JPWO2003023036A1 - 硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子 - Google Patents
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Abstract
糖鎖工学用試薬、硫酸化フコース含有多糖の構造解析や該多糖の低分子化物の調製に有用な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、該ポリペプチドの遺伝子工学的製造方法、及び該方法によって得られるポリペプチド。
Description
技術分野
本発明は、糖鎖工学用試薬、硫酸化フコース含有多糖の構造解析や該多糖の低分子化物の調製に有用な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、該ポリペプチドの遺伝子工学的製造方法、及び該方法によって得られるポリペプチドに関する。
背景技術
褐藻類には何種類もの硫酸化フコース含有多糖が含まれている。例えば、▲1▼フコースと硫酸基のみからなる硫酸化フカン、▲2▼グルクロン酸、マンノース、フコース及び硫酸基を含有する硫酸化フコグルクロノマンナン、例えば国際公開公報第97/26896号パンフレットに記載のフコース硫酸含有多糖−U(構成糖及びそのモル比がフコース:マンノース:ガラクトース:ウロン酸:硫酸基=約10:7:4:5:20、以下、U−フコイダンと称す)、▲3▼フコース、ガラクトースよりなる硫酸化フコガラクタン、例えば、国際公開公報第97/26896号パンフレットに記載のフコース硫酸含有多糖−F(構成糖及びそのモル比がフコース:ガラクトース=約10:1、以下、F−フコイダンと称す)、あるいは国際公開公報第00/50464号パンフレットに記載のフコース硫酸含有多糖−G(構成糖及びそのモル比がガラクトース:フコース=約2:1、以下、G−フコイダンと称す)等の硫酸化フコース含有多糖が知られている。これらの硫酸化フコース含有多糖は、おおよそ総て陰イオン性高分子であるため、様々な精製工程において理化学的に同じ挙動を取り、分離が困難であった。そのため褐藻類の硫酸化フコース含有多糖はそれぞれ分離されることなく、そのまま生物活性が調べられることが多く、見出された生物活性を担うものがどの硫酸化フコース含有多糖であるのかを決定することは困難であった。
現在までに活性と分子の相関関連が知られているのは、アグリカルチュラル アンド バイオロジカル ケミストリー(Agricultural and Biological Chemistry)、第44巻、第8号、第1965頁〜第1966頁(1980)記載の抗凝血作用を担う硫酸化フカン画分、国際公開公報第97/26896号パンフレット記載の癌細胞に対するアポトーシス誘発作用を担うU−フコイダンである。
硫酸化フカン画分の抗凝血作用に関しては、ヘパリンの代わりに使用することが検討されてきた。しかし、薬品として使用する場合、予期せぬ活性すなわち副作用を防ぐためにも、高純度の硫酸化フカンを得る必要があり、その方法が求められていた。
同様に、U−フコイダンに関しても癌細胞に対するアポトーシス誘発作用を利用した薬品類を調製するために高純度のフコース硫酸含有多糖−Uを簡便に得る必要があり、その方法が求められていた。
一般的に、多糖の構造解析やオリゴ糖の製造に酵素分解を利用する方法は、最も効率良い方法である。また、分離が困難な多糖の混合物から一種類の多糖だけを除去する際にも、除去したい多糖を特異的に分解する酵素があれば、その多糖をその酵素で低分子化した後、限外ろ過等の分子量分画を行うことにより容易にその他の多糖と分離することができる。
従来よりアワビ、ホタテ貝、ウニ、海洋微生物などが上記の硫酸化フコース含有多糖を分解する酵素を生産していることが報告されている。しかし、これらの酵素は一般に生体内に微量しか含まれていない上に複数の硫酸化フコース含有多糖分解酵素を持っているために、単一の酵素を得るための様々な精製工程が必要となっていた。例えば、国際公開公報第00/50464号パンフレット記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素は活性を指標に分離したものであり、単一のタンパク質として単離されているかどうかは不明である。このように、単一の天然の硫酸化フコガラクタン分解酵素を大量に精製・採取することは困難であった。また、上記の硫酸化フコガラクタン分解酵素を海洋微生物から採取する場合においては、培養液中に硫酸化フコガラクタン、あるいは硫酸化フコガラクタンを含む硫酸化フコース含有多糖を添加することが必要であり、培養操作が繁雑であり、コスト高になるという問題があった。
さらに、上記方法により天然の硫酸化フコガラクタン分解酵素タンパクが十分採取できなければ該酵素のアミノ酸配列及び核酸配列の情報を得ることはまず不可能であり、仮に十分量採取できた場合でも該酵素タンパクのN末がブロッキングされていたならば、N末アミノ酸配列の情報を得られないという問題があった。
また、上記酵素をコードする遺伝子が取得できた場合においても、発現プロモーターあるいは宿主との相性により、発現しないか、発現しても低発現である、あるいは封入体となって酵素活性を保持した組換体酵素を得ることができないなど予測がつかない問題があった。
発明の目的
本発明の目的は、糖鎖工学用試薬、硫酸化フコース含有多糖の構造解析や該多糖の低分子化物の調製に有用な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、該ポリペプチドの遺伝子工学的製造方法、及び該方法によって得られるポリペプチドを提供することにある。
発明の概要
本願の発明者らは、褐藻類に含まれる硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列及び塩基配列を明らかにするために、硫酸化フコガラクタン分解酵素を生産する微生物の遺伝子について鋭意研究を進めた結果、フラボバクテリウム属細菌由来の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が少なくとも2種類存在することを明らかにし、その塩基配列を決定した。また、該ポリペプチドのアミノ酸配列を明らかにし、さらに該遺伝子を用いて硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを工業的に有利に生産する方法をも開発することに成功し、本発明を完成させた。
本発明の第1の発明は、下記の群より選択され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有することを特徴とするポリペプチドに関する:
(a)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列またはその一部を含むポリペプチド;
(b)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を有するポリペプチド;および
(c)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。
本発明の第2の発明は、下記の群より選択され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有することを特徴とするポリペプチドをコードする核酸に関する:
(a)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列またはその一部を含むポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列表の配列番号27、29のいずれか1つに示される塩基配列を含む核酸;
(d)配列表の配列番号27、29のいずれか1つに示される塩基配列において、少なくとも1つの塩基が欠失、付加、挿入または置換を有する塩基配列からなる核酸;
(e)前記(a)〜(d)のいずれかに記載の核酸またはその相補鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸;および
(f)配列表の配列番号27、29のいずれか1つに示される塩基配列に少なくとも50%の相同性を有する塩基配列である核酸。
本発明の第2の発明において、硫酸化フコガラクタンに作用して、該硫酸化フコガラクタンを低分子化し、下記式(I)、(II)、(III)及び(IV)から選択される少なくとも1以上の化合物を遊離させる活性を有することを特徴とするポリペプチドが提供される:
(式中、RはH又はSO3Hである)。
本発明の第3の発明は、第2の発明の核酸を含んでなる組換えDNAに関する。
本発明の第4の発明は、第3の発明の組換えDNAが挿入されてなる、微生物、動物細胞又は植物細胞を宿主細胞とする発現ベクターに関する。
本発明の第5の発明は、第3の発明の組換えDNAまたは第4の発明の発現ベクターにより形質転換されてなる形質転換体に関する。
本発明の第6の発明は、第5の発明の形質転換体を培養する工程および該培養物より硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを採取する工程を包含することを特徴とする、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドの製造方法に関する。
本発明の第7の発明は、大腸菌BL21(DE3)/pEA101 FERM BP−8149又は大腸菌BL21(DE3)/pEB101 FERM BP−8150を培養して得られる、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドに関する。
本発明の第8の発明は、第1の発明または第7の発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させて採取されることを特徴とする硫酸化フコガラクタンの低分子化物に関する。
本発明の第9の発明は、第1の発明または第7の発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させる工程を包含することを特徴とする硫酸化フコガラクタンの低分子化物の製造方法に関する。
本発明の第9の発明において、脱アセチル処理した脱アセチル化硫酸化フコガラクタンに硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを作用させることを特徴とする硫酸化フコガラクタンの低分子化物の製造方法が提供される。
本発明の第10の発明は、第2の発明の遺伝子あるいはその一部をプローブとして用いて硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子をスクリーニングする工程を包含することを特徴とする硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のスクリーニング方法に関する。
本発明の第11の発明は、第1の発明または第7の発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させる工程を包含することを特徴とする、多糖類の構造解析方法に関する。
発明の詳細な説明
以下本発明に関して具体的に説明する。
本発明において硫酸化フコガラクタンとは、国際公開公報第00/50464号パンフレットに記載の硫酸化フコース含有多糖のことをいい、構成糖として主にガラクトースとフコースを含有し、そのモル比が1:1〜6:1であり、例えば、2:1の硫酸化フコガラクタンが例示される。また、平均分子量は、例えば、HPLCゲルろ過法で約13万(分子量分布は、約10万〜約20万)の硫酸化多糖である。なお、上記硫酸化フコガラクタンの分子量、糖組成、アセチル基含量及び硫酸基含量は、該硫酸化フコガラクタンの原料の収穫期、該原料の乾燥方法、該原料の保存方法により異なり、また硫酸化フコガラクタンの抽出時の加熱条件、pH条件等により異なる。例えば、酸により該硫酸化フコガラクタンは加水分解される場合がある。従って、本明細書に記載した硫酸化フコガラクタンの分子量、分子量分布、糖組成、アセチル基含量あるいは硫酸基含量はその1例にすぎず、該硫酸化フコガラクタンの抽出処理条件により、その分子量、分子量分布、糖組成、アセチル基含量あるいは硫酸基含量は容易に変化させ得る。例えば、本明細書に記載のU−フコイダン分解酵素及びF−フコイダン分解酵素を用いて硫酸化フコガラクタンを調製する場合、例えば上記の糖組成と分子量を示す硫酸化フコガラクタンが得られる。すなわち、調製方法の条件によって任意の分子量、分子量分布、糖組成、アセチル基含量あるいは硫酸基含量の硫酸化フコガラクタンを調製することができる。例えば、硫酸化フコガラクタンの主要な構成糖は、6糖あたりおよそ5残基の硫酸基を含んでいるが、一般的に糖にエステル結合している硫酸基は、化学的に不安定であり、酸やアルカリあるいは熱により容易に切断される。例えば、酸性やアルカリ性条件下で加熱処理を行えばその硫酸基含量は減少するものである。すなわち、硫酸化フコガラクタンから意図的に脱硫酸することが可能である。また、脱硫酸の際、酸やアルカリの種類や濃度、加熱処理時の温度や時間を調整すれば、切断する硫酸基の量も調整することができる。また、同様の処理によりエステル結合しているアセチル基も切断することができる。従って、本発明において硫酸化フコガラクタンは、前述の特徴を備えた硫酸化フコガラクタンもしくは、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素で低分子化される硫酸化フコガラクタンであればすべての褐藻類由来のものを包含する。
本発明において硫酸化フコガラクタンの主骨格は、下記一般式(V)に表される。下記一般式において、nは、1以上の整数であり、例えば、1〜1000の範囲、さらに好ましくは1〜500の範囲のものが硫酸化フコガラクタンに含まれる。
(式中、RはH、SO3H又はCOCH3である)
本発明において硫酸化フコガラクタンが由来する褐藻類は、特に限定されるものではないが例えば、ガゴメ昆布、ワカメ、マ昆布、アラメ、カジメ、クロメ、レッソニアニグレセンス、ジャイアントケルプ、ダービリア(Durvillaea)由来のものを調製することができる。特に限定はないが、例えば、ガゴメ昆布由来フコイダンには、U−フコイダン、F−フコイダン及びG−フコイダンが含まれている。
本発明において硫酸化フコガラクタンの塩としては、薬学的に許容される塩を用いることができ、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩、亜鉛等の遷移金属の塩、またはアンモニウム塩等が挙げられる。
本発明において硫酸化フコガラクタン低分子化物とは、硫酸化フコガラクタンに本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られるオリゴ糖であり、還元性末端糖が硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースである。
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチド
本発明において、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチド(本明細書においては、単に硫酸化フコガラクタン分解酵素と記載する場合がある)とは、硫酸化フコガラクタンあるいは脱アセチル化硫酸化フコガラクタンに作用して該硫酸化フコガラクタンを低分子化させ、還元性末端に硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースを持つオリゴ糖を生成させるポリペプチドをいう。また、国際公開公報第97/26896号パンフレットには、フコース硫酸含有多糖−Fを分解するエンド型フコース硫酸含有多糖分解酵素が記載されているが、該酵素は、本発明における硫酸化フコガラクタンを分解しない。
本発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドの一例として、本発明において単離精製されたフラボバクテリウム(Flavobacterium)sp.SA−0082株由来の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドがあげられる。該硫酸化フコガラクタン分解酵素は、硫酸化フコガラクタンのD−硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースとD−硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースの間のβ1−6結合及びβ1−4結合をエンド的に分解する酵素である。
本発明における硫酸化フコガラクタンを分解する酵素を生産する菌株としては、例えば、国際公開公報第97/26896号パンフレット記載のフラボバクテリウム(Flavobacterium)sp.SA−0082株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)]に平成7年3月29日よりFERM P−14872として寄託され、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−5402[国際寄託への移管請求日:平成8年2月15日]として寄託)があげられる。
本発明の硫酸化フコガラクタン活性を有するポリペプチドの一例としては、フラボバクテリウム属細菌由来の下記硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドがあげられる。
(I)作用▲1▼:構成糖としてガラクトースとフコースを含有し、そのモル比が1:1〜6:1である硫酸化フコガラクタン又はその塩に作用して該硫酸化フコガラクタンを低分子化させ、還元性末端に硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースを持つオリゴ糖を生成させる。
(II)至適pH:本酵素の至適pHは約7〜9付近にある。
(III)至適温度:本酵素の至適温度は約25〜45℃付近にある。
本発明において硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドとは、天然型の硫酸化フコガラクタン分解酵素のみならず、硫酸化フコガラクタン分解活性を有する限り天然型のアミノ酸配列においてアミノ酸の欠失、置換、挿入、付加等によりアミノ酸配列が改変されたポリペプチドをも本発明に含む意味である。また、ここで言う天然型硫酸化フコガラクタン分解酵素としては、例えばフラボバクテリウム属細菌由来のものが挙げられるが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、その他の細菌類はもちろん、酵母類、糸状菌類、子嚢菌類、担子菌類等の微生物由来のもの、あるいは植物、動物等の生物体由来のものも、本発明のアミノ酸配列、塩基配列と相同性を有していれば含まれる。
本発明のポリペプチドは、硫酸化フコガラクタン分解活性を示す限りにおいて、配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含み、該配列に1個以上のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入もしくは置換の少なくとも1つがなされたアミノ酸配列で示される機能的に同等の活性を有するポリペプチドを包含する。
本明細書において、機能的に同等の活性を有するポリペプチドとは、以下のようなものをいう。
天然に存在するタンパク質にはそれをコードする遺伝子の多型や変異のほかに、生成後のタンパク質の生体内及び精製中の修飾反応などによって、そのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、置換等の変異が起こりうるが、それにも関わらず変異を有しないタンパク質と実質的に同等の生理、生物学的活性を示すものがあることが知られている。このように構造的に差異があっても、その機能については大きな違いが認められないものを機能的に同等の活性を有するポリペプチドと呼ぶ。
人為的にタンパク質のアミノ酸配列に上記のような変異を導入した場合でも同様であり、この場合は更に多種多様の変異体を作製することが可能であるが、変異を有しないものと実質的に同等の生理活性を示す限り、これらの変異体は機能的に同等の活性を有するポリペプチドと解釈される。
例えば、大腸菌で発現されたタンパク質のN末端に存在するメチオニン残基は、多くの場合、メチオニンアミノペプチダーゼの作用により除去されるとされているが、タンパク質の種類によってはメチオニン残基を持つもの、持たないものの両方が生成される。しかしながら、このメチオニン残基の有無はタンパク質の活性には影響を与えない場合が多い。また、ヒトインターロイキン2(IL−2)のアミノ酸配列中の、あるシステイン残基をセリンに置換したポリペプチドがインターロイキン2活性を保持することが知られている〔サイエンス(Science)、第224巻、1431頁(1984)〕など、アミノ酸置換によって目的とする活性を示す場合がある。
また、機能的に同等の活性を有するポリペプチドは、相同性を有することが多い。したがって、本発明のポリペプチドと相同性を有し、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドも本発明に含まれる。
上記相同性は、例えばコンピュータープログラムDNASIS−Mac(宝酒造社製)、コンピュータアルゴリズムFASTA(バージョン3.0;パーソン(Pearson,W.R.)ら、Pro.Natl.Acad.Sci.,85:2444−2448,1988)、コンピューターアルゴリズムBLAST(バージョン2.0;Altschulら、Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997)によって測定することができる。
また、本発明によって開示されたアミノ酸配列(配列表の配列番号28、30)に30%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは59%以上の相同性を有するアミノ酸配列によってコードされるポリペプチドは、硫酸化フコガラクタン分解活性を有していれば本発明の範囲内に属するものである。
本発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを用いれば任意の硫酸化フコース含有多糖画分に含まれている硫酸化フコガラクタンのみを低分子化させることができるので、分子量分画と組み合わせることによって硫酸化フコガラクタンを選択的に除去することが可能である。例えば、硫酸化フカン画分には抗凝血活性、癌転移抑制活性、ウイルス感染抑制活性等様々な生物活性があることが報告されている。これまで、褐藻類から得られた硫酸化フカン画分には硫酸化フカン及びその他の多糖類が含まれている。従って、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を利用することにより、当該硫酸化フカン画分から硫酸化フコガラクタンを取り除くことができ、その結果、高純度の硫酸化フカンを得ることができる。
さらに例えば、硫酸化フコグルクロノマンナンには癌細胞に対するアポトーシス誘発作用があることが報告されている。従って、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を利用することにより、褐藻類から得た硫酸化フコグルクロノマンナンに夾雑する硫酸化フコガラクタンを容易に取り除くことができ、その結果、高純度の硫酸化フコグルクロノマンナンを簡便に得ることができる。
硫酸化フコガラクタンを除去する方法としては、たとえば、硫酸化フコガラクタン含有物が水系溶媒に溶けた溶液を調製する。硫酸化フコガラクタン含有物の溶解は通常の方法で行えばよく、溶解液中の硫酸化フコガラクタン含有物濃度はその最高溶解濃度でもよいが、通常はその操作性、及び使用する酵素力価を考慮して選定すればよい。硫酸化フコガラクタン溶解液としては水、緩衝液等より目的に応じて選択すればよい。溶解液のpHは通常中性付近が好ましい。次に硫酸化フコガラクタン含有物溶液に本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素もしくは該酵素の固定化物、あるいは両方を添加して反応させ硫酸化フコガラクタンを低分子化する。酵素反応は通常30℃付近で行い、酵素量や反応時間等は、次工程の分子量分画能に応じて適宜調整すればよい。その後、分子量分画すれば、本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物が除去された目的物を容易に調製することができる。分子量分画は、通常よく使用されている方法を適用することができ、例えばゲルろ過法や分子量分画膜を利用した限外ろ過法を使用すればよい。
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素は、硫酸化フコガラクタンに作用するため、硫酸化フコガラクタンの構造解析に用いることができる。
さらに本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を用いれば、硫酸化フコガラクタンを含有する硫酸化フコース含有多糖から硫酸化フコガラクタン成分を選択的に除去することができる。例えば、硫酸化フコガラクタン成分を除去した後の高純度の硫酸化フカンもしくは硫酸化フコグルクロノマンナンは、医薬品の原材料としても好適に使用できる。
(2)硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子
機能的に同等の活性を有するポリペプチドは、それをコードする遺伝子が相同性を有することが多い。したがって、本発明に用いる遺伝子と厳密な条件においてハイブリダイズすることができ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子も本発明に含まれる。
上記塩基配列の相同性は、コンピュータープログラムDNASIS−Mac、コンピュータアルゴリズムFASTA(バージョン3.0)、BLAST(バージョン2.0)によって測定することができる。
本発明の核酸は、本発明のポリペプチドをコードする核酸であり、具体的には、配列表の配列番号28、30のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含む配列、または該配列において1個以上のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入もしくは置換の少なくとも1つがなされたアミノ酸配列で示され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を示すポリペプチドをコードする核酸(1)、配列表の配列番号27、29のいずれか1つに記載の塩基配列を含む核酸(2)、および上記核酸(1)または(2)にストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能であるか、(1)または(2)の塩基配列に50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、さらに好ましくは69%以上の相同性を有する塩基配列で、かつ硫酸化フコガラクタン分解活性を示すポリペプチドをコードする核酸(3)等である。
本発明における核酸とは、1本鎖または2本鎖のDNAまたはRNAを意味する。上記核酸(2)がRNAである場合は、例えば配列表の配列番号27記載の塩基配列においてTをUで置換した塩基配列で示される。
本発明の核酸は、例えば、次のようにして得ることができる。
まず、配列表の配列番号27,29のいずれか1つに記載の塩基配列を含む核酸(2)は、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを生産する微生物、植物、動物などより常法にしたがってゲノムDNAを調製し、それを用いて作製したDNAライブラリーから単離することができる。またこのゲノムDNAを鋳型としたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、配列表の配列番号27、29のいずれか1つに記載の塩基配列を含む核酸を増幅することによっても取得できる。
