JPH07308137A - ヤマナラシ節に属する植物の植物体生産方法 - Google Patents
ヤマナラシ節に属する植物の植物体生産方法Info
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- JPH07308137A JPH07308137A JP6103749A JP10374994A JPH07308137A JP H07308137 A JPH07308137 A JP H07308137A JP 6103749 A JP6103749 A JP 6103749A JP 10374994 A JP10374994 A JP 10374994A JP H07308137 A JPH07308137 A JP H07308137A
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Abstract
濃度1〜15mMかつ硝酸態窒素濃度15〜50mMで
ある培地を用いて、ハコヤナギ属(Populus )ヤマナラ
シ節(Leuce )に属する植物の組織を培養し、そこから
不定芽を分化させて、植物体を再生する。 【効果】ハコヤナギ属のうち、わが国においてパルプ用
広葉樹材としての植林に適する、ヤマナラシ節に属する
植物の組織から直接に、あるいはカルスのわずかな増殖
を経ただけで、効率良く不定芽を分化させ、これから植
物体を再生することにより、遺伝的構成の等しい植物体
を短期間で大量に生産することを可能とする。
Description
ス: Populus )ヤマナラシ節(Leuce )に属する植物
の組織を培養することにより、不定芽を経由して植物体
を再生することを特徴とする植物体の生産方法に関する
ものである。
ルプ材等に広く利用される有用な樹種であるため、北半
球温帯を中心に多くの種が栽培されている。通常、これ
らの種の増殖には、插し木法を用いた無性繁殖が行われ
ているが、わが国においてパルプ用広葉樹材としての植
林に適するとされる、ヤマナラシ節に属する種は、插し
木での発根率が低いため、根伏せ等の方法により繁殖が
行われている。しかし、この方法による大量増殖には長
期間を要し、またそのためのより広い圃場も必要とされ
るので、これらの問題を解決するため、組織培養の手法
を用いた大量増殖について、多くの研究が進められてい
る。
下で無菌的に培養し、増殖・生育させる技術であり、こ
の技術を応用することにより、植物体の組織の一部を用
いて極めて短期間で植物体を再生することが可能である
ため、種苗の大量増殖への応用等が期待されており、ヤ
マナラシ節に属する種でも、葯や茎を材料として培養
し、不定形組織であるカルスを誘導・増殖させて、これ
から茎葉等を分化させ、植物体を再生する方法は既に知
られている(木本植物の増殖と育種 農業図書1989)。
しかし、カルスはその増殖中に遺伝子突然変異を起こし
やすいことが知られており、この方法を用いた場合で
も、カルスの増殖段階で変異体を生ずるおそれが大き
く、これは特に、遺伝的構成の等しい、いわゆるクロー
ン苗の増殖を目的とする場合には問題となる。またこの
方法では、根伏せ法等によるよりは増殖期間を短縮でき
るものの、その培養は、葯や茎等の外植片からのカルス
の誘導、そしてその増殖、さらにそこからの茎葉等の分
化、という過程を経るため、外植片の培養を始めてから
茎葉の分化までになお数ヶ月を要する。そのため、商業
目的に苗等を大量に生産する場合や、育種を目的として
優良個体の選抜・増殖を繰り返す場合等には、この期間
の短縮を図ることも重要な課題となる。従って、外来遺
伝子を導入した交雑ヤマナラシ(ポプルス・シーボルデ
ィ×ポプルス・グランディデンタータ: Populus Siebo
ldii×Populus grandidentata )形質転換体の作出にこ
の方法を用いた報告もあるが(松永ら、1992 第2回樹
