JPWO2008016084A1 - タンデムガスメタルアーク溶接方法、これに用いられる溶接用トーチおよび溶接装置 - Google Patents
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Abstract
Description
本願は、2006年8月2日に出願された特願2006−211093号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
タンデムGMA溶接は、2本の電極および溶接ワイヤを用い、同時に2つのアークを出して溶接する方法である。主な長所は溶接速度を速くできる点と、1パス当たりの溶着量を増大させることが可能である点とにある。
したがって、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、先行電極と後行電極とに適した異なる組成のシールドガスを供給することにより、溶け込みを減少させることなく、溶滴移行を安定にしてスパッタを減らすことができるタンデムガスメタルアーク溶接方法、これに用いられる溶接トーチ、および溶接装置を提供することを目的とする。
先行電極に供給する先行電極用シールドガスが、アルゴンガスと炭酸ガスの二種混合ガス、またはアルゴンガスと炭酸ガスと酸素ガスの三種混合ガスであり、
後行電極に供給する後行電極用シールドガスが、アルゴンガス単体、アルゴンガスと炭酸ガスとの二種混合ガス、アルゴンガスと酸素ガスとの二種混合ガス、またはアルゴンガスと炭酸ガスと酸素ガスとの三種混合ガスであり、
後行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度を、先行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度より低くすることを特徴とするタンデムガスメタルアーク溶接方法を提供する。
酸素ガスは、炭酸ガスのような溶け込みを深くする効果はないが、少量の添加では溶接品質およびスパッタ発生量への悪影響が少ないことから、先行電極用および後行電極用シールドガスへの添加することを妨げない。ただし添加量が多すぎると、スパッタの発生が増加するとともに、溶滴金属の凝固後に酸化物がスラグとしてビード表面に付着する。
したがって、先行電極のシールドガス中の酸素ガスの濃度は、0vol.%以上10vol.%以下が好ましく、5vol.%以下がより好ましい。
なお、先行電極用シールドガスにおける酸素濃度が低いほど、ビード表面のスラグが減少し、また溶接金属中に含まれる固溶酸素量が低下し、靱性が向上するため好ましい。
また、先行電極用シールドガス中の炭酸ガスの濃度が40vol.%以上になると、ワイヤ先端の溶滴に作用する反力が溶滴にかかる重力に対して過大となり、溶滴がワイヤ先端から離脱し難くなり、ワイヤ先端で溶滴が肥大化して溶融プールと接触してスパッタが増加する。これは、先行電極用シールドガス中の炭酸ガスの濃度が高く、電流電圧を調整しても溶滴がスプレー移行せずに短絡移行が混在した溶滴移行となったためであると考える。
なお、先行電極用シールドガスにおける効果と同様に、後行電極用シールドガスにおける酸素濃度が低いほど、ビード表面のスラグが減少し、また溶接金属中に含まれる固溶酸素量が低下し、靱性が向上するため好ましい。
上記タンデムガスメタルアーク溶接用トーチにおいては、前記保護カバーがシールドガスノズルを具備することが好ましい。
上記先行電極に供給するシールドガスと、上記後行電極に供給するシールドガスとを切替える装置を備えたことを特徴とするタンデムガスメタルアーク溶接装置を提供する。
炭酸ガスは、電位傾度が比較的高いガスであるため、アークが緊縮してワイヤ先端に集中し、アーク圧力によって溶融池が掘り下げられて溶け込みを深くする。タンデムGMA溶接の溶け込みに対しては、溶接時に先行し母材面を直接加熱する先行アークの影響が大きく、先行電極のシールドガス中の炭酸ガスの濃度によって溶け込みはほぼ決まると考えられる。
言い換えれば、先行電極用シールドガスの炭酸ガスの濃度が同一であれば、溶け込みは後行電極用シールドガス中の炭酸ガスの濃度にほとんど依存しないと考えられる。また、後行電極用シールドガス中の炭酸ガスの濃度を低くしてアルゴンガスリッチにすることにより、溶滴の離脱性が良くなり、後行電極によるスパッタ発生量が少なくなるため全体としてのスパッタ発生量を少なくすることができる。
また、溶接トーチに保護カバーを取り付け、さらにこの保護カバーにシールドガスノズルを取り付け、このシールドガスノズルからシールドガスを供給することにより、溶融池を大気から遮断することが可能となり、酸化や窒化およびブローホール等の溶接欠陥を低減することが可能となる。
また、実際の溶接施工では、溶接トーチの進行方向は適宜変更されるため、先行・後行電極が入れ替わる。本発明の溶接装置においては、溶接の進行方向の変更に合わせて、先行電極となる電極に先行電極用シールドガスを、後行電極となる電極に後行電極用シールドガスを供給するガス切替装置を設けた。これにより、溶接の進行方向の制約を受けることなく、先行・後行電極に同一ガス組成のシールドガスを用いる方法と同等の自由度を確保することが可能となる。
3:後行電極溶接電源 4:先行電極溶接ワイヤ供給装置
5:後行電極溶接ワイヤ供給装置 6:溶接トーチ
7:先行電極用シールドガス供給源 8:後行電極用シールドガス供給源
9,10:管 11:ノズル
12:先行電極 13:後行電極
