【発明の詳細な説明】
痛みの処置のための新規なオピオイドペプチドおよび
その使用発明の背景
哺乳類および両生類起源の多くの内因性ペプチドが特異的オピオイド受容体に
結合し、古典的な麻薬性オピエートに類似の鎮痛応答を誘導する。高等動物では
多くの様々なタイプのオピオイド受容体の共存することが明らかにされてきた。
たとえばW.Martinら,J.Pharmacol.Exp.Ther.,197:517(1975)およびJ.Lo
rdら,Nature(London)。257: 495(1977)参照。3つの異なるタイプのオピオイド
受容体がこれまでに確認されている。第一のδはエンケファリン様ペプチドに対
して識別親和性を示す。第二のμはモルヒネおよび他の多環式アルカロイドに対
して高い選択性を示す。第三のκは上記リガンドのいずれのグループにも同等な
親和性とダイノルフィンに対する選択親和性を発揮する。一般的に、μ−受容体
が鎮痛作用に最も関与しているように思われる。δ−受容体は行動作用に関連し
ているように見えるが、δおよびκ−受容体も鎮痛作用を仲介する。
各オピオイド受容体は、オピエートとカップリングした場合、その受容体タイ
プに独特な特異的生物学的応答を生じる。オピエートが2種類以上の受容体を活
性化する場合には、各受容体の生物学的応答が影響し合い、それによって副作用
が起こる。オピエートの特異性および選択性が低い程、そのオピエートの投与に
よる副作用が増大する可能性は大きくなる。
従来技術では、オピエート、オピオイドペプチドおよびそれらの
類縁体には、それらが結合する1種または2種以上の受容体タイプに対する特異
性および選択性は全く証明されないか、されても限界があった。鎮痛性オピオイ
ドの主たる作用部位は中枢神経系(CNS)である。慣用の麻薬性鎮痛薬は通常、
極めて疎水性であり、したがって、血液脳関門のような脂質膜の透過にきわめて
適している。この物理的特性により、鎮痛薬は脳の中枢神経系内のオピオイド受
容体に結合する傾向を有する。しかしながらそれらは必ずしも均一の受容体サブ
タイプに結合しない。この結合が医学的に望ましくない副作用を起こす原因とな
る。
オピエートは、重篤な、致命的になる可能性もある副作用を引き起こすことが
あり得る。呼吸抑制、耐性、身体的依存の形成および急性離脱症状のような副作
用が中枢神経系受容体との非特異的相互作用によって引き起こされる。K.Budd
,International Encyclopedia of Pharmacology and Therapeutics;N.E.Will
iams & H.Wilkinson編,Pergammon(Oxford),112,51頁(1983)参照。したが
って主として末梢神経系におけるオピオイド受容体を介して作用するオピオイド
鎮痛薬であれば、中枢神経系に影響するオピオイド鎮痛薬に伴う副作用に類似の
望ましくない副作用は起こらないことが期待される。本発明のオピオイドペプチ
ドは実質的に末梢神経系に作用し、したがって、慣用のオピエートの欠点の一部
を、望ましくない副作用を実質的に防止することによって克服する。
現在までに、末梢性鎮痛作用を発揮することが知られている薬物の種類はわず
かで、その一つに非ステロイド性抗炎症剤、たとえばアスピリン、イブプロフェ
ン、およびケトロラックがある。これらの薬物はオピオイド受容体とは相互作用
しないが、シクロオキシゲ
ナーゼを阻害し、プロスタグランジンの合成を低下させる。これらの弱い鎮痛薬
には中枢系を介した副作用はないが、それらは他の副作用たとえば胃腸管の潰瘍
形成を起こすことがある。本発明の目的は、末梢系に作用するが慣用の末梢作用
性鎮痛薬に伴う望ましくない副作用が実質的に回避されたオピオイド様ペプチド
を提供することにある。
従来技術においては最近、オピエート薬物に有意な末梢性鎮痛活性のあること
が明らかにされた。A.Barber & R.Gottschlich,Med.Res.Rev.,12,525(19
92)およびC.Stein,Anasth.Analg.,76,182(1993)参照。既知の中枢作用性オ
ピオイドアルカロイドの四級塩は末梢および中枢鎮痛反応を識別するための薬理
学的プローブとして使用されてきた。強力なオピエートの四級塩は永久陽電荷を
有し、血液脳関門の透過性は限定されている。T.W.Smithら、Life Sci.,31,1
205(1982),T.W.Smithら,Int.J.Tiss.Reac.,7,61(1985),B.B.orenzett
i & S.H.Ferreira,Braz.J.Med.Biol.Res.,15,285(1982),D.R.Brown
& L.I.Goldberg,Neuropharmacol.,24,181(1985),G.Bianchiら,Life Sci.
