JP3748131B2 - 靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼 - Google Patents

靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷間、温間、熱間加工用金型や切削工具その他各種の工具に用いられる粉末冶金法による高速度工具鋼において、優れた靭性と耐摩耗性を同時に兼ね備えた粉末高速度工具鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
過酷な条件下で使用される高速度工具は、その使用環境における強度に加えて、靭性と耐摩耗性が要求され、さらに、近年においては、より過酷な環境での使用が求められており、それに伴う高速度工具鋼の上記特性の向上が課題となっている。
【0003】
高速度工具の素材としては、従来より溶製法による高速度工具鋼が多く用いられてきたが、溶製法によって製造された高速度工具鋼は組織中の炭化物が均一に分散しておらず、またサイズも均一でないため、素材の採取位置によって靭性値がばらつくことが避けられない。
このため、例えば素材を金型として使用した場合、部分的な靭性のばらつきの程度によっては、使用中に割れが発生する場合があり、より過酷な環境での使用においては、金型が一瞬にして割れてしまう場合もあった。
【0004】
このような使用中の割れの発生を防止する手段として、粉末冶金法によって製造する粉末高速度工具鋼の使用が有効である。
粉末高速度工具鋼は、ガスアトマイズ法により製造した原料粉末を熱間静水圧プレス(HIP)によって高温加圧成形した後、熱間鍛造、熱間圧延のような熱間加工を施すことにより製造される。
【0005】
原料粉末は、高温加圧成形によって互いに固相接合されることで成形されるが、原料粉末の表面は酸化などによって少なからず変質している場合があり、その結果、成形後の素材中には原料粉末間が十分に接合されない結合度の低い境界があった。
この接合が不十分な境界は、焼入れ、焼戻しを経た後にも解消されず、粉末高速度工具鋼の靭性を劣化させる原因となる。
【0006】
よって、高温加圧成形による素材は、高圧下率の熱間加工を施し、原料粒を展伸することによって該境界に存在する変質層を砕き、新生面の出現による原料粉末間の接合度を高めることが必要であった。
なお、ここで言う圧下率とは、熱間加工の方向に垂直な断面において、加工前と後での断面積の比であり、鍛造比、圧延比に代表されるものである。
【0007】
このような高圧下率の熱間加工を施して得られた粉末高速度工具鋼は、原料粉末間の接合性に優れ、また、結晶粒が微細であり、焼入れ後においてマルテンサイト基地中に固溶せずに存在する炭化物、すなわち未固溶炭化物が均一に分布しており、この未固溶炭化物は焼戻し後においても変化しないため、靭性および耐摩耗性に優れている。
さらに、上述の粉末高速度工具鋼は、組織自体が均一であるため、強度や靭性の異方性に起因する使用中の工具の破損防止にも効果がある。
【0008】
また、近年のより過酷な使用条件下において、さらに靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼が提案されている。
例えば、不純物であるPを限定することで靭性を改善するものとして特開平7−11398が、炭化物の量を制限することで靭性を改善するものとして特表平6−509610があり、また、炭化物のサイズを限定することで靭性を改善するものとして特開平1−152242が提案されているが、これらの提案も高圧下率の熱間加工を施して得られる粉末高速度工具を前提としたものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述した粉末高速度工具鋼は、靭性および耐摩耗性に優れるものとして有効なものである。
しかし、近年のより過酷な使用条件下に加えて、高速度工具はさらにそれ自体の大型化が進んでおり、従来の粉末高速度工具鋼では、靭性を得るために高鍛造比の熱間加工が必要であり、その結果として、加工方向に垂直な断面積が小さいものとなるため大型の工具としての適用が困難である。
【0010】
また、従来の粉末高速度工具鋼において、大型の素材を得るために単に鍛造比を減じれば、靭性にばらつきが出ることは必至であり、靭性を上げるために炭化物の量を制限すれば、耐摩耗性の低下を招いてしまう。
【0011】
そこで、本発明は以上の点に鑑み、熱間加工における鍛造比が低くても十分な靭性が得られ、その結果、大型の工具にも適用できる靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
