JPH09241195A - トランス−3−イソカンフィルシクロヘキサノールの製造法 - Google Patents

トランス−3−イソカンフィルシクロヘキサノールの製造法

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JPH09241195A
JPH09241195A JP8050309A JP5030996A JPH09241195A JP H09241195 A JPH09241195 A JP H09241195A JP 8050309 A JP8050309 A JP 8050309A JP 5030996 A JP5030996 A JP 5030996A JP H09241195 A JPH09241195 A JP H09241195A
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誠 江村
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睦 原田
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 香料成分として有用なトランス−3−イソカ
ンフィルシクロヘキサノールを、工業化実施可能な程度
に、経済的に安価に、かつ、高い立体選択性で製造する
方法を提供することを課題とする。 【解決手段】 式(1) 【化1】 で表される3−イソカンフィルシクロヘキサノンを、ル
テニウム−ホスフィン錯体を触媒として、アルカリ金属
またはアルカリ土類金属を有する塩基およびアミンの存
在下で水素化する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特定の立体配座を
有するトランス−3−イソカンフィルシクロヘキサノー
ルの製造法に関する。該化合物は、特にサンダルウッド
油様香気を有する香料成分として有用である。
【0002】
【従来の技術】サンダルウッド油は、インド東部を主産
地とする白檀から得られる精油で、香料成分として珍重
されている。しかし、環境や資源保護の観点から、白檀
の伐採には制限が加えられているため、天然のサンダル
ウッド油の生産量は限られている。このため、従来よ
り、この代替品として、化学合成により得られるサンダ
ルウッド油様香気成分の開発が行われてきた。
【0003】天然のサンダルウッド油の香気の特有主成
分は、α−およびβ−サンタロールであることが知られ
ている。しかし、サンタロールは、その化学構造上、工
業的に大量に合成することが困難である。そこで、近年
になって、サンタロールとは異なる化学構造を有する
が、香気は非常によく似ている物質が合成されるように
なった。
【0004】この物質のひとつが、カンフェンとグアヤ
コールを、三フッ化ホウ素を用いて反応させ、次いでラ
ネーニッケルを触媒として水素化して得られる物質であ
る(西独国特許第834,593号明細書 (1952) (Cl. 39c,
2)、および、Chemical Abstracts 51:17107d (195
7))。この物質は、イソボルニル、イソカンフィルまた
はイソフェンキルが置換したシクロヘキサノールの混合
物のかたちで、サンタレックスT(登録商標、高砂香料
工業株式会社製、以下同様)等のいくつかの商品名で市
販され、サンダルウッド油代替品として利用されてい
る。
【0005】この混合物中、サンダルウッド油様の香気
に最も重要な影響を及ぼす成分は、トランス−3−イソ
カンフィルシクロヘキサノール、すなわち(1S,3
S)−および(1R,3R)−イソカンフィルシクロヘ
キサノールであり、その他の成分は、香質の劣る弱い香
気しか有しないか、無臭であることが報告されている
(E. Demole, Helv. Chimca Acta, Vol.47, p.319-338
(1964))。さらに、サンダルウッド油の香気成分である
α−およびβ−サンタロールの構造と比較した結果、3
−イソカンフィルシクロヘキサノールのうち、シクロヘ
キサン環の3位に置換したイソカンフィル基がシクロヘ
キサン環に対しエクアトリアル結合をし、かつ、1位に
置換した水酸基がアキシアル結合をしているトランス異
性体のものが、サンダルウッド油様香気の発現に必須で
あることが報告されている(E. Demole, Helv. Chim. A
cta, Vol.47, p.1766-1774 (1964))。水酸基がアキシ
アル結合であることが、サンダルウッド油様香気の発現
に必須であることは、化合物の構造−活性相関に関する
立体配座計算からも、支持されている(G. Buchbauer
ら、Helv. Chim. Acta, Vol.77, p.2286-2296 (199
4))。
【0006】しかし、前述の市販されている混合物中、
トランス−3−イソカンフィルシクロヘキサノールの含
有量は約8重量%にすぎない(G. K. Langeら、Confere
nceProceeding of Fragrance Flavour Subst. Proc. In
t., Haarmann Reimer Symp., p.111-121 (1980))。よ
って、このトランス−3−イソカンフィルシクロヘキサ
ノールを選択的に合成する方法が求められ、既にいくつ
か提案されている。
【0007】例えば、2−イソカンフィルフェノールを
経由する方法(E. Demole, Helv. Chim. Acta, Vol.52,
p.2065-2085 (1969))や、4−イソカンフィルフェノ
ールを経由する方法(R. T. Dahillら、J. Org. Chem.,
Vol.35, p.251-252 (1970))が提案されている。しか
し、これらの方法は、反応途中に多くの異性体を生成
し、しかも、大量に取り扱うのが困難な水素化アルミニ
ウムリチウムを用いるので、工業的な製造方法には適さ
ない。
【0008】また、シス−およびトランス−3−イソカ
ンフィルシクロヘキサノールの混合物を、酸化し3−イ
ソカンフィルシクロヘキサノンとし、これをかさ高いア
ルキル基で置換された水素化ホウ素リチウムで還元して
純粋なトランス−3−イソカンフィルシクロヘキサノー
ルを合成する方法が提案されている(G. K. Langeら、C
onference Proceeding of Fragrance Flavour Subst. P
roc. Int., HaarmannReimer Symp., p.111-121 (198
0))。しかし、得られるトランス−3−イソカンフィル
シクロヘキサノールの純度および収率は未記載である。
また、この方法は、還元反応に使用する試薬が高価なの
で、工業的な製造方法には適さない。
【0009】また、水酸基がアキシアル結合したシクロ
ヘキサノールを得る方法として、4−アルキルシクロヘ
キサノンを、イソプロパノール中でクロロイリジウム酸
およびホスホン酸トリメチルと共に加熱還流させ、立体
選択的に水素化する方法が知られている(Y. M. Y. Had
dadら、Proc. Chem. Soc., Vol.93, p.361 (1964))
が、この反応は反応速度が遅く、3−イソカンフィルシ
クロヘキサノンに応用した場合には、これを還元するこ
とができないと報告されている(G. K. Langeら、Confe
rence Proceeding of Fragrance Flavour Subst. Proc.
