JPH11290092A - 光学活性アルコールの製造方法および使用される微生物 - Google Patents

光学活性アルコールの製造方法および使用される微生物

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JPH11290092A
JPH11290092A JP9614298A JP9614298A JPH11290092A JP H11290092 A JPH11290092 A JP H11290092A JP 9614298 A JP9614298 A JP 9614298A JP 9614298 A JP9614298 A JP 9614298A JP H11290092 A JPH11290092 A JP H11290092A
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喜樹 高島
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Abstract

(57)【要約】 【課題】より簡便な、光学純度の高い光学活性アルコー
ルの製造方法を提供する。 【解決手段】一般式 化1 【化1】 [式中、A1は、ハロゲン原子、−NR12基(ここで、
1およびR2は同一または相異なり、水素原子、置換さ
れていてもよいアルキル基等を表す)等を表し、A
2は、水酸基、C1−C4アルコキシ基等を表し、A
3は、酸素原子または硫黄原子を表し、A4は、水素原子
またはC1−C4アルキル基を表し、A5は、水素原
子、アルキル基等を表す。]で示される化合物に、該化
合物に作用しこれを光学活性な一般式 化2 【化2】 (式中、A1〜A5は、前記と同じ意味を有し、*は不斉
炭素を表す。)で示されるアルコール化合物に不斉還元
する能力を有する還元酵素を作用させ、光学活性な一般
式 化2で示されるアルコール化合物を選択的に生成さ
せることを特徴とする光学活性アルコール化合物の製造
方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学活性アルコー
ルの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】光学活
性な一般式 化3
【0003】
【化3】
【0004】[式中、A1は、ハロゲン原子、−NR12
基、−NHCOR3基または−NHSO24基(ここ
で、R1およびR2は同一または相異なり、水素原子、置
換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい
アリール基、置換されていてもよいアラルキル基もしく
は置換されていてもよいシクロアルキル基を表すか、ま
たは、R1とR2とが末端で結合し、酸素原子または窒素
原子を含んでいてもよいC2−C6の置換されていても
よい複素環を形成することもできる。R3およびR4は、
水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換され
ていてもよいアリール基または置換されていてもよいシ
クロアルキル基を表す。)を表し、A2は、水酸基、C
1−C4アルコキシ基、フェニルオキシ基またはベンジ
ルオキシ基を表し、A3は、酸素原子または硫黄原子を
表し、A4は、水素原子またはC1−C4アルキル基を
表し、A5は、水素原子、アルキル基、アルケニル基ま
たはアルキルカルボニル基を表し、*は不斉炭素を表
す。]で示されるアルコール化合物は、抗喘息剤、抗気
管支炎剤、気管支拡張剤、抗高脂血症剤、抗動脈硬化
剤、抗肥満剤などの種々の医薬品及び医薬中間体として
有用である(EP−147719、WO952510
4)。該化合物の製造法としては、一般式 化4
【0005】
【化4】
【0006】(式中、A1、A2、A3、A4およびA
5は、前記と同じ意味を有す。)で示される化合物を、
水素化ホウ素ナトリウム等による還元(特開昭52−8
3379)、パラジウム等の金属触媒の存在下での接触
還元(特開昭53−9777)等により上記一般式 化
3で示されるアルコール化合物に導いた後、該化合物を
光学分割剤を用い分割して一方の光学活性体を得る方法
が知られている(EP−147719)。また、一般式
化4で示される化合物を、例えば、ボラン−テトラヒ
ドロフラン錯体と(R)−テトラヒドロ−1−メチル−
3,3−ジフェニル−1H,3H−ピロロ[1,2-C][1,3,
2]オキサアザボロールとを用いて不斉還元して一般式
化3で示される構造を有する光学活性なアルコール化合
物の一方を直接得る方法も開示されている(WO952
5104)。しかし、これらの有機合成的手法による製
法は、必要工程数および得られるアルコール化合物の光
学純度等の点で、工業的製法としては必ずしも充分なも
のとは言い難い。
【0007】
【発明を解決するための手段】本発明者らは、このよう
な状況下、より簡便な、光学活性な前記一般式 化3で
示されるアルコール化合物の製造方法につき鋭意検討を
行った結果、特定の能力を有する還元酵素を用いる生化
