JP3739445B2 - Ecdn蛋白質およびそれをコードするdna - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規なステロイドホルモンレセプター様蛋白質であるECDN蛋白質、それをコードするDNAならびに本蛋白質の製造方法および使用方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来ステロイドホルモンレセプター様蛋白質として、アミノ酸配列上相同性を持つ蛋白質群がこれまで発見同定され、それらはステロイドホルモン類の他に甲状腺ホルモン、ビタミンD代謝物およびその天然ならびに合成誘導体、レチノイン酸およびその天然ならびに合成誘導体、ビタミンA代謝物などの脂溶性ビタミンの誘導体に対して応答性を有する。これらリガンド依存性の転写調節蛋白質群は、スーパーファミリーを構成しており、ホルモンやリガンド刺激に対してDNAの特異的な応答エレメントに直接結合することにより、特定の遺伝子発現を調節することができる。これらレセプター蛋白質は、ホルモンやビタミン類をリガンドとして特定の遺伝子の発現を調節する転写調節因子として発生や分化、生体の恒常性の維持にきわめて重要な機能を果たしていることが明らかとされ、従来よりこれらレセプターに結合し、リガンドとして機能しうる天然ならびに合成誘導体は、広く医学、薬学、農学の分野で研究応用されてきている。
ステロイドホルモンレセプター蛋白質のスーパーファミリーに属すると考えられている蛋白質群の中には、スーパーファミリーに共通なDNA結合ドメインの相同性に注目し、緊縛条件を緩和させた条件で分子クローニングされてきた蛋白質群が数多く含有され、これらの蛋白質群の中にはこれまで特異的なリガンドが未同定であるオーファンレセプターと呼ばれる一群の蛋白質が存在する。オーファンレセプターの特異的リガンドの同定や転写調節因子として果たす機能に関する研究は、医学生物学に新たな知見を提供し、医薬や農学に対する応用が期待される重要な研究として位置づけられている。例えばレチノイドX受容体(RXR) は、従来オーファンレセプターの一つと位置づけられていたが、そのリガンドが9-シス−レチノイン酸と判明し、転写調節に重要な機能を担う受容体であることが明らかにされた。ヒトに於けるリガンド依存性転写調節機構に関わる蛋白質にはさらに多くの未知受容体があるものと考えられ、これらを単離同定することは医学・薬学への応用という観点でも重要な意義がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ステロイド/サイロイドホルモン レセプター スーパーファミリーに属する新規なヒト由来レセプター蛋白質、それをコードする遺伝子、さらにそれらを用いたレセプター機能の解析法やリガンドの探索法等を提供し、その応用分野を広げることを目的、課題とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
ステロイドホルモン受容体様蛋白質群としてスーパーファミリーを構成する蛋白質群の構造上の比較、および遺伝子改変による変異レセプターを用いた機能解析の研究から、これら蛋白質群が機能的なドメインより構成されていることが、これまでの研究から明らかにされてきた。なかでもアミノ酸66個から68個よりなり2個の亜鉛フィンガーを持つドメインは、スーパーファミリー内の蛋白質群間で、もっとも相同性が高くDNAに結合するドメインであり、C末側約250 個のアミノ酸よりなるドメインは、リガンド結合ドメインとしてリガンド依存性に関与することが明らかとされつつある。これらステロイドホルモンレセプター様蛋白質は、哺乳類のみならず昆虫においても発見同定されており、代表的には昆虫の変態を司るエクジソンと呼ばれるステロイドホルモンに対する受容体も本スーパーファミリーの一員である。
本発明者らは、ヒト胎児肺より作成したcDNAライブラリーよりクローンをランダムに選び各クローンの5'側の塩基配列を決定し、それより演繹されるアミノ酸配列を検索したところ、昆虫の脂肪体より単離同定されたエクジソン受容体に相同性が高いクローンを見出した。このクローンは全長cDNAを含んでいなかったので、再度このクローンをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングした結果ヒト乳腺ライブラリーより全長cDNAを含むクローンを得た。このcDNAがコードする蛋白質のアミノ酸配列は、エクジソン受容体、ヒトやマウスのレチノイン酸受容体、ならびに甲状腺ホルモン受容体に高い相同性が認められた。特にDNA結合ドメインに相当すると思われる部位には2箇所の亜鉛フィンガーを含む領域が高い相同性を持って保持されていた。またリガンド結合領域に相当する領域は上述のエクジソン受容体やレチノイン酸受容体との相同性が高くステロイドホルモン受容体様蛋白質に特徴的なドメイン構造を持ち、かつこれまで報告のない新規な受容体蛋白質であることが確認された(ECDN蛋白質と命名)。
