JPWO2005040798A1 - アルツハイマー病の診断方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする、神経系疾患の検出方法を提供する。
Description
本発明はアルツハイマー病の検出方法及び診断方法に関する。
アルツハイマー病(AD)及びアルツハイマー型老年痴呆症(SDAT)は50歳台から発症し、加齢に従ってその発症頻度が増加する疾患である。特に本邦においては、2010年には全国民の1/4が70歳以上の高齢化社会を迎えるため、AD/SDATの増加が予測され、病態の進行によって国民生産性の低下及び医療費負担の著しい増加を招来する。従って、早期診断によって病態の進行を阻止することが急務である。そのためには、血中又は脳脊髄液中にその病態特異的なマーカーを発見し、正確にそれを測定することが重要である。
病態特異的なマーカーの発見のために、すでに多くの試みが為されている。それらの物質としては、ニューロフィラメント重鎖、チューブリン、グリアルフィブリラリー酸性タンパク質、S100タンパク質、タウタンパク質、ベーターアミロイドプレカーサーペプチド、ミエリン塩基性タンパク質、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどが挙げられ、さらにこれらの物質に対する自己抗体などの検索がなされてきた[Terryberry JW,Thor G,Peter JB.Autoantibodies in neurodegenerative diseases:antigen−specific frequencies and intrathecal analysis.Neurobiol Aging 1998;19:205−216.]。これらの検索は無効ではないが、特異性に欠けるため、高感度に検出することが困難である。以上のことから、AD及びSDATに対し、特異性に富んだ簡易診断法が切に望まれるところである。
病態特異的なマーカーの発見のために、すでに多くの試みが為されている。それらの物質としては、ニューロフィラメント重鎖、チューブリン、グリアルフィブリラリー酸性タンパク質、S100タンパク質、タウタンパク質、ベーターアミロイドプレカーサーペプチド、ミエリン塩基性タンパク質、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどが挙げられ、さらにこれらの物質に対する自己抗体などの検索がなされてきた[Terryberry JW,Thor G,Peter JB.Autoantibodies in neurodegenerative diseases:antigen−specific frequencies and intrathecal analysis.Neurobiol Aging 1998;19:205−216.]。これらの検索は無効ではないが、特異性に欠けるため、高感度に検出することが困難である。以上のことから、AD及びSDATに対し、特異性に富んだ簡易診断法が切に望まれるところである。
本発明は、アルツハイマー病、アルツハイマー型老年痴呆症などの脳神経系疾患を特異的に検出する方法、及びこれらの疾患の診断法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、アルツハイマー病患者等の血中の抗ヒストンH1抗体及び抗ポリADP−リボース抗体を測定することにより、上記疾患を検出し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする、神経系疾患の検出方法。
本発明においては、生体試料として血液、唾液、漿液、リンパ液、血清等の体液を使用することができる。また、神経系疾患としては、アルツハイマー病(AD)又はアルツハイマー型老年痴呆症(SDAT)が挙げられるが、これらの疾患に限定されるものではない。AD又はSDAT患者の生体試料(例えば体液)中には、抗ポリADP−リボース抗体(「抗pADPR抗体」ともいう)、抗ヒストンH1抗体(「抗H1抗体」ともいう)又はこれらの両者が含まれており、その自己抗体のサブクラスはIgG1及びIgG2のいずれも存在する。これに対し、代表的な自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)患者の自己抗体のサブクラスは、IgG2が主である。従って、IgG1とIgG2との比(G1/G2比)を測定することにより、その値を指標として被験患者がAD又はSDATであるのかを判断することができる。また、それらの再分類(亜型)をも可能にする。また、抗pADPR IgG、抗ヒストンH1 IgGのほか、抗pADPR IgA、抗H1 IgAを測定することにより、その値を指標として被験患者がAD又はSDATであるのかを判断することができる。
(2)ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする、神経系疾患の診断方法。
生体試料、神経系疾患の具体的内容は上記(1)記載の発明と同様である。また、本発明の診断方法においても、IgG1とIgG2との比を指標として診断することが可能である。また、抗pADPR IgG、抗ヒストンH1 IgGのほか、抗pADPR IgA、抗H1 IgAを測定することにより、その値を指標として被験患者がAD又はSDATであるのかを判断することもできる。
(3)ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1を含む、神経系疾患の診断又は検出用キット。
(4)ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1が固相に固定された、神経系疾患の診断又は検出用プレート。
上記キット及びプレートにおいて、神経系疾患は例えばアルツハイマー病又はアルツハイマー型老年痴呆症である。
(5)ヒストンH1を、0.25M NaCl及び25mM トリス緩衝液(pH7.4)からなる溶液で希釈した後、固相に固定することを特徴とする、ヒストンH1の固相への固相化方法。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、アルツハイマー病患者等の血中の抗ヒストンH1抗体及び抗ポリADP−リボース抗体を測定することにより、上記疾患を検出し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする、神経系疾患の検出方法。
本発明においては、生体試料として血液、唾液、漿液、リンパ液、血清等の体液を使用することができる。また、神経系疾患としては、アルツハイマー病(AD)又はアルツハイマー型老年痴呆症(SDAT)が挙げられるが、これらの疾患に限定されるものではない。AD又はSDAT患者の生体試料(例えば体液)中には、抗ポリADP−リボース抗体(「抗pADPR抗体」ともいう)、抗ヒストンH1抗体(「抗H1抗体」ともいう)又はこれらの両者が含まれており、その自己抗体のサブクラスはIgG1及びIgG2のいずれも存在する。これに対し、代表的な自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)患者の自己抗体のサブクラスは、IgG2が主である。従って、IgG1とIgG2との比(G1/G2比)を測定することにより、その値を指標として被験患者がAD又はSDATであるのかを判断することができる。また、それらの再分類(亜型)をも可能にする。また、抗pADPR IgG、抗ヒストンH1 IgGのほか、抗pADPR IgA、抗H1 IgAを測定することにより、その値を指標として被験患者がAD又はSDATであるのかを判断することができる。
(2)ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする、神経系疾患の診断方法。
生体試料、神経系疾患の具体的内容は上記(1)記載の発明と同様である。また、本発明の診断方法においても、IgG1とIgG2との比を指標として診断することが可能である。また、抗pADPR IgG、抗ヒストンH1 IgGのほか、抗pADPR IgA、抗H1 IgAを測定することにより、その値を指標として被験患者がAD又はSDATであるのかを判断することもできる。
(3)ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1を含む、神経系疾患の診断又は検出用キット。
(4)ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1が固相に固定された、神経系疾患の診断又は検出用プレート。
上記キット及びプレートにおいて、神経系疾患は例えばアルツハイマー病又はアルツハイマー型老年痴呆症である。
(5)ヒストンH1を、0.25M NaCl及び25mM トリス緩衝液(pH7.4)からなる溶液で希釈した後、固相に固定することを特徴とする、ヒストンH1の固相への固相化方法。
図1は、ポリADP−リボースの単位であるADP−リボースの構造を示す図である。
