JPH1046300A - 靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼 - Google Patents

靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼

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JPH1046300A
JPH1046300A JP22170296A JP22170296A JPH1046300A JP H1046300 A JPH1046300 A JP H1046300A JP 22170296 A JP22170296 A JP 22170296A JP 22170296 A JP22170296 A JP 22170296A JP H1046300 A JPH1046300 A JP H1046300A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具
鋼を得る。 【解決手段】 重量%で、C:0.7〜1.3%、S
i:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:3.0
〜4.6%、WまたはMoの1種または2種をW当量(W
+2Mo)で3.5〜12.0%、V:2.0〜4.0
%を含有し、残部が実質的にFeと不可避的不純物から
なり、マルテンサイト基地中の未固溶炭化物の総量が面
積%にて1〜10%である粉末高速度工具鋼であって、
望ましくは、焼き戻し後のミクロ組織中に点在する原料
粉末の痕跡が長径/短径の比で1〜15である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷間、温間、熱間
加工用金型や切削工具その他各種の工具に用いられる粉
末冶金法による高速度工具鋼において、優れた靭性と耐
摩耗性を同時に兼ね備えた粉末高速度工具鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】過酷な条件下で使用される高速度工具
は、その使用環境における強度に加えて、靭性と耐摩耗
性が要求され、さらに、近年においては、より過酷な環
境での使用が求められており、それに伴う高速度工具鋼
の上記特性の向上が課題となっている。
【0003】高速度工具の素材としては、従来より溶製
法による高速度工具鋼が多く用いられてきたが、溶製法
によって製造された高速度工具鋼は組織中の炭化物が均
一に分散しておらず、またサイズも均一でないため、素
材の採取位置によって靭性値がばらつくことが避けられ
ない。このため、例えば素材を金型として使用した場
合、部分的な靭性のばらつきの程度によっては、使用中
に割れが発生する場合があり、より過酷な環境での使用
においては、金型が一瞬にして割れてしまう場合もあっ
た。
【0004】このような使用中の割れの発生を防止する
手段として、粉末冶金法によって製造する粉末高速度工
具鋼の使用が有効である。粉末高速度工具鋼は、ガスア
トマイズ法により製造した原料粉末を熱間静水圧プレス
(HIP)によって高温加圧成形した後、熱間鍛造、熱
間圧延のような熱間加工を施すことにより製造される。
【0005】原料粉末は、高温加圧成形によって互いに
固相接合されることで成形されるが、原料粉末の表面は
酸化などによって少なからず変質している場合があり、
その結果、成形後の素材中には原料粉末間が十分に接合
されない結合度の低い境界があった。この接合が不十分
な境界は、焼入れ、焼戻しを経た後にも解消されず、粉
末高速度工具鋼の靭性を劣化させる原因となる。
【0006】よって、高温加圧成形による素材は、高圧
下率の熱間加工を施し、原料粒を展伸することによって
該境界に存在する変質層を砕き、新生面の出現による原
料粉末間の接合度を高めることが必要であった。なお、
ここで言う圧下率とは、熱間加工の方向に垂直な断面に
おいて、加工前と後での断面積の比であり、鍛造比、圧
延比に代表されるものである。
【0007】このような高圧下率の熱間加工を施して得
られた粉末高速度工具鋼は、原料粉末間の接合性に優
れ、また、結晶粒が微細であり、焼入れ後においてマル
テンサイト基地中に固溶せずに存在する炭化物、すなわ
