【発明の詳細な説明】
磁性ターゲット材料のスパッタ方法及び装置
詳細な説明
1.技術分野
本発明は、一般的にはマグネトロン・スパッタ法の分野に関し、更に特定すれ
ば、磁性ターゲット材料をスパッタするプレーナ型マグネトロン・スパッタリン
グ装置に関するものである。
2.背景技術
グロー放電スパッタ法は、様々な種類のセラミック材料及び金属材料の薄膜を
物体表面上に堆積させるため、広く用いられている公知のプロセスである。例え
ば、グロー放電スパッタ法は、電子産業において、集積回路半導体や光電セル、
並びにオーディオ、ビデオ及びコンピュータの各用途に使用される磁気テープや
磁気ディスクを生産するために、一般的に用いられている。また、スパッタ法は
、建築用ガラス、コンピュータ・スクリーン、板状金属、サングラス、自動車部
品、自動車グレージング、外科用インプラント(surgical implants)、宝石、工
具ビット、板状プラスチック、繊維、及び光ファイバ(以上、ほんの一部を例示
)の上に被膜を堆積させるのにも使用されている。
グロー放電スパッタ法の一種に、2極スパッタ法がある。2極スパッタ法は、
通常、真空室内において、しかも非常に低い圧力に保持されたアルゴンのような
不活性スパッタ用ガスの存在下で行う。スパッタする材料(通常、ターゲットと
呼ぶ)は、DC電源の負端子に接続して、陰極として機能させる。電源の正端子
は、用途に応じて、別個の陽極構造体に接続したりあるいは真空室自体に接続で
きる。それらターゲット/陰極と陽極との間の強力な電界が、スパッタ用ガスを
イオン化し、グロー放電を生成させる。ターゲット/陰極を強い負電位に保持す
るので、グロー放電からの正イオンはターゲット材料を衝撃して、ターゲット原
子を放出させ、そしてこれが、ターゲットの視線内に通常配置する作業片又は基
板上に堆積する。しかしながら、残念なことに、この2極スパッタ・プロセスは
遅く、他の膜堆積技術と比べ、相対的に非効率である。
2極スパッタ・プロセスの効率は、磁界を用いてグロー放電をターゲットの至
近に閉じ込めることによって飛躍的に高まっている。基本的に、スパッタ率(即
ち、入射イオン当たりの放出又はスパッタされるターゲット原子の数)は、入射
イオンのエネルギに依存するが、総合的なスパッタ速度は、入射イオンのエネル
ギと、所与の時間中にターゲット表面を衝撃するイオンの数との双方に依存する
。従って、スパッタ速度の上昇は、磁界を用いてグロー放電内において生成した
イオン及び電子を、ターゲット表面の至近の領域に閉じ込めることによって図る
ことができる。このようなプラズマ閉込め磁界の存在によって、スパッタ処理を
より低いガス圧で行うことができるようになること、グロー放電を電極の近傍に
閉じ込めること、電子の基板への衝撃を減らすこと、等のその他の利点を得るこ
ともできる。
磁気スパッタリング装置のある一般的なタイプは、プレーナ型マグネトロンで
あり、このように命名されたのは、ターゲットが平らな円形又は矩形の板という
形状であるからである。このターゲット板の背後に配置した強力な磁石は、ター
ゲットの前面に隣接して、強力なプラズマ閉込め磁界を生成し、従ってスパッタ
効率を大幅に高める。プラズマ閉込め磁界には多数の形状や構成が存在するが、
一般的なのは、プラズマ閉込め磁界がターゲット材料表面上で、閉ループ環又は
「レーストラック」を形成するような形状とすることである。横断面でみると、
その磁界の磁束線が、ターゲット表面上でループあるいはアーチを描いて磁気「
トンネル」を形成し、これがグロー放電を、ターゲットの前面に隣接する環状又
はレーストラック状の領域に閉じ込める。公知のように、陽極とターゲット/陰
極との間の高電圧によって発生し、その閉ループ磁界と共に作用する電界は、グ
ロー放電内の電子に、レーストラックに沿ったある正味速度(net velocity)を得
させ、電子速度ベクトルの大きさ及び方向は、電界ベクトル E と磁界ベクトル
B とのベクトル・クロス乗積によって与えられる(ExB 速度として知られ
ている)。その支配的な電子経路の形状が、ターゲット材料の内のスパッタする
部分を規定する。
プレーナ型マグネトロンは、アルミニウムやその合金のような非磁性ターゲッ
ト材料のスパッタに、広範囲に使用されているが、例えば、鉄、ニッケル、鉄−
ニッケル合金、及びコバルト−クロム合金のような、透磁率が1よりも相当に大
きい磁性材料をスパッタするのには、特に効率的であるとは判明していない。単
にプレーナ型マグネトロン内の非磁性ターゲットを、これと同一の全体的構造を
有する強磁性ターゲットと置き換えるだけでは、通常、その磁界の全てではない
にしても殆どを、その磁性ターゲットを通して分路(shunt)させることになる。
このために、ターゲット上のプラズマ閉込め磁気トンネルの強度が、もはやター
ゲット表面上にプラズマを効果的に閉じ込められない点にまで低下し、従ってプ
レーナ型マグネトロン・スパッタリングを通常の2極スパッタリングのそれまで
低下させてしまい、またそれに伴いスパッタ速度が比較的遅くなると共に非効率
的となってしまう。
磁性ターゲット材料(即ち、透磁率が1よりも相当に大きい材料)をスパッタ
する際の上記問題に対する解決策の1つとして、非常に薄いターゲットを使い、
このターゲットが磁界全体をショートさせないようにしたものがある。ターゲッ
トが十分薄ければ(高い強磁性の材料では約2〜3mm)、十分な過剰磁束がタ
ーゲットの前面上に残って、プラズマ閉込め磁気トンネルを生成する。しかしな
がら、残念なことに、このような薄いターゲットは急速に枯渇するため、頻繁な
置き換え並びにスパッタリング装置のかなりのダウンタイムが必要となる。
上記問題の別の解決策に、磁界を強めることによってより厚いターゲットのス
パッタを可能にするというものがある。勿論、ターゲットが厚い程より多くの磁
束が分路する傾向があるので、ターゲットの前面上にプラズマ閉込め磁気トンネ
ルを生成するには、十分に大きな磁界が必要となる。通常、マグネトロン効果を
実現するには、ターゲット表面に平行な方向に約80ないし100ガウスの範囲
の磁界強度が必要である。磁石は強いほど高価であるが、少なくとも理論的には
、より強い磁石の付加的なコストを相殺するのに十分な厚さの磁性ターゲットの
スパッタに適したマグネトロンが得られる。しかしながら、残念なことに、磁性
ターゲット材料と共に使用するのに設計されたスパッタ用マグネトロンには、更
に克服が困難であることが判明した別の問題がある。即ち、プラズマの厳しい磁
気狭窄(magnetic pinching)である。
この磁気狭窄現象は、磁気トンネルの領域内の電子に作用する力を概略的に描
いた第1図を参照することによって、最も良く理解できよう。ある従来技術のマ
グネトロンでは、磁石構造体Mは磁界を生成し、これは、複数の磁束線Fによっ
て特徴付けることができ、そしてその磁束線の1本を第1図に示す。第1図に示
す磁束線Fは、ターゲットの前面のすぐ近くの磁界形状を表わしている。点1及
び点3は、トンネルの中央領域における、中心軸Cの左側及び右側の点である。
点2は、トンネルの中心軸C上の点であり、磁束線Fと一致している。トンネル
磁界内のターゲット位置は、点1、点2及び点3の各々がスパッタ・プロセスの
間のある時に、ターゲットの前面と一致するような位置である。公知のように、
磁界Fの曲率は、点1及び点3に位置する電子に、横方向の力F1を受けさせ、
これがそれらをトンネルの中心軸Cに向かって押すようになっている。点2にお
いて磁界は垂直方向成分(即ち極片の平面に直交する成分)を有しないので、点
