローン)では、分化誘導を行うことにより初代培養軟骨細胞より高いレベルのTGFβ3の発現が認められた。以上の結果より、TGFβ3は、MSCから軟骨細胞への分化誘導初期に発現する分化マーカーとして有効であることが示された。
TGFβ3遺伝子発現制御のautocrine機構の検討
軟骨細胞への分化誘導初期に発現するTGFβ3遺伝子が、autocrineに発現制御を受けているか否かの検討を行った。
1.実験方法
1)細胞
AOCクローンおよびAOクローンを1株ずつ用いた。
2)培養方法
以下の8種類の条件で24時間培養し、mRNAを抽出した。なおSB-431542 (TOCRIS社)は、TGF beta receptor type1のリン酸化阻害剤であり、TGFβ3の作用を遮断する拮抗剤である。
1.単層培養:2×105個の細胞を60mm培養皿に播種し通常の培地(DMEM+10%FBS)にて平板培養した。
2.単層培養にSB-431542を1マイクロモル添加。
3.単層培養にTGFβ3を10ナノグラム/ミリリットル添加。
4.単層培養にTGFβ3を10ナノグラム/ミリリットルとSB-431542を1マイクロモル添加。
5.三次元培養: 2×105個の細胞をTGFβ3以外の軟骨誘導培地に懸濁し、15ミリリットルの遠心管を用いて1200rpmにて5分遠心し静置した。
6.三次元培養にSB-431542を1マイクロモル添加。
7.三次元培養にTGFβ3を10ナノグラム/ミリリットル添加。
8.三次元培養にTGFβ3を10ナノグラム/ミリリットルとSB-431542を1マイクロモル添加。
3)RNA抽出
上記の試料を細胞播種または軟骨分化誘導開始から24時間後に、RNeasy clean up kit(Qiagen社)を用いてRNA抽出した。cDNAの合成、PCRは前記と同様にして行った。
2.結果
結果を図3に示す。軟骨分化誘導が可能なクローン(AOC)では、単層培養、3次元培養のいずれにおいても、軟骨分化誘導(TGFβ3処理)によってTGFβ3の明らかな発現誘導が認められた。この発現誘導は、TGF beta receptor type1のリン酸化阻害剤(SB-431542)により減弱したことから、TGFβ3はautocrineにより発現制御されていることが示された。また、この現象は軟骨誘導不可能なクローン(AO)では認められなかったことから、TGFβ3のautocrine発現誘導が軟骨分化誘導に重要であることが示唆された。
MSC初代培養細胞の軟骨分化誘導におけるTGFβ3の発現解析
MSC初代培養細胞の軟骨分化誘導により、TGFβ3が発現するか否かを検討した。
1.実験方法
1)細胞
継代3代目のMSC初代培養細胞(ドナー由来MSC、京都大学医学部の倫理委員会の承認受領済)2株(huBM43,huBM49)を用いた。
2)細胞培養とRNA調製、定量的PCR
上記の細胞を、細胞播種またはTGFβ3による軟骨分化誘導開始から24時間後にRNeasy clean up kit(Qiagen社)を用いてRNA抽出した。cDNAの作製、定量的PCRは実施例3と同様に実施した。
2.結果
huBM43の結果を図4及び図5に、またhuBM49の結果を図6および図7に、それぞれ示す。MSC初代培養細胞においても、軟骨細胞への分化誘導初期に、不死化クローンと同様のTGFβ3の発現誘導と阻害剤による発現の低下が認められた。このことから、クローン化MSC(AOC)で認められたTGFβ3の autocrineによる発現誘導は、初代培養細胞においても認められる現象であることが確認された。
TGFβ3遺伝子発現とGAG産生量との相関
軟骨分化誘導時のTGFβ3の発現とGAGの産生量の相関を比較した。
1.実験方法
1)細胞
AOCクローン9株およびAOクローン7株を用いた。
2)細胞培養とRNA調製、定量的PCR
上記の細胞を、細胞播種または軟骨分化誘導開始から24時間後にRNeasy clean up kit(Qiagen社)を用いてRNA抽出した。cDNAの作製、定量的PCRは実施例3と同様に実施した。
3)軟骨基質評価法(glycosaminoglycan(GAG)定量)
TGFβ3による軟骨分化誘導を常法(Stem Cells 23:958-64, 2005)により2週間行い、GAG(Glycosaminoglycan)定量を行った。GAG定量(Stem Cells 23:958-64, 2005)は、Blyscan sulfated glycosaminoglycan assay kit(Biocolor社)を用いてプロトコール通りに行った。
2.結果
