JPWO2006068159A1 - 分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法、並びにその高分子改質剤としての使用 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明において、分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂とは、重合により分岐構造が導入されたポリアリーレンスルフィド樹脂を意味する。
本発明において、脱水工程で反応槽内に投入する硫黄源と区別するため、仕込み工程における硫黄源を「仕込み硫黄源」または「有効硫黄源」と呼ぶ。その理由は、脱水工程で反応槽内に投入した硫黄源の量は、加熱脱水処理により変動するためである。仕込み硫黄源は、重合工程でジハロ芳香族化合物及びポリハロ芳香族化合物との反応により消費されるが、他の成分とのモル比を規定する場合には、仕込み工程での仕込み硫黄源のモル量を基準とする。
PAS樹脂の代表的な製造方法として、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記)などの有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる方法が知られている。しかし、PAS樹脂は、射出成形時のバリ発生量が多いという欠点を有している。バリとは、成形材料が金型の隙間に流れ出て固化した部分を意味する。薄膜状または薄片状に固化し、成形品に付着したバリは、仕上げ工程で取り除く必要がある。
射出成形時におけるバリの発生を抑制するために、分岐型PAS樹脂を直鎖型PAS樹脂にブレンドする方法が提案されている。また、分岐型PAS樹脂の製造方法についても、幾つかの提案がなされている。しかし、従来の方法では、近年の高度な要求水準に対応することが困難になっている。
従来、特開昭64−9266号公報(米国特許第4,956,499号明細書に対応)には、未架橋で実質的に線状の直鎖型PAS樹脂に、温度310℃、剪断速度5sec−1で測定した溶融粘度が5×105〜1×109ポイズ(5×104〜1×108Pa・s)の溶融時ゲル状を呈する架橋PAS樹脂をブレンドしてなるバリ特性の改良されたPAS樹脂組成物が開示されている。
特開昭64−9266号公報には、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物と3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物とを2段階で重合する方法により架橋PAS樹脂を製造した実験例が示されている。より具体的には、NMP中で、硫化ソーダとp−ジクロロベンゼンと1,2,4,5−テトラクロロベンゼンとを反応させ、次いで、水を添加し、かつ、温度を上げて重合反応を継続する2段階重合法により架橋PAS樹脂が製造されている。しかし、この製造方法により得られた架橋PAS樹脂は、少量の顆粒状物と多量の塊状物との混合物である(該文献の「ポリマー調製例B−1」)。このような架橋PAS樹脂を直鎖型PAS樹脂にブレンドした樹脂組成物は、成形加工性に劣り、得られた成形品の表面性も劣るものである。
特開平1−299826号公報(米国特許第5,200,500号明細書及び米国特許第5,268,451号明細書に対応)には、有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物及び分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物とを、改良された2段階重合法により製造する方法が提案されている。
特開平1−299826号公報には、前段重合工程において、有機アミド溶媒中、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当り0.5〜2.9モルの水が存在する状態で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とを反応させ、後段重合工程では、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当り2.5〜7モルの水が存在するように水分量を調整し、かつ昇温して重合反応を継続する方法が開示されている。
特開平1−299826号公報に開示されている製造方法によれば、高度に架橋したPAS樹脂を塊状化させることなく、顆粒状で得ることができる。しかしながら、重合初期から、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とを重合反応させると、溶融粘度が高すぎる分岐型PAS樹脂が得られ易い。溶融粘度が高すぎる分岐型PAS樹脂を直鎖型PAS樹脂にブレンドすると、成形品にブツ(小さな凹み)などの欠陥が生じて表面性が悪化し、しかもバリ発生の抑制効果も不十分となる。
他方、特開平1−299826号公報に記載の製造方法において、後段重合工程での重合時間を著しく短縮すると、溶融粘度が低い分岐型PAS樹脂を得ることが可能である。しかし、そのような方法で得られた低溶融粘度の分岐型PAS樹脂は、溶融粘弾性tanδが大きくなるため、直鎖型PAS樹脂にブレンドしても、バリ発生の抑制効果が劣り、成形品の表面性も悪いものとなる。
本発明の他の目的は、そのような特性に優れた分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の高分子改質剤としての使用を提供することにある。
本発明者らは、従来の分岐型PAS樹脂を高分子改質剤として用いた場合に、バリ発生の抑制効果が十分ではなく、成形品の表面性においても十分に満足できるものではない理由は、その製造方法に問題があるのではないかと考えた。
従来の製造方法では、重合初期から、硫黄源とジハロ芳香族化合物と3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物とを重合反応させる方法が採用されている。そのような製造方法では、重合条件を工夫しても、分岐型PAS樹脂の溶融粘度や平均粒子径などの特性を所望の範囲内に制御することが困難であることが判明した。
そこで、本発明者らは、鋭意研究した結果、有機アミド溶媒中で硫黄源とジハロ芳香族化合物とを反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が十分に高くなった時点で、重合反応混合物中に、3個以上のハロゲン置換基を持つポリハロ芳香族化合物を所定の割合で添加する方法に想到した。ポリハロ芳香族化合物を添加した重合反応混合物は、所定の昇温速度で昇温し、そして、相分離剤の存在下に高温での重合反応を継続する。
本発明の製造方法によれば、バリ発生抑制剤などの高分子改質剤として適した溶融粘度を持つ分岐型PAS樹脂を粒状で得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、分岐型PAS樹脂の溶融粘弾性tanδを、バリ発生抑制剤として適した範囲に制御することができる。
すなわち、本発明者らの研究結果によれば、分岐型PAS樹脂の溶融粘度、平均粒子径、及び溶融粘弾性tanδのすべてがそれぞれ適度の範囲内にあることにより、例えば、該分岐型PAS樹脂を直鎖型PAS樹脂にブレンドしたとき、バリ発生抑制剤として顕著に優れた効果を発揮し、しかも成形品の表面性を良好にすることが見出された。本発明の製造方法によれば、このような優れた特性を持つ分岐型PAS樹脂を得ることができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
かくして、本発明によれば、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物の存在下に重合させる分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを170〜270℃の温度で重合反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、硫黄源1モル当り0.010〜0.100モルのポリハロ芳香族化合物、及び相分離剤を添加し、次いで、重合反応混合物を昇温速度10〜60℃/時間で加熱して240℃以上の温度に昇温し、そして、240〜290℃の温度で重合反応を継続する分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法が提供される。
本発明の特に好ましい態様によれば、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物の存在下に重合させる分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、下記工程1〜5:
(1)有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水分を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程1;
(2)脱水工程で系内に残存する混合物とジハロ芳香族化合物とを混合して、有機アミド溶媒、硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」という)、アルカリ金属水酸化物、水分、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程2;
(3)仕込み混合物を170〜270℃の温度に加熱することにより、水分を含有する有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、仕込み硫黄源1モル当り0.010〜0.100モルのポリハロ芳香族化合物、及び相分離剤を添加する前段重合工程3;
(4)重合反応混合物を昇温速度10〜60℃/時間で加熱して、240℃以上の温度に昇温する昇温工程4;並びに
(5)240〜290℃の温度で重合反応を継続する後段重合工程5;
を含む分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法が提供される。
本発明によれば、下記特性i〜iii:
i)温度330℃、剪断速度2sec−1で測定した溶融粘度が10.0×104〜40.0×104Pa・s、
ii)平均粒子径が50〜2000μm、及び
iii)温度310℃、角速度1rad/secで測定した溶融粘弾性tanδが0.10〜0.30
を有する分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂が提供される。
本発明によれば、該分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の高分子改質剤としての使用が提供される。
本発明では、硫黄源として、アルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物もしくはこれらの混合物を使用する。硫黄源として、硫化水素も使用することができる。すなわち、脱水工程後の反応槽内にアルカリ金属水酸化物(例えば、NaOH)が過剰に存在する場合に、反応槽内に硫化水素を吹き込むことにより、アルカリ金属硫化物(例えば、Na2S)を生成させることができる。
硫黄源としては、アルカリ金属水硫化物またはアルカリ金属水硫化物を主成分として含有する硫黄源が好ましい。アルカリ金属水硫化物としては、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。アルカリ金属水硫化物は、無水物、水和物、水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手できる点で、水硫化ナトリウム及び水硫化リチウムが好ましい。アルカリ金属水硫化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある、水との混合物)として用いることが、処理操作や計量などの観点から好ましい。
