非可逆回路素子は、伝送方向で信号をほとんど減衰させないが、逆方向では大きく減衰させるものであり、例えば携帯電話等の移動体通信機器に用いられている。このような非可逆回路素子としては、図15に示すアイソレータが良く知られている。このアイソレータは、フェライト板38と、フェライト板38の一主面に互いに電気的絶縁状態でかつ120°の角度で交差するように配置された3つの中心導体31,32,33と、各中心導体31,32,33の一端に接続されたアースと、各中心導体31,32,33の他端に接続された各整合コンデンサC1〜C3と、各中心導体31,32,33のいずれか1つのポート(例えばP3)に接続された終端抵抗Rtと、フェライト板38に軸方向に直流磁界Hdcを印加する永久磁石(図示せず)とを具備する。このアイソレータでは、ポートP1から入力された高周波信号はポートP2に伝送されるが、ポート2から進入する反射波は終端抵抗Rtで吸収されてポートP1に伝送されない。このように不要な反射波が電力増幅器等に進入するのを防止する。
最近、このようなアイソレータとは異なる等価回路で構成され、挿入損失特性及びリターンロス特性に優れたアイソレータが注目されるようになった(特開2004-15430号)。このアイソレータは2つの中心導体を有し、2ポートアイソレータと呼ばれる。
図16及び17は2ポートアイソレータの等価回路を示し、図18及び19はその構成部品を示す。この2ポートアイソレータは、図17に示すように、第一の入出力ポートP1と、第二の入出力ポートP2と、両入出力ポートP1,P2の間に電気的に接続された第一の中心電極L1と、第二の入出力ポートP2とアースとの間に電気的に接続され、第一の中心電極L1と電気的絶縁状態で交差する第二の中心電極L2と、第一の入出力ポートP1と第二の入出力ポートP2の間に第一の中心電極L1と並列に電気的に接続された第一の整合コンデンサCi及び抵抗素子Rと、第二の入出力ポートP2とアースの間に電気的に接続され、第二の中心電極L2と並列共振回路を構成する第二の整合コンデンサCfとを有する。
図18に示すように、第一の中心導体L1及び第二の中心導体L2はそれぞれ2つの帯状導体で構成され、永久磁石30により直流磁界が印加されるフェライト板5の主面又は内部に、絶縁状態で交差するように配置されている。図19に示すように、第一の整合コンデンサCi及び第二の整合コンデンサCfは、セラミック多層基板10内に電極パターンで形成されており、セラミック多層基板10の主面には、第一の中心導体L1及び第二の中心導体L2の両端部が電気的に接続する接続パッド15,17,18が形成されている。接続パッド17はビアホール電極及び側面電極を介して、セラミック多層基板10の側面に形成された端子電極IN(P1)と接続している。接続パッド18はビアホール電極及び側面電極を介して他の端子電極GNDと接続している。また電極パッド15は、ビアホール電極及び側面電極を介して端子電極OUT(P2)と接続している。永久磁石30、中心導体組立体3及びセラミック多層基板10は、磁性金属からなる上ケース22と下ケース25との間の空間に配置されている。
第一の入出力ポートP1と第二の入出力ポートP2との間に第一の中心導体L1が接続された構造を有するこの2ポートアイソレータは、3ポートアイソレータより回路素子数が少ないので、挿入損失特性に優れ、かつ小型化に適している。
ところで、携帯電話の小型軽量化及び多機能化による部品点数の増加に伴い、携帯電話に用いられるアイソレータの小型化が強く求められている。現在では外形寸法が3.2 mm×3.2 mm×1.2 mm又は3.2 mm×2.5 mm×1.2 mmのアイソレータが広く採用されているが、さらに小型のアイソレータも要求されつつある。このような小型化に伴い、2ポートアイソレータを構成するフェライト板、セラミック多層基板、中心導体等も小型化せざるを得ない。
中心導体には従来から様々な形態があり、例えばフェライト板に巻き付けた銅箔、フェライト板に印刷した銀ペーストを焼成したもの等がある。しかし銅箔には、破断や、中心導体間の距離及び絶縁性を確保しつつ所定の交差角で高精度にフェライト板に巻き付ける困難性等の問題がある。また銀ペースト印刷では、中心導体間をガラスや低温焼結セラミクス等の絶縁材で絶縁する必要があるが、銀ペーストを焼成する際の収縮により破断が生じるおそれがあるため、銀ペースト及び絶縁材の組合せを最適化する必要がある。また中心導体の作製工数も銅箔を用いる場合より多い。
