JPWO2005060920A1 - 1液型の歯科用接着剤組成物 - Google Patents

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Abstract

疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)と、水溶性の重合性単量体(b)と、水(c)と、光重合開始剤(d)と、電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)と、架橋性重合性単量体(f)と、前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の一部と反応して水溶性の塩を生成すべき塩基性化合物(g)とを、必須配合剤として配合してなる。歯牙、特にエナメル質又は象牙質と、歯科用修復材料、特にレジン材料との接着において、優れた接着力を発現するとともに、優れた貯蔵安定性を有する1液型の歯科用接着剤組成物が提供される。1液型ゆえに、接着操作において混和する必要がなく、しかも前処理(エッチング処理及びプライミング処理)を行わなくても優れた接着力を発現するので、歯牙の修復治療における接着操作を1つの処理で行うための1ステップ型の歯科用接着剤組成物として好適に用いることができる。

Description

本発明は、1液型の歯科用接着剤組成物に係わり、詳しくは、歯牙の硬質組織(歯質)と歯科用コンポジットレジン、歯科用コンポマー、歯科用レジンセメント等の歯科用修復材料とを接着するために用いる1液型の歯科用接着剤組成物に関する。
齲蝕等により損傷した歯質(エナメル質、象牙質及びセメント質)の修復には、通常、充填用コンポジットレジン、充填用コンポマー等の充填修復材料や、金属合金、陶材、レジン材料等の歯冠修復材料が用いられる。しかし、充填修復材料及び歯冠修復材料(この明細書においては、両者を「歯科用修復材料」と総称することがある)自体には歯質に対する接着性がない。このため、従来、歯質と歯科用修復材料との接着には、接着剤を用いる様々な接着システムが用いられている。従来汎用されている接着システムとしては、歯質の表面に、リン酸水溶液等の酸エッチング剤を用いてエッチング処理を施した後に、接着剤であるボンディング剤を塗布して、歯質と歯科用修復材料とを接着する、いわゆる酸エッチング型の接着システムがある。
近年、酸エッチング剤を用いない接着システムとして、いわゆるセルフエッチング型の接着システムが提案されている(例えば、下記の特許文献1、2参照)。この接着システムは、歯質の表面に、酸性モノマーと親水性モノマーとを含有するセルフエッチングプライマーを塗布した後、水洗することなく、ボンディング剤を塗布する接着システムである。また、水不溶性の酸性モノマーと塩基性化合物と水とを含有する接着性組成物(セルフエッチングプライマー)を塗布した後、水洗することなく、ボンディング剤を塗布する接着システムも提案されている(例えば、下記の特許文献3参照)。
最近、ボンディング剤としての本来の機能に加えて、セルフエッチングプライマーとしての機能を併せ持つ歯科用接着剤組成物(以下において、前処理(エッチング処理及びプライミング処理)を必要としないこの種の歯科用接着剤組成物を1ステップ型の歯科用接着剤組成物と称することがある)を用いた接着システムが提案されている(例えば、下記の特許文献4参照)。特許文献4に記載されている1ステップ型の歯科用接着剤組成物は、リン酸基を有する重合性モノマーと、1分子中にカルボキシル基を複数個有する重合性モノマー又は水と反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマーと、20°Cにおける水の溶解度が25重量%以下である酸基(酸性基)を有しない重合性モノマーと、水と、光重合開始剤と、粘度調整剤とが、所定の割合で配合された歯科用接着剤組成物である。
特開昭62−223289号公報(第8頁、表1) 特開平3−240712号公報(第8頁、表1) 特開2001−49199号公報(〔0048〕実施例2) 特開2003−73218号公報(〔0024〕表1)
一般に、歯科治療は、唾液や血液による汚染を受けやすい環境下でなされることから、接着操作を簡便、且つ迅速に行う必要がある。
しかるに、酸エッチング型の接着システムでは、エッチング処理とボンディング剤塗布処理という2つの処理が必要である。また、エッチング処理後に、使用した酸エッチング剤を取り除くための水洗及び乾燥の各工程が別途必要である。このため、接着操作を簡便、且つ迅速に行うことが困難である。また、この接着システムでは、エナメル質に対しては十分な接着性が得られるものの、象牙質に対しては十分な接着性が得られない。
特許文献1及び2に記載されているセルフエッチング型の接着システムによれば、酸エッチング剤を使用しないので、水洗及び乾燥の各工程は不要である。また、エナメル質のみならず、象牙質に対しても十分な接着性が得られる。しかし、この接着システムでは、セルフエッチングプライミング処理(エッチングとプライミングの同時処理)とボンディング剤塗布処理という2つの処理が必要である。このため、接着操作を簡便、且つ迅速に行うことが困難である。特許文献3に記載されている接着性組成物は、これをセルフエッチングプライマーを塗布した後、ボンディング剤を塗布する2ステップ型の接着システムにおいてセルフエッチングプライマーとして使用した場合は、十分な接着性が得られる。しかし、この接着性組成物を1ステップ型の歯科用接着剤として使用した場合は、2ステップ型の接着システムに使用した場合に匹敵するような高い接着性は得られない。
特許文献4に記載されている歯科用接着剤組成物によれば、1液型、且つ1ステップ型ゆえに、接着操作を簡便、且つ迅速に行うことができる。しかしながら、この歯科用接着剤組成物には、現在市販されているこの種の歯科用接着剤組成物が抱える課題と同じ課題、すなわち十分な接着性が得られないばかりでなく、僅かな接着操作の相違によっても接着性にばらつきが生じ易いという課題がある。また、この歯科用接着剤組成物には、貯蔵安定性が良くないという課題もある。このため、歯科医師などから、実用上十分満足のいく接着力及び貯蔵安定性を有する1液型の歯科用接着剤組成物の開発が要望されていた。
本発明は上記の要望に応えるべくなされたものであって、その目的とするところは、歯牙、特にエナメル質及び象牙質と、歯科用修復材料、特にレジン材料との接着において優れた接着力を発現するとともに、優れた貯蔵安定性を有する1液型の歯科用接着剤組成物を提供することにある。
上記の目的を達成するためになされた本発明に係る歯科用接着剤組成物は、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)と、水溶性(親水性)の重合性単量体(b)と、水(c)と、光重合開始剤(d)と、電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)と、架橋性重合性単量体(f)と、前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の一部と反応して水溶性の塩を生成すべき塩基性化合物(g)とを、必須配合剤として配合してなるものである。
歯牙、特にエナメル質又は象牙質と、歯科用修復材料、特にレジン材料との接着において、優れた接着力を発現するとともに、優れた貯蔵安定性を有する1液型の歯科用接着剤組成物が提供される。本発明に係る1液型の歯科用接着剤組成物は、1液型ゆえに、接着操作において混和する必要がなく、しかも前処理(エッチング処理及びプライミング処理)を行わなくても優れた接着力を発現するので、歯牙の修復治療における接着操作を1つの処理で行うための1ステップ型の歯科用接着剤組成物として好適に用いることができる。