2では電子は横方向力を受けない。プラズマ内の電子に対する横方向力F1の作
用は、磁気トンネルの中心軸Cに向かってそれらを強制又は狭窄(pinch)する。
スパッタによって生ずる侵食(erosion)はグロー放電プラズマ内の電子密度に関
係するので、この狭窄現象の効果は、磁気トンネルの中心軸Cに沿った侵食速度
を速めることになる。
この狭窄現象はアーチ状磁気トンネルを有するプレーナ型マグネトロンの全て
のタイプで発生するが、第2(a)図〜第2(d)図において最も良く判るよう
に、磁性ターゲット材料をスパッタする場合、問題は更に悪化する。磁性ターゲ
ットTをスパッタするとき、磁石構造体Mが生成する磁束(第2(a)〜(d)
図に定性的に示してある)の大部分は、磁性ターゲットを通して分路されること
になる。しかしながら、磁界が十分強力であれば、十分な磁束がターゲットの前
面上に残り、アーチ状のプラズマ閉込め磁気トンネルを生成する。先に説明した
ように、アーチ状磁気トンネルから生じる狭窄力は、最初に電子をトンネルの中
央に向かって狭窄するので、その箇所において侵食速度が最大となる。しかしな
がら、ターゲットが侵食を受けるに連れて、その横断面積が減少するので、ター
ゲットから付加的な磁束を追いやることになる。この過剰磁束は常に最低エネル
ギ経路(即ち、抵抗が最も少ない経路)を取るので、通常、侵食領域内のターゲ
ット
表面に存在し、そしてターゲット材料が再びその過剰磁束を収容する点まで横断
面積が増大するとすぐに、ターゲットに再び入る。ターゲットの前面上でアーチ
状になった解放されたこの磁束は、グロー放電プラズマ内の電子に、更に大きな
狭窄力を受けさせ、第2(c)図において最も良く判るように、トンネルの中央
に沿って電子密度従って侵食速度を上昇させる。更にターゲットの侵食が進むと
、より多くの磁束が解放され、その結果更に、狭窄力が強まり、電子密度が高ま
り、侵食速度も上昇する。この結果、第2(d)図において最も良く判るように
、ターゲット内に深いスパイク状の侵食溝ができる。
侵食溝の底がターゲットの背面に到達する時までにスパッタによって除去され
るターゲット材料の割合を、ターゲット利用度と呼ぶが、これは、殆どの磁性タ
ーゲットについて、せいぜい5%ないし15%の範囲と、非常に低くなっている
。殆どのターゲット材料は比較的高価な傾向があるため、そのような低ターゲッ
ト利用度は不経済であり、スパッタ・プロセスに関連したコストを上昇させるこ
とになる。例えば、使用済みのターゲットをリサイクルし再加工して新たなター
ゲットにすることは可能ではあるが、ターゲットを交換し再加工を行うのに費や
す時間はかなりなものになる可能性があり、いずれにせよ、スパッタ処理全体の
コストの上昇を招く。
この問題に対する別の解決策は、ターゲット上部及び周囲に外部磁石を配置し
て、上記プラズマ閉込め磁気トンネルを生成することである。しかしながら、こ
のようなシステムは上述の狭窄効果を受けやすく、かなりの複雑さ従ってコスト
をマグネトロン構造体に付加することになる。更に、適切にシールドしなければ
、その追加した磁石自体がスパッタされ、被膜を汚染するおそれがある。
更に別の手法は、ターゲット材料を飽和させるのに必要な磁界強度を低くする
ことである。磁性材料をそのキュリー温度以上に熱するとその強磁性を失うので
、ターゲット材料をそのキュリー温度以上に加熱することによって、強磁性ター
ゲットのマグネトロン・スパッタリングはより簡単に実現することができる。こ
の手法の欠点は、ターゲットの温度を監視する装置、並びにその所要のキュリー
温度を達成しかつ維持するためのシステムが必要なことである。また、強磁性材
料の殆どはキュリー温度が、400℃ないし1100℃の範囲と非常に高いので
、か
かる温度までターゲット材料を加熱すると、被覆対象の基板、又は真空システム
のその他の部分に損傷を与える可能性がある。別の欠点は、殆どの高性能の永久
磁石が、約150℃ないし200℃以上の温度で、その磁性特性を喪失するので
、冷却システムを設けて、永久磁石をその臨界温度より低く維持しなければなら
ないことである。
更にその他の変更形態のものも開発されたが、いずれも問題がない訳ではない
。例えば、米国特許第4,652,358号においてデピッシュ外(Deppisch et al)は
、ターゲットと磁石構造体との間に位置付けた特別構造の床の上に、強磁性ター
ゲットを配置することによって、ターゲットの厚さに関する問題を解決しようと
した。その床の殆どは非磁性材料から作られているので、その磁石システムの極
の領域に特殊な強磁性挿入体を含ませて、磁気結合効率を改善し、これによって
、ターゲットを飽和させるのに必要な磁界密度を低下させている。しかしながら
、この床は製造が難しくしかも高価であり、その好適実施例では、電子ビーム溶
接によって強磁性プラグを非磁性床に接合することによって、機械的応力を最少
に押さえ、しかも気密かつ液密接合を形成することを要する。更に、デピッシュ
外は狭窄問題には対処しておらず、その装置のターゲット利用度は低いままであ
る。
アベ外(Abe et al)に発行された米国特許第4,401,539号は、永久磁石と電磁
石との組み合わせを用いて、プラズマ閉込め磁気トンネルの生成に必要な強力な
漏れ磁束密度をターゲット表面上に発生する、磁性ターゲット材料スパッタ方法
及び装置を開示している。アベ外は、電磁石を使ってスパッタ・プロセスの間磁
界の強度及び構成を変化させることによって、狭窄問題を最少に抑えようとした
。しかし、残念なことに、このコンピュータ制御型電磁石構造体は、製造するに
は複雑でしかも高価である。
ボイス外(Boys et al)は、米国特許第4,500,409号において、電磁石のみを
用いてターゲット表面上にプラズマ閉込め磁界を生成する、高い強磁性のターゲ
ットをスパッタするためのプレーナ型マグネトロンを開示している。また、ボイ
ス外は、電磁石によって生成する磁界の強度を変化させることによって、狭窄問
題に対処している。しかしながら、アベ特許において開示されたマグネトロンと
同様に、ボイス外によって開示されたマグネトロンも、製造するには比較的複雑
で
しかも高価である。更に、殆どのマグネトロン陰極構造体に関連する設計上の制
約のために、電磁石の大きさ、並びにその結果として得られる磁界が制限される
傾向があるため、比較的薄いターゲットの使用が必要となる。
モリソン(Morrison)に発行された米国特許第4,391,697号及び第4,431,505号
は、強磁性ターゲットをスパッタするための、更に別のタイプのマグネトロン・
スパッタリング装置を開示している。モリソンの装置は、二片から成っていて、
そしてそれら二片の間にギャップを有する二片式ターゲットを利用する。モリソ
ンによれば、印加した磁界の殆どはそれらターゲット片間のギャップに集中する
が、ターゲットの表面上に弱いプラズマ捕捉磁界を形成するには十分な過剰磁束
が残る。そのギャップはプラズマ源として作用し、そしてそのプラズマは次にそ
の捕捉磁界に移動して、ターゲットのスパッタを行う。この場合の欠点は、モリ
ソンの装置で必要な二片式ターゲットが比較的複雑なことである。また、モリソ
ンは、ギャップ床(gap floor)がスパッタを起こすことがあるので、被膜を汚染
する可能性があり、更に悪いことに、磁石構造体に至るまで侵食する可能性もあ
る、ということを認めている。しかしながら、モリソンは、強磁性材料をスパッ
タするために支払うべき代償として、これらの欠点を受け入れているように思わ
れる。
最後に、米国特許第4,572,776号においてアイチャート外(Aichert et al)は