セラミック多層基板に形成する接続パッドも小面積化する必要がある。接続パッドが小さくなると接続パッドに中心導体を信頼性良く接続するのが困難となるだけでなく、接続面積の減少により振動や衝撃に対する接続信頼性も低下する。
図4及び5に示す2ポートアイソレータは、方形板状の中心導体組立体3(方形状フェライト板5と、フェライト板5に近接して電気的絶縁状態で交差するように配置された第一及び第二の中心導体L1,L2とを有する)と、第一及び第二の整合コンデンサが形成された多層基板10と、中心導体組立体3及び多層基板10を収容し、マザーボードと接続する6つの外部端子IN(P1)、OUT(P2)、GNDが一体的に形成された樹脂製下ケース(単に「外部端子一体型樹脂製下ケース」という)25と、フェライト板5に直流磁界を印加する永久磁石30と、永久磁石30を収容して磁気回路を形成する磁性金属製上ケース22とを有する。第一及び第二の中心導体L1,L2は、一体的なフレキシブル配線板FKにおいて絶縁性基板KBの両面に形成された帯状導体パターンにより構成されている。フェライト板5は方形に限定されず、円形や他の多角形状でも良い。なおこの2ポートアイソレータの等価回路は図17に示すものと同じなので、説明を省略する。
図1及び2に示すように、第一及び第二の中心導体L1,L2は、フレキシブル配線板FKにおいて、絶縁性基板KBを介してほぼ90°の角度で交差する帯状導体パターン(例えば金属箔)により構成されている。第一の中心導体L1は、3本の並列の金属箔と、3本の金属箔が連結した端部L1a1、L1a2とからなる。第二の中心導体L2は端部L2a1、L2a2を有する1本の金属箔からなる。このような形状により、第一の中心導体L1のインダクタンスは第二の中心導体L2のインダクタンスより小さい。各端部L1a1、L1a2、L2a1、L2a2は絶縁性基板KBの縁より僅かに延出している。
第一及び第二の中心導体L1,L2(帯状導体パターン)を形成する金属箔は銅、アルミニウム、銀等からなるが、中でも銅、特に電解銅が好ましい。電解銅箔は導電性が良いので低損失の2ポートアイソレータとすることができるだけでなく、屈曲性が良いので塑性変形に伴う破断が起こりにくい。
帯状導体パターン(金属箔)の厚さは10〜50μmが好ましい。帯状導体パターンが10μmより薄いと、フレキシブル配線板FKの折り曲げの際に破断するおそれがある。また50μmを超えるとフレキシブル配線板FKが厚くなるとともに、屈曲性も低下する。
帯状導体パターンの幅及び間隔は、インダクタンスの目標値により異なるが、それぞれ100〜300μmとするのが好ましい。帯状導体パターンの間隔は全て同じで良いが、部分的に変えても良い。例えば図12に示すように、一端の間隔を狭くし、他端の間隔を広くしても構わない。
絶縁性基板KBは樹脂フィルム等の可撓性絶縁部材であるのが好ましい。樹脂フィルムは、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド類、ナイロン等のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類等からなるのが好ましい。中でも、耐熱性及び誘電損失の観点から、ポリアミド類及びポリイミド類が好ましい。
絶縁性基板KBの厚さは特に限定されないが、10〜50μmが好ましい。絶縁性基板KBが10μmより薄いと、絶縁性基板KBの耐屈曲性が不十分である。また絶縁性基板KBが50μmより厚いと、第一及び第二の中心導体L1,L2の結合が低く、フレキシブル配線板が厚くなりすぎる。
フレキシブル配線板FKはフォトリソグラフィ法により高精度に形成することができる。具体的には、絶縁性基板KBの両面に形成された金属箔上に感光性レジストを塗布した後パターニング露光し、第一及び第二の中心導体L1、L2を形成する部分以外のレジスト膜を除去し、ケミカルエッチングにより金属箔を除去することにより帯状導体パターンを形成する。残ったレジスト膜を除去した後、第一及び第二の中心導体L1、L2の端部L1a1,L1a2,L2a1、L2a2が絶縁性基板KBの縁より延出するように、絶縁性基板KBの不要部分をレーザ又はケミカルエッチング(ポリイミドエッチング)により除去する。その後必要に応じて、防錆、半田付け性、電気的特性等を向上させるため、帯状導体パターンに変色防止処理や、Ni、Au、Ag等の電気めっきを施す。
第一及び第二の中心導体L1,L2の交差角のばらつきは2ポートアイソレータの入出力インピーダンスのばらつきの原因になるが、フレキシブル配線板FKにより構成した第一及び第二の中心導体L1,L2は加工精度が良いので、交差角のばらつきがない。