,30,1875(1982)およびJ.Russelら,Eur.J.Pharmacol.,78,255(1982)参照
。強力な抗侵害受容活性は維持するが、中枢神経系への透過性は制限されている
エンケファリンおよびデルモルフィンの高度に極性の類縁体が製造されている。
R.L.Follenfantら,Br.J.Pharmacol.,93,85(1988),G.W.Hardyら,J.Med
.Chem.,32,1108(1989)参照。逆に親油性オピオイドペプチドは、従来技術で
は血液脳関門を透過しやすいと考えられていた。驚くべきことに本発明のオピオ
イドペプチドは高度に親油性であるが、血液脳関門の有
意な透過性は示さない。
慣用のオピエートとは異なり、オピオイドペプチドは疎水性である。これらの
疎水性は哺乳類の体内からのそれらの消失速度を高める傾向がある。疎水性は、
これらのペプチドの上皮関門通過能を増大させる。それにもかかわらず、オピオ
イドペプチドの哺乳類動物の体内への投与は、中枢神経系に影響することが示さ
れてきた。したがって、これらの化合物の吸収性の改善には多大な努力が払われ
たきた。これらの化学物質への生体の長期間にわたる暴露が望ましくない副作用
さらには中毒を生じる可能性がある場合には、科学者達はとくに、ペプチドの中
枢神経系への透過を低下させることを試みてきたのである。
非極性ペプチドは血液脳関門を通過することにより極性ペプチドより容易に中
枢神経系に入ると考えられていた。TAPP(H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe-NH2)は、末梢
および中枢のいずれにおいても、抗侵害受容活性を示すことが発表されている(
P.Schillerら、Procee-dings of 20th European Peptide Symposium,1988)。
これに反して、本発明者らはこのテトラペプチドTAPP(H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe-NH2
)が中枢系には作用しないことを見出したのである。この結果はマウス熱板法に
おいて用量100mg/kgでも鎮痛作用を欠くことによって示された。この試験法は
標準方法であり、本技術分野の熟練者には知られている。この試験では中枢性に
誘発される鎮痛反応を示す化学物質が検出される。
本出願において用いられる「特異性」の語は、他のオピオイド受容体にまさっ
て一つの特定のオピオイド受容体に対するオピエートまたはオピオイドペプチド
の特定のまたは限定的な結合を意味する。
オピオイドペプチドの特異性は結合阻害定数Kiで示される。「選択性」の語は、
オピエートまたはオピオイドペプチドが数種のオピオイド受容体を識別してただ
1種の特定の受容体にのみ結合する能力を意味する。μ−受容体に対するオピオ
イドペプチドの選択性は結合阻害定数の比で指示される。たとえば結合阻害定数
の比、Kiδ/Kiμは選択性の尺度として使用できる値である。この比はμおよび
δ受容体に結合する親和性の関係を表わす。この比の値が高いほど、δ受容体に
比しμ−受容体に結合するリガンドの優先性が大きいことを指示する。慣用のオ
ピオイドペプチド類縁体の1種、H-Tyr-D-Ala-Gly-Phe(NMe)-Gly-ol(DAGO)は、
最もμ選択性の高いオピオイドペプチド類縁体の一つとして知られている。この
ペプチドは1050のKiδ/Kiμ値を示す。他方、Leu−エンケファリンは0.2のKiδ
/Kiμ値を示す。この低値はμ受容体と比べてδ受容体に対する著しい親和性を
反映するものである。
ペプチドは、医薬的に有用であるためには、ある性質をもっていなければなら
ない。第一に、ペプチドは蛋白分解的減成に対して抵抗性でなければならない。
第二に、ペプチドは増強された生物学的反応を生じなければならない。第三に、
ペプチドはヒトが摂取しても安全でなければならない。第四に、ペプチドはその
毒性およびその後の商品化に関連した臨床試験に用いるのに十分大量の合成が可
能でなければならない。本発明の場合はまた、低い脂質溶解性および高い水溶性
が、血液脳関門の透過を防止し、過剰に投与されてもペプチドおよびその代謝物
の迅速な排泄を可能にするため、そのペプチドがもつべき望ましい性質である。
さらに、副作用の可能性を最小限にするために、ペプチドは選択的かつ特異的な
受容体結合活
性を誘発することが望ましい。
単一の特異的オピオイド受容体とくにμ受容体に作用するペプチドが求められ
ている。血液脳関門を突破しないように、慣用のオピエートの場合よりも低い脂
質溶解性をもつペプチドを見出すことが望まれる。さらに、極性の高いペプチド
は通常、生理的pHの水性媒体中の方が溶解性が高く、それにより、それらの排泄
およびそれらの代謝産物の排泄は促進される。発明の概要
本発明は実質的に単一のオピオイド受容体に対する選択性および特異性を有す
る新規な化合物を提供する。本発明はμ−オピオイド受容体に対して優先的な選
択性および特異性を示すペプチドを提供する。本発明はまた、主として末梢神経
末端におけるオピオイド受容体と相互作用し、血液脳関門を実質的に通過しない
ペプチドを提供する。本発明は、したがって、現在まで報告されている慣用のオ
ピエートおよびオピオイドペプチドに伴う副作用に比べて副作用の重篤度および
頻度を低下させる。
本発明の化合物は式(1):
(式中、
XはHおよびC1〜6アルキルからなる群より選ばれ、
YおよびZは独立に、H、環状アラルキルおよびC1〜6アルキルからなる群よ
り選ばれ、
R1はチロシル残基、2′,6′−ジメチルチロシル残基、またはその
類縁体もしくは誘導体であり、
R3は芳香族アミノ酸であり、
R4は芳香族アミノ酸残基であり、
R2はR−配置を有するアミノ酸である。
ただし、R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがH、R3がフ
ェニルアラニンである場合には、R4は置換されていないまたは4NO2もしくは4N3
で置換されたフェニルアラニンではなく、
R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがH、R4がフェニルア
ラニンである場合には、R3は置換されていないまたは4NO2で置換されたフェニル
アラニンではなく、
R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがH、R4が1′−ナフ
チルアラニンである場合には、R3は1′−ナフチルアラニンまたは2′−ナフチル
アラニンではなく、そして
R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがHである場合、R3お
よびR4の両者がトリプトファンではない。そして
Qはアミド結合または介在擬似アミド結合である)によって表される化合物な
らびにそれらの誘導体および類縁体である。
本発明はまた、痛みの処置に使用するためのそれらのペプチドからなる医薬的
に許容される組成物を提供する。
本発明はまた、痛みの処置用の末梢性鎮痛剤の製造のためのそれらのペプチド
の使用を提供する。
本発明はさらに、痛みの処置用の末梢性鎮痛剤の製造のための式、H-Tyr-D-Al
a-Phe-Phe-NH2のペプチドの使用を提供する。表および図
表1には、疎水性デルモルフィン関連テトラペプチドのインビボおよびインビ
トロ活性を掲げる。
図1はモルフィン(10mg/kg)(図A)、および例示的な試験化合物(図B:
BCH 2463、C:BCH 2462、D:BCH 2687)の鎮痛効果の時間的経過を指示する。
図2には、フェニルキノン誘発ライジングアッセイ(マウス、皮下)における
