JPWO2006030584A1 - 分析試料調製方法および分析試料ならびに分析試料調製用化合物 - Google Patents

分析試料調製方法および分析試料ならびに分析試料調製用化合物 Download PDF

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Abstract

生体試料から特定の捕捉物質により生体高分子を捕捉する捕捉段階と、生体高分子が捕捉された捕捉物質をオキシルアミノ基含有化合物と反応させて、生体高分子とこのオキシルアミノ基含有化合物との複合体を形成する切出段階とを含む分析試料調製方法。

Description

本発明は、分析試料調製方法に関し、特に生体試料から所定の生体高分子を分析するための分析試料として遊離するための分析試料調製方法に関し、およびこの分析試料調製方法を用いて得られる分析試料に関し、さらにこの分析試料調製方法に使用される分析試料調製用化合物に関する。
生体高分子とは、糖鎖、糖タンパク、糖ペプチド、ペプチド、オリゴペプチド、タンパク、核酸、脂質などの総称である。
また、これら生体高分子は、医学、細胞工学、臓器工学などのバイオテクノロジー分野において重要な役割を担っており、これら物質による生体反応の制御機構を明らかにすることはバイオテクノロジー分野の発展に繋がることになる。
この中でも、糖鎖は、非常に多様性に富んでおり、天然に存在する生物が有する様々な機能に関与する物質である。糖鎖は生体内でタンパク質や脂質などに結合した複合糖質として存在することが多く、生体内の重要な構成成分の一つである。生体内の糖鎖は細胞間情報伝達,タンパク質の機能や相互作用の調整などに深く関わっていることが明らかになりつつある。
なお、糖鎖とは、グルコース,ガラクトース,マンノース,フコース,キシロース,N−アセチルグルコサミン,N−アセチルガラクトサミン,シアル酸などの単糖およびこれらの誘導体がグリコシド結合によって鎖状に結合した分子の総称である。
例えば、糖鎖を有する生体高分子としては、細胞の安定化に寄与する植物細胞の細胞壁のプロテオグリカン、細胞の分化、増殖、接着、移動等に影響を与える糖脂質、及び細胞間相互作用や細胞認識に関与している糖タンパク質等が挙げられる。これらの生体高分子に含まれる糖鎖が、この生体高分子と互いに機能を代行、補助、増幅、調節、あるいは阻害しあいながら高度で精密な生体反応を制御する機構が次第に明らかにされつつある。さらに、このような糖鎖と細胞の分化増殖、細胞接着、免疫、及び細胞の癌化との関係が明確にされれば、この糖鎖工学と、医学、細胞工学、あるいは臓器工学とを密接に関連させて新たな展開を図ることが期待できる。
特許文献1には、このような糖鎖と特異的に反応しうる物質が記載されており、これらの物質を用いて糖鎖を分離などする方法が併せて記載されている。
WO2004/058687号公報
ところで、特許文献1には、糖鎖捕捉物質に捕捉された糖鎖をこの糖鎖捕捉物質より遊離する(切り出す)ために、トリフルオロ酢酸や酸性樹脂などを用いた酸処理を用いる例が記載されている。このような過酷な条件に糖鎖をさらすことは、生体試料から取り出された糖鎖の末端に結合し、かつ、酸性条件で脱離しやすい性質を持つシアル酸残基の脱離など糖鎖の変性を引き起こすおそれがあり、より穏やかな条件での糖鎖切り出しを行うことが望まれていた。なお、糖鎖に結合するシアル酸の有無および結合場所は、疾患と関連することが多く、シアル酸が完全な状態で糖鎖を分析することが望まれ、分析前の前処理段階でシアル酸の一部でも脱離してしまうと正確な糖鎖情報を得ることができなくなるものである。
そこで、本発明は、所定の生体高分子を含む生体試料より分析試料のための生体高分子を遊離するに際して、捕捉物質を用いて生体高分子を捕捉し、この生体高分子の切り出しを穏やかな条件で行うことを可能にする分析試料調製方法、およびこの方法を適用して得られる分析試料、ならびにこの生体高分子の分析試料調製に用いられる化合物を提供することを目的としている。
本発明に係る分析試料調製方法は、生体試料から特定の糖鎖捕捉物質により糖鎖を捕捉する糖鎖捕捉段階と、
前記糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質をオキシルアミノ基含有化合物と反応させて、糖鎖とこのオキシルアミノ基含有化合物との複合体を形成する切出段階と
を含む。
また、本発明に係る分析試料調製方法は、生体試料から特定の糖鎖捕捉物質により糖鎖を捕捉する糖鎖捕捉段階と、
前記糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質を洗浄する洗浄段階と、
前記洗浄された糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質をオキシルアミノ基含有化合物と反応させて、糖鎖とこのオキシルアミノ基含有化合物との複合体を形成する切出段階と
を含む。
前記のいずれかの分析試料調製方法において、糖鎖捕捉段階で用いられる特定の糖鎖捕捉物質は、下記式(1)で示される化合物を用いた重合反応により得られるポリマーとすることができる:
1−B−A−B−R2 (1)
(式中、R1は重合性基を表し、R2はオキシルアミノ基含有基またはオキシルアミノ誘導体含有基を表し、Bはエステル基またはアミド基を表し、Aは置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルキレン基を表す)。
さらに、この分析試料調製方法において、糖鎖捕捉段階で行われる糖鎖捕捉物質と生体試料との反応は、pHが酸性条件で行うようにすることができる。
前述のいずれかの分析試料調製方法において、切出段階で反応させるオキシルアミノ基含有化合物は、下記式(2)で示される化合物とすることができる:
11−ONH2 (2)
