JPWO2007097043A1 - クラッチ部材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明はクラッチ部材とその製造方法に関する。本発明の目的は、打抜き成形性に優れた鋼板を用いて打ち抜き成形後、熱処理を施すことで所望の耐摩耗性と平坦度を有する安価なクラッチ部材とその製造方法を提供することである。本発明のクラッチ部材は、平坦部を有する所定形状のクラッチ部材であって、質量割合にて、C:0.32〜0.38%、Si:0.15%以下、Mn:0.3〜0.5%、Cr:0.16〜0.60%を含み残部がFe及び不可避的不純物からなり、平均粒径が0.1〜1.2μmの炭化物の均一分散組織を有する鋼板を素材とし、打抜き成形、熱処理を順次施し、所定数値範囲の引っ張り強度、硬さ、衝撃値、平坦度を有する。

Description

本発明は自動車などのクラッチ部材とその製造方法に関し、主として乾式単板クラッチにおけるクラッチハブとその製造方法に関する。
従来、乾式単板クラッチにおけるクラッチハブは、SCM435やSCr435あるいはSCM440などの合金鋼の熱延鋼板を焼鈍した鋼板を素材として、この鋼板を所定形状に打抜き成形し、さらに熱処理を施して製造されている。しかし、これらの合金鋼は素材の硬度が硬いため、打抜き成形時に歪みやむしれなどといった成形不具合を発生する場合がある。
このため、焼鈍温度の適正化や焼鈍時間を長くすることで素材の軟化を促進することが考えられる。しかし、素材のコストアップを余儀なくされるにもかかわらず、このような手段を講じても工具寿命を含め必ずしも安定した打抜き成形性は得られていない。
また、前記の合金鋼では熱処理後の靱性が低いという問題がある。靱性を向上させるためには焼戻し温度を高くすればよいが、この場合には強度低下を招き所望の強度と靱性とが両立しないという問題がある。
さらに、合金鋼では打抜き成形時に発生する歪みやその後の熱処理による歪みも付加されるために、熱処理後にプレステンパーなど歪みを矯正する矯正工程を設けなければならない。このため生産性を阻害するとともに製造コストを増大させるという問題もある。
ところで、特開平5−098357号公報には、成形性と靱性に優れた高鋼炭素薄鋼板の製造方法に関する技術が開示されている。しかしここで開示されている鋼組成では、Mn含有量が0.6〜1.50質量%と高く、成形工程前に焼鈍による軟化を行っても十分な打抜き成形性の改善は期待できない。
また、特開2002−121647号公報には、成形性と耐摩耗性に優れた熱処理鋼板とその製造方法が開示されている。そして、成形加工前の鋼板の内部組織としては、球状化セメンタイトと面積率で10%以下でかつ、直径で10μm以下のグラファイトを含む組織を提案している。しかし、熱処理は、高周波誘導加熱による熱処理を例示しており、この技術を直ちにクラッチ部材の製造に適用することはできない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、打抜き成形性に優れた鋼板を用いて、打抜き成形および熱処理を施すことで、所望の耐摩耗性と平坦度とを有する安価なクラッチ部材とその製造方法とを提供することを課題とする。
本発明者は、鋼板中のSiとMnの含有量を減少させることで素材の軟化を促進し、CrとBとを適正量含有させることにより焼入れ性を確保できることに着目した。そして、良好な打抜き成形性と好適な焼入れ性とを付与することで熱処理材の歪み発生を大幅に抑制して、従来の合金鋼では必須であった歪み矯正工程が省略可能であることを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明のクラッチ部材は、平坦部を有する所定形状のクラッチ部材であって、質量割合にて、C:0.32〜0.38%、Si:0.15%以下、Mn:0.3〜0.5%、Cr:0.16〜0.60%を含み残部がFe及び不可避的不純物からなり、平均粒径が0.1〜1.2μmの炭化物の均一分散組織を有する鋼板を素材とし、打抜き成形、熱処理を順次施し、引張強度が1307〜1633MPa、硬さが400〜500HV、衝撃値が70J/cm以上で、かつF=d/D×100で定義される平坦度Fが、0.15%以下であることを特徴とする。ただし、dは前記平坦部の反り(水平面からの離間距離)であり、Dはクラッチ部材の外接円の直径である。
