JPWO2005117878A1 - イリノテカン製剤 - Google Patents
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Abstract
Description
水溶性誘導体である塩酸イリノテカンを受動的封入方法によりリポソーム中に閉じ込め、その脂質二重膜に静電的に固定化して安定化する常習的方法(Passive loading法)で製造した例も報告されている(非特許文献5参照)。
塩酸イリノテカンの活性代謝物であるSN−38の血漿中濃度を長時間維持することを目的に、プロドラッグであるイリノテカンおよび/またはその塩を、閉鎖小胞に、臨床的に適切・充分な封入量で内封し、かつα-ヒドロキシラクトン環の加水分解を抑えた状態で血液中に長期間存在し、活性代謝物であるSN−38の血漿中濃度を長時間維持しうる製剤は未だ存在しない。
このような状況に鑑みて、本発明は、臨床効果にとって充分な薬剤の封入量を達成した製剤として、閉鎖小胞に、イリノテカンおよび/またはその塩を、少なくとも0.07(薬剤(mol)/総脂質(mol))の高担持量で内封し、塩酸イリノテカンの活性代謝物であるSN−38の血漿中濃度を長時間維持することが可能であるイリノテカン製剤を提供することを目的としている。
好ましい態様例において、イリノテカン製剤は、薬剤を少なくとも0.1mol薬剤/mol脂質より高い濃度で担持する。
本発明のイリノテカン製剤の平均粒子径は、好ましくは0.02〜250μmである。
本発明において、閉鎖小胞へのイリノテカンおよび/またはその塩の高濃度封入は、たとえば下記イオン勾配を利用する遠隔装填(Remote loading)により達成することができる。
(3)前記イオン勾配がプロトン濃度勾配であり、前記内水相側pHが外水相側pHよりも低いpH勾配をもつ(2)に記載のイリノテカン製剤。
(4)前記pH勾配が、アンモニウムイオン濃度勾配および/またはプロトン化しうるアミノ基を有する有機化合物の濃度勾配により形成される(3)に記載のイリノテカン製剤。たとえば、内水相側の上記アンモニウムイオン濃度が外水相側よりも高いことにより、内水相側pHが外水相側pHよりも低いpH勾配を形成することができる。
上記(5)において、主膜材が相転移点50℃以上のリン脂質である態様は好ましい。
リン脂質として、具体的に、水素添加されたリン脂質および/またはスフィンゴリン脂質が好ましく例示される。
他の脂質としては、コレステロールが好ましい。
表面修飾剤としては、親水性高分子誘導体が好ましく例示される。親水性高分子は、具体的に分子量500〜10,000ダルトンのポリエチレングリコールが挙げられ、そのリン脂質またはコレステロール誘導体として導入されうる。
(7)表面修飾剤として親水性高分子誘導体を含む態様において、好ましくは、前記リポソームの外表面のみが親水性高分子で修飾されてなる(6)に記載のイリノテカン製剤。
塩基性官能基を有する化合物としては、特に3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩が好ましく挙げられる。
(10)予防および/または治療有効量の上記(1)〜(8)のいずれかのイリノテカン製剤を宿主に投与することからなる、疾患の予防および/または治療方法。
(11)(1)〜(8)のいずれかのイリノテカン製剤を宿主に投与することからなる、有効量のイリノテカンおよび/またはその塩を宿主内で放出する方法。
(12)(1)〜(8)のいずれかのイリノテカン製剤を宿主に投与することからなる、有効量のイリノテカンおよび/またはその塩を標的部位に暴露する方法。
イリノテカン(irinotecan)は、化学名(+)-(4S)-4,11-ジエチル-4-ヒドロキシ-9-[(4-ピペリジノ-ピペリジノ)カルボニルオキシ]-1H-ピラノ[3',4':6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-3,14(4H,12H)-ジオンで表記されるカンプトテシン骨格を有する化合物である。イリノテカンおよび/またはその塩は、抗悪性腫瘍剤であり、下記のような塩酸塩(irinotecan・HCl(hydrochloride))として用いられる水溶性物質である。本明細書において「イリノテカンおよび/またはその塩」を単に「イリノテカン」または「薬剤」と称することがある。また、イリノテカン塩酸塩を「塩酸イリノテカン」または「CPT−11」と称することがある。
閉鎖小胞は、薬剤を内封することのできる構造を有していれば特に限定されず、様々な形態をとることができるが、その内部に薬剤を高濃度封入することのできる潜在的機能を有する、リポソーム、リピッドマイクロスフェアおよびナノパーテイクルなどを利用することができる。これらのうちでも特に好ましい形態例は、リポソームである。
以下、本発明のイリノテカン製剤の担体が、特に好ましいリポソームである態様を例にとって主に説明する。
「リン脂質」とは、生体膜の主要構成成分であり、分子内に長鎖アルキル基より構成される疎水性基とリン酸基より構成される親水性基のグループを持つ両親媒性物質である。リン脂質としては、フォスファチジルコリン(=レシチン)、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジン酸、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、さらにスフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質や、カルジオリピン等の天然あるいは合成のリン脂質もしくはこれらの誘導体、およびこれらを常法にしたがって水素添加したもの等を挙げることができる。以下、これらを含む意味で「リン脂質」をリン脂質類と称することもある。
これらのうちでも、水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)などの水素添加されたリン脂質、スフィンゴミエリン(Sphingomyelin,SM)等が好ましい。
主膜材として、単一種のリン脂質を含んでいてもよく、複数種のリン脂質を含んでいてもよい。
「リン脂質以外の脂質」とは、分子内に長鎖アルキル基等より構成される疎水性基を有し、リン酸基を分子内に含まない脂質であり、特に限定されないがグリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質および安定化剤として後述するコレステロールなどのステロール類等およびこれらの水素添加物などの誘導体を挙げることができる。コレステロール誘導体とは、シクロペンタノヒドロフェナントレン環を有するステロール類であり、具体例としては特に限定されないがコレステロールが挙げられる。
混合脂質は、他の脂質類のそれぞれ単一種含んでいてもよく、複数種含んでいてもよい。
イリノテカン製剤の血漿中での放出率はコレステロールの量で調節することが可能であり、放出率を低く抑えたい場合は0〜20mol%の量で含むことが好ましく、逆に放出率を高くしたい場合は30〜50mol%で、好ましくは40〜50mol%の量で含む。