Int., HaarmannReimer Symp., p.111-121 (1980))。
【0010】このように、トランス−3−イソカンフィ
ルシクロヘキサノールを選択的に合成する方法はいくつ
か提案されているものの、工業的な製造法は未だ確立さ
れていないのが現状である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明は、サ
ンダルウッド油様香気の発現に必須な成分であるトラン
ス−3−イソカンフィルシクロヘキサノールを、工業化
実施可能な程度に、経済的に安価に、かつ、高い立体選
択性で製造する方法を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を解決するため、安価なルテニウムを含有する触媒を用
い、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する塩基
およびアミンの存在下で、3−イソカンフィルシクロヘ
キサノンを立体選択的に水素化すれば、高純度でトラン
ス−3−イソカンフィルシクロヘキサノールを得ること
ができることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】すなわち、本発明は、式(1)
【0014】
【化2】
【0015】で表される3−イソカンフィルシクロヘキ
サノンを、ルテニウム−ホスフィン錯体を触媒として、
アルカリ金属またはアルカリ土類金属を有する塩基およ
びアミンの存在下で水素化することを特徴とするトラン
ス−3−イソカンフィルシクロヘキサノールの製造法に
関する。尚、式(1)で表される3−イソカンフィルシ
クロヘキサノンを、立体的に(シクロヘキサン環をいす
形配座で)表すと、式(1a)
【0016】
【化3】
【0017】および/または式(1b)
【0018】
【化4】
【0019】で表される。また、これを水素化して得ら
れる本発明のトランス−3−イソカンフィルシクロヘキ
サノールは、式(2a)
【0020】
【化5】
【0021】で表される(1S,3S)−イソカンフィ
ルシクロヘキサノールおよび/または式(2b)
【0022】
【化6】
【0023】で表される(1R,3R)−イソカンフィ
ルシクロヘキサノールである。
【0024】
【発明の実施の形態】本発明の反応基質である3−イソ
カンフィルシクロヘキサノンは、例えば、3−イソカン
フィルシクロヘキサノール(トランスおよびシス異性体
の混合物)を酸化することにより得ることができる。3
−イソカンフィルシクロヘキサノールは、例えば、サン
タレックスT等の商品名で市販されているサンダルウッ
ド油代替品中に約20〜40重量%含有されている。本
発明では、3−イソカンフィルシクロヘキサノンを高速
液体クロマトグラフィー等により単離精製したものを用
いてもよいし、また、サンタレックスT等の市販のサン
ダルウッド油代替品を酸化して得られる3−イソカンフ
ィルシクロヘキサノンを約20〜40重量%含有する組
成物をそのまま用いてもよい。
【0025】3−イソカンフィルシクロヘキサノールま
たはサンタレックスT等の市販のサンダルウッド油代替
品の酸化は、第2級アルコールをケトンに酸化する常法
に従って行えばよく、たとえば酸化剤や脱水素触媒の存
在下で行われる。酸化剤としては、クロム酸塩等を挙げ
ることができるが、これは環境問題上使用の制約がある
ので、好ましくは脱水素触媒を用いるとよい。
【0026】脱水素触媒としては、遷移金属の酸化物を
主体とした触媒を挙げることができる。遷移金属の酸化
物の具体例としては、酸化銅(CuO)、酸化クロム
(Cr 23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(N
iO)等を例示することができ、これらは単独または2
種以上の混合物のかたちで触媒を構成する。さらに、助
触媒として、少量の酸化マンガン(Mn23)、酸化バ
リウム(BaO)等を含有していてもよい。触媒の好ま
しい具体例としては、酸化銅およびその他の遷移金属の
酸化物から構成される、銅クロム触媒(酸化銅および酸
化クロムから構成される触媒)、銅・亜鉛触媒(酸化銅
および酸化亜鉛から構成される触媒)、銅・クロム亜鉛
触媒(酸化銅、酸化クロムおよび酸化亜鉛から構成され
る触媒)等を挙げることができる。これらの脱水素触媒
は、公知の方法によって製造することもできるが、市販
品をそのまま用いることもできる。
【0027】脱水素触媒の使用量は、3−イソカンフィ
ルシクロヘキサノールの重量に対し約1/5倍重量〜1
/100000倍重量、好ましくは1/20倍重量〜約
1/5000倍重量とするとよい。
【0028】脱水素触媒を用いた酸化反応は、適当な溶
媒を加えて行うこともできるが、反応の経済性を考慮す
ると、無溶媒に近い状態で行うことが好ましい。
【0029】脱水素触媒を用いた酸化反応の、反応温度
は、通常約50℃〜300℃、好ましくは約150℃〜
280℃の範囲がよい。反応時間は、採用される温度や
触媒量等の条件によって異なるが、約1時間〜20時間
で反応は完結する。
【0030】この酸化反応は、空気中で行うこともでき
るが、反応に不活性なガスの雰囲気下で行うこともでき
る。ここで使用できるガスとしては、例えば、窒素、ア
ルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等を挙げることができ、
これらを単独あるいは2種以上混合して使用することが
できる。
【0031】酸化反応を行う圧力は、約0.001気圧
〜10気圧、好ましくは約0.01〜0.5気圧の範囲
がよい。
【0032】また、脱水素触媒を用いた酸化反応は、3
−イソカンフィルシクロヘキサノールを気化してガス状
とし、これを加熱した固体触媒と接触させることによっ
て行うこともできる。
【0033】本発明の水素化反応で触媒として使用する
ルテニウム−ホスフィン錯体は、ルテニウムにホスフィ
ン化合物、好ましくは有機ホスフィン化合物が配位した
化合物であり、さらに補助配位子を含有していてもよ
い。また、単核錯体であっても、複核錯体であってもよ
い。これらの錯体は、市販されている錯体をそのまま用
いることもできるし、公知の方法に従って用時調製した
錯体を用いることもできる。用時調製する場合は、例え
ば、市販のルテニウム塩またはルテニウム錯体に、ルテ
ニウムに対し1〜4当量の配位子を加えればよい。ま
た、本発明の水素化反応を実施する際に、ルテニウム塩
またはルテニウム錯体および配位子を別々に加えて、反
応系中で錯体を形成させてもよい。さらに、過剰の配位
子、もしくは、トリエチルアミンやルイス酸のような付
加物を加えた錯体、または、還元して活性化した錯体を
用いることもできる。
【0034】ルテニウムに配位する有機ホスフィン化合
物は、単座配位子であっても二座以上の多座配位子であ
ってもよい。例えば、式(3) PR123 (3) (式中、R1,R2およびR3は、同一または異なって、
置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有して
いてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよ
いアリール基を示す)で表される単座配位子または式
(4) R45P−A1−PR67 (4) (式中、R4,R5,R6およびR7は、同一または異なっ
て、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有
していてもよいアラルキル基または置換基を有していて
もよいアリール基を示し、A1は置換基を有していても
よいアルキレン基または「−A2−Ar−Ar−A2−」