、強磁性磁極シュー構造体を使ってターゲット表面上にプラズマ閉込めトンネル
を生成する際の補助とすることにより、磁性ターゲットのスパッタを達成しよう
と試みた。しかし、その強磁性磁極シュー構造体の各部分もスパッタを起こすの
で、ターゲットと同一材料で作る必要がある。そうしなければ、被膜を汚染する
危険性がある。しかしながら、磁極シューをターゲットと同一材料で作ると、コ
スト上の利点が全て失われ、従ってアイチャートの装置は、単に二片式ターゲッ
トを有する別のマグネトロンに過ぎなくなってしまう。また、磁極シュー及びタ
ーゲット構造体は、互いに対して、ある詳細に規定した間隔及び許容差で配置し
なければならないが、これをスパッタ処理の間保持するのは困難となる。
要約すると、前述の各装置はある程度の改善を示すものの、通常、電力効率の
低下、ターゲット置換間隔の短縮化という犠牲を払うものであり、あるいは二片
式ターゲット構成又は別個のあるいは付加的な電磁コイルの追加を、電磁石を制
御する装置と共に必要とする。スパッタリング装置全体のコストを上昇させるこ
との他に、多数の部品をスパッタ室内に加入した場合、適切な予防策を講じて付
加部品自体がスパッタを起こさないことを保証しないと、スパッタされた膜が望
ましくない不純物で汚染される可能性がある。更に、上記引用した従来技術には
、磁気狭窄問題に対する有効な解決策を提供するものは殆どない。
従って、磁気狭窄問題に起因する重大な欠点のない、強磁性ターゲットのスパ
ッタが可能なプレーナ型マグネトロンに対して、引き続きニーズがある。このよ
うなマグネトロンはまた、高いターゲット利用率の実現を可能とすべきであるが
、複雑なターゲット構成、電磁石構造体、また更に悪い場合、電磁石と永久磁石
との双方を含む磁石構造体に頼る必要性がないものであるべきである。また、か
かる永久磁石マグネトロンは、比較的厚い強磁性ターゲットを、そのキュリー温
度に加熱しなくても、スパッタが可能であるべきである。
発明の開示
従って、本発明の一般的な目的は、磁性ターゲットをスパッタするためのマグ
ネトロン・スパッタ被覆源を提供することである。
本発明の別の目的は、ターゲット利用度を高めた、マグネトロン・スパッタ被
覆源を提供することである。
本発明の更に別の目的は、磁性ターゲット材料をそのキュリー温度より低い温
度でスパッタすることである。
本発明の更に別の目的は、磁性ターゲット材料に伴うグロー放電の磁気狭窄を
減少させることである。
本発明の更に別の目的は、グロー放電プラズマの磁気狭窄を減少させるために
電磁石を必要としない、マグネトロン・スパッタリング源を提供することである
。
本発明の更に他の目的は、単一片の平板状磁性ターゲットをスパッタするため
の、マグネトロン・スパッタ被覆源を提供することである。
本発明の更に他の目的、利点、及び新規な特徴は、一部以下の説明の中で記述
するが、部分的には、以下の説明を検討すれば当業者には明白となろうし、また
本発明の実施によって知ることができよう。本発明の目的及び利点は、特に添付
の請求の範囲において指摘した手段及び組み合わせによって、実現し達成するこ
とができよう。
上述の及びその他の目的を達成するため、そして本発明の目的によれば、ここ
に具現化し広範に記載するように、本発明によるスパッタ用磁石構造体は、ター
ゲットの背面に隣接して配置し、前記ターゲットの前面上にプラズマ閉込め磁気
トンネルを生成するのに十分な強度を有する磁界を発生する磁石構造体を含むよ
うにできる。ターゲットの背面からある離間距離の所に配置した磁気分路(magne
tic shunt)が、ターゲットの侵食によって解放された過剰磁束の殆どに対し、代
替経路を与える。この代替経路は、ターゲットの前面から出てスパッタ領域内へ
進入しそして再度ターゲットの前面に入る経路よりも、磁気抵抗が低いことを特
徴とする。
本発明による磁性ターゲット材料のスパッタ方法は、スパッタ室内に低圧スパ
ッタ雰囲気を確立するステップと、前記スパッタ室内に配置した磁性ターゲット
上のスパッタ領域上にグロー放電を生成するステップと、前記ターゲットの前面
上にプラズマ閉込め磁気トンネルを生成するのに十分な強度を有する磁界を発生
するステップと、及びターゲットの前面から出てスパッタ領域内へ進入しそして
再び前記ターゲットの前面に入る経路よりも磁気抵抗が低いことを特徴とする代
替経路を通して、前記ターゲットの侵食によって解放される過剰磁束を分路する
ステップと、を含む。
図面の簡単な説明
添付図面は、この中に組み入れてありそして明細書の一部を成すものであるが
、本発明の好適実施例を例示し、そして記述と共に本発明の原理を説明するのに
供するものである。この図面において、
第1図は、磁気トンネルのアーチ状磁束線と、種々の点において電子に作用す
る力と、を定性的に示す、従来技術のスパッタ用マグネトロンの概略透視図であ
る。
第2(a)図〜第2(d)図は、磁気トンネルの構成と、磁気狭窄現象に起因
する侵食パターンとを定性的に示す、磁性ターゲットをスパッタするための従来
技術のスパッタ用マグネトロンの概略正横断面図である。
第3図は、硬磁性材料及び軟磁性材料に対する、磁気ヒステリシス曲線の初期
分岐の定性的グラフ表現である。
第4図は、矩形状ターゲットをスパッタするための、本発明によるスパッタ用
磁石構造体の第1実施例の平面図であり、ターゲットの一部を切り欠いて、磁石
及び磁気分路の位置及び方位を示す図である。
第5図は、本発明によるスパッタ用磁石構造体の、第4図の線5−5に沿った
概略正横断面図であり、磁石構造体及び磁気分路に対するターゲットの位置を示
す。
第6図は、第4図及び第5図に示した、スパッタ用磁石構造体の第1実施例の
正横断面図であり、その磁界のコンピュータで生成したプロットを含む図である
。
第7図は、磁石及びターゲットの構造体の正横断面図であり、その磁界のコン
ピュータで生成したプロットを含む図である。
第8図は、磁気分路を付加した場合の、第7図に示した磁石及びターゲットの
構造体の正横断面図である。
第9図は、分路の位置を若干再配置して磁界構成の最適化を図った、第8図に
示したマグネトロン構造体の正横断面図である。
第10図は、ターゲットを除去して磁石及び磁気分路の位置及び方位を示す、
円形ターゲットをスパッタするためのスパッタ用磁石構造体の第2実施例の平面
図である。
第11図は、磁石構造体及び磁気分路に対するターゲットの位置を示す、第1
0図の線11−11に沿ったスパッタ用磁石構造体の概略正横断面図である。
第12図は、コンピュータ生成の磁界プロットを示す、第10図及び第11図
に示したタイプの円形磁石及びターゲットの構造体の正横断面図である。
第13図は、磁気分路を付加した場合の、第12図に示した磁石構造体の正横
断面図である。
第14図は、分路の幅及び位置を若干変更して、磁界構成の最適化を図った、
第13図に示した磁石構造体の正横断面図である。
第15図は、幅が広い矩形ターゲット又は大径の円形ターゲットをスパッタす
るためのスパッタ用磁石構造体の第3実施例の正横断面図である。
第16図は、磁気的に軟性の矩形ターゲットをスパッタするための二片式分路
を有する、本発明によるスパッタ用磁石構造体の第4実施例の平面図である。
第17図は、磁石構造体及び二片式磁気分路に対するターゲットの位置を示す
、第16図の線17−17に沿った、本発明によるスパッタ用磁石構造体の概略
正横断面図である。
第18図は、第16図及び第17図に示した磁石構造体によって生成される磁
界構成のコンピュータ生成プロットを示す正横断面図である。
