JPH0871783A - ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 溶接性能に種々の利点があるシームレスタイ
プの断面構造においてもワイヤ溶融速度が速く、高溶着
性が得られるフラックス入りワイヤを提供することを目
的とする。 【構成】 鋼製外皮に囲まれた中空部にフラックスが充
填されてなるガスシールドアーク溶接用フラックス入り
ワイヤにおいて、中空部に開口部を設けずワイヤ長手方
向に垂直な断面における外被部に連続してノッチを設
け、さらにそのノッチの幅Ｗ、及び深さＬと外被分の厚
さｔとの関係において、（１）０．２＜Ｌ／ｔ＜０．
９、（２）Ｗ＜０．５mm〔但し、ｔ：外皮部の厚さ（m
m），Ｌ：ノッチの深さ（mm），Ｗ：ノッチの幅（m
m）〕の２式を満足するものであることを特徴とするガ
スシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明はフラックス入りワイヤに
関し、特に詳しくは鋼構造物の自動または半自動溶接に
使用するフラックスを充填した中空部に開口部を有しな
いガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関
する。

【０００２】

【従来の技術】近年、造船や鉄骨、橋梁等の鋼構造物の
製作において、溶接の高能率化、省力化の要求が一段と
強まり、これに伴いその良好な溶接作業性及び高能率溶
接性等の利点により１．０〜１．６mmを中心とする細径
のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの使
用量が増加している。

【０００３】従来、一般的に使用されているフラックス
入りワイヤの断面構造は、図３に示すようにフラックス
を充填した中空部に開口部２がある突合せタイプ
（ａ），（ｂ）と開口部がないシームレスタイプ
（ｃ），（ｄ）とに大別できる。突合せタイプのフラッ
クス入りワイヤは比較的小さいサイズの帯鋼を管状体に
成形する段階でフラックスを供給した後、両端部を突合
せたままにして仕上げられる。一方、シームレスタイプ
のフラックス入りワイヤは、例えば特開昭６１−１５９
３０号公報に見られるように予め用意した鋼管を用い
て、その端口からフラックスを充填するか、或いは特開
昭６０−２３４７９５号公報に見られるように比較的大
きいサイズの帯鋼を用いて、突合せタイプのフラックス
入りワイヤと同様に成形、フラックス供給後、突き合わ
せた両端部をシーム溶接して製造される。

【０００４】ところで、両者の断面構造の違いが溶接性
能に及ぼす影響を比較すると、突合せタイプのフラック
ス入りワイヤは開口部を通して充填フラックスが吸湿し
やすく、ピットやブローホール、低温割れ等の溶接欠陥
が発生しやすい。他方、シームレスタイプのフラックス
入りワイヤは製造工程で脱水素焼鈍処理やワイヤ表面に
銅めっき処理を行うことができるので、耐ピット性、耐
低温割れ性、ワイヤ自体の耐錆性、溶接チップの耐摩耗
性、ワイヤ送給性等に優れている。

【０００５】しかしながら、シームレスタイプのフラッ
クス入りワイヤは同一電流で使用した場合、突合せタイ
プのフラックス入りワイヤに比較してワイヤ溶融速度が
やや遅くなる傾向を示すことがわかっている。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は上記
のような溶接性能に種々の利点があるシームレスタイプ
の断面構造においてもワイヤ溶融速度が速く、高溶着性
が得られるフラックス入りワイヤを提供することを目的
とする。

【０００７】

【課題を解決するための手段】本発明は、鋼製外皮に囲
まれた中空部にフラックスが充填されてなるガスシール
ドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、中空部
に開口部を有することなくワイヤ長手方向に垂直な断面
における外皮部に連続してノッチを設けたことを要旨と
して、さらにそのノッチの幅Ｗ、及び深さＬと外皮部の
厚さｔとの関係において下記（１），（２）式を満足す
るものであることを特徴とするガスシールドアーク溶接
用フラックス入りワイヤ。 ０．２＜Ｌ／ｔ＜０．９・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・（１） Ｗ＜０．５mm・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・（２） 但し、ｔ：外皮部の厚さ（mm） Ｌ：ノッチの深さ（mm） Ｗ：ノッチの幅（mm）