本発明における疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)は、25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%未満のものである。同溶解度が5重量%未満のものが好ましく、同溶解度が1重量%未満のものが最も好ましい。疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)は、歯質を脱灰しながら浸透して歯質と結合する。本発明において、水溶性の酸性基含有重合性単量体ではなく、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)を配合することとしたのは、水溶性の酸性基含有重合性単量体は、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)に比べて、歯質への浸透性には優れているものの、水溶性ゆえに重合硬化後の耐水性が悪いため、優れた接着耐久性(接着状態の持続性)が得られないからである。本発明における疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)と塩基性化合物(g)との反応生成物である塩も水溶性であるが、この塩は歯質のアパタイトと反応して最終的には水不溶性のCa塩となるので、優れた接着耐久性が得られるのである。疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)は、1価のリン酸基〔ホスフィニコ基:=P(=O)OH〕、2価のリン酸基〔ホスホノ基:−P(=O)(OH)2〕、ピロリン酸基〔−P(=O)(OH)−O−P(=O)(OH)−〕、カルボン酸基〔カルボキシル基:−C(=O)OH、酸無水物基:−C(=O)−O−C(=O)−〕、スルホン酸基〔スルホ基:−SO3H、−OSO3H〕等の酸性基を少なくとも一個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルベンジル基等の重合性基(重合可能な不飽和基)を少なくとも一個有する重合性単量体である。具体例としては、下記のものが挙げられる。なお、以下においては、メタクリロイルとアクリロイルとを(メタ)アクリロイルと総称することがある。
疎水性のリン酸基含有重合性単量体(a−1)としては、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、(5−メタクリロキシ)ペンチル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノアセテート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノアセテート、2−メタクリロイルオキシエチル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェートが例示される。
疎水性のピロリン酸基含有重合性単量体(a−2)としては、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕が例示される。
疎水性のカルボン酸基含有重合性単量体(a−3)としては、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、及びこれらの酸無水物、5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ヘキサンジカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−オクタンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸が例示される。
疎水性のスルホン酸基含有重合性単量体(a−4)としては、スチレンスルホン酸、6−スルホヘキシル(メタ)アクリレート、10−スルホデシル(メタ)アクリレートが例示される。
上記の疎水性の酸性基含有重合性単量体(a−1)〜(a−4)の中では、分子内に少なくとも1個の1価のリン酸基〔ホスフィニコ基:−P(=O)(OH)−〕、2価のリン酸基〔ホスホノ基:−P(=O)(OH)2 〕又はピロリン酸基〔−P(=O)(OH)−O−P(=O)(OH)−〕を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体が歯牙に対して優れた接着力を発現するので好ましく、特に、2価のリン酸基〔ホスホノ基:−P(=O)(OH)2 〕を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体が好ましい。その中でも、分子内に主鎖の炭素数が2〜40のアルキル基又はアルキレン基を有する2価のリン酸基含有重合性単量体がより好ましく、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の分子内に主鎖の炭素数が8〜12のアルキレン基を有する2価のリン酸基含有重合性単量体が最も好ましい。
疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の配合量が過多及び過少いずれの場合も接着力が低下することがある。疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の配合量は、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、1〜50重量%の範囲が好ましく、1〜40重量%の範囲がより好ましく、5〜30重量%の範囲が最も好ましい。
本発明における水溶性の重合性単量体(b)は、25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%以上のものである。同溶解度が30重量%以上のものが好ましく、25°Cにおいて任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。水溶性の重合性単量体(b)は、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)、光重合開始剤(d)、電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)、架橋性重合性単量体(f)及び塩基性化合物(g)の歯質への浸透を促進するとともに、自らも歯質に浸透して歯質中の有機成分(コラーゲン)に接着する。水溶性の重合性単量体(b)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリルクロライド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)が例示される。
水溶性の重合性単量体(b)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。水溶性の重合性単量体(b)の配合量が過多及び過少いずれの場合も接着力が低下することがある。水溶性の重合性単量体(b)の配合量は、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、1〜60重量%の範囲が好ましく、5〜50重量%の範囲がより好ましく、10〜40重量%の範囲が最も好ましい。
本発明における水(c)は、歯質に対する疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の脱灰作用を促進する。接着性に悪影響を及ぼす不純物を実質的に含有しないものを使用する必要がある。蒸留水又はイオン交換水が好ましい。水(c)の配合量が過多及び過少いずれの場合も接着力が低下することがある。水(c)の配合量は、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、1〜50重量%の範囲が好ましく、5〜30重量%の範囲がより好ましく、10〜20重量%の範囲が最も好ましい。
