JPWO2004074477A1 - ホモシステインの測定方法 - Google Patents
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Abstract
本発明の方法は、試料中のホモシステインを検出または測定する方法であって、(a)試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質とならない物質に変換する工程;(b)該試料中のホモシステインをチオール化合物で還元処理する工程;(c)該還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびメチル供与体を作用させ、新たにD−アミノ酸を生じさせる工程;および(d)該生成したD−アミノ酸に、SH試薬の存在下で、該D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させて、過酸化水素生成へ導き、該生成した過酸化水素を酸化系発色剤により発色させる工程を含む。
Description
本発明は、試料中のホモシステインを検出または測定する方法に関する。より詳細には、試料中に存在するD−アミノ酸を予め除去する工程を含む、ホモシステインの測定方法に関する。
ホモシステインを測定するための方法として、試料中のホモシステインにホモシステインメチルトランスフェラーゼおよびD−メチオニンメチルスルホニウムを作用させた後、生成したD−メチオニンをD−アミノ酸オキシダーゼで検出する方法が報告されている(国際公開第02/02802号パンフレット参照)。しかし、生体試料中には少量ながらD−アラニンやD−セリンなどのD−アミノ酸が含まれており、これらは腎疾患等の場合に増加することが知られている(例えば、Fukushima,T.、Biol.Pharm.Bull.,1995年,第18巻,第8号,p.1130−1132参照)。D−アミノ酸オキシダーゼの基質となり得るD−アラニンおよびD−セリンは、上記のホモシステインの測定方法では正の影響を及ぼすと考えられる。したがって、上記国際公開第02/02802号パンフレット中にも記載されているように、試料中に元来存在する内因性D−アミノ酸の影響を回避するためには、ホモシステインメチルトランスフェラーゼを含まないこと以外は全く同様に操作を行って測定し、その値を同酵素を含む場合の測定値から差し引く必要がある。すなわち、各試料についてそれぞれ別に検体ブランクを設け、内因性D−アミノ酸量を測定する必要があった。
本発明の目的は、内因性D−アミノ酸の影響を受けない、すなわち検体ブランクをとる必要のないホモシステインの測定方法を提供することにある。
上記の目的を達成するために検討を重ねた結果、D−アラニンおよび/またはD−セリンを酵素作用によりホモシステイン測定原理の反応系外に導くことにより、内因性D−アミノ酸の影響を受けない、すなわち検体ブランクをとる必要のないホモシステインの測定方法を提供することが可能となった。
本発明は、試料中のホモシステインを検出または測定する方法を提供し、該方法は、(a)試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質とならない物質に変換する工程;(b)該試料中のホモシステインをチオール化合物で還元処理する工程;(c)該還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびメチル供与体を作用させ、新たにD−アミノ酸を生じさせる工程;および(d)該生成したD−アミノ酸に、SH試薬の存在下で、該D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させて、過酸化水素生成へ導き、該生成した過酸化水素を酸化系発色剤により発色させる工程、を含む。
好適な実施態様では、上記工程(a)は、試料中に存在するD−アラニンに、アデノシン三リン酸の存在下でD−アラニル−D−アラニンリガーゼ(以下、Ddlともいう)を作用させてD−アラニル−D−アラニンに変換する工程および/または試料中に存在するD−セリンに、D−セリンデヒドラターゼ(以下、Dsdともいう)を作用させてピルビン酸に変換する工程である。
好適な実施態様では、上記メチル転移酵素は、ホモシステインメチルトランスフェラーゼであり、そして上記メチル供与体は、D−メチオニンメチルスルホニウムである。
好適な実施態様では、上記工程(d)において、上記生成した過酸化水素を、パーオキシダーゼおよび酸化系発色剤により発色させて検出または測定する。
本発明はまた、D−アラニル−D−アラニンリガーゼおよび/またはD−セリンデヒドラターゼ;チオール化合物;メチル転移酵素;メチル供与体;D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ;SH試薬;および酸化系発色剤を含む、ホモシステイン測定用試薬キットを提供する。
本発明はさらに、試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質とならない物質に変換する工程を含むことを特徴とする、試料中のホモシステインを検出または測定する方法を提供する。
上記の目的を達成するために検討を重ねた結果、D−アラニンおよび/またはD−セリンを酵素作用によりホモシステイン測定原理の反応系外に導くことにより、内因性D−アミノ酸の影響を受けない、すなわち検体ブランクをとる必要のないホモシステインの測定方法を提供することが可能となった。
本発明は、試料中のホモシステインを検出または測定する方法を提供し、該方法は、(a)試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質とならない物質に変換する工程;(b)該試料中のホモシステインをチオール化合物で還元処理する工程;(c)該還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびメチル供与体を作用させ、新たにD−アミノ酸を生じさせる工程;および(d)該生成したD−アミノ酸に、SH試薬の存在下で、該D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させて、過酸化水素生成へ導き、該生成した過酸化水素を酸化系発色剤により発色させる工程、を含む。
好適な実施態様では、上記工程(a)は、試料中に存在するD−アラニンに、アデノシン三リン酸の存在下でD−アラニル−D−アラニンリガーゼ(以下、Ddlともいう)を作用させてD−アラニル−D−アラニンに変換する工程および/または試料中に存在するD−セリンに、D−セリンデヒドラターゼ(以下、Dsdともいう)を作用させてピルビン酸に変換する工程である。
好適な実施態様では、上記メチル転移酵素は、ホモシステインメチルトランスフェラーゼであり、そして上記メチル供与体は、D−メチオニンメチルスルホニウムである。
好適な実施態様では、上記工程(d)において、上記生成した過酸化水素を、パーオキシダーゼおよび酸化系発色剤により発色させて検出または測定する。
本発明はまた、D−アラニル−D−アラニンリガーゼおよび/またはD−セリンデヒドラターゼ;チオール化合物;メチル転移酵素;メチル供与体;D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ;SH試薬;および酸化系発色剤を含む、ホモシステイン測定用試薬キットを提供する。
本発明はさらに、試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質とならない物質に変換する工程を含むことを特徴とする、試料中のホモシステインを検出または測定する方法を提供する。
図1は、ホモシステイントランスフェラーゼおよびD−メチオニンメチルスルホニウムを用いるホモシステイン測定の反応概略図である。
図2は、発現ベクターpKdlAの構築を示す模式図である。
図3は、発現ベクターpKdlBの構築を示す模式図である。
図4は、D−アラニル−D−アラニンリガーゼ濃度とホモシステイン測定感度との関係を示すグラフである。
図5は、D−セリンデヒドラターゼ濃度とホモシステイン測定感度との関係を示すグラフである。
図6は、それぞれ(a)従来1チャンネル法、(b)従来2チャンネル法、および(c)本発明法によるホモシステイン測定濃度とHPLC法による測定濃度との相関性を示すグラフである。
図2は、発現ベクターpKdlAの構築を示す模式図である。
図3は、発現ベクターpKdlBの構築を示す模式図である。
図4は、D−アラニル−D−アラニンリガーゼ濃度とホモシステイン測定感度との関係を示すグラフである。
図5は、D−セリンデヒドラターゼ濃度とホモシステイン測定感度との関係を示すグラフである。
図6は、それぞれ(a)従来1チャンネル法、(b)従来2チャンネル法、および(c)本発明法によるホモシステイン測定濃度とHPLC法による測定濃度との相関性を示すグラフである。
ホモシステインの測定原理:
本発明のホモシステインの測定方法は、試料中のホモシステインをチオール化合物で還元処理し、メチル供与体存在下でメチル転移酵素を作用させた(第一工程)後、生成するD−アミノ酸またはD−アミノ酸誘導体を測定する(第二工程)という原理に基づく。例えば、図1に示すように、第一工程で生成したD−メチオニンに、第二工程においてD−アミノ酸オキシダーゼを作用させた場合には、過酸化水素が生成するため、これをSH試薬の存在下で通常用いられる酸化系発色剤に導き比色定量することができる。また、D−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させた場合には、生成するコエンザイムAをアシルコエンザイムAシンセターゼ[EC 6.2.1.3]およびアシルコエンザイムA酸化酵素[EC 1.3.3.6]を用いて過酸化水素に導き、これを同様にして定量することができる。
本発明のホモシステインを検出または測定する方法は、D−アミノ酸を測定するにおいて内因性のD−アミノ酸の影響を排除するために、まず最初に、試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質とならない物質に変換することを特徴とする。
具体的には、本発明のホモシステインの検出または測定方法は、
(a)試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質にならない物質に変換する工程;
(b)試料中のホモシステインをチオール化合物で還元処理する工程;
(c)該還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびメチル供与体を作用させ、新たにD−アミノ酸を生じさせる工程;および
(d)該生成したD−アミノ酸に、SH試薬の存在下で、該D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させて、過酸化水素生成へ導き、該生成した過酸化水素を酸化系発色剤により発色させる工程、を含む。
本発明の方法によって検出または測定され得る試料としては、ホモシステインを含むと考えられる試料であればいずれでもよい。また、ホモシステインの存在様式としては、還元型ホモシステインのみならず、蛋白結合型、ホモシステイン2量体、ホモシステイン−システイン2量体などジスルフィド結合で他の分子に結合した酸化型ホモシステインのいずれでもよい。例えば、血清、血漿、血液、尿、およびそれらの希釈物などが挙げられる。
(a)工程:
本発明の方法において使用されるD−アミノ酸変換酵素としては、D−アミノ酸に作用して、D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質にならない物質に変換してホモシステイン測定原理の反応系外に導くことのできるものであればよい。本発明においては、D−アラニンおよび/またはD−セリンに作用するものが好ましい。D−アラニンに作用する酵素としては、例えばD−アラニル−D−アラニンリガーゼ[EC 6.3.2.4]、D−アラニンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.2.7]、D−アラニン−γ−グルタミルトランスフェラーゼ[EC 2.3.2.14]などを使用することができる。D−セリンに作用する酵素としては、例えば、D−セリンデヒドラターゼ[EC 4.3.1.18]、ジアミノプロピオネートアンモニア−リアーゼ[EC 4.3.1.18]などを使用することができる。これらの酵素は必要に応じて単独または組み合わせて用いることができる。D−アラニンに作用する酵素としてD−アラニル−D−アラニンリガーゼを、D−セリンに作用する酵素としてD−セリンデヒドラターゼを使用することが好適である。
本発明の方法で使用されるD−アラニル−D−アラニンリガーゼ(Ddl)は、2分子のD−アラニンを縮合しD−アラニル−D−アラニンを生成するものであればどのような由来のものでも使用できる。例えば、ほとんどすべての細菌が有しているDdlを利用することができる。好ましくは、大腸菌由来の酵素である。本明細書でいう大腸菌とは、Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology,第8版(R.E.Buchanan,N.E.Gibbons編,The Williams & Wilkins Company,Baltimore,295〜296頁,1974年)に記載されるEscherichia coliならびにその変異株および改変体である。
本発明の方法で用いられるDdlとしては、好ましくは、Biochemistry 30:1673−1682(1991)に記載のGenBank Accession No.J05319またはJournal of Bacteriology 163:809−817(1986)に記載のGenBank Accession No.AE000118 REGION:18688..19608の塩基配列から推定されるアミノ酸配列を有する大腸菌由来の酵素が用いられる。また、Bacillus属、Enterococcus属、およびLactobacillus属などの微生物に由来する酵素も使用され得る。そしてDdl活性が消失しない限りは、いくつかのアミノ酸の改変(例えば、1または2以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換)があってもよい。Ddlは、例えば、大腸菌(例えば、細菌などから取得したddl遺伝子を導入して形質転換した大腸菌株)の培養菌体内容物から、粗酵素を調製し次いで各種クロマトグラフィーによって精製する方法など、当業者によく知られている方法によって得られ得る。
本発明の方法で使用されるD−セリンデヒドラターゼ(Dsd)は、D−セリンアンモニア−リアーゼ、D−セリンデハイドラーゼ、D−ハイドロキシアミノ酸デヒドラターゼ、D−セリンヒドラーゼ、D−セリンデアミナーゼなどとも呼ばれる酵素であり、D−セリンを脱アミノ化しピルビン酸を生成するものであればどのような由来のものでも使用できる。好ましくは、J.Bacteriol.154(3),1508−1512(1983)に記載のGenBank Accession No.J01603の塩基配列から推定されるアミノ酸配列を有する大腸菌由来の酵素が用いられる。また、Pseudomonas属、Bacillus属、Salmonella属、Fusobacterium属、Vibrio属、Shigella属、Ralstonia属などの微生物に由来するDsdを使用できる。そしてDsd活性が消失しない限りは、いくつかのアミノ酸の改変(例えば、1または2以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換)があってもよい。Dsdは、例えば、大腸菌(例えば、細菌などから取得したdsd遺伝子を導入して形質転換した大腸菌株)の培養菌体内容物から、粗酵素を調製し次いで各種クロマトグラフィーによって精製する方法など、当業者によく知られている方法によって得られ得る。
上記ddl遺伝子およびdsd遺伝子は、上記推定アミノ酸配列に基づいて当業者が通常用いる方法で得られる。例えば、DdlもしくはDsdをコードする遺伝子またはこれらを含む遺伝子の一部またはすべてをプローブとして使用し、プラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、PCRなどの手段を行う方法が挙げられる。また、DdlもしくはDsdの遺伝子源は、大腸菌に限らず、他の細菌種であってもよい。
本明細書において、ddl遺伝子とは、Ddlの特徴を示すDdl活性を有するポリペプチドをコードするDNA鎖またはDNA配列をいい、そしてdsd遺伝子とは、Dsdの特徴を示すDsd活性を有するポリペプチドをコードするDNA鎖またはDNA配列をいう。いずれも、上述のように生理活性が変化しない程度のアミノ酸の改変(例えば、付加、欠失、または置換)を有するポリペプチドをコードしていてもよい。また、縮重などにより、同じポリペプチドをコードする配列は複数種あり得る。さらに、ddl遺伝子もしくはdsd遺伝子は、天然物由来であっても、全合成または半合成のものであってもよい。
得られたddl遺伝子もしくはdsd遺伝子は、例えば、大腸菌などの宿主において増殖可能な発現ベクターに連結され、宿主に導入される。ここで用いられる発現ベクターは、大腸菌に対して通常用いられるものであればどのようなものでもよく、例えば、ColE1、pCR1、pBR322、pMB9などが好適に用いられる。
DdlもしくはDsdをコードするDNAを大腸菌内で大量に発現させるために、あるいは発現量を増加させるために、転写および翻訳を制御するプロモーターをベクターのDNA鎖の5’上流域におよび/またはターミネーターを3’下流域に組み込んでもよい。このようなプロモーターおよび/またはターミネーターとしては、ddl遺伝子もしくはdsd遺伝子自体に由来するもの、β−ガラクトシダーゼ遺伝子などの既に知られている遺伝子に由来するもの、またはそれらを人工的に改良したものが挙げられる。そのため、発現ベクターとしては、このような制御配列が組み込まれているものが好適に用いられ、例えば、pTrc99A、pKK223−3(以上、アマシャム・ファルマシア社製)、pET−3、pET−11(以上、ストラタジーン社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
DdlもしくはDsdを発現させるための宿主となり得る微生物としては、どのような微生物でもよいが、好ましくは細菌、さらに好ましくは大腸菌である。DdlもしくはDsdを発現させるための形質転換体の作成は、遺伝子工学の分野で通常用いられる方法によって行われ、例えば、塩化ルビジウム法(J.Mol.Biol.,166:557,1983)が挙げられる。このようにして得られたDdlもしくはDsd発現能力が高められた大腸菌の形質転換体を培養して、DdlもしくはDsdを得ることができる。
以上のようにして得られたDdlもしくはDsdは、必要に応じて単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
Ddlをホモシステイン測定試薬に応用した場合には、生成するD−アラニル−D−アラニンはD−アミノ酸オキシダーゼの基質とならないため、試料に含まれるD−アラニンを除くことが可能である。使用酵素量は、サンプル中のD−アラニンを除去できる濃度であれば特に制限はなく、例えば0.01〜100U/mL、好ましくは0.1〜10U/mLである。なお、本発明において、Ddlの1Unitは、D−アラニンを基質として37℃において1分間に1μmolのD−アラニル−D−アラニンを生成する酵素量として定義する。また活性発現のために必要なATPおよびMgイオンの使用量も、D−アラニンの除去が達成できる濃度であれば特に制限はなく、例えばATPは0.1〜10mM、Mgイオンは0.1〜20mMである。この酵素による試料の処理は単独で行うこともでき、以下の(b)および(c)工程と同時に行うこともできる。
Dsdをホモシステイン測定試薬に応用した場合には、試料に含まれるD−セリンをピルビン酸に変換することによってD−セリンを反応系外に除くことができる。使用酵素量は、サンプル中のD−セリンを除去できる濃度であれば特に制限はなく、例えば0.001〜10U/mL、好ましくは0.01〜1U/mLで使用できる。なお、本発明において、Dsdの1Unitは、37℃において1分間に1μmolのD−セリンを分解する酵素量として定義する。この酵素による試料の処理は単独で行うこともでき、以下の(b)および(c)工程と同時に行うこともできる。
(b)工程:
本発明の方法における(b)工程は、試料中の種々の形態のホモシステインをチオール化合物で還元して還元型ホモシステインとする工程である。
本発明の方法で用いられるチオール化合物は特に限定されず、例えば、ジチオスレイトール、メルカプトエタノール、N−アセチルシステイン、ジチオエリスリトール、チオグリコール酸などが挙げられる。チオール化合物の濃度は、酸化型ホモシステインを還元型ホモシステインに変換できる範囲であればいずれでもよく、好ましくはチオール基として0.1mM以上、より好ましくは1mM以上の濃度であればよい。
(c)工程:
本発明の方法の(c)工程は、上記(b)工程で還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびメチル供与体を作用させ、新たにD−アミノ酸を生じさせる工程である。本発明においては、メチル転移酵素およびメチル供与体として、それぞれ、ホモシステインをメチル受容体とするメチル転移酵素およびメチル供与体のD−メチオニンメチルスルホニウムを用いることが好ましい。すなわち、試料中の還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびD−メチオニンメチルスルホニウムを作用させて、D−メチオニンを生成させる。
メチル転移酵素としては、D−メチオニンメチルスルホニウムに作用し、D−メチオニンの生成を触媒するものであればどのようなものでもよく、例えば、ホモシステインメチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.10]、5−メチルテトラヒドロ葉酸−ホモシステイン S−メチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.13]、5−メチルテトラヒドロプテロイルトリグルタミン酸−ホモシステイン S−メチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.14]が挙げられる。好ましくは、ホモシステインメチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.10]が使用される。この酵素は、G.Grue−Sorensenら(J.Chem.Soc.Perkin Trans.I 1091−7(1984))により報告されているように、特異性は低いもののD−メチオニンメチルスルホニウムをメチル供与体とし、D−メチオニンを生成する。使用するホモシステインメチルトランスフェラーゼは、D−メチオニンメチルスルホニウムをメチル供与体とするものであればどのような由来のものでも使用できる。例えば、細菌、酵母、ラットなどに由来する酵素が使用できる。なお、本発明において、ホモシステインメチルトランスフェラーゼの1Unitは、ホモシステインおよびD−メチオニンメチルスルホニウムを基質として37℃において1分間に1μmolのD−メチオニンを生成する酵素量として定義する。
(d)工程:
本発明の方法の(d)工程は、上記(c)工程により生成したD−アミノ酸に、SH試薬の存在下で、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させて、過酸化水素生成へ導き、この生成した過酸化水素を酸化系発色剤により発色させる工程である。
D−アミノ酸に、D−アミノ酸オキシダーゼ[EC 1.4.3.3]を作用させることにより、過酸化水素が生成する。これをSH試薬の存在下で通常用いられる酸化系発色剤に導き比色定量することができる。D−アミノ酸オキシダーゼは、どのような由来のものを使用してもよい。例えば、動物の臓器、細菌類、および真菌類由来のものを用いることができる。好適には、ブタ腎臓由来のものが使用され得る。なお、本発明において、D−アミノ酸オキシダーゼの1Unitは、37℃において1分間に1μmolのD−アラニンをピルビン酸に変換する酵素量として定義する。
D−アミノ酸に、D−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ[EC 2.3.1.36]を作用させた場合には、生成するコエンザイムAをアシルコエンザイムAシンセターゼ[EC 6.2.1.3]およびアシルコエンザイムA酸化酵素[EC 1.3.3.6]を用いて過酸化水素に導き、これを同様にして定量することができる。D−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼは、どのような由来のものを使用してもよい。例えば、酵母由来のものを用いることができる。
SH試薬としては、生化学辞典(第3版、p.182、東京化学同人、1998年)にも記載されるとおり、エルマン試薬などの酸化剤、p−メリクル安息香酸などのメルカプト形成剤、ヨード酢酸、N−エチルマレイミドなどのアルキル化剤が挙げられる。好ましくはアルキル化剤を、さらに好ましくはマレイミド化合物を、もっとも好ましくはN−エチルマレイミドを使用することができる。
発生した過酸化水素は、パーオキシダーゼにより通常の酸化系発色剤を発色させることができる。酸化系発色剤としては、種々のトリンダー試薬をカップラー試薬と組み合わせて利用できる。この方法はトリンダー法とも呼ばれ、臨床化学分析の分野では一般に用いられており、ここでは詳細に説明しないが、好ましくはカップラー試薬として4−アミノアンチピリンを用い、そしてトリンダー試薬としてADOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン]、DAOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン]、HDAOS[N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン]、MAOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン]、TOOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン]などが用いられる。また、カップラー試薬を必要としない、o−トリジン、o−ジアニシジン、DA−67[10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム、和光純薬工業(株)製]、TPM−PS[N,N,N’,N’,N”,N”−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4”−トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム塩、同仁化学研究所]などのロイコ型発色試薬も同様に用いることができる。特に、DA−67およびTPM−PSは、上記トリンダー試薬と比べてモル吸光係数が大きいため、より感度よく測定することができる。
ホモシステイン測定用試薬キット:
本発明では、上記の各工程で必要とされる(a)D−アラニル−D−アラニンリガーゼおよび/またはD−セリンデヒドラターゼ、(b)チオール化合物、(c)メチル転移酵素およびメチル供与体、ならびに(d)D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ+アシルコエンザイムAシンセターゼ+アシルコエンザイムA酸化酵素、SH試薬、および酸化系発色剤を含む、ホモシステイン測定用試薬キットが提供される。これらの(a)〜(d)は、通常は別々に提供されるが、(a)〜(c)は予め緩衝液中に混合して調製された測定試薬として提供されてもよい。
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]大腸菌由来の組換えD−アラニル−D−アラニンリガーゼ(A)(DdlA)の調製
(1−1)プローブの合成およびddlA遺伝子の取得
DdlA活性を有する酵素をコードする大腸菌のddlA遺伝子の塩基配列情報(Biochemistry 30:1673−1682(1991)、GenBank Accession No.J05319)をもとに、EcoRIおよびPstI認識部位をそれぞれ含む配列番号1および2に示す合成プライマーを作成した。これらのプライマー各3nmol(100pmol/μl、30μl)を用い、2μlの大腸菌JM109の染色体DNAをテンプレートとして、緩衝液(KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績株式会社製;以下、KODという)2μl、10×KOD緩衝液10μl、dNTP混合物10μl、DMSO5μl、および蒸留水5μl)中でPCRを行って、ddlA構造遺伝子を含む1.09kbのDNAを得た。
(1−2)ddlA遺伝子を含むプラスミドの調製
上記のようにして得られたddlA遺伝子を、大腸菌ColE1のDNA複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を有する大腸菌ベクターpUC19のSmaI切断物に連結し、塩化ルビジウム法(J.Mol.Biol.,166:557,1983)によって大腸菌JM109中に導入して、ddlA遺伝子を有する組換えプラスミド含む形質転換体を得た。なお、実施例で用いた制限酵素は、いずれもタカラバイオ社より入手した。
上記形質転換体中の組換えプラスミドを用いて、蛍光標識プライマーを用いたジデオキシターミネーター法による377 Automate Sequencing System(パーキンエルマー社製)によって塩基配列を決定した。ddlAは、1095塩基の構造遺伝子領域を有し、364個のアミノ酸をコードし、これは上記ddlA遺伝子の塩基配列情報と完全に一致していた。
(1−3)ddlA遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作成
上記の組換えプラスミドを、制限酵素EcoRIおよびPstIで切断してDNA断片を切り出し、ddlAのDNAを含む1.09kbのDNA断片を、アガロースゲル電気泳動によって精製した。アンピシリン耐性遺伝子を有する大腸菌発現ベクターpKK233−3(アマシャム・ファルマシア社製)を、制限酵素EcoRIおよびPstIで切断し、得られた1.09kbのDNA断片を連結して、発現ベクターpKdlAを得た(図2を参照のこと)。この発現ベクターpKdlAは、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(以下、IPTG)によりDdlAの発現が誘導される。
得られた発現ベクターpKdlAを、塩化ルビジウム法によって大腸菌JM109中に導入し、DdlAを発現するものを選択して、形質転換体JM109−ddlA−3を得た。
(1−4)発現したDdlAの活性の確認
得られた形質転換体JM109−ddlA−3を、アンピシリンを含むLB液体培地(1%酵母エキス、2%バクトペプトン、2%グルコース)3ml中、37℃にて約4時間振盪培養した。このうちの0.3mlを、10mlのLB液体培地に添加して、37℃にて3時間振盪培養し、IPTG(タカラバイオ社製)を最終濃度1mMとなるように加えて、さらに4時間培養した。培養液を、8000rpmにて15分間遠心分離して菌体を回収し、100mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)1mlにて1回洗浄した後、菌体の10倍量の可溶化液(100mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、1mM EDTA、5mM MgCl2、100μg/mlリゾチーム)に懸濁した。懸濁液に、超音波発生装置(トミー精工社製、UD−200型)を用いて、目盛1にて10秒間処理を2回行うことによって、菌体を破砕した。15000rpmにて10分間遠心分離して上清を得、これをDdl活性測定の試料とした。なお、対照として、組換えられていないpKK223−3による大腸菌JM109株の形質転換体を、同様に処理したものを用いた。
酵素活性の測定を、次のように行った。まず、菌体破砕液(50μl)に、活性測定試薬(20mM D−アラニン100μl、20mM ATP、100mM HEPES、40mM MgCl2、40mM KCl 50μl)を加え、37℃にて1時間反応させた。シリカゲル薄層に、反応液の2μlをスポットした後、展開溶媒としてエタノール:25%アンモニア水=74:26(w/w)を用いて、密閉容器中で展開した。展開終了後、ニンヒドリン液(0.2%ニンヒドリンを含むn−ブタノール飽和0.1Mクエン酸緩衝液)を噴霧して、生成したD−アラニル−D−アラニンを検出した。組換え体の菌体破砕液によるD−アラニル−D−アラニンの生成は、対照の菌体破砕液と比較して著量であった。
(1−5)DdlAの調製
上記(1−3)で得られたDdlA高生産組換え大腸菌を、アンピシリンを含むLB培地(1%酵母エキス、2%バクトペプトン、2%グルコース)200mlに植菌し、37℃にて15時間予備培養した。培養液を、アンピシリンを含むLB培地1.8Lを入れた5L容ジャーファーメンターに接種し、37℃にて100分間通気攪拌培養した。培養液にIPTGを最終濃度1mMとなるように加えて、さらに4時間培養した。培養液を、8000rpmにて10分間遠心分離して菌体を回収し、菌体の9倍容の緩衝液(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、1mM EDTA、5mM MgCl2)に菌体を懸濁した。懸濁液に、超音波発生装置(トミー精工社製、UD−200型)を用いて超音波処理を行うことによって、菌体を破砕した。破砕後、15000rpmにて10分間遠心分離して、破砕残渣を取り除き、粗酵素液を得た。
得られた粗酵素液に対して5%飽和となるように硫酸アンモニウムを氷冷下攪拌しながら添加した後、30分間放置し、その後14000rpmにて遠心分離した。得られた上清に、45%飽和となるように硫酸アンモニウムを氷冷下攪拌しながら添加した後、30分間放置し、その後14000rpmにて遠心分離した。得られた沈殿を、緩衝液(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、1mM EDTA、5mM MgCl2)に対して1晩透析した。
次いで、透析した粗酵素液を、Q−セファロースFF(アマシャム・ファルマシア社製)を用いたカラムクロマトグラフィー(吸着:緩衝液A(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、1mM EDTA、5mM MgCl2)、溶出:緩衝液A−0.0〜0.6M塩化ナトリウムグラジエント)により精製した。Ddl活性画分を集め、さらにセファクリルS−100(アマシャム・ファルマシア社製)ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより精製を行った。得られた活性画分を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、クマシーブリリアントブルー染色することによって、DdlAがほぼ単一バンドにまで精製されたことを確認した。
