JP2004159565A - 基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼ、その製造法およびそれを用いた試薬組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、プロリンに対する反応性の小さい、基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼを提供することを目的とする。
【解決手段】37℃、pH8.0の測定条件下で、L−プロリンに対する作用性:ザルコシン対して0.7%以下、L−プロリンに対するKm値:150mM以上、の少なくともいずれか一方の特性を有するザルコシンオキシダーゼ、該ザルコシンオキシダーゼの生産能を有する微生物を培養し、該培養物からザルコシンオキシダーゼを採取する基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼの製造法、該ザルコシンオキシダーゼを含むクレアチニン測定用試薬、クレアチン測定用試薬。
【解決手段】37℃、pH8.0の測定条件下で、L−プロリンに対する作用性:ザルコシン対して0.7%以下、L−プロリンに対するKm値:150mM以上、の少なくともいずれか一方の特性を有するザルコシンオキシダーゼ、該ザルコシンオキシダーゼの生産能を有する微生物を培養し、該培養物からザルコシンオキシダーゼを採取する基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼの製造法、該ザルコシンオキシダーゼを含むクレアチニン測定用試薬、クレアチン測定用試薬。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、L−プロリンに対する作用性の小さい、基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼとその製造法、および該ザルコシンオキシダーゼを含む試薬組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ザルコシンオキシダーゼ(EC 1.5.3.1)は、臨床的に筋疾患,腎疾患の診断の指標となっている体液中のクレアチン,クレアチニンの測定用酵素として、他の酵素、例えばクレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、ペルオキシダーゼと共に使用されている。ザルコシンオキシダーゼは基質であるザルコシンに水、酸素の存在下で作用して、グリシン、ホルムアルデヒドおよび過酸化水素を生成する。
【0003】
このようなザルコシンオキシダーゼは、バチルス属(特開昭54−52789号公報、特開昭61−162174号公報)、コリネバクテリウム属(J. Biochem. 89, 599 (1981))、シリンドロカルポン属(特開昭56−92790号公報)、シュードモナス属(特開昭60−43379号公報)、アースロバクター属(特開平2−265478号公報)等の細菌が生産することが知られている。また、これら生産菌のザルコシンオキシダーゼ遺伝子を、遺伝子工学的手法により、大腸菌等の宿主を用いた大量生産する技術についても報告されている(特開平5−115281号公報、特開平6−113840号公報、特開平8−238087号公報)。
【0004】
しかしながら、従来のザルコシンオキシダーゼは血中に存在するアミノ酸の1種であるプロリンに対しても作用することが知られており、クレアチニン、クレアチンの測定の際に正誤差を生じる原因となり得ることが指摘されている(臨床化学、20,144−152(1991)、生物試料分析、17,332−337(1994))。この問題を解消するために、我々のグループは野生型ザルコシンオキシダーゼを蛋白質工学的に改変し、プロリンに対する作用性を低下させたザルコシンオキシダーゼ(特開平10−248572号公報)を報告したが、本来の基質であるザルコシンに対する作用性等ついては不明であり、更なる改良が望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、プロリンに対する反応性の小さい、基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ザルコシンに対する高い親和性を保持し、且つL−プロリンに対する作用性に小さいザルコシンオキシダーゼを造成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のような構成から成る。
(1)37℃、pH8.0の測定条件下で、下記の少なくともいずれか一方の特性を有することを特徴とするザルコシンオキシダーゼ。
L−プロリンに対する作用性:ザルコシン対して0.7%以下
L−プロリンに対するKm値:150mM以上
(2)37℃、pH8.0の測定条件下で、下記の少なくともいずれか一方の特性を有することを特徴とするザルコシンオキシダーゼ。
L−プロリンに対する作用性:ザルコシン対して0.5%以下
L−プロリンに対するKm値:200mM以上
(3)ザルコシンに対するKm値が10mM以下である、(1)又は(2)記載のザルコシンオキシダーゼ。
(4)ザルコシンに対するKm値が5mM以下である、(1)又は(2)記載のザルコシンオキシダーゼ。
(5)(1)〜(4)のいずれか1つに記載されるザルコシンオキシダーゼの生産能を有する微生物を培養し、該培養物からザルコシンオキシダーゼを採取することを特徴とする基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼの製造法
(6)(1)〜(4)のいずれか1つに記載されるザルコシンオキシダーゼを含むクレアチニン測定用試薬。
(7)(1)〜(4)のいずれか1つに記載されるザルコシンオキシダーゼを含むクレアチン測定用試薬。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の改変型ザルコシンオキシダーゼは、臨床検査分野におけるクレアチン、クレアチニンの分析に有用である。
本発明のザルコシンオキシダーゼは、プロリンに対する作用性が本来の基質であるザルコシンに比べて十分に小さいことを特徴とする。プロリンに対する作用性は、ザルコシンを基質とした際の酵素活性に対する、L−プロリンを基質とした際の酵素活性の相対比(%)より求めることができる。本願発明のザルコシンオキシダーゼは、L−プロリンに対する作用性がザルコシンに対する作用性の0.7%以下、好ましくは0.5%以下である。
【0009】
また、本発明のザルコシンオキシダーゼは、プロリンに対するKm値(ミカエリス−メンテナンス定数)が高く、クレアチニンやクレアチン測定用試薬に適用した場合、検体中のプロリンの影響を受けにくい。本願発明のザルコシンオキシダーゼは、L−プロリンに対するKm値は150mM以上、好ましくは200mM以上である。
【0010】
