JPH07305144A - 耐転動疲労損傷性に優れた低電気抵抗レール - Google Patents

耐転動疲労損傷性に優れた低電気抵抗レール

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JPH07305144A
JPH07305144A JP9653994A JP9653994A JPH07305144A JP H07305144 A JPH07305144 A JP H07305144A JP 9653994 A JP9653994 A JP 9653994A JP 9653994 A JP9653994 A JP 9653994A JP H07305144 A JPH07305144 A JP H07305144A
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Abstract

(57)【要約】 【構成】重量%で、C:0.15〜0.55%、Si:
0.05〜0.5%、Mn:0.10〜0.5%、P:
0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:0.10
〜2.00%、Mo:0.005〜2.00%を含有
し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、頭部が均一ベ
イナイト組織であり、硬さが頭頂及び頭部コーナー部の
いずれの位置においてもHvで240〜390の間であ
り、室温における固有抵抗値ρ(20℃)が23.7μ
Ω・cm以下である耐転動疲労損傷性に優れた低電気抵
抗レール。 【効果】頭部を特定組成の均一ベイナイト組織とし、硬
さを頭頂部・頭部コーナー部のいずれの位置においても
Hvで240〜390のとすることにより、摩耗量を普
通レールよりも増大させたので、耐転動疲労特性に優
れ、かつ成分組成を調節することにより低い電気抵抗を
有するレールが提供される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鉄道においてレールの
寿命を左右する頭頂並びに頭部コーナー部に生じる転動
疲労損傷に対する耐損傷性に優れ、また信号の誤動作防
止の観点から電気抵抗を低くしたレールに関する。
【0002】
【従来技術】鉄道輸送は他の輸送機関と比較して輸送効
率が高く、年々高速化、ダイヤの過密化が指向されてお
り、レールに対する負荷が年々過酷になっている。この
ため、直線部においてはレール頭頂面の、曲線部におい
ては頭部コーナー部の転動疲労損傷が増加している。
【0003】従って、レールに求められる特性もより高
性能化しつつあり、これまで以上に転動疲労特性に対す
る耐損傷性に優れるレールが求められている。また、ダ
イヤの過密化により列車運行の制御がこれまで以上に重
要となっており、このため信号の誤動作を起こしにくい
レールが求められている。
【0004】耐転動疲労損傷性に優れたレールとして
は、例えば特公昭55−2388号公報に開示されてい
るような頭部を高温に再加熱して所定の温度域から冷却
し、700〜650℃の温度域を10.5〜15℃/秒
の速度で冷却することにより得られる熱処理レールが知
られている。このような熱処理レールは特に頭部の硬度
が高いことから軸重の高い鉄道に使用され、優れた特性
を示している。
【0005】また特開平2−282448号公報には、
C量を従来レールよりも低くして、さらに頭頂部と頭部
コーナー部に硬度差を形成したレールが知られている。
一方、信号の誤作動を防止するためには、レールに流す
信号電流の抵抗損失を少なくすることが必要であり、現
在JISで規格化されてはいないが、鉄道会社からの要
求に応じて普通レールの固有抵抗値を一定範囲内に制御
している。電気抵抗を考慮したものとして、特開平3−
20442号公報に高炭素鋼で合金元素を添加したレー
ルが開示されているが、これは耐摩耗性を考慮したパー
ライト鋼であり、耐転動疲労性は考慮されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】最近高速化の進んでい
る在来線において、これまで新幹線に敷設したレールに
しか認められなかったレール頭頂面シェリングが発生す
るようになり、この対応に苦慮している。
【0007】頭頂面シェリングの発生原因については、
全てが解明されているわけではないが、その原因の一つ