また、本発明により提供される、本発明のポリペプチドをコードする核酸の塩基配列、例えば配列表の配列番号27、29のいずれか1つに記載の塩基配列を基に、本発明のポリペプチドと同様の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする核酸を取得することも可能である。すなわち、本発明のポリペプチドをコードする核酸、またはその塩基配列の一部をハイブリダイゼーションのプローブに用いることにより、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードするDNAを、細胞から抽出したDNA、該DNAを鋳型として得られたPCR産物等からスクリーニングすることができる。あるいは上記の塩基配列から設計されたプライマーを使用したPCR等の遺伝子増幅法を用いることにより、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードするDNAを増幅することができる。また、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードするDNAを化学的に合成することも可能である。かかる方法により、上記核酸(1)または(3)を得ることができる。
上記の方法では目的の核酸の一部のみを含む核酸断片が得られることがあるが、その際には得られた核酸断片の塩基配列を調べて、それが目的の核酸の一部であることを確かめた上、該核酸断片、あるいはその一部をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うか、または該核酸断片の塩基配列に基づいて合成されたプライマーを用いてPCRを行うことにより、目的の核酸全体を取得することができる。
上記のプローブやプライマーは、その塩基配列が明らかとなっている場合においては、OligoTM Primer Analysis Software(宝酒造社製)などのコンピュータープログラムを用いることにより、使用する目的、条件、環境に応じて最適な配列を設計することができる。
上記の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、1989年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行、T.マニアティス(T.Maniatis)ら編集、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル第2版(Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd ed.)等に記載された条件でハイブリダイズ可能なことを意味し、例えば、以下の条件でハイブリダイズ可能なことをいう。すなわち、核酸を固定したメンブレンを0.5%SDS、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400、0.01%変性サケ精子核酸を含む6×SSC(1×SSCは0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0を示す)中で、50℃にて12〜20時間、プローブとともにインキュベートする。インキュベーション終了後、0.5%SDSを含む2×SSC中、37℃での洗浄から始めて、SSC濃度は0.1倍までの範囲で、また、温度は50℃までの範囲で変化させ、固定された核酸由来のシグナルがバックグラウンドと区別できるようになるまでメンブレンを洗浄したうえ、プローブの検出を行う。また、こうして得られた新たな核酸について、そこにコードされているタンパクの有する活性を上記同様の方法によって調べることにより、得られた核酸が目的とするものであるかどうかを確認することができる。
また、オリゴヌクレオチドプローブを使用する場合、前記「ストリンジェントな条件」としては、特に限定されないが、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、〔Tm−25℃〕の温度で一晩保温する条件などをいう。
オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーのTmは、例えば、下記の式により求められる。
Tm=81.5−16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)−(600/N)
(式中、Nはオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマー中のグアニンおよびシトシン残基の含有量である。)
また、オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーの鎖長が18塩基より短い場合、Tmは、例えば、A+T(アデニン+チミン)残基の含有量と2℃との積と、G+C残基の含有量と4℃との積との和〔(A+T)×2+(G+C)×4〕により推定することができる。
本発明においては、本発明のポリペプチドをコードする核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能な核酸は、本明細書に開示された塩基配列と同一の塩基配列ではなくとも、それが硫酸化フコガラクタン分解活性を示すポリペプチドをコードする限り本発明の範囲に含まれるものであることは上記したとおりである。
目的のDNA断片を含むベクターが選別できれば、このベクターに挿入されている目的のDNA断片の塩基配列は通常の方法、例えばジデオキシ法〔プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA(Proc.Nat.Acad.Sci,U.S.A.)、第74巻、第5463頁(1977)〕により決定することができる。決定された塩基配列を硫酸化フコガラクタン分解酵素のN末端分析、部分アミノ酸配列、分子量などと比較することによって、得られたDNA断片中の遺伝子の構造及び該遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を知ることができる。
また、上記の硫酸化フコガラクタン分解酵素の部分アミノ酸配列をもとに得られたオリゴヌクレオチドを用いて硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を得る方法として、PCR法を用いることができる。中でもカセットDNA(宝酒造社製)を用いたPCR法は、短時間で少ないアミノ酸配列情報からハイブリダイゼーション法に使用可能な目的遺伝子の断片を得る方法である。
例えば、フラボバクテリウム sp.SA−0082の培養菌体から常法にしたがって抽出したゲノムDNAを適当な制限酵素で消化した後、既知の配列を有する合成DNA(カセットDNA)を連結する。この混合物を鋳型として、上記の部分アミノ酸配列の情報をもとにデザインした該遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーとカセットDNAに相補的なオリゴヌクレオチドプライマー(カセットプライマー)とを用いてPCR反応を行い目的のDNA断片を増幅することが可能である。カセットDNAあるいはカセットプライマーについては例えば宝酒造社製のものを利用することができる。カセットDNAは、2種類のカセットプライマーに対応する配列を含んでいるものが好ましく、まず連結した制限酵素サイトから遠い方のプライマーを用いて1回目のPCR反応を行い、その反応液の一部を鋳型としてさらに内側のプライマーを用いて2回目のPCR反応を行うと効果的である。さらに、該遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーについても、並んで2種類をデザイン、合成し、上流のプライマーを1回目のPCR反応に用い、2回目のPCR反応では下流のプライマーを用いると該遺伝子の特異性が高くなり、目的DNA断片の特異的な増幅の可能性が高くなる。
しかしながら、目的の遺伝子の塩基配列は不明であるため、カセットDNAの連結に用いた制限酵素サイトが部分アミノ酸配列をコードする領域からPCRによる増幅反応に適当な位置にあるとは限らない。そのため、多くの種類の制限酵素サイトのカセットDNAを用いてみる必要がある。また、PCRは、例えばPCRテクノロジー〔PCR Technology、エルリッヒ(Erlich H.A.)編集、ストックトンプレス社、1989年発行〕に記載されているような、一般に用いられている条件で行うことができるが、用いた合成オリゴヌクレオチドの長さや硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子との相補性によって、アニーリング温度、サイクル数、マグネシウム濃度、耐熱性ポリメラーゼ濃度等を検討し、非特異的な増幅バンドが最も少なくなるような最適条件を選ぶ必要がある。
PCR反応液は、アガロースゲルなどの電気泳動に供し、増幅したDNA断片を確認する。これら断片は、常法に従って抽出、精製し、通常に用いられるpUC18、pUC19などのクローニングベクターに挿入後、例えばジデオキシ法により塩基配列を解析することができる。あるいは回収した増幅DNA断片を、PCR反応に用いたカセットプライマーを用いて直接塩基配列を解析してもよい。その結果、プライマーの配列以外に、先に決定した硫酸化フコガラクタン分解酵素の部分アミノ酸配列をコードしているものが得られれば、該酵素をコードする遺伝子あるいはそれにホモロジーを示す遺伝子の断片が得られたことになる。
このようにしてサザンハイブリダイゼーション法あるいは、PCR法により得られたDNA断片が目的の酵素をコードする遺伝子の一部であった場合には、該DNA断片をプローブとしたハイブリダイゼーションによるゲノムライブラリーのスクリーニングを行なうか、あるいは該DNA断片の塩基配列をもとにして作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとしたPCRを行なうことにより、目的の酵素をコードする遺伝子の全長を含むDNA断片を取得することができる。さらに上述のように得られた硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子あるいは、その一部をプローブとしてフラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAをサザンハイブリダイゼーション法によって解析すれば、検出されたバンドの位置から、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を含むフラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNA制限酵素断片サイズの情報が得られ、また、検出されたバンドの数によって、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子およびそれに相補性を示す遺伝子の数が予想され、これら遺伝子を含むDNA断片は、前述と同様の方法により単離することができる。
このようにして得られたDNA断片が目的の酵素をコードする遺伝子を含むかどうかは、最終的に単離された該DNA断片を含む発現ベクターを作製し、該ベクターを用いて宿主の形質転換を行い、次いでこの形質転換体の培養を行い、発現されたポリペプチドの硫酸化フコガラクタン分解活性を測定することにより確認することができる。
(3)硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を含有した形質転換体。
本発明のポリペプチドをコードする核酸、例えば、配列表の配列番号27、29記載の塩基配列を有する核酸を適当なベクターに連結して組換えDNAを作製することができる。該組換えDNAの作製に使用されるベクターには特に限定はなく、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することができ、組換えDNAの使用目的に応じて適当なベクターを選択すれば良い。
さらに、当該組換えDNAを適当な宿主に導入して形質転換体を作製することができる。形質転換体の作製に使用される宿主にも特に限定はなく、細菌、酵母、糸状菌等の微生物の他、動物、植物、昆虫等の培養細胞等を使用することができる。当該形質転換体を培養して培養物中に本発明のポリペプチドを産生させることにより、本発明のポリペプチドを大量に製造することが可能となる。
本発明の核酸、例えば配列番号27、29に示される塩基配列を有する核酸を含む組換えDNAで形質転換された形質転換体より、本発明のポリペプチドを取得することができる。配列番号27に示される塩基配列からは配列番号28に示されるアミノ酸配列のポリペプチドが、配列番号29に示される塩基配列からは配列番号30に示されるアミノ酸配列のポリペプチドがそれぞれ生成する。
以下、フラボバクテリウム sp.SA−0082を例として本発明を具体的に説明する。
このフラボバクテリウム sp.SA−0082は、Flavobacterium sp.SA−0082と表示され、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、FERM BP−5402として国際寄託されている。
フラボバクテリウム sp.SA−0082が産生する硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を取得するには、例えば、ハイブリダイゼーション法やPCR法、あるいはこれらを組合わせた方法を利用することができる。これらの方法には該遺伝子にハイブリダイズ可能なプローブ、あるいはPCR法によって該遺伝子またはその一部を増幅可能なプライマーが必要であるが、これらの菌株の産生する硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列や遺伝子構造は全く知られていないため、プローブあるいはプライマーとして利用可能な合成オリゴヌクレオチドを作製することができない。そこでまず、上記微生物の産生する硫酸化フコガラクタン分解酵素の部分アミノ酸配列を決定し、プローブあるいはプライマーとして利用可能な合成オリゴヌクレオチドの作製を検討する。
まず、フラボバクテリウム sp.SA−0082を培養し、次いでその培養物から、産生された硫酸化フコガラクタン分解酵素をそれぞれ単離、精製する。次に、精製された硫酸化フコガラクタン分解酵素について、その部分アミノ酸配列に関する情報を得る。部分アミノ酸配列を決定するには、例えば硫酸化フコガラクタン分解酵素を直接常法に従ってエドマン分解法によるアミノ酸配列分析(例えばプロテインシーケンサ476A、アプライド バイオシステムズ社製、を用いることができる)に供することにより、硫酸化フコガラクタン分解酵素のN末端アミノ酸配列を決定する。上記フラボバクテリウム sp.SA−0082から精製した酵素は、ポリペプチドのN末端がブロックされており、N末端アミノ酸配列の情報は得られなかった。この場合、精製硫酸化フコガラクタン分解酵素に、特異性の高いタンパク質加水分解酵素、例えばアクロモバクター(Achromobacter)プロテアーゼI、N−トシル−L−フェニルアラニルクロロメチルケトン(TPCK)−トリプシン等を作用させて限定加水分解を行い、得られたペプチド断片を逆相系HPLCを用いて分離、精製した後、精製ペプチド断片についてアミノ酸配列分析を行えば、多くのアミノ酸配列情報が得られる。
こうして得られる硫酸化フコガラクタン分解酵素に特異的な部分アミノ酸配列に関する情報を選択し、該情報をもとに塩基配列の縮重したオリゴヌクレオチドをデザインし合成する。このとき縮重の程度が低く長いオリゴヌクレオチド、言換えれば、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子に特異性の高いオリゴヌクレオチドを合成することが必要であり、オリゴヌクレオチドのデザインが硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のクローニングに重要な要因となる。
次にサザンハイブリダイゼーション法によって合成オリゴヌクレオチドと硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子との特異的ハイブリダイゼーションの条件を検討する必要がある。
例えば、フラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAを適当な制限酵素で完全消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、常法に従いナイロン膜等にブロッティングする。ハイブリダイゼーションは、まず、例えば6×SSC(1×SSCは、8.77gの塩化ナトリウム及び4.41gのクエン酸ナトリウムを1リットルの水に溶解した物)、1%ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、100μg/mlのサケ精子DNA、5×デンハルツ(ウシ血清アルブミン、ポリビニルピロリドン、フィコールをそれぞれ0.1%の濃度で含む)を含むプレハイブリダイゼーション溶液中65℃で数時間保温してナイロン膜をブロッキングした後、例えば32P等でラベルした合成オリゴヌクレオチドを加えて42℃で一晩保温する。このナイロン膜を0.1%SDSを含む1×SSCで42℃、30分間洗浄した後、オートラジオグラフィーをとって合成オリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズするDNA断片を検出する。このとき、用いた合成オリゴヌクレオチドの長さや硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子との相補性によって、保温温度や洗浄溶液の塩濃度等を検討し最適条件を選ぶのが効果的である。
このようにして検出された硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を含むDNA断片を得る方法としては、直接検出されたバンドの位置に相当するDNA断片をゲルから抽出、精製した後、通常用いられる宿主−ベクター系のベクターに組込んだライブラリーを作製し、サザンハイブリダイゼーション法と同様の条件でコロニーハイブリダイゼーション、あるいはプラークハイブリダイゼーションを行って、目的のDNA断片を含むクローンをスクリーニング、単離すればよい。あるいは直接フラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAを適当な制限酵素で消化後、通常用いられる宿主−ベクター系のベクターに組込んだライブラリーを作製し、同様にハイブリダイゼーション法で目的のDNA断片を含むクローンをスクリーニング、単離してもよい。
上記のようにして得られた核酸を適当なベクターに連結して組換えDNAを作製することができる。該組換えDNAの作製に使用されるベクターには特に限定はなく、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することができ、組換えDNAの使用目的に応じて適当なベクターを選択すれば良い。さらに、当該組換えDNAを適当な宿主に導入して本発明の形質転換体を作製することができる。形質転換体の作製に使用される宿主にも特に限定はなく、細菌、酵母、糸状菌等の微生物の他、動物、植物、昆虫等の培養細胞等を使用することができる。
(4)本発明のポリペプチドの製造方法
用いられる宿主−ベクター系としては公知のものが使用でき、例えば大腸菌を宿主としたpUC18、pUC19などのプラスミドベクター、あるいはラムダファージなどのファージベクター等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これら宿主−ベクター系の種類や取扱い方法は一般に用いられる種類や方法を用いれば良く、例えば、モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル 第二版(Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition)〔J.サムブルーク(J.Sambrook)ほか著、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー 1989年発行〕に記載されている。
更に、遺伝子工学的にタンパク質の生産を行う際には、融合タンパク質として発現させることがしばしば行われる。例えば、目的のタンパク質の発現量を増加させるために、目的のタンパク質のN末端に他のタンパク質由来のN末端ペプチド鎖を付加したり、目的タンパク質のN末端、あるいはC末端に適当なペプチド鎖を付加して発現させ、この付加したペプチド鎖に親和性を持つ担体を使用することにより、目的タンパク質の精製を容易にすることなどが行われている。
さらに、目的のタンパク質のN末端あるいはC末端の数十アミノ酸を欠失させたタンパク質をコードする遺伝子を発現ベクターに組み込ませることにより、目的のタンパク質を発現させることができる。
また、目的のタンパク質のアミノ酸配列に1個もしくは複数個のアミノ酸残基を欠失、付加、挿入、若しくは置換の少なくとも1つを行ったポリペプチドも目的のタンパク質と機能的に同等の活性を有する場合が少なくないが、このようなポリペプチド及び該ポリペプチドをコードする遺伝子も、天然由来の単離されたものであれ人為的に作製されたものであれ、本発明に包含される。
一般に遺伝子上でアミノ酸を指定するコドン(3つの塩基の組合せ)は、アミノ酸の種類ごとに1〜6種類ずつが存在することが知られている。したがって、アミノ酸配列をコードする遺伝子はそのアミノ酸配列にもよるが、多数存在することができる。遺伝子は自然界において決して安定に存在しているものではなく、その核酸に変異が起こることはまれではない。遺伝子上に起こった変異がコードされるアミノ酸配列には変化を与えない場合(サイレント変異と呼ばれる)もあり、この場合には同じアミノ酸配列をコードする異なる遺伝子が生じたといえる。したがって、ある特定のアミノ酸配列をコードする遺伝子が単離されても、それを含有する生物が継代されていくうちに同じアミノ酸配列をコードする多種類の遺伝子ができていく可能性は否定できない。また、同じアミノ酸配列をコードする多種類の遺伝子を人為的に作製することは、種々の遺伝子工学的手法を用いれば困難なことではない。
例えば、遺伝子工学的なタンパク質生産において、目的のタンパク質をコードする本来の遺伝子上で使用されているコドンが、使用している宿主中では使用頻度の低いものであった場合、タンパク質の発現量が低いことがある。このような場合には、コードされているアミノ酸配列に変化を与えることなく、コドンを宿主で繁用されているものに人為的に変換することにより、目的のタンパク質の高発現を図ることが行われている。このように特定のアミノ酸配列をコードする遺伝子を、人為的に多種類作製することが可能なことは言うまでもない。したがって、これらの人為的に作製された異なるポリヌクレオチドであっても、本発明に開示されたアミノ酸配列がコードされている限り、本発明に包含されるものである。また、ある種のポリペプチドは、活性には必須でないペプチド領域を有していることが知られている。例えば、細胞外に分泌されるポリペプチドに存在するシグナルペプチド、プロテアーゼの前駆体等に見られるプロ配列あるいはプレ・プロ配列などがこれにあたり、これらの領域のほとんどは翻訳後、あるいは活性型ポリペプチドへの転換に際して除去される。このようなポリペプチドは一次構造上は異なった形で存在しているが、最終的には同等の機能を発現するポリペプチドである。このような、シグナルペプチド、プロ配列、プレプロ配列は、活性をもつペプチドとしての発現を阻害する場合もある。このような場合には、ポリペプチドのN末端を数アミノ酸残基から数十アミノ酸残基削ることにより、活性をもつペプチドの収量を向上させることもできる。
さらに、本発明のプラスミドpEA101、pEB101のいずれか1つを導入した形質転換体を培養して得られる培養物から本発明のポリペプチドを精製してもよい。
形質転換される宿主には特に限定はなく、例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、糸状菌、植物、動物、植物培養細胞、動物培養細胞等、組換えDNAの分野で通常使用されている宿主が挙げられる。
例えば、本発明のポリペプチドは、lacプロモーターやT7ファージプロモーターの下流に本発明の核酸を連結したプラスミドを保持する大腸菌を通常の培養条件、例えば、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(トリプトン10g/リットル、酵母エキス5g/リットル、NaCl 5g/リットル、pH7.2)中、37℃で対数増殖期まで培養後、1mMとなるようイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドを添加し、さらに37℃で培養することにより、培養菌体中にポリペプチドを発現させることができる。また、ペプチドのN末端を削ったポリペプチドを発現させることもでき、例えば本発明のペプチドsfgAの場合は、全長のアミノ酸配列のN末端から23アミノ酸残基を削ることにより、またsfgBの場合は30アミノ酸残基を削ることにより、それらの発現量を向上させることもできる。
培養終了後、遠心分離によって集めた菌体を超音波で破砕し、さらに遠心分離して上清を集め、無細胞抽出液とする。該無細胞抽出液は硫酸化フコガラクタン分解活性を示す。さらにイオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、疎水クロマトグラフィー、硫安沈殿等の公知の方法を用いることにより該無細胞抽出液から本発明のポリペプチドを精製することができる。上記の精製過程において得られる部分精製品も、当然ながら硫酸化フコガラクタン分解活性を示す。
(5)硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のスクリーニング方法
本発明の遺伝子の塩基配列を用いて、硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子をハイブリダイゼーションにより得る方法としては、例えば以下の方法が適用できる。
まず目的の遺伝子源から得た染色体DNA、あるいはmRNAより逆転写酵素により作製したcDNAを常法に従いプラスミドやファージベクターに接続して宿主に導入し、ライブラリーを作製する。そのライブラリーをプレート上で培養し、生育したコロニー又はプラークをニトロセルロースやナイロンの膜に移し取り、変性処理によりDNAを膜に固定する。この膜を例えば32P等で標識したプローブ(使用するプローブとしては、配列表の配列番号28、30のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む配列、又はその一部をコードする塩基配列であればよく、例えば、配列表の配列番号27、29のいずれかで表される塩基配列、又はその一部を使用することができる)を含む溶液中で保温し、膜上のDNAとプローブとの間でハイブリッドを形成させる。例えばDNAを固定化した膜を、6×SSC、1%SDS、100μg/mlのサケ精子DNA、5×デンハルツを含む溶液中で65℃で20時間、プローブとハイブリダイゼーションを行う。ハイブリダイゼーション後、非特異的に吸着したプローブを洗い流した後、オートラジオグラフィー等によりプローブとハイブリッド形成したクローンを同定する。この操作をハイブリッド形成したクローンが単一になるまで繰り返す。こうして得られたクローンの中には、目的のポリペプチドをコードする遺伝子が挿入されている。
得られた遺伝子は、例えば次のように塩基配列を決定し、得られた遺伝子が目的の硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子であるかを確認する。塩基配列の決定は、形質転換体がプラスミドで形質転換された大腸菌であれば試験管等で培養を行い、プラスミドを常法に従い抽出する。これを制限酵素により切断し挿入断片を取出し、M13ファージベクター等にサブクローニングし、ジデオキシ法により塩基配列を決定する。組換体がファージベクターが用いられた場合も基本的に同様のステップにより塩基配列を決定することができる。これらの培養から塩基配列決定までの基本的な実験法については、例えば、モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル 第二版〔J.サムブルークほか著、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー 1989年発行〕等に記載されている。
得られた遺伝子が目的の硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子であるかどうかを確認するには、決定された塩基配列あるいはそのコードしているアミノ酸配列を本発明の配列表の配列番号27、29のいずれかで表される塩基配列あるいは配列表の配列番号28、30のいずれかで表されるアミノ酸配列と比較する。