更に、本願発明のザルコシンオキシダーゼは、測定試薬の必要添加量を抑えて、基質特異性の高さを活かすという観点から、ザルコシンに対するKm値は好ましくは10mM以下、更に好ましくは5mM以下である。
【0011】
本発明のザルコシンオキシダーゼは、上記の性質を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば微生物や哺乳動物由来の酵素などを使用することができる。また、公知のザルコシンオキシダーゼを遺伝子工学、蛋白質工学的技術を用いて改変した酵素、化学修飾により特性を改良した酵素も含まれる。
【0012】
本発明では一例として、アースロバクター・エスピーTE1826(微工研菌寄第10637号)のザルコシンオキシダーゼ(特開平2−265478号公報)を用いて、蛋白質工学的に改変した例を示す。本発明者らのグループは、既に、アースロバクター・エスピーTE1826より抽出した染色体DNAよりザルコシンオキシダーゼ遺伝子の単離に成功し、そのDNAの全構造を決定し(Journal of Fermentation and Bioengineering Vol.75 No.4 pp239−244 (1993)に記載)、本ザルコシンオキシダーゼを遺伝子工学的手法によって形質転換体に高生産させることに成功し、高純度なザルコシンオキシダーゼを安価に大量供給することを可能にしている(特開平6−113840号公報)。アースロバクター・エスピーTE1826のザルコシンオキシダーゼのアミノ酸配列を、配列表の配列番号1に示す。また、これらのアミノ配列をコードするDNA配列を、配列表の配列番号2に示す。
【0013】
本発明のザルコシンオキシダーゼの製造方法は特に限定されないが、公知の酵素を蛋白質工学的手法を用いて改良する場合、以下に示すような手順で製造することが可能である。ザルコシンオキシダーゼ活性を有するタンパク質を構成するアミノ酸配列を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変蛋白質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(TransformerMutagenesis Kit;Clonetech製,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0014】
作製された改変タンパク質の遺伝情報を有するDNAは、プラスミドと連結された状態にて宿主微生物中に移入され、改変タンパク質を生産する形質転換体となる。この際のプラスミドとしては、例えば、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)を宿主微生物とする場合にはpBluescript,pUC18などが使用できる。宿主微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリー W3110、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5αなどが利用できる。宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア属に属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行なう方法などを採用することができ、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイJM109;東洋紡績製)を用いても良い。
【0015】
こうして得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量の改変タンパク質を安定して生産し得る。形質転換体である宿主微生物の培養形態は宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、通常多くの場合は液体培養で行うが、工業的には通気撹拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコ−ス,シュークロース、ラクトース、マルトース、フラクトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。培養温度は菌が発育し、改変蛋白質を生産する範囲で適宜変更し得るが、エシェリヒア・コリーの場合、好ましくは20〜42℃程度である。培養時間は条件によって多少異なるが、改変タンパク質が最高収量に達する時期を見計らって適当時期に培養を終了すればよく、通常は6〜48時間程度である。培地pHは菌が発育し改変タンパク質を生産する範囲で適宜変更し得るが、特に好ましくはpH6.0〜9.0程度である。
【0016】
また、本発明のザルコシンオキシダーゼを野生型酵素として保有する微生物であれば、各微生物の生育に適した培養条件で、適当な栄養培地を用いて培養して採取することができる。この際、該酵素の発現を誘導させるために、培地中にザルコシンやクレアチン、ジメチルグリシンなどを適量添加することが望ましい。
【0017】
上記培養物中の、ザルコシンオキシダーゼをを含む培養液をそのまま採取し利用することもできるが、一般には常法に従って該酵素が培養液中に存在する場合は、濾過,遠心分離などにより、該酵素質含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。ザルコシンオキシダーゼが菌体内に存在する場合には、得られた培養物から濾過または遠心分離などの手段により菌体を採取し、次いでこの菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また必要に応じてEDTA等のキレート剤及びまたは界面活性剤を添加して該酵素を可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0018】
この様にして得られた粗抽出溶液を、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、更に硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、或いは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈澱法により沈澱せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。吸着剤或いはゲル濾過剤などによるゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーにより、精製されたザルコシンオキシダーゼを得ることができる。
【0019】