軟骨分化誘導可能な細胞株(AOCクローン)、および軟骨分化誘導不可能な細胞株(AOクローン)において軟骨分化誘導時のTGFβ3の発現とGAGの産生量の相関を比較した結果を図8に示す。TGFβ3の発現誘導と従来の軟骨分化評価法(GAG定量値)とが相関する結果となり、MSCの培養初期でのTGFβ3の発現誘導値を軟骨分化の指標とすることの妥当性が証明された。
初代培養骨髄間葉系幹細胞(MSC)を用い軟骨分化誘導した際のTGFβ3遺伝子発現とGAG産生量との相関
軟骨分化誘導時のTGFβ3の発現とGAGの産生量の相関を比較した。
1.実験方法
1)細胞
異なるドナー9名から調製した初代培養骨髄間葉系幹細胞(継代2代目のドナー由来MSC、京都大学医学部の倫理委員会の承認受領済)を用いた。
2)細胞培養とRNA調製、定量的PCR
上記の細胞を、細胞播種または軟骨分化誘導開始から24時間後にRNeasy clean up kit(Qiagen社)を用いてRNA抽出した。cDNAの作製は実施例3と同様に実施した。
定量的PCRは、Taqman Mastermix(Applied Biosystems社)を用い、7300 real time PCR system(Applied Biosystems社)にて実施した。PCRプライマーおよびTaqmanプローブは以下のものを用い、「95℃15秒、60℃1分」を40サイクル増幅した。
TGFβ3 Forward (5'-AAACATTCACGAGGTGATGGAA-3')(配列番号:29)
TGFβ3 Reverse (5'-GATCTCCACGGCCATGGT-3')(配列番号:30)
TGFβ3 Taqman (5'-TCAAATTCAAAGGCGTGGACAATGAGGA-3')(配列番号:31)
結果はTGFβ3発現量を、18S発現量(Pre-Developed Taqman Assay Reagents; Human 18S rRNA(Applied Biosystems社)を用いてTGFβ3と同様に測定)で除することで補正した後、軟骨初代培養におけるTGFβ3の発現補正値を1として計算し、相対発現量をグラフ表示した。
3)軟骨基質評価法(GAG定量)
TGFβ3による軟骨分化誘導を常法(Stem Cells 23:958-64, 2005)により2週間行い、GAG定量を行った。GAG定量は、実施例6と同様に実施した。
4)DNA量の測定
細胞内DNA量は、0.2% Triton X-100により培養細胞から抽出した抽出液を、ピコグリーン染色試薬(Invitrogen社)で染色し、PicoGreen dsDNA Quantitation Kit (Invitrogen社)により、SpectraMax プレートリーダー (Molecular Devices社)を用いた蛍光ELISA法により測定した。
5)有意差検定
TGFβ3発現量とGAG定量値の相関係数はスペアマンの順位相関を用いて求めた。また、有意差検定は、ピアソンの相関係数の検定法を用いて行った。
2.結果
初代培養MSCにおいて軟骨分化誘導時のTGFβ3の発現とGAGの産生量の相関を比較した結果を図9に示す。GAG/DNAとTGFβ3発現誘導の相関は0.715で、ピアソンの相関係数の検定を実施した場合、P値が0.046となり、有意差があると判定された。TGFβ3の発現誘導と従来の軟骨分化評価法(GAG定量値)とが相関する結果となり、MSCの培養初期でのTGFβ3の発現誘導値を軟骨分化の指標とすることの妥当性が確認された。
成熟軟骨細胞のTGFβ3処理による遺伝子発現解析
成熟軟骨細胞のTGFβ3処理による遺伝子発現解析を行った。
1.実験方法
p53KOマウス由来関節軟骨細胞株であり、関節軟骨としての性質を非常によく保持しているMMA2 (J Bone Miner Res 20(3), 377-89,2005)を、以下の3種類の条件で24時間培養後、QiagenのRNeasy clean up kitを用いてRNA抽出した。cDNAの合成は実施例2と同様にして行った。
(1)三次元培養: 2×105個の細胞をDMEM/F12に懸濁し15ミリリットルの遠心管で1200rpm 5分遠心し静置した。
(2)三次元培養にTGFβ3 10ナノグラム/ミリリットル添加
(3)三次元培養にTGFβ3 10ナノグラム/ミリリットルとSB-431542を1マイクロモル添加
また、同様の条件で2週間培養し、細胞塊の形態を観察した。
実施例2と同様の方法により、TGFβ3、Col2a1、Col9a1、Agc、PAI-1の各遺伝子についてPCRを実施して増幅した後、産物を電気泳動して可視化した。プライマーの由来となる遺伝子の正式名称、GenBank Accession number、増幅される遺伝子の長さ、および用いたプライマー配列を以下に列挙する。