本発明のクラッチ部材において、素材となる鋼板は、引張強度が450MPa以下、硬さが150Hv以下であることが望ましい。
また、本発明のクラッチ部材の製造方法は、質量割合にて、C:0.32〜0.38%、Si:0.15%以下、Mn:0.3〜0.5%、Cr:0.16〜0.60%を含み残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板を軟化する焼鈍工程と、
焼鈍された鋼板を所定形状の板状素材に形成する打抜き成形工程と、成形された板状素材に熱処理を施し熱処理材とする熱処理工程とを有し、従来必須とされていた熱処理材の歪みを矯正する矯正工程を省略することを特徴とする。
ここで、焼鈍工程は、650〜700℃で10〜50時間加熱する工程であり、また、熱処理工程は、840〜880℃で1〜2時間加熱後、60〜70℃の油中に投入する焼入れ処理と、260〜320℃で1〜2時間加熱する焼戻し処理とからなることが望ましい。
本発明のクラッチ部材に用いる鋼板は、SiとMnの含有量が従来の素材である合金鋼に比べて低く抑えられている。このため、焼鈍による素材の軟質化は容易であり、引張強度が450MPa以下、硬さが150Hv以下の素材を得ることができる。このため鋼板素材に良好な打抜き成形性を付与することができる。また、打抜き成形性工程では、従来の合金鋼に比べて金型などの工具寿命を約1.5倍程度向上することが可能となる。
さらに、適正量のBとCrとを含有しているので、これらの効果により熱処理時に結晶粒の粗大化を抑制することできる。従って、従来の合金鋼と硬度はほぼ同等でありながら靱性を約20%向上することができる。靱性の向上により製品の板厚を薄くすることが可能となり、クラッチ製品の小型軽量化および省スペース化を図ることができる。
また、矯正工程を施すことなく部材の歪みを低減できることから、大幅な生産性の向上とコストダウンとが期待できる。歪みを低減することでクラッチ製品の偏芯(フレ)を抑えることができ、小型軽量化と相まってクラッチのシフトフィーリング性を向上することが可能となる。
図1は、本発明のクラッチ部材であるクラッチハブの一例を示す平面図である。
図2は、図1のx−x断面図である。
図3は、本発明のクラッチ部材の製造方法を説明するブロック図である。
A.実施の形態
(鋼板の組成)
まず、本発明における鋼板の組成の限定理由について説明する。
(1)C含有量:0.32〜0.38%(質量%、以下同様)
Cは、鋼の焼入れ性を高める元素であり、最終製品の強度を確保するために有効な成分である。この効果を得るためにはC含有量を0.32%以上としなければならない。しかし、その含有量が0.38%を超えると打抜き成形性が低下する。従って、C含有量は0.32〜0.38%とする。
(2)Si:0.15%以下
Siは、フェライトに固溶する元素であり固溶強化により素材強度を上昇させる。しかし、過剰量が添加されると素地を硬くして打抜き成形性を低下させる。従って、Si含有量は0.15%以下とする。
(3)Mn:0.30〜0.50%
Mnは、焼入れ性を確保するために添加が不可欠な元素である。耐摩耗性が要求されるクラッチ部材の硬さを安定して得るには0.30%以上としなければならない。しかし、Siと同様に過剰に添加した場合には、打抜き成形前の素材の硬さを上昇させる。従って、Mn含有量は、0.30〜0.50%とする。
(4)Cr:0.16〜0.60%
Crは、焼入れ性の改善に有効な合金成分であるが、0.16%未満では添加効果が顕著ではなく焼入れ後の硬さが不足するとともに、焼入れ時の冷却速度依存性が大きくなるため、焼入れ後の硬さが不安定になりやすい。しかし、0.60%を超えて多量のCrが含有されると、焼入れ前の打抜き成形性が著しく劣化する。従って、Cr含有量は0.16〜0.60%とする。