木分子生物学シンポジウム講演要旨集 72-77 )、上記
の理由により、目的とする遺伝子の導入されたクローン
苗が効率的に得られないこと、また植物体の再生までに
時間がかかること等、実用上の問題を有している。
から、カルスの誘導・増殖のための操作を行うことなく
不定芽等を分化させて、植物体を再生する組織培養方法
も行われる。ここで不定芽とは、そもそも芽となるべき
ではない組織から何らかの方法で誘導された芽のことを
いい、カルスから茎葉等を分化させた場合と同様に、適
当な条件下でこれを培養することにより、植物体を再生
することができる。不定芽は、茎や葉等の組織から直接
誘導することも、またカルスから誘導することもできる
が、この方法では、カルスは全く誘導されないか、誘導
されても殆ど増殖しない条件下で不定芽の分化を誘導す
ることにより、材料とした茎や葉等の組織から直接に、
あるいはわずかに増殖しただけのカルスから、不定芽を
分化させる。従って、この方法は、培養中に遺伝子突然
変異を起こすおそれも少なく、また、カルスの誘導・増
殖・カルスからの再分化という過程を必ず経る再分化方
法と比べて、植物体の再生に要する期間も短いため、上
記した商業目的・育種目的に有用と考えられ、特に最近
では、アグロバクテリウム法等により遺伝子を導入した
形質転換植物体を効率良く得るための手段として、使用
される場合が多くなっている。
は、培養の目的とするところにより、培養すべき植物の
組織や培養に用いる培地の組成、温度・光等の条件を適
宜選択する必要がある。しかし、これらの条件の組み合
わせとそれにより得られる結果との間には、必ずしも一
定の傾向を見出だすことはできず、材料とする植物の種
のみならず品種が相違するだけでも、同一結果は得られ
ないのがむしろ普通である。例えば、不定芽分化に対す
る培地の植物ホルモン組成および品種(遺伝子型:geno
type)の影響を詳細に調査した報告では、不定芽分化率
は、同一の基本培地に同一種類・同一量の植物ホルモン
を添加して用いた場合でも、品種の違いにより0〜10
0%の範囲で異なる値を示した(コールマンら:Colema
n et.al、1989 プラント・セル・レポート:Plant Cel
l Reports 9 165-167 )。従って、研究者は、材料
とする植物と培養の目的によって、そのつど最も適した
条件を検索する必要があり、これが植物の組織培養の手
法を用いる場合に、解決すべき最も重要な課題となる。
しかし、木本植物の分野においては、野菜、花卉等の草
本植物と比べ、組織培養による増殖等の研究が進んでい
ないことから、不定芽分化を目的とする場合でも、現段
階では、草本植物であるタバコの不定芽分化等に用いら
れる条件を、培地中の植物ホルモン組成を変更しただけ
でそのまま用い、かかる条件下で比較的容易に不定芽分
化が起こる品種を材料として、モデル的な研究を行なう
にとどまっている。例えばハコヤナギ属においては、葉
からの不定芽分化による植物体の再生が報告されている
(フィラッティら:Fillatti et.al、1987 モレキュラ
・ジェネラル・ジェネティックス:Molecular GeneralG
enetics 206 192-199 )が、実際に有用な樹種に関
して効率的な不定芽分化を起こさせるための、培地等の
培養条件について検討がなされている例は、極めて少な
い。
属のうち、わが国においてパルプ用広葉樹材としての植
林に適するとされる、ヤマナラシ節に属する植物の組織
より直接に、あるいはその組織からわずかに増殖したカ
ルスより、効率良く不定芽を分化させ、これから植物体
を再生することにより、遺伝的構成の等しい植物体を短
期間で大量に生産する方法を提供しようとするものであ
る。
を解決すべく鋭意検討を行なった結果、ヤマナラシ節に
属する植物においては、窒素源を特定の組成とした培地
を用いて、その組織を培養することにより、カルス増殖
を殆ど起こすことなく、その組織から効率良く不定芽の