図3に示すフレキシブル配線板FKは、図2で示すフレキシブル配線板FKに接着剤層SKを加えたものである。接着剤層SKによりフレキシブル配線板FKをフェライト板5に貼り付けることができる。接着剤層SKは、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれでも良い。接着剤層SKは、例えばフレキシブル配線板FKの裏面[図1(b) に示す]に接着剤層SKを有するカバーレイフィルムを接着剤層SKを下にして重ね、上面[図1(a) に示す]に接着剤層を有さないカバーレイフィルムを重ね、約100〜180℃の温度及び約1〜5 MPaの圧力で約1時間プレスすることにより、フレキシブル配線板FKに一体的に形成することができる。接着剤層SKは、第一の中心導体L1の全面、絶縁性基板KBの裏面のうち第一の中心導体L1で覆われていない部分、及び第二の中心導体L2の端部L2a1、L2a2の全面に形成される。カバーレイは、フレキシブル配線板FKをフェライト板5に貼り付ける際に取り除く。接着剤層SKは、接着剤をスプレー塗布したり印刷したりして形成することもできる。
2.5 mm角の2ポートアイソレータに用いるフレキシブル配線板FKは、例えば平面視2 mm×2 mmの範囲に収まる大きさに形成する。このように小さなフレキシブル配線板FKを一枚毎形成するのは実用的ではないので、複数のフレキシブル配線板をフレームに連接した状態で形成するのが好ましい。絶縁性基板KBの周辺部は中心導体の端部を延出させるために取り除かれるので、フレームとの接続は帯状導体パターンの端部で行う。従って、まずフレームを介して連接された複数のフレキシブル配線板FKを形成し、帯状導体パターンをフレームから切り離すことにより個々のフレキシブル配線板FKとする。なお工数は増加するが、絶縁性基板KBを一部残して、これをフレームに連接し、後で切り離しても良い。
図7(a) 及び7(b) はそれぞれ中心導体組立体3の主面及び裏面を示し、図8及び9は中心導体組立体3の端部を示す。本実施例では、フレキシブル配線板FKは方形フェライト板5上に配置され、第一及び第二の中心導体L1,L2の端部L1a1,L1a2,L2a1、L2a2はフェライト板5の側面に沿って折り曲げられている。折り曲げられた中心導体L1,L2の端部L1a1,L1a2,L2a1、L2a2はフェライト板5の裏面まで延在しない寸法を有する。良好な屈曲性を有する銅箔により形成した場合、中心導体L1,L2は折り曲げられたときにスプリングバックが少ない。また接着剤層SKを有するフレキシブル配線板FKの場合、中心導体L1,L2の端部L1a1,L1a2,L2a1、L2a2をフェライト板5の側面に密着させることができる。また中心導体が細い帯状導体パターンからなる場合、半田面積を確保するために端部を幅広にするのが好ましい。
図10及び図11はフレキシブル配線板FKの他の例を示す。これらの例では、第一及び第二の中心導体L1,L2の交差角は90°から僅かにずれている。第一及び第二の中心導体L1,L2の交差角により入出力インピーダンスが変化し、2ポートアイソレータの最適動作を得る磁界も変化する。そのため、永久磁石30の磁気特性及び形状を考慮して、第一及び第二の中心導体L1,L2の交差角を80〜110°の範囲で設定するのが好ましい。この場合でも、第一及び第二の中心導体L1,L2を一体的なフレキシブル配線板FKとして形成するため、交差角の変更を高精度に行うのが容易である。
フェライト板5はガーネット構造を有し、YIG(イットリウム・鉄・ガーネット)等からなる。YIGのYの一部をGd,Ca,V等で置換しても良く、Feの一部をAl,Ga等で置換しても良い。周波数帯によってはNi系フェライト板でも良い。
多層基板10は、例えば図6に示すセラミック積層体である。セラミック積層体は、誘電体セラミックとバインダーからなる各セラミックグリーンシート100a〜100e(ドクターブレード法等により所定の厚さに成形)に、整合コンデンサ用電極パターン11〜14及びグランド電極パターンGNDを印刷し、積層、圧着した後、焼結することにより形成される。
誘電体セラミックとしては低温焼結性誘電体セラミック組成物が好ましく、これには、(a) Al2O3、SiO2及びSrOを主成分とし、CaO、PbO、Na2O及びK2Oの副成分とするもの、(b) Al2O3を主成分とし、MgO、SiO2及びGdOを副成分とするもの、及び(c) Al2O3、SiO2、SrO及びTiを主成分とし、Bi2O3を副成分とするもの等がある。