BCH 2643の用量反応曲線を示す。投与20分後におけるED50=0.5mg/kg。
図3には、フェニルキノン誘発ライジングアッセイ(マウス、皮下)における
BCH 1774およびBCH 2463の比較鎮痛時間経過を示す。発明の説明
以下の一般的な略号が明細書および請求範囲を通して用いられる。
Abu− アミノ酪酸
Abi− アミノイソ酪酸
Ala− アラニン
Chl− シクロホモロイシン
Arg− アルギニン
Cys(Bzl)− システイン(ベンジル)
Cle− シクロロイシン
Dmt− 2′,6′−ジメチルチロシル
Gln− グルタミン
Glu− グルタミン酸
Gly− グリシン
GPI− モルモット回腸
His− ヒスチジン
Ile− イソロイシン
Hph− ホモフェニルアラニン
Met− メチオニン
Leu− ロイシン
MVD− マウス輸精管
Nle− ノルロイシン
Nva− ノルバリン
Phe− フェニルアラニン
Pro− プロリン
Phg− フェニルグリシン
Ser− セリン
Thr− トレオニン
Trp− トリプトファン
Tyr− チロシン
Nal− 1′−または2′−ナフチルアラニン
PBQ− フェニル−p−ベンゾキノン
Tic− テトラヒドロイソキノリン−3−カルボン酸
TAPP− H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe-NH2
TSPP− H-Tyr-D-Ser-Phe-Phe-NH2
本明細書中で用いられる「アミノ酸」および「芳香族アミノ酸」の語には天然
に存在するアミノ酸ならびに化学合成およびペプチド化学の技術分野の熟練者に
よって一般的に利用されるそれらの誘導体および類縁体が包含される。TAPPのフ
ェニルアラニンが4位でニトロまたはアジド残基によりパラ置換されている類縁
体もまた包含
される。非天然および非蛋白由来アミノ酸は、“The Peptide”,5巻,1983,A
cademic Press,6章,D.C.Roberts & F.Vellaccio著に見出される(引用によ
り本明細書に導入される)。芳香族アミノ酸の例には、チロシン、トリプトファ
ン、フェニルグリシン、ヒスチジン、ナフチルアラニン、テトラヒドロイソキニ
リン−3−カルボン酸およびベンジルシステインが包含される。芳香族アミノ酸
の他の例には、その芳香環がたとえばCH3、C2H5、F、Cl、Br、NO2、OH、SH、CF3
、CN、COOHおよびCH2COOHで置換されているかまたはβ−炭素が低級アルキル基
、OH、SHもしくはベンゼン基で置換されているフェニルアラニンが包含される。
芳香環は多置換されてもよい。芳香族アミノ酸にはまたフェニルグリシンの芳香
環がCH3、C2H5、F、Cl、Br、NO2、OH、SH、CF3、CN、COOHおよびCH2COOHで置換
されたフェニルグリシン型芳香族炭素環化合物も包含される。以上の例は例示の
みを意図し、いかなる意味においても本発明を限定するものではない。
PBQライジングアッセイに関して表1に示す「ED50」の記号は、対照との比較
で観察されるライジング数の50%低下を誘発する薬物の用量として定義される。
熱板法において用いられる「ED50」の記号は、対照と比べて、反応の潜時を2倍
に増大させるのに必要な薬物の用量として定義され、平行−線プロビット分析に
よって決定された。
「介在擬似アミド結合」の語は、アミド結合のカルボニル基とNH基が交換され
た結合である。
「Ki」の記号は結合阻害定数である。「Kiδ/Kiμ」の記号は選択性の評価に
使用できる値である。この比はμ−およびδ−受容体
に結合するオピオイドペプチドの親和性の関係を表す。
「R−配置」の語は、キラル元素の周囲の置換基の三次元配置を意味する。絶
対的な配置を表示するための一般的体系は、本技術分野の熟練者によく知られて
いて、以下に簡単に説明する順位体系に基づくものである。キラル中心に結合し
ている各基に順位規則に従って番号を付す。分子を順位最下位の基の反対側から
観察する。順位最高位の基から順位最下位の基まで順番に移動する場合、目が時
計回りに動けば、その配置は「R」と特定される。
アミノ酸に適用された場合の「残基」の語は、相当するアミノ酸からカルボキ
シル基のヒドロキシル基およびアミノ基から1個の水素を除去することによって
誘導される基を意味する。
本発明の化合物は式(1):
(式中、
XはHおよびC1〜6アルキルからなる群より選ばれ、
YおよびZは独立にH、環状アラルキルおよびC1〜6アルキルからなる群より
選ばれ、
R1はチロシル残基、2′,6′−ジメチルチロシル残基、またはその類縁体もし
くは誘導体であり、
R3は芳香族アミノ酸からなる群より選ばれるアミノ酸残基であり、
R4は芳香族アミノ酸残基であり、
R2はR−配置を有するアミノ酸である。
ただし、R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがH、R3がフ
ェニルアラニンである場合には、R4は4NO2または4N3で置換されていないフェニ
ルアラニンではなく、
R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがH、R4がフェニルア
ラニンである場合には、R3は置換されていないまたは4NO2で置換されたフェニル
アラニンではなく、
R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがH、R4が1′−ナフ
チルアラニンである場合には、R3は1′−ナフチルアラニンまたは2′−ナフチル
アラニンではなく、そして
R2がD−アラニン、R1がチロシル残基、X、YおよびZがHである場合、R3お
よびR4の両者がトリプトファンではない。そして
Qはアミド結合または介在擬似アミド結合である)によって表される化合物な
らびにそれらの誘導体および類縁体である。
好ましい化合物は、式(1)中XがHである式によって表される化合物ならび
にそれらの誘導体および類縁体である。
他の好ましい化合物は、式(1)中、R2はR−配置を有するアミノ酸であるが
、R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがHである場合、R3お
よびR4は互いに異なり、フェニルアラニンおよびトリプトファンからなる群より
選ばれる式によって表される化合物ならびにそれらの誘導体および類縁体である
。
他の好ましい化合物には、式(1)中、Qがアミド結合または式Q1-Q2(式中Q1
はCH2、CHOH、C=O、C=SおよびCH=からなる群より選ばれ、Q2はCH2、NH、S、SO
、SO2、OおよびCH=からなる群より選ばれ、ただしQ1がCH=の場合にはQ2はCH=で
ある)の介在擬似アミド結合である化合物ならびにそれらの誘導体および類縁体
が包含され
る。
さらに好ましい化合物は式(1)において、YおよびZがHであり、R3および
R4は独立に芳香族アミノ酸であり、R2はR−配置を有するアミノ酸であるが、R1
がチロシル残基、R2がD−アラニンの場合には、R3およびR4は互いに異なり、フ
ェニルアラニンおよびトリプトファンからなる群より選ばれる式によって表され
る化合物、ならびにそれらの誘導体および類縁体である。
さらに好ましい化合物は、式(1)において、R2がR−配置を有するアミノ酸
であるが、R2はD−アラニンではなく、R3およびR4はフェニルアラニル残基であ
る式によって表される化合物、ならびにそれらの誘導体および類縁体である。
またさらに好ましい化合物は、式(1)においてR1はチロシル残基であり、R2
はD−ノルバリン、D−セリン、およびD−アルギニンからなる群より選ばれ、
R3およびR4はフェニルアラニル残基であり、Qはペプチド結合である式によって
表される化合物、ならびにそれらの誘導体および類縁体である。