分化を誘導することができることを見出だした。
のための培地として、培地中の窒素源の濃度を、アンモ
ニア態窒素濃度1〜15mMかつ硝酸態窒素濃度15〜
50mM、好ましくはアンモニア態窒素濃度5〜10m
Mかつ硝酸態窒素濃度30〜40mMとしたものを用い
る。アンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度のいずれが
この範囲を外れても、不定芽の分化には悪影響を与え
る。また、このアンモニア態窒素と硝酸態窒素の割合
は、モル濃度比にして1:2〜1:5、特に1:3であ
ることが、高効率で不定芽の分化を誘導する上から望ま
しい。
(ムラシゲ・スク−グ)培地、LS(リンスマイヤ−・
スク−グ)培地、WP(ウッディプラント)培地等とし
て知られているものの組成をそのまま用いることができ
る。さらに、不定芽の分化、および分化した芽の生長を
促進するため、これらの培地には植物ホルモンとして、
ベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチン、2
−イソペンテニルアデニン、チジアズロン等のサイトカ
イニンを単独もしくは併用して加えることが望ましい。
その添加量は、用いるサイトカイニンの活性に応じて適
宜定めることができるが、通常は0.05〜5mg/l
の範囲から選択される。一方、オ−キシン類については
特に加える必要はないが、茎葉の再分化を抑制しない範
囲で加えることができる。なお、培養温度は15〜30
℃、また少なくとも1日10時間は500ルクス以上で
培養することが、やはり不定芽の分化・生長等の上から
望ましい。
ハコヤナギ属のうちヤマナラシ節に属する植物に対して
適用することができるが、その中でも特に、ヤマナラシ
(ポプルス・シーボルディ: Populus Sieboldii)とオ
オバヤマナラシ(ポプルス・グランディデンタータ: P
opulus grandidentata)の雑種である交雑ヤマナラシの
不定芽分化に優れた効果を有する。交雑ヤマナラシは、
岩手県岩手郡玉山村の山地に自生していたヤマナラシか
ら選抜した5本の雌株の切枝を、水ざし法によって開花
させたものに、カナダ産オオバヤマナラシ雄株の1選抜
木からの花粉を交配させて得られた種子約30,000粒よ
り、1,200 本の健全実生苗を得て、伸長生長が特に旺盛
なF1個体の選抜を行った結果、得られたものである
(秋田十條化成(株)内実験林にて栽培)。その伸長成
長はヤマナラシ節に属する他の種、あるいはそれらの種
間雑種の中でも特に優れており、雑種強勢が顕著に発現
されていることが報告されている(高山、1968 日林誌
50(9) 267-273 )。
として、植物体の茎、頂芽、側芽、茎頂、および葉柄の
組織のうち、いずれでも使用することができる。ここ
で、頂芽とは茎の先端に生じる芽、側芽とは茎の側面に
生じる芽のことであり、茎頂とはこれらの芽の先端部
等、茎の端部に存在する分裂組織を含む部分をいう。こ
れらの組織は植物体より切り出し、常法により殺菌を行
って無菌条件下に移し、滅菌水による洗浄等の後、直ち
に、あるいは適当な前培養を経て、上記の不定芽分化培
地にて培養することにより、そこから不定芽を分化させ
ることができる。ただし、フラスコ内等で無菌的に生育
させた植物体を材料として用いる場合には、殺菌操作は
必要としない。前培養を行う場合、用いる培地について
の制限はないが、その培養中にカルスの増殖が認められ
るときは、前培養期間は短くすることが望ましい。
伸張したものを培養組織より切断し、これを発根のため
の培地に移植して発根させることにより、完全な植物体
を再生することができる。発根培地としては、上記のM
S、LS、WP培地等、通常知られている培地をそのま
ま、あるいは1/3程度まで稀釈して用いることができ
る。また、窒素源を本発明の組成としたものを用いても
よい。植物ホルモンについては、全く添加しないか、あ
