JPWO2004005986A1 - フォトニック結晶光導波路 - Google Patents
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Abstract
Description
ホーリーファイバやフォトニック結晶ファイバでは、構造によってその特性を大きく変えることができるので、波長分散を大きくした分散補償光ファイバ、非線形光学効果の大きい光ファイバまたは可視域でのゼロ分散光ファイバ等といった応用が提案されている。また、複雑な2次元構造は、例えば、複数の石英パイプを束ねたものを、加熱延伸することによってつくることができる(例えば、オー・プラス・イー、23巻、9号、1061頁 2001年、参照)。
現在提案されているホーリーファイバやフォトニック結晶ファイバでは、コア部分を伝搬する導波光として、0次モードによる単一モード伝搬を利用している。単一モード伝搬光は、周波数に対する屈折率の変化が非常に小さい。したがって、群速度異常や非常に大きい分散といった特性を発揮することができない。このため、単一モード伝搬は、多モード伝搬による波長分散を防ぐためには必須の条件であるものの、同時にコア断面の面積や光ファイバ性能に対する制約条件ともなっている。
そこで、本発明は、導波光の伝搬方向に垂直な少なくとも一方向に屈折率周期性を有し、前記導波光の伝搬方向には一様な屈折率を有する構造のフォトニック結晶からなるコアと、前記導波光を前記コア内に閉じ込めるために、前記コアに接して設置されているクラッドとを有する光導波路部を備えたフォトニック結晶光導波路であって、前記コアの光入射面に近接もしくは接触するように設置された入射側位相変調部を備えたことを特徴とする。
図2は、1次元フォトニック結晶におけるTE偏光のフォトニックバンド構造を示すバンド図である。
図3は、1次元フォトニック結晶におけるTM偏光のフォトニックバンド構造を示すバンド図である。
図4は、1次元フォトニック結晶光導波路の構成を示す斜視図である。
図5は、2次元フォトニック結晶を用いた光ファイバの構成を示す斜視図である。
図6は、1次元フォトニック結晶中での第1バンド伝搬光のZ軸方向における電場の強さを表わした模式図である。
図7は、1次元フォトニック結晶中での高次バンド伝搬光のZ軸方向における電場の強さを表わした模式図である。
図8は、本実施の形態に係るフォトニック結晶光導波路の構成を示す断面図である。
図9は、本実施の形態に係るフォトニック結晶光導波路における、導波光のZ軸方向における電場の強さを表わした摸式図である。
図10は、本実施の形態に係る他のフォトニック結晶光導波路の電場を表わした模式図である。
図11は、本実施の形態に係る他のフォトニック結晶光導波路の断面図である。
図12は、本実施の形態に係る他のフォトニック結晶光導波路の断面図である。
図13Aおよび図13Bは、同じ厚さの2種類の物質をそれぞれ交互に層となるように重ねた1次元フォトニック結晶のバンド図である。
図14Aおよび図14Bは、多層構造である2次元フォトニック結晶の摸式図である。
図15は、本実施の形態に係るフォトニック結晶光導波路の斜視図である。
図16は、本実施の形態に係る位相差を補償する光導波路素子を示す斜視図である。
図17は、本実施の形態に係るフォトニック結晶光ファイバの模式図である。
図18は、本実施の形態に係る同心円状フォトニック結晶光ファイバの模式図である。
本実施の形態のフォトニック結晶光導波路は、前記コアには、前記導波光の伝搬方向におけるフォトニックバンドが存在し、前記入射側位相変調部は、入射した導波光を位相変調して、前記光導波路部の前記コアに伝搬させ、前記コアは、前記位相変調された導波光のエネルギーの全部もしくは半分以上が高次の前記フォトニックバンドに属する波動を伝搬させる。それにより、第1次バンド伝搬光による損失が少ない高次バンド伝搬光を、コアに伝搬させることができる。そのため、分散補償素子または光遅延素子等として利用することができる。
また、前記入射側位相変調部は、前記コアの屈折率周期と、同調されるような屈折率周期を有する位相格子としてもよい。
また、前記入射側位相変調部は、前記コアと同一の構造を有し、前記コアと同一の屈折率周期を有する位相格子としてもよい。
また、好ましくは、前記入射側位相変調部は、前記コアの光入射面側の端部近傍を切断して、分離した部分である。それにより、容易に入射側位相変調部を作製することができる。
また、前記コアは、前記位相変調された導波光の低次側から二番目の結合性フォトニックバンドに属する波動を伝搬させてもよい。
また、好ましくは、前記導波光が出射される前記コアの出射面に、近接もしくは接触するように設置された出射側位相変調部をさらに備えている。それにより、コアから出射された光を、平面波に変化することができる。
また、前記出射側位相変調部は、前記コアの出射面から出射された光を平面波に変換する構造としてもよい。
また、前記出射側位相変調部は、前記コアの屈折率周期と、同調されるような屈折率周期を有する位相格子としてもよい。
また、前記出射側位相変調部は、前記コアと同一の構造を有し、前記コアと同一の屈折率周期を有する位相格子であるとすればよい。
また、好ましくは、前記出射側位相変調部は、前記コアの光出射面側の端部近傍を切断して、分離した部分である。それにより、容易に出射側位相変調部を作製することができる。
また、好ましくは、前記クラッドは、前記導波光の伝搬方向に垂直な少なくとも一方向に屈折率周期性を有し、前記導波光の伝搬方向には一様な屈折率を有するフォトニック結晶よりなる。それにより、コアの実効屈折率が低い場合でも、コアからの光の漏れを防ぐことができる。
また、前記コアは、光学的非線形作用を有する活性物質を含有している。それにより、非線形光学効果の大きい光素子を提供することができる。
また、前記コアは、前記導波光の伝搬方向に垂直な一方向もしくは二方向に屈折率周期性を有し、前記導波光の伝搬方向には一様な屈折率を有する多層膜層としてもよい。