【0005】
本受容体蛋白質をコードするcDNAを大腸菌・酵母・昆虫細胞・哺乳類細胞などの宿主に導入した形質転換体を作成することによって、本受容体蛋白質を分離精製し、結合しているリガンドを構造決定することが可能となるほか、精製蛋白質を用いた結合試験によって本受容体に結合する新たな合成リガンドや応答エレメントの検索に用いることができる。本受容体蛋白質をコードするcDNAをさらに応答エレメントとレポーター遺伝子を含むプラスミドとともに共形質変換体を作成することにより、本受容体の転写活性に及ぼす作用について詳細に検討することが可能となる。
【0006】
本発明は、例えば本蛋白質の結合するDNA応答エレメントや他の転写調節因子等との相互作用、特異的なリガンドの検索を行うことによって、転写調節因子としての機能を解析し、新たな医療用医薬品、診断薬、予防薬の発見等に研究の広がりを提供し、この分野の知見を飛躍的に進歩させ得るという点できわめて重要である。さらに本発明者らは抗ECDN蛋白質モノクローナル抗体を作成し、各種細胞の本蛋白質の発現を解析したところ、驚くべきことに、癌細胞において約50kDa のECDN蛋白質のほかに約40kDa の小分子のECDN蛋白質が癌特異的に発現していることが確認された。次いで、この小分子ECDN蛋白質の構造を確認したところ、291 個の塩基が欠失し97個のアミノ酸が欠失したECDN小分子蛋白質であることが確認された。これらの事実から、本発明のECDN小分子蛋白質は癌の診断、治療などに広く利用し得るユニークな蛋白質であることが判明した。
【0007】
すなわち本発明は(1)配列番号1および2に記載のDNA、およびそれらがコードするECDN蛋白質およびECDN小分子蛋白質、(2)該DNAを含有するベクター、および該ベクターとそれに応答DNAを含むレポーターベクターを保持する共形質転換体、(3)該蛋白質に結合する抗体、(4)該DNAの一部を含むプローブまたはプライマーを用いるECDN蛋白質またはECDN小分子蛋白質の遺伝子解析方法および細胞検査方法からなる。
【0008】
本発明のDNAは、その一部をプライマーまたはプローブとして用いることにより、ECDN蛋白質またはECDN小分子蛋白質の遺伝子解析や遺伝子の発現の解析に利用することができる。「一部」とは、プライマーまたはプローブとして使用するオリゴヌクレオチドが本発明のDNA配列をもとに少なくとも8個の対応する塩基配列からなり、好ましくは少なくとも10個の塩基配列、さらに好ましくは少なくとも約15〜25個の塩基配列からなる対応するポリヌクレオチドを意味する。
このDNAがコードするECDN蛋白質またはECDN小分子蛋白質の全部または一部をエピトープとして用い、抗体の作成、およびその抗体を用いる研究用、診断用試薬として利用することができる。「エピトープ」とは、ポリペプチドの抗原決定基を意味し、一般に少なくとも6個のアミノ酸で構成され、6個のアミノ酸で構成されるポリペプチドが抗体と結合することは公知である(公表特許公報60-500684 号)。ECDN蛋白質の一部とは、本発明のECDN蛋白質のアミノ酸配列に基づいて、連続してなる少なくとも6個のアミノ酸、好ましくは少なくとも8個のアミノ酸、さらに好ましくは少なくとも約10個のアミノ酸、さらに好ましくは少なくとも約15〜25個のアミノ酸からなるポリペプチドを意味する。
配列番号1または2に記載のDNAがコードするECDN蛋白質およびその一部からなるものにおいて、その配列のうち、1もしくは複数個のアミノ酸が、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有する蛋白質も本発明に含まれる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(1)cDNAクローンの単離
常法により、ヒト胎児肺mRNAをもとにcDNAを合成し、一定方向にクローニングされたcDNA挿入体を有するcDNAライブラリーを作製する。このライブラリーよりランダムにクローンを選び、5'側より塩基配列を決定し、蚊の脂肪体組織よりクローニングされたエクジソン受容体と相同性を有する一つのクローンを選択する。全長cDNAを含んでいない場合は、当該クローンのcDNAをプローブとして種々のcDNAライブラリーをスクリーニングし、目的とする全長cDNAを含むクローンを得ることができる。
【0010】
