【発明の詳細な説明】
高い熱安定性および吸湿安定性を有する偏光子フィルム
発明の背景
偏光子は液晶ディスプレーの重要な構成部材である。液晶ディスプレー(LC
D)は、例えば、ノートブック型パーソナルコンピューター(PC)、計算機、
時計、液晶カラーテレビ、ワープロ、自動車用計器パネル、遮光ガラス等の分野
で広く用いられる構成部材である。一般に、偏光子はフィルム、つまり偏光子フ
ィルムの形で用いられる。LCDでは、液晶エレメントは、オンとオフのコント
ラストを生じる液晶に入る入射光を調節する偏光フィルム(ここでは偏光子フィ
ルムともいう)の2つの層の間に一般に挟まれている。
偏光フィルムは、ポリマーフィルム、着色剤、および場合により存在する他の
層を含み、ひとまとめにして偏光フィルムと呼ばれる。ポリマーフィルムは、例
えばポリビニルアルコール(PVA)のような延伸ポリマーフィルムであるのが
慣例である。着色剤は、通常、ポリマーフィルム上に吸収されたヨウ素または二
色性染料である。その後、この構造物は、ポリエチレンテレフタレート(PET
)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、トリアセチルセルロース(TAC
)等のような支持体で両側を被覆されるか、あるいはこれらの間に挟まれる。こ
れは、さらに接着剤層、保護層等で被覆されてもよい。
ポリマー性支持体フィルムの性質および品質は、偏光フィルムの性能に影響を
及ぼす。延伸PVAのような以前から用いられているポリマーフィルム材料は、
性能の点で不適切であることが次第に分かってきた。次第に複雑化してきた偏光
子フィルムおよびLCDへの応用に伴い、それらの限界が明らかになってきた。
これらの材料を用いる環境は、温度、湿度等の点でますます厳しくなっている。
PVAフィルムは、必要とされる耐熱および耐湿性、強度、信頼性、取り扱い易
さ、そして加工し易さに欠ける。さらに、これらの光学的性質は、例えば、高い
湿度/熱の環境にさらすと偏光効率が低下するような悪影響を受ける。従って、
ますます複雑になる用途を満たすために、高い熱安定性および吸湿安定性を有す
る改良偏光フィルムが緊急に求められている。
偏光フィルムの性能の改良のためにいくつかの試みがなされてきたが、成功し
たのはわずかであった。米国特許第5,310,509号および第5,340,50
4号には、ポリビニルアルコールのような水溶性有機ポリマーおよび二色性染料
に基づく偏光フィルムが記載されている。米国特許第4,824,882号および
第5,059,356号には、偏光子に用いるためのポリエチレンテレフタレート
(PET)フィルムが記載されている。米国特許第5,318,856号には、ポ
リビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールおよびポリ
ビニルブチラールのフィルムが記載されている。米国特許第4,842,781号
には、ポリビニル、ポリエステルおよびポリアミドのフィルムが記載されている
。しかしながら、これらのポリマーは、依然として、特に耐熱および耐吸湿性に
おいて、PVAと同じ欠点を有している。
米国特許第5,071,906号には、重合度が約2,500〜10,000の一
軸延伸PVAおよび着色剤を含む偏光フィルムが記載されている。これは従来の
低分子量PVAより少し改良されているが、まだPVAの欠点を有する。
液晶ポリマーは、従来の熱可塑性樹脂よりも高い熱安定性を有することが知ら
れている。さらに、押出し法または成形法は、一般に、液晶ポリマーにおいて高
い配向度を達成する。このため、液晶ポリマーは偏光子支持体フィルムに用いる
のに有望である。事実、過去において、そのようなポリマーを偏光子に用いる試
みがいくつかなされた。例えば、日本特許出願62−28698号(1987年
2月10日出願)には、ポリマーがヒドロキノン誘導体(A)、テレフタル酸成
分(B)、イソフタル酸成分(C)およびパラヒドロキシ安息香酸成分(D)の
コポリエステルであり、A対Dのモル比が5:95〜70:30%、B対Cのモ
ル比が50:50〜100:0%である、二色性着色剤で染色されかつ配向され
