本発明は、回折格子形状を設けた回折撮像レンズと回折撮像レンズ光学系及びこれを用いた撮像装置に関する。
レンズ系を介して被写体像を固体撮像素子上に結像して画像化するカメラモジュールは、デジタルスチルカメラや携帯電話用カメラなどに広く用いられている。近年、カメラモジュールには、高画素化と低背化の両立が求められている。一般に画素数の増大とともに、レンズ系に高解像性が要求される。このため、カメラモジュールの光軸方向の厚みが大きくなる傾向がある。
これに対して、固体撮像素子の画素ピッチを小さくすれば、同一画素数でも撮像素子のサイズを小さくすることができる。このことにより、レンズ系をスケールダウンし、高画素化と薄さとを両立するカメラモジュールを実現する試みが取り組まれている。しかしながら、固体撮像素子の感度と飽和出力は画素サイズに比例するために、画素ピッチの縮小化については限界がある。
一方、レンズ系と固体撮像素子上の撮像領域とで構成するユニットを複数にしたカメラモジュール、すなわち複眼式のカメラモジュールにより薄型化を図る技術が提案されている。例えば、特許文献1に複眼式カメラモジュールの一例が提案されている。
図13は、特許文献1に記載された複眼式のカメラモジュールの主要部の構成図である。レンズアレイ132は、3つのレンズ131a、131b、131cを備えている。各レンズの被写側には、緑色分光フィルタ133a、赤色分光フィルタ133b、青色分光フィルタ133cを配置している。
固体撮像素子134内には、各レンズからの被写体像をそれぞれ結像する3つの撮像領域を設けている。各撮像領域の前面にも緑色分光フィルタ135a、赤色分光フィルタ135b、青色分光フィルタ135cを配置している。この構成によれば、各ユニットに緑、赤、青のいずれか一つを受け持たせて、各ユニット毎に得られる信号を用いて演算することにより合成画像を得ることができる。
レンズ系と固体撮像素子との組合せを一対のみとしたカメラモジュールと、これと同じ大きさの固体撮像素子を、複数の撮像領域に分割した前記のような複眼式カメラモジュールとを比較すると、複眼式カメラモジュールでは個々の撮像領域が分割されているために像の大きさが小さくでき、これに伴ってレンズ系の焦点距離が縮小されることになる。
例えば、固体撮像素子を縦横等分に4分割した場合は、4個のレンズ系が必要になるが、レンズ系の焦点距離を半分にすることができるため、カメラモジュールの光軸方向の厚みを半分にすることができる。
各ユニットの各レンズ系は、複数枚の組合せレンズではなく、一枚のレンズで構成すればカメラモジュールの厚みを低減することができる。しかし、一枚のレンズで各レンズ系を構成すると、球面レンズでは収差が残存し、解像度が不十分になる。このため、各レンズ系には、少なくとも非球面レンズを用いることが望ましい。
一方、非球面レンズよりもさらに解像度を高くすることができるレンズとして、非球面レンズの表面に同心円状の回折格子形状を設けた回折レンズが知られている。非球面レンズの屈折効果に加えて、回折効果を重畳することにより色収差等の各種収差を格段に低減することができる。断面がブレーズ状、又はブレーズに内接する細かい階段状の回折格子形状を用いれば、単一波長に対する特定次数の回折効率をほぼ100%にすることができる。
図14は、従来の回折格子形状を示す図である。回折格子形状142は、屈折率n(λ)の基材141の表面に形成したものである。理論上、波長λで、回折格子形状142に入射する光線143に対してm次回折効率が100%となる回折格子形状の深さdは次式で与えられる。ここで屈折率n(λ)は波長の関数であることを表す。
式(1) d=mλ/(n(λ)−1)
式(1)より、波長λの変化とともにm次の回折効率が100%となるdの値も変化する。以下、mを1として1次の回折効率について説明するが、mは1に限定されるものではない。
図15は、従来の回折格子の1次回折効率の波長依存性を示す図である。本図は、回折格子形状に垂直入斜する光線に対する1次回折効率を示している。回折格子形状は、シクロオレフィン系樹脂であるZEONEX(日本ゼオン社)に形成した深さが0.95μmの回折格子形状である。回折格子形状の深さdは、式(1)において、波長500nmで設計したものである。このため、1次回折光の回折効率は波長500nmにおいて、ほぼ100%となる。
しかし、1次回折効率は波長依存性が存在し、波長400nm、波長700nmではそれぞれ75%程度となる。1次回折効率が100%から低下した分は、0次や2次、又は−1次といった不要な回折光として発生している。
このように1枚の回折レンズを可視全域(波長400−700nm)で使用すると不要な回折光が発生し易くなる。一方、図13に示した3つのレンズ131a、131b、131cを使用する場合は、各レンズで使用する光の波長幅は約100nm程度でよい。
図15に示したように、波長450nm−550nmでは中心波長500nmをピークとして1次の回折効率は約95%以上あり、不要な回折光が発生しにくい。このため、図13の3つのレンズ131a、131b、131cに回折格子を用いる場合は、それぞれの緑、赤、青の波長に応じて式(1)を用いて回折格子形状の深さdを適宜調整すればよい。
このような複眼式カメラモジュールのレンズとして回折レンズを用いることは解像度の高い画像が得られる点で非常に有効である。以下、撮像を主用途として用いる回折レンズを特に回折撮像レンズと呼ぶことにする。
しかしながら、広角な画像を撮影する場合は、被写体からの光がレンズの光軸に対して大きな角度を持って入射する。発明者の検討によれば、前記のような従来の回折撮像レンズで広角の画像を撮影すると、画像のコントラストが悪化するという問題があった。
図16は、従来の回折格子に入射する光線配置を示す図である。基材161として前記のZEONEXを用い、回折格子形状162の深さdは、式(1)において、波長500nmで設計し、0.95μmとしている。入射角度θは、回折格子形状162に入射する光線の角度を示している。図17は、図16の回折格子において、入射角度θをパラメータとしたときの1次回折効率の波長依存性を示す図である。図17の各図は、(a)垂直入射、(b)θ=10°、(c)θ=20°、(d)θ=30°とした場合の1次回折効率の波長依存性を示している。
図17の各図から、入射角度θが大きくなるにつれて、1次回折効率が最大となる波長が長波長側にずれることが分かる。波長500nmの光を考えた場合、式(1)により波長500nmで回折格子形状の深さdを設計すれば、垂直入射ではほぼ100%の1次回折効率が得られる。しかし、入射角度θが変わると、1次回折効率は、θ=10°、20°、30°に対して、それぞれ99.8%、98.3%、91.5%と低下する。すなわち、広角な画像を得ようとすると、不要な回折光が発生し、解像度が低下してしまう。
一方、図17の各図から分かるように、波長が約540nmにおいては入射角度θが変化しても、1次回折効率は98%以上であり、入射角度θの増大に対する1次回折効率の低下が抑えられている。
このことから、式(1)における波長λを実際に使用する波長より短くして、回折格子形状の深さdを算出して設計する。言い換えると、本来使用する波長から算出される回折格子形状の深さよりも浅くすることで、限定的な狭い波長領域に対しては、入射角度30°程度の範囲であれば入射角度に無関係に1次回折効率を100%近くにすることができる。このような回折効率の入射角度依存性は、図16に示した平板だけでなく、球面や非球面レンズの上に回折格子形状を形成した場合も同様に現れる。
以上より、従来の回折撮像レンズにおいて広角な画像を得るには、狭い透過波長帯域を持つフィルタなどを通すことにより、回折撮像レンズに入射する波長幅を20−30nm程度に制限する必要があった。このため、固体撮像素子に受光される光量が少なくなってSN比が劣化し、特に暗い照明条件下では画質の劣化を引き起こしていた。
特開2001−78217号公報
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、不要な回折光を低減し、広角で高解像な画像を得ることができる回折撮像レンズと回折撮像レンズ光学系及びこれを用いた撮像装置を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明の回折撮像レンズは、回折格子形状が形成されている面を備えた回折撮像レンズであって、前記回折格子形状は、光軸を中心とした同心円状に複数の段差を形成したものであり、前記回折格子形状は、前記段差の段差量が前記同心円の径方向において略同一になっている第1の部分と、前記第1の部分の外側に前記段差の段差量が前記光軸から離れるにつれて小さくなっている第2の部分とを備えた形状、又は前記段差の段差量が、前記回折格子形状の全体に亘り、前記光軸から離れるにつれて小さくなっている形状であることを特徴とする。
本発明の回折撮像レンズ光学系は、絞りと、前記絞りを通して被写体像を結像する回折撮像レンズとを含む回折撮像レンズ光学系であって、前記回折撮像レンズは、回折格子形状が形成されている面を備えており、前記回折格子形状は、光軸を中心とした同心円状に複数の段差を形成したものであり、前記各段差に対応した前記同心円の半径のうち、光軸側からi番目の半径をri(iは1以上の整数)とし、前記各riに対応した段差の段差量をdi(iは1以上の整数)とし、前記光軸に平行に前記光軸から最も離れて前記回折撮像レンズに入射する光線が、前記回折格子形状と交差する点の前記光軸からの距離をRとし、前記riのうち、rkが前記Rを越えない最大半径であるときに、k≧2のときは、d1からdkまでの段差量は略同一であり、rkに対応した段差より外側の段差の段差量は、前記光軸から離れるにつれて小さくなっており、k=1又はr1>Rのときは、前記段差量は、前記回折格子形状の全体に亘り前記光軸から離れるにつれて小さくなっていることを特徴とする。
本発明の撮像装置は、前記回折撮像レンズ光学系と、前記光学系を通過した被写体からの光を受光する固体撮像素子と、前記固体撮像素子により検出された電気信号により被写体像を生成する演算回路とを備えている。
本発明の実施の形態1に係る回折撮像レンズの断面図。
本発明の実施の形態1に係る撮像装置の構成図。
本発明の実施の形態1に係る回折撮像レンズ光学系において、半画角が0°及び30°の場合の光線経路図。
本発明の実施の形態2に係る回折撮像レンズの断面図。
本発明の実施の形態2に係る撮像装置の構成図。
本発明の実施の形態2に係る回折撮像レンズ光学系において、半画角が0°及び30°の場合の光線経路図。
保護膜で覆われた回折格子形状を示す構成図。
図7の構成における1次回折効率の波長依存性を示す図。
図7の構成において、入射角度をパラメータとしたときの1次回折効率の波長依存性を示す図。
本発明の実施の形態の第2の例に係る回折撮像レンズの断面図。
本発明の実施の形態3に係る撮像装置の構成図。
視差を用いて被写体の距離を測定する原理図。
従来の複眼式カメラモジュールの主要部の構成の一例を示す図。
従来の回折格子形状の一例を示す図。
従来の回折格子の1次回折効率の波長依存性の一例を示す図。
従来の回折格子に入射する光線配置の一例を示す図。
従来の回折格子において、入射角度をパラメータとしたときの1次回折効率の波長依存性の一例を示す図。
本発明の回折撮像レンズ及び回折撮像レンズ光学系によれば、回折格子形状の段差の段差量を一律に同じ大きさとするのではなく、段差量に分布を持たせることにより、不要な回折光を低減し、広角で高解像な画像を得ることができる。また、1枚のレンズで広角で高解像度な画像を得ることができるので、本発明の回折撮像レンズを用いた撮像装置は、薄型、小型化が可能になる。
本発明の回折撮像レンズ及び回折撮像レンズ光学系においては、前記回折格子形状は、前記回折格子形状とは異なる材料の保護膜で覆われていることが好ましい。この構成によれば、回折効率の波長依存性を抑えることができ、より広い波長領域に亘り高い回折効率を維持することができる。
また、前記保護膜は、前記回折撮像レンズの面のうち、被写体側の面に形成されていることが好ましい。この構成によれば、回折撮像レンズの結像側の面に入射する光線の入射角度を低減でき、不要な回折光の低減により有利になる。
また、前記回折格子形状及び前記保護膜は樹脂で形成されており、前記回折格子形状及び前記保護膜のいずれかは、樹脂と無機粒子の混合材料で形成されていることが好ましい。
また、前記保護膜は、光硬化樹脂に、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、及び酸化アルミニウムのうち、いずれか1種類以上の粒子を分散した材料で形成していることが好ましい。
また、前記撮像装置においては、画像比較処理回路をさらに備えており、前記光学系と前記固体撮像素子とを含むユニットが複数であり、前記画像比較処理回路は、前記各ユニットに対応した前記固体撮像素子より検出された前記電気信号を比較して前記被写体の距離情報を算出することが好ましい。この構成は本発明に係る回折撮像レンズを用いているので、解像度が高く、精度の高い被写体の距離情報を得ることができる。
