JPWO2001062915A1 - 新規蛋白質及びそれをコードする遺伝子 - Google Patents

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Abstract

新規蛋白質及びそれをコードする遺伝子を提供する。腎臓に特異的に発現し、機械刺激に応答して非選択的に陽イオンを細胞内に取り込む機能を有する、マウスあるいはヒト由来の新規な機械刺激応答チャネル蛋白質。該蛋白質をコードするDNA。該蛋白質を用いて陽イオンチャネル活性を亢進又は阻害する物質のスクリーニング方法。該蛋白質に対する抗体。高血圧症や糖尿病などの陽イオンチャネルの異常に基づく疾患の診断薬あるいは治療剤、又は該疾患に対する予防及び/又は治療剤探索のためのツールとして有用。

Description

技術分野
本発明は、腎臓に特異的に発現し、マウスあるいはヒト由来の新規な機械刺激応答チャネル蛋白質(SAC1(マウス)及びhSAC(ヒト))、それをコードするDNA、該蛋白質を用いて陽イオンチャネル活性を亢進又は阻害する物質のスクリーニング方法、及び該蛋白質に対する抗体に関する。
本発明の蛋白質、DNA、及び蛋白質に対する抗体は、高血圧症や糖尿病などの陽イオンチャネルの異常に基づく疾患の診断薬あるいは治療剤、又は該疾患に対する予防及び/又は治療剤探索のためのツールとして利用することができる。なお、本発明においては、SAC1及びhSACなどの機械刺激応答チャネル蛋白質を、総称してSACと呼ぶことがある。
背景技術
イオンチャネルは、脂質二重層を基本構造とする生体膜を貫通して存在する膜内在性蛋白質であり、その内部にポア構造を有している。イオンチャネルは、その電気生理学的性質、すなわちゲーティング、コンダクタンス、イオン選択性などにより分類される。イオンチャネル分子は、複数のコンフォメーションをとり、ある状態(開状態)ではイオンの透過を許すが、別の状態(閉状態)ではそれを許さない。このようなコンフォメーション変化を「ゲートの開閉(ゲーティング;gating)」と呼ぶ。このゲーティングを制御する因子としては、膜電位、低分子(リガンド)の結合、膜の伸張の3つが知られている。
電位依存性チャネルには、Naチャネル、Ca2+チャネル、Kチャネルなど多くの例があるが、これらのチャネルの分子構造には、電荷の集合した領域、あるいは電位センサーがあり、これが膜の両側の電位差により力を受けて移動することによりコンフォメーション変化が起きるものと考えられる。リガンド感受性チャネルとは、細胞外から特異的なリガンド(agonist)が結合することにより活性化されるチャネルで、受容体内蔵チャネルと呼ばれる。これに対して、細胞内にあるセカンドメッセンジャーなどの低分子の結合により、開閉が制御されるチャネルがある。また、細胞内膜に存在するIP(イノシトール3リン酸)受容体(細胞質側からIPが結合すると開くCa2+チャネル)もこの例である。機械刺激応答チャネルは、膜の伸張によりゲート開閉が制御されるイオンチャネルで、多くは伸張により開くので張力感受性チャネルと呼ばれる。このチャネルは、浸透圧調整や細胞の体積調節に関与していると考えられている。このイオンチャネルは筋紡錘のような伸展受容器に存在することは当然であるが、これまでに多種類の細胞で見出されている(Morris C.E.,J.Membrane Biol.,113,93−107(1990);Bear,C.E.,Am.J.Physiol.,258,C421−8(1990);Cemerik,D.& Sackin,H.,Am.J.Physiol.,264,F697−714(1993);Lansman,J.B.,et.al.,Nature,325,811−3(1987);Sackin,H.,Am.J.Physiol.,253,F1253−62(1987))。
また、4個の膜貫通部位をもつTWIK1(tandem of P domains in a weak inward rectifier Kchannel)関連TASK(TWIK−1 related acid−sensitive K channel)をコードする哺乳動物のKチャネルが、機械刺激により開閉する性質を有することが示されている(Duprat,F.et.al.,(1997)EMBO J.,16,5464−71,Patel,A.J.,et.al.,(1998)EMBO J.17,4283−90)。