るいはオーキシン類を単独で0.5mg/lまでの濃度
で加えるのが望ましく、これよりも濃度が高くなると、
移植した組織のカルス化を誘導する傾向を強く示すよう
になる。この場合、特に、IBA(インドール酪酸)を
単独で0.01〜0.2mg/l加えるのが望ましい。
なお、サイトカイニン類は発根を抑制する傾向があるた
め使用を控える必要があるが、オーキシン類の濃度の1
/10以下であれば加えることもできる。
あると固体培養であるとを問わないが、より健全な不定
芽の生長、および根の分化と生長の点から、固体培養が
望ましい。固体培養を行う場合には、培養の目的によっ
ても異なるが、一般には、培地固形剤として寒天、ゲラ
ンガム等を用い、培地の体積に対して、寒天培地の場合
には寒天を0.7〜1.0w/v%、ゲランガム培地の
場合にはゲランガムを0.2〜0.3w/v%となるよ
うに培地中に加え、常法に従い溶解・固化させたものを
用いる。
植物においては、木本植物の組織培養に用いられている
既知の培地中、その窒素源の濃度のみをアンモニア態窒
素濃度1〜15mMかつ硝酸態窒素濃度15〜50mM
としたものを用いて培養を行うことにより、カルス増殖
を殆ど起こすことなく、その組織から効率良く不定芽の
分化が誘導される、との知見に基づきなされたものであ
る。
細は明らかでない。しかし、植物細胞はそもそも分化全
能性、すなわち1個の体細胞から1個の植物体を再生す
ることのできる能力をあらかじめ備えていることが知ら
れている。従って、植物細胞はある適当な条件下に置か
れることにより、その生理状態が変化し、その変化した
状態に応じて種々の組織を分化させるが、本発明の対象
であるヤマナラシ節に属する植物においては、その栄養
源の中、アンモニア態窒素と硝酸態窒素の2種の窒素源
の濃度が両者とも、不定芽の分化を誘導するような生理
状態を引き起こす過程に深く関わっており、そのため、
その組織を培養する培地中の窒素源の組成を上記のもの
とすることにより、その細胞の生理状態が変化して不定
芽の分化が起こるものと考えられる。
る。
Y63(秋田十條化成(株)内実験林より採取)の無菌
フラスコ苗の茎を、節を含まないように5mm長さに切
断し、これをさらに縦に二つ割りにして、窒素源の組成
を、アンモニア態窒素濃度10mM、硝酸態窒素濃度3
0mMに変更したMS寒天固体培地(シュークロース2
w/v%、ゼアチン0.5mg/l、寒天0.8w/v
%)に置床し、温度25℃、照度3000ルクス(終
日)で1か月間培養したところ、置床した組織24個中
23個で不定芽の分化が認められた。これらをさらに約
1か月間、同様の条件下で培養し、この芽から伸長して
生じた茎葉が2〜3cmになった頃に、やはり無菌条件
下、その茎の部分から切り取り、これを発根のため、ゼ
アチンに替えてIBA0.05mg/lとした以外は上
記のものと同様の組成の培地に移植して、さらに培養を
続けて発根させたところ、移植後1か月後には61個の
幼植物体を得ることができた。
て通常のMS培地を用いた以外は、実施例1と全く同様
にして、交雑ヤマナラシY63の無菌フラスコ苗の茎を
培養したところ、置床した組織24個中2個で不定芽の
分化が認められ、得られた幼植物体数は2個体であっ
た。
て、窒素源の組成を、アンモニア態窒素濃度5mM,硝
酸態窒素濃度20mMとした以外は、実施例1と全く同
様にして、交雑ヤマナラシY63の無菌フラスコ苗の茎
を培養したところ、置床した組織24個中12個で不定
芽の分化が認められ、得られた幼植物体数は16個体で
あった。
て、窒素源の組成を、アンモニア態窒素濃度10mM,
硝酸態窒素濃度40mMとした以外は、実施例1と全く
同様にして、交雑ヤマナラシY63の無菌フラスコ苗の
茎を培養したところ、置床した組織24個中15個で不
定芽の分化が認められ、得られた幼植物体数は41個体
であった。
て、窒素源の組成を、アンモニア態窒素濃度5mM,硝