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の説明においても、撮像を主用途として用いる回折レンズを回折撮像レンズと呼ぶ。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に係る回折撮像レンズの断面図を示している。回折撮像レンズ10は、単レンズである。レンズの基材11の第1面12aは、非球面である。その対向面である第2面12bは、非球面上に輪帯状の回折格子形状13が形成されている。第1面とは、レンズの両面のうち、被写体側の面のことであり、第2面とは結像側の面のことである。回折格子形状13の各輪帯ピッチは不等間隔である。なお、図面では見易さを優先するために、回折格子形状の段差や、レンズ形状については、概略的に図示している。
基材11は、日本ゼオン社のZEONEX480R(d線屈折率1.5247、アッベ数56.2)を用いている。レンズの光軸上の厚みは0.65mmである。
以下の表1に、本実施の形態に係る回折撮像レンズの第1面の非球面係数と、第2面の非球面係数及び位相係数を示す。
回折格子形状は、位相多項式で表すことができる。本実施の形態のように、光軸に対して対称な回折格子である場合、回折に必要とする位相量は光軸からの距離rの多項式で表せる。位相多項式から回折格子形状への変換は、回折次数をmとするとき、2mπごとに段差を設けることで可能となる。本実施の形態に係る回折撮像レンズの第2面の回折格子形状はm=1、すなわち1次の回折光を用いて最適な結像が得られるようにしている。
図2は、本実施の形態に係る回折撮像レンズ10を用いた撮像装置を示している。図2の構成では、回折撮像レンズ10は、回折撮像レンズ光学系の構成要素として用いている。より具体的には、回折撮像レンズ10に、カラーフィルター22、フード23及び絞り24を加えて、回折撮像レンズ光学系を構成している。
被写体(図示せず)からの光21は、波長500−600nmの光のみがカラーフィルター22で透過され、フード23を経て絞り24に至る。フード23では半画角ω(光軸25となす角)以上の光が光学系に入らないようになっている。図2の例では、ω=30°である。
絞り24は、光軸25を中心としている。絞り24を経た光は、回折撮像レンズ10の第1面12a、第2面12bを通り、固体撮像素子26に入射する。固体撮像素子26にて検出された情報を用い、演算回路27にて処理をする。この処理後は、演算回路27に接続した適当な表示手段より被写体画像が表示される。本実施の形態では、絞り24の直径は0.45mm、焦点距離は1.8mm、Fナンバーは4である。
図3は、回折撮像レンズ10において、半画角が0°及び30°の場合の光線経路を示している。被写体からの光線が絞り24を経て、光軸と平行に入射(半画角ω=0°)した場合の主光線が主光線31aである。このω=0°の場合において、絞り24の上端を通る光線が光線32aであり、絞り24の下端を通る光線が光線33aである。同様に、光線が光軸と30°傾いて入射(半画角ω=30°)した場合の主光線が主光線31bである。このω=30°の場合において、絞り24の上端を通る光線が光線32bであり、絞り24の下端を通る光線が光線33bである。
なお、図3においては第2面12bの回折格子形状は省略して図示している。また、主光線とは、絞りの中央を通って光学系に入射する光線のことであり、半画角ωを指定すれば主光線は一意に決定される。
図3から分かるように、第2面12bにおいて光軸25から遠い部分は半画角ωが大きい光線のみが通過しており、光軸25に近い部分は半画角ωが0°から30°までの全域で光線が通過していることが分かる。
また、第2面12bの表面に形成された回折格子形状(図2)は光軸25に対称に、かつ光軸25と平行な方向に位相量の分布を持つ。このため、前記の図17の各図がパラメータとしている回折格子形状への入射角は、第2面12bへの入射する光線と光軸25とのなす角となる。
図3からも分かるように、同じ半画角ωで入射する光線であっても、絞り24のどの位置を通過するかによって、第1面12aでの屈折角度が変化し、回折格子形状への入射角は異なる。
以下の表2に、回折撮像レンズ10の数値例を示す。
表2において、輪帯番号は、回折撮像レンズ10における光軸を中心とした同心円状の回折輪帯段差を、光軸25側から順に番号を付与したものである。ri(iは1以上の整数)は、各輪帯番号に対応した各輪帯段差の半径である。すなわち、riは光軸25側からi番目における回折輪帯段差の半径である。θminは、各輪帯段差を通る光線群のうちの最小入射角度であり、θmaxは各輪帯段差を通る光線群のうちの最大入射角度である。また、表2にはθmin、θmaxに対応した光線の半画角を示している。回折輪帯段差は29本あり、レンズ面中央すなわち光軸近傍は粗く、周辺部ほど細かくなっている。
図3において、光軸25に平行に光軸25から最も離れて回折撮像レンズ10に入射する光線が、回折格子形状と交差する点34の光軸25からの距離をRとする。より具体的には、点34で交差する光線は、半画角0°で第1面12aに入射し、かつ絞り24の上端を通った光線である。表2の実施例では、R=0.259mmである。
表2に示すように、輪対番号1−10までは、半画角0°の光線が入射する。輪対番号11以降は、半画角が0°より大きい光線のみが入射し、光軸25から離れるほど半画角の大きな光が通過する。すなわち、絞り25の上端を通る光線32aが回折格子形状と交差する点34(図3)を境に、入射光線の半画角の内訳が変化していることを意味する。半径riが前記のR=0.259mmを越えない最大の輪帯番号をkとすると、表2の例ではk=10となる。すなわち、riのうち、r10=0.257mmがR=0.259mmを越えない最大半径である。
次に、光軸に垂直で均一な明るさの面状の被写体を考えたとき、レンズ入射瞳に入射する光束量は、半画角ωに対してcosωの4乗に比例する。すなわち、半画角の大きな光線ほど画像に寄与する割合が小さくなる。前記の輪帯番号1−10の領域については、半画角の小さい光線の寄与が大きい。このため、垂直入射に近い角度で1次回折効率が最大になるようにし、各輪帯の段差量(回折格子形状の深さ)を同じとする。
一方、これより外周の輪帯番号11−29については、表2から分かるように、より外周にある段差ほど、最小入射光線の半画角が大きくなる。このため、光軸からの距離が離れるにつれて、段差量を小さくする。
このことについて、より具体的に説明する。波長λにおける屈折率をn(λ)とすると、m次回折効率が100%となる段差量dは、以下の式(2)で与えられる。
式(2) d=mλ/(n(λ)−1)
この式は、前記の式(1)と同じ式である。前記の通り、式(2)に基づいて、段差量dを設計した場合、垂直入射ではほぼ100%の1次回折効率が得られるが、入射角度θ(図16参照)に応じて、1次回折効率は低下してしまう。
ここで、前記の通り、図17の各図は、(a)図から(d)図の順に、入射角度θが大きくなっている。図17の各図から分かるように、入射角度θが大きくなるにつれて、1次回折効率が最大になる波長も大きくなっている。このことから、波長λを使用波長の中心波長より短くして深さdを設計すれば、使用波長の中心波長において、垂直入射では1次回折効率は低下するが、例えば入射角度θが30°のときに、1次回折効率はほぼ100%になる。
前記のように、入射角度θが大きくなるにつれて、1次回折効率が最大になる波長も大きくなる。このため、入射角度θのときに、1次回折効率が最大になるようにするには、入射角度θが大きくなる程、式(2)において、波長λを短く設定する程度も大きくなる。一方、波長λを短くするほど、式(2)により得られる段差量dは小さくなる。
したがって、段差量dを小さくするほど、同一の使用波長において、1次回折効率が最大になる入射角度θが大きくなる。このことにより、大きな入射角度θの光が入射する割合の大きい部分ほど、段差量を小さくすることにより、1次回折効率の低下を抑えることができることになる。
例えば、式(2)で求めたdに、入射角度θが大きくなるにつれて小さくなる補正係数を乗算することによって、段差量dの分布を設定することができる。以下の実施例では、このような補正係数の一例として、式(3)を用いた。
以下の表3に、表2に示した回折撮像レンズにおける回折輪帯の段差量の数値例を示す。
表3における段差量di(iは1以上の整数)は、半径riの位置に対応した段差の段差量である。すなわちdiは、光軸25側からi番目の半径riの位置における段差量である。図2に、半径riと段差量diとの関係を示している。
段差量d1−d29は、前記の式(2)で求めたdに、下記の式(3)で求めた補正係数βを乗算することによって得ることができる。
式(2)において、λは使用波長帯500−600nmの中心波長である550nmとし、屈折率n(λ)は1.5267とし、回折次数mは1とした。表3の補正係数βは、(cos0°)4=1、(cos30°)4=0.56を考慮して、以下の式(3)を用いた。
式(3) β=(cosθmin+0.56cosθmax)/1.56
まず、輪帯番号1−10では、表2の輪帯番号1−10における最小入射角度θminの平均値を2°、最大入射角度θmaxの平均値を18°とし、式(3)よりβ=0.982を得た。
輪帯番号11−29については、表2の各輪帯番号に対応した最小入射角度θmin、最大入射角度θmaxを、式(3)に代入して表3の各βを得た。
すなわち、半画角0°の光線が入射する輪帯番号1−10に対応する段差の段差量d1−d10は一定値である。これに対し、輪対番号11−29に対応する段差については、番号の増加とともに段差量を小さくしている。
なお、本実施例のような段差量の設定は、前記の通り、入射角度θの程度に応じて段差量を設定することにより、1次回折効率の低下を抑えることを目的としたものである。したがって、1次回折効率の値が目標とする基準値を満足する範囲内において、数値を適宜変更してもよい。例えば、本実施例では、d1−d10は一定値としたが、d1−d10の値は、一定値とみなせる程度にばらつきがあってもよい。
同様に、輪対番号11−29に対応する段差についても、番号の増加とともに段差量を小さくしているとみなせる程度に、数値を適宜変更してもよい。例えば、微小な一部分において、段差量が同一になっている構成や、段差量の大小関係が逆転している構成もあり得ることになる。本実施例では輪帯番号11−29のうち、隣接する段差の段差量が同じになる部分もあるが、微小な一部分に過ぎず、輪帯番号11−29の全体としてみれば、段差量は光軸からの距離が離れるにつれて小さくなっているものとみなすことができる。
また、各段差間では補正係数βに応じて段差と段差とが滑らかに連続して繋がるように回折格子形状を設定する。このようにして本実施の形態の回折撮像レンズにおける第2面の表面形状が決定される。
前記の通り、本実施の形態の回折撮像レンズは、回折格子形状の段差の段差量を一律に同じ大きさとするのではなく、回折格子形状に入射する入射光に応じて、表3のような分布を持たせている。このことにより、小さい半画角から30°までの大きな半画角のすべての光線に対して1次回折効率を100%近くにすることができる。すなわち、本実施の形態によれば、不要な回折光を低減することができ、広角かつ高い解像力の回折撮像レンズを実現することができる。
また、前記の通り図17の例は、中心波長500nmでは入射角度が増大するにつれて、1次回折効率が低下してしまう。図17の例は、中心波長からずれた波長540nm近傍の限定的な狭い波長領域に限り、入射角度が増大しても、1次回折効率を100%近くにすることができるに止まる。一方、入射角度が固定されていれば、前記の図15に示したように、中心波長を挟む波長100nmの範囲(図15の例では波長450−550nm)では、約95%以上の高い回折効率を達成することができる。
本実施の形態は、前記の例では中心波長550nmにおいては、入射角度が変化しても、1次回折効率を100%近くに維持できる。したがって、図15の例から推測すると、本実施の形態では、各入射角度において、中心波長550nmを挟む波長100nmの範囲(波長500−600nm)の範囲では、約95%以上の高い回折効率を達成し得ると考えられる。このため、本実施の形態は、図17の例に比べ、入射角度が変化しても、より広い波長領域に亘り高い回折効率を維持することができる。
ここで、元来、回折格子形状を有するレンズは、像面湾曲を小さくできるという特徴がある。これにより、平面である固体撮像素子で撮像すると、広角な画像を中央から周辺部までボケ量を少なくできる。しかし、従来の回折レンズを撮像用途に用いた場合、このような効果は前記のように限定的な狭い波長領域に限られ、回折レンズの優れた特徴が生かされていなかった。これは、使用波長幅を広げると不要回折光の発生により、画像のコントラストが低下し、周辺部のボケのない画像が劣化してしまうためである。
また、波長幅を狭くすると画像のコントラスとは向上するものの暗くなり、ノイズによるざらつきが目立つ画像しか得られなかった。