得られた遺伝子が硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドをコードする領域のすべてを含まない場合には、得られた遺伝子を基にして合成DNAプライマーを作製し、PCRにより足りない領域を増幅したり、得られた遺伝子の断片をプローブとして、更にDNAライブラリー又はcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、本発明の遺伝子にハイブリダイズする硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドの全コード領域の塩基配列を決定することができる。
一方、本発明の遺伝子の塩基配列からPCR反応用のプライマーをデザインすることができる。このプライマーを用いてPCR反応を行うことによって本発明の遺伝子と相同性の高い遺伝子断片を検出したり、更にはその遺伝子全体を得ることもできる。
次に得られた遺伝子を発現させ、硫酸化フコガラクタン分解活性を測定し、得られた遺伝子の機能を確定する。
このように本発明により、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドの一次構造及び遺伝子構造が提供される。また、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチド又はその活性と機能的に同等の活性を有するポリペプチドの遺伝子工学的な製造が可能となる。
本発明の遺伝子工学的製造法を用いれば安価に高純度な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチド又はその活性と機能的に同等の活性を有するポリペプチドを得ることが可能となる。
硫酸化フコガラクタン分解酵素を産生するフラボバクテリウム属細菌を培養して硫酸化フコガラクタン分解酵素を生産する方法は、同時にプロテアーゼや他の多糖分解酵素が生産されるため、目的の硫酸化フコガラクタン分解酵素を単離するためには、極めて厄介なこれら酵素との分離精製が必要であったが、本発明により安価に、高純度な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドの提供が可能となった。
本発明の塩基配列がコードするポリペプチドの硫酸化フコガラクタン分解活性の確認は、例えば、該ポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させて得られる分解物をHPLCにより分析し、低分子化の程度を測定することによって、あるいは生成する還元末端を常法により測定することによって行なうことができる。
(6)硫酸化フコガラクタン低分子化物の製造方法、該製造方法における脱アセチル化の影響
本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はその塩は、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタン含有物に作用させることによって調製することができる。硫酸化フコガラクタン含有物としては、例えば硫酸化フコガラクタンの部分精製品、褐藻類由来の硫酸化フコース含有多糖画分、褐藻類の水性溶媒抽出物、もしくは褐藻類藻体が好適に使用できる。
本発明の遺伝子がコードする硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを、硫酸化フコガラクタンに作用させて得られる低分子化物は、特に限定はないが、例えば2糖類〜6糖類が挙げられる。低分子化物中に存在する硫酸基の置換位置は、調製方法によって変化するが、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られたものであれば、本発明の低分子化物に含まれる。該低分子化物の化学構造は、例えば、下記一般式(I)〜(IV)に示される。その中で、下記一般式(III)は、前述の硫酸化フコガラクタンの構成単位であると考えられる。
(式中、RはH又はSO3Hである)
また、本発明の低分子化物は、硫酸基を分子中に有しており、該基は種々の塩基と反応し、塩を形成する。これらの本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物は、塩になった状態が安定であり、通常ナトリウム及び/又はカリウム及び/又はカルシウム等の塩の形態で提供される。これらの物質の塩はダウエックス50W(ダウケミカル社製)等の陽イオン交換樹脂を利用することによって遊離の硫酸化フコガラクタンの低分子化物に導くことが可能である。また、これらは、更に必要に応じ公知慣用の塩交換を行い所望の種々の塩に交換することができる。
本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩は、抗原として使用することができる。抗体の作製は、常法により行われるが、例えば、本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩をアジュバンドとともにウサギ等の動物に免疫することによって、ポリクローナル抗体を調製することができる。また、モノクローナル抗体は、抗原を免疫して得られた抗体産生B細胞とメラノーマ細胞を融合し、目的の抗体を産生するハイブリドーマを選択し、この細胞を培養することによって調製することができる。これらの抗体は、本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩の精製に使用することができる。さらに、本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩を認識する抗体は、硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩の受精阻害作用機作、ウイルス感染阻害機作、生体内での代謝等の解析等に有用である。
また、硫酸化フコガラクタン又はその塩に本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られた低分子化物即ちオリゴ糖類は、糖鎖工学用試薬として用いることができる。例えば、特公平5−65108号公報記載の方法により2−アミノピリジル化(PA化)を行い、該低分子化物のPA化物を調製すれば、糖鎖工学用試薬として極めて有用な物質を提供することができる。
本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物の製造方法において、硫酸化フコガラクタンを脱アセチル化することにより、低分子化物の収量を向上させることができる。脱アセチル化する方法は特に限定はされないがアルカリ性の水溶液で処理する方法やデアセチラーゼで処理する方法などがあり、例えば硫酸化フコガラクタンを1N 水酸化ナトリウム溶液で、25℃、24時間の処理条件で脱アセチル化することにより、低分子化物の収量を上げることができる。すなわち、本発明の低分子化物の製造方法においては、硫酸化フコガラクタンあるいは脱アセチル化硫酸化フコガラクタンのいずれもが原料として好適に使用できる。
実施例
本発明を実施例により具体的に示すが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
参考例1 硫酸化フコガラクタンの調製
乾燥ガゴメ昆布2kgを穴径1mmのスクリーンを装着したカッターミル(増幸産業社製)により破砕し、20リットルの80%エタノール中で25℃、3時間攪拌後ろ過、洗浄した。得られた残渣を50mMの塩化カルシウム、100mMの塩化ナトリウム、10%のエタノール、及び国際公開第WO97/26896号パンフレット記載のアルテロモナス sp.SN−1009株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)]に平成8年2月13日よりFERM P−15436として寄託され、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−5747[国際寄託への移管請求日:平成8年11月15日]として寄託)を培養し、該培養物から得られたエンド型フコース硫酸含有多糖分解酵素を1U含む20リットルの30mMイミダゾール緩衝液(pH8.2)に懸濁した。25℃で2日攪拌すると高分子の硫酸化フコース含有多糖による強い粘弾性が完全に消失したので、低分子化した硫酸化フコース含有多糖を除去するため、穴径32μmのステンレス金網でろ過し、洗浄した。得られた残渣を100mM 塩化ナトリウム、10% エタノール、及び4gのアルギン酸リアーゼK(ナガセ生化学工業製)を含む40リットルのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.6)に懸濁し、25℃、4日攪拌後、遠心分離し上清を得た。得られた上清中に含まれるアルギン酸の低分子化物を除去するため排除分子量10万のホロファイバーを装着した限外ろ過機により2リットルに濃縮後、10% エタノールを含む100mM 塩化ナトリウムで溶液交換した。この溶液に等量の400mM酢酸カルシウムを添加攪拌後、遠心分離し、得られた上清を氷冷しながら、1N 塩酸でpH2.0とした。生じた沈殿を遠心分離により除去し、得られた上清を1N 水酸化ナトリウムによりpH8.0とした。この溶液を限外ろ過により1リットルに濃縮後、100mM 塩化ナトリウムで溶液交換した。この時生じた沈殿は遠心分離により除去した。得られた上清中の疎水性物質を除去するため、上清に1Mとなるように塩化ナトリウムを加えて、1M 塩化ナトリウムで平衡化した3リットルのフェニルセルロファインカラム(生化学工業製)にかけ、素通り画分を集めた。この画分を限外ろ過機により濃縮後、20mM 塩化ナトリウムで溶液交換し、凍結乾燥した。凍結乾燥物の重量は29.3gであった。
上記の凍結乾燥物15gを400mM 塩化ナトリウム及び国際公開第97/26896号パンフレット記載のフラボバクテリウム sp.SA−0082株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[日本国茨城県つくば市東一丁目1番1号中央第6(郵便番号305−8566)]に平成7年3月29日よりFERM P−14872として寄託され、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−5402[国際寄託への移管請求日:平成8年2月15日]として寄託)を培養し、該培養物から得られたエンド型フコイダン分解酵素を9U含む1.5リットルの50mMトリス塩酸緩衝液に溶解し、25℃で6日間反応後、エバポレーターで約300mlに濃縮した。濃縮液を排除分子量3500の透析チューブに入れて徹底的に透析し、低分子化された硫酸化フコグルクロノマンナンを除去した。透析チューブ内に残った液を、50mM 塩化ナトリウムで平衡化した4リットルのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)にかけ、50mM 塩化ナトリウムで充分洗浄後、50〜650mM 塩化ナトリウムの濃度勾配による溶出を行った。更に同カラムを650mM 塩化ナトリウムで充分溶出させた。溶出画分のうち650mM 塩化ナトリウムで溶出した画分を硫酸化フコガラクタン画分として集め、排除分子量10万の限外ろ過器により濃縮後、10mM 塩化ナトリウムで溶液を置換し、凍結乾燥して硫酸化フコガラクタン画分の凍結乾燥物を0.85g得た。この画分について、糖組成分析を行った。まず、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)、第175巻、第595頁(1948)の記載に従い、フコース量を定量した。
次に、得られた硫酸化フコガラクタンの乾燥標品を1N 塩酸に0.5% 濃度で溶解し、110℃で2時間処理し、構成単糖に加水分解した。次に、グライコタッグ(宝酒造社製)及びグライコタッグ リージェント キット(宝酒造社製)を用いて加水分解して得られた単糖の還元性末端をピリジル−(2)−アミノ化(PA化)し、HPLCにより構成糖の比率を調べた。なお、HPLCの条件は下記によった。
装置;L−6200型(日立製作所製)
カラム;パルパックタイプA(4.6mm×150mm;宝酒造社製)
溶離液;700mMホウ酸緩衝液(pH9.0):アセトニトリル=9:1
検出;蛍光検出器F−1150(日立製作所製)にて励起波長310nm、蛍光波長380nmで検出。
流速;0.3ml/分
カラム温度;65℃
次に、アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、第4巻、第330頁(1962)の記載に従いウロン酸量を定量した。さらに、バイオケミカル ジャーナル(Biochemical Journal)、第84巻、第106頁(1962)の記載に従い硫酸含量を定量した。
以上の結果、得られた硫酸化フコガラクタンは、構成糖としてガラクトースとフコースを含有し、そのモル比は、約2:1であった。ウロン酸及びその他の中性糖は実質的に含有されていなかった。また、フコースと硫酸基のモル比は約1:2であった。
参考例2 硫酸化フコガラクタン分解酵素の活性測定方法
参考例1で得られた硫酸化フコガラクタン画分を用いて硫酸化フコガラクタン分解活性を以下のように測定した。すなわち、60μlの50mM イミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)と、4.8μlの2.5% 硫酸化フコガラクタン画分溶液と、6μlの4M塩化ナトリウムと、37.2μlの水と12μlの硫酸化フコガラクタン分解酵素とを混合し、37℃、3時間反応させた後、反応液を100℃で10分間処理し、遠心分離後100μlをHPLCにより分析し、低分子化の程度を測定した。対照として、硫酸化フコガラクタン分解酵素の代わりに、その酵素を溶解してある緩衝液を用いて同様の条件により反応させたもの及び硫酸化フコガラクタン画分の代わりに水を用いて反応を行ったものを用意し、それぞれ同様にHPLCにより分析した。
1単位の酵素は、上記反応系において1分間に1μmolの硫酸化フコガラクタン画分のガラクトシル結合を切断する酵素量とする。切断されたガラクトシル結合の量は下記式により求めた。
{(4.8×1000×2.5/100)/MG}×{(MG/M)−1}×{1/(180×0.012)}=U/ml
4.8×1000×2.5/100:反応系中に添加した硫酸化フコガラクタン(μg)
MG:基質硫酸化フコガラクタン画分の平均分子量
M:反応生成物の平均分子量
(MG/M)−1:1分子の硫酸化フコガラクタンが酵素により切断された数
180:反応時間(分)
0.012:酵素液量(ml)
なお、HPLC条件は下記によった。
装置:L−6200型(日立製作所製)
カラム:OHpak SB−806HQ(8×300mm、昭和電工社製)
溶離液:5mMのアジ化ナトリウムを含む50mMの塩化ナトリウム
検出:視差屈折率検出器(Shodex RI−71、昭和電工社製)
流速:1ml/分
カラム温度:25℃
反応生成物の平均分子量の測定のために、市販の分子量既知のプルラン(STANDARD P−82、昭和電工社製)を上記のHPLC分析と同条件で分析し、プルランの分子量と保持時間との関係を曲線に表し、上記酵素反応生成物の分子量測定のための標準曲線とした。
参考例3 硫酸化フコガラクタン分解酵素の調製
参考例2記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素は以下の方法により調製された。フラボバクテリウム sp.SA−0082株(FERM BP−5402)をグルコース0.1%、ペプトン1.0%、酵母エキス0.05%を含む人工海水(ジャマリンラボラトリー製)pH7.5からなる培地600mlを120℃、20分間殺菌した培地に接種し、24℃で23時間培養して種培養液とした。ガゴメ昆布由来の硫酸化フコース含有多糖画分0.2%、ペプトン2.0%、酵母エキス0.01%、及び消泡剤(KM70、信越化学工業製)0.01%を含む人工海水(pH7.5)からなる培地20リットルを30リットル容のジャーファーメンターにいれ120℃で20分間殺菌した。冷却後、上記の種培養液600mlを接種し、24℃で23時間、毎分10リットルの通気量と毎分125回転の攪拌速度の条件で培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を得た。
得られた菌体を、1200mlの0.4M塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、超音波破砕後、遠心分離して菌体抽出液を得た。得られた菌体抽出液を同じ緩衝液で充分透析し、遠心分離して上清を得た。得られた上清に終濃度が90%飽和となるように硫安を添加し生じた沈殿を遠心分離して集めた。得られた沈殿を150mlの50mM塩化ナトリウムを含む10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解させ、同じ緩衝液で充分透析し、遠心分離した。得られた上清を同じ緩衝液で平衡化した500mlのDEAE−セファロースFF(アマシャムファルマシア社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、50mMから600mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、活性画分を集めた。
得られた活性画分を0.1M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で充分透析し、同じ緩衝液で平衡化した100ml DEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、0.1M〜0.4M 塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、活性画分を集めた。得られた活性画分に4Mとなるように塩化ナトリウムを添加し、4M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化した20ml Phenyl−セルロファイン(チッソ社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、4M〜1M 塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出後、さらに1M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で充分溶出させ、活性画分を集めた。得られた活性画分に3Mとなるように塩化ナトリウムを添加し、3M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化した10ml Phenyl−セルロファイン(チッソ社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、3Mから0.5M 塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出後、さらに0.5M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で充分溶出させた。得られた活性画分をまとめて、精製酵素を得た。
実施例1 硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子のクローニング
(1) ゲノムDNAの調製
硫酸化フコガラクタン分解酵素の生産菌株であるフラボバクテリウム sp.SA−0082(FERM BP−5402)を、120℃、20分の条件で滅菌したグルコース0.25%、ペプトン1.0%、酵母エキス0.05%を含む人工海水(ジャマリンラボラトリー社製)pH8.0からなる培地500mlが入った2リットルの三角フラスコに接種し、25℃で23時間培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を集め、その半量の菌体を10mlの抽出緩衝液(50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、100mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA))中に懸濁後、1mlの抽出緩衝液に溶解した20mg/ml リゾチーム(シグマ社製)溶液を添加し、氷浴上で30分間保持した。次いで、10mlのプロテイナーゼK溶液(1mg/ml プロイテナーゼK(宝酒造社製)、50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、100mM EDTA、1%SDS)を添加した後、50℃で2時間保温した。この後室温に戻し、等量のTE緩衝液(10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA)飽和フェノールを加えて1時間穏やかに攪拌し、10000rpmで20分間遠心した後上層を回収した。この上層に、等量のTE緩衝液飽和フェノール/クロロホルム1:1を加えて穏やかに攪拌し、10000rpmで20分間遠心した後上層を回収した。再度フェノール/クロロホルム抽出をおこなった後、水層に0.1Mとなるように塩化ナトリウムを加えさらに2倍量のエタノールを加えてDNAを析出させガラス棒で巻き取った後、80% エタノールでリンスして軽く風乾した。このゲノムDNAを20mlの20μg/ml リボヌクレアーゼA(シグマ社製)が溶解したTE緩衝液中に溶解させ、37℃で5時間保温してRNAを分解した。フェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出の後、前記と同様にしてエタノール添加後DNAを回収し、5mlのTE緩衝液に懸濁した。以上の操作により、ゲノムDNA約20mgを得た。
(2) ゲノムDNAライブラリーの作製
実施例1−(1)で調製したゲノムDNA 100μgを10Uの制限酵素Sau3AI(宝酒造社製)により37℃で1分40秒間消化して部分分解させ、フェノール/クロロホルム抽出し上層を回収した。上層に1/10倍量の3M 酢酸ナトリウム水溶液(pH5.0)および2.5倍量のエタノールを加えてDNAを沈殿させ、遠心分離により沈殿を回収した後、80%エタノールでリンスして風乾した。得られた部分分解物を、1.25−5M塩化ナトリウム密度勾配超遠心法によりサイズ分画をおこない、10−20kbpのサイズを含む画分からエタノール沈殿によりDNAを回収した。得られたゲノムDNA部分分解物0.2μgとラムダブルースターBamHIアーム(ノバジェン社製)0.6μgと混ぜ、DNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて連結させた後、ギガパックIIゴールドキット(ストラタジーン社製)を用いてラムダファージにパッケージングを行い、フラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAライブラリーを作製した。
(3) 硫酸化フコガラクタン分解酵素のアミノ酸配列の決定
参考例3のようにして得られたフラボバクテリウムsp.SA−0082の精製硫酸化フコガラクタン分解酵素タンパク質 84μgを、水で平衡化した脱塩用のカラム(ファーストデソルティングカラムPC3.2/10、ファルマシア社製)にアプライ後、水で溶出し、緩衝液を置換した。溶出液をガラスバイアルに集め濃縮乾固後、ピリジン200μl、4−ビニルピリジン40μl、トリ−N−ブチルフォスフィン40μl、水200μlの入った一回り大きなガラス試験管の中にガラスバイアルごと試料を入れ、ガラス試験管を封かんした後、100℃で7分間反応させてピリジルエチル化した。反応終了後ガラスバイアルを取り出し、数回水と共沸させて揮発性成分を除いた。
得られたピリジルエチル化された硫酸化フコガラクタン分解酵素タンパク質を、30μlの8M 尿素を含む100mM トリス塩酸緩衝液(pH9.2)、30μlの100mM トリス塩酸緩衝液(pH9.2)及び40pmolのアクロモバクタープロテアーゼI(宝酒造社製)を加え、37℃で一晩消化し、得られた消化物からペプチド断片をHPLCシステム(スマートシステム、ファルマシア社製)にて精製した。カラムは、μRPC C2/C18 SC2.1/10(ファルマシア社製)を用い、100μl/minの流速で行った。溶出は、溶出液として0.1% トリフルオロ酢酸水溶液(溶出液A)および0.1% トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル(溶出液B)を用い、溶出液Bの割合を0%でサンプルをアプライし、100分間で溶出液Bの割合を40%にまであげる直線濃度勾配法にて溶出し、得られた溶出画分から各ペプチド画分についてアミノ酸配列分析を行い、部分アミノ酸配列S21(配列表の配列番号1)、S23(配列番号2)、S39(配列番号3)、S42(配列番号4)、S49(配列番号5)、S162(配列番号6)、およびS292(配列番号7)を決定した。
(4) 硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子の塩基配列決定
実施例1−(1)で調製したゲノムDNA 1.2μgを制限酵素BglII、EcoRI、EcoT14I、 EcoT22I、HindIII、NcoI、PstI、SpeIおよびXbaI(いずれも宝酒造社製)各30Uで各々37℃で5時間消化後、フェノール/クロロホルム抽出した。消化物をエタノール沈殿により回収した。この各消化物 約0.6μgを、BglII消化物にはSau3AIカセット、EcoRI消化物にはEcoRIカセット、EcoT22IおよびPstI消化物にはPstIカセット、HindIII消化物にはHindIIIカセット、SpeIおよびXbaI消化物にはXbaIカセット(各カセットDNAはいずれも宝酒造社製)各50ngと混合後、DNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて連結させた。EcoT14IおよびNcoI消化物は配列表の配列番号8、9記載の2本の合成オリゴヌクレオチドから作製したNcoIカセットと連結させた。反応物をエタノール沈殿により回収して5μlの水に溶解し、カセットDNAを用いたPCR法の鋳型DNAとした。
一方、実施例1−(3)で決定した部分アミノ酸配列S39(配列表の配列番号3)の1〜7のアミノ酸配列からSFG−391Fプライマー(配列番号10)、8〜15のアミノ酸配列からSFG−392Fプライマー(配列番号11)の混合オリゴヌクレオチドをそれぞれアミノ酸配列と同じ向きに合成した。また、S42(配列番号4)の1〜8のアミノ酸配列からSFG−421Fプライマー(配列番号12)、6〜14のアミノ酸配列からSFG−422Fプライマー(配列番号13)とSFG−423Fプライマー(配列番号14)の混合オリゴヌクレオチドをそれぞれアミノ酸配列と同じ向きに合成した。
8μlの2.5mM dNTP混合液、カセットプライマーC1(宝酒造社製)20pmol、混合オリゴヌクレオチドSFG−391F(配列番号10)またはSFG−421F(配列番号12)100pmol、および滅菌水を加えて50μlとし、Ampliwax PCR Gem100(宝酒造社製)を添加した後70℃で3分間加熱後室温で10分間放置した。ここに10μlの10倍濃度Exタック増幅用緩衝液(宝酒造社製)、先に調製した鋳型DNA各1μl、2ユニットのタカラExタックDNAポリメラーゼ(Takara Ex Taq DNA polymerase、宝酒造社製)、および滅菌水を加えて100μlとした。この混合液を自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラー(TaKaRa PCR Thermal Cycler 、宝酒造社製)による増幅反応に供した。PCR反応は、94℃で0.5分間の変性、45℃で1分間のアニーリング、72℃で3分間の合成反応を1サイクルとし、30サイクル行った。
次に、1回目のPCR反応液の一部を鋳型DNAとして2回目のPCR反応を行った。すなわち、8μlの2.5mM dNTP混合液、カセットプライマーC2(宝酒造社製)20pmol、混合オリゴヌクレオチドSFG−392F(配列番号11)またはSFG−422F(配列番号13)またはSFG−423F(配列番号14)100pmol、および滅菌水を加えて50μlとし、Ampliwax PCR Gem100を添加した後70℃で3分間加熱後室温で10分間放置した。ここに10μlの10倍濃度Exタック増幅用緩衝液(宝酒造社製)、1μlの1回目のPCR反応液、2UのタカラExタック DNAポリメラーゼ、および滅菌水を加えて100μlとした。この混合液を94℃で0.5分間の変性、45℃で1分間のアニーリング、72℃で3分間の合成反応を1サイクルとして25サイクル行った。また同時に、それぞれの反応液に対してカセットプライマーC2のみあるいは混合オリゴヌクレオチドのみの反応液についてもPCR反応を行い、各プライマーの非特異的増幅産物のコントロールとした。