酸態窒素濃度10mMとした以外は、実施例1と全く同
様にして、交雑ヤマナラシY63の無菌フラスコ苗の茎
を培養したところ、置床した組織24個中5個で不定芽
の分化が認められ、得られた幼植物体数は7個体であっ
た。
て、窒素源の組成を、アンモニア態窒素濃度20mM,
硝酸態窒素濃度20mMとした以外は、実施例1と全く
同様にして、交雑ヤマナラシY63の無菌フラスコ苗の
茎を培養したところ、置床した組織24個中3個で不定
芽の分化が認められ、得られた幼植物体数は5個体であ
った。
クス(終日)の恒温室内で生育している交雑ヤマナラシ
Y78(秋田十條化成(株)内実験林より採取)の茎
を、節を含まないように切り出し、有効塩素量1%の次
亜塩素酸ソーダ溶液中に浸漬して撹拌しつつ10分間殺
菌を行った。これを無菌条件下に移し、滅菌水で洗浄し
た後、5mm長さに切断し、さらに縦に二つ割りにし
て、窒素源の組成を、アンモニア態窒素濃度10mM、
硝酸態窒素濃度30mMに変更したWP寒天固体培地
(シュークロース2w/v%、ゼアチン0.5mg/
l、寒天0.8w/v%)に置床し、実施例1と同様に
して培養したところ、置床した組織10個中8個で不定
芽の分化が認められ、幼植物体16個体を得ることがで
きた。
て通常のWP培地を用いた以外は、実施例4と全く同様
にして、交雑ヤマナラシY78の茎を培養したところ、
置床した組織10個中2個で不定芽の分化が認められ、
得られた幼植物体数は3個体であった。
ナラシY79(秋田十條化成(株)内実験林より採取)
の萌芽前の枝を、よく洗浄した後、温度25℃、照度3
000ルクス(終日)の恒温室内で水ざしにして、萌芽
させた。そこから側芽を含む節の部分を切り出し、これ
を、有効塩素量1%の次亜塩素酸ソーダ溶液中に浸漬し
て撹拌しつつ10分間殺菌を行い、無菌条件下に移し
て、滅菌水で洗浄後、実施例1と同様の不定芽分化培地
および条件で培養したところ不定芽の分化が認められ、
2か月後には置床した組織1個あたり、1〜5個の茎葉
が伸長してきた。次に、やはり無菌条件下、これらの茎
葉を切り取り、発根のため、2/3稀釈MSゲランガム
固体培地(シュークロース2w/v%、IBA0.5m
g/l、ゲランガム0.3w/v%)に移植して、さら
に培養を続けて発根させ、幼植物体を得た。
無菌的に培養されたものであるが、これを外部環境に移
すため、約5cmに成長した幼植物体の根を水洗し、オ
−トクレ−ブ殺菌したメトロミックス350(W.R.
グレ−ス社製)を入れたポリポットに移植し、ビニ−ル
袋で覆って温度25℃、照度3000ルクスの条件で栽
培することにより、馴化を行った。2週間後に覆いを取
り外し、そのまま栽培を続けたところ、幼植物体は馴化
後3ケ月で約30cmに成長した。
本培地として用いたMSおよびWP培地の組成は、表2
に示す。
〜15mMかつ硝酸態窒素15〜50mMの範囲にある
場合には、基本培地の種類を問わず、不定芽分化率はす
べて50%以上を示し、この2種の窒素源のうちのいず
れが上記の濃度範囲を外れても、不定芽分化率は急激に
低下した。また、アンモニア態窒素と硝酸態窒素の割合
は、そのモル濃度比が1:3のときに、特に高い不定芽
分化率を示した。一方、これらの不定芽から再生して得
られた幼植物体の個体数は、発根、馴化等の不定芽分化
後の生育状況によっても結果が左右されるものである
が、それでも、アンモニア態窒素濃度と硝酸態窒素濃度
が上記の範囲にある不定芽分化培地を用いることによ
り、得られる幼植物体の個体数は明らかに増加した。
シ節に属する植物の組織から直接に、あるいはカルスの
わずかな増殖を経ただけで、効率良く不定芽を分化さ
せ、これから植物体を再生することが可能となり、これ
により、遺伝的構成の等しい植物体を短期間で大量に生
産することが容易に行えるようになった。
として、アンモニア態窒素と硝酸態窒素をそれぞれ一定
の濃度範囲に設定するだけで、既知の木本植物の培地を
用いることができる。