もしくは「−Ar−Ar−」で表される基を示し、A2
は置換基を有していてもよいアルキレン基を示し、「−
Ar−Ar−」は2,2’−位に結合手を有する1,
1’−ビフェニル基、2,2’−位に結合手を有する
1,1’−ビナフチル基または2,2’−位に結合手を
有する5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オク
タヒドロ−1,1’−ビナフチル基を示し、ビフェニル
基はメチル基、メトキシ基またはジアルキル置換アミノ
基で置換されていてもよく、ビナフチル基はスルホン酸
アルカリ塩で置換されていてもよい)で表される二座配
位子を挙げることができる。
【0035】ここで、R1,R2およびR3、ならびに
4,R5,R6およびR7で表される置換基を有していて
もよいアルキル基としては、ハロゲン原子やアルコキシ
基等が一つ以上置換していてもよい直鎖状、分枝鎖状ま
たは環状のアルキル基を意味し、好ましい例としては、
炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル
基、または、炭素数3〜8の環状アルキル基を挙げるこ
とができ、具体例としてはメチル基、エチル基、ブチル
基、オクチル基、シクロヘキシル基等を挙げることがで
きる。
【0036】R1,R2およびR3、ならびにR4,R5
6およびR7で表される置換基を有していてもよいアラ
ルキル基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコ
キシ基等が一つ以上置換していてもよいアリール基が置
換したアルキル基を意味し、アラルキル基中のアリール
基としては置換基を有していてもよいフェニル基および
ナフチル基が好ましく、アラルキル基中のアルキル基と
しては炭素数1〜4のものが好ましい。具体例として
は、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等を
挙げることができる。
【0037】R1,R2およびR3、ならびに、R4
5,R6およびR7で表される置換基を有していてもよ
いアリール基としては、ハロゲン原子、アルキル基、ア
ルコキシ基等が一つ以上置換していてもよいアリール基
を意味し、好ましい例としては、無置換のフェニル基や
ナフチル基か、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ
素原子、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分枝鎖状のアル
キル基、または、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分枝鎖
状のアルコキシ基が置換したフェニル基やナフチル基を
挙げることができ、具体例としては、フェニル基、ナフ
チル基、p−クロロフェニル基、p−ブロモフェニル
基、p−フルオロフェニル基、p−トリル基、p−t−
ブチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、p−
メトキシフェニル基等を挙げることができ、中でもフェ
ニル基およびp−トリル基が特に好ましく用いられる。
【0038】A1およびA2で表される置換基を有してい
てもよいアルキレン基としては、ハロゲン原子やアルコ
キシ基等が一つ以上置換していてもよい直鎖状または分
枝鎖状のアルキレン基を意味し、好ましい例としては、
炭素数1〜5の無置換の直鎖状または分枝鎖状のアルキ
レン基を挙げることができ、具体例としては、A1とし
てエチレン基〔−(CH22−〕、プロピレン基〔−
(CH23−〕、ブチレン基〔−(CH24−〕、ジメ
チルエチレン基〔−CH(CH3)CH(CH3)−〕等
を挙げることができ、A2としてメチレン基(−CH
2−)を挙げることができる。
【0039】式(3)で表される配位子の好ましい具体
例としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフ
ィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィ
ン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリベンジルホス
フィン、トリフェニルホスフィン、トリ(p−クロロフ
ェニル)ホスフィン、トリ(p−ブロモフェニル)ホス
フィン、トリ(p−フルオロフェニル)ホスフィン、ト
リ(p−トリル)ホスフィン、トリ(p−t−ブチルフ
ェニル)ホスフィン、トリ(3,5−ジメチルフェニ
ル)ホスフィン、トリ(p−メトキシフェニル)ホスフ
ィン、メチルジフェニルホスフィン、ジメチルフェニル
ホスフィン等を挙げることができる。
【0040】式(4)で表される配位子のうち、A1
置換基を有していてもよいアルキレン基の好ましい具体
例としては、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタ
ン、1,3−ビス(ジメチルホスフィノ)プロパン、
1,4−ビス(ジメチルホスフィノ)ブタン、1,2−
ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(以下「DPP
E」と記載する)、1,3−ビス(ジフェニルホスフィ
ノ)プロパン(以下「DPPP」と記載する)、1,4
−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(以下「DPP
B」と記載する)、1,2−ビス〔ジ(p−トリル)ホ
スフィノ〕エタン、1,3−ビス〔ジ(p−トリル)ホ
スフィノ〕プロパン、1,4−ビス〔ジ(p−トリル)
ホスフィノ〕ブタン、2,3−ビス(ジフェニルホスフ
ィノ)ブタン(以下「CHIRAPHOS」と記載す
る)等を挙げることができる。
【0041】式(4)で表される配位子のうち、A1
「−A2−Ar−Ar−A2−」で表される基の好ましい
具体例としては、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィ
ノメチル)−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス
(ジフェニルホスフィノメチル)−1,1’−ビナフチ
ル等を挙げることができる。
【0042】式(4)で表される配位子のうち、A1
「−Ar−Ar−」で表される基の好ましい具体例とし
ては、2,2’−ジメチル−6,6’−ビス(ジシクロ
ヘキシルホスフィノ)−1,1’−ビフェニル(以下
「BICHEP」と記載する)、2,2’−ジメチル−
6,6’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−
ビフェニル(以下「BIPHEMP」と記載する)、
2,2’−ジメトキシ−6,6’−ビス(ジフェニルホ
スフィノ)−1,1’−ビフェニル、2,2’,4,
4’−テトラメトキシ−6,6’−ビス(ジフェニルホ
スフィノ)−1,1’−ビフェニル、2,2’−ジメチ
ル−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)−6,6’−ビ
ス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビフェニル、
2,2’−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−1,1’
−ビナフチル(以下「BINAP」と記載する)、2,
2’−ビス−(ジ−p−トリルホスフィノ)−1,1’
−ビナフチル(以下「Tol−BINAP」と記載す
る)、2,2’−ビス−(ジ−m−トリルホスフィノ)
−1,1’−ビナフチル(以下「m−Tol−BINA