(式中、R11は水素;あるいは置換基を有していてもよく、かつ、−O−,−S−,−NH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;あるいは置換基を有していてもよい芳香環および必要に応じてこの芳香環とオキシルアミノ基とをつなぐリンカー部分Lを有する基であり、Lは−O−,−S−,−NH−で中断されてもよく、および置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基;あるいはペプチド、オリゴペプチドおよびそれら誘導体から選ばれる部分を含む基である)。
また、この分析資料調製方法において、R11に含まれる水素原子のうち少なくとも1つが重水素に置換されていてもよい。
さらに、この分析試料調製方法において、前記化合物中でR11は、アルギニン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシンおよびこれら誘導体の少なくともひとつからなる部分を含んでいてもよい。
あるいは、この分析試料調製方法において、前記化合物は下記の構造を有していてもよい:
CH3O-X-COCH2ONH2
(式中、Xはペプチド二量体からなるリンカーである)。
さらに、この分析試料調製方法において、前記化合物は下記の構造を有していてもよい:
(化1)
Figure 2006030584
また、前記の分析試料調製方法において、前記化合物は下記の構造を有していてもよい:
Y-X-COCH2ONH2
(式中、Xはペプチド二量体からなるリンカーであり、Yは生体高分子と反応し得る官能基である)。
さらに、この分析試料調製方法において、前記化合物中でYは、ヒドラジド基であってもよい。
あるいは、前記の分析試料調製方法において、前記化合物は、下記の構造を有する化合物のうち、いずれか一方であってもよい:
(化2)
Figure 2006030584
あるいは、前記の分析試料調製方法において、前記オキシルアミノ基含有化合物は、複合体を形成する糖鎖を標識化するための標識化官能基を有していてもよい。
前述のいずれかの分析試料調製方法において、切出段階で行われる糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質と、前記オキシルアミノ基含有化合物との反応は、pHが中性付近の条件で行うことができる。
また、本発明に係る分析試料は、前述のいずれかの分析試料調製方法にて生体試料より調製されて得られるものである。
また、本発明に係る分析試料は、生体高分子と、オキシルアミン基含有化合物とを反応させて得られるものである。
さらに、この分析試料であって、前記オキシルアミン基含有化合物は、下記式(2)で示される化合物とすることができる:
11−ONH2 (2)
(式中、R11は水素;あるいは置換基を有していてもよく、かつ、−O−,−S−,−NH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;あるいは置換基を有していてもよい芳香環および必要に応じてこの芳香環とオキシルアミノ基とをつなぐリンカー部分Lを有する基であり、Lは−O−,−S−,−NH−で中断されてもよく、および置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基;あるいはペプチド、オリゴペプチドおよびそれら誘導体から選ばれる部分を含む基である)。
また、この分析資料において、R11に含まれる水素原子のうち少なくとも1つが重水素に置換されていてもよい。
さらに、この分析試料において、前記化合物は、下記の構造を有する化合物のうち、いずれか一方であってもよい:
(化3)
Figure 2006030584
また、本発明に係る生体高分子の分析試料調製用化合物は、下記構造を有する:
糖鎖-NHNH-X-COCH2ONH2
(式中、Xはペプチド二量体からなるリンカーである)。
また、本発明に係る生体高分子の分析試料調製用化合物は、下記構造を有する:
蛍光物質-NHNH-X-COCH2ONH2
(式中、Xはペプチド二量体からなるリンカーである)。
本発明によれば、所定の生体高分子を含む生体試料より分析試料のための生体高分子を遊離するに際して、捕捉物質を用いて生体高分子を捕捉し、この生体高分子の切り出しを穏やかな条件で行うことを可能にする。
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
本発明に係る分析試料調製方法の実施形態の手順を示すフローチャートである。 前記実施形態に係る分析試料調製方法を適用する前処理装置の概略構成を示すブロック図である。 実験例で得られた複合体のMALDI−TOF−MSのチャートを示す図である。 実験例で得られた複合体のMALDI−TOF−MSのチャートを示す図である。 実験例で得られた複合体のMALDI−TOF−MSのチャートを示す図である。
以下に、本発明の分析試料調製方法およびこの方法を適用して得られる分析試料、ならびにこの方法に用いられる分析試料調製用化合物について詳細に説明する。
図1は、本発明の分析試料調製方法にかかる実施形態として、生体高分子である糖鎖の捕捉、遊離の手順を示すフローチャートである。
本実施形態は、生体試料から特定の捕捉物質により所定の生体高分子を捕捉する捕捉段階としてのステップS20と、生体高分子が捕捉された捕捉物質を洗浄する洗浄段階としてのステップS30と、洗浄された生体高分子が捕捉された捕捉物質をオキシルアミノ基含有化合物と反応させて、生体高分子とこのオキシルアミノ基含有化合物との複合体を形成する切出段階としてのステップS40とを含む。
以下、図1に示した各ステップについて説明する。
ステップS10では、糖鎖または糖鎖を含む複合分子、例えば糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質などを含む所定の生体試料から糖を遊離するための予備処理が行われる。
ここで、生体試料とは、生物由来の糖鎖が結合または付属する材料であれば特にその由来に限定はなく、動物、植物、細菌、ウイルスを問わないが、好ましくは動物由来の体液、例えば全血、血漿、血清、汗、唾液、尿、膵液、羊水、髄液などが挙げられる。また、生体試料には、個体から予め分離されていないものも含まれ、例えば外部から試液が接触可能な粘膜組織、あるいは腺組織、好ましくは乳腺、前立腺、膵臓に付属する管組織の上皮が含まれる。