アルカリ金属水硫化物の製造工程では、一般に、少量のアルカリ金属硫化物が副生する。本発明で使用するアルカリ金属水硫化物の中には、少量のアルカリ金属硫化物が含有されていてもよい。アルカリ金属水硫化物は、少量のアルカリ金属硫化物を含んでいる場合に、安定した状態となり易い。
したがって、硫黄源として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物を使用する場合には、アルカリ金属水硫化物が主成分であることが好ましく、アルカリ金属水硫化物50モル%超過とアルカリ金属硫化物50モル%未満との混合物であることがより好ましい。硫黄源がアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物である場合には、重合反応系の安定性の観点から、その組成は、好ましくはアルカリ金属水硫化物70〜99.5モル%とアルカリ金属硫化物0.5〜30モル%であり、より好ましくはアルカリ金属水硫化物90〜99.5モル%とアルカリ金属硫化物0.5〜10モル%であり、さらに好ましくはアルカリ金属水硫化物95〜99.5モル%とアルカリ金属硫化物0.5〜5モル%であり、そして、特に好ましくはアルカリ金属水硫化物97〜99.5モル%とアルカリ金属硫化物0.5〜3モル%である。
硫黄源がアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物である場合には、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との総モル量が、仕込み硫黄源(「有効硫黄源」と呼ぶことがある)のモル量となる。また、この総モル量は、仕込み工程に先立って脱水工程を配置する場合には、脱水工程後の仕込み硫黄源のモル量になる。
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。アルカリ金属硫化物は、無水物、水和物、及び水溶液のいずれを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価に入手可能であって、かつ、取り扱いが容易であることなどの観点から、硫化ナトリウムが好ましい。
これらのアルカリ金属硫化物は、アルカリ金属水硫化物中に副生物として含有されているもののほか、一般に、水和物として市販されているものを使用することができる。アルカリ金属硫化物の水和物としては、例えば、硫化ナトリウム9水塩(Na2S・9H2O)、硫化ナトリウム・5水塩(Na2S・5H2O)が挙げられる。アルカリ金属硫化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある、水との混合物)として用いることが処理操作や計量などの観点から好ましい。
2.アルカリ金属水酸化物:
本発明の製造方法では、水分を含有する有機アミド溶媒中で、アルカリ金属水硫化物を含有する硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、アルカリ金属水酸化物の存在下に重合させる方法を採用することが好ましい。
アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの2種以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、工業的に安価に入手可能なことから、水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液などの水性混合物(すなわち、流動性のある、水との混合物)として用いることが計量などの取り扱い性の観点から好ましい。
3.ジハロ芳香族化合物:
本発明で使用されるジハロ芳香族化合物は、芳香環に直接結合した2個のハロゲン原子を有するジハロゲン化芳香族化合物である。ジハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトンが挙げられる。これらのジハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
ここで、ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、同一のジハロ芳香族化合物において、2つのハロゲン原子は、互いに同じでも異なっていてもよい。ジハロ芳香族化合物としては、多くの場合、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、またはこれらの2種以上の混合物が使用される。
4.ポリハロ芳香族化合物:
本発明では、PAS樹脂に分岐構造を導入するため、3個以上のハロゲン置換基を持つポリハロ芳香族化合物を使用する。ハロゲン置換基は、通常、ハロゲン原子が直接芳香環に結合したものである。ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、同一のポリハロ芳香族化合物において、複数のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。
ポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,2,3,4−テトラクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロ−2,4,6−トリメチルベンゼン、2,4,6−トリクロロトルエン、1,2,3−トリクロロナフタレン、1,2,4−トリクロロナフタレン、1,2,3,4−テトラクロロナフタレン、2,2′,4,4′−テトラクロロビフェニル、2,2′,4,4′−テトラクロロベンゾフェノン、2,4,2′−トリクロロベンゾフェノンが挙げられる。
これらのポリハロ芳香族化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ポリハロ芳香族化合物の中でも、1,2,4−トリクロロベンゼン及び1,3,5−トリクロロベンゼンの如きトリハロベンゼンが好ましく、トリクロロベンゼンがより好ましい。
分岐または架橋構造を導入するために、例えば、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物やハロゲン化芳香族ニトロ化合物等を少量併用することも可能である。
5.分子量調節剤:
生成PASに特定構造の末端を形成したり、あるいは重合反応や分子量を調節したりするために、モノハロ化合物を併用することができる。モノハロ化合物は、モノハロ芳香族化合物だけではなく、モノハロ脂肪族化合物も使用することができる。
6.有機アミド溶媒:
本発明では、脱水反応及び重合反応の溶媒として、非プロトン性極性有機溶媒である有機アミド溶媒を用いる。有機アミド溶媒は、高温でアルカリに対して安定なものが好ましい。
有機アミド溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物またはN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。これらの有機アミド溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
これらの有機アミド溶媒の中でも、N−アルキルピロリドン化合物、N−シクロアルキルピロリドン化合物、N−アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物が好ましく、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−メチル−ε−カプロラクタム、及び1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノンがより好ましく、NMPが特に好ましい。
7.重合助剤:
本発明では、重合反応を促進させるために、必要に応じて各種重合助剤を用いることができる。重合助剤の具体例としては、一般にPAS樹脂の重合助剤として公知の有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウム、有機カルボン酸金属塩、リン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。
8.相分離剤:
相分離剤としては、酢酸ナトリウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、安息香酸リチウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩、及び水など、この技術分野で相分離剤として機能することが知られている物質を用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩は、前記の有機カルボン酸金属塩に含まれるものであり、重合助剤としても使用されるが、ここでは、後段重合工程で相分離剤として機能し得る量で用いられる。これらの相分離剤の中でも、コストが安価で、後処理が容易な水が好ましい。
9.分岐型PAS樹脂の製造方法:
本発明の分岐PAS樹脂の製造方法は、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物の存在下に重合させる分岐型PAS樹脂の製造方法である。
より具体的に、本発明の製造方法では、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを170〜270℃の温度で重合反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、硫黄源1モル当り0.010〜0.100モルのポリハロ芳香族化合物、及び相分離剤を添加する(前段重合工程)。次いで、重合反応混合物を昇温速度10〜60℃/時間で加熱して240℃以上の温度に昇温する(昇温工程)。昇温工程後、重合反応混合物を240〜290℃の温度に加熱して重合反応を継続する(後段重合工程)。
前段重合工程を実施する前に、脱水工程及び仕込み工程を配置して、各成分の含有割合を正確に調整することが望ましい。硫黄源としては、アルカリ金属水硫化物を含有する硫黄源を用いることが好ましい。重合反応系には、前記硫黄源とともに、アルカリ金属水酸化物を存在させることが好ましい。
したがって、本発明の好ましい製造方法は、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物の存在下に重合させる分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法であって、下記工程1〜5:
(1)有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水分を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程1;
(2)脱水工程で系内に残存する混合物とジハロ芳香族化合物とを混合して、有機アミド溶媒、硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」という)、アルカリ金属水酸化物、水分、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程2;
(3)仕込み混合物を170〜270℃の温度に加熱することにより、水分を含有する有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、仕込み硫黄源1モル当り0.010〜0.100モルのポリハロ芳香族化合物、及び相分離剤を添加する前段重合工程3;