[実施例2]大腸菌由来の組換えD−アラニル−D−アラニンリガーゼ(B)(DdlB)の調製
(2−1)プローブの合成およびddlB遺伝子の取得
DdlB活性を有する酵素をコードする大腸菌のddlB遺伝子の塩基配列情報(Journal of Bacteriology 163:809−817(1986)、GenBank Accession No.AE000118 REGION:18688..19608)をもとに、配列番号3および4に示す合成プライマーを作成した。これらのプライマー各3nmol(100pmol/μl、30μl)を用い、2μlの大腸菌JM109の染色体DNAをテンプレートとして、緩衝液(KOD2μl、10×KOD緩衝液10μl、dNTP混合物10μl、DMSO5μl、および蒸留水5μl)中でPCRを行って、ddlB構造遺伝子を含む0.92kbのDNAを得た。
(2−2)ddlB遺伝子を含むプラスミドの調製
上記のようにして得られたddlB遺伝子を、大腸菌ColE1のDNA複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を有する大腸菌ベクターpUC19のSmaI切断物に連結し、塩化ルビジウム法(J.Mol.Biol.,166:557,1983)によって大腸菌JM109中に導入して、ddlB遺伝子を有する組換えプラスミド含む形質転換体を得た。
上記形質転換体中の組換えプラスミドを用いて、蛍光標識プライマーを用いたジデオキシターミネーター法による377 Automate Sequencing System(パーキンエルマー社製)によって塩基配列を決定した。ddlBは、921塩基の構造遺伝子領域を有し、306個のアミノ酸をコードし、これは上記ddlB遺伝子の塩基配列情報と完全に一致していた。
(2−3)ddlB遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作製
大腸菌発現ベクターpKK233−3(アマシャム・ファルマシア社製)を制限酵素EcoRIで切断後、DNA Blunting Kit(タカラバイオ社製)を用いて平滑末端化し、さらにアルカリフォスファターゼ(タカラバイオ社製)を用いて脱リン酸化し、(2−1)のddlB構造遺伝子断片を連結して、発現ベクターpKdlBを得た(図3を参照のこと)。この発現ベクターpKdlBは、IPTGにより、DdlBの発現が誘導される。
得られた発現ベクターpKdlBを、塩化ルビジウム法によって大腸菌JM109中に導入し、DdlBを発現するものを選択して、形質転換体JM109−ddlB−1を得た。
(2−4)DdlBの調製
上記(2−3)で得られたDdlB高生産組換え大腸菌を、アンピシリンを含むLB培地(1%酵母エキス、2%バクトペプトン、2%グルコース)200mlに植菌し、37℃にて15時間予備培養した。培養液を、アンピシリンを含むLB培地1.8Lを入れた5L容ジャーファーメンターに接種し、37℃にて100分間通気攪拌培養した。培養液にIPTGを最終濃度1mMとなるように加えて、さらに4時間培養した。培養液を、8000rpmにて10分間遠心分離して菌体を回収し、菌体の9倍容の緩衝液(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.2)、1mM EDTA、5mM MgCl2)に菌体を懸濁した。懸濁液に、超音波発生装置(トミー精工社製、UD−200型)を用いて超音波処理を行うことによって、菌体を破砕した。破砕後、15000rpmにて10分間遠心分離して、破砕残渣を取り除き、粗酵素液を得た。
得られた粗酵素液に対して25%飽和となるように硫酸アンモニウムを氷冷下攪拌しながら添加した後、30分間放置し、その後14000rpmにて遠心分離した。得られた上清に、50%飽和となるように硫酸アンモニウムを氷冷下攪拌しながら添加した後、30分間放置し、その後14000rpmにて遠心分離した。得られた沈殿を、緩衝液(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.2)、1mM EDTA、5mM MgCl2)に対して1晩透析した。
次いで、透析した粗酵素液を、Q−セファロースFF(アマシャム・ファルマシア社製)を用いたカラムクロマトグラフィー(吸着:緩衝液A(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.2)、1mM EDTA、5mM MgCl2)、溶出:緩衝液A−0.0〜0.6M塩化ナトリウムグラジエント)により精製した。Ddl活性画分を集め、さらにセファクリルS−100(アマシャム・ファルマシア社製)ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより精製を行った。得られた活性画分を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、クマシーブリリアントブルー染色することによって、DdlBがほぼ単一バンドにまで精製されたことを確認した。
[実施例3]大腸菌由来の組換えD−セリンデヒドラターゼ(Dsd)の調製
(3−1)dsd遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作製
Dsd活性を有する酵素をコードする大腸菌のdsd遺伝子の塩基配列情報をもとに、次の2種類の合成プライマー(配列番号5および6)を作成した。
これらのプライマーを用いて大腸菌のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。得られたDNAフラグメントをEcoRIおよびHindIIIで処理し、同じ制限酵素で処理したベクターPUC118に連結した。これを塩化ルビジウム法によって大腸菌JM109中に導入して、dsd遺伝子を有する組換えプラスミド含む形質転換体を得た。
(3−2)Dsdの調製
上記で得られたDsd発現株を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地約10L中で培養した。酵素精製はJ.Biol.Chem.,263,16926−16933,1988に記載の方法に準じて実施した。菌体ペーストをほぼ同容のSPE lysis buffer(20% ショ糖、20mM EDTA、30mM リン酸カリウム、0.5mg/mL リゾチーム、pH7.8)に懸濁し、インキュベート後、プロテアーゼ阻害剤およびピリドキサル5’−リン酸(PLP)を含む水を加えて溶菌させた。氷冷し、さらにほぼ同容の緩衝液B(1M リン酸カリウム、800μM PLP、50mM EDTA、10mM DTT、pH7.5)を加え、18000rpm、30分間の遠心分離により細胞残渣を除いた。得られた上清液をpH7.3に調整後、1% Polymin Pにより核酸を沈殿させ遠心分離により上清液を得た。70%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加して溶解後、40分間撹拌し、その後18000rpmにて2時間遠心分離した。得られた沈殿は少量の緩衝液C(10mM リン酸カリウム、80μM PLP、1mM EDTA、1mM DTT、pH7.2)に懸濁し、同緩衝液に対して1晩透析した。
次いで、透析した粗酵素液を、DEAE−Toyopearl(東ソー社製)を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。吸着は緩衝液Cを用い、溶出は同緩衝液をベースにKClを0から200mMに増加させて行った。Dsd活性画分を集め、70%飽和硫酸アンモニウムにて沈殿させ回収した。少量の緩衝液Cに溶解し、同緩衝液に対して1晩透析し、硫酸アンモニウムを除去した。さらに、緩衝液D(1mM リン酸カリウム、1mM DTT、pH7.0)に対して3〜4時間透析した。
透析した部分精製酵素液を、さらにハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー(ギガパイト、東亜合成化学社製、生化学工業販売)により精製した。緩衝液Dで平衡化させたカラムに同酵素液をアプライし、カラム容量の3倍量の同緩衝液にて洗浄し、緩衝液E(10mM リン酸カリウム、80μM PLP、1mM EDTA、pH7.8)にて溶出させた。溶出各画分に1/10容量の緩衝液イを加え、Dsd活性画分を集め、70%飽和硫酸アンモニウムにて沈殿させ回収した。得られた沈殿は少量の緩衝液F(100mM リン酸カリウム、80μM PLP、1mM EDTA、1mM DTT、pH7.8)に懸濁し、同緩衝液に対して透析し精製酵素を得た。
(3−3)Dsdの活性の測定
Dsdの活性の測定は、D−セリンから生成するピルビン酸を、NADHの存在下での乳酸脱水素酵素とのカップリングを測定することにより実施した。すなわち、37℃において100mM D−セリン、0.5mM NADH、および5U 乳酸脱水素酵素に、0.01〜0.1U Dsdを加えて反応を開始し、340nmの吸光度の減少を追跡した。
[実施例4]DdlA、DdlBおよびDsdによるD−アラニンの影響回避
試料(1〜5)を次のように調製した:
試料1:正常コントロール血清セラクリアHE(アズウェル社製)
試料2:試料1にホモシスチンを25μM(ホモシステイン換算値50μM)添加
試料3:試料2にD−アラニンを100μM添加
試料4:試料2にD−セリンを500μM添加
試料5:試料2にD−アラニンを100μMおよびD−セリンを500μM添加。
第一試薬(I〜V)および第二試薬を次のように調製した:
第一試薬:
試薬I:50mM Bicine(pH8.0)、123U/Lホモシステインメチルトランスフェラーゼ(細菌由来)、5.6mM ジチオスレイトール、0.06mM D−メチオニンメチルスルホニウム、1mM 臭化亜鉛、0.3mM DA−67、1mM ATP、1mM 塩化マグネシウム
試薬II:試薬IにDdlBを0.2285mg protein/mL添加
試薬III:試薬IにDdlAを2.0875mg protein/mL添加
試薬IV:試薬IにDsdを1U/mL添加
試薬V:試薬IにDdlBを0.2285mg protein/mLおよびDsdを1U/mL同時に添加。
第二試薬:
50mM クエン酸(pH5.6)、23mM NEM、6.4U/mL ブタ腎臓由来D−アミノ酸オキシダーゼ、5.5U/mL パーオキシダーゼを含む試薬。
測定は日立7170を使用して次のように行った。各試料1〜5 15μLにいずれかの第一試薬180μLを添加して混合し、37℃で5分間反応させた。次に第二試薬120μLを添加混合し、さらに37℃で5分間反応させた。測定ポイント16から34における吸光度(主波長660nm、副波長750nm)変化を測定した。
まず、試料1および2を、試薬I〜Vを用いてそれぞれ測定し、その場合の試料に添加したホモシステインに対する測定感度をそれぞれ100%とした。次いで、試料3〜5を試薬I〜Vを用いてそれぞれ測定した場合、試料3〜5の測定感度は、以下の表1のとおりであった。
これらの結果から明らかなように、コントロールでは、D−アラニンおよびD−セリンの影響のため、測定値が高く出たが、測定試薬中にDdlBまたはDdlAを含有させることによってサンプル中のD−アラニンの影響を軽減し、そしてDsdを含有させることによってD−セリンの影響を軽減した。また、両者を同時に使用することによって、D−アラニンおよびD−セリンの影響を同時に軽減できることも明らかである。
[実施例5]DdlおよびDsdによるD−アラニンおよびD−セリンの消去
試料(4種類)を次のように調製した:
試料1:正常コントロール血清セラクリアHE(アズウェル社製)
試料2:試料1にホモシスチンを25μM(ホモシステイン換算値50μM)添加
試料6:試料2にD−アラニンを200μM添加