熱間加工において高鍛造比で加工した粉末高速度工具鋼は、原料粉末間の境界面が新生面によって結合されているため接合性に優れ、高靭性を備えたものとなる。
よって、構成元素の成分は耐摩耗性の向上に重点を置いて設定することで、良好な耐摩耗性と靭性を兼備した粉末高速度工具鋼を得ることができる。
【0013】
しかし、鍛造比を減じていくと原料粉末間の接合度の低下によって靭性に劣る粉末高速度工具鋼となってしまい、もはや耐摩耗性の向上に重点を置いた成分では靭性の不足を補うことはできない。
そこで、本発明者らは、粉末高速度工具鋼の成分および組織を見直し、高鍛造比の適用はもちろん低鍛造比の適用によっても十分な靭性と耐摩耗性を兼備する粉末高速度工具鋼を達成するため、耐摩耗性および靭性に対する未固溶炭化物の影響と、靭性に対する熱間加工での鍛造比の影響との関連性について、詳細な検討を行った。
【0014】
その結果、鍛造比を減じても、焼入れ後のマルテンサイト基地中のMC、M6C型に代表される未固溶炭化物を適確に制御すれば、工具鋼に要求される耐摩耗性と靭性をバランスよく維持できることを突きとめ、さらに、この効果を達成できる未固溶炭化物と鍛造比の範囲の組み合わせを見いだした。
さらに、本発明者らは、上記の効果を達成するにあたって、焼入れ後の組織中により最適な量および種類の未固溶炭化物が存在するような構成元素と組成を併せて明確化し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明の粉末高速度工具鋼は、重量%で、C:0.7〜1.3%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:3.0〜4.6%、WまたはMoの1種または2種をW当量(W+2Mo)で3.5〜12.0%、V:2.31〜4.0%を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなり、炭素当量をCeq=0.06Cr+0.063Mo+0.033W+0.2Vとするとき、Cが−0.35≦C−Ceq≦−0.10の条件をみたし、マルテンサイト基地中の未固溶炭化物の総量が面積%にて1〜10%に設定することで、靭性を得るために必要となる最低の鍛造比を低く設定することができ、その結果、大型の工具にも対応できる靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を提供できる。
【0016】
なお、ここで言う面積%とは、本発明の粉末高速度工具鋼の任意断面積に占める未固溶炭化物の総断面積の割合である。
図2は焼戻し後の組織中に存在する未固溶炭化物の一例を示すものであり、表面を研磨後、光学顕微鏡にて1000倍で観察したものである。
この場合、未固溶炭化物の面積%は7%である。
【0017】
それに加えて、本発明者らは、鍛造比と焼入れ後の粉末高速度工具鋼の組織中に残る原料粉末の痕跡には相関関係があることを突きとめ、小さな鍛造比でも十分な靭性が確保できる組織条件として、ミクロ組織中に残る原料粉末の痕跡の状態を定義づけた。
なお、ここで言う焼入れ後の組織中に残る原料粉末の痕跡とは、35倍で観察したミクロ組織中において個々の原料粉末が確認できる状態であり、この痕跡は焼戻し後の組織においても確認が可能である。
図1は、焼戻し後の組織中に残る原料粉末の痕跡の一例を示すものであり、確認を容易とするために、ナイタールでエッチング処理を施し、偏光顕微鏡にて35倍で観察したものである。
【0018】
熱間加工において高鍛造比の熱間加工をした粉末高速度工具鋼は、原料粉末が展伸されるため原料粉末間の境界が不明確になり、焼入れ後のミクロ組織中に原料粉末の痕跡を確認することは困難である。
しかし、鍛造比を下げていくにつれ、原料粉末間の境界が確認しやすくなり、さらに鍛造比が小さくなると原料粉末の痕跡がガスアトマイズ粉の形状に近い状態で確認されやすくなる。
【0019】
つまり、焼入れ後のミクロ組織中に原料粉末の痕跡を確認できないものは、高鍛造比で熱間加工した粉末高速度工具鋼に対応するのである。
そして、本発明の特徴の一つである低い鍛造比で熱間加工すると、鍛造比を減じていくにつれて形状が確認できる原料粉末が現れだし、その形状は鍛造比に応じて展伸されるため、原料粉末の展伸度によって鍛造比を定義することができるのである。
【0020】
すなわち、本発明の低鍛造比で熱間加工した粉末高速度工具鋼は、35倍で観察した焼入れ後のミクロ組織中に原料粉末の痕跡が点在する粉末高速度工具鋼で特定でき、好ましくは、点在する原料粉末の痕跡が長径/短径の比で1〜15である粉末高速度工具鋼であれば、低鍛造比を適用したものでも良好な靭性と耐摩耗性を達成できる。