本発明者らは、物理的因子である熱に感受性であるバニロイド(Vanilloid)受容体が機械刺激応答チャネルであるという仮定に基づいて遺伝子クローニングを行い、バニロイドレセプター(Caterina,M.J.,et.al.,(1997)Nature,389,816−24)に類似し、Ankyrin繰り返しと6個の膜貫通部位を有する張力により抑制される非選択的陽イオンチャネル(SIC)をコードするcDNAを既に報告している(Suzuki,M.,et.al.,(1999)J.Biol.Chem.274,6330−5)。機械刺激応答チャネルは、機械的刺激をCa2+流入に変換できるため、張力により活性化する(stretch−activated;SA)非選択的陽イオンチャネルは重要である。
発明の開示
本発明者らは、上述の状況に鑑み新規な機械応答チャネル蛋白質を鋭意探索した結果、腎臓に特異的に発現し、機械刺激に応答して非選択的に陽イオンを細胞内に取り込む機能を有する蛋白質、すなわち、新規な機械刺激応答チャネル蛋白質を見出した。従って本発明は、腎臓に特異的に発現し、機械刺激に応答して非選択的に陽イオンを細胞内に取り込む機能を有するマウスあるいはヒト由来の新規な機械刺激応答チャネル蛋白質(SAC1(マウス)(Stretch Activated Channel protein 1)及びhSAC(ヒト)(human Strech Activated Channel protein))、それをコードするDNA、該蛋白質を用いて陽イオンチャネル活性を亢進又は阻害する物質のスクリーニング方法、及び該蛋白質に対する抗体を提供することを課題とする。
本発明は、腎臓に特異的に発現し、機械刺激に応答して非選択的に陽イオンを細胞内に取り込む機能を有するマウスあるいはヒト由来の新規な機械刺激応答チャネル蛋白質(SAC1(マウス)及びhSAC(ヒト))に関する。又、該蛋白質をコードするDNAに関する。又、該蛋白質を用いて陽イオンチャネル活性を亢進又は阻害する物質のスクリーニング方法に関する。又、該蛋白質に対する抗体に関する。該蛋白質、該DNA、及び該蛋白質に対する抗体は、高血圧症や糖尿病などの陽イオンチャネルの異常に基づく疾患の診断薬あるいは治療剤、又は該疾患に対する予防及び/又は治療剤探索のためのツールとして利用することができる。
新規な膜チャネルの単離、同定および機能解析を行うためには、分子生物学的技術、細胞生物学的技術や電気生理学的技術などの高度な技術を必要とする。そこで、本発明者はこれらの技術を駆使して、マウス腎臓からSA陽イオンチャネル(SAC1)のcDNAを単離し、そのアミノ酸配列を決定した。これはVanilloidレセプターのスーパーファミリーに属し、腎臓の尿細管に局在していた。このSAC1を哺乳動物細胞系で発現させた。さらに、マウス由来のSAC1遺伝子を用いて、ヒトで相当するチャネル遺伝子を得た。
電気生理学的解析の結果、細胞内の遊離カルシウムはSAC1を発現する形質転換した細胞を機械的刺激することによって増加した。また、これは陰圧により活性化される単一のチャネルで、Gd33+によりブロックされ、陽イオンの通過に関しては非選択的であり、SAC1でイオン透過性はNa>Kあった。細胞の逆転電位は細胞を膨らませることによってプラス側に偏位した。さらに、欠失変異体を発現させると、伸張に対してこのチャネルが不応答性となることから、SAC1がSAチャネルとなりうることが示唆された。
上述のように本発明は、腎臓に特異的に発現し、機械刺激に応答して非選択的に陽イオンを細胞内に取り込む機能を有するマウスあるいはヒト由来の新規な機械刺激応答チャネル蛋白質(SAC1(マウス)及びhSAC(ヒト))、及び該蛋白質をコードするDNAに関する。本発明蛋白質は、以下のようにして得ることができる。即ち、マウス腎臓cDNAライブラリーを用意し、適当なプライマーを用いてPCR法により増幅することにより、SAC1cDNAを得ることができる。又、このSAC1cDNAをプローブとしてヒト腎臓cDNAライブラリーをクローニングすることにより、hSACcDNAを得ることができる。マウス由来SAC1は871アミノ酸残基からなる蛋白質で、ヒト由来hSACも871アミノ酸残基からなる蛋白質であった。これらはアミノ酸配列において94.4%の同一性を示し、この顕著なホモロジーはSAC1が哺乳動物の細胞で構造的にも機能的にも共通した働きを行っていると考えられる。hSACをコードしているDNAは、約18Kbの長さで、14個のエクソンから構成され、染色体上の12q24.1に存在する。
得られたマウスあるいはヒトのSAC遺伝子を適当なベクターに導入し、そのベクターを用いて宿主を形質転換することにより、マウスあるいはヒトのSAC蛋白質を得ることができる。宿主細胞としては、細菌、酵母、あるいは動物細胞等が挙げられる。特に動物細胞としては、HeLa細胞、Chinese hamster ovary(CHO)細胞、あるいはCOS−7細胞などを用いることが好ましい。又、細胞系の発現プラスミドの制御機能として、ウイルスのPolyoma、Adenovirus、Cytomegalovirus、Simian virus 40のプロモーターが用いられる。特に、動物細胞の発現系で利用性の高いプラスミドとして、pCMVが好ましい(Thomsen,et.al.,PNAS,(1984)81,659)。得られた蛋白質は、機械刺激に応答する膜結合蛋白質であり、高血圧あるいは糖尿病などの陽イオンチャネルの異常に基づく疾患の診断薬あるいは治療剤、又は該疾患に対する予防及び/又は治療剤探索のためのツールとして利用することができる。