本実施の形態の回折撮像レンズは、高い回折効率を維持ができる波長幅が広く、大きな半画角を持った光線に対しても不要回折光の発生を抑えることができる。このため、回折レンズの像面湾曲の低減効果を最大限に引き出すことができる。
図2に示した本発明の撮像装置は、本実施の形態の回折撮像レンズを用いているために1枚のレンズにより、広角で高い解像度の画像を得ることができる。複数枚の組合せレンズ系でないため薄型、小型化が可能になる。さらに、各レンズの位置決め調整工程が不要になるので、レンズ枚数を削減でき、生産性、経済性にも優れている。このため、本実施の形態は、撮像携帯電話用のカメラ、車載用のカメラ、監視用又は医療用のカメラとして特に好適である。
なお、本実施の形態では、半径riがRの値を越えない最大の輪帯番号kがk=10の例で説明し、輪帯番号1−10に対応する段差量は一定値とした。これに対し、k=1又はr1>Rの場合は、段差量を一定値とした範囲を設けることなく、輪対番号1−29に対応する段差は、番号の増加とともに段差量が小さくなることになる。
また、本実施の形態の回折撮像レンズでは第1面は非球面を用いたが、第1面にも回折格子形状を設けてもよい。従来の段差が均等な回折格子形状を用いる場合、不要回折光の発生をできるだけ少なくするためには第1面側については回折格子段差の数を少なくするほうが望ましい。その一方で第1面から絞りの位置が被写体側に離れれば、第1面の周辺部には半画角が大きい光線のみが通るため、本実施の形態と同様に回折格子形状の段差分布を設ければ、不要回折光の発生を抑えることができる。
また、本実施の形態に係る回折撮像レンズは、一例を示したものであり、レンズ形状、レンズ材料、絞りサイズは、必要に応じて適宜変更すればよい。使用波長についても同様であり、使用波長が500−600nmの例で説明したが、これに限るものではない。すなわち、他の可視波長はもとより、近赤外や赤外での撮像に対しては、それぞれの波長に応じて適宜レンズ形状を変更すればよい。また、レンズ表面に反射防止コートを設けてもよい。
また、本実施の形態では第2面の回折輪帯の各段差量の算出には、式(3)により求めた補正係数βを用いた。前記の通り、大きな入射角度θの光が入射する割合の大きい部分ほど、段差量を小さくすることにより、1次回折効率の低下を抑えることができる。大きな入射角度θの光の割合が大きくなるほど、補正係数βが小さくなれば、それに応じて段差量が小さくなる。式(3)は、このような補正係数βを得る一例として示したものである。
したがって、補正係数βは式(3)の設定に限るものではなく、例えば、式(3)に代えて、下記の式(3′)を用いてもよい。
式(3′) β=(cosθmin+cosθmax)/2
また、式(3)、式(3′)では最小入射角度θminと、最大入射角度θmaxのみを用いて算出しているが、レンズ形状に応じて適宜、中間的な入射角度も含めて重み付けを変えてもよい。
すなわち、いずれの計算式を用いても、回折格子形状は、光軸付近は段差量が一定で、その外側は光軸から離れるにつれて段差量を小さくしている構成、又は光軸付近から外周部の全体に亘り、光軸から離れるにつれて段差量を小さくしている構成とすればよい。その際、各段差間の形状は段差が滑らかに繋がるように修正しておけばよい。
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2に係る回折撮像レンズについて説明する。前記の実施の形態1と重複する部分については、説明を省略する。図4は本実施の形態に係る回折撮像レンズの断面図を示している。回折撮像レンズ40は、単レンズである。
基材41の第1面42aには、非球面上に輪帯状の回折格子形状43aが形成されている。さらに、回折格子形状43aを覆うように保護膜44aが設けられている。第1面42aの対向面である第2面42bには、非球面上に輪帯状の回折格子形状43bが形成されている。さらに、回折格子形状43bを覆うように保護膜44bが設けられている。保護膜44a、44bは、下地の非球面形状を表面に反映するように塗布されている。なお、図面では見易さを優先するために、回折格子形状の段差や、レンズ形状については、概略的に図示している。
基材41の材料として、ポリカーボネート(d線屈折率1.585、アッベ数28)を用いている。保護膜44a、44bの材料として、アクリル系の紫外線硬化樹脂に粒径が10nm以下の酸化ジルコニウムを分散させた樹脂(d線屈折率が1.623、アッベ数40)を用いている。レンズの光軸上の厚みは1.3mmである。
以下の表4に、本実施の形態に係る回折撮像レンズ40の第1面42aと第2面42bの非球面係数及び位相係数を示す。
本実施の形態に係る回折撮像レンズ40の回折格子形状は、第1面42a、第2面42bとも1次の回折光を用いて最適な結像が得られるようにしている。
図5は、本実施の形態に係る回折撮像レンズ40を用いた撮像装置を示している。図5の構成では、回折撮像レンズ40は、回折撮像レンズ光学系の構成要素として用いている。より具体的には、回折撮像レンズ40に、近赤外カットフィルター52、フード53及び絞り54を加えて、回折撮像レンズ光学系を構成している。
被写体(図示せず)からの光51は、波長400−700nmの可視光全域が近赤外カットフィルター52を経て、フード53に入り、絞り54に至る。フード53では半画角ω(光軸55となす角)以上の光が光学系に入らないようになっている。図5の例ではω=30°である。
絞り54は、光軸55を中心としている。絞り54を経た光は、レンズの第1面42a、第2面42bを通り、固体撮像素子56に入射する。固体撮像素子56の各画素上に、RGBの各カラーフィルター(図示せず)があり、色情報が得られる。そして、固体撮像素子56にて検出された情報を用い、演算回路57にて処理をする。この処理後は、演算回路57に接続した適当な表示手段より被写体のカラー画像が表示される。絞り54の直径は0.43m、焦点距離は1.75mm、Fナンバーは4.06とした。
図6は、被写体からの波長550nmの光線が絞り54を経て、半画角が0°及び30°で入射した場合の光線経路を示している。
被写体からの光線が絞り54を経て、光軸55と平行に入射(半画角ω=0°)した場合の主光線が主光線61aである。このω=0°の場合において、絞り54の上端を通る光線が光線62aであり、絞り54の下端を通る光線が光線63aである。同様に、光線が光軸55と30°傾いて入射(半画角ω=30°)した場合の主光線が主光線61bである。このω=30°の場合において、絞り54の上端を通る光線が光線62bであり、絞り54の下端を通る光線が光線63bである。
なお、図6においては、第1面42a及び第2面42bの回折格子形状は省略して図示している。また、主光線とは、絞りの中央を通って光学系に入射する光線のことであり、半画角ωを指定すれば主光線は一意に決定される。
図6より、第1面42aはすべての領域において、半画角ωが0°−30°の全域で光線が通過していることが分かる。これは絞り54が第1面42aに近いためである。一方、第2面42bにおいては光軸55から遠い部分は半画角ωが大きい光線のみが通過しており、光軸55に近い部分は、半画角ωが0°付近の半画角ωの小さい光線が通過していることが分かる。
また、第1面42aと第2面42bの表面にそれぞれ形成された回折格子形状は光軸55に対称に、かつ光軸55と平行な方向に位相量の分布を持つ。このため、回折格子形状への入射角は、第1面42aでは第1面42aへの入射する光線と光軸55とのなす角となり、第2面42bでは第2面42bへ入射する光線と光軸55とのなす角となる。
第2面42bでは同じ半画角ωで入射する光線であっても、絞り54のどの位置を通過するかによって、第1面42aでの屈折角度が変化し、回折格子形状への入射角は異なる。
本実施の形態の回折撮像レンズ40では、図4に示したように第1面42a、第2面42b両面ともそれぞれ非球面上に回折格子形状が形成され、さらに回折格子形状を覆うように保護膜が設けられている。以下、このような構成における特徴について説明する。
図7は、保護膜で覆われた回折格子形状を示している。基材71に回折格子形状72が形成されている。回折格子形状72には、塗布された保護膜73が接合されている。回折格子形状72に垂直に入射する光線に対する1次回折効率が100%となる回折格子形状の深さd′は次式で与えられる。
式(4) d′=mλ/|n1(λ)−n2(λ)|
λは波長、mは回折次数、n1(λ)は基材71の材料の屈折率、n2(λ)は保護膜73の材料の屈折率である。式(4)の右辺が、ある波長帯域で一定値になれば、その波長帯域ではm次回折効率の波長依存性はないことになる。
このような効果を実現する条件は、基材71と保護膜73とを、高屈折率低分散材料と低屈折率高分散材料との組み合わせで構成することである。このような条件の下、基材71と保護膜73とに適当な材料を用いることにより、可視光域全域で垂直入射光に対する回折効率を95%以上にすることが可能である。
なお、この構成においては基材71の材料と保護膜73の材料とが入れ替わってもかまわない。また、回折格子形状72の深さd′は、前記の式(2)で示した保護膜のない回折格子形状の深さdよりも大きくなる。以下、m=1として1次の回折効率について説明するが、mは1に限定されるものではない。
本実施の形態に係る回折撮像レンズは、前記の通り、基材にポリカーボネートを用い、保護膜として紫外線硬化樹脂に酸化ジルコニウムの微粒子を分散させた材料を用いた。
図8は、このような材料を組み合わせた場合のブレーズ状回折格子へ垂直に入射する光線に対する1次回折効率の波長依存性を示す。段差d′は14.9μmとした。図8より、波長400−700nmの可視光全域にて、1次回折効率95%以上であることが分かる。
次に、図7において、入射角度θは、回折格子形状72に入射する光線の角度を示している。図9は、図7の回折格子において、入射角度θをパラメータとしたときの1次回折効率の波長依存性を示す図である。図9の各図は、(a)垂直入射、(b)θ=10°、(c)θ=20°、(d)θ=30°とした場合の1次回折効率の波長依存性を示している。
なお、図7では、基材71側から回折格子形状72に入射する光線について記載している。逆に保護膜73側から入射する光線に対しては屈折作用により、光線とのなす角(図7の入射角度θに相当)は、半画角より小さくなる。例えば、半画角30°の場合は約18°になる。
図9では、どの入射角度においても、前記の図17と比べると、波長400−700nmの可視光全域に亘り、回折効率の低下が抑えられていることが分かる。しかしながら、光線の角度が大きくなると、1次回折効率の波長依存性も変化し、一部の波長領域で1次回折効率の低下が起きている。この場合、不要な回折光が発生し、画像における色再現性の低下やコントラストの低下を引き起こしてしまう。
本実施の形態に係る回折撮像レンズは、このような課題に鑑みて以下のような構成とするものである。以下の表5に、本実施の形態の回折撮像レンズの数値例を示している。
表5において、輪帯番号は、回折撮像レンズ40の第2面42bにおける同心円状の回折輪帯段差を、光軸55側から順に番号を付与したものである。ri(iは1以上の整数)は、各輪帯番号に対応した各輪帯段差の半径である。すなわち、riは光軸55側からi番目における回折輪帯段差の半径である。θminは、各輪帯段差を通る光線群のうちの最小入射角度であり、θmaxは各輪帯段差を通る光線群のうちの最大入射角度である。また、表5にはθmin、θmaxに対応した光線の半画角を示している。回折輪帯段差は9本あり、レンズ面中央すなわち光軸近傍は粗く、周辺部ほど細かくなっている。
図6において、光軸55に平行に光軸55から最も離れて回折撮像レンズ40に入射する光線が、回折格子形状と交差する点45の光軸55からの距離をRとする。より具体的には、点45で交差する光線は、半画角0°で第1面42aに入射し、かつ絞り54の上端を通った光線である。表5の実施例では、R=0.214mmである。
表5に示すように、r1(0.339mm)>R(0.214mm)であるので、半画角0°の光線はどの輪帯にも交差しない。輪対番号が大きくなるとともに、すなわち光軸55から離れるほど半画角の大きな光のみが通過する。
実施の形態1で説明したように、光軸に垂直で均一な明るさの面状の被写体を考えたとき、レンズ入射瞳に入射する光束量は、半画角ωに対してcosωの4乗に比例する。すなわち、半画角の大きな光線ほど画像に寄与する割合が小さくなる。一方、輪帯番号が大きくなるにつれて、段差に入射する光線の半画角が大きくなる。このため、光軸からの距離とともに段差量(回折格子形状の深さ)を小さくする。このような段差量の設定にする理由は、前記実施の形態1で説明した通りである。
以下の表6に、表5に示した回折撮像レンズにおける回折輪帯の段差量(段差の深さ)の数値例を示す。
表6における段差量di(iは1以上の整数)は、半径riの位置に対応した段差の段差量である。すなわちdiは、光軸55側からi番目の半径riの位置における段差量である。図5に、半径riと段差量diとの関係を示している。