本発明のクレアチン測定試薬は、上記プロリンに対する基質特異性が小さいザルコシンオキシダーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、ペルオキシダーゼ、および過酸化水素検出試薬を含む。また、クレアチニン測定試薬は、上記プロリンに対する基質特異性が小さいザルコシンオキシダーゼ、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、ペルオキシダーゼ、および過酸化水素検出試薬を含む。過酸化水素検出試薬とは、ザルコシンオキシダーゼにより生成する過酸化水素をペルオキシダーゼの存在下で、生成色素として測定する試薬であり、酸化系発色試薬及び必要に応じて4−アミノアンチピリンや3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンなどのカップラーである。本発明の過酸化水素測定試薬は、各種の市販のものなどを用いることができるが、特に限定されるものではない。更に上記のクレアチンまたはクレアチニン測定試薬は、金属塩、蛋白質、アミノ酸、糖類、有機酸などを安定化剤として使用することもできる。試薬性能に悪影響を及ぼさない範囲で防腐剤や界面活性剤を添加してもよい。また通常、適当な緩衝液と共に使用される。緩衝液の種類、濃度およびpHは、各試薬成分の保存および酵素反応など目的に応じて一種もしくは複数が選択されるが、いずれの緩衝液を用いるに際しても、酵素反応時のpHとしては5.0〜10.0の範囲で使用されることが好ましい
【0020】
本発明において、ザルコシンオキシダーゼ活性の測定は以下の条件で行う。
<試薬>
100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)(200mM ザルコシンおよび0.1% トリト
ンX−100を含む)
0.1% 4−アミノアンチピリン
0.1% フェノール
25U/ml ペルオキシダーゼ
<測定条件>
上記トリス塩酸緩衝液、4−アミノアンチピリン溶液、フェノール溶液、ペルオキシダーゼ溶液を5:1:2:2の比率で混合し反応混液を調製する。反応混液1mlを試験管に採り、37℃で約5分間中予備加温した後、酵素溶液0.05mlを添加し、反応を開始させる。37℃で正確に10分間反応させた後、0.25%SDS水溶液2.0mlを加えて反応を停止させ、この液の500nmの吸光度を測定する。盲検は酵素溶液の代わりに蒸留水を試薬混液に加えて、以下同様の操作で吸光度を測定する。上記条件下で1分間に1マイクロモルの過酸化水素を生成する酵素量を1単位とする。また、プロリンに対する反応性は、上記試薬中のザルコシンを同じ濃度のL−プロリンに置き換えた場合の活性の相対比として測定した。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。たとえば、後述の実施例3で示された9種類の改変型ザルコシンオキシダーゼのうち、SAOM2は、配列表・配列番号1に記載されたアミノ酸配列の94位のバリンがグリシンに置換された変異体であるが、該変異体の性能に実質的な影響を与えない範囲で、さらに、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されていてもさしつかえない。SAOM2以外の変異体についても同様である。
【0022】
実施例1 ザルコシンオキシダーゼの発現プラスミドの構築
アースロバクター・エスピーTE1826由来ザルコシンオキシダーゼの発現プラスミドpSAOEP3は、特開平7−163341記載の方法に従って構築した。本発現プラスミドは、PUC18のマルチクローニングサイトに、TE1826のザルコシンオキシダーゼをコードする遺伝子を含む約1.7Kbpの挿入DNA断片を含む。その塩基配列を配列表の配列番号2に、また該塩基配列から推定されるザルコシンオキシダーゼアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。
【0023】
実施例2 改変型ザルコシンオキシダーゼ遺伝子の作製
ザルコシンオキシダーゼ遺伝子を含む発現プラスミドpSAOEP3と、配列表の配列番号3記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って変異処理操作を行い、更に塩基配列を決定して、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM1)を取得した。
pSAOEP3と、配列表の配列番号4記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の94番目のバリンがグリシンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM2)を取得した。
pSAOEP3と、配列表の配列番号5記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の322番目のリジンがアルギニンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM3)を取得した。
pSAOM2と、配列表の配列番号6記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の94番目のバリンがグリシン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM4)を取得した。
pSAOM4と、配列表の配列番号3記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM5)を取得した。
pSAOM5と、配列表の配列番号7記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、213番目のセリンがプロリン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM6)を取得した。
pSAOM6と、配列表の配列番号8記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、204番目のメチオニンがアラニン、213番目のセリンがプロリン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM7)を取得した。
pSAOM7と、配列表の配列番号9記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、166番目のアスパラギンがリジン、204番目のメチオニンがアラニン、213番目のセリンがプロリン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM8)を取得した。
pSAOM8と、配列表の配列番号5記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、166番目のアスパラギンがリジン、204番目のメチオニンがアラニン、213番目のセリンがプロリン、250番目のグルタミン酸がグルタミン、322番目のリジンがアルギニンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM9)を取得した。
