JPH11245531A - 平版印刷刷版、平版印刷刷版への画線部形成方法および画線部が形成された平版印刷刷版 - Google Patents

平版印刷刷版、平版印刷刷版への画線部形成方法および画線部が形成された平版印刷刷版

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JPH11245531A
JPH11245531A JP10047955A JP4795598A JPH11245531A JP H11245531 A JPH11245531 A JP H11245531A JP 10047955 A JP10047955 A JP 10047955A JP 4795598 A JP4795598 A JP 4795598A JP H11245531 A JPH11245531 A JP H11245531A
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Manabu Yamamoto
学 山本
Osamu Shimizu
治 清水
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Dai Nippon Printing Co Ltd
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Dai Nippon Printing Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】 デジタルデータによって直接平版印刷刷版を
作製し、十分な実用性を有し、優れた階調性をもった画
像が形成できる平版印刷刷版への画線部の形成方法平版
印刷刷版。 【解決手段】 支持体2と、支持体2上に設けられた高
分子相溶物層3とによって少なくとも構成され、高分子
相溶物層3には、高分子相溶物の相分離によって、画線
部と非画線部が形成される、高分子相溶物層3が、二種
類以上の高分子材料からなり、相分離が、スピノーダル
分解によるものであることが好ましく、相分離が、局所
的な加熱、特に感熱ヘッド4または赤外線レーザーによ
ってなされ、加熱された部分の表面エネルギーが大きく
なることによって画線部と非画線部が形成される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、平版印刷刷版を構
成する高分子相溶物の相分離によって画線部および非画
線部が形成されることに特徴を有した平版印刷刷版、か
かる平版印刷刷版への画線部の形成方法および画線部が
形成された平版印刷刷版に関する。
【0002】
【従来の技術】平版印刷は、画線部と非画線部とが基本
的にほぼ同一平面上に形成された平版印刷刷版を使用
し、画線部をインキ受容層とし、非画線部をインキ反発
層として、画線部のみにインキが付着するという性質を
利用して、紙等の被印刷体にインキを転写して印刷する
方式である。平版印刷刷版としては、通常、PS版が使
用されている。PS版には、水ありPS版と水なしPS
版とがある。
【0003】水ありPS版は、親水化処理された支持体
上に親油性の感光性樹脂を塗布し、フォトリソグラフィ
ー技術(以下、簡単に「現像工程」という。)によっ
て、感光性樹脂層が残存した親油性の画線部と、支持体
表面が露出した親水性の非画線部とを形成することによ
って得られる。そして、この親水性の非画線部に湿し水
層を形成してインキ反発層とし、感光性樹脂層が残存し
た親油性の画線部をインキ受容層として使用される。水
ありPS版の支持体としては、通常アルミニウムが用い
られる。アルミニウムの表面は、保水性を付与するた
め、および、印刷中の感光性樹脂層の剥離を防止するた
めに砂目立てが行なわれ、更に必要に応じて陽極酸化す
る等の処理が行なわれる。また、感光性樹脂層の保存安
定性を向上させるため、フッ化ジルコニウムやケイ酸ナ
トリウム等の化学処理が施される場合もある。こうして
得られた水ありPS版は、実用上優れた印刷版である
が、製造工程が非常に複雑であるという問題がある。
【0004】また、水なしPS版は、上述した湿し水層
の代わりにシリコーンゴム層をインキ反発層としたもの
であり、一部実用されているが、製造工程は水ありPS
版よりも複雑になるという問題がある(米沢輝彦著、
「PS版概論」、p.18〜81(1993))。
【0005】一方、近年コンピュータの画像処理技術、
大容量データの保存技術およびデータ通信技術の進歩に
より、原稿入力、補正、編集、割付から頁組みに至るま
でコンピュータで操作でき、高速通信網や衛星通信によ
り即時遠隔地の端末プロッターに出力できる電子編集シ
ステムが実用化されている。また、オリジナル原稿等を
原版フィルムの形で保存し、この保存した原版フィルム
を必要に応じて印刷版に複製する場合、光ディスク等の
超大容量記録メディアの発達に伴い、オリジナル原稿等
がこれらの記録メディアにデジタルデータとして保存さ
れはじめている。
【0006】こうした技術を利用して、より効率的な印
刷版の作製方法が検討されている。その一つに、端末プ
ロッターの出力から印刷版を直接作製する検討が行なわ
れているが、作製された印刷版(以下「直接型印刷版」
という。)はほとんど実用化されていない。また、電子
編集システムを稼動して印刷版を作製する場合であって
も、出力は銀塩写真フィルムに行い、これを基にPS版
へ密着露光等の煩雑な現像工程を行なって印刷版を作製
しているのが実状であり、必ずしも効率的な印刷版の作
製方法ではなかった。
【0007】こうした問題を解決し、平版印刷刷版をよ
り効率的に作製するため、現像工程なしに、平版印刷刷