(5)B:0.0010〜0.0050%
Bは、極微量の添加で鋼材の焼入れ性を大幅に向上させるとともに、粒界のエネルギを低下させることによって粒界を強化する作用を呈する。0.0010%以上含有させることでその効果が顕著となる。また、熱処理材の硬さを安定して得るためにも必要な合金成分であるが、0.0050%を超えて過剰に含有しても、その効果が飽和して逆に靱性を劣化させることがある。従って、B含有量は0.0010〜0.0050%とする。
(素材の内部組織)
打抜き成形前の素材の内部組織は、平均粒径が0.1〜1.2μmの炭化物の均一分散組織とする。ここで、炭化物の均一分散組織とは、炭化物が球状化しており、かつ球状化炭化物が偏在することなくフェライト中に均一に分散している内部組織をいう。
炭化物の粒径は、打抜き成形性におけるボイドの発生に大きく影響する。炭化物が微細になり、均一分散することでボイドの発生は抑制できるが、炭化物の平均粒径が0.1μm未満になると、硬度の上昇に伴い延性が悪化することで破断が生じやすくなり打抜き成形性は低下する。また、炭化物の平均粒径が1.2μm以上になると、強加工した際にボイドの発生によりダレが大きくなってむしれが発生しやすくなり打抜き成形性が低下する。従って、炭化物の平均粒径は0.1〜1.2μmに制御する。なお、炭化物の平均粒径は、焼鈍処理における焼鈍温度により制御することができる。ここで、炭化物の粒径については、炭化物の長径と短径との平均を個々の炭化物の粒径とし、この個々の炭化物の粒径を平均した値を炭化物の平均粒径とする。
(クラッチ部材の特性)
次に、本発明のクラッチ部材の具備すべき特性について説明する。
(1)引張強度:1307〜1633MPa、
例えば、乾式単板クラッチにおけるクラッチハブは高回転、高出力なので、一般に一体型のものよりも高強度であることが要求される。従って、下限を1307MPaとする。しかし、焼入れ材により安定して得られる強度には限界があるので上限を1633MPaとする。
(2)表面硬さ:400〜500HV(荷重:1kg)
表面硬さはクラッチ部材の耐摩耗性を確保するために重要な特性であり、400HV未満では摺動部に摩耗が発生することがあり好ましくない。また、500HVを超えて硬いと相手材を攻撃したり遅れ破壊を生じることがあるので適当ではない。
(3)衝撃値:70J/cm以上
クラッチ部材において衝撃値は製品性能を確保するために重要な特性である。高い衝撃値を有することで薄肉化が可能となり、クラッチの省スペース化、小型軽量化を図り、設計の自由度を増すことができる。また、フレの抑制とともにクラッチのシフトフィーリング性を向上することができる。このため、70J/cm以上とする。
(4)平坦度F:クラッチ部材(熱処理材)の外接円の直径Dに対する平坦部の反りdの割合F=d/D×100が0.15%以下
クラッチ部材、中でもクラッチハブは回転体であるのでその平坦度は極めて重要である。平坦度を高めることでクラッチハブの偏芯を抑制し、クラッチのシフトフィーリング性を向上することができる。このため平坦度Fを0.15%以下とする。
(クラッチ部材の製造方法)
次に、本発明のクラッチ部材の製造方法について図3を参照しながら説明する。
本発明のクラッチ部材の製造方法は、鋼板を軟化する焼鈍工程S1と、焼鈍された鋼板を所定形状の板状素材に形成する打抜き成形工程S2と、成形された板状素材に熱処理を施し熱処理材とする熱処理工程S3とを有し、熱処理工程S3は、焼入れ処理S31と、焼戻し処理S32とからなる。
(1)焼鈍工程S1
焼鈍は熱延鋼板中のパーライト組織をセメンタイトに球状化するためにバッチ焼鈍により行う。この時、焼鈍温度は650〜700℃であることが望ましい。焼鈍温度が650℃未満ではパーライト組織が球状化したセメンタイトにならないので好ましくない。また、700℃を超えて高い温度では部分的に炭化物が粗大化することがあり炭化物の均一分散組織を得ることができない。より望ましくは670〜690℃である。