P」と記載する)、2,2’−ビス−(ジ−p−t−ブ
チルフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(以
下「t−Bu−BINAP」と記載する)、2,2’−
ビス−〔ジ−(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィ
ノ〕−1,1’−ビナフチル(以下「DM−BINA
P」と記載する)、2,2’−ビス−(ジ−p−メトキ
シフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(以下
「MeO−BINAP」と記載する)、2,2’−ビス
−(ジ−p−クロロフェニルホスフィノ)−1,1’−
ビナフチル(以下「Cl−BINAP」と記載する)、
2,2’−ビス−(ジシクロペンチルホスフィノ)−
1,1’−ビナフチル(以下「CpBINAP」と記載
する)、2,2’−ビス−(ジシクロヘキシルホスフィ
ノ)−1,1’−ビナフチル(以下「CyBINAP」
と記載する)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィ
ノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オク
タヒドロ−1,1’−ビナフチル(以下「H8−BIN
AP」と記載する)等を挙げることができる。
【0043】尚、上記した式(4)で表される配位子の
うち、CHIRAPHOS、および、A1が「−A2−A
r−Ar−A2−」または「−Ar−Ar−」で表され
る基であるものは、不斉構造を有し、(S)−体、
(R)−体またはラセミ体が存在するが、本発明ではい
ずれをも使用することができる。本明細書においては、
不斉構造を有する配位子の(S)−または(R)−の表
記を省略する(但し、実施例では表記する)。
【0044】上記した配位子のうち、本発明で特に好ま
しく用いられるものは、式(3)で表される配位子であ
る。
【0045】ルテニウム−ホスフィン錯体に含有されて
いてもよい補助配位子としては、1,5−シクロオクタ
ジエン、ベンゼン、p−シメン、アセトニトリル、ベン
ゾニトリル、ピリジン、キノリン、イソキノリン、酢
酸、アセチルアセトナート等が挙げられる。
【0046】ルテニウム−ホスフィン錯体の好ましい例
としては、以下の式(5)〜(8)で表される錯体1〜
錯体4が挙げられる。
【0047】 錯体1: RuHa(X1bc (5) (式中、X1はハロゲン原子または「R8COO」で表さ
れる基を示し、R8は水素原子、炭素数1〜4のアルキ
ル基または炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基を示
し、Lは有機ホスフィン化合物を示し、aおよびbは
(a+b)が2になるような組み合わせで0〜2の整数
を示し、cは1〜4の整数を示す)
【0048】 錯体2: (RuHde)(X2f (6) (式中、X2はClO4、PF6またはBF4を示し、Lは
前記と同じ意味を示し、dが0のときeは1、fは2を
示し、dが1のときeは2、fは1を示す)
【0049】 錯体3: 〔Ru(X3)(Bz)L〕(X4g (7) 〔式中、X3はハロゲン原子を示し、Bzは置換基を有
していてもよいベンゼンを示し、X4はハロゲン原子、
ClO4、PF6、BF4またはBPh4(Phはフェニル
基、以下同様)を示し、Lは前記と同じ意味を示し、g
は1を示すか、または、X3およびX4がヨウ素原子の場
合は、gは3であってもよい〕
【0050】 錯体4: (Ru2Cl42)(T) (8) (式中、Tは第三級アミンを示し、Lは前記と同じ意味
を示す) 上記式中、Lで表される有機ホスフィン化合物は、前述
したような有機ホスフィン化合物から選ばれるものであ
る。
【0051】式(5)中、X1で表される好ましい例と
しては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、HCOO、
CH3COO、CF3COO等を挙げることができ、中で
も塩素原子が好ましい。
【0052】式(5)中、aおよびbの組み合わせは、
aが0でbが2、aが1でbが1、aが2でbが0の3
通りあるが、中でもaが0でbが2のものが好ましい。
また、X1がハロゲン原子の場合は、cは3または4が
特に好ましい。
【0053】式(7)中、X3およびX4で表されるハロ
ゲン原子としては、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原
子を挙げることができる。
【0054】式(8)中、Bzで表される置換基を有し
ていてもよいベンゼンとは、アルキル基、アルコキシ
基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子等が一つ以
上置換していてもよいベンゼンを意味し、好ましい例と
しては、無置換のベンゼン、および、炭素数1〜4のア
ルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4
のアルコキシカルボニル基、塩素原子、臭素原子または
ヨウ素原子が置換したベンゼンを挙げることができ、具
体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメ
チルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、エチルベンゼ
ン、t−ブチルベンゼン、p−シメン、クメン、アニソ
ール、安息香酸メチル、クロロベンゼン等を挙げること
ができる。
【0055】式(8)中、Tで表される第三級アミンと
しては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチル
ジイソプロピルアミン、1,8−ビス(ジメチルアミ
ノ)−ナフタレン、ジメチルアニリン、ピリジン、N−
メチルピペリジン等が挙げられるが、中でもトリエチル
アミンが好ましい。
【0056】錯体1の好ましい具体例としては、以下の
ような化合物を挙げることができる。 RuH2(PPh34 RuHCl(PPh34 RuH(HCOO)(PPh33 RuH(CH3COO)(PPh33 RuCl2(PPh33 RuCl2(PPh34 RuBr2(PPh34 RuI2(PPh34 RuCl2〔P(CH3)Ph24 RuCl2〔P(CH32Ph〕4 RuCl2〔P(CH334 RuCl2〔Ph2P−(CH22−PPh22 RuCl2(CHIRAPHOS)2 RuCl2(BINAP) Ru(CH3COO)2(Tol−BINAP) Ru(CF3COO)2(Tol−BINAP)
【0057】錯体2の好ましい具体例としては、以下の
ような化合物を挙げることができる。 〔Ru(BINAP)〕(ClO42 〔Ru(m−Tol−BINAP)〕(PF62 〔Ru(MeO−BINAP)〕(BF42 〔RuH(BIPHEMP)2〕ClO4 〔RuH(t−Bu−BINAP)2〕PF6
【0058】錯体3の好ましい具体例としては、以下の
ような化合物を挙げることができる。 〔RuCl(ベンゼン)(BINAP)〕Cl 〔RuCl(p−シメン)(DPPE)〕Cl 〔RuCl(p−シメン)(DPPP)〕Cl 〔RuCl(p−シメン)(DPPB)〕Cl 〔RuI(ベンゼン)(Tol−BINAP)〕I 〔RuI(p−シメン)(Tol−BINAP)〕I 〔RuI(p−シメン)(BINAP)〕I3
【0059】錯体4の好ましい具体例としては、以下の
ような化合物を挙げることができる。尚、式中Etはエ