版を直接作製する方法が幾つか開示されている。
【0008】電子写真法で作製された直接型印刷版に関
するものとしては、例えば特公昭47−18325号公
報、特公昭48−40002号公報、特公昭48−18
325号公報、特公昭51−15766号公報、特公昭
51−25761号公報等に記載の酸化亜鉛−樹脂分散
系オフセット印刷材料、特公昭37−17162号公
報、特公昭38−7758号公報、特公昭46−394
05号公報、特公昭52−2437号公報等に記載の有
機光導電体−樹脂系印刷版材料、特開昭57−1476
56号公報に記載のヒドラジン化合物およびバルビツー
ル酸あるいはチオバルビツール酸を含有する電子写真感
光体、特開昭59−147335号公報、特開昭59−
152456号公報、特開昭59−168462号公
報、特開昭58−145495号公報に記載の色素増感
された電子写真感光体を用いた平版刷版、特開平2−7
9056号公報、特開平9−54463号公報に記載の
平版印刷版の作成方法等がある。しかしながら、これら
の直接型印刷版は、解像性の低さ等の理由から、一部の
軽オフセット印刷機で使用されているのみであり、十分
なものではなかった。
【0009】また、レーザ光を照射することにより作製
された直接型印刷版に関するものとしては、例えば特開
平6−186750号公報、特開平6−199064号
公報、特公平9−2648081号公報、USP537
9698、USP5385092、USP548733
8、USP5540150、USP5551341、U
SP5638753、USP5339737(Pres
stek社)等のように、印刷版の表面のインキ反発層
であるシリコーン層を、レーザ照射により物理的に排除
してインキ受容層を形成する方法等がある。しかしなが
ら、これらの直接型印刷版も、解像性の低さ、レーザに
より排除したゴミをクリーニングする煩雑な工程が必要
なこと、また、このゴミが凹状になった刷版表面につま
ってしまうこと等から、一部の軽オフセツト印刷機で使
用されているのみであり、上述と同様に十分なものでは
なかった。
【0010】また、最近、より階調性に優れた画像が要
求されている。上述したPS版において、非画線部は全
ての部分でインキを全く受けつけず、画線部は全ての部
分で単位面積当たり同量のインキを受容している。その
ため、画線部のインキを転写するだけでは、形成された
画像の階調性は乏しい。そこで、階調性のある画像を形
成できるPS版を作製するために、いわゆる網点構造の
画線部を形成することが通常行なわれている。PS版上
の画線部に形成された各網点は単位面積当たり同量のイ
ンキを受容しているので、同じ色強度で印刷されるが、
網点の大きさをそれぞれ変えることによって、異なる色
調や階調性を有する画像を形成することができる。しか
しながら、こうした方法であっても、より階調性に優れ
た画像を要求する最近の要請を満足させるものではなか
った。
【0011】さらに、上述した直接型印刷版の何れにお
いても、印刷版上の画線部と非画線部とは、親油性であ
るか親水性であるか、すなわち、インキが付着するか否
かの状態で形成されたものであり、得られる画像に階調
性を持たせるのに従来と同様の網点構造としていたた
め、より階調性に優れた画像に対する要求を満足するも
のではなかった。
【0012】網点構造によらずに連続階調または中間階
調を表現する方法としては、単位面積当たりのインキ付
着量を変化させるという発想がある。この発想に基く従
来技術としては、重クロム酸感光剤を含むゼラチン層
を、連続階調を有するネガフィルムで露光し、その露光
量に応じた階調性を有する湿潤部を刷版上に作り出すこ
とによってスクリーン印刷を可能とするコロタイプ印刷
(鎌田禰幕治著、「写真製版術」、p.96〜111(1965))
が知られている。また、UnionCarbide社が
開発しRogers社が商品化したフェノール樹脂とポ
リエチレンオキサイド会合体と感光剤を組み合わせた材
料がインキ着肉量と露光量との間に比例関係をもつこと
を利用した印刷版(USP3231377、USP32
31381、USP3231382、特公昭42−14
328号公報、特公昭42−131号公報、特公昭46
−27484号公報、特公昭42−20127号公報)
や、TeegResarch、EnergyConve
rsionDeviceが開発したカルコゲナイド(周
期率表IV族のイオウ、セレン、テルルを含む化合物)
が光によってガラス状態から結晶状態に変化する時感脂
性の差に連続性があることを利用した印刷版(特公昭4
6−7484号公報、待公昭46−32898号公報、
特公昭47−23723号公報、特公昭47−2820
2号公報、特公昭47−332644号公報)等があ
る。
【0013】しかしながら、これらの方法は、いずれも
連続階調、すなわち光学濃度に階調性を有するフィルム
を用いて焼き付けることによって印刷版を作製する方法
であり、しかも印刷時に階調を維持することが難しく、
再現性も低く、また耐刷性能も低いため実用に耐え得る
ものではなかった。また、網点構造の画線部を形成し、
かつその網点部分のインク着肉量が2段階以上変化する
という発想をもつ平版印刷刷版もなかった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した課
題を解決し、現像工程を必要とせずに、デジタルデータ
によって直接平版印刷刷版を作製すること且つ得られた
平版印刷刷版が十分な実用性を有すること、および、網
点構造による方法よりも優れた階調性をもった画像が形
成できること、を目的とした平版印刷刷版、かかる平版