14:先行電極用導入口 15:後行電極用導入口
16:先行流路 17:後行流路
19:仕切板 20:保護カバー
21:シールドガスノズル 22:ガス切替装置
A,B:溶接ワイヤ C:ワーク
図1において、符号1は、制御装置を示す。この制御装置1は、溶接電流値、溶接電圧値、および溶接ワイヤの送出速度等を制御する制御信号を、先行電極溶接電源2、後行電極溶接電源3、先行電極溶接ワイヤ供給装置4、および後行電極溶接ワイヤ供給装置5にそれぞれ送出し、これらの動作を個別に制御する。また溶接進行方向の変更に伴い、ガス切替え装置22へガス切り替えを制御する制御信号を送出する。
溶接ワイヤAおよびBには、JIS Z 3312に規定する軟鋼MAG溶接用ソリッドワイヤ全般(YGW11〜YGW19)が用いられる。
ガス切替え装置22は、制御装置1からの信号を受け、先行電極側に先行電極用シールドガスを、後行電極側に後行電極用シールドガスを供給するように、溶接方向に合わせて管9および管10へ適したシールドガスを切り替えて供給する。
この溶接トーチ6は、上記2種のシールドガスをワークCに向けて噴射する覆い状のノズル11と、このノズル11内に所定の間隔を配して溶接方向に沿って前後に並んで配置された先行電極12および後行電極13と、ノズル11内に先行電極用シールドガスおよび先行電極溶接ワイヤAを送給する先行電極用導入口14と、後行電極用シールドガスおよび後行電極溶接ワイヤBを送給する後行電極用導入口15とを具備している。
先行電極用シールドガスには、アルゴンガスと炭酸ガスとの二種混合ガスまたはアルゴンガスと炭酸ガスと酸素ガスとの三種混合ガスを用いる。
また先行電極用シールドガス中の酸素ガス濃度は、0vol.%以上10vol.%以下が好ましく、5vol.%以下がより好ましい。酸素ガス濃度が10vol.%を越えるとスパッタおよびスラグが増し、かつ継手の機械的性質が劣化する。
後行電極用シールドガス中の炭酸ガスの濃度は0vol.%以上37vol.%未満が好ましい。
後行電極用シールドガス中の酸素ガスの濃度は0vol.%以上10vol.%未満が好ましく、5vol.%以下がより好ましい。
なお本発明のタンデムガスメタルアーク溶接方法は、図2に示すトーチ形状以外にも、ノズルが電極ごとに独立しているタンデムGMA溶接トーチにも適用可能である。
図3に示される溶接トーチ6には、先行電極12と後行電極13との間であってノズル11のほぼ中央にこれら電極12および13を仕切る仕切板19が設けられている。この点で図3に示されているトーチ6は、図2にしめされるトーチと異なる。この仕切板19の材料には、耐火性および耐熱性のある樹脂等が使用される。
第3の例では、溶接トーチ6の後方に保護カバー20を取り付け、溶融池全体を大気からシールドするようにシールドガスを供給することにより、溶接金属の酸化および窒化、並びにブローホール等の溶接欠陥を防ぐことが可能になる。
このシールドガスノズル21に供給するシールドガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス、アルゴンガスとヘリウムガスとの二種混合ガス、アルゴンガスと炭酸ガスとの二種混合ガス、またはアルゴンガスと炭酸ガスと酸素ガスとの三種混合ガスを用いることができる。
なお、本発明の溶接用トーチは、図2〜図5に示される第1〜4の形状に限定されることはなく、例えばノズルが電極ごとに独立しているタンデムGMA溶接トーチとしてもよい。
先行電極用シールドガスおよび後行電極用シールドガスとして、アルゴンガスと炭酸ガスとの二種混合ガスを使用し、組成を代えて溶接中に発生するスパッタをスパッタ捕集箱を用いて全量捕集して測定した。なお、先行電極用シールドガスと後行電極用シールドガスの流量はそれぞれ25L/min.とした。
軟鋼溶接電流は、両電極共に設定値を325Aとし、アーク電圧はそれぞれのシールドガス組成において、短絡からスプレー領域に変化する境界電圧に調整した。母材はJIS G 3101に規定される一般構造用圧延鋼材であるSS400(板厚12mm)を使用した。
表1中の各欄の上段に記載の数字はサンプル番号である。No.1〜10および27〜30は本発明の範囲である。No.11〜25、26、および31は本発明外の範囲である。
下段の英字は先行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度による区分を示し、A、B、D、E、およびFは、それぞれ炭酸ガス濃度が5、10、20、30、および40vol.%である場合を示す。
下段の数字は、スパッタの評価を示す。3を基準として、数字が大きくなるほどスパッタ発生量の低減効果があることを示す。
また、下段の「×」はアークが不安定で測定が不可能であることを示し、「−」は評価対象外であることを示す。
溶け込み深さについては、一般的に溶接対象により様々な基準が存在し、溶接対象ごとに要求される溶け込み深さおよび合否判定は異なる。本実施例の表2においては、サンプル番号No.13を表2全体に対する評価基準とした。
なお、表2中の各欄の上段に記載の数字は、表1と同様に、サンプル番号であり、No.1〜10、および27〜30は本発明の範囲であり、No.11〜25、26、および31は本発明外の範囲である。下段は溶け込み具合の評価結果を示す。溶け込み具合の評価基準は以下の通りである。
◎:深い溶け込み
○:やや深い溶け込み
□:基準の溶け込み
△:やや浅い溶け込み
×:浅い溶け込み
なお、表2中の「−」は、表1中の「−」と同様に、評価対象外であることを示す。