アガロースゲル電気泳動で反応液を分析し、非特異的増幅産物のコントロールと比較したところ、多くの反応液で特異的な増幅バンドが検出された。これらの中から比較的バックグランドが低く、強く増幅されていたSpeI消化物−XbaIカセットのC2−SFG−392Fプライマーによる約0.8kbのバンド、HindIII消化物−HindIIIカセットのC2−SFG−423Fプライマーによる約1.4kbのバンド、EcoRI消化物−EcoRIカセットのC2−SFG−423Fプライマーによる約1.1kbのバンドを抽出、精製した。これらのDNA断片とpT7ブルーT−ベクター(pT7blue T−Vector、ノバジェン社製)を混合し、DNAライゲーションキットを用いて連結後、大腸菌JM109を形質転換し、100μg/mlのアンピシリン、0.004%のX−Gal及び1mMのIPTGを含むL培地プレート上で生育する白色コロニーを選択した。各形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含む液体L培地に接種し、37℃終夜培養後、培養菌体からアルカリ溶菌法によりプラスミドDNAを調製し、目的のサイズのバンドが挿入されたプラスミドを選択し、各々S3921、H4231、R4231と命名した。これらの挿入配列をジデオキシ法により塩基配列分析を行った。S3921とR4231は各々2回目のPCR反応に用いたプライマーの配列に続いて部分アミノ酸配列をコードする領域が見出された。また、S3921とR4231は挿入断片の塩基配列が一部重なっており、両塩基配列をつなげると約1.6kbpになった。この中には部分アミノ酸配列S42(配列番号4)、S162(配列番号6)、S23(配列番号2)、S49(配列番号5)、S292(配列番号7)、S39(配列番号3)をコードする領域を含む読み取り枠の一部が含まれており、硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子の一部であることが明らかとなった。
また、実施例1−(3)で決定した部分アミノ酸配列S23(配列番号2)の6〜13のアミノ酸配列からSFG−231Rプライマー(配列番号15)、SFG−232Rプライマー(配列番号16)、3〜9のアミノ酸配列からSFG−239Rプライマー(配列番号17)、SFG−230Rプライマー(配列番号18)の混合オリゴヌクレオチドをそれぞれアミノ酸配列と逆向きに合成し、上記と同様の方法でカセットライブラリーからのスクリーニングを試みた。アガロースゲル電気泳動で反応液を分析し、非特異的増幅産物のコントロールと比較したところ、多くの反応液で特異的な増幅バンドが検出された。これらの中から比較的バックグランドが低く、強く増幅されていたEcoT14I消化物−NcoIカセットのC2−SFG−239Rプライマーによる約1.4kbのバンドを抽出、精製した。このDNA断片とpT7ブルーT−ベクターを連結し、上記と同様に目的のサイズのバンドが挿入されたプラスミドを選択し、T2392と命名した。その挿入配列の塩基配列分析を行ったところ、上記で分析した1.6kbpの塩基配列と1部重なっており、つなげあわせると約2.8kbpの塩基配列を決定することができた。この中には1602塩基(終止コドンを含む)の読み取り枠が見出され、この読み取り枠がコードするアミノ酸配列中に実施例1−(3)で決定した部分アミノ酸配列と非常に高い相同性を示す領域が見出された。この1602bpの読み取り枠をsfgAと命名した。
sfgAがコードするアミノ酸配列中には実施例1−(3)で決定した硫酸化フコガラクタン分解酵素部分アミノ酸配列S21(配列番号1)、S23(配列番号2)、S39(配列番号3)、S42(配列番号4)、およびS292(配列番号7)と一致する配列が、また、部分アミノ酸配列S49(配列番号5)およびS162(配列番号6)と非常に相同性の高い配列が見出された。このようにsfgAがコードするアミノ酸配列は、実施例1−(3)の硫酸化フコガラクタン分解酵素部分アミノ酸配列分析により明らかとなった全てのアミノ酸配列と一致あるいは高い相同性を示すことから、フラボバクテリウム sp.SA−0082の硫酸化フコガラクタン分解酵素を実質的にコードしていると考えられた。
一方、H4231は2回目のPCR反応に用いたSFG−423Fの配列に続いて部分アミノ酸配列S42(配列番号4)の15番目以降のアミノ酸をコードする領域が見出されたが、19番目と20番目のアミノ酸が異なっていた。H4231の挿入断片の全塩基配列を決定したところ、上記2.8kbpの塩基配列と一部重なっており、sfgAの上流にsfgAと相同性の高い読み取り枠の一部があることがわかった。
(5) sfgAホモログの単離
実施例1−(2)で調製したフラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAライブラリーから硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子を含むクローンを、以下のようにプラークハイブリダイゼーション法によりスクリーニングした。まず、ゲノムDNAのファージライブラリーを大腸菌ER1647に感染させ、10cm×14cmのシャーレに入ったL培地プレート3枚に、1枚当たり約1300個のプラークを形成させた。これらのプレートにナイロン膜ハイボンドN+(アマシャム ファルマシア バイオテク社製)を約2分間接触させファージを写し取った。このナイロン膜を0.5M 水酸化ナトリウム、1.5M 塩化ナトリウムの溶液中で5分間変性し、次いで、0.5M トリス塩酸緩衝液(pH7.0)、3M 塩化ナトリウムの溶液中で5分間中和処理し、2×SSCでリンスした後風乾した。このナイロン膜を80℃で1時間加熱してDNAを固定した。
一方、実施例1−(4)で得られたT2392のプラスミドDNA 約15μgをベクター由来のEcoRIおよびNdeIで消化し、遊離する約1.4kbの硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子の一部を含む断片を抽出精製した。このDNA断片をDIG DNA標識及び検出キット(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いてジゴキシゲニンで標識し、取扱説明書に従い以下のようにプラークハイブリダイゼーションを行った。上記調製したフィルターをハイブリダイゼーション溶液中、60℃で4時間プレハイブリダイゼーションを行った後、熱変性した標識プローブを約60ng/mlの濃度になるように加え、60℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション終了後、まず2×SSC、0.1%SDSで室温で5分間2回、さらに0.5×SSC、0.1%SDSで45℃で15分間2回洗浄した。その後、上記検出キットを用いて検出した結果、24個のポジティブシグナルが得られた。元のプレートよりポジティブシグナル付近のプラークをかきとり、SM緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.5)、0.1M NaCl、7mM MgSO4、0.01%ゼラチン)に懸濁しファージを回収した。得られたファージ液のいくつかについて、再度新しいプレートにプラークを形成させ、同様の操作を繰り返すことにより5個のポジティブシグナルを与えるファージを単離した。
ノバジェン社のラムダブルースター取り扱い説明書に従って、得られた各ファージを大腸菌BM25.8に感染させたのち100μg/mlのアンピシリンを含むL培地プレートに広げ、アンピシリン耐性のコロニーを選択することによりファージをプラスミドの形に変換した。得られた各クローンのコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む液体L培地に接種し、37℃で終夜培養した培養液からアルカリ溶菌法によりプラスミドDNAを調製した。このプラスミドDNAを用いて、大腸菌JM109(宝酒造社製)を形質転換し、得られた各クローンのコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む液体L培地に接種し、37℃で終夜培養した培養液からアルカリ溶菌法により再度プラスミドDNAを調製した。得られた各クローンのプラスミドをそれぞれpBsfg5、7、13、17およびpBsfg18と命名した。各プラスミドをそれぞれ、適当な制限酵素で消化後、アガロースゲル電気泳動に供し、各挿入断片の制限酵素地図を作成して解析した。その結果、アガロースゲル電気泳動のエチジウムブロマイド染色でそれぞれ良く似たサイズのバンドが複数検出されることから、各プラスミドにはほぼ同じ位置のゲノムDNAで、約3〜14kbpの断片が挿入されていると推定された。
上記で得られたプラスミドのうち、約7kbpの挿入断片を持つpBsfg17について、さらに挿入断片の解析を行った。すなわち、pBsfg17約1μgをKpnI消化し、遊離する約7kbpの断片を抽出精製した。このKpnI断片をアンピシリン耐性ベクターであるpUC119(宝酒造社製)のKpnI消化物と混ぜ、DNAライゲーションキットを用いて連結後、大腸菌JM109を形質転換し、100μg/ml アンピシリン、0.004% X−Gal、および1mM IPTGを含むL培地プレート上で生育する白色コロニーを選択した。各形質転換体を100μg/ml アンピシリンを含む液体L培地に接種し、37℃終夜培養後、培養菌体からアルカリ溶菌法によりプラスミドDNAを調製し、制限酵素消化後アガロースゲル電気泳動を行って解析した。その結果、pBsfg17由来の約7kbp DNAがベクターDNAに対してそれぞれ逆向きに挿入されたpUC17K1およびpUC17K3を得た。これらプラスミドについて直接プライマー伸長法によって、あるいは制限酵素消化後サブクローニング等を行ってジデオキシ法によって詳しく塩基配列を解析したところ、sfgAおよびsfgAの上流に1626塩基(終止コドンを含む)の読み取り枠が見出され、この読み取り枠がコードするアミノ酸配列はsfgAがコードするアミノ酸配列と非常に高い相同性を示した。この読み取り枠をsfgBと命名した。
sfgBがコードするアミノ酸配列中にも、硫酸化フコガラクタン分解酵素部分アミノ酸配列S21(配列番号1)、S23(配列番号2)、S39(配列番号3)、S42(配列番号4)、S49(配列番号5)、S162(配列番号6)、およびS292(配列番号7)と相同性の高い配列が見出された。sfgAとsfgBを比較すると塩基配列およびアミノ酸配列の相同性は各々約67%および約59%と高いことからsfgBも硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードしていると考えられた。以上のようにして、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードすると考えられる遺伝子(sfgA)およびその遺伝子に非常に高い相同性を示す遺伝子(sfgB)の全塩基配列が決定された。sfgAの塩基配列を配列表の配列番号19に、sfgAがコードするアミノ酸配列を配列表の配列番号20に示す。更にsfgBの塩基配列を配列表の配列番号21に、sfgBがコードするアミノ酸配列を配列表の配列番号22に示す。
以上、本発明により実質的に硫酸化フコガラクタン分解酵素をコードすると考えられる遺伝子(sfgA)およびその遺伝子に相同性を示し、硫酸化フコガラクタン分解活性を有すると考えられる新規ポリペプチドをコードすると考えられる遺伝子(sfgB)が決定された。
(6) sfgA遺伝子由来硫酸化フコガラクタン分解酵素
sfgA遺伝子全長を発現ベクターに挿入して、硫酸化フコガラクタン分解酵素を発現させたが、その活性が低かったため、以下のようにN末端を削ったポリペプチドの発現を試みた。
まず、実施例1−(5)で得られた、実質的に硫酸化フコガラクタン分解酵素をコードすると考えられる遺伝子(sfgA)の発現ベクターを以下のように構築した。sfgAL5プライマー(配列番号23)は、そのコードするタンパク質のN末端より23番目までのアミノ酸を欠失させ、なおかつNdeIサイトを導入するように設計した。sfgAR4プライマー(配列番号24)は終始コドンの代わりにXhoIの認識配列をもち、sfgAL5プライマーと反対鎖にハイブリダイズするよう設計した。これら2種類のプライマーを用いて、フラボバクテリウム sp.SA−0082の染色体DNAをテンプレートとしたPCR反応を以下のように行なった。0.5ml PCR用チューブにプライマーsfgAL5、sfgAR4を10pmolずつ、テンプレートの染色体DNAを10ng、5μlの10倍濃度Exタック増幅用緩衝液、8μlのdNTP混合液、0.5μlのTaKaRa Ex Taqを添加し、滅菌水を加えて50μlとした。これを自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラー(宝酒造社製)にセットし、94℃で2分間変性を行なった後、94℃で1分間の変性、55℃で2分間のアニーリング、72℃で2分間の合成反応を1サイクルとして25サイクル行なった。この増幅したDNA断片をNdeI及びXhoIで切断した後、1.0%アガロースゲル電気泳動により分離し、24番目以降のアミノ酸配列をコードする約1.5kbのNdeI−XhoI断片を切り出して抽出精製した。
一方、T7 lacプロモーターを使った発現ベクターであるpET16b(ノバジェン社製)をNdeIサイトとXhoIサイトで切断後、先に調製した約1.5kbのNdeI−XhoI断片を挿入し、これをpEA101と命名した。つまりこのハイブリッドベクターにより発現されるタンパク質はsfgAによってコードされる24番目以降のアミノ酸からなるポリペプチドの両末端にベクター由来の22アミノ酸が付加したものである。なおN末端には10個の連続したヒスチジンからなる配列(His・Tag)を持つ。こうして得られたpEA101を用いて大腸菌BL21(DE3)株(ノバジェン社製)を形質転換した。得られた大腸菌BL21(DE3)/pEA101を30mlの液体L培地(アンピシリン50μg/mlを含む)に植菌し、37℃で一晩培養した。全量を新たに3リットルのL培地(アンピシリン50μg/ml)に植菌し、37℃、回転数200rpm、通気1.0リットル/minで対数増殖期まで培養した。この培養には5l容ミニジャー(エイブル社製)を用いた。濁度がO.D.600=0.4の段階で終濃度0.5mMになるようにIPTGを加えた後、さらに25℃、回転数120rpm、通気1.0リットル/minで一晩培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して約21gの菌体を集め、そのうち約7.0gを以下の精製に使用した。なお、この際にはN末領域のHis・Tagを利用し、His・Tag Resin(ノバジェン社製)を利用して行なった。40mlのBinding buffer(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、5mM イミダゾール)で菌体を懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。この破砕液を遠心分離し、得られた上清を、Niを付加しその後Binding bufferで平衡化した10mlのHis・Bind Resinにアプライした。そのカラムを50mlのBinding bufferで洗浄後、さらに30mlのWash buffer(40mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、60mM イミダゾール)で洗浄した。その後50mlのElute buffer(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、1M イミダゾール)で目的のタンパク質を回収した。これをSDS−PAGEで確認したところ、精製された形で目的タンパク質が検出され、硫酸化フコガラクタン分解活性を参考例2に記載した方法で測定した結果、580mU/mlであることがわかった。すなわち、sfgAがコードするポリペプチドは硫酸化フコガラクタン分解活性を有し、本発明の遺伝子を持つ大腸菌BL21(DE3)/pEA101の培養液1ml中に、約58mUの硫酸化フコガラクタン分解活性を有するsfgAがコードするポリペプチドが生産されていたことが分かった。このN末端を削ったsfgAがコードするポリペプチドの塩基配列を配列表の配列番号27に、このポリペプチドのアミノ酸配列を配列表の配列番号28に示す。なお、このpEA101プラスミドを有する大腸菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にEsherichia coli BL21(DE3)/pEA101、寄託番号FERM P−18380として、平成13年6月20日より寄託されており、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−8149[国際寄託への移管請求日:平成14年8月13日]として寄託されている。
(7) sfgB遺伝子由来硫酸化フコガラクタン分解酵素
sfgB遺伝子全長を発現ベクターに挿入して、硫酸化フコガラクタン分解酵素を発現させたが、その活性が見られなかったため、以下のようにN末端を削ったポリペプチドの発現を試みた。
実施例1−(5)で得られた硫酸化フコガラクタン分解活性を有すると思われる新規ポリペプチドをコードする遺伝子(sfgB)の発現ベクターを構築した。sfgBL7プライマー(配列番号25)は、そのコードするタンパク質のN末端より30番目までのアミノ酸を欠失させ、なおかつNdeIサイトを導入するように設計した。sfgBR3プライマー(配列番号26)は終始コドンの代わりにXhoIの認識配列をもち、sfgBL7プライマーと反対鎖にハイブリダイズするよう設計した。これら2種類のプライマーを用いて、実施例1−(6)と同様の条件でフラボバクテリウム sp.SA−0082の染色体DNAをテンプレートとしたPCR反応を行なった。この増幅したDNA断片をNdeI及びXhoIで切断した後、1.0%アガロースゲル電気泳動により分離し、31番目以降のアミノ酸配列をコードする約1.5kbのNdeI−XhoI断片を切り出して抽出精製した。この断片を同酵素で切断したpET16bに挿入し、これをpEB101と命名した。つまりこのハイブリッドベクターにより発現されるタンパク質はsfgBによってコードされる31番目以降のアミノ酸からなるポリペプチドの両末端にベクター由来の22アミノ酸が付加したものである。なおN末端には10個の連続したヒスチジンからなる配列(His・Tag)を持つ。
こうして得られたpEB101を用いて大腸菌BL21(DE3)株(ノバジェン社製)を形質転換した。得られた大腸菌BL21(DE3)/pEB101を30mlの液体L培地(アンピシリン50μg/mlを含む)に植菌し、37℃で一晩培養した。全量を新たに3リットルのL培地(アンピシリン50μg/ml)に植菌し、37℃、回転数200rpm、通気1.0リットル/minで対数増殖期まで培養した。この培養には5リットル容ミニジャー(エイブル社製)を用いた。濁度がO.D.600=0.4の段階で終濃度0.5mMになるようにIPTGを加えた後、さらに25℃、回転数120rpm、通気1.0リットル/minで一晩培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して約23gの菌体を集め、そのうち約7.7gを以下の精製に使用した。なお、この際にはN末領域のHis・Tagを利用しHis・Tag Resin(ノバジェン社製)を利用して行なった。50mlのBinding buffer(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、5mM イミダゾール)で菌体を懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。この破砕液を遠心分離し、得られた上清を、Niを付加しその後Binding bufferで平衡化した20mlのHis・Bind Resinにアプライした。そのカラムを100mlのBinding bufferで洗浄後、さらに60mlのWash buffer(40mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、60mM イミダゾール)で洗浄した。その後50mlのElute buffer(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、1M イミダゾール)で目的のタンパク質を回収した。これをSDS−PAGEで確認したところ、精製された形で目的タンパク質が検出され、硫酸化フコガラクタン分解活性を参考例2に記載した方法で測定した結果、3.05mU/mlであることがわかった。すなわち、sfgBがコードするポリペプチドは硫酸化フコガラクタン分解活性を有し、本発明の遺伝子を持つ大腸菌BL21(DE3)/pEB101の培養液1ml中に約0.3mUの硫酸化フコガラクタン分解活性を有するsfgBがコードするポリペプチドが生産されていたことが分かった。このN末端を削ったsfgBがコードするポリペプチドの塩基配列を配列表の配列番号29に、このポリペプチドのアミノ酸配列を配列表の配列番号30に示す。なお、このpEB101プラスミドを有する大腸菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にEsherichia coli BL21(DE3)/pEB101、寄託番号FERM P−18381として、平成13年6月20日より寄託されており、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−8150[国際寄託への移管請求日:平成14年8月13日]として寄託されている。
実施例2 硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子の相同性検索
実施例1において得られた硫酸化フコガラクタン分解酵素活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列と塩基配列について、ホモロジー検索を行なった。検索プログラムは、コンピューターアルゴリズムBLAST(バージョン2.0;Altschulら、Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997)によって算出した。
コンピューターアルゴリズムBLASTで遺伝子データベースをsfgA、sfgBに関して検索した。その結果、sfgAがコードするアミノ酸配列に対して最も相同性の高かったものは全長の配列に対して8%、塩基配列で最も相同性の高かったものは全長の配列に対して1%の相同性であった。また、sfgBがコードするアミノ酸に対しては、同様に7%、塩基配列は1%であった。
さらに、検索プログラムDNASIS−Mac(宝酒造社製)のMaximum Matchingを用いて、国際公開第99/11797号パンフレット記載のフラボバクテリウム由来エンド型フコース硫酸含有多糖分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子fdlA、fdlBとの相同性を算出した。その結果、sfgAはfdlA、fdlBに対してそれぞれ塩基配列で54%、52%、それらがコードするアミノ酸配列で34%、30%の相同性を有していた。同様にsfgBはfdlA、fdlBに対してそれぞれ塩基配列で53%、52%、それらがコードするアミノ酸配列で33%、30%の相同性を有していた。
また、sfgAとsfgBの相同性は、塩基配列で69%、コードするアミノ酸配列で59.4%であった。
実施例3 硫酸化フコガラクタンの脱アセチル化の影響
参考例1に記載の硫酸化フコガラクタン画分200mgを20mlの1N水酸化ナトリウムに溶解し25℃で24時間放置した。本操作によりO−アセチル基を選択的に加水分解することができる。得られた脱アセチル化硫酸化フコガラクタンを10%エタノール中で充分透析し、高分子画分を凍結乾燥して、137mgの脱アセチル化硫酸化フコガラクタンを得た。
実施例1−(6)で得られたsfgA遺伝子由来硫酸化フコガラクタン分解酵素を、硫酸化フコガラクタン及び脱アセチル化硫酸化フコガラクタンに作用させその低分子化の程度をHPLCにより確認した。
すなわち、120μlの50mM リン酸緩衝液(pH8.0)、24μlの2.5%硫酸化フコガラクタンあるいは脱アセチル化硫酸化フコガラクタン、及び12μlの4M 塩化ナトリウム、82.9μlの水を混合後、1.1μlの885mU/mlの硫酸化フコガラクタン分解酵素を混合し、30℃で24時間反応した。反応液を参考例2記載の方法によりHPLCで分析し、基質の低分子化の程度を比較した。その結果、硫酸化フコガラクタンを基質として用いた場合は分解後の平均分子量が約160,000、脱アセチル化硫酸化フコガラクタンを基質に用いた場合は分解後の分子量が約10,000以下であった。本酵素を用いて硫酸化フコガラクタンオリゴ糖を得る場合、硫酸化フコガラクタンを脱アセチル化することにより、分子量の小さいオリゴ糖を得られることがわかった。
産業上の利用の可能性
本発明により、糖鎖工学用試薬、硫酸化フコース含有多糖の構造解析や該多糖の低分子化物の調製に有用な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、該ポリペプチドの遺伝子工学的製造方法、及び該方法によって得られるポリペプチドが提供される。
【配列表】
本発明は、糖鎖工学用試薬、硫酸化フコース含有多糖の構造解析や該多糖の低分子化物の調製に有用な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、該ポリペプチドの遺伝子工学的製造方法、及び該方法によって得られるポリペプチドに関する。
背景技術
褐藻類には何種類もの硫酸化フコース含有多糖が含まれている。例えば、▲1▼フコースと硫酸基のみからなる硫酸化フカン、▲2▼グルクロン酸、マンノース、フコース及び硫酸基を含有する硫酸化フコグルクロノマンナン、例えば国際公開公報第97/26896号パンフレットに記載のフコース硫酸含有多糖−U(構成糖及びそのモル比がフコース:マンノース:ガラクトース:ウロン酸:硫酸基=約10:7:4:5:20、以下、U−フコイダンと称す)、▲3▼フコース、ガラクトースよりなる硫酸化フコガラクタン、例えば、国際公開公報第97/26896号パンフレットに記載のフコース硫酸含有多糖−F(構成糖及びそのモル比がフコース:ガラクトース=約10:1、以下、F−フコイダンと称す)、あるいは国際公開公報第00/50464号パンフレットに記載のフコース硫酸含有多糖−G(構成糖及びそのモル比がガラクトース:フコース=約2:1、以下、G−フコイダンと称す)等の硫酸化フコース含有多糖が知られている。これらの硫酸化フコース含有多糖は、おおよそ総て陰イオン性高分子であるため、様々な精製工程において理化学的に同じ挙動を取り、分離が困難であった。そのため褐藻類の硫酸化フコース含有多糖はそれぞれ分離されることなく、そのまま生物活性が調べられることが多く、見出された生物活性を担うものがどの硫酸化フコース含有多糖であるのかを決定することは困難であった。
現在までに活性と分子の相関関連が知られているのは、アグリカルチュラル アンド バイオロジカル ケミストリー(Agricultural and Biological Chemistry)、第44巻、第8号、第1965頁〜第1966頁(1980)記載の抗凝血作用を担う硫酸化フカン画分、国際公開公報第97/26896号パンフレット記載の癌細胞に対するアポトーシス誘発作用を担うU−フコイダンである。
硫酸化フカン画分の抗凝血作用に関しては、ヘパリンの代わりに使用することが検討されてきた。しかし、薬品として使用する場合、予期せぬ活性すなわち副作用を防ぐためにも、高純度の硫酸化フカンを得る必要があり、その方法が求められていた。
同様に、U−フコイダンに関しても癌細胞に対するアポトーシス誘発作用を利用した薬品類を調製するために高純度のフコース硫酸含有多糖−Uを簡便に得る必要があり、その方法が求められていた。