また、生体試料に行う予備処理としては、グリコシダーゼ処理、ヒドラジン分解および必要に応じてプロテアーゼ処理、細胞破砕、脱脂処理、加熱変性処理が挙げられ、生体試料を予備処理して得られた試料は、溶液、分散液、懸濁液、乾燥体の状態で得られる。なお、予備処理済の生体試料は、そのまま次のステップで用いてもよいし、一度乾燥させて所望の溶液に溶解させてから次のステップで用いてもよい。
ステップS20では、ステップS10で得られた予備処理済の生体試料を用いて、特定の糖鎖捕捉物質に糖鎖を捕捉させる糖鎖捕捉反応が行われる。
ここで、糖鎖捕捉反応、すなわち糖鎖捕捉物質と予備処理済の生体試料との反応は、予備処理済の試料に糖鎖捕捉物質を導入して、pHが酸性の条件で、好ましくはpHが2〜6、さらに好ましくは3〜6の条件にて、また反応温度が4〜90℃、好ましくは25〜90℃、より好ましくは40〜90℃の条件における反応系で、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜2時間行われる。
この反応で用いられる糖鎖捕捉物質は、オキシルアミノ基を有するポリマーであり、このオキシルアミノ基が、糖鎖より水溶液などの溶液中で形成される環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡において、アルデヒド基と反応して特異的、かつ、安定な結合を形成して、糖鎖を捕捉することができるようになる。すなわち、糖鎖捕捉反応とは、以下に示すような反応をいう。
(化4)
Figure 2006030584
このようなポリマーとしては、以下のオキシルアミノ基含有化合物を用いた通常の重合反応、例えば懸濁重合反応により得られるものである。また、この重合反応は、オキシルアミノ基含有化合物を重合させるための架橋剤として、多官能の化合物の存在下で行うようにすることができる。
オキシルアミノ基含有化合物としては、例えば下記式(1)で示される化合物が挙げられる。
1−B−A−B−R2 (1)
(式中、R1は重合性基を表し、R2はオキシルアミノ基含有基またはオキシルアミノ誘導体含有基を表し、Bはエステル基またはアミド基を表し、Aは置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルキレン基を表す)。
1は、炭素−炭素の二重結合(C=C)を含む重合性基であり、例えば不飽和カルボン酸由来の基が挙げられ、後述する本発明のポリマーを製造する際の重合部分となる。例えば、CH2=C(CH3)-,CH2=CH-などが挙げられる。
また、Bはエステル基またはアミド基であり、R1と一緒になって、例えばCH2=C(CH3)CONH-,CH2=CHCONH-,CH2=CHCOO-,CH2=C(CH3)COO-などを形成するようになっている。
Aは、分岐を有してもよく、−O−,−S−,−NR5−が介在してもよい炭素数2〜12のアルキレン基を表し、さらにR5は水素原子または置換基を有してもよい炭素数1〜8のアルキレン基であり、基Aとしては、例えば、-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-,-CH2CH2-S-CH2CH2-S-CH2CH2-,-CH2CH2-NH-CH2CH2-NH-CH2CH2-,-CH2CH2-O-CH2CH2-,-CH2CH2-S-CH2CH2-,-CH2CH2-などが挙げられる。
2は、オキシルアミノ基(-O-NH2)含有基またはその誘導体含有基を表す。この誘導体は、オキシルアミノ基の窒素に結合する原子または原子団として、水素以外のもの、例えばアミノ基の保護基であるt−ブトキシカルボニル基(Boc)などがアミン基の窒素原子に結合したものである。
このオキシルアミノ基が、糖鎖より水溶液などの溶液中で形成される環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡において、アルデヒド基と反応して特異的、かつ、安定な結合を形成して、糖鎖を捕捉することができるようになる。
また、架橋剤として用いられる多官能の化合物としては、オキシルアミノ基含有化合物と共重合を行う化合物を用いることができ、例えば(1)ポリオールのジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル類、例えばポリオールがエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリグリセリン等であるもの、(2)上記(1)において、不飽和酸が(メタ)アクリル酸以外のもの、例えばマレイン酸、フマル酸などであるもの、(3)ビスアクリルアミド類、例えばN,N’−メチレンビスアクリルアミドなど、(4)ポリエポキシドと(メタ)アクリル酸を反応させて得られるジまたはトリ(メタ)アクリル酸エステル類、(5)ポリイソシアネートと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステルを反応させて得られるジ(メタ)アクリル酸カルバミルエステル類、例えばポリイソシアネートがトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどであるもの、(6)多価アリル化合物、例えばアリル化デンプン、アリル化セルロース、ジアリルフタレート、テトラアリロキシエタン、ペンタエリストールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリアリルトリメリテート等が挙げられる。これらの中でも本発明では、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等が好ましい。
すなわち、本実施形態で用いられるポリマーは、下記のような構造をとるものを用いることができる。
−(オキシルアミノ基含有化合物成分)m−(架橋剤成分)n
以下に、このような構造を有するポリマーを示す。
(化5)
Figure 2006030584