第19図は、二片式分路を再構成及び再配置して、磁界構成の最適化を図った
、第18図に示した磁石構造体の正横断面図である。
第20図は、幅広の矩形ターゲット又は大径の円形ターゲットをスパッタする
ための、二片式分路を有するスパッタ用磁石構造体の別の実施例の正横断面図で
ある。
発明を実施する最良の形態
本発明によるスパッタ用磁石構造体10は、平らな矩形の強磁性ターゲット1
4の前面12上に閉ループ磁気トンネル24を発生するように構成したものとし
て、第4図、第5図、及び第6図において最も良く判る。磁気トンネル24は、
矩形ターゲット14の殆どの全長に沿って平行に離間した関係で延びる直線状の
2つの部分を含み、これらは半円状端部によって各終端で接合することにより、
平坦な楕円形又はレーストラックの形状の連続磁気トンネルを形成する。磁石構
造体10はこれと同様な形状であり、陰極構造体26内に取り付けた平坦楕円状
ベース極片16を含む。ベース極片16の各半円端部17は、半円端部17の半
径の中心、即ち、対称軸28に配置した中央磁石20を含み、これは、そのN極
がターゲット14の背面22に隣接するように配向してある。複数の外側磁石2
1はこの中央磁石20を包囲し、そして反対の磁気方位を有する。即ち、それら
のS極がターゲット14の背面22に隣接する。ベース極片16の細長い矩形中
央部16’の構成は、各半円端部の構成と同様であり、唯一の相違は、これらの
磁石は円形構成ではなく直線構成で配置してあることである。即ち、中央部16
’は、円柱状の各中央磁石20間に延びる、細長い中央磁石20’を含む。同様
に、第4図において最も良く判るように、1対の細長い外側磁石21’が各半円
端部内の外側磁石21間に延びている。平坦な楕円形の磁気分路18は、中央磁
石20及び20’と外側磁石21及び21’との間に配置してあり、これは、強
磁性ターゲット14の背面22に近接している。
中央磁石20及び20’、外側磁石21及び21’、ベース極片16、並びに
分路18は、全て磁石構造体10を形成するものであり、そして第6図に示す、
複数の磁束線32で表わすことができる、レーストラック形状の磁界を生成する
。尚、第6図は一定の比率で描いたものである。実際、第6図〜第9図、第12
図〜第14図、及び第18図〜第20図は、全て一定の比率で描いたものであり
、その中に示す磁束線は、当業者には容易に商業的に入手可能な、公知の種類の
有限要素コンピュータ・モデリング・プログラムで生成した。これらの図面では
、磁束線間の間隔は、磁束密度、即ち、磁界強度に比例している。線間隔が狭い
ほど、磁界は強い。簡単にするため、磁石及び極片内の磁束線は示していない。
磁束線の殆どは、ターゲット14を通して分路されるが、第6図において最も
良く判るように、ターゲット14の前面12上には、プラズマ閉込め磁気トンネ
ル24を生成するのに十分な磁束が残っている。プラズマ閉込め磁気トンネル2
4は、ターゲット14の前面に隣接したスパッタ領域を定める。また、磁束の一
部分は、分路18を通過するが、分路18を磁気的に飽和させることはない。
新しいターゲット14をスパッタする際、プラズマ閉込め磁気トンネル24は
、グロー放電(図示せず)を、実質的にスパッタ領域30の区域に閉じ込めるこ
とによって、マグネトロン効果を達成すると共に、スパッタ効率の最大化を図る
。強磁性ターゲット14の前面12が侵食するに連れ、その横断面積は徐々に減
少し、ターゲットを通して分路していた磁束のあるものに、代替の経路を見い出
させることになる。従来技術の装置では、かかる過剰磁束はターゲットの前面か
ら出て来て、スパッタ領域内にループし、そして横断面積が再び十分大きくなっ
て過剰磁束を収容できるようになると再びターゲット板に入るという傾向があっ
た。上述のように、過剰磁束がスパッタ領域内に漏れると、その結果厳しい磁気
狭窄
力が生じ、これは、最終的に、非常に狭いスパイク状の侵食溝を生じさせ、この
侵食溝が、ターゲット材料が10%もスパッタされない内に、早くもターゲット
の背面に到達してしまう。
従来技術とは対照的に、本発明の磁気分路18は、ターゲット侵食によって解
放される過剰磁束の殆どに対して、低エネルギの通路を提供する。従って、本発
明では、徐々に侵食が進むターゲットから解放される過剰磁束は、ターゲットの
背面から出て来て、分路18を通過し、そしてターゲット14の横断面積が再び
その過剰磁束を収容するのに十分になると、ターゲット材料に再び入る。過剰磁
束がスパッタ領域30中へ出るのを防止することによって、本発明は、スパッタ
領域における磁気狭窄力を大幅に低減し、これによってターゲット利用度を大幅
に高めるものである。
本発明による磁石構造体10の別の重要な利点は、ターゲット材料の温度をそ
のキュリー温度以上に上昇させる必要なく、比較的厚いターゲットをスパッタす
るのに使用できる、ということである。より厚いターゲットをスパッタできるこ
の能力により、ある所与のターゲットに対する生産稼働時間を長くし、ターゲッ
トのリサイクル及びターゲットの置換に伴うダウンタイムを短縮することができ
る。更にまた、本発明は単純な静磁界を用いてターゲット利用度の向上を図って
いるので、ターゲットに対して磁界を移動させるために複雑な機械的又は電気機
械的装置(これには、それらに関連するあらゆる欠点が伴う)を必要としない。
結果的に、本発明によるスパッタ用磁石構造体全体に不活性絶縁材料を被覆する
ことにより、水又はその他の冷却剤にそれを浸漬する場合に、磁石構造体を腐食
から防止することができる。
磁気分路は、非磁性ターゲットをスパッタするために、あるタイプのプレーナ
型マグネトロンで用いられているが、これらの中で磁性ターゲット材料と共に用
いて成功したものはない。その理由は、疑いもなく、それらの装置に関連する教
示事項は、磁性ターゲット材料のスパッタに伴う特殊な問題には対応できないか
らである。
例えば、ウェルティ(Welty)は、米国特許第4,892,633号において、ターゲッ
トの背面に隣接配置した磁気分路を用いて、非磁性ターゲット材料に対する磁気
狭窄効果を減少させる、ということを教示している。ウェルティは、彼の分路を
用いて、プラズマ閉込めトンネルの中央付近の磁界内に屈曲点即ち「窪み」を生
成する。この窪みの目的は、プラズマ内の電子をトンネルの中央から追い出すこ
とによって、プラズマ内の電子密度の均一性を高め、より均一な侵食速度を得る
ことである。しかしながら、ウェルティの磁界を磁性ターゲットと共に用いると
、逆の結果が生じる。即ち、ウェルティによる窪みのある磁界のために、窪みの
いずれの側にも、2本の深いスパイク状侵食溝が形成され、それ以外の所にはス
パッタが殆ど又は全く生じない。磁性ターゲットの侵食によって解放される過剰
磁束はその窪みの各側に隣接する凸状磁界領域に集中する傾向があり、勿論、上
述のように、これが狭窄力を拡大するので、ウェルティの装置は磁性ターゲット
材料とでは機能しない。しかしながら、非磁性ターゲットの侵食によって解放さ
れる過剰磁束はないので、ウェルティには、解放される磁束が彼の発明の挙動に
与える影響を考慮する必要がなかった。
本発明の種々の好適実施例の詳細な説明に進む前に、本発明はあらゆるタイプ
の強磁性ターゲット材料をスパッタするのにも使用可能であるが、全ての強磁性
材料が同じ磁気特性を有する訳ではなく、従ってここに示し説明する種々の実施
例は、使用しようとする強磁性材料のタイプに応じて、細かい構成上の変更を含
み得る、ということを指摘しておくべきであろう。例えば、比較的「硬性」の強
磁性材料であるコバルト合金をスパッタするのに用いる一好適実施例は、一片の