ち未固溶炭化物が均一に分布しており、この未固溶炭化
物は焼戻し後においても変化しないため、靭性および耐
摩耗性に優れている。さらに、上述の粉末高速度工具鋼
は、組織自体が均一であるため、強度や靭性の異方性に
起因する使用中の工具の破損防止にも効果がある。
【0008】また、近年のより過酷な使用条件下におい
て、さらに靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具
鋼が提案されている。例えば、不純物であるPを限定す
ることで靭性を改善するものとして特開平7−1139
8が、炭化物の量を制限することで靭性を改善するもの
として特表平6−509610があり、また、炭化物の
サイズを限定することで靭性を改善するものとして特開
平1−152242が提案されているが、これらの提案
も高圧下率の熱間加工を施して得られる粉末高速度工具
を前提としたものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上述した粉末高速度工
具鋼は、靭性および耐摩耗性に優れるものとして有効な
ものである。しかし、近年のより過酷な使用条件下に加
えて、高速度工具はさらにそれ自体の大型化が進んでお
り、従来の粉末高速度工具鋼では、靭性を得るために高
鍛造比の熱間加工が必要であり、その結果として、加工
方向に垂直な断面積が小さいものとなるため大型の工具
としての適用が困難である。
【0010】また、従来の粉末高速度工具鋼において、
大型の素材を得るために単に鍛造比を減じれば、靭性に
ばらつきが出ることは必至であり、靭性を上げるために
炭化物の量を制限すれば、耐摩耗性の低下を招いてしま
う。
【0011】そこで、本発明は以上の点に鑑み、熱間加
工における鍛造比が低くても十分な靭性が得られ、その
結果、大型の工具にも適用できる靭性および耐摩耗性に
優れた粉末高速度工具鋼を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】熱間加工において高鍛造
比で加工した粉末高速度工具鋼は、原料粉末間の境界面
が新生面によって結合されているため接合性に優れ、高
靭性を備えたものとなる。よって、構成元素の成分は耐
摩耗性の向上に重点を置いて設定することで、良好な耐
摩耗性と靭性を兼備した粉末高速度工具鋼を得ることが
できる。
【0013】しかし、鍛造比を減じていくと原料粉末間
の接合度の低下によって靭性に劣る粉末高速度工具鋼と
なってしまい、もはや耐摩耗性の向上に重点を置いた成
分では靭性の不足を補うことはできない。そこで、本発
明者らは、粉末高速度工具鋼の成分および組織を見直
し、高鍛造比の適用はもちろん低鍛造比の適用によって
も十分な靭性と耐摩耗性を兼備する粉末高速度工具鋼を
達成するため、耐摩耗性および靭性に対する未固溶炭化
物の影響と、靭性に対する熱間加工での鍛造比の影響と
の関連性について、詳細な検討を行った。
【0014】その結果、鍛造比を減じても、焼入れ後の
マルテンサイト基地中のMC、M6C型に代表される未
固溶炭化物を適確に制御すれば、工具鋼に要求される耐
摩耗性と靭性をバランスよく維持できることを突きと
め、さらに、この効果を達成できる未固溶炭化物と鍛造
比の範囲の組み合わせを見いだした。さらに、本発明者
らは、上記の効果を達成するにあたって、焼入れ後の組
織中により最適な量および種類の未固溶炭化物が存在す
るような構成元素と組成を併せて明確化し、本発明に至
った。
【0015】すなわち、本発明の粉末高速度工具鋼は、
重量%で、C:0.7〜1.3%、Si:2.0%以
下、Mn:2.0%以下、Cr:3.0〜4.6%、W
またはMoの1種または2種をW当量(W+2Mo)で
3.5〜12.0%、V:2.0〜4.0%を含有し、
残部が実質的にFeと不可避的不純物からなり、マルテ
ンサイト基地中の未固溶炭化物の総量が面積%にて1〜
10%に設定することで、靭性を得るために必要となる
最低の鍛造比を低く設定することができ、その結果、大
型の工具にも対応できる靭性および耐摩耗性に優れた粉
末高速度工具鋼を提供できる。
【0016】なお、ここで言う面積%とは、本発明の粉
末高速度工具鋼の任意断面積に占める未固溶炭化物の総
断面積の割合である。図2は焼戻し後の組織中に存在す