多層基板10の積層数は、第一及び第二の整合コンデンサCi,Cfの容量値に応じて適宜変更可能である。整合コンデンサ用電極パターンは、ビアホール電極(図中に黒丸で示す)により導通する。
図6に示すように、多層基板10の裏面に形成された第一の端子GT1,第二の端子GT2及びグランド電極GNDは、外部端子一体型樹脂製下ケース25に形成された端子(例えば、後述する第一及び第二の端子TT1,TT2)に半田接続し、外部端子(IN,OUT,GND)と電気的に接続する。多層基板10の上面には、第一及び第二の中心導体L1,L2の一端部(共通電極)L1a2,L2a2と接続する第一のパッド15、及び第一及び第二の中心導体L1,L2の他端部L1a1,L2a1と接続する第二及び第三のパッド17,18が印刷されている。
本実施例の多層基板10は、5層のセラミックグリーンシート100a〜100eを積層してなる。グリーンシート100a〜100eには導電ペーストの印刷により電極パターンが形成される。各層の電極パターンは、各層の貫通孔に導電ペーストを充填することにより形成したビアホール電極40a〜40pを介して電気的に接続され、多層基板10の裏面に形成されたグランド電極GND及び第一及び第二の端子GT1,GT2と適宜接続される。
最下層のセラミックグリーンシート100aにはビアホール電極40n、40o、40pと電極パターン11が形成され、電極パターン11は複数のビアホール電極40nを介して裏面のグランド電極パターンGNDと接続する。セラミックグリーンシート100bにはビアホール電極40k、40l、40mと電極パターン12が形成され、電極パターン11,12は第二の整合コンデンサCfを構成する。セラミックグリーンシート100cにはビアホール電極40h、40i、40jと電極パターン13が形成され、その上のセラミックグリーンシート100dにはビアホール電極40e、40f、40gと電極パターン14が形成されている。電極パターン12と電極パターン14はビアホール電極40g、40jを介して接続され、電極パターン13との間で第一の整合コンデンサCiを構成する。最上層のセラミックグリーンシート100eには、ビアホール電極40a、40b、40c、40d、第一〜第三のパッド15,17,18、接続部19、及び抵抗Rが形成されている。
本実施例では、第一及び第二の整合コンデンサCi,Cfのホット側電極パターンの少なくとも一部を共通の電極パターンにより形成し、電極パターンの数を低減している。また共通の電極パターンを、多層基板に形成したビアホール電極を介して前記共通電極と接続しているので、第一の中心導体L1と第一の整合コンデンサCiを接続する導体、及び第二の中心導体L2と第二の整合コンデンサCfを接続する導体が短い。これにより共振電流の経路が短くなり、接続導体による損失が低減される。
抵抗Rは、ルテニウム等を含有する導電ペーストの印刷により形成することができる。抵抗Rを多層基板10の内層に印刷しても良く、またチップ抵抗を多層基板10に実装しても良い。多層基板10の外面に現れる電極パターンは、半田接続に耐える耐熱性を有するようにめっき処理するのが好ましい。めっきは、Niめっき又はNi-Pめっきの下地層と、半田又はAuめっきの上層とからなるのが好ましい。
図14に示すように、多層基板10の第二のパッド17上に中心導体組立体3の第一の中心導体L1の端部L1a1が位置するように、多層基板10上に中心導体組立体3を配置し、端部L1a1と第二のパッド17とをリフロー等の手段を用いて半田Sdで接続する。このような接続方法を全てのパッド15,17,18に対して行うことにより、中心導体組立体3の側面に設けられた第一及び第二の中心導体L1,L2の端部L1a1,L1a2,L2a1、L2a2と第一〜第三のパッド15,17,18とが強固に接続される。
図13に示すように6つの外部端子IN(P1),OUT(P2)及びGNDを備えた樹脂製下ケース25は、各部品を収容するとともに磁気ヨークとしても機能する。下ケース25は、底部及びそこから一体的に立ち上がる二つの側壁を構成する磁性金属部(下ヨークを形成する)と、6つの外部端子を保持する他の二つの側壁を構成する樹脂部(図中斜線で示す)とからなる。磁性金属部は、冷間圧延鋼板(SPCC),42アロイ(Ni42-Febal合金),Fe-Co合金等により形成するのが好ましい。42アロイは耐酸化性に優れている。樹脂部は液晶ポリマーやポリフェニレンサルファイド等の高耐熱性熱可塑性エンジニアリングプラスチックにより形成するのが好ましい。