(4)重合反応混合物を昇温速度10〜60℃/時間で加熱して、240℃以上の温度に昇温する昇温工程4;並びに
(5)240〜290℃の温度で重合反応を継続する後段重合工程5;
を含む分岐型PAS樹脂の製造方法である。
従来、分岐型PAS樹脂を含むPAS樹脂の製造方法では、硫黄源としてアルカリ金属硫化物が汎用されてきた。他方、硫黄源の原料として、アルカリ金属硫化物に代えて、アルカリ金属水硫化物またはアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との混合物を使用し、これらの硫黄源を、アルカリ金属水酸化物の存在下に、ジハロ芳香族化合物と重合反応させる方法が知られている。
本発明者らの研究結果によれば、アルカリ金属水硫化物を含有する硫黄源を使用し、該硫黄源をアルカリ金属水酸化物の存在下にジハロ芳香族化合物及びポリハロ芳香族化合物と反応させる方法が、諸特性のバランスに優れた分岐型PAS樹脂の製造方法として適していることが判明した。この方法において、重合反応を安定して実施するために、重合反応に供する各成分の含有割合を正確に調整し、かつ、重合条件を厳密に制御することが望ましい。そこで、以下に、本発明の好ましい製造方法について、さらに詳細に説明する。
9.1.脱水工程:
硫黄源は、水和水(結晶水)などの水分を含んでいることが多い。硫黄源及びアルカリ金属水酸化物を水性混合物として使用する場合には、媒体として水を含有している。硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、重合反応系内に存在する水分量によって影響を受ける。そこで、一般に、重合工程前に脱水工程を配置して、重合反応系内の水分量を調節している。
本発明の好ましい製造方法では、脱水工程において、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から、水分を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する。脱水工程は、望ましくは不活性ガス雰囲気下で実施する。
脱水工程は、反応槽内で行われ、留出物の系外への排出は、一般に反応槽外への排出により行われる。脱水工程で脱水されるべき水分とは、脱水工程で仕込んだ各原料が含有する水和水、水性混合物の水媒体、各原料間の反応により副生する水などである。
各原料の反応槽内への投入は、通常20℃から300℃、好ましくは20℃から200℃の温度範囲で行われる。各原料の投入順序は、順不同でよく、また、脱水操作途中で各原料を追加投入してもかまわない。脱水工程では、媒体として有機アミド溶媒を用いる。脱水工程で使用する有機アミド溶媒は、重合工程で使用する有機アミド溶媒と同一のものであることが好ましく、工業的に入手が容易であることからNMPがより好ましい。有機アミド溶媒の使用量は、反応槽内に投入する硫黄源1モル当たり、通常0.1〜10kg程度である。
脱水操作は、反応槽内へ原料を投入した後、前記各成分を含有する混合物を、通常300℃以下、好ましくは100〜250℃の温度範囲内で、通常15分間から24時間、好ましくは30分間〜10時間、加熱する方法により行われる。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的に昇温する方法、あるいは両者を組み合わせた方法がある。脱水工程は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせ方式などにより行われる。脱水工程を行う装置は、重合工程に用いられる重合槽(反応缶)と同じであっても、あるいは異なるものであってもよい。
脱水工程では、加熱により水及び有機アミド溶媒が蒸気となって留出する。したがって、留出物には、水と有機アミド溶媒とが含まれる。留出物の一部は、有機アミド溶媒の系外への排出を抑制するために、系内に環流してもよいが、水分量を調節するために、水を含む留出物の少なくとも一部は系外に排出する。留出物を系外に排出する際に、微量の有機アミド溶媒が水と同伴して系外に排出される。
脱水工程では、硫黄源に起因する硫化水素が揮散する。すなわち、脱水工程では、前記混合物を加熱するが、加熱によって硫黄源と水とが反応して、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とが生成し、気体の硫化水素は揮散する。例えば、アルカリ金属水硫化物1モルと水1モルが反応すると、硫化水素1モルとアルカリ金属水酸化物1モルが生成する。水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出するのに伴い、揮散した硫化水素も系外に排出される。
脱水工程で系外に揮散する硫化水素によって、脱水工程後に系内に残存する混合物中の硫黄源の量は、投入した硫黄源の量よりも減少する。アルカリ金属水硫化物を主成分とする硫黄源を使用すると、脱水工程後に系内に残存する混合物中の硫黄源の量は、投入した硫黄源のモル量から系外に揮散した硫化水素のモル量を差し引いた値と実質的に等しくなる。脱水工程で反応槽内に投入した硫黄源と区別するために、脱水工程後に系内に残存する混合物中の硫黄源を「有効硫黄源」と呼ぶ。この有効硫黄源は、仕込み工程とその後の重合工程における「仕込み硫黄源」である。つまり、本発明において、「仕込み硫黄源」とは、脱水工程後に混合物中に存在している有効硫黄源を意味している。
脱水工程後の有効硫黄源は、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物を含む混合物であると推定されるが、その具体的な形態については、特に限定されない。従来、有機アミド溶媒中でアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とを加熱すると、in situで反応してアルカリ金属硫化物が生成するといわれてきたので、脱水工程でアルカリ金属水酸化物を添加すると、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応により、アルカリ金属硫化物が生成している可能性がある。
他方、PAS樹脂の重合機構に関する最近の研究結果によれば、アルカリ金属水酸化物と有機アミド溶媒とが加熱により反応して、アルカリ金属アルキルアミノアルキルカルボキシレートが生成し、このアルカリ金属アルキルアミノアルキルカルボキシレートとアルカリ金属水硫化物とが錯体を形成すると指摘されている。
したがって、脱水工程後の有効硫黄源の具体的な化合物としての形態については、特に限定されないが、有効硫黄源がジハロ芳香族化合物と重合反応してPAS樹脂を生成し、かつ、有効硫黄源(仕込み硫黄源)とその他の成分とのモル比が重合反応に大きく影響することは明らかである。脱水工程で最初に投入した硫黄源の量は、硫化水素の系外への揮散によって、脱水工程後には減少するため、系外に揮散した硫化水素の量に基づいて、脱水工程後に系内に残存する混合物中に含まれる硫黄源(有効硫黄源)の量を定量する必要がある。有効硫黄源の量を正確に定量することが、有効硫黄源とアルカリ金属水酸化物とのモル比、及び有効硫黄源とジハロ芳香族化合物とのモル比を調整する上で重要となる。このような有効硫黄源の正確な定量方法自体は、この技術分野で既に確立された技術である。
脱水工程では、水和水や水媒体、副生水などの水分を必要量の範囲内になるまで脱水する。脱水工程では、有効硫黄源1モルに対して、水分量が好ましくは0.00〜2.00モル、より好ましくは0.00〜1.80モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、仕込み工程で水を添加して所望の水分量に調節することができる。
アルカリ金属硫化物は、水との平衡反応によりアルカリ金属水酸化物を生成する。アルカリ金属水硫化物を主成分とする硫黄源を用いる製造方法では、少量成分のアルカリ金属硫化物の量を考慮して、有効硫黄源1モルに対するアルカリ金属水酸化物の仕込み量のモル比を算出する。また、脱水工程で硫化水素が系外に揮散すると、揮散した硫化水素とほぼ等モルのアルカリ金属水酸化物が生成するので、脱水工程で系外に揮散した硫化水素の量も考慮して、有効硫黄源1モルに対するアルカリ金属水酸化物の仕込み量のモル比を算出する。
脱水工程において、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及び硫黄源1モル当たり0.900〜1.050モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出することが好ましい。
脱水工程で硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が小さすぎると、揮散する硫化水素の量が多くなり、仕込み硫黄源量の低下による生産性の低下を招いたり、あるいは脱水後に残存する仕込み硫黄源中の過硫化成分が増加することによる異常反応や生成PASの品質低下が起こり易くなったりする。硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質が増大することがある。
脱水工程を行う装置は、後続する重合工程に用いられる反応槽と同じであっても、あるいは異なるものであってもよい。装置の材質は、チタンのような耐食性材料が好ましい。脱水工程では、通常、有機アミド溶媒の一部が水と同伴して反応槽外に排出される。硫化水素は、ガスとして系外に排出される。
9.2.仕込み工程:
仕込み工程では、脱水工程で系内に残存する混合物とジハロ芳香族化合物とを混合して、有機アミド溶媒、硫黄源(仕込み硫黄源)、アルカリ金属水酸化物、水分、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する。一般に、脱水工程において各成分の含有量及び量比が変動するため、仕込み工程での各成分量の調整は、脱水工程で得られた混合物中の各成分の量を考慮して行う必要がある。
本発明の製造方法では、仕込み工程において、仕込み硫黄源1モル当りの各成分の割合が、アルカリ金属水酸化物が0.950〜1.090モル、水分が0.00〜2.00モル、及びジハロ芳香族化合物が0.950〜1.200モルとなるように、これら各成分を含有する仕込み混合物を調製することが望ましい。
本発明において、「仕込み硫黄源」(有効硫黄源)の量は、「脱水工程で投入した硫黄源のモル量」から「脱水工程で揮散した硫化水素のモル量」を引くことによって算出することができる。
仕込み混合物における各成分の量比(モル比)の調整は、通常、脱水工程で得られた混合物中に、仕込み硫黄源以外の成分を添加することにより行う。ジハロ芳香族化合物は、仕込み工程で混合物中に添加する。脱水工程で得られた混合物中のアルカリ金属水酸化物や水の量が少ない場合には、仕込み工程でこれらの成分を追加する。脱水工程で有機アミド溶媒の留出量が多すぎる場合は、仕込み工程で有機アミド溶媒を追加する。したがって、仕込み工程では、ジハロ芳香族化合物に加えて、必要に応じて有機アミド溶媒、水、及びアルカリ金属水酸化物を添加してもよい。
脱水工程で硫化水素が揮散すると、平衡反応により、アルカリ金属水酸化物が生成し、これが脱水工程後の混合物中に残存することになる。したがって、これらの量を正確に把握して、仕込み工程での「仕込み硫黄源」に対するアルカリ金属水酸化物のモル比を決定することが望ましい。アルカリ金属水酸化物のモル数は、「脱水時に生成した硫化水素に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数」、「脱水前に添加したアルカリ金属水酸化物のモル数」、及び「仕込み工程で添加したアルカリ金属水酸化物のモル数」に基づいて算出される。