TGFβ3:Transforming growth factor beta 3(GenBank accession number:NM_009368、504bp)
(sense:5'- tactatgccaacttctgctc-3'(配列番号:17);antisense: 5'- cactcgctatccgttctcta-3'(配列番号:18))
Col2a1:COLLAGEN, TYPE II, ALPHA-1(GenBank accession number: M65161、173bp)
(sense:5'- cacactggtaagtggggcaagaccg-3'(配列番号:19);antisense: 5'- ggattgtgttgtttcagggttcggg-3'(配列番号:20))
Col9a1:COLLAGEN, TYPE IX, ALPHA-1(GenBank accession number:D17511、448bp)
(sense:5'- gaccagcacatcaagcaggt-3'(配列番号:21);antisense: 5'- gcaagaggctggctcacagaa-3'(配列番号:22))
Agc:AGGRECAN 1(GenBank accession number:NM_007424、636bp)
(sense:5'-gtccctggtcagccccacttg -3'(配列番号:23);antisense: 5'-cactgacacacctcggaagca-3'(配列番号:24))
PAI-1:PLASMINOGEN ACTIVATOR INHIBITOR 1(GenBank accession number、193bp)
(sense:5'- tccagggcttcatgccccact-3'(配列番号:25);antisense: 5'- gaagtagagggcattcaccagca -3'(配列番号:26))
Bact: beta actin (GenBank accession number: X03672、218bp)
(sense:5'- aagagaggtatcctgaccct-3'(配列番号:27);antisense: 5'- tacatggctggggtgttgaa-3'(配列番号:28))
2.結果
1)RT-PCRの結果
結果を図10に示す。MMA2はTGFβ3を加えなくても、もともとTGFβ3遺伝子の発現が認められ、Col2a1, Col9a1,Agcなどの関節軟骨特異的遺伝子の発現を認めるが、TGFβ3を加えることで、これらの遺伝子の発現は亢進した。特にTGFβ3遺伝子の発現亢進が顕著であった。ここにSB-431642を加えるとこれらの遺伝子発現は低下した。これはTGF beta signalで特異的に制御される遺伝子(PAI-1)と同様の発現変動であった。
2)三次元培養の形態
約2週間の培養で、SB-431642を加えない条件では、TGFβ3添加・非添加に関わらず丸いpelletが観察されるが、SB-431642を加えた場合にはpelletを形成せずに形が崩れてしまった。SB-431642を加えた場合に認められた現象、すなわち関節軟骨特異的遺伝子発現の顕著な減弱と、軟骨塊の形態維持ができなくなったことは、内因性を含めたTGFβ3の作用が遮断されたことにより関節軟骨としての分化形質を維持できなくなったものと予想された。以上の結果より、成熟した関節軟骨でも関節軟骨としての分化形質維持のためにはTGFβ3の発現が必要であることが示された。また上記の結果より、TGFβ3の発現を指標として、移植直前のMSCの品質評価も行えることが示された。
ルシフェラーゼアッセイによるTGFβ3転写活性の測定
TGFβ3の発現調節にTGFβ3が関与しているかどうかを検討するため、ヒトTGFβ3遺伝子のプロモーター領域を用いたルシフェラーゼアッセイを行った。
1)ベクターの構築
ヒトTGFβ3発現調節領域の配列情報(Genbank番号:AF107885)に従い、各部分に該当するPCRプライマーを作成した。ドナー末梢血由来のヒトゲノムDNAをテンプレートにして、各PCRプライマーセットを用いて増幅した遺伝子断片を、PGV-Bベクター(東洋インキ社製)のマルチクローニングサイトにクローニングした。遺伝子配列および挿入方向は、シークエンシングにより確認した。構築したベクターは下記の通りである。なお、遺伝子導入効率の補正用として、pRL-TK(プロメガ社製)を用いた。
-843 to+118(配列番号:32):
TGFbシグナル伝達を担う転写因子であるsmadの結合部位を2箇所含む転写調節領域断片
-606 to+118(配列番号:32の第238位〜第961位):
smadの結合部位を1箇所含む転写調節領域断片