また、好ましくは、前記光導波路部は、断面が略円形であるファイバ状であって、前記コアはファイバ状で、前記コアの外周に前記クラッドが形成されていて、前記コアおよび前記クラッドは、前記導波光の伝搬方向には一様な屈折率を有する。それにより、ファイバ形状の分散補償素子または光遅延素子等を提供することができる。
また、前記コアおよび前記クラッドの各屈折率周期は、前記導波光の伝搬方向に平行である前記光導波路部の中心軸に対して、対称である構造としてもよい。
また、好ましくは、前記光導波路部は、断面が略円形であるファイバ状の均質物質を備え、前記均質物質には、その長手方向に沿って複数の空洞が形成されていて、前記複数の空洞は、前記導波光の伝搬方向に平行である前記光導波路部の中心軸に対して対称となるように形成されている。それにより、ファイバ形状の分散補償素子または光遅延素子等を提供することができる。
また、前記空洞の全部もしくは一部に流動性物質が充填されていてもよい。例えば空洞には、流動性物質として、アクリルモノマーを充填し、外部から紫外線を照射して、このアクリルモノマーを重合させてもよい。
また、前記光導波路部の断面における屈折率は、前記導波光の伝搬方向に平行である前記光導波路部の中心軸からの距離に対して周期的かつ同心円状に変化していることとしてもよい。
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
まず、フォトニック結晶中の光の伝搬について説明する。図1は1次元フォトニック結晶1を示す断面図である。図1において、光の導波方向をZ軸方向とし、光の伝搬方向に対して垂直な方向をY軸方向とする。1次元フォトニック結晶1は、Y軸方向にのみ屈折率周期性を有する。具体的には、それぞれ異なる屈折率を有する物質5aおよび物質5bとが、交互にY軸方向に積層されて多層構造5を形成している。また、光の伝搬方向(Z軸方向)には屈折率が一様である。物質5aの厚さはtAであり、屈折率はnAとする。また、物質5bの厚さはtBであり、屈折率はnBとする。したがって、フォトニック結晶1は、これらが積層された、周期aの多層構造である。なお、周期aは(tA+tB)である。
図1において、1次元フォトニック結晶1がコアであり、その周りの空気がクラッド(図示せず)となり、光導波路を構成している。コアである1次元フォトニック結晶1の端面1aから、真空中の波長がλ0の平面波を入射光2として入射させると、導波光4として1次元フォトニック結晶1の物質5aおよび物質5b内を伝搬して、端面1aとは逆の端面である端面1bから出射光3として空間に出射される。このとき、光が1次元フォトニック結晶1内でどのように伝搬するかは、フォトニックバンドを計算し図示することにより知ることができる。バンド計算の方法は、例えば”Photonic Crystals”,Princeton University Press(1995)あるいは、Physical Review B44巻、16号、p.8565、1991年、などに詳しく述べられている。
図1に示す1次元フォトニック結晶1のフォトニックバンドを、上述のバンド計算によって計算する。その際には、Y軸方向(積層方向)には屈折率周期構造が無限に続き、X軸およびZ軸方向(層面の広がる方向)には各層が無限に広がっているものと仮定して計算を行なう。
図2は、図1の1次元フォトニック結晶1におけるTE偏光のフォトニックバンド構造を示すバンド図である。また、図3は、図1の1次元フォトニック結晶1におけるTM偏光のフォトニックバンド構造を示すバンド図である。なお、物質5aの厚さtAおよび屈折率nAと、物質5bの厚さtBおよび屈折率nBとは、以下に示す値とする。ただし、厚さtAおよび厚さtBは、周期aを用いて表わしている(a=tA+tB)。
nA=1.44、tA=0.5a
nB=2.18、tB=0.5a
このような物質5aおよび物質5bの層を交互に重ねた周期aの多層構造5について、Z軸方向(X軸方向も同じ)における平面波法による第1〜第3バンドについてのバンド計算の結果が、図2および図3に示されている。ここで、TE偏光とは電場の向きがX軸方向である偏光を、TM偏光とは磁場の向きがX軸方向である偏光を表わしている。
図2および図3の横軸は1次元フォトニック結晶1におけるZ軸方向の波数ベクトルkzの大きさであり、縦軸は規格化周波数である。規格化周波数は、ωa/2πcで表わされ、ωは入射する光の角振動数、aは多層構造5の周期、cは真空中での光速である。また、規格化周波数は、入射光2の真空中での波長λ0を用いて、a/λ0とも表わすことができる。そこで、以下では規格化周波数は、a/λ0と記述し、図2および図3においてもそのように記載している。1次元フォトニック結晶1は、Z軸方向には屈折率周期性がなく、屈折率は一様なので、図2および図3の横軸にはブリルアンゾーンの境界が存在せず、どこまでも広がっている。
図1において、入射光2の真空中の波長がλAの場合、図2に示すように、1次元フォトニック結晶1内では最低次の第1バンドに対応する波数ベクトルkA1が存在する。換言すると、波長λA1=2π/kA1の波動として、導波光4がフォトニック結晶光導波路1内をZ軸方向に伝搬する。この場合の導波光4を、以下では第1バンド伝搬光と呼ぶ。
ところが、入射光2の真空中の波長がλBの場合、1次元フォトニック結晶1に入射する場合には、第1、第3バンドに対応する波数ベクトルkB1、kB3が存在する。なお、第2バンドはZ軸方向の伝搬に関しては、「非結合性」であるため無視する。したがって、波長λB1=2π/kB1の第1バンド伝搬光、および波長λB3=2π/kB3の第3バンド伝搬光の波動がそれぞれ1次元フォトニック結晶1内をZ軸方向に伝搬する。図2における第3バンド光のような、最低次のバンド(第1バンド)ではない結合性バンドの光を、以下では、一般的に呼ばれているように「高次バンド伝搬光」と呼ぶ。通常、第2バンドと第3バンドのうち片方は結合性、もう片方は非結合性であり、第1バンドは結合性である。なお、非結合性バンドについての理論は、以下の文献に詳しく記述されている。K.Sakoda,“Optical Properties of Photonic Crystals”,Springer−Verlag(2001).