図2は、AD患者及びSDAT患者における抗pADPR抗体及び抗H1抗体の検出結果を示す図である。
図3は、SLE患者における抗pADPR抗体及び抗H1抗体の検出結果を示す図である。
図4は、AD患者及びSDAT患者における抗H1抗体と抗pADPR抗体との相関関係を示す図である。
図5は、SLE患者における抗H1抗体と抗pADPR抗体との相関関係を示す図である。
図6は、AD患者及び健常人における抗pADPR IgG及び抗pADPR IgAの検出結果を示す図である。
図2は、AD患者及びSDAT患者における抗pADPR抗体及び抗H1抗体の検出結果を示す図である。
図3は、SLE患者における抗pADPR抗体及び抗H1抗体の検出結果を示す図である。
図4は、AD患者及びSDAT患者における抗H1抗体と抗pADPR抗体との相関関係を示す図である。
図5は、SLE患者における抗H1抗体と抗pADPR抗体との相関関係を示す図である。
図6は、AD患者及び健常人における抗pADPR IgG及び抗pADPR IgAの検出結果を示す図である。
1.概要
最近AD患者の脳神経細胞、とりわけ星膠細胞(アストロサイト)の細胞核におけるADP−リボシル化活性の上昇[Increased poly(ADP−ribosyl)action of nuclear proteins in Alzheimer’s disease.Brain 1999;122:247−253]、及び星膠細胞膜におけるヒストンH1の高発現[Bolton SJ,Russelakis−Carneiro M,Betmouni S,Perry,VH.Non−nuclear histone H1 is upregulated in neurons and astrocytes in prion and Alzheimer’s diseases but not in acute neurodegeneration.Neuropathol Applied Neurobiol 1999;25:425−432.]に関して報告がされている。この二つの現象には密接な関係のあることが知られている。ADP−リボシル化反応は、主にタンパク質に生じる現象であり[Hayaishi O,Ueda K.Poly(ADP−ribose)and ADP−ribosylation of proteins. Ann Rev Biochem 1977;46:95−116]、タンパク質の修飾反応として知られている。修飾、つまりADPリボシル化される代表的なタンパク質がヒストンH1である。H1は、核クロマチン、及びその構成単位であるヌクレオソーム(NS)の凝縮のために重要な働きを演じている。そのH1がADP−リボシル化されると、その度合いによってクロマチンがタイトになったり、ルーズになったりする[Kanai Y,Kawamitsu H,Tanaka M et al.A novel method for purification of poly(ADP−ribose).J.Biochem 1980;88:917−920]。このことは、クロマチンのADPリボシル化反応が遺伝子発現の調節に深く関わり、また発ガン物質などでDNAが切断された場合にそれを修復する作用を有することを意味する[Virag L,Suzabo C.The therapeutic potential of poly(ADP−ribose)polymerase inhibitors.Pharmaceut Rev 2002;54:375−429]。さらに、近い将来において、ADP−リボシル化反応は、加齢と細胞核クロマチンの機能的、形態的変化とも深く関わってくるものと考えられる。
本発明者は、ADP−リボシル化の延長反応で合成されるポリADP−リボース(「pADPR」という)が、塩基性タンパク質と荷電結合すると、マウスやウサギに抗pADPR抗体を産生させることを初めて報告した[Kanai Y,Miwa M,Matsushima T.Sugimura T.Studies on poly(adenosine diphosphate ribose)antibody.Biochem Biophys Res Commun 1974;59:300−306]。さらに、ADP−リボシル化反応を受けたヒストンでウサギを免疫すると、抗ヒストン抗体と抗pADPR抗体が同時に産生され、未修飾ヒストンで免疫した場合と比べてはるかに強力な抗体が産生されることを見出した[Kanai Y,Sugimura T.Comparative studies on antibodies to poly(ADP−ribose)in rabbits and patients with systemic lupus erythematosus.Immunology 1981;43:101−110.、Kanai Y,Sugimura T.Systemic lupus erythematosus.In:ADP−Ribosylation Reactions.Hayaishi O,Ueda K eds.Academic Press,New York 1982:pp.533−546]。
以上のような本発明者の研究実績から、本発明者はAD患者アストロサイト膜表面に発現されているヒストンH1はADP−リボシル化されている可能性が高いと想定し、AD患者血中の抗ヒストンH1抗体と抗pADPR抗体を測定するに至った。
一方、免疫学的な見地とは別に、脳の虚血などの血流障害後に生じる神経細胞の修復には、ポリADP−リボシル化が深く関与することが知られている[Szabo C,Dawson VD.Role of poly(ADP−ribose)synthetase in inflammation and ischemia−reperfusion.Trends Pharmacol Sci 1998;19:287−298]。この場合は、DNA障害の修復のためにADP−リボシル化反応が過度に促進する結果、NADが枯渇して細胞死を誘導し、脳の変性に加担することになる。このような脳の虚血・血流障害時にPARP(pADPR合成酵素)の阻害剤を投与すると神経細胞死や変性を抑制できることから、PARPの阻害剤の開発が積極的に行われている[Virag L,Suzabo C.The therapeutic potential of poly(ADP−ribose)polymerase inhibitors.Pharmaceut Rev 2002;54:375−429]。これを裏付けるように、PARPのノックアウトマウスでは脳の血流障害に伴う神経細胞死が抑制されることが報告されている[Ellasson MJL,Sampei K,Mandir AS et al.Poly(ADP−ribose)polymerase gene disruption renders mice resistant to cerebral ischemia.Nature Med 1997;3:1089−1095]。
以上を総括すると、ADでは脳でのADP−リボシル化が促進し、pADPRが脳に沈着することが予測される。なお、最近ではADP−リボシル化のターゲット分子はH1よりもPARPのほうが頻度が高いといわれている[Lindhal T,Satoh M,Poirier GG,Klungland A.Posttranlational modification of poly(ADP−ribose)polymerase induced by DNA strand break.Trends Biochem Sci 1995;20:404−411]。加齢にともなって予想される脳関門の緩和は、pADPRの血中への漏洩をもたらし、ひいては免疫系に接触する機会を増加させることになり、ADにおいてpADPRに対する免疫応答を調べる理論的根拠は極めて高い。
2.神経系疾患の検出方法
本発明は、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする神経系疾患の検出方法を提供する。つまり、本方法は、生体試料中の抗ポリADP−リボース抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の量を、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1を用いて検出することにより、神経系疾患を検出する方法である。
(1)神経系疾患
本発明において神経系疾患とは、ADPリボシル化が関与する神経系の疾患を広く含むものであり、例えばアルツハイマー病(AD)及びアルツハイマー型老年痴呆症(SDAT)が含まれる。特に、本方法は疾患時に抗ポリADP−リボース抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の発現が確認される疾患において有用である。
(2)ポリADP−リボース及び/又はヒストンHIと生体試料との反応と抗体の検出
本発明の方法は、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1が固相化されたプレートに、生体試料を添加して反応させ、試料中の抗ポリADP−リボース抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体を検出するものである。