【0021】
さらに上記の粉末高速度工具鋼、重量%で、炭素当量をCeq=0.06Cr+0.063Mo+0.033W+0.2Vとするとき、Cが−0.35≦C−Ceq≦−0.10の条件をみたすものであり、焼入れ後のマルテンサイト基地中の未固溶炭化物を最適に調整することができ、本発明の効果を最大限に引き出すことができる。
【0022】
また、本発明の粉末高速度工具鋼は、その使用用途に応じて、Feの一部を重量%で、%以下のCoまたは2%以下のNiで、あるいはVの一部を重量%で、2%以下のNbで置換することでも、同一の効果を備える靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を得ることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の特徴の一つは、熱間加工における鍛造比を減じても、良好な靭性と耐摩耗性をバランスよく維持できる未固溶炭化物と鍛造比の範囲の関係を見いだしたことにある。
従来の粉末高速度工具鋼は、その製造工程において、靭性を得るために上述したような高鍛造比の熱間加工を施こすことが当然であったため、熱間加工後の素材は加工方向に対する断面積が小さいものとなる。
【0024】
しかし、本発明の粉末高速度工具鋼は、低い鍛造比を適用しても十分な耐摩耗性と靭性を兼ね備えているので、大型の工具の適用に必要な大きさを十分に確保することができる。
すなわち、熱間加工において、低鍛造比で熱間加工した粉末高速度工具鋼は本発明が初めてであり、本発明によって初めて十分な耐摩耗性と靭性を兼備し、かつ大型の工具への適用も可能となる粉末高速度工具鋼が供給できるのである。
【0025】
本発明の粉末高速度工具鋼において、良好な靭性と耐摩耗性を兼ね備える粉末高速度工具鋼を得るためには、製造工程において高鍛造比で熱間加工することが望ましいが、大型の工具に適用できる大きさの粉末高速度工具鋼を得るためには、鍛造比を減じる必要があり、よって靭性の劣化が生じる。
すなわち、本発明は鍛造比を下げることによる靭性の劣化を靭性に影響を及ぼす未固溶炭化物を最適に調整することで補い、十分な靭性と耐摩耗性を同時に達成するものである。
【0026】
具体的には、焼入れ後の組織中の未固溶炭化物が多すぎると、もはや鍛造比を上げても靭性の劣化を防ぐことが困難となるため、未固溶炭化物の上限を面積%で10%とした。
また、未固溶炭化物が少な過ぎると、良好な耐摩耗性の確保ができないため、未固溶炭化物の下限を面積%で1%とした。
【0027】
そして、上述の粉末高速度工具鋼に含まれる炭化物の量および種類は、構成元素の種類および組成によるところが大きく、上記の効果を達成するために、焼入れ後のマルテンサイト基地中により最適な量および種類の未固溶炭化物が存在するような組成を以下のように定めた。
【0028】
以下に、本発明の必要な元素につき、組成の量と、その作用について述べる。
Cは、同時に添加するCr、W、MoおよびVと結合して固い炭化物を形成し、未固溶炭化物として耐摩耗性の向上に効果があるとともに、焼入れ時のオーステナイト化温度まで加熱した際にマトリクス中に固溶して、焼戻しの際に再び炭化物として析出する、いわゆる二次効果の作用を持つ。
工具鋼に必要とされる耐摩耗性を得るためには、少なくとも0.7%以上の添加が必要であるが、1.3%を超えると炭化物が粗大化し靭性が劣化するので、Cの添加量は、0.7〜1.3%とした。
【0029】
Siは、精錬工程における脱酸元素であると同時に、硬さおよび耐熱性を向上させる元素であり、添加することが好ましい。添加する場合には、2%を超えると靭性が劣化するので上限を2%とした。
Mnは、精錬過程における脱酸元素であると同時に、MnSとして析出することで不純物として含有するSの有害性を抑える効果があり、添加することが望ましい。添加する場合には、2%を超えると靭性が劣化するので上限を2%とした。
【0030】
Crは、焼入れ性を高め、また焼戻しによってM236型炭化物として析出し二次硬化に効果を示す元素である。
上述の二次硬化性を得るには、少なくとも3.0%以上の添加が必要であるが、4.6%を超えて添加すると炭化物の量が増え、さらに焼戻しの際に炭化物の凝集を促進するためマトリックスの靭性が低下するため、Crの添加量は、3.0〜4.6%とした。
【0031】
WおよびMoは、CとM6CやM2C型炭化物を形成し、未固溶炭化物として耐摩耗性の向上に効果があるとともに、焼戻しによる二次効果の作用を持つ元素である。