チル基を示す。 〔Ru2Cl4(BINAP)2〕(NEt3) 〔Ru2Cl4(DM−BINAP)2〕(NEt3) 〔Ru2Cl4(H8−BINAP)2〕(NEt3) 上記錯体のうち、本発明においては、特に錯体1が反応
選択性等の面から好ましく用いられる。
【0060】上記錯体の多くは、ケトンを水素化してア
ルコールを生成する反応の触媒として用いられることが
知られているが、いずれも、3−イソカンフィルシクロ
ヘキサノンを立体選択的に水素化して高純度のトランス
−3−イソカンフィルシクロヘキサノールを得るために
用いられることは全く知られていなかった。例えば、R
uCl2(PPh33を触媒として、2−シクロヘキセ
ノンを水素化すると、2−シクロヘキセノールとシクロ
ヘキサノールを70:30の割合で含有する混合物が得
られることが報告されている(T.Ohkumaら、J. Am. Che
m. Soc., vol.117, p.10417-10418 (1995))。しかし、
本発明のように、水素化してアルコールにすることによ
って、シス体およびトランス体の異性体が生じた場合
に、特定の異性体が選択的に得られるといったことは、
全く示唆されていない。
【0061】本発明で用いられるアルカリ金属またはア
ルカリ土類金属を有する塩基は、例えば式(9) M(R9) (9) (式中、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示
し、R9はヒドロキシル基、炭素数1〜4のアルコキシ
基またはメルカプト基を示す)で表される化合物であ
る。このうち、アルカリ金属を有する塩基がより好まし
い。好ましい具体例としては、KOH、Ca(O
H)2、KOMe、KOtBu、LiOH、LiOM
e、LiOtBu、NaOH、NaOMe(Meはメチ
ル基を示し、tBuはt−ブチル基を示す)等を挙げる
ことができ、中でも、アルカリ金属を有するものが好ま
しく、特に、KOHおよびNaOHが好ましく用いられ
る。
【0062】本発明で用いられる上記塩基の量は、錯体
に対して約0.5〜100当量であり、好ましくは約1
〜40当量である。
【0063】本発明で用いられるアミンは、例えば式
(10) NR101112 (10) (式中、R10,R11およびR12は同一または異なって、
水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換
基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有し
ていてもよいアリール基を示す。但し、R10,R11およ
びR12がいずれも水素原子となることはない。)で表さ
れる第一級、第二級もしくは第三級アミン、または式
(11) NR1914−Z−NR1516 (11) (式中、R13,R14,R15およびR16は同一または異な
って、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル
基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換
基を有していてもよいアリール基を示し、Zは置換基を
有していてもよい炭素数1〜6の飽和もしくは不飽和の
炭素鎖、または置換基を有していてもよい炭素数3〜6
の飽和もしくは不飽和の炭素環を示す)で表される、第
一級、第二級もしくは第三級ジアミン、その他の環状ア
ミンである。
【0064】ここで、R10,R11およびR12、ならびに
13,R14,R15およびR16で表される置換基を有して
いてもよいアルキル基とは、アルコキシ基等が一つ以上
置換していてもよい直鎖状、分枝鎖状または環状のアル
キル基を意味し、好ましい例としては、炭素数1〜10
の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、または、炭素
数5〜8の環状アルキル基を挙げることができる。
【0065】R10,R11およびR12、ならびにR13,R
14,R15およびR16で表される置換基を有していてもよ
いアラルキル基とは、アルキル基、アルコキシ基等が一
つ以上置換していてもよいアリール基が置換したアルキ
ル基を意味し、アラルキル基中のアリール基としては置
換基を有していてもよいフェニル基が好ましく、アラル
キル基中のアルキル基としては炭素数1〜4のものが好
ましい。具体例としては、ベンジル基を挙げることがで
きる。
【0066】R10,R11およびR12、ならびにR13,R
14,R15およびR16で表される置換基を有していてもよ
いアリール基とは、アルキル基、アルコキシ基等が一つ
以上置換していてもよいアリール基を意味し、好ましい
例としては、無置換のフェニル基やナフチル基か、炭素
数1〜4の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、また
は、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルコキ
シ基が置換したフェニル基やナフチル基を挙げることが
できる。
【0067】本発明で用いられるアミンの具体例として
は、たとえばメチルアミン、エチルアミン、プロピルア
ミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチル
アミン、t−ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチル
アミン、ドデシルアミン、シクロペンチルアミン、シク
ロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジメチルアミン、
ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルア
ミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−t−
ブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロペンチルア
ミン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ト
リメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミ
ン、エチルジイソプロピルアミン、トリブチルアミン、
トリヘキシルアミン、トリベンジルアミン、ベンジルジ
メチルアミン、アニリン、p−トルイジン、N,N−ジ
メチルアニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミ
ン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、N−メチル
ピペリジン、N−メチルピペラジン、N−メチルモルホ
リン等のモノアミン;エチレンジアミン、トリメチレン
ジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジ
アミン、ヘキサメチレンジアミン、N−メチルエチレン
ジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,
N’−ジメチルプロピレンジアミン、N,N’−ジメチ
ルテトラメチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレ
ンジアミン、N,N’−ジエチルプロピレンジアミン、
N,N’−ジエチルテトラメチレンジアミン、N,N’
−ジベンジルエチレンジアミン、N,N’−ジベンジル
プロピレンジアミン、N,N’−ジベンジルテトラメチ
レンジアミン、N,N’−ジフェニルエチレンジアミ
ン、N,N’−ジフェニルプロピレンジアミン、N,
N’−ジフェニルテトラメチレンジアミン、N,N,