ヤマナラシ節に属する植物において、組織培養の手法に
より、商業目的のための種苗の大量生産の他、優れた形
質を有する個体の選抜のための、あるいは選抜された個
体の大量増殖、さらには有用遺伝子が導入された個体の
大量増殖を、短期間で効率良く行うことを可能とするも
のである。
から、カルスの誘導・増殖のための操作を行うことなく
不定芽等を分化させて、植物体を再生する組織培養方法
も行われる。ここで不定芽とは、そもそも芽となるべき
ではない組織から何らかの方法で誘導された芽のことを
いい、カルスから茎葉等を分化させた場合と同様に、適
当な条件下でこれを培養することにより、植物体を再生
することができる。不定芽は、茎や葉等の組織から直接
誘導することも、またカルスから誘導することもできる
が、この方法では、カルスは全く誘導されないか、誘導
されても殆ど増殖しない条件下で不定芽の分化を誘導す
ることにより、材料とした茎や葉等の組織から直接に、
あるいはわずかに増殖しただけのカルスから、不定芽を
分化させる。従って、この方法は、培養中に遺伝子突然
変異を起こすおそれも少なく、また、カルスの誘導・増
殖・カルスからの再分化という過程を必ず経る再分化方
法と比べて、植物体の再生に要する期間も短いため、上
記した商業目的・育種目的に有用と考えられ、特に最近
では、アグロバクテリウム法等により遺伝子を導入した
形質転換植物体を効率良く作出し増殖するための手段と
して、使用される場合が多くなっている。
は、培養の目的とするところにより、培養すべき植物の
組織や培養に用いる培地の組成、温度・光等の条件を適
宜選択する必要がある。しかし、これらの条件の組み合
わせとそれにより得られる結果との間には、必ずしも一
定の傾向を見出だすことはできず、材料とする植物の種
のみならず品種が相違するだけでも、同一結果は得られ
ないのがむしろ普通である。例えば、不定芽分化に対す
る培地の植物ホルモン組成および品種(遺伝子型:geno
type)の影響を詳細に調査した報告では、不定芽分化率
は、同一の基本培地に同一種類・同一量の植物ホルモン
を添加して用いた場合でも、品種の違いにより0〜10
0%の範囲で異なる値を示した(コールマンら:Colema
n et.al、1989 プラント・セル・レポート:Plant Cel
l Reports 8 459-462 )。従って、研究者は、材料
とする植物と培養の目的によって、そのつど最も適した
条件を検索する必要があり、これが植物の組織培養の手
法を用いる場合に、解決すべき最も重要な課題となる。
しかし、木本植物の分野においては、野菜、花卉等の草
本植物と比べ、組織培養による増殖等の研究が進んでい
ないことから、不定芽分化を目的とする場合でも、現段
階では、草本植物であるタバコの不定芽分化等に用いら
れる条件を、培地中の植物ホルモン組成を変更しただけ
でそのまま用い、かかる条件下で比較的容易に不定芽分
化が起こる品種を材料として、モデル的な研究を行なう
にとどまっている。例えばハコヤナギ属においては、葉
からの不定芽分化による植物体の再生が報告されている
(フィラッティら:Fillatti et.al、1987 モレキュラ
・ジェネラル・ジェネティックス:Molecular GeneralG
enetics 206 192-199 )が、実際に有用な樹種に関
して効率的な不定芽分化を起こさせるための、培地等の
培養条件について検討がなされている例は、極めて少な
い。
Y63(秋田十條化成(株)内実験林より採取)の無菌
フラスコ苗の茎を、節を含まないように長さ5mmに切
断し、これをさらに縦に二つ割りにして、窒素源の組成
を、アンモニア態窒素濃度10mM、硝酸態窒素濃度3
0mMに変更したMS寒天固体培地(シュークロース2
w/v%、ゼアチン0.5mg/l、寒天0.8w/v
%)に置床し、温度25℃、照度3000ルクス(終
日)で1か月間培養したところ、置床した組織24個中