【０００８】

【作用】本発明者らは、まず図３（ｃ），（ｄ）に示す
従来のシームレスタイプのフラックス入りワイヤの溶融
速度を速くし、高溶着性を得るために種々の検討を行っ
た。その結果、フラックス充填率を高めたり鉄粉を多量
に配合したフラックスを充填して外皮部の肉厚を薄くす
ること、或いは、Ｓｉ，Ｍｎ含有量が多い合金鋼外皮を
用いることによる効果が認められた。

【０００９】しかし、外皮部の薄肉化は細径段階の伸線
工程で断線が多発し生産面での問題があり、また合金鋼
外皮は加工硬化が大きいことにより断線を起こす他、Ｔ
ｉＯ₂ ，ＳｉＯ₂ ，Ａｌ₂ Ｏ₃ ，ＭｇＯ，ＺｒＯ₂ 等を
スラグ形成剤として多量に含有するフラックス入りワイ
ヤを使用する場合では溶接時に充填フラックスよりも外
皮部の方が先溶けし、いわゆる未溶融フラックスの突き
出し現象が生じ、スパッタ多発やスラグ巻き込み欠陥が
発生しやすくなるなど溶接作業性にも問題があることが
わかった。

【００１０】次に、突合せタイプとシームレスタイプの
フラックス入りワイヤの溶融状態がワイヤ溶融速度に影
響しているのではないかと考え、同一組成のフラックス
で充填率を同じくしたフラックス入りワイヤを試作し、
ワイヤ溶融状態を高速度ビデオカメラで詳細に観察し
た。図４は高速度ビデオカメラによるワイヤ先端の溶融
状態を観察し模式的に示したものである。

【００１１】すなわち、突合せタイプのフラックス入り
ワイヤの場合、ワイヤ先端の溶滴５はあまり大きく成長
せず、単位時間当りの溶滴の離脱回数も多い。一方、シ
ームレスタイプのフラックス入りワイヤの場合には、溶
滴が比較的大きく成長し、離脱回数も少な目になること
がわかった。さらに両者のワイヤ先端での溶滴の離脱の
仕方に明確な差異があることが観察できた。溶滴は図４
（ａ），（ｂ），（ｃ），（ｄ）の順にワイヤ先端を周
回するように移動しながらある程度の大きさに成長し、
その溶滴が離脱（ｅ）してから新しい溶滴ができまた成
長を開始するのであるが、突合せタイプのフラックス入
りワイヤの場合は、外皮部の開口部分にさしかかると大
きく成長しなくてもほとんどが離脱していくのに対し、
シームレスタイプのフラックス入りワイヤの場合には離
脱するまでの周回距離及び時間が長い。なお、両ワイヤ
の溶融速度、溶着速度を比較したところ、同一の組成及
びフラックス充填率にもかかわらず、突合せタイプのフ
ラックス入りワイヤの方が速くなるという測定結果を示
した。つまりワイヤ先端の溶滴の成長を抑え、かつ離脱
を速くすることによりワイヤ溶融速度が速くなり高溶着
性が得られる。

【００１２】これらの調査結果からワイヤ溶融速度を高
くし、高溶着性を得るには溶滴の離脱をスムーズに行わ
せる手段が必要であり、これに突合せタイプのフラック
ス入りワイヤの開口部は極めて有効に働いているとの結
論に達した。しかし、中空部に開口部をもつフラックス
入りワイヤには前記のようなフラックスの吸湿等の問題
点がある。

【００１３】本発明者らはこのような観点から、突合せ
タイプとシームレスタイプのそれぞれの利点を合わせも
ったフラックス入りワイヤを開発すべく製造方法を含め
試作ワイヤにより検討した結果、ワイヤ長手方向に連続
してノッチを設けるという構造により、本発明の目的を
達成したものである。

【００１４】図１に本発明によるシームレスフラックス
入りワイヤの断面構造を示す。外皮部のノッチ７はワイ
ヤ長手方向に連続して設けてある。図１の（ａ）は帯鋼
を用いて製造したものであり、シーム溶接部４がある。
（ｂ）は鋼管を用いて製造したものである。

【００１５】まず、シームレスフラックス入りワイヤの
外皮部にノッチを設けることは、ワイヤ先端の溶滴の成
長を抑え、かつ離脱を速くするために有効に働いている
中空部に開口部を持った突き合わせタイプのフラックス
入りワイヤと同様な溶融状態にするためである。つまり
本発明のシームレスフラックス入りワイヤは溶融する直
前までは充填フラックスの吸湿がない等のシームレスタ
イプのフラックス入りワイヤの特性を有し、溶融状態に
入った後は突合せタイプのフラックス入りワイヤの開口
部がもたらす溶融状態への利点を活用できるようにした
ものである。