印刷刷版への画線部の形成方法および画線部が形成され
た平版印刷刷版を提供する。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明の平版印刷刷版
は、支持体と、該支持体上に設けられた高分子相溶物層
とによって少なくとも構成され、前記高分子相溶物層に
は、高分子相溶物の相分離によって、表面エネルギーが
異なる画線部と非画線部が形成されることに特徴を有す
る。このとき、前記高分子相溶物層が、二種類以上の高
分子材料からなり、前記相分離が、スピノーダル分解に
よるものであることが好ましい。
【0016】この発明によれば、画線部と非画線部が、
高分子相溶物の相分離によって形成されるので、従来の
PS版等の平版印刷刷版のような現像工程を必要とする
刷版製造工程が不要となり、従来行なわれていたような
複雑な製造工程によらずに平版印刷刷版を作製すること
ができる。また、高分子相溶物層の相分離によって表面
エネルギーの異なる部分が形成されるので、画線部と非
画線部を容易に形成することができると共に、表面エネ
ルギーを調節するように相分離させることによって、従
来のような網点構造によらなくても、画線部に階調性を
持たせることができる。
【0017】前記相分離が、局所的な加熱、特に感熱ヘ
ッドまたは赤外線レーザーによってなされ、加熱された
部分の表面エネルギーが大きくなることによって画線部
と非画線部が形成されることが好ましい。赤外線レーザ
ーによって局部的に加熱される場合は、前記高分子相溶
物層が前記赤外線レーザーを透過し、前記支持体と前記
高分子相溶物層との間にレーザー吸収層が設けられてい
ることが好ましい。
【0018】この発明によれば、相分離が、感熱ヘッド
や赤外線レーザー等での局所的な加熱によってなされる
ので、直接高分子相溶物層上に画線部と非画線部を形成
することができる。また、感熱ヘッドや赤外線レーザー
を使用できるので、デジタルデータによって直接平板印
刷刷版を作製することができる。
【0019】また、本発明の平版印刷刷版は、前記高分
子相溶物層が段階的な温度となるように前記局所的な加
熱を行って、前記表面エネルギーを段階的に変化させる
ことにも特徴を有する。このとき、前記相分離後の表面
エネルギーが54〜79mN/mであることが好まし
い。
【0020】この発明によれば、段階的な温度となるよ
うな加熱により高分子相溶物層の表面エネルギーが段階
的に変化するので、親油性であった高分子相溶物層の表
面を、徐々に親水性に移行することができる。その結
果、相分離部の単位面積当たりのインキ受容量を段階的
に変化させることができるので、この相分離部を階調性
を有する画線部とすることができる。また、54〜79
mN/mの範囲で表面エネルギーを変化させることによ
って、優れた階調画像の印刷が可能な平版印刷刷版とす
ることができる。
【0021】本発明の平版印刷刷版への画線部形成方法
は、支持体と、該支持体上に設けられた高分子相溶物層
とによって少なくとも構成され、該高分子相溶物層がポ
リエーテルスルホン類とポリエチレンオキサイド類の混
合系からなる平版印刷刷版への画線部形成方法であっ
て、前記高分子相溶物層が局所的に加熱され、高分子相
溶物の相分離によって加熱された部分の表面エネルギー
が大きくなり、画線部と非画線部が形成されることに特
徴を有する。このとき、前記高分子相溶物層が、二種類
以上の高分子材料からなり、前記相分離が、スピノーダ
ル分解によるものであることが好ましい。
【0022】この発明によれば、平版印刷刷版の高分子
相溶物層への、局所的な加熱によって画線部と非画線部
を形成することができるので、従来のPS版等の平版印
刷刷版のような現像工程を必要とする刷版製造工程が不
要となり、従来行なわれていたような複雑な製造工程に
よらずに極めて効率的に平版印刷刷版を作製することが
できる。また、高分子相溶物層を局部的に加熱すること
によって起こる相分離により、加熱部分の表面エネルギ
ーが大きくなるので、この表面エネルギーの変化に応じ
て画線部と非画線部を容易に形成することができると共
に、表面エネルギーを調節するように相分離させること
によって、従来のような網点構造によらなくても、画線
部に階調性を持たせることができる。
【0023】また、前記局所的な加熱が、感熱ヘッドま
たは赤外線レーザーによってなされ、また、前記高分子
相溶物層が段階的な温度となるように前記局所的な加熱
を行い、前記表面エネルギーを54〜79mN/mの間
で段階的に変化させて、前記画線部に階調性を付与する
ことが好ましい。
【0024】この発明によれば、感熱ヘッドの温度設定
や赤外線レーザーの露光量によって加熱の程度を変化さ
せることができるので、高分子相溶物層を段階的な温度
とすることが容易となり、相分離の程度を容易に変化さ
せることができる。その結果、高分子相溶物層の表面エ
ネルギーを段階的に変化させることができるので、その
表面エネルギーの変化に応じた階調性を画線部に付与す
ることができる。また、感熱ヘッドや赤外線レーザー
は、デジタルデータによって容易に加熱量や露光量を制
御することができるので、コンピューター等の出力端末
からのデジタルデータによって、直接平版印刷刷版を作
製することが可能となる。
【0025】本発明の画線部が形成された平版印刷刷版
は、上述した平版印刷刷版への画線部形成方法によって
画線部が形成された平版印刷刷版である。
【0026】この発明によれば、高分子相溶物の相分離
という化学的な変化によって画線部と非画線部が形成さ
れ尚且つ階調性を有した画線部が形成されているので、
被印刷体に階調性を有した画像を容易に形成することが
できる。