なお、ポリマーは、モノマーであるオキシルアミノ化合物および架橋剤の各成分由来の部分が、それぞれブロックになった状態のブロック共重合体であるように示されているが、各モノマーがランダムに重合したものであってもよい。
また、このポリマー中には、オキシルアミノ化合物および架橋剤の他に、さらに別の重合性化合物の成分由来の部分が含まれていてもよい。このような化合物としては、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体などが挙げられる。このような化合物をモノマーとして含ませることで、ポリマー中のオキシルアミノ基の密度やその他の所定の物性を制御することができる。
また、このポリマーは、粒子形状に加工して用いることができ、このときの粒子の形状は、球であることが好ましく、その粒径は、上限が200μm、好ましくは150μmであり、下限が20μm、好ましくは50μmである。また、粒子の平均径は80〜100μmである。このような範囲の粒径を有するポリマー粒子は、遠心分離,フィルタなどによる回収が容易であり,かつ,充分な表面積を有しているために糖鎖との反応効率も高いと考えられる。粒径が上記の範囲よりも大幅に大きい場合,表面積が小さくなるために糖鎖との反応効率が低くなることがある。また,粒径が上記の範囲よりも大幅に小さい場合,特にフィルタによる粒子の回収が難しくなることがある。さらに,粒子をカラムに充填して用いる場合,粒径が過小であると通液の際の圧力損失が大きくなってしまうことがある。
このようなポリマーは、オキシルアミノ化合物と架橋剤とを、クロロホルムなどの溶媒に溶解したのち、懸濁重合を行う場合には原料の液滴を安定化させるために分散安定剤を用いて水などの分散媒に分散させた状態で、重合開始剤を導入し、重合反応を行うことで得ることができる。こうして得られるポリマーは、遠心分離などの技術により回収することができる。また、このポリマーは安定した粒子を形成することができ、水中で安定なため、水に分散させた状態で保存することができる。
ここで、糖鎖捕捉反応は、上述のような糖鎖捕捉物質を粒子にして、この粒子をカラムなどに充填して予備処理済の生体試料を通してもよい(連続式)し、この粒子を予備処理済の生体試料中に投入して攪拌して行ってもよい(回分式)。また、粒子が予め充填された反応容器内に予備処理済みの生体試料を連続的に投入して攪拌して行ってもよい(半回分式)。
続いて、ステップS30では、ステップS20で糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質を洗浄して、糖鎖捕捉物質に捕捉されなかった糖鎖、他の生体試料などを除去する。
ここで、糖鎖捕捉物質の洗浄に用いられる溶液としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に代表される界面活性剤の水溶液、メタノール、エタノールなどのアルコール類;水および水性緩衝液などが使用される。ここで、洗浄に水溶液が用いられる場合、この水溶液のpHは中性付近であることが好ましく、そのpHは4〜10、より好ましくは6〜8である。
この洗浄処理は、前述したように連続式にて糖鎖捕捉反応を行った場合には、カラムに洗浄溶液を通して糖鎖捕捉反応から連続的に処理してもよい。また、回分式および半回分式の場合には、ろ過操作あるいは遠心操作により糖鎖捕捉物質以外の物質を除去してもよい。
なお、ステップS30の洗浄工程は、当初の生体試料の状態、例えば糖鎖以外の物質の混在の程度によっては行わなくても構わない。
ステップS40では、糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質から糖鎖を遊離させる、すなわち糖鎖を糖鎖捕捉物質から切り出す反応を行う。
この反応で、オキシルアミノ基含有化合物を使用すると、糖鎖を糖鎖捕捉物質から遊離させることができるとともに、遊離した糖鎖とオキシルアミノ基含有化合物とで複合体を形成させることができる。すなわち、下記に示したような反応を行うことができる。
(化6)
Figure 2006030584
この反応は、pHが中性付近、好ましくはpHが4〜7、好ましくは4〜6で行うことができ、このときの反応温度は4〜90℃、好ましくは25〜90℃、より好ましくは40〜90℃で行うことができる。また、反応時間は、10分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは10分間〜2時間である。
中性付近で、糖鎖切り出し反応を行うことができるため、従来のトリフルオロ酢酸による切出しのような強酸の存在下での切出し反応に比べて、シアル酸残基の脱離など糖鎖の加水分解などを引き起こすことを抑制することができるようになる。
この反応で、用いることのできるオキシルアミノ基含有化合物としては、下記式(2)示される化合物が挙げられる。
11−ONH2 (2)
(式中、R11は水素;あるいは置換基を有していてもよく、かつ、−O−,−S−,−NH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;あるいは置換基を有していてもよい芳香環および必要に応じてこの芳香環とオキシルアミノ基とをつなぐリンカー部分Lを有する基であり、Lは−O−,−S−,−NH−で中断されてもよく、および置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基である)。
例えば、下記のような化合物が挙げられる。
(化7)
Figure 2006030584
また、前記式(2)で示される化合物のR11は、ペプチド、オリゴペプチドおよびそれら誘導体から選ばれる部分を含む基であってもよい。
ペプチドとしては、特にアルギニン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシンが好ましいが、これらに限定されない。
オリゴペプチドとしては、特にアルギニン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシンの少なくとも一つを含んだジペプチド(2量体)が好ましく、トリペプチド(3量体)以上のものであってもよい。