又、本発明蛋白質あるいはそのフラグメントは、欠損hSACのDNAハイブリダイゼーション診断に有用であり、hSACの変異体は高血圧症や糖尿病の研究に有用である。さらに、SACのDNA及びその変異体の5’および3’末端部に他の蛋白質や合成ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を結合して融合蛋白質を作製することも、公知の技術で容易である。例えば、融合蛋白質が、前駆蛋白質として作製され、in vitroおよびin vivoで切断されて機能したり、本来の機能に加えて標的組織等への指向性を持つようにすることもできる。
又、発現した蛋白質や変異体およびそれらのフラグメントを動物に免疫してポリクローナル抗体を得ることができる。また、免疫動物のリンパ球をミエローマ細胞と融合したハイブリドーマ細胞を用いてモノクローナル抗体を調製できる。
又、本発明蛋白質あるいはその変異体及び類縁体を用いて、チャネル蛋白質の関連する疾患の診断薬あるいは治療薬など、SACにアゴニスト的およびアンタゴニスト的に作用する物質の探索に用いることができる。さらに、SACのDNA配列情報が得られたことで、部分配列DNAやRNAを調製することが容易になった。これらの部分DNAは、選択されるべき遺伝子にハイブリダイズする能力を持つことから、核酸のプローブとして利用される。種々の組織におけるcDNA配列の検出に、これらのプローブが有効である。SACを用いて作製したプローブで、種々の生物やそれらの組織からハイブリダイズする核酸を得ることができる。得られた核酸は、SACと同じアイソタイプ、または新規性を示す蛋白質をコードする核酸も含む。又、作製されたプローブは、疾患の遺伝子診断に利用できる。プローブでハイブリダイズした患者のヌクレオチド配列を調べることで、疾患遺伝子の検出が可能である。さらに、本質的な治療法に用いる遺伝子治療薬の作製も含まれる。SACや、その変異体、それらの誘導体のヌクレオチド配列をプラスミドや幹細胞に組み込み、投与することで、遺伝子治療剤として使用できる。
本発明蛋白質あるいはそれに対する抗体は、ヒト及び霊長動物に対して安全に投与されるものである。本発明蛋白質は、製剤化して経口的あるいは非経口的に投与することができる。医薬組成物の形態としては、注射用組成物、点滴用組成物、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮吸収剤などが挙げられる。これらの製剤は、公知の製剤学的製法に準じ、製剤として薬理学的に許容され得る担体、賦形剤、安定剤、着色剤、界面活性剤、及び/又はその他の添加剤などを用いることにより、目的とする製剤とすることができる。注射用組成物の場合は、本発明蛋白質の薬理学的有効量、及び製剤学的に許容しうる賦形剤/賦活剤、例えばアミノ酸、糖類、セルロース誘導体、及びその他の有機/無機化合物などとの混合物としても良い。又、本発明抗体とこれらの賦形剤/賦活剤を用い注射剤を調製する場合は、必要に応じてpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加して常法によって各種注射剤とすることができる。
また、本発明のDNAは、単独、リポソームに封入、あるいはレトロウィルスやアデノウィルス等の遺伝子治療用ベクターに組み込んで、遺伝子治療に用いることができる。
発明を実施するための最良の形態
実施例
本発明を次の実施例によってより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
実施例1
SAC1をコードするcDNAの単離