23個で不定芽の分化が認められた。これらをさらに約
1か月間、同様の条件下で培養し、この芽から伸長して
生じた茎葉が2〜3cmになった頃に、やはり無菌条件
下、その茎の部分から切り取り、これを発根のため、ゼ
アチンに替えてIBA0.05mg/lとした以外は上
記のものと同様の組成の培地に移植して、さらに培養を
続けて発根させたところ、移植後1か月後には61個の
幼植物体を得ることができた。
ナラシY79(秋田十條化成(株)内実験林より採取)
の萌芽前の枝を、よく洗浄した後、温度25℃、照度3
000ルクス(終日)の恒温室内で水ざしにして、萌芽
させた。そこから側芽を含む節の部分を切り出し、これ
を、有効塩素量1%の次亜塩素酸ソーダ溶液中に浸漬し
て撹拌しつつ10分間殺菌を行い、無菌条件下に移し
て、滅菌水で洗浄後、実施例1と同様の不定芽分化培地
および条件で培養したところ不定芽の分化が認められ、
2か月後には置床した組織1個あたり、1〜5個の茎葉
が伸長してきた。次に、やはり無菌条件下、これらの茎
葉を切り取り、発根のため、2/3稀釈MSゲランガム
固体培地(シュークロース2w/v%、IBA0.05
mg/l、ゲランガム0.3w/v%)に移植して、さ
らに培養を続けて発根させ、幼植物体を得た。
として、アンモニア態窒素と硝酸態窒素をそれぞれ一定
の濃度範囲に設定するだけで、既知の植物用培地を用い
ることができる。
ヤマナラシ節に属する植物において、組織培養の手法に
より、商業目的のための種苗の大量生産の他、優れた形
質を有する個体の選抜のための、あるいは選抜された個
体の大量増殖、さらには有用遺伝子が導入された個体の
作出および大量増殖を、短期間で効率良く行うことを可
能とするものである。
Claims (8)
- 【請求項1】 ハコヤナギ属( Populus )ヤマナラシ
節(Leuce )に属する植物の組織を培養することによ
り、不定芽を経由して植物体を再生する方法において、
培地中の窒素源の濃度が、アンモニア態窒素濃度1mM
〜15mMかつ硝酸態窒素濃度15〜50mMである培
地を用いて、培養組織から不定芽を分化させることを特
徴とする、植物体の生産方法。 - 【請求項2】 培養に供する植物が、交雑ヤマナラシ
(ポプルス・シーボルディ×ポプルス・グランディデン
タータ: Populus Sieboldii×Populus grandi dentata
)である、請求項1に記載の植物体の生産方法。 - 【請求項3】 培養に供する植物の組織が、植物の茎、
茎頂、頂芽、側芽および葉柄のうちいずれか一つより選
ばれたものである、請求項1または2に記載の植物体の
生産方法。 - 【請求項4】 不定芽分化のための培地として、窒素源
の濃度をアンモニア態窒素濃度1〜15mMかつ硝酸態
窒素濃度15〜50mMに改変したムラシゲ・スクーグ
培地を用いる、請求項1、2、または3に記載の植物体
の生産方法。 - 【請求項5】 不定芽分化のための培地として、窒素源
の濃度をアンモニア態窒素濃度1〜15mMかつ硝酸態
窒素濃度15〜50mMに改変したウッディ・プラント
培地を用いる、請求項1、2、または3に記載の植物体
の生産方法。 - 【請求項6】 不定芽分化のための培地として、窒素源
の濃度がアンモニア態窒素濃度5〜10mMかつ硝酸態
窒素濃度30〜40mMであるものを用いる、請求項
1、2、3、4、または5に記載の植物体の生産方法。 - 【請求項7】 不定芽分化のための培地として、アンモ
ニア態窒素源と硝酸態窒素源のモル濃度比が、1:2〜
1:5の範囲にあるものを用いる、請求項1、2、3、
4、5または6に記載の植物体の生産方法。 - 【請求項8】 不定芽分化のための培地として、アンモ
ニア態窒素源と硝酸態窒素源のモル濃度比が、1:3で
あるものを用いる、請求項1、2、3、4、5、6また
は7に記載の植物体の生産方法。
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