試料7:試料2にD−セリンを1000μM添加。
第一試薬および第二試薬を次のように調製した:
第一試薬:
50mM Bicine(pH8.0)、123U/Lホモシステインメチルトランスフェラーゼ(細菌由来)、5.6mM ジチオスレイトール、0.06mM D−メチオニンメチルスルホニウム、1mM 臭化亜鉛、0.3mM DA−67、5mM ATP、10mM 塩化マグネシウムを含む試薬に、DdlBを0、0.073、0.145、0.29および0.58U/mL添加した試薬およびDsdを0、0.125、0.25および0.5U/mL添加した試薬。
第二試薬:
50mM クエン酸(pH5.6)、23mM NEM、6.4U/mL ブタ腎臓由来D−アミノ酸オキシダーゼ、5.5U/mL パーオキシダーゼを含む試薬。
測定は日立7170を使用して次のように行った。試料15μLに第一試薬180μLを添加して混合し、37℃で5分間反応させた。次に第二試薬120μLを添加して混合し、さらに37℃で5分間反応させた。測定ポイント16から34における吸光度(主波長660nm、副波長750nm)変化を測定した。
結果を図4および図5に示す。
図4は、横軸にDdlBの濃度、および縦軸にホモシステイン測定時の相対感度を示した。約0.5U/mLのDdlBを用いることにより、200mM D−アラニンの影響はほぼ回避できることがわかった。
図5は、横軸にDsdの濃度、および縦軸にホモシステイン測定時の相対感度を示した。約0.2U/mLのDsdを用いることにより1000mM D−セリンの影響をほぼ回避することができた。
[実施例6]DdlおよびDsdによる試料中のD−アミノ酸の影響回避
試料は、EDTA血漿12検体を用いた。スタンダードとしては、コントロール血清に50μM D−メチオニンを添加したものを用いた。
第一試薬3種類(i〜iii)および第二試薬1種類(共通)を次のように調製した。
第一試薬:
試薬i:50mM Bicine(pH8.0)、126U/Lホモシステインメチルトランスフェラーゼ(細菌由来)、5.6mM ジチオスレイトール、0.06mM D−メチオニンメチルスルホニウム、1mM 臭化亜鉛、0.3mM DA−67
試薬ii:試薬iからホモシステインメチルトランスフェラーゼを除く
試薬iii:試薬iに5mM ATP、10mM 塩化マグネシウム、0.58U/mL DdlB、1U/mL Dsdを添加。
第二試薬:
50mM クエン酸(pH5.6)、23mM NEM、6.4U/mL ブタ腎臓由来D−アミノ酸オキシダーゼ、5.5U/mL パーオキシダーゼを含む。
測定は日立7170を使用して次のように行った。試料15μLにいずれかの第一試薬180μLを添加して混合し、37℃で5分間反応させた。次に第二試薬120μLを添加して混合し、さらに37℃で5分間反応させた。測定ポイント16から34における吸光度(主波長660nm、副波長750nm)変化を測定した。スタンダードの吸光度変化から試料中のホモシステイン濃度を算出した。試薬Aのみを用いて測定した値を従来1チャンネル法とし、試薬iと試薬iiとの差をとって測定した値を従来2チャンネル法とし、そして試薬iiiを用いて測定した値を本発明法とした。それぞれの値をHPLC法による測定値と比較した。
図6からわかるように、従来1チャンネル法に比較して、本発明法は、HPLC法との相関性が改善され、そして従来2チャンネル法に劣らない相関性を示した。
本発明のホモシステインの測定方法は、試料中のホモシステインをチオール化合物で還元処理し、メチル供与体存在下でメチル転移酵素を作用させた(第一工程)後、生成するD−アミノ酸またはD−アミノ酸誘導体を測定する(第二工程)という原理に基づく。例えば、図1に示すように、第一工程で生成したD−メチオニンに、第二工程においてD−アミノ酸オキシダーゼを作用させた場合には、過酸化水素が生成するため、これをSH試薬の存在下で通常用いられる酸化系発色剤に導き比色定量することができる。また、D−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させた場合には、生成するコエンザイムAをアシルコエンザイムAシンセターゼ[EC 6.2.1.3]およびアシルコエンザイムA酸化酵素[EC 1.3.3.6]を用いて過酸化水素に導き、これを同様にして定量することができる。
本発明のホモシステインを検出または測定する方法は、D−アミノ酸を測定するにおいて内因性のD−アミノ酸の影響を排除するために、まず最初に、試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質とならない物質に変換することを特徴とする。
具体的には、本発明のホモシステインの検出または測定方法は、
(a)試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質にならない物質に変換する工程;
(b)試料中のホモシステインをチオール化合物で還元処理する工程;
(c)該還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびメチル供与体を作用させ、新たにD−アミノ酸を生じさせる工程;および
(d)該生成したD−アミノ酸に、SH試薬の存在下で、該D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させて、過酸化水素生成へ導き、該生成した過酸化水素を酸化系発色剤により発色させる工程、を含む。
本発明の方法によって検出または測定され得る試料としては、ホモシステインを含むと考えられる試料であればいずれでもよい。また、ホモシステインの存在様式としては、還元型ホモシステインのみならず、蛋白結合型、ホモシステイン2量体、ホモシステイン−システイン2量体などジスルフィド結合で他の分子に結合した酸化型ホモシステインのいずれでもよい。例えば、血清、血漿、血液、尿、およびそれらの希釈物などが挙げられる。
(a)工程:
本発明の方法において使用されるD−アミノ酸変換酵素としては、D−アミノ酸に作用して、D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質にならない物質に変換してホモシステイン測定原理の反応系外に導くことのできるものであればよい。本発明においては、D−アラニンおよび/またはD−セリンに作用するものが好ましい。D−アラニンに作用する酵素としては、例えばD−アラニル−D−アラニンリガーゼ[EC 6.3.2.4]、D−アラニンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.2.7]、D−アラニン−γ−グルタミルトランスフェラーゼ[EC 2.3.2.14]などを使用することができる。D−セリンに作用する酵素としては、例えば、D−セリンデヒドラターゼ[EC 4.3.1.18]、ジアミノプロピオネートアンモニア−リアーゼ[EC 4.3.1.18]などを使用することができる。これらの酵素は必要に応じて単独または組み合わせて用いることができる。D−アラニンに作用する酵素としてD−アラニル−D−アラニンリガーゼを、D−セリンに作用する酵素としてD−セリンデヒドラターゼを使用することが好適である。
本発明の方法で使用されるD−アラニル−D−アラニンリガーゼ(Ddl)は、2分子のD−アラニンを縮合しD−アラニル−D−アラニンを生成するものであればどのような由来のものでも使用できる。例えば、ほとんどすべての細菌が有しているDdlを利用することができる。好ましくは、大腸菌由来の酵素である。本明細書でいう大腸菌とは、Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology,第8版(R.E.Buchanan,N.E.Gibbons編,The Williams & Wilkins Company,Baltimore,295〜296頁,1974年)に記載されるEscherichia coliならびにその変異株および改変体である。
本発明の方法で用いられるDdlとしては、好ましくは、Biochemistry 30:1673−1682(1991)に記載のGenBank Accession No.J05319またはJournal of Bacteriology 163:809−817(1986)に記載のGenBank Accession No.AE000118 REGION:18688..19608の塩基配列から推定されるアミノ酸配列を有する大腸菌由来の酵素が用いられる。また、Bacillus属、Enterococcus属、およびLactobacillus属などの微生物に由来する酵素も使用され得る。そしてDdl活性が消失しない限りは、いくつかのアミノ酸の改変(例えば、1または2以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換)があってもよい。Ddlは、例えば、大腸菌(例えば、細菌などから取得したddl遺伝子を導入して形質転換した大腸菌株)の培養菌体内容物から、粗酵素を調製し次いで各種クロマトグラフィーによって精製する方法など、当業者によく知られている方法によって得られ得る。
本発明の方法で使用されるD−セリンデヒドラターゼ(Dsd)は、D−セリンアンモニア−リアーゼ、D−セリンデハイドラーゼ、D−ハイドロキシアミノ酸デヒドラターゼ、D−セリンヒドラーゼ、D−セリンデアミナーゼなどとも呼ばれる酵素であり、D−セリンを脱アミノ化しピルビン酸を生成するものであればどのような由来のものでも使用できる。好ましくは、J.Bacteriol.154(3),1508−1512(1983)に記載のGenBank Accession No.J01603の塩基配列から推定されるアミノ酸配列を有する大腸菌由来の酵素が用いられる。また、Pseudomonas属、Bacillus属、Salmonella属、Fusobacterium属、Vibrio属、Shigella属、Ralstonia属などの微生物に由来するDsdを使用できる。そしてDsd活性が消失しない限りは、いくつかのアミノ酸の改変(例えば、1または2以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換)があってもよい。Dsdは、例えば、大腸菌(例えば、細菌などから取得したdsd遺伝子を導入して形質転換した大腸菌株)の培養菌体内容物から、粗酵素を調製し次いで各種クロマトグラフィーによって精製する方法など、当業者によく知られている方法によって得られ得る。
上記ddl遺伝子およびdsd遺伝子は、上記推定アミノ酸配列に基づいて当業者が通常用いる方法で得られる。例えば、DdlもしくはDsdをコードする遺伝子またはこれらを含む遺伝子の一部またはすべてをプローブとして使用し、プラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、PCRなどの手段を行う方法が挙げられる。また、DdlもしくはDsdの遺伝子源は、大腸菌に限らず、他の細菌種であってもよい。
本明細書において、ddl遺伝子とは、Ddlの特徴を示すDdl活性を有するポリペプチドをコードするDNA鎖またはDNA配列をいい、そしてdsd遺伝子とは、Dsdの特徴を示すDsd活性を有するポリペプチドをコードするDNA鎖またはDNA配列をいう。いずれも、上述のように生理活性が変化しない程度のアミノ酸の改変(例えば、付加、欠失、または置換)を有するポリペプチドをコードしていてもよい。また、縮重などにより、同じポリペプチドをコードする配列は複数種あり得る。さらに、ddl遺伝子もしくはdsd遺伝子は、天然物由来であっても、全合成または半合成のものであってもよい。
得られたddl遺伝子もしくはdsd遺伝子は、例えば、大腸菌などの宿主において増殖可能な発現ベクターに連結され、宿主に導入される。ここで用いられる発現ベクターは、大腸菌に対して通常用いられるものであればどのようなものでもよく、例えば、ColE1、pCR1、pBR322、pMB9などが好適に用いられる。