-432 to+118(配列番号:32の第412位〜第961位):
smadの結合部位を1箇所含む転写調節領域断片
-272 to+118(配列番号:32の第572位〜第961位):
smadの結合部位を1箇所含む転写調節領域断片
-239 to+118(配列番号:32の第605位〜第961位):
smadの結合部位を含まない転写調節領域断片
-38 to+118(配列番号:32の第806位〜第961位):
smadの結合部位およびTATA配列を含まない転写調節領域断片
2)ルシフェラーゼアッセイ
細胞としては、(1)骨、軟骨、脂肪に分化可能なヒト不死化間葉系幹細胞株(AOCクローン)、(2)骨、脂肪に分化可能なヒト不死化間葉系幹細胞株(AOクローン)、(3)ヒト間葉系幹細胞初代培養(MSC)、の3種類を用いた。各細胞を培養用プレートに5000 cells/cm2の密度で6穴プレートに播種した。24時間後、上記で作製したベクター(1μg/well)をLipofection LTX(Invitrogen社製)を用いて、遺伝子導入した。その際、リコンビナントTGFβ3(10ng/ml)とSB431542(1uM)も、必要に応じて加えた。
ルシフェラーゼアッセイは、遺伝子導入24時間後、PicaGene Dual SeaPansy system(東洋インキ)でLuminometer(STRATEC Biomedical Systems)を用いて行った。結果は、空ベクター(PGV-B)におけるルシフェラーゼ活性を1とし、相対値として表した。
3)結果
結果を図11に示す。TGFβ3発現調節領域の各断片を比較した結果、転写開始点より-614bp上流のsmad 結合領域を含んだベクターが高いルシフェラーゼ活性を示し、同部位が遺伝子転写に重要な領域であることが明らかになった(図中(b))。また、これは軟骨に分化が可能な細胞(AOCクローン、初代培養MSC)で強い活性を示し(図中(d)、(h))、軟骨に分化が不可能な細胞(AOクローン)では転写活性が低い(図中(f))ことから、細胞自立的にもこのsmad 結合領域を含んだ遺伝子断片に対する反応性が認められた。さらにsmad 結合領域を2箇所含む遺伝子断片ではTGFβ3の添加により活性が上昇し、阻害剤SB431542の添加で低下したが、smad結合領域を1箇所しか含まない場合にはこの上昇、低下が少なく、この2箇所のsmad結合領域がTGFβ3による転写活性上昇に必須であることが明らかとなった。以上により、(1)TGFβ3遺伝子の転写活性は、TGFβ3シグナルそのものに依存していること、また(2)上記の2箇所のsmad結合領域を含むTGFβ3発現調節領域を有するレポーターベクターを用いることにより、TGFβ3の転写活性(発現量)を測定できることが明らかとなった。
TGFβ3の発現を指標とした移植用細胞の品質評価(1)
軟骨欠損の患者より常法によりMSCを採取し、プラスチック培養皿の上で平板培養する。移植に用いる予定の細胞のうち2×105を分離し、これを用いて以下の軟骨分化誘導能の判定を行う。
分離した細胞にTGFβ3(10ng/ml)を添加した軟骨分化誘導培地を加え、1200rpmで5分間遠心し、試験管立てに立てて37℃,CO2 5%の培養槽内で24時間静置する。RNAを抽出し、前記実施例と同様の定量的RT-PCR法によりTGFβ3遺伝子の発現量を解析する。βアクチン遺伝子(補正用遺伝子)の発現量に対するTGFβ3遺伝子の発現量の比(TGFβ3遺伝子発現量/β-actin遺伝子発現量;以下補正値)が、初代培養軟骨細胞における補正値を1とした場合に 0.1以上を示した細胞を、軟骨分化能を有する細胞と判定する。
前記の細胞(採取したMSC)をTGFβ3(10ng/ml)添加軟骨分化誘導培地中、平板培養にてさらに3週間程度培養し、必要に応じて移植3日前頃に前記と同じ判定を行い、陽性となった細胞1000万個程度を、軟骨欠損の患者に移植する。
TGFβ3の発現を指標とした移植用細胞の品質評価(2)
軟骨欠損の患者より常法によりMSCを採取し、プラスチック培養皿の上で平板培養する。移植に用いる予定の細胞のうち40000個を分離し、これを用いて以下の軟骨分化誘導能の判定を行う。