本発明における光重合開始剤(d)としては、公知の光重合開始剤を使用することができる。具体例としては、α−ジケトン類(d−1)、ケタール類(d−2)、チオキサントン類(d−3)、アシルホスフィンオキサイド類(d−4)、クマリン類(d−5)が挙げられる。中でも、アシルホスフィンオキサイド類(d−4)が、優れた接着力を歯科用接着剤組成物に与えるので好ましい。青色LEDを搭載した光照射器を使用して本発明に係る歯科用接着剤組成物を硬化させる場合には、光重合開始剤として、カンファーキノン等のα−ジケトン類(d−1)が、優れた硬化性を歯科用接着剤組成物に与えるので、好ましい。
α−ジケトン類(d−1)としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3−ペンタンジオンが例示される。
ケタール類(d−2)としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールが例示される。
チオキサントン類(d−3)としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンが例示される。
アシルホスフィンオキサイド類(d−4)としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、トリス(2,4−ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、トリス(2−メトキシベンゾイル)ホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイル−ビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイドが例示される。
クマリン類(d−5)としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリンが例示される。
光重合開始剤(d)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。光重合開始剤(d)の配合量は、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、0.1〜7重量%の範囲がより好ましく、0.5〜5重量%の範囲が最も好ましい。
本発明における電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)は、光重合開始剤(d)による硬化作用を促進する。電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)としては、芳香族第3級アミンの芳香族環の水素原子が、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、ニトリル基、ハロゲン基等の電子吸引性基で置換された化合物が例示される。中でも、下記化1で表される化合物が好ましく、下記化1で表される化合物の中でも、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸プロピル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンがより好ましい。
Figure 2005060920
電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)の配合量は、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、0.05〜5重量%の範囲がより好ましく、0.1〜2.5重量%の範囲が最も好ましい。電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)の配合量が、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、0.01重量%未満又は10重量%を越えた場合は、接着力が低下することがある。
本発明における架橋性重合性単量体(f)は、分子内に、少なくとも2個の重合性基を有し、酸性基を有さず、疎水性、すなわち25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%未満の重合性単量体である。架橋性重合性単量体(f)は、重合硬化性に劣る疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)及び水溶性の重合性単量体(b)と強固に重合して、優れた硬化性(特に、機械的強度及び耐水性)を硬化物に付与する。架橋性重合性単量体(f)の具体例としては、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(以下、「Bis−GMA」と記す)、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(以下、「UDMA」と記す)、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート及び、下記の化2、化3、化4、化5、化6又は化7で表される化合物が挙げられる。それらの中でも、優れた硬化性を得る上で、分子内に少なくとも3個の重合性基を有し、且つ炭素原子が環状又は直鎖状に少なくとも6個連続して結合した炭化水素基を有する化合物が好ましい。
Figure 2005060920
Figure 2005060920
Figure 2005060920
Figure 2005060920
Figure 2005060920
Figure 2005060920
架橋性重合性単量体(f)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。架橋性重合性単量体(f)の配合量が過多な場合は、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の歯質への浸透性が低下して、接着力が低下することがあり、一方同配合量が過少な場合は、組成物の硬化性が低下して高い接着力を発現できなくなることがある。架橋性重合性単量体(f)の配合量は、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、5〜60重量%の範囲が好ましく、10〜50重量%の範囲がより好ましく、20〜40重量%の範囲が最も好ましい。
組成物の親水性/疎水性バランス、粘度の調整、機械的強度又は接着力の向上のために、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)、水溶性の重合性単量体(b)及び架橋性重合性単量体(f)以外の重合性単量体を配合してもよい。
かかる重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレートが例示される。
これらの重合性単量体は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。これらの重合性単量体の配合量が過多な場合は、歯質への浸透性が低下して接着力が低下することがある。通常、これらの重合性単量体の配合量は、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、40重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、10重量%以下が最も好ましい。