た熱互変性液晶ポリエステルよりなる偏光フィルムが記載されている。この記載
のポリマー組成物の製造は難しいか、あるいはほとんど不可能である。その上、
これらのポリマーについて記載されたモノマー比では、必ずしも液晶ポリマー組
成物を製造するためのバランスのとれた配合にはならない。さらに、そのような
ポリマーを製造することができたとしても、そのようなポリマーからのフィルム
はいずれも光学的透明度が実質的に不十分であると考えられ、従って、特に厳し
い環境では、偏光フィルムとしての潜在的利用性は制限されおよび/または妨げ
られる。
米国特許第4,840,640号には、ポリエチレンテレフタレート成分(A)
とパラヒドロキシ安息香酸成分(B)とを40:60〜5:95のA:Bモル比
で共重合することによって形成される“液晶ポリエチレンテレフタレート−パラ
ヒドロキシ安息香酸”の使用が記載されている。光学的性質、特に光透過率はそ
のような組成物の問題点である。さらに、そのような組成物は、まず二色性酸と
ブレンドされ、その後、満足なフィルム配向および光透過率を得るために高剪断
速度でダイに通してフィルムに形成されなければならない。これは、加工工程を
増やすばかりでなく、依然として、不適切な性能を有するフィルムを生じること
になる。
従って、本発明の目的は、熱安定性および吸湿安定性が高く、そして既存のか
つ複雑な用途に有用な偏光フィルムを提供することである。
本発明の別の目的は、偏光子用途に有用な液晶ポリマーフィルムを提供するこ
とである。
本発明のさらに別の目的は、適当な染料とブレンドし、その後、偏光子用途に
有用なフィルムに形成することができる液晶ポリマー組成物を提供することであ
る。
本発明のさらに別の目的は、必要とされる加工ができるだけ少ない状態で、高
い配向度、光学的透明度、耐湿性および耐熱性を有するフィルムを形成すること
ができ、そして有機二色性染料とブレンドして高い熱安定性および吸湿安定性を
有する偏光フィルムに転化することができる液晶ポリマーを提供することである
。
本発明の他の目的および利点は、明細書の記載および実施例から明らかになる
であろう。
発明の概要
1又はそれを越える本発明の目的は、全有機偏光フィルムであって、(a)少
なくとも1種のフィルム形成性で全芳香族熱互変性液晶ポリマー(LCP)と(
b)該ポリマーと相溶性である少なくとも1種の有機二色性染料とのブレンド
物を含み、前記偏光フィルムが、少なくとも70%の初期偏光効率を有し、そし
てさらに、少なくとも100時間の間少なくとも90℃の温度および90%の相
対湿度(R.H.)に曝されたときにその偏光効率を実質的に維持する、全有機偏
光フィルムを提供することによって達成される。“相溶性”という用語は、染料
およびポリマーがそのポリマーの溶融温度を包含しかつそれまでの温度でブレン
ドするのに、およびそのポリマーの溶融温度を包含しかつそれまでの温度で均一
フィルムに押出して染料分子が均一に分散している偏光フィルムを得るのに適し
ていることをいう。“その偏光効率を実質的に維持する”という用語は、上記の
温度および湿度環境に上記の期間さらした後にフィルムの初期偏光効率が(その
初期偏光効率の)10%を越えては低下しないことをいう。ポリマーと染料との
組み合わせの好ましいブレンド物および加工は、170℃以上またはポリマーの
溶融温度付近で行われ、従って、ポリマーと染料は共に、これらの条件に対して
化学変化することがないほど十分に高い安定性を有していなければならない。
LCPは、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリケトン、ポ
リカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリビニル等よりなる群から選
択される。好ましいLCPは、ポリエステルまたはポリエステルアミドである。
本発明を実施する際に有用な液晶ポリマーの例は、式:
−[P1]m−[P2]n−[P3]q−
(式中、P1は芳香族ヒドロキシカルボン酸または芳香族アミノカルボン酸であ
り;P2は芳香族ジカルボン酸であり;P3はフェノール化合物であり;m、nお