仕込み硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比が大きすぎると、有機アミド溶媒の変質を増大させたり、重合時の異常反応を引き起こしたりすることがある。さらに、生成する分岐型PAS樹脂の収率の低下や品質の低下を引き起こすことが多くなる。仕込み硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル量は、好ましくは0.950〜1.090モル、より好ましくは0.980〜1.070モル、特に好ましくは1.000〜1.060モルである。前段重合工程では、仕込み硫黄源1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル比を上記範囲内とすることにより重合反応を安定的に実施し、高品質の分岐型PAS樹脂を得ることが容易になる。
仕込み工程において、硫黄源として、50モル%超過のアルカリ金属水硫化物と50モル%未満のアルカリ金属硫化物とを含む硫黄源を含有する仕込み混合物を調製することが好ましい。このような組成を有する硫黄源は、実際には、脱水工程で調製する。
仕込み工程において、仕込み硫黄源1モル当りの水分のモル量は、好ましくは0.00〜2.00モル、より好ましくは0.70〜1.80モル、特に好ましくは0.90〜1.60モルの範囲となるように調整することが望ましい。前段重合工程において、共存水分量が少なすぎると、生成ポリマーの分解反応など好ましくない反応が起こり易くなる。共存水分量が多すぎると、重合反応速度が著しく遅くなったり、分解反応が生じたりする。
仕込み工程において、仕込み硫黄源1モル当り、好ましくは0.950〜1.200モル、より好ましくは0.980〜1.150モル、特に好ましくは1.000〜1.100モルのジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製することが望ましい。ジハロ芳香族化合物の使用割合が前記範囲外になると、溶融粘度を所望の範囲内に制御することが困難になる。
仕込み工程において、有機アミド溶媒の量は、仕込み硫黄源1モル当り、通常0.1〜10kg、好ましくは0.15〜1kgの範囲とすることが望ましい。有機アミド溶媒の量は、上記範囲内であれば、重合工程の途中でその量を変化させてもよい。
9.3.前段重合工程:
本発明の好ましい製造方法では、仕込み混合物を170〜270℃の温度に加熱することにより、水分を含有する有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、仕込み硫黄源1モル当り0.010〜0.100モルのポリハロ芳香族化合物及び相分離剤を添加する。
重合反応方式は、バッチ式、連続式、あるいは両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、2つ以上の反応槽を用いる方式を用いてもよい。加熱方法は、一定温度を保持する方法、段階的または連続的な昇温方法、あるいは両方法の組み合わせが用いられる。重合反応の途中で重合温度を下げることもできる。
重合反応時間は、後段重合工程での重合時間との合計で、一般に10分間〜72時間、好ましくは30分間〜48時間である。前段重合工程での重合時間は、多くの場合、30分間から5時間までである。前段重合工程は、温度条件を段階的に変化させたり、水やアルカリ金属水酸化物を分割して添加したりする複数の工程から構成されていてもよい。前段重合工程では、通常、生成するポリマーを含む各成分が均一に溶解した反応系での重合反応が行われる。
前段重合工程では、仕込み混合物を、好ましくは170〜270℃、より好ましくは180〜240℃、特に好ましくは190〜235℃の温度に加熱して、重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上のプレポリマーを生成させる。前段重合工程において、重合温度を高くしすぎると、副反応や分解反応が生じ易くなる。
ジハロ芳香族化合物の転化率は、好ましくは80〜98%、より好ましくは80〜95%、特に好ましくは85〜95%である。ジハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するジハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量とジハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
ジハロ芳香族化合物を「DHA」で表すと、ジハロ芳香族化合物を硫黄源に対してモル比で過剰に添加した場合は、下記式1:
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル)−DHA過剰量(モル)〕 (1)
により転化率を算出することができる。
上記以外の場合には、下記式2:
転化率=〔DHA仕込み量(モル)−DHA残存量(モル)〕/〔DHA仕込み量(モル))〕 (2)
により転化率を算出することができる。
本発明の製造方法では、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、仕込み硫黄源1モル当り0.010〜0.100モルのポリハロ芳香族化合物及び相分離剤を添加する。ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上の時点では、重合反応混合物に含まれる生成ポリマー(プレポリマー)の重量平均分子量は、通常、6000以上となる。
ポリハロ芳香族化合物は、仕込み硫黄源1モル当り、0.010〜0.100モル、好ましくは0.015〜0.080モル、より好ましくは0.020〜0.070モルの割合で用いられる。ポリハロ芳香族化合物の使用量が多すぎると、分岐型PAS樹脂の溶融粘弾性tanδが小さくなりすぎて、バリ抑制効果が低下する。ポリハロ芳香族化合物の使用量が少なすぎると、分岐構造の導入が不十分となり、バリ抑制効果が損なわれる。
前段重合工程の初期から反応系内にポリハロ芳香族化合物を存在させて重合反応を開始すると、分岐型PAS樹脂の溶融粘度が著しく増大し、バリ抑制効果が不十分となる上、成形品の表面性が損なわれる。前段重合工程の初期から反応系内にポリハロ芳香族化合物を存在させて重合反応を開始し、後段重合工程での重合時間を著しく短縮すると、溶融粘度が低い分岐型PAS樹脂を得ることができるが、該分岐型PAS樹脂は、溶融粘弾性tanδが大きくなりすぎて、バリ抑制効果が不十分となる。
ジハロ芳香族化合物の転化率が80%未満の段階でポリハロ芳香族化合物を添加すると、得られる分岐型PAS樹脂の溶融粘度が高くなる傾向を示す一方、溶融粘弾性tanδが小さくなりすぎて、バリ抑制効果が不十分となる。
ポリハロ芳香族化合物の添加時期は、ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜98%の間とすることが好ましく、ジハロ芳香族化合物の転化率が85〜95%の間とすることがより好ましい。前段重合温度が高い場合には、重合反応の途中で重合温度を下げて、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点でポリハロ芳香族化合物を添加し、そして、後段重合温度にまで昇温することができる。前段重合工程終了時の重合反応混合物の温度は、後段重合工程で具体的に採用する所定の重合温度より低くなるように設定することが望ましい。
ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上の時点で相分離剤も添加する。相分離剤は、ポリハロ芳香族化合物と実質的に同時に添加してもよく、あるいはポリハロ芳香族化合物の添加後に添加してもよい。例えば、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物を添加し、その後、ジハロ芳香族の転化率が98%以下、好ましくは95%以下の時点で相分離剤を添加することができる。
相分離剤としては、前述のアルカリ金属カルボン酸塩や水などを使用することができるが、好ましくは水を使用する。水を用いると、コストが安価で、後処理も容易となるので好ましい。相分離剤として水を使用する場合には、前段重合工程において、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、重合反応混合物中の水分量(合計水分量)が仕込み硫黄源1モル当り2.00モル超過10.00モル以下となるように水を添加することが好ましい。相分離剤として水を加えて、重合反応混合物中の水分量を仕込み硫黄源1モル当り、より好ましくは2.30〜7.00モル、さらに好ましくは2.50〜5.00モルとなるようにすることが望ましい。
後段重合工程では、相分離剤を添加することにより、通常、ポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応が継続される。相分離剤の添加量が少なすぎると、相分離重合を行うことが困難になり、所望の特性を持つ分岐型PAS樹脂を得ることが困難になる。相分離剤の添加量が多すぎると、重合反応に長時間を必要としたり、粒状ポリマーを生成させることが困難になったりする。
9.4.昇温工程:
前段重合工程でポリハロ芳香族化合物と相分離剤とを添加した後、重合反応混合物を昇温速度10〜60℃/時間で加熱して、240℃以上、好ましくは245℃以上の温度に昇温する。
後段重合工程では、240〜290℃の温度に加熱して重合反応を継続するため、前段重合工程後、重合反応混合物を加熱して後段重合工程に適した温度に昇温させる。加熱温度の上限は、後段重合温度の上限である。
昇温速度が遅すぎると、製造時間が伸びて生産効率が低下する。他方、昇温速度が速すぎると、相分離したポリマー濃厚相の中で生成ポリマーが凝集し、肥大化する。そのため、分岐型PAS樹脂が大粒子化または塊状化する。また、昇温速度が速すぎると、場合によっては、生成ポリマーの溶融粘度の急上昇が起こることがある。昇温速度は、好ましくは15〜55℃/時間、より好ましくは20〜50℃/時間である。
9.5.後段重合工程:
後段重合工程では、通常、反応混合物がポリマー濃厚相とポリマー希薄相とに相分離した状態で重合反応が継続される。一般に、攪拌下に重合反応が行われるため、実際には、有機アミド溶媒(ポリマー希薄相)中に、ポリマー濃厚相が液滴として分散した状態で相分離重合反応が行われる。相分離状態は、後段重合反応の進行につれて明瞭に観察されるようになる。重合反応方式は、バッチ式、連続式、または両方式の組み合わせでもよい。バッチ式重合では、重合サイクル時間を短縮する目的のために、2つ以上の反応槽を用いる方式を用いてもよい。
後段重合工程では、240〜290℃、好ましくは245〜270℃の温度で重合反応を継続する。重合温度は、一定の温度に維持することができるが、必要に応じて、段階的に昇温または降温してもよい。
重合反応時間は、前段重合工程での重合時間との合計で、一般に10分間〜72時間、好ましくは30分間〜48時間である。後段重合工程での重合時間は、多くの場合、2〜10時間程度である。
10.後処理工程:
重合反応後の後処理は、常法に従って行うことができる。例えば、重合反応の終了後、重合反応混合物を冷却すると生成ポリマーを含むスラリーが得られる。冷却したスラリーをそのまま、あるいは水などで希釈してから、濾別し、洗浄と濾過を繰り返し、最後に乾燥することにより、分岐型PAS樹脂を回収することができる。
本発明の製造方法によれば、粒状ポリマーを生成させることができるため、スクリーンを用いて篩分する方法により粒状ポリマーをスラリーから分離することが、副生物やオリゴマーなどから容易に分離することができるため好ましい。スラリーは、高温状態のままで粒状ポリマーを篩分してもよい。
篩分後、ポリマーを重合溶媒と同じ有機アミド溶媒やケトン類(例えば、アセトン)、アルコール類(例えば、メタノール)などの有機溶媒で洗浄することが好ましい。ポリマーを高温水などで洗浄してもよい。ポリマーを、酸や塩化アンモニウムのような塩で処理することもできる。生成した粒状ポリマーの平均粒子径が大きすぎる場合には、所望の平均粒子径となるように、粉砕工程を配置してもよい。粒状ポリマーの粉砕及び/または分級を行うこともできる。