【0024】
実施例3 改変型ザルコシンオキシダーゼの作製
pSAOM1、pSAOM2、pSAOM3、pSAOM4、pSAOM5、pSAOM6、pSAOM7、pSAOM8、pSAOM9の各組み換えプラスミドでエシェリヒアコリーJM109のコンピテントセルを形質転換し、該形質転換体をそれぞれ取得した。
400mlのTerrific brothを2L容坂口フラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後別途無菌濾過したアンピシリンを100μl/mlになるように添加した。この培地に100μl/mlのアンピシリンを含むLB培地で予め30℃、16時間培養したエシェリヒアコリーJM109(pSAOM1)の培養液を5ml接種し、30℃で20時間通気攪拌培養した。培養終了時のザルコシンオキシダーゼ活性は、前記活性測定において、培養液1ml当たり約9.5U/mlであった。
上記菌体を遠心分離により集菌し、20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁した後、超音波処理により破砕し、更に遠心分離を行い、上清液を粗酵素液として得た。得られた粗酵素液をポリエチレンイミンによる除核酸および硫安分画を行い、20mMリン酸緩衝液(pH7.5)で透析した後、DEAEセファロースCL−6B(アマシャムバイオサイエンス製)、更に熱処理により分離・精製し、精製酵素標品を得た。本方法により得られた標品は、SDS−PAGE的にほぼ単一なバンドを示した。また、この変異体をSAOM1と命名した。
pSAOM2、pSAOM3、pSAOM4、pSAOM5、pSAOM6、pSAOM7、pSAOM8、pSAOM9の各組み換えプラスミドによるエシェリヒアコリーJM109形質転換体についても上記方法と同様にして精製酵素標品を取得した。得られた酵素標品をそれぞれSAOM2、SAOM3、SAOM4、SAOM5、SAOM6、SAOM7、SAOM8、SAOM9と命名した。
【0025】
比較例1 野生型ザルコシンオキシダーゼの作製
比較例として、pSAOEP3によるエシェリヒアコリーJM109形質転換体について、上記方法と同様にして、改変前の精製酵素標品を取得した。
【0026】
実施例4 改変型ザルコシンオキシダーゼの評価
実施例3および比較例1で取得した各種ザルコシンオキシダーゼについて評価を実施した。
プロリン作用性は、上記活性測定法により、ザルコシンを基質とした際の酵素活性に対する、L−プロリンを基質とした際の酵素活性の相対比(%)より求めた。また、ザルコシンおよびL−プロリンに対するKm値は、上記活性測定法の基質濃度を変化させて測定した。その結果を表1に示す。表1から判るように、改変型ザルコシンオキシダーゼは、プロリンに対する反応性が0.7%以下、若しくはL−プロリンに対するKm値は150mM以上の少なくともいずれか一方を特性を有することが示された。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例6 クレアチニンの測定試薬におけるプロリンの影響
実施例3および比較例1で取得した各種ザルコシンオキシダーゼを、クレアチニン測定試薬に適応した際のプロリンの影響度を評価した。10U/mlザルコシンオキシダーゼ(実施例3および比較例1で調整したもの)、1mMエチレンジアミン四酢酸ニ水素ニナトリウム、50mM塩化ナトリウム、0.1%(W/V)トリトンX−100、0.02%(W/V)4−アミノアンチピリン、0.02%(W/V)TOOS(同仁化学研究所製)、100U/mlクレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡製;CNH−211)、50U/mlクレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡製;CRH−221)、10U/mlペルオキシダーゼ(東洋紡製;PEO−301)を含む50mMPIPES−NaOH緩衝液(pH7.5)300μlに、5mg/dlクレアチニン水溶液10μlを加えて、37℃で5分間反応させ、546nmの吸光度変化をHITACHI7060型自動分析装置を用いて測定した。また、クレアチニン水溶液の代わりに100mg/dlL−プロリン水溶液を用いて、上記と同様の操作で吸光度変化を測定した。プロリンの影響度は、クレアチニンを基質にした際に生じる反応5分間の吸光度増加に対する、L−プロリンを基質にした際に生じる反応5分間の吸光度増加の相対比(%)より求めた。その結果を表2に示す。表2から判るように、本発明の改変型ザルコシンオキシダーゼを、クレアチニン測定試薬に用いることで、該試薬のプロリンの影響度が低減していることが確認された。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例7 クレアチンの測定試薬におけるプロリンの影響
実施例3および比較例1で取得した各種ザルコシンオキシダーゼを、クレアチン測定試薬に適応した際のプロリンの影響度を評価した。10U/mlザルコシンオキシダーゼ(実施例3および比較例1で調整したもの)、1mMエチレンジアミン四酢酸ニ水素ニナトリウム、50mM塩化ナトリウム、0.1%(W/V)トリトンX−100、0.02%(W/V)4−アミノアンチピリン、0.02%(W/V)TOOS(同仁化学研究所製)、50U/mlクレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡製;CRH−221)、10U/mlペルオキシダーゼ(東洋紡製;PEO−301)を含む50mMPIPES−NaOH緩衝液(pH7.5)300μlに、5mg/dlクレアチン水溶液10μlを加えて、37℃で5分間反応させ、546nmの吸光度変化をHITACHI7060型自動分析装置を用いて測定した。また、クレアチン水溶液の代わりに100mg/dlL−プロリン水溶液を用いて、上記と同様の操作で吸光度変化を測定した。プロリンの影響度は、クレアチンを基質にした際に生じる反応5分間の吸光度増加に対する、L−プロリンを基質にした際に生じる反応5分間の吸光度増加の相対比(%)より求めた。その結果を表3に示す。表3から判るように、本発明の改変型ザルコシンオキシダーゼを、クレアチン測定試薬に用いることで、該試薬のプロリンの影響度が低減していることが確認された。
【0031】
【発明の効果】
本発明によって、L−プロリンに対する作用性の小さい、基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼを供給することが可能となった。本発明の改変型ザルコシンオキシダーゼを、臨床的に筋疾患,腎疾患の診断の指標となっている体液中のクレアチン,クレアチニンの測定用酵素として使用することで、共存物質の影響を受けにくい、正確なクレアチン,クレアチニン測定が可能である。