なお、以上は、TE偏光について図2を用いて説明したが、図3からわかるように、TM偏光においてもTE偏光と同様の関係があるが、説明は省略する。
ここで、真空中での光の波長(λA、λBなど)を、対応する1次元フォトニック結晶1中の波長(λA1、λB3など)で除した数値を「実効屈折率」と定義する。図2および図3から理解できるように、第1バンド光の規格化周波数a/λ0(縦軸)とkz(横軸)とは、ほぼ比例しているため、実効屈折率も、真空中の入射光波長の変化に対してほとんど不変である。しかし、高次バンド伝搬光は実効屈折率が、真空中の入射光波長により大きく変化し、図2および図3より明らかなように実効屈折率が1未満になることもある。
図2および図3で示されるバンド図において、バンド曲線をkzで微分した値(すなわち、各バンド曲線の接線の傾き)が導波光4の群速度となることは良く知られている。第2次以上の高次バンドでは、kzの値が小さくなるにつれて接線の傾きは急速に小さくなり、kz=0のとき接線の傾きは0となる。これは、フォトニック結晶特有の現象である群速度異常によるものである。フォトニック結晶中における群速度異常は極めて大きく、かつ通常の均質物質の分散とは逆となる。すなわち、フォトニック結晶中では、入射光の波長が長くなるにつれて群速度が遅くなる。そのため、フォトニック結晶を用いて、高次バンド伝搬光を利用する光導波路や光ファイバを形成すれば、光遅延素子や光通信における分散補償素子として利用することができる。
図4は、1次元フォトニック結晶15を用いた光導波路素子であるフォトニック結晶光導波路17の構成を示す斜視図である。基板14上に、両端には均質光導波路16が設置されていて、均質光導波路16によって挟まれるように、1次元フォトニック結晶15が設置されている。なお、1次元フォトニック結晶15はコアであって、クラッドは、その周囲の空気および基板14である。図4に示したフォトニック結晶光導波路17は、1次元フォトニック結晶15を用いて構成された光導波路素子である。なお、図4において、光の伝搬方向は、Z軸方向である。
フォトニック結晶光導波路17の一端に入射光12を入射させる。入射光12は、均質光導波路16に結合し、均質光導波路16から1次元フォトニック結晶15に結合して、長手方向(Z軸方向)に光は伝搬して、フォトニック結晶光導波路17の他端から出射光13として出射される。この光を高次バンド伝搬光とすれば、1次元フォトニック結晶15中において、高次バンド伝搬光は群速度異常が生じる。それにより、このフォトニック結晶光導波路17を、例えば、光遅延素子として用いることができる。
また、図5は2次元フォトニック結晶を用いた光ファイバ21の構成を示す斜視図である。光ファイバ21は、円柱形であり、その軸方向に光が伝搬する。光ファイバ21は、コア22とその周りに形成されたクラッド23とを備えている。コア22は、光の伝搬方向(Z軸方向)は屈折率が一様であり、X軸およびY軸方向には屈折率周期を有している2次元フォトニック結晶である。クラッド23は、フォトニック結晶ではなく、通常の均質材料からなる。このような構成の光ファイバ21は、2次元フォトニック結晶であるコア22の屈折率が一様な方向への光の伝搬に関しては、上述した1次元フォトニック結晶の場合と同様のバンド図が得られる。したがって、高次バンド伝搬光を2次元フォトニック結晶で構成されたコア22に伝搬させれば、光ファイバ21を、例えば、強力な分散補償効果を有する光ファイバとして用いることができる。
しかし、図4あるいは図5に示す、フォトニック結晶光導波路17あるいは光ファイバ21を高次バンド伝搬光の光導波路あるいは光ファイバとして用いるには、いくつかの問題点がある。図2および図3から明らかなように、高次バンド伝搬光が伝搬する場合には必ず第1バンド伝搬光も伝搬している。第1バンド伝搬光は、高次バンド伝搬光を利用しようとする場合にはエネルギーの損失であり、入射光の利用効率を大きく低下させてしまう。さらに、第1バンド伝搬光は、高次バンドによる伝搬光とは群速度が異なるので、信号に大きな波長分散が生じてしまうという問題もある。
また、図1において、1次元フォトニック結晶1から光が出射される端面1bにはY軸方向、X軸方向の屈折率周期構造が露出している。そのため、高次バンド伝搬光自体も強度と位相の周期性を有するため、出射光3はいろいろな次数と方向の回折光が混在したものとなる。したがって、出射光3の取り扱いが困難である。
さらに、高次バンド伝搬光の実効屈折率が1次元フォトニック結晶1と接する周囲の媒体(クラッド)の屈折率よりも小さくなると、導波光4がクラッドに漏れてしまう。そのため、コアである1次元フォトニック結晶1中を光が導波しなくなる。特に、高次バンド伝搬光の実効屈折率が1未満になると、クラッドを空気としても漏れを防ぐことができなくなるという問題もある。
また、図1で示す1次元フォトニック結晶1の端面1aからコアに平面波が入射した場合の、1次元フォトニック結晶1中での導波光4のZ軸方向における電場の強さが図6および図7に示されている。図6は、図1で示した1次元フォトニック結晶1内での、Z軸方向における第1バンド伝搬光の電場の強さを表わした模式図である。また、図7は、図1で示した1次元フォトニック結晶1内での、Z軸方向における高次バンド伝搬光の電場の強さを表わした模式図である。光の電場は波で表わされる。電場の山4aは実線、電場の谷4bは破線で表わしている。また、振幅の大きさはそれぞれの線の太さで表わされ、線が太い方が振幅は大きいことを表している。なお、導波光の波長は、λである。
図6に示すように、第1バンド伝搬光は、電場の振幅が物質5a内と物質5b内で異なるものの、電場の山4aと谷4bはそれぞれZ軸と垂直な平面となるので、平面波に近い伝搬となる。
それに比べて、高次バンド伝搬光は、例えば、図7に示すように電場振幅が0となる「節4c」が物質5aおよび物質5bの境界付近に生じる。そのため、隣接する物質5aおよび物質5bで形成される積層構造の1周期は山と谷の2つの領域に分割される。隣り合う領域(物質5aおよび物質5b)では波動の位相が半波長ずれているため、山と谷が入れ違いに現われる。このように1周期あたり2個の節4cが生じるのは第2もしくは第3バンドの場合である。さらに高次のバンドによる導波光では、1周期内の節の数がさらに増えて、1周期内での半波長ずれが何回も起こるようになる。
したがって、複数のバンドがともに関与する波長の入射光の場合に対する伝搬光は複数となり、両者が重なって複雑な電場パターンを示すことになる。例えば、図2に示した、真空中での波長がλBである入射光だと、第1および第3バンドの二つに対する伝搬光を有しているので、フォトニック結晶中に複数の伝搬光が存在する。そのため、複雑な伝搬パターンを示すこととなる。
しかし、本発明者らの研究によって、導波光の伝搬方向におけるフォトニックバンドが存在するフォトニック結晶に、位相変調を施した入射光を結合させると、特定の高次バンド伝搬光のみ伝搬させることが可能であることが明らかとなった。本実施の形態のフォトニック結晶光導波路は、これを利用している。