また、焼鈍時間は10時間以上とするとよい。しかし、あまり長時間の焼鈍は炭化物の粗大化を生じたりエネルギの無駄ともなるので50時間程度を上限とする。このような焼鈍を施すことにより、熱延鋼板の球状化レベルを均一分散組織とて良好な打抜き成形性を付与することができる。
(2)打抜き成形工程S2
打抜き成形工程については特に限定はなく、従来実施されている周知のプレス打抜きとすればよい。しかし、打抜き成形により生じる抜き歪みを軽減するために可能な範囲で金型のクリアランスを小さくすることが望ましい。
(3)熱処理工程S3
熱処理工程は、焼入れ処理S31と焼戻し処理S32とからなる。
焼入れ処理S31では、焼入れ組織中にフェライト組織の残留がないようにAc3温度以上で均熱する必要がある。一般鋼板ではこの温度域で長時間均熱を行った場合、オーステナイト粒が異常成長して焼入れ後の靱性を著しく阻害することがある。しかし、本発明の熱延鋼板は所定量のBとCrとを含有しているので、オーステナイト粒の粗大化を抑制して結晶微細化を図ることができ、熱処理後の靱性を向上することができる。また、均熱温度は、熱処理材の結晶粒の粗大化や焼入れ歪みを防止するために900℃以下とすることが望ましく、従って、840〜880℃で1〜2時間均熱するとよい。
焼入れ時の冷媒は、歪みの発生を防止する目的で過度の急冷は好ましくなく60〜70℃の油焼入れとすることが望ましい。
焼戻し処理工程S32は、焼入れ処理により得られたマルテンサイト中の自由転位を固着するために実施するもので、低温かつ短時間で施せばよい。すなわち、260〜320℃で1〜2時間とすることがよい。
従来のクラッチ部材の製造方法では、優れた平坦度を得るために熱処理材にプレステンパーなどの歪み矯正工程を施すことを必須としていた。すなわち、熱処理材に加圧力を加え400〜420℃に加熱して120分程度矯正することで0.2%以下の平坦度Fを得るようにしていた。しかし、本発明によればこのようなプレステンパー処理を施すことなく平坦度Fが0.15%以下のクラッチ部材を得ることができ、生産のリードタイムを短縮できるとともに、大きなコストダウンが期待できる。
B.試験例
以下、試験例によって本発明をさらに詳しく説明する。
(試験例1)
表1に示す各組成を有する厚さ5.6mmの熱延鋼板を焼鈍して素材とし、この素材から図1に示すクラッチハブを打抜き成形した。そして得られた成形素材の機械的性質や内部組織と成形性との関係を調べた。
Figure 2007097043
各鋼板に対する焼鈍条件は以下の通りである。No.1、2、5、6、7については680℃×50H(焼鈍条件A)の焼鈍を行った。また、No.2と同一組成の熱延鋼板に680℃×20H→730℃×20H→680℃×20H(焼鈍条件B)を施してNo.3とした。No.4はNo.1と同一の鋼種で焼鈍を施さなかった熱延ままのものである。なお、焼鈍条件BはCが0.45%以上の高炭素鋼の軟質化焼鈍(球状化焼鈍)に一般的に適用される焼鈍条件の一例である。
板状素材の機械的性質はJIS Z 2201(金属材料引張試験片)に規定する5号試験片を用い、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に準じて実施した。素材硬度は、板状素材の表面の任意の3箇所についてビッカース硬度(荷重:1kg)HVを測定し、その平均値である。
また、焼鈍後の組織(球状化レベル)は、板状素材から適宜の大きさの試料を採取し、板厚断面を通常の光学顕微鏡で観察して次のように判定した。すなわち、セメンタイトの形状のバラツキが少なく、粒径が0.1〜1.2μmで球状化しており、組織に均一に分散しているものを「均一分散」とし、セメンタイトの形状バラツキが大きく粒径が1.2μm以上のものが分散しているものを「粗大分散」と判定した。また、フェライトとパーライトが混在しているものについては表中では「F+P」で示した。