11.分岐型PAS樹脂:
本発明の製造方法によれば、重合反応後、必要に応じて生成ポリマーの粉砕工程を配置して、下記特性i〜iii:
i)温度330℃、剪断速度2sec−1で測定した溶融粘度が10.0×104〜40.0×104Pa・s、
ii)平均粒子径が50〜2000μm、及び
iii)温度310℃、角速度1rad/secで測定した溶融粘弾性tanδが0.10〜0.30
を有する分岐型PAS樹脂を得ることができる。
本発明の分岐型PAS樹脂の溶融粘度(温度330℃、剪断速度2sec−1で測定)は、好ましくは11.0×104〜40.0×104Pa・s、より好ましくは12.0×104〜38.0×104、特に好ましくは13.0×104〜35.0×104である。本発明の分岐型PAS樹脂を高分子改質剤として直鎖型PAS樹脂にブレンドして使用する場合には、バリ抑制効果と成形品の表面性とを高度にバランスさせる上で、分岐型PAS樹脂の溶融粘度(温度330℃、剪断速度2sec−1で測定)を、好ましくは11.0×104〜27.0×104Pa・s、特に好ましくは12.0×104〜26.0×104Pa・sの範囲内とすることが望ましい。
本発明の分岐型PAS樹脂の平均粒子径は、好ましくは60〜1500μm、より好ましくは70〜1000μmである。本発明の分岐型PAS樹脂を高分子改質剤として直鎖型PAS樹脂にブレンドして使用する場合には、バリ抑制効果と成形品の表面性とを高度にバランスさせる上で、分岐型PAS樹脂の平均粒子径を500μm以下、多くの場合70〜500μmの範囲内とすることが特に好ましい。分岐型PAS樹脂の平均粒子径を調整するために、重合により得られた分岐型PAS樹脂を粉砕及び/または分級してもよい。本発明の分岐型PAS樹脂の溶融粘弾性tanδ(温度310℃、角速度1rad/secで測定)は、好ましくは0.11〜0.29である。
分岐型PAS樹脂の溶融粘度が高すぎると、バリ抑制効果が不十分となり、かつ、成形品の表面性が悪くなる。分岐型PAS樹脂の溶融粘度が低すぎると、バリ抑制効果が劣悪となる。分岐型PAS樹脂の平均粒子径が小さすぎると、取り扱い、計量などが困難になる。分岐型PAS樹脂の平均粒子径が大きくなりすぎると、成形品の表面性が損なわれたり、直鎖型PAS樹脂などの他の樹脂とのブレンドが困難になったりする。
分岐型PAS樹脂の溶融粘弾性tanδが前記範囲内にあることによって、優れたバリ抑制効果が得られる。分岐型PAS樹脂の溶融粘弾性tanδが大きすぎたり、小さすぎたりすると、バリ抑制効果が劣悪となる。
本発明の分岐型PAS樹脂について、温度310℃、角速度100rad/secで測定した溶融粘弾性は、通常0.25〜0.70、多くの場合0.30〜0.60である。
本発明の分岐型PAS樹脂は、実質的に線状の直鎖型PAS樹脂とブレンドして使用することが好ましい。実質的に線状の直鎖型PAS樹脂とは、重合時に高分子量のポリマーとして得られるPAS樹脂である。これに対して、重合時に低重合度のポリマーを得た後、空気の存在下に加熱(キュアリング)し、部分橋掛けを行うタイプの架橋型PAS樹脂がある。本発明で使用する直鎖型PAS樹脂は、当業界において周知のポリマーである。
直鎖型PAS樹脂は、温度310℃、剪断速度1216sec−1で測定した溶融粘度が通常5〜1500Pa・s、好ましくは10〜1000Pa・s、より好ましくは15〜500Pa・sの直鎖型PPS樹脂であることが望ましい。
本発明では、直鎖型PAS樹脂100重量部に対して、分岐型PAS樹脂1〜50重量部を配合した樹脂組成物が好ましい。分岐型PAS樹脂の配合割合は、好ましくは5〜40重量部である。
この樹脂組成物には、有機または無機の各種充填剤を添加することができる。充填剤としては、粉末状や粒状の充填剤、繊維状充填剤など、この技術分野で使用されている任意の充填剤を用いることができる。これらの中でも、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状の無機充填剤が好ましい。
充填剤の配合割合は、直鎖型PAS樹脂100重量部に対して、通常400重量部以下、好ましくは350重量部以下、より好ましくは300重量部以下である。充填剤を配合する場合、その下限値は、直鎖型PAS樹脂100重量部に対して、通常0.01重量部、多くの場合0.1重量部である。充填剤の配合割合は、上記範囲内において、それぞれの使用目的に応じて適宜設定することができる。
(1)収率:
ポリマーの収率は、脱水工程後の反応缶中に存在する有効硫黄成分(有効S)の全量がポリマーに転換したと仮定したときのポリマー重量(理論量)を基準値とし、この基準値に対する実際に回収したポリマー重量の割合(重量%)を算出した。
(2)溶融粘度:
乾燥ポリマー約10gを用いて、東洋精機製キャピログラフ1−Cにより溶融粘度を測定した。この際、キャピラリーは、2.095mmφ×8mmLの流入角付きダイを使用し、設定温度は、330℃とした。ポリマー試料を装置に導入し、5分間保持した後、剪断速度2sec−1での溶融粘度を測定した。
(3)平均粒子径:
JIS K−0069に従い、下から200メッシュ、150メッシュ、100メッシュ、60メッシュ、32メッシュ、24メッシュ、16メッシュ、12メッシュ、及び7メッシュの9つの篩を積み重ね、一番上の篩にポリマー試料を載せ、FRITSCH社製電磁式篩振盪機(商品名「Analysette 3」)を使用して、振とう時間=15分間、AMPLITUDE=6、INTERVAL=6で測定を行った。
(4)溶融粘弾性(tanδ):
乾燥樹脂約3gを直径2cmの円形型枠内において、320℃でホットプレスし、氷水によって急冷して、レオメータ測定用の試験片を作製した。レオメトリックス社製レオメータRDSIIを使用し、測定温度310℃、パラレルプレートにより、角速度ω=1rad/sec及び100rad/secで溶融粘弾性の測定を行った。
(5)バリ特性
温度310℃、剪断速度1216sec−1で測定した溶融粘度が55Pa・sの直鎖型PPS樹脂100重量部に対して、分岐型PAS樹脂20重量部とガラス繊維(直径13μmφ、長さ3mm、日本電気硝子製)80重量部とを2分間混合し、これをシリンダ温度320℃の二軸押出機に投入し、樹脂組成物のペレットを作製した。このペレットを、直径70mm×厚さ3mmのキャビティを有するバリ評価用金型内に、完全に樹脂組成物が充填する最小の充填圧力で射出成形した。射出成形の条件は、下記の通りである。
<射出成形条件>
射出成形機: 東芝機械製、IS−75E、
シリンダ温度条件: NH/H1/H2/H3/H4=310/320/310/300/290(℃)、
金型温度: 140℃(120℃)。
<バリ長さの測定>
金型の円周部に設けられた厚さ20μm×5mmのスリットに生じるバリの長さ(バリ長)を、拡大投影器を用いて測定した。バリ長が短いほど、バリ発生を抑制する効果(バリ特性)が良好であることを示す。バリ特性は、以下の基準で評価した。
A:バリ長80μm以下、
B:バリ長80μm超過100μm未満、
C:バリ長100μm以上。
(6)成形品の表面性
バリ評価用成形品(直径70mm×厚さ3mmの円盤)の両面を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
A:小さなクレータ状の凹みが4個以下、
B:クレータ状の凹みが5〜20個、
C:クレータ状の凹みが21個以上。
実施例1
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値62.87重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1801g、及び74.40重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1080g(NaOH分として20.09モル)をN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記)6000gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に投入した。
水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1801g中の硫黄分(S)は、20.20モルである。この水溶液の中和滴定法によるNaSH分析値が61.77重量%(19.84モル)であり、硫化ナトリウム(Na2S)が0.35モル含まれることになる。そこで、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、1.012(モル/モル)となり、NaOH/Sは、0.994(モル/モル)となる。
反応缶内を窒素ガスで置換後、2時間20分かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水861g及びNMP718gを留出させた。この際、0.38モルの硫化水素(H2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、19.82モルとなった。H2S揮散分は、投入S量に対して、1.88モル%に相当した。
(2)仕込み工程:
脱水工程後、19.82モルの有効Sを含む反応缶を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」と略記)3089g〔pDCB/有効S=1.060(モル/モル)〕、NMP3637g、水115g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH3gを加えた。反応缶内には、H2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.76モル)が含まれている。
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3.0時間反応させ、その後、35分間で210℃に降温させた(前段重合工程)。前段重合終了時のpDCBの転化率は、90%であった。次に、撹拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、1,2,4−トリクロロベンゼン(以下、「TCB」と略記)120.8g〔TCB/有効S=0.033(モル/モル)〕、及び水589gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=3.15(モル/モル)〕、昇温速度33℃/時間で255℃に昇温して、5.0時間反応させた(後段重合工程)。
(4)後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、83%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表1に示した。
実施例2
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値62.39重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1841g、及び74.16重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1094g(NaOH分として20.28モル)をNMP6010gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に投入した。