本実施の形態のフォトニック結晶光導波路について、図面を用いて説明する。図8は、本実施の形態に係るフォトニック結晶光導波路10の構成を示す断面図である。図8に示すように、フォトニック結晶光導波路10は、光導波路部および位相変調部である位相格子6を備えている。光導波路部は、Y軸方向のみ屈折率周期構造を有する1次元フォトニック結晶1であるコアとコアの周りの空気であるクラッドとを備えている。図8においては、クラッドはコアである1次元フォトニック結晶1の周りにある空気であるので、図示していない。なお、クラッドを空気とせずに、適当な材料をクラッドとして、1次元フォトニック結晶1の周りに設置してもよい。
1次元フォトニック結晶1は図1で示したものと同一とする。すなわち、それぞれ屈折率の異なる物質5aと物質5bとが交互にY軸方向に積層されて構成された多層構造5を有する。光の伝搬方向であるZ軸方向においては、屈折率は一様である。物質5aの厚さと、物質5bの厚さとの和が、多層構造5の周期aである。また、1次元フォトニック結晶は、導波光の伝搬方向(Z軸方向)には、フォトニックバンドが存在している。なお、以下の図において、Z軸方向は光の伝搬方向であり、Y軸方向は、1次元フォトニック結晶の積層方向とする。
位相格子6は、光が入射する1次元フォトニック結晶1の端面に近接もしくは接触するように設置されている。例えば、位相格子6と1次元フォトニック結晶1との間には、空間18が形成されていてもよい。
図9は、本実施の形態に係るフォトニック結晶光導波路10における、導波光のZ軸方向における電場の強さを模式的に表わした図である。図9においては、光の電場は波で表わされるため、電場の山4aは実線、電場の谷4bは破線で表わしている。また、振幅の大きさは線の太さで表わされ、線が太い方が振幅は大きいとする。
位相格子6は、入射した平面波である光に、Y軸方向に周期aでおおよそ半波長差を生じる作用がある。平面波である入射光7が、位相格子6に入射すると、図7で示した1次元フォトニック結晶中の高次バンド伝搬光に類似した電場パターンが、空間18に生じる。この電場パターンを有する光8が、1次元フォトニック結晶1の端面から入射し、1次元フォトニック結晶1内を伝送する場合には、第1バンドによる伝搬光は発生せず、高次バンド伝搬光のみが生じることが、本発明者らのシミュレーションにより明らかとなった。このようにすると、1次元フォトニック結晶1内を伝搬する波動は、そのエネルギーの全部もしくは半分以上が高次のフォトニックバンドに属するようにすることができる。
つまり、「フォトニック結晶に対して、フォトニック結晶の周期構造と同じ方向に同じ周期を有する適当な位相変調波を入射させると、特定のバンドに属する伝搬光のみを得ることができる。」
位相変調部として位相格子6を用いているが、位相変調部の条件について具体的に説明する。
最も簡便な位相変調部は、1次元フォトニック結晶1であるコアの周期的多層膜層と同じ周期を有する位相格子である。位相格子6は、例えば、図8に示すように屈折率の異なる物質5cと物質5dとが周期的に交互に積層された構成である。本発明者らはシミュレーションによって、位相格子6の最適化をすることが好ましいことを見出した。
例えば、図8における物質5cおよび物質5dのY軸方向の厚さtCおよびtDや、位相格子6の光の伝搬方向(Z軸方向)における長さLや、空間18のZ軸方向の厚さGや、空間18の屈折率nGを最適化することが好ましい。これらの最適化においては、例えば、1次元フォトニック結晶1の多層構造5の特性である物質5aおよび物質5bの厚さtAおよびtBの比率や、物質5aおよび物質5bの屈折率なども調整することが好ましい。位相格子6と1次元フォトニック結晶1の周期は同調させることが好ましい。具体的には、
tA+tB=tC+tD
の条件を満たし、かつ物質5aと物質5cとのY軸方向中心、および物質5bと物質5dとのY軸方向中心はそれぞれ一致している。これにより、位相格子6と1次元フォトニック結晶1の周期が同調している。
位相格子6と1次元フォトニック結晶1との間の空間18の厚さGも導波光に影響するので最適な範囲を選ぶことが好ましい。
また、多層構造5の周期a(=tA+tB)が、入射光7の真空中の波長λ0以下である場合は、両者の間隙である空間18を空気層とすると、位相格子6による±1次回折光が伝搬できなくなり、反射光が多くなる。これを防ぐためには、空間18を屈折率の大きい媒体で満たして、空間18の屈折率を大きくする方法がある。具体的には、屈折率nGである媒体で、空間18を満たせばよい。nGは、以下の式で表わされる。
λ0/nG<a
ここで、λ0/nG<aの条件であれば、空間18の厚さGは、媒体中の波長(λ0/nG)を基準として、その5倍以内であることが望ましい。厚さGが大きすぎると、±1次回折光が互いに大きく離れてしまい、干渉波の形成される部分が減ってしまう。
また、λ0/nG<aの条件であっても、空間18の厚さGがほぼゼロ(λ0/nGの1/10以下)とすれば、エバネッセント波による結合が可能となる場合もある。
位相格子6は、例えば、1次元フォトニック結晶1の光入射側の端面1a近傍を切断して、1次元フォトニック結晶1から分離した部分としてもよい。切断によって、1次元フォトニック結晶1と位相格子6との間にできる溝が空間18となる。このとき、切断する部分の厚さ(位相格子6の厚さL)および溝の幅(空間18幅G)を調整して特定の高次バンド伝搬光のみが伝搬するようにすればよい。もちろん、溝は空気層としても良いし、均一媒体で満たしても良い。
また、図10は、本実施の形態に係る他のフォトニック結晶光導波路20の電場を示す模式図である。図10は、図9のフォトニック結晶光導波路10の、1次元フォトニック結晶1の出射側の端面に近接もしくは接触するように、前述の入射側端面に設置した位相格子6と同様の位相変調部である位相格子6bを設置した構成である。位相格子6bと1次元フォトニック結晶1との間には空間が形成されている。こうすることで、1次元フォトニック結晶1から出射された特定のバンドに属する光である出射光8bが、平面波9に変換される。つまり、1次元フォトニック結晶1から出射された特定のバンドに属する出射光8bが、位相格子6bに入射すると、平面波に変換される。なお、図10では、電場の山4aの部分しか図示していない。位相格子6bの構造は、図8の位相格子6と同様にすることが好ましく、フォトニック結晶1と位相格子6bとの間の空間も、図8の空間18と同様の条件とするのが好ましい。
図5に示している、2次元フォトニック結晶である光ファイバ21を光導波路部として、その両端に、位相格子などの位相変調部を設置することで、上述のフォトニック結晶光導波路と同様の効果を得ることができる。この場合は、光導波路部である光ファイバ21と同様に、位相格子も2次元構造とする。それにより、1次元フォトニック結晶と同様に、特定の高次バンド伝搬光のみによる伝搬を実現することができる。
この場合も、上述したように、高次バンド伝搬光の実効屈折率がコア22の外周に形成されたクラッド23の屈折率よりも小さくなると、コア22からの伝搬光の屈折による漏れが発生する。特に、高次バンド伝搬光の実効屈折率が1以下になると、クラッドを空気としても漏れを防ぐことができなくなる。