分離した細胞を6穴プレートに播種(5000 cells/cm2)し、TGFβ3(10ng/ml)を添加した軟骨分化誘導培地を加える。実施例9で作製したTGFβ3の発現調節領域(-843〜+118)とルシフェラーゼ遺伝子とを含むレポーターベクター、および、SV40プロモーター領域を挿入したウミシイタケルシフェラーゼレポーターベクターを導入し、24時間後、そのMSCにおけるレポーター活性を測定する。ホタルルシフェラーゼ活性とウミシイタケルシフェラーゼ活性の比を、被験用MSCにおける相対的TGFβ3プロモーター活性とする。別途、軟骨細胞への分化能を有さないAOクローンに上記と同じレポーター遺伝子を導入し、24時間後、そのAOクローンにおけるレポーター活性を測定し、AOクローンにおける相対的TGFβ3プロモーター活性を測定する。被験用MSCにおけるレポーター活性が、AOクローンにおけるそれに比して2倍以上であれば、移植に適したMSCと判定する。あるいは、同様に測定した、初代培養軟骨細胞における相対的TGFβ3プロモーター活性と比較して、同等以上である場合に、軟骨分化能を有する細胞と判定する。
前記の細胞(採取したMSC)をTGFβ3(10ng/ml)添加軟骨分化誘導培地中、平板培養にてさらに3週間程度培養し、必要に応じて移植3日前頃に前記と同じ判定を行い、陽性となった細胞1000万個程度を、軟骨欠損の患者に移植する。
本発明により、ヒトMSCの軟骨細胞への分化マーカーが提供される。本発明の分化マーカーであるTGFβ3は、軟骨へ分化誘導する細胞が特異的かつ早期に発現する遺伝子であるため、TGFβ3の発現量を調べることにより、細胞移植治療に用いることの可能なMSCを早期に判定することができる。さらに本発明のTGFβ3の発現量を調べることにより、移植直前のMSC細胞の品質評価も行うことができる。
図1は、軟骨分化誘導可能なAOCクローン、および軟骨分化誘導不可能なAOクローンにおける各遺伝子(COMP, TGFβ3, DAPK3, KCNG)の発現を、RT-PCRで解析した結果を示す図である。3次元培養(図中、3D culture:+)又は単層培養(図中、3D culture:−)で、TGFβ3の添加有り(図中、TGFB3:+)又は無し(図中、TGFB3:−)の条件で行った。 図2は、軟骨分化誘導可能なAOCクローン、および軟骨分化誘導不可能なAOクローンにおけるTGFβ3の発現を、定量的RT-PCRで解析した結果を示す図である。初代培養軟骨細胞でのTGFβ3の値を1とした相対値で示した。 単層培養(図中左の棒、分化誘導なし)もしくは3次元培養(図中右の棒、軟骨分化誘導時)の条件で、培養を行った。hBM49は、比較対照としている初代培養MSCである。 図3は、軟骨分化誘導可能なAOCクローン、および軟骨分化誘導不可能なAOクローンにおけるTGFβ3の発現を、RT-PCRで解析した結果を示す図である。単層培養(図中、3D culture:-)、もしくは3次元培養(図中、3D culture:+)で、TGFβ3の添加有り(図中、TGFbeta3:+)又は無し(図中、TGFbeta3:−)、TGF beta receptor type(I)リン酸化阻害剤の添加有り(図中、SB431542:+)又は無し(図中、SB431542:−)の条件で、培養を行った。 図4は、MSC初代培養細胞(huBM43)におけるTGFβ3の発現を、RT-PCRで解析した結果を示す図である。単層培養(図中、monolayer)もしくは3次元培養(図中、3D)で、TGFβ3の添加有り(図中、+TGFb3)又は無し(図中、記載無し)、TGF beta receptor type1 リン酸化阻害剤の添加有り(図中、SB431542 1μM)又は無し(図中、DMSO)の条件で、培養を行った。 図5は、MSC初代培養細胞(huBM43)におけるTGFβ3の発現を、定量的RT-PCRで解析した結果を示す図である。単層培養(図中、monolayer)もしくは3次元培養(図中、3D)で、TGFβ3の添加有り(図中、+TGFb3)又は無し(図中、記載無し)、TGF beta receptor type1 リン酸化阻害剤の添加有り(図中、SB431542 1μM)又は無し(図中、DMSO)の条件で、培養を行った。KS730Cは、比較対照として用いた軟骨細胞である。 図6は、MSC初代培養細胞(huBM49)におけるTGFβ3の発現を、RT-PCRで解析した結果を示す図である。単層培養(図中、monolayer)もしくは3次元培養(図中、3D)で、TGFβ3の添加有り(図中、+TGFb3)又は無し(図中、記載無し)、TGF beta receptor type1 リン酸化阻害剤の添加有り(図中、SB431542 1μM)又は無し(図中、DMSO)の条件で、培養を行った。 図7は、MSC初代培養細胞(huBM49)におけるTGFβ3の発現を、定量的RT-PCRで解析した結果を示す図である。単層培養(図中、monolayer)もしくは3次元培養(図中、3D)で、TGFβ3の添加有り(図中、+TGFb3)又は無し(図中、記載無し)、TGF beta receptor type1 リン酸化阻害剤の添加有り(図中、SB431542 1μM)又は無し(図中、DMSO)の条件で、培養を行った。