【0032】
【表3】
【0033】
【配列表】
【発明の属する技術分野】
本発明は、L−プロリンに対する作用性の小さい、基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼとその製造法、および該ザルコシンオキシダーゼを含む試薬組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ザルコシンオキシダーゼ(EC 1.5.3.1)は、臨床的に筋疾患,腎疾患の診断の指標となっている体液中のクレアチン,クレアチニンの測定用酵素として、他の酵素、例えばクレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、ペルオキシダーゼと共に使用されている。ザルコシンオキシダーゼは基質であるザルコシンに水、酸素の存在下で作用して、グリシン、ホルムアルデヒドおよび過酸化水素を生成する。
【0003】
このようなザルコシンオキシダーゼは、バチルス属(特開昭54−52789号公報、特開昭61−162174号公報)、コリネバクテリウム属(J. Biochem. 89, 599 (1981))、シリンドロカルポン属(特開昭56−92790号公報)、シュードモナス属(特開昭60−43379号公報)、アースロバクター属(特開平2−265478号公報)等の細菌が生産することが知られている。また、これら生産菌のザルコシンオキシダーゼ遺伝子を、遺伝子工学的手法により、大腸菌等の宿主を用いた大量生産する技術についても報告されている(特開平5−115281号公報、特開平6−113840号公報、特開平8−238087号公報)。
【0004】
しかしながら、従来のザルコシンオキシダーゼは血中に存在するアミノ酸の1種であるプロリンに対しても作用することが知られており、クレアチニン、クレアチンの測定の際に正誤差を生じる原因となり得ることが指摘されている(臨床化学、20,144−152(1991)、生物試料分析、17,332−337(1994))。この問題を解消するために、我々のグループは野生型ザルコシンオキシダーゼを蛋白質工学的に改変し、プロリンに対する作用性を低下させたザルコシンオキシダーゼ(特開平10−248572号公報)を報告したが、本来の基質であるザルコシンに対する作用性等ついては不明であり、更なる改良が望まれていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、プロリンに対する反応性の小さい、基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ザルコシンに対する高い親和性を保持し、且つL−プロリンに対する作用性に小さいザルコシンオキシダーゼを造成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のような構成から成る。
(1)37℃、pH8.0の測定条件下で、下記の少なくともいずれか一方の特性を有することを特徴とするザルコシンオキシダーゼ。
L−プロリンに対する作用性:ザルコシン対して0.7%以下
L−プロリンに対するKm値:150mM以上
(2)37℃、pH8.0の測定条件下で、下記の少なくともいずれか一方の特性を有することを特徴とするザルコシンオキシダーゼ。
L−プロリンに対する作用性:ザルコシン対して0.5%以下
L−プロリンに対するKm値:200mM以上
(3)ザルコシンに対するKm値が10mM以下である、(1)又は(2)記載のザルコシンオキシダーゼ。
(4)ザルコシンに対するKm値が5mM以下である、(1)又は(2)記載のザルコシンオキシダーゼ。
(5)(1)〜(4)のいずれか1つに記載されるザルコシンオキシダーゼの生産能を有する微生物を培養し、該培養物からザルコシンオキシダーゼを採取することを特徴とする基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼの製造法
(6)(1)〜(4)のいずれか1つに記載されるザルコシンオキシダーゼを含むクレアチニン測定用試薬。
(7)(1)〜(4)のいずれか1つに記載されるザルコシンオキシダーゼを含むクレアチン測定用試薬。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の改変型ザルコシンオキシダーゼは、臨床検査分野におけるクレアチン、クレアチニンの分析に有用である。
本発明のザルコシンオキシダーゼは、プロリンに対する作用性が本来の基質であるザルコシンに比べて十分に小さいことを特徴とする。プロリンに対する作用性は、ザルコシンを基質とした際の酵素活性に対する、L−プロリンを基質とした際の酵素活性の相対比(%)より求めることができる。本願発明のザルコシンオキシダーゼは、L−プロリンに対する作用性がザルコシンに対する作用性の0.7%以下、好ましくは0.5%以下である。
【0009】
また、本発明のザルコシンオキシダーゼは、プロリンに対するKm値(ミカエリス−メンテナンス定数)が高く、クレアチニンやクレアチン測定用試薬に適用した場合、検体中のプロリンの影響を受けにくい。本願発明のザルコシンオキシダーゼは、L−プロリンに対するKm値は150mM以上、好ましくは200mM以上である。
【0010】
更に、本願発明のザルコシンオキシダーゼは、測定試薬の必要添加量を抑えて、基質特異性の高さを活かすという観点から、ザルコシンに対するKm値は好ましくは10mM以下、更に好ましくは5mM以下である。
【0011】
本発明のザルコシンオキシダーゼは、上記の性質を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば微生物や哺乳動物由来の酵素などを使用することができる。また、公知のザルコシンオキシダーゼを遺伝子工学、蛋白質工学的技術を用いて改変した酵素、化学修飾により特性を改良した酵素も含まれる。
【0012】
本発明では一例として、アースロバクター・エスピーTE1826(微工研菌寄第10637号)のザルコシンオキシダーゼ(特開平2−265478号公報)を用いて、蛋白質工学的に改変した例を示す。本発明者らのグループは、既に、アースロバクター・エスピーTE1826より抽出した染色体DNAよりザルコシンオキシダーゼ遺伝子の単離に成功し、そのDNAの全構造を決定し(Journal of Fermentation and Bioengineering Vol.75 No.4 pp239−244 (1993)に記載)、本ザルコシンオキシダーゼを遺伝子工学的手法によって形質転換体に高生産させることに成功し、高純度なザルコシンオキシダーゼを安価に大量供給することを可能にしている(特開平6−113840号公報)。アースロバクター・エスピーTE1826のザルコシンオキシダーゼのアミノ酸配列を、配列表の配列番号1に示す。また、これらのアミノ配列をコードするDNA配列を、配列表の配列番号2に示す。
【0013】