DdlもしくはDsdをコードするDNAを大腸菌内で大量に発現させるために、あるいは発現量を増加させるために、転写および翻訳を制御するプロモーターをベクターのDNA鎖の5’上流域におよび/またはターミネーターを3’下流域に組み込んでもよい。このようなプロモーターおよび/またはターミネーターとしては、ddl遺伝子もしくはdsd遺伝子自体に由来するもの、β−ガラクトシダーゼ遺伝子などの既に知られている遺伝子に由来するもの、またはそれらを人工的に改良したものが挙げられる。そのため、発現ベクターとしては、このような制御配列が組み込まれているものが好適に用いられ、例えば、pTrc99A、pKK223−3(以上、アマシャム・ファルマシア社製)、pET−3、pET−11(以上、ストラタジーン社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
DdlもしくはDsdを発現させるための宿主となり得る微生物としては、どのような微生物でもよいが、好ましくは細菌、さらに好ましくは大腸菌である。DdlもしくはDsdを発現させるための形質転換体の作成は、遺伝子工学の分野で通常用いられる方法によって行われ、例えば、塩化ルビジウム法(J.Mol.Biol.,166:557,1983)が挙げられる。このようにして得られたDdlもしくはDsd発現能力が高められた大腸菌の形質転換体を培養して、DdlもしくはDsdを得ることができる。
以上のようにして得られたDdlもしくはDsdは、必要に応じて単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
Ddlをホモシステイン測定試薬に応用した場合には、生成するD−アラニル−D−アラニンはD−アミノ酸オキシダーゼの基質とならないため、試料に含まれるD−アラニンを除くことが可能である。使用酵素量は、サンプル中のD−アラニンを除去できる濃度であれば特に制限はなく、例えば0.01〜100U/mL、好ましくは0.1〜10U/mLである。なお、本発明において、Ddlの1Unitは、D−アラニンを基質として37℃において1分間に1μmolのD−アラニル−D−アラニンを生成する酵素量として定義する。また活性発現のために必要なATPおよびMgイオンの使用量も、D−アラニンの除去が達成できる濃度であれば特に制限はなく、例えばATPは0.1〜10mM、Mgイオンは0.1〜20mMである。この酵素による試料の処理は単独で行うこともでき、以下の(b)および(c)工程と同時に行うこともできる。
Dsdをホモシステイン測定試薬に応用した場合には、試料に含まれるD−セリンをピルビン酸に変換することによってD−セリンを反応系外に除くことができる。使用酵素量は、サンプル中のD−セリンを除去できる濃度であれば特に制限はなく、例えば0.001〜10U/mL、好ましくは0.01〜1U/mLで使用できる。なお、本発明において、Dsdの1Unitは、37℃において1分間に1μmolのD−セリンを分解する酵素量として定義する。この酵素による試料の処理は単独で行うこともでき、以下の(b)および(c)工程と同時に行うこともできる。
(b)工程:
本発明の方法における(b)工程は、試料中の種々の形態のホモシステインをチオール化合物で還元して還元型ホモシステインとする工程である。
本発明の方法で用いられるチオール化合物は特に限定されず、例えば、ジチオスレイトール、メルカプトエタノール、N−アセチルシステイン、ジチオエリスリトール、チオグリコール酸などが挙げられる。チオール化合物の濃度は、酸化型ホモシステインを還元型ホモシステインに変換できる範囲であればいずれでもよく、好ましくはチオール基として0.1mM以上、より好ましくは1mM以上の濃度であればよい。
(c)工程:
本発明の方法の(c)工程は、上記(b)工程で還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびメチル供与体を作用させ、新たにD−アミノ酸を生じさせる工程である。本発明においては、メチル転移酵素およびメチル供与体として、それぞれ、ホモシステインをメチル受容体とするメチル転移酵素およびメチル供与体のD−メチオニンメチルスルホニウムを用いることが好ましい。すなわち、試料中の還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびD−メチオニンメチルスルホニウムを作用させて、D−メチオニンを生成させる。
メチル転移酵素としては、D−メチオニンメチルスルホニウムに作用し、D−メチオニンの生成を触媒するものであればどのようなものでもよく、例えば、ホモシステインメチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.10]、5−メチルテトラヒドロ葉酸−ホモシステイン S−メチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.13]、5−メチルテトラヒドロプテロイルトリグルタミン酸−ホモシステイン S−メチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.14]が挙げられる。好ましくは、ホモシステインメチルトランスフェラーゼ[EC 2.1.1.10]が使用される。この酵素は、G.Grue−Sorensenら(J.Chem.Soc.Perkin Trans.I 1091−7(1984))により報告されているように、特異性は低いもののD−メチオニンメチルスルホニウムをメチル供与体とし、D−メチオニンを生成する。使用するホモシステインメチルトランスフェラーゼは、D−メチオニンメチルスルホニウムをメチル供与体とするものであればどのような由来のものでも使用できる。例えば、細菌、酵母、ラットなどに由来する酵素が使用できる。なお、本発明において、ホモシステインメチルトランスフェラーゼの1Unitは、ホモシステインおよびD−メチオニンメチルスルホニウムを基質として37℃において1分間に1μmolのD−メチオニンを生成する酵素量として定義する。
(d)工程:
本発明の方法の(d)工程は、上記(c)工程により生成したD−アミノ酸に、SH試薬の存在下で、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させて、過酸化水素生成へ導き、この生成した過酸化水素を酸化系発色剤により発色させる工程である。
D−アミノ酸に、D−アミノ酸オキシダーゼ[EC 1.4.3.3]を作用させることにより、過酸化水素が生成する。これをSH試薬の存在下で通常用いられる酸化系発色剤に導き比色定量することができる。D−アミノ酸オキシダーゼは、どのような由来のものを使用してもよい。例えば、動物の臓器、細菌類、および真菌類由来のものを用いることができる。好適には、ブタ腎臓由来のものが使用され得る。なお、本発明において、D−アミノ酸オキシダーゼの1Unitは、37℃において1分間に1μmolのD−アラニンをピルビン酸に変換する酵素量として定義する。
D−アミノ酸に、D−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ[EC 2.3.1.36]を作用させた場合には、生成するコエンザイムAをアシルコエンザイムAシンセターゼ[EC 6.2.1.3]およびアシルコエンザイムA酸化酵素[EC 1.3.3.6]を用いて過酸化水素に導き、これを同様にして定量することができる。D−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼは、どのような由来のものを使用してもよい。例えば、酵母由来のものを用いることができる。
SH試薬としては、生化学辞典(第3版、p.182、東京化学同人、1998年)にも記載されるとおり、エルマン試薬などの酸化剤、p−メリクル安息香酸などのメルカプト形成剤、ヨード酢酸、N−エチルマレイミドなどのアルキル化剤が挙げられる。好ましくはアルキル化剤を、さらに好ましくはマレイミド化合物を、もっとも好ましくはN−エチルマレイミドを使用することができる。
発生した過酸化水素は、パーオキシダーゼにより通常の酸化系発色剤を発色させることができる。酸化系発色剤としては、種々のトリンダー試薬をカップラー試薬と組み合わせて利用できる。この方法はトリンダー法とも呼ばれ、臨床化学分析の分野では一般に用いられており、ここでは詳細に説明しないが、好ましくはカップラー試薬として4−アミノアンチピリンを用い、そしてトリンダー試薬としてADOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン]、DAOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン]、HDAOS[N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン]、MAOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン]、TOOS[N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン]などが用いられる。また、カップラー試薬を必要としない、o−トリジン、o−ジアニシジン、DA−67[10−(カルボシキメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム、和光純薬工業(株)製]、TPM−PS[N,N,N’,N’,N”,N”−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4”−トリアミノトリフェニルメタン6ナトリウム塩、同仁化学研究所]などのロイコ型発色試薬も同様に用いることができる。特に、DA−67およびTPM−PSは、上記トリンダー試薬と比べてモル吸光係数が大きいため、より感度よく測定することができる。
ホモシステイン測定用試薬キット:
本発明では、上記の各工程で必要とされる(a)D−アラニル−D−アラニンリガーゼおよび/またはD−セリンデヒドラターゼ、(b)チオール化合物、(c)メチル転移酵素およびメチル供与体、ならびに(d)D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ+アシルコエンザイムAシンセターゼ+アシルコエンザイムA酸化酵素、SH試薬、および酸化系発色剤を含む、ホモシステイン測定用試薬キットが提供される。これらの(a)〜(d)は、通常は別々に提供されるが、(a)〜(c)は予め緩衝液中に混合して調製された測定試薬として提供されてもよい。
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
[実施例1]大腸菌由来の組換えD−アラニル−D−アラニンリガーゼ(A)(DdlA)の調製
(1−1)プローブの合成およびddlA遺伝子の取得
DdlA活性を有する酵素をコードする大腸菌のddlA遺伝子の塩基配列情報(Biochemistry 30:1673−1682(1991)、GenBank Accession No.J05319)をもとに、EcoRIおよびPstI認識部位をそれぞれ含む配列番号1および2に示す合成プライマーを作成した。これらのプライマー各3nmol(100pmol/μl、30μl)を用い、2μlの大腸菌JM109の染色体DNAをテンプレートとして、緩衝液(KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績株式会社製;以下、KODという)2μl、10×KOD緩衝液10μl、dNTP混合物10μl、DMSO5μl、および蒸留水5μl)中でPCRを行って、ddlA構造遺伝子を含む1.09kbのDNAを得た。
(1−2)ddlA遺伝子を含むプラスミドの調製