る未固溶炭化物の一例を示すものであり、表面を研磨
後、光学顕微鏡にて1000倍で観察したものである。
この場合、未固溶炭化物の面積%は7%である。
【0017】それに加えて、本発明者らは、鍛造比と焼
入れ後の粉末高速度工具鋼の組織中に残る原料粉末の痕
跡には相関関係があることを突きとめ、小さな鍛造比で
も十分な靭性が確保できる組織条件として、ミクロ組織
中に残る原料粉末の痕跡の状態を定義づけた。なお、こ
こで言う焼入れ後の組織中に残る原料粉末の痕跡とは、
ミクロ組織中において個々の原料粉末が確認できる状態
であり、この痕跡は焼戻し後の組織においても確認が可
能である。図1は、焼戻し後の組織中に残る原料粉末の
痕跡の一例を示すものであり、確認を容易とするため
に、ナイタールでエッチング処理を施し、偏光顕微鏡に
て35倍で観察したものである。
【0018】熱間加工において高鍛造比の熱間加工をし
た粉末高速度工具鋼は、原料粉末が展伸されるため原料
粉末間の境界が不明確になり、焼入れ後のミクロ組織中
に原料粉末の痕跡を確認することは困難である。しか
し、鍛造比を下げていくにつれ、原料粉末間の境界が確
認しやすくなり、さらに鍛造比が小さくなると原料粉末
の痕跡がガスアトマイズ粉の形状に近い状態で確認され
やすくなる。
【0019】つまり、焼入れ後のミクロ組織中に原料粉
末の痕跡を確認できないものは、高鍛造比で熱間加工し
た粉末高速度工具鋼に対応するのである。そして、本発
明の特徴の一つである低い鍛造比で熱間加工すると、鍛
造比を減じていくにつれて形状が確認できる原料粉末が
現れだし、その形状は鍛造比に応じて展伸されるため、
原料粉末の展伸度によって鍛造比を定義することができ
るのである。
【0020】すなわち、本発明の低鍛造比で熱間加工し
た粉末高速度工具鋼は、焼入れ後のミクロ組織中に原料
粉末の痕跡が点在する粉末高速度工具鋼で特定でき、好
ましくは、点在する原料粉末の痕跡が長径/短径の比で
1〜15である粉末高速度工具鋼であれば、低鍛造比を
適用したものでも良好な靭性と耐摩耗性を達成できる。
【0021】さらに上記の粉末高速度工具鋼のうち、重
量%で、炭素当量をCeq=0.06Cr+0.063
Mo+0.06W+0.2Vとするとき、Cが−0.3
5≦C−Ceq≦−0.10の条件をみたすことで焼入
れ後のマルテンサイト基地中の未固溶炭化物を最適に調
整することができ、本発明の効果を最大限に引き出すこ
とができる。
【0022】また、本発明の粉末高速度工具鋼は、その
使用用途に応じて、Feの一部を重量%で、10%以下
のCoまたはNiで、あるいはVの一部を重量%で、2
%以下のNbで置換することでも、同一の効果を備える
靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を得るこ
とができる。
【0023】
【発明の実施の形態】本発明の特徴の一つは、熱間加工
における鍛造比を減じても、良好な靭性と耐摩耗性をバ
ランスよく維持できる未固溶炭化物と鍛造比の範囲の関
係を見いだしたことにある。従来の粉末高速度工具鋼
は、その製造工程において、靭性を得るために上述した
ような高鍛造比の熱間加工を施こすことが当然であった
ため、熱間加工後の素材は加工方向に対する断面積が小
さいものとなる。
【0024】しかし、本発明の粉末高速度工具鋼は、低
い鍛造比を適用しても十分な耐摩耗性と靭性を兼ね備え
ているので、大型の工具の適用に必要な大きさを十分に
確保することができる。すなわち、熱間加工において、
低鍛造比で熱間加工した粉末高速度工具鋼は本発明が初
めてであり、本発明によって初めて十分な耐摩耗性と靭
性を兼備し、かつ大型の工具への適用も可能となる粉末
高速度工具鋼が供給できるのである。
【0025】本発明の粉末高速度工具鋼において、良好
な靭性と耐摩耗性を兼ね備える粉末高速度工具鋼を得る
ためには、製造工程において高鍛造比で熱間加工するこ
とが望ましいが、大型の工具に適用できる大きさの粉末
高速度工具鋼を得るためには、鍛造比を減じる必要があ
り、よって靭性の劣化が生じる。すなわち、本発明は鍛
造比を下げることによる靭性の劣化を靭性に影響を及ぼ
す未固溶炭化物を最適に調整することで補い、十分な靭
性と耐摩耗性を同時に達成するものである。