より好ましい化合物は、式(1)においてXはHであり、YおよびZは独立に
H、アラルキルおよびC1〜6アルキルからなる群より選ばれ、R1はチロシル残基
、2′,6′−ジメチルチロシル残基またはそれらの類縁体もしくは誘導体であり
、R3は芳香族酸であり、R4は独立に芳香族および脂肪族アミノ酸からなる群より
選ばれ、R2はR−配置を有するアミノ酸であるが、ただしR2がD−アラニン、R1
がチロシル残基、YおよびZがHである場合には、R3およびR4は独立にフェニル
アラニンおよびトリプトファンからなる群より選ばれるが同一ではなく、Qは、
アミド結合または式Q1-Q2(式中、Q1は、CH2、
CHOH、C=O、C=SおよびCH=からなる群より選択され、Q2はCH2、NH、S、SO、SO2
、OならびにCH=からなる群より選択されるが、Q1がCH=の場合にはQ2はCH=であ
る)の介在擬似アミド結合である化合物ならびにそれらの誘導体および類縁体で
ある。
より好ましい化合物は、式(1)においてXはHであり、YおよびZはHであ
り、R1はチロシル残基、2′,6′−ジメチルチロシル残基またはそれらの類縁体
もしくは誘導体であり、R3およびR4は独立に芳香族アミノ酸であり、R2はR−配
置を有するアミノ酸であるが、ただしR2がD−アラニン、R1がチロシル残基であ
る場合には、R3およびR4は独立にフェニルアラニンおよびトリプトファンからな
る群より選ばれるが互いに同一ではなく、Qはアミド結合、または式Q1-Q2(式中
、Q1はCH2、CHOH、C=O、C=SおよびCH=からなる群より選択され、Q2はCH2、NH、
S、SO、SO2、OおよびCH=からなる群より選択されるが、Q1がCH=の場合Q2はCH=
である)の介在擬似アミド結合である化合物、それらの誘導体および類縁体であ
る。
さらに好ましい化合物は、式(1)においてXはHであり、YおよびZはHで
あり、R1はチロシル残基、2′,6′−ジメチルチロシル残基またはそれらの類縁
体もしくは誘導体であり、R2は、アラニンではないことを条件に、R−配置を有
するアミノ酸であり、R3およびR4はフェニアラニル残基であり、Qはアミド結合
または式Q1-Q2(式中Q1はCH2、CHOH、C=O、C=SおよびCH=からなる群より選択さ
れ、Q2は、CH2、NH、S、SO、SO2、OおよびCH=からなる群より選択されるが、Q1
がCH=の場合Q2はCH=である)の擬似アミド結合である化合物ならびにそれらの
誘導体および類縁体である。
とくに好ましい化合物は、式(1)においてXはHであり、Yお
よびZはHであり、R1はチロシル残基であり、R2はD−ノルバリン、D−セリン
およびD−アルギニンからなる群より選択され、R3およびR4はフェニアラニル残
基であり、Qはペプチド結合である化合物ならびにそれらの誘導体および類縁体
である。
本発明の好ましい化合物を以下に掲げる。
H-Tyr-D-Phe-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-Aib-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Nle-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-Pro-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Ala-Phe-2′-Nal-NH2
H-Tyr-D-Ala-D-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Ala-Phe(4NO2)-Phe(4NO2)-NH2
H-Tyr-D-Ala-Phe-Tic-NH2
H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe(NMe)-NH2
H-Tyr-D-Ala-Phe-1′Nal-NH2
H-Tyr-D-Ala-Trp-Phe-NH2
H-Tyr-D-Ala-Phe-Trp-NH2
H-Tyr-▽Ala-Phe-Phe-NH2
▽CH2-Tyr-D-Ala-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Nle-Phe-Trp-NH2
H-Tyr-D-Nle-Phe-2′-Nal-NH2
H-Tyr-D-Nle-Trp-Phe-NH2
H-Tyr-D-Ala-Trp-2′-Nal-NH2
H-Tyr-D-Nle-Trp-2′-Nal-NH2
H-Tyr-D-Nle-Trp-Trp-NH2
H-Tyr-D-Nva-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Ser-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Val-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Leu-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Ile-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Abu-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-Chl-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-Cle-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Arg-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Cys-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Thr-Phe-Phe-NH2
H-DMT-D-Ser-Phe-Phe-NH2
Tyr-D-Ala-Phe-Phe-OH トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Ala-Phe-Phg-NH2 トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Arg-Phe-Hph-NH2 二トリフルオロ酢酸
H-DMT-D-Ala-Phe-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸
H-D-DMT-D-Ala-Phe-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Ala-Phe-Hph-NH2 トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Ala-Phe-Cys(Bzl)-NH2 トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Arg-Hph-Phe-NH2 二トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Arg-Phg-Phe-NH2 二トリフルオロ酢酸塩
Tyr-D-Ala-Phe-Phe-CH2OH 塩酸塩
