【発明の詳細な説明】
テラゾシンを含有する緑内障治療用医薬組成物
技術分野
本発明は、副作用がなくかつ低濃度で優れた眼圧降下作用を有する緑内障治療
用医薬組成物に関する。
背景技術
緑内障は、眼球の内圧(眼圧)が異常に高くなったために、眼が疲れやすく、眼
がかすんだり、痛んだりして、視力がだんだん弱くなるなどの種々の症状が現れ
、失明する危険がある病気である。この病気にかかると、眼球が石のように硬く
なるので「石そこひ」ともいわれ、また、ひとみ(瞳孔)の奥が青く見えるので「青
そこひ」ともいわれている。
眼球の中は水のような液体(眼房水)が絶えず循環して、一定の眼圧(眼内圧1
0〜21mmHg)を維持している。これは、血液やリンパ液の循環、眼球壁の弾力
、支配している神経の働きなどによって調節されているが、これらのうちのどれ
かに変調が起こると眼圧が高まり、緑内障になる。
変調の原因が虹彩炎や外傷や硝子体出血などの眼病にある場合は、続発性緑内
障といわれる。しかし、普通問題となる緑内障は、変調の原因が分からない原発
性緑内障である。
原発性緑内障には、(1)急性な経過する炎性緑内障、(2)慢性に経過する単純
性緑内障、(3)先天性緑内障の3種類がある。
従来、緑内障の治療のために、眼圧の上昇を阻止しまたは上昇した眼圧を降下
させる目的で、種々の薬物が使用されている。眼圧降下剤としては、たとえばエ
ピネフリンなどの交感神経作動薬が知られているが、エピネフリンは、散瞳作用
のため狭隅角緑内障に用いると隅角閉塞が強くなり、急性の眼圧上昇を起こす可
能性があるばかりでなく、その他に血圧上昇や結膜の色素沈着もよく認められる
。
また、ピロカルピンなどの副交感神経作動薬は、縮瞳による視野の暗黒感や調
節異常などを引き起こす。
さらに、最近、チモロール等のβ−アドレナリン遮断剤が房水産生を抑制する
結果があることより、緑内障の治療に広く使用されているが[ドラッグ・セラピ
ー−プラクティカルシリーズ(Drug Therapy−Practical Series)、緑内障
の薬物療法、70〜75頁、1990年]、β−アドレナリン遮断剤は全身的な
副作用として徐脈,心不全,喘息発作などが報告されているため、このような症状
を有する患者には使用することはできない。
また、α1−アドルナリン遮断剤に房水流出を促進させる効果があることが示
唆されており、塩酸ブナゾシンに脈絡膜血流量を増加させることによる低眼圧緑
内障に対する新しい治療薬の可能性が示唆されている(日本眼科紀要,第42巻,
710〜714頁,1991年)。そこで、これを緑内障の治療に使用することが
考えられるが、その有する血管拡張作用による結膜充血や縮瞳が起こることは避
けられない。
これに対し、β−アドレナリン刺激剤はこのような患者にも使用できるものと
期待されるが、従来のβ−アドレナリン刺激剤であるサルブタモールなどは、高
濃度でなければ十分な効果を発揮せず、このため結膜の著明な充血が起こるので
、連用は不可能であるとされている。
上述のように、これまでのところ、上記のような副作用が少なく且つ低濃度で