【0026】具体的には、焼入れ後の組織中の未固溶炭
化物が多すぎると、もはや鍛造比を上げても靭性の劣化
を防ぐことが困難となるため、未固溶炭化物の上限を面
積%で10%とした。また、未固溶炭化物が少な過ぎる
と、良好な耐摩耗性の確保ができないため、未固溶炭化
物の下限を面積%で1%とした。
【0027】そして、上述の粉末高速度工具鋼に含まれ
る炭化物の量および種類は、構成元素の種類および組成
によるところが大きく、上記の効果を達成するために、
焼入れ後のマルテンサイト基地中により最適な量および
種類の未固溶炭化物が存在するような組成を以下のよう
に定めた。
【0028】以下に、本発明の必要な元素につき、組成
の量と、その作用について述べる。Cは、同時に添加す
るCr、W、MoおよびVと結合して固い炭化物を形成
し、未固溶炭化物として耐摩耗性の向上に効果があると
ともに、焼入れ時のオーステナイト化温度まで加熱した
際にマトリクス中に固溶して、焼戻しの際に再び炭化物
として析出する、いわゆる二次効果の作用を持つ。工具
鋼に必要とされる耐摩耗性を得るためには、少なくとも
0.7%以上の添加が必要であるが、1.3%を超える
と炭化物が粗大化し靭性が劣化するので、Cの添加量
は、0.7〜1.3%とした。
【0029】Siは、精錬工程における脱酸元素である
と同時に、硬さおよび耐熱性を向上させる元素であり、
添加することが好ましい。添加する場合には、2%を超
えると靭性が劣化するので上限を2%とした。Mnは、
精錬過程における脱酸元素であると同時に、MnSとし
て析出することで不純物として含有するSの有害性を抑
える効果があり、添加することが望ましい。添加する場
合には、2%を超えると靭性が劣化するので上限を2%
とした。
【0030】Crは、焼入れ性を高め、また焼戻しによ
ってM236型炭化物として析出し二次硬化に効果を示
す元素である。上述の二次硬化性を得るには、少なくと
も3.0%以上の添加が必要であるが、4.6%を超え
て添加すると炭化物の量が増え、さらに焼戻しの際に炭
化物の凝集を促進するためマトリックスの靭性が低下す
るため、Crの添加量は、3.0〜4.6%とした。
【0031】WおよびMoは、CとM6CやM2C型炭化
物を形成し、未固溶炭化物として耐摩耗性の向上に効果
があるとともに、焼戻しによる二次効果の作用を持つ元
素である。この効果はMoの方が大きく、重量%で、W
の2倍の影響力を持つため、本発明においては両元素の
添加量をW当量(W+2Mo)として規定した。これら
の元素は、W当量で12%を超えて添加すると、未固溶
炭化物および二次硬化炭化物を多量に増やすため靭性を
劣化させてしまい、3.5%未満では、二次硬化の効果
が軽微になる。よって、 WまたはMoの添加量は、W
またはMoの1種または2種をW当量(W+2Mo)で
3.5〜12.0%とした。
【0032】Vは、本発明において重要な添加元素であ
り、MC型未固溶炭化物を形成することで耐摩耗性の向
上に効果がある。耐摩耗性向上の目的からは多量に添加
することが望ましいが、VC炭化物はマトリックスとの
密着性が悪いために多量に存在すると靭性の劣化が生じ
る。そのため、本発明の効果を達成するにあたって、添
加量を2〜4%とした。
【0033】上述した組成を有した粉末高速度工具鋼で
あれば、マルテンサイト基地中の未固溶炭化物の総量を
面積%にて1〜8%に制御することが可能である。
【0034】そして、上述した組成を有する本発明の粉
末高速度工具鋼を得るにあたって、さまざまな鍛造比に
よる熱間加工を行った場合、その鍛造比と得られる靭性
値の関係をシャルピー衝撃値で表したものが図3であ
る。なお、図3において、本発明鋼は表1の試料1の組
成を、比較鋼は試料26の組成を有するものである。本
発明の粉末高速度工具鋼は、低鍛造比を適用した場合で
も、従来の高鍛造比による粉末高速度工具鋼のシャルピ
ー衝撃値に匹敵することがわかる。
【0035】すなわち、本発明の粉末高速度工具鋼は、
鍛造比の下限を1としても良好な靭性と耐摩耗性を達成
することができ、この結果、大型の工具に適用できる大
きさの粉末高速度工具鋼を得ることができるのである。
【0036】また、本発明の粉末高速度工具鋼を確保す
るための鍛造比の上限としては、15に設定した。図3
に示すように、鍛造比が15以下の領域は、靭性に対す