N’−トリメチルエチレンジアミン、テトラメチルエチ
レンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、テト
ラメチルテトラメチレンジアミン、テトラエチルエチレ
ンジアミン、テトラエチルプロピレンジアミン、テトラ
エチルテトラメチレンジアミン、テトラベンジルエチレ
ンジアミン、テトラベンジルプロピレンジアミン、テト
ラベンジルテトラメチレンジアミン、テトラフェニルエ
チレンジアミン、テトラフェニルプロピレンジアミン、
テトラフェニルテトラメチレンジアミン、o−フェニレ
ンジアミン等のジアミン;さらに光学活性な1,2−ジ
フェニルエチレンジアミン、1,3−ジフェニルプロピ
レンジアミン、1,4−ジフェニルテトラメチレンジア
ミン、1,2−ジアミノプロパン、1,1−ジフェニル
−1,2−ジアミノプロパン、1,1−ジ(p−メトキ
シフェニル)−1,2−ジアミノプロパン、2,3−ジ
アミノブタン、2,4−ジアミノペンタン、2,5−ジ
アミノヘキサン、1,2−ジアミノシクロペンタン、
1,2−ジアミノシクロヘキサン等の光学活性ジアミン
を挙げることができる。
【0068】上記アミンのうち、本発明において好まし
く用いられるものは、式(11)で表されるジアミンで
あり、特に好ましくは式(11)中R13,R14,R15
よびR16が水素原子であり、Zが炭素数1〜4程度の飽
和炭素鎖である第一級ジアミンである。具体例として
は、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラ
メチレンジアミン等を挙げることができる。
【0069】本発明で用いられるアミンの量は、錯体に
対して、モノアミンを用いる場合は約1〜8当量、好ま
しくは約2〜4当量、ジアミンを用いる場合は約0.5
〜4当量で、好ましくは約1〜4当量の範囲とするとよ
い。
【0070】本発明の製造法は、3−イソカンフィルシ
クロヘキサノンを、前述したようなルテニウム−ホスフ
ィン錯体を触媒として、塩基およびアミンの存在下で水
素気流雰囲気中、水素化することによって実施される。
使用する触媒量としては、反応基質である3−イソカン
フィルシクロヘキサノンに対し約1/5モル〜1/10
0000モル〔基質/触媒のモル比(S/C)=5〜1
00000〕、好ましくは約1/200モル〜1/50
000モル(S/C=200〜50000)とするとよ
い。反応は、撹拌しながら行うことが好ましい。特に、
少ない触媒量で行う場合は、メカニカルスターラー等に
よって、機械的に撹拌するとよい。
【0071】反応温度は、通常約−30℃〜250℃、
好ましくは約15℃〜100℃の範囲がよい。反応時間
は、採用される反応基質濃度、触媒量、温度、水素圧等
の条件によって異なるが、数分から30時間程度で反応
は完結する。反応の終了は、ガスクロマトグラフィー等
によって確認することができる。
【0072】水素圧は、約1気圧〜200気圧、好まし
くは約3気圧〜100気圧の範囲がよい。尚、水素は、
反応に不活性な他のガスで希釈して使用することができ
る。例えば、メタン、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸
化炭素等を、単独あるいは混合して用い、水素を希釈す
ることができる。本発明は、実質的に基質のみで溶媒を
用いなくても行うことができるし、または、適当な溶媒
を加えて行うこともできる。溶媒を使用する場合は、反
応に負の影響を及ぼさないものであれば特に限定される
ことなく用いることができる。具体的には、水;ヘキサ
ン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、
トルエン、キシレンのような炭化水素類;テトラヒドロ
フラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジイソプロピ
ルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルの
ようなエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオ
ン酸エチル、アセト酢酸エチルのようなエステル類;メ
タノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパ
ノールのようなアルコール類;アセトニトリルのような
ニトリル類;亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸
ジメチル、亜リン酸モノメチル、亜リン酸トリエチル、
亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリオクチル、亜リン酸
トリフェニル、亜リン酸ジメチルフェニル、亜リン酸メ
チルジフェニルのような亜リン酸およびそのエステル
類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジ
ベンジルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド、テト
ラメチレンスルホキシドのようなスルホキシド類;ホル
ムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジ
メチルアセタミド、N−メチルピロリドンのようなアミ
ド類等の中から選ばれる溶媒を、単独または2種以上を
混合して用いることができる。中でも、メタノール、エ
タノール、イソプロパノールのようなアルコール類が好
ましく用いられ、特にイソプロパノールが最も好ましく
用いられる。
【0073】本発明に溶媒を使用する場合、反応基質と
溶媒の割合は特に限定されないが、好ましくは反応基質
に対して約0.5倍重量〜100倍重量の溶媒を加える
とよい。
【0074】反応終了後は、常法に従い、ろ過、減圧濃
縮、蒸留等の方法によって、精製を行う。このようにし
て、トランス体含量が約70重量%以上の高純度でトラ
ンス−3−イソカンフィルシクロヘキサノールを得るこ
とができる。尚、得られるトランス−3−イソカンフィ
ルシクロヘキサノールは、(1S,3S)−イソカンフ
ィルシクロヘキサノールおよび(1R,3R)−イソカ
ンフィルシクロヘキサノールの混合物であるが、いずれ
もサンダルウッド油様香気の発現に必須な成分であるの
で、混合物のまま香料成分として有用に利用することが
できる。もちろん、(1S,3S)−イソカンフィルシ
クロヘキサノールと(1R,3R)−イソカンフィルシ
クロヘキサノールを高速液体クロマトグラフィー等によ
りそれぞれ単離して利用することもできる。また、本発
明方法において、反応基質として、サンタレックスT等
の市販のサンダルウッド油代替品を酸化して得られる3
−イソカンフィルシクロヘキサノンを約20〜40重量
%含有する組成物を用いた場合には、それぞれの含有量
に対応して、トランス−3−イソカンフィルシクロヘキ
サノールを約15〜35重量%含有する組成物を得るこ
とができる。すなわち、市販のサンダルウッド油代替品
中には、サンダルウッド油様香気の発現に必須な成分で
あるトランス−3−イソカンフィルシクロヘキサノール
が約8重量%しか含有されないが、本発明方法により、
この含有量を大幅に増すことができるので、香気強度が
増すだけでなく、副生成物が減るためにその香質も改善
でき、市販のサンダルウッド油代替品の香気を大いに改
良することができる。
【0075】
【発明の効果】本発明の製造法は、トランス−3−イソ
カンフィルシクロヘキサノールを高純度で得ることがで
き、また、用いる触媒が安価で、かつ、少量で済むの
で、工業化に適した経済的に大変有利な方法である。得