この効果はMoの方が大きく、重量%で、Wの2倍の影響力を持つため、本発明においては両元素の添加量をW当量(W+2Mo)として規定した。
これらの元素は、W当量で12%を超えて添加すると、未固溶炭化物および二次硬化炭化物を多量に増やすため靭性を劣化させてしまい、3.5%未満では、二次硬化の効果が軽微になる。
よって、 WまたはMoの添加量は、WまたはMoの1種または2種をW当量(W+2Mo)で3.5〜12.0%とした。
【0032】
Vは、本発明において重要な添加元素であり、MC型未固溶炭化物を形成することで耐摩耗性の向上に効果がある。
耐摩耗性向上の目的からは多量に添加することが望ましいが、VC炭化物はマトリックスとの密着性が悪いために多量に存在すると靭性の劣化が生じる。
そのため、本発明の効果を達成するにあたって、添加量を2.31〜4%とした。
【0033】
上述した組成を有したことに加えて、後述の炭素と炭素当量の条件を満たした粉末高速度工具鋼であれば、マルテンサイト基地中の未固溶炭化物の総量を面積%にて1〜8%に制御することが可能である。
【0034】
そして、上述した炭素と炭素当量の条件をも含んだ組成を有する本発明の粉末高速度工具鋼を得るにあたって、さまざまな鍛造比による熱間加工を行った場合、その鍛造比と得られる靭性値の関係をシャルピー衝撃値で表したものが図3である。
なお、図3において、本発明鋼は表1の試料1の組成を、比較鋼は試料26の組成を有するものである。
本発明の粉末高速度工具鋼は、低鍛造比を適用した場合でも、従来の高鍛造比による粉末高速度工具鋼のシャルピー衝撃値に匹敵することがわかる。
【0035】
すなわち、本発明の粉末高速度工具鋼は、鍛造比の下限を1としても良好な靭性を達成することができ、この結果、大型の工具に適用できる大きさの粉末高速度工具鋼を得ることができるのである。
【0036】
また、本発明の粉末高速度工具鋼を確保するための鍛造比の上限としては、15に設定した。
図3に示すように、鍛造比が15以下の領域は、靭性に対する鍛造比の影響が従来の粉末高速度工具鋼に比べて非常に大きく、靭性自体も従来の粉末高速度工具鋼より優れた値を示す。
つまり、低鍛造比の熱間加工であっても優れた靭性を得ることができるという本発明の効果を顕著に示す鍛造比の上限は15であり、鍛造比が15を超えると、もはや靭性値の大きな向上は見うけられないことから、本発明の鍛造比の上限を15とした。
もちろん、本発明の粉末高速度工具鋼は、鍛造比が15を超えた場合でも、十分な靭性と耐摩耗性を得られるものである。
【0037】
それに加えて、本発明者らは、熱間加工における鍛造比と焼入れ後の粉末高速度工具鋼の組織中に残る原料粉末の痕跡には相関関係があることを突きとめ、鍛造比を組織中に残る原料粉末の痕跡の状態で定義づけた。
【0038】
すなわち、焼入れ後のミクロ組織中において、本発明の鍛造比および加工方向に応じて展伸された原料粉末の痕跡は、高い鍛造比の場合は確認が困難であるが、鍛造比を下げていくことで確認が可能となる領域がある。
つまり、焼入れ後のミクロ組織中に原料粉末の痕跡を確認できないものは高鍛造比を適用した粉末高速度工具鋼に対応し、低鍛造比を適用した粉末高速度工具鋼は原料粉末の痕跡の展伸度によって鍛造比を定義することができるのである。
【0039】
以下に、鍛造比と焼入れ後のミクロ組織中に確認できる原料粉末の痕跡の状態との関係を説明する。
ガスアトマイズ法による原料粉末は実質的に球体であるため、熱間静水圧プレスのように等方的に加圧成形して得られた素材中においても該原料粉末は実質的に球体を保つ。
【0040】
そして、この素材の一方向に均等な熱間鍛造を施した場合、素材中の原料粉末における展伸方向と垂直な断面の形状は円を保ち、展伸方向と平行な断面の形状は楕円となる。
例えば、原料粉末の球径を4とする素材に鍛造比4の熱間加工をすれば、鍛造後の原料粉末の垂直断面である円の最大直径は2となる一方で、平行断面である楕円の最大長径は8となり、よって鍛造後の原料粉末の痕跡の長径/短径の比は4となる。
【0041】
すなわち、上記の例において、鍛造比4の熱間加工をした素材の展伸方向と平行な断面における原料粉末の痕跡の長径/短径の比は4であり、よって、熱間加工における鍛造比を組織中に残る原料粉末の痕跡の状態で特定することができるのである。
よって、図1の原料粉末の痕跡は、長径/短径の比が2であることから、鍛造比2で熱間加工したものとして特定することができる。
【0042】
以上より、大型の工具への適用も可能である本発明の粉末高速度工具鋼を確保するための鍛造比は1〜15であり、焼入れ後のミクロ組織中に確認できる原料粉末の痕跡の状態で特定すると長径/短径の比で1〜15となる。
【0043】