下ケース25の磁性金属部及び樹脂部はインサート成形法等により一体化的に形成する。例えば磁性金属シートを、下ヨーク部とともに外部端子IN(P1)及びOUT(P2)がフレームに連結した形状に打ち抜き、下ヨーク部を折り曲げる。下ヨーク部、外部端子及びフレームの一体品を金型内に配置し、熱可塑性樹脂を用いてインサート成形し、最後にフレームを切除する。下ヨークの一部を外部端子GNDとする。本実施例では、下ヨーク及び4つの外部端子GNDを一枚の金属板から打ち抜きにより一体的に形成するが、外部端子IN(P1)及びOUT(P2)を別の金属シートにより形成しても良い。
外部端子一体型樹脂製下ケース25の平坦な内底面には、下ヨークと第一及び第二の端子TT1,TT2が露出している。下ケース25の内底面上に多層基板10を配置し、多層基板10の裏面に形成されたグランド電極GNDと下ヨークの内底面とを半田接続し、かつ多層基板10の第一及び第二の端子GT1,GT2と下ケース25の第一及び第二の端子TT1,TT2とをそれぞれ半田接続する。
磁性金属シートは約70〜300μmに冷間圧延又は熱間圧延された薄板であり、表面に電気抵抗率が5.5μΩ・cm以下、好ましくは3.0μΩ・cm、より好ましくは1.8μΩ・cm以下の高導電性金属皮膜が形成されている。高導電性金属皮膜の厚さは0.5〜25μm、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは1〜8μmである。
高導電性金属皮膜は、銀、銅、金、アルミニウム又はこれらの合金からなる。高導電性金属皮膜は高周波電流のアース端子への経路となり、高周波信号の伝送効率を高めるとともに、外部との相互干渉を抑制して損失を低減する。
下ヨークと磁気回路を構成する上ケース22は、下ヨークと同様に磁性金属により形成するのが好ましい。両者の磁性金属は同じでも異なっていても良い。上ケース22の表面は、下ヨークと同様に高導電性金属皮膜で覆うのが好ましい。
上ケース22に収容される永久磁石30は、コスト及びフェライト板5との相性の観点から、フェライト板磁石(基本組成:SrO・nFe2O3)が好ましい。特に好ましいフェライト板磁石は、Sr及び/又はBaの一部をR元素(Yを含む希土類元素の少なくとも1種)で置換し、Feの一部をM元素(Co、Mn、Ni及びZnからなる群から選ばれた少なくとも1種)で置換したマグネトプランバイト型結晶構造を有するフェライト板磁石である。このフェライト板磁石は高い磁束密度を有するので、2ポートアイソレータの小型化及び薄型化を可能にする。
上ケース22の四隅に形成された切り欠き部22a〜22dは、下ケース25の四隅に形成された樹脂柱状部を受承するので、上ケース22と下ケース25とを正確に組み合わせることができる。下ヨークの一側壁と上ケース22の一側壁とを半田又は接着剤により固定し、下ヨークの他側壁と上ケース22の他側壁を接着剤により固定するのが好ましい。このように上下ヨークを電気的に絶縁することにより、中心導体に流れる電流により上ケース22に誘導電流が流れないようにし、2ポートアイソレータの挿入損失特性の劣化を防止する。
本発明の好ましい実施例による2ポートアイソレータは2.5 mm×2.5 mm×1.2 mmの外形寸法を有し、1.3 mm×1.3 mm×0.2 mmの外形寸法を有するフェライト板5を具備し、1920〜1980 MHzの周波数に対応する。この2ポートアイソレータの挿入損失の評価を行ったところ、1920〜1980 MHzの周波数で、中心導体として銅箔をフェライト板に巻きつけた3.2 mm角の2ポートアイソレータと同程度であることが分った。
この2ポートアイソレータを半田付けした基板をアルミダイキャスト治具にねじ止めし、1.8 mmの高さからコンクリート上に100回自由落下させた。自由落下試験の終了後、中心導体組立体3と多層基板10との接合状態を拡大鏡で観察した結果、第一及び第二の中心導体L1,L2の端部L1a1,L1a2,L2a1、L2a2と多層基板10の第一〜第三のパッド15,17,18との接続部に剥離は見られなかった。またミリオーム計を用いて多層基板10の第二のパッド17と外部端子一体型樹脂製下ケース25の端子電極GNDとの間の導通試験を行った結果、直流抵抗の増加は見られなかった。
以上本発明を添付図面を参照して説明したが、本発明はそれらに限定されず、種々の変更が可能である。例えば、第一及び第二の中心導体L1,L2の形状は図示のものに限定されず、本発明の思想の範囲内でインダクタンスの目標値に応じて適宜変更可能である。