RNAはTrizol(ギブコ−BRL社)を用いたグアニジンチオシアネート法により単離した。mRNAはpolyAカラム(ファルマシア社)を用いて精製した。マウス腎臓のcDNAライブラリーは、Marathon cDNAconstruction kit(クローンテック社)を用いて調製した。cDNAを、プライマーセット1(AA13f2(配列表配列番号5)及びmA13end1(配列番号6)でExTaqポリメラーゼ(宝酒造社)を用いてPCR増幅した(94℃30秒、70℃4分の1サイクルとして30サイクル実施)。ネストプライマー(AA13r2(配列番号7))を合成し、5’RACE法により5’末端を決定した。プライマーセット2(A13st1(配列番号8)及びAA13r1(配列番号9))でExTaqポリメラーゼ(宝酒造社)を用いて同条件でPCR増幅した。2種類のプライマーセットを用いてPCR増幅して得られたそれぞれのフラグメントを用いて、完全長を含有する領域をプライマーセット(A13st1及びmA13end1)を使ってPCR増幅した。cDNAライブラリーから約3.2KbのSAC1cDNAを再クローニングした。クローニングしたcDNAをTAクローニングベクター(TOPO−XL;インビトロージェン社)にライゲートし、そのBamHI−HindIIIフラグメントを動物細胞発現ベクター(pCMV−SPORT;ギブコ−BRL社)にライゲートした。Thermo Sequenase dye termi nator cycle sequencing premixを用いて、自動シークエンサー(モデル373−S;アプライドバイオインストゥルメンツ社)にてシークエンスした。SAC1cDNAは871アミノ酸をコードする2616ヌクレオチドであった。配列を配列表配列番号1(アミノ酸配列)及び配列番号2(塩基配列)で示す。SAC1のcDNAを挿入したプラスミドをpmSAC1TOPOと命名し、経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(〒305−8566))に平成11年(1999)11月30日に原寄託し、平成12年(2000)11月1日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託へ移管請求をし、FERM BP−7345として受領されている。
次に、32P標識したSAC1cDNAをプローブとしたノーザンハイブリダイゼーション(65℃)により、SAC1の各組織での発現を確認した。その結果、約3KbのSAC1mRNAは、腎臓にのみ発現していることが確認された(図1(a))。
又、ヒト由来SAC(hSAC)をコードしているcDNAを単離するために、ヒト腎臓cDNAライブラリーを32P標識SAC1cDNAをプローブに用いて検索した。得られたクローンをベクターM13mp1、M13mp19(宝酒造社)、及びpGEM3Z(プロメガ社)にそれぞれサブクローニングした後、上述と同様な方法で塩基配列を決定した。配列を配列表配列番号3(アミノ酸配列)及び配列番号4(塩基配列)に示す。
実施例2
抗体の調製と免疫染色
ポリエチレングリコールと結合した、SAC1蛋白質のC末端部(844−853番目)の特異ペプチド(以下、C端ペプチドという)(配列表配列番号10)に対する抗体を作製した。マウスSAC1蛋白質のC端ペプチドのポリエチレングリコール(PEG)への結合は、Maedaらの方法(Biochem.Biophys.Res.Comm.(1998)248,485−489)に従って行った。即ち、ジクロロメタンに溶解した酸化PEG(和光純薬社)に、1当量のジシクロヘキシルカルボジイミドを添加し0℃で攪拌した後、10当量のエチレンジアミンを添加して一晩攪拌した。ろ液を溶媒留去して、得られた生成物を50%酢酸に溶解した。これよりアミノ酸型PEG(aaPEG)をSephadex G−25カラムにて精製し、N末端アミノ基をFmoc化してFmoc−aaPEGを調製した。これをRink樹脂(300mg;渡辺化学社)に、ジイソプロピルカルボジイミド/1−ヒドロキシベンゾトリアゾール法(Konig and Geiger,Chem.Ber.(1970)103,788−798,2024−2033)を用いて、Fmoc−aaPEG、次いでBoc−PLD(Pmc)NLGNPNC−OHの順に導入した。脱Fmoc化後、樹脂をトリフルオロ酢酸/チオアニソール/アニソール/エタンジチオール(94/2/2/2)で3時間処理することによって、C端ペプチド−aaPEGを切出した。ろ液にエーテルを添加して沈殿させた粗ペプチドを逆相HPLCにて精製し、C端ペプチド−aa PEGを43mg得た。
フロイント完全アジュバントにてエマルジョンとした抗原(C端ペプチド−aaPEG)1mgを2羽のNZWウサギの筋肉内に注射して免疫し、その後フロイント不完全アジュバントでエマルジョンとした同量の抗原を2週間毎に同様に免疫した。投与した4から8週間後の血清について、その抗体力価をELISAにて測定した。コントロール血清よりも10000倍高い力価を示した血清を分離した。これらから抗体をProtein Aカラム(ファルマシア社)にて精製し、ProtOnキット(マルチプルペプチドシステム社)にてアフィニティー精製した。新鮮な腎臓スライスを500倍希釈した抗体で染色した後、FITCラベルした抗ウサギIgG抗体(ダコ社)にて検出した。その結果、尿細管の基底膜が染色され、この部位にSAC1蛋白質が局在することが明らかになった(図1(b)参照)。