成形性は、打抜き加工後の板状素材を目視観察し、端面に破断面が認められるものを「破断」、端面の一部に剪断面以外が認められるものを「むしれ」とし、打抜き端面が全周にわたって剪断面で形成されているものを「良好」と判定した。また、工具寿命は、連続して打抜き成形を実施し、打抜き端面に破断面又はむしれが発生して加工を停止するまでに打抜き成形した板状素材の個数とした。結果を表2に示す。
Figure 2007097043
表2から分かるように、本発明の対象となるNo.1および2では内部組織における球状化レベルが均一分散であり、素材の引張強度が450MPa以下で硬度が150HV以下であるので、打抜き成形性は良好であった。また、プレス工具の寿命も6000個とNo.7の従来の合金鋼による工具寿命に比べ1.5倍となった。
No.3はNo.2と同一組成の熱延鋼板に焼鈍条件Bの焼鈍を施したものである。引張強度、素材硬度ともに発明材であるNo.1、2よりも低いにも係わらず、過焼鈍のために内部組織の球状化レベルが粗大分散となり、ために板状素材の端面は破断面となった。
供試材No.4は上記のように供試材No.1と同一組成の熱延鋼板で焼鈍を施さなかったものである。熱延まま材であるので、引張強度、素材硬度ともに高く、また、内部組織もフェライトとパーライトの混在組織のままであり、板状素材の端面は破断面となった。また、工具寿命も約800個と極めて短いものであった。
No.5は、C、Si、Cr、Bが本発明で規制する範囲を満足していない。しかし、内部組織は、発明材と同様に球状化レベルが均一分散であり、打ち抜き成形性は良好であった。また、引張強度が450MPa以下であり、素材硬度が150HV以下であるのでプレス工具の寿命も6500個と良好であった。しかし、炭素含有量が低いので後述するように焼入れ後の必要強度を満足することができなかった。
No.6は、C、Siが本発明で規制する範囲を満足していない。しかし、No.5と同様に、球状化レベルが均一分散であり、打ち抜き成形性は良好であった。また、引張強度が450MPa以下であり、素材硬度が150HV以下であるのでプレス工具の寿命も6400個と良好であった。しかし、No.5と同様に炭素含有量が低いので焼入れ後の必要強度を満足することができなかった。
No.7の鋼種は、クラッチ部材として従来一般的に用いられている合金鋼のSCM435である。この鋼種はSi、Mn、Crが本発明で規制する範囲を満足せず、かつMoを含有している。このため発明材と同様の焼鈍条件Aでは、打ち抜き加工に適した軟化状態とすることができず、引張強度が450MPa以上であり、素材硬度も150HV以上であった。そして、内部組織の球状化レベルが均一分散であるにもかかわらず、板状素材の端面はむしれ状態となった。また、工具寿命も約4000個と短く満足できるものではなかった。
(試験例2)
試験例1で得られた各板状素材に熱処理を施し、熱処理後の機械的性質、硬さ、衝撃値、および、平坦部の反りを測定して平坦度Fを求めた。
なお、熱処理は、860℃×1時間の加熱後70℃の油中に焼き入れし、その後、No.1〜6の供試材には260℃×1時間の焼戻し処理を施した。No.7には430℃×1時間の焼戻し処理を施した。結果を表3に示す(平坦度Fの結果は表2に併記した。)。
熱処理後の機械的性質はJIS Z 2201(金属材料引張試験片)に規定する5号試験片を用い、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に準じて実施した。熱処理後の衝撃値はJIS Z 2202(金属材料衝撃試験片)に規定するVノッチ試験片を用い、JIS Z 2242(金属材料衝撃試験方法)に準じて実施した。
平坦度Fは、熱処理後の熱処理材を定盤上に配置し、マイクロゲージ(ミツトヨ社製、513−424)を用いて図2に示す反りd(内側から外側へ向けての高低差)と図1に示す熱処理材の外接円の直径Dを測定して平坦度Fを算出した。