(2)遺伝子の全構造の確認
上記の方法により得られるcDNAは、配列番号1に記載の新規なDNA配列であることが確認され、それがコードする新規な蛋白質をECDN蛋白質と命名した。
【0011】
(3)組換え発現ベクターとその形質転換体
上記記載の方法により得られたヒトECDN蛋白質をコードする遺伝子DNAあるいはその断片を適切なベクターに組み込み、該ベクターを適切な宿主細胞に移入することにより形質転換体を得ることができる。これを常法により培養し培養物よりヒトECDN蛋白質を大量に生産することができる。さらに具体的には、ヒトECDN蛋白質をコードするDNAまたはその断片を、その発現に適したベクターのプロモーター下流に制限酵素とDNAリガーゼを用いる公知の方法により再結合して組換え発現ベクターを作成することができる。使用できるベクターとしては、例えば大腸菌由来のプラスミドpRB322、 pUC18、枯草菌由来のプラスミド pUB110,酵母菌由来のプラスミド pRB15, バクテリオファージλgt 10 ,λgt 11 あるいはSV40などが挙げられるが宿主内で複製、増幅可能なベクターであれば特に限定されない。プロモーターおよびターミネーターに関してもヒトECDN蛋白質をコードするDNA塩基配列の発現に用いられる宿主に対応したものであれば特に限定されず、宿主に応じて適切な組み合わせも可能である。用いるDNAはヒトECDN蛋白質をコードするDNAであれば何れでも良く、配列番号1記載の塩基配列に限定されるものではなく、意図的であるか否かにかかわらず塩基配列の一部が置換、欠損、挿入、あるいはこれらが組み合わされた塩基配列を有するDNAであってもよい。また化学合成によって合成されたものでも良い。
このようにして得られた組換え発現ベクターはコンピテント細胞法(J. Mol. Biol., 53, 154, 1970)、プロトプラスト法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929, 1978)、リン酸カルシウム法(Science, 221, 551, 1983)、インビトロパッケージング法(Proc. Natl, Acad. Sci. USA, 72, 581, 1975)、ウイルスベクター法(Cell, 37, 1053, 1984)などにより宿主に導入し、形質転換体が作製される。宿主としては大腸菌、枯草菌、酵母、昆虫細胞および動物細胞などが用いられ、得られた形質転換体はその宿主に応じた適切な培地中で培養される。培養は通常20℃〜45℃、pH5〜8の範囲で行われ、必要に応じて通気、撹拌が行われる。形質転換は、本蛋白質の組換え発現ベクター単独に限定されることはなく、たとえばこのECDN蛋白質が結合しうるDNA応答エレメントを含むレポータープラスミドと共に共形質転換体を作製することができる。
【0012】
(4)組換え蛋白質の分離・精製
培養物からのECDN蛋白質の分離・精製は公知の分離・精製法を適宜組み合わせて実施すれば良い。これらの公知の方法としては塩析、溶媒沈殿法、透析ゲルろ過法、電気泳動法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0013】
(5)抗体の作成
抗体は、ECDN蛋白質の全部あるいは一部分を抗原として、通常の方法で作成することができる。例えば、ポリクローナル抗体はマウス、モルモット、ウサギ等の動物の皮下、筋肉内、腹腔内、静脈に複数回接種し十分に免疫した後、斯かる動物から採血、血清分離して作製する。なお、市販のアジュバントも使用できる。
モノクローナル抗体は、例えば、ECDN蛋白質で免疫したマウスの脾細胞と市販のマウスミエローマ細胞との細胞融合により得られるハイブリドーマを作成後、該ハイブリドーマ培養上清、または該ハイブリドーマ投与マウス腹水から調製することができる。
抗原とするECDN蛋白質は必ずしも全アミノ酸構造を有する必要はなく、部分構造を有するペプチド、その変異体、誘導体、あるいは他のペプチドとの融合ペプチドであってもよく、調製法は生物学的手法、化学合成手法いずれでもよい。また、ECDN蛋白質およびECDN小分子蛋白質の個別分析を目的とするならば、両蛋白質の共通部分、欠失部分または新しく生じたペプチド部分など適宜エピトープを選択することで可能となる。
これら抗体はヒト生体試料中のECDN蛋白質の同定や定量用の試薬として使用できる。本発明の抗体は、必要に応じて F(ab')2, Fab', Fab などのフラグメントおよびそれらの誘導体として使用することも可能であり、さらにキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体としての応用も可能で、これらすべて本発明に含まれる。