(a)ポリADP−リボース(pADPR)
本発明において用いるポリADP−リボースは、ADP−リボース(図1)が複数(図1「n」)結合したものである。図1中、「R」はリボース、「P」はリン酸基及び「Ad」はアデニンを示す。pADPRは、nicotinamide adenine dinucleotide(NAD)やNAD+から合成することができる。例えば、NADを基質として、仔牛胸腺核を酵素源として合成し、精製して得ることができる[Kanai Y,Kawamitsu H,Tanaka M et al.A novel method for purification of poly(ADP−ribose).J.Biochem 1980;88:917−920]。本発明で用いられるポリADP−リボースは抗ポリADP−リボース抗体に認識される限りその長さは限定されないが、平均鎖長は10〜50、好ましくは20〜40、より好ましくは30である。なお、本発明に用いるpADPRは高純度であることが好ましく、pADPRに含まれるDNAやヒストンの割合は1%以下であることが好ましい。
(b)ヒストンH1
本発明において用いるヒストンH1は、ヒト由来の細胞などの試料から全ヒストンを精製した後、イオン濃度勾配により全ヒストンから分離精製することができる。例えば、ヒト前骨髄性白血病細胞株HL60細胞核より全ヒストンを単離し、0.25M NaCl+25mM トリス緩衝液(pH7.4)(溶液A)に対して透析し、可溶化する。さらに陽イオンカラムHiTrap SP(Amersham Biosciences)を用い、酸性(pH3.5)条件下で塩化ナトリウム(NaCl)の濃度勾配によって全ヒストンからH1のみを分離することができる[Kanai Y,Sugimura T.Comparative studies on antibodies to poly(ADP−ribose)in rabbits and patients with systemic lupus erythematosus.Immunology 1981;43:101−110.]。
全ヒストンは、上記の溶液Aに対して透析することで、可溶化に成功した。従来、ヒストンは通常希塩酸又は塩を含まない水溶液中でのみ溶解することが知られていたが、この状態では以下に述べるELISAの系でヒストンを固相化する場合、付着率の低下をきたしていた。しかしながら、本発明において上記の溶液Aを使用することにより、ヒストンH1の固相への付着効率を高めることに成功した。なお、本発明に用いるヒストンH1は高純度であることが好ましく、ヒストンH1に含まれるDNAの含有量は1%以下であることが好ましい。
(c)プレート
上記(a)で得られたpADPR及び/又は上記(b)で得られたヒストンH1は、例えば上記の溶液A又はPBS等の適当なバッファーで希釈し、マイクロタイタープレート等に適量加えて4℃で一晩〜一昼夜静置して、固相(プレート)に固定して固相化する。マイクロタイタープレートは、市販のものを用いることができ、当業者であれば適宜選択することができる。例えば96well型のImmulon 2Hbを用いる場合、50〜100μlのpADPR及び/又はヒストンH1溶液を添加することができる。
また、上述のようにヒストンH1の希釈には、溶液Aを用いることが好ましい。本発明は、ヒストンH1を、溶液A(0.25M NaCl+25mM トリス緩衝液(pH7.4))で希釈した後、固相に固定することを特徴とする、ヒストンH1の固相化方法を含む。例えば、上記(b)に記載するように、全ヒストンを溶液Aに対して透析して可溶化したものから精製したヒストンH1又は異なる方法で得たヒストンH1を、溶液Aで希釈して、得られる希釈溶液をプレート等の固相に添加することでヒストンH1を固相化する方法を含む。
次に、pADPR及び/又はヒストンH1が固相化されたプレートをTBS(25mM トリス,140mM NaCl,0.04%窒化ソーダ(NaN3),pH7.4)、PBS等のバッファーで洗浄する。次に、プレート上の抗原未吸着部位を1〜5%スキムミルク又は0.5〜3%ウシ血清アルブミン(BSA)含有TBSなどを96wellプレートの場合100〜200μl添加して、室温で1時間反応させることにより遮蔽(ブロッキング)する。その後TBS等で1〜3回洗浄して、ELISA用抗原プレートを作製する。
本発明は、当該ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1が固相に固定された(固相化された)神経系疾患の診断又は検出用のプレート(以下、「本発明のプレート」とも言う)も含む。また、本発明のプレートの固相化、洗浄、ブロッキングの条件は、当業者であれば適宜変更することができ、上記記載した条件に限らない。また、本発明のプレートは、pADPR及び/又はヒストンH1が固相化されていれば良く、上記の洗浄及びブロッキング処理の有無によって限定されるものではない。
(d)生体試料(検体)
本発明で用いる生体試料は、神経系疾患を検出する被験者から採取されるものである。生体試料としては、体液を用いることができ、具体的には血液、唾液、漿液、リンパ液等を用いることができ、血清であってもよい。
(e)ELISA
本発明において、抗体量の測定には例えばELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)法を用いることができる。
本発明において、ELISA法はまず、上記(c)で得られた本発明のプレートに上記(d)で得られた生体試料を添加する。添加する生体試料は、TBSやPBSや生理食塩水等で希釈して添加することもできる。本発明のプレートに添加する生体試料の量は、96wellプレートの場合、50〜100μlであることが好ましい。添加後、プレートを室温で1時間静置する。次にプレートをTBSやPBS等のバッファーで1〜5回洗浄する。
続いて二次抗体を加え、室温で1時間反応させた後、前述のようにプレートを洗浄する。本発明において、抗体希釈は200倍で、希釈反応液は1%BSA、0.4%スキムミルク及び0.02%NaN3を含有するTBSにて行うことができるが、これに限定されない。二次抗体としては、抗pADPR IgG又は抗ヒストンH1 IgGを検出するためには抗ヒトIgG抗体を、抗pADPR IgA又は抗ヒストンH1 IgAを検出するためには抗ヒトIgA抗体を用いることができる。特に、抗ヒトIgG抗体としては、ヒトIgGサブクラスG1、G2、G3、G4に特異的な抗体を用いることもできる。二次抗体はビオチン、アビジン又はHRP(horse radish peroxidase)などで標識化されたものであってもよい。
次に、二次抗体を三次抗体又は三次試薬を用いて発色等により検出する。二次抗体に、前記のビオチン又はアビジン標識抗ヒト抗体を用いる場合、三次試薬としてアルカリフォスファターゼ標識アビジン又はビオチンを用い、発色基質にはパラニトロフェニールホスフェイトを用いて発色させることができる。前記のHRP標識二次抗体を用いる場合、三次試薬としてTMB(tetramethyl benzidine)を用いて発光させることができる。あるいは三次抗体としてHRPなどで標識した抗体、例えば二次抗体がマウス由来IgGのときはHRP標識抗マウスIgG抗体を、二次抗体がラット由来IgGのときはHRP抗ラットIgG抗体を用いて発光させることができる。検出は当業者であれば適宜方法を選択して実行することができる。
シグナルの検出は、プレートリーダーを用いて、発色、発光系に即した波長で吸光度を測定することで行うことができる。例えば、アルカリフォスファターゼ標識系の場合は405nmにおける吸光度を、又はHRP標識系であって停止液に硫酸を用いる場合は450nmにおける吸光度を測定して、抗体価とすることができる。
(6)神経系疾患の検出
神経系疾患の検出には、二次抗体に抗ヒトIgG抗体又は抗ヒトIgA抗体を用いたときには、抗pADPR抗体(抗pADPR IgG、抗pADPR IgAを含む)及び/又は抗ヒストンH1抗体(抗ヒストンH1 IgG、抗ヒストンH1 IgAを含む)の抗体価を指標とすることができる。この場合、抗pADPR抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の抗体価が平均値よりも高いときには、神経系疾患である可能性が高い。
神経系疾患、例えばAD及びSDATの患者では、自己抗体(ここでは抗pADPR抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体)のサブクラスが主にIgG1及びIgG2である。これに対し、代表的な自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス患者の自己抗体のサブクラスはIgG2が主である。したがって、IgG1とIgG2との比(G1/G2)を測定することにより、その値を指標として自己免疫疾患と区別して神経系疾患の検出を行うことができる。例えば、G1/G2値が高いときは、神経系疾患である可能性が高いと判断でき、G1/G2値が小さいときは、神経系疾患である可能性が小さいと判断することができる。