水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1841g中の硫黄分(S)は、20.49モルである。この水溶液の中和滴定法によるNaSH分析値が61.09重量%(20.06モル)であり、硫化ナトリウム(Na2S)が0.43モル含まれることになる。そこで、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、1.011(モル/モル)となり、NaOH/Sは、0.990(モル/モル)となる。
反応缶内を窒素ガスで置換後、2時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水917g及びNMP862gを留出させた。この際、0.35モルの硫化水素(H2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、20.13モルとなった。H2S揮散分は、投入S量に対して、1.73モル%に相当した。
(2)仕込み工程:
脱水工程の後、20.13モルの有効Sを含む反応缶を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)3171g〔pDCB/有効S=1.072(モル/モル)〕、NMP3911g、及び水147g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH6gを加えた。反応缶内には、H2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.71モル)が含まれている。
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3.0時間反応させ、その後、35分間で210℃に降温させた(前段重合工程)。前段重合終了時のpDCBの転化率は、91%であった。次に、撹拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、トリクロロベンゼン(TCB)123.3g〔TCB/有効S=0.034(モル/モル)〕、及び水599gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=3.15(モル/モル)〕、昇温速度30℃/時間で255℃に昇温して、2.0時間反応させた(後段重合工程)。
(4)後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、83%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表1に示した。
実施例3
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値62.39重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1839g、及び74.16重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1091g(NaOH分として20.23モル)をNMP6017gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に仕込んだ。
水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1839g中の硫黄分(S)は、20.47モルである。この水溶液の中和滴定法によるNaSH分析値が61.09重量%(20.04モル)であり、硫化ナトリウム(Na2S)が0.43モル含まれることになる。そこで、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、1.009(モル/モル)となり、NaOH/Sは、0.988(モル/モル)となる。
反応缶内を窒素ガスで置換後、2時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水892g及びNMP907gを留出させた。この際、0.35モルの硫化水素(H2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、20.12モルとなった。H2S揮散分は、投入S量に対して、1.69モル%に相当した。
(2)仕込み工程:
上記脱水工程の後、20.12モルの有効Sを含む反応缶を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)3164g〔pDCB/有効S=1.070(モル/モル)〕、NMP3945g、及び水123g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH9gを加えた。反応缶内には、H2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.69モル)が含まれている。
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3.0時間反応させ、その後、35分間で210℃に降温させた(前段重合工程)。前段重合終了時のpDCBの転化率は、91%であった。次に、撹拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、トリクロロベンゼン(TCB)123.8g〔TCB/有効S=0.034(モル/モル)〕、及び水598gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=3.15(モル/モル)〕、昇温速度36℃/時間で255℃に昇温して、2.0時間反応させた(後段重合工程)。
(4)後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。粒状ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、84%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表1に示した。
実施例4
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値62.39重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1848g、及び74.16重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1094g(NaOH分として20.28モル)をNMP6006gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に仕込んだ。
水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1848g中の硫黄分(S)は、20.57モルである。この水溶液の中和滴定法によるNaSH分析値が61.09重量%(20.14モル)であり、硫化ナトリウム(Na2S)が0.43モル含まれることになる。そこで、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、1.007(モル/モル)となり、NaOH/Sは、0.986(モル/モル)となる。
反応缶内を窒素ガスで置換後、2時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水904g及びNMP890gを留出させた。この際、0.35モルの硫化水素(H2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、20.22モルとなった。H2S揮散分は、投入S量に対して、1.70モル%に相当した。
(2)仕込み工程:
脱水工程の後、20.22モルの有効Sを含む反応缶を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)3095g〔pDCB/有効S=1.042(モル/モル)〕、NMP3980g、及び水132g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH10gを加えた。反応缶内には、H2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.70モル)が含まれている。
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3.0時間反応させ、その後、35分間で210℃に降温させた(前段重合工程)。前段重合終了時のpDCBの転化率は、90%であった。次に、撹拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、トリクロロベンゼン(TCB)208.3g〔TCB/有効S=0.056(モル/モル)〕、及び水601gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=3.15(モル/モル)〕、昇温速度48℃/時間で255℃に昇温して、2.0時間反応させた(後段重合工程)。
(4)後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、81%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表1に示した。
実施例5
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値62.39重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1845g、及び74.16重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1094g(NaOH分として20.28モル)をNMP6002gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に仕込んだ。
水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1845g中の硫黄分(S)は、20.53モルである。この水溶液の中和滴定法によるNaSH分析値が61.09重量%(20.11モル)であり、硫化ナトリウム(Na2S)が0.43モル含まれることになる。そこで、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、1.009(モル/モル)となり、NaOH/Sは、0.988(モル/モル)となる。
反応缶内を窒素ガスで置換後、2時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水927g及びNMP864gを留出させた。この際、0.35モルの硫化水素(H2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、20.18モルとなった。H2S揮散分は、投入S量に対して、1.72モル%に相当した。
(2)仕込み工程:
脱水工程の後、20.18モルの有効Sを含む反応缶を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)3164g〔pDCB/有効S=1.067(モル/モル)〕、NMP3942g、及び水156g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH9gを加えた。反応缶内には、H2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.71モル)が含まれている。