なお、溶接対象によりNo.12やNo.14を基準としてもよく、No.13を基準とすることにこだわるものではない。本実施例において示される発明の効果は、先行電極用シールドガスと後行電極用シールドガスとに同組成ガスを適用したNo.11、No12、No.13、No14、No.15、No.16を各々の基準とし、後行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度を変更した場合において、溶け込みが減少することがない事実を示したものである。
No1、No.12、No.22、No.27に示される△は溶け込み不足を示しているものではなく、No.12に比較しNo.1、No.27が溶け込みを減少させないことを表している。
先行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度を30vol.%とした場合、表2に示されるように、No.15およびNo.10ともに溶け込みが深いが、表1に示されるように、No.15と比較して、No.10はスパッタが少ない。そこで、これらの結果を考慮してNo.10を適当、そしてNo.15を不適当と判断した。
先行電極用シールドガス中の炭酸ガスの濃度が40vol.%以上になると、ワイヤ先端の溶滴に作用する反力が溶滴にかかる重力に対して過大となり、溶滴がワイヤ先端から離脱し難くなり、ワイヤ先端で溶滴が肥大化して溶融プールと接触してスパッタが増加する。これは、先行電極用シールドガス中の炭酸ガスの濃度が高く、電流電圧を調整しても溶滴がスプレー移行せずに短絡移行が混在した溶滴移行となったためであると考える。
なお、要求される溶け込みは対象の板厚によって変化する。
先行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度が20vol.%程度から30vol.%程度の場合は、厚板でスパッタ低減効果と深い溶け込みを得たい場合に適していると考えられる。
先行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度が10vol.%程度から20vol.%程度の場合は、薄板で溶け込みをあまり必要とせず、スパッタ低減効果を重視する場合に適していると考えられる。
先行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度が5vol.%程度から10vol.%程度の場合は、さらなる極薄板であり、溶け落ちが生じ易い溶接対象に限り、スパッタ低減効果を重視した適用が可能であると考えられる。
Claims (8)
- 先行電極と後行電極とを使用するタンデムガスメタルアーク溶接方法において、
上記先行電極に供給する先行電極用シールドガスが、アルゴンガスと炭酸ガスの二種混合ガス、またはアルゴンガスと炭酸ガスと酸素ガスの三種混合ガスであり、
上記後行電極に供給する後行電極用シールドガスが、アルゴンガス単体、アルゴンガスと炭酸ガスの二種混合ガス、アルゴンガスと酸素ガスの二種混合ガス、またはアルゴンガスと炭酸ガスと酸素ガスの三種混合ガスであり、
上記後行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度を、上記先行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度より低くすることを特徴とするタンデムガスメタルアーク溶接方法。 - 前記先行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度が5vol.%以上40vol.%未満であり、前記先行電極用シールドガス中の酸素ガス濃度が0以上10vol.%以下であることを特徴とする請求項1記載のタンデムガスメタルアーク溶接方法。
- 前記先行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度と、前記後行電極用シールドガス中の炭酸ガス濃度との差が3%以上であり、前記後行電極用シールドガス中の酸素ガスの濃度が0以上10vol.%以下であることを特徴とする請求項2記載のタンデムガスメタルアーク溶接方法。
- 溶接進行方向の反転に合わせて、先行電極となる電極に前記先行電極用シールドガスを供給し、後行電極となる電極に前記後行電極用シールドガスを供給するようにガス切替を行う請求項1記載のタンデムガスメタルアーク溶接方法。
- 請求項1記載の溶接方法に用いる溶接トーチであり、
トーチが、ノズルの内部に複数の電極を具備し、さらに先行電極用シールドガスと後行電極用シールドガスとの混合を防止する仕切りを具備することを特徴とするタンデムガスメタルアーク溶接用トーチ。 - 請求項1記載の溶接方法に用いる溶接トーチであり、
溶接進行方向の後方に、溶融池をシールドするための保護カバーを設けたことを特徴とするタンデムガスメタルアーク溶接用トーチ。 - 前記保護カバーが、シールドガスノズルを具備することを特徴とする請求項6記載のタンデムガスメタルアーク溶接用トーチ。
- 先行電極と後行電極とを有する溶接トーチと、それぞれの電極にシールドガスを供給するシールドガス供給源とを備えたタンデムガスメタルアーク溶接装置において、
上記先行電極に供給するシールドガスと、上記後行電極に供給するシールドガスとを切替える装置を備えたことを特徴とするタンデムガスメタルアーク溶接装置。
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