上記のようにして得られたddlA遺伝子を、大腸菌ColE1のDNA複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を有する大腸菌ベクターpUC19のSmaI切断物に連結し、塩化ルビジウム法(J.Mol.Biol.,166:557,1983)によって大腸菌JM109中に導入して、ddlA遺伝子を有する組換えプラスミド含む形質転換体を得た。なお、実施例で用いた制限酵素は、いずれもタカラバイオ社より入手した。
上記形質転換体中の組換えプラスミドを用いて、蛍光標識プライマーを用いたジデオキシターミネーター法による377 Automate Sequencing System(パーキンエルマー社製)によって塩基配列を決定した。ddlAは、1095塩基の構造遺伝子領域を有し、364個のアミノ酸をコードし、これは上記ddlA遺伝子の塩基配列情報と完全に一致していた。
(1−3)ddlA遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作成
上記の組換えプラスミドを、制限酵素EcoRIおよびPstIで切断してDNA断片を切り出し、ddlAのDNAを含む1.09kbのDNA断片を、アガロースゲル電気泳動によって精製した。アンピシリン耐性遺伝子を有する大腸菌発現ベクターpKK233−3(アマシャム・ファルマシア社製)を、制限酵素EcoRIおよびPstIで切断し、得られた1.09kbのDNA断片を連結して、発現ベクターpKdlAを得た(図2を参照のこと)。この発現ベクターpKdlAは、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(以下、IPTG)によりDdlAの発現が誘導される。
得られた発現ベクターpKdlAを、塩化ルビジウム法によって大腸菌JM109中に導入し、DdlAを発現するものを選択して、形質転換体JM109−ddlA−3を得た。
(1−4)発現したDdlAの活性の確認
得られた形質転換体JM109−ddlA−3を、アンピシリンを含むLB液体培地(1%酵母エキス、2%バクトペプトン、2%グルコース)3ml中、37℃にて約4時間振盪培養した。このうちの0.3mlを、10mlのLB液体培地に添加して、37℃にて3時間振盪培養し、IPTG(タカラバイオ社製)を最終濃度1mMとなるように加えて、さらに4時間培養した。培養液を、8000rpmにて15分間遠心分離して菌体を回収し、100mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)1mlにて1回洗浄した後、菌体の10倍量の可溶化液(100mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、1mM EDTA、5mM MgCl2、100μg/mlリゾチーム)に懸濁した。懸濁液に、超音波発生装置(トミー精工社製、UD−200型)を用いて、目盛1にて10秒間処理を2回行うことによって、菌体を破砕した。15000rpmにて10分間遠心分離して上清を得、これをDdl活性測定の試料とした。なお、対照として、組換えられていないpKK223−3による大腸菌JM109株の形質転換体を、同様に処理したものを用いた。
酵素活性の測定を、次のように行った。まず、菌体破砕液(50μl)に、活性測定試薬(20mM D−アラニン100μl、20mM ATP、100mM HEPES、40mM MgCl2、40mM KCl 50μl)を加え、37℃にて1時間反応させた。シリカゲル薄層に、反応液の2μlをスポットした後、展開溶媒としてエタノール:25%アンモニア水=74:26(w/w)を用いて、密閉容器中で展開した。展開終了後、ニンヒドリン液(0.2%ニンヒドリンを含むn−ブタノール飽和0.1Mクエン酸緩衝液)を噴霧して、生成したD−アラニル−D−アラニンを検出した。組換え体の菌体破砕液によるD−アラニル−D−アラニンの生成は、対照の菌体破砕液と比較して著量であった。
(1−5)DdlAの調製
上記(1−3)で得られたDdlA高生産組換え大腸菌を、アンピシリンを含むLB培地(1%酵母エキス、2%バクトペプトン、2%グルコース)200mlに植菌し、37℃にて15時間予備培養した。培養液を、アンピシリンを含むLB培地1.8Lを入れた5L容ジャーファーメンターに接種し、37℃にて100分間通気攪拌培養した。培養液にIPTGを最終濃度1mMとなるように加えて、さらに4時間培養した。培養液を、8000rpmにて10分間遠心分離して菌体を回収し、菌体の9倍容の緩衝液(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、1mM EDTA、5mM MgCl2)に菌体を懸濁した。懸濁液に、超音波発生装置(トミー精工社製、UD−200型)を用いて超音波処理を行うことによって、菌体を破砕した。破砕後、15000rpmにて10分間遠心分離して、破砕残渣を取り除き、粗酵素液を得た。
得られた粗酵素液に対して5%飽和となるように硫酸アンモニウムを氷冷下攪拌しながら添加した後、30分間放置し、その後14000rpmにて遠心分離した。得られた上清に、45%飽和となるように硫酸アンモニウムを氷冷下攪拌しながら添加した後、30分間放置し、その後14000rpmにて遠心分離した。得られた沈殿を、緩衝液(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、1mM EDTA、5mM MgCl2)に対して1晩透析した。
次いで、透析した粗酵素液を、Q−セファロースFF(アマシャム・ファルマシア社製)を用いたカラムクロマトグラフィー(吸着:緩衝液A(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.4)、1mM EDTA、5mM MgCl2)、溶出:緩衝液A−0.0〜0.6M塩化ナトリウムグラジエント)により精製した。Ddl活性画分を集め、さらにセファクリルS−100(アマシャム・ファルマシア社製)ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより精製を行った。得られた活性画分を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、クマシーブリリアントブルー染色することによって、DdlAがほぼ単一バンドにまで精製されたことを確認した。
[実施例2]大腸菌由来の組換えD−アラニル−D−アラニンリガーゼ(B)(DdlB)の調製
(2−1)プローブの合成およびddlB遺伝子の取得
DdlB活性を有する酵素をコードする大腸菌のddlB遺伝子の塩基配列情報(Journal of Bacteriology 163:809−817(1986)、GenBank Accession No.AE000118 REGION:18688..19608)をもとに、配列番号3および4に示す合成プライマーを作成した。これらのプライマー各3nmol(100pmol/μl、30μl)を用い、2μlの大腸菌JM109の染色体DNAをテンプレートとして、緩衝液(KOD2μl、10×KOD緩衝液10μl、dNTP混合物10μl、DMSO5μl、および蒸留水5μl)中でPCRを行って、ddlB構造遺伝子を含む0.92kbのDNAを得た。
(2−2)ddlB遺伝子を含むプラスミドの調製
上記のようにして得られたddlB遺伝子を、大腸菌ColE1のDNA複製起点およびアンピシリン耐性遺伝子を有する大腸菌ベクターpUC19のSmaI切断物に連結し、塩化ルビジウム法(J.Mol.Biol.,166:557,1983)によって大腸菌JM109中に導入して、ddlB遺伝子を有する組換えプラスミド含む形質転換体を得た。
上記形質転換体中の組換えプラスミドを用いて、蛍光標識プライマーを用いたジデオキシターミネーター法による377 Automate Sequencing System(パーキンエルマー社製)によって塩基配列を決定した。ddlBは、921塩基の構造遺伝子領域を有し、306個のアミノ酸をコードし、これは上記ddlB遺伝子の塩基配列情報と完全に一致していた。
(2−3)ddlB遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作製
大腸菌発現ベクターpKK233−3(アマシャム・ファルマシア社製)を制限酵素EcoRIで切断後、DNA Blunting Kit(タカラバイオ社製)を用いて平滑末端化し、さらにアルカリフォスファターゼ(タカラバイオ社製)を用いて脱リン酸化し、(2−1)のddlB構造遺伝子断片を連結して、発現ベクターpKdlBを得た(図3を参照のこと)。この発現ベクターpKdlBは、IPTGにより、DdlBの発現が誘導される。
得られた発現ベクターpKdlBを、塩化ルビジウム法によって大腸菌JM109中に導入し、DdlBを発現するものを選択して、形質転換体JM109−ddlB−1を得た。
(2−4)DdlBの調製
上記(2−3)で得られたDdlB高生産組換え大腸菌を、アンピシリンを含むLB培地(1%酵母エキス、2%バクトペプトン、2%グルコース)200mlに植菌し、37℃にて15時間予備培養した。培養液を、アンピシリンを含むLB培地1.8Lを入れた5L容ジャーファーメンターに接種し、37℃にて100分間通気攪拌培養した。培養液にIPTGを最終濃度1mMとなるように加えて、さらに4時間培養した。培養液を、8000rpmにて10分間遠心分離して菌体を回収し、菌体の9倍容の緩衝液(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.2)、1mM EDTA、5mM MgCl2)に菌体を懸濁した。懸濁液に、超音波発生装置(トミー精工社製、UD−200型)を用いて超音波処理を行うことによって、菌体を破砕した。破砕後、15000rpmにて10分間遠心分離して、破砕残渣を取り除き、粗酵素液を得た。
得られた粗酵素液に対して25%飽和となるように硫酸アンモニウムを氷冷下攪拌しながら添加した後、30分間放置し、その後14000rpmにて遠心分離した。得られた上清に、50%飽和となるように硫酸アンモニウムを氷冷下攪拌しながら添加した後、30分間放置し、その後14000rpmにて遠心分離した。得られた沈殿を、緩衝液(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.2)、1mM EDTA、5mM MgCl2)に対して1晩透析した。
次いで、透析した粗酵素液を、Q−セファロースFF(アマシャム・ファルマシア社製)を用いたカラムクロマトグラフィー(吸着:緩衝液A(20mMビストリス−塩酸緩衝液(pH7.2)、1mM EDTA、5mM MgCl2)、溶出:緩衝液A−0.0〜0.6M塩化ナトリウムグラジエント)により精製した。Ddl活性画分を集め、さらにセファクリルS−100(アマシャム・ファルマシア社製)ゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより精製を行った。得られた活性画分を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、クマシーブリリアントブルー染色することによって、DdlBがほぼ単一バンドにまで精製されたことを確認した。
[実施例3]大腸菌由来の組換えD−セリンデヒドラターゼ(Dsd)の調製
(3−1)dsd遺伝子を含む発現ベクターおよび形質転換体の作製
Dsd活性を有する酵素をコードする大腸菌のdsd遺伝子の塩基配列情報をもとに、次の2種類の合成プライマー(配列番号5および6)を作成した。
これらのプライマーを用いて大腸菌のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行った。得られたDNAフラグメントをEcoRIおよびHindIIIで処理し、同じ制限酵素で処理したベクターPUC118に連結した。これを塩化ルビジウム法によって大腸菌JM109中に導入して、dsd遺伝子を有する組換えプラスミド含む形質転換体を得た。