本発明のザルコシンオキシダーゼの製造方法は特に限定されないが、公知の酵素を蛋白質工学的手法を用いて改良する場合、以下に示すような手順で製造することが可能である。ザルコシンオキシダーゼ活性を有するタンパク質を構成するアミノ酸配列を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変蛋白質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(TransformerMutagenesis Kit;Clonetech製,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0014】
作製された改変タンパク質の遺伝情報を有するDNAは、プラスミドと連結された状態にて宿主微生物中に移入され、改変タンパク質を生産する形質転換体となる。この際のプラスミドとしては、例えば、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)を宿主微生物とする場合にはpBluescript,pUC18などが使用できる。宿主微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリー W3110、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5αなどが利用できる。宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア属に属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行なう方法などを採用することができ、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイJM109;東洋紡績製)を用いても良い。
【0015】
こうして得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量の改変タンパク質を安定して生産し得る。形質転換体である宿主微生物の培養形態は宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、通常多くの場合は液体培養で行うが、工業的には通気撹拌培養を行うのが有利である。培地の栄養源としては微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコ−ス,シュークロース、ラクトース、マルトース、フラクトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。培養温度は菌が発育し、改変蛋白質を生産する範囲で適宜変更し得るが、エシェリヒア・コリーの場合、好ましくは20〜42℃程度である。培養時間は条件によって多少異なるが、改変タンパク質が最高収量に達する時期を見計らって適当時期に培養を終了すればよく、通常は6〜48時間程度である。培地pHは菌が発育し改変タンパク質を生産する範囲で適宜変更し得るが、特に好ましくはpH6.0〜9.0程度である。
【0016】
また、本発明のザルコシンオキシダーゼを野生型酵素として保有する微生物であれば、各微生物の生育に適した培養条件で、適当な栄養培地を用いて培養して採取することができる。この際、該酵素の発現を誘導させるために、培地中にザルコシンやクレアチン、ジメチルグリシンなどを適量添加することが望ましい。
【0017】
上記培養物中の、ザルコシンオキシダーゼをを含む培養液をそのまま採取し利用することもできるが、一般には常法に従って該酵素が培養液中に存在する場合は、濾過,遠心分離などにより、該酵素質含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。ザルコシンオキシダーゼが菌体内に存在する場合には、得られた培養物から濾過または遠心分離などの手段により菌体を採取し、次いでこの菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また必要に応じてEDTA等のキレート剤及びまたは界面活性剤を添加して該酵素を可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0018】
この様にして得られた粗抽出溶液を、例えば、減圧濃縮、膜濃縮、更に硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、或いは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈澱法により沈澱せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。吸着剤或いはゲル濾過剤などによるゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーにより、精製されたザルコシンオキシダーゼを得ることができる。
【0019】
本発明のクレアチン測定試薬は、上記プロリンに対する基質特異性が小さいザルコシンオキシダーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、ペルオキシダーゼ、および過酸化水素検出試薬を含む。また、クレアチニン測定試薬は、上記プロリンに対する基質特異性が小さいザルコシンオキシダーゼ、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、ペルオキシダーゼ、および過酸化水素検出試薬を含む。過酸化水素検出試薬とは、ザルコシンオキシダーゼにより生成する過酸化水素をペルオキシダーゼの存在下で、生成色素として測定する試薬であり、酸化系発色試薬及び必要に応じて4−アミノアンチピリンや3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンなどのカップラーである。本発明の過酸化水素測定試薬は、各種の市販のものなどを用いることができるが、特に限定されるものではない。更に上記のクレアチンまたはクレアチニン測定試薬は、金属塩、蛋白質、アミノ酸、糖類、有機酸などを安定化剤として使用することもできる。試薬性能に悪影響を及ぼさない範囲で防腐剤や界面活性剤を添加してもよい。また通常、適当な緩衝液と共に使用される。緩衝液の種類、濃度およびpHは、各試薬成分の保存および酵素反応など目的に応じて一種もしくは複数が選択されるが、いずれの緩衝液を用いるに際しても、酵素反応時のpHとしては5.0〜10.0の範囲で使用されることが好ましい
【0020】
本発明において、ザルコシンオキシダーゼ活性の測定は以下の条件で行う。
<試薬>
100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)(200mM ザルコシンおよび0.1% トリト
ンX−100を含む)
0.1% 4−アミノアンチピリン
0.1% フェノール
25U/ml ペルオキシダーゼ