本発明において塩基性化合物(g)を配合することとしたのは、水溶性の酸性基含有重合性単量体に代えて、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)を配合することとしたからである。すなわち、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)は、既述したように、水溶性の酸性基含有重合性単量体に比べて、重合硬化後の耐水性には優れているものの、歯質への浸透性が良くない。そこで、本発明では、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の歯質への浸透性を高めて接着力を向上させるために、その一部を塩基性化合物(g)と反応させて水溶性の塩とすることとしたのである。また、塩基性化合物(g)を配合することにより組成物の酸性が低下し、その結果、含有する重合性単量体の加水分解が抑制されるので、貯蔵安定性も大幅に向上する。因みに、生成した塩は、水溶液中で解離し、アニオンとカチオンとに分かれて存在することになる。塩基性化合物(g)を疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の全部とではなく一部と反応させるのは、その全部を水溶性の塩にしてしまうと、pHが高くなり過ぎて、歯質を脱灰できなくなり、却って浸透性が低下してしまうからである。
塩基性化合物(g)としては、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)との反応により、25°Cにおいて、0.016M(モル/リットル)以上の濃度で水に溶解する塩を生成するものが好ましく、0.16M以上の濃度で水に溶解する塩を生成するものがより好ましく、0.32M以上の濃度で水に溶解する塩を生成するものが最も好ましい。具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物類、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、ギ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、シュウ酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等のアルカリ金属とpKa3以上の弱酸との塩(芳香族基を有しない強塩基酸類)、及び、アミン類が挙げられる。アミン類としては、第1級アミン類、第2級アミン類及び第3級アミン類のいずれのアミン類でも疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)と水に可溶な塩を形成できるものであれば特に限定されない。なお、電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)は、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)との反応により水溶性の塩を生成しない点で、塩基性化合物(g)と区別される。疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の種類によってアミン類を選択するとともに、その配合量を調整することが好ましい。アミン類の具体例としては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、4−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、6−ジメチルアミノヘキシル(メタ)アクリレート、10−ジメチルアミノデシル(メタ)アクリレート、4−ジメチルアミノフェネチルアルコール、4−ジエチルアミノフェネチルアルコール、4−ジプロピルアミノフェネチルアルコール、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジ(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジプロピル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエトキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジブトキシシエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(ポリオキシエチレン)オキシエチル−p−トルイジン、ヘキサメチレンジアミン、ジメチルアミン水溶液、ペンタメチレンジアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、2−アミノエタノール、トリエチルアミン、2−ジメチルアミノエタノールが挙げられる。
上記の塩基性化合物の中でも、2価の疎水性のリン酸基含有重合性単量体(a−1)である10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(以下、「MDP」と記す)0.16ミリモルと蒸留水1ミリリットルとからなる石鹸水に似た懸濁状組成物に、塩基性化合物を0.16ミリモル混合した場合に、その懸濁状組成物の白濁が薄くなるような塩基性化合物が好ましく、その懸濁状組成物が透明な溶液になるような塩基性化合物がより好ましい。
塩基性化合物(g)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。塩基性化合物(g)は、液(組成物)のpHが1.5〜4.0の範囲になるように配合することが好ましく、pHが1.8〜3.5の範囲になるように配合することがより好ましく、pHが2.0〜3.0の範囲になるように配合することが最も好ましい。組成物のpHが1.5未満の場合、すなわち塩基性化合物(g)の配合量が過少な場合は、疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の水溶化が不十分となるために浸透性が低下することがある。一方、組成物のpHが4.0を越えた場合、すなわち塩基性化合物(g)の配合量が過多な場合は、脱灰作用の低下により却って浸透性が低下することがある。因みに、液のpHが4.0以下になるように塩基性化合物(g)を配合した場合は、配合した塩基性化合物(g)の殆ど全てが疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の一部と反応するので、組成物中には、塩基性化合物(g)は実質的に含まれず、未反応分の疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)と、塩の解離により生成したカチオン及びアニオンとが含まれることになる。
塩基性化合物(g)と酸性記含有重合性単量体(a)の反応によって生成する水溶性の塩自体は重合性硬化性に乏しいが、重合硬化性の高い架橋性重合性単量体(f)が別途配合されているため、本発明に係る歯科用接着剤組成物は重合硬化性に優れる。尤も、架橋性重合性単量体(f)の配合量が過多な場合は、歯質への浸透性の低下に因り、優れた接着性が得られないことがある。すなわち、架橋性重合性単量体(f)の酸性基含有重合性単量体(a)に対する配合割合が組成物の重合硬化性及び接着性に大きな影響を及ぼすことがある。重合硬化性及び接着性のいずれにも優れる組成物を得るための塩基性化合物(g)100重量部に対する架橋性重合性単量体(f)の配合量は、25〜60000重量部が好ましく、50〜12000重量部がより好ましく、100〜6000重量部が最も好ましい。
歯質に対する優れた接着性を得るためには、歯質のアパタイトと反応する、酸性基含有重合性単量体(a)と塩基性化合物(g)との塩が、歯質に十分に浸透する必要がある。そのため、(a)と(g)の反応生成物たる塩は水溶性である必要がある。両者の好ましい組み合わせとしては、(a)が分子内に少なくとも1個の1価のリン酸基〔ホスフィニコ基:−P(=O)(OH)−〕、2価のリン酸基〔ホスホノ基:−P(=O)(OH)2 〕又はピロリン酸基〔−P(=O)(OH)−O−P(=O)(OH)−〕を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体であり、且つ(g)が芳香族第2級アミン又は芳香族第3級アミンである組み合わせ(i) が好ましく、(a)が同(メタ)アクリレート系重合性単量体であり、且つ(g)が脂肪族第2級アミン又は脂肪族第3級アミンである組み合わせ(ii)がより好ましく、(a)が同(メタ)アクリレート系重合性単量体であり、且つ(g)が水酸基を有する脂肪族第2級アミン又は水酸基を有する脂肪族第3級アミンである組み合わせ(iii) が最も好ましい。