段差量d1−d9は、前記の式(4)で求めたd′に、補正係数βを乗算することによって得た。補正係数βは、(cos0°)4=1、(cos30°)4=0.56を考慮して、下記の式(5)を用いた。
式(5) β=(cosθmin+0.56cosθmax)/1.56
d′の算出には、式(4)において、λを使用波長帯400−700nmの中心波長である550nmとし、レンズ基材の屈折率n1(λ)は1.589とし、保護膜の屈折率n2(λ)は1.626とし、回折次数mは1とした。このときd′は14.9μmとなる。
補正係数βは、式(5)において、各輪帯番号に対する最小入射角度θmin、最大入射角度θmaxを代入して求めることができる。d′に各輪帯番号に対応した各補正係数を乗算して、回折輪帯の段差d1−d9を算出した。
また、各段差間では補正係数βに応じて段差と段差が滑らかに連続して繋がるように、回折格子形状を設定する。このようにして本実施の形態の回折撮像レンズ40における第2面42bの表面形状が決定される。
なお、表6の数値は、番号の増加とともに段差量を小さくしているとみなせる程度に、数値を適宜変更してもよいことは、前記実施の形態1と同様である。
一方、第1面42aについては、半画角の大きな光線が入射しても、保護膜44aで屈折するため、回折格子形状43aに入る入射角は半画角よりも小さい角度で入射する。例えば半画角30°で入射した光線は、保護膜44aで屈折し光軸とのなす角が約18°にまで角度が低減されて回折格子形状43aに入射する。
また、回折格子形状の回折輪帯が2本しかなく、段差が同一でも不要回折光を小さくすることができる。本実施の形態の回折撮像レンズは、2本の段差は同じ14.9μmとした。
本実施の形態の回折撮像レンズは、第2面42bの回折格子形状の段差量が表6のような分布を持つことにより、小さい半画角から30°までの大きな半画角のすべての光線に対して1次回折効率を100%近くにすることができる。これにより不要な回折光を低減することができ、広角かつ高い解像力の回折撮像レンズを実現することができる。また、本実施の形態の回折撮像レンズは不要回折光が非常に少ないため、回折レンズの像面湾曲収差の低減を最大限に引き出すことができる。
このような効果は、前記実施の形態1と同様であるが、本実施の形態では、実施の形態1の構成に加え、回折格子形状を保護膜で覆って、回折効率の波長依存性を抑えている。このことにより、本実施の形態は、実施の形態1に比べ、さらに広い波長領域に亘り高い回折効率を維持することができる。
また、図5に示した本発明の撮像装置は、本実施の形態の回折撮像レンズ40を用いているため、1枚のレンズで高い解像度で広角な画像を得ることができる。この点についても、前記実施の形態1と同様である。すなわち、複数枚の組合せレンズ系でないため薄型、小型化が可能になる。さらに、各レンズの位置決め調整工程が不要になるので、レンズ枚数を削減でき、生産性、経済性にも優れている。このため、本実施の形態は、撮像携帯電話用のカメラ、車載用のカメラ、監視用又は医療用のカメラとして特に好適である。
次に、図10は、本実施の形態の第2の例に係る回折撮像レンズの断面図を示している。回折撮像レンズ100は、使用波長として例えば600−700nmなどの100nm以下の波長幅としたものである。
基材101の第1面102aは、保護膜104で覆われた回折格子形状103aを設けている。第2面102bは、実施の形態1と同様の構成であり、保護膜は設けず、回折格子形状103bは周辺部に進むほど、段差量を小さくしている。第1面の回折格子形状103aの段差は均等、不均等のどちらでもよい。
図10の構成では、半画角30°で入射した光線は保護膜104で屈折し、光軸とのなす角が約18°程度にまで低減されて回折格子形状103aに入射する。
ここで、図9から分かるように、どの入射角度においても、波長600−700nmの範囲では、1次回折効率の低下は小さくなっている。このうち、図9(c)の入射角度が20°のときに、特に良好な結果を示している。このため、図10の構成のように、半画角30°で入射した光線を約18°程度の入射角度に低減できる構成は、1次回折効率の低下防止に有利な構成であるといえる。
また、図9の各図を波長域全体で比較してみると、入射角度が小さくなるほど、1次回折効率の低下は小さくなっている。このことからも、図10の構成のように、入射角度を低減できる構成は、1次回折効率の低下防止に有利な構成であるといえる。
また、本実施の形態は、図4に示したように、回折撮像レンズ40は、回折格子形状43bが保護膜44bで覆われた構成である。前記の通り、式(4)において、1次回折効率が最大となるd′が使用波長の依存性がなく一定になるためには、回折格子形状43bを有する基材41と保護膜44bの材料とが、高屈折率低分散材料と低屈折率高分散材料との組合せで構成する必要がある。
このような屈折率条件を満たす材料であれば、材料は前記の材料に限らない。この場合において、基材41、保護膜44bとも樹脂を主成分とし、特に基材41については生産性の良好な熱可塑性樹脂が望ましい。このため、本実施の形態のように、低屈折率高分散材料として、熱可塑性樹脂材料を基材41に用い、高屈折率低分散材料として、樹脂に無機粒子を分散させた材料を保護膜44bに用いることが望ましい。
また、本実施の形態では保護膜44bの材料として、前記のように、アクリル系の紫外線硬化樹脂に酸化ジルコニウムの微粒子を分散させた材料を用いた。紫外線硬化樹脂等の光硬化樹脂を用いることにより、塗布や、型による表面形状の成型ができ保護膜形成が容易になる。
また、分散させる無機粒子としては、無色透明な酸化物材料が望ましい。特に高屈折率低分散の保護膜を実現するためには、高屈折率低分散の無機材料が必要である。具体的には、本実施の形態で示した酸化ジルコニウム以外に、酸化イットリウムや酸化アルミニウムが挙げられる。これらの酸化物は、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
また、回折撮像レンズ40は、第1面42aは保護膜44aで覆われた例で説明したが、保護膜44aのない非球面形状でもよい。
また、本実施の形態に係る回折撮像レンズは、一例を示したものであり、レンズ形状、レンズ材料、絞りサイズは、必要に応じて適宜変更すればよい。使用波長についても同様であり、使用波長が可視波長の例で説明したが、これに限るものではない。すなわち、近赤外や赤外での撮像に対しては、それぞれの波長に応じて適宜レンズ形状を変更すればよい。また、レンズ表面に反射防止コートを設けてもよい。
また、表6では、輪対番号1−9に対応する段差量d1−d9は、番号の増加とともに小さくなる例で説明したが、半径riがRの値を越えない最大の輪帯番号kが存在する場合は、実施の形態1と同様に、輪帯番号1−kに対応する段差量は一定値とすればよい。この際、段差量を一定値にした構成には、段差量が一定値とみなせる程度にばらつきがある構成も含むことは、前記実施の形態1と同様である。
また、補正係数βは式(5)に限るものではないことも、前記実施の形態1と同様である。本実施の形態では第2面の回折輪帯の各段差量の算出には、式(5)により求めた補正係数βを用いたが、式(5)に代えて、前記の式(3′)を用いてもよい。
また、式(5)では最小入射角度θminと、最大入射角度θmaxのみを用いて算出しているが、レンズ形状に応じて適宜、中間的な入射角度も含めて重み付けを変えてもよいことも、前記実施の形態1と同様である。
すなわち、前記実施の形態1と同様に、いずれの計算式を用いても、回折格子形状は、光軸付近は段差が一定で、その外側は光軸から離れるにつれて段差量を小さくした構成、又は光軸付近から外周部の全体に亘り、光軸から離れるにつれて段差量を小さくした構成とすればよい。その際、各段差間の形状は段差が滑らかに繋がるように修正しておけばよい。
(実施の形態3)
図11は、本発明の一実施の形態に係る撮像装置の光軸に沿った断面図である。撮像装置110は、回折撮像レンズを備えた回折撮像レンズ光学系と固体撮像素子とで構成したユニットを複数備えた複眼式の撮像装置である。レンズアレイ111に、2つのレンズ112a、112bが一体化されている。2つのレンズ112a、112bは、互いに独立した両面非球面の上に、片面にのみ回折格子形状が形成された単レンズである。これらの各レンズは、実施の形態1に係る回折撮像レンズに相当する。回折撮像レンズであるこれらの各レンズに、絞り(図示せず)を組み合わせて回折撮像レンズ光学系を構成している。
レンズ112aの光軸113aと、レンズ112bの光軸113bは、平行である。図11に示すように、光軸113a、113bと平行な方向をZ軸とする。ホルダー115上に、2個の固体撮像素子114a、114bが配置されている。各固体撮像素子114a、114bは、白黒のセンシングを行い、内部に波長500−600nmの光を透過するカラーフィルター(図示せず)を備えている。
2つのレンズの光軸113a、113bは、それぞれ2つの固体撮像素子114a、114bの略中心(矩形状の固体撮像素子の対角線の交点)を通過する。したがって、各固体撮像素子114aと114bとの中心間隔と、レンズ112aと112bとの中心間隔Dとはほぼ等しい。
被写体からの光は、レンズ112a、112bによって結像され、緑色の光のみが固体撮像素子114a、114bにそれぞれ入射し、画素ごとに電気信号に変換される。固体撮像素子114a、114bのそれぞれの電気信号情報は、演算回路116a、116bで処理され、いずれかの演算回路信号から表示手段によって画像が表示される。
このような複眼式の撮像装置は、画像表示だけでなく、レンズ112a、112b毎の画像間に生じる視差を利用して、被写体の距離を測定することができる。視差については、画像比較処理回路117によって、演算回路116a及び演算回路116bで得た画素情報を比較、演算することで抽出することができる。
図12は、視差を用いて被写体の距離を測定する原理図である。被写体121からの光を、レンズ122aを通して得た像が被写体像123aであり、レンズ122bを通して得た像が被写体像123bである。被写体上の同一点は、視差Δだけずれて固体撮像素子124a、124bにそれぞれ至り、固体撮像素子上にある画素で受光され、電気信号に変換される。
レンズ122aの光軸とレンズ122bの光軸との間の距離をD、レンズ112a、112bと被写体121との間の距離をG、レンズ112a、112bの焦点距離をfとし、Gがfより十分大きいとすると、下記の式(6)が成り立つ。
式(6) G=Df/Δ
式(6)において、距離をD及び焦点距離fは既知である。また、視差Δは、前記の通り、画像比較処理回路117によって、演算回路116a及び演算回路116bで得た画素情報を比較、演算することにより抽出することができる。
例えば、固体撮像素子124a、124bで得られた画像を、それぞれ複数のブロックに分割し、固体撮像素子124aに対応したあるブロックを選択し、これに酷似した固体撮像素子124bに対応したブロックを抽出し、両ブロックの位置の比較により、視差を算出することができる。
式(6)に既知のD、f、及び抽出したΔを代入して、被写体121までの距離Gを算出することができる。すなわち複眼式の撮像装置では画像を得るだけでなく、測距センサーの機能をも有することになる。
本実施の形態に係る撮像装置は、本発明に係る回折撮像レンズを用いているため、下記のような効果が得られる。すなわち、解像度が高いため、画素ピッチの細かい固体撮像素子を用いることができ、視差Δの検出精度が上がり、被写体の測距精度が向上する。また、広角な画像が撮影できるため、測距できる被写体の位置は撮像装置の光軸付近だけでなく、広い画角範囲に拡大できる。従来の回折撮像レンズに比べ、使用できる波長幅が広くできるため、明るい画像が得られる。通常、固体撮像素子の画素ピッチが小さくなると画像が暗くなるが、これを補うことが可能となる。
さらに、複数枚のレンズの組合わせで構成した光学系ではなく、単レンズであるので、同じ焦点距離fを実現する場合、相対的に撮像装置の厚みを薄くすることができる。また、レンズの実装も簡易になる。
なお、本実施の形態の撮像装置は使用波長として500−600nmとしたが、これに限るものではない。他の可視波長はもとより、近赤外や赤外での撮像に対しても、それぞれの波長に応じて適宜レンズ形状を変更して用いればよい。
また、レンズの数は2個の複眼式の例で説明したが、レンズが3個以上の複眼式であってもよい。
また、実施の形態2の回折撮像レンズを用い、固体撮像素子内の内部にベイヤー配列などのRGBのカラーフィルターを用いればカラー画像の表示と、被写体の測距が可能となる。
また、本実施の形態では、複数の固体撮像素子を用いているが、1つの固体撮像素子の撮像領域を分割して利用してもよい。
本発明の回折撮像レンズ及び回折撮像レンズ光学系は、広角で高い解像力を有しているので、カメラなどの撮像装置に有用である。特に、携帯電話用のカメラ、車載用のカメラ、監視用、又は医療用のカメラのレンズ及びレンズ光学系として好適である。