<測定条件>
上記トリス塩酸緩衝液、4−アミノアンチピリン溶液、フェノール溶液、ペルオキシダーゼ溶液を5:1:2:2の比率で混合し反応混液を調製する。反応混液1mlを試験管に採り、37℃で約5分間中予備加温した後、酵素溶液0.05mlを添加し、反応を開始させる。37℃で正確に10分間反応させた後、0.25%SDS水溶液2.0mlを加えて反応を停止させ、この液の500nmの吸光度を測定する。盲検は酵素溶液の代わりに蒸留水を試薬混液に加えて、以下同様の操作で吸光度を測定する。上記条件下で1分間に1マイクロモルの過酸化水素を生成する酵素量を1単位とする。また、プロリンに対する反応性は、上記試薬中のザルコシンを同じ濃度のL−プロリンに置き換えた場合の活性の相対比として測定した。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。たとえば、後述の実施例3で示された9種類の改変型ザルコシンオキシダーゼのうち、SAOM2は、配列表・配列番号1に記載されたアミノ酸配列の94位のバリンがグリシンに置換された変異体であるが、該変異体の性能に実質的な影響を与えない範囲で、さらに、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されていてもさしつかえない。SAOM2以外の変異体についても同様である。
【0022】
実施例1 ザルコシンオキシダーゼの発現プラスミドの構築
アースロバクター・エスピーTE1826由来ザルコシンオキシダーゼの発現プラスミドpSAOEP3は、特開平7−163341記載の方法に従って構築した。本発現プラスミドは、PUC18のマルチクローニングサイトに、TE1826のザルコシンオキシダーゼをコードする遺伝子を含む約1.7Kbpの挿入DNA断片を含む。その塩基配列を配列表の配列番号2に、また該塩基配列から推定されるザルコシンオキシダーゼアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。
【0023】
実施例2 改変型ザルコシンオキシダーゼ遺伝子の作製
ザルコシンオキシダーゼ遺伝子を含む発現プラスミドpSAOEP3と、配列表の配列番号3記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って変異処理操作を行い、更に塩基配列を決定して、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM1)を取得した。
pSAOEP3と、配列表の配列番号4記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、QuickChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の94番目のバリンがグリシンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM2)を取得した。
pSAOEP3と、配列表の配列番号5記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の322番目のリジンがアルギニンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM3)を取得した。
pSAOM2と、配列表の配列番号6記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の94番目のバリンがグリシン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM4)を取得した。
pSAOM4と、配列表の配列番号3記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM5)を取得した。
pSAOM5と、配列表の配列番号7記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、213番目のセリンがプロリン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM6)を取得した。
pSAOM6と、配列表の配列番号8記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、204番目のメチオニンがアラニン、213番目のセリンがプロリン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM7)を取得した。
pSAOM7と、配列表の配列番号9記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、166番目のアスパラギンがリジン、204番目のメチオニンがアラニン、213番目のセリンがプロリン、250番目のグルタミン酸がグルタミンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM8)を取得した。
pSAOM8と、配列表の配列番号5記載の合成オリゴヌクレオチドおよびこれと相補的な合成オリゴヌクレオチドを用いて、上記と同様の操作により、配列番号1記載のアミノ酸配列の89番目のリジンがアルギニン、94番目のバリンがグリシン、166番目のアスパラギンがリジン、204番目のメチオニンがアラニン、213番目のセリンがプロリン、250番目のグルタミン酸がグルタミン、322番目のリジンがアルギニンに置換された変異型ザルコシンオキシダーゼをコードする組換えプラスミド(pSAOM9)を取得した。
【0024】
実施例3 改変型ザルコシンオキシダーゼの作製
pSAOM1、pSAOM2、pSAOM3、pSAOM4、pSAOM5、pSAOM6、pSAOM7、pSAOM8、pSAOM9の各組み換えプラスミドでエシェリヒアコリーJM109のコンピテントセルを形質転換し、該形質転換体をそれぞれ取得した。
400mlのTerrific brothを2L容坂口フラスコに分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後別途無菌濾過したアンピシリンを100μl/mlになるように添加した。この培地に100μl/mlのアンピシリンを含むLB培地で予め30℃、16時間培養したエシェリヒアコリーJM109(pSAOM1)の培養液を5ml接種し、30℃で20時間通気攪拌培養した。培養終了時のザルコシンオキシダーゼ活性は、前記活性測定において、培養液1ml当たり約9.5U/mlであった。
上記菌体を遠心分離により集菌し、20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に懸濁した後、超音波処理により破砕し、更に遠心分離を行い、上清液を粗酵素液として得た。得られた粗酵素液をポリエチレンイミンによる除核酸および硫安分画を行い、20mMリン酸緩衝液(pH7.5)で透析した後、DEAEセファロースCL−6B(アマシャムバイオサイエンス製)、更に熱処理により分離・精製し、精製酵素標品を得た。本方法により得られた標品は、SDS−PAGE的にほぼ単一なバンドを示した。また、この変異体をSAOM1と命名した。