例えば、このような、実効屈折率の低下による導波光のコアからの漏れを防いで、導波光をコア中に閉じ込めるためには、例えば図11に示すように、フォトニック結晶であるコアの周囲に、クラッドとして、金属膜などの反射層32を設けることが好ましい。図11は、本実施の形態に係る他のフォトニック結晶光導波路30の断面図である。図11のフォトニック結晶光導波路30は、前述した図1に示している1次元フォトニック結晶1であるコアと、その両端面には空間38を介して位相格子36が設置されている。また、1次元フォトニック結晶1を挟むように接して、クラッドである金属膜などの反射層32が形成されている。このような構成とすることで、コアである1次元フォトニック結晶1から漏れる光が、反射層32によって反射されて、コアである1次元フォトニック結晶1中に閉じ込められる。
しかし、クラッドに反射層32を用いたとしても、多層膜構造であるフォトニック結晶光導波路30の強度の低下や、反射層32における反射率の不足による減衰等の問題が生じる場合がある。図12は、本実施の形態に係る他のフォトニック結晶光導波路40の断面図である。図12に示すフォトニック結晶光導波路40が、図11に示すフォトニック結晶光導波路30と異なる点は、クラッドに反射膜ではなく、フォトニック結晶11を用いている点である。フォトニック結晶光導波路40は、図12に示すように、反射膜の代りに、屈折率周期性を有するフォトニック結晶11をクラッドとして設置されている。クラッドであるフォトニック結晶11は、導波光の伝搬方向(Z軸方向)に垂直な少なくとも一方向に屈折率周期性を有し、導波光の伝搬方向には一様な屈折率を有する。なお、このクラッドであるフォトニック結晶11は、コアである1次元フォトニック結晶1とは異なる構造であり、屈折率周期も異なるようにしてある。それにより、クラッドであるフォトニック結晶11のフォトニックバンドギャップが、コアである1次元フォトニック結晶1の伝搬光のZ軸方向波数ベクトルkzに対応するところに存在するようにしてある。そのため、1次元フォトニック結晶1中への導波光の閉じ込めが実現される。
上述のようにクラッドにフォトニック結晶11を用いる場合の好ましい条件について以下に説明する。図13Aおよび図13Bは、同じ厚さの2種類の物質をそれぞれ交互に層となるように重ねた1次元フォトニック結晶のバンド図を示している。これら2種類の物質の屈折率はそれぞれ、1.00および1.44である。図13Aの多層構造の周期はaとし、図13Bの多層構造2種類の周期はa′=0.434aとする。図13Aと図13Bとは、同じスケールで2次元的に示している。縦はY軸方向でバンドごとの上下は、中心から±π/aもしくは±π/a′の範囲で第1ブリルアンゾーンを表わす。また、横はZ軸方向(X軸方向も同じ)であり、屈折率の周期性がない方向なのでブリルアンゾーンの境界線は存在しない。図の左右は、計算を行なった範囲を示しているもので、この範囲に特別な意味はない。
ブリルアンゾーン内での位置はフォトニック結晶内での波数ベクトルを意味し、等高線状の曲線は特定の規格化周波数a/λ0(もしくはa′/λ0)に対応するバンドを意味する。ちなみに、前述した図2および図3はこのようなバンド図の一部(Z軸の正の部分)のみを取り出して1次元的に表記したものである。
図13Aでは、周期aの1次元フォトニック結晶について、波長λ0=0.725a(a/λ0=1.38)に対応するバンドを太線で表わしている。また、Z軸方向の第1バンド伝搬光を表わす波数ベクトルを破線矢印41で、Z軸方向の高次バンド伝搬光を表わす波数ベクトルを矢印42で表示してある。また、図13Bには、同じ波長λ0=0.725a(a′/λ0=0.60)に対応するバンドを太線で示している。
高次バンド伝搬光の波数ベクトルを表す矢印42の大きさを示す破線43および第1バンド伝搬光の波数ベクトルを表す破線矢印41の大きさを示す破線44を、図13Bに引いている。図よりわかるように、それに対応するバンドが図13Bには存在していない。図13Aにおける高次バンド伝搬光の波数ベクトルに対応する(Z成分が同じとなる)バンドが図13Bには存在していない。したがって、図13Aで表わされる周期aの結晶中の高次伝搬バンドは、図13Bで表わされる周期a′のフォトニック結晶には存在しない。
そのため、図12に示すように、周期aの1次元フォトニック結晶1をコアとし、その両側に周期a′のフォトニック結晶11をクラッドとして光導波路部を構成すればよい。そのような光導波路部において、周期aのフォトニック結晶中を伝搬している高次バンド伝搬光は、周期a′のフォトニック結晶に漏れ出ていくことができない。したがって、周期aのフォトニック結晶であるコア中に光を閉じ込めて伝搬することができる。
クラッドに用いるフォトニック結晶11は、コアに用いる1次元フォトニック結晶1とは材料や構造が異なったものであっても構わない。しかし、多層構造の作製における手間を考えれば両者は同じ材料を用いて、クラッドに用いるフォトニック結晶11の屈折率周期を小さくすることが望ましい。もちろん、上述した、コアでは存在する波数ベクトルが、クラッドでは存在しないことは、バンド計算によってあらかじめ確認してからフォトニック結晶光導波路の設計をする必要がある。
なお、図13Aおよび図13Bより、第1バンド伝搬光に対応するバンドも、図13Bには存在しないため、第1バンド伝搬光も、1次元フォトニック結晶1中を伝搬する。しかし、例えば、クラッドのフォトニック結晶11の周期a′や多層膜の構造を調整すれば、第1バンド伝搬光はコアである1次元フォトニック結晶1から漏れるようにし、かつ、高次バンド伝搬光を閉じ込めることができる。バンド計算により、そのような条件となるよう設計することで、第1バンドによる伝搬光を途中で完全に排除することができるフォトニック結晶光導波路を実現できる。
一般的に、バンド図による閉じ込めの判定においては、無限周期構造のフォトニック結晶を前提としたものである。そのため、実際には、閉じ込め用フォトニック結晶の周期数が例えば3周期くらいであると、閉じ込めが不十分となり導波光が外部に漏れてしまうことがある。もちろん、不必要に周期数を多くすることはコストと多層膜の耐久性や精度の点から好ましくない。実際に必要な最低限の周期数は、実験や電磁波シミュレーションにより決定することが望ましい。
これまで述べてきたのは1次元フォトニック結晶内の高次バンド伝搬光を閉じ込める場合である。2次元フォトニック結晶光ファイバの場合でも、クラッド用のフォトニック結晶によりコア部分を取り囲むことにより閉じ込めを実現することができる。
また、図14Aおよび図14Bは、多層構造である2次元フォトニック結晶を模式的に表わしたものである。図14Aおよび図14Bは、X軸方向およびY軸方向に周期性を有し、Z軸方向には周期性の無い2次元フォトニック結晶の例である。図14Aのフォトニック結晶50aは、4種類の媒体51、52、53および54が積層されている。XY断面でこれら4種類の媒体51、52、53および54が露出している。図14Bのフォトニック結晶50bは、3種類の媒体55、56、57とで構成されている。フォトニック結晶50bは、例えば、2種類の媒体55、56をY軸方向に積層した後に、YZ面に平行な溝をX軸方向に周期的に形成することで容易に作製することができる。なお、この場合、媒体57は空気であるが、空気の代りに他の媒体を充填してもよい。