塩基性化合物としては、特開昭61−161246号に開示されたDOTMA、特表平5−508626号に開示されたDOTAP、特開平2−292246号に開示されたトランスフェクタム(Transfectam)、特開平4−108391号に開示されたTMAG、国際公開第97/42166号に開示された3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩、DOSPA、TfxTM-50、DDAB、DC-CHOL、DMRIEなどが挙げられる。
酸性官能基を有する化合物としては、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGM3等のシアル酸を有するガングリオシド類、N-アシル-L-グルタミン等の酸性アミノ酸系界面活性剤などが挙げられる。
次に、親水性高分子本体と結合して親水性高分子−疎水性高分子化合物を形成せしめるために使用される疎水性化合物について以下に説明する。
当該疎水性化合物は、特に限定されない。例えば、疎水性の領域を有する化合物(疎水性化合物)を挙げることができる。疎水性化合物としては、例えば、後述する混合脂質を構成するリン脂質や、ステロール等の他の脂質類、あるいは、長鎖脂肪族アルコール、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。中でも、リン脂質が好ましい態様の一つである。また、これらの疎水性化合物は反応性官能基を有してもよい。反応性官能基によって形成される結合としては共有結合が望ましく、具体的にはアミド結合、エステル結合、エーテル結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、などが挙げられるが特に限定されない。
上記リン脂質に含まれるアシル鎖は、飽和脂肪酸であることが望ましい。アシル鎖の鎖長は、C14−C20が望ましく、さらにはC16−C18であることが望ましい。アシル鎖としては、例えば、ジパルミトイル、ジステアロイル、パルミトイルステアロイルが挙げられる。
リン脂質は、特に制限されない。リン脂質としては、例えば、上記の親水性高分子と反応可能な官能基を有するものを使用することができる。このような親水性高分子と反応可能な官能基を有するリン脂質の具体例としては、アミノ基を有するフォスファチジルエタノールアミン、ヒドロキシ基を有するフォスファチジルグリセロール、カルボキシ基を有するフォスファチジルセリンが挙げられる。上記のフォスファチジルエタノールアミンを使用するのが好適な態様の1つである。
親水性高分子の脂質誘導体は、上記の親水性高分子と上記の脂質とからなる。上記の親水性高分子と上記の脂質との組み合わせは、特に限定されない。目的に応じて適宜組み合わせたものを使用することができる。例えば、リン脂質、ステロール等の他の脂質類、長鎖脂肪族アルコール、グリセリン脂肪酸エステルの中から選ばれる少なくとも1つと、PEG、PG、PPGの中から選ばれる少なくとも1つとが結合した親水性高分子の誘導体が挙げられる。具体的には、ポリオキシプロピレンアルキルなどが挙げられ、特に、親水性高分子がポリエチレングリコール(PEG)である場合において脂質としてリン脂質、コレステロールを選択するのが好適な態様のひとつである。このような組み合わせによるPEGの脂質誘導体としては、例えば、PEGのリン脂質誘導体またはPEGのコレステロール誘導体が挙げられる。
親水性高分子の脂質誘導体は、脂質の選択により、正電荷、負電荷、中性の選択が可能である。例えば、脂質としてDSPEを選択した場合、リン酸基の影響で負電荷を示す脂質誘導体となり、また脂質としてコレステロールを選択した場合、中性の脂質誘導体となる。脂質は、その目的に応じ、選択することが可能である。
PEGの分子量は、特に限定されない。PEGの分子量は、通常、500〜10,000ダルトンであり、好ましくは1,000〜7,000ダルトン、より好ましくは2,000〜5,000ダルトンである。
PGの分子量は、特に限定されない。PGの分子量は、通常100〜10000ダルトンであり、好ましくは200〜7000ダルトン、より好ましくは400〜5000ダルトンである。
PPGの分子量は、特に限定されない。PPGの分子量は、通常100〜10,000ダルトンであり、好ましくは200〜7,000ダルトン、より好ましくは1,000〜5,000ダルトンである。
これらの中でも、PEGのリン脂質誘導体が好ましい態様の一つとして挙げられる。PEGのリン脂質誘導体としては、例えば、ポリエチレングリコール−ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)が挙げられる。PEG-DSPEは、汎用の化合物であり入手容易であることから好ましい。
上記の親水性高分子は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
このような親水性高分子の脂質誘導体は、従来公知の方法によって製造することができる。親水性高分子の脂質誘導体の一例であるPEGのリン脂質誘導体を合成する方法としては、例えば、PEGに対し反応可能な官能基を有するリン脂質と、PEGとを、触媒を用いて反応させる方法が挙げられる。当該触媒としては、例えば、塩化シアヌル、カルボジイミド、酸無水物、グルタルアルデヒドが挙げられる。このような反応により、前記官能基とPEGとを共有結合させてPEGのリン脂質誘導体を得ることができる。
このような親水性高分子の脂質誘導体を用いて表面修飾されたリポソームは、血漿中のオプソニンタンパク質等が当該リポソームの表面へ吸着するのを防止して当該リポソームの血中安定性を高め、RESでの捕捉を回避することが可能となり、薬物の送達目的とする組織や細胞への送達性を高めることができる。
なお本発明において、「総脂質」とは、膜を構成する脂質のうちから親水性高分子脂質誘導体を除いた総脂質をいい、具体的に、リン脂質類および他の脂質類(コレステロールを含む)、さらに親水性高分子脂質誘導体以外の表面修飾剤を含む場合にはこの表面修飾剤も含むが、親水性高分子脂質誘導体中に含まれるフォスファチジルエタノールアミン(PE)などのリン脂質、コレステロールなどは含まない。
親水性高分子修飾工程における親水性高分子添加後は、相転移温度以上で所定の時間、加温撹拌することが望ましい。加温撹拌する時間は0〜120分、好ましくは0〜60分より好ましくは0〜45分である。
またリポソームは、上記方法以外にも、上記の各構成成分を混合し、高圧吐出型乳化機により高圧吐出させることにより得ることもできる。この方法は、「ライフサイエンスにおけるリポソーム」(寺田、吉村ら;シュプリンガー・フェアラーク東京(1992))に具体的に記載されており、この記載を引用して本明細書の記載されているものとする。
本発明に係るリポソームは、どの膜構造でもよいが、ユニラメラ小胞のリポソームが好ましく、具体的にLUVリポソームが好ましい。