組み合わせ(i) としては、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートとN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートと4−ジメチルアミノフェネチルアルコール、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートと4−ジメチルアミノフェネチルアルコール、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートとN,N−ジプロピル−p−トルイジン、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェートと4−ジメチルアミノフェネチルアルコール、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェートと4−ジエチルアミノフェネチルアルコール、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェートとN,N−ジプロピル−p−トルイジン、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェートとN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェートと4−ジメチルアミノフェネチルアルコール、ピロリン酸ビス(6−メタクリロイルオキシヘキシル)とN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、ピロリン酸ビス(8−メタクリロイルオキシオクチル)とN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、が例示される。
組み合わせ(ii)としては、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートとトリエチルアミン、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートとジエチルアミン、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートと2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートと3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェートとトリエチルアミン、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェートとジエチルアミン、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェートと2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェートと3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェートとトリエチルアミン、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェートとジエチルアミン、ピロリン酸ビス(6−メタクリロイルオキシヘキシル)とトリエチルアミン、ピロリン酸ビス(8−メタクリロイルオキシオクチル)とトリエチルアミン、が例示される。
組み合わせ(iii) としては、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートとトリエタノールアミン、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートとメチルジエタノールアミン、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェートとトリエタノールアミン、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェートとメチルジエタノールアミン、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェートとトリエタノールアミン、が例示される。
接着力、塗布性、歯質への浸透性、並びに、酸性基含有重合性単量体(a)、光重合開始剤(d)及び架橋性重合性単量体(f)の水(c)に対する溶解性を向上させるために、水溶性揮発性有機溶剤(h)を配合してもよい。水溶性揮発性有機溶剤(h)としては、通常、常圧下における沸点が150°C以下であり、且つ25°Cにおける水に対する溶解度が5重量%以上、より好ましくは30重量%以上、最も好ましくは任意の割合で水に溶解可能な有機溶剤が使用される。中でも、常圧下における沸点が100°C以下の水溶性揮発性有機溶剤が好ましい。その具体例としては、エタノール、メタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフランが挙げられる。
水溶性揮発性有機溶剤(h)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。水溶性揮発性有機溶剤(h)の配合量が過多な場合は接着力が低下することがある。水溶性揮発性有機溶剤(h)の配合量は、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、1〜70重量%の範囲が好ましく、5〜50重量の範囲がより好ましく、10〜30重量%の範囲が最も好ましい。
接着力、塗布性、流動性、X線不透過性、機械的強度を向上させるために、フィラー(i)を配合してもよい。フィラー(i)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。フィラー(i)としては、無機系フィラー、有機系フィラー及び無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーが挙げられる。
無機系フィラーとしては、シリカ;カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al23、B23、TiO2、ZrO2、BaO、La23、SrO2、CaO、P25などを含有する、セラミックス及びガラス類が例示される。ガラス類としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムも好適に用いられる。
有機系フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴムが例示される。
無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーとしては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーを種々の重合性単量体にてコーティングした無機/有機複合フィラーが例示される。
硬化性、機械的強度、塗布性を向上させるために、フィラー(i)をシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
フィラー(i)としては、接着力、塗布性の点で、一次粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子フィラーが好ましく使用される。具体例としては、「アエロジルOX50」、「アエロジル50」、「アエロジル200」、「アエロジル380」、「アエロジルR972」、「アエロジル130」(以上、いずれも日本アエロジル社製、商品名)が挙げられる。