磁気分路の使用を含む。しかしながら、鉄やニッケル、あるいはこれらの合金の
ような、より軟性の強磁性ターゲット材料と共に用いることを意図した他の実施
例は、二片の分割形分路を用いる。
強磁性材料の相対的な硬度又は軟度は、それを磁化させ得る容易性を示すもの
である。鉄のような軟磁性材料は容易に磁化する(即ち、飽和する)が、コバル
トのようにより硬性の材料は、磁化もより困難になる。言い換えれば、材料を磁
気的に飽和させるために比較的大きな磁界の印加が必要であるなら、その材料は
磁気的に硬性と考えられる。逆に、材料が小さな磁界の印加の影響で容易に磁気
的に飽和する場合、その材料は磁気的に軟性という訳である。強磁性材料の相対
的な硬度又は軟度は、その磁気ヒステリシス曲線の初期分岐の傾きによっても判
定することができる。第3図を参照されたい。コバルトのような硬磁性材料のヒ
ステリシス曲線の初期分岐97は、通常、約0.06gauss-m/Aの範囲の比較的平
坦な傾きを有するが、これに対して、鉄のような軟磁性材料のヒステリシス曲線
99の傾きは、約7gauss-m/Aの範囲である。ある特定の材料のヒステリシス曲
線の傾きは、当該材料の特定の組成に依存して、10倍以上変動する可能性があ
るが、これら2つのタイプの磁性材料の初期ヒステリシス曲線の傾きは、通常、
大きさが約2桁(即ち、約100倍)も異なる。硬性の強磁性材料と軟性の強磁
性材料との間のこれらの差は、本発明の目的を達成するのに必要な磁石構造や分
路構造体の構成に、相当な影響を与え得るものである。これについては、以下で
より詳細に説明する。
更に注記すべきは、磁石及び分路構造体は、特定のターゲット形状及び所望の
侵食パターンに依存して、異なった構成を取るようにできる、ということである
。例えば、第4図〜第9図及び第16図〜第20図に示す各実施例は、矩形ター
ゲットをスパッタするために特に構成したので、磁石及び分路構造体は、矩形タ
ーゲットの全長の殆どに沿って延びる、平行で離間した関係の2つの直線部分を
有するプラズマ閉込めトンネルを生成するような構成としている。それら直線部
分は、各端部において半円状部分によって接合して、平坦な楕円又はレーストラ
ック形状の連続磁気トンネルを形成する。一方、このマグネトロンを用いて円形
ターゲットをスパッタする場合、第10図〜第14図、及び第15図に示す各実
施例のように、磁石及び分路構造体は、円形の環状のプラズマ閉込め磁気トンネ
ルを生成するような構成とする。
最後に、真空室、陰極/ターゲットを取り付けかつ冷却するための装置、及び
陰極/ターゲットを電圧源に電気的に接続するための装置等のような、プレーナ
型マグネトロン・スパッタリング装置を構築し動作させるのに必要なその他の構
成部品の詳細は、当業者には公知であるので、かかる他の構成部品については、
ここでは図示せずまた説明もしない。磁石構造体の望ましくないスパッタを防止
するため、またアーク放電を防止するために、適切な接地シールドで磁石構造体
を包囲する必要があることも、当業者は認めよう。
次に、第4図〜第6図を参照する。スパッタ用磁石構造体10は、具体的には
、
約12.7cm(5インチ)の平均幅44、及び約0.80cm(0.31インチ
)の平均厚42を有する、コバルト合金(比較的硬性の磁性材料)の板状矩形タ
ーゲットをスパッタするため、レーストラック状磁気トンネル24を発生する構
成としている。その矩形ターゲットの長さは、本発明の目的を達成するに当たっ
て、あるとしても、わずかな影響しかなく、従って矩形ターゲット長は、用途の
特定の要件に応じて選択可能であることに注意されたい。本磁石構造体10は、
矩形ターゲットをスパッタするために特に構成したものであるので、ベース極片
16は平坦な楕円形となっており、そして磁気損を最少に抑えるために、パーマ
ロイ、鉄、又はニッケルのような透磁性材料で構築してある。第4図において最
も良く判るように、個々の磁石20,20’,21及び21’は、同様に平坦な
楕円形状で、しかもベース極片16上に直接配置してある。即ち、各円柱状中央
磁石20を、各半円端部17の半径中心、即ち、対称軸28と同心で、ベース極
片16上に取り付ける。各円柱状中央磁石20は、そのN極がターゲット14の
背面22に直接隣接するように配向してある。細長い中央磁石20’は、各円柱
状中央磁石20間に延び、そして各対称軸28を接続する縦軸28’と位置合わ
せしてある。ベース極片16の外周には、複数の外側磁石21及び21’を取り
付けてあり、これらは中央磁石20及び20’とは反対の磁気方位を有する。即
ち、第4図及び第5図において最も良く判るように、磁石21及び21’のS極
がターゲット14の背面に直接隣接する。この好適実施例では、各円柱状中央磁
石20は高さが9.5mm、直径が25mmであり、一方細長い中央磁石20は
高さが9.5mm、幅が13mm、そして2つの円柱状磁石20間を延在するよ
うな十分な長さとしてある。外側磁石21は、各々、高さが9.5mm、幅が8
mmであり、2つの細長い外側磁石21’は、各々、高さが9.5mm、幅が8
mmで、外側磁石21の各半円端部17間を延在するのに十分な長さとしてある
。また、これの代替法として、当業者には明白であろうが、これらよりも小さい
複数の磁石の端部同士を突き合せて、単一の細長い中央磁石20’又は単一の細
長い外側磁石21’の各々の代わりに用いることもできる。これらの磁石は全て
、希土類ネオジム鉄硼素(NdFeB)であり、少なくとも35メガガウス−エルステ
ッド(MGOe)の磁界エネルギ積を有する。しかしながら、サマリウム・コバルト(S
mCo)磁石の
ような、他のタイプの希土類磁石と置き換えてもよく、同様の効力が得られる。
また、磁石の相対的なN−S方位は任意であり、磁石の各N−S方位が逆であっ
ても、本発明が同様に機能することは、当業者には判るであろう。
平坦な楕円形又はレーストラック状の磁気分路18は、幅34及び厚さ40を
有し、第4図及び第5図において最も良く判るように、中央磁石20及び20’
と外側磁石21及び21’との間に配してある。分路18とターゲット14の背
面22との間にギャップ36が存在するように、分路18をターゲット14の背
面22に隣接配置する。この磁気分路18の目的は、過剰磁束のための低エネル
ギ通路を提供し、これによって磁束がスパッタ領域内に侵入するのを防止するこ
とであるので、ギャップ36の各寸法、及び分路の幅34及び厚さ40は、本発
明の目的を実現するには重要である。以下の説明は、これらのパラメータを決め
る方法に関するものである。
本好適実施例では、磁石20,20’,21及び21’で生成する磁束の磁気
結合は、これら磁石をベース極片16上に直接配置することによって実現する。
磁束は、磁石20,20’,21及び21’、ベース極片16、ターゲット14
、及び分路18から成る閉磁気回路に導入される。当該分野では公知のように、
ターゲットを磁気的に飽和させそしてターゲット14の前面12上にプラズマ閉
込め磁気トンネル24を生成するには、以下の条件を満足しなければならない。
ΦL > Mst (1)
ここで、ΦLは、磁石構造体が生成する単位長さ当たりの磁束
Msは、ターゲット材料の飽和磁化
tは、ターゲット厚
である。
従って、所与の磁界強度及び所与のターゲット材料に対して、ターゲット14
の厚さ42は、ターゲット材料の磁気的な飽和を確保する、重要なパラメータで
ある。
上述のように、マグネトロン効果を達成するには、ターゲット表面に平行な方
向に少なくとも80ないし100ガウスの磁界強度が必要となる。従って、ター