H-Tyr-D-Ala-Hph-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Met-Phe-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Arg-Phe-D-Phe-NH2 二トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Ala-Phg-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-(D)-Ala-(D)-Phg-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Arg-Phe-Phe(pf)-NH2 二トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Arg-Phe-D-Phe(pf)-NH2 ジトリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe(pf)-NH2 トリフルオロ酢酸塩
H-Tyr-D-Ala-Phe-D-Phe(pf)-NH2 トリフルオロ酢酸塩
本発明のさらに好ましい化合物を以下に挙げる。
H-Tyr-D-Nva-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Ser-Phe-Phe-NH2
H-Tyr-D-Arg-Phe-Phe-NH2
本発明を実施するための現時点で既知の最良の様式は、化合物H-Tyr-D-Arg-Ph
e-Phe-NH2を用いるものである。
本発明はまた末梢性鎮痛薬としての化合物TAPP、H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe-NH2の
使用を包含する。
一般式1に基づく多数のテトラペプチドを調製し、オピオイド受容体リガンド
および全身作用性鎮痛薬として評価した。これらの化合物をそれらの各結合阻害
定数および受容体選択比とともに表1に掲げる。
オピオイドペプチド化合物中のチロシンは2′,6′−ジメチルチロシン(Dmt)で
置換してもよい。一般式1中の第一アミノ酸残基であるR1の位置におけるチロシ
ンのDmtによる置換は、μ−受容体におけるオピオイドペプチドの効力の大きさ
を2オーダーまで上昇させることが明らかにされた。μ−受容体に対する選択性
は、その化合物がR1の位置にDmtを包含させると上昇する。この置換はμ−受容
体の選択性の上昇を反映をもたらす。結合阻害定数の比における相
当するシフトを生じる。
表1に掲げた化合物の多くは良好なμ−受容体結合を示すが、マウスライジン
グアッセイでは弱い鎮痛効果しか示さない。この矛盾は迅速な蛋白分解、迅速な
クリアランス、またはその両者によるものであろう。たとえば、プロトタイプの
親油性デルモルフィンペプチドTAPP(BCH 1774)を刷子縁腎膜に暴露すると15〜
30分以内の迅速な減成が観察された。表1に掲げたペプチド中、TAPP自体以外の
3つの好ましい化合物がインビボにおいて増強された鎮痛効果を示した。これら
の3種の化合物は、H-Tyr-D-Nva-Phe-Phe-NH2(BCH 2462)、H-Tyr-D-Ser-Phe-P
he-NH2(BCH 2463)ならびにH-Tyr-D-Arg-Phe-Phe-NH2(BCH 2687)である。BCH
2462、BCH 2463、およびBCH 2687は、末梢性鎮痛作用を示すことが明らかにさ
れた。これらのペプチドはマウス熱板法では100mg/kg の用量で用いても、中枢
性の鎮痛作用は観察されなかった。
表1に示すようにTAPP(BCH 1774)のED50値は1,4である。H-Tyr-D-Nva-Phe-Phe
-NH2(BCH 2462)、H-Tyr-D-Ser-Phe-Phe-NH2(BCH 2463)およびH-Tyr-D-Arg-Phe
-Phe-NH2(BCH 2687)の相当する値はそれぞれ2.7、0.5および0.5である。表1
の残りの化合物のED50値はこれらの数字よりも高い。BCH 2813のED50値はわずか
0.15であったが、熱板法においては約40mg/kgの用量で中枢系に作用することが
見出された。
これらの結果は、化合物BCH 1774、BCH 2462およびBCH 2463がなお蛋白分解を
受けるものの、これらはより長い半減期を有し、したがって、鎮痛薬としてより
有効であることを示している。図3には、BCH 1774(TAPP)およびBCH 2463(TS
PP)によって惹起される鎮痛
効果のインビボにおける作用持続を比較した。30mg/kg(皮下)のBCH 2463と20
mg/kg(皮下)のBCH 1774を用いた場合、BCH 1774の鎮痛効果がBCH 2463の場合
よりも長く持続することを図3は示している。これは多分、BCH 2463のインビボ
における蛋白分解が、BCH 1774の場合よりもわずかに加速されたことを指示する
ものと考えられる。
図1A〜Dにはモルヒネ、BCH 2463(TSPP)、BCH 2462(TNPP)およびBCH 26
87のマウスにおける作用を、熱板試験法でのマウスの反応を評価することによっ
て示す。図1Aに示すように、10mg/kgのモルヒネで処置したマウスの反応時間
は約17秒である。100mg/kgのBCH 2463で処置したマウスの反応時間(図1B)
は約9秒で、これに対して対照値は約7秒である。これらの結果は、侵害受容的
熱刺激をモルヒネは阻害するのに対し、BCH 2463は阻害しないが、BCH 2463は化
学的に誘発されるライジングの阻害(図2)によって明らかなように、強力な鎮
痛薬であることを指示している。BCH 2462およびBCH 2687によって処置されたマ
ウスの反応時間(図1C、1D)は約8秒であり、BCH 2463の場合と類似の結果
を示す。
阻害剤DL−チオルファンによるBCH 2463の蛋白分解性代謝の阻害効果が試験さ
れ、また刷子縁腎膜により仲介されるBCH 2463の代謝的分解も試験された。得ら
れたデータは腎臓が化合物BCH 2463のクリアランスおよび代謝の主要部位である
可能性を指示している。図2から、DL−チオルファンによって阻害されるエンド
ペプチダーゼ酵素EC24-11が刷子縁腎抽出物によるBCH 2463蛋白分解の予備的メ
ディエーターであるように思われる。
BCH 1774(TAPP)およびBCH 2462(TNPP)の両者は、マウスにお
いて、薬物1〜5mg/kg(静脈内)の1回投与により致死効果を示した。これに
対し、BCH 2463(TSPP)は驚くべきことに、20mg/kg(静脈内)までの用量で全
く致死効果を示さなかった。さらに、ペプチドは100mg/kgを超える用量で皮下
投与しても安全であった。したがって、これらの化合物の望ましい投与経路は皮
下である。すなわち、BCH 1774によって例示される構造モデルは100mg/kg(皮
下)の高用量でも中枢神経系からの排除を維持しながら修飾することが可能で、
有害な静脈内毒性を最小限にすることができる。すなわちBCH 2463は少なくとも
20mg/kg(静脈内)の用量でマウスに致死性ではない。
本発明のペプチドの医薬的に許容される塩は適当な酸との反応により慣用方法
で形成させることができる。適当な酸付加塩は、たとえば塩酸、臭化水素酸、リ
ン酸、酢酸、フマル酸、サリチル酸、クエン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、シ
ュウ酸、メタンスルホン酸、および本技術分野の熟練者に知られた他の適当な酸
のような酸の付加によって形成させることができる。
本発明はまた医薬組成物を提供する。適当な組成物は、本発明のペプチドまた
はその医薬的に許容される塩の医薬的有効量、および医薬的に許容される担体ま
たは補助剤を含有する。
本発明はまた、動物たとえばヒトを含む哺乳類動物における痛みの処置方法を
提供する。この方法は、式1のペプチドまたはその医薬的に許容される塩の医薬
的有効量を患者に投与する手順からなる。上述の医薬組成物も使用できる。