フィラー(i)の配合量は、歯科用接着剤組成物の全重量に基づいて、0.1〜30重量%の範囲が好ましく、0.5〜20重量%の範囲がより好ましく、1〜10重量%の範囲が最も好ましい。
歯質に耐酸性を付与するために、フッ素イオン放出性物質を配合してもよい。フッ素イオン放出性物質としては、フルオロアルミノシリケートガラス等のフッ素ガラス類;フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物;メタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体等のフッ素イオン放出性ポリマー;セチルアミンフッ化水素酸塩等のフッ素イオン放出性物質が例示される。
安定剤(重合禁止剤)、着色剤、蛍光剤、紫外線吸収剤を配合してもよい。また、セチルピリジニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、トリクロサン等の抗菌性物質を配合してもよい。
次に、本発明に係る歯科用接着剤組成物の使用方法の一例を説明する。先ず、本発明に係る歯科用接着剤組成物をスポンジ又はブラシを用いて治療すべき歯牙に塗布し、その状態で0秒(すなわち塗布後すぐに下記のエアーブローを行う)〜120秒間、好ましくは1〜60秒間、より好ましくは5〜30秒間、最も好ましくは10〜20秒間、静置するか、或いは、歯質表面上でスポンジ等を用いて60秒以内の範囲で擦り続ける。次いで、歯科用エアーシリンジを用いてエアーブローを行った後に、コンポジットレジン、セメント、小窩裂溝填塞材料等の充填修復材料を歯科用接着剤組成物の塗布面に塗布して、両者を同時に硬化させる。尤も、本発明に係る歯科用接着剤組成物には、光重合開始剤(d)が配合されているので、充填修復材料を塗布する前に、歯質表面に塗布した歯科用接着剤組成物に歯科用可視光線照射器などを用いて光照射してこれを重合硬化させる方が、より優れた接着力が得られるので、好ましい。本発明に係る歯科用接着剤組成物によれば、歯牙に適用する前に、リン酸エッチング剤やセルフエチングプライマーによる前処理を行う必要がなく、また1液型ゆえに混和する必要もない。
本発明に係る歯科用接着剤組成物は、歯質だけでなく、口腔内で破折した歯冠修復材料(金属、陶材、セラミックス、コンポジット硬化物など)に対しても優れた接着力を発現する。本発明に係る歯科用接着剤組成物を歯冠修復材料の接着に用いる場合は、本発明に係る歯科用接着剤組成物を、市販の金属接着用プライマー、陶材接着用のプライマー等のプライマーや次塩素酸塩、過酸化水素水等の歯面清掃剤と組み合わせて用いてもよい。
実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。以下で用いる略記号は次の通りである。
〔酸性基含有重合性単量体〕
MDP:10−メタクリロリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
Bis−MHP:ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホフフェート
POP:ピロリン酸ビス(8−メタクリロイルオキシオクチル)
4−MDT:4−メタクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸
MA:マレイン酸
〔水溶性の重合性単量体(b)〕
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
9G:ノナエチレングリコールジメタアクリレート
〔光重合開始剤(d)〕
CQ:dl−カンファーキノン
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
〔電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)〕
DABB;4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル
DABE;4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
DMAI:4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル
DMAB;4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン
〔架橋性重合性単量体(f)〕
Bis−GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
UDMA:〔2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)〕ジメタクリレート
Bis4:下記化8で表される架橋性重合性単量体(f)
Figure 2005060920
Bis−M3:下記化9で表される架橋性重合性単量体(f)
Figure 2005060920
Bis−M4:下記化10で表される架橋性重合性単量体(f)
Figure 2005060920
U4TH:下記化11で表される架橋性重合性単量体(f)
Figure 2005060920
〔塩基性化合物〕
NaOH:水酸化ナトリウム
Ca(OH)2:水酸化カルシウム
NaHCO3:炭酸水素ナトリウム
2CO3:炭酸カリウム
CH3COONa:酢酸ナトリウム;
BSS:ベンゼンスルフィン酸ナトリウム
TPSS:2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム
TEA:トリエタノールアミン
MDA:メチルジエタノールアミン
DMAEMA:2−ジメチルアミノエチルメタクリレート
DEPT:N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
DAPA:4−ジメチルアミノフェネチルアルコール
DEPA:4−ジエチルアミノフェネチルアルコール
ED:エチレンジアミン
AE:2−アミノエタノール
TE:トリエチルアミン
〔フィラー(i)〕
R972:アエロジル社製の微粒子シリカ
〔その他〕
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(安定剤(重合禁止剤))
(実施例1)
MDP(15重量部)と、NaOH(5重量部)と、HEMA(35重量部)と、蒸留水(10重量部)と、Bis−GMA(35重量部)と、TMDPO(2重量部)と、CQ(1重量部)と、DABB(1重量部)と、BHT(0.05重量部)とを混合して、歯科用接着剤組成物を調製した。
(実施例2〜35)
疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)及び/又は塩基性化合物(g)の種類を変えたこと、及び、架橋性重合性単量体(f)と塩基性化合物(g)の配合量を変えたこと以外は実施例1と同様にして、34種の歯科用接着剤組成物を調製した。
(比較例1)
NaOHを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、歯科用接着剤組成物を調製した。
(比較例2〜7)
NaOH(5重量部)に代えて、Ca(OH)2 、BSS、TPSS、DABE、DMAI又はDMAB(5重量部)を配合したこと以外は実施例1と同様にして、6種の歯科用接着剤組成物を調製した。
(比較例8)
MDP(15重量部)に代えて、MA(15重量部)を配合したこと以外は実施例1と同様にして、歯科用接着剤組成物を調製した。