KS730Cは、比較対照として用いた軟骨細胞である。 図8は、軟骨分化誘導可能な細胞株、および軟骨分化誘導不可能な細胞株において軟骨分化誘導時のTGFβ3の発現とGAGの産生量の相関を比較したグラフである。TGFβ3の発現値は初代培養軟骨細胞でのTGFβ3の値を1とした相対値で示し、GAG産生量はDNA量で補正した相対値である。 図9は、ドナー由来のMSC初代培養細胞における、軟骨分化誘導時のTGFβ3の発現とGAGの産生量の相関を比較したグラフである。TGFβ3の発現値は軟骨初代培養におけるTGFβ3の値を1とした相対値で示し、GAG産生量はDNA量で補正した相対値である。 図10は、p53KOマウス由来関節軟骨細胞株であるMMA2における各遺伝子(Tgfb3,Col2a1,Col9a1,Agc,PAI-1)の発現を、RT-PCRで解析した結果を示す図である。3次元培養でTGFβ3の添加有り(図中、TGF beta3)、TGF beta receptor type1 リン酸化阻害剤の添加有り(図中、SB431542 1μM)、又は無し(図中、DMSO)、の条件で、培養を行った。 図11は、TGFβ3の発現調節領域とルシフェラーゼ遺伝子とを含むレポーターベクターを用いてルシフェラーゼアッセイを行った結果を示すグラフである。図中(a),(c),(e),(g)は各レポーターベクターの構築図を、また(b),(d),(f),(h)はルシフェラーゼアッセイの結果を示す。図(a)および(b)はTGFβ3のresponsive elementをAOCクローンを用いて調べた結果を示す。また図(c)〜(h)は、TGFβ3または阻害剤(SB431542)を添加した場合の各細胞(図(c)及び(d):AOCクローン、(e)及び(f):AOクローン、(g)及び(h):初代培養MSC)におけるルシフェラーゼ活性を調べた結果を示す。図中「SBE」はTGFβシグナル伝達を担う転写因子であるsmadの結合部位を示す。「+TGFb3」はTGFβ3を添加した場合を、また「+SB431542」はTGFβ3およびSB431542を添加した場合を示す。ルシフェラーゼアッセイの結果は、TGFβ3発現調節領域を含まない空ベクター(PGV-Bベクター)におけるルシフェラーゼ活性を1とした場合の相対値で示した。
配列番号:3〜配列番号:31に記載の塩基配列はPCRプライマーである。

Claims (27)

  1. TGFβ3(transforming growth factor-beta 3)遺伝子の塩基配列における、連続する少なくとも18塩基からなるポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー。
  2. TGFβ3遺伝子が配列番号:1に記載の塩基配列からなる遺伝子である、請求項1記載の分化マーカー。
  3. プライマーまたはプローブとして使用される、請求項1または2記載の分化マーカー。
  4. 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定方法:
    (a) 被験用の間葉系幹細胞から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと、請求項1〜3いずれか記載の分化マーカーとを結合させる工程、
    (b) 各分化マーカーに結合した、間葉系幹細胞由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドの量を測定する工程、
    (c) 上記(b)の測定結果に基づいて、間葉系幹細胞が軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程。
  5. RT-PCR法により行われる、請求項4記載の測定方法。
  6. 移植に用いる間葉系幹細胞の品質評価のために行われる、請求項4または5記載の測定方法。
  7. 請求項1〜3いずれか記載の分化マーカーを成分として含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能測定用キット。
  8. TGFβ3に特異的に結合する抗体を含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー。
  9. TGFβ3が配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項8記載の分化マーカー。
  10. 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定方法:
    (a) 被験用の間葉系幹細胞由来のタンパク質と請求項8または9記載の分化マーカーとを結合させる工程、