有効な緑内障治療剤は、未だ満足すべきものが見出されていないのが現状である
。
ところで、最近、(±)−4−アミノ−2−[4−(テトラヒドロ−2−フロイル
)−1−ピペラジニル]−6,7−ジメトキシキナゾリン(以下、テラゾシンと称す
ることもある。)およびその製薬上許容される酸付加塩、その中でも特にテラゾ
シンの塩酸塩(以下、塩酸テラゾシンと称することもある。)が高血圧降下剤とし
て有用である旨の報告がされている(特開昭52−48678号公報)。さらに、
テラゾシン塩酸塩2水和物が、塩酸テラゾシン(無水物)より水溶性は小さいが、
溶液中で塩酸テラゾシンよりもずっと安定であるので、非経口投与により適して
いる旨の報告がされている(特公平2−31078号公報)。
図面の簡単な説明
図1は、有色家兎正常眼圧に対する各被験薬物あるいは生理食塩液の点眼によ
る眼圧の経時変化を示すグラフである。横軸は点眼後の時間(時間)を、縦軸は眼
圧(mmHg)を表す。各値は平均値±標準誤差を表す(例数は10)。図1中、符号a
、b、c、d、eおよびfは以下の被験薬物についての測定であることを示す;a:生
理食塩液、b:0.003%塩酸テラゾシン点眼液、c:0.01%塩酸テラゾシン点
眼液、d:0.03%塩酸テラゾシン点眼液、e:0.1%塩酸テラゾシン点眼液、f:
0.3%塩酸テラゾシン点眼液。また、*1および*2はそれぞれp<0.05お
よびp<0.01(対対照)を示し、これらはダネット(Dunnett)検定により分析し
た。
図2は、有色家兎正常眼圧に対する各被験薬物あるいは生理食塩液の点眼によ
る各群の反対眼(無処置眼)の眼圧の経時変化を示すグラフである。横軸は点眼液
の時間(時間)を、縦軸は眼圧(mmHg)を表す。各値は平均値士標準誤差を表す(例
数は10)。図2中、符号a、b、c、d、eおよびfは以下の被験薬物についての測
定であることを示す;a:生理食塩液、b:0.003%塩酸テラゾシン点眼液、c:
0.01%塩酸テラゾシン点眼液、d:0.03%塩酸テラゾシン点眼液、e:0.1
%塩酸テラゾシン点眼液、f:0.3%塩酸テラゾシン点眼液。
図3は、有色家兎正常眼圧に対する各被験薬物あるいは生理食塩液の点眼によ
る各群の点眼眼の瞳孔径を示すグラフである。横軸は点眼後の時間(時間)を、縦
軸は瞳孔径(mm)を表す。各値は平均値±標準誤差を表す(例数は10)。図3中、
符号a、b、c、d、eおよびfは以下の被験薬物についての測定であることを示す;
a:生理食塩液、b:0.003%塩酸テラゾシン点眼液、c:0.01%塩酸テラゾシ
ン点眼液、d:0.03%塩酸テラゾシン点眼液、e:0.1%塩酸テラゾシン点眼液
、f:0.3%塩酸テラゾシン点眼液。
図4は、有色家兎正常眼圧に対する0.5%マレイン酸チモロール点眼液ある
いは生理食塩液点眼による各群の眼圧の経時変化を示すグラフである。横軸は点
眼後の時間(時間)を、縦軸は眼圧(mmHg)を表す(例数は10)。図4中、符号aお
よびgは以下の被験薬物についての測定であることを示す;a:生理食塩液、g:0.