ECDN蛋白質の免疫学的測定法は、公知の方法に準ずればよく、たとえば蛍光抗体法、受身凝集反応法、酵素抗体法などいずれの方法においても実施できる。
【0014】
(6)遺伝子および発現の解析
本発明により提供されるヒトECDN蛋白質およびECDN小分子蛋白質をコードする遺伝子DNAの制限酵素断片をプローブとして、または該遺伝子DNAの中から適切な位置の塩基配列を適宜選択しその合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして、用いることにより該遺伝子の変異の有無を解析することができる。また、試料中の該遺伝子における挿入、欠失などの異常もこれらの解析により検知することができる。
なお、このECDN蛋白質をコードする遺伝子DNAを含むプラスミドを保有するEscherichia coli DH5α/pFATSR は通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託番号FERM BP- 4769 として平成6年8月4日寄託された。
【0015】
(7)リガンド結合物質および応答DNAの解析
(3)で作製した形質転換体を一定期間培養した後、形質転換細胞より発現しているECDN蛋白質を分離・回収し、その画分に結合しているリガンドを公知の抽出法、HPLC、マススペクトロメトリー、核磁気共鳴法などを組合わせることにより培養条件下で結合しているリガンドの構造を決定できる。リガンドの構造を明らかとした後、形質転換体からの粗抽出物もしくは単離精製したECDN蛋白質を用いて標識リガンドと共にレセプター結合試験を行い、ECDN蛋白質に結合しうる天然もしくは合成誘導体をスクリーニングすることができる。
ECDN蛋白質が結合する応答DNAの解析には、形質転換体からの粗抽出物もしくは単離精製したECDN蛋白質を用いて、同位体もしくはビオチンなどの非同位体標識されたDNA配列とともにゲル・シフト法などの公知のDNA結合能試験によって解析することができる。
【0016】
(8)レポータープラスミドとの共形質転換体を用いた転写調節作用の解析
ECDN蛋白質もしくは公知で類縁のステロイドホルモン受容体様蛋白質群の結合するDNA配列を、例えばSV40やサイトメガロウイルス由来のプロモータや酵母の発現プロモーター上流に組み込み、プロモーターの下流には例えばクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ、胎盤型アルカリ・フォスファターゼ、ルシフェラーゼ、もしくはLacZなどのレポーター遺伝子を挿入したレポータープラスミドを構築する。ECDN蛋白質発現ベクター、またはECDN蛋白質のDNA結合ドメインを公知のステロイドホルモン受容体様蛋白質のDNA結合ドメインと置換したキメラECDN蛋白質発現ベクターを、レポータープラスミドあるいは他のステロイド・ホルモン受容体様蛋白質発現ベクターとともに酵母、昆虫細胞、もしくは動物細胞に導入し、共形質転換体を作製する。このような形質転換体内で発現したECDN蛋白質は、ECDN蛋白質そのものあるいはその複合体が、同時に発現させた他の受容体蛋白質もしくは細胞内の蛋白質と相互作用し、その結果レポータープラスミドに結合してレポーター遺伝子の転写に作用を及ぼすことができる。レポーター遺伝子の転写を介した発現は、レポーター遺伝子産物に特異的な反応によって検出可能である。こうした転写調節能を解析する方法を用いて、例えばECDN蛋白質を介して転写調節に作用する物質をスクリーニングすることが可能となる。
【0017】
(9)癌細胞におけるECDN小分子蛋白質の発現
実施例9以下に示されるごとく、坑ECDN抗体を用いるウエスタンブロッティング法による解析およびRT-PCR法による解析の結果、各種癌細胞株および癌組織において、約40kDa のECDN小分子蛋白質が癌特異的に発現していることを見いだした。この小分子蛋白質の構造を確認した結果、配列番号1記載の塩基番号387 〜677 部分が欠失したものであることが判明した。さらに、この小分子蛋白質が細胞の核小体に蓄積していることが、免疫組織染色により確認された。
このことは癌の進展とECDN小分子蛋白質の生成が非常に強い相関性を有することを示唆し、被検細胞または組織でのECDN蛋白質および小分子蛋白質の遺伝子発現解析や細胞内分布を検査することにより、正常細胞と癌細胞の識別を可能とした。遺伝子解析はECDN蛋白質をコードするDNAの一部をプローブまたはプライマーとして用い被検組織のDNAまたはmRNAを測定すれば良い。プライマーは欠失部位を考慮して目的に応じて適宜選択することができる。いずれの手法も公知の方法に準じて実施することができる。