【0027】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の平版印刷刷版の
一例を示す断面図である。平版印刷刷版1は、支持体2
と、支持体2上に設けられた高分子相溶物層3とによっ
て構成される。この平版印刷刷版1の高分子相溶物層3
表面には、高分子相溶物が相分離することによって画線
部と非画線部とが形成される。形成された画線部はイン
キを受容し、受容したインキが被印刷体上に転写される
ことによって画像が形成される。
【0028】高分子相溶物層3は、後述するように、2
種類以上の高分子材料からなるものであり、それぞれの
高分子材料は、表面エネルギー、即ち表面張力が異なる
ものであることが好ましい。
【0029】相分離する前の高分子相溶物層3は、単一
相であり、一定の表面エネルギーを有しているが、相分
離することによって、単一相ではなくなって表面エネル
ギーが変化する。その結果、相分離した部分と相分離し
ない部分は、その一方がインキを受容し易い表面エネル
ギーを有する画線部となり、他方がインキを受容し難い
表面エネルギーを有する非画線部を形成する。
【0030】平版印刷刷版1には、支持体2および高分
子相溶物層3以外の層を適宜必要に応じて設けてもよ
い。例えば、支持体2と高分子相溶物層3の接着を強固
にするため、その間に接着層を設けることができる。ま
た、支持体2の高分子相溶物層3側の反対側の面に、支
持体2の強度を向上させるため、補強層を設けることも
できる。
【0031】支持体2としては、従来のPS版で使用さ
れるものと同様の、アルミニウム、亜鉛、ステンレスス
チール、鉄、アルミニウムに銅をメッキした板、アルミ
ニウムに銅または真鍮およびクロムを順次メッキした板
等の金属板またはポリエチレンテレフタレート、ポリエ
ステル等の樹脂板が使用される。また、支持体2と高分
子相溶層3側との密着性を向上させるため、支持体2の
高分子相溶物層3側の表面を、プレーンまたは粗面化す
ることが好ましい。なお、支持体2と高分子相溶物層3
との間に接着層を設ける場合には、接着層によって密着
性を向上させることができるので、プレーンまたは粗面
化することは必ずしも必要とはされない。使用される支
持体の厚さは、アルミニウム等の金属板の場合は通常
0.1〜0.5mmであり、ポリエチレンテレフタレー
ト等の樹脂板の場合も通常0.1〜0.5mmである。
【0032】高分子相溶物層3は、上述したように、相
分離によって画線部と非画線部が形成されるものであれ
ばよい。この高分子相溶物層3は、二種類以上の高分子
材料からなり、スピノーダル分解によって相分離するも
のであることが好ましい。
【0033】スピノーダル分解とは、溶液や固溶体が熱
力学的に不安定になったときに相分離を起こす現象であ
り、本発明はこの現象を利用したものである。
【0034】図5は、二種類の高分子材料からなる高分
子相溶物の下限臨界共溶温度(LCST)型相図の模式
図である。ここで、実線は下限臨界共溶温度(以下「L
CST」という。)を示すものであり、このLCSTよ
り低温側は一相状態、LCSTより高温側は二相状態で
ある。LCST以上の二相状態の領域の温度を加える
と、高分子相溶物は相分離して二相状態になり、その
後、これを冷却すれば相分離した構造を保持したままの
高分子相溶物が得られる。例えば、図5に示すように、
LCSTを有する高分子相溶物の場合、温度T1で組成
Φの一相状態として存在する高分子相溶物を、温度T2
に急激に上昇させると、高分子相溶物は組成Φ’(%)
と組成Φ”(%)の二相状態に分離し、その後、元の温
度T1に戻っても一相状態とははならず、相分離したま
まの二相状態の高分子相溶物となる。こうした二相状態
の高分子相溶物は、一相状態の元の高分子相溶物とは異
なる特性を示し、特に表面エネルギー、具体的には親水
性や親油性等の表面張力(ぬれ性)が大きく変化する。
【0035】相分離による相状態の変化を高分子相溶物
層3上で行なうと、一相状態で存在する高分子相溶物層
3の表面エネルギーは、組成Φ’と組成Φ”の二相状態
に相分離した高分子相溶物層3の表面エネルギーに変化
する。こうした表面エネルギーの変化は、高分子相溶物
層3の親油性・親水性を大きく変化させ、相分離する前
の一相状態では親油性であった表面を、相分離した後の
二相状態では親水性のある表面に変化させることができ
る。その結果、インキを反発して非画線部となる相分離
部を形成することができ、相分離していない親油性の画
線部と相分離して親水性が増した非画線部を形成するこ
とができる。このような方法によって画線部と非画線部
が形成されるため、高分子相溶物層3を構成する高分子
材料は、それぞれ表面エネルギーの異なるものであるこ
とが好ましく、こうすることによって相分離して二相状
態になった後の相分離部の表面エネルギーを親水性の部
分と親油性の部分に変化させることができる。
【0036】高分子相溶物を構成する二種類以上の高分
子材料としては、ポリエーテルスルホンとポリエチレン
オキサイドの混合系、ポリスチレンとポリビニルメチル
エーテルの混合系、ポリスチレンと4一メチル−ビス−
フェノールA−ポリカーボネイトの混合系、ポリスチレ
ンとポリ−O−クロロスチレンの混合系、スチレン−ア
クリロニトリル共重合体とポリメチルメタクリレートの
混合系、スチレン−アクリロニトリル共重合体とポリ−
ε−カプロラクトンの混合系、スチレン−アクリロニト
リル共重合体とアクリロニトリル−ブタジエン共重含体
の混合系、ポリメチルメタクリレートと塩素化ポリエチ
レンの混合系、ポリメチルメタクリレートとポリ塩化ビ
ニルの混合系、α−メチルスチレン−アクリロニトリル