リポソーム分散液は、エクストルーダーを用いて、フィルターを複数回強制通過させることによりユニラメラ化することができる。通常、フィルターは、所望径より大径の孔径をもつもの、最後に所望径の得られるものの孔径の異なるものを2種以上使用する。このようにエクストルーダーを用いて孔径の異なるフィルターの通過回数を多くするほどユニラメラ化率が高くなり、実質的にユニラメラ小胞のリポソームとみなせるようになる。実質的にユニラメラ小胞のリポソームとは、具体的には、リポソーム製剤を構成する全担体(小胞)中、ユニラメラ小胞が占める割合が、存在比で全体の50%以上であればよく、80%以上であることが好ましい。
一般的に脂質は温度、pHによって加水分解が起こることが知られている。特にSn-1とSn-2位における脂肪酸のカルボン酸エステルは、加水分解を受けやすく、リゾ脂質及び脂肪酸に分解することが知られており(Gritら,Chem.Phys.Lipids,64,3-18,1993)、このような分解物は従来の脂質膜組成を乱し、脂質膜の透過性が向上することによりリポソームの安定性が損なわれる。これらのことより、内水相を酸性に保つ場合、脂質の安定性の観点より、外水相のpHは中性付近が望ましい。
これらの相反する二つの条件が最も、厳しく制限される状況は薬物導入工程である。薬物導入工程は、脂質膜の相転移温度以上に加温する必要があり、脂質の加水分解を著しく促進する。脂質の加水分解を抑えるために、外水相のpHを中性付近に設定することが望ましいが、外水相のpHを中性付近に設定すると、CPT−11のα-ヒドロキシラクトン環の加水分解が促進されてしまう。これらの相反する二つの条件を鑑みると、薬物導入工程における外水相のpHは4.0〜8.0がよく、より好ましくは4.0〜7.0、さらに好ましくは5.0〜7.0である。
アンモニウムイオン濃度勾配により、薬剤(イリノテカンまたはその塩)をリポソーム内に封入する方法の具体例としては、まず0.1〜0.3Mのアンモニウム塩を含有する水性緩衝液中で予めリポソームを形成し、外部媒体をアンモニウムイオンを含有していない媒質、例えばスクロース溶液と交換することでリポソーム膜の内/外にアンモニウムイオン勾配を形成する。内部アンモニウムイオンはアンモニアおよびプロトンにより平衡化し、アンモニアは脂質膜を透過して拡散することでリポソーム内部から消失する。アンモニアの消失に伴ってリポソーム内の平衡がプロトン生成の方向に連続的に移動する。その結果、リポソーム内にプロトンが蓄積され、リポソームの内側/外側にpH勾配が形成される。このpH勾配を有するリポソーム分散液に薬剤を添加することによって薬剤がリポソーム中に内封される。
なお、アンモニウムイオン濃度勾配に対するRemote loading法により予め形成されているリポソーム中に薬剤を導入する技術そのものは、米国特許5192549号に記載されており、これを参照して行うことができ、またこの記載を引用して本明細書に記載されているものとすることができる。
本発明において、アンモニウムイオン濃度勾配を用いたRemote loading法により、イリノテカンまたはその塩を内封する態様は好適である。
本発明において、「内封」とは、担体の内部に薬剤が封入された状態を意味する。また、担体の構成成分である脂質層内に一部または全ての部分が含まれている状態であってもよい。本発明の担体は、ゲルろ過、透析、膜分離および遠心分離等の通常用いられる方法で精製することにより、担体に内封されなかった薬剤を除去することができる。
実施例に示すように、本発明の担体について内封された薬剤の放出率を測定したところ、低い放出率が認められた。放出率は、本発明の担体を遠心にて沈降させ、上清に存在する薬剤の量と担体を測定することにより計算することができる。
各例で調製された薬剤封入リポソームの各濃度および粒子径は、以下のように求めた。
・リン脂質濃度(mg/mL):リン脂質定量キット(リン脂質Cテストワコー、和光純薬工業株式会社)を用いて定量されるリポソーム分散液中でのリン脂質(HSPC)濃度。
・総脂質濃度(mol/L):上記リン脂質濃度から算出される膜構成成分である混合脂質の合計モル濃度(mM)。この総脂質中には、混合脂質として調製される表面修飾剤中の脂質成分は含むが、PEGを導入するためのPEG誘導体中の脂質(実施例では、PEG-PE中のPE(フォスファチジルエタノールアミン)またはChol-PEG中のChol(コレステロール))は含まない。
・薬剤濃度(mg/mL):上記で得られた製剤を生理食塩水40倍に希釈した後、50μLとり、メタノール2mLを加えた溶液について、励起波長:360nm、蛍光波長:435nmでの蛍光強度を分光蛍光光度計で測定して求めた。内封された塩酸イリノテカン濃度を薬剤量(mg)/製剤全量(mL)で示す。
・薬剤担持量(薬剤/総脂質のモル比):担体に内封された塩酸イリノテカン濃度を、上記総脂質濃度に対する上記薬剤濃度の比から、薬剤/総脂質のモル比で示す。
・粒子径(nm):リポソーム分散液20μLを生理食塩水で3mLに希釈し、Zetasizer3000HS (Malvern Instruments)で測定した平均粒子径である。
HSPC:水素添加大豆フォスファチジルコリン(分子量790、リポイド(Lipoid)社製SPC3)
Chol:コレステロール(分子量386.65、ソルベイ(Solvay)社)
PEG5000-PE:ポリエチレングリコール(分子量5000)−フォスファチジルエタノールアミン(分子量5938、Genzyme社)
PEG2000-PE:ポリエチレングリコール(分子量2000)−フォスファチジルエタノールアミン(分子量:2725、日本油脂社)
PEG1600-Chol:ポリエチレングリコール(分子量1600)−コレステロール(分子量:1982、日本油脂社)
CPT-11:塩酸イリノテカン(分子量677.19)
R-DHPE:ローダミンジヘキサデカノイルフォスファチジルエタノールアミン(分子量:1333.81、Molecular Probes社)
TRX-20:3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(分子量609.41、常興薬品)
塩酸イリノテカン高担持リポソーム製剤を達成しうる方法を確認するため、Remote Loading法(調製例1)またはPassive loading法(比較調製例1)により、高濃度薬剤の導入を試みた。導入方法が異なる以外は、いずれの塩酸イリノテカン担持リポソーム製剤(以下、CPT-11製剤)も、PEG-PE(後導入)リポソームを担体とした。
(1)混合脂質の調製:水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)0.422gおよびコレステロール(Chol)0.176gを、60℃で加温したt-ブタノール(関東化学株式会社)25mLに溶解した後氷冷し、凍結乾燥することでHSPC:Chol=54:46(モル比)の混合脂質を調製した。