ECDN蛋白質および小分子蛋白質の測定に抗体を使用することも可能である。抗体作成用の抗原としては、両蛋白質の共通部分、欠失部位または欠失後の小分子蛋白質の結合部位(配列番号2に記載のアミノ酸番号61位付近を含む部分)など適宜選択して各抗体を使い分けることも可能である。
【0018】
(10)医学への応用
ECDN蛋白質を会して転写調節に作用する物質の中には、前骨髄球性白血病におけるall-trans retinoic acid のように、ECDN蛋白質の正常の機能を刺激することにより、小分子ECDN蛋白質を発現する腫瘍細胞の正常細胞への文化や異常増殖の抑制をもたらす物質が見いだされることが期待できる。
また、小分子ECDNmRNAに特異的にハイブリダイズするアンチセンス核酸(DNAまたはRNA)やリボザイムを用いて、腫瘍におけるECDN小分子蛋白質の発現を抑制することにより、主要の異常増殖を抑制することが期待できる。また、小分子ECDNmRNAに特異的にハイブリダイズするアンチセンスRNAやリボザイムを発現する遺伝子構築物を腫瘍に導入することによっても同様の効果が期待できる。小分子ECDNmRNAに特異的にハイブリダイズする部位としては、ECDN塩基欠失後結合した部位、すなわち配列番号2に記載のECDN小分子蛋白質をコードする塩基番号387 位付近を含む部分が掲げられる。
また、小分子ECDNmRNAもしくは小分子ECDN蛋白質の発現を適当なプライマー、プローブまたは抗体を用いて検出することにより、正常組織では見られないECDN小分子蛋白質の発現を抑制する物質をスクリーニングすることができる。
【0019】
【発明の効果】
本発明の、ヒトECDN蛋白質および該蛋白質をコードする遺伝子DNAの、全部またはその一部を含むものを用いて、本受容体の転写調節因子としての機能や遺伝子そのものの解析、本受容体蛋白質に特異的に結合する天然および合成化合物を解析することにより、新たな治療薬、診断薬、予防薬の発明へと広がりを期待できる。さらに、被検組織のECDN蛋白質およびECDN小分子蛋白質の発現、遺伝子解析により癌の診断、治療への応用が期待される。
【0020】
【実施例】
以下の実施例により本発明を詳細に且つ具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)ヒトcDNAライブラリーの作製
ヒト胎児肺および乳腺mRNA (Clontech社より購入) をもとにcDNAを合成し、Uni-ZAP XRベクターキット (Stratagene社より購入) を用いて一定方向にクローニングされたcDNA挿入体を有するcDNAライブラリーを作製した。
【0021】
(実施例2)クローンの選択
実施例1によって作製されたヒト胎児肺cDNAライブラリーよりランダムにクローンを選び、5'側より塩基配列を決定した。これらの塩基配列をFASTA アルゴリズムを用いてデータ・ベース中の既知の塩基配列と比較したところ、昆虫のエクジソン受容体と相同性を有する一つのクローンL1-1793 を見出した。
【0022】
(実施例3)全長cDNAのクローニング
L1-1793 は、全長cDNAを含んでいなかったのでL1-1793 の挿入体cDNAをランダムプライムラベリング法(Feinberg et al.,Anal. Biochem., 132, 6,1983) により標識してプローブとし、ハイブリダイゼーションにより種々のcDNAライブラリーをスクリーニングした。その結果、ヒト乳腺cDNAライブラリーより、全長cDNAを含むクローンを得た。構造解析の結果、このcDNAクローンは1979bpよりなり、205 bpの5′非翻訳領域、1386bpのコーディング領域、388 bpの3′非翻訳領域を含む新規なDNA塩基配列であることを確認した(配列番号1)。このcDNA配列に含まれるオープンリーディングフレームは、461 アミノ酸よりなる新規な蛋白質(ECDN蛋白質)をコードしていた。
【0023】
(実施例4)ECDN蛋白質遺伝子の各種ヒト組織での発現
実施例3で得たcDNAクローン(配列番号1)の挿入DNAを32Pで標識してプローブとし、各種ヒト組織mRNAのノーザンブロット(Clontech 社より購入) 解析を行った。検討したすべての組織( 脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、胎盤、骨格筋、大腸、末梢血白血球、卵巣、前立腺、小腸、脾臓、睾丸、胸腺) において約2KbのmRNAの発現が認められた。
【0024】
(実施例5)ECDN蛋白質の構造上の特徴