本発明は以下の実施例によりさらに詳細に説明する。これらの実施例は例示の
みを目的とするものであり、いかなる様式においても、
本発明を限定するものではない。
実施例
ペプチドのオピオイド活性はモルモット回腸(GPI)縦方向筋肉プレパレーシ
ョンを用いてインビトロで評価し、それらの抗侵害受容活性は齧歯類動物におい
てPBQ誘発ライジングモデル(末梢活性)および熱板試験法(中枢活性)を用い
て測定した。末梢性オピオイドアンタゴニストN−メチルナロルフィンによる抗
侵害受容活性に対する拮抗、ならびにライジングおよび熱板法試験における活性
の比較から、鎮痛効果は末梢系において支配的に誘発されたことが証明された。
末梢鎮痛作用は、ライジング試験における高い効力と熱板試験法における低い効
力との組合せによって示された。
マウスにおけるPBQ(フェニル−p−ベンゾキノン)誘発ライジングは中枢性
および末梢性鎮痛作用、両者の評価法である。実験プロトコルはSigmundら,Pro
c.Soc.Exp.Biol.Med.,95,729(1957)参照(引用により本明細書に導入)。
中枢性鎮痛作用はマウスにおける熱板反応の阻害によって測定した。実験プロト
コルはG.Woolfe & A.Macdonald,J.Pharmacol.Exp.Ther.,80,300(1944)
参照(引用により本明細書に導入)。μおよびδ受容体に対するオピオイド受容
体結合親和性を評価するアッセイならびにGPIおよびMVDアッセイはSchillerら,
Biophys.Res.Commun.,85,1322(1975)(引用により本明細書に導入)に記載
された実験プロトコルによって測定した。
本発明の化合物は、以下に概述する一般的には本技術分野の熟練者に既知の固
相合成法を用いて製造された。例1 オピオイドペプチドの固相ペプチド合成
合成ペプチドはRink(登録商標)樹脂、4−(2′,4′−ジメトキシフェニル−
Fmoc−アミノメチル)−フェノキシ樹脂(NovabiochemまたはAdvanced Chemtech)
および合成される各ペプチドの関連C−末端Nα−Fmoc−L−アミノ酸残基を用
いて製造された。
L−およびD−アミノ酸(NovabiochemまたはAdvanced Chemtech)はすべてそれ
らのα基がFmoc(9−フルオレニル−メチルオキシカルボニル)−保護され、以
下の側鎖保護基:セリン、スレオニンおよびチロシンについてはt−ブチルエー
テル(tBu);アスパラギン酸およびグルタミン酸についてはt−ブチルエステル
(OtBu);リジンはt−ブチルオキシカルボニル(tBoc)、アルギニンについて
は2,2,5,7,8−ペンタメチルクロマン−6−スルホニル(pmc)ならびにシステイ
ンについてはトリチル(trt)で保護された。
ジメチルホルムアミド(Anachemia)はジメチルアミンを含まない純度とし、活
性化4Åモレキュラーシーブで処理した。ピペリジン(Advanced Chemtech)は
さらに精製しないでそのまま使用した。DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド
)およびHOBt(ヒドロキシベンゾトリアゾール)はそれぞれFlukaおよびAdvance
d Chemtechから入手した。
固相ペプチド合成はRink(登録商標)樹脂上で手動により実施した。負荷は約
0.6mmole/gとした。ペプチド縮合は、1)カップリング:DMF中各2当量のFmoc
−アミノ酸、HOBtおよびDCC、1〜4時間、室温。2)再カップリング:各1当量
のFmoc−アミノ酸、HOBtおよびDCC。3)アセチル化:20%(v/v)(CH3CO)2O/DCM
、1時間、室温。
4)N−α−Fmoc脱保護:DMF中20%(v/v)ピペリジン、25分、の条件で行った。
側鎖保護基(tBu、Boc、Trt、Pmc)の除去および樹脂からのペプチドの切断は
、N2下室温において90分間、TFA含有カクテル(v/v)55/5/40 TFA/Anisole
/DCMにより行われた。ペプチドをジエチルエーテルで沈澱させ、濾過し、乾燥
した。粗製ペプチドを精製して、逆相カラム上0.06% TFA/H2Oおよび0.06%TFA
/アセトニトリルを用いて勾配溶出するHPLCによって分析した。例2 熱板法アッセイ 鎮痛活性の測定
この試験には、体重20〜25gのCD#1雄性マウスを用いた。マウスの体重を測
定し、マークを施して10匹の群に分けた。
通常、マウスは、0.1ml/10g p.c.(10ml/kg)に相当する注射容量で化合物
(または標準もしくは媒体)の皮下注射により処置した。ナロキサンまたはN−
メチルレバロルファンのようなアンタゴニストを用いた場合は、化合物(または
標準もしくは媒体)の投与20分前に、腹腔内に投与した。注射容量は同じく0.1m
l/10g p.c.とした。アンタゴニストの用量は10mg/kgとした。
マウスは個別に熱板上での反応時間を評価した。熱板(Sorel、DS37型)の温度
は55℃にセットした。マウスは、不快の徴候たとえば肢部のリッキング(licking
)もしくは振動、逃避の試み(プレートからの跳躍)または身震いを観察した。
これらの徴候の一つが現れた場合、反応時間をカウントして秒で記録した。足蹠
組織に対する損傷を防止するために、各マウスについての最大観察期間は30秒と
した。マウスは、化合物(または媒体もしくは標準)の投与後、様々な時間間隔
で観察することができる。時間間隔は30、60または120分(またはその他)とす
ることができる。
各時間記録毎に、対照群の平均反応時間に1.5を乗じた。各処置マウスの反応
時間を「対照平均×1.5」と比較した。反応時間が「対照平均×1.5」を下回る場
合には、マウスに鎮痛効果は認められないと判定した。反応時間が「対照平均×
1.5」を上回る場合には、マウスに鎮痛効果があったとみなした。群中の鎮痛マ
ウスの数からこの測定での化合物の鎮痛百分率を求めた。鎮痛百分率が30%を下
回った場合には化合物を不活性と判定した。例3 ライジングアッセイ 捻転の測定
試験には、体重18〜22gのCD#1雄性マウスを用いた。マウスは体重を測定し
マークを付した。それらに、0.02%フェニルキノン溶液 0.3ml/20g体重を腹腔
内経路で注射した。注射後15分の期間内に起こる捻転をカウントした。フェニル
キノンは、化合物(または媒体もしくは標準)の皮下経路での投与後5、20また
は60分の時間間隔で注射した。化合物(または媒体もしくは標準)の経口経路に
よる投与後には60分の時間間隔で注射した。
0.02%フェニルキノン(2−フェニル−1,4−ベンゾキノン、Sigma)溶液は次の
要領で調製した。20mgのフェニルキノンを5mlのエタノール90%(Sigma、試薬、
アルコール)中に溶解した。溶解したフェニルキノンを、絶えず振盪し予め加熱
した(沸騰させない)95mlの蒸留水に徐々に加えた。フェニルキノン溶液は常に
光から保
護し、試験用には毎日新しい溶液を調製した。フェニルキノン溶液は使用前に2
時間待つことが勧められる。
試験は同時に5匹のマウスで実施できる。各群には通常10匹のマウスを包含さ
せた。ナロキソンのようなアンタゴニストを使用する場合には、化合物(または
媒体もしくは標準)投与の20分前に腹腔内経路によって投与された。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1996年4月26日
【補正内容】
請求の範囲
1.式(1):
〔式中、
XはHおよびC1〜6アルキルからなる群より選ばれ、
YおよびZは独立にH、環状アラルキルおよびC1〜6アルキルからなる群よ
り選ばれ、
R1はチロシル残基、2′,6′−ジメチルチロシル残基、またはそれらの類縁
体もしくは誘導体であり、
R3は芳香族アミノ酸であり、