学的手法を見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、
前記一般式 化4で示される化合物に、該化合物に作用
しこれを光学活性な前記一般式 化3で示されるアルコ
ール化合物に不斉還元する能力を有する還元酵素を作用
させ、光学活性な前記一般式 化3で示されるアルコー
ル化合物を選択的に生成させることによる光学活性アル
コール化合物の製造方法(以下、本発明製造方法と記
す。)および該方法に有用な新規微生物を提供するもの
である。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明製造方法において原料とし
て用いられる、上記一般式 化4で示される化合物は、
例えば特開昭52−83379号公報に記載の方法に準
じて、下記の一般式 化5で表される化合物と一般式
化6で表されるα−ハロアルカン酸ハライドとを、塩化
アルミニウム等のフリーデル−クラフト触媒の存在下、
二硫化炭素、ニトロベンゼン等の溶媒中で−10℃〜溶
媒の沸点の温度範囲で反応させるか、このようにして得
られるハライドにさらに一般式 化7で表される化合物
を反応させるか、または、ここで得られるアミン(R1
およびR2が共に水素原子である化合物)に、一般式
化8で示される酸ハライドもしくは化9で示されるスル
ホニルハライドを反応させることにより得ることができ
る。これらの反応は、無溶媒中またはエーテル、ジオキ
サン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の適当
な不活性反応溶媒中で通常、室温〜溶媒の沸点の範囲で
行われる。
【0009】
【化5】 (式中、A2、A3およびA5は、前記と同じ意味を有す
る。)
【0010】
【化6】 (式中、A'1及びXは、同一または相異なりハロゲン原
子を表し、A4は、前記と同じ意味を有する。)
【0011】
【化7】 (式中、R1およびR2は、前記と同じ意味を有する。)
【0012】
【化8】R3COX (式中、R3およびXは、前記と同じ意味を有する。)
【0013】
【化9】R4SO2X (式中、R4およびXは、前記と同じ意味を有する。)
【0014】本発明製造方法において製造される、光学
活性な上記一般式 化3で示されるアルコール化合物に
おいて、A1で示されるハロゲン原子とはフッ素原子、
塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を意味し、R1
2、R3およびR4で示される置換されていてもよいア
ルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、
イソプロピル基、イソブチル基、ブチル基、tert−ブ
チル基、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、
ブロモジフルオロメチル基、1−フルオロエチル基、1
−クロロエチル基、1−ブロモエチル基、パーフルオロ
エチル基、2−ブロモ−1,1,2,2−テトラフルオ
ロエチル基、1,1,2,2−テトラフルオロエチル
基、2−クロロ−1,1,2−トリフルオロエチル基、
2−ブロモ−1,1,2−トリフルオロエチル基、2,
2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリクロ
ロエチル基、2,2,2−トリブロモエチル基、2−フ
ルオロエチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチ
ル基、2−ヨードエチル基、2,2−ジフルオロエチル
基、2,2−ジクロロエチル基、2,2−ジブロモエチ
ル基、3−フルオロプロピル基、3−クロロプロピル
基、3−ブロモプロピル基、3−ヨードプロピル基、
3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,
3,3−ペンタフルオロプロピル基、1,1,1,3,
3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル基、2−フルオ
ロプロピル基、2−クロロプロピル基、2−ブロモプロ
ピル基、2−ヨードプロピル基、2,3−ジブロモプロ
ピル基等があげられ、置換されていてもよいシクロアル
キル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、
シクロペンチル基、シクロヘキシル基等があげられ、置
換されていてもよいアリール基としては、フェニル基、
2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−ク
ロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ヒドロ
キシフェニル基、4−メチルフェニル基等があげられ、
1およびR2で示される置換されていてもよいアラルキ
ル基としては、1−メチル−2−(4−メトキシフェニ
ル)エチル基、2−メチル−2−(4−メトキシフェニ
ル)エチル基、2−メチル−3−(4−メトキシフェニ
ル)ブチル基等があげられ、また、R1とR2とが末端で