共重合体とポリメチルメタクリレートの混合系、ポリフ
ッ化ビニリデンとイソタクチックポリメチルメタクリレ
ートの混合系、ポリフッ化ビニリデンとポリメチルアク
リレートの混合系、ポリフッ化ビニリデンとポリエチル
アクリレートの混合系、ポリフッ化ビニリデンとポリメ
チルメタクリレートの混合系、ポリフッ化ビニリデンと
ポリエチルメタクリレートの混合系、ポリフッ化ビニリ
デンとポリビニルメチルケトンの混合系、ポリ硝酸ビニ
ルとポリメチルアクリレートの混合系、エチレン−酢酸
ビニル共重合体と塩素化ゴムの混合系、ポリカプロラク
トンとポリカーボネイトの混合系、または、それぞれの
誘導体の混合系等が挙げられる。これらのうち、ポリエ
ーテルスルホンとポリエチレンオキサイドの混合系また
はそれぞれの誘導体の混合物系を用いることが特に好ま
しい。
【0037】高分子相溶物層3は、上述の高分子材料を
所定の溶媒中で撹拌等し、得られた溶液をスピンコーテ
ィング法等の方法で支持体上に塗布、乾燥して形成され
る。形成される高分子相溶物層3の厚さは、通常1〜1
00μmである。
【0038】高分子相溶物層3の相分離を、局部的な加
熱、例えば、感熱ヘッドや赤外線レーザーによって行な
い、画線部と非画線部とを形成することが好ましい。
【0039】図2および図4は、局部加熱の手段として
感熱ヘッド4または赤外線レーザー7を用いた画線部の
形成方法の一例を示す模式断面図である。高分子相溶物
層3の表面を感熱ヘッド4または赤外線レーザー7で局
部的に加熱することによって、相分離部5が形成され
る。この相分離部5は、上述したように、親水性が増し
てインキを反発する非画線部となり、非画線部を形成す
ることによって画線部が形成されることとなる。
【0040】相分離部5は、局部加熱によって到達した
温度に対応して、組成の異なる相が現われる(図5参
照)。そして、相分離前の一相状態の表面エネルギーと
は異なり、通常、大きな値の表面エネルギーを有するよ
うになる。この表面エネルギーの値は、加熱による到達
温度によって適宜変化させることができるので、感熱ヘ
ッド4や赤外線レーザー7の出力によって到達温度を調
節し、所望の値に設定することができる。
【0041】感熱ヘッド4や赤外線レーザー7は、局部
的な加熱が可能であり、加熱部と非加熱部とを細かく区
分けすることができるので好ましく使用することができ
る。感熱ヘッド4は、そこに印加する電流によって微細
なドット単位で温度を適宜変化させることができるの
で、デジタルデータによっても高分子相溶物層3に段階
的な温度を印加することができる。そして、それぞれの
温度に応じた段階的な表面エネルギーを有し且つ親油性
から親水性に徐々に変化する相分離部5を形成すること
ができる。その結果、相分離部5の単位面積当たりのイ
ンキ受容量が異なる階調性を有した画線部とすることが
できるので、その後に被印刷体に転写することによっ
て、階調性のある画像を形成することが可能となる。
【0042】また、赤外線レーザー7は、照射する露光
量によって発熱量を変化させることができ、この露光量
を調節することによって高分子相溶物層3の温度を適宜
変化させることができるので、高分子相溶物層3に段階
的な温度を印加することができる。また、この露光量
は、デジタルデータによって容易に調節することができ
る。そして、上述の感熱ヘッド4の場合と同様に、段階
的な表面エネルギーを有し且つ親油性から親水性に徐々
に変化する相分離部5を形成することができる。その結
果、相分離部5の単位面積当たりのインキ受容量が異な
る階調性を有した画線部とすることができるので、その
後に被印刷体に転写することによって、階調性のある画
像を形成することが可能となる。赤外線レーザー7とし
ては、700〜1500nmの波長を照射するものであ
ることが好ましい。
【0043】赤外線レーザー7によって相分離を行なわ
せる場合には、図3に示す平版印刷刷版11の一例の断
面図ように、支持体2と高分子相溶物層3との間にレー
ザー吸収層6を設けることが好ましい。
【0044】レーザー吸収層7は、照射された赤外線レ
ーザー7を熱吸収部8(図4参照)で効率的に吸収して
発熱するので、照射された部分のみを相分離部5とする
ために好適に用いられる。レーザー吸収層6が設けられ
ていない場合には、一定の露光量で赤外線レーザー7を
照射しても、十分に発熱させることができない。また、
熱が分散してしまうので、照射された部分のみを相分離
部5とすることが困難となり、画線部と非画線部を明確
に区分けすることができないおそれがある。
【0045】レーザー吸収層6の構成材料としては、カ
ーボンブラック粒子の分散を含むニトロセルロース、ポ
リエステル、ポリイミド、ポリカーボネイト等の樹脂を
挙げることができ、樹脂の硬化架橋を開始するための添
加剤としては、メラミン−ホルムアルデヒド架橋剤、ま
たは、これに匹敵する溶媒抵抗および付着特性を付与す
るブロック化されたイソシアネート官能性化合物または
その他の各種のイソシアネート官能性化合物の何れかを
挙げることができる。
【0046】レーザー吸収層6は、上述の構成材料およ
び添加剤を所定の溶媒中で撹拌等し、得られた溶液をス
ピンコーティング法等の方法で支持体上に塗布、乾燥し
て形成される。形成されるレーザー吸収層6の厚さは、
通常0.1〜10μmである。
【0047】赤外線レーザー7によって相分離を行なう
とき、高分子相溶物層3が赤外線レーザー7を透過する
ものであることが好ましく、照射されたレーザー光を減
衰させることなくレーザー吸収層6に到達させ、局部的
な加熱を効率的に行なうことができる。このような作用
をする高分子相溶物層3として好ましいものは、上述し