(7)キット
本発明のキットは、神経系疾患の検出方法の実施に用いる本発明のプレートを含むものである。本発明のキットは、本発明の方法の実施に必要な要素をさらに含んでいても良い。そのような要素としては、例えば、生体試料を遠心処理するためのチューブ、プレート洗浄用のバッファー(例えばTBS、PBS、溶液A)、ブロッキング用の溶液、二次抗体、二次抗体希釈用溶液、標準用抗pADPR抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体、発色又は発光反応液、発色停止液、チップ、チューブなどが挙げられる。
3.神経系疾患の診断方法
本発明は、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする神経系疾患の診断方法を提供する。本発明の診断方法は、上記2.の神経系疾患の検出結果を利用して診断することができる。
神経系疾患の診断は、二次抗体に抗ヒトIgG抗体又は抗ヒトIgA抗体を用いたときには、抗pADPR抗体(抗pADPR IgG、抗pADPR IgAを含む)及び/又は抗ヒストンH1抗体(抗ヒストンH1 IgG、抗ヒストンH1 IgAを含む)の抗体価を指標とすることができる。この場合、抗pADPR抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の抗体価が健常人の値よりも高いときには、生体試料を提供した患者は神経系疾患を罹患している可能性が高いと判断することができる。
あるいは、神経系疾患の診断は、二次抗体に抗ヒトIgGサブクラス特異的な抗体を用いてG1/G2を測定したときに、その値を指標とすることができる。例えばG1/G2値がSLE患者よりも大きいときには、当該試料の由来の患者は、SLEではなく神経系疾患を罹患している可能性が高いと判断することができる。
また、神経系疾患の患者では、抗H1抗体の産生量と抗pADPR抗体の産生量とが相関関係を示す。この関係は、抗H1抗体陽性の患者では、抗pADPR抗体産生が認められ、逆もまた成り立つことを意味する。このことを利用して、抗pADPR抗体価が高いことで知られるSLE患者との差別化を図ることができる。例えば、抗pADPR抗体が陽性であって、抗H1抗体も陽性の場合は、神経系疾患をSLEから区別することができる。したがって、抗pADPR抗体だけでなく抗H1抗体を検出することで、あるいは抗H1抗体のみを検出することで、SLEと区別して神経系疾患を検出し診断することができる。
最近AD患者の脳神経細胞、とりわけ星膠細胞(アストロサイト)の細胞核におけるADP−リボシル化活性の上昇[Increased poly(ADP−ribosyl)action of nuclear proteins in Alzheimer’s disease.Brain 1999;122:247−253]、及び星膠細胞膜におけるヒストンH1の高発現[Bolton SJ,Russelakis−Carneiro M,Betmouni S,Perry,VH.Non−nuclear histone H1 is upregulated in neurons and astrocytes in prion and Alzheimer’s diseases but not in acute neurodegeneration.Neuropathol Applied Neurobiol 1999;25:425−432.]に関して報告がされている。この二つの現象には密接な関係のあることが知られている。ADP−リボシル化反応は、主にタンパク質に生じる現象であり[Hayaishi O,Ueda K.Poly(ADP−ribose)and ADP−ribosylation of proteins. Ann Rev Biochem 1977;46:95−116]、タンパク質の修飾反応として知られている。修飾、つまりADPリボシル化される代表的なタンパク質がヒストンH1である。H1は、核クロマチン、及びその構成単位であるヌクレオソーム(NS)の凝縮のために重要な働きを演じている。そのH1がADP−リボシル化されると、その度合いによってクロマチンがタイトになったり、ルーズになったりする[Kanai Y,Kawamitsu H,Tanaka M et al.A novel method for purification of poly(ADP−ribose).J.Biochem 1980;88:917−920]。このことは、クロマチンのADPリボシル化反応が遺伝子発現の調節に深く関わり、また発ガン物質などでDNAが切断された場合にそれを修復する作用を有することを意味する[Virag L,Suzabo C.The therapeutic potential of poly(ADP−ribose)polymerase inhibitors.Pharmaceut Rev 2002;54:375−429]。さらに、近い将来において、ADP−リボシル化反応は、加齢と細胞核クロマチンの機能的、形態的変化とも深く関わってくるものと考えられる。
本発明者は、ADP−リボシル化の延長反応で合成されるポリADP−リボース(「pADPR」という)が、塩基性タンパク質と荷電結合すると、マウスやウサギに抗pADPR抗体を産生させることを初めて報告した[Kanai Y,Miwa M,Matsushima T.Sugimura T.Studies on poly(adenosine diphosphate ribose)antibody.Biochem Biophys Res Commun 1974;59:300−306]。さらに、ADP−リボシル化反応を受けたヒストンでウサギを免疫すると、抗ヒストン抗体と抗pADPR抗体が同時に産生され、未修飾ヒストンで免疫した場合と比べてはるかに強力な抗体が産生されることを見出した[Kanai Y,Sugimura T.Comparative studies on antibodies to poly(ADP−ribose)in rabbits and patients with systemic lupus erythematosus.Immunology 1981;43:101−110.、Kanai Y,Sugimura T.Systemic lupus erythematosus.In:ADP−Ribosylation Reactions.Hayaishi O,Ueda K eds.Academic Press,New York 1982:pp.533−546]。
以上のような本発明者の研究実績から、本発明者はAD患者アストロサイト膜表面に発現されているヒストンH1はADP−リボシル化されている可能性が高いと想定し、AD患者血中の抗ヒストンH1抗体と抗pADPR抗体を測定するに至った。
一方、免疫学的な見地とは別に、脳の虚血などの血流障害後に生じる神経細胞の修復には、ポリADP−リボシル化が深く関与することが知られている[Szabo C,Dawson VD.Role of poly(ADP−ribose)synthetase in inflammation and ischemia−reperfusion.Trends Pharmacol Sci 1998;19:287−298]。この場合は、DNA障害の修復のためにADP−リボシル化反応が過度に促進する結果、NADが枯渇して細胞死を誘導し、脳の変性に加担することになる。このような脳の虚血・血流障害時にPARP(pADPR合成酵素)の阻害剤を投与すると神経細胞死や変性を抑制できることから、PARPの阻害剤の開発が積極的に行われている[Virag L,Suzabo C.The therapeutic potential of poly(ADP−ribose)polymerase inhibitors.Pharmaceut Rev 2002;54:375−429]。これを裏付けるように、PARPのノックアウトマウスでは脳の血流障害に伴う神経細胞死が抑制されることが報告されている[Ellasson MJL,Sampei K,Mandir AS et al.Poly(ADP−ribose)polymerase gene disruption renders mice resistant to cerebral ischemia.Nature Med 1997;3:1089−1095]。
以上を総括すると、ADでは脳でのADP−リボシル化が促進し、pADPRが脳に沈着することが予測される。なお、最近ではADP−リボシル化のターゲット分子はH1よりもPARPのほうが頻度が高いといわれている[Lindhal T,Satoh M,Poirier GG,Klungland A.Posttranlational modification of poly(ADP−ribose)polymerase induced by DNA strand break.Trends Biochem Sci 1995;20:404−411]。加齢にともなって予想される脳関門の緩和は、pADPRの血中への漏洩をもたらし、ひいては免疫系に接触する機会を増加させることになり、ADにおいてpADPRに対する免疫応答を調べる理論的根拠は極めて高い。