pSAOM2、pSAOM3、pSAOM4、pSAOM5、pSAOM6、pSAOM7、pSAOM8、pSAOM9の各組み換えプラスミドによるエシェリヒアコリーJM109形質転換体についても上記方法と同様にして精製酵素標品を取得した。得られた酵素標品をそれぞれSAOM2、SAOM3、SAOM4、SAOM5、SAOM6、SAOM7、SAOM8、SAOM9と命名した。
【0025】
比較例1 野生型ザルコシンオキシダーゼの作製
比較例として、pSAOEP3によるエシェリヒアコリーJM109形質転換体について、上記方法と同様にして、改変前の精製酵素標品を取得した。
【0026】
実施例4 改変型ザルコシンオキシダーゼの評価
実施例3および比較例1で取得した各種ザルコシンオキシダーゼについて評価を実施した。
プロリン作用性は、上記活性測定法により、ザルコシンを基質とした際の酵素活性に対する、L−プロリンを基質とした際の酵素活性の相対比(%)より求めた。また、ザルコシンおよびL−プロリンに対するKm値は、上記活性測定法の基質濃度を変化させて測定した。その結果を表1に示す。表1から判るように、改変型ザルコシンオキシダーゼは、プロリンに対する反応性が0.7%以下、若しくはL−プロリンに対するKm値は150mM以上の少なくともいずれか一方を特性を有することが示された。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例6 クレアチニンの測定試薬におけるプロリンの影響
実施例3および比較例1で取得した各種ザルコシンオキシダーゼを、クレアチニン測定試薬に適応した際のプロリンの影響度を評価した。10U/mlザルコシンオキシダーゼ(実施例3および比較例1で調整したもの)、1mMエチレンジアミン四酢酸ニ水素ニナトリウム、50mM塩化ナトリウム、0.1%(W/V)トリトンX−100、0.02%(W/V)4−アミノアンチピリン、0.02%(W/V)TOOS(同仁化学研究所製)、100U/mlクレアチニンアミドヒドロラーゼ(東洋紡製;CNH−211)、50U/mlクレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡製;CRH−221)、10U/mlペルオキシダーゼ(東洋紡製;PEO−301)を含む50mMPIPES−NaOH緩衝液(pH7.5)300μlに、5mg/dlクレアチニン水溶液10μlを加えて、37℃で5分間反応させ、546nmの吸光度変化をHITACHI7060型自動分析装置を用いて測定した。また、クレアチニン水溶液の代わりに100mg/dlL−プロリン水溶液を用いて、上記と同様の操作で吸光度変化を測定した。プロリンの影響度は、クレアチニンを基質にした際に生じる反応5分間の吸光度増加に対する、L−プロリンを基質にした際に生じる反応5分間の吸光度増加の相対比(%)より求めた。その結果を表2に示す。表2から判るように、本発明の改変型ザルコシンオキシダーゼを、クレアチニン測定試薬に用いることで、該試薬のプロリンの影響度が低減していることが確認された。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例7 クレアチンの測定試薬におけるプロリンの影響
実施例3および比較例1で取得した各種ザルコシンオキシダーゼを、クレアチン測定試薬に適応した際のプロリンの影響度を評価した。10U/mlザルコシンオキシダーゼ(実施例3および比較例1で調整したもの)、1mMエチレンジアミン四酢酸ニ水素ニナトリウム、50mM塩化ナトリウム、0.1%(W/V)トリトンX−100、0.02%(W/V)4−アミノアンチピリン、0.02%(W/V)TOOS(同仁化学研究所製)、50U/mlクレアチンアミジノヒドロラーゼ(東洋紡製;CRH−221)、10U/mlペルオキシダーゼ(東洋紡製;PEO−301)を含む50mMPIPES−NaOH緩衝液(pH7.5)300μlに、5mg/dlクレアチン水溶液10μlを加えて、37℃で5分間反応させ、546nmの吸光度変化をHITACHI7060型自動分析装置を用いて測定した。また、クレアチン水溶液の代わりに100mg/dlL−プロリン水溶液を用いて、上記と同様の操作で吸光度変化を測定した。プロリンの影響度は、クレアチンを基質にした際に生じる反応5分間の吸光度増加に対する、L−プロリンを基質にした際に生じる反応5分間の吸光度増加の相対比(%)より求めた。その結果を表3に示す。表3から判るように、本発明の改変型ザルコシンオキシダーゼを、クレアチン測定試薬に用いることで、該試薬のプロリンの影響度が低減していることが確認された。
【0031】
【発明の効果】
本発明によって、L−プロリンに対する作用性の小さい、基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼを供給することが可能となった。本発明の改変型ザルコシンオキシダーゼを、臨床的に筋疾患,腎疾患の診断の指標となっている体液中のクレアチン,クレアチニンの測定用酵素として使用することで、共存物質の影響を受けにくい、正確なクレアチン,クレアチニン測定が可能である。
【0032】
【表3】
【0033】
【配列表】
Claims (7)
- 37℃、pH8.0の測定条件下で、下記の少なくともいずれか一方の特性を有することを特徴とするザルコシンオキシダーゼ。
L−プロリンに対する作用性:ザルコシン対して0.7%以下
L−プロリンに対するKm値:150mM以上 - 37℃、pH8.0の測定条件下で、下記の少なくともいずれか一方の特性を有することを特徴とするザルコシンオキシダーゼ。
L−プロリンに対する作用性:ザルコシン対して0.5%以下
L−プロリンに対するKm値:200mM以上 - ザルコシンに対するKm値が10mM以下である、請求項1又は2記載のザルコシンオキシダーゼ。
- ザルコシンに対するKm値が5mM以下である、請求項1又は2記載のザルコシンオキシダーゼ。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載されるザルコシンオキシダーゼの生産能を有する微生物を培養し、該培養物からザルコシンオキシダーゼを採取することを特徴とする基質特異性に優れたザルコシンオキシダーゼの製造法
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載されるザルコシンオキシダーゼを含むクレアチニン測定用試薬。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載されるザルコシンオキシダーゼを含むクレアチン測定用試薬。
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