ここで、図1および図2に示すクラッチハブについて説明する。図1は平面図であり、図2は図1のx−x断面である。クラッチハブ1は鋼板を打ち抜いて成形されており、図示しない被駆動部となる変速機のシャフトに係合する基部12と、基部12から外周方向に延伸する舌状の平坦部14とが一体的に形成されている。また、基部12の中央には中心穴16が設けられており、この中心穴16にはその外周に沿ってシャフトに係合するスプライン18が形成されている。図1のクラッチハブ1では4個の平坦部14が設けられている。なお、図1における鎖線Cは直径Dのクラッチハブ(熱処理材に同じ)の外接円である。また、クラッチハブ1の平坦部14は定盤などの水平面Hに対して歪み(反り)を有している。その歪み量は、例えば、平坦部14aではd1であり、平坦部14cではd3である。同様に平坦部14bではd2、平坦部14dではd4である。そして、このクラッチハブ1(熱処理材)の歪みdは、d=(d1+d2+d3+d4)/4とする。
Figure 2007097043
No.1、2、3、4、7は、機械的性質と熱処理後の硬さは本発明で規制する範囲を満足した。しかし、表1では発明材と同様に全ての評価項目で良好であったNo.5、6は、C含有量を始め本発明で規定する成分範囲を逸脱する成分組成を含むために熱処理後の引張強度や硬さが低くなり、本発明で規制する機械的性質と硬さの範囲を満足できなかった。また、No.7は、引張強度を他の供試材に合わせるために430℃という高温で焼戻し処理を行ったが、衝撃値は58J/cmと本発明で規制する衝撃値を満足することができなかった。
平坦度FについてはNo.1、2、5、6が本発明で規制する範囲を満足することができた。
以上の試験例1および試験例2の結果から、本発明のNo.1およびNo.2のクラッチ部材が本発明の各項目の全てについてその規制範囲を満足できることが分かる。
なお本発明は上記の試験例に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更してもよい。例えば、試験例では素材を熱延鋼板としたが、冷間圧延材としてもよい。
本発明のクラッチ部材およびその製造方法は、乾式単板クラッチのクラッチハブに好適に用いることができる。また、本発明のクラッチ部材の製造方法は平歯車(平歯ギヤ)などの製造に適用してもよい。

Claims (5)

  1. 平坦部を有する所定形状のクラッチ部材であって、
    質量割合にて、C:0.32〜0.38%、Si:0.15%以下、Mn:0.3〜0.5%、Cr:0.16〜0.60%を含み残部がFe及び不可避的不純物からなり、平均粒径が0.1〜1.2μmの炭化物の均一分散組織を有する鋼板を素材とし、打抜き成形、熱処理を順次施し、引張強度が1307〜1633MPa、硬さが400〜500HV、衝撃値が70J/cm以上で、かつ下式で定義される平坦度Fが0.15%以下であることを特徴とするクラッチ部材。
    平坦度F=d/D×100
    ただし、dは前記平坦部の反り(水平面からの離間距離)であり、
    Dはクラッチ部材の外接円の直径である。
  2. 前記鋼板は引張強度が450MPa以下、硬さが150Hv以下である請求の範囲第1項に記載のクラッチ部材。
  3. 質量割合にて、C:0.32〜0.38%、Si:0.15%以下、Mn:0.3〜0.5%、Cr:0.16〜0.60%を含み残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼板を軟化する焼鈍工程と、
    前記焼鈍された鋼板を所定形状の板状素材に形成する打抜き成形工程と、
    成形された前記板状素材に熱処理を施し熱処理材とする熱処理工程とを有し、
    前記熱処理材の歪みを矯正する矯正工程を省略することを特徴とするクラッチ部材の製造方法。
  4. 前記焼鈍工程は、650〜700℃で10〜50時間加熱する工程である請求の範囲第3項に記載のクラッチ部材の製造方法。
  5. 前記熱処理工程は、840〜880℃で1〜2時間加熱後、60〜70℃の油中に投入する焼入れ処理と、260〜320℃で1〜2時間の焼戻し処理とからなる請求の範囲第3項に記載のクラッチ部材の製造方法。
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