として、車輪の走行、スリップ時のレール表面の急速加
熱・急速冷却によりレールの表面に白色層と称されるマ
ルテンサイト層の生成が報告されている。この場合、白
色層は非常に硬いことからマトリクスとの境界に割れが
発生し、進展することによりシェリング損傷に至るとさ
れている。
【0008】白色層の硬さは一般にC量によって決ま
り、C量が多いほど白色層の硬さが高くなる。従来のレ
ールは、特公昭55−2388号公報に開示されたもの
を含め、C量が0.65〜0.85%と多いことから白
色層が生成した場合、硬さが高くなる点が弱点となって
いる。また、従来のレールはミクロ組織がパーライト組
織となっており、軟らかいフェライト層と硬いセメンタ
イト層がラメラー状となっていることから摩耗し難く、
一度生成した白色層が、列車の通過時の車輪とレールの
接触に伴う摩耗によっても除去されず、損傷の起点とな
りやすい点も欠点となっている。
【0009】本発明者たちは、この問題に対処するため
白色層の硬さが低く、また白色層が生成しても列車通過
時の車輪とレールの接触による摩耗によって除去される
ようなレールを検討した。白色層すなわちマルテンサイ
トの硬さはC量によって一義的に決まることからこの硬
さを低くするためにはC量を低くすることが有効であ
る。
【0010】しかし、C量を低くしただけのレールで
は、強度が低くなりレール表面に大きな塑性フローが生
じ、これがきしみ割れ等の別種の損傷となるという問題
が生じた。これに対しては、例えば前述の特開平2−2
82448で開示されているようにC量の低いレールで
頭部コーナー部のみを熱処理等で高硬度とするレールが
開発されている。けれども実際の鉄道における列車の走
行においては、車輪とレールの接触は一様ではなく、高
硬度化した頭部コーナー近傍部が車輪と接触することが
あり、この場合には頭頂部に接触が生じず、摩耗量を増
やすことにより白色層の除去を行うという当初の目的が
達成されないため白色層は除去され難く、耐転動疲労損
傷性が必ずしも良好とはいえないという欠点があった。
【0011】一方、鋼の電気抵抗は、合金元素及びミク
ロ組織により変化し、合金元素を多量に含有するほど、
またミクロ組織が転位密度の高い組織となっているほど
高くなるが、合金添加量、組織の固有抵抗値に対する定
量的な影響は詳細には知られていない。
【0012】従って、従来は電気抵抗をJIS普通レー
ルと同等の低いレベルに保ったまま耐転動疲労性を向上
させるという観点からの検討は行われていない。本発明
はかかる事情に鑑みてなされたものであって、優れた耐
転動疲労損傷性を有し、電気抵抗が低いレールを提供す
ることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段及び作用】本願発明者ら
は、上記のような従来技術の欠点を考慮した結果、複雑
な熱処理を行うことなく頭頂部及び頭部コーナー部が共
に塑性フローによる損傷が生じない程度の均一な硬さを
有し、疲労強度及び硬さが従来レールと同等であり、さ
らに頭部のミクロ組織を全面ベイナイト組織とすること
で従来レールよりも1.2〜3.0倍摩耗量を多くする
ことによって、白色層の除去が可能となり、転動疲労損
傷に対する耐損傷性に優れることを見出した。また、鋼
の合金成分を適切に調節することにより、このような全
面ベイナイト組織を維持しつつ、所望の低い電気抵抗と
なることを見出した。さらに微量合金元素を加えること
により摩耗量は全面ベイナトイ組織の場合と同等で、か
つ白色層の生成を抑制し、頭部が内部まで同一硬さを示
すことから使用寿命が著しく延びることも明らかにし
た。
【0014】本発明は以上の知見に基づいてなされたも
のであり、重量%で、C:0.15〜0.55%、S
i:0.05〜0.5%、Mn:0.10〜0.5%、
P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:0.
10〜2.00%、Mo:0.005〜2.00%を含
有し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、頭部が均一
ベイナイト組織であり、硬さが頭頂及び頭部コーナー部
のいずれの位置においてもHvで240〜390の間で
あり、室温における固有抵抗値ρ(20℃)が23.7
μΩ・cm以下であることを特徴とする耐転動疲労損傷
性に優れた低電気抵抗レールを提供するものである。
【0015】また、重量%で、Nb:0.005〜0.