結合して形成される酸素原子または窒素原子を含んでい
てもよいC2−C6の置換されていてもよい複素環とし
ては、ピペラジノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モ
ルホリノ基、4−メチル−ピペラジノ基、4−フェニル
ピペリジノ基等があげられる。
【0015】A2で示されるC1−C4アルコキシ基と
しては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ
基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソ
ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−
ブチルオキシ基等があげられ、
【0016】A4で示されるC1−C4アルキル基とし
ては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロ
ピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル
基、tert−ブチル基等があげられ、
【0017】A5で示されるアルキル基としては、メチ
ル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n
−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ter
t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオ
ペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピ
ル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルブ
チル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、
3−メチルペンチル基、1,3−ジメチルブチル基等が
あげられ、アルケニル基としては、アリル基、1−メチ
ル−2−プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル
基、3−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブ
テニル基等があげられる。
【0018】上記一般式 化6で示されるアルコール化
合物を化合物番号とともに表1に例示する。
【0019】
【表1】 なお、表中のG1〜G10は、下記構造式を表す。 G1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
【0020】本発明製造方法に用いられる還元酵素とし
ては、一般式 化4で示される化合物を光学活性な一般
式 化3で示されるアルコール化合物に不斉還元する能
力を有する還元酵素であればよく、例えば、微生物由来
の還元酵素をあげることができる。具体的には、アース
リニウム(Arthrinium)属、クロエッケラ(Kloeckera)
属、レンジテス(Lenzites)属、ペニシリウム(Penicilli
um)属、ピキア(Pichia)属、ロドスポリジューム(Rhodos
poridium)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、スキゾサッ
カロマイセス(Schizosaccharomyces)、スポロボロマイ
セス(Sporobolomyces)属等に属する微生物に由来する還
元酵素をあげることができる。より具体的には、アース
リニウム・ファエオパーマム(Arthrinium phaeopermum)
ATCC6732株、クロエッケラ・アフリカーナ(Kloeckera
africana) IFO 0868株、クロエッケラ・アフリカーナ I
FO 0869株、レンジテス・ベツリナ(Lenzites betulina)
IFO 4963株、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium
citrinum) IFO4631株、ピキア・アノマラ(Pichia anoma
la) SC-1204株、ピキア・アノマラ SC-1423株、ロドス
ポリジューム・ジオボバタム(Rhodosporidium diobovat
um) IFO 0688株、ロドトルラ・グルチニス・バー・ダイ
レネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis) I
FO 0415株、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra) I
FO 0901株、ロドトルラ・ルブラ SC-87株、ロドトルラ
・ルブラ SC-137株、スキゾサッカロマイセス・ポンベ
(Schizosaccharomyces pombe) IFO 0346株、スポロボロ
マイセス・サルモニコロー(Sporobolomyces salmonicol