よびqは個々に、一般に0〜70モル%である各モノマーのモル%を表し、m+
n+qの合計は100モル%である)に相当する反復単位を含む。mの好ましい
値は約0〜40%であり、nは約0〜40%であり、そしてqは約0〜30%で
ある。P1、P2およびP3の他に、追加のモノマー部分、例えば、第2の芳香族
ヒドロキシカルボン酸またはアミノカルボン酸−[P4]r−、ジフェノール部分
−[P5]s−等がポリマー反復単位の一部になっていてもよく、その場合、rは
約5〜20モル%であり、sは約5〜20モル%であり、m+n+q+r+sの
合計は100モル%となるように調整する。P4はP1とは異なり、P5はP3とは
異なる。適した二色性染料には、直鎖染料、分枝鎖染料、直接染料、分散染料、
酸性染料等が含まれるが、これらに限定されない。
本発明はさらに、偏光子フィルム組成物用のポリマー−染料ブレンド物の製造
法を提供する。
好ましい態様の説明
1つの態様において、本発明は、高い熱安定性および湿度安定性並びに偏光効
率を有する全有機偏光フィルムを開示する。本フィルムは、高い配向度、光学的
透明度および二色比というような利点をさらに有しうる。“高い熱安定性および
湿度安定性”という用語は、フィルムを少なくとも約100時間、少なくとも約
90%の湿度および少なくとも約90℃の温度という環境条件にさらしたとき、
偏光子フィルムの光学的性質が実質的に変化しないことをいう。“高い偏光効率
”という用語は、少なくとも70%の偏光効率をいう。
本発明の偏光フィルムは、(a)1またはそれを越えるフィルム形成性の全芳
香族熱互変性液晶ポリマーと(b)1またはそれを越える相溶性有機二色性染料
とを含むブレンド物から得られる。本発明を実施するのに適した有機ポリマーお
よび染料は上記の通りである。上記ポリマーの中で、液晶ポリエステルまたはポ
リエステルアミドが好ましい。好ましいLCP組成物は反復単位:
−[P1]m−[P2]n−[P3]q−
(式中、P1、P2およびP3は上記の通りである)を含む。P1の例には、4−ヒ
ドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、4−アミノ安息香酸およ
び4−カルボキシ−4'−ヒドロキシ−1,1'−ビフェニルが含まれるが、これ
らに限定されない。P2の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2
−フェニルテレフタル酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレン
ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および4,4'−ビフェニルジカ
ルボン酸が含まれるが、これらに限定されない。P3の例には、レゾルシノール
、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、カテコール、4
,4'−ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールAおよびアセトアミノフェンが
含まれるが、これらに限定されない。第2ヒドロキシカルボン酸または第2アミ
ノカルボン酸−[P4]r−、ジフェノール部分−[P5]s−等のような追加のモ
ノマーも、ポリマー反復単位の一部になっていてもよく、rおよびsは各モノマ
ーの各々のモル量であり、P4はP1とは異なり、P5はP3とは異なる。P4の例
には、4−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、4−アミノ
安息香酸および4−カルボキシ−4'−ヒドロキシ−1,1'−ビフェニルが含ま
れるが、これらに限定されない。P5の例には、レゾルシノール、ヒドロキノン
、メチルヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、カテコール、4,4'−ジヒドロ
キシビフェニル、ビスフェノールAおよびアセトアミノフェンが含まれるが、こ
れらに限定されない。個々のモノマーP1、P2、P3、P4およびP5はそれぞれ