本発明は、回折格子形状を設けた回折撮像レンズと回折撮像レンズ光学系及びこれを用いた撮像装置に関する。
レンズ系を介して被写体像を固体撮像素子上に結像して画像化するカメラモジュールは、デジタルスチルカメラや携帯電話用カメラなどに広く用いられている。近年、カメラモジュールには、高画素化と低背化の両立が求められている。一般に画素数の増大とともに、レンズ系に高解像性が要求される。このため、カメラモジュールの光軸方向の厚みが大きくなる傾向がある。
これに対して、固体撮像素子の画素ピッチを小さくすれば、同一画素数でも撮像素子のサイズを小さくすることができる。このことにより、レンズ系をスケールダウンし、高画素化と薄さとを両立するカメラモジュールを実現する試みが取り組まれている。しかしながら、固体撮像素子の感度と飽和出力は画素サイズに比例するために、画素ピッチの縮小化については限界がある。
一方、レンズ系と固体撮像素子上の撮像領域とで構成するユニットを複数にしたカメラモジュール、すなわち複眼式のカメラモジュールにより薄型化を図る技術が提案されている。例えば、特許文献1に複眼式カメラモジュールの一例が提案されている。
図13は、特許文献1に記載された複眼式のカメラモジュールの主要部の構成図である。レンズアレイ132は、3つのレンズ131a、131b、131cを備えている。各レンズの被写側には、緑色分光フィルタ133a、赤色分光フィルタ133b、青色分光フィルタ133cを配置している。
固体撮像素子134内には、各レンズからの被写体像をそれぞれ結像する3つの撮像領域を設けている。各撮像領域の前面にも緑色分光フィルタ135a、赤色分光フィルタ135b、青色分光フィルタ135cを配置している。この構成によれば、各ユニットに緑、赤、青のいずれか一つを受け持たせて、各ユニット毎に得られる信号を用いて演算することにより合成画像を得ることができる。
レンズ系と固体撮像素子との組合せを一対のみとしたカメラモジュールと、これと同じ大きさの固体撮像素子を、複数の撮像領域に分割した前記のような複眼式カメラモジュールとを比較すると、複眼式カメラモジュールでは個々の撮像領域が分割されているために像の大きさが小さくでき、これに伴ってレンズ系の焦点距離が縮小されることになる。
例えば、固体撮像素子を縦横等分に4分割した場合は、4個のレンズ系が必要になるが、レンズ系の焦点距離を半分にすることができるため、カメラモジュールの光軸方向の厚みを半分にすることができる。
各ユニットの各レンズ系は、複数枚の組合せレンズではなく、一枚のレンズで構成すればカメラモジュールの厚みを低減することができる。しかし、一枚のレンズで各レンズ系を構成すると、球面レンズでは収差が残存し、解像度が不十分になる。このため、各レンズ系には、少なくとも非球面レンズを用いることが望ましい。
一方、非球面レンズよりもさらに解像度を高くすることができるレンズとして、非球面レンズの表面に同心円状の回折格子形状を設けた回折レンズが知られている。非球面レンズの屈折効果に加えて、回折効果を重畳することにより色収差等の各種収差を格段に低減することができる。断面がブレーズ状、又はブレーズに内接する細かい階段状の回折格子形状を用いれば、単一波長に対する特定次数の回折効率をほぼ100%にすることができる。
図14は、従来の回折格子形状を示す図である。回折格子形状142は、屈折率n(λ)の基材141の表面に形成したものである。理論上、波長λで、回折格子形状142に入射する光線143に対してm次回折効率が100%となる回折格子形状の深さdは次式で与えられる。ここで屈折率n(λ)は波長の関数であることを表す。
式(1) d=mλ/(n(λ)−1)
式(1)より、波長λの変化とともにm次の回折効率が100%となるdの値も変化する。以下、mを1として1次の回折効率について説明するが、mは1に限定されるものではない。
図15は、従来の回折格子の1次回折効率の波長依存性を示す図である。本図は、回折格子形状に垂直入斜する光線に対する1次回折効率を示している。回折格子形状は、シクロオレフィン系樹脂であるZEONEX(日本ゼオン社)に形成した深さが0.95μmの回折格子形状である。回折格子形状の深さdは、式(1)において、波長500nmで設計したものである。このため、1次回折光の回折効率は波長500nmにおいて、ほぼ100%となる。
しかし、1次回折効率は波長依存性が存在し、波長400nm、波長700nmではそれぞれ75%程度となる。1次回折効率が100%から低下した分は、0次や2次、又は−1次といった不要な回折光として発生している。
このように1枚の回折レンズを可視全域(波長400−700nm)で使用すると不要な回折光が発生し易くなる。一方、図13に示した3つのレンズ131a、131b、131cを使用する場合は、各レンズで使用する光の波長幅は約100nm程度でよい。
図15に示したように、波長450nm−550nmでは中心波長500nmをピークとして1次の回折効率は約95%以上あり、不要な回折光が発生しにくい。このため、図13の3つのレンズ131a、131b、131cに回折格子を用いる場合は、それぞれの緑、赤、青の波長に応じて式(1)を用いて回折格子形状の深さdを適宜調整すればよい。
このような複眼式カメラモジュールのレンズとして回折レンズを用いることは解像度の高い画像が得られる点で非常に有効である。以下、撮像を主用途として用いる回折レンズを特に回折撮像レンズと呼ぶことにする。
特開2001−78217号公報
しかしながら、広角な画像を撮影する場合は、被写体からの光がレンズの光軸に対して大きな角度を持って入射する。発明者の検討によれば、前記のような従来の回折撮像レンズで広角の画像を撮影すると、画像のコントラストが悪化するという問題があった。
図16は、従来の回折格子に入射する光線配置を示す図である。基材161として前記のZEONEXを用い、回折格子形状162の深さdは、式(1)において、波長500nmで設計し、0.95μmとしている。入射角度θは、回折格子形状162に入射する光線の角度を示している。図17は、図16の回折格子において、入射角度θをパラメータとしたときの1次回折効率の波長依存性を示す図である。図17の各図は、(a)垂直入射、(b)θ=10°、(c)θ=20°、(d)θ=30°とした場合の1次回折効率の波長依存性を示している。
図17の各図から、入射角度θが大きくなるにつれて、1次回折効率が最大となる波長が長波長側にずれることが分かる。波長500nmの光を考えた場合、式(1)により波長500nmで回折格子形状の深さdを設計すれば、垂直入射ではほぼ100%の1次回折効率が得られる。しかし、入射角度θが変わると、1次回折効率は、θ=10°、20°、30°に対して、それぞれ99.8%、98.3%、91.5%と低下する。すなわち、広角な画像を得ようとすると、不要な回折光が発生し、解像度が低下してしまう。
一方、図17の各図から分かるように、波長が約540nmにおいては入射角度θが変化しても、1次回折効率は98%以上であり、入射角度θの増大に対する1次回折効率の低下が抑えられている。
このことから、式(1)における波長λを実際に使用する波長より短くして、回折格子形状の深さdを算出して設計する。言い換えると、本来使用する波長から算出される回折格子形状の深さよりも浅くすることで、限定的な狭い波長領域に対しては、入射角度30°程度の範囲であれば入射角度に無関係に1次回折効率を100%近くにすることができる。このような回折効率の入射角度依存性は、図16に示した平板だけでなく、球面や非球面レンズの上に回折格子形状を形成した場合も同様に現れる。
以上より、従来の回折撮像レンズにおいて広角な画像を得るには、狭い透過波長帯域を持つフィルタなどを通すことにより、回折撮像レンズに入射する波長幅を20−30nm程度に制限する必要があった。このため、固体撮像素子に受光される光量が少なくなってSN比が劣化し、特に暗い照明条件下では画質の劣化を引き起こしていた。
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、不要な回折光を低減し、広角で高解像な画像を得ることができる回折撮像レンズと回折撮像レンズ光学系及びこれを用いた撮像装置を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明の回折撮像レンズは、回折格子形状が形成されている面を備えた回折撮像レンズであって、前記回折格子形状は、光軸を中心とした同心円状に複数の段差を形成したものであり、前記回折格子形状は、前記段差の段差量が前記同心円の径方向において略同一になっている第1の部分と、前記第1の部分の外側に前記段差の段差量が前記光軸から離れるにつれて小さくなっている第2の部分とを備えた形状、又は前記段差の段差量が、前記回折格子形状の全体に亘り、前記光軸から離れるにつれて小さくなっている形状であることを特徴とする。
本発明の回折撮像レンズ光学系は、絞りと、前記絞りを通して被写体像を結像する回折撮像レンズとを含む回折撮像レンズ光学系であって、前記回折撮像レンズは、回折格子形状が形成されている面を備えており、前記回折格子形状は、光軸を中心とした同心円状に複数の段差を形成したものであり、前記各段差に対応した前記同心円の半径のうち、光軸側からi番目の半径をri(iは1以上の整数)とし、前記各riに対応した段差の段差量をdi(iは1以上の整数)とし、前記光軸に平行に前記光軸から最も離れて前記回折撮像レンズに入射する光線が、前記回折格子形状と交差する点の前記光軸からの距離をRとし、前記riのうち、rkが前記Rを越えない最大半径であるときに、k≧2のときは、d1からdkまでの段差量は略同一であり、rkに対応した段差より外側の段差の段差量は、前記光軸から離れるにつれて小さくなっており、k=1又はr1>Rのときは、前記段差量は、前記回折格子形状の全体に亘り前記光軸から離れるにつれて小さくなっていることを特徴とする。
本発明の撮像装置は、前記回折撮像レンズ光学系と、前記光学系を通過した被写体からの光を受光する固体撮像素子と、前記固体撮像素子により検出された電気信号により被写体像を生成する演算回路とを備えている。
本発明の回折撮像レンズ及び回折撮像レンズ光学系によれば、回折格子形状の段差の段差量を一律に同じ大きさとするのではなく、段差量に分布を持たせることにより、不要な回折光を低減し、広角で高解像な画像を得ることができる。また、1枚のレンズで広角で高解像度な画像を得ることができるので、本発明の回折撮像レンズを用いた撮像装置は、薄型、小型化が可能になる。
本発明の回折撮像レンズ及び回折撮像レンズ光学系においては、前記回折格子形状は、前記回折格子形状とは異なる材料の保護膜で覆われていることが好ましい。この構成によれば、回折効率の波長依存性を抑えることができ、より広い波長領域に亘り高い回折効率を維持することができる。
また、前記保護膜は、前記回折撮像レンズの面のうち、被写体側の面に形成されていることが好ましい。この構成によれば、回折撮像レンズの結像側の面に入射する光線の入射角度を低減でき、不要な回折光の低減により有利になる。
また、前記回折格子形状及び前記保護膜は樹脂で形成されており、前記回折格子形状及び前記保護膜のいずれかは、樹脂と無機粒子の混合材料で形成されていることが好ましい。
また、前記保護膜は、光硬化樹脂に、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、及び酸化アルミニウムのうち、いずれか1種類以上の粒子を分散した材料で形成していることが好ましい。
また、前記撮像装置においては、画像比較処理回路をさらに備えており、前記光学系と前記固体撮像素子とを含むユニットが複数であり、前記画像比較処理回路は、前記各ユニットに対応した前記固体撮像素子より検出された前記電気信号を比較して前記被写体の距離情報を算出することが好ましい。この構成は本発明に係る回折撮像レンズを用いているので、解像度が高く、精度の高い被写体の距離情報を得ることができる。
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以下の説明においても、撮像を主用途として用いる回折レンズを回折撮像レンズと呼ぶ。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に係る回折撮像レンズの断面図を示している。回折撮像レンズ10は、単レンズである。レンズの基材11の第1面12aは、非球面である。その対向面である第2面12bは、非球面上に輪帯状の回折格子形状13が形成されている。第1面とは、レンズの両面のうち、被写体側の面のことであり、第2面とは結像側の面のことである。回折格子形状13の各輪帯ピッチは不等間隔である。なお、図面では見易さを優先するために、回折格子形状の段差や、レンズ形状については、概略的に図示している。
基材11は、日本ゼオン社のZEONEX480R(d線屈折率1.5247、アッベ数56.2)を用いている。レンズの光軸上の厚みは0.65mmである。
以下の表1に、本実施の形態に係る回折撮像レンズの第1面の非球面係数と、第2面の非球面係数及び位相係数を示す。