これらフォトニック結晶50aおよび50bを、コア、クラッドおよび位相格子の少なくともいずれか1つとして用いることで、本実施の形態のフォトニック結晶光導波路を実現してもよい。
以下、本実施の形態の満たすべき条件をさらに具体的に説明する。
図9には示していないが、第4バンド以上の高次バンドも第2、第3バンドと同様に大きい波長分散を示す。しかし伝搬光のバンドが高次になるに従って、Y軸方向の1周期あたりに存在する波動の「節」が増えるので、位相変調のパターンがより複雑になる。したがって、1周期あたりに2個の節がある第2もしくは第3バンドを高次伝搬バンドとして利用することが最も望ましい。もちろん「非結合性」バンドは利用できないので、望ましいバンドは「最低次から2番目の結合性バンド」ということになる。前述したように、第1バンドは結合性である。
また、高次伝搬バンドによる伝搬光ではいわゆる「フォトニック結晶における群速度異常」が生じるため、非線形光学効果の増強作用を起こすことなどが期待されている。本実施の形態では群速度異常がほとんど起こらない第1バンド光にエネルギーを取られることがないので、たとえば多層膜やフォトニック結晶光ファイバのコア部分に非線形光学物質を含ませることによってより大きい光学的非線形性の増強効果を得ることができる。(Optical Fiber Communication 2002/Conference and Exhibit Technical Digest ThK4(p.468)参照)
例えば、図4で示しているようなコアである1次元フォトニック結晶15は、X軸方向とY軸方向の構造に大きな違いがある。そのため、偏光方向により実効屈折率や群速度は異なる値となる。これは、図2(TE偏光)と図3(TM偏光)との特性が異なることからも明らかである。したがって、本実施の形態にかかるフォトニック結晶光導波路においては、光導波路部の偏光モードによる差をなくすために、修正用の複屈折素子を光路の途中に挿入することが好ましい。なお、複屈折素子としては、例えば、複屈折結晶、構造性複屈折素子またはフォトニック結晶などを用いることができる。
本実施の形態に用いるフォトニック結晶の材料としては、使用波長域における透明性が確保できるものであれば特に限定はないが、1次元の場合には一般的に多層膜の材料として用いられていて耐久性や製膜コストの点で優れたシリカ、窒化シリコン、シリコン、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブおよびフッ化マグネシウムなどが適する材料である。上記材料は、スパッタリング、真空蒸着、イオンアシスト蒸着およびプラズマCVDなどの良く知られた方法により、容易に多層膜構造を形成することができる。2次元フォトニック結晶ファイバの場合には、石英ファイバに空気孔を並べたものが最も簡単な構成である。
フォトニック結晶を構成する複数の材料間の屈折率比は大きくなるほど、波長分散なども大きくなる傾向がある。したがって、そのような特性が必要な用途に対しては高屈折率材料と低屈折率材料を組合せて、フォトニック結晶を構成することが望ましい。実用的に実現できる屈折率比としては、例えば、低屈折率材料として屈折率が1である空気を用い、高屈折率材料として屈折率が4.21であるInSbを用いると、屈折率比を4以上にできる(「微小光学ハンドブック」224頁、朝倉書店 1995年、参照)。
フォトニック結晶を構成する材料の屈折率比が小さくなると、偏光方向による特性の違いが小さくなる傾向があるので、偏波無依存を実現するためには屈折率比の小さい組合せも有用である。ただし、屈折率比があまり小さくなると変調作用が弱くなり、期待される作用が発揮されないこともあるので、屈折率比として1.2以上確保することが望ましい。
光導波路部分と位相格子部分とを隔てる空間は、多層膜を積層し、多層構造を作製した後に、レジスト層塗布、パターニング、エッチング、レジスト層の除去といった一般的な工程を順次行なうことで形成することができる。図8に示す溝部分すなわち空間18は、空気で満たされていてもよいし、真空としてもよい。それにより、空間18は、低屈折率となる。また、空間18に媒体を充填してもよい。充填する媒体としては、有機樹脂、ゾル状態のガラスおよび溶融状態の半導体材料などを用いることができる。なお、ゾル状態のガラスはゲル化した後に加熱して透明なガラスとすることができる。
材料を適切に選定すれば、通常使用される200nm〜20μm程度の波長範囲の光を用いて、本実施の形態のフォトニック結晶光導波路を使用することができ、十分にその特性を発揮する。また、本実施の形態は光を対称として説明したが、光だけでなく、電磁波一般にも適用できるものである。
なお、フォトニック結晶の出射端側に、位相変調部が設置されている場合のフォトニック結晶と位相変調部との空間も同様である。
図15は、本実施の形態に係るフォトニック結晶光導波路の斜視図である。
フォトニック結晶光導波路69は、基板61と、基板61上に、コアである1次元フォトニック結晶66と、1次元フォトニック結晶66の入射側および出射側端面には、空間68aおよび空間68bを介して位相格子66aおよび位相格子66bが設置されている。なお、実際には、1次元フォトニック結晶66の上下には金属膜あるいは1次元フォトニック結晶による反射層(図11または図12参照)が設けてあるが、図示はしていない。また、位相格子66aの外側には、均質物質により構成された均質光導波路67aが設置されている。位相格子66bの外側には、複屈折素子64および均質光導波路67bが設置されている。なお、クラッドは、1次元フォトニック結晶66の周囲の空気も含まれる。また、位相格子66aおよび位相格子66bは、基は、1次元フォトニック結晶66の端部であり、1次元フォトニック結晶66の端部を切断して切り離した部分である。
1次元フォトニック結晶66は、例えば、基板61全面に周期的多層膜を成膜してから、エッチングによって線状部分だけを残して、それ以外の多層膜を除去することによって作製することができる。なお、1次元フォトニック結晶66は、光の伝搬方向には、一様の屈折率を有しており、積層方向に屈折率周期を有している。
信号光である入射光62は、例えば、光ファイバ等によって、均質光導波路67aに結合する。この信号光は均質光導波路67a中を伝搬して、位相格子66aを介して、1次元フォトニック結晶66に送られる。位相格子66aと1次元フォトニック結晶66との間には、空間68aが形成されている。上述したように、信号光が位相格子66aを介してコアである1次元フォトニック結晶66に入射されるので、1次元フォトニック結晶66中を伝搬する導波光は高次バンド伝搬光のみとなる。