01%、Ti:0.001〜0.01%、V:0.00
5〜0.05%の1種又は2種以上をさらに含有するこ
とを特徴とする耐転動疲労損傷性に優れた低電気抵抗レ
ールを提供するものである。
【0016】さらに、上記基本組成に、又は上記Nbな
どの元素をさらに含有した組成に、さらにCu:0.0
5〜2.0%、Ni:0.05〜2.0%の1種又は2
種を含有させたことを特徴とする耐転動疲労損傷性に優
れたレールを提供するものである。
【0017】以下、本発明について詳細に説明する。ま
ず、本発明の根拠となる実験例について説明する。図1
は摩耗減量比に及ぼすマトリクス組織、硬さの影響を調
査した結果である。供試鋼は表1に成分範囲を示すよう
に、C,Si,Mn,Cr,Cu,Ni,Mo,V,N
b,Tiを種々変化させた成分で、いずれも熱間圧延に
より16mmの鋼板とし、一部の鋼板はエアー冷却を行
っている。これらの鋼板から外径30mm、幅8mmの
西原式摩耗試験片を採取し、在来線のレールと車輪の接
触をシミュレートした接触荷重135kg、すべり率−
10%、無潤滑条件で摩耗試験を行い、10万回転後の
摩耗減量を測定した。評価においては、普通レールの摩
耗量を測定し、普通レールに対する供試鋼の摩耗減量比
を用いた。なお、表1の組織の欄において、Pはパーラ
イトを示し、Bはベイナイトを示す。
【0018】
【表1】
【0019】図1から明らかなように、マトリクス硬さ
の増加に伴い摩耗減量が減少している。パーライト組織
の普通レールはHv240以上の硬さを有しており、こ
の硬さでレール頭部コーナー部のきしみ割れが重大な問
題となっていないこと、きしみ割れはレールコーナー部
の塑性変形によるものであり、コーナー部の強度(硬
さ)のみで規定されるものであることから、硬さの下限
値はHv240以上であれば問題ないことが理解でき
る。また、同一マトリクス硬さにおいてはパーライト組
織よりもベイナイト組織の方が摩耗減量が大きい。この
ことから、普通レールよりも摩耗減量を多くして耐損傷
性に優れるようにするためには、頭部をベイナイト組織
とする必要があることが理解できる。
【0020】これまでの各種検討から、摩耗による疲労
層の除去には摩耗減量比が1.2倍以上あることが必要
であると考えられている。さらにレールの計画寿命の観
点からは、摩耗減量が普通レールの3.0倍を超えると
計画寿命に達する前にレール頭部の摩耗による減肉が著
しくなり使用不可能となることから、摩耗減量比の上限
は3.0倍となる。現在使用されているパーライト組織
を有する普通レールの硬さはHv240〜260程度で
あるが、これよりも摩耗減量比が1.3〜3.0倍の値
を示すベイナイト組織の硬さはHv240〜390であ
ることが図1から理解できる。従って、本発明の目的と
するベイナイト組織の硬さがHv240〜390であれ
ば、摩耗による疲労層の除去、レール頭部の減肉による
寿命、レール頭部コーナー部のきしみ割れのいずれの観
点からも満足できるレールとなることがこの図から見出
される。
【0021】図2はレール頭頂部表面に生成する白色層
の硬さ、厚さに及ぼすマトリクスのC量の影響を示した
ものである。供試鋼は表2に成分範囲を示すようにC量
を変化させた成分で、熱間圧延により16mmの鋼板と
した。これらの鋼板から直径3mmの円柱試験片を採取
し、西原式転動疲労試験機のレールサンプルを取り付け
る側にこの円柱試験片をセットし、車輪試験片と瞬間的
に接触させて、強制滑りによる急速加熱、急速冷却の実
レールにおけるすべりによる白色層生成をシミュレート
して生成した白色層の硬さ、厚さを評価した。
【0022】
【表2】
【0023】図2からわかるように、白色層の厚さはC
量の減少により薄くなる。これはC量の低下に伴い白色
層生成における臨界冷却速度が高冷速側にシフトするた
めに冷却速度の遅い内部では白色層が形成されないため
であると考えられる。白色層の硬さはC量に大きく依存
し、C量の減少に伴い硬度が低下している。白色層とマ
トリクスとに硬度差が有りすぎると摩耗による白色層の
除去に対する抵抗となることから、白色層の硬さはマト