一般的に、多糖の構造解析やオリゴ糖の製造に酵素分解を利用する方法は、最も効率良い方法である。また、分離が困難な多糖の混合物から一種類の多糖だけを除去する際にも、除去したい多糖を特異的に分解する酵素があれば、その多糖をその酵素で低分子化した後、限外ろ過等の分子量分画を行うことにより容易にその他の多糖と分離することができる。
従来よりアワビ、ホタテ貝、ウニ、海洋微生物などが上記の硫酸化フコース含有多糖を分解する酵素を生産していることが報告されている。しかし、これらの酵素は一般に生体内に微量しか含まれていない上に複数の硫酸化フコース含有多糖分解酵素を持っているために、単一の酵素を得るための様々な精製工程が必要となっていた。例えば、国際公開公報第00/50464号パンフレット記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素は活性を指標に分離したものであり、単一のタンパク質として単離されているかどうかは不明である。このように、単一の天然の硫酸化フコガラクタン分解酵素を大量に精製・採取することは困難であった。また、上記の硫酸化フコガラクタン分解酵素を海洋微生物から採取する場合においては、培養液中に硫酸化フコガラクタン、あるいは硫酸化フコガラクタンを含む硫酸化フコース含有多糖を添加することが必要であり、培養操作が繁雑であり、コスト高になるという問題があった。
さらに、上記方法により天然の硫酸化フコガラクタン分解酵素タンパクが十分採取できなければ該酵素のアミノ酸配列及び核酸配列の情報を得ることはまず不可能であり、仮に十分量採取できた場合でも該酵素タンパクのN末がブロッキングされていたならば、N末アミノ酸配列の情報を得られないという問題があった。
また、上記酵素をコードする遺伝子が取得できた場合においても、発現プロモーターあるいは宿主との相性により、発現しないか、発現しても低発現である、あるいは封入体となって酵素活性を保持した組換体酵素を得ることができないなど予測がつかない問題があった。
発明の目的
本発明の目的は、糖鎖工学用試薬、硫酸化フコース含有多糖の構造解析や該多糖の低分子化物の調製に有用な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、該ポリペプチドの遺伝子工学的製造方法、及び該方法によって得られるポリペプチドを提供することにある。
発明の概要
本願の発明者らは、褐藻類に含まれる硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列及び塩基配列を明らかにするために、硫酸化フコガラクタン分解酵素を生産する微生物の遺伝子について鋭意研究を進めた結果、フラボバクテリウム属細菌由来の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子が少なくとも2種類存在することを明らかにし、その塩基配列を決定した。また、該ポリペプチドのアミノ酸配列を明らかにし、さらに該遺伝子を用いて硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを工業的に有利に生産する方法をも開発することに成功し、本発明を完成させた。
本発明の第1の発明は、下記の群より選択され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有することを特徴とするポリペプチドに関する:
(a)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列またはその一部を含むポリペプチド;
(b)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を有するポリペプチド;および
(c)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。
本発明の第2の発明は、下記の群より選択され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有することを特徴とするポリペプチドをコードする核酸に関する:
(a)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列またはその一部を含むポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列表の配列番号27、29のいずれか1つに示される塩基配列を含む核酸;
(d)配列表の配列番号27、29のいずれか1つに示される塩基配列において、少なくとも1つの塩基が欠失、付加、挿入または置換を有する塩基配列からなる核酸;
(e)前記(a)〜(d)のいずれかに記載の核酸またはその相補鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸;および
(f)配列表の配列番号27、29のいずれか1つに示される塩基配列に少なくとも50%の相同性を有する塩基配列である核酸。
本発明の第2の発明において、硫酸化フコガラクタンに作用して、該硫酸化フコガラクタンを低分子化し、下記式(I)、(II)、(III)及び(IV)から選択される少なくとも1以上の化合物を遊離させる活性を有することを特徴とするポリペプチドが提供される:
(式中、RはH又はSO3Hである)。
本発明の第3の発明は、第2の発明の核酸を含んでなる組換えDNAに関する。
本発明の第4の発明は、第3の発明の組換えDNAが挿入されてなる、微生物、動物細胞又は植物細胞を宿主細胞とする発現ベクターに関する。
本発明の第5の発明は、第3の発明の組換えDNAまたは第4の発明の発現ベクターにより形質転換されてなる形質転換体に関する。
本発明の第6の発明は、第5の発明の形質転換体を培養する工程および該培養物より硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを採取する工程を包含することを特徴とする、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドの製造方法に関する。
本発明の第7の発明は、大腸菌BL21(DE3)/pEA101 FERM BP−8149又は大腸菌BL21(DE3)/pEB101 FERM BP−8150を培養して得られる、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドに関する。
本発明の第8の発明は、第1の発明または第7の発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させて採取されることを特徴とする硫酸化フコガラクタンの低分子化物に関する。
本発明の第9の発明は、第1の発明または第7の発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させる工程を包含することを特徴とする硫酸化フコガラクタンの低分子化物の製造方法に関する。
本発明の第9の発明において、脱アセチル処理した脱アセチル化硫酸化フコガラクタンに硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを作用させることを特徴とする硫酸化フコガラクタンの低分子化物の製造方法が提供される。
本発明の第10の発明は、第2の発明の遺伝子あるいはその一部をプローブとして用いて硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子をスクリーニングする工程を包含することを特徴とする硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のスクリーニング方法に関する。
本発明の第11の発明は、第1の発明または第7の発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させる工程を包含することを特徴とする、多糖類の構造解析方法に関する。
発明の詳細な説明
以下本発明に関して具体的に説明する。
本発明において硫酸化フコガラクタンとは、国際公開公報第00/50464号パンフレットに記載の硫酸化フコース含有多糖のことをいい、構成糖として主にガラクトースとフコースを含有し、そのモル比が1:1〜6:1であり、例えば、2:1の硫酸化フコガラクタンが例示される。また、平均分子量は、例えば、HPLCゲルろ過法で約13万(分子量分布は、約10万〜約20万)の硫酸化多糖である。なお、上記硫酸化フコガラクタンの分子量、糖組成、アセチル基含量及び硫酸基含量は、該硫酸化フコガラクタンの原料の収穫期、該原料の乾燥方法、該原料の保存方法により異なり、また硫酸化フコガラクタンの抽出時の加熱条件、pH条件等により異なる。例えば、酸により該硫酸化フコガラクタンは加水分解される場合がある。従って、本明細書に記載した硫酸化フコガラクタンの分子量、分子量分布、糖組成、アセチル基含量あるいは硫酸基含量はその1例にすぎず、該硫酸化フコガラクタンの抽出処理条件により、その分子量、分子量分布、糖組成、アセチル基含量あるいは硫酸基含量は容易に変化させ得る。例えば、本明細書に記載のU−フコイダン分解酵素及びF−フコイダン分解酵素を用いて硫酸化フコガラクタンを調製する場合、例えば上記の糖組成と分子量を示す硫酸化フコガラクタンが得られる。すなわち、調製方法の条件によって任意の分子量、分子量分布、糖組成、アセチル基含量あるいは硫酸基含量の硫酸化フコガラクタンを調製することができる。例えば、硫酸化フコガラクタンの主要な構成糖は、6糖あたりおよそ5残基の硫酸基を含んでいるが、一般的に糖にエステル結合している硫酸基は、化学的に不安定であり、酸やアルカリあるいは熱により容易に切断される。例えば、酸性やアルカリ性条件下で加熱処理を行えばその硫酸基含量は減少するものである。すなわち、硫酸化フコガラクタンから意図的に脱硫酸することが可能である。また、脱硫酸の際、酸やアルカリの種類や濃度、加熱処理時の温度や時間を調整すれば、切断する硫酸基の量も調整することができる。また、同様の処理によりエステル結合しているアセチル基も切断することができる。従って、本発明において硫酸化フコガラクタンは、前述の特徴を備えた硫酸化フコガラクタンもしくは、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素で低分子化される硫酸化フコガラクタンであればすべての褐藻類由来のものを包含する。
本発明において硫酸化フコガラクタンの主骨格は、下記一般式(V)に表される。下記一般式において、nは、1以上の整数であり、例えば、1〜1000の範囲、さらに好ましくは1〜500の範囲のものが硫酸化フコガラクタンに含まれる。
(式中、RはH、SO3H又はCOCH3である)
本発明において硫酸化フコガラクタンが由来する褐藻類は、特に限定されるものではないが例えば、ガゴメ昆布、ワカメ、マ昆布、アラメ、カジメ、クロメ、レッソニアニグレセンス、ジャイアントケルプ、ダービリア(Durvillaea)由来のものを調製することができる。特に限定はないが、例えば、ガゴメ昆布由来フコイダンには、U−フコイダン、F−フコイダン及びG−フコイダンが含まれている。
本発明において硫酸化フコガラクタンの塩としては、薬学的に許容される塩を用いることができ、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩、亜鉛等の遷移金属の塩、またはアンモニウム塩等が挙げられる。
本発明において硫酸化フコガラクタン低分子化物とは、硫酸化フコガラクタンに本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られるオリゴ糖であり、還元性末端糖が硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースである。
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチド
本発明において、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチド(本明細書においては、単に硫酸化フコガラクタン分解酵素と記載する場合がある)とは、硫酸化フコガラクタンあるいは脱アセチル化硫酸化フコガラクタンに作用して該硫酸化フコガラクタンを低分子化させ、還元性末端に硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースを持つオリゴ糖を生成させるポリペプチドをいう。また、国際公開公報第97/26896号パンフレットには、フコース硫酸含有多糖−Fを分解するエンド型フコース硫酸含有多糖分解酵素が記載されているが、該酵素は、本発明における硫酸化フコガラクタンを分解しない。
本発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドの一例として、本発明において単離精製されたフラボバクテリウム(Flavobacterium)sp.SA−0082株由来の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドがあげられる。該硫酸化フコガラクタン分解酵素は、硫酸化フコガラクタンのD−硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースとD−硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースの間のβ1−6結合及びβ1−4結合をエンド的に分解する酵素である。
本発明における硫酸化フコガラクタンを分解する酵素を生産する菌株としては、例えば、国際公開公報第97/26896号パンフレット記載のフラボバクテリウム(Flavobacterium)sp.SA−0082株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)]に平成7年3月29日よりFERM P−14872として寄託され、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−5402[国際寄託への移管請求日:平成8年2月15日]として寄託)があげられる。
本発明の硫酸化フコガラクタン活性を有するポリペプチドの一例としては、フラボバクテリウム属細菌由来の下記硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドがあげられる。
(I)作用▲1▼:構成糖としてガラクトースとフコースを含有し、そのモル比が1:1〜6:1である硫酸化フコガラクタン又はその塩に作用して該硫酸化フコガラクタンを低分子化させ、還元性末端に硫酸化ガラクトースあるいはガラクトースを持つオリゴ糖を生成させる。
(II)至適pH:本酵素の至適pHは約7〜9付近にある。
(III)至適温度:本酵素の至適温度は約25〜45℃付近にある。
本発明において硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドとは、天然型の硫酸化フコガラクタン分解酵素のみならず、硫酸化フコガラクタン分解活性を有する限り天然型のアミノ酸配列においてアミノ酸の欠失、置換、挿入、付加等によりアミノ酸配列が改変されたポリペプチドをも本発明に含む意味である。また、ここで言う天然型硫酸化フコガラクタン分解酵素としては、例えばフラボバクテリウム属細菌由来のものが挙げられるが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、その他の細菌類はもちろん、酵母類、糸状菌類、子嚢菌類、担子菌類等の微生物由来のもの、あるいは植物、動物等の生物体由来のものも、本発明のアミノ酸配列、塩基配列と相同性を有していれば含まれる。
本発明のポリペプチドは、硫酸化フコガラクタン分解活性を示す限りにおいて、配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含み、該配列に1個以上のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入もしくは置換の少なくとも1つがなされたアミノ酸配列で示される機能的に同等の活性を有するポリペプチドを包含する。
本明細書において、機能的に同等の活性を有するポリペプチドとは、以下のようなものをいう。
天然に存在するタンパク質にはそれをコードする遺伝子の多型や変異のほかに、生成後のタンパク質の生体内及び精製中の修飾反応などによって、そのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の欠失、付加、挿入、置換等の変異が起こりうるが、それにも関わらず変異を有しないタンパク質と実質的に同等の生理、生物学的活性を示すものがあることが知られている。このように構造的に差異があっても、その機能については大きな違いが認められないものを機能的に同等の活性を有するポリペプチドと呼ぶ。
人為的にタンパク質のアミノ酸配列に上記のような変異を導入した場合でも同様であり、この場合は更に多種多様の変異体を作製することが可能であるが、変異を有しないものと実質的に同等の生理活性を示す限り、これらの変異体は機能的に同等の活性を有するポリペプチドと解釈される。
例えば、大腸菌で発現されたタンパク質のN末端に存在するメチオニン残基は、多くの場合、メチオニンアミノペプチダーゼの作用により除去されるとされているが、タンパク質の種類によってはメチオニン残基を持つもの、持たないものの両方が生成される。しかしながら、このメチオニン残基の有無はタンパク質の活性には影響を与えない場合が多い。また、ヒトインターロイキン2(IL−2)のアミノ酸配列中の、あるシステイン残基をセリンに置換したポリペプチドがインターロイキン2活性を保持することが知られている〔サイエンス(Science)、第224巻、1431頁(1984)〕など、アミノ酸置換によって目的とする活性を示す場合がある。
また、機能的に同等の活性を有するポリペプチドは、相同性を有することが多い。したがって、本発明のポリペプチドと相同性を有し、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドも本発明に含まれる。
上記相同性は、例えばコンピュータープログラムDNASIS−Mac(宝酒造社製)、コンピュータアルゴリズムFASTA(バージョン3.0;パーソン(Pearson,W.R.)ら、Pro.Natl.Acad.Sci.,85:2444−2448,1988)、コンピューターアルゴリズムBLAST(バージョン2.0;Altschulら、Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997)によって測定することができる。
また、本発明によって開示されたアミノ酸配列(配列表の配列番号28、30)に30%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、さらに好ましくは59%以上の相同性を有するアミノ酸配列によってコードされるポリペプチドは、硫酸化フコガラクタン分解活性を有していれば本発明の範囲内に属するものである。
本発明の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを用いれば任意の硫酸化フコース含有多糖画分に含まれている硫酸化フコガラクタンのみを低分子化させることができるので、分子量分画と組み合わせることによって硫酸化フコガラクタンを選択的に除去することが可能である。例えば、硫酸化フカン画分には抗凝血活性、癌転移抑制活性、ウイルス感染抑制活性等様々な生物活性があることが報告されている。これまで、褐藻類から得られた硫酸化フカン画分には硫酸化フカン及びその他の多糖類が含まれている。従って、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を利用することにより、当該硫酸化フカン画分から硫酸化フコガラクタンを取り除くことができ、その結果、高純度の硫酸化フカンを得ることができる。
さらに例えば、硫酸化フコグルクロノマンナンには癌細胞に対するアポトーシス誘発作用があることが報告されている。従って、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を利用することにより、褐藻類から得た硫酸化フコグルクロノマンナンに夾雑する硫酸化フコガラクタンを容易に取り除くことができ、その結果、高純度の硫酸化フコグルクロノマンナンを簡便に得ることができる。
硫酸化フコガラクタンを除去する方法としては、たとえば、硫酸化フコガラクタン含有物が水系溶媒に溶けた溶液を調製する。硫酸化フコガラクタン含有物の溶解は通常の方法で行えばよく、溶解液中の硫酸化フコガラクタン含有物濃度はその最高溶解濃度でもよいが、通常はその操作性、及び使用する酵素力価を考慮して選定すればよい。硫酸化フコガラクタン溶解液としては水、緩衝液等より目的に応じて選択すればよい。溶解液のpHは通常中性付近が好ましい。次に硫酸化フコガラクタン含有物溶液に本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素もしくは該酵素の固定化物、あるいは両方を添加して反応させ硫酸化フコガラクタンを低分子化する。酵素反応は通常30℃付近で行い、酵素量や反応時間等は、次工程の分子量分画能に応じて適宜調整すればよい。その後、分子量分画すれば、本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物が除去された目的物を容易に調製することができる。分子量分画は、通常よく使用されている方法を適用することができ、例えばゲルろ過法や分子量分画膜を利用した限外ろ過法を使用すればよい。
本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素は、硫酸化フコガラクタンに作用するため、硫酸化フコガラクタンの構造解析に用いることができる。
さらに本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を用いれば、硫酸化フコガラクタンを含有する硫酸化フコース含有多糖から硫酸化フコガラクタン成分を選択的に除去することができる。例えば、硫酸化フコガラクタン成分を除去した後の高純度の硫酸化フカンもしくは硫酸化フコグルクロノマンナンは、医薬品の原材料としても好適に使用できる。
(2)硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子
機能的に同等の活性を有するポリペプチドは、それをコードする遺伝子が相同性を有することが多い。したがって、本発明に用いる遺伝子と厳密な条件においてハイブリダイズすることができ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子も本発明に含まれる。
上記塩基配列の相同性は、コンピュータープログラムDNASIS−Mac、コンピュータアルゴリズムFASTA(バージョン3.0)、BLAST(バージョン2.0)によって測定することができる。
本発明の核酸は、本発明のポリペプチドをコードする核酸であり、具体的には、配列表の配列番号28、30のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含む配列、または該配列において1個以上のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入もしくは置換の少なくとも1つがなされたアミノ酸配列で示され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を示すポリペプチドをコードする核酸(1)、配列表の配列番号27、29のいずれか1つに記載の塩基配列を含む核酸(2)、および上記核酸(1)または(2)にストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能であるか、(1)または(2)の塩基配列に50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上、さらに好ましくは69%以上の相同性を有する塩基配列で、かつ硫酸化フコガラクタン分解活性を示すポリペプチドをコードする核酸(3)等である。
本発明における核酸とは、1本鎖または2本鎖のDNAまたはRNAを意味する。上記核酸(2)がRNAである場合は、例えば配列表の配列番号27記載の塩基配列においてTをUで置換した塩基配列で示される。
本発明の核酸は、例えば、次のようにして得ることができる。
まず、配列表の配列番号27,29のいずれか1つに記載の塩基配列を含む核酸(2)は、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを生産する微生物、植物、動物などより常法にしたがってゲノムDNAを調製し、それを用いて作製したDNAライブラリーから単離することができる。またこのゲノムDNAを鋳型としたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、配列表の配列番号27、29のいずれか1つに記載の塩基配列を含む核酸を増幅することによっても取得できる。
また、本発明により提供される、本発明のポリペプチドをコードする核酸の塩基配列、例えば配列表の配列番号27、29のいずれか1つに記載の塩基配列を基に、本発明のポリペプチドと同様の硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする核酸を取得することも可能である。すなわち、本発明のポリペプチドをコードする核酸、またはその塩基配列の一部をハイブリダイゼーションのプローブに用いることにより、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードするDNAを、細胞から抽出したDNA、該DNAを鋳型として得られたPCR産物等からスクリーニングすることができる。あるいは上記の塩基配列から設計されたプライマーを使用したPCR等の遺伝子増幅法を用いることにより、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードするDNAを増幅することができる。また、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードするDNAを化学的に合成することも可能である。かかる方法により、上記核酸(1)または(3)を得ることができる。
上記の方法では目的の核酸の一部のみを含む核酸断片が得られることがあるが、その際には得られた核酸断片の塩基配列を調べて、それが目的の核酸の一部であることを確かめた上、該核酸断片、あるいはその一部をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うか、または該核酸断片の塩基配列に基づいて合成されたプライマーを用いてPCRを行うことにより、目的の核酸全体を取得することができる。
上記のプローブやプライマーは、その塩基配列が明らかとなっている場合においては、OligoTM Primer Analysis Software(宝酒造社製)などのコンピュータープログラムを用いることにより、使用する目的、条件、環境に応じて最適な配列を設計することができる。
上記の「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、1989年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行、T.マニアティス(T.Maniatis)ら編集、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル第2版(Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd ed.)等に記載された条件でハイブリダイズ可能なことを意味し、例えば、以下の条件でハイブリダイズ可能なことをいう。すなわち、核酸を固定したメンブレンを0.5%SDS、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400、0.01%変性サケ精子核酸を含む6×SSC(1×SSCは0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0を示す)中で、50℃にて12〜20時間、プローブとともにインキュベートする。インキュベーション終了後、0.5%SDSを含む2×SSC中、37℃での洗浄から始めて、SSC濃度は0.1倍までの範囲で、また、温度は50℃までの範囲で変化させ、固定された核酸由来のシグナルがバックグラウンドと区別できるようになるまでメンブレンを洗浄したうえ、プローブの検出を行う。また、こうして得られた新たな核酸について、そこにコードされているタンパクの有する活性を上記同様の方法によって調べることにより、得られた核酸が目的とするものであるかどうかを確認することができる。