5%マレイン酸チモロール点眼液。
図5は、有色家兎正常眼圧に対する各被験薬物あるいは0.5%マレイン酸チ
モロール点眼液点眼による眼圧下降作用を、点眼直前の眼圧を初期値として点眼
開始から点眼8時間までの時間曲線下面積(AUC)にて比較したグラフである。
縦軸はAUC(mmHg・時間)を表す。図5中、符号b、c、d、e、fおよびgは以下
の被験薬物についての測定であることを示す;b:0.003%塩酸テラゾシン点
眼液、c:0.01%塩酸テラゾシン点眼液、d:0.03%塩酸テラゾシン点眼液、
e:0.1%塩酸テラゾシン点眼液、f:0.3%塩酸テラゾシン点眼液、g:0.5%
マレイン酸チモロール点眼液。また、*1および*2はそれぞれp<0.05およ
びp<0.01を示し、これらはダネット(Dunnett)検定により分析した。
発明の開示
本発明者等は、従来の上記薬剤の有するような欠点(副作用)がなく、かつ低濃
度で有効な眼圧降下作用を有する薬剤を見出すべく鋭意研究を重ねた。その結果
、本発明者等は、上記公報中に記載の塩酸テラゾシンが意外にも予期しなかった
優れた眼圧降下作用を有し、従来の薬剤に見られた副作用が少なくかつ低濃度で
有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、上記のような欠点(副作用)がなくかつ低濃度で有効な眼圧降下作用
を有する新規かつ有用な緑内障治療用医薬組成物を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、式:
で表される(±)−4−アミノ−2−[4−(テトラヒドロ−2−フロイル)−1−
ピペラジニル]−6,7−ジメトキシキナゾリン(すなわちテラゾシン)またはその
製薬上許容される酸付加塩および製薬上許容される担体よりなる緑内障治療用組
成物を提供する。
製薬上許容される酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、および
マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩などの有機酸塩などが挙げられるが、その
中でも塩酸塩(すなわち、塩酸テラゾシン)が好ましい。また、塩酸テラゾシン2
水和物が特に好ましい。
本発明の医薬組成物の有効成分として用いるテラゾシンまたはその製薬上許容
される酸付加塩の理化学的性状およびその製造法は、たとえば上記の特開昭52
−48678号公報に記載されている。
本発明の医薬組成物は、後述する試験例より明らかなように、低濃度で優れた
眼圧降下作用を有しかつ毒性が低いので、種々の緑内障の治療に有効な薬剤とし
て用いることができる。
テラゾシンまたはその製薬上許容される酸付加塩を該医薬組成物として用いる
場合、通常、それ自体公知の薬理学的に許容され得る担体、賦形剤、希釈剤など
と混合し、公知の方法に従って、たとえば点眼剤、眼軟膏剤、注射剤などの非経
口剤として、または、たとえば錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの経口剤として製
剤化することができる。
たとえば、本発明の医薬組成物を点眼剤として用いる場合は、本発明の目的を
損なわないかぎり、点眼剤に通常配合される緩衝剤、等張化剤、防腐剤、溶解補
助剤(安定化剤)、pH調整剤、増粘剤、キレート剤などの各種添加剤を適宜に添
加してもよい。
緩衝剤としては、たとえばリン酸塩緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝
剤、酒石酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、アミノ酸などが用いられる。
等張化剤としては、たとえばソルビトール,グルコース,マンニトールなどの糖
類、グリセリン,ポリエチレングリコール,プロピレングリコールなどの多価アル
コール類、塩化ナトリウムなどの塩類などが用いられる。
防腐剤としては、たとえば塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラ
オキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸エチルなどのパラオキシ安息香酸エ
ステル類、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸またはその
塩、チメロサール、クロロブタノールなどが用いられる。
溶解補助剤(安定化剤)としては、たとえばシクロデキストリン類およびその誘
導体、ポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子、界面活性剤などが用いられる
。
pH調整剤としては、たとえば塩酸、酢酸、リン酸、水酸化ナトリウム、水酸
化カリウム、水酸化アンモニウムなどが用いられる。
増粘剤としては、たとえばヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピル
セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボ
キシメチルセルロースおよびその塩などが用いられる。
キレート剤としては、たとえばエデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、縮
合リン酸ナトリウムなどが用いられる。
また、本発明の医薬組成物を眼軟膏剤として用いる場合、その眼軟膏基剤とし
ては、精製ラノリン、ワセリン、プラスチベース、流動パラフィン、ポリエチレ
ングリコールなどが適宜に用いられる。
さらに、本発明の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの経口剤とし
て、あるいは注射剤として使用することもできる。
本発明の医薬組成物は、緑内障に罹患した哺乳動物(例えばヒト、イヌ、ネコ
、ウサギ、ウマ、ウシなど)に投与することができる。
本発明の医薬組成物の投与量は、投与ルート,症状,患者の年齢,体重などによ
っても異なるが、たとえば成人の緑内障患者に点眼剤として用いる場合は、有効
成分であるテラゾシンまたはその製薬上許容される酸付加塩を約0.001〜3.