2.神経系疾患の検出方法
本発明は、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする神経系疾患の検出方法を提供する。つまり、本方法は、生体試料中の抗ポリADP−リボース抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の量を、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1を用いて検出することにより、神経系疾患を検出する方法である。
(1)神経系疾患
本発明において神経系疾患とは、ADPリボシル化が関与する神経系の疾患を広く含むものであり、例えばアルツハイマー病(AD)及びアルツハイマー型老年痴呆症(SDAT)が含まれる。特に、本方法は疾患時に抗ポリADP−リボース抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の発現が確認される疾患において有用である。
(2)ポリADP−リボース及び/又はヒストンHIと生体試料との反応と抗体の検出
本発明の方法は、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1が固相化されたプレートに、生体試料を添加して反応させ、試料中の抗ポリADP−リボース抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体を検出するものである。
(a)ポリADP−リボース(pADPR)
本発明において用いるポリADP−リボースは、ADP−リボース(図1)が複数(図1「n」)結合したものである。図1中、「R」はリボース、「P」はリン酸基及び「Ad」はアデニンを示す。pADPRは、nicotinamide adenine dinucleotide(NAD)やNAD+から合成することができる。例えば、NADを基質として、仔牛胸腺核を酵素源として合成し、精製して得ることができる[Kanai Y,Kawamitsu H,Tanaka M et al.A novel method for purification of poly(ADP−ribose).J.Biochem 1980;88:917−920]。本発明で用いられるポリADP−リボースは抗ポリADP−リボース抗体に認識される限りその長さは限定されないが、平均鎖長は10〜50、好ましくは20〜40、より好ましくは30である。なお、本発明に用いるpADPRは高純度であることが好ましく、pADPRに含まれるDNAやヒストンの割合は1%以下であることが好ましい。
(b)ヒストンH1
本発明において用いるヒストンH1は、ヒト由来の細胞などの試料から全ヒストンを精製した後、イオン濃度勾配により全ヒストンから分離精製することができる。例えば、ヒト前骨髄性白血病細胞株HL60細胞核より全ヒストンを単離し、0.25M NaCl+25mM トリス緩衝液(pH7.4)(溶液A)に対して透析し、可溶化する。さらに陽イオンカラムHiTrap SP(Amersham Biosciences)を用い、酸性(pH3.5)条件下で塩化ナトリウム(NaCl)の濃度勾配によって全ヒストンからH1のみを分離することができる[Kanai Y,Sugimura T.Comparative studies on antibodies to poly(ADP−ribose)in rabbits and patients with systemic lupus erythematosus.Immunology 1981;43:101−110.]。
全ヒストンは、上記の溶液Aに対して透析することで、可溶化に成功した。従来、ヒストンは通常希塩酸又は塩を含まない水溶液中でのみ溶解することが知られていたが、この状態では以下に述べるELISAの系でヒストンを固相化する場合、付着率の低下をきたしていた。しかしながら、本発明において上記の溶液Aを使用することにより、ヒストンH1の固相への付着効率を高めることに成功した。なお、本発明に用いるヒストンH1は高純度であることが好ましく、ヒストンH1に含まれるDNAの含有量は1%以下であることが好ましい。
(c)プレート
上記(a)で得られたpADPR及び/又は上記(b)で得られたヒストンH1は、例えば上記の溶液A又はPBS等の適当なバッファーで希釈し、マイクロタイタープレート等に適量加えて4℃で一晩〜一昼夜静置して、固相(プレート)に固定して固相化する。マイクロタイタープレートは、市販のものを用いることができ、当業者であれば適宜選択することができる。例えば96well型のImmulon 2Hbを用いる場合、50〜100μlのpADPR及び/又はヒストンH1溶液を添加することができる。
また、上述のようにヒストンH1の希釈には、溶液Aを用いることが好ましい。本発明は、ヒストンH1を、溶液A(0.25M NaCl+25mM トリス緩衝液(pH7.4))で希釈した後、固相に固定することを特徴とする、ヒストンH1の固相化方法を含む。例えば、上記(b)に記載するように、全ヒストンを溶液Aに対して透析して可溶化したものから精製したヒストンH1又は異なる方法で得たヒストンH1を、溶液Aで希釈して、得られる希釈溶液をプレート等の固相に添加することでヒストンH1を固相化する方法を含む。
次に、pADPR及び/又はヒストンH1が固相化されたプレートをTBS(25mM トリス,140mM NaCl,0.04%窒化ソーダ(NaN3),pH7.4)、PBS等のバッファーで洗浄する。次に、プレート上の抗原未吸着部位を1〜5%スキムミルク又は0.5〜3%ウシ血清アルブミン(BSA)含有TBSなどを96wellプレートの場合100〜200μl添加して、室温で1時間反応させることにより遮蔽(ブロッキング)する。その後TBS等で1〜3回洗浄して、ELISA用抗原プレートを作製する。
本発明は、当該ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1が固相に固定された(固相化された)神経系疾患の診断又は検出用のプレート(以下、「本発明のプレート」とも言う)も含む。また、本発明のプレートの固相化、洗浄、ブロッキングの条件は、当業者であれば適宜変更することができ、上記記載した条件に限らない。また、本発明のプレートは、pADPR及び/又はヒストンH1が固相化されていれば良く、上記の洗浄及びブロッキング処理の有無によって限定されるものではない。
(d)生体試料(検体)
本発明で用いる生体試料は、神経系疾患を検出する被験者から採取されるものである。生体試料としては、体液を用いることができ、具体的には血液、唾液、漿液、リンパ液等を用いることができ、血清であってもよい。
(e)ELISA
本発明において、抗体量の測定には例えばELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)法を用いることができる。
本発明において、ELISA法はまず、上記(c)で得られた本発明のプレートに上記(d)で得られた生体試料を添加する。添加する生体試料は、TBSやPBSや生理食塩水等で希釈して添加することもできる。本発明のプレートに添加する生体試料の量は、96wellプレートの場合、50〜100μlであることが好ましい。添加後、プレートを室温で1時間静置する。次にプレートをTBSやPBS等のバッファーで1〜5回洗浄する。
続いて二次抗体を加え、室温で1時間反応させた後、前述のようにプレートを洗浄する。本発明において、抗体希釈は200倍で、希釈反応液は1%BSA、0.4%スキムミルク及び0.02%NaN3を含有するTBSにて行うことができるが、これに限定されない。二次抗体としては、抗pADPR IgG又は抗ヒストンH1 IgGを検出するためには抗ヒトIgG抗体を、抗pADPR IgA又は抗ヒストンH1 IgAを検出するためには抗ヒトIgA抗体を用いることができる。特に、抗ヒトIgG抗体としては、ヒトIgGサブクラスG1、G2、G3、G4に特異的な抗体を用いることもできる。二次抗体はビオチン、アビジン又はHRP(horse radish peroxidase)などで標識化されたものであってもよい。
次に、二次抗体を三次抗体又は三次試薬を用いて発色等により検出する。二次抗体に、前記のビオチン又はアビジン標識抗ヒト抗体を用いる場合、三次試薬としてアルカリフォスファターゼ標識アビジン又はビオチンを用い、発色基質にはパラニトロフェニールホスフェイトを用いて発色させることができる。前記のHRP標識二次抗体を用いる場合、三次試薬としてTMB(tetramethyl benzidine)を用いて発光させることができる。あるいは三次抗体としてHRPなどで標識した抗体、例えば二次抗体がマウス由来IgGのときはHRP標識抗マウスIgG抗体を、二次抗体がラット由来IgGのときはHRP抗ラットIgG抗体を用いて発光させることができる。検出は当業者であれば適宜方法を選択して実行することができる。