たもののうち、ポリエーテルスルホンとポリエチレンオ
キサイドの混合系等が挙げられる。
【0048】感熱ヘッド4または赤外線レーザー7によ
って、高分子相溶物層3の加熱部が50〜400℃とな
るような段階的な加熱を行なうと、高分子相溶物層3
は、その温度に応じた相分離を起こし、相分離部5の表
面エネルギーは54〜79mN/mの範囲で段階的に変
化する。一般に、相分離部5の表面エネルギーは、温度
の上昇と共に大きい値になる。
【0049】表面エネルギーの値が大きくなるにしたが
って、親油性であった高分子相溶物層3が、徐々に親水
性に変化していく。その結果、親油性で、単位面積当た
り一定量の平版印刷用インキを受容していた画線部が、
徐々に単位面積当たりの受容量が減少していくことによ
って、階調画像が実現される。
【0050】親油性であった高分子相溶物層3が、相分
離によって完全に親水性に変化すると、湿し水を受容し
て、インキを全く受容しない非画線部が形成される。
【0051】一方、未加熱部分の高分子相溶物層3の表
面エネルギーは、通常40〜52mN/mであり、この
範囲の高分子相溶物層3表面は、全て親油性であり、湿
し水をはじくことになる。その結果、単位面積当たり同
量の平版印刷用の油性インキを受容することができ、こ
れによって画線部が形成される。
【0052】このような表面エネルギーの変化による単
位面積当たりのインキ受容量の段階的な調節を、従来か
ら行なわれている網点構造に併用することにより、階調
性豊かな画像を印刷することができる平板印刷刷板を作
製することができる。
【0053】こうして画線部と非画線部を形成した平版
印刷刷版1、11を、オフセット印刷機に装着してオフ
セット印刷を行うと、階調性に優れた画像が印刷された
印刷物を得ることができる。
【0054】
【実施例】以下の実施例により、本発明をさらに具体的
に説明する。
【0055】(実施例1)支持体2として、厚さ0.2
3mmのアルミニウム板を使用した。支持体2上に高分
子相溶物層3を形成するための溶液として、平均分子量
約3000〜35000のポリエーテルスルホン(住友
化学製)30gと平均分子量約180000〜2300
00のポリエチレンオキサイド10g(住友精化製)と
を、高速ブレンダー(VMA−GETZMANN製、D
ISPERMAT)を用いて2000rpmで30分間
撹拌し、全ポリマー濃度が約20wt%のN−N−ジメ
チルホルムアミド溶液を調整した。この溶液をスピンコ
ーティング法によって、上述した支持体2上に膜厚5μ
mとなるように塗布した。塗布条件としては、溶液4m
lをピペットで滴下しながら、スピンコーター(MIK
ASA製、1H−360S)を使用して50rpmで1
5秒間回転させた。これを70℃で10時間クリーンオ
ーブン(タバイエスペック製、PVC−230)を使用
して乾燥し、ポリエーテルスルホンとポリエチレンオキ
サイドの相溶物からなる高分子相溶物層3を形成し、平
版印刷刷版1を得た。
【0056】形成した高分子相溶物層3の表面自由エネ
ルギーを測定したところ、46.5mN/mであった。
測定は、接触角測定器(協和界面科学(株)製、CA−
Z型)を使用し、測定試薬としてノルマルヘキサデカ
ン、ヨウ化メチレンおよび純水を用い、それぞれの接触
角を測定し、FOWKESの式より算出した。
【0057】得られた平版印刷刷版1の高分子相溶物層
3上に、110℃の温度で15秒間、デジタルデータに
よって制御した感熱ヘッドによって網点構造となるよう
に局所的に加熱し、高分子相溶物層3にスピノーダル分
解による相分離を引き起こさせた。この時の相分離部5
の表面自由エネルギーは、66.5mN/mであった。
こうして、加熱部と非加熱部とで表面自由エネルギーが
異なるパターンを形成した。さらに、80℃、15秒間
の条件で、上記と同様の方法で相分離を引き起こさせ
た。この時の相分離部5の表面自由エネルギーは、5
5.0mN/mであった。次いで、140℃、15秒間
の条件で、上記と同様の方法で相分離を引き起こさせ
た。この時の相分離部5の表面自由エネルギーは、7
7.0mN/mであった。
【0058】このように、高分子相溶物層3に表面エネ
ルギーが段階的に異なる相分離部5を形成することがで
き、表面エネルギーの値が55.0mN/m〜77.0
mN/mに順次大きくなるにしたがって、単位面積当た
りのインク受容量が徐々に低下する相分離部5とするこ
とができ、階調性を付与した平版印刷刷版を作製するこ
とできた。
【0059】こうして得られた平版印刷刷版をオフセッ
ト印刷機((株)アルファー技研製、アルファーニュー
エース)に取り付け、墨、藍、紅、黄の各インキ(ザ・
インクテック(株)製、エイクロス)および湿し水(日
研化学研究所製のクリーンエッチ液を20倍に希釈)を
用いて、135kgの上質紙(A5サイズ)に印刷を行
ったところ、階調性を有する良好な印刷物を得ることが
できた。
【0060】(実施例2)支持体2として、厚さ0.2
3mmのアルミニウム板を使用した。先ず、支持体2上
にレーザー吸収層6を形成するための溶液として、ニト
ロセルロース(日本化薬製)35gと、ヘキサメトキシ
メチルメラミン(アメリカン・シアナミド社)5gと
を、高速ブレンダー(VMA−GETZMANN製、D
ISPERMAT)を用いて1000rpmで10分間
撹拌し、全ポリマー濃度が約10wt%のメチルエチル
ケトン溶液を調整した。この溶液に、イソプロピルアル
コール/メチルアルコール混合液を溶媒としたアミンブ
ロックp−トルエンスルホン酸溶液を10g、炭化チタ
ンを10gおよび1mmφのガラスビーズを適当量加
え、ペイントシェーカー(REDDEVIL社製、RC