、0〜40、0〜40、0〜30、5〜20モル%の量で存在する。m+n+q
+r+sの合計量は100%である。例えば、第3ジフェノール、または別のジ
カルボン酸等のような更なる追加のモノマーを適量で反復単位に存在させてもよ
い。モノマーおよびそれらの各量を選択する際に、ポリマーの望ましい性質を犠
牲にしないように注意を払うべきである。モノマーおよびそれらの各量を適切に
選択すると、望ましい熱安定性および吸湿安定性並びに他の性質を有するポリマ
ーおよび偏光子フィルムが得られる。
本発明は、(a)その反復単位が各々30:30:20:10:10の比率の
、P1についての4−ヒドロキシ安息香酸(HBA)、P2についての6−ヒドロ
キシ−2−ナフトエ酸(HNA)、P3についてのテレフタル酸(TA)、P4に
ついての4,4'−ビフェノール(BP)、およびP5についてのレゾルシノール
(R)のモノマーから製造されるLCP(以下“COTBPR”と呼ぶ)と(b
)適当な有機二色性染料とのブレンド物から製造される偏光子フィルムによって
例示される。COTBPRの製造はどのような公知の方法でも行いうる。典型的
な合成では、上記5種のモノマーをそれらの各モル比で、適当な蒸留ヘッドを有
する適当な装置内で混合する。内容物を不活性雰囲気中に保ち、同時に、酢酸カ
リウムのような触媒および無水酢酸のような溶媒をそれら成分に加え、そしてそ
の混合物を油浴中で加熱及び撹拌する。温度は、酢酸が留去するのに十分な高さ
に上げる。ほとんど全ての酢酸をできるだけ除いた後、ポリマーCOTBPRが
ポリマー溶融物として形成したら、装置を排気する。残留酢酸が留去されるにつ
れて、粘度は上昇し続ける。その後、所望のCOTBPRを単離したら、装置を
例えば周囲温度に冷却する。
このポリマーは、内部粘度(I.V.)、溶融粘度(MV)のような典型的なポ
リマーの性質を示差走査熱量計(DSC)、熱重量分析(TGA)、NMR、I
R、および当業者に周知の類似の慣用的な方法などの他の技術により測定するこ
とによって、分析的に特性決定することができる。I.V.は次のように定義され
る。
I.V.=ln(ηrel)/c
式中、cは溶液の濃度(0.1重量%)であり、ηrelは相対粘度である。この相
対粘度は、ポリマー溶液の細管粘度計内での流動時間を、純粋な溶媒の流動時間
で割ることによって測定しうる。重要な性質は熱安定性である。DSCはガラス
転移温度(Tg)を示すのにすぐれている。溶融温度TmはDSCによっても測定
され、DSC内で示される溶融吸熱のピークとして定義される。本発明のLCP
は高温で加工しなければならないので、十分に高いTgおよびTm(溶融温度がな
いのが望ましい)を有するポリマー組成物が好ましい。ホットステージ光学顕微
鏡は液晶相変化および溶融物の異方性を測定する。
上記のモル比を有するCOTBPRの典型的な製造では、ポリマーは、0.1
重量%濃度のペンタフルオロフェノール溶液中で60℃で測定して2.0〜2.4
dl/gのI.V.と、直径1mm、長さ30mmのオリフィスを使用する細管レオメ
ーターで230℃で103sec-1の剪断速度で測定して約700〜1,700ポア
ズのMVを有した。DSC(加熱速度10℃/分)によって測定されるTgは約
106℃であり、固体から液晶への転移温度(Ts-lc)は約170℃であり、ポ
リマー溶融物は光学的に異方性であった。Tmは見いだすことができず、これは
、ポリマーCOTBPRが非常にすぐれた熱的性質を有することを示している。
下記の実施例に記載のように、重合におけるモノマーP1、P2、P3、P4およ
びP5、並びにそれらの量を変えることによって、数種類のLCPを製造するこ
とができた。
本発明の態様には、本発明の有機ポリマーおよび二色性染料で製造される、高
い熱安定性と吸湿安定性を有する全有機偏光フィルムが含まれる。本発明のポリ
マーを有機二色性染料とブレンドすると、偏光フィルムが形成される組成物が得
られる。適した二色性染料には、直鎖染料、分枝鎖染料、直接染料、分散染料、
酸性染料等が含まれるが、これらに限定されない。黄色、オレンジ色、青色、紫
色または赤色染料のいずれも適している。適した染料のいくつかの種類は当業者