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3.0時間反応させ、その後、35分間で210℃に降温させた(前段重合工程)。前段重合終了時のpDCBの転化率は、91%であった。次に、撹拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、トリクロロベンゼン(TCB)123.1g〔TCB/有効S=0.034(モル/モル)〕、及び水600gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=3.15(モル/モル)〕、昇温速度29℃/時間で255℃に昇温して、5.0時間反応させた(後段重合工程)。
(4)後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、83%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表1に示した。
実施例6
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値62.39重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1840g、及び74.16重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1094g(NaOH分として20.28モル)をNMP6005gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に仕込んだ。
水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1840g中の硫黄分(S)は、20.48モルである。この水溶液の中和滴定法によるNaSH分析値が61.09重量%(20.05モル)であり、硫化ナトリウム(Na2S)が0.43モル含まれることになる。そこで、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、1.011(モル/モル)となり、NaOH/Sは、0.990(モル/モル)となる。
反応缶内を窒素ガスで置換後、2時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水898g及びNMP903gを留出させた。この際、0.35モルの硫化水素(H2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、20.12モルとなった。H2S揮散分は、投入S量に対して、1.73モル%に相当した。
(2)仕込み工程:
脱水工程の後、20.12モルの有効Sを含む反応缶を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)3114g〔pDCB/有効S=1.053(モル/モル)〕、NMP3952g、及び水128g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH6gを加えた。反応缶内には、H2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.71モル)が含まれている。
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3.0時間反応させ、その後、35分間で210℃に降温させた(前段重合工程)。前段重合終了時のpDCBの転化率は、90%であった。次に、撹拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、トリクロロベンゼン(TCE)165.0g〔TCB/有効S=0.045(モル/モル)〕、及び水598gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=3.15(モル/モル)〕、昇温速度36℃/時間で255℃に昇温して、2.0時間反応させた(後段重合工程)。
(4)後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、87%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表1に示した。
実施例7
pDCB/有効Sを1.055(モル/モル)、後段重合への昇温速度を30℃/時間とした以外は、実施例1と同様の方法で行った。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、84%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表1に示した。
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値62.39重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1840g、及び74.16重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1092g(NaOH分として20.25モル)をNMP6004gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に仕込んだ。
水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1840g中の硫黄分(S)は、20.48モルである。この水溶液の中和滴定法によるNaSH分析値が61.09重量%(20.05モル)であり、硫化ナトリウム(Na2S)が0.43モル含まれることになる。そこで、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、1.010(モル/モル)となり、NaOH/Sは、0.989(モル/モル)となる。
反応缶内を窒素ガスで置換後、2時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水913g及びNMP867gを留出させた。この際、0.35モルの硫化水素(H2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、20.14モルとなった。H2S揮散分は、投入S量に対して、1.70モル%に相当した。
(2)仕込み工程:
脱水工程の後、20.14モルの有効Sを含む反応缶を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)3193g〔pDCB/有効S=1.079(モル/モル)〕、NMP3919g、及び水144g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH8gを加えた。反応缶内には、H2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.70モル)が含まれている。
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3.0時間反応させ、その後、35分間で210℃に降温させた(前段重合工程)。前段重合終了時のpDCBの転化率は、91%であった。次に、撹拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、トリクロロベンゼン(TCB)124.9g〔TCB/有効S=0.034(モル/モル)〕、及び水598gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=3.15(モル/モル)〕、昇温速度30℃/時間で255℃に昇温して、2.0時間反応させた(後段重合工程)。
(4)後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、81%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表2に示した。
比較例2
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値62.39重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1841g、及び74.16重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液1094g(NaOH分として20.28モル)をNMP6002gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に仕込んだ。
水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1841g中の硫黄分(S)は、20.49モルである。この水溶液の中和滴定法によるNaSH分析値が61.09重量%(20.06モル)であり、硫化ナトリウム(Na2S)が0.43モル含まれることになる。そこで、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、1.011(モル/モル)となり、NaOH/Sは、0.990(モル/モル)となる。
反応缶内を窒素ガスで置換後、2時間かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水922gとNMP848gを留出させた。この際、0.35モルの硫化水素(H2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、20.15モルとなった。H2S揮散分は、投入S量に対して、1.70モル%に相当した。
(2)仕込み工程:
脱水工程の後、20.15モルの有効Sを含む反応缶を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)2846g〔pDCB/有効S=0.961(モル/モル)〕、NMP3908g、及び水152g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH7gを加えた。反応缶内には、H2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.69モル)が含まれている。
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で3.0時間反応させ、その後、35分間で210℃に降温させた(前段重合工程)。前段重合終了時のpDCBの転化率は、90%であった。次に、撹拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、トリクロロベンゼン(TCB)412.0g〔TCB/有効S=0.113(モル/モル)〕、及び水599gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=3.15(モル/モル)〕、昇温速度58℃/時間で255℃に昇温して、5.0時間反応させた(後段重合工程)。
(4)後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、84%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表2に示した。
比較例3
(1)脱水工程:
ヨードメトリー法による分析値62.12重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1696g、及び73.95重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液972g(NaOH分として17.97モル)をNMP6004gと共にチタン製20リットルオートクレーブ(反応缶)に仕込んだ。