10mM ヒスチジン(Histidine)/10%スクロース(Sucrose)溶液(pH6.0)で溶媒置換したゲルカラムにて外水相置換を行った。
リン脂質定量キットを用いて、HSPC濃度を定量した。HSPC濃度から総脂質量mMを求めた。
この塩酸イリノテカン溶液を、上記HSPC濃度(mg/mL)に対し、CPT-11/HSPC=0.2(w/w)となる量でリポソーム分散液に加え、60℃で60分撹拌を行い、塩酸イリノテカンを導入した。導入後のサンプルは氷冷した。塩酸イリノテカン封入後のリポソーム分散液を、10mMヒスチジン/10%スクロース溶液(pH6.5)にて置換したゲルカラムにて未封入薬剤の除去を行った。
上記で得られたCPT-11製剤の組成および粒子径を表1に示す。
本発明の高担持CPT-11製剤が得られた。
調製例1と同様の方法で調製した混合脂質(HSPC:Chol=54:46(モル比))0.2992gに、塩酸イリノテカン溶液(10mg/mL濃度のCPT-11/10%スクロース溶液)5mLを加え、充分膨潤させた。ボルテックスミキサーにて撹拌し、調製例1と同様に68℃でエクストルーダーに取り付けたフィルター(0.2μm×5回、0.1μm×10回)を順次通し、塩酸イリノテカンを封入したリポソームを調製した。
このリポソームに、調製例1の(3)と同様にして、混合脂質の総脂質量の0.75mol%に相当するPEG5000-PEを0.61mL加え、60℃で30分加温することによりPEG5000-PEを導入し、次いで、10mMヒスチジン/10%スクロース溶液(pH6.5)にて置換したゲルカラムにて未封入薬剤を除去した。
上記で得られたCPT-11製剤の組成および粒子径を表1に示す。
調製例1と同じ薬剤量を用いて薬剤導入したが、Passive loading法では、高担持CPT-11製剤の獲得を達成できなかった。
Remote Loading法において、本発明の高担持CPT-11製剤を得るために必要な仕込み量を調べた。
(調製例2)
調製例1の(4)薬剤の封入において、(1)〜(3)と同様にして調製したPEG-PE後導入リポソーム分散液に加える10mg/mLのCPT-11/RO水溶液の量を、CPT-11/HSPC(w/w)比で0.1、0.2、0.4、0.8となる量に変えた以外は、調製例1と同様にしてCPT-11製剤を得た。得られたCPT-11製剤の組成および粒子径を表1に示す。
表1に示すように、Remote Loading法では、薬剤仕込み量(薬剤/HSPCの比)を上げることにより、臨床効果上充分な濃度の高担持CPT-11製剤の獲得が達成できた。
実施例1で調製した各CPT-11製剤を37℃で所定期間加温した。加温終了後のCPT-11製剤に、生理食塩水を加えて20倍希釈した後、超遠心(1×105g、2時間、10℃)し、CPT-11製剤(塩酸イリノテカンを封入しているリポソーム)を沈降させた。上清に存在する塩酸イリノテカン量の蛍光強度を測定することによって、CPT-11製剤からの塩酸イリノテカンの放出率(%)を算出した。結果を図1に示す。
比較調製例1で調製したCPT-11製剤は、37℃で7日間の加温において、塩酸イリノテカン放出率が約60%を示すのに対し、調製例1のRemote loading法で調製したCPT-11製剤は、37℃で7日間の加温後もほとんど塩酸イリノテカンを放出していない。このことから、塩酸イリノテカンは、Remote loading法によりリポソームに封入することで、高担持でかつ製剤安定性に優れたCPT-11製剤を調製することができることが明らかになった。
実施例2で調製した各CPT-11製剤を37℃で所定期間加温した。加温終了後のCPT-11製剤について、試験例1と同様に塩酸イリノテカンの放出率を測定した。各CPT-11製剤は、37℃で14日間の加温後も放出率は1%以下であった。
このことから、Remote loading法により調製されたCPT-11製剤の放出率は、薬剤担持量(薬剤/総脂質比)に大きく影響されず、きわめて高担持のCPT-11製剤でも製剤安定性に優れていることが明らかになった。
調製例1と膜構成の異なるリポソームを担体として、CPT-11製剤を調製した。すなわち膜成分が以下に示す混合脂質からなるPEG-PE後導入リポソーム(調製例3)またはPEG-PE先導入リポソーム(参考調製例1)を用いて、調製例1と同様のRemote loading法により塩酸イリノテカン封入操作を行った。
(調製例3)
(1)混合脂質の調製:水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)を1.5317g、コレステロール(Chol)0.6419g、およびローダミンジヘキサデカノイルフォスファチジルエタノールアミン(R-DHPE)0.005gを、60℃で加温したt-ブタノール50mLに溶解した後、氷冷し、凍結乾燥することでHSPC:Chol:R-DHPE=54:46:0.1(モル比)の混合脂質を調製した。
次いで、10mMヒスチジン/10%スクロース溶液(pH6.0)で外水相置換を行った。
調製例3の(3)で添加するPEG2000-PEを、予め(2)において膜材料の混合脂質に添加し、PEG-PEが内外膜の両側に分布するリポソームを作製した以外は、調製例3と同様にしてCPT-11製剤を調製した。以下のとおりである。
調製例3の(1)と同様に調製した混合脂質(HSPC:Chol:R-DHPE=54:46:0.1(モル比))0.37gおよび調製例3の倍量(5.6mol%)に相当するPEG2000-PE0.094gに、エタノール1mLを加えて65℃で30分撹拌し、完全に溶解させた。
撹拌による完全溶解を確認後のエタノール溶液に、250mMに調製した硫酸アンモニウム溶液10mLを加え、以降、調製例3の(2)と同様のボルテックスミキサーおよびエクストルーダー操作を行い、10%スクロース溶液を用いて得られたリポソーム分散液の外水相置換を行った。
実施例3で調製した各CPT-11製剤を、37℃で1ヶ月間加温する加速試験を行った。1週間ごとに加温したCPT-11製剤を一部採取し、生理食塩水を加えて20倍希釈した後、超遠心(1×105g、2時間、10℃)し、CPT-11製剤を沈降させた。上清に存在する塩酸イリノテカン量の蛍光強度を定量することによって、リポソームからの放出率(%)を算出した。結果を図2に示す。また加温したリポソーム分散液の粒子径を1週間ごとに測定した。結果を図3に示す。
これら結果から、本発明の高担持CPT-11製剤において、リポソーム形成後のPEG-PE添加によるPEG-PE後導入リポソームは、好適な形態であることが分かった。
本発明の高担持CPT-11製剤の長期保存安定性および血中安定性を試験するため、以下の調製例4〜5によりCPT-11製剤を調製した。
(調製例4)
調製例1の(3)において、PEG-PE後導入リポソームの分散液の外水相置換を10mM MES/10%スクロース溶液(pH6.0)で置換したゲルカラムで行った以外は、調製例1と同様にして、Remote loading法薬剤導入により、高担持CPT-11製剤を調製した。組成を表3に示す。