シグナルの検出は、プレートリーダーを用いて、発色、発光系に即した波長で吸光度を測定することで行うことができる。例えば、アルカリフォスファターゼ標識系の場合は405nmにおける吸光度を、又はHRP標識系であって停止液に硫酸を用いる場合は450nmにおける吸光度を測定して、抗体価とすることができる。
(6)神経系疾患の検出
神経系疾患の検出には、二次抗体に抗ヒトIgG抗体又は抗ヒトIgA抗体を用いたときには、抗pADPR抗体(抗pADPR IgG、抗pADPR IgAを含む)及び/又は抗ヒストンH1抗体(抗ヒストンH1 IgG、抗ヒストンH1 IgAを含む)の抗体価を指標とすることができる。この場合、抗pADPR抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の抗体価が平均値よりも高いときには、神経系疾患である可能性が高い。
神経系疾患、例えばAD及びSDATの患者では、自己抗体(ここでは抗pADPR抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体)のサブクラスが主にIgG1及びIgG2である。これに対し、代表的な自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス患者の自己抗体のサブクラスはIgG2が主である。したがって、IgG1とIgG2との比(G1/G2)を測定することにより、その値を指標として自己免疫疾患と区別して神経系疾患の検出を行うことができる。例えば、G1/G2値が高いときは、神経系疾患である可能性が高いと判断でき、G1/G2値が小さいときは、神経系疾患である可能性が小さいと判断することができる。
(7)キット
本発明のキットは、神経系疾患の検出方法の実施に用いる本発明のプレートを含むものである。本発明のキットは、本発明の方法の実施に必要な要素をさらに含んでいても良い。そのような要素としては、例えば、生体試料を遠心処理するためのチューブ、プレート洗浄用のバッファー(例えばTBS、PBS、溶液A)、ブロッキング用の溶液、二次抗体、二次抗体希釈用溶液、標準用抗pADPR抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体、発色又は発光反応液、発色停止液、チップ、チューブなどが挙げられる。
3.神経系疾患の診断方法
本発明は、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする神経系疾患の診断方法を提供する。本発明の診断方法は、上記2.の神経系疾患の検出結果を利用して診断することができる。
神経系疾患の診断は、二次抗体に抗ヒトIgG抗体又は抗ヒトIgA抗体を用いたときには、抗pADPR抗体(抗pADPR IgG、抗pADPR IgAを含む)及び/又は抗ヒストンH1抗体(抗ヒストンH1 IgG、抗ヒストンH1 IgAを含む)の抗体価を指標とすることができる。この場合、抗pADPR抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の抗体価が健常人の値よりも高いときには、生体試料を提供した患者は神経系疾患を罹患している可能性が高いと判断することができる。
あるいは、神経系疾患の診断は、二次抗体に抗ヒトIgGサブクラス特異的な抗体を用いてG1/G2を測定したときに、その値を指標とすることができる。例えばG1/G2値がSLE患者よりも大きいときには、当該試料の由来の患者は、SLEではなく神経系疾患を罹患している可能性が高いと判断することができる。
また、神経系疾患の患者では、抗H1抗体の産生量と抗pADPR抗体の産生量とが相関関係を示す。この関係は、抗H1抗体陽性の患者では、抗pADPR抗体産生が認められ、逆もまた成り立つことを意味する。このことを利用して、抗pADPR抗体価が高いことで知られるSLE患者との差別化を図ることができる。例えば、抗pADPR抗体が陽性であって、抗H1抗体も陽性の場合は、神経系疾患をSLEから区別することができる。したがって、抗pADPR抗体だけでなく抗H1抗体を検出することで、あるいは抗H1抗体のみを検出することで、SLEと区別して神経系疾患を検出し診断することができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
抗pADPR抗体及び抗H1抗体を用いたAD又はSDATの診断方法
1−1.方法
(1)pADPRの合成と精製
本発明者が開発した方法[Kanai Y,Kawamitsu H,Tanaka M et al.A novel method for purification of poly(ADP−ribose).J.Biochem 1980;88:917−920]により、仔牛胸腺核を酵素源とし、nicotinamide adenine dinucleotide(NAD)を基質としてpADPRを合成、精製した。pADPRの平均鎖長は30とした。この手法で精製されたポリマーに含まれるDNAやヒストンの割合は1%以下である。
(2)ヒストンH1の精製
全ヒストンの精製は本発明者が開発した方法[Kanai Y,Sugimura T.Comparative studies on antibodies to poly(ADP−ribose)in rabbits and patients with systemic lupus erythematosus.Immunology 1981;43:101−110.]を用いた。
すなわち、ヒト前骨髄性白血病細胞株HL60細胞核より全ヒストンを単離し、さらに陽イオンカラムHiTrap SP(Amersham Biosciences)を用い、酸性(pH3.5)条件下でNaClの濃度勾配によって全ヒストンからH1のみを分離した。
全ヒストンは、0.25M NaCl+25mM トリス緩衝液(pH7.4)(溶液A)に対して透析し、可溶化に成功した。なお、得られたH1標品に含まれるDNAの含有量は1%以下であった。
(3)抗pADPR抗体測定法
抗pADPR抗体は、固相酵素抗体法(enzyme−linked immunosorbent assay,ELISA)にて測定した。
Immulon 2HBマイクロタイタープレートを固相とし、pADPRは溶液Aで1μg/mlに希釈し、各ウェルに50μl加え4℃で一昼夜静置した。その後、TBS(25mM トリス,140mM NaCl,0.04%窒化ソーダ(NaN3),pH7.4)で洗浄し、次いで2%スキムミルク含有TBSにて室温で1時間反応させ、抗原未吸着部位を遮蔽した。最後にTBSで3回洗浄し、ELISA用抗原プレートを作製した。
血清希釈は200倍とし、希釈反応液は、1%牛血清アルブミン(BSA)、0.4%スキムミルク、及び0.02%NaN3を含有するTBSにて行った。
二次抗体には、ビオチン標識抗ヒトサブクラス(G1,G2,G3,G4)特異的抗体(Zymed社)を使用した。また、第三次試薬としてアルカリフォスファターゼ標識アビジン(Zymed社)を用い、発色用基質にはパラニトロフェニールホスフェイトを用いた。抗体価はA405で表した。
(4)抗H1抗体測定法
抗H1抗体の測定は、使用する抗原をH1としたこと以外は、抗pADPR抗体測定法に準じて行った。
(5)検体
6例のAD及び20例のSDATを試験群とした。対照群として、AD及びSDATのいずれでもない高齢者59例(平均年齢77±7歳)、40例の全身性エリテマトーデス(SLE)患者、及び60歳以下の健常人27例を使用した。試験群及び対照群の血清を検体としてELISAに使用した。AD及びSDATの診断は、DMS−IV(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,4th ed.,American Psychiatric Association,Washington,D.C.,1994)に従い、またSLEの診断はアメリカリウマチ学会診断基準(Updating the American College of Rheumatology Revised Criteria for the Classification of SLE(1997))に従って行った。
1−2.結果
ADと抗pADPR抗体及び抗H1抗体との関係:
AD患者及びSDAT患者をあわせた26例の結果を図2に示す。SLE患者40例の結果を図3に示す。
抗pADPR抗体については、6例のAD中6例(100%)が陽性を示し、またSDATでは20例中15例(75%)が陽性を示した(図2「Anti−pADPR」)。また抗H1抗体については、ADで50%(3/6)、SDATで65%(13/20)が陽性であった(図2「Anti−H1」)。図2及び図3中のカラムは健常人の平均値(縦軸)及び2SD(横軸)を示す。