実施例3
cDNA発現
緑色蛍光蛋白質を発現するプラスミド(pEGFP−N1;クローンテック社)をトランスフェクションのマーカーとして使用した。一過性発現のために、CHO細胞を10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを添加したHamF−12培地(ギブコ−BRL社)にて培養した。形質転換前日に、CHO細胞10個をラット尾部コラーゲンでコートしたカバースリップを入れた35mmディッシュに添加した。翌日、室温で5分間インキュベートしたFuGENE6(ロシュ社3μl)と無血清培地(97μl)の混合液に、1回のトランスフェクション当たり、pCMV−SPORT(ギブコ−BRL社)に入れたSAC1プラスミド(1μg)とpEGFP−N1(1μg)を添加した。室温で15分間インキュベートしたのちに、これを3mlの血清添加培地を入れたディッシュに加えた。カバースリップ上で増殖させた細胞を、パッチクランプサンプルとして使用した。増殖とトランスフェクションには10%FCS含有培地を用いた。電気生理学的試験は24時間目に開始し、蛍光測定は、トランスフェクション後48時間に実施した。
実施例4
SAC1発現細胞での蛍光測定
形質転換細胞は、実験開始前の2ないし3時間内に、無血清培地に溶解した10μMのfura−2AM(ドージン社)とインキュベートした。480nmのGFP蛍光と360/380nmのfura−2蛍光をダイクロイックオリンパスシステムミラー(メルリン社)をマニュアルで交換して視覚化した。480nmの蛍光と360nmおよび380nmの蛍光のイメージを2秒毎に得た。解析のために目的のエリアの蛍光強度を算出した。細胞は125mM NaCl,5mM KCl,1.2mM MgSO,1mM NaHPO,1mM CaCl,3mM HEPES(pH7.4)溶液中に34℃で浸した。細胞に直接機械的ストレスを生じさせるために、丸い先端のガラスピペットを細胞に電気制御ミクロマニピュレーター(モデル5170;エッペンドルフ社)を用いて接触させた。明るい細胞(GFP陽性)にガラスピペットを用いた機械刺激を与えた結果を、図2及び表1に示す。fura−2蛍光比は、対照細胞と比べるとSAC1発現細胞で変化が認められたことから、本発明蛋白質は明らかな[Ca2+]i(細胞内のカルシウムイオン濃度)の変動をもたらすチャネル蛋白質として機能していることが示された。
Figure 2001062915
実施例5
SAC1発現細胞のシングルチャネル解析
パッチクランプの記録は、既報(Suzuki,M.,Sato,J.,Kutsuwada,K.,Ooki,G.and Imai,M.(1999)J.Biol.Chem.274,6330−5)に従って行った。GFP陽性細胞は、490nmでの蛍光測定(CAM2000システム;ジャスコ社)にて検出した。1ml/mlの溶液流速で還流されるマウントに細胞をセットした。マウントする前に、温度を制御するために溶液をDC supply(菊水電子工業社;モデルLPD)にて34℃に加温した。浸漬溶液には、140mM NaCl,5mM KCl,1.2mM MgSO,1mM NaHPO,1mM CaCl,3mM HEPESを使用した。シングルチャネル解析において、電流はEPC−7パッチクランプ増幅器(リストエレクトロニック社)にて記録し、10KHzでDAT記録計(DAT−200;ソニー社)にて保存した。解析には、5KHzのフィルターをかけた。開口確率を解析するために、記録をFetchex(ソフトウェアーAxonバージョン6.0)によりサンプリングした。データを1gor ver 2.01とPatch Analysist ver 1.21にて解析した。デジタルフィルターを2KHzで使用し、開口確率を電流分布解析で計算した。GdCl添加時の開口確率を解析するために、シングルチャネル振幅を試薬非添加時にセットし、平均開口確率(Po)を10秒間の記録から決定した。ピペット圧はマノメーターで調節し、陰圧はマニュアルで変化させた。また、チャネル開口を調べるために、150mMNaCl溶液を用いたセルアタッチピペットを通して陰圧をかけた。その結果、発現細胞上の半数以上のパッチが陰圧にすることによってチャネル活性を示した。図3Aのように、SAC1チャネルは30mmHg陰圧で急に開く。開口確率は突然に完全開口状態に達したが、この現象を確認するために徐々に吸引を行ったが(図3B)、開口に閾値が存在するかのようにチャネルが急に開いた。この閾値は一定で(33±2.3mmHg)、再現的であった。電流−電圧を種々の溶液(塩化ナトリウム、グルコン酸ナトリウムまたは塩化カリウム)を用いてピペットで測定したが、大きな偏位は観察されなかった。