下記(1)で調製した混合脂質を膜成分とした以外は、調製例4と同様にして、荷電物質の3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩を含む高担持CPT-11製剤を調製した。以下に示す。
(1)混合脂質の調製:水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)0.4561g、コレステロール(Chol)0.1876g、および3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(TRX-20)0.0563gを、60℃で加温したt-ブタノール25mLに溶解した後、氷冷し、凍結乾燥することでHSPC:Chol:TRX-20=50:42:8(モル比)の混合脂質を調製した。
上記リポソーム分散液に、混合脂質の総脂質量の0.75mol%に相当するPEG5000-PEの蒸留水溶液(36.74mg/mL)1.42mLを添加し、PEG5000-PEを導入した後、リポソーム分散液の外水相置換を、10mM MES/10%スクロース溶液(pH6.0)で行った以外は、調製例1の(3)と同様にして、Remote loading法薬剤導入により、高担持CPT-11製剤を調製した。組成を表3に示す。
上記で得られた各CPT-11製剤を、4℃で所定の期間保存した。所定期間終了後のCPT-11製剤の粒子径測定、およびCPT-11製剤からの塩酸イリノテカン放出率(%)を試験例1と同様にして測定した。結果を表3に示す。
実施例4(調製例4および5)で調製した各CPT-11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水溶液(塩酸イリノテカンとして1mg/mL)を、マウス(BALB/c、♀、5週齢、日本クレア)に、塩酸イリノテカン量として10mg/kg(イリノテカン量として8.77g/kg)を尾静脈注射した。
注射後、1,6,24時間後に採血し、遠心分離し(3,000rpm,10分,4℃)血漿を採取した。各血漿中の塩酸イリノテカン濃度を蛍光強度測定によって測定した。血漿は測定時まで冷凍庫で保管した。結果を表4および図4に示す。
血漿(Plasma)中の塩酸イリノテカン濃度は、実施例4の各CPT-11製剤の場合には、尾静脈注射後24時間まで検出されたが、塩酸イリノテカン生理食塩水溶液の場合には、尾静脈注射後1時間で検出されたのみであった。
このことからRemote loading法により調製されたCPT-11製剤により、塩酸イリノテカンの血漿中濃度を長期間高濃度で維持することが可能となった。
本発明の高担持CPT−11製剤の薬効について試験するため、以下の調製例6〜9によりCPT−11製剤を調製した。
(調製例6)
下記(1)で調製した混合脂質を膜成分とした以外は、調製例4と同様にして、荷電物質の3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩を含む高担持CPT-11製剤を調製した。以下に示す。
(1)混合脂質の調製:水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)を4.562g、コレステロール(Chol)1.876g、3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(TRX-20)0.564gを、60℃で加温したt-ブタノール50mLに溶解した後、氷冷し、凍結乾燥することでHSPC:Chol:TRX−20=50:42:8(モル比)の混合脂質を調製した。
上記リポソーム分散液に、総脂質量の0.75mol%に相当するポリエチレングリコール5000−フォスファチジルエタノールアミン(PEG5000-PE)の蒸留水溶液(36.74mg/mL)を加え、60℃で30分加温することによりPEG5000-PEを導入した後、調製例1の(4)と同様にして、Remote loading法薬剤導入により、高担持CPT-11製剤を調製した。組成を表5に示す。
下記(1)で調製した混合脂質を膜成分とした以外は、調製例4と同様にして、荷電物質の3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩を含む高担持CPT-11製剤を調製した。以下に示す。
(1) 混合脂質の調製:水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)を4.562g、コレステロール(Chol)1.518g、3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(TRX-20)1.126gを、60℃で加温したt-ブタノール50mLに溶解した後、氷冷し、凍結乾燥することでHSPC:Chol:TRX−20=50:34:16(モル比)の混合脂質を調製した。
上記リポソーム分散液に、総脂質量の2.0mol%に相当するポリエチレングリコール1600−コレステロール(PEG1600-Chol)の蒸留水溶液(36.74mg/mL)を加え、60℃で30分加温することによりPEG1600-Cholを導入した後、リポソーム分散液の外水相置換を、10mM MES/10%スクロース(Sucrose)溶液(pH6.0)で行った以外は、調製例1の(4)と同様にして、Remote loading法薬剤導入により、高担持CPT-11製剤を調製した。組成を表6に示す。
下記(1)で調製した混合脂質を膜成分とした以外は、調製例4と同様にして、荷電物質の3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩を含む高担持CPT-11製剤を調製した。以下に示す。
(1)混合脂質の調製:水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)を4.562g、コレステロール(Chol)1.876g、3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(TRX-20)0.564gを、60℃で加温したt-ブタノール50mLに溶解した後、氷冷し、凍結乾燥することでHSPC:Chol:TRX−20=50:42:8(モル比)の混合脂質を調製した。
上記リポソーム分散液に、総脂質量の0.75mol%に相当するポリエチレングリコール5000−フォスファチジルエタノールアミン(PEG5000-PE)の蒸留水溶液(36.74mg/mL)を加え、60℃で30分加温することによりPEG5000-PEを導入した後、調製例1の(4)と同様にして、Remote loading法薬剤導入により、高担持CPT-11製剤を調製した。組成を表6に示す。
下記(1)で調製した混合脂質を膜成分とした以外は、調製例4と同様にして、高担持CPT-11製剤を調製した。以下に示す。