0w/v%、好ましくは約0.01〜1.0w/v%程度含有する点眼剤として、症状
に応じて1回量1〜数滴を1日1〜6回投与することが望ましい。
また、本発明の医薬組成物を眼軟膏剤として用いる場合は、有効成分であるテ
ラゾシンまたはその製薬上許容される酸付加塩を約0.001〜1w/w%、好ま
しくは0.01〜1.0w/w%程度含有する眼軟膏剤として、症状に応じて1日1
〜4回程度投与するのが望ましい。
本発明の医薬組成物には、本発明の目的に反しないかぎり、さらに他の緑内障
治療剤の1種または2種以上を適宜加えてもよい。
また、本発明の医薬組成物には、本発明の目的に反しないかぎり、他の薬効を
有する成分を適宜含有させてもよい。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明し、試験例により本発明の
効果を明らかにするが、これらは単なる例示であって、これらにより本発明の範
囲が限定されるものではない。
実施例 実施例1
点眼剤
常法に従い、次の処方で点眼剤を調製した。
塩酸テラゾシン2水和物 0.12 g
(テラゾシンとして 0.1 g)
濃グリセリン 2.6 g
酢酸ナトリウム 0.1 g
塩化ベンザルコニウム 0.005g
希塩酸 適量
(pH6.0)
滅菌精製水を加えて全量で100mlにする。実施例2
点眼剤
常法により、次の処方で点眼剤を調製した。
塩酸テラゾシン2水和物 0.036g
(テラゾシンとして 0.03 g)
塩化ナトリウム 0.9 g
酢酸ナトリウム 0.1 g
ポリビニルピロリドン 0.5 g
塩化ベンザルコニウム 0.01 g
希塩酸 適量
(pH4.0)
滅菌精製水を加えて全量で100mlにする。実施例3
点眼剤
常法により次の処方で点眼剤を調製した。
塩酸テラゾシン2水和物 0.36 g
(テラゾシンとして 0.3 g)
塩化ナトリウム 0.9 g
リン酸−水素ナトリウム 0.1 g
エデト酸ナトリウム 0.05 g
塩化ベンザルコニウム 0.01 g
水酸化ナトリウム 適量
(pH7.0)
滅菌精製水を加えて全量で100mlにする。実施例4
点眼剤
常法に従い、次の処方で点眼剤を調製した。
塩酸テラゾシン2水和物 0.36 g
(テラゾシンとして 0.3 g)
濃グリセロール 2.6 g
酢酸ナトリウム 0.1 g
塩化ベンザルコニウム 0.005g
希塩酸 適量
(pH6.0)
滅菌精製水を加えて全量で100mlにする。実施例5
眼軟膏剤
常法により、次の処方で眼軟膏剤を調製した。
塩酸テラゾシン2水和物 3.6 g
(テラゾシンとして 3.0 g)
流動パラフィン 1.0 g
白色ワセリン 適量
全量100g試験例1
有色家兎正常眼圧に対する、塩酸テラゾシン2水和物点眼液点眼による眼圧下
降作用および反対眼(無処置眼)の眼圧への影響
体重約2kgの雄性有色家兎(Dutch belted rabbit)60匹を用い、眼に異常
のないことを確かめた後、温度24±4℃、湿度55±15%の飼育室内で飼育
し、飼料は固型飼料[ラボRG−RO,日本農産工業(株)]を1日100gを与え、
飲料水として水道水を自由に摂取させた。
被検薬物として、塩酸テラゾシン2水和物をテラゾシンとして0.003w/v
%、0.01w/v%、0.03w/v%、0.1w/v%および0.3w/v%の各濃度で
含有する点眼液(以下それぞれ、0.003%塩酸テラゾシン点眼液、0.01%