また、オリゴヌクレオチドプローブを使用する場合、前記「ストリンジェントな条件」としては、特に限定されないが、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、〔Tm−25℃〕の温度で一晩保温する条件などをいう。
オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーのTmは、例えば、下記の式により求められる。
Tm=81.5−16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)−(600/N)
(式中、Nはオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマー中のグアニンおよびシトシン残基の含有量である。)
また、オリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーの鎖長が18塩基より短い場合、Tmは、例えば、A+T(アデニン+チミン)残基の含有量と2℃との積と、G+C残基の含有量と4℃との積との和〔(A+T)×2+(G+C)×4〕により推定することができる。
本発明においては、本発明のポリペプチドをコードする核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能な核酸は、本明細書に開示された塩基配列と同一の塩基配列ではなくとも、それが硫酸化フコガラクタン分解活性を示すポリペプチドをコードする限り本発明の範囲に含まれるものであることは上記したとおりである。
目的のDNA断片を含むベクターが選別できれば、このベクターに挿入されている目的のDNA断片の塩基配列は通常の方法、例えばジデオキシ法〔プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA(Proc.Nat.Acad.Sci,U.S.A.)、第74巻、第5463頁(1977)〕により決定することができる。決定された塩基配列を硫酸化フコガラクタン分解酵素のN末端分析、部分アミノ酸配列、分子量などと比較することによって、得られたDNA断片中の遺伝子の構造及び該遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を知ることができる。
また、上記の硫酸化フコガラクタン分解酵素の部分アミノ酸配列をもとに得られたオリゴヌクレオチドを用いて硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を得る方法として、PCR法を用いることができる。中でもカセットDNA(宝酒造社製)を用いたPCR法は、短時間で少ないアミノ酸配列情報からハイブリダイゼーション法に使用可能な目的遺伝子の断片を得る方法である。
例えば、フラボバクテリウム sp.SA−0082の培養菌体から常法にしたがって抽出したゲノムDNAを適当な制限酵素で消化した後、既知の配列を有する合成DNA(カセットDNA)を連結する。この混合物を鋳型として、上記の部分アミノ酸配列の情報をもとにデザインした該遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーとカセットDNAに相補的なオリゴヌクレオチドプライマー(カセットプライマー)とを用いてPCR反応を行い目的のDNA断片を増幅することが可能である。カセットDNAあるいはカセットプライマーについては例えば宝酒造社製のものを利用することができる。カセットDNAは、2種類のカセットプライマーに対応する配列を含んでいるものが好ましく、まず連結した制限酵素サイトから遠い方のプライマーを用いて1回目のPCR反応を行い、その反応液の一部を鋳型としてさらに内側のプライマーを用いて2回目のPCR反応を行うと効果的である。さらに、該遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーについても、並んで2種類をデザイン、合成し、上流のプライマーを1回目のPCR反応に用い、2回目のPCR反応では下流のプライマーを用いると該遺伝子の特異性が高くなり、目的DNA断片の特異的な増幅の可能性が高くなる。
しかしながら、目的の遺伝子の塩基配列は不明であるため、カセットDNAの連結に用いた制限酵素サイトが部分アミノ酸配列をコードする領域からPCRによる増幅反応に適当な位置にあるとは限らない。そのため、多くの種類の制限酵素サイトのカセットDNAを用いてみる必要がある。また、PCRは、例えばPCRテクノロジー〔PCR Technology、エルリッヒ(Erlich H.A.)編集、ストックトンプレス社、1989年発行〕に記載されているような、一般に用いられている条件で行うことができるが、用いた合成オリゴヌクレオチドの長さや硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子との相補性によって、アニーリング温度、サイクル数、マグネシウム濃度、耐熱性ポリメラーゼ濃度等を検討し、非特異的な増幅バンドが最も少なくなるような最適条件を選ぶ必要がある。
PCR反応液は、アガロースゲルなどの電気泳動に供し、増幅したDNA断片を確認する。これら断片は、常法に従って抽出、精製し、通常に用いられるpUC18、pUC19などのクローニングベクターに挿入後、例えばジデオキシ法により塩基配列を解析することができる。あるいは回収した増幅DNA断片を、PCR反応に用いたカセットプライマーを用いて直接塩基配列を解析してもよい。その結果、プライマーの配列以外に、先に決定した硫酸化フコガラクタン分解酵素の部分アミノ酸配列をコードしているものが得られれば、該酵素をコードする遺伝子あるいはそれにホモロジーを示す遺伝子の断片が得られたことになる。
このようにしてサザンハイブリダイゼーション法あるいは、PCR法により得られたDNA断片が目的の酵素をコードする遺伝子の一部であった場合には、該DNA断片をプローブとしたハイブリダイゼーションによるゲノムライブラリーのスクリーニングを行なうか、あるいは該DNA断片の塩基配列をもとにして作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとしたPCRを行なうことにより、目的の酵素をコードする遺伝子の全長を含むDNA断片を取得することができる。さらに上述のように得られた硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子あるいは、その一部をプローブとしてフラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAをサザンハイブリダイゼーション法によって解析すれば、検出されたバンドの位置から、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を含むフラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNA制限酵素断片サイズの情報が得られ、また、検出されたバンドの数によって、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子およびそれに相補性を示す遺伝子の数が予想され、これら遺伝子を含むDNA断片は、前述と同様の方法により単離することができる。
このようにして得られたDNA断片が目的の酵素をコードする遺伝子を含むかどうかは、最終的に単離された該DNA断片を含む発現ベクターを作製し、該ベクターを用いて宿主の形質転換を行い、次いでこの形質転換体の培養を行い、発現されたポリペプチドの硫酸化フコガラクタン分解活性を測定することにより確認することができる。
(3)硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を含有した形質転換体。
本発明のポリペプチドをコードする核酸、例えば、配列表の配列番号27、29記載の塩基配列を有する核酸を適当なベクターに連結して組換えDNAを作製することができる。該組換えDNAの作製に使用されるベクターには特に限定はなく、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することができ、組換えDNAの使用目的に応じて適当なベクターを選択すれば良い。
さらに、当該組換えDNAを適当な宿主に導入して形質転換体を作製することができる。形質転換体の作製に使用される宿主にも特に限定はなく、細菌、酵母、糸状菌等の微生物の他、動物、植物、昆虫等の培養細胞等を使用することができる。当該形質転換体を培養して培養物中に本発明のポリペプチドを産生させることにより、本発明のポリペプチドを大量に製造することが可能となる。
本発明の核酸、例えば配列番号27、29に示される塩基配列を有する核酸を含む組換えDNAで形質転換された形質転換体より、本発明のポリペプチドを取得することができる。配列番号27に示される塩基配列からは配列番号28に示されるアミノ酸配列のポリペプチドが、配列番号29に示される塩基配列からは配列番号30に示されるアミノ酸配列のポリペプチドがそれぞれ生成する。
以下、フラボバクテリウム sp.SA−0082を例として本発明を具体的に説明する。
このフラボバクテリウム sp.SA−0082は、Flavobacterium sp.SA−0082と表示され、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、FERM BP−5402として国際寄託されている。
フラボバクテリウム sp.SA−0082が産生する硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を取得するには、例えば、ハイブリダイゼーション法やPCR法、あるいはこれらを組合わせた方法を利用することができる。これらの方法には該遺伝子にハイブリダイズ可能なプローブ、あるいはPCR法によって該遺伝子またはその一部を増幅可能なプライマーが必要であるが、これらの菌株の産生する硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列や遺伝子構造は全く知られていないため、プローブあるいはプライマーとして利用可能な合成オリゴヌクレオチドを作製することができない。そこでまず、上記微生物の産生する硫酸化フコガラクタン分解酵素の部分アミノ酸配列を決定し、プローブあるいはプライマーとして利用可能な合成オリゴヌクレオチドの作製を検討する。
まず、フラボバクテリウム sp.SA−0082を培養し、次いでその培養物から、産生された硫酸化フコガラクタン分解酵素をそれぞれ単離、精製する。次に、精製された硫酸化フコガラクタン分解酵素について、その部分アミノ酸配列に関する情報を得る。部分アミノ酸配列を決定するには、例えば硫酸化フコガラクタン分解酵素を直接常法に従ってエドマン分解法によるアミノ酸配列分析(例えばプロテインシーケンサ476A、アプライド バイオシステムズ社製、を用いることができる)に供することにより、硫酸化フコガラクタン分解酵素のN末端アミノ酸配列を決定する。上記フラボバクテリウム sp.SA−0082から精製した酵素は、ポリペプチドのN末端がブロックされており、N末端アミノ酸配列の情報は得られなかった。この場合、精製硫酸化フコガラクタン分解酵素に、特異性の高いタンパク質加水分解酵素、例えばアクロモバクター(Achromobacter)プロテアーゼI、N−トシル−L−フェニルアラニルクロロメチルケトン(TPCK)−トリプシン等を作用させて限定加水分解を行い、得られたペプチド断片を逆相系HPLCを用いて分離、精製した後、精製ペプチド断片についてアミノ酸配列分析を行えば、多くのアミノ酸配列情報が得られる。
こうして得られる硫酸化フコガラクタン分解酵素に特異的な部分アミノ酸配列に関する情報を選択し、該情報をもとに塩基配列の縮重したオリゴヌクレオチドをデザインし合成する。このとき縮重の程度が低く長いオリゴヌクレオチド、言換えれば、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子に特異性の高いオリゴヌクレオチドを合成することが必要であり、オリゴヌクレオチドのデザインが硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のクローニングに重要な要因となる。
次にサザンハイブリダイゼーション法によって合成オリゴヌクレオチドと硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子との特異的ハイブリダイゼーションの条件を検討する必要がある。
例えば、フラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAを適当な制限酵素で完全消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、常法に従いナイロン膜等にブロッティングする。ハイブリダイゼーションは、まず、例えば6×SSC(1×SSCは、8.77gの塩化ナトリウム及び4.41gのクエン酸ナトリウムを1リットルの水に溶解した物)、1%ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、100μg/mlのサケ精子DNA、5×デンハルツ(ウシ血清アルブミン、ポリビニルピロリドン、フィコールをそれぞれ0.1%の濃度で含む)を含むプレハイブリダイゼーション溶液中65℃で数時間保温してナイロン膜をブロッキングした後、例えば32P等でラベルした合成オリゴヌクレオチドを加えて42℃で一晩保温する。このナイロン膜を0.1%SDSを含む1×SSCで42℃、30分間洗浄した後、オートラジオグラフィーをとって合成オリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズするDNA断片を検出する。このとき、用いた合成オリゴヌクレオチドの長さや硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子との相補性によって、保温温度や洗浄溶液の塩濃度等を検討し最適条件を選ぶのが効果的である。
このようにして検出された硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を含むDNA断片を得る方法としては、直接検出されたバンドの位置に相当するDNA断片をゲルから抽出、精製した後、通常用いられる宿主−ベクター系のベクターに組込んだライブラリーを作製し、サザンハイブリダイゼーション法と同様の条件でコロニーハイブリダイゼーション、あるいはプラークハイブリダイゼーションを行って、目的のDNA断片を含むクローンをスクリーニング、単離すればよい。あるいは直接フラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAを適当な制限酵素で消化後、通常用いられる宿主−ベクター系のベクターに組込んだライブラリーを作製し、同様にハイブリダイゼーション法で目的のDNA断片を含むクローンをスクリーニング、単離してもよい。
上記のようにして得られた核酸を適当なベクターに連結して組換えDNAを作製することができる。該組換えDNAの作製に使用されるベクターには特に限定はなく、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等を使用することができ、組換えDNAの使用目的に応じて適当なベクターを選択すれば良い。さらに、当該組換えDNAを適当な宿主に導入して本発明の形質転換体を作製することができる。形質転換体の作製に使用される宿主にも特に限定はなく、細菌、酵母、糸状菌等の微生物の他、動物、植物、昆虫等の培養細胞等を使用することができる。
(4)本発明のポリペプチドの製造方法
用いられる宿主−ベクター系としては公知のものが使用でき、例えば大腸菌を宿主としたpUC18、pUC19などのプラスミドベクター、あるいはラムダファージなどのファージベクター等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これら宿主−ベクター系の種類や取扱い方法は一般に用いられる種類や方法を用いれば良く、例えば、モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル 第二版(Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition)〔J.サムブルーク(J.Sambrook)ほか著、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー 1989年発行〕に記載されている。
更に、遺伝子工学的にタンパク質の生産を行う際には、融合タンパク質として発現させることがしばしば行われる。例えば、目的のタンパク質の発現量を増加させるために、目的のタンパク質のN末端に他のタンパク質由来のN末端ペプチド鎖を付加したり、目的タンパク質のN末端、あるいはC末端に適当なペプチド鎖を付加して発現させ、この付加したペプチド鎖に親和性を持つ担体を使用することにより、目的タンパク質の精製を容易にすることなどが行われている。
さらに、目的のタンパク質のN末端あるいはC末端の数十アミノ酸を欠失させたタンパク質をコードする遺伝子を発現ベクターに組み込ませることにより、目的のタンパク質を発現させることができる。
また、目的のタンパク質のアミノ酸配列に1個もしくは複数個のアミノ酸残基を欠失、付加、挿入、若しくは置換の少なくとも1つを行ったポリペプチドも目的のタンパク質と機能的に同等の活性を有する場合が少なくないが、このようなポリペプチド及び該ポリペプチドをコードする遺伝子も、天然由来の単離されたものであれ人為的に作製されたものであれ、本発明に包含される。
一般に遺伝子上でアミノ酸を指定するコドン(3つの塩基の組合せ)は、アミノ酸の種類ごとに1〜6種類ずつが存在することが知られている。したがって、アミノ酸配列をコードする遺伝子はそのアミノ酸配列にもよるが、多数存在することができる。遺伝子は自然界において決して安定に存在しているものではなく、その核酸に変異が起こることはまれではない。遺伝子上に起こった変異がコードされるアミノ酸配列には変化を与えない場合(サイレント変異と呼ばれる)もあり、この場合には同じアミノ酸配列をコードする異なる遺伝子が生じたといえる。したがって、ある特定のアミノ酸配列をコードする遺伝子が単離されても、それを含有する生物が継代されていくうちに同じアミノ酸配列をコードする多種類の遺伝子ができていく可能性は否定できない。また、同じアミノ酸配列をコードする多種類の遺伝子を人為的に作製することは、種々の遺伝子工学的手法を用いれば困難なことではない。
例えば、遺伝子工学的なタンパク質生産において、目的のタンパク質をコードする本来の遺伝子上で使用されているコドンが、使用している宿主中では使用頻度の低いものであった場合、タンパク質の発現量が低いことがある。このような場合には、コードされているアミノ酸配列に変化を与えることなく、コドンを宿主で繁用されているものに人為的に変換することにより、目的のタンパク質の高発現を図ることが行われている。このように特定のアミノ酸配列をコードする遺伝子を、人為的に多種類作製することが可能なことは言うまでもない。したがって、これらの人為的に作製された異なるポリヌクレオチドであっても、本発明に開示されたアミノ酸配列がコードされている限り、本発明に包含されるものである。また、ある種のポリペプチドは、活性には必須でないペプチド領域を有していることが知られている。例えば、細胞外に分泌されるポリペプチドに存在するシグナルペプチド、プロテアーゼの前駆体等に見られるプロ配列あるいはプレ・プロ配列などがこれにあたり、これらの領域のほとんどは翻訳後、あるいは活性型ポリペプチドへの転換に際して除去される。このようなポリペプチドは一次構造上は異なった形で存在しているが、最終的には同等の機能を発現するポリペプチドである。このような、シグナルペプチド、プロ配列、プレプロ配列は、活性をもつペプチドとしての発現を阻害する場合もある。このような場合には、ポリペプチドのN末端を数アミノ酸残基から数十アミノ酸残基削ることにより、活性をもつペプチドの収量を向上させることもできる。
さらに、本発明のプラスミドpEA101、pEB101のいずれか1つを導入した形質転換体を培養して得られる培養物から本発明のポリペプチドを精製してもよい。
形質転換される宿主には特に限定はなく、例えば、大腸菌、枯草菌、酵母、糸状菌、植物、動物、植物培養細胞、動物培養細胞等、組換えDNAの分野で通常使用されている宿主が挙げられる。
例えば、本発明のポリペプチドは、lacプロモーターやT7ファージプロモーターの下流に本発明の核酸を連結したプラスミドを保持する大腸菌を通常の培養条件、例えば、100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地(トリプトン10g/リットル、酵母エキス5g/リットル、NaCl 5g/リットル、pH7.2)中、37℃で対数増殖期まで培養後、1mMとなるようイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドを添加し、さらに37℃で培養することにより、培養菌体中にポリペプチドを発現させることができる。また、ペプチドのN末端を削ったポリペプチドを発現させることもでき、例えば本発明のペプチドsfgAの場合は、全長のアミノ酸配列のN末端から23アミノ酸残基を削ることにより、またsfgBの場合は30アミノ酸残基を削ることにより、それらの発現量を向上させることもできる。
培養終了後、遠心分離によって集めた菌体を超音波で破砕し、さらに遠心分離して上清を集め、無細胞抽出液とする。該無細胞抽出液は硫酸化フコガラクタン分解活性を示す。さらにイオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過、疎水クロマトグラフィー、硫安沈殿等の公知の方法を用いることにより該無細胞抽出液から本発明のポリペプチドを精製することができる。上記の精製過程において得られる部分精製品も、当然ながら硫酸化フコガラクタン分解活性を示す。
(5)硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のスクリーニング方法
本発明の遺伝子の塩基配列を用いて、硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子をハイブリダイゼーションにより得る方法としては、例えば以下の方法が適用できる。
まず目的の遺伝子源から得た染色体DNA、あるいはmRNAより逆転写酵素により作製したcDNAを常法に従いプラスミドやファージベクターに接続して宿主に導入し、ライブラリーを作製する。そのライブラリーをプレート上で培養し、生育したコロニー又はプラークをニトロセルロースやナイロンの膜に移し取り、変性処理によりDNAを膜に固定する。この膜を例えば32P等で標識したプローブ(使用するプローブとしては、配列表の配列番号28、30のいずれかで表されるアミノ酸配列を含む配列、又はその一部をコードする塩基配列であればよく、例えば、配列表の配列番号27、29のいずれかで表される塩基配列、又はその一部を使用することができる)を含む溶液中で保温し、膜上のDNAとプローブとの間でハイブリッドを形成させる。例えばDNAを固定化した膜を、6×SSC、1%SDS、100μg/mlのサケ精子DNA、5×デンハルツを含む溶液中で65℃で20時間、プローブとハイブリダイゼーションを行う。ハイブリダイゼーション後、非特異的に吸着したプローブを洗い流した後、オートラジオグラフィー等によりプローブとハイブリッド形成したクローンを同定する。この操作をハイブリッド形成したクローンが単一になるまで繰り返す。こうして得られたクローンの中には、目的のポリペプチドをコードする遺伝子が挿入されている。
得られた遺伝子は、例えば次のように塩基配列を決定し、得られた遺伝子が目的の硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子であるかを確認する。塩基配列の決定は、形質転換体がプラスミドで形質転換された大腸菌であれば試験管等で培養を行い、プラスミドを常法に従い抽出する。これを制限酵素により切断し挿入断片を取出し、M13ファージベクター等にサブクローニングし、ジデオキシ法により塩基配列を決定する。組換体がファージベクターが用いられた場合も基本的に同様のステップにより塩基配列を決定することができる。これらの培養から塩基配列決定までの基本的な実験法については、例えば、モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル 第二版〔J.サムブルークほか著、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー 1989年発行〕等に記載されている。
得られた遺伝子が目的の硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子であるかどうかを確認するには、決定された塩基配列あるいはそのコードしているアミノ酸配列を本発明の配列表の配列番号27、29のいずれかで表される塩基配列あるいは配列表の配列番号28、30のいずれかで表されるアミノ酸配列と比較する。
得られた遺伝子が硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドをコードする領域のすべてを含まない場合には、得られた遺伝子を基にして合成DNAプライマーを作製し、PCRにより足りない領域を増幅したり、得られた遺伝子の断片をプローブとして、更にDNAライブラリー又はcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、本発明の遺伝子にハイブリダイズする硫酸化フコガラクタン分解活性又は機能的に同等の活性を有するポリペプチドの全コード領域の塩基配列を決定することができる。
一方、本発明の遺伝子の塩基配列からPCR反応用のプライマーをデザインすることができる。このプライマーを用いてPCR反応を行うことによって本発明の遺伝子と相同性の高い遺伝子断片を検出したり、更にはその遺伝子全体を得ることもできる。
次に得られた遺伝子を発現させ、硫酸化フコガラクタン分解活性を測定し、得られた遺伝子の機能を確定する。
このように本発明により、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドの一次構造及び遺伝子構造が提供される。また、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチド又はその活性と機能的に同等の活性を有するポリペプチドの遺伝子工学的な製造が可能となる。
本発明の遺伝子工学的製造法を用いれば安価に高純度な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチド又はその活性と機能的に同等の活性を有するポリペプチドを得ることが可能となる。
硫酸化フコガラクタン分解酵素を産生するフラボバクテリウム属細菌を培養して硫酸化フコガラクタン分解酵素を生産する方法は、同時にプロテアーゼや他の多糖分解酵素が生産されるため、目的の硫酸化フコガラクタン分解酵素を単離するためには、極めて厄介なこれら酵素との分離精製が必要であったが、本発明により安価に、高純度な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドの提供が可能となった。
本発明の塩基配列がコードするポリペプチドの硫酸化フコガラクタン分解活性の確認は、例えば、該ポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させて得られる分解物をHPLCにより分析し、低分子化の程度を測定することによって、あるいは生成する還元末端を常法により測定することによって行なうことができる。
(6)硫酸化フコガラクタン低分子化物の製造方法、該製造方法における脱アセチル化の影響
本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はその塩は、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタン含有物に作用させることによって調製することができる。硫酸化フコガラクタン含有物としては、例えば硫酸化フコガラクタンの部分精製品、褐藻類由来の硫酸化フコース含有多糖画分、褐藻類の水性溶媒抽出物、もしくは褐藻類藻体が好適に使用できる。