(1)混合脂質の調製:水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC)を4.940g、コレステロール(Chol)2.060gを、60℃で加温したt-ブタノール50mLに溶解した後、氷冷し、凍結乾燥することでHSPC:Chol=54:46(モル比)の混合脂質を調製した。
上記リポソーム分散液に、総脂質量の0.75mol%に相当するポリエチレングリコール5000−フォスファチジルエタノールアミン(PEG5000-PE)の蒸留水溶液(36.74mg/mL)を加え、60℃で30分加温することによりPEG5000-PEを導入した後、調製例1の(4)と同様にして、Remote loading法薬剤導入により、高担持CPT-11製剤を調製した。組成を表7に示す。
外水相pHの薬剤封入率への影響を検証した。
(調製例10)
(1)混合脂質の調製:HSPCを7.01g及びCholを2.93g秤量し、これらに無水エタノール10mLを加えて68℃にて加温溶解させた。完全溶解確認後、硫酸アンモニウム溶液(250mM)を90mL加え、68℃にて加温撹拌を行った。
(2)リポソームの作製:加温撹拌終了後68℃に加温したエクストルーダーを用いて、孔径0.2μmのフィルターを5回通し、その後孔径0.1μmのフィルターに交換し5回通した。その後、再度孔径0.1μmのフィルターに交換し、5回通した。PEG5000−DSPEの導入:エクストルージョン後のサンプルを、所定のPEG5000−DSPE含有率(mol%)になるようにPEG5000−DSPE溶液(36.74mg/mL)を20.4mL加え60℃、30分加温撹拌を行い、PEG5000−DSPEを導入した。導入後のサンプルは氷冷した。
(3)外水相置換:氷冷したサンプルを8mLずつとり、pHの異なる(pH4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0)外水相溶液、具体的にはpH4.0、5.0(10mM酢酸/10%スクロース溶液)、pH6.0(10mMヒスチジン/10%スクロース溶液)、pH7.0、8.0、9.0(10mMTris/10%スクロース溶液)にて充分置換したゲルカラムを用い、外水相置換を行った。外水相置換後のリポソーム分散液リン脂質定量キットを用いて、HSPC濃度を定量した。HSPC濃度から総脂質量mMを求めた。
上記で得られた各CPT-11製剤の脂質(HSPC)濃度、薬剤(CPT−11)濃度および粒子径を表8に示す。
外水相pHの薬剤安定性への影響を検証した。
調製例10の(3)で使用した各pHの外水相溶液(pH4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0)、具体的にはpH4.0、5.0(10mM酢酸/10%スクロース溶液)、pH6.0(10mMヒスチジン/10%スクロース溶液)、pH7.0、8.0、9.0(10mMTris/10%スクロース溶液)の各1mLに、10mg/mL濃度の塩酸イリノテカン(CPT-11)/RO水(逆浸透膜浄水)溶液を0.7mL加え、60℃で60分撹拌を行った。
CPT-11開環体存在率(%)={Aopen/(Aopen+1.102×Aclose)}×100
Aopen:CPT-11開環体のピーク面積
Aclose:CPT-11閉環体のピーク面積
外水相のpHが8.0以上の場合、CPT−11開環体存在率(%)が増大し95%以上と非常に高くなることが明らかになった。CPT−11の活性を維持するためには、α-ヒドロキシラクトン環の加水分解を抑えるため、pHを4.0以下に保つ必要があるが、脂質の安定性(脂質の加水分解)の観点より、pHは6.0〜7.0付近が望ましい。実施例6の結果を踏まえて考えると、薬物導入時における外水相のpHは4.0〜7.0が好ましいことが明らかになった。
(調製例11)
(1)リポソーム形成
HSPCを70.87g及びCholを29.13g秤量し、無水エタノール100mLを加えて68℃にて加温溶解させた。完全溶解確認後、250mM硫酸アンモニウム溶液(250mM)を900mL加え、68℃にて加温撹拌を行った。
(2)リポソームの作製
リポソームの粒子径制御:加温撹拌終了後68℃に加温したエクストルーダーを用いて、孔径100nmのフィルターを5回通した。
PEG5000−DSPEの導入:エクストルージョン後のサンプルを、所定のPEG5000−DSPE含有率(mol%)になるようにPEG5000−DSPE溶液(36.74mg/mL)を200mL加え60℃、30分加温撹拌を行い、PEG5000−DSPEを導入し氷冷した。
(3)外液置換
氷冷したサンプルをクロスフローろ過システムを用いて外水相溶液(10mMヒスチジン(Histidine)/10%スクロース(Sucrose)溶液(pH6.5))に外液置換を行った。外液置換後のリポソーム分散液を高速液体クロマトグラフィーを用いて、HSPC濃度及びCholesterol濃度を定量した。HPSC濃度及びCholesterol濃度の総和を総脂質濃度とし、封入する塩酸イリノテカン量を求めた。
(4)薬剤の封入
10mg/mL濃度の塩酸イリノテカン(CPT-11)/RO水(逆浸透膜浄水)溶液を調製した。この塩酸イリノテカン溶液を、上記総脂質量(mM)に対し、CPT-11/総脂質量=0.16(mol/mol)となる量でリポソーム分散液に加え、50℃で20分撹拌を行い、塩酸イリノテカンを導入した。導入後のサンプルは直ちに氷冷した。
(5)未封入薬物除去
塩酸イリノテカン封入後のリポソーム分散液に、外水相を加え、クロスフローろ過システムを用いて未封入薬物の除去を行った。
(6)濃度調整
未封入薬物除去後のリポソーム分散液を高速液体クロマトグラフィーを用いて、塩酸イリノテカン量を定量し、5.0mg/mLの塩酸イリノテカン濃度に調整した。
(7)ろ過滅菌
濃度調整を行ったリポソーム分散液を0.2μmの滅菌フィルターを用いてろ過滅菌を行い、バイアル瓶に充填した。
上記で得られたCPT-11製剤の組成および粒子径を表9に示す。
ヒト前立腺癌細胞(PC-3)、2.5×106cells/mouseをマウス(BALB/c nude、♂、6週齢、日本チャールズリバー)の左鼠蹊部皮下に移植した。腫瘍移植後、1/2・ab2(aは腫瘍の長径、bは短径)より求めた推定腫瘍体積が40mm3前後に達した(day0) 翌日から、4日毎に計3回(day1,5,9)、調製例11で調製したCPT−11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水溶液を尾静脈注射した。薬剤を注射していないマウスを対照群とした。
Day1,5,9,12,16,22に推定腫瘍体積およびマウスの体重を求めた。
また、Day22に腫瘍を摘出し重量を測定した後、次式により腫瘍増殖阻止率I.R.(%)を算出した。
I.R.%=(1− 投与群の平均腫瘍重量/対照群の平均腫瘍重量)×100
ヒト前立腺癌に対して、CPT−11製剤および塩酸イリノテカン生理食塩水溶液は、いずれも対照群と比較して有意な腫瘍増殖抑制効果を示した(表10,図6)。また、CPT−11製剤は塩酸イリノテカン生理食塩水溶液に比べ高い抗腫瘍効果を示した。また、両薬剤ともマウスの体重には影響を与えなかった(図7)。