塩酸テラゾシン点眼液、0.03%塩酸テラゾシン点眼液、0.1%塩酸テラゾシ
ン点眼液および0.3%塩酸テラゾシン点眼液と称する。)を使用した。また、対
照物質として生理食塩液を用いた。
上記のようにして飼育した家兎60匹を1群10匹ずつ6群に分け、片眼に各
被験薬物または生理食塩液をそれぞれ50μlずつ点眼し、反対眼は無処置とし
た。点眼直前および点眼0.5、1、2、4、6および8時間後にニューマトノ
グラフ(pneumatonograph:Alcon社。以下、PTGと称する。)で両眼の眼圧を測
定した。
各被験薬物および生理食塩液点眼眼の眼圧の経時変化を、図1(処置眼)および
図2(無処置眼)に示した。
図1に示した結果から明らかなように、0.3%塩酸テラゾシン点眼液点眼群
では、点眼30分後より6時間後まで有意な眼圧下降が持続し、点眼1時間後に
は、7.3mmHgの最大眼圧下降を示した。0.1%塩酸テラゾシン点眼液点眼群
では、点眼30分後より4時間後まで有意な眼圧下降が得られ、点眼1時間後に
6.0mmHgの最大眼圧下降を示した。0.03%塩酸テラゾシン点眼液点眼群で
は、点眼30分後より2時間後まで有意な眼圧下降が得られ、点眼1時間後に5
.9mmHgの最大眼圧下降を示した。0.01%塩酸テラゾシン点眼液点眼群では
、点眼1時間後に有意な眼圧下降が得られ、4.1mmHgの最大眼圧下降を示した
。0.003%塩酸テラゾシン点眼液点眼群では、点眼30分後に2.2mmHgの
最大眼圧下降が得られた。有意ではなかった。
また、図2(無処置眼)に示した結果から明らかなように、各被験薬物点眼群の
反対眼の眼圧には有意な変化は認められなかった。従って、塩酸テラゾシンは反
対眼には影響しないものと認められる。試験例2
有色家兎瞳孔径に対する塩酸テラゾシン2水和物点眼液点眼による影響
上記試験例1において片眼に各被験薬物または生理食塩液をそれそれ50μl
ずつ点眼した家兎60匹(反対眼は無処置)について、各被験薬物または生理食塩
液の点眼直前および点眼0.5、1、2および4時間後に、両眼の瞳孔径をマイ
クロノギスで測定した。
各被験薬物および生理食塩液点眼眼の瞳孔径変化を図3に示した。図3に示し
た結果から明らかなように、各被験薬物点眼群の瞳孔径は、いずれの群において
も正常範囲内のバラツキで、有意な瞳孔径変化はなかった。従って、塩酸テラゾ
シンは瞳孔径に影響しないものと認められる。試験例3
有色家兎正常眼圧に対する陽性対照薬(0.5%マレイン酸チモロール点眼液)
の点眼による眼圧下降度の比較
上記試験例1と同様にして飼育した家兎10匹を用い、片眼に陽性対照薬の0
.5%マレイン酸チモロール点眼液を点眼し、反対眼には生理食塩液をそれぞれ
50μlずつ点眼した。点眼直前および点眼0.5、1、2、4、6および8時間
後にPTGで両眼の眼圧を測定した。その結果を図4に示した。
図4に示した結果から明らかなように、陽性対照薬の0.5%マレイン酸チモ
ロール点眼液点眼群では、点眼1時間後に2.5mmHgのわずかな最大眼圧下降が
得られたに過ぎず、生理食塩液点眼群の眼圧と比較して有意な変化は認められな
かった。
また、有色家兎正常眼圧に対する各被験薬物あるいは0.5%マレイン酸チモ
ロール点眼液点眼による眼圧下降度を、点眼前の眼圧を初期値として点眼開始か
ら点眼8時間までの時間曲線下面積(AUC)にて比較した。その結果を図5に示
した。