すなわち、本発明は、マルテンサイト基地中の未固溶炭化物の総量が面積%にて1〜10%である粉末高速度工具鋼に対しては、低鍛造比を適用した結果、ミクロ組織中に原料粉末の痕跡が点在していても靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を得ることができ、具体的には、原料粉末の痕跡が長径/短径の比で1〜15であることが望ましい。
【0044】
さらに、本発明の粉末高速度工具鋼において、マルテンサイト基地中により最適な量および種類の未固溶炭化物が存在するためには、炭化物を形成するCとCr、Mo、WおよびVのそれぞれの添加量を相互に調整する必要がある。
【0045】
この兼ね合いは、炭素当量を使用することで規定でき、本発明では、重量%で、炭素当量をCeq=0.06Cr+0.063Mo+0.033W+0.2Vとするとき、−0.35≦C−Ceq≦−0.10の条件をみたすことで本発明の効果を最大に引き出すマルテンサイト基地中の未固溶炭化物に調整することができる。
C−Ceq<−0.35だと、形成される炭化物が少なく耐摩耗性および二次硬化性に劣り−0.10<C−Ceqだと、マトリックスの靭性が劣化するので−0.35≦C−Ceq≦−0.10とした。
【0046】
また、本発明の粉末高速度工具鋼は、その使用用途に応じて、Feの一部を重量%で、%以下のCoまたは2%以下のNiで、あるいはVの一部を重量%で、2%以下のNbで置換することでも、同一の効果を備える靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を得ることができる。
【0047】
Coは、耐熱性の向上に有効な元素であるが、マトリックスの靭性を低下させてしまう。
本発明の用途において、摩耗の進行が発熱に起因するような使用環境では、ある程度の靭性を犠牲にしてでも、耐熱性の向上が優先され、 Feとの置換によるCoの添加が必要である。
しかし、6%を超えて置換、添加すると、靭性の低下により本発明の効果を達成できないため、上限を6%とした。
【0048】
Niは、靭性の向上に有効な元素である。
特に靭性の要求される場合にはFeとの置換によるNiの添加が効果的であるが、2%を超えるとA1点の低下による耐熱性の劣化および焼戻し硬さの上昇による難加工性をきたすため、Feとの置換は上限を2%とした。
【0049】
Nbは、組織の微細化と同時に、MC型炭化物を形成し、Vと同時に耐摩耗性の向上に効果がある。
特に耐摩耗性の要求される場合には、Vとの置換によるNbの添加が効果的であるが、2%を超えると靭性が著しく低下するため、Vとの置換は上限を2%とした。
【0050】
このように、上述した組成を有した粉末高速度工具鋼において、マルテンサイト基地中の未固溶炭化物の総量が面積%にて1〜10%であり、さらにミクロ組織中の原料粉末の痕跡が長径/短径の比で1〜15である粉末高速度工具鋼は本発明が初めてであり、工具鋼に要求される耐摩耗性と靭性をバランスよく兼ね備えたものであって、これによって初めて大型の工具にも適用することができるのである。
【0051】
【実施例】
以下、実施例に従って、本発明の詳細を説明する。
まず、本発明および比較例として、窒素ガスアトマイズ法による原料粉末を熱間静水圧プレスで加圧成形することによって得られた試料を用意した。
その組成を表1に示す。
なお、WeqはW当量(W+2Mo)を、Ceqは炭素当量0.06Cr+0.063Mo+0.033W+0.2Vを、ΔCは(C−Ceq)をそれぞれ表すものである。
【0052】
【表1】
Figure 0003748131
【0053】
次に、表1に示す上述の各素材に、所定の鍛造比による熱間加工を施し、続いて共晶温度よりも80℃低い温度での焼入れ、560℃×1hr.×2回の焼戻しを経て、本発明の効果を評価する試料とした。
なお、上述した鍛造比および試料の評価結果を表1に併せて記載する。
【0054】
評価基準としては、焼戻し後の組織中の未固溶炭化物の面積%、ロックウェル硬さ、シャルピー衝撃値そして、比摩耗量を採用した。
靭性の評価基準であるシャルピー衝撃値は、10mm角×長さ60mmの評価試料に10Rのノッチを設けたものを試験試料とした。
耐摩耗性の評価基準である比摩耗量は、大越式迅速摩耗試験法により、相手材をSCM415とし、摩擦距離400m、荷重6.8kgf、摩擦速度3.5m/sの条件で試験をして求めた。
【0055】
まず、本発明の比較例である試料15〜29について述べる。
試料15〜29は、いずれも本発明の組成を有しない試料であり、本発明である低鍛造比10によって熱間圧延されたものであるが、試料15、16、19、20、22、26は、本発明の未固溶炭化物量を満足しないものである。