調製例11で調製したCPT−11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水溶液を、塩酸イリノテカン量として10mg/kgとなるように、カニクイザル(♂、4〜5齢、Guangxi Research Center of Primate Laboratory Animal)の橈側皮静脈に4分間の持続投与をした。
投与終了直後および投与開始後10、30分、および1、6、24、48、72、168、336、504時間後に採血し、遠心分離して血漿を得た。血漿50mLに内標準溶液B(内標準物質のメタノール溶液)550μLを加えて遠心し、上清をメタノールで100倍希釈したものを総CPT−11濃度測定用試料とした。一方、各血漿50 mLに内標準溶液A(内標準物質の0.147mol/L H3PO4溶液)200mLを添加し、その200mLを超遠心分離し(100,000×g、30分間、10℃)、上層部より100mLを分取して固相抽出し、抽出液を遊離CPT−11濃度、SN-38濃度およびSN-38G(SN-38 10−O−グルクロナイド)濃度測定用試料とした。得られた試料を、LC/MS/MSにて各々の濃度を測定した。結果を、図8〜11に示す。
調製例11で調製したCPT−11製剤を、塩酸イリノテカン量として3,10および30mg/kg、塩酸イリノテカン生理食塩水溶液を30mg/kgとなるように、ラット(CD(SD)IGSラット、♂、7週齢、日本チャールズリバー)に、尾静脈投与した。
薬物投与前および投与後2,4,6,13,20,27日目(4週間)に頸静脈から0.4mL採血し、血液自動分析装置(Sysmex XT-2000i、シスメックス)にて好中球数およびリンパ球数を測定した。結果を、図12および図13に示す。
以上の結果から、CPT−11製剤において好中球に対する一過性の弱い血液毒性が認められたが、同用量の塩酸イリノテカン生理食塩水溶液の血液毒性と同程度であった。
(調製例12)
(1)リポソーム形成
HSPCを65.250g、Cholを26.800g及びTRX−20を8.000g秤量し、無水エタノール100mLを加えて68℃にて加温溶解させた。完全溶解確認後、硫酸アンモニウム溶液(250mM)を900mL加え、68℃にて加温撹拌を行った。
(2)リポソームの作製
リポソームの粒子径制御:加温撹拌終了後68℃に加温したエクストルーダーを用いて、孔径100nmのフィルターを5回通した。
PEG5000−DSPEの導入:エクストルージョン後のサンプルを、所定のPEG5000−DSPE含有率(mol%)になるようにPEG5000−DSPE溶液(36.74mg/mL)を200mL加え60℃、30分加温撹拌を行い、PEG5000−DSPEを導入し氷冷した。
(3)外液置換
氷冷したサンプルをクロスフローろ過システムを用いて外水相溶液(10mMヒスチジン(Histidine)/10%スクロース(Sucrose)溶液(pH6.5))に外液置換を行った。外液置換後のリポソーム分散液を高速液体クロマトグラフィーを用いて、HSPC濃度及びCholesterol濃度を定量した。HPSC濃度、Cholesterol濃度及びTRX−20濃度の総和を総脂質濃度とし、封入する塩酸イリノテカン量を求めた。
10mg/mL濃度の塩酸イリノテカン(CPT-11)/RO水(逆浸透膜浄水)溶液を調製した。この塩酸イリノテカン溶液を、上記総脂質量(mM)に対し、CPT-11/総脂質量=0.16(mol/mol)となる量でリポソーム分散液に加え、50℃で20分撹拌を行い、塩酸イリノテカンを導入した。導入後のサンプルは直ちに氷冷した。
(5)未封入薬物除去
塩酸イリノテカン封入後のリポソーム分散液に、外水相を加え、クロスフローろ過システムを用いて未封入薬物の除去を行った。
(6)濃度調整
未封入薬物除去後のリポソーム分散液を高速液体クロマトグラフィーを用いて、塩酸イリノテカン量を定量し、5.0mg/mLの塩酸イリノテカン濃度に調整した。
(7)ろ過滅菌
濃度調整を行ったリポソーム分散液を0.2μmの滅菌フィルターを用いてろ過滅菌を行い、バイアル瓶に充填した。
上記で得られたCPT-11製剤の組成および粒子径を表11に示す。
ヒト大腸癌細胞(HCT116)、2×106cells/mouseをマウス(BALB/c nude、♂、6週齢、日本チャールズリバー)の左鼠蹊部皮下に移植した。腫瘍移植後、1/2・ab2(aは腫瘍の長径、bは短径)より求めた推定腫瘍体積が90mm3前後に達した(day0) 翌日から、4日毎に計3回(day1,5,9)、調製例12で調製したCPT−11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水溶液を尾静脈注射した。薬剤を注射していないマウスを対照群とした。
注射後、5,8,12,16,21日後に推定腫瘍体積およびマウスの体重を求めた。また、注射後、21日目に腫瘍を摘出し重量を測定した後、試験例6に示す式により腫瘍増殖阻止率I.R.(%)を算出した。
ヒト大腸癌に対して、CPT−11製剤および塩酸イリノテカン生理食塩水溶液は、いずれも対照群と比較して有意な腫瘍増殖抑制効果を示した。また、CPT−11製剤は塩酸イリノテカン生理食塩水溶液に比べ高い抗腫瘍効果を示した(表12,図14)。また、両薬剤ともマウスの体重には影響を与えなかった(図15)。
調製例12で調製したCPT−11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水希釈溶液を、塩酸イリノテカン量として3,10および30mg/kgとなるように、麻酔下で大腿静脈および大腿静脈にカニューレを施した後ボールマンケージにセットしたラット(CD(SD)IGSラット、♂、7週齢、日本チャールズリバー)に、大腿静脈カニューレから静脈内投与した。
投与後、2,10,30分、1,3,6,9,24および30時間後に大腿動脈カニューレより採血し、遠心分離して血漿50mLを分取し、内部標準液200mLで希釈した。この内部標準液希釈血漿50mLにメタノール500mLを加えて撹拌した後、0.146M H3PO4で10倍希釈したものを総CPT−11濃度測定用試料とした。一方、内部標準液希釈血漿200mLを超遠心分離し(100,000×g、30分間、10℃)、上層部より50mLを分取し0.146M H3PO4で10倍希釈したものを遊離CPT−11濃度、SN-38濃度およびSN-38G濃度測定用試料とした。得られた試料を、Kurita等の方法(J. Chromatogr B 724, p335-344, 1999)に従ってPROSPEKT-HPLCにて各々の濃度を測定した。結果を、図16〜19に示す。
本発明の高担持CPT−11製剤として調製例9で調製したCPT−11製剤について試験した。
(試験例11)抗腫瘍効果