る鍛造比の影響が従来の粉末高速度工具鋼に比べて非常
に大きく、靭性自体も従来の粉末高速度工具鋼より優れ
た値を示す。つまり、低鍛造比の熱間加工であっても優
れた靭性を得ることができるという本発明の効果を顕著
に示す鍛造比の上限は15であり、鍛造比が15を超え
ると、もはや靭性値の大きな向上は見うけられないこと
から、本発明の鍛造比の上限を15とした。もちろん、
本発明の粉末高速度工具鋼は、鍛造比が15を超えた場
合でも、十分な靭性と耐摩耗性を得られるものである。
【0037】それに加えて、本発明者らは、熱間加工に
おける鍛造比と焼入れ後の粉末高速度工具鋼の組織中に
残る原料粉末の痕跡には相関関係があることを突きと
め、鍛造比を組織中に残る原料粉末の痕跡の状態で定義
づけた。
【0038】すなわち、焼入れ後のミクロ組織中におい
て、本発明の鍛造比および加工方向に応じて展伸された
原料粉末の痕跡は、高い鍛造比の場合は確認が困難であ
るが、鍛造比を下げていくことで確認が可能となる領域
がある。つまり、焼入れ後のミクロ組織中に原料粉末の
痕跡を確認できないものは高鍛造比を適用した粉末高速
度工具鋼に対応し、低鍛造比を適用した粉末高速度工具
鋼は原料粉末の痕跡の展伸度によって鍛造比を定義する
ことができるのである。
【0039】以下に、鍛造比と焼入れ後のミクロ組織中
に確認できる原料粉末の痕跡の状態との関係を説明す
る。ガスアトマイズ法による原料粉末は実質的に球体で
あるため、熱間静水圧プレスのように等方的に加圧成形
して得られた素材中においても該原料粉末は実質的に球
体を保つ。
【0040】そして、この素材の一方向に均等な熱間鍛
造を施した場合、素材中の原料粉末における展伸方向と
垂直な断面の形状は円を保ち、展伸方向と平行な断面の
形状は楕円となる。例えば、原料粉末の球径を4とする
素材に鍛造比4の熱間加工をすれば、鍛造後の原料粉末
の垂直断面である円の最大直径は2となる一方で、平行
断面である楕円の最大長径は8となり、よって鍛造後の
原料粉末の痕跡の長径/短径の比は4となる。
【0041】すなわち、上記の例において、鍛造比4の
熱間加工をした素材の展伸方向と平行な断面における原
料粉末の痕跡の長径/短径の比は4であり、よって、熱
間加工における鍛造比を組織中に残る原料粉末の痕跡の
状態で特定することができるのである。よって、図1の
原料粉末の痕跡は、長径/短径の比が2であることか
ら、鍛造比2で熱間加工したものとして特定することが
できる。
【0042】以上より、大型の工具への適用も可能であ
る本発明の粉末高速度工具鋼を確保するための鍛造比は
1〜15であり、焼入れ後のミクロ組織中に確認できる
原料粉末の痕跡の状態で特定すると長径/短径の比で1
〜15となる。
【0043】すなわち、本発明は、マルテンサイト基地
中の未固溶炭化物の総量が面積%にて1〜10%である
粉末高速度工具鋼に対しては、低鍛造比を適用した結
果、ミクロ組織中に原料粉末の痕跡が点在していても靭
性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を得ること
ができ、具体的には、原料粉末の痕跡が長径/短径の比
で1〜15であることが望ましい。
【0044】さらに、本発明の粉末高速度工具鋼におい
て、マルテンサイト基地中により最適な量および種類の
未固溶炭化物が存在するためには、炭化物を形成するC
とCr、Mo、WおよびVのそれぞれの添加量を相互に
調整することが望まれる。
【0045】この兼ね合いは、炭素当量を使用すること
で規定でき、本発明では、重量%で、炭素当量をCeq
=0.06Cr+0.063Mo+0.06W+0.2
Vとするとき、−0.35≦C−Ceq≦−0.10の
条件をみたすことで本発明の効果を最大に引き出すマル
テンサイト基地中の未固溶炭化物をさらに最適に調整す
ることができる。C−Ceq<−0.35だと、形成さ
れる炭化物が少なく耐摩耗性および二次硬化性に劣り−
0.10<C−Ceqだと、マトリックスの靭性が劣化
するので−0.35≦C−Ceq≦−0.10とした。
【0046】また、本発明の粉末高速度工具鋼は、その
使用用途に応じて、Feの一部を重量%で、10%以下
のCoまたはNiで、あるいはVの一部を重量%で、2
%以下のNbで置換することでも、同一の効果を備える
靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を得るこ
とができる。
【0047】Coは、耐熱性の向上に有効な元素である
が、マトリックスの靭性を低下させてしまう。本発明の
用途において、摩耗の進行が発熱に起因するような使用
環境では、ある程度の靭性を犠牲にしてでも、耐熱性の
向上が優先され、 Feとの置換によるCoの添加が必
要である。しかし、6%を超えて置換、添加すると、靭
性の低下により本発明の効果を達成できないため、上限
を6%とした。
【0048】Niは、靭性の向上に有効な元素である。
特に靭性の要求される場合にはFeとの置換によるNi
の添加が効果的であるが、2%を超えるとA1点の低下
による耐熱性の劣化および焼戻し硬さの上昇による難加
工性をきたすため、Feとの置換は上限を2%とした。
【0049】Nbは、組織の微細化と同時に、MC型炭
化物を形成し、Vと同時に耐摩耗性の向上に効果があ
る。特に耐摩耗性の要求される場合には、Vとの置換に
よるNbの添加が効果的であるが、2%を超えると靭性
が著しく低下するため、Vとの置換は上限を2%とし
た。
【0050】このように、上述した組成を有した粉末高
速度工具鋼において、マルテンサイト基地中の未固溶炭
化物の総量が面積%にて1〜10%であり、さらにミク
ロ組織中の原料粉末の痕跡が長径/短径の比で1〜15
である粉末高速度工具鋼は本発明が初めてであり、工具
鋼に要求される耐摩耗性と靭性をバランスよく兼ね備え
たものであって、これによって初めて大型の工具にも適
用することができるのである。
【0051】
【実施例】以下、実施例に従って、本発明の詳細を説明
する。まず、本発明および比較例として、窒素ガスアト
マイズ法による原料粉末を熱間静水圧プレスで加圧成形
することによって得られた試料を用意した。その組成を
表1に示す。なお、WeqはW当量(W+2Mo)を、
Ceqは炭素当量0.06Cr+0.063Mo+0.
06W+0.2Vを、ΔCは(C−Ceq)をそれぞれ
表すものである。
【0052】
【表1】
【0053】次に、表1に示す上述の各素材に、所定の
鍛造比による熱間加工を施し、続いて共晶温度よりも8
0℃低い温度での焼入れ、560℃×1hr.×2回の
焼戻しを経て、本発明の効果を評価する試料とした。な
お、上述した鍛造比および試料の評価結果を表1に併せ
て記載する。
【0054】評価基準としては、焼戻し後の組織中の未
固溶炭化物の面積%、ロックウェル硬さ、シャルピー衝
撃値そして、比摩耗量を採用した。靭性の評価基準であ
るシャルピー衝撃値は、10mm角×長さ60mmの評
価試料に10Rのノッチを設けたものを試験試料とし
た。耐摩耗性の評価基準である比摩耗量は、大越式迅速
摩耗試験法により、相手材をSCM415とし、摩擦距
離400m、荷重6.8kgf、摩擦速度3.5m/s
の条件で試験をして求めた。
【0055】まず、本発明の比較例である試料15〜2
9について述べる。試料15〜29は、いずれも本発明
の組成を有しない試料であり、本発明である低鍛造比1
0によって熱間圧延されたものであるが、試料15、1
6、19、20、22、26は、本発明の未固溶炭化物
量を満足しないものである。
【0056】試料15、16は、Weqは本発明を満た
すが、本発明の未固溶炭化物の形成に重要なVが低いた
め、耐摩耗性に劣っている。試料15、16に対して、
Weqを高めた試料19、20および24、25であっ
ても、Vが低いため、やはり耐摩耗性に劣る。
【0057】試料26は、粉末高速度工具鋼として圧造
工具などに多く使用されているものであり、本発明のV
を満たすものであるが、CrおよびWeqが高いため靭
性に劣る。試料27は、本発明の未固溶炭化物量を満た
すものであるが、 Weqが高いため、やはり靭性に劣
る。残りの比較例については、本発明のWeqに近いま
たは、満たすものであるが、Vが高いため、十分な靭性
を確保できない。
【0058】次に、本発明の試料1〜14について述べ
る。表1において、本発明の組成を満たしかつ、本発明
の低鍛造比の熱間加工をした試料1〜14は、焼戻し後
のマルテンサイト組織中のMC、M6C型未固溶炭化物
が本発明を満たしている。
【0059】その結果、本発明の試料1〜14は、硬