−5000B)で20分間分散させて分散溶液を調整し
た。この分散溶液をスピンコーティング法によって、上
述した支持体2上に膜厚0.1μmとなるように塗布し
た。塗布条件としては、溶液2mlをピペットで滴下し
ながら、スピンコーター(MIKASA製、1H−36
0S)を使用して500rpmで2秒間回転させた。こ
れを150℃で10分間クリーンオーブン(タバイエス
ペック製、PVC−230)を使用して乾燥し、アルミ
ニウム板上に、厚さ0.1μmのレーザー吸収層6を形
成した。
【0061】次いで、レーザー吸収層6上に高分子相溶
物層3を形成するための溶液として、平均分子量約30
00〜35000のポリエーテルスルホン(住友化学
製)30gと、平均分子量約180000〜23000
0のポリエチレンオキサイド10g(住友精化製)と
を、高速ブレンダー(VMA−GETZMANN製、D
ISPERMAT)を用いて2000rpmで30分間
撹拌し、全ポリマー濃度が約20wt%のN−N−ジメ
チルホルムアミド溶液を調整した。この溶液をスピンコ
ーティング法によって、上述したレーザー吸収層6上に
膜厚5μmとなるように塗布した。塗布条件としては、
溶液4mlをピペットで滴下しながら、スピンコーター
(MIKASA製、1H−360S)を使用して50r
pmで15秒間回転させた。これを70℃で10時間ク
リーンオーブン(タバイエスペック製、PVC−23
0)を使用して乾燥し、ポリエーテルスルホンとポリエ
チレンオキサイドの相溶物からなる高分子相溶物層3を
形成し、平版印刷刷版1を得た。
【0062】形成した高分子相溶物層3の表面自由エネ
ルギーを測定したところ、46.5mN/mであった。
表面エネルギーの測定は、実施例1と同様とした。
【0063】得られた平版印刷刷版1の高分子相溶物層
3上に、デジタルデータによって制御した放射波長が8
30nmの赤外線レーザーを、150mJ/cm2 の出
力で照射した。赤外線レーザー7は、レーザー吸収層6
によって吸収されて熱吸収部8が局所的に加熱し、高分
子相溶物層3にスピノーダル分解による相分離を引き起
こさせた。この時の相分離部5の表面自由エネルギー
は、65.0mN/mであった。こうして、照射による
加熱部と照射してない非加熱部とで表面自由エネルギー
が異なるパターンを形成した。さらに、上記と同様の赤
外線レーザー7を100mJ/cm2 の出力で照射し、
上記と同様の方法で相分離を引き起こさせた。この時の
相分離部5の表面自由エネルギーは、57.0mN/m
であった。次いで、上記と同様の赤外線レーザー7を1
80mJ/cm2 の出力で照射し、上記と同様の方法で
相分離を引き起こさせた。この時の相分離部5の表面自
由エネルギーは、73.0mN/mであった。
【0064】このように、高分子相溶物層3に表面エネ
ルギーが段階的に異なる相分離部5を形成することがで
き、表面エネルギーの値が57.0mN/m〜73.0
mN/mに順次大きくなるにしたがって、単位面積当た
りのインク受容量が徐々に低下する相分離部5とするこ
とができ、階調性を付与した平版印刷刷版を作製するこ
とできた。
【0065】こうして得られた平版印刷刷版をオフセッ
ト印刷機((株)アルファー技研製、アルファーニュー
エース)に取り付け、墨、藍、紅、黄の各インキ(ザ・
インクテック(株)製、エイクロス)および湿し水(日
研化学研究所製のクリーンエッチ液を20倍に希釈)を
用いて、135kgの上質紙(A5サイズ)に印刷を行
ったところ、階調性を有する良好な印刷物を得ることが
できた。
【0066】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の平版印刷
刷版によれば、画線部と非画線部が、高分子相溶物の相
分離によって形成されるので、従来のPS版等の平版印
刷刷版のような現像工程を必要とする刷版製造工程が不
要となり、画線部と非画線部を容易に形成することがで
きる。また、相分離が、感熱ヘッドや赤外線レーザー等
での局所的な加熱によってなされるので、直接高分子相
溶物層上に画線部と非画線部を形成することができる。
また、感熱ヘッドや赤外線レーザーを使用できるので、
デジタルデータによって直接平板印刷刷版を作製するこ
とが可能となる。また、段階的な温度となるような加熱
により高分子相溶物層の表面エネルギーが段階的に変化
するので、親油性であった高分子相溶物層の表面を、徐
々に親水性に移行することができる。その結果、相分離
部の単位面積当たりのインキ受容量を段階的に変化させ
ることができるので、この相分離部を階調性を有する画
線部とすることができる。
【0067】本発明の平版印刷刷版への画線部形成方法
によれば、局所的な加熱によって画線部と非画線部を形
成することができるので、画線部と非画線部を容易に形
成することができ、また、従来のような現像工程を有す
る複雑な方法で画線部を形成しなくてもよいので、その
形成を極めて効率的に行なうことができる。さらに、感
熱ヘッドの温度設定や赤外線レーザーの露光量によって
加熱の程度を変化させることができるので、高分子相溶
物層を段階的な温度とすることが容易となり、相分離の
程度を容易に変化させることができる。その結果、高分
子相溶物層の表面エネルギーを段階的に変化させること
ができるので、その表面エネルギーの変化に応じた階調
性を画線部に付与することができる。また、感熱ヘッド
や赤外線レーザーは、デジタルデータによって容易に加
熱量や露光量を制御することができるので、コンピュー
ター等の出力端末からのデジタルデータによって、直接
平版印刷刷版を極めて容易に作製することが可能とな
る。また、画線部の形成が、高分子相溶物層のスピノー