ゲットの前面上に生成される磁界強度が、ターゲットの前面上にグロー放電プラ
ズマを閉じ込めるのに十分であることを確実にするために、十分な容量の磁石構
造体を設ける必要がある。コバルトやコバルト合金のような比較的硬性の磁性材
料については、ほぼ上述の磁石構造体で、プラズマをそのように閉じ込めるのに
は十分である。しかしながら、鉄やニッケル、あるいはそれらの合金のような軟
磁性材料は、磁石構造によって生成される磁界の大部分を分路する傾向があり、
またある条件の下では磁気的に飽和することもあり得るので、ターゲットの前面
上の磁界が確実にプラズマを閉じ込めるのに十分な力を有するようにするために
は、通常、より強い磁石又はより薄いターゲットに頼る必要がある。これについ
ては、以下でより詳細に説明する。
磁性材料が硬性か軟性かには拘わらず、磁気回路は、損失や結合非効率性を最
少に抑え、従って許容可能なターゲット厚を最大とするように配置する必要があ
る。例えば、かかる磁気損は、例えば、パーマロイ、軟鉄、又はニッケルのよう
な透磁率が高い材料をベース極片16に用い、かつベース極片16に適当な横断
面積を与えることによって、最少に抑えることができる。これと同時に十分な容
量の磁石構造を与えれば(即ち、式1を満足する)、ターゲット前方の過剰磁束
は、マグネトロン効果を達成するのに十分な強度を有するプラズマ閉込め磁気ト
ンネルを形成する。
狭窄効果を最少に抑えるために、磁気分路18は、スパッタ処理全体の間、磁
気的に不飽和でなければならない。即ち、分路18は、ターゲットから解放され
ることが予測される過剰磁束の全て又はほぼ全てを吸収可能でなければならない
。通常、ターゲット14のほぼ全厚を侵食することが望ましいので、磁気分路1
8は、ターゲット14を通る磁束の全てを吸収可能であるべきである。即ち、
Mstargetttarget≒Msshunttshunt (2)
分路18の厚さ40を最少にするには、通常、軟鉄のような高い磁気飽和を有
する材料で分路を作成する。その場合、分路の飽和磁化は既知となり、分路18
の厚さは、次の式で近似的に与えられる。
tshunt≒(Mstargetttarget)/Msshunt (3)
かかる材料を用いるとき、ターゲット14から解放されると予測される磁束全
てを、分路が確実に吸収可能であるようにするには、分路は約0.3cm(0.1
2インチ)の範囲の厚さで十分である。分路18はターゲット14の背面22に
比較的接近して配置しなければならないが、背面に接触してはならない。コバル
トやその合金のような比較的硬性の磁性材料をスパッタするときは、ギャップ3
6は約0.025cmないし0.200cm(0.010〜0.080インチ)の間
とすべきであり、そして好ましいギャップ幅36は約0.005cm(0.020
インチ)である、ということが判っている。しかしながら、以下で説明するが、
軟磁性材料をスパッタするときは、ギャップ36をより大きくする必要がある場
合もある。
分路幅のギャップ幅に対する比率も、本発明の目的を達成するためには重要で
ある。分路18の幅34をギャップ36の幅の約10ないし90倍の間にすると
、良い結果を得ることができ、分路の幅をギャップの幅の約30ないし40倍と
すると、最良の結果が得られる。
本発明の目的は、以上に図示しかつ説明した磁石構造及び分路を設けることに
よって達成可能であるが、多くの商業的に入手可能なコンピュータ・モデリング
・プログラムの1つを用いて、その提案した構成を洗練させることにより、この
マグネトロン構造体を最適化できることが多い。設計を最適化する際の第1段階
は、磁石構造体とスパッタ対象のターゲット材料とを選択することである。次に
、コンピュータ・プログラムを用いて、その結果として得られる磁界をプロット
する。第7図を参照されたい。最良の結果のためには、磁界は「均衡」が取れて
いなければならない。即ち、磁気トンネルの中心軸Cは、各中央磁石20及び2
0’と外側磁石21及び21’とのほぼ中間に位置しなければならない。また、
第7図において最も良く判るように、磁界は、中心軸Cの各側で適度に対称であ
るべきである。磁石及びターゲット構造体が初期状態でかかる磁界構成を生成し
ない場合、各磁石の相対的なサイズ及び/又は強度及び/又は位置を変更して、
ほぼ第7図に示す磁界構成が生成されるまで、新たな構成をリモデリングすべき
である。
磁石及びターゲット構造体の均衡が取れた後、所望の厚さ40及び幅34を有
する磁気分路(第4図)をそのモデルに加えて、磁界構成を再度計算する。第8
図を参照されたい。最良の結果のためには、ターゲット14の前面12にほぼ平
行な磁束線によって規定される領域を、可能な限り大きくしなければならない。
通常、使用可能なターゲット表面(即ち、ターゲットの対称軸28’から外側磁
石21’までの部分)の約30%ないし50%の範囲にわたって、磁束線がター
ゲットの前面にほぼ平行となるように、分路18を位置付けることが可能であろ
う。第8図に示す実施例では、磁束線がターゲットの前面にほぼ平行となる領域
を最大にするためには、分路18を約2mm(0.08インチ)右に、そして約
0.5mm(0.2インチ)ターゲット14の背面22に近付くように動かすこと
が必要であった。結果的に得られた形状を第9図に示す。
先に述べたが、ウェルティの教示のように、磁界内のどのような屈曲点又は窪
みも避けなければならない。磁束線は可能な限り平坦で、しかもターゲットの前
面にほぼ平行でなければならない。磁界内に窪み又は湾曲があると、深いスパイ
ク状侵食溝ができ、それ以外の所にはスパッタは殆ど又は全く生じない。
コバルトやその合金のような硬性の磁性材料をスパッタする場合、分路18は
、分路に隣接する領域50において、ターゲット本体内の磁界強度を低下させる
効果も有するが、この低下も本発明を達成する上で重要である。第9図に示す実
施例では、領域50内の磁界強度は、領域52及び54内の磁界強度の約40%
ないし60%に過ぎない。
一例として、上述の方法及び式を用いて、ターゲット14及び磁気分路18に
対して、以下の寸法パラメータを得た。
ターゲット材料 コバルト合金
ターゲット材料の飽和磁化 〜6,000gauss/cm2
ターゲット幅 12.7cm
ターゲット厚 0.80cm
分路の材料 軟鉄
分路の飽和磁化 〜21,000gauss/cm2
分路幅 2.0cm
分路厚 0.318cm
分路とターゲット
との間のギャップ 0.050cm
本発明によるスパッタ用磁石構造体は、矩形とは異なる、円形ターゲットと共
に用いるように構成することも可能である。ここで第10図及び第11図を参照
する。スパッタ用磁石構造体110は、平均直径144が約12.7cm(5イ
ンチ)、及び平均厚142が約0.60cm(0.25インチ)のコバルト合金の
、板状円形ターゲットをスパッタするための環状磁気トンネルを発生するよう特
に構造してある。磁石構造体110は具体的に円形ターゲットをスパッタする構
造としてあり、ベース極片116も円形であり、パーマロイ、鉄、又はニッケル
のような透磁性材料で作ることによって、磁気損を最少に抑えている。第10図
において最も良く判るように、個々の磁石120及び121も同様に、円形に、
ベース極片116上に直接配置してある。第1実施例10の半円端部17の場合
と同様、ターゲット114の対称軸128と同心で、円柱状中央磁石120をベ
ース極片116の中心に取り付け、そしてそのN極がターゲット114の背面1
12に直接隣接するように配向する。複数の外側磁石121をベース極片116