【0056】
試料15、16は、Weqは本発明を満たすが、本発明の未固溶炭化物の形成に重要なVが低いため、耐摩耗性に劣っている。
試料15、16に対して、Weqを高めた試料19、20および24、25であっても、Vが低いため、やはり耐摩耗性に劣る。
【0057】
試料26は、粉末高速度工具鋼として圧造工具などに多く使用されているものであり、本発明のVを満たすものであるが、CrおよびWeqが高いため靭性に劣る。
試料27は、本発明の未固溶炭化物量を満たすものであるが、 Weqが高いため、やはり靭性に劣る。
残りの比較例については、本発明のWeqに近いまたは、満たすものであるが、Vが高いため、十分な靭性を確保できない。
【0058】
次に、本発明の試料1〜14について述べる。
表1において、本発明の組成を満たしかつ、本発明の低鍛造比の熱間加工をした試料1〜14は、焼戻し後のマルテンサイト組織中のMC、M6C型未固溶炭化物が本発明を満たしている。
【0059】
その結果、本発明の試料1〜14は、硬さ、衝撃値および比摩耗性について、優れた値を示し、優れた靭性と耐摩耗性をバランスよく備えた粉末高速度工具鋼であることがわかる。
しかも、試料5〜9は、従来の粉末高速度工具鋼にはない低鍛造比8によって熱間加工された試料であるが、これにおいても十分な靭性と耐摩耗性をバランスよく備えていることがわかる。
【0060】
すなわち、本発明は、構成元素の添加量のバランスを綿密に制御し、本発明の未固溶炭化物量を満たすことで、低鍛造比であっても、優れた靭性と耐摩耗性をバランスよく備えた粉末高速度工具鋼を達成することができるのである。
【0061】
【発明の効果】
以上に述べたように本発明は、粉末高速度工具鋼において、熱間加工での鍛造比と組織中の未固溶炭化物とを制御することによって、鍛造比を低く抑えても十分な靭性が得られ、大型の工具にも適用できる靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼を提供することが可能となる。
したがって本発明の粉末高速度工具鋼は、大型の高速度工具にも対応が可能であり、工業上の効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】粉末高速度工具鋼の組織中に点在する原料粉末の痕跡の一例を示す金属ミクロ組織写真である。
【図2】粉末高速度工具鋼の組織中に存在する未固溶炭化物の一例を示す金属ミクロ組織写真である。
【図3】粉末高速度工具鋼における鍛造比とシャルピー衝撃値の関係を示す図である。

Claims (6)

  1. 重量%で、C:0.7〜1.3%、Si:2.0%以下、Mn:2.0%以下、Cr:3.0〜4.6%、WまたはMoの1種または2種をW当量(W+2Mo)で3.5〜12.0%、V:2.31〜4.0%を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる粉末高速度工具鋼であって、炭素当量をCeq=0.06Cr+0.063Mo+0.033W+0.2Vとするとき、Cが−0.35≦C−Ceq≦−0.10の条件をみたし、マルテンサイト基地中の未固溶炭化物の総量が面積%にて1〜10%であることを特徴とする靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  2. 35倍で観察した焼き戻し後のミクロ組織中に原料粉末の痕跡が点在していることを特徴とする請求項1に記載の靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  3. 点在する原料粉末の痕跡が長径/短径の比で1〜15であることを特徴とする請求項2に記載の靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  4. Feの一部を重量%で、%以下のCoで置換することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  5. Feの一部を重量%で、2%以下のNiで置換することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
  6. Vの一部を重量%で、2%以下のNbで置換することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の靭性および耐摩耗性に優れた粉末高速度工具鋼。
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