回折格子形状は、位相多項式で表すことができる。本実施の形態のように、光軸に対して対称な回折格子である場合、回折に必要とする位相量は光軸からの距離rの多項式で表せる。位相多項式から回折格子形状への変換は、回折次数をmとするとき、2mπごとに段差を設けることで可能となる。本実施の形態に係る回折撮像レンズの第2面の回折格子形状はm=1、すなわち1次の回折光を用いて最適な結像が得られるようにしている。
図2は、本実施の形態に係る回折撮像レンズ10を用いた撮像装置を示している。図2の構成では、回折撮像レンズ10は、回折撮像レンズ光学系の構成要素として用いている。より具体的には、回折撮像レンズ10に、カラーフィルター22、フード23及び絞り24を加えて、回折撮像レンズ光学系を構成している。
被写体(図示せず)からの光21は、波長500−600nmの光のみがカラーフィルター22で透過され、フード23を経て絞り24に至る。フード23では半画角ω(光軸25となす角)以上の光が光学系に入らないようになっている。図2の例では、ω=30°である。
絞り24は、光軸25を中心としている。絞り24を経た光は、回折撮像レンズ10の第1面12a、第2面12bを通り、固体撮像素子26に入射する。固体撮像素子26にて検出された情報を用い、演算回路27にて処理をする。この処理後は、演算回路27に接続した適当な表示手段より被写体画像が表示される。本実施の形態では、絞り24の直径は0.45mm、焦点距離は1.8mm、Fナンバーは4である。
図3は、回折撮像レンズ10において、半画角が0°及び30°の場合の光線経路を示している。被写体からの光線が絞り24を経て、光軸と平行に入射(半画角ω=0°)した場合の主光線が主光線31aである。このω=0°の場合において、絞り24の上端を通る光線が光線32aであり、絞り24の下端を通る光線が光線33aである。同様に、光線が光軸と30°傾いて入射(半画角ω=30°)した場合の主光線が主光線31bである。このω=30°の場合において、絞り24の上端を通る光線が光線32bであり、絞り24の下端を通る光線が光線33bである。
なお、図3においては第2面12bの回折格子形状は省略して図示している。また、主光線とは、絞りの中央を通って光学系に入射する光線のことであり、半画角ωを指定すれば主光線は一意に決定される。
図3から分かるように、第2面12bにおいて光軸25から遠い部分は半画角ωが大きい光線のみが通過しており、光軸25に近い部分は半画角ωが0°から30°までの全域で光線が通過していることが分かる。
また、第2面12bの表面に形成された回折格子形状(図2)は光軸25に対称に、かつ光軸25と平行な方向に位相量の分布を持つ。このため、前記の図17の各図がパラメータとしている回折格子形状への入射角は、第2面12bへの入射する光線と光軸25とのなす角となる。
図3からも分かるように、同じ半画角ωで入射する光線であっても、絞り24のどの位置を通過するかによって、第1面12aでの屈折角度が変化し、回折格子形状への入射角は異なる。
以下の表2に、回折撮像レンズ10の数値例を示す。
表2において、輪帯番号は、回折撮像レンズ10における光軸を中心とした同心円状の回折輪帯段差を、光軸25側から順に番号を付与したものである。ri(iは1以上の整数)は、各輪帯番号に対応した各輪帯段差の半径である。すなわち、riは光軸25側からi番目における回折輪帯段差の半径である。θminは、各輪帯段差を通る光線群のうちの最小入射角度であり、θmaxは各輪帯段差を通る光線群のうちの最大入射角度である。また、表2にはθmin、θmaxに対応した光線の半画角を示している。回折輪帯段差は29本あり、レンズ面中央すなわち光軸近傍は粗く、周辺部ほど細かくなっている。
図3において、光軸25に平行に光軸25から最も離れて回折撮像レンズ10に入射する光線が、回折格子形状と交差する点34の光軸25からの距離をRとする。より具体的には、点34で交差する光線は、半画角0°で第1面12aに入射し、かつ絞り24の上端を通った光線である。表2の実施例では、R=0.259mmである。
表2に示すように、輪対番号1−10までは、半画角0°の光線が入射する。輪対番号11以降は、半画角が0°より大きい光線のみが入射し、光軸25から離れるほど半画角の大きな光が通過する。すなわち、絞り25の上端を通る光線32aが回折格子形状と交差する点34(図3)を境に、入射光線の半画角の内訳が変化していることを意味する。半径riが前記のR=0.259mmを越えない最大の輪帯番号をkとすると、表2の例ではk=10となる。すなわち、riのうち、r10=0.257mmがR=0.259mmを越えない最大半径である。
次に、光軸に垂直で均一な明るさの面状の被写体を考えたとき、レンズ入射瞳に入射する光束量は、半画角ωに対してcosωの4乗に比例する。すなわち、半画角の大きな光線ほど画像に寄与する割合が小さくなる。前記の輪帯番号1−10の領域については、半画角の小さい光線の寄与が大きい。このため、垂直入射に近い角度で1次回折効率が最大になるようにし、各輪帯の段差量(回折格子形状の深さ)を同じとする。
一方、これより外周の輪帯番号11−29については、表2から分かるように、より外周にある段差ほど、最小入射光線の半画角が大きくなる。このため、光軸からの距離が離れるにつれて、段差量を小さくする。
このことについて、より具体的に説明する。波長λにおける屈折率をn(λ)とすると、m次回折効率が100%となる段差量dは、以下の式(2)で与えられる。
式(2) d=mλ/(n(λ)−1)
この式は、前記の式(1)と同じ式である。前記の通り、式(2)に基づいて、段差量dを設計した場合、垂直入射ではほぼ100%の1次回折効率が得られるが、入射角度θ(図16参照)に応じて、1次回折効率は低下してしまう。
ここで、前記の通り、図17の各図は、(a)図から(d)図の順に、入射角度θが大きくなっている。図17の各図から分かるように、入射角度θが大きくなるにつれて、1次回折効率が最大になる波長も大きくなっている。このことから、波長λを使用波長の中心波長より短くして深さdを設計すれば、使用波長の中心波長において、垂直入射では1次回折効率は低下するが、例えば入射角度θが30°のときに、1次回折効率はほぼ100%になる。
前記のように、入射角度θが大きくなるにつれて、1次回折効率が最大になる波長も大きくなる。このため、入射角度θのときに、1次回折効率が最大になるようにするには、入射角度θが大きくなる程、式(2)において、波長λを短く設定する程度も大きくなる。一方、波長λを短くするほど、式(2)により得られる段差量dは小さくなる。
したがって、段差量dを小さくするほど、同一の使用波長において、1次回折効率が最大になる入射角度θが大きくなる。このことにより、大きな入射角度θの光が入射する割合の大きい部分ほど、段差量を小さくすることにより、1次回折効率の低下を抑えることができることになる。
例えば、式(2)で求めたdに、入射角度θが大きくなるにつれて小さくなる補正係数を乗算することによって、段差量dの分布を設定することができる。以下の実施例では、このような補正係数の一例として、式(3)を用いた。
以下の表3に、表2に示した回折撮像レンズにおける回折輪帯の段差量の数値例を示す。
表3における段差量di(iは1以上の整数)は、半径riの位置に対応した段差の段差量である。すなわちdiは、光軸25側からi番目の半径riの位置における段差量である。図2に、半径riと段差量diとの関係を示している。
段差量d1−d29は、前記の式(2)で求めたdに、下記の式(3)で求めた補正係数βを乗算することによって得ることができる。
式(2)において、λは使用波長帯500−600nmの中心波長である550nmとし、屈折率n(λ)は1.5267とし、回折次数mは1とした。表3の補正係数βは、(cos0°)4=1、(cos30°)4=0.56を考慮して、以下の式(3)を用いた。
式(3) β=(cosθmin+0.56cosθmax)/1.56
まず、輪帯番号1−10では、表2の輪帯番号1−10における最小入射角度θminの平均値を2°、最大入射角度θmaxの平均値を18°とし、式(3)よりβ=0.982を得た。
輪帯番号11−29については、表2の各輪帯番号に対応した最小入射角度θmin、最大入射角度θmaxを、式(3)に代入して表3の各βを得た。
すなわち、半画角0°の光線が入射する輪帯番号1−10に対応する段差の段差量d1−d10は一定値である。これに対し、輪対番号11−29に対応する段差については、番号の増加とともに段差量を小さくしている。
なお、本実施例のような段差量の設定は、前記の通り、入射角度θの程度に応じて段差量を設定することにより、1次回折効率の低下を抑えることを目的としたものである。したがって、1次回折効率の値が目標とする基準値を満足する範囲内において、数値を適宜変更してもよい。例えば、本実施例では、d1−d10は一定値としたが、d1−d10の値は、一定値とみなせる程度にばらつきがあってもよい。
同様に、輪対番号11−29に対応する段差についても、番号の増加とともに段差量を小さくしているとみなせる程度に、数値を適宜変更してもよい。例えば、微小な一部分において、段差量が同一になっている構成や、段差量の大小関係が逆転している構成もあり得ることになる。本実施例では輪帯番号11−29のうち、隣接する段差の段差量が同じになる部分もあるが、微小な一部分に過ぎず、輪帯番号11−29の全体としてみれば、段差量は光軸からの距離が離れるにつれて小さくなっているものとみなすことができる。
また、各段差間では補正係数βに応じて段差と段差とが滑らかに連続して繋がるように回折格子形状を設定する。このようにして本実施の形態の回折撮像レンズにおける第2面の表面形状が決定される。
前記の通り、本実施の形態の回折撮像レンズは、回折格子形状の段差の段差量を一律に同じ大きさとするのではなく、回折格子形状に入射する入射光に応じて、表3のような分布を持たせている。このことにより、小さい半画角から30°までの大きな半画角のすべての光線に対して1次回折効率を100%近くにすることができる。すなわち、本実施の形態によれば、不要な回折光を低減することができ、広角かつ高い解像力の回折撮像レンズを実現することができる。
また、前記の通り図17の例は、中心波長500nmでは入射角度が増大するにつれて、1次回折効率が低下してしまう。図17の例は、中心波長からずれた波長540nm近傍の限定的な狭い波長領域に限り、入射角度が増大しても、1次回折効率を100%近くにすることができるに止まる。一方、入射角度が固定されていれば、前記の図15に示したように、中心波長を挟む波長100nmの範囲(図15の例では波長450−550nm)では、約95%以上の高い回折効率を達成することができる。
本実施の形態は、前記の例では中心波長550nmにおいては、入射角度が変化しても、1次回折効率を100%近くに維持できる。したがって、図15の例から推測すると、本実施の形態では、各入射角度において、中心波長550nmを挟む波長100nmの範囲(波長500−600nm)の範囲では、約95%以上の高い回折効率を達成し得ると考えられる。このため、本実施の形態は、図17の例に比べ、入射角度が変化しても、より広い波長領域に亘り高い回折効率を維持することができる。
ここで、元来、回折格子形状を有するレンズは、像面湾曲を小さくできるという特徴がある。これにより、平面である固体撮像素子で撮像すると、広角な画像を中央から周辺部までボケ量を少なくできる。しかし、従来の回折レンズを撮像用途に用いた場合、このような効果は前記のように限定的な狭い波長領域に限られ、回折レンズの優れた特徴が生かされていなかった。これは、使用波長幅を広げると不要回折光の発生により、画像のコントラストが低下し、周辺部のボケのない画像が劣化してしまうためである。
また、波長幅を狭くすると画像のコントラスとは向上するものの暗くなり、ノイズによるざらつきが目立つ画像しか得られなかった。
本実施の形態の回折撮像レンズは、高い回折効率を維持ができる波長幅が広く、大きな半画角を持った光線に対しても不要回折光の発生を抑えることができる。このため、回折レンズの像面湾曲の低減効果を最大限に引き出すことができる。
図2に示した本発明の撮像装置は、本実施の形態の回折撮像レンズを用いているために1枚のレンズにより、広角で高い解像度の画像を得ることができる。複数枚の組合せレンズ系でないため薄型、小型化が可能になる。さらに、各レンズの位置決め調整工程が不要になるので、レンズ枚数を削減でき、生産性、経済性にも優れている。このため、本実施の形態は、撮像携帯電話用のカメラ、車載用のカメラ、監視用又は医療用のカメラとして特に好適である。
なお、本実施の形態では、半径riがRの値を越えない最大の輪帯番号kがk=10の例で説明し、輪帯番号1−10に対応する段差量は一定値とした。これに対し、k=1又はr1>Rの場合は、段差量を一定値とした範囲を設けることなく、輪対番号1−29に対応する段差は、番号の増加とともに段差量が小さくなることになる。