本発明の遺伝子がコードする硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを、硫酸化フコガラクタンに作用させて得られる低分子化物は、特に限定はないが、例えば2糖類〜6糖類が挙げられる。低分子化物中に存在する硫酸基の置換位置は、調製方法によって変化するが、本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られたものであれば、本発明の低分子化物に含まれる。該低分子化物の化学構造は、例えば、下記一般式(I)〜(IV)に示される。その中で、下記一般式(III)は、前述の硫酸化フコガラクタンの構成単位であると考えられる。
(式中、RはH又はSO3Hである)
また、本発明の低分子化物は、硫酸基を分子中に有しており、該基は種々の塩基と反応し、塩を形成する。これらの本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物は、塩になった状態が安定であり、通常ナトリウム及び/又はカリウム及び/又はカルシウム等の塩の形態で提供される。これらの物質の塩はダウエックス50W(ダウケミカル社製)等の陽イオン交換樹脂を利用することによって遊離の硫酸化フコガラクタンの低分子化物に導くことが可能である。また、これらは、更に必要に応じ公知慣用の塩交換を行い所望の種々の塩に交換することができる。
本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩は、抗原として使用することができる。抗体の作製は、常法により行われるが、例えば、本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩をアジュバンドとともにウサギ等の動物に免疫することによって、ポリクローナル抗体を調製することができる。また、モノクローナル抗体は、抗原を免疫して得られた抗体産生B細胞とメラノーマ細胞を融合し、目的の抗体を産生するハイブリドーマを選択し、この細胞を培養することによって調製することができる。これらの抗体は、本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩の精製に使用することができる。さらに、本発明の硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩を認識する抗体は、硫酸化フコガラクタン、若しくは該硫酸化フコガラクタンの低分子化物又はそれらの塩の受精阻害作用機作、ウイルス感染阻害機作、生体内での代謝等の解析等に有用である。
また、硫酸化フコガラクタン又はその塩に本発明の硫酸化フコガラクタン分解酵素を作用させて得られた低分子化物即ちオリゴ糖類は、糖鎖工学用試薬として用いることができる。例えば、特公平5−65108号公報記載の方法により2−アミノピリジル化(PA化)を行い、該低分子化物のPA化物を調製すれば、糖鎖工学用試薬として極めて有用な物質を提供することができる。
本発明の硫酸化フコガラクタン低分子化物の製造方法において、硫酸化フコガラクタンを脱アセチル化することにより、低分子化物の収量を向上させることができる。脱アセチル化する方法は特に限定はされないがアルカリ性の水溶液で処理する方法やデアセチラーゼで処理する方法などがあり、例えば硫酸化フコガラクタンを1N 水酸化ナトリウム溶液で、25℃、24時間の処理条件で脱アセチル化することにより、低分子化物の収量を上げることができる。すなわち、本発明の低分子化物の製造方法においては、硫酸化フコガラクタンあるいは脱アセチル化硫酸化フコガラクタンのいずれもが原料として好適に使用できる。
実施例
本発明を実施例により具体的に示すが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。
参考例1 硫酸化フコガラクタンの調製
乾燥ガゴメ昆布2kgを穴径1mmのスクリーンを装着したカッターミル(増幸産業社製)により破砕し、20リットルの80%エタノール中で25℃、3時間攪拌後ろ過、洗浄した。得られた残渣を50mMの塩化カルシウム、100mMの塩化ナトリウム、10%のエタノール、及び国際公開第WO97/26896号パンフレット記載のアルテロモナス sp.SN−1009株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)]に平成8年2月13日よりFERM P−15436として寄託され、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−5747[国際寄託への移管請求日:平成8年11月15日]として寄託)を培養し、該培養物から得られたエンド型フコース硫酸含有多糖分解酵素を1U含む20リットルの30mMイミダゾール緩衝液(pH8.2)に懸濁した。25℃で2日攪拌すると高分子の硫酸化フコース含有多糖による強い粘弾性が完全に消失したので、低分子化した硫酸化フコース含有多糖を除去するため、穴径32μmのステンレス金網でろ過し、洗浄した。得られた残渣を100mM 塩化ナトリウム、10% エタノール、及び4gのアルギン酸リアーゼK(ナガセ生化学工業製)を含む40リットルのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.6)に懸濁し、25℃、4日攪拌後、遠心分離し上清を得た。得られた上清中に含まれるアルギン酸の低分子化物を除去するため排除分子量10万のホロファイバーを装着した限外ろ過機により2リットルに濃縮後、10% エタノールを含む100mM 塩化ナトリウムで溶液交換した。この溶液に等量の400mM酢酸カルシウムを添加攪拌後、遠心分離し、得られた上清を氷冷しながら、1N 塩酸でpH2.0とした。生じた沈殿を遠心分離により除去し、得られた上清を1N 水酸化ナトリウムによりpH8.0とした。この溶液を限外ろ過により1リットルに濃縮後、100mM 塩化ナトリウムで溶液交換した。この時生じた沈殿は遠心分離により除去した。得られた上清中の疎水性物質を除去するため、上清に1Mとなるように塩化ナトリウムを加えて、1M 塩化ナトリウムで平衡化した3リットルのフェニルセルロファインカラム(生化学工業製)にかけ、素通り画分を集めた。この画分を限外ろ過機により濃縮後、20mM 塩化ナトリウムで溶液交換し、凍結乾燥した。凍結乾燥物の重量は29.3gであった。
上記の凍結乾燥物15gを400mM 塩化ナトリウム及び国際公開第97/26896号パンフレット記載のフラボバクテリウム sp.SA−0082株(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[日本国茨城県つくば市東一丁目1番1号中央第6(郵便番号305−8566)]に平成7年3月29日よりFERM P−14872として寄託され、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−5402[国際寄託への移管請求日:平成8年2月15日]として寄託)を培養し、該培養物から得られたエンド型フコイダン分解酵素を9U含む1.5リットルの50mMトリス塩酸緩衝液に溶解し、25℃で6日間反応後、エバポレーターで約300mlに濃縮した。濃縮液を排除分子量3500の透析チューブに入れて徹底的に透析し、低分子化された硫酸化フコグルクロノマンナンを除去した。透析チューブ内に残った液を、50mM 塩化ナトリウムで平衡化した4リットルのDEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)にかけ、50mM 塩化ナトリウムで充分洗浄後、50〜650mM 塩化ナトリウムの濃度勾配による溶出を行った。更に同カラムを650mM 塩化ナトリウムで充分溶出させた。溶出画分のうち650mM 塩化ナトリウムで溶出した画分を硫酸化フコガラクタン画分として集め、排除分子量10万の限外ろ過器により濃縮後、10mM 塩化ナトリウムで溶液を置換し、凍結乾燥して硫酸化フコガラクタン画分の凍結乾燥物を0.85g得た。この画分について、糖組成分析を行った。まず、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)、第175巻、第595頁(1948)の記載に従い、フコース量を定量した。
次に、得られた硫酸化フコガラクタンの乾燥標品を1N 塩酸に0.5% 濃度で溶解し、110℃で2時間処理し、構成単糖に加水分解した。次に、グライコタッグ(宝酒造社製)及びグライコタッグ リージェント キット(宝酒造社製)を用いて加水分解して得られた単糖の還元性末端をピリジル−(2)−アミノ化(PA化)し、HPLCにより構成糖の比率を調べた。なお、HPLCの条件は下記によった。
装置;L−6200型(日立製作所製)
カラム;パルパックタイプA(4.6mm×150mm;宝酒造社製)
溶離液;700mMホウ酸緩衝液(pH9.0):アセトニトリル=9:1
検出;蛍光検出器F−1150(日立製作所製)にて励起波長310nm、蛍光波長380nmで検出。
流速;0.3ml/分
カラム温度;65℃
次に、アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、第4巻、第330頁(1962)の記載に従いウロン酸量を定量した。さらに、バイオケミカル ジャーナル(Biochemical Journal)、第84巻、第106頁(1962)の記載に従い硫酸含量を定量した。
以上の結果、得られた硫酸化フコガラクタンは、構成糖としてガラクトースとフコースを含有し、そのモル比は、約2:1であった。ウロン酸及びその他の中性糖は実質的に含有されていなかった。また、フコースと硫酸基のモル比は約1:2であった。
参考例2 硫酸化フコガラクタン分解酵素の活性測定方法
参考例1で得られた硫酸化フコガラクタン画分を用いて硫酸化フコガラクタン分解活性を以下のように測定した。すなわち、60μlの50mM イミダゾール−塩酸緩衝液(pH7.5)と、4.8μlの2.5% 硫酸化フコガラクタン画分溶液と、6μlの4M塩化ナトリウムと、37.2μlの水と12μlの硫酸化フコガラクタン分解酵素とを混合し、37℃、3時間反応させた後、反応液を100℃で10分間処理し、遠心分離後100μlをHPLCにより分析し、低分子化の程度を測定した。対照として、硫酸化フコガラクタン分解酵素の代わりに、その酵素を溶解してある緩衝液を用いて同様の条件により反応させたもの及び硫酸化フコガラクタン画分の代わりに水を用いて反応を行ったものを用意し、それぞれ同様にHPLCにより分析した。
1単位の酵素は、上記反応系において1分間に1μmolの硫酸化フコガラクタン画分のガラクトシル結合を切断する酵素量とする。切断されたガラクトシル結合の量は下記式により求めた。
{(4.8×1000×2.5/100)/MG}×{(MG/M)−1}×{1/(180×0.012)}=U/ml
4.8×1000×2.5/100:反応系中に添加した硫酸化フコガラクタン(μg)
MG:基質硫酸化フコガラクタン画分の平均分子量
M:反応生成物の平均分子量
(MG/M)−1:1分子の硫酸化フコガラクタンが酵素により切断された数
180:反応時間(分)
0.012:酵素液量(ml)
なお、HPLC条件は下記によった。
装置:L−6200型(日立製作所製)
カラム:OHpak SB−806HQ(8×300mm、昭和電工社製)
溶離液:5mMのアジ化ナトリウムを含む50mMの塩化ナトリウム
検出:視差屈折率検出器(Shodex RI−71、昭和電工社製)
流速:1ml/分
カラム温度:25℃
反応生成物の平均分子量の測定のために、市販の分子量既知のプルラン(STANDARD P−82、昭和電工社製)を上記のHPLC分析と同条件で分析し、プルランの分子量と保持時間との関係を曲線に表し、上記酵素反応生成物の分子量測定のための標準曲線とした。
参考例3 硫酸化フコガラクタン分解酵素の調製
参考例2記載の硫酸化フコガラクタン分解酵素は以下の方法により調製された。フラボバクテリウム sp.SA−0082株(FERM BP−5402)をグルコース0.1%、ペプトン1.0%、酵母エキス0.05%を含む人工海水(ジャマリンラボラトリー製)pH7.5からなる培地600mlを120℃、20分間殺菌した培地に接種し、24℃で23時間培養して種培養液とした。ガゴメ昆布由来の硫酸化フコース含有多糖画分0.2%、ペプトン2.0%、酵母エキス0.01%、及び消泡剤(KM70、信越化学工業製)0.01%を含む人工海水(pH7.5)からなる培地20リットルを30リットル容のジャーファーメンターにいれ120℃で20分間殺菌した。冷却後、上記の種培養液600mlを接種し、24℃で23時間、毎分10リットルの通気量と毎分125回転の攪拌速度の条件で培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を得た。
得られた菌体を、1200mlの0.4M塩化ナトリウムを含む10mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、超音波破砕後、遠心分離して菌体抽出液を得た。得られた菌体抽出液を同じ緩衝液で充分透析し、遠心分離して上清を得た。得られた上清に終濃度が90%飽和となるように硫安を添加し生じた沈殿を遠心分離して集めた。得られた沈殿を150mlの50mM塩化ナトリウムを含む10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解させ、同じ緩衝液で充分透析し、遠心分離した。得られた上清を同じ緩衝液で平衡化した500mlのDEAE−セファロースFF(アマシャムファルマシア社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、50mMから600mM塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、活性画分を集めた。
得られた活性画分を0.1M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で充分透析し、同じ緩衝液で平衡化した100ml DEAE−セルロファインA−800(チッソ社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、0.1M〜0.4M 塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出させ、活性画分を集めた。得られた活性画分に4Mとなるように塩化ナトリウムを添加し、4M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化した20ml Phenyl−セルロファイン(チッソ社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、4M〜1M 塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出後、さらに1M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で充分溶出させ、活性画分を集めた。得られた活性画分に3Mとなるように塩化ナトリウムを添加し、3M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化した10ml Phenyl−セルロファイン(チッソ社製)のカラムにかけ、同じ緩衝液で洗浄後、3Mから0.5M 塩化ナトリウムの濃度勾配により溶出後、さらに0.5M 塩化ナトリウムを含む10mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で充分溶出させた。得られた活性画分をまとめて、精製酵素を得た。
実施例1 硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子のクローニング
(1) ゲノムDNAの調製
硫酸化フコガラクタン分解酵素の生産菌株であるフラボバクテリウム sp.SA−0082(FERM BP−5402)を、120℃、20分の条件で滅菌したグルコース0.25%、ペプトン1.0%、酵母エキス0.05%を含む人工海水(ジャマリンラボラトリー社製)pH8.0からなる培地500mlが入った2リットルの三角フラスコに接種し、25℃で23時間培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を集め、その半量の菌体を10mlの抽出緩衝液(50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、100mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA))中に懸濁後、1mlの抽出緩衝液に溶解した20mg/ml リゾチーム(シグマ社製)溶液を添加し、氷浴上で30分間保持した。次いで、10mlのプロテイナーゼK溶液(1mg/ml プロイテナーゼK(宝酒造社製)、50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、100mM EDTA、1%SDS)を添加した後、50℃で2時間保温した。この後室温に戻し、等量のTE緩衝液(10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA)飽和フェノールを加えて1時間穏やかに攪拌し、10000rpmで20分間遠心した後上層を回収した。この上層に、等量のTE緩衝液飽和フェノール/クロロホルム1:1を加えて穏やかに攪拌し、10000rpmで20分間遠心した後上層を回収した。再度フェノール/クロロホルム抽出をおこなった後、水層に0.1Mとなるように塩化ナトリウムを加えさらに2倍量のエタノールを加えてDNAを析出させガラス棒で巻き取った後、80% エタノールでリンスして軽く風乾した。このゲノムDNAを20mlの20μg/ml リボヌクレアーゼA(シグマ社製)が溶解したTE緩衝液中に溶解させ、37℃で5時間保温してRNAを分解した。フェノール抽出、フェノール/クロロホルム抽出の後、前記と同様にしてエタノール添加後DNAを回収し、5mlのTE緩衝液に懸濁した。以上の操作により、ゲノムDNA約20mgを得た。
(2) ゲノムDNAライブラリーの作製
実施例1−(1)で調製したゲノムDNA 100μgを10Uの制限酵素Sau3AI(宝酒造社製)により37℃で1分40秒間消化して部分分解させ、フェノール/クロロホルム抽出し上層を回収した。上層に1/10倍量の3M 酢酸ナトリウム水溶液(pH5.0)および2.5倍量のエタノールを加えてDNAを沈殿させ、遠心分離により沈殿を回収した後、80%エタノールでリンスして風乾した。得られた部分分解物を、1.25−5M塩化ナトリウム密度勾配超遠心法によりサイズ分画をおこない、10−20kbpのサイズを含む画分からエタノール沈殿によりDNAを回収した。得られたゲノムDNA部分分解物0.2μgとラムダブルースターBamHIアーム(ノバジェン社製)0.6μgと混ぜ、DNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて連結させた後、ギガパックIIゴールドキット(ストラタジーン社製)を用いてラムダファージにパッケージングを行い、フラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAライブラリーを作製した。
(3) 硫酸化フコガラクタン分解酵素のアミノ酸配列の決定
参考例3のようにして得られたフラボバクテリウムsp.SA−0082の精製硫酸化フコガラクタン分解酵素タンパク質 84μgを、水で平衡化した脱塩用のカラム(ファーストデソルティングカラムPC3.2/10、ファルマシア社製)にアプライ後、水で溶出し、緩衝液を置換した。溶出液をガラスバイアルに集め濃縮乾固後、ピリジン200μl、4−ビニルピリジン40μl、トリ−N−ブチルフォスフィン40μl、水200μlの入った一回り大きなガラス試験管の中にガラスバイアルごと試料を入れ、ガラス試験管を封かんした後、100℃で7分間反応させてピリジルエチル化した。反応終了後ガラスバイアルを取り出し、数回水と共沸させて揮発性成分を除いた。
得られたピリジルエチル化された硫酸化フコガラクタン分解酵素タンパク質を、30μlの8M 尿素を含む100mM トリス塩酸緩衝液(pH9.2)、30μlの100mM トリス塩酸緩衝液(pH9.2)及び40pmolのアクロモバクタープロテアーゼI(宝酒造社製)を加え、37℃で一晩消化し、得られた消化物からペプチド断片をHPLCシステム(スマートシステム、ファルマシア社製)にて精製した。カラムは、μRPC C2/C18 SC2.1/10(ファルマシア社製)を用い、100μl/minの流速で行った。溶出は、溶出液として0.1% トリフルオロ酢酸水溶液(溶出液A)および0.1% トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル(溶出液B)を用い、溶出液Bの割合を0%でサンプルをアプライし、100分間で溶出液Bの割合を40%にまであげる直線濃度勾配法にて溶出し、得られた溶出画分から各ペプチド画分についてアミノ酸配列分析を行い、部分アミノ酸配列S21(配列表の配列番号1)、S23(配列番号2)、S39(配列番号3)、S42(配列番号4)、S49(配列番号5)、S162(配列番号6)、およびS292(配列番号7)を決定した。
(4) 硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子の塩基配列決定
実施例1−(1)で調製したゲノムDNA 1.2μgを制限酵素BglII、EcoRI、EcoT14I、 EcoT22I、HindIII、NcoI、PstI、SpeIおよびXbaI(いずれも宝酒造社製)各30Uで各々37℃で5時間消化後、フェノール/クロロホルム抽出した。消化物をエタノール沈殿により回収した。この各消化物 約0.6μgを、BglII消化物にはSau3AIカセット、EcoRI消化物にはEcoRIカセット、EcoT22IおよびPstI消化物にはPstIカセット、HindIII消化物にはHindIIIカセット、SpeIおよびXbaI消化物にはXbaIカセット(各カセットDNAはいずれも宝酒造社製)各50ngと混合後、DNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて連結させた。EcoT14IおよびNcoI消化物は配列表の配列番号8、9記載の2本の合成オリゴヌクレオチドから作製したNcoIカセットと連結させた。反応物をエタノール沈殿により回収して5μlの水に溶解し、カセットDNAを用いたPCR法の鋳型DNAとした。
一方、実施例1−(3)で決定した部分アミノ酸配列S39(配列表の配列番号3)の1〜7のアミノ酸配列からSFG−391Fプライマー(配列番号10)、8〜15のアミノ酸配列からSFG−392Fプライマー(配列番号11)の混合オリゴヌクレオチドをそれぞれアミノ酸配列と同じ向きに合成した。また、S42(配列番号4)の1〜8のアミノ酸配列からSFG−421Fプライマー(配列番号12)、6〜14のアミノ酸配列からSFG−422Fプライマー(配列番号13)とSFG−423Fプライマー(配列番号14)の混合オリゴヌクレオチドをそれぞれアミノ酸配列と同じ向きに合成した。
8μlの2.5mM dNTP混合液、カセットプライマーC1(宝酒造社製)20pmol、混合オリゴヌクレオチドSFG−391F(配列番号10)またはSFG−421F(配列番号12)100pmol、および滅菌水を加えて50μlとし、Ampliwax PCR Gem100(宝酒造社製)を添加した後70℃で3分間加熱後室温で10分間放置した。ここに10μlの10倍濃度Exタック増幅用緩衝液(宝酒造社製)、先に調製した鋳型DNA各1μl、2ユニットのタカラExタックDNAポリメラーゼ(Takara Ex Taq DNA polymerase、宝酒造社製)、および滅菌水を加えて100μlとした。この混合液を自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラー(TaKaRa PCR Thermal Cycler 、宝酒造社製)による増幅反応に供した。PCR反応は、94℃で0.5分間の変性、45℃で1分間のアニーリング、72℃で3分間の合成反応を1サイクルとし、30サイクル行った。
次に、1回目のPCR反応液の一部を鋳型DNAとして2回目のPCR反応を行った。すなわち、8μlの2.5mM dNTP混合液、カセットプライマーC2(宝酒造社製)20pmol、混合オリゴヌクレオチドSFG−392F(配列番号11)またはSFG−422F(配列番号13)またはSFG−423F(配列番号14)100pmol、および滅菌水を加えて50μlとし、Ampliwax PCR Gem100を添加した後70℃で3分間加熱後室温で10分間放置した。ここに10μlの10倍濃度Exタック増幅用緩衝液(宝酒造社製)、1μlの1回目のPCR反応液、2UのタカラExタック DNAポリメラーゼ、および滅菌水を加えて100μlとした。この混合液を94℃で0.5分間の変性、45℃で1分間のアニーリング、72℃で3分間の合成反応を1サイクルとして25サイクル行った。また同時に、それぞれの反応液に対してカセットプライマーC2のみあるいは混合オリゴヌクレオチドのみの反応液についてもPCR反応を行い、各プライマーの非特異的増幅産物のコントロールとした。
アガロースゲル電気泳動で反応液を分析し、非特異的増幅産物のコントロールと比較したところ、多くの反応液で特異的な増幅バンドが検出された。これらの中から比較的バックグランドが低く、強く増幅されていたSpeI消化物−XbaIカセットのC2−SFG−392Fプライマーによる約0.8kbのバンド、HindIII消化物−HindIIIカセットのC2−SFG−423Fプライマーによる約1.4kbのバンド、EcoRI消化物−EcoRIカセットのC2−SFG−423Fプライマーによる約1.1kbのバンドを抽出、精製した。これらのDNA断片とpT7ブルーT−ベクター(pT7blue T−Vector、ノバジェン社製)を混合し、DNAライゲーションキットを用いて連結後、大腸菌JM109を形質転換し、100μg/mlのアンピシリン、0.004%のX−Gal及び1mMのIPTGを含むL培地プレート上で生育する白色コロニーを選択した。各形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含む液体L培地に接種し、37℃終夜培養後、培養菌体からアルカリ溶菌法によりプラスミドDNAを調製し、目的のサイズのバンドが挿入されたプラスミドを選択し、各々S3921、H4231、R4231と命名した。これらの挿入配列をジデオキシ法により塩基配列分析を行った。S3921とR4231は各々2回目のPCR反応に用いたプライマーの配列に続いて部分アミノ酸配列をコードする領域が見出された。また、S3921とR4231は挿入断片の塩基配列が一部重なっており、両塩基配列をつなげると約1.6kbpになった。この中には部分アミノ酸配列S42(配列番号4)、S162(配列番号6)、S23(配列番号2)、S49(配列番号5)、S292(配列番号7)、S39(配列番号3)をコードする領域を含む読み取り枠の一部が含まれており、硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子の一部であることが明らかとなった。
また、実施例1−(3)で決定した部分アミノ酸配列S23(配列番号2)の6〜13のアミノ酸配列からSFG−231Rプライマー(配列番号15)、SFG−232Rプライマー(配列番号16)、3〜9のアミノ酸配列からSFG−239Rプライマー(配列番号17)、SFG−230Rプライマー(配列番号18)の混合オリゴヌクレオチドをそれぞれアミノ酸配列と逆向きに合成し、上記と同様の方法でカセットライブラリーからのスクリーニングを試みた。アガロースゲル電気泳動で反応液を分析し、非特異的増幅産物のコントロールと比較したところ、多くの反応液で特異的な増幅バンドが検出された。これらの中から比較的バックグランドが低く、強く増幅されていたEcoT14I消化物−NcoIカセットのC2−SFG−239Rプライマーによる約1.4kbのバンドを抽出、精製した。このDNA断片とpT7ブルーT−ベクターを連結し、上記と同様に目的のサイズのバンドが挿入されたプラスミドを選択し、T2392と命名した。その挿入配列の塩基配列分析を行ったところ、上記で分析した1.6kbpの塩基配列と1部重なっており、つなげあわせると約2.8kbpの塩基配列を決定することができた。この中には1602塩基(終止コドンを含む)の読み取り枠が見出され、この読み取り枠がコードするアミノ酸配列中に実施例1−(3)で決定した部分アミノ酸配列と非常に高い相同性を示す領域が見出された。この1602bpの読み取り枠をsfgAと命名した。