の外周に取り付ける。これらは中央磁石120とは反対の磁気方位を有する。即
ち、外側磁石121のS極がターゲット114の背面122に直接隣接する。第
10図〜第14図に示すこの実施例では、中央磁石120は、高さが9.5mm
で、直径が32mmであり、一方外側磁石121は各々高さが9.5mmで、幅
が8mmである。
第10図及び第11図において最も良く判るように、平坦で環状の磁気分路1
18は、幅134と厚さ140とを有し、そして中央磁石120と外側磁石12
1との間に配置してある。分路118とターゲット114の背面122との間に
ギャップ136が存在するように、分路118をターゲット114の背面122
に隣接して配置してある。矩形ターゲットをスパッタするための第1実施例10
の場合と同様、円形ターゲットをスパッタするための第2実施例も、コンピュー
タ・モデリング・プログラムを用いて、提案した構成を洗練させることによって
、最適化を図ることができる。
第12図に示すように、まず磁気分路118がない状態で提案した構成のモデ
リングを行い、磁界の均衡を取った。第1実施例では、磁気トンネルの中心軸C
を、中央磁石と外側磁石とのほぼ中間に配置した。
次に、幅22mm(0.87インチ)、厚さ3.2mm(0.13インチ)の磁
気分路118は、中心軸Cのほぼ真下に中心を置き、ターゲット114の背面1
22から2mm(0.08インチ)の所に位置付けた。次いで、第13図に示す
ように、磁界形状を再度計算した。第13図に示す磁束線は、使用可能なターゲ
ット表面の大部分上で比較的平坦であるが、上述のように、分路に隣接する領域
150内の磁界強度が、領域152及び154内の磁界強度より低いことも重要
である。第13図に示す構成では、かかる低下は、最良の結果が得られるほど十
分に大きくはない。その結果、分路118の構成及び位置付けを少し変更して、
領域150内の磁界強度を更に低下させた。最終的な構成を第14図に示す。こ
れでは、ギャップを1mm(0.04インチ)まで狭め、分路の幅も20mm(
0.79インチ)まで狭めた。
第14図に示す最適化したマグネトロン構造体は、以下の寸法パラメータを有
する。
ターゲット材料 コバルト合金
ターゲット材料の飽和磁化 〜6,000gauss/cm2
ターゲット直径 12.7cm
ターゲット厚 0.60cm
分路材料 軟鉄
分路の飽和磁化 〜21,000gauss/cm2
分路幅 2.0cm
分路厚 0.32cm
分路とターゲット
との間のギャップ 0.1cm
本発明によるスパッタ用磁石構造体の第3実施例210を第15図に示す。第
3実施例は、約12.7cm(5インチ)よりも幅広の矩形ターゲット、又は直
径が約12.7cm(5インチ)よりも大きい円形ターゲットをスパッタする際
に好適である。本質的に、第3実施例210は、第1及び第2実施例10及び1
10と同一であるが、但し、円柱状中央磁石20(第1実施例10の半円端部に
おいて、また第2実施例110の単一中央磁石として用いた)を、対称軸228
を中心として円形に配列した複数の小形磁石220で置き換えてある。円柱形磁
石を複数の小形磁石220で置き換えることにより、得られる磁界の均衡を取り
易くなり、円柱形中央磁石の中心付近で、ターゲット材料内の過度に高い磁束レ
ベルから生じる磁界の歪みを少なくする。
前述の各実施例は、コバルトやその合金のように比較的「硬性」の磁性ターゲ
ット材料をスパッタするには良好に作用するが、鉄やニッケルのような軟磁性タ
ーゲット材料をスパッタする場合には、第16図及び第17図に示すような二片
式又は分割形分路構造体318を用いることによって、より良い結果を得ること
ができる。
分割形分路式スパッタ用磁石構造体310は、平均幅344が約12.7cm
(5インチ)、平均厚342が約0.63cm(0.25インチ)のニッケル合金
の磁気的に軟性の矩形ターゲット314をスパッタするための、レーストラック
状磁気トンネルを発生する構成としてある。第4図及び第5図に示した磁石構造
体10の場合と同様、磁石構造体310は、矩形ターゲットをスパッタするため
に特に構成してあり、平坦な楕円状のベース極片316を含み、パーマロイ、鉄
、又はニッケルのような透磁性材料で作って、磁気損失を最少に抑えている。第
16図において最も良く判るように、個々の磁石320’,321,及び321
’も同様に平坦な楕円形状で、ベース極片16上に直接配置してある。第4図及
び第5図に示した実施例とは異なり、第16図に示す実施例は、円柱状中央磁石
は全く含まないことに注意されたい。磁気的に軟性の材料をスパッタする場合、
円柱状磁石があると、各半円端部付近の磁気トンネルの形状が分裂し、その結果
スパッタが不均一となってしまうことが判っている。従って、軟磁性材料をスパ
ッタする場合は、細長い中央磁石320’を縦軸328’と位置合せして、その
両端が第16図に示す位置当たりに到達すれば十分である。複数の外側磁石32
1及び321’は、ベース極片316の外周に取り付けるが、これらは、中央磁
石320’とは反対の磁気方位を有する。即ち、第17図において最も良く判る
ように、外側磁石321及び321’のS極がターゲット314の背面322に
直
接隣接する。この好適実施例310では、細長い中央磁石320’は、高さが9
.5mm、幅が13mmで、第16図において最も良く判るように、各半円端部
317の対称軸328を超えて延びるのに十分な長さとなっている。外側磁石3
21は、各々高さが9.5mm、幅が8mmであり、一方2つの細長い外側磁石
321’は、各々高さが9.5mm、幅が8mmで、各半円端部317の外側磁
石321間を延在するのに十分な長さとなっている。また、これの代替法として
、当業者には明白であろうが、単一の細長い中央磁石320’又は単一の細長い
外側磁石321’の各々の代わりに、端部同士を互いに突き合せた複数の小形磁
石で代用してもよい。これらの磁石は全て、希土類ネオジム鉄硼素(NdFeB)であ
り、少なくとも35メガガウス−エルステッド(MGOe)の磁界エネルギ積を有する
。
二片式分路構造体318は、中心の一部を除去した単一片分路であって、分路
ギャップ314で分離した内側分路323と外側分路319とを形成したものと
みなすことができる。楕円形の分路幅334、分路厚340及びギャップ336
のサイズの初期決定は、多少の違いはあるが、上述の単一片分路で上述したプロ
セスによって決めることができる。例えば、ギャップ幅336は、軟磁性材料を
スパッタする場合は幾らか広げる必要がある場合があり、従ってギャップ336
の幅は約0.100cmないし0.400cm(0.04〜0.16インチ)の間と
すべきであり、そしてギャップ336の好適な幅は約0.300cm(0.12イ
ンチ)である、ということが判った。また、分路全体の幅334のギャップ厚3
36に対する比は、約5:1ないし30:1の範囲とすべきであり、そして好適
な比は約7:1である。
一旦これら初期寸法を決定したなら、分路を2つの部分323及び319に効
果上分割する、分路ギャップ341を選択する。分路ギャップ341のサイズは
、磁石構造体310の構成並びにターゲット314として使用する材料の関数で
あるので、分路ギャップ341のサイズ及び位置を決定する最良の方法は、まず
分路ギャップを約0.05cmないし0.5cm(0.02〜0.20インチ)の範
囲で選択し、次に以下に述べるコンピュータ・モデリング・プロセスの結果に基
づいて、ギャップ341のサイズ及び位置を微調整することである、ということ
が判った。もし、そのように構成のモデリングを行うのが不可能であれば、約0
.