(3−2)Dsdの調製
上記で得られたDsd発現株を、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地約10L中で培養した。酵素精製はJ.Biol.Chem.,263,16926−16933,1988に記載の方法に準じて実施した。菌体ペーストをほぼ同容のSPE lysis buffer(20% ショ糖、20mM EDTA、30mM リン酸カリウム、0.5mg/mL リゾチーム、pH7.8)に懸濁し、インキュベート後、プロテアーゼ阻害剤およびピリドキサル5’−リン酸(PLP)を含む水を加えて溶菌させた。氷冷し、さらにほぼ同容の緩衝液B(1M リン酸カリウム、800μM PLP、50mM EDTA、10mM DTT、pH7.5)を加え、18000rpm、30分間の遠心分離により細胞残渣を除いた。得られた上清液をpH7.3に調整後、1% Polymin Pにより核酸を沈殿させ遠心分離により上清液を得た。70%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加して溶解後、40分間撹拌し、その後18000rpmにて2時間遠心分離した。得られた沈殿は少量の緩衝液C(10mM リン酸カリウム、80μM PLP、1mM EDTA、1mM DTT、pH7.2)に懸濁し、同緩衝液に対して1晩透析した。
次いで、透析した粗酵素液を、DEAE−Toyopearl(東ソー社製)を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。吸着は緩衝液Cを用い、溶出は同緩衝液をベースにKClを0から200mMに増加させて行った。Dsd活性画分を集め、70%飽和硫酸アンモニウムにて沈殿させ回収した。少量の緩衝液Cに溶解し、同緩衝液に対して1晩透析し、硫酸アンモニウムを除去した。さらに、緩衝液D(1mM リン酸カリウム、1mM DTT、pH7.0)に対して3〜4時間透析した。
透析した部分精製酵素液を、さらにハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー(ギガパイト、東亜合成化学社製、生化学工業販売)により精製した。緩衝液Dで平衡化させたカラムに同酵素液をアプライし、カラム容量の3倍量の同緩衝液にて洗浄し、緩衝液E(10mM リン酸カリウム、80μM PLP、1mM EDTA、pH7.8)にて溶出させた。溶出各画分に1/10容量の緩衝液イを加え、Dsd活性画分を集め、70%飽和硫酸アンモニウムにて沈殿させ回収した。得られた沈殿は少量の緩衝液F(100mM リン酸カリウム、80μM PLP、1mM EDTA、1mM DTT、pH7.8)に懸濁し、同緩衝液に対して透析し精製酵素を得た。
(3−3)Dsdの活性の測定
Dsdの活性の測定は、D−セリンから生成するピルビン酸を、NADHの存在下での乳酸脱水素酵素とのカップリングを測定することにより実施した。すなわち、37℃において100mM D−セリン、0.5mM NADH、および5U 乳酸脱水素酵素に、0.01〜0.1U Dsdを加えて反応を開始し、340nmの吸光度の減少を追跡した。
[実施例4]DdlA、DdlBおよびDsdによるD−アラニンの影響回避
試料(1〜5)を次のように調製した:
試料1:正常コントロール血清セラクリアHE(アズウェル社製)
試料2:試料1にホモシスチンを25μM(ホモシステイン換算値50μM)添加
試料3:試料2にD−アラニンを100μM添加
試料4:試料2にD−セリンを500μM添加
試料5:試料2にD−アラニンを100μMおよびD−セリンを500μM添加。
第一試薬(I〜V)および第二試薬を次のように調製した:
第一試薬:
試薬I:50mM Bicine(pH8.0)、123U/Lホモシステインメチルトランスフェラーゼ(細菌由来)、5.6mM ジチオスレイトール、0.06mM D−メチオニンメチルスルホニウム、1mM 臭化亜鉛、0.3mM DA−67、1mM ATP、1mM 塩化マグネシウム
試薬II:試薬IにDdlBを0.2285mg protein/mL添加
試薬III:試薬IにDdlAを2.0875mg protein/mL添加
試薬IV:試薬IにDsdを1U/mL添加
試薬V:試薬IにDdlBを0.2285mg protein/mLおよびDsdを1U/mL同時に添加。
第二試薬:
50mM クエン酸(pH5.6)、23mM NEM、6.4U/mL ブタ腎臓由来D−アミノ酸オキシダーゼ、5.5U/mL パーオキシダーゼを含む試薬。
測定は日立7170を使用して次のように行った。各試料1〜5 15μLにいずれかの第一試薬180μLを添加して混合し、37℃で5分間反応させた。次に第二試薬120μLを添加混合し、さらに37℃で5分間反応させた。測定ポイント16から34における吸光度(主波長660nm、副波長750nm)変化を測定した。
まず、試料1および2を、試薬I〜Vを用いてそれぞれ測定し、その場合の試料に添加したホモシステインに対する測定感度をそれぞれ100%とした。次いで、試料3〜5を試薬I〜Vを用いてそれぞれ測定した場合、試料3〜5の測定感度は、以下の表1のとおりであった。
これらの結果から明らかなように、コントロールでは、D−アラニンおよびD−セリンの影響のため、測定値が高く出たが、測定試薬中にDdlBまたはDdlAを含有させることによってサンプル中のD−アラニンの影響を軽減し、そしてDsdを含有させることによってD−セリンの影響を軽減した。また、両者を同時に使用することによって、D−アラニンおよびD−セリンの影響を同時に軽減できることも明らかである。
[実施例5]DdlおよびDsdによるD−アラニンおよびD−セリンの消去
試料(4種類)を次のように調製した:
試料1:正常コントロール血清セラクリアHE(アズウェル社製)
試料2:試料1にホモシスチンを25μM(ホモシステイン換算値50μM)添加
試料6:試料2にD−アラニンを200μM添加
試料7:試料2にD−セリンを1000μM添加。
第一試薬および第二試薬を次のように調製した:
第一試薬:
50mM Bicine(pH8.0)、123U/Lホモシステインメチルトランスフェラーゼ(細菌由来)、5.6mM ジチオスレイトール、0.06mM D−メチオニンメチルスルホニウム、1mM 臭化亜鉛、0.3mM DA−67、5mM ATP、10mM 塩化マグネシウムを含む試薬に、DdlBを0、0.073、0.145、0.29および0.58U/mL添加した試薬およびDsdを0、0.125、0.25および0.5U/mL添加した試薬。
第二試薬:
50mM クエン酸(pH5.6)、23mM NEM、6.4U/mL ブタ腎臓由来D−アミノ酸オキシダーゼ、5.5U/mL パーオキシダーゼを含む試薬。
測定は日立7170を使用して次のように行った。試料15μLに第一試薬180μLを添加して混合し、37℃で5分間反応させた。次に第二試薬120μLを添加して混合し、さらに37℃で5分間反応させた。測定ポイント16から34における吸光度(主波長660nm、副波長750nm)変化を測定した。
結果を図4および図5に示す。
図4は、横軸にDdlBの濃度、および縦軸にホモシステイン測定時の相対感度を示した。約0.5U/mLのDdlBを用いることにより、200mM D−アラニンの影響はほぼ回避できることがわかった。
図5は、横軸にDsdの濃度、および縦軸にホモシステイン測定時の相対感度を示した。約0.2U/mLのDsdを用いることにより1000mM D−セリンの影響をほぼ回避することができた。
[実施例6]DdlおよびDsdによる試料中のD−アミノ酸の影響回避
試料は、EDTA血漿12検体を用いた。スタンダードとしては、コントロール血清に50μM D−メチオニンを添加したものを用いた。
第一試薬3種類(i〜iii)および第二試薬1種類(共通)を次のように調製した。
第一試薬:
試薬i:50mM Bicine(pH8.0)、126U/Lホモシステインメチルトランスフェラーゼ(細菌由来)、5.6mM ジチオスレイトール、0.06mM D−メチオニンメチルスルホニウム、1mM 臭化亜鉛、0.3mM DA−67
試薬ii:試薬iからホモシステインメチルトランスフェラーゼを除く
試薬iii:試薬iに5mM ATP、10mM 塩化マグネシウム、0.58U/mL DdlB、1U/mL Dsdを添加。
第二試薬:
50mM クエン酸(pH5.6)、23mM NEM、6.4U/mL ブタ腎臓由来D−アミノ酸オキシダーゼ、5.5U/mL パーオキシダーゼを含む。
測定は日立7170を使用して次のように行った。試料15μLにいずれかの第一試薬180μLを添加して混合し、37℃で5分間反応させた。次に第二試薬120μLを添加して混合し、さらに37℃で5分間反応させた。測定ポイント16から34における吸光度(主波長660nm、副波長750nm)変化を測定した。スタンダードの吸光度変化から試料中のホモシステイン濃度を算出した。試薬Aのみを用いて測定した値を従来1チャンネル法とし、試薬iと試薬iiとの差をとって測定した値を従来2チャンネル法とし、そして試薬iiiを用いて測定した値を本発明法とした。それぞれの値をHPLC法による測定値と比較した。
図6からわかるように、従来1チャンネル法に比較して、本発明法は、HPLC法との相関性が改善され、そして従来2チャンネル法に劣らない相関性を示した。
本発明の方法によれば、内因性D−アミノ酸の影響を受けず、かつ検体ブランクをとる必要なく、ホモシステインを測定することができる。すなわち、操作が簡便でありかつ正確なホモシステインの測定が可能となる。
Claims (6)
- 試料中のホモシステインを検出または測定する方法であって、
(a)試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質とならない物質に変換する工程;
(b)該試料中のホモシステインをチオール化合物で還元処理する工程;
(c)該還元されたホモシステインに、メチル転移酵素およびメチル供与体を作用させ、新たにD−アミノ酸を生じさせる工程;および
(d)該生成したD−アミノ酸に、SH試薬の存在下で、該D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼを作用させて、過酸化水素生成へ導き、該生成した過酸化水素を酸化系発色剤により発色させる工程、
を含む、方法。 - 前記工程(a)が、試料中に存在するD−アラニンに、アデノシン三リン酸の存在下でD−アラニル−D−アラニンリガーゼを作用させてD−アラニル−D−アラニンに変換する工程および/または試料中に存在するD−セリンに、D−セリンデヒドラターゼを作用させてピルビン酸に変換する工程である、請求項1に記載の方法。
- 前記メチル転移酵素が、ホモシステインメチルトランスフェラーゼであり、そして前記メチル供与体が、D−メチオニンメチルスルホニウムである、請求項2に記載の方法。
- 前記工程(d)において、前記生成した過酸化水素を、パーオキシダーゼおよび酸化系発色剤により発色させて検出または測定する、請求項2または3に記載の方法。
- D−アラニル−D−アラニンリガーゼおよび/またはD−セリンデヒドラターゼ;チオール化合物;メチル転移酵素;メチル供与体;D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼ;SH試薬;および酸化系発色剤を含む、ホモシステイン測定用試薬キット。
- 試料中のホモシステインを検出または測定する方法であって、試料中に存在するD−アミノ酸にD−アミノ酸変換酵素を作用させて、該D−アミノ酸を、D−アミノ酸オキシダーゼまたはD−アミノ酸アセチルトランスフェラーゼの基質とならない物質に変換する工程を含むことを特徴とする、方法。
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