R4は芳香族アミノ酸残基であり、
R2はR−配置を有するアミノ酸であり、
ただし、R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがH、R3が
フェニルアラニンである場合には、R4は置換されていないまたは4NO2もしくは4N3
置換フェニルアラニンではなく、
R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがH、R4がフェニル
アラニンである場合には、R3は置換されていないまたは4NO2で置換されたフェニ
ルアラニンではなく、
R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがH、R4が1′−ナ
フチルアラニンである場合には、R3は1′−ナフチルアラニンまたは2′−ナフチ
ルアラニンではなく、そして
R1がチロシル残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがHである場合、R3
およびR4の両者がトリプトファンではない。そし
て
Qはアミド結合または介在擬似アミド結合であり、
この場合、
H-Tyr-D-Phe-Phe-Phe-NH2、
H-Tyr-D-NMePhe-Phe-Phe-NH2、
H-Tyr-D-Tic-Phe-Phe-NH2、
H-Tyr-Pro-Phe-Thr(Bzl)-NH2、
H-Tyr-Pro-Phe-Phe-NH2、
H-Tyr-Pro-Phe-Apb-NH2、
H-Tyr-Pro-Phe-App-NH2、
H-Tyr-Pro-Phe-Aph-NH2、
H-Tyr-Pro-Apb-Phe-NH2
(式中、Apbは2−アミノ−4−フェニル酪酸、Appは2−アミノ−5−フェニ
ルペンタン酸、Aphは2−アミノ−6−フェニルヘキサン酸を意味する)を除く
〕によって表される末梢性鎮痛作用を有する化合物ならびにそれらの誘導体およ
び類縁体。
2.式(1)においてXがHである請求項1記載の化合物。
3.式(1)において、R2はR−配置を有するアミノ酸であるが、R1がチロシル
残基、R2がD−アラニン、X、YおよびZがHである場合には、R3およびR4は互
いに異なり、フェニルアラニンおよびトリプトファンからなる群より選ばれる請
求項1または2記載の化合物。
4.式(1)において、Qがアミド結合または式Q1-Q2(式中Q1はCH2、CHOH、C=
O、C=SおよびCH=からなる群より選ばれ、Q2は、CH2、NH、S、SO、SO2、Oおよ
びCH=からなる群より選ばれ、ただし、Q1が
CH=の場合にはQ2はCH=である)の介在擬似アミド結合である請求項1または2記
載の化合物。
5.式(1)において、Qがアミド結合または式Q1-Q2(式中Q1はCH2、CHOH、C=
O、C=SおよびCH=からなる群より選ばれ、Q2は、CH2、NH、S、SO、SO2、Oおよ
びCH=からなる群より選ばれ、ただし、Q1がCH=の場合、Q2はCH=である)の介在
擬似アミド結合である請求項3記載の化合物。
6.式(1)において、YおよびZがHであり、R3およびR4は独立に芳香族アミ
ノ酸であり、R2はR−配置を有するアミノ酸であるが、R1がチロシル残基、R2が
D−アラニンの場合には、R3およびR4は互いに異なりフェニルアラニンおよびト
リプトファンからなる群より選ばれる請求項1、2または5記載の化合物。
7.式(1)において、YおよびZがHであり、R3およびR4は独立に芳香族アミ
ノ酸であり、R2はR−配置を有するアミノ酸であるが、R1がチロシル残基、R2が
D−アラニンの場合には、R3およびR4は互いに異なりフェニルアラニンおよびト
リプトファンからなる群より選ばれる請求項4記載の化合物。
8.式(1)において、R2はR−配置を有するアミノ酸であるが、R2はD−アラ
ニンではなく、R3およびR4はフェニルアラニル残基である請求項6記載の化合物
。
9.式(1)において、R2はR−配置を有するアミノ酸であるが、R2はD−アラ
ニンではなく、R3およびR4はフェニルアラニル残基である請求項7記載の化合物
。
10.R1はチロシル残基であり、R2はD−ノルバリン、D−セリン、およびD−ア
ルギニンからなる群より選ばれ、R3およびR4はフェ
ニルアラニル残基であり、Qはアミド結合である請求項6記載の化合物。
11.R1はチロシル残基であり、R2はD−ノルバリン、D−セリン、およびD−ア
ルギニンからなる群より選ばれ、R3およびR4はフェニルアラニル残基であり、Q
はアミド結合である請求項7記載の化合物。
12.H-Tyr-D-Phe-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-Aib-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Nle-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Ala-Phe-2′-Nal-NH2;
H-Tyr-D-Ala-D-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Ala-Phe(4NO2)-Phe(4NO2)-NH2;
H-Tyr-D-Ala-Phe-Tic-NH2;
H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe(NMe)-NH2;
H-Tyr-D-Ala-Phe-1′-Nal-NH2;
H-Tyr-D-Ala-Trp-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Ala-Phe-Trp-NH2;
H-Tyr-▽Ala-Phe-Phe-NH2;
▽CH2-Tyr-D-Ala-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Nle-Phe-Trp-NH2;
H-Tyr-D-Nle-Phe-2′-Nal-NH2;
H-Tyr-D-Nle-Trp-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Ala-Trp-2′-Nal-NH2;
H-Tyr-D-Nle-Trp-2′-Nal-NH2;
H-Tyr-D-Nle-Trp-Trp-NH2;
H-Tyr-D-Nva-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Ser-Phe-Phe-NH2;
N-Tyr-D-Val-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Leu-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Ile-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Abu-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-Chl-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-Cle-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Arg-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Cys-Phe-Phe-NH2;
H-Tyr-D-Thr-Phe-Phe-NH2;
H-DMT-D-Ser-Phe-Phe-NH2;