水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液1696g中の硫黄分(S)は、18.79モルである。この水溶液の中和滴定法によるNaSH分析値が59.50重量%(18.00モル)であり、硫化ナトリウム(Na2S)が0.79モル含まれることになる。そこで、水硫化ナトリウムと硫化ナトリウムとからなる硫黄源を「S」と表記すると、脱水前のNaOH/NaSHは、0.998(モル/モル)となり、NaOH/Sは、0.956(モル/モル)となる。
反応缶内を窒素ガスで置換後、2時間30分かけて、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水850gとNMP940gを留出させた。この際、0.45モルの硫化水素(H2S)が揮散した。したがって、脱水工程後の缶内の有効S量は、18.34モルとなった。H2S揮散分は、投入S量に対して、2.40モル%に相当した。
(2)仕込み工程:
脱水工程の後、18.34モルの有効Sを含む反応缶を170℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(pDCB)2715g〔pDCB/有効S=1.007(モル/モル)〕、TCB51.6g〔TCB/有効S=0.015(モル/モル)〕、NMP3604g、及び水160g〔缶内の合計水量/有効S=1.50(モル/モル)〕を加え、そして、缶内NaOH/有効S=1.054(モル/モル)になるように、純度97%のNaOH5gを加えた。反応缶内には、H2Sが揮散することにより生成したNaOH(0.90モル)が含まれている。
(3)重合工程:
反応缶に備え付けた撹拌機を250rpmで撹拌しながら、220℃で4時間35分反応させ、その後、35分間で210℃に降温させた(前段重合工程)。前段重合終了時のpDCBの転化率は、92%であった。次に、撹拌機の撹拌数を400rpmに上げ、撹拌を続けながら、水826.1gを圧入し〔缶内の合計水量/有効S=4.00(モル/モル)〕、昇温速度33℃/時間で255℃に昇温して、5.0時間反応させた(後段重合工程)。
(4)後処理工程:
反応終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、反応液を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分した。分離したポリマーについて、アセトンにより2回洗浄し、水洗を3回行った後、0.3%酢酸水洗を行い、さらに水洗を4回行って洗浄ポリマーを得た。洗浄ポリマーは、105℃で13時間乾燥した。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、69%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表2に示した。
比較例4
pDCB/有効Sを1.036(モル/モル)、後段重合時間を1.0時間とした以外は、比較例3と同様の方法で行った。このようにして得られた粒状ポリマーの収率は、71%であった。ポリマーの物性及び特性のデータを表2に示した。
比較例5
トリクロロベンゼン(TCB)の添加を、前段重合開始から1.0時間後とした以外は、実施例1と同様に行った。TCB添加時のpDCBの転化率は、65%であった。得られたポリマーの物性及び特性のデータを表2に示した。
比較例6
前段重合から後段重合への昇温速度を70℃/時間としたこと以外は、実施例1と同様に行った。その結果、生成ポリマーの粒子が肥大化し、一部は大きな塊状となった。得られたポリマーの物性及び特性のデータを表2に示した。ただし、このポリマーは、直鎖型PAS樹脂と均一な樹脂組成物(ペレット)を形成することが困難であり、しかも樹脂組成物の成形性が劣悪なため、成形に関する評価は行わなかった。
したがって、本発明の分岐型PAS樹脂は、バリ発生抑制剤、射出成形時の結晶化度向上剤などの高分子改質剤として、直鎖型PAS樹脂などの熱可塑性樹脂にブレンドして使用することができる。本発明の分岐型PAS樹脂は、加熱により架橋構造を導入した熱架橋PAS樹脂に比べて、金属に対する腐食性が低いため、直鎖型PAS樹脂とブレンドすると、バリ抑制効果に優れるとともに、金型腐食性が少ない樹脂組成物とすることができる。
本発明の分岐型PAS樹脂は、直鎖型PAS樹脂など他の熱可塑性樹脂とブレンドして、射出成形、押出成形、圧縮成形などの一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能であり、電気・電子機器、自動車機器、化学機器等の広範な分野において樹脂部品の材料として利用することができる。
Claims (20)
- 有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを、分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物の存在下に重合させる分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを170〜270℃の温度で重合反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、硫黄源1モル当り0.010〜0.100モルのポリハロ芳香族化合物、及び相分離剤を添加し、次いで、重合反応混合物を昇温速度10〜60℃/時間で加熱して240℃以上の温度に昇温し、そして、240〜290℃の温度で重合反応を継続する分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
- 下記工程1〜5:
(1)有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水分を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する脱水工程1;
(2)脱水工程で系内に残存する混合物とジハロ芳香族化合物とを混合して、有機アミド溶媒、硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」という)、アルカリ金属水酸化物、水分、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程2;
(3)仕込み混合物を170〜270℃の温度に加熱することにより、水分を含有する有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、仕込み硫黄源1モル当り0.010〜0.100モルのポリハロ芳香族化合物、及び相分離剤を添加する前段重合工程3;
(4)重合反応混合物を昇温速度10〜60℃/時間で加熱して、240℃以上の温度に昇温する昇温工程4;並びに
(5)240〜290℃の温度で重合反応を継続する後段重合工程5;
を含む請求項1記載の製造方法。 - 脱水工程1において、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を100〜250℃の温度に加熱して、該混合物を含有する系内から水分を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する請求項2記載の製造方法。
- 脱水工程1において、有機アミド溶媒、アルカリ金属水硫化物を含む硫黄源、及び該硫黄源1モル当たり0.900〜1.050モルのアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を加熱して、該混合物を含有する系内から水分を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する請求項2記載の製造方法。
- 脱水工程1において、脱水工程後に系内に残存する硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たり、0.00〜2.00モルの水分量となるまで脱水する請求項2記載の製造方法。
- 仕込み工程2において、仕込み硫黄源が50モル%超過のアルカリ金属水硫化物と50モル%未満のアルカリ金属硫化物とを含有するものである請求項2記載の製造方法。
- 仕込み工程2において、仕込み硫黄源1モル当りの各成分の割合が、アルカリ金属水酸化物が0.950〜1.090モル、水分が0.00〜2.00モル、及びジハロ芳香族化合物が0.950〜1.200モルとなるように、これら各成分を含有する仕込み混合物を調製する請求項2記載の製造方法。
- 仕込み工程2において、仕込み硫黄源1モル当り、水分が0.90〜1.60モルで、かつ、ジハロ芳香族化合物が1.000〜1.100モルとなるように、これら各成分を含有する仕込み混合物を調製する請求項2記載の製造方法。
- 仕込み工程2において、仕込み硫黄源1モル当り、有機アミド溶媒が0.1〜10kgの範囲内となるように、仕込み混合物を調製する請求項2記載の製造方法。
- 前段重合工程3において、ジハロ芳香族化合物の転化率が80〜98%となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物、及び相分離剤を添加する請求項2記載の製造方法。
- 前段重合工程3において、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、重合反応混合物中の水分量が仕込み硫黄源1モル当り2.00モル超過10.00モル以下となるように、相分離剤として水を添加する請求項2記載の製造方法。
- 前段重合工程3において、ジハロ芳香族化合物の転化率が80%以上となった時点で、重合反応混合物中に、ポリハロ芳香族化合物と相分離剤とを同時に添加するか、あるいはジハロ芳香族の転化率が80%以上の時点でポリハロ芳香族化合物を添加した後、ジハロ芳香族化合物の転化率が95%になるまでの間に相分離剤を添加する請求項2記載の製造方法。
- 前段重合工程3において、仕込み混合物を190〜235℃の温度に加熱することにより、水分を含有する有機アミド溶媒中で、硫黄源とジハロ芳香族化合物とを重合反応させる請求項2記載の製造方法。
- 昇温工程4において、重合反応混合物を昇温速度10〜60℃/時間で加熱して、240℃以上の温度であって、前段重合工程3での重合温度以上かつ290℃以下の温度に昇温する請求項2記載の製造方法。
- 昇温工程4において、昇温速度15〜55℃/時間で加熱する請求項2記載の製造方法。
- 後段重合工程5において、245〜270℃の温度で重合反応を継続する請求項2記載の製造方法。
- 重合反応後、必要に応じて生成ポリマーの粉砕工程を配置して、下記特性i〜iii:
i)温度330℃、剪断速度2sec−1で測定した溶融粘度が10.0×104〜40.0×104Pa・s、
ii)平均粒子径が50〜2000μm、及び
iii)温度310℃、角速度1rad/secで測定した溶融粘弾性tanδが0.10〜0.30
を有する分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂を得る請求項1記載の製造方法。 - 下記特性i〜iii:
i)温度330℃、剪断速度2sec−1で測定した溶融粘度が10.0×104〜40.0×104Pa・s、
ii)平均粒子径が50〜2000μm、及び
iii)温度310℃、角速度1rad/secで測定した溶融粘弾性tanδが0.10〜0.30
を有する分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂。 - 請求項18記載の分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の高分子改質剤としての使用。
- 分岐型ポリアリーレンスルフィド樹脂の高分子改質剤としての使用が、実質的に線状の直鎖型ポリアリーレンスルフィド樹脂に対するバリ発生抑制剤としての使用である請求項19記載の使用。
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