or) IFO 0374株等に由来する還元酵素を挙げることがで
きる。還元酵素としては、上記のような菌株が産生する
還元酵素であっても、これらの菌株から誘導された突然
変異株が産生する還元酵素であっても、これらの菌株か
らクローニンク゛された遺伝子が導入された遺伝子組換え株が
産生する還元酵素であってもよい。
【0021】上記のピキア・アノマラ SC-1204株、ピキ
ア・アノマラ SC-1423株、ロドトルラ・ルブラ SC-87
株、ロドトルラ・ルブラ SC-137株は、本発明者らが自
然界より分離した微生物であり、その菌学的性質は以下
のとおりである。
【0022】 ピキア・アノマラ SC-1204株 栄養細胞の形態 球形〜楕円形 増殖形式 多極出芽 液体培養 沈殿及び皮膜の形成を認める(25℃、3日間) 偽菌糸 形成する(25℃、3日間) 子嚢胞子 アダムス、ゴロドコバ、麦芽、YM、V-8、 ポテトデキストロースの各培地で形成を認めず。 醗酵性 グルコース + ガラクトース + シュークロース + マルトース + ラクトース − ラフィノース + 資化性 ガラクトース + シュークロース + マルトース + セロビオース + トレハロース + ラクトース − メリビオース − ラフィノース + メレチトース + スターチ 微弱 D−キシロース − L−アラビノース − D−リボース + L−ラムノース − グリセロール + エリスリトール + リビトール − D−マンニトール + 乳酸塩 + コハク酸塩 + クエン酸塩 + イノシトール − 硝酸塩の資化性 + ビタミン欠培地での生育 + 37℃での生育 − 尿素の分解 − DBBの呈色 −
【0023】 ピキア・アノマラ SC-1423株 栄養細胞の形態 球形〜楕円形 増殖形式 多極出芽 液体培養 沈殿及び皮膜の形成を認める(25℃、3日間) 偽菌糸 形成する(25℃、3日間) 子嚢胞子 アダムス、ゴロドコバ、麦芽、YM、V-8、 ポテトデキストロースの各培地で形成を認めず。 醗酵性 グルコース + ガラクトース − シュークロース + マルトース + ラクトース − ラフィノース + 資化性 ガラクトース − シュークロース + マルトース + セロビオース + トレハロース + ラクトース − メリビオース − ラフィノース + メレチトース + スターチ 微弱 D−キシロース − L−アラビノース − D−リボース + L−ラムノース − グリセロール + エリスリトール + リビトール − D−マンニトール + 乳酸塩 + コハク酸塩 + クエン酸塩 + イノシトール − 硝酸塩の資化性 + ビタミン欠培地での生育 + 37℃での生育 − 尿素の分解 − DBBの呈色 −
【0024】 ロドトルラ・ルブラ SC-87株 栄養細胞の形態 卵形〜楕円形 増殖形式 多極出芽 液体培養 沈殿は認めるが、皮膜の形成を認めない (25℃、3日間) 偽菌糸 形成する(25℃、3日間) 子嚢胞子 アダムス、ゴロドコバ、麦芽、YM、V-8、 ポテトデキストロースの各培地で形成を認めず。 集落の色調 ピンク系 カロテノイド + 醗酵性 グルコース − ガラクトース − シュークロース − マルトース − ラクトース − ラフィノース − 資化性 ガラクトース − シュークロース + マルトース + セロビオース − トレハロース + ラクトース − メリビオース − ラフィノース + メレチトース + スターチ − D−キシロース + L−アラビノース + D−リボース + L−ラムノース − エリスリトール − リビトール − D−マンニトール + 乳酸塩 − コハク酸塩 + クエン酸塩 − イノシトール − 硝酸塩の資化性 − ビタミン欠培地での生育 − 37℃での生育 − 尿素の分解 + DBBの呈色 +
【0025】 ロドトルラ・ルブラ SC-137株 栄養細胞の形態 卵形〜楕円形 増殖形式 多極出芽 液体培養 沈殿は認めるが、皮膜の形成を認めない (25℃、3日間) 偽菌糸 形成する(25℃、3日間) 子嚢胞子 アダムス、ゴロドコバ、麦芽、YM、V-8、 ポテトデキストロースの各培地で形成を認めず。 集落の色調 ピンク系 カロテノイド + 醗酵性 グルコース − ガラクトース − シュークロース − マルトース − ラクトース − ラフィノース − 資化性 ガラクトース − シュークロース + マルトース + セロビオース − トレハロース + ラクトース − メリビオース − ラフィノース + メレチトース + スターチ − D−キシロース + L−アラビノース + D−リボース + L−ラムノース − エリスリトール − リビトール − D−マンニトール + 乳酸塩 − コハク酸塩 + クエン酸塩 − イノシトール − 硝酸塩の資化性 − ビタミン欠培地での生育 − 37℃での生育 − 尿素の分解 + DBBの呈色 +
【0026】以上の諸性質を酵母の分類書 N.J.W.Krege
r-van Rij: "The Yeasts" (1984) Elsevier Science Pu
blishers B. V. 及び J.A.Barnett, R.W.Payne and D.