    (b) 各分化マーカーに結合した、間葉系幹細胞由来のタンパク質の量を測定する工程、
    (c) 上記(b)の測定結果に基づいて、間葉系幹細胞が軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程。
  11. ELISA法により行われる、請求項10記載の測定方法。
  12. 移植に用いる間葉系幹細胞の品質評価のために行われる、請求項10または11記載の測定方法。
  13. 請求項8または9記載の分化マーカーを成分として含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能測定用キット。
  14. TGFβ3の発現調節領域とレポーター遺伝子とを含有するベクターよりなる、間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー。
  15. TGFβ3の発現調節領域が配列番号:32に記載の塩基配列を含有する、請求項14記載の分化マーカー。
  16. レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である、請求項14または15記載の分化マーカー。
  17. 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能の測定方法:
    (a) 被験用の間葉系幹細胞に請求項14〜16いずれか記載の分化マーカーを導入する工程、
    (b) 各分化マーカーが含有するレポーター遺伝子の発現量を測定する工程、
    (c) 上記(b)の測定結果に基づいて、間葉系幹細胞が軟骨細胞への分化能を有するか否かを判断する工程。
  18. 移植に用いる間葉系幹細胞の品質評価のために行われる、請求項17記載の測定方法。
  19. 請求項14〜16いずれか記載の分化マーカーを成分として含有する、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能測定用キット。
  20. 間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化能を測定するための、TGFβ3遺伝子の塩基配列における、連続する少なくとも18塩基を含有するポリヌクレオチド及び/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドの使用。
  21. TGFβ3遺伝子が配列番号:1に記載の塩基配列からなる遺伝子である、請求項20記載の使用。
  22. 間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化能を測定するための、TGFβ3に特異的に結合する抗体の使用。
  23. TGFβ3が配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項22記載の使用。
  24. 間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化能を測定するための、TGFβ3の発現調節領域とレポーター遺伝子とを含有するベクターの使用。
  25. TGFβ3の発現調節領域が配列番号:32に記載の塩基配列を含有する、請求項24記載の使用。
  26. レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である、請求項24または25記載の使用。
  27. 間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化能を測定するための、請求項7、13または19記載のキットの使用。
JP2008548256A 2006-12-05 2007-11-30 間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー Pending JPWO2008069122A1 (ja)

Applications Claiming Priority (5)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2006328042 2006-12-05
JP2006328042 2006-12-05
JP2007193991 2007-07-26
JP2007193991 2007-07-26
PCT/JP2007/073160 WO2008069122A1 (ja) 2006-12-05 2007-11-30 間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JPWO2008069122A1 true JPWO2008069122A1 (ja) 2010-03-18