また、ペプチドまたはオリゴペプチドの誘導体としては、アルギニン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシン、およびその他のペプチドの誘導体、これらの化合物を構成する元素の一部が重元素化されたもの等が挙げられる。
式(2)で示される化合物のうち、このようなペプチドまたはオリゴペプチドあるいはそれらの誘導体を含んだ化合物としては、例えば末端にメトキシ基(-OCH3)を含むCH3O-X-COCH20NH2を用いることができる。
式中、Xはペプチド二量体からなるリンカーであり、例えば−アルギニン(R)−トリプトファン(W)−,−R−フェニルアラニン(F)−,−R−チロシン(Y)−などが挙げられる。以下に、Xが−R−W−で示した構造を有する化合物を示す。
(化8)
Figure 2006030584
このような化合物の製法としては、下記に示したようなスキームが挙げられる。
(化9)
Figure 2006030584
ただし、
(化10)
Figure 2006030584
化合物(p)は、トリプトファン部分のアミノ基がフェニル基などにより保護された化合物の脱保護により得られる。ここで、トリプトファン部分は、フェニルアラニン、チロシンなどにより置換することもできる。続いて、化合物(p)とヒドロキシアミン(BocNHOCH2COOH)との混合酸無水物法などの縮合反応により、化合物(q)が合成される。このヒドロキシアミンの保護基R1は、Bocに限られることはなく、Fmoc,Trocなどであってもよい。続いて、化合物(q)を脱保護処理することにより、目的物である化合物(r)が得られる。この脱保護処理としては、例えば保護基がBocである場合には、トリフルオロ酢酸(TFA)による処理が挙げられる。
また、式(2)で示される化合物のうち、ペプチドまたはオリゴペプチドあるいはそれらの誘導体を含んだ化合物としては、末端に生体高分子と反応し得る官能基Yを有する Y-X-COCH2ONH2を用いることができる。式中、官能基Xは前述と同様であり、官能基Yとしてはヒドラジド基(-NHNH2)が挙げられる。このように、一分子中にオキシルアミノ基およびヒドラジド基による2官能性をもたせることにより、後述するような利点を発揮することができるようになる。
また、オキシルアミノ基含有化合物は、上記の反応において、複合体を形成する糖鎖を標識化するための標識化官能基を有するようにしてもよい。
この標識化の方法としては、例えば蛍光性の付与、光吸収能の増大、結晶性の向上、質力分析における感度向上、同位体原子の導入、極性の調整などが挙げられる。標識化官能基とは、式(2)のR11の部分にこれらの標識化を行うことができるように設計された官能基をさす。例えば、R11に含まれる水素原子のうち少なくとも1つが重水素に置換された標識化官能基を、式(2)に導入することができる。
例えば、上記で例示した化合物の中では、化合物(a)〜(c)は紫外線吸収能の増大および結晶性の向上を糖鎖に付与することが、本発明者等により見出されている。また、化合物(d)および化合物(e)は蛍光性を糖鎖に付与することが、本発明者等により見出されている。化合物(f)は糖鎖の質量分析、特にMALDI−TOF−MSの感度を向上させることが、本発明者等により見出されている。
また、特に、上述したようなオリゴペプチドを含む化合物の場合には、例えば末端のメトキシ基を重水素化してもよい。重水素化されたメトキシ基を有する化合物は、質量分析などの際に重水素の分だけピークがシフトする。これにより、捕捉物質にて捕捉された糖鎖を切出すときに、オキシルアミノ基部分で糖鎖などの生体高分子と結合するとともに、メトキシ基に導入された重水素により質量分析でのピークシフトが観測され、また、取り込んだ生体高分子に糖鎖、蛍光物質を導入することになり、生体高分子を標識化して、質量分析の際の検出を容易にすることができるようになる。
また、オリゴペプチドを含む化合物の末端に生体高分子と反応し得る官能基Y、例えばヒドラジド基を含む場合、この官能基Yに糖鎖、ピレンなどの蛍光性官能基(蛍光物質)を結合させるなどして、捕捉された生体高分子の標識化を行って分析試料とすることができる。すなわち、分析試料調製用化合物として下記のような化合物を得ることができる:
糖鎖-NHNH-X-COCH2ONH2
蛍光物質-NHNH-X-COCH2ONH2
(式中、Xは前述したようなペプチド二量体からなるリンカーである)。
このような化合物の製法としては、下記に示したようなスキームが挙げられる。
(化11)
Figure 2006030584
前記の化合物(q)をヒドラジンで処理することにより、化合物(s)が得られる。続いて、化合物(s)をアルデヒド誘導体(R2は蛍光物質、糖などから構成される部分である)と反応させることにより、末端にR2基が導入された化合物(t)が得られる。この化合物(t)を水素化シアノホウ素ナトリウム(NaCNBH3)などの触媒の存在下で還元式アミノ化法などによる還元反応により、R2が結合した部分に水素を付加して、化合物(u)が得られる。最後に、化合物(u)を脱保護処理することにより、目的物である化合物(v)が得られる。
このような化合物によれば、捕捉物質にて捕捉された糖鎖などの生体高分子を切出すときに、オキシルアミノ基部分でこの生体高分子と結合するとともに、ヒドラジド基に結合された標識化部分により、取り込んだ生体高分子に糖鎖、蛍光物質を導入することになり、生体高分子を標識化することができる。
例えば、以下に示すように、末端のメトキシ基をヒドラジド化して標識化部分を作り、この標識化部分を重アセトン(Aceton-d6)にて処理して、重水素を導入して標識化することができる。以下のスキームでは、ヒドラジド基にアセトンを作用させて得られた非標識化物をProduct 1で表し、ヒドラジド基に重アセトンを作用させて得られた標識化物をProduct 2で表す。
(化12)
Figure 2006030584