1次元フォトニック結晶66中を伝搬している高次バンド伝搬光は、1次元フォトニック結晶66の出射端から空間68bに出射され、位相格子66bに入射し、位相格子66bによって再び平面波に変換される。平面波に変換された光は、位相格子66bから複屈折素子64に送られ、偏光モードによる位相のずれが補償され、均質光導波路67bに送られる。均質光導波路67bを通って出射された出射光63は、例えば、光ファイバ等に結合される。
高次バンド伝搬光は前述したように入射光の波長によって群速度が大きく変化するので、このフォトニック結晶光導波路69は、光通信用信号光の分散補償素子および光遅延素子といった用途に用いることができる。また、前述したように群速度の遅い伝搬光には非線形光学効果を増強する作用がある。従来あるものよりもはるかに非線形光学効果の大きい素子とする方法を以下に示す。例えば、1次元フォトニック結晶66部分に、非線形光学作用を示す物質を微粒子状にしてドープすることで非線形光学効果を高める。具体的には、微細な粒子を分散させ、量子ドットの作用を用いる。
また別の方法は、1次元フォトニック結晶66の1周期ごとに、非線形光学作用を示す物質を含む薄膜層を設置して、非線形光学効果を高める。具体的には、薄膜層の少なくとも片方をゾルゲル法により作製し、有機色素やフォトリフラクティブ効果のある有機物質を含有させる。
さらに別の方法は、1次元フォトニック結晶66を形成する物質そのものを、非線形作用のあるものとすることで非線形光学効果を高める。具体的には、1次元フォトニック結晶の材料自体をLiNbO3などの、非線形性の大きい物質とする。
図16は、偏光方向による位相差を補償する光導波路素子70を示す斜視図である。図16は、図15に示したフォトニック結晶光導波路69を2個用いている。一方のフォトニック結晶光導波路69を、他方に対し光の導波方向を軸として、90°回転して接続した構成である。なお、図16のように入射側(図16においては左側)に設置されたフォトニック結晶光導波路69の出射側の均質導波路および出射側(図16においては右側)に設置されたフォトニック結晶光導波路69の入射側の均質導波路は省いてもよい。また、図15では用いていた、複屈折素子も省いている。2つの1次元フォトニック結晶光導波路69は、それぞれ出射側の位相格子66bと入射側の位相格子66aとで接続されている。
入射側のフォトニック結晶光導波路69へ入射した平面波のTE偏光成分とTM偏光成分とは、導波路中での群速度と波長が異なるので、位相差、強度差および非線形作用などに差が生じている。しかし、入射側のフォトニック結晶光導波路69と同じ構造と長さであって、方向のみ90°回転した出射側のフォトニック結晶光導波路69中を通過することで、位相差、強度差および非線形作用などの生じた差はキャンセルされる。したがって、図16に示す光導波路素子70は、偏光による差を生じない。
図15に示す1次元フォトニック結晶66の代りに、例えば、図14Aおよび図14Bに示すような、Y軸方向に加えてX軸方向にも周期性のある2次元フォトニック結晶を用いることもできる。この場合、構造の最適化を行なえば偏光モードによる差をなくすことも可能となる。もちろん、コアとなる2次元フォトニック結晶を切断することで作製する位相格子も2次元構造となる。
なお、フォトニック結晶の2次元化は、図14Bに示すように、多層膜層にエッチングなどの手段でZ軸方向の平行溝を形成すれば容易に実現することができる。
図17は、本実施の形態に係るフォトニック結晶光ファイバの模式図である。
フォトニック結晶光導波路の光導波路部である光ファイバ79本体は、2次元フォトニック結晶構造を有するコア71と、その周囲のクラッド72から構成される。なお、光の伝搬方向の屈折率は一様である。光ファイバ79の両端には、コア71の周期に合わせた位相格子76aおよび76bが設置されており、入射光(平面波、図示しない)はコア71を高次バンド伝搬光として伝搬して、出射端で再び平面波に復元される。両端の位相格子は同じものなので、どちらの方向にも用いることができる。
なお、コア71およびクラッド72の屈折率周期が、光ファイバ79の中心軸に対して、対称であることが好ましい。それにより、偏光モードによる差が生じないという長所がある。
光ファイバ79のクラッド72のフォトニック結晶は、コア71のフォトニック結晶と異なる周期や構造を有し、コア71の導波光をフォトニックバンドギャップによって閉じ込める役割をなす。なお、フォトニック結晶であるクラッド72は、コア71に光が閉じ込められるだけの厚みがあればよく、光ファイバ79の外周部分にまでフォトニック結晶が形成されている必要はない。
光ファイバ79の導波光は高次バンドによるものなので、最低次バンドによる単一モード伝搬を用いる従来の光ファイバよりもはるかに大きい群速度異常が発生する。したがって、強力な分散補償効果や非線形光学効果を発揮することができる。
また、コア71は周期構造であり大きさに制限がないので、大口径のコア71を容易に実現することができ、ファイバ間接続を簡略にすることもできる。
図18は、本実施の形態に係る同心円状フォトニック結晶光ファイバ89の模式図である。
光ファイバ89は、半径方向に周期的な屈折率分布を有する。光ファイバ89は、その中心軸からの距離に対して周期的かつ同心円状の屈折率周期を有する2次元フォトニック結晶であるコア81およびクラッド82により構成される。なお、光の伝搬方向の屈折率は一様である。光ファイバ89の両端には、コア81の周期に合わせた位相格子86aおよび86bが設置されており、平面波である入射光(図示せず)はコア81中を高次バンド伝搬光として伝搬して、出射端で再び平面波に復元される。両端の位相格子86a、86bは同じものなので、入出射の方向は逆方向であってもよい。
クラッド82は、コア81と異なる屈折率周期を有し、コア81の導波光をフォトニックバンドギャップによって閉じ込める役割をなす。
この光ファイバ89は光軸対称の構成なので、偏光モードによる差が生じないという長所がある。群速度異常による効果や、コア部分の大きさに制限がない点は、図17の光ファイバ79と同様である。
また、図17および図18の光ファイバ79および89は、例えば、断面が略円形であるファイバ状の均質物質に、空洞を形成することで、前記均質物質と空気とにより屈折率周期を形成し、作製すればよい。なお、空洞は、ファイバ状の均質物質の長手方向に沿って複数形成されればよい。空洞は、導波光に対して平行であればよい。また、この空洞の全部もしくは一部に、流動性物質を充填して、さらに異なる屈折率周期を形成してもよい。例えば空洞には、流動性物質として、アクリルモノマーを充填し、外部から紫外線を照射して、このアクリルモノマーを重合させてもよい。
なお、本実施の形態で具体的に示した、構成等は、あくまでも一例であり、本発明はこれらの具体例のみに限定されるものではない。例えば、本実施の形態の光導波路部のコアであるフォトニック結晶は、光の伝搬方向に一様の屈折率を有し、伝搬方向に垂直な少なくとも一方向に屈折率周期を有する構成であればよい。また、導波光の伝搬方向に、フォトニックバンドが存在していればよい。
オー・プラス・イー、2001年、23巻、9号、1061頁
nB=2.18、tB=0.5a