シングルチャネルコンダクタンスをセルアタッチモードでコンダクタンス勾配で測定した。塩化ナトリウムをグルコン酸ナトリウムまたは塩化カリウムに置換しても、これらのパラメーターに殆ど影響を与えなかったことから、このチャネルは陽イオンには非選択的であることが明らかとなった。圧力に対する異なる感受性を持つ個々のチャネルにおけるall−or−none開口の蓄積は、伸張に伴うS字型の開口応答を示したが、圧力PoはBolzmann関数にフィットしなかった。ピペットに0.5μM GdClを入れた時に応答は影響を受けなかったことから、機械刺激応答チャネル蛋白質としての機能を有することが示された(図3C)。
産業上の利用可能性
本発明により、腎臓に特異的に発現し、機械刺激に応答して非選択的に陽イオンを細胞内に取り込む機能を有するマウスあるいはヒト由来の新規な機械刺激応答チャネル蛋白質(SAC1(マウス)及びhSAC(ヒト))、及びそれをコードするDNA、該蛋白質を用いた陽イオンチャネル活性を亢進又は阻害する物質のスクリーニング方法、及び該蛋白質に対する抗体が提供される。該蛋白質、該DNA、及び該蛋白質に対する抗体は、高血圧症や糖尿病などの陽イオンチャネルの異常に基づく疾患の診断薬あるいは治療剤、又は該疾患に対する予防及び/又は治療剤探索のためのツールとして利用することができる。
寄託された生物材料への言及
イ.当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及びあて名
名 称:経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所
あて名;日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−3566)
ロ.イの機関に寄託した日付 平成11年(1999)11月30日(原寄託日)
ハ.イの機関に寄託について付した受託番号 FERM BP−7345
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
図1(a)は、SAC1mRNA発現を全長cDNAを用いて行ったノーザンブロット解析結果を示す。マウス組織から調製した全RNA(2μg)を各レーンにアプライした。
図1(b)は、腎臓組織を用いた免疫染色の結果を示す。染色された部分は白く表されている。
図2は、SAC1発現細胞(GFP陽性)のtouchストレスに対する影響を調べた結果を示す。
図中、○は380nmでの蛍光強度を、▲は、蛍光強度の比率(360nm/380nm)を、●は、360nmでの蛍光強度をそれぞれ示す。
図3は、SACシングルチャネルの伸張に対する応答結果を示す。
(A)は、段階的な陰圧をかけたときのSAC1チャネルの代表的な結果を示す。
(B)は、徐々に陰圧をかけたときの結果を示す。
(C)は、GdCl添加および非添加時にSAC1にかけた圧力とPoとの関係をそれぞれ示す。
図中、○は対照(GdCl非添加時の圧力)を、△はGdCl 0.5M添加時の圧力をそれぞれ示す。
【0007】
図中、○は380nmでの蛍光強度を、▲は、蛍光強度の比率(360nm/380nm)を、●は、360nmでの蛍光強度をそれぞれ示す。
図3は、SACシングルチャネルの伸張に対する応答結果を示す。
(A)は、段階的な陰圧をかけたときのSAC1チャネルの代表的な結果を示す。
(B)は、徐々に陰圧をかけたときの結果を示す。
(C)は、GdCl添加および非添加時にSAC1にかけた圧力とPoとの関係をそれぞれ示す。
図中、○は対照(GdCl非添加時の圧力)を、△はGdCl 0.5M添加時の圧力をそれぞれ示す。
発明を実施するための最良の形態
実施例
本発明を次の実施例によってより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
実施例1
SAC1をコードするcDNAの単離及びhSACをコードするcDNAの単離
RNAはTrizol(ギブコ−BRL社)を用いたグアニジンチオシアネート法により単離した。mRNAはpolyAカラム(ファルマシア社)を用いて精製した。マウス腎臓のcDNAライブラリーは、Marathon cDNAconstruction kit(クローンテック社)を用いて調製した。cDNAを、プライマーセット1(AA13f2(配列表配列番号5)及びmA13end1(配列番号6)でExTaqポリメラーゼ(宝酒造社)を用いてPCR増幅した(94℃30秒、70℃4分の1サイクルとして30サイクル実施)。ネストプライマー(AA13r2(配列番号7))を合成し、5’RACE法により5’末端を決定した。プライマーセット2(A13st1(配列番号8)及びAA13r1(配列番号9))でExTaqポリメラーゼ(宝酒造社)を用いて同条件でPCR増幅した。2種類のプライマーセットを用いてPCR増幅して得られたそれぞれのフラグメントを用いて、完全長を含有する領域をプライマーセット(A13st1及びmA13end1)を使ってPCR増幅した。