このような標識化官能基を有するオキシルアミノ基含有化合物を、ステップS40の糖鎖切り出し反応にて用いることで、切り出し反応を行うための一操作にて、標識化された複合体を得ることができるようになる。
ステップS50では、糖鎖切り出し反応により得られた糖鎖とオキシルアミノ基含有化合物との複合体を遠心分離、ろ過などの分離操作により回収し、ステップS60では、必要に応じて回収した複合体を濃縮あるいは乾燥して、分析試料の調製処理は終了する。
図2は、本実施形態の分析試料調製方法を適用した装置を示すブロック図である。なお、各構成の説明で、図1のフローチャートの各手順に関連する場合には、そのステップ番号を併せて示す。
生体試料導入部10には、生体試料を所定の手法で予備処理して(ステップS10)得られた予備処理済の生体試料を装入し、この生体試料が後述する反応部12に導入されるようになっている。
洗浄液導入部14には、前述の糖鎖捕捉反応後の反応混合物の洗浄(ステップS30)を行う際の洗浄液を装入し、この洗浄液が後述する反応部12に導入されるようになっている。
オキシルアミノ化合物溶液導入部16には、前述の糖鎖切り出し反応(ステップS40)で用いられるオキシルアミノ基を含有する溶液を装入し、このオキシルアミノ化合物溶液が後述する反応部12に導入されるようになっている。
反応部12は、生体試料導入部10、洗浄液導入部14およびオキシルアミノ化合物導入部16に接続されている。また、反応部12には、例えば前述した糖鎖捕捉物質を粒子で形成したものが充填されており、この粒子が充填された部分において、糖鎖捕捉工程(ステップS20)、洗浄工程(ステップS30)、糖鎖切出工程(ステップS40)を実行する場を提供するようになっている。
溶出物取出部18は、反応部12の溶出側に設けられており、糖鎖切出反応(ステップS40)の後に、反応部12より溶出される溶出物を取り出すことができるようになっている。
分離部20では、溶出物取出部18で得られる溶出物を装入して、遠心分離処理して、糖鎖とオキシルアミノ基含有化合物との複合体を分離するようになっている。なお、分離部20は、溶出物取出部18と直接接続し、反応部12からの溶出物が直接装入されるようになっていてもよいし、あるいは溶出物取出部18にて得られる溶出物を人による操作により、装入されるようになっていてもよい。
濃縮・乾燥機22では、遠心分離処理して得られる糖鎖とオキシルアミノ基含有化合物との複合体を凍結乾燥するようになっている。
この前処理装置によれば、予備処理が済んだ生体試料を生体試料導入部10より反応部12に導入し、反応部12では導入された生体試料を、前述したような条件で保持し、この生体試料から糖鎖が糖鎖捕捉物質により捕捉される(ステップS20)。
続いて、洗浄液導入部14より洗浄液を反応部12に導入し、糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質の表面を前述した条件で洗浄して、捕捉されなかった糖鎖以外の物質および未反応の糖鎖が洗い流される(ステップS30)。
さらに、オキシルアミノ化合物溶液導入部16よりオキシルアミノ基含有化合物を反応部12に導入して、前述した条件、糖鎖捕捉物質の表面において糖鎖切り出し反応が行われ、糖鎖がオキシルアミノ基含有化合物と複合体を形成して溶出され、溶出物取出部18にて取り出される(ステップS40)。
続いて、分離部20では、この溶出物を遠心分離、ろ過などの分離手段により処理し、糖鎖とオキシルアミノ基含有化合物との複合体を分離した後、この複合体は必要に応じて濃縮・乾燥機22で乾燥されて、分析試料が得られる。
このようにして、生体試料より調製されて得られる糖鎖分析試料は、オキシルアミノ基含有化合物と糖鎖との複合体で得られるものの、オキシルアミノ基含有化合物そのものが分子量の小さい小分子なため、複合体のままで質量分析に供することができる。また、オキシルアミノ基含有化合物として上述したような標識化官能基を持たせたものを用いた場合、糖鎖の標識化がされた状態で糖鎖分析試料が得られることになるため、糖鎖の同定、定量が容易になる。
例えば、蛍光性を付与することにより標識化された糖鎖およびオキシルアミノ基含有化合物の複合体では、蛍光を測定することにより、糖鎖の同定、および定量を行うことが可能になる。紫外線などの光吸収能の増大により標識化された複合体では、測定感度が増大することになるため、微量な糖鎖の同定を可能にするほか、より正確な定量を行うことが可能にある。
なお、図2では、生体試料導入、糖鎖捕捉工程(ステップS20)、洗浄工程(ステップS30)、糖鎖切出工程(ステップS40)を連続的に処理するように構成された装置を説明したが、これに限定されることはなく、例えば生体試料に糖鎖捕捉物質からなる粒子を導入して、震とうまたは攪拌して、糖鎖を糖鎖捕捉物質に捕捉(ステップS20)させて得られる反応物をフィルタにかけてろ過して、このフィルタ上で洗浄液を導入して洗浄(ステップS30)した後に、ろ取した複合体を、オキシルアミノ基含有化合物を含む溶液に導入して、糖鎖切り出し反応(ステップS40)を行ってもよい。なお、各工程を行う条件は上述したものが適用できる。
また、本実施形態では、生体試料から糖鎖を捕捉、切出し(遊離)して得られる分析試料と、その調製方法について説明したが、生体試料中の生体高分子に、オキシルアミノ基含有化合物、例えば前記式(2)の化合物を直接反応させて、得られる分析試料であってもよい。
なお、本実施形態では、生体試料から遊離させる生体高分子として糖鎖である場合を説明したが、これに限定されることはなく、他の生体高分子、例えば糖タンパク、糖ペプチド、ペプチド、オリゴペプチド、タンパク、核酸、脂質などを遊離させて分析試料を得ることができる。
(実施例1)
以下、本発明を以下の実験例からなる実施例により説明する。しかし、本発明はこれら実験例に限定されるものではない。
本実験例では、モデルケースとして糖タンパク質であるフェチュインの糖鎖を分析試料として調製する方法を示す。なお、現象を単純化するために、予めフェチュインから脱シアル酸処理を行ったアシアロフェチュインを用いて、糖鎖を遊離して分析試料を調製する。
(実験例1)
(生体試料の予備処理)