【００１６】（１）式によりノッチの深さＬと外皮部の
厚さｔとの関係を０．２＜Ｌ／ｔ＜０．９の範囲に限定
した理由は、Ｌ／ｔが０．２未満ではノッチが浅すぎ、
ワイヤ先端の溶滴が離脱しにくく、ワイヤ溶融速度への
向上効果が小さい。一方、Ｌ／ｔが０．９を超えるとノ
ッチが充填フラックスまで達する可能性があるとともに
伸線時の抵抗が大きく、断線が多発するなど生産性にも
問題が生じる。

【００１７】（２）式によりノッチの幅Ｗを０．５mm以
下に限定した理由は、０．５mmを超えると合わせ面の隙
間が大きすぎてワイヤ送給性、ワイヤ直進性が悪くな
る。なお、ノッチの幅Ｗの下限については微小であって
も本発明の効果は発揮できるので特に限定しない。

【００１８】このように限定されたノッチをワイヤ長手
方向に連続して設けることは、上記ノッチ部の作用効果
をワイヤ全長にわたって十分に発揮させ、溶接中のアー
クやワイヤ溶融状態の変動をなくし、良好な溶接作業性
のもとにワイヤ溶融速度を速くし、高溶着性を得るため
である。

【００１９】図２に本発明のシームレスフラックス入り
ワイヤの製造装置の一例を示す。まず、帯鋼供給装置８
より供給された帯鋼９は、成形装置１０により帯鋼をＵ
字型に成形する段階でフラックス供給装置１１から充填
用フラックス１２を供給する。この後、帯鋼の両端部を
突き合わせて管状体に成形し、その突合せ部を高周波、
ＴＩＧ、レーザー等の溶接装置１３によりシーム溶接す
る。引続き圧延装置１４により内部のフラックスが移動
しなくなるまで縮径し、ボビン１５に巻取る。この後所
定のサイズに伸線して仕上げられるが、必要に応じて伸
線過程で軟化や脱水素のための中間焼鈍処理１６や銅め
っき処理１７を行う。また鋼管を用いて本発明のシーム
レスフラックス入りワイヤを製造する場合は、振動充填
法等により鋼管の端口からフラックスを充填後、細径ま
で伸線して仕上げる。

【００２０】なお、ノッチの加工方法については突起の
ついたダイス１８を用いて伸線するのが最も簡便である
が、切削、或いは所定の形状の圧子で圧縮し塑性変形さ
せてもよい。また、ノッチ加工の時期は断線の可能性を
最小限にするため、ワイヤ最終径もしくは最終径の１段
階前に加工することが望ましい。いずれにしても、最終
径の１段階前でノッチ加工を行った場合はノッチが閉じ
られることにより溶接チップの磨耗が少なくなる効果が
ある。このノッチを閉じる加工法として、本発明者らは
突起付きダイスで伸線後、再度ダイスで最終伸線を行っ
た。

【００２１】本発明のシームレスフラックス入りワイヤ
は、軟鋼、高張力鋼、低温鋼等の全姿勢溶接或いはすみ
肉溶接用に多用されているＴｉＯ₂ 系組成において、そ
の効果をよく発揮するが、ワイヤ所用品質により最も適
した組成のフラックスを充填すれば良く、鉄粉等の金属
粉を多く含有する組成系においてもワイヤ溶融速度の向
上に効果が認められる。フラックス充填率については８
〜２５重量％の範囲がワイヤ溶融速度及び生産性の両面
から好ましい範囲である。以下に、実施例により本発明
の効果を具体的に示す。

【００２２】

【実施例】図２に概略を示す製造装置により表１に示す
帯鋼及び表２に示すＴｉＯ₂ 系のフラックスを用いて仕
上がりサイズ１．４mmφのフラックス入りワイヤを製造
した。フラックス充填率は１３．５％、ワイヤ断面にお
ける外皮部のノッチの深さＬを変化させて製造した。