られるトランス−3−イソカンフィルシクロヘキサノー
ルは、サンダルウッド油様香気の発現に必須な成分とし
て知られており、香質、強度とも非常に優れた香気を有
し、香料成分として有用である。
【0076】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに詳細に説
明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるもので
はない。実施例中の測定には、次の分析機器および測定
条件を採用した。
【0077】高速液体クロマトフラフィー; ポンプ :LC−6A(株式会社島津製作所製) カラム :Unisil−Q 30−5(10.7mm×250m
m)(ジーエルサイエンス株式会社製) 検出器 :LRD−771型示差屈折検出器(ラボラト
リーシステム社製)
【0078】ガスクロマトグラフィー; 機器 :HP−5890(ヒューレットパッカード社
製) カラム :HP−20M フューズドシリカキャピラリ
ーカラム(0.20mm×25m)(ヒューレットパッカード社
製) 測定温度:55〜215℃(4℃/分で昇温) 注入温度:250℃ キャリアガス:ヘリウム(0.6ml/分) 内部標準物質:ミリスチン酸イソプロピル
【0079】ガスマスクロマトグラフィー(GC/MS); 機器 :HP−5890シリーズII(ヒューレットパ
ッカード社製)およびM−2000A(株式会社日立製
作所製) カラム :BC−WAX(0.25mm×50m, 0.15μm)(ジ
ーエルサイエンス株式会社製) 測定温度:70〜220℃(4℃/分で昇温) 注入温度:250℃
【0080】プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H-NM
R); 機器 :AMX−400型(400MHz)FT−NMR測
定装置(ブルッカー社製) 内部基準:テトラメチルシラン
【0081】13C−核磁気共鳴スペクトル(13C-NM
R); 機器 :AMX−400型(100MHz)(ブルッカー社
製)
【0082】赤外吸収スペクトル(IR); 機器 :FTIR−8200PC(株式会社島津製作
所製) 測定方法:フィルム法
【0083】融点; 機器 :柳本微量融点測定器 MP−S2(株式会社
柳本製作所製) 尚、実施例中の融点の値は未補正である。
【0084】実施例1 100mlのステンレス製オートクレーブに、窒素雰囲気下
で3−イソカンフィルシクロヘキサノン4.0g(17.1mmo
l)、RuCl2(PPh3332.8mg(0.034mmol)、0.04モ
ル濃度のKOHのイソプロパノール溶液1.72ml(0.069mm
ol)、0.009モル濃度のトリメチレンジアミンのイソプロ
パノール溶液3.76ml(0.034mmol)およびイソプロパノー
ル10mlを入れ、水素圧10気圧で室温において2.5時間撹
拌した。反応混合物をガスクロマトグラフィーで分析し
たところ、転化率100%で選択性84%d.e.(トランス:シ
スの重量比=92:8)のトランス−3−イソカンフィル
シクロヘキサノールが生成されたことが確認された。反
応混合物をろ過し、ろ液を減圧下に濃縮し、得られた油
状物質をクーゲル−ロール蒸留装置を用いて170℃/20m
mHgで蒸留し、目的とする高純度のトランス−3−イソ
カンフィルシクロヘキサノール3.15g(収率78%)を得
た。得られたトランス−3−イソカンフィルシクロヘキ
サノールを、さらに高速液体クロマトグラフィー(溶離
液=ヘキサン:酢酸エチル=7:1,流量=5ml/分)
により、(1S,3S)−イソカンフィルシクロヘキサ
ノールおよび(1R,3R)−イソカンフィルシクロヘ
キサノールの2成分に分離し〔成分1:保持時間16.6
分、成分2:保持時間18.0分。成分1:成分2の生成比
=1:1。尚、どちらの成分が(1S,3S)−体また
は(1R,3R)−体であるかは決定しなかった〕、そ
れぞれの物性値を測定した。
【0085】成分1: 融点;91〜94℃ MS(EI)(m/z);95(100), 81(52), 135(43), 110(33), 23
6(4)1 H-NMR(CDCl3)δppm;4.06(1H,brs), 1.87-0.95(17H,
m), 0.90(3H,s),0.84(3H,s), 0.82(3H,d,J=7.4Hz)13 C-NMR(CDCl3)δppm;66.8, 49.4, 48.9, 48.0, 47.9,
40.4, 38.8, 36.3 33.4, 33.4, 31.1, 29.4, 27.4, 24.8, 20.0, 16.2 IR(film)(cm-1);3420, 2900, 1450, 1385, 1140, 103
0, 1020
【0086】成分2: 融点;92〜93℃ MS(EI)(m/z);97(100), 135(94), 81(72), 123(42), 23
6(4)1 H-NMR(CDCl3)δppm;4.06(1H,brs), 1.82-0.93(17H,
m), 0.91(3H,s),0.84(3H,s), 0.83(3H,d,J=7.5Hz)13 C-NMR(CDCl3)δppm;66.8, 49.5, 49.0, 48.0, 48.0,
39.2, 37.0, 36.4 33.3, 33.0, 31.4, 31.1, 27.4, 24.8, 20.0, 16.2 IR(film)(cm-1);3400, 2900, 1450, 1385, 1140, 103
0, 1020
【0087】実施例2〜22 実施例1の方法に準じて、種々の反応条件を反応時間を
変え、水素化反応を行った。この結果を、表1〜表4に
示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】参考例:サンタレックスTの酸化による3
−イソカンフィルシクロヘキサノン含有組成物の製造 真空撹拌機およびクライゼン蒸留器を付けた500mlの4
径フラスコに、サンタレックスT(トランス−3−イソ
カンフィルシクロヘキサノール8重量%、シス−3−イ
ソカンフィルシクロヘキサノール14重量%を含有する組
成物)152.0gおよび銅クロム触媒(日揮化学株式会社製
N-203S、組成=CuO・Cr23・Mn 23)3.04gを
入れ、90mmHg(約0.12気圧)の減圧下、220℃で撹拌
し、60mmHg(約0.08気圧)まで減圧を調整した。発泡の
程度を見ながら220℃で5時間反応させた後、そのまま減
圧を高めて反応混合物を蒸留精製し(181℃/12mmH
g)、3−イソカンフィルシクロヘキサノンを22重量%
含有する組成物141.5g(収率94%)を得た。得られたト
ランス−3−イソカンフィルシクロヘキサノンを、さら
に高速液体クロマトグラフィー(溶離液=ヘキサン:酢
酸エチル=14:1,流量=5ml/分)により、(R)−
イソカンフィルシクロヘキサノンおよび(S)−イソカ
ンフィルシクロヘキサノンの2成分に分離し〔成分1:
保持時間12.2分、成分2:保持時間13.1分。尚、どちら
の成分が(R)−体または(S)−体であるかは決定し
なかった〕、それぞれの物性値を測定した。
【0093】成分1: MS(EI)(m/z);97(100), 81(45), 137(40), 69(36), 234
(20)1 H-NMR(CDCl3)δppm;2.53-2.52(1H,m), 2.33-2.25(2H,
m),2.04-1.81(5H,m), 1.62-1.35(4H,m),1.27-0.92(5H,
m), 0.92(3H,s), 0.85(3H,s),0.84-0.82(3H,d,J=6.9Hz)13 C-NMR(CDCl3)δppm;212.1, 49.3, 48.8, 48.7, 47.