糖タンパクの一種であるアシアロフェチュインをプロテアーゼ処理して、タンパク質部分をペプチド断片化し、グリコシダーゼFによる処理を行って糖鎖をペプチドから遊離させて、予備処理済の生体試料を得た。
(糖鎖捕捉反応)
予備処理済の生体試料の懸濁物を、糖鎖捕捉物質からなるポリマー粒子を水に分散させた分散液に導入して、pH2に調整した後に、40℃で16時間震とうして糖鎖捕捉反応を行った。
(洗浄)
糖鎖捕捉反応後の反応物を、0.5%SDS、メタノール、水にて洗浄した。
(糖鎖切出反応)
洗浄後の反応物に、オキシルアミン基含有化合物としての化合物(a)の水溶液(100mM,pH5)を導入し、40℃で16時間反応させて、糖鎖切り出し反応、および糖鎖とオキシルアミノ基含有化合物との複合体形成を行った。
(遠心分離、凍結乾燥)
得られた複合体の水溶液を遠心分離処理して、上澄みを回収して凍結乾燥して、複合体を得た。
この複合体のMALDI−TOF−MSを測定したところ、図3に示したように、チャートにおいてアシアロフェチュインの糖鎖に化合物(a)が付加した分子量に該当する場所にシャープなピークが得られた。
(実験例2)
実験例1において、オキシルアミノ基含有化合物として化合物(c)を用いて、糖鎖切り出し反応を行った以外は、実験例1と同様の操作を行って、得られた複合体のMALDI−TOF−MS測定を行った。
実験例1と同様に、アシアロフェチュインの糖鎖に化合物(c)が付加した分子量に相当する場所にシャープなピークが得られた。
(実験例3)
実験例1において、オキシルアミノ基含有化合物として化合物(d)を用いて、糖鎖切り出し反応を行った以外は、実験例1と同様の操作を行って、得られた複合体のMALDI−TOF−MS測定を行った。
図4に示したように、実験例1と同様に、アシアロフェチュインの糖鎖に化合物(d)が付加した分子量に相当する場所にシャープなピークが得られた。
(実験例4)
(4−1)遊離試薬の合成
(a)WR-OMe(化合物(p))の合成
Z-WR-OMe(10 mg, 20 mmol)および10% Pd/C(10mg)にメタノール(5ml)を加え、水素ガス雰囲気下、室温で2時間攪拌した。反応溶液を水系メンブレンフィルタでろ過することによりPd/Cを除去し、ろ液を減圧濃縮することで目的物である化合物(p)(WR-OMe)を得た。MALDI-TOF-MSによる解析により、目的物の[M+H]+イオンをm/z:376に観測した。
(化13)
Figure 2006030584
(b)Boc-NHOCH2CO-W-R-OMe(化合物(q))の合成
Bocアミノオキシ酢酸(2.5mmol)のTHF(6ml)溶液を-20℃に冷却した。ついでN-メチルモルホリン(3.0mmol)とギ酸イソブチル(3.0mmol)を添加し、15分攪拌することで混合酸無水物を調製した。反応溶液を0℃とし、別の反応溶液にて化合物(p)(WR-OMe(3.0mmol))を水(3ml)に溶解し、炭酸水素ナトリウム(3.0mmol)を添加することにより調製したWR-OMe溶液を混合し、1時間攪拌した。反応溶液を減圧濃縮し、得られた残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=5:1)により精製することで目的物である化合物(q)(Boc-NHOCH2CO-W-R-OMe)を得た。MALDI-TOF-MSによる解析により、目的物の[M+H]イオンをm/z:547に観測した。
(化14)
Figure 2006030584
(c)H2NOCH2CO-W-R-OMe(化合物(r))の合成
化合物(q)(Boc-NHOCH2CO-W-R-OMe(18mg, 33mmmol)にTFA(2ml)を加え、-20℃で2時間攪拌した。反応液を減圧濃縮し、トルエンを加え共沸を繰り返してTFAを除去して、目的物である化合物(r)(H2NOCH2CO-W-R-OMe)を得た。MALDI-TOF-MSによる解析により、目的物の[M+H]イオンをm/z:447に観測した。
(化15)
Figure 2006030584
(4−2)複合体形成
実験例1において、糖鎖捕捉反応にて予備処理済みの生体試料の懸濁物を所定の分散液に導入した後のpHを4に調整し、反応を60℃にて行い、糖鎖切出反応にてオキシルアミノ基含有化合物として上記化合物(r)のpH4の水溶液を用いた以外は、実験例1と同様に、生体試料の予備処理、糖鎖捕捉反応、洗浄、糖鎖切出反応、遠心分離、凍結乾燥の各処理を行って、糖鎖と化合物rとの複合体形成を行った。
この複合体のMALDI−TOF−MSを測定したところ、図5に示したように、チャートにおいてアシアロフェチュインの糖鎖に化合物(r)が付加した分子量に該当する場所にシャープなピークが得られた。
(実験例5)
実験例1において、オキシルアミノ基含有化合物の代わりに、10%トリフルオロ酢酸を用いて糖鎖切り出し反応を行った以外は、実験例1と同様の操作を行って、得られた複合体のMALDI−TOF−MS測定を行った。
実験例1〜4とは異なり、アシアロフェチュインの糖鎖の分子量に相当する場所であっても糖鎖以外の由来のピークが多く、バックグラウンドに隠れてしまい、糖鎖のピークを特定することが困難であった。

Claims (21)

  1. 生体試料から特定の糖鎖捕捉物質により糖鎖を捕捉する糖鎖捕捉段階と、
    前記糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質をオキシルアミノ基含有化合物と反応させて、糖鎖とこのオキシルアミノ基含有化合物との複合体を形成する切出段階と
    を含む分析試料調製方法。
  2. 生体試料から特定の糖鎖捕捉物質により糖鎖を捕捉する糖鎖捕捉段階と、
    前記糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質を洗浄する洗浄段階と、
    前記洗浄された糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質をオキシルアミノ基含有化合物と反応させて、糖鎖とこのオキシルアミノ基含有化合物との複合体を形成する切出段階と