図5に示した結果から明らかなように、塩酸テラゾシンは、有色家兎の正常眼
圧に対して、テラゾシンとして0.003%から0.3%の濃度範囲で濃度に依存
した有意な眼圧下降作用を示した。また、その眼圧下降作用は、0.1%濃度に
おいて、0.5%マレイン酸チモロール点眼液より強いことが判った。試験例4
(1)塩酸テラゾシンの、マウス、ラットおよびイヌを用いた急性毒性試験
ICR系マウスおよびWistar系ラットを用いて、塩酸テラゾシンの急性毒性(
50%致死量(LD50))を、経口投与、皮下投与および静脈内投与にて検討した
。また、ビーグル犬を用いて、塩酸テラゾシンの致死量を、経口投与にて検討し
た。
マウスおよびラットの経口投与は、塩酸テラゾシンをトラガントゴムに懸濁さ
せたものを経口ゾンデにより投与した。また、マウスおよびラットの皮下投与お
よび静脈内投与は、塩酸テラゾシンを生理食塩液に溶解させたものを、注射器に
より皮下または尾静脈より投与した。さらに、イヌの経口投与は、塩酸テラゾシ
ンをゼラチンカプセルに充填したものを投与した。
その結果を表1に示す。
(2)0.03%、0.1%および0.3%塩酸テラゾシン点眼液のウサギを用い
た28日間連続点眼投与による眼局所毒性試験
日本白色種雄性ウサキを1群6匹ずつ計24匹用い、被験薬物として、0.0
3%塩酸テラゾシン点眼液、0.1%塩酸テラゾシン点眼液および0.3%塩酸テ
ラゾシン点眼液ならびに対照物質として生理食塩液を、各群のウサギの右目に、
3時間間隔で、1回1滴(0.05ml)を1日4回、28日間連続点眼し、以下の
項目について眼局所毒性を評価した。その際、反対眼は無処置とした。
観察は、以下の(1)〜(6)の項目について行った。
(1)死亡例および一般状態
毎日、死亡例および一般状態を観察した。
(2)体重および摂餌量の測定
週1回、体重および摂餌量を測定した。
(3)前眼部の肉眼観察
改良ドレーズ(Draize)法に基づき、週1回、前眼部の肉眼観察を行った。
(4)角膜検査
フローレス試験紙を用い、週1回、角膜を観察した。
(5)角膜上皮の走査型電子顕微鏡による評価
各被験薬物の点眼終了後に、走査型電子顕微鏡により角膜上皮の形態を観察し
た。
(6)角膜、結膜および網膜の光学顕微鏡による評価
各被験薬物の点眼終了後に、光学顕微鏡により、角膜、結膜および網膜につい
て鏡検した。
その結果、各被験薬物投与期間中、0.03%塩酸テラゾシン点眼液、0.1%
塩酸テラゾシン点眼液および0.3%塩酸テラゾシン点眼液のいずれの投与群に
ついても、(1)死亡例はなく、また、一般状態、(2)体重および摂餌量には、異
常は認められなかった。また、(3)前眼部の肉眼観察においても、各被験薬物の
いずれについても、結膜に極めて軽度の発赤を認めた眼があったが、異常と判断
されるものではなかった。さらに、(4)角膜検査、(5)角膜上皮の走査型電子顕
微鏡による評価および(6)角膜、結膜および網膜の光学顕微鏡による評価におい
ても、各被験薬物のいずれについても、異常は認められなかった。
以上の各種試験の結果から、本発明の塩酸テラゾシン含有緑内障治療剤は、低
濃度で優れた眼圧下降作用を示すばかりでなく、反対眼(非処理眼)や瞳孔径に影
響を及ぼさず、また副作用(毒性)も少ないので、臨床的に非常に安全な薬剤であ
ると認められる。
本発明の医薬組成物は、低濃度で優れた眼圧降下作用を有しかつ毒性が低いの
で、種々の緑内障の治療に有利に用いられる。