8, 47.7, 44.0,41.5, 39.2, 32.9, 31.2, 28.8, 27.4,
25.2, 24.7,16.1 IR(film)(cm-1);2950, 2870, 1720, 1480, 1450, 132
0, 1220
【0094】成分2: MS(EI)(m/z);97(100), 137(52), 81(38), 69(30), 234
(15)1 H-NMR(CDCl3)δppm;2.45-2.38(1H,m), 2.36-2.20(2H,
m),2.10-1.75(5H,m), 1.62-1.30(4H,m),1.30-1.10(5H,
m), 0.92(3H,s), 0.85(3H,s),0.85-0.83(3H,d,J=7.2Hz)13 C-NMR(CDCl3)δppm;212.3, 49.3, 48.9, 48.5, 48.
4, 45.9, 44.2,41.5, 39.2, 33.0, 30.7, 30.6, 27.4,
25.2, 24.7 16.1 IR(film)(cm-1);2950, 2870, 1720, 1480, 1450, 132
0, 1220
【0095】実施例23 500mlのステンレス製オートクレーブに、窒素雰囲気下
で参考例で得た3−イソカンフィルシクロヘキサノン含
有組成物46.88g、RuCl2(PPh33385.7mg(0.4mm
ol)、0.04モル濃度のKOHのイソプロパノール溶液20m
l(0.8mmol)、0.01モル濃度のトリメチレンジアミンのイ
ソプロパノール溶液40.0ml(0.4mmol)およびイソプロパ
ノール80mlを入れ、水素圧50気圧で室温において21時間
撹拌した。反応混合物を濃縮し、油状物質を得、このも
のをガスクロマトグラフィーで分析したところ、転化率
100%で選択性72%d.e.(トランス:シスの重量比=86:1
4)のトランス−3−イソカンフィルシクロヘキサノー
ルが生成されたことが確認された。得られた油状物質を
クライゼン蒸留器を用いて131-133℃/0.25mmHgで蒸留
し、目的とするトランス−3−イソカンフィルシクロヘ
キサノールを19重量%含有する組成物37.25g(収率80
%)を得た。
【0096】比較例 以下に、本発明以前より公知の固体触媒を用いて、3−
イソカンフィルシクロヘキサノンを水素化した例を示
す。いずれの触媒も、本発明方法で用いる触媒より高価
であるだけでなく、本発明方法に比べ、目的とするトラ
ンス−3−イソカンフィルシクロヘキサノールの選択性
に劣るか、もしくは反応が進行しないことが明らかであ
る。
【0097】比較例1 3−イソカンフィルシクロヘキサノン2.34g(10mmol)を
酢酸10mlに溶解し、アダムス白金触媒59mgを加え、水素
気流中、常温常圧で4時間撹拌した。反応混合物を濃縮
し、油状物質を得、このものをガスクロマトグラフィー
で分析したところ、転化率93.0%で、トランス:シスの
重量比=64:36の3−イソカンフィルシクロヘキサノー
ルが生成されたことが確認された。
【0098】比較例2 3−イソカンフィルシクロヘキサノン2.34g(10mmol)を
酢酸10mlに溶解し、5%パラジウム−炭素触媒117mgを加
え、オートクレーブ中、水素圧50気圧で室温において23
時間撹拌した。反応液をろ過し、ろ液を濃縮して油状物
質を得、このものをガスクロマトグラフィーで分析した
ところ、反応は全く進行しておらず、原料の3−イソカ
ンフィルシクロヘキサノンを回収したのみであった。
【0099】比較例3 3−イソカンフィルシクロヘキサノン1.52g(6.5mmol)を
イソプロパノール25mlに溶解し、5%ロジウム−炭素触媒
50mgを加え、水素気流中、常温常圧で4時間撹拌した。
反応液をろ過し、ろ液を濃縮して油状物質を得、このも
のをガスクロマトグラフィーで分析したところ、反応は
全く進行しておらず、原料の3−イソカンフィルシクロ
ヘキサノンを回収したのみであった。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 原田 睦 神奈川県平塚市西八幡1丁目4番11号 高 砂香料工業株式会社総合研究所内 (72)発明者 野依 良治 愛知県日進市梅森町新田135−417 (72)発明者 碇屋 隆雄 愛知県名古屋市千種区汁谷町8−1 茶屋 が坂コータース907 (72)発明者 大熊 毅 愛知県愛知郡長久手町戸田谷1505 ハビテ ーション3−B

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 式(1) 【化1】 で表される3−イソカンフィルシクロヘキサノンを、ル
    テニウム−ホスフィン錯体を触媒として、アルカリ金属
    またはアルカリ土類金属を有する塩基およびアミンの存
    在下で水素化することを特徴とするトランス−3−イソ
    カンフィルシクロヘキサノールの製造法。
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