に周知である。これらには、アゾ染料、アントラキノン染料、商業的に入手しう
る分散染料、例えばブルー214、レッド60およびイエロー56、直接染料、
例えばブラック17、19および154、ブラウン44、106、195、21
0、242および247、ブルー1、15、22、78、90、98、151、
168、202、236、249および270、バイオレット9、12、51お
よび98、グリーン1および85、イエロー8、12、44、86および87、
オレンジ26、39、106および107、そしてメチレンバイオレットベルン
トゼン(ウイスコンシン州ミルウォーキーのアルドリッチ ケミカル社から入手
しうる)があるが、これらに限定されない。望ましいならば、1種を越える相溶
性染料を用いてもよい。適する二色性染料の選択は、当業者に周知のようないく
つかのファクターに依存する。いくつかのそのようなファクターには、耐光堅牢
性およびポリマー中の移行が含まれるが、これらに限定されない。別の望ましい
性質は、染料および分子主軸の転移モーメントが同じ方向を有することである。
そのようなファクターは前に述べた“相溶性”要件を形成する。
本発明のポリマーと染料との組み合わせを含む偏光フィルムは、適したどのよ
うな方法でも形成しうる。例えば、ポリマーおよび染料を周囲温度で物理的に一
緒にブレンドし、その後、適当な方法でフィルムに変えてもよい。しかしながら
、好ましい方法は、LCP組成物と染料との混合物を少なくとも170℃でかつ
ポリマーの溶融温度またはその付近までの温度でブレンドし、そしてまたそのよ
うな高温でフィルムを形成することである。しかしながら、さらに好ましい方法
は、フィルム形成前に、LCP組成物と染料の両方の混合物を押出し可能な混合
物に溶融ブレンドし(ポリマーの溶融温度またはその付近で2者を共にブレンド
すること)、その後、その混合物を適当な温度、例えば、そのポリマーの溶融温
度でフィルムに押出すことである。この方法は、本発明のポリマーと染料との組
み合わせの見事な高い熱安定性を利用するものであり、染料がポリマーフィルム
に均一に分散されている偏光フィルムをもたらすものである。従って、例えば、
上記のCOTBPRおよび適当な染料を適当なミキサーに一緒に仕込み、一般に
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0〜300℃、好ましくは170〜250℃の適当な温度に加熱し、そこでブレ
ンドして十分にブレンドされた混合物を形成する。この混合物を適当な溶融押出
し装置に仕込み、溶融し、次いでその溶融物を押出して適当な寸法の偏光子フィ
ルムを得る。従って、この方法は、フィルム寸法を、押出しダイを変えることに
よって容易に変更することができるというさらなる利点を有する。適当な染料の
選択は、溶融ブレンドおよび押出しのこの過程に関係している。溶融ブレンドお
よび押出しはかなり高温で行われるので、染料およびポリマーはそのような温度
で十分な熱安定性を有していなければならない。本発明のポリマーはこの要件に
十分に適合している。本発明の多くのポリエステルがそうであるように、ポリマ
ーが溶融温度を有していなければ、ブレンドおよび押出しは、おそらく染料の熱
的特性によってのみ制限されるだけで、できるだけ高い温度で行いうる。
本発明の偏光子フィルムの特性決定は、当業界で確立された方法によって行い
うる。本発明によって製造される偏光子フィルムは、高い耐熱性および耐湿性並
びに偏光効率(偏光係数によって測定れる)を有する。これらはまた、望ましい
波長における光透過率のようなすぐれた光学的特性を有する。この望ましい波長
は選択される染料に依存する。代表的な実験では、例えば、上記のように製造さ
れたCOTBPRフィルムを約240℃でメチレンバイオレットベルントゼン染
料と溶融ブレンドし、その後、このブレンド物を200℃を越える温度で溶融押
出しして偏光子フィルムを形成した。このフィルムの偏光係数を含めた光学的性
質は、上記の米国特許第5,071,906号に記載の手順により測定した。その
フィルムは、青色着色剤を含み、550〜630nmの波長域において約40%
の透過率と約93%の初期偏光効率を有した。