2cm(0.08インチ)の分路ギャップ341を分路のほぼ中央に位置付けれ
ば、満足のいく結果が得られよう。
設計を最適化する最初の段階は、磁石構造体とスパッタすべきターゲット材料
を選択することである。この結果得られる構成は、未だ分路構造体318を含ん
でいないが、次に、これをモデリングして、磁界の均衡を取るためには、即ち、
対称的な磁界を作り、その中心をほぼ中央磁石と外側磁石との間に位置付けるた
めには、変更を行う必要があるか否か決める。
次に、二片式磁気分路構造体318を挿入し、磁石及び分路構造体の再モデリ
ングを行い、そして得られる磁界の形状を判定する。上述の方法を用いて単一分
路に対する適切な寸法を導出することにより、良好な初期構成を得ることができ
る。次に、先に特定した範囲のギャップを分路のほぼ中央に挿入し、第16図及
び第17図において最も良く判るように、分路構造体318を内側分路323と
外側分路319とに分割する。例えば、ニッケル合金のターゲットを有する実施
例310では、前述の方法を用いて、初期全幅334が28.5mm(1.12イ
ンチ)、初期全厚340が3.2mm(0.13インチ)の分路を定めた。次いで
、この分路のほぼ中央に1.5mm(0.06インチ)のギャップを挿入すること
により、分路を二片にした。得られた二片式分路構造体318の中心を、次に、
中央磁石320’と外側磁石321’との間のほぼ中央に位置付け、かつターゲ
ット314の背面322から1.5mm(0.06インチ)に配置した。この初期
の二片式分路構造で生成される磁界形状を、第18図に示す。第18図に示す磁
束線は、ターゲット314の前面312の殆どにわたって、比較的平坦であるが
、磁界は中央磁石及び外側磁石320’及び321’付近に2つの屈曲点313
及び315を含み、これらが結果的に2つの深いスパイク状侵食溝を有する不均
一な侵食パターンを生じる可能性がある。従って、二片式分路構造体318の構
成及び配置を多少変更して、屈曲点313及び315を減少又は消滅させた。最
終的な構成を第19図に示す。これでは、分路とターゲット314の背面322
との間のギャップ336を1.5mm(0.06インチ)から3.0mm(0.12
インチ)に広げ、分路ギャップ341を1.5mm(0.06インチ)から2.0
mm(0.08インチ)に広げた。
第19図に示した最適マグネトロン構造体は、以下の寸法パラメータを有する
。
ターゲット材料 ニッケル合金
ターゲット幅 12.7cm
ターゲット厚 0.63cm
分路材料 軟鉄
分路材料の飽和磁化 〜21,000gauss/cm2
分路全体の幅 2.85cm
内側分路の幅 1.25cm
外側分路の幅 1.40cm
分路ギャップ 0.20cm
分路厚 0.32cm
分路とターゲット
との間のギャップ 0.3cm
ここで注記すべきは、磁石構造体310のような、磁気的に軟性のターゲット
をスパッタするための磁石構造体を最適化する場合でも、結果的に得られる磁界
が、可能な限り広い領域にわたってターゲットの前面にほぼ平行な磁束線を含む
ように、磁石構造体を構成することが望ましいということである。一般的に言え
ば、使用可能なターゲット表面(即ち、ターゲット表面の対称軸328’から外
側磁石321’まで延在する部分)の約30%ないし50%の範囲にわたって、
磁束線がターゲットの前面にほぼ平行となるように、磁石及び二片式分路構造体
の構成を最適化することは可能であろう。
更に、磁界内のいかなる屈曲点又は窪みをも最少化するか又は除去して、不均
一なターゲット侵食を最少化するか又は除去しなければならない。第19図に示
した磁束線332はある程度のうねりを呈するが、このようなうねりの大きさは
、第18図に示したものよりも小さく、ターゲット侵食パターンに悪影響を及ぼ
すことはない。即ち、コンピュータ・プログラムのプロット用パラメータを調節
して狭い間隔で磁束線を生成すれば、磁束線にある程度のうねりは常に見い出し
得
ることを、当業者は認めよう。しかしながら、磁束線に少量のうねりがあっても
、本発明の性能に悪影響を及ぼすことはない。
また、磁石構造体310の二片式分路構造体318は、磁気的硬性のターゲッ
ト材料について上述したように、ターゲット本体内の磁界強度を低下させる効果
を有するが、鉄やニッケルのような磁気的軟性のターゲットの飽和させ易さが、
磁気的軟性のターゲット体の本体内の磁界強度低下を、かなり鈍らせることにな
る。従って、磁気的軟性のターゲットで作ったターゲットをスパッタする場合、
先に述べ第9図に示したコバルト合金のような、より硬性の磁性材料では可能な
磁界強度低減と同じ量の低減を達成できない場合もある。
磁気的に軟性の鉄合金ターゲットをスパッタするための別の実施例410を、
第20図に示す。14に示した第3実施例210と同様、第20図に示す実施例
410は、約12.7cm(5インチ)よりも広い矩形ターゲットをスパッタす
る場合に好適である。また、これの代替法として、第20図に示す構成を、約1
2.7cm(5インチ)より大きい直径の円形ターゲットと共に用いることもで
きる。矩形ターゲットをスパッタするための第20図に示すこの実施例は、本質
的に第3実施例210と同一であり、磁石は全て、高さが9.5mm、幅が8m
mで、37〜40メガガウス−エルステッド(MGOe)の磁界エネルギ積を有する。
第20図に示す最適マグネトロン構造体は、以下の寸法パラメータを有する。
ターゲット材料 鉄合金
ターゲット幅 12.7cm
ターゲット厚 0.30cm
分路材料 軟鉄
分路材料の飽和磁化 〜21,000gauss/cm2
分路全体の幅 1.80cm
内側分路の幅 0.80cm
外側分路の幅 0.80cm
分路ギャップ 0.20cm
分路厚 0.30cm
分路とターゲット
との間のギャップ 0.30cm
以上、本発明によるスパッタ用磁石構造体10の各好適実施例について、その
詳細な説明を終えた。本発明のこれら好適実施例について、その多数の具体的な
構成部品を以上に記述したが、現在及び将来において、その他の代替構成部品や
代替の構成部品組合わせも利用可能であり、そのようにすることにより本発明に
よるスパッタ用磁石装置に比肩し得る機能を達成可能であることは、当業者は容
易に認めよう。例えば、本発明によれば、多数の材料及びサイズのターゲットを
スパッタすることができ、ターゲット材料及び磁気分路の相対的なサイズ及び構
成を計算するための上述の方法を、殆どの一般的なターゲット・サイズに用いる
ことが可能である。同様に、プラズマ閉込め磁界のために無数の構成が可能であ
り、磁気分路が過剰磁束のためにより低いエネルギの通路を提供するように構成
されていれば、その磁気分路は、そのような他の磁界構成と共に用いることもで
きる。従って、本発明は、ここに図示しかつ説明した特定のターゲット及び磁界
構成に限定されるものとみなされるべきではない。
その他の可能な代替案については、この説明全体にわたって既に述べたが、更
に多くの等価的なものも可能である。例えば、本発明による磁石構造体10は、
永久磁石に限定される訳ではなく、同等な代替法としては、ボイス外又はアベ外
が開示したように、電磁石、又は電磁石と永久磁石との組合わせの使用等があろ
う。従って、本開示を参考に、必要な構成部品を組み立てて本発明を実施するこ
とは、かかる構成部品の内のあるものがここに記述したものと同一でないかどう
かということには無関係に、当業者には可能であろう。
従って、これまでの記述は、本発明の原理の例示に過ぎないものと考えるべき
である。更に、多数の修正や変更が当業者には容易に想起されるであろうから、
ここに図示し記述したのと正確に同じ構造及び動作に本発明を限定するというこ
とを望んでおらず、従って、全ての適当な修正や等価物は、以下に続く請求の範
囲に規定した本発明の範囲に入るものとして訴えることができるものである。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ),AM,
AT,AU,BB,BG,BR,BY,CA,CH,C
N,CZ,DE,DK,ES,FI,GB,GE,HU
,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LK,LT,
LU,LV,MD,MG,MN,MW,NL,NO,N
Z,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SI,SK
,TJ,TT,UA,UZ,VN