マウス(BALB/c nude、♂、6週齢、日本クレア)の鼠蹊部皮下に2〜3mm角のヒト大腸癌細胞(HT-29)を移植針で移植した。腫瘍移植後、1/2・ab2(aは腫瘍の長径、bは短径)より求めた推定腫瘍体積が100mm3前後に達した時点(day1)とその4日後(day5)および8日後(day99)の計3回、調製例9で調製したCPT−11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水溶液を尾静脈注射した。薬剤を注射していないマウスを対照群とした。
初回注射後、4,8,12,17,21日後に推定腫瘍体積およびマウスの体重を求めた。また、初回注射後、21日目に腫瘍を摘出し重量を測定した後、試験例6に示す式により腫瘍増殖阻止率I.R.(%)を算出した。
ヒト大腸癌に対して、CPT−11製剤および塩酸イリノテカン生理食塩水溶液は、いずれも対照群と比較して強い腫瘍増殖抑制効果を示した。また、CPT−11製剤は塩酸イリノテカン生理食塩水溶液に比べ高い抗腫瘍効果を示した(表13,図20)。また、両薬剤ともマウスの体重には影響を与えなかった(図21)。
マウス線維肉腫(Meth A)、2.5×105cells/mouseをマウス(BALB/c、♀、7週齢、日本エス・エル・シー)の鼠蹊部皮下に移植した。腫瘍移植後20日間放置して腫瘍を増殖させた後、調製例9で調製したCPT−11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水溶液を、塩酸イリノテカン濃度として10mg/kgとなるように尾静脈投与した。
投与後、10,30分後および1、3、6、12、24、48、96時間後に心臓採血し、遠心分離(15,000rpm、1分、0℃)して血漿を得た。CPT−11製剤投与動物の血漿中CPT−11濃度の測定は、得られた血漿を0.146M H3PO4で50希釈した後、等量の内部標準液を加えたものを測定用試料とした。CPT−11製剤投与動物の血漿中SN−38およびSN−38G濃度および、塩酸イリノテカン生理食塩水溶液投与動物の血漿中薬物濃度の測定は得られた血漿を0.146M H3PO4で4倍に希釈した後、等量の内部標準液を加えたものを測定用試料とした。
心臓採血した後、鼠径部より腫瘍を摘出し、生理食塩水で洗浄した後、腫瘍重量を測定した。5倍量の氷冷した0.146M H3PO4を加えたのち、テフロンホモジナイザーを用いてホモジネートした。ホモジネート200 mLに内部標準液50mLおよびメタノール0.75mLを加えて懸濁した後、−20℃で一晩放置した。遠心分離(15,000rpm、3分、0℃)した後、上清0.1mLに0.146M H3PO4を0.4mL加え、HPLC測定用試料とした。得られた測定用試料は、Kurita等の方法(J. Chromatogr B 724, p335-344, 1999.)に従ってPROSPEKT-HPLCにて各々の濃度を測定した。結果を、図22〜27に示す。
このことから、CPT−11製剤は塩酸イリノテカン生理食塩水溶液に比較して高い血中滞留性および腫瘍移行性を示すことが確認できた。
本発明の高担持CPT−11製剤として、調製例7で調製したCPT−11製剤を試験した。
(試験例13)薬剤3回投与による抗腫瘍効果
マウス線維肉腫(Meth A)、2.5×105cells/mouseをマウス(BALB/c、♀、7週齢、日本クレア)の鼠蹊部皮下に移植した。腫瘍移植後、7、9、11日目、または7、11、15日目の計3回、調製例7で調製したCPT−11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水溶液を尾静脈注射した。薬剤を注射していないマウスを対照群とした。
注射後、21日目に腫瘍を摘出し重量を測定した後、試験例6に示す式により腫瘍増殖阻止率I.R.(%)を算出した。結果を、表14に示す。
マウス線維肉腫に対して、CPT−11製剤および塩酸イリノテカン生理食塩水溶液は、いずれも対照群と比較して有意な腫瘍増殖抑制効果を示した。また、CPT−11製剤は塩酸イリノテカン生理食塩水溶液に比べ高い抗腫瘍効果を示した。また、両薬剤ともマウスの体重には影響を与えなかった。
マウス線維肉腫(Meth A)、2.5×105cells/mouseをマウス(BALB/c、♀、7週齢、日本クレア)の鼠蹊部皮下に移植した。腫瘍移植後、7、11日目に計1回または2回、調製例7で調製したCPT−11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水溶液を尾静脈注射した。薬剤を注射していないマウスを対照群とした。
注射後、21日目に腫瘍を摘出し重量を測定した後、試験例6に示す式により腫瘍増殖阻止率I.R.(%)を算出した。結果を、表15に示す。
本発明の高担持CPT−11製剤として、調製例8で調製したCPT−11製剤を試験した。
(試験例15)抗腫瘍効果
マウス(BALB/c nude、♂、6週齢、日本クレア)の鼠蹊部皮下に2〜3mm角のヒト肺癌細胞(QG56)を移植針で移植した。腫瘍移植後、1/2・ab2(aは腫瘍の長径、bは短径)より求めた推定腫瘍体積が1mm3前後に達した時点(day1)とその4日後(day5)および8日後(day9)の計3回、調製例8で調製したCPT−11製剤あるいは塩酸イリノテカン生理食塩水溶液を尾静脈注射した。薬剤を注射していないマウスを対照群とした。
初回注射後、4、8、12、16、21日目に推定腫瘍体積およびマウスの体重を求めた。また、初回注射後、21日目に腫瘍を摘出し重量を測定した後、試験例6に示す式により腫瘍増殖阻止率I.R.(%)を算出した。結果を、表16、図28および図29に示す。
Claims (9)
- 脂質膜で形成される閉鎖小胞に、イリノテカンおよび/またはその塩を、少なくとも0.07mol/mol(薬剤mol/膜総脂質mol)の濃度で内封したイリノテカン製剤。
- 前記イリノテカン製剤が、前記閉鎖小胞の内水相と外水相との間にイオン勾配を有する請求項1に記載のイリノテカン製剤。
- 前記イオン勾配がプロトン濃度勾配であり、前記内水相側pHが外水相側pHよりも低いpH勾配をもつ請求項2に記載のイリノテカン製剤。
- 前記pH勾配が、アンモニウムイオン濃度勾配および/またはプロトン化しうるアミノ基を有する有機化合物の濃度勾配により形成される請求項3に記載のイリノテカン製剤。
- 前記閉鎖小胞が、リン脂質を主膜材として含む脂質二重膜で形成されるリポソームである請求項1〜4のいずれかに記載のイリノテカン製剤。
- 前記リポソームが、前記リン脂質以外の脂質および/または表面修飾剤をさらに含む請求項5に記載のイリノテカン製剤。
- 前記リポソームの外表面のみが親水性高分子を含む表面修飾剤で修飾されてなる請求項6に記載のイリノテカン製剤。
- 前記表面修飾剤として、塩基性官能基を有する化合物を含む請求項6または7に記載のイリノテカン製剤。
- 請求項1〜8のいずれかに記載のイリノテカン製剤を含有する医薬組成物。
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