ECDN蛋白質のアミノ酸配列は、配列番号1に記載された塩基配列の206 番から1591番までのオープンリーディングフレームから演繹されたものであり、461 アミノ酸よりなる新規な蛋白質である。配列中の87番目から152 番目の75残基からなるアミノ酸配列は、ステロイドホルモンレセプター様蛋白質群に特徴的な二つの亜鉛フィンガーがエクジソン、レチノイン酸、甲状腺ホルモン等の受容体蛋白のDNA結合ドメインと高い相同性を持って保持されている。アミノ酸配列中の243 番のアミノ酸よりC末端の461 番のアミノ酸までの218 残基は、エクジソン受容体ならびにレチノイン酸受容体のC末端側に存在するリガンド結合ドメインと相同性が高く、本蛋白質のリガンド結合部位を形成していた。
【0025】
(実施例6)組換えECDN蛋白質発現ベクターの構築
配列番号1に記載されたECDN蛋白質をコードするcDNAを鋳型とし、PCR 法によって翻訳領域を含む部分配列を増幅した。
プライマー1; 5'-GACGGATCCATGTCCTCTCCTACCACGAGTT-3'
(コーディング鎖、配列番号1の塩基番号206 番から227 番に相当、配列番号3に記載)
プライマー2; 5'-CTAGAATTCGGAGGGTGGTCAGGCAAGGC-3' (アンチセンス鎖、配列番号1の塩基番号1634番から逆向きに1615番までのアンチセンス鎖に相当、配列番号4に記載)
プライマー1 の5'端にはBamHI 切断部位、プライマー2 の5'端にはEcoRI 切断部位が付加してある。PCR産物をBamHIおよびEcoRIで切断し、予めBamHI とEcoRIで切断した発現ベクターpGEX-2T (Pharmacia社より購入) に挿入し、発現プラスミドpGST-FATSRを構築した。pGST-FATSRプラスミドを用いて、E.coli DH5αを形質転換させアンピシリン耐性で選択することにより、グルタチオン-S- トランスフェラーゼとECDN蛋白質の融合蛋白を発現する形質転換体を得た。
【0026】
(実施例7)組換えECDN蛋白質の発現と精製
実施例6で得られた形質転換体を培養し、培養物より、組換えECDN融合蛋白質を抽出・精製した。
すなわち、形質転換体を100ml のLB培地(1% peptone, 0.5% yeast extract, 1%NaCl)で37℃一夜振とう培養した。培養液を予め37℃に加温したLB培地で10倍に希釈した上、さらに30〜90分培養して対数増殖期の培養物を得た。培養物1リットルにイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside) を終濃度1mM となるように添加して3〜4時間培養した。培養物から遠心分離により菌体を集めた。発現ベクターpGST-FATSRによる形質転換体は、菌体に10mlのカラム・バッファー(150mM NaCl,16mM Na2HPO4, 4mM NaH2PO4, pH7.3) を加え超音波によって破砕した。菌体破砕上清可溶画分をグルタチオン・セファロース4Bカラム(Pharmacia社より購入) にかけ、カラムバッファーで洗浄後5mM の還元型グルタチオンを含む溶出液で溶出した。溶出画分はSDS ポリアクリルアミド電気泳動法で解析して分画した。この結果、プラスミドpGST-FATSRによる形質転換体から、期待される約75,000KDa のGST 融合蛋白質が主要バンドとして検出される画分が得られた。
【0027】
(実施例8)モノクローナルおよびポリクローナル抗体の作成
実施例7で得られた組換えGST 融合蛋白質を免疫抗原、抗体精製・スクリーニング用抗原、測定用標準抗原として用いた。
抗ECDN蛋白質特異的モノクローナル抗体は GST融合蛋白質をマウスに免疫して作製した。すなわち、 GST融合蛋白質のPBS溶液( 500-1000 μg/ml)を完全アジュバントと1:1の割合で混合しマウスの腹腔内に100 μg /匹にて2週間隔で3回免疫を行った。免疫終了後、P3U1細胞とB細胞とのハイブリドーマをPEG15000を用いて作製し、培養上清中の抗体価をモニターし、抗ECDN蛋白質特異的抗体を産生するハイブリドーマの選択を行った。
抗体価の測定は、実施例7で得たGST 融合蛋白質を固相化(1μg /ml )したポリスチレン製カップに培養上清100 μl を加え第一反応を行い、洗浄後、抗マウスIgG-HRP( Horse-raddish peroxidase )を加え第二反応を行った。洗浄後、酵素基質溶液(過酸化水素水およびABTS(2,2’−アジノ−ビス−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)混合液)を添加し、発色反応(第三反応)を行いモニターした。