ダル分解による相分離を用いているため、従来のように
画線部形成時に発生するゴミの影響を受けることがな
い。
【0068】本発明の画線部が形成された平版印刷刷版
によれば、高分子相溶物の相分離という化学的な変化に
よって画線部と非画線部が形成され尚且つ階調性を有し
た画線部が形成されているので、被印刷体に階調性を有
した画像を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の平版印刷刷版の一例を示す模式断面図
である。
【図2】本発明の平版印刷刷版への画線部の形成方法の
一例を示す模式断面図である。
【図3】本発明の平版印刷刷版の他の一例を示す模式断
面図である。
【図4】本発明の平版印刷刷版への画線部の形成方法の
他の一例を示す模式断面図である。
【図5】二種類の高分子材料からなる高分子相溶物の下
限臨界共溶温度(LCST)型相図の模式図である。
【符号の説明】
1、11 平版印刷刷版 2 支持体 3 高分子相溶物層 4 感熱ヘッド 5 相分離部 6 レーザー吸収層 7 赤外線レーザー 8 熱吸収部

Claims (13)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 支持体と、該支持体上に設けられた高分
    子相溶物層とによって少なくとも構成された平版印刷刷
    版であって、 前記高分子相溶物層には、高分子相溶物の相分離によっ
    て、表面エネルギーが異なる画線部と非画線部が形成さ
    れることを特徴とする平版印刷刷版。
  2. 【請求項2】 前記高分子相溶物層が、二種類以上の高
    分子材料からなり、前記相分離が、スピノーダル分解に
    よるものであることを特徴とする請求項1に記載の平版
    印刷刷版。
  3. 【請求項3】 前記相分離が、局所的な加熱によってな
    され、加熱された部分の表面エネルギーが大きくなるこ
    とによって画線部と非画線部が形成されることを特徴と
    する請求項1または請求項2に記載の平版印刷刷版。
  4. 【請求項4】 前記局所的な加熱が、感熱ヘッドまたは
    赤外線レーザーによってなされることを特徴とする請求
    項3に記載の平版印刷刷版。
  5. 【請求項5】 前記高分子相溶物層が前記赤外線レーザ
    ーを透過し、前記支持体と前記高分子相溶物層との間に
    レーザー吸収層が設けられていることを特徴とする請求
    項4に記載の平版印刷刷版。
  6. 【請求項6】 前記高分子相溶物層が段階的な温度とな
    るように前記局所的な加熱を行って、前記表面エネルギ
    ーを段階的に変化させることを特徴とする請求項3乃至
    請求項5の何れかに記載の平版印刷刷版。
  7. 【請求項7】 前記相分離後の表面エネルギーが54〜
    79mN/mとなることを特徴とする請求項1乃至請求
    項6の何れかに記載の平版印刷刷版。
  8. 【請求項8】 前記高分子相溶物が、ポリエーテルスル
    ホン類とポリエチレンオキサイド類の混合系からなるこ
    とを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れかに記載の
    平版印刷刷版。
  9. 【請求項9】 支持体と、該支持体上に設けられた高分
    子相溶物層とによって少なくとも構成され、該高分子相
    溶物層がポリエーテルスルホン類とポリエチレンオキサ
    イド類の混合系からなる平版印刷刷版への画線部形成方
    法であって、前記高分子相溶物層が局所的に加熱され、
    高分子相溶物の相分離によって加熱された部分の表面エ
    ネルギーが大きくなり、画線部と非画線部が形成される
    ことを特徴とする平版印刷刷版への画線部形成方法。
  10. 【請求項10】 前記高分子相溶物層が、二種類以上の
    高分子材料からなり、前記相分離が、スピノーダル分解
    によるものであることを特徴とする請求項9に記載の平
    版印刷刷版への画線部形成方法。
  11. 【請求項11】 前記局所的な加熱が、感熱ヘッドまた
    は赤外線レーザーによってなされることを特徴とする請
    求項9または請求項10に記載の平版印刷刷版への画線
    部形成方法。
  12. 【請求項12】 前記高分子相溶物層が段階的な温度と
    なるように前記局所的な加熱を行い、前記表面エネルギ
    ーを54〜79mN/mの間で段階的に変化させること
    を特徴とする請求項9乃至請求項11の何れかに記載の
    平版印刷刷版への画線部形成方法。
  13. 【請求項13】 請求項9乃至請求項12の何れかに記
    載の平版印刷刷版への画線部形成方法によって画線部が
    形成された平版印刷刷版。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114506164A (zh) * 2021-12-27 2022-05-17 北京中钞钞券设计制版有限公司 一种版材、印版及其制备方法和印刷方法

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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114506164A (zh) * 2021-12-27 2022-05-17 北京中钞钞券设计制版有限公司 一种版材、印版及其制备方法和印刷方法

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