実施例1〜35及び比較例1〜8で調製した歯科用接着剤組成物の接着力及び貯蔵安定性を、それぞれ下記の接着力試験方法及び貯蔵安定性試験方法により調べた。表1及び表2に試験結果を示す。表1及び表2に示す接着強度の数値は、いずれも8個の試験片についての測定値の平均値である。表1及び表2に示す光硬化時間は下記の光硬化時間測定方法により調べた。表1及び表2に示す光硬化時間の数値はいずれも5回の測定値の平均値である。表1に示す酸性基含有重合性単量体の水に対する溶解性及び酸性基含有重合性単量体と塩基性化合物の反応生成物(塩)の水に対する溶解性は、それぞれ下記の溶解性試験方法A及びBにより調べたものである。以下の実施例及び比較例で調製した歯科用接着剤組成物について調べた接着力、貯蔵安定性、並びに、酸性基含有重合性単量体及びその塩の水に対する溶解性も下記の各試験方法により調べたものである。
〔接着力試験方法〕
牛の前歯を#1000シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で平滑に湿潤研磨してエナメル質表面又は象牙質表面を露出させた後、表面の水を歯科用エアーシリンジを用いて吹き飛ばす。露出したエナメル質表面又は象牙質表面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、丸穴に歯科用接着剤組成物(非貯蔵品)を筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、歯科用エアーシリンジを用いて当該歯科用接着剤組成物の流動性が無くなるまで乾燥する。次いで、歯科用光照射器(モリタ社製、商品名「JETLITE3000」)を用いて10秒間光照射を行う。次いで、その歯科用接着剤組成物の上に光重合型コンポジットレジン(クラレ社製、商品名「クリアフィルAP−X」)を載置し、離型フィルム(クラレ社製、商品名「エバール」)を被せた後、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけ、歯科用光照射器「JETLITE3000」を用いて20秒間光照射して、硬化させる。次いで、この硬化面に対して、歯科用レジンセメント(クラレ社製、商品名「パナビア21」)を用いて、直径5mm、長さ1.5cmのステンレス製の円柱棒の一方の端面(円形断面)を接着し、30分間静置して、試験片とする。試験片は、全部で16個(エナメル質表面を露出させたもの8個、象牙質表面を露出させたもの8個)作製する。次いで、試験片を、サンプル容器内の蒸留水に浸漬した状態で、37°Cに設定した恒温器内に24時間放置した後、取り出して、接着強度を測定する。接着強度(引張接着強度)の測定には万能試験機(インストロン社製)を用い、クロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定する。
〔貯蔵安定性試験方法〕
歯科用接着剤組成物をポリプロピレン製の容器に入れ、50°Cに設定した恒温器に3週間貯蔵した後、上記の接着力試験方法により、歯科用接着剤組成物(貯蔵品)の接着強度を測定する。
〔光硬化時間測定方法〕
歯科用接着剤組成物をガラス容器に入れ、歯科用エアーシリンジにて、水及びエタノールの配合量に相当する重量減少に至るまで乾燥して、濃縮する。この濃縮駅0.015gをガラス製のプレパラート上に接着させた4mm孔のワッシャー内に滴下する。ワッシャー内の濃縮液に、レコーダー(横河電気製作所社製、商品コード「Type3066」)に接続した熱電対(岡崎製作所社製、商品コード「SKC/C」)を浸し、プレパラートの下方から歯科用光照射器「JETLITE3000」を用いて光照射する。光照射開始から硬化により発熱ピークトップが生じるまでの時間を光硬化時間(秒)とする。
〔酸性基含有重合性単量体の水に対する溶解性試験方法A〕
25°Cの環境下、10ミリリットルの透明な容器に蒸留水(0.9g)と酸性基含有重合性単量体(0.1g)を加え、スターラーバーで撹拌して、液の濁りを目視観察する。清澄な液の場合は、酸性基含有重合性単量体の溶解度が10%重量以上であると判断して×と評価する。清澄な液でなかった場合は、さらに1gの蒸留水を追加し、スターラーバーで撹拌して、再び液の濁りを目視観察する。清澄な液に変化した場合は、酸性基含有重合性単量体の溶解度が5〜10重量%の範囲にあると判断して△と評価し、一方清澄な液に変化しなかった場合は、酸性基含有重合性単量体の溶解度が5重量%未満であると判断して○と評価する。
〔酸性基含有重合性単量体の塩の水に対する溶解性試験方法B〕
25°Cの環境下、10ミリリットルの透明な容器に、蒸留水(1ミリリットル)と酸性基含有重合性単量体(0.16ミリモル)とを加え、スターラーバーで撹拌して、石鹸水に似た懸濁液を調製する。その懸濁液に、塩基性化合物(0.16ミリモル)を添加して、懸濁液の濁りの変化を目視観察する。清澄な液に変化した場合は、酸性基含有重合性単量体の塩の溶解度が0.16M以上であると判断して○と評価する。懸濁液の濁りに変化がないか、或いは濁りが増した場合は、さらに9ミリリットルの蒸留水を追加し、室温にて1日撹拌した後、再び濁りの変化を目視観察する。清澄な液に変化した場合は、酸性基含有重合性単量体の塩の溶解度が0.016〜0.16Mの範囲にあると判断して△と評価し、一方清澄な液に変化しなかった場合は、酸性基含有重合性単量体の塩の溶解度が0.016M未満であると判断して×と評価する。
Figure 2005060920
Figure 2005060920
表1に示すように、実施例1〜35の歯科用接着剤組成物は、非貯蔵品の接着強度及び貯蔵品の接着強度がいずれも高い。このことから、本発明に係る歯科用接着剤組成物は、エナメル質及び象牙質のいずれに対しても、優れた接着力を発現するとともに、優れた貯蔵安定性を有することが分かる。一方、表2に示すように、塩基性化合物を配合しなかった比較例1の歯科用接着剤組成物は、非貯蔵品の接着強度及び貯蔵品の接着強度がいずれも低い。比較例1の歯科用接着剤組成物の非貯蔵品の接着強度が低いのは、疎水性の酸性基含有重合性単量体(MDP)の歯質への浸透性が良くなかったからであり、貯蔵品の接着強度が低いのは、組成物のpHが低過ぎたために一部の重合性単量体が貯蔵中に加水分解したからである。疎水性の酸性基含有重合性単量体(MDP)と反応して塩を生成する塩基性化合物を配合した比較例2〜7の歯科用接着剤組成物の非貯蔵品の接着強度及び貯蔵品の接着強度が低いのは、生成した塩が水不溶性の塩であったために歯質への浸透性が良くなかったからである。水溶性の酸性基含有重合性単量体(MA)を配合した比較例8の歯科用接着剤組成物の非貯蔵品の接着強度及び貯蔵品の接着強度がいずれも極めて低いのは、硬化物の耐水性が極めて低かったからである。
(実施例36)
MDP(12重量部)と、NaOH(3重量部)と、HEMA(30重量部)と、蒸留水(15重量部)と、Bis−GMA(30重量部)と、エタノール(10重量部)と、TMDPO(2重量部)と、CQ(1重量部)と、DABB(1重量部)と、BHT(0.05重量部)とを混合して歯科用接着剤組成物を調製した。
(実施例37〜54)
疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)及び/又は塩基性化合物(g)の種類を変えたこと以外は実施例36と同様にして、18種の歯科用接着剤組成物を調製した。
実施例36〜54で調製した歯科用接着剤組成物の接着力及び貯蔵安定性を調べた。表3に試験結果を示す。
Figure 2005060920
表3と先の表1より、本発明に係る歯科用接着剤組成物にエタノール(水溶性揮発性有機溶剤(h))を配合することにより、接着力及び貯蔵安定性がさらに向上することが分かる。
(実施例55)
MDP(12重量部)と、NaOH(3重量部)と、HEMA(25重量部)と、蒸留水(15重量部)と、Bis−GMA(25重量部)と、エタノール(20重量部)と、TMDPO(2重量部)と、CQ(1重量部)と、DABB(1重量部)と、BHT(0.05重量部)と、R972(7重量部)とを混合して、歯科用接着剤組成物を調製した。
(実施例56〜73)
疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)及び/又は塩基性化合物(g)の種類を変えたこと以外は実施例55と同様にして、18種の歯科用接着剤組成物を調製した。
実施例55〜73で調製した歯科用接着剤組成物の接着力及び貯蔵安定性を調べた。表4に試験結果を示す。
Figure 2005060920
表4と先の表3より、本発明に係る歯科用接着剤組成物にR972(フィラー(i))を配合することにより、接着力及び貯蔵安定性がさらに向上することが分かる。
(実施例74〜83)
疎水性の酸性基含有重合性単量体;MDP(15重量部)と、DAPA又はNaOH(5重量部)と、HEMA又は9G(25重量部)と、蒸留水(15重量部)と、Bis−GMA、UDMA、U4TH、Bis4、Bis−M4又はBis−M3(25重量部)と、アセトン(15重量部)と、TMDPO(2重量部)と、CQ(1重量部)と、DABB(1重量部)、BHT(0.05重量部)と、R972(7重量部)とを混合して、10種の歯科用接着剤組成物を調製した。
実施例74〜83で調製した歯科用接着剤組成物の接着力及び貯蔵安定性を調べた。表5に試験結果を示す。
Figure 2005060920
表5より、実施例74〜83の歯科用接着剤組成物はいずれも、優れた接着力及び貯蔵安定性を有することが分かる。
(比較例9〜12)
MDP、HEMA、蒸留水又はBis−GMAのうちのいずれか一つを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、4種の歯科用接着剤組成物を調製した。
(比較例13)
MDP(3重量部)と、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)(24重量部)と、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロイルオキシプロパン(GDMA)(24重量部)と、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)(5重量部)と、UDMA(10重量部)と、蒸留水(34重量部)と、CQ(0.5重量部)と、TMDPO(2重量部)と、アエロジル50(日本アエロジル社製、商品名)(A50)(3重量部)とを混合して、歯科用接着剤組成物を調製した。この歯科用接着剤組成物は、特開2003−73218号公報(先の背景技術の欄で挙げた特許文献4)の実施例13に記載の歯科用接着剤組成物である。
(比較例14)
MDP(15重量部)と、蒸留水(85重量部)と、DAPA(7.7重量部)とを混合して、歯科用接着剤組成物を調製した。なお、この歯科用接着剤組成物は、特開2001−49199号公報(先の背景技術の欄で挙げた特許文献3)の実施例2に記載の歯科用接着剤組成物である。
比較例9〜14で調製した歯科用接着剤組成物の接着力及び貯蔵安定性を調べた。表6に試験結果を示す。
Figure 2005060920
表6に記載の比較例9〜12の歯科用接着剤組成物の接着強度は、表1に記載の実施例1の歯科用接着剤組成物の接着強度に比べて、総じて低い。このことから、本発明における必須配合剤である(a)、(b)、(c)及び(e)のうちのいずれか一つでも欠けた場合には、優れた接着力及び貯蔵安定性を有する歯科用接着剤組成物を得ることができなくなることが分かる。また、表6に記載の比較例13及び比較例14の歯科用接着剤組成物の接着強度は、実施例1〜83の歯科用接着剤組成物の接着強度(表1、表3〜表5参照)に比べて、低い。これは、比較例13及び比較例14の歯科用接着剤組成物の硬化性(硬化物の機械的強度及び耐水性)が、実施例1〜67の歯科用接着剤組成物の硬化性に比べて良くないからである。
本発明に係る1液型の歯科用接着剤組成物は、エッチング処理やプライミング処理を行わなくても優れた接着力を発現するとともに、優れた貯蔵安定性を有するので、1ステップ型の歯科用接着剤組成物として特に有用である。

Claims (8)

  1. 疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)と、水溶性の重合性単量体(b)と、水(c)と、光重合開始剤(d)と、電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)と、架橋性重合性単量体(f)と、前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の一部と反応して水溶性の塩を生成すべき塩基性化合物(g)とを、必須配合剤として配合してなる1液型の歯科用接着剤組成物。
  2. 疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)1〜50重量%と、水溶性の重合性単量体(b)1〜60重量%と、水(c)1〜50重量%と、光重合開始剤(d)0.01〜10重量%と、電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)0.01〜10重量%と、架橋性重合性単量体(f)5〜60重量%と、前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の一部と反応して水溶性の塩を生成し、液のpHを1.5〜4.0の範囲にすべき量の塩基性化合物(g)とを、必須配合剤として配合してなる1液型の歯科用接着剤組成物。
  3. 前記塩基性化合物(g)100重量部に対して前記架橋性重合性単量体(f)25〜60000重量部を配合してなる請求項2記載の1液型の歯科用接着剤組成物。
  4. 前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)が、分子内に少なくとも1個の1価若しくは2価のリン酸基又はピロリン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体であり、且つ前記塩基性化合物(g)が前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の一部と反応して水溶性の塩を生成すべき芳香族第2級アミン又は芳香族第3級アミンである請求項1〜3のいずれかに記載の1液型の歯科用接着剤組成物。
  5. 前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)が、分子内に少なくとも1個の1価若しくは2価のリン酸基又はピロリン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体であり、且つ前記塩基性化合物(g)が前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の一部と反応して水溶性の塩を生成すべき脂肪族第2級アミン又は脂肪族第3級アミンである請求項1〜3のいずれかに記載の1液型の歯科用接着剤組成物。
  6. 前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)が、分子内に少なくとも1個の1価若しくは2価のリン酸基又はピロリン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体であり、且つ前記塩基性化合物(g)が前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の一部と反応して水溶性の塩を生成すべき水酸基を有する脂肪族第2級アミン又は水酸基を有する脂肪族第3級アミンである請求項1〜3のいずれかに記載の1液型の歯科用接着剤組成物。
  7. 水溶性揮発性有機溶剤(h)をさらに配合してなる請求項1〜6のいずれかに記載の1液型の歯科用接着剤組成物。
  8. フィラー(i)をさらに配合してなる請求項1〜7のいずれかに記載の1液型の歯科用接着剤組成物。
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