    を含む分析試料調製方法。
  3. 請求項1または2に記載の分析試料調製方法において、
    前記糖鎖捕捉段階で用いられる特定の糖鎖捕捉物質は、下記式(1)で示される化合物を用いた重合反応により得られるポリマーであることを特徴とする分析試料調製方法:
    1−B−A−B−R2 (1)
    (式中、R1は重合性基を表し、R2はオキシルアミノ基含有基またはオキシルアミノ誘導体含有基を表し、Bはエステル基またはアミド基を表し、Aは置換基を有していてもよい炭素数2〜12のアルキレン基を表す)。
  4. 請求項3に記載の分析試料調製方法において、
    前記糖鎖捕捉段階で行われる糖鎖捕捉物質と生体試料との反応は、pHが酸性条件で行われることを特徴とする分析試料調製方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の分析試料調製方法において、
    前記切出段階で反応させるオキシルアミノ基含有化合物は、下記式(2)で示される化合物であることを特徴とする分析試料調製方法:
    11−ONH2 (2)
    (式中、R11は水素;あるいは置換基を有していてもよく、かつ、−O−,−S−,−NH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;あるいは置換基を有していてもよい芳香環および必要に応じてこの芳香環とオキシルアミノ基とをつなぐリンカー部分Lを有する基であり、Lは−O−,−S−,−NH−で中断されてもよく、および置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基;あるいはペプチド、オリゴペプチドおよびそれら誘導体から選ばれる部分を含む基である)。
  6. 請求項5に記載の分析試料調製方法において、
    11に含まれる水素原子のうち少なくとも1つが重水素に置換されていることを特徴とする分析試料調製方法。
  7. 請求項5または6に記載の分析試料調製方法において、
    前記化合物中でR11は、アルギニン、トリプトファン、フェニルアラニン、チロシンおよびこれら誘導体の少なくともひとつからなる部分を含むことを特徴とする分析試料調製方法。
  8. 請求項5〜7のいずれかに記載の分析試料調製方法において、
    前記化合物は下記の構造を有することを特徴とする分析試料調製方法:
    CH3O-X-COCH2ONH2
    (式中、Xはペプチド二量体からなるリンカーである)。
  9. 請求項8に記載の分析試料調製方法において、
    前記化合物は下記の構造を有することを特徴とする分析試料調製方法:
    (化1)
    Figure 2006030584
  10. 請求項5〜7のいずれかに記載の分析試料調製方法において、
    前記化合物は下記の構造を有することを特徴とする分析試料調製方法:
    Y-X-COCH2ONH2
    (式中、Xはペプチド二量体からなるリンカーであり、Yは生体高分子と反応し得る官能基である)。
  11. 請求項10に記載の分析試料調製方法において、
    前記化合物中でYは、ヒドラジド基であることを特徴とする分析試料調製方法。
  12. 請求項5または6に記載の分析試料調製方法において、
    前記化合物は、下記の構造を有する化合物のうち、いずれか一方であることを特徴とする分析試料調製方法:
    (化2)
    Figure 2006030584
  13. 請求項5または6に記載の分析試料調製方法において、
    前記オキシルアミノ基含有化合物は、複合体を形成する糖鎖を標識化するための標識化官能基を有することを特徴とする分析試料調製方法。
  14. 請求項1〜13のいずれかに記載の分析試料調製方法において、
    前記切出段階で行われる糖鎖が捕捉された糖鎖捕捉物質と、前記オキシルアミノ基含有化合物との反応は、pHが中性付近の条件で行われることを特徴とする分析試料調製方法。
  15. 請求項1〜14のいずれかに記載の分析試料調製方法にて生体試料より調製されて得られる分析試料。
  16. 生体高分子と、オキシルアミン基含有化合物とを反応させて得られる分析試料。
  17. 請求項16に記載の分析試料であって、
    前記オキシルアミン基含有化合物は、下記式(2)で示される化合物であることを特徴とする分析試料:
    11−ONH2 (2)
    (式中、R11は水素;あるいは置換基を有していてもよく、かつ、−O−,−S−,−NH−で中断されてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;あるいは置換基を有していてもよい芳香環および必要に応じてこの芳香環とオキシルアミノ基とをつなぐリンカー部分Lを有する基であり、Lは−O−,−S−,−NH−で中断されてもよく、および置換基を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素基;あるいはペプチド、オリゴペプチドおよびそれら誘導体から選ばれる部分を含む基である)。
  18. 請求項17に記載の分析試料調製方法において、
    11に含まれる水素原子のうち少なくとも1つが重水素に置換されていることを特徴とする分析試料。
  19. 請求項17または18に記載の分析試料において、
    前記化合物は、下記の構造を有する化合物のうち、いずれか一方であることを特徴とする分析試料:
    (化3)
    Figure 2006030584
  20. 下記構造を有する生体高分子の分析試料調製用化合物:
    糖鎖-NHNH-X-COCH2ONH2
    (式中、Xはペプチド二量体からなるリンカーである)。
  21. 下記構造を有する生体高分子の分析試料調製用化合物:
    蛍光物質-NHNH-X-COCH2ONH2
    (式中、Xはペプチド二量体からなるリンカーである)。
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