Family

ID=39492018

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2008548256A Pending JPWO2008069122A1 (ja) 2006-12-05 2007-11-30 間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー

Country Status (2)

Country Link
JP (1) JPWO2008069122A1 (ja)
WO (1) WO2008069122A1 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2014230493A (ja) * 2013-05-28 2014-12-11 三菱レイヨン株式会社 間葉系幹細胞からの分化状態を識別する遺伝子群及び分化状態の評価方法

Also Published As

Publication number Publication date
WO2008069122A1 (ja) 2008-06-12

Similar Documents

Publication Publication Date Title
AU2023202663A1 (en) Hydroxysteroid 17-beta dehydrogenase 13 (HSD17B13) variants and uses thereof
WO2015093557A1 (ja) 胃がんの責任因子としての新規融合遺伝子
JP2010539891A (ja) 心臓血管及び血栓性の危険性の決定のためのclec1bの使用
JPWO2008069122A1 (ja) 間葉系幹細胞の軟骨細胞分化マーカー
WO2011049439A1 (en) Method for selecting bone forming mesenchymal stem cells
KR101603633B1 (ko) EGF 또는 bFGF를 포함하는 배지에서 배양한 지방유래 줄기세포의 증식 및 치료능력 탐지 마커 및 이의 용도
KR101496745B1 (ko) 인간 암세포의 불사화에 관련되는 유전자 및 그 용도
WO2015194524A1 (ja) B前駆細胞性急性リンパ芽球性白血病新規キメラ遺伝子
JP2004065194A (ja) 脂肪細胞関連因子の分析方法
KR101777590B1 (ko) EGF 또는 bFGF를 포함하는 배지에서 배양한 지방유래 줄기세포의 증식 및 치료능력 탐지 마커 및 이의 용도
KR20170018538A (ko) 뇌암 환자의 생존 기간 예측용 키트와 생존 기간 예측을 위한 정보 제공 방법
KR102175792B1 (ko) 줄기세포의 증식능을 탐지하기 위한 마커 및 이를 이용한 줄기세포의 고효율 증식방법
KR101667001B1 (ko) 줄기세포 배양액에서 탐지 가능한 지방유래 줄기세포의 증식 및 치료능력 탐지용 마커 및 이의 용도
US20090142760A1 (en) Nucleic Acid Sequences Associated with Cell States
JP7237064B2 (ja) 単一免疫グロブリンインターロイキン-1受容体関連(sigirr)変異型及びその使用
JP2009537123A (ja) Adamts4遺伝子およびンパク質の多型の使用
JP2023064789A (ja) T細胞を評価する方法及びt細胞を評価するための組成物
WO2005117971A2 (en) Regulators of angiogenesis
CN106702003B (zh) Hsdl1在诊治骨肉瘤中的应用
KR101564329B1 (ko) 연골저형성증 또는 연골무형성증의 예측 또는 진단에 유용한 fgfr 군의 유전자 돌연변이
CN111278851A (zh) 溶质运载体家族14成员1(slc14a1)变体及其用途
JP2023064788A (ja) T細胞の評価方法及びt細胞評価用の組成物
KR20180088057A (ko) 혈관면역아세포성 t 세포 림프종 진단용 마커 및 이의 용도
JP2004173553A (ja) 心不全の疾患マーカー及びその利用
EP2302381A1 (en) Gene signature for replicative senescence in cell cultures