なお、AD患者及びSDAT患者において抗H1陽性者は抗pADPR抗体も全て陽性であり、相関係数(r)は0.768となった(図4)。一方、抗pADPR抗体価が高いことで知られるSLE患者[Kanai Y,Kawamitsu Y,Miwa M,Matsushima T,Sugimura T.Naturally−occurring antibodies to poly(ADP−ribose)in patients with systemic lupus erythematosus.Nature 1977;265:175−177]40症例で同様の検査を行ったところ、その相関係数は0.184となり、有意の差(p<0.01)をもって低値を示した(図3及び図5)。
以上の結果は、ADあるいはSDAT患者の生体内、特に脳でヒストンH1がpADPRで修飾されていることを示唆するとともに、抗H1及び抗pADPR抗体の産生機構が膠原病SLE患者と異なることを示している。さらに特記すべきことは、2〜3の症例で調べた結果、自己抗体のサブクラスがSLEではIgG2、一方AD/SDATではIgG1とIgG2の両者であった。このことは、AD/SDAT患者とSLE患者との間で自己抗体産生機構に差があることをさらに支持するものである。従って、G1/G2比はADやSDATといった神経系疾患の診断上、有力な指標になると言える。
[実施例2]
抗pADPR IgAの測定によるAD診断方法
2−1.方法
(1)抗pADPR抗体測定法
抗pADPR抗体は、固相酵素抗体法(enzyme−linked immunosorbent assay,ELISA)にて測定した。
ELISA用抗原プレートは実施例1(3)で作製したものを使用した。
ELISA用抗原プレートを洗浄液(0.025M Tris、0.25M NaCl、0.1% Tween−20;pH7.4)で3回洗浄した。プレートに反応用溶液(0.025M Tris、0.14M NaCl、10%NCS;pH7.4)を50μl/well、検体を5μl/well分注した。検体は、検体10μlを反応用溶液200μlで21倍に希釈したものを使用した。プレートを振とう後、プレート表面をシールし、4℃で一晩湿潤環境下にて反応させた。反応後プレートを洗浄液で3回洗浄し、二次抗体を50μl/well分注し、プレート表面をシールして室温で、60分湿潤環境で反応させた。反応後、プレートを洗浄液で3回洗浄した後、基質のTMB(3,3’,5,5’−Tetramethylbenzidine)(Sigma T0440)を50μl/well分注し、プレート表面をシールし、室温で10〜15分暗所にて反応させた。続いて、反応停止液[1N H2SO4(Abbott 7212)]を50μl/well分注し、反応を停め、450nmの吸光度を測定した。
(2)二次抗体
二次抗体には、HRP標識した抗ヒトIgG抗体(Monosan#PS104P)、HRP標識した抗ヒトIgA抗体(Monosan#PS106P)を反応用溶液で各々1000倍希釈したものを使用した。
(3)検体
健常人(Healthy individuals)血清(10検体)として、市販血清から50歳以上を選択して使用した。AD患者血清(47検体)として、市販血清を使用した。
2−2.結果
結果を表1及び図6に示す。
(1)IgG測定系
ROC曲線(receive operating characteristic curve;受診者動作特性曲線)からcut−off値を0.7に設定すると、AD患者血清で34/46(74%)の検出率となったが、12/46(26%)が偽陰性(false negative)(表1及び図6「AD patients(IgG)」)、また、健常人血清の内、4/10(40%)が偽陽性(false positive)となった(表1及び図6「Healthy individuals(IgG)」)。正診率(accuracy)は、71%であった(表1、図6)。
(2)IgA測定系
IgA測定系は、ROC曲線からcut−off値を0.1に設定すると、AD患者血清の内、22/47(46.8%)が偽陰性となり(表1及び図6「AD patients(IgA)」)、健常人血清の内、4/10(40%)が偽陽性となった(表1及び図6「Healthy individuals(IgA)」)。正診率は、54.5%となる(表1、図6)。
一般的に、IgAは血清中でIgGに次いで多量に存在し、血中以外に唾液、漿液中に存在することが知られている。血清中の抗pADPR IgA抗体が測定できたことで、この測定系が唾液にも応用できる可能性が示唆された。また、抗pADPR IgA、抗H1 IgAを測定することにより、その値を指標として被験患者がAD又はSDATであるのかを判断することができる。
産業上の利用の可能性
本発明の方法は、抗ポリADP−リボース抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の産生を指標に用いており、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1を固相化したELISA系によって、簡便に当該抗体の産生を検出できる。このため、神経系疾患を検出し、診断することが容易になった。
また、IgGサブクラスであるG1/G2比を算出することで、又は抗ポリADP−リボース抗体及び抗ヒストンH1抗体若しくは抗ヒストンH1抗体を検出することで、自己免疫疾患であるSLEと区別して神経系疾患を検出し診断することが可能となった。
また、抗pADPR IgA、抗H1 IgAを用いて神経系疾患を検出し診断することが可能となった。
明細書中の参考文献は、全体を通して本明細書に組み込まれるものとする。
[実施例1]
抗pADPR抗体及び抗H1抗体を用いたAD又はSDATの診断方法
1−1.方法
(1)pADPRの合成と精製
本発明者が開発した方法[Kanai Y,Kawamitsu H,Tanaka M et al.A novel method for purification of poly(ADP−ribose).J.Biochem 1980;88:917−920]により、仔牛胸腺核を酵素源とし、nicotinamide adenine dinucleotide(NAD)を基質としてpADPRを合成、精製した。pADPRの平均鎖長は30とした。この手法で精製されたポリマーに含まれるDNAやヒストンの割合は1%以下である。
(2)ヒストンH1の精製
全ヒストンの精製は本発明者が開発した方法[Kanai Y,Sugimura T.Comparative studies on antibodies to poly(ADP−ribose)in rabbits and patients with systemic lupus erythematosus.Immunology 1981;43:101−110.]を用いた。
すなわち、ヒト前骨髄性白血病細胞株HL60細胞核より全ヒストンを単離し、さらに陽イオンカラムHiTrap SP(Amersham Biosciences)を用い、酸性(pH3.5)条件下でNaClの濃度勾配によって全ヒストンからH1のみを分離した。
全ヒストンは、0.25M NaCl+25mM トリス緩衝液(pH7.4)(溶液A)に対して透析し、可溶化に成功した。なお、得られたH1標品に含まれるDNAの含有量は1%以下であった。
(3)抗pADPR抗体測定法
抗pADPR抗体は、固相酵素抗体法(enzyme−linked immunosorbent assay,ELISA)にて測定した。
Immulon 2HBマイクロタイタープレートを固相とし、pADPRは溶液Aで1μg/mlに希釈し、各ウェルに50μl加え4℃で一昼夜静置した。その後、TBS(25mM トリス,140mM NaCl,0.04%窒化ソーダ(NaN3),pH7.4)で洗浄し、次いで2%スキムミルク含有TBSにて室温で1時間反応させ、抗原未吸着部位を遮蔽した。最後にTBSで3回洗浄し、ELISA用抗原プレートを作製した。
血清希釈は200倍とし、希釈反応液は、1%牛血清アルブミン(BSA)、0.4%スキムミルク、及び0.02%NaN3を含有するTBSにて行った。
二次抗体には、ビオチン標識抗ヒトサブクラス(G1,G2,G3,G4)特異的抗体(Zymed社)を使用した。また、第三次試薬としてアルカリフォスファターゼ標識アビジン(Zymed社)を用い、発色用基質にはパラニトロフェニールホスフェイトを用いた。抗体価はA405で表した。
(4)抗H1抗体測定法
抗H1抗体の測定は、使用する抗原をH1としたこと以外は、抗pADPR抗体測定法に準じて行った。
(5)検体
6例のAD及び20例のSDATを試験群とした。対照群として、AD及びSDATのいずれでもない高齢者59例(平均年齢77±7歳)、40例の全身性エリテマトーデス(SLE)患者、及び60歳以下の健常人27例を使用した。試験群及び対照群の血清を検体としてELISAに使用した。AD及びSDATの診断は、DMS−IV(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,4th ed.,American Psychiatric Association,Washington,D.C.,1994)に従い、またSLEの診断はアメリカリウマチ学会診断基準(Updating the American College of Rheumatology Revised Criteria for the Classification of SLE(1997))に従って行った。