さ、衝撃値および比摩耗性について、優れた値を示し、
優れた靭性と耐摩耗性をバランスよく備えた粉末高速度
工具鋼であることがわかる。しかも、試料5〜9は、従
来の粉末高速度工具鋼にはない低鍛造比8によって熱間
加工された試料であるが、これにおいても十分な靭性と
耐摩耗性をバランスよく備えていることがわかる。
【0060】すなわち、本発明は、構成元素の添加量の
バランスを綿密に制御し、本発明の未固溶炭化物量を満
たすことで、低鍛造比であっても、優れた靭性と耐摩耗
性をバランスよく備えた粉末高速度工具鋼を達成するこ
とができるのである。
【0061】
【発明の効果】以上に述べたように本発明は、粉末高速
度工具鋼において、熱間加工での鍛造比と組織中の未固
溶炭化物とを制御することによって、鍛造比を低く抑え
ても十分な靭性が得られ、大型の工具にも適用できる靭
性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を提供する
ことが可能となる。したがって本発明の粉末高速度工具
鋼は、大型の高速度工具にも対応が可能であり、工業上
の効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】粉末高速度工具鋼の組織中に点在する原料粉末
の痕跡の一例を示す金属ミクロ組織写真である。
【図2】粉末高速度工具鋼の組織中に存在する未固溶炭
化物の一例を示す金属ミクロ組織写真である。
【図3】粉末高速度工具鋼における鍛造比とシャルピー
衝撃値の関係を示す図である。

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C:0.7〜1.3%、S
    i:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:3.0
    〜4.6%、WまたはMoの1種または2種をW当量(W
    +2Mo)で3.5〜12.0%、V:2.0〜4.0
    %を含有し、残部が実質的にFeと不可避的不純物から
    なる粉末高速度工具鋼であって、マルテンサイト基地中
    の未固溶炭化物の総量が面積%にて1〜10%であるこ
    とを特徴とする靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度
    工具鋼。
  2. 【請求項2】 焼き戻し後のミクロ組織中に原料粉末の
    痕跡が点在していることを特徴とする請求項1に記載の
    靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  3. 【請求項3】 点在する原料粉末の痕跡が長径/短径の
    比で1〜15であることを特徴とする請求項2に記載の
    靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  4. 【請求項4】 重量%で、炭素当量をCeq=0.06
    Cr+0.063Mo+0.06W+0.2Vとすると
    き、Cが−0.35≦C−Ceq≦−0.10の条件を
    みたすことを特徴とする請求項1ないし3に記載の靭性
    および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  5. 【請求項5】 Feの一部を重量%で、10%以下のC
    oで置換することを特徴とする請求項1ないし4に記載
    の靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  6. 【請求項6】 Feの一部を重量%で、2%以下のNi
    で置換することを特徴とする請求項1ないし5に記載の
    靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  7. 【請求項7】 Vの一部を重量%で、2%以下のNbで
    置換することを特徴とする請求項1ないし6に記載の靭
    性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
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