sfgAがコードするアミノ酸配列中には実施例1−(3)で決定した硫酸化フコガラクタン分解酵素部分アミノ酸配列S21(配列番号1)、S23(配列番号2)、S39(配列番号3)、S42(配列番号4)、およびS292(配列番号7)と一致する配列が、また、部分アミノ酸配列S49(配列番号5)およびS162(配列番号6)と非常に相同性の高い配列が見出された。このようにsfgAがコードするアミノ酸配列は、実施例1−(3)の硫酸化フコガラクタン分解酵素部分アミノ酸配列分析により明らかとなった全てのアミノ酸配列と一致あるいは高い相同性を示すことから、フラボバクテリウム sp.SA−0082の硫酸化フコガラクタン分解酵素を実質的にコードしていると考えられた。
一方、H4231は2回目のPCR反応に用いたSFG−423Fの配列に続いて部分アミノ酸配列S42(配列番号4)の15番目以降のアミノ酸をコードする領域が見出されたが、19番目と20番目のアミノ酸が異なっていた。H4231の挿入断片の全塩基配列を決定したところ、上記2.8kbpの塩基配列と一部重なっており、sfgAの上流にsfgAと相同性の高い読み取り枠の一部があることがわかった。
(5) sfgAホモログの単離
実施例1−(2)で調製したフラボバクテリウム sp.SA−0082のゲノムDNAライブラリーから硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子を含むクローンを、以下のようにプラークハイブリダイゼーション法によりスクリーニングした。まず、ゲノムDNAのファージライブラリーを大腸菌ER1647に感染させ、10cm×14cmのシャーレに入ったL培地プレート3枚に、1枚当たり約1300個のプラークを形成させた。これらのプレートにナイロン膜ハイボンドN+(アマシャム ファルマシア バイオテク社製)を約2分間接触させファージを写し取った。このナイロン膜を0.5M 水酸化ナトリウム、1.5M 塩化ナトリウムの溶液中で5分間変性し、次いで、0.5M トリス塩酸緩衝液(pH7.0)、3M 塩化ナトリウムの溶液中で5分間中和処理し、2×SSCでリンスした後風乾した。このナイロン膜を80℃で1時間加熱してDNAを固定した。
一方、実施例1−(4)で得られたT2392のプラスミドDNA 約15μgをベクター由来のEcoRIおよびNdeIで消化し、遊離する約1.4kbの硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子の一部を含む断片を抽出精製した。このDNA断片をDIG DNA標識及び検出キット(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いてジゴキシゲニンで標識し、取扱説明書に従い以下のようにプラークハイブリダイゼーションを行った。上記調製したフィルターをハイブリダイゼーション溶液中、60℃で4時間プレハイブリダイゼーションを行った後、熱変性した標識プローブを約60ng/mlの濃度になるように加え、60℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション終了後、まず2×SSC、0.1%SDSで室温で5分間2回、さらに0.5×SSC、0.1%SDSで45℃で15分間2回洗浄した。その後、上記検出キットを用いて検出した結果、24個のポジティブシグナルが得られた。元のプレートよりポジティブシグナル付近のプラークをかきとり、SM緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.5)、0.1M NaCl、7mM MgSO4、0.01%ゼラチン)に懸濁しファージを回収した。得られたファージ液のいくつかについて、再度新しいプレートにプラークを形成させ、同様の操作を繰り返すことにより5個のポジティブシグナルを与えるファージを単離した。
ノバジェン社のラムダブルースター取り扱い説明書に従って、得られた各ファージを大腸菌BM25.8に感染させたのち100μg/mlのアンピシリンを含むL培地プレートに広げ、アンピシリン耐性のコロニーを選択することによりファージをプラスミドの形に変換した。得られた各クローンのコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む液体L培地に接種し、37℃で終夜培養した培養液からアルカリ溶菌法によりプラスミドDNAを調製した。このプラスミドDNAを用いて、大腸菌JM109(宝酒造社製)を形質転換し、得られた各クローンのコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む液体L培地に接種し、37℃で終夜培養した培養液からアルカリ溶菌法により再度プラスミドDNAを調製した。得られた各クローンのプラスミドをそれぞれpBsfg5、7、13、17およびpBsfg18と命名した。各プラスミドをそれぞれ、適当な制限酵素で消化後、アガロースゲル電気泳動に供し、各挿入断片の制限酵素地図を作成して解析した。その結果、アガロースゲル電気泳動のエチジウムブロマイド染色でそれぞれ良く似たサイズのバンドが複数検出されることから、各プラスミドにはほぼ同じ位置のゲノムDNAで、約3〜14kbpの断片が挿入されていると推定された。
上記で得られたプラスミドのうち、約7kbpの挿入断片を持つpBsfg17について、さらに挿入断片の解析を行った。すなわち、pBsfg17約1μgをKpnI消化し、遊離する約7kbpの断片を抽出精製した。このKpnI断片をアンピシリン耐性ベクターであるpUC119(宝酒造社製)のKpnI消化物と混ぜ、DNAライゲーションキットを用いて連結後、大腸菌JM109を形質転換し、100μg/ml アンピシリン、0.004% X−Gal、および1mM IPTGを含むL培地プレート上で生育する白色コロニーを選択した。各形質転換体を100μg/ml アンピシリンを含む液体L培地に接種し、37℃終夜培養後、培養菌体からアルカリ溶菌法によりプラスミドDNAを調製し、制限酵素消化後アガロースゲル電気泳動を行って解析した。その結果、pBsfg17由来の約7kbp DNAがベクターDNAに対してそれぞれ逆向きに挿入されたpUC17K1およびpUC17K3を得た。これらプラスミドについて直接プライマー伸長法によって、あるいは制限酵素消化後サブクローニング等を行ってジデオキシ法によって詳しく塩基配列を解析したところ、sfgAおよびsfgAの上流に1626塩基(終止コドンを含む)の読み取り枠が見出され、この読み取り枠がコードするアミノ酸配列はsfgAがコードするアミノ酸配列と非常に高い相同性を示した。この読み取り枠をsfgBと命名した。
sfgBがコードするアミノ酸配列中にも、硫酸化フコガラクタン分解酵素部分アミノ酸配列S21(配列番号1)、S23(配列番号2)、S39(配列番号3)、S42(配列番号4)、S49(配列番号5)、S162(配列番号6)、およびS292(配列番号7)と相同性の高い配列が見出された。sfgAとsfgBを比較すると塩基配列およびアミノ酸配列の相同性は各々約67%および約59%と高いことからsfgBも硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードしていると考えられた。以上のようにして、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードすると考えられる遺伝子(sfgA)およびその遺伝子に非常に高い相同性を示す遺伝子(sfgB)の全塩基配列が決定された。sfgAの塩基配列を配列表の配列番号19に、sfgAがコードするアミノ酸配列を配列表の配列番号20に示す。更にsfgBの塩基配列を配列表の配列番号21に、sfgBがコードするアミノ酸配列を配列表の配列番号22に示す。
以上、本発明により実質的に硫酸化フコガラクタン分解酵素をコードすると考えられる遺伝子(sfgA)およびその遺伝子に相同性を示し、硫酸化フコガラクタン分解活性を有すると考えられる新規ポリペプチドをコードすると考えられる遺伝子(sfgB)が決定された。
(6) sfgA遺伝子由来硫酸化フコガラクタン分解酵素
sfgA遺伝子全長を発現ベクターに挿入して、硫酸化フコガラクタン分解酵素を発現させたが、その活性が低かったため、以下のようにN末端を削ったポリペプチドの発現を試みた。
まず、実施例1−(5)で得られた、実質的に硫酸化フコガラクタン分解酵素をコードすると考えられる遺伝子(sfgA)の発現ベクターを以下のように構築した。sfgAL5プライマー(配列番号23)は、そのコードするタンパク質のN末端より23番目までのアミノ酸を欠失させ、なおかつNdeIサイトを導入するように設計した。sfgAR4プライマー(配列番号24)は終始コドンの代わりにXhoIの認識配列をもち、sfgAL5プライマーと反対鎖にハイブリダイズするよう設計した。これら2種類のプライマーを用いて、フラボバクテリウム sp.SA−0082の染色体DNAをテンプレートとしたPCR反応を以下のように行なった。0.5ml PCR用チューブにプライマーsfgAL5、sfgAR4を10pmolずつ、テンプレートの染色体DNAを10ng、5μlの10倍濃度Exタック増幅用緩衝液、8μlのdNTP混合液、0.5μlのTaKaRa Ex Taqを添加し、滅菌水を加えて50μlとした。これを自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラー(宝酒造社製)にセットし、94℃で2分間変性を行なった後、94℃で1分間の変性、55℃で2分間のアニーリング、72℃で2分間の合成反応を1サイクルとして25サイクル行なった。この増幅したDNA断片をNdeI及びXhoIで切断した後、1.0%アガロースゲル電気泳動により分離し、24番目以降のアミノ酸配列をコードする約1.5kbのNdeI−XhoI断片を切り出して抽出精製した。
一方、T7 lacプロモーターを使った発現ベクターであるpET16b(ノバジェン社製)をNdeIサイトとXhoIサイトで切断後、先に調製した約1.5kbのNdeI−XhoI断片を挿入し、これをpEA101と命名した。つまりこのハイブリッドベクターにより発現されるタンパク質はsfgAによってコードされる24番目以降のアミノ酸からなるポリペプチドの両末端にベクター由来の22アミノ酸が付加したものである。なおN末端には10個の連続したヒスチジンからなる配列(His・Tag)を持つ。こうして得られたpEA101を用いて大腸菌BL21(DE3)株(ノバジェン社製)を形質転換した。得られた大腸菌BL21(DE3)/pEA101を30mlの液体L培地(アンピシリン50μg/mlを含む)に植菌し、37℃で一晩培養した。全量を新たに3リットルのL培地(アンピシリン50μg/ml)に植菌し、37℃、回転数200rpm、通気1.0リットル/minで対数増殖期まで培養した。この培養には5l容ミニジャー(エイブル社製)を用いた。濁度がO.D.600=0.4の段階で終濃度0.5mMになるようにIPTGを加えた後、さらに25℃、回転数120rpm、通気1.0リットル/minで一晩培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して約21gの菌体を集め、そのうち約7.0gを以下の精製に使用した。なお、この際にはN末領域のHis・Tagを利用し、His・Tag Resin(ノバジェン社製)を利用して行なった。40mlのBinding buffer(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、5mM イミダゾール)で菌体を懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。この破砕液を遠心分離し、得られた上清を、Niを付加しその後Binding bufferで平衡化した10mlのHis・Bind Resinにアプライした。そのカラムを50mlのBinding bufferで洗浄後、さらに30mlのWash buffer(40mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、60mM イミダゾール)で洗浄した。その後50mlのElute buffer(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、1M イミダゾール)で目的のタンパク質を回収した。これをSDS−PAGEで確認したところ、精製された形で目的タンパク質が検出され、硫酸化フコガラクタン分解活性を参考例2に記載した方法で測定した結果、580mU/mlであることがわかった。すなわち、sfgAがコードするポリペプチドは硫酸化フコガラクタン分解活性を有し、本発明の遺伝子を持つ大腸菌BL21(DE3)/pEA101の培養液1ml中に、約58mUの硫酸化フコガラクタン分解活性を有するsfgAがコードするポリペプチドが生産されていたことが分かった。このN末端を削ったsfgAがコードするポリペプチドの塩基配列を配列表の配列番号27に、このポリペプチドのアミノ酸配列を配列表の配列番号28に示す。なお、このpEA101プラスミドを有する大腸菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にEsherichia coli BL21(DE3)/pEA101、寄託番号FERM P−18380として、平成13年6月20日より寄託されており、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−8149[国際寄託への移管請求日:平成14年8月13日]として寄託されている。
(7) sfgB遺伝子由来硫酸化フコガラクタン分解酵素
sfgB遺伝子全長を発現ベクターに挿入して、硫酸化フコガラクタン分解酵素を発現させたが、その活性が見られなかったため、以下のようにN末端を削ったポリペプチドの発現を試みた。
実施例1−(5)で得られた硫酸化フコガラクタン分解活性を有すると思われる新規ポリペプチドをコードする遺伝子(sfgB)の発現ベクターを構築した。sfgBL7プライマー(配列番号25)は、そのコードするタンパク質のN末端より30番目までのアミノ酸を欠失させ、なおかつNdeIサイトを導入するように設計した。sfgBR3プライマー(配列番号26)は終始コドンの代わりにXhoIの認識配列をもち、sfgBL7プライマーと反対鎖にハイブリダイズするよう設計した。これら2種類のプライマーを用いて、実施例1−(6)と同様の条件でフラボバクテリウム sp.SA−0082の染色体DNAをテンプレートとしたPCR反応を行なった。この増幅したDNA断片をNdeI及びXhoIで切断した後、1.0%アガロースゲル電気泳動により分離し、31番目以降のアミノ酸配列をコードする約1.5kbのNdeI−XhoI断片を切り出して抽出精製した。この断片を同酵素で切断したpET16bに挿入し、これをpEB101と命名した。つまりこのハイブリッドベクターにより発現されるタンパク質はsfgBによってコードされる31番目以降のアミノ酸からなるポリペプチドの両末端にベクター由来の22アミノ酸が付加したものである。なおN末端には10個の連続したヒスチジンからなる配列(His・Tag)を持つ。
こうして得られたpEB101を用いて大腸菌BL21(DE3)株(ノバジェン社製)を形質転換した。得られた大腸菌BL21(DE3)/pEB101を30mlの液体L培地(アンピシリン50μg/mlを含む)に植菌し、37℃で一晩培養した。全量を新たに3リットルのL培地(アンピシリン50μg/ml)に植菌し、37℃、回転数200rpm、通気1.0リットル/minで対数増殖期まで培養した。この培養には5リットル容ミニジャー(エイブル社製)を用いた。濁度がO.D.600=0.4の段階で終濃度0.5mMになるようにIPTGを加えた後、さらに25℃、回転数120rpm、通気1.0リットル/minで一晩培養した。培養終了後、培養液を遠心分離して約23gの菌体を集め、そのうち約7.7gを以下の精製に使用した。なお、この際にはN末領域のHis・Tagを利用しHis・Tag Resin(ノバジェン社製)を利用して行なった。50mlのBinding buffer(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、5mM イミダゾール)で菌体を懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。この破砕液を遠心分離し、得られた上清を、Niを付加しその後Binding bufferで平衡化した20mlのHis・Bind Resinにアプライした。そのカラムを100mlのBinding bufferで洗浄後、さらに60mlのWash buffer(40mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、60mM イミダゾール)で洗浄した。その後50mlのElute buffer(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mM NaCl、1M イミダゾール)で目的のタンパク質を回収した。これをSDS−PAGEで確認したところ、精製された形で目的タンパク質が検出され、硫酸化フコガラクタン分解活性を参考例2に記載した方法で測定した結果、3.05mU/mlであることがわかった。すなわち、sfgBがコードするポリペプチドは硫酸化フコガラクタン分解活性を有し、本発明の遺伝子を持つ大腸菌BL21(DE3)/pEB101の培養液1ml中に約0.3mUの硫酸化フコガラクタン分解活性を有するsfgBがコードするポリペプチドが生産されていたことが分かった。このN末端を削ったsfgBがコードするポリペプチドの塩基配列を配列表の配列番号29に、このポリペプチドのアミノ酸配列を配列表の配列番号30に示す。なお、このpEB101プラスミドを有する大腸菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東一丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にEsherichia coli BL21(DE3)/pEB101、寄託番号FERM P−18381として、平成13年6月20日より寄託されており、前記独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターにFERM BP−8150[国際寄託への移管請求日:平成14年8月13日]として寄託されている。
実施例2 硫酸化フコガラクタン分解酵素遺伝子の相同性検索
実施例1において得られた硫酸化フコガラクタン分解酵素活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列と塩基配列について、ホモロジー検索を行なった。検索プログラムは、コンピューターアルゴリズムBLAST(バージョン2.0;Altschulら、Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997)によって算出した。
コンピューターアルゴリズムBLASTで遺伝子データベースをsfgA、sfgBに関して検索した。その結果、sfgAがコードするアミノ酸配列に対して最も相同性の高かったものは全長の配列に対して8%、塩基配列で最も相同性の高かったものは全長の配列に対して1%の相同性であった。また、sfgBがコードするアミノ酸に対しては、同様に7%、塩基配列は1%であった。
さらに、検索プログラムDNASIS−Mac(宝酒造社製)のMaximum Matchingを用いて、国際公開第99/11797号パンフレット記載のフラボバクテリウム由来エンド型フコース硫酸含有多糖分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子fdlA、fdlBとの相同性を算出した。その結果、sfgAはfdlA、fdlBに対してそれぞれ塩基配列で54%、52%、それらがコードするアミノ酸配列で34%、30%の相同性を有していた。同様にsfgBはfdlA、fdlBに対してそれぞれ塩基配列で53%、52%、それらがコードするアミノ酸配列で33%、30%の相同性を有していた。
また、sfgAとsfgBの相同性は、塩基配列で69%、コードするアミノ酸配列で59.4%であった。
実施例3 硫酸化フコガラクタンの脱アセチル化の影響
参考例1に記載の硫酸化フコガラクタン画分200mgを20mlの1N水酸化ナトリウムに溶解し25℃で24時間放置した。本操作によりO−アセチル基を選択的に加水分解することができる。得られた脱アセチル化硫酸化フコガラクタンを10%エタノール中で充分透析し、高分子画分を凍結乾燥して、137mgの脱アセチル化硫酸化フコガラクタンを得た。
実施例1−(6)で得られたsfgA遺伝子由来硫酸化フコガラクタン分解酵素を、硫酸化フコガラクタン及び脱アセチル化硫酸化フコガラクタンに作用させその低分子化の程度をHPLCにより確認した。
すなわち、120μlの50mM リン酸緩衝液(pH8.0)、24μlの2.5%硫酸化フコガラクタンあるいは脱アセチル化硫酸化フコガラクタン、及び12μlの4M 塩化ナトリウム、82.9μlの水を混合後、1.1μlの885mU/mlの硫酸化フコガラクタン分解酵素を混合し、30℃で24時間反応した。反応液を参考例2記載の方法によりHPLCで分析し、基質の低分子化の程度を比較した。その結果、硫酸化フコガラクタンを基質として用いた場合は分解後の平均分子量が約160,000、脱アセチル化硫酸化フコガラクタンを基質に用いた場合は分解後の分子量が約10,000以下であった。本酵素を用いて硫酸化フコガラクタンオリゴ糖を得る場合、硫酸化フコガラクタンを脱アセチル化することにより、分子量の小さいオリゴ糖を得られることがわかった。
産業上の利用の可能性
本発明により、糖鎖工学用試薬、硫酸化フコース含有多糖の構造解析や該多糖の低分子化物の調製に有用な硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子、該ポリペプチドの遺伝子工学的製造方法、及び該方法によって得られるポリペプチドが提供される。
【配列表】
Claims (13)
- 下記の群より選択され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有することを特徴とするポリペプチド:
(a)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列またはその一部を含むポリペプチド;
(b)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を有するポリペプチド;および
(c)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。 - 下記の群より選択され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有することを特徴とするポリペプチドをコードする核酸:
(a)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列またはその一部を含むポリペプチドをコードする核酸;
(b)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を有するポリペプチドをコードする核酸;
(c)配列表の配列番号27、29のいずれか1つに示される塩基配列を含む核酸;
(d)配列表の配列番号27、29のいずれか1つに示される塩基配列において、少なくとも1つの塩基が欠失、付加、挿入または置換を有する塩基配列からなる核酸;
(e)前記(a)〜(d)のいずれかに記載の核酸またはその相補鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸;および
(f)配列表の配列番号27、29のいずれか1つに示される塩基配列に少なくとも50%の相同性を有する塩基配列である核酸。 - 請求項2記載の核酸を含んでなる組換えDNA。
- 請求項4記載の組換えDNAが挿入されてなる、微生物、動物細胞又は植物細胞を宿主細胞とする発現ベクター。
- 請求項4記載の組換えDNAまたは該組換えDNAが挿入されてなる、微生物、動物細胞又は植物細胞を宿主細胞とする発現ベクターにより形質転換されてなる形質転換体。
- 請求項6記載の形質転換体を培養する工程および該培養物より硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを採取する工程を包含することを特徴とする、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドの製造方法。
- 大腸菌BL21(DE3)/pEA101 FERM BP−8149又は大腸菌BL21(DE3)/pEB101 FERM BP−8150を培養して得られる、硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチド。
- 下記の群より選択され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有することを特徴とするポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させて採取されることを特徴とする硫酸化フコガラクタンの低分子化物:
(a)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列またはその一部を含むポリペプチド;
(b)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を有するポリペプチド;
(c)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド;および
(d)大腸菌BL21(DE3)/pEA101 FERM BP−8149又は大腸菌BL21(DE3)/pEB101 FERM BP−8150を培養して得られるポリペプチド。 - 下記の群より選択され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有することを特徴とするポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させる工程を包含することを特徴とする硫酸化フコガラクタン低分子化物の製造方法:
(a)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列またはその一部を含むポリペプチド;
(b)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を有するポリペプチド;
(c)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド;および
(d)大腸菌BL21(DE3)/pEA101 FERM BP−8149又は大腸菌BL21(DE3)/pEB101 FERM BP−8150を培養して得られるポリペプチド。 - 脱アセチル処理した脱アセチル化硫酸化フコガラクタンに硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドを作用させることを特徴とする請求項10に記載の硫酸化フコガラクタンの低分子化物の製造方法。
- 請求項2記載の遺伝子あるいはその一部をプローブとして用いて硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子をスクリーニングする工程を包含することを特徴とする硫酸化フコガラクタン分解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子のスクリーニング方法。
- 下記の群より選択され、かつ、硫酸化フコガラクタン分解活性を有することを特徴とするポリペプチドを硫酸化フコガラクタンに作用させる工程を包含することを特徴とする、多糖類の構造解析方法:
(a)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列またはその一部を含むポリペプチド;
(b)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失、付加、挿入または置換を有するポリペプチド;
(c)配列表の配列番号28、30のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも30%の相同性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド;および
(d)大腸菌BL21(DE3)/pEA101 FERM BP−8149又は大腸菌BL21(DE3)/pEB101 FERM BP−8150を培養して得られるポリペプチド。
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