1−2.結果
ADと抗pADPR抗体及び抗H1抗体との関係:
AD患者及びSDAT患者をあわせた26例の結果を図2に示す。SLE患者40例の結果を図3に示す。
抗pADPR抗体については、6例のAD中6例(100%)が陽性を示し、またSDATでは20例中15例(75%)が陽性を示した(図2「Anti−pADPR」)。また抗H1抗体については、ADで50%(3/6)、SDATで65%(13/20)が陽性であった(図2「Anti−H1」)。図2及び図3中のカラムは健常人の平均値(縦軸)及び2SD(横軸)を示す。
なお、AD患者及びSDAT患者において抗H1陽性者は抗pADPR抗体も全て陽性であり、相関係数(r)は0.768となった(図4)。一方、抗pADPR抗体価が高いことで知られるSLE患者[Kanai Y,Kawamitsu Y,Miwa M,Matsushima T,Sugimura T.Naturally−occurring antibodies to poly(ADP−ribose)in patients with systemic lupus erythematosus.Nature 1977;265:175−177]40症例で同様の検査を行ったところ、その相関係数は0.184となり、有意の差(p<0.01)をもって低値を示した(図3及び図5)。
以上の結果は、ADあるいはSDAT患者の生体内、特に脳でヒストンH1がpADPRで修飾されていることを示唆するとともに、抗H1及び抗pADPR抗体の産生機構が膠原病SLE患者と異なることを示している。さらに特記すべきことは、2〜3の症例で調べた結果、自己抗体のサブクラスがSLEではIgG2、一方AD/SDATではIgG1とIgG2の両者であった。このことは、AD/SDAT患者とSLE患者との間で自己抗体産生機構に差があることをさらに支持するものである。従って、G1/G2比はADやSDATといった神経系疾患の診断上、有力な指標になると言える。
[実施例2]
抗pADPR IgAの測定によるAD診断方法
2−1.方法
(1)抗pADPR抗体測定法
抗pADPR抗体は、固相酵素抗体法(enzyme−linked immunosorbent assay,ELISA)にて測定した。
ELISA用抗原プレートは実施例1(3)で作製したものを使用した。
ELISA用抗原プレートを洗浄液(0.025M Tris、0.25M NaCl、0.1% Tween−20;pH7.4)で3回洗浄した。プレートに反応用溶液(0.025M Tris、0.14M NaCl、10%NCS;pH7.4)を50μl/well、検体を5μl/well分注した。検体は、検体10μlを反応用溶液200μlで21倍に希釈したものを使用した。プレートを振とう後、プレート表面をシールし、4℃で一晩湿潤環境下にて反応させた。反応後プレートを洗浄液で3回洗浄し、二次抗体を50μl/well分注し、プレート表面をシールして室温で、60分湿潤環境で反応させた。反応後、プレートを洗浄液で3回洗浄した後、基質のTMB(3,3’,5,5’−Tetramethylbenzidine)(Sigma T0440)を50μl/well分注し、プレート表面をシールし、室温で10〜15分暗所にて反応させた。続いて、反応停止液[1N H2SO4(Abbott 7212)]を50μl/well分注し、反応を停め、450nmの吸光度を測定した。
(2)二次抗体
二次抗体には、HRP標識した抗ヒトIgG抗体(Monosan#PS104P)、HRP標識した抗ヒトIgA抗体(Monosan#PS106P)を反応用溶液で各々1000倍希釈したものを使用した。
(3)検体
健常人(Healthy individuals)血清(10検体)として、市販血清から50歳以上を選択して使用した。AD患者血清(47検体)として、市販血清を使用した。
2−2.結果
結果を表1及び図6に示す。
(1)IgG測定系
ROC曲線(receive operating characteristic curve;受診者動作特性曲線)からcut−off値を0.7に設定すると、AD患者血清で34/46(74%)の検出率となったが、12/46(26%)が偽陰性(false negative)(表1及び図6「AD patients(IgG)」)、また、健常人血清の内、4/10(40%)が偽陽性(false positive)となった(表1及び図6「Healthy individuals(IgG)」)。正診率(accuracy)は、71%であった(表1、図6)。
(2)IgA測定系
IgA測定系は、ROC曲線からcut−off値を0.1に設定すると、AD患者血清の内、22/47(46.8%)が偽陰性となり(表1及び図6「AD patients(IgA)」)、健常人血清の内、4/10(40%)が偽陽性となった(表1及び図6「Healthy individuals(IgA)」)。正診率は、54.5%となる(表1、図6)。
一般的に、IgAは血清中でIgGに次いで多量に存在し、血中以外に唾液、漿液中に存在することが知られている。血清中の抗pADPR IgA抗体が測定できたことで、この測定系が唾液にも応用できる可能性が示唆された。また、抗pADPR IgA、抗H1 IgAを測定することにより、その値を指標として被験患者がAD又はSDATであるのかを判断することができる。
産業上の利用の可能性
本発明の方法は、抗ポリADP−リボース抗体及び/又は抗ヒストンH1抗体の産生を指標に用いており、ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1を固相化したELISA系によって、簡便に当該抗体の産生を検出できる。このため、神経系疾患を検出し、診断することが容易になった。
また、IgGサブクラスであるG1/G2比を算出することで、又は抗ポリADP−リボース抗体及び抗ヒストンH1抗体若しくは抗ヒストンH1抗体を検出することで、自己免疫疾患であるSLEと区別して神経系疾患を検出し診断することが可能となった。
また、抗pADPR IgA、抗H1 IgAを用いて神経系疾患を検出し診断することが可能となった。
明細書中の参考文献は、全体を通して本明細書に組み込まれるものとする。
Claims (19)
- ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする、神経系疾患の検出方法。
- 生体試料が体液である請求項1記載の方法。
- 生体試料が血液、唾液、漿液及びリンパ液からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1記載の方法。
- 生体試料が血清である請求項1記載の方法。
- 神経系疾患がアルツハイマー病又はアルツハイマー型老年痴呆症である請求項1記載の方法。
- 抗体の検出が、IgG1とIgG2との比を指標とするものである請求項1記載の方法。
- 抗体の検出が、IgG又はIgAの値を指標とするものである請求項1記載の方法。
- ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1と生体試料とを反応させて、ポリADP−リボースに対する抗体及び/又はヒストンH1に対する抗体を検出することを特徴とする、神経系疾患の診断方法。
- 生体試料が体液である請求項8記載の方法。
- 生体試料が血液、唾液、漿液及びリンパ液からなる群から選択される少なくとも一つである請求項8記載の方法。
- 生体試料が血清である請求項8記載の方法。
- 神経系疾患がアルツハイマー病又はアルツハイマー型老年痴呆症である請求項8記載の方法。
- 抗体の検出が、IgG1とIgG2との比を指標とするものである請求項8記載の方法。
- 抗体の検出が、IgG又はIgAの値を指標とするものである請求項8記載の方法。
- ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1を含む、神経系疾患の診断又は検出用キット。
- 神経系疾患がアルツハイマー病又はアルツハイマー型老年痴呆症である請求項15記載のキット。
- ポリADP−リボース及び/又はヒストンH1が固相に固定された、神経系疾患の診断又は検出用プレート。
- 神経系疾患がアルツハイマー病又はアルツハイマー型老年痴呆症である請求項17記載のプレート。
- ヒストンH1を、0.25M NaCl及び25mM トリス緩衝液(pH7.4)からなる溶液で希釈した後、固相に固定することを特徴とする、ヒストンH1の固相への固相化方法。
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