Yarrow: "Yeasts: Characteristics and identificatio
n" 2nd edition (1990) Cambridge University Press
により検索した結果から、SC-1204株、及びSC-1423株は
ピキア・アノマラ(Pichia anomala)であり、SC-87株、
及びSC-137株はロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubr
a)であると同定された。なお、これらの菌株は、工業技
術院生命工学工業技術研究所に寄託されており、その寄
託番号は、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)SC-1204
株がFERM−P16740、ピキア・アノマラ(Pichi
a anomala)SC-1423株がFERM−P16741、ロド
トルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)SC-87株がFERM
−P16738、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rub
ra)SC-137株がFERM−P16739である。
【0027】微生物由来の還元酵素は、該酵素を産生す
る微生物を、通常使用される炭素源、窒素源、有機塩、
無機塩等を適宜含む各種培地を用いて培養することによ
って得ることができる。炭素源としては、グルコース、
シュークロース、グリセロール、澱粉、有機酸、廃糖蜜
等があげられる。窒素源としては、酵母エキス、肉エキ
ス、ペプトン、カザミノ酸、麦芽エキス、大豆粉、コー
ンスティープリカー(corn steep liquor)、綿実粉、
乾燥酵母、硫安、硝酸ナトリウム等があげられる。有機
塩や無機塩としては、カリウム、ナトリウム、マグネシ
ウム、カルシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛、ア
ンモニウム等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、燐酸塩類、炭
酸塩類等、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウ
ム、炭酸ナトリウム、燐酸水素一カリウム、燐酸水素二
カリウム、炭酸カルシウム、酢酸アンモニウム、硫酸マ
グネシウム、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸第一鉄、塩化コバ
ルト等をあげることができる。微生物の培養は、一般微
生物における通常の方法に準じて行うことができ、固体
培養、液体培養(試験管振盪培養、フラスコ培養、ジャ
ーファーメンター培養等)いずれも可能である。培養温
度や培養pHは、微生物が生育する範囲であればよく、
約15℃〜約45℃の範囲、pH約4.0〜約8.0の
範囲が通常である。培養時間は、種々の培養条件によっ
て異なるが、通常、約1日間〜約7日間である。還元酵
素を含む培養物はそのまま反応に供することができ、該
培養物から遠心分離等の方法で菌体を集め、緩衝液もし
くは水にて洗浄した湿菌体を反応に供することもでき
る。また、前記のような湿菌体から公知の方法にて還元
活性画分を取り出した酵素、または湿菌体もしくは酵素
を公知の方法にて固定化した固定化物を反応に供するこ
ともできる。
【0028】本発明製造方法において、還元酵素を上記
の一般式 化4で示される化合物に作用させるときに
は、該化合物は、反応系における濃度が、例えば、約1
×10 -3%(w/v)〜約20%(w/v)となるよう
添加すればよく、還元酵素は、反応系における濃度が、
約0.1%(w/v)〜約30%(w/v)の範囲とな
るよう添加すると一般的に良い。反応温度、反応pH、
反応時間は、例えば、約0℃〜約60℃の範囲、pH約
3〜pH約10の範囲、約0.5時間〜約10日間の範
囲で行うとよい。反応溶媒としては、水、緩衝液、微生
物培養液等があげられ、必要に応じて水溶性有機溶媒、
脂溶性有機溶媒を適当量添加することもできる。また、
グルコース、シュークロース、フルクトース、エタノー
ル等の炭素源を反応開始時、又は反応途中に加えること
により収率を向上させることが可能な場合がある。さら
に、カチオン性、アニオン性もしくはノニオン性の界面
活性剤を、1種もしくは複数添加してもよい。
【0029】上記反応により生成される光学活性アルコ
ール化合物は、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロ
ホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド
等の有機溶媒にて抽出することにより反応系から回収す
ることができ、さらに必要に応じて、蒸留、カラムクロ
マトグラフィー等の通常の方法により精製、単離するこ
とができる。
【0030】
【実施例】以下、本発明製造方法を実施例により詳細に
説明するが、本発明製造方法はこれら実施例のみに限定
されるものではない。
【0031】実施例1 500mL容坂口フラスコに入れた殺菌済み培地(40
g/Lグルコース、10g/Lペプトン、5g/L酵母
エキス、5g/Lりん酸水素二カリウム、3g/L硫酸
マグネシウム、ならびにそれぞれ0.01g/Lの硫酸
第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛および
硫酸銅を含む。pH6.0)100mLに、あらかじめ
同培地で培養したピキア・アノマラ SC-1204 株の培養
液1mLを植菌した。2日間27℃で振盪培養した後、
該培養液90mlを冷却下に遠心分離して菌体を集め、
これを90mlの100mMりん酸バッファー(pH
6.0)に懸濁した。この菌懸濁液10mlに、0.9
mgの8−ベンジルオキシ−5−クロロアセチルカルボ
スチリルを溶解させたジメチルスルホキシド0.9m
l、40%グルコース水溶液0.9ml、1%ドデシル
硫酸ナトリウム(SDS)水溶液0.3mlを添加して、
35℃にて2日間振盪した。該反応液を遠心分離し、そ
の上清を分析カラムSUMIPAX ODS−A212
(住化分析センター製)を用いたHPLC法で分析して
8−ベンジルオキシ−5−[(2−クロロ−1−ヒドロ
キシ)エチル]カルボスチリルの生成量を求め、8−ベ
ンジルオキシ−5−クロロアセチルカルボスチリルから
の変換率を算出したところ、変換率は100%であっ
た。さらに、CHIRALPAK AD(ダイセル製)
を用いて、生成した8−ベンジルオキシ−5−[(2−
クロロ−1−ヒドロキシ)エチル]カルボスチリルの光
学異性体比を分析したところ、R体が100%e.e.