【0010】
10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを添加したHamF−12培地(ギブコ−BRL社)にて培養した。形質転換前日に、CHO細胞10個をラット尾部コラーゲンでコートしたカバースリップを入れた35mmディッシュに添加した。翌日、室温で5分間インキュベートしたFuGENE6(ロシュ社3μl)と無血清培地(97μl)の混合液に、1回のトランスフェクション当たり、pCMV−SPORT(ギブコ−BRL社)に入れたSAC1プラスミド(1μg)とpEGFP−N1(1μg)を添加した。室温で15分間インキュベートしたのちに、これを3mlの血清添加培地を入れたディッシュに加えた。カバースリップ上で増殖させた細胞を、パッチクランプサンプルとして使用した。増殖とトランスフェクションには10%FCS含有培地を用いた。電気生理学的試験は24時間目に開始し、蛍光測定は、トランスフェクション後48時間に実施した。
実施例4
SAC1発現細胞での蛍光測定
形質転換細胞は、実験開始前の2ないし3時間内に、無血清培地に溶解した10μMのfura−2AM(ドージン社)とインキュベートした。480nmのGFP蛍光と360/380nmのfura−2蛍光をダイクロイックオリンパスシステムミラー(メルリン社)をマニュアルで交換して視覚化した。480nmの蛍光と360nmおよび380nmの蛍光のイメージを2秒毎に得た。解析のために目的のエリアの蛍光強度を算出した。細胞は3mMヘペス緩衝液(125mM NaCl,5mM KCl,1.2mM MgSO,1mM NaHPO,1mM CaCl,3mM HEPES(pH7.4))中に34℃で浸した。細胞に直接機械的ストレスを生じさせるために、丸い先端のガラスピペットを細胞に電気制御ミクロマニピュレーター(モデル5170;エッペンドルフ社)を用いて接触させた。明るい細胞(GFP陽性)にガラスピペットを用いた機械刺激を与えた結果を、図2及び表1に示す。fura−2蛍光比は、対照細胞と比べるとSAC1発現細胞で変化が認められたことから、本発明蛋白質は明らかな[Ca2+]i(細胞内のカルシウムイオン濃度)の変動をもたらすチャネル蛋白質として機能していることが示された。
【0011】
Figure 2001062915
実施例5
SAC1発現細胞のシングルチャネル解析
パッチクランプの記録は、既報(Suzuki,M.,Sato,J.,Kutsuwada,K.,Ooki,G.and Imai,M.(1999)J.Biol.Chem.274,6330−5)に従って行った。GFP陽性細胞は、490nmでの蛍光測定(CAM2000システム;ジャスコ社)にて検出した。1ml/mlの溶液流速で還流されるマウントに細胞をセットした。マウントする前に、温度を制御するために溶液をDC supply(菊水電子工業社;モデルLPD)にて34℃に加温した。浸漬溶液には、3mMヘペス緩衝液(140mM NaCl,5mM KCl,1.2mM MgSO,1mMNaHPO,1mM CaCl,3mM HEPES)を使用した。シングルチャネル解析において、電流はEPC−7パッチクランプ増幅器(リストエレクトロニック社)にて記録し、10KHzでDAT記録計(DAT−200;ソニー社)にて保存した。解析には、5KHzのフィルターをかけた。開口確率を解析するために、記録をFetchex(ソフトウェアーAxonバージョン6.0)によりサンプリングした。データをIgor ver 2.01とPatch Analysist ver1.21にて解析した。デジタルフィルターを2KHzで使用し、開口確率を電流分布解析で計算した。GdCl添加時の開口確率を解析するために、シングルチャネル振幅を試薬非添加時にセットし、平均開口確率(Po)を10秒間の記録から決定した。ピペット圧はマノメーターで調節し、陰圧はマニュアルで変化させた。また、チャネル開口を調べるために、150mMNaCl溶液を用いたセルアタッチピペットを通して陰圧をかけた。その結果、発現細胞上の半数以上のパッチが陰圧にすることによってチャネル活性を示した。図3Aのように、SAC1チャネルは30mmHg陰圧で急に開く。開口確率は突然に完全開口状態に達したが、この現象を確認するため
【0012】