また、本実施の形態の回折撮像レンズでは第1面は非球面を用いたが、第1面にも回折格子形状を設けてもよい。従来の段差が均等な回折格子形状を用いる場合、不要回折光の発生をできるだけ少なくするためには第1面側については回折格子段差の数を少なくするほうが望ましい。その一方で第1面から絞りの位置が被写体側に離れれば、第1面の周辺部には半画角が大きい光線のみが通るため、本実施の形態と同様に回折格子形状の段差分布を設ければ、不要回折光の発生を抑えることができる。
また、本実施の形態に係る回折撮像レンズは、一例を示したものであり、レンズ形状、レンズ材料、絞りサイズは、必要に応じて適宜変更すればよい。使用波長についても同様であり、使用波長が500−600nmの例で説明したが、これに限るものではない。すなわち、他の可視波長はもとより、近赤外や赤外での撮像に対しては、それぞれの波長に応じて適宜レンズ形状を変更すればよい。また、レンズ表面に反射防止コートを設けてもよい。
また、本実施の形態では第2面の回折輪帯の各段差量の算出には、式(3)により求めた補正係数βを用いた。前記の通り、大きな入射角度θの光が入射する割合の大きい部分ほど、段差量を小さくすることにより、1次回折効率の低下を抑えることができる。大きな入射角度θの光の割合が大きくなるほど、補正係数βが小さくなれば、それに応じて段差量が小さくなる。式(3)は、このような補正係数βを得る一例として示したものである。
したがって、補正係数βは式(3)の設定に限るものではなく、例えば、式(3)に代えて、下記の式(3′)を用いてもよい。
式(3′) β=(cosθmin+cosθmax)/2
また、式(3)、式(3′)では最小入射角度θminと、最大入射角度θmaxのみを用いて算出しているが、レンズ形状に応じて適宜、中間的な入射角度も含めて重み付けを変えてもよい。
すなわち、いずれの計算式を用いても、回折格子形状は、光軸付近は段差量が一定で、その外側は光軸から離れるにつれて段差量を小さくしている構成、又は光軸付近から外周部の全体に亘り、光軸から離れるにつれて段差量を小さくしている構成とすればよい。その際、各段差間の形状は段差が滑らかに繋がるように修正しておけばよい。
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2に係る回折撮像レンズについて説明する。前記の実施の形態1と重複する部分については、説明を省略する。図4は本実施の形態に係る回折撮像レンズの断面図を示している。回折撮像レンズ40は、単レンズである。
基材41の第1面42aには、非球面上に輪帯状の回折格子形状43aが形成されている。さらに、回折格子形状43aを覆うように保護膜44aが設けられている。第1面42aの対向面である第2面42bには、非球面上に輪帯状の回折格子形状43bが形成されている。さらに、回折格子形状43bを覆うように保護膜44bが設けられている。保護膜44a、44bは、下地の非球面形状を表面に反映するように塗布されている。なお、図面では見易さを優先するために、回折格子形状の段差や、レンズ形状については、概略的に図示している。
基材41の材料として、ポリカーボネート(d線屈折率1.585、アッベ数28)を用いている。保護膜44a、44bの材料として、アクリル系の紫外線硬化樹脂に粒径が10nm以下の酸化ジルコニウムを分散させた樹脂(d線屈折率が1.623、アッべ数40)を用いている。レンズの光軸上の厚みは1.3mmである。
以下の表4に、本実施の形態に係る回折撮像レンズ40の第1面42aと第2面42bの非球面係数及び位相係数を示す。
本実施の形態に係る回折撮像レンズ40の回折格子形状は、第1面42a、第2面42bとも1次の回折光を用いて最適な結像が得られるようにしている。
図5は、本実施の形態に係る回折撮像レンズ40を用いた撮像装置を示している。図5の構成では、回折撮像レンズ40は、回折撮像レンズ光学系の構成要素として用いている。より具体的には、回折撮像レンズ40に、近赤外カットフィルター52、フード53及び絞り54を加えて、回折撮像レンズ光学系を構成している。
被写体(図示せず)からの光51は、波長400−700nmの可視光全域が近赤外カットフィルター52を経て、フード53に入り、絞り54に至る。フード53では半画角ω(光軸55となす角)以上の光が光学系に入らないようになっている。図5の例ではω=30°である。
絞り54は、光軸55を中心としている。絞り54を経た光は、レンズの第1面42a、第2面42bを通り、固体撮像素子56に入射する。固体撮像素子56の各画素上に、RGBの各カラーフィルター(図示せず)があり、色情報が得られる。そして、固体撮像素子56にて検出された情報を用い、演算回路57にて処理をする。この処理後は、演算回路57に接続した適当な表示手段より被写体のカラー画像が表示される。絞り54の直径は0.43m、焦点距離は1.75mm、Fナンバーは4.06とした。
図6は、被写体からの波長550nmの光線が絞り54を経て、半画角が0°及び30°で入射した場合の光線経路を示している。
被写体からの光線が絞り54を経て、光軸55と平行に入射(半画角ω=0°)した場合の主光線が主光線61aである。このω=0°の場合において、絞り54の上端を通る光線が光線62aであり、絞り54の下端を通る光線が光線63aである。同様に、光線が光軸55と30°傾いて入射(半画角ω=30°)した場合の主光線が主光線61bである。このω=30°の場合において、絞り54の上端を通る光線が光線62bであり、絞り54の下端を通る光線が光線63bである。
なお、図6においては、第1面42a及び第2面42bの回折格子形状は省略して図示している。また、主光線とは、絞りの中央を通って光学系に入射する光線のことであり、半画角ωを指定すれば主光線は一意に決定される。
図6より、第1面42aはすべての領域において、半画角ωが0°−30°の全域で光線が通過していることが分かる。これは絞り54が第1面42aに近いためである。一方、第2面42bにおいては光軸55から遠い部分は半画角ωが大きい光線のみが通過しており、光軸55に近い部分は、半画角ωが0°付近の半画角ωの小さい光線が通過していることが分かる。
また、第1面42aと第2面42bの表面にそれぞれ形成された回折格子形状は光軸55に対称に、かつ光軸55と平行な方向に位相量の分布を持つ。このため、回折格子形状への入射角は、第1面42aでは第1面42aへの入射する光線と光軸55とのなす角となり、第2面42bでは第2面42bへ入射する光線と光軸55とのなす角となる。
第2面42bでは同じ半画角ωで入射する光線であっても、絞り54のどの位置を通過するかによって、第1面42aでの屈折角度が変化し、回折格子形状への入射角は異なる。
本実施の形態の回折撮像レンズ40では、図4に示したように第1面42a、第2面42b両面ともそれぞれ非球面上に回折格子形状が形成され、さらに回折格子形状を覆うように保護膜が設けられている。以下、このような構成における特徴について説明する。
図7は、保護膜で覆われた回折格子形状を示している。基材71に回折格子形状72が形成されている。回折格子形状72には、塗布された保護膜73が接合されている。回折格子形状72に垂直に入射する光線に対する1次回折効率が100%となる回折格子形状の深さd′は次式で与えられる。
式(4) d′=mλ/|n1(λ)−n2(λ)|
λは波長、mは回折次数、n1(λ)は基材71の材料の屈折率、n2(λ)は保護膜73の材料の屈折率である。式(4)の右辺が、ある波長帯域で一定値になれば、その波長帯域ではm次回折効率の波長依存性はないことになる。
このような効果を実現する条件は、基材71と保護膜73とを、高屈折率低分散材料と低屈折率高分散材料との組み合わせで構成することである。このような条件の下、基材71と保護膜73とに適当な材料を用いることにより、可視光域全域で垂直入射光に対する回折効率を95%以上にすることが可能である。
なお、この構成においては基材71の材料と保護膜73の材料とが入れ替わってもかまわない。また、回折格子形状72の深さd′は、前記の式(2)で示した保護膜のない回折格子形状の深さdよりも大きくなる。以下、m=1として1次の回折効率について説明するが、mは1に限定されるものではない。
本実施の形態に係る回折撮像レンズは、前記の通り、基材にポリカーボネートを用い、保護膜として紫外線硬化樹脂に酸化ジルコニウムの微粒子を分散させた材料を用いた。
図8は、このような材料を組み合わせた場合のブレーズ状回折格子へ垂直に入射する光線に対する1次回折効率の波長依存性を示す。段差d′は14.9μmとした。図8より、波長400−700nmの可視光全域にて、1次回折効率95%以上であることが分かる。
次に、図7において、入射角度θは、回折格子形状72に入射する光線の角度を示している。図9は、図7の回折格子において、入射角度θをパラメータとしたときの1次回折効率の波長依存性を示す図である。図9の各図は、(a)垂直入射、(b)θ=10°、(c)θ=20°、(d)θ=30°とした場合の1次回折効率の波長依存性を示している。
なお、図7では、基材71側から回折格子形状72に入射する光線について記載している。逆に保護膜73側から入射する光線に対しては屈折作用により、光線とのなす角(図7の入射角度θに相当)は、半画角より小さくなる。例えば、半画角30°の場合は約18°になる。
図9では、どの入射角度においても、前記の図17と比べると、波長400−700nmの可視光全域に亘り、回折効率の低下が抑えられていることが分かる。しかしながら、光線の角度が大きくなると、1次回折効率の波長依存性も変化し、一部の波長領域で1次回折効率の低下が起きている。この場合、不要な回折光が発生し、画像における色再現性の低下やコントラストの低下を引き起こしてしまう。
本実施の形態に係る回折撮像レンズは、このような課題に鑑みて以下のような構成とするものである。以下の表5に、本実施の形態の回折撮像レンズの数値例を示している。
表5において、輪帯番号は、回折撮像レンズ40の第2面42bにおける同心円状の回折輪帯段差を、光軸55側から順に番号を付与したものである。ri(iは1以上の整数)は、各輪帯番号に対応した各輪帯段差の半径である。すなわち、riは光軸55側からi番目における回折輪帯段差の半径である。θminは、各輪帯段差を通る光線群のうちの最小入射角度であり、θmaxは各輪帯段差を通る光線群のうちの最大入射角度である。また、表5にはθmin、θmaxに対応した光線の半画角を示している。回折輪帯段差は9本あり、レンズ面中央すなわち光軸近傍は粗く、周辺部ほど細かくなっている。
図6において、光軸55に平行に光軸55から最も離れて回折撮像レンズ40に入射する光線が、回折格子形状と交差する点45の光軸55からの距離をRとする。より具体的には、点45で交差する光線は、半画角0°で第1面42aに入射し、かつ絞り54の上端を通った光線である。表5の実施例では、R=0.214mmである。
表5に示すように、r1(0.339mm)>R(0.214mm)であるので、半画角0°の光線はどの輪帯にも交差しない。輪対番号が大きくなるとともに、すなわち光軸55から離れるほど半画角の大きな光のみが通過する。
実施の形態1で説明したように、光軸に垂直で均一な明るさの面状の被写体を考えたとき、レンズ入射瞳に入射する光束量は、半画角ωに対してcosωの4乗に比例する。すなわち、半画角の大きな光線ほど画像に寄与する割合が小さくなる。一方、輪帯番号が大きくなるにつれて、段差に入射する光線の半画角が大きくなる。このため、光軸からの距離とともに段差量(回折格子形状の深さ)を小さくする。このような段差量の設定にする理由は、前記実施の形態1で説明した通りである。
以下の表6に、表5に示した回折撮像レンズにおける回折輪帯の段差量(段差の深さ)の数値例を示す。
表6における段差量di(iは1以上の整数)は、半径riの位置に対応した段差の段差量である。すなわちdiは、光軸55側からi番目の半径riの位置における段差量である。図5に、半径riと段差量diとの関係を示している。
段差量d1−d9は、前記の式(4)で求めたd′に、補正係数βを乗算することによって得た。補正係数βは、(cos0°)4=1、(cos30°)4=0.56を考慮して、下記の式(5)を用いた。
式(5) β=(cosθmin+0.56cosθmax)/1.56
d′の算出には、式(4)において、λを使用波長帯400−700nmの中心波長である550nmとし、レンズ基材の屈折率n1(λ)は1.589とし、保護膜の屈折率n2(λ)は1.626とし、回折次数mは1とした。このときd′は14.9μmとなる。
補正係数βは、式(5)において、各輪帯番号に対する最小入射角度θmin、最大入射角度θmaxを代入して求めることができる。d′に各輪帯番号に対応した各補正係数を乗算して、回折輪帯の段差d1−d9を算出した。
また、各段差間では補正係数βに応じて段差と段差が滑らかに連続して繋がるように、回折格子形状を設定する。このようにして本実施の形態の回折撮像レンズ40における第2面42bの表面形状が決定される。
なお、表6の数値は、番号の増加とともに段差量を小さくしているとみなせる程度に、数値を適宜変更してもよいことは、前記実施の形態1と同様である。