ハイブリドーマを96ウエルマルチプレートにて培養し、HAT選択を行い、約2週間後に培養上清中の抗体価を測定し抗原と特異的に反応するクローンを選択した。さらに、クローニング操作を行い、1クローン( F1D5 )を抗体産生ハイブリドーマとして樹立した。各ハイブリドーマ細胞300 万個を、予め約1週間前に0.5ml のプリスタンを腹腔内に投与しておいた BALB/c マウスの腹腔内に接種し、8〜10日後に腹水を採取した。各腹水よりプロテインGカラムによるアフィニティークロマトグラフィーで抗体を精製した。
【0028】
ポリクローナル抗体の作製はECDN蛋白質アミノ酸配列のうち、245-260 位を選択し化学合成したペプチドを抗原とした(配列番号5)。Key Halle Limpetとの複合体とした後、Complete adjuvant とともにウサギのフットパッドに約2週間おきに4回免疫し、抗体を作製した。採血した血清の抗体力価の測定はELISA 法にて実施した。即ち、抗原ペプチドをコートしたマイクロプレートに血清を添加し、室温2時間反応させ洗浄後、ワサビペルオキシダーゼ標識したヤギ抗ウサギIgG 抗体を添加、室温1時間反応、洗浄後、酵素基質液を加え発色反応を行い、吸光度(A405-490)を測定した。その結果、血清10000 倍希釈液において、吸光度が0.097 〜0.398 を示す抗血清5ロットを得た。
【0029】
(実施例9)ウエスタンブロッティング
実施例8で作製したモノクローナル抗体を用いて、各種組織におけるECDN蛋白質の存在形態を、常法に従いウエスタンブロッティング法にて解析した。
正常組織では約50kDalton(kDal) の正常のECDN蛋白質が認められるのに対し、大腸癌細胞株、食道癌細胞株およびHela細胞株では約40kDa のECDN小分子蛋白質のオーバーエクスプレッションが認められた。次いで、乳癌組織、大腸癌組織およびそれらの患者の正常組織で検討した結果、大腸癌の7例中3例、乳癌の9例中6例において約40kDa の小分子蛋白質が癌特異的に発現しており、正常蛋白質の発現が減少しているのが認められた(図1)。
これらの結果は分子量の小さいECDN蛋白質が癌の進展(pregression)とともに生成されることを示唆し、抗体によるこの異常蛋白質(ECDN小分子蛋白質)の検出が癌細胞の検査に応用できることを示している。
【0030】
(実施例10)RT−PCR実験
このようなECDN小分子蛋白質が生成するメカニズムを調べるために、5種類の大腸癌細胞株および6種類の食道癌細胞株からmRNAを分離してRT-PCR実験を行った。常法に従ってmRNAから一本鎖cDNAを合成し、3組のプライマーセット(それぞれ配列番号6と7、配列番号8と9、配列番号10と11:配列番号1に記載の塩基番号に基づいて、配列番号6は塩基番号 206〜 227 のセンスDNA、配列番号7は塩基番号 733〜 753のアンチセンスDNA、配列番号8は塩基番号 700〜725 のセンスDNA、配列番号9は塩基番号1226〜1244のアンチセンスDNA、配列番号10は塩基番号1205〜1226のセンスDNA、配列番号11は塩基番号1615〜1634のアンチセンスDNAに相当する。)を用いてコーディング領域の互いに重なり合う3つのセグメントをPCRで増幅した。その結果、5’側のセグメントおよび3’側のセグメントはいずれの癌細胞株でも正常組織とのサイズの違いは認められなかった。しかしながら、中央部のセグメントを増幅した時には、正常サイズの増幅産物の他に、正常組織では認められない、より短い増副産物が11種すべての癌細胞株に認められた(図2)。
この短くなった増幅産物のDNA配列を決定したところ、第7エクソンの291 個の塩基が欠損して短くなっていることが判明した(配列番号1の塩基番号 387〜 677に相当する部分)。この結果、癌細胞特異的なバリアントmRNAはDNA結合ドメインの97アミノ酸を失った約40kDa の蛋白質をコードしているものと推察された。このことより、RT-PCR、ハイブリダイゼーションなどの手法を用い、上記バリアントmRNAを検出することにより、癌細胞の検出できることが期待される。
【0031】
(実施例11)免疫組織化学分析
RT-PCRの実験結果とウエスタンブロッティングの比較から、DNA結合ドメインを欠くECDN小分子蛋白質が癌細胞株には蓄積しているものと予想された。この異常蛋白質が細胞質に存在するか、または核に存在するかを検討するため、モノクローナル抗体を用いて各種細胞株の免疫染色を行った。