【００２３】

【表１】

【００２４】

【表２】

【００２５】図２において、まず、帯鋼供給装置８によ
り帯鋼９を供給し、成形装置１０により帯鋼をＵ字型に
成形する段階でフラックス供給装置１１から充填用フラ
ックス１２を供給する。この後、帯鋼の両端部を突き合
わせて管状体に成形し、その突合せ部を電縫溶接装置１
３（高周波誘導加熱）によりシーム溶接し、圧延装置１
４により内部のフラックスが移動しなくなるまで縮径
（充管伸線）してボビン１５に巻取る。引続き軟化、脱
水素のため熱処理装置１６により焼鈍処理（７００
℃）、めっき装置１７による銅めっき処理を行った後、
細径まで伸線（中間伸線）する。この後ワイヤ最終径の
１段階まで縮径し、突起付きダイス１８で伸線してノッ
チを加工した後、最終径のダイスで伸線してノッチを閉
じた（仕上げ伸線）。

【００２６】なお、ワイヤ記号Ｗ８は表１に示す帯鋼Ｈ
２を用いて図３（ａ）に示す従来の突合せタイプのフラ
ックス入りワイヤである。表３に製造結果、表４に溶接
試験方法、表５に溶接試験結果（半自動溶接による溶接
作業性評価と自動溶接による溶着速度測定）を示す。

【００２７】

【表３】

【００２８】

【表４】

【００２９】

【表５】

【００３０】本発明によるシームレスフラックス入りワ
イヤＷ１，Ｗ２，Ｗ３は製造上のトラブルもなく、良好
な溶接作業性で溶着量も突合せタイプのフラックス入り
ワイヤ（Ｗ８）と同等レベルに達している。

【００３１】これに対し、Ｗ４〜Ｗ８は比較例である。
Ｗ４はノッチの深さが浅すぎる場合で、溶着速度への効
果は小さい。Ｗ５は逆に外皮部のノッチ深さが深い場合
で、ノッチが深すぎるために伸線中に断線が多発した。
また、場所によっては実質的に合わせ目タイプのフラッ
クス入りワイヤとなってしまい、銅めっき処理液がワイ
ヤ中に進入、或いは充填フラックスの吸湿が原因と思わ
れるピットが発生した。Ｗ６はノッチの幅が広すぎる場
合でワイヤ送給性が悪く、アーク状態が不安定でスパッ
タも多発した。Ｗ７は外皮部にノッチを設けない従来の
シームレスタイプのフラックス入りワイヤで溶着量が少
ない。Ｗ８は溶接作業性、溶着速度とも良好であるが、
開口部があることにより現場溶接においては充填フラッ
クスの吸湿等の問題点がある。

【００３２】

【発明の効果】以上説明したように本発明は充填フラッ
クスの吸湿性等種々の利点があるシームレスタイプの断
面構造において、ワイヤ溶融速度を速くし高溶着性が得
られるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ
を提供したものであり、これにより溶接の高品質化、高
能率化が図れる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明によるシームレスフラックス入りワイヤ
の断面構造を示す図。

【図２】本発明のシームレスフラックス入りワイヤの製
造方法の説明図。

【図３】従来のフラックス入りワイヤの断面構造を示す
図。

【図４】フラックス入りワイヤの溶融状態の説明図。

【符号の説明】

１ 外皮部 ２ 開口部 ３ フラックス ４ シーム溶接部 ５ ワイヤ先端の溶滴 ６ 離脱した溶滴 ７ 外皮部のノッチ ８ 帯鋼供給装置 ９ 帯鋼 １０ 成形装置 １１ フラックス供給装置 １２ 充填用フラックス １３ シーム溶接装置 １４ 圧延装置 １５ ボビン １６ 熱処理装置 １７ めっき装置 １８ 特殊ダイス

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 鋼製外皮に囲まれた中空部にフラックス
   が充填されてなるガスシールドアーク溶接用フラックス
   入りワイヤにおいて、中空部に開口部を有することなく
   ワイヤ長手方向に垂直な断面における外皮部に連続して
   ノッチを設けたことを特徴とするガスシールドアーク溶
   接用フラックス入りワイヤ。
2. 【請求項２】 ワイヤ長手方向に垂直な断面における外
   皮部に連続して、下記（１），（２）式を満足するノッ
   チを設けたことを特徴とする請求項１記載のフラックス
   入りワイヤ。 ０．２＜Ｌ／ｔ＜０．９・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・（１） Ｗ＜０．５mm・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・（２） 但し、ｔ：外皮部の厚さ（mm） Ｌ：ノッチの深さ（mm） Ｗ：ノッチの幅（mm）