このような物質5aおよび物質5bの層を交互に重ねた周期aの多層構造5について、Z軸方向(X軸方向も同じ)における平面波法による第1〜第3バンドについてのバンド計算の結果が、図2および図3に示されている。ここで、TE偏光とは電場の向きがX軸方向である偏光を、TM偏光とは磁場の向きがX軸方向である偏光を表わしている。
なお、以上は、TE偏光について図2を用いて説明したが、図3からわかるように、TM偏光においてもTE偏光と同様の関係があるが、説明は省略する。
位相変調部として位相格子6を用いているが、位相変調部の条件について具体的に説明する。
tA+tB=tC+tD
の条件を満たし、かつ物質5aと物質5cとのY軸方向中心、および物質5bと物質5dとのY軸方向中心はそれぞれ一致している。これにより、位相格子6と1次元フォトニック結晶1の周期が同調している。
ここで、λ0/nG<aの条件であれば、空間18の厚さGは、媒体中の波長(λ0/nG)を基準として、その5倍以内であることが望ましい。厚さGが大きすぎると、±1次回折光が互いに大きく離れてしまい、干渉波の形成される部分が減ってしまう。
例えば、図4で示しているようなコアである1次元フォトニック結晶15は、X軸方向とY軸方向の構造に大きな違いがある。そのため、偏光方向により実効屈折率や群速度は異なる値となる。これは、図2(TE偏光)と図3(TM偏光)との特性が異なることからも明らかである。したがって、本実施の形態にかかるフォトニック結晶光導波路においては、光導波路部の偏光モードによる差をなくすために、修正用の複屈折素子を光路の途中に挿入することが好ましい。なお、複屈折素子としては、例えば、複屈折結晶、構造性複屈折素子またはフォトニック結晶などを用いることができる。
Claims (19)
- 導波光の伝搬方向に垂直な少なくとも一方向に屈折率周期性を有し、前記導波光の伝搬方向には一様な屈折率を有する構造のフォトニック結晶からなるコアと、前記導波光を前記コア内に閉じ込めるために、前記コアに接して設置されているクラッドとを有する光導波路部を備えたフォトニック結晶光導波路であって、
前記コアの光入射面に近接もしくは接触するように設置された入射側位相変調部を備えたことを特徴とするフォトニック結晶光導波路。 - 前記コアには、前記導波光の伝搬方向におけるフォトニックバンドが存在し、
前記入射側位相変調部は、入射した導波光を位相変調して、前記光導波路部の前記コアに伝搬させ、
前記コアは、前記位相変調された導波光のエネルギーの全部もしくは半分以上が高次の前記フォトニックバンドに属する波動を伝搬させる、請求の範囲1に記載のフォトニック結晶光導波路。 - 前記入射側位相変調部は、前記コアの屈折率周期と、同調されるような屈折率周期を有する位相格子である、請求の範囲1に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記入射側位相変調部は、前記コアと同一の構造を有し、前記コアと同一の屈折率周期を有する位相格子である、請求の範囲1に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記入射側位相変調部は、前記コアの光入射面側の端部近傍を切断して、分離した部分である請求の範囲1に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記コアは、前記位相変調された導波光の低次側から二番目の結合性フォトニックバンドに属する波動を伝搬させる、請求の範囲2に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記導波光が出射される前記コアの出射面に、近接もしくは接触するように設置された出射側位相変調部をさらに備えている、請求の範囲1に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記出射側位相変調部は、前記コアの出射面から出射された光を平面波に変換する、請求の範囲7に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記出射側位相変調部は、前記コアの屈折率周期と、同調されるような屈折率周期を有する位相格子である、請求の範囲7に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記出射側位相変調部は、前記コアと同一の構造を有し、前記コアと同一の屈折率周期を有する位相格子である、請求の範囲7に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記出射側位相変調部は、前記コアの光出射面側の端部近傍を切断して、分離した部分である請求の範囲7に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記クラッドは、前記導波光の伝搬方向に垂直な少なくとも一方向に屈折率周期性を有し、前記導波光の伝搬方向には一様な屈折率を有するフォトニック結晶よりなる、請求の範囲1に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記コアは、光学的非線形作用を有する活性物質を含有している、請求項1に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記コアは、前記導波光の伝搬方向に垂直な一方向もしくは二方向に屈折率周期性を有し、前記導波光の伝搬方向には一様な屈折率を有する多層膜層である、請求の範囲1に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記光導波路部は、断面が略円形であるファイバ状であって、前記コアはファイバ状で、前記コアの外周に前記クラッドが形成されていて、
前記コアおよび前記クラッドは、前記導波光の伝搬方向には一様な屈折率を有する、請求項12に記載のフォトニック結晶光導波路。 - 前記コアおよび前記クラッドの各屈折率周期は、前記導波光の伝搬方向に平行である前記光導波路部の中心軸に対して、対称である、請求項15に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記光導波路部は、断面が略円形であるファイバ状の均質物質を備え、前記均質物質には、その長手方向に沿って複数の空洞が形成されていて、前記複数の空洞は、前記導波光の伝搬方向に平行である前記光導波路部の中心軸に対して対称となるように形成されている、請求の範囲16に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記空洞の全部もしくは一部に流動性物質が充填されている、請求の範囲17に記載のフォトニック結晶光導波路。
- 前記光導波路部の断面における屈折率は、前記導波光の伝搬方向に平行である前記光導波路部の中心軸からの距離に対して周期的かつ同心円状に変化している、請求の範囲16に記載のフォトニック結晶光導波路。
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