正常組織では細胞全体にわずかな染色が認められるのに対し、癌細胞株では核小体(nucleoli)に大量の抗ECDN抗体と反応する蛋白質の蓄積が認められた。実施例9のウエスタンブロッティングの結果から、癌細胞株では大量の約40kDa ECDN蛋白質を発現していることから、この核小体蓄積蛋白質はECDN小分子蛋白質と予測された。以上のことから、抗体を用いて異常蛋白質(ECDN小分子蛋白質)の核小体への蓄積の有無を検査することによって正常細胞と癌細胞の同定を行いえることが期待される。
【0032】
【配列表】
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【0033】
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【0034】
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【0035】
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【0036】
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【0037】
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【0038】
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【0039】
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【0040】
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【0041】
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【0042】
Figure 0003739445

【図面の簡単な説明】
【図1】 大腸癌および乳癌組織(T)、およびそれらの正常組織(N)のウエスタンブロッティング法による解析結果を示す図である。
【図2】 配列番号6と7をプライマーとして使用した、正常組織および癌細胞株のRT−PCR実験結果を示す図である。

Claims (12)

  1. 配列番号1に記載のDNAの塩基番号387 〜677 の塩基が欠失したDNA(配列番号2)がコードするECDN小分子蛋白質。
  2. ECDN小分子蛋白質をコードする、配列番号2に記載のDNA。
  3. 請求項2に記載のDNAを含有するベクター。
  4. 請求項3に記載のベクターを保持する形質転換体。
  5. 請求項4に記載の形質転換体を培養し、発現産物を回収することを含む請求項1に記載の蛋白質の製造方法。
  6. 請求項2に記載のDNA配列の全部を含むDNAからなるプローブを用い、更に電気泳動による分離を行い、被検組織または被検細胞中のECDN小分子蛋白質のmRNAを測定することを特徴とする癌細胞の検出方法。
  7. 請求項2に記載のDNA配列の全部を含むDNAからなるプローブを被検DNAとハイブリダイズさせ、更に電気泳動による分離を行い、ECDN小分子蛋白質の遺伝子を測定することを特徴とする癌細胞の検出方法。
  8. 請求項2記載のDNA配列の連続してなる少なくとも15個の塩基からなるプライマーを用いて、被検mRNAをRT−PCR法にて増幅させ、更に電気泳動による分離を行い、ECDN小分子蛋白質の遺伝子発現を測定することを特徴とする癌細胞の検出方法。
  9. 配列番号6および配列番号7に記載のプライマーを用いて、被検mRNAをRT−PCR法にて増幅させ、更に電気泳動による分離を行い、ECDN小分子蛋白質の遺伝子発現を測定することを特徴とする癌細胞の検出方法。
  10. 請求項1に記載のECDN小分子蛋白質と結合するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用い、更に電気泳動による分離を行うことを特徴とするECDN小分子蛋白質の免疫化学的測定による癌細胞の検出方法。
  11. 請求項1に記載のECDN小分子蛋白質と結合するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用い、被検組織または被検細胞の免疫化学的組織染色を行い、ECDN小分子蛋白質の細胞内分布を測定することを特徴とする癌細胞の検出方法。
  12. 請求項1に記載のECDN小分子蛋白質と結合するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用い、更に電気泳動による分離を行い、被検組織または被検細胞のECDN小分子蛋白質の発現量を測定することを特徴とする癌細胞の検出方法。
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