であった。
【0032】実施例2 口径18mmの試験管に入れた殺菌済み培地(40g/
Lグルコース、10g/Lペプトン、5g/L酵母エキ
ス、5g/Lりん酸水素二カリウム、3g/L硫酸マグ
ネシウム、ならびにそれぞれ0.01g/Lの硫酸第一
鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛および硫酸
銅を含む。pH6.0)10mLに、30%グリセロー
ル水溶液中に懸濁され−80℃にて凍結保存されていた
ピキア・アノマラ SC-1204株を1白金耳添加した。27
℃にて2日間振盪培養した後、該培養液に、8−ベンジ
ルオキシ−5−クロロアセチルカルボスチリル10mg
を溶解させたジメチルスルホキシド1ml、40%グル
コース水溶液1ml、1%ドデシル硫酸ナトリウム(S
DS)水溶液0.3mlを添加して、さらに27℃にて
振盪し、5日目及び6日目に40%グルコース水溶液1
mlを追加した。8日目に、該反応液を実施例1に記載
の方法にて分析し、8−ベンジルオキシ−5−[(2−
クロロ−1−ヒドロキシ)エチル]カルボスチリルの生
成量を求め、8−ベンジルオキシ−5−クロロアセチル
カルボスチリルからの変換率を算出した。変換率66%
で8−ベンジルオキシ−5−[(2−クロロ−1−ヒド
ロキシ)エチル]カルボスチリルが生成していた。生成
した8−ベンジルオキシ−5−[(2−クロロ−1−ヒ
ドロキシ)エチル]カルボスチリルの光学純度を実施例
1に記載の方法にて分析したところ、R体が100%
e.e.であった。
【0033】実施例3 口径18mmの試験管に入れた殺菌済み培地(40g/
Lグルコース、10g/Lペプトン、5g/L酵母エキ
ス、5g/Lりん酸水素二カリウム、3g/L硫酸マグ
ネシウム、ならびにそれぞれ0.01g/Lの硫酸第一
鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛および硫酸
銅を含む。pH6.0)3mLの各々に、夫々30%グ
リセロール水溶液中に懸濁され−80℃にて凍結保存さ
れていたピキア・アノマラ SC-1423株、ロドトルラ・ル
ブラ SC-87株およびロドトルラ・ルブラ SC-137株を1
白金耳添加した。各々、27℃にて2日間振盪培養した
後、該培養液に、8−ベンジルオキシ−5−クロロアセ
チルカルボスチリル3mgを溶解させたジメチルスルホ
キシド0.3ml、40%グルコース水溶液0.3m
l、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液0.1
mlを添加して、さらに27℃にて5日間振盪した。夫
々の該反応液を実施例1に記載の方法にて分析し、8−
ベンジルオキシ−5−[(2−クロロ−1−ヒドロキ
シ)エチル]カルボスチリルの生成量を求め、8−ベン
ジルオキシ−5−クロロアセチルカルボスチリルからの
変換率を算出した。結果を表2に示す。生成した8−ベ
ンジルオキシ−5−[(2−クロロ−1−ヒドロキシ)
エチル]カルボスチリルの光学純度を実施例1に記載の
方法にて分析したところ、R体が100%e.e.であ
った。
【0034】
【表2】
【0035】
【発明の効果】本発明により、より簡便な、光学純度の
高い光学活性アルコールの製造方法が提供可能になっ
た。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C12R 1:645)

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】一般式 化1 【化1】 [式中、A1は、ハロゲン原子、−NR12基、−NHC
    OR3基または−NHSO24基(ここで、R1およびR
    2は同一または相異なり、水素原子、置換されていても
    よいアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置
    換されていてもよいアラルキル基もしくは置換されてい
    てもよいシクロアルキル基を表すか、または、R1とR2
    とが末端で結合し、酸素原子または窒素原子を含んでい
    てもよいC2−C6の置換されていてもよい複素環を形
    成することもできる。R3およびR4は、水素原子、置換
    されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいア
    リール基または置換されていてもよいシクロアルキル基
    を表す。)を表し、A2は、水酸基、C1−C4アルコ
    キシ基、フェニルオキシ基またはベンジルオキシ基を表
    し、A3は、酸素原子または硫黄原子を表し、A4は、水
    素原子またはC1−C4アルキル基を表し、A5は、水
    素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキルカル
    ボニル基を表す。]で示される化合物に、該化合物に作
    用しこれを光学活性な一般式 化2 【化2】 (式中、A1、A2、A3、A4およびA5は、前記と同じ
    意味を有し、*は不斉炭素を表す。)で示されるアルコ
    ール化合物に不斉還元する能力を有する還元酵素を作用
    させ、光学活性な一般式 化2で示されるアルコール化
    合物を選択的に生成させることを特徴とする光学活性ア