本発明の偏光子フィルムの好都合な高い熱安定性および吸湿安定性は次のよう
に立証された。フィルムを100℃および95%相対湿度(R.H.)の環境に約
120時間置き、偏光係数を再度測定した。偏光係数は約92%に留まり、殆ど
変化がなかった。比較のために、PVAとヨウ素、およびPVAと二色性染料に
基づく商業的に入手しうる偏光子フィルムを、同じ条件下で試験した。これらの
比較フィルムの偏光係数は、少し高めの初期偏光係数で始めたものの、上記の熱
/湿度環境にさらした後は完全にまたは実質的に低下した。このことは、本発明
の偏光子フィルムが、従来の偏光子フィルムと比較して、すぐれた耐熱/耐湿性
を有することを証明している。
本発明は、偏光子にすぐれた性質を付与する他に、様々な波長に合った偏光子
フィルムを要求通りに製造することを可能にする。これは、1種又は複数の染料
を適切に選択することによって行われる。好ましい方法は溶融押出しである;溶
媒は一般に必要ない。このため、染料の混合および分布は、従来の溶液−浸漬法
におけるよりもずっと均一であると考えられる。さらに、様々な染料およびLC
P組成物の熱安定性に応じて、これらに合うように押出し温度を容易に調整する
ことができる。従って、本発明の方法は、偏光子フィルムを製造する従来の方法
よりもずっと融通のきく方法である。
次の実施例は本発明をさらに説明するために示すものであり、本発明はこれら
に限定されるものではない。
実施例 実施例1.COTBPRの製造
: この実施例では、4−ヒドロキシ安息香酸(
HBA)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(HNA)、テレフタル酸(TA)
、4,4'−ビフェノール(BP)、およびレゾルシノール(R)の30:30:
20:10:10の1モル反応混合物からCOTBPRポリエステルを製造する
ことについて説明する。
半月形テフロン(登録商標)撹拌羽根、ガス送入管、熱電対、冷却器に取り付
けた Vigreux カラム、および受器を備えた500ml三つ口フラスコに、次の成
分:
a)41.440gの4−ヒドロキシ安息香酸(0.3モル);
b)56.456gの6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(0.3モル);
c)33.226gのテレフタル酸(0.2モル);
d)18.600gの4,4'−ビフェノール(0.1モル);
e)11.012gのレゾルシノール(0.1モル)
を加え、そのフラスコを油浴に浸し、そして温度を厳密に制御する手段を取り付
けた。フラスコを排気してから窒素を満たす操作を3回繰り返すことにより酸素
を十分にパージし、油浴中で徐々に加熱し;そして
f)0.02gの酢酸カリウムを触媒として、105.48gの無水酢酸(2.
5%過剰)と共に加えた。酢酸が留去し始めたのでこれをメスシリンダーに集め
た。
2000rpmで撹拌しながら、フラスコの内容物を200℃に60分間加熱し
たところ、10mlの酢酸が集まった。その後、反応温度を約1℃/分の速度で3
20℃まで徐々に上げたところ、96mlの酢酸が集まった。フラスコを320℃
でさらに60分間加熱した。合計110.5mlの酢酸が集まった。次に、撹拌し
ながら、フラスコを320℃で1.0ミリバールの圧力にした。この間、残留酢
酸がフラスコから除去されるにつれて、ポリマー溶融物の粘度が増加し続けた。
フラスコおよびその内容物を油浴から取り出し、周囲温度まで冷却した。次に、
ポリマーをフラスコから取り出した。合計120gのポリマーが得られた。
得られたポリエステルは、0.1重量%濃度のペンタフルオロフェノール溶液
中で60℃で測定して2.0〜2.4dl/gの内部粘度(IV)、及び直径1mm
で長さ30mmのオリフィスを使用する細管レオメーターで230℃で103sec-1
の剪断速度で測定して700〜1,700ポアズの溶融粘度(MV)を有した。
ポリマーを示差走査熱量計に付したところ(加熱速度10℃/分)、106℃
のガラス転移温度(Tg)を示した;溶融吸熱は検出できなかった。ポリマーを
ホットステージ交差偏光光学顕微鏡によって検査したところ、固体から液晶への