一方、第1面42aについては、半画角の大きな光線が入射しても、保護膜44aで屈折するため、回折格子形状43aに入る入射角は半画角よりも小さい角度で入射する。例えば半画角30°で入射した光線は、保護膜44aで屈折し光軸とのなす角が約18°にまで角度が低減されて回折格子形状43aに入射する。
また、回折格子形状の回折輪帯が2本しかなく、段差が同一でも不要回折光を小さくすることができる。本実施の形態の回折撮像レンズは、2本の段差は同じ14.9μmとした。
本実施の形態の回折撮像レンズは、第2面42bの回折格子形状の段差量が表6のような分布を持つことにより、小さい半画角から30°までの大きな半画角のすべての光線に対して1次回折効率を100%近くにすることができる。これにより不要な回折光を低減することができ、広角かつ高い解像力の回折撮像レンズを実現することができる。また、本実施の形態の回折撮像レンズは不要回折光が非常に少ないため、回折レンズの像面湾曲収差の低減を最大限に引き出すことができる。
このような効果は、前記実施の形態1と同様であるが、本実施の形態では、実施の形態1の構成に加え、回折格子形状を保護膜で覆って、回折効率の波長依存性を抑えている。このことにより、本実施の形態は、実施の形態1に比べ、さらに広い波長領域に亘り高い回折効率を維持することができる。
また、図5に示した本発明の撮像装置は、本実施の形態の回折撮像レンズ40を用いているため、1枚のレンズで高い解像度で広角な画像を得ることができる。この点についても、前記実施の形態1と同様である。すなわち、複数枚の組合せレンズ系でないため薄型、小型化が可能になる。さらに、各レンズの位置決め調整工程が不要になるので、レンズ枚数を削減でき、生産性、経済性にも優れている。このため、本実施の形態は、撮像携帯電話用のカメラ、車載用のカメラ、監視用又は医療用のカメラとして特に好適である。
次に、図10は、本実施の形態の第2の例に係る回折撮像レンズの断面図を示している。回折撮像レンズ100は、使用波長として例えば600−700nmなどの100nm以下の波長幅としたものである。
基材101の第1面102aは、保護膜104で覆われた回折格子形状103aを設けている。第2面102bは、実施の形態1と同様の構成であり、保護膜は設けず、回折格子形状103bは周辺部に進むほど、段差量を小さくしている。第1面の回折格子形状103aの段差は均等、不均等のどちらでもよい。
図10の構成では、半画角30°で入射した光線は保護膜104で屈折し、光軸とのなす角が約18°程度にまで低減されて回折格子形状103aに入射する。
ここで、図9から分かるように、どの入射角度においても、波長600−700nmの範囲では、1次回折効率の低下は小さくなっている。このうち、図9(c)の入射角度が20°のときに、特に良好な結果を示している。このため、図10の構成のように、半画角30°で入射した光線を約18°程度の入射角度に低減できる構成は、1次回折効率の低下防止に有利な構成であるといえる。
また、図9の各図を波長域全体で比較してみると、入射角度が小さくなるほど、1次回折効率の低下は小さくなっている。このことからも、図10の構成のように、入射角度を低減できる構成は、1次回折効率の低下防止に有利な構成であるといえる。
また、本実施の形態は、図4に示したように、回折撮像レンズ40は、回折格子形状43bが保護膜44bで覆われた構成である。前記の通り、式(4)において、1次回折効率が最大となるd′が使用波長の依存性がなく一定になるためには、回折格子形状43bを有する基材41と保護膜44bの材料とが、高屈折率低分散材料と低屈折率高分散材料との組合せで構成する必要がある。
このような屈折率条件を満たす材料であれば、材料は前記の材料に限らない。この場合において、基材41、保護膜44bとも樹脂を主成分とし、特に基材41については生産性の良好な熱可塑性樹脂が望ましい。このため、本実施の形態のように、低屈折率高分散材料として、熱可塑性樹脂材料を基材41に用い、高屈折率低分散材料として、樹脂に無機粒子を分散させた材料を保護膜44bに用いることが望ましい。
また、本実施の形態では保護膜44bの材料として、前記のように、アクリル系の紫外線硬化樹脂に酸化ジルコニウムの微粒子を分散させた材料を用いた。紫外線硬化樹脂等の光硬化樹脂を用いることにより、塗布や、型による表面形状の成型ができ保護膜形成が容易になる。
また、分散させる無機粒子としては、無色透明な酸化物材料が望ましい。特に高屈折率低分散の保護膜を実現するためには、高屈折率低分散の無機材料が必要である。具体的には、本実施の形態で示した酸化ジルコニウム以外に、酸化イットリウムや酸化アルミニウムが挙げられる。これらの酸化物は、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
また、回折撮像レンズ40は、第1面42aは保護膜44aで覆われた例で説明したが、保護膜44aのない非球面形状でもよい。
また、本実施の形態に係る回折撮像レンズは、一例を示したものであり、レンズ形状、レンズ材料、絞りサイズは、必要に応じて適宜変更すればよい。使用波長についても同様であり、使用波長が可視波長の例で説明したが、これに限るものではない。すなわち、近赤外や赤外での撮像に対しては、それぞれの波長に応じて適宜レンズ形状を変更すればよい。また、レンズ表面に反射防止コートを設けてもよい。
また、表6では、輪対番号1−9に対応する段差量d1−d9は、番号の増加とともに小さくなる例で説明したが、半径riがRの値を越えない最大の輪帯番号kが存在する場合は、実施の形態1と同様に、輪帯番号1−kに対応する段差量は一定値とすればよい。この際、段差量を一定値にした構成には、段差量が一定値とみなせる程度にばらつきがある構成も含むことは、前記実施の形態1と同様である。
また、補正係数βは式(5)に限るものではないことも、前記実施の形態1と同様である。本実施の形態では第2面の回折輪帯の各段差量の算出には、式(5)により求めた補正係数βを用いたが、式(5)に代えて、前記の式(3′)を用いてもよい。
また、式(5)では最小入射角度θminと、最大入射角度θmaxのみを用いて算出しているが、レンズ形状に応じて適宜、中間的な入射角度も含めて重み付けを変えてもよいことも、前記実施の形態1と同様である。
すなわち、前記実施の形態1と同様に、いずれの計算式を用いても、回折格子形状は、光軸付近は段差が一定で、その外側は光軸から離れるにつれて段差量を小さくした構成、又は光軸付近から外周部の全体に亘り、光軸から離れるにつれて段差量を小さくした構成とすればよい。その際、各段差間の形状は段差が滑らかに繋がるように修正しておけばよい。
(実施の形態3)
図11は、本発明の一実施の形態に係る撮像装置の光軸に沿った断面図である。撮像装置110は、回折撮像レンズを備えた回折撮像レンズ光学系と固体撮像素子とで構成したユニットを複数備えた複眼式の撮像装置である。レンズアレイ111に、2つのレンズ112a、112bが一体化されている。2つのレンズ112a、112bは、互いに独立した両面非球面の上に、片面にのみ回折格子形状が形成された単レンズである。これらの各レンズは、実施の形態1に係る回折撮像レンズに相当する。回折撮像レンズであるこれらの各レンズに、絞り(図示せず)を組み合わせて回折撮像レンズ光学系を構成している。
レンズ112aの光軸113aと、レンズ112bの光軸113bは、平行である。図11に示すように、光軸113a、113bと平行な方向をZ軸とする。ホルダー115上に、2個の固体撮像素子114a、114bが配置されている。各固体撮像素子114a、114bは、白黒のセンシングを行い、内部に波長500−600nmの光を透過するカラーフィルター(図示せず)を備えている。
2つのレンズの光軸113a、113bは、それぞれ2つの固体撮像素子114a、114bの略中心(矩形状の固体撮像素子の対角線の交点)を通過する。したがって、各固体撮像素子114aと114bとの中心間隔と、レンズ112aと112bとの中心間隔Dとはほぼ等しい。
被写体からの光は、レンズ112a、112bによって結像され、緑色の光のみが固体撮像素子114a、114bにそれぞれ入射し、画素ごとに電気信号に変換される。固体撮像素子114a、114bのそれぞれの電気信号情報は、演算回路116a、116bで処理され、いずれかの演算回路信号から表示手段によって画像が表示される。
このような複眼式の撮像装置は、画像表示だけでなく、レンズ112a、112b毎の画像間に生じる視差を利用して、被写体の距離を測定することができる。視差については、画像比較処理回路117によって、演算回路116a及び演算回路116bで得た画素情報を比較、演算することで抽出することができる。
図12は、視差を用いて被写体の距離を測定する原理図である。被写体121からの光を、レンズ122aを通して得た像が被写体像123aであり、レンズ122bを通して得た像が被写体像123bである。被写体上の同一点は、視差Δだけずれて固体撮像素子124a、124bにそれぞれ至り、固体撮像素子上にある画素で受光され、電気信号に変換される。
レンズ122aの光軸とレンズ122bの光軸との間の距離をD、レンズ112a、112bと被写体121との間の距離をG、レンズ112a、112bの焦点距離をfとし、Gがfより十分大きいとすると、下記の式(6)が成り立つ。
式(6) G=Df/Δ
式(6)において、距離をD及び焦点距離fは既知である。また、視差Δは、前記の通り、画像比較処理回路117によって、演算回路116a及び演算回路116bで得た画素情報を比較、演算することにより抽出することができる。
例えば、固体撮像素子124a、124bで得られた画像を、それぞれ複数のブロックに分割し、固体撮像素子124aに対応したあるブロックを選択し、これに酷似した固体撮像素子124bに対応したブロックを抽出し、両ブロックの位置の比較により、視差を算出することができる。
式(6)に既知のD、f、及び抽出したΔを代入して、被写体121までの距離Gを算出することができる。すなわち複眼式の撮像装置では画像を得るだけでなく、測距センサーの機能をも有することになる。
本実施の形態に係る撮像装置は、本発明に係る回折撮像レンズを用いているため、下記のような効果が得られる。すなわち、解像度が高いため、画素ピッチの細かい固体撮像素子を用いることができ、視差Δの検出精度が上がり、被写体の測距精度が向上する。また、広角な画像が撮影できるため、測距できる被写体の位置は撮像装置の光軸付近だけでなく、広い画角範囲に拡大できる。従来の回折撮像レンズに比べ、使用できる波長幅が広くできるため、明るい画像が得られる。通常、固体撮像素子の画素ピッチが小さくなると画像が暗くなるが、これを補うことが可能となる。
さらに、複数枚のレンズの組合わせで構成した光学系ではなく、単レンズであるので、同じ焦点距離fを実現する場合、相対的に撮像装置の厚みを薄くすることができる。また、レンズの実装も簡易になる。
なお、本実施の形態の撮像装置は使用波長として500−600nmとしたが、これに限るものではない。他の可視波長はもとより、近赤外や赤外での撮像に対しても、それぞれの波長に応じて適宜レンズ形状を変更して用いればよい。
また、レンズの数は2個の複眼式の例で説明したが、レンズが3個以上の複眼式であってもよい。
また、実施の形態2の回折撮像レンズを用い、固体撮像素子内の内部にベイヤー配列などのRGBのカラーフィルターを用いればカラー画像の表示と、被写体の測距が可能となる。
また、本実施の形態では、複数の固体撮像素子を用いているが、1つの固体撮像素子の撮像領域を分割して利用してもよい。
本発明の回折撮像レンズ及び回折撮像レンズ光学系は、広角で高い解像力を有しているので、カメラなどの撮像装置に有用である。特に、携帯電話用のカメラ、車載用のカメラ、監視用、又は医療用のカメラのレンズ及びレンズ光学系として好適である。
本発明の実施の形態1に係る回折撮像レンズの断面図。
本発明の実施の形態1に係る撮像装置の構成図。
本発明の実施の形態1に係る回折撮像レンズ光学系において、半画角が0°及び30°の場合の光線経路図。
本発明の実施の形態2に係る回折撮像レンズの断面図。
本発明の実施の形態2に係る撮像装置の構成図。
本発明の実施の形態2に係る回折撮像レンズ光学系において、半画角が0°及び30°の場合の光線経路図。
保護膜で覆われた回折格子形状を示す構成図。
図7の構成における1次回折効率の波長依存性を示す図。
図7の構成において、入射角度をパラメータとしたときの1次回折効率の波長依存性を示す図。
本発明の実施の形態の第2の例に係る回折撮像レンズの断面図。
本発明の実施の形態3に係る撮像装置の構成図。
視差を用いて被写体の距離を測定する原理図。
従来の複眼式カメラモジュールの主要部の構成の一例を示す図。
従来の回折格子形状の一例を示す図。
従来の回折格子の1次回折効率の波長依存性の一例を示す図。
従来の回折格子に入射する光線配置の一例を示す図。
従来の回折格子において、入射角度をパラメータとしたときの1次回折効率の波長依存性の一例を示す図。