に徐々に吸引を行ったが(図3B)、開口に閾値が存在するかのようにチャネルが急に開いた。この閾値は一定で(33±2.3mmHg)、再現的であった。電流−電圧を種々の溶液(塩化ナトリウム、グルコン酸ナトリウムまたは塩化カリウム)を用いてピペットで測定したが、大きな偏位は観察されなかった。シングルチャネルコンダクタンスをセルアタッチモードでコンダクタンス勾配で測定した。塩化ナトリウムをグルコン酸ナトリウムまたは塩化カリウムに置換しても、これらのパラメーターに殆ど影響を与えなかったことから、このチャネルは陽イオンには非選択的であることが明らかとなった。圧力に対する異なる感受性を持つ個々のチャネルにおけるall−or−none開口の蓄積は、伸張に伴うS字型の開口応答を示したが、圧力PoはBolzmann関数にフィットしなかった。ピペットに0.5μM GdClを入れた時に応答は影響を受けなかったことから、機械刺激応答チャネル蛋白質としての機能を有することが示された(図3C)。
実施例6
イオンチャネル活性に影響を与える物質のスクリーニング
SAC1発現細胞を用いて機械刺激による細胞内Ca2+濃度を指標としてチャネル活性に影響を与える物質のスクリーニングが可能である。実施例3に記載した同様な方法にて、10個のCHO細胞をpCMV−SPORT 1(1μg)で形質転換した。実施例4に記載した同様な方法にて蛍光測定を行う。すなわち、カバースリップ上で増殖させた形質転換細胞を試験開始2時間前に無血清培地に溶解した10μMのfura−2AMと37℃で1時間インキュベートする。細胞を測定緩衝液にて洗浄し、パーフュージョンチャンバーにセットする。測定緩衝液として、3mMヘペス緩衝液(125mM NaCl,5mM KCl,1.2mM MgSO,1mM NaHPO,1mM CaCl,3mM HEPES(pH7.4))を使用する。一定濃度の検体を添加した測定緩衝液に置換した後に、機械的ストレスを与えるために、ミクロマニピュレーターを用いてガラスピペットを細胞に接触させる。機械刺激を与えた際の360nmと380nmの蛍光を測定し、その比から細胞内Ca2+濃度変化を検出することによって、検体のイオンチャネル活性に与える効果を判定する。
産業上の利用可能性
本発明により、腎臓に特異的に発現し、機械刺激に応答して非選択的に陽イオンを細胞内に取り込む機能を有するマウスあるいはヒト由来の新規な機械刺激応答チャネル蛋白質(SAC1(マウス)及びhSAC(ヒト))、及びそれをコードするDNA、該蛋白質を用いた陽イオンチャネル活性を亢進又は阻害する物質のスクリーニング方法、及び該蛋白質に対する抗体が提供される。該蛋白質、該DNA、及び該蛋白質に対する抗体は、高血圧症や糖尿病などの陽イオンチャネルの異常に基づく疾患の診断薬あるいは治療剤、又は該疾患に対する予防及び/又は治療剤探索のためのツールとして利用することができる。
寄託された生物材料への言及
イ.当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及びあて名
名 称:経済産業省産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所
あて名;日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305−3566)
ロ.イの機関に寄託した日付 平成11年(1999)11月30日(原寄託日)

Claims (14)

  1. 腎臓に特異的に発現し、機械刺激に応答して非選択的に陽イオンを細胞内に取り込む機能を有する蛋白質。
  2. マウス由来である、請求項1記載の蛋白質。
  3. 配列表配列番号1記載のアミノ酸配列で示される、請求項2記載の蛋白質。
  4. 請求項3記載のアミノ酸配列をコードするDNA。
  5. 配列表配列番号2記載の塩基配列で示される、請求項4記載のDNA。
  6. ヒト由来である、請求項1記載の蛋白質。
  7. 配列表配列番号3記載のアミノ酸配列で示される、請求項6記載の蛋白質。
  8. 請求項7記載のアミノ酸配列をコードするDNA。
  9. 配列表配列番号4記載の塩基配列で示される、請求項8記載のDNA。
  10. 請求項3又は7記載の蛋白質のアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有する蛋白質。
  11. 請求項4、5、8、又は9記載のDNAとハイブリダイズするDNA。
  12. 請求項1、2、3、6、又は7記載の蛋白質を用いて、陽イオンチャネルを亢進又は阻害する物質をスクリーニングする方法。
  13. 請求項1、2、3、6、又は7記載の蛋白質に対する抗体。
  14. モノクローナル抗体である、請求項13記載の抗体。
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