Tyr-D-Ala-Phe-Phe-OH トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Ala-Phe-Phg-NH2 トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Arg-Phe-Hph-NH2 二トリフルオロ酢酸;
H-DMT-D-Ala-Phe-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸;
H-D-DMT-D-Ala-Phe-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Ala-Phe-Hph-NH2 トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Ala-Phe-Cys(Bzl)-NH2 トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Arg-Hph-Phe-NH2 二トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Arg-Phg-Phe-NH2 二トリフルオロ酢酸塩;
Tyr-D-Ala-Phe-Phe-CH2OH 塩酸塩;
H-Tyr-D-Ala-Hph-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Met-Phe-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Arg-Phe-D-Phe-NH2 二トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Ala-Phg-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-(D)-Ala-(D)-Phg-Phe-NH2 トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Arg-Phe-Phe(pf)-NH2 二トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Arg-Phe-D-Phe(pf)-NH2 ジトリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe(pf)-NH2 トリフルオロ酢酸塩;
H-Tyr-D-Ala-Phe-D-Phe(pf)-NH2 トリフルオロ酢酸塩
からなる群より選ばれる請求項1記載の化合物。
13.化合物はH-Tyr-D-Nva-Phe-Phe-NH2である請求項1記載の化合物。
14.化合物はH-Tyr-D-Ser-Phe-Phe-NH2である請求項1記載の化合物。
15.化合物はH-Tyr-D-Arg-Phe-Phe-NH2である請求項1記載の化合物。
16.請求項1、12、13、14または15記載の化合物少なくとも1種の有効量を医薬
的に許容される担体と混合してなる鎮痛活性を有する医薬組成物。
17.請求項3記載の化合物少なくとも1種の有効量を医薬的に許容される担体と
混合してなる鎮痛活性を有する医薬組成物。
18.請求項4記載の化合物少なくとも1種の有効量を医薬的に許容される担体と
混合してなる鎮痛活性を有する医薬組成物。
19.請求項6記載の化合物少なくとも1種の有効量を医薬的に許容される担体と
混合してなる鎮痛活性を有する医薬組成物。
20.さらに少なくとも1種の他の治療的に活性な薬物の有効量からなる請求項16
記載の医薬組成物。
21.さらに少なくとも1種の他の治療的に活性な薬物の有効量から
なる請求項17、18または19記載の医薬組成物。
22.化合物H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe-NH2またはその類縁体もしくは医薬的誘導体の
痛みの処置のための末梢性鎮痛剤の製造のための使用。
23.請求項1、12、13、14または15記載の化合物およびそれらの医薬的誘導体の
痛みの処置のための末梢性鎮痛剤の製造のための使用。
24.請求項3記載の化合物およびその医薬的誘導体の痛みの処置のための末梢性
鎮痛剤の製造のための使用。
25.請求項4記載の化合物およびその医薬的誘導体の痛みの処置のための末梢性
鎮痛剤の製造のための使用。
26.請求項6記載の化合物およびその医薬的誘導体の痛みの処置のための末梢性
鎮痛剤の製造のための使用。
27.請求項1、12、13、14または15記載の式(1)の化合物またはそれらの医薬
的に許容される誘導体の少なくとも1種の医薬的有効量を、そのような処置を必
要とする哺乳類動物に投与する段階からなる痛みの処置方法。
28.請求項3記載の式(1)の化合物またはそれらの医薬的に許容される誘導体
の少なくとも1種の医薬的有効量を、そのような処置を必要とする哺乳類動物に
投与する段階からなる痛みの処置方法。
29.請求項4記載の式(1)の化合物またはそれらの医薬的に許容される誘導体
の少なくとも1種の医薬的有効量を、そのような処置を必要とする哺乳類動物に
投与する段階からなる痛みの処置方法。
30.請求項6記載の式(1)の化合物またはそれらの医薬的に許容される誘導体
の少なくとも1種の医薬的有効量を、そのような処置を必要とする哺乳類動物に
投与する段階からなる痛みの処置方法。
31.請求項16記載の組成物またはそれらの医薬的に許容される誘導体の医薬的有
効量を、そのような処置を必要とする哺乳類動物に投与する段階からなる痛みの
処置方法。
32.請求項17、18、19または20記載の組成物またはそれらの医薬的に許容される
誘導体の医薬的有効量を、そのような処置を必要とする哺乳類動物に投与する段
階からなる痛みの処置方法。
33.請求項21記載の組成物またはそれらの医薬的に許容される誘導体の医薬的有
効量を、そのような処置を必要とする哺乳類動物に投与する段階からなる痛みの
処置方法。
34.化合物H-Tyr-D-Ala-Phe-Phe-NH2またはその類縁体もしくは医薬的に許容さ
れる誘導体の医薬的有効量を、そのような処置を必要とする哺乳類動物に投与す
る段階からなる痛みの処置方法。
35.類縁体はH-Tyr-D-Ala-Phe-Phe(4-NO2)-NH2、およびH-Tyr-D-Ala-Phe-Phe-(4
-N3)-NH2から選ばれる請求項22記載の使用。
36.類縁体はH-Tyr-D-Ala-Phe-Phe(4-NO2)-NH2、およびH-Tyr-D-Ala-Phe-Phe(4-
NO3)-NH2から選ばれる請求項34記載の使用。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(31)優先権主張番号 9401519−5
(32)優先日 1994年5月3日
(33)優先権主張国 スウェーデン(SE)
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ,UG),
AM,AT,AU,BB,BG,BR,BY,CA,C
H,CN,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,GB
,GE,HU,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,
LK,LR,LT,LU,LV,MD,MG,MN,M
W,MX,NL,NO,NZ,PL,PT,RO,RU
,SD,SE,SI,SK,TJ,TT,UA,UG,
US,UZ,VN
(72)発明者 シラー,ピーター
カナダ国ケベツク州エイチ3ジー 2エイ
4.モントリオール.マウンテンストリー
ト3475.アパートメント1212
(72)発明者 マルテル,レネー
カナダ国ケベツク州エイチ4エル 1ワイ
5.サンローラン.コートヴエルテユ
1150.アパートメント301