転移温度(Ts-lc)は170℃であった。その液晶相は光学的に異方性であった
。実施例2−14
実施例1の手順に従って、COTBPRについて異なる割合の
上記5成分を有するCOTBPR組成物を製造した。それら組成物の組成、ガラ
ス転移温度、溶融温度およびI.V.を以下の表Iに示す。特に断りがなければ、
性質は実施例1におけるように測定した。追加モノマー(表IIにおける“X”)
を含めたり、あるいはCOTBPRのいくつかのモノマー(表IIにおける“--”
)を除いたので、表IIにはCOTBPRの範疇ではないポリマー(実施例15−
23)が列挙されている。
実施例24.溶融ブレンドによる染料ブレンド物COTBPRの製造: 6gの
実施例1からのCOTBPRおよび0.3gのメチレンバイオレットベルントゼ
ン(ウイスコンシン州ミルウォーキーのアルドリッチ ケミカル社から)を Haa
k ミキサー(モデルNo.3042309、HBIシステム90、ニュージャー
ジー州パラマスの Haak 社からのもの)の混合室に装入した。混合ボールおよび
その内容物を約30分にわたって240℃に加熱し、次に、装入物を回転速度1
00rpmでその温度で15分間ブレンドした。ポリマーおよび染料の混合物をボ
ールから取り出し、周囲温度に冷却した。実施例25 フィルムの押出しおよび偏光係数(偏光効率)の測定
: 実施例2
4からの20gの染色ポリエステルを直径3/8インチのロッドに入れて圧縮し
た。ロッドを微小繊維紡糸装置(ニュージャージー州 Summit の Hoechst Celan
ese Corporation により内部設計されたもの)の溶融部へ装入した。ポリマーを
溶融し、0.56g/分の速度で溶融室へ供給した。スリットダイを溶融室の端
に配置し、これを通してポリマー溶融物を押出した。スリットの寸法は1/4イ
ンチ×1/5000インチであった。押出しフィルムは巻き取りロールによって
巻き取った。紡糸の間、ヒーター温度は230℃、溶融室温度は230℃、そし
てダイ温度は235℃に維持した。フィルムの巻き取り速度は5m/分であった
。巻き取り速度のダイ出口における押出しフィルムの送出速度に対する比として
定義される溶融物の引き落とし比は9であった。そのテープの幅は0.2インチ
で厚さは1/500インチであった。
得られた偏光フィルムは、青色であり、上記の米国特許第5,071,906号
に詳細に記載された手順に従って測定して40%の透過率と550〜630nm
の波長域における光について93%の偏光係数を有した。実施例26 熱安定性および吸湿安定性の測定:
実施例25からの偏光子フィ
ルムを100℃および95%R.H.の温度−湿度制御オーブンに120時間放置
し、偏光係数を再度同様に測定した。偏光係数は92%であることが分かった。
これはほとんど変化がないことを示している。
比較のために、一方がPVAフィルムおよびヨウ素に基づくもの(日東電工か
らのNPF−G1220DV)であり、他方がPVAと二色性染料に基づくもの
(日東電工からのNPF−Q−12)である2種の商業的に入手しうる偏光フィ
ルムの偏光係数を同様に測定した。これら2種の市販フィルムは、当初は各々9
9.95%と88%の偏光係数を有した。100℃および95%R.H.の温度−
湿度制御オーブンに120時間放置後、フィルムの偏光係数は各々0%および4
0%に有意に低下した。このことから、本発明の偏光子フィルムの100℃およ
び95%R.H.における偏光係数の低下は、従来の偏光フィルムと比較してずっ
と少なく、ほとんど無視できる程度であり、これらはそれらの熱安定性および吸
湿安定性が非常にすぐれていることを示している。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C08L 71/12 C08L 71/12
73/00 73/00
75/04 75/04
77/10 77/10
77/12 77/12
101/12 101/12
(72)発明者 モータザヴィ,モハマド
アメリカ合衆国カリフォルニア州94087,
サニーヴェイル,イースト・エル・カミ
ノ・リアル 1030,ナンバー158