    ルコール化合物の製造方法。
  2. 【請求項2】微生物由来の還元酵素を用いる請求項1記
    載の光学活性アルコール化合物の製造方法。
  3. 【請求項3】アースリニウム(Arthrinium)属、クロエッ
    ケラ(Kloeckera)属、レンジテス(Lenzites)属、ペニシ
    リウム(Penicillium)属、ピキア(Pichia)属、ロドスポ
    リジューム(Rhodosporidium)属、ロドトルラ(Rhodotoru
    la)属、スキゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)
    属またはスポロボロマイセス(Sporobolomyces)属に属す
    る微生物由来の還元酵素を用いる請求項1または2記載
    の光学活性アルコール化合物の製造方法。
  4. 【請求項4】アースリニウム・ファエオパーマム(Arthr
    inium phaeopermum)、クロエッケラ・アフリカーナ(Klo
    eckera africana)、レンジテス・ベツリナ(Lenzites be
    tulina)、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citr
    inum)、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)、ロドスポ
    リジューム・ジオボバタム(Rhodosporidium diobovatu
    m)、ロドトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)、
    ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra)、スキゾサッ
    カロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)ま
    たはスポロボロマイセス・サルモニコロー(Sporobolomy
    ces salmonicolor)に属する微生物由来の還元酵素を用
    いる請求項1〜3記載の光学活性アルコール化合物の製
    造方法。
  5. 【請求項5】アースリニウム・ファエオパーマム(Arthr
    inium phaeopermum) ATCC6732株、クロエッケラ・アフ
    リカーナ(Kloeckera africana) IFO 0868株、クロエッ
    ケラ・アフリカーナ IFO 0869株、レンジテス・ベツリ
    ナ(Lenzites betulina) IFO 4963株、ペニシリウム・シ
    トリナム(Penicillium citrinum) IFO4631株、ピキア・
    アノマラ(Pichia anomala) SC-1204株(FERM-P16740)、
    ピキア・アノマラ SC-1423株(FERM-P16741)、ロドスポ
    リジューム・ジオボバタム(Rhodosporidium diobovatu
    m) IFO 0688株、ロドトルラ・グルチニス・バー・ダイ
    レネンシス(Rhodotorula glutinis var.dairenensis) I
    FO 0415株、ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubra) I
    FO 0901株、ロドトルラ・ルブラ SC-87株(FERM-P1673
    8)、ロドトルラ・ルブラ SC-137株(FERM-P16739)、スキ
    ゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pom
    be) IFO 0346株またはスポロボロマイセス・サルモニコ
    ロー(Sporobolomyces salmonicolor) IFO 0374株由来の
    還元酵素を用いる請求項1〜4記載の光学活性アルコー
    ル化合物の製造方法。
  6. 【請求項6】基質化合物が、一般式 化1において、A
    3が酸素原子であり、A4およびA5が水素原子である化
    合物である請求項1〜5記載の光学活性アルコール化合
    物の製造方法。
  7. 【請求項7】基質化合物が、一般式 化1において、A
    1がハロゲン原子であり、A3が酸素原子であり、A4
    よびA5が水素原子である化合物である請求項1〜5記
    載の光学活性アルコール化合物の製造方法。
  8. 【請求項8】ピキア・アノマラ(Pichia anomala) SC-12
    04 (FERM-P16740)株。
  9. 【請求項9】ピキア・アノマラ(Pichia anomala) SC-14
    23 (FERM-P16741)株。
  10. 【請求項10】ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubr
    a) SC-87株(FERM-P16738)株。
  11. 【請求項11】ロドトルラ・ルブラ(Rhodotorula rubr
    a) SC-137株(FERM-P16739)株。
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