リクス硬さの2.00倍以内であることが必要と考えら
れる。図1に示したように摩耗減量比の観点からマトリ
クス硬さの上限をHv390としていることから、白色
層硬さはHv680以下とすることが必要である。従っ
て、C量の上限は0.55%となる。
【0024】図3はレール頭頂部表面に生成する白色層
の厚さに及ぼす微量添加物の影響を示したものである。
供試鋼は表3に成分範囲を示すようにCu,Ni,M
o,V,Nb,Tiを変化させた成分で、熱間圧延によ
りレール頭部の形状にシミュレート圧延した後、頭部中
央の表面から内部30mm位置までビッカース硬さを測
定した。
【0025】
【表3】
【0026】図3から、内部硬さの低下は、ベイナイト
焼入性を増加させる合金元素であるMn,Cr,Mo,
Cu,Niの単独もしくは複合添加により小さくなるこ
とがわかる。また、析出硬化元素であるV,Nb,Ti
の単独もしくは複合添加によっても小さくなることがわ
かる。ただし、焼入性向上元素の多量の添加は、表層に
マルテンサイト層を形成しやすくなるため望ましくな
い。また析出硬化元素を多量に添加してもレール内部の
硬さ低下を抑制する効果が飽和する。
【0027】図4は、表4に示す供試鋼の室温における
固有抵抗の計算値と実測値を示すものである。ここで固
有抵抗値の計算は、各元素の固有抵抗への寄与を考慮
し、実測値に基づいて計算したものであり、その値ρ
(20℃)cal.は、以下の式で示される。
【0028】ρ(20℃)cal.=(0.14×C)+
(12.7×Si)+(5.8 ×Mn)+(2.8 ×Cu)+
(2.9 ×Ni)+(3.1 ×Mo)+(4.5 ×Nb)+
(4.7 ×V)+(4.1 ×Ti)+11.7 (μΩ・c
m) なお、上記式の各元素記号は、各元素の重量%を表わ
す。
【0029】図4に示すように、上記式によりシミュレ
ートされた計算値は、ほぼ実測値と一致する。従って、
この計算式を用いて鋼の固有抵抗値を把握することがで
きる。上記式からわかるように、合金元素のうちSi,
Mn,Crは係数が高く、C,Mo,Cu,Niは係数
が低くなっている。従って、これら係数を考慮して固有
抵抗値が現状の普通レールと同様の23.7μΩ・cm
以下となるようにする必要がある。すなわち、係数の大
きいSi,Mn,Crの添加量を低めに設定し、さらに
C,Mo,Cu,Niの量を調節することによって、電
気抵抗を低く維持しつつ、強度及び組織を満足する成分
系を選定することが重要であることが理解される。
【0030】
【表4】
【0031】次に、化学成分、ミクロ組織、硬さ、電気
抵抗の限定理由について説明する。なお、以下の説明に
おいて、%表示は全て重量%を表わす。 (1)化学成分 C:0.15〜0.55% Cは白色層の硬さとレールそのものの強度に重要な影響
を与える元素であり、その含有量が0.55%を超える
と、上述したようにレール頭頂部における白色層の硬さ
が著しく硬くなり、母材の硬度差が高くなりすぎること
からシェリング損傷の起点となる。一方、0.15%未
満では母材の強度が低くなり、塑性フローが著しく、こ
れを起点とする損傷が発生する。従って、C量を0.1
5〜0.55%に規定する。
【0032】Si:0.05〜0.5% Siは、脱酸剤として有効なだけでなく、マトリクスに
固溶して強度を上昇させる元素であるが、その含有量が
0.05%未満ではその効果が認められない。また0.
5%を超えると、マトリクスが脆化すること、硬いSi
2 がマトリクス中に分散してこれがシェリングの起点
となること、マトリクスの固有低耕地を著しく高めるこ
となどの問題が生じる。従って、Si量を0.05〜
1.0%に規定する。
【0033】Mn:0.10〜0.5% Mnはマトリクスに固溶して焼入性を高め高強度化する
元素であるが、0.10%未満ではその効果が認められ
ず、0.5%を超えると偏析部にマルテンサイトを生成
しやすくなって損傷の起点となり、またマトリクスの固
有抵抗を高くする。従って、Mn量を0.10〜0.5
%に規定する。
【0034】P:0.03%以下 Pは靭性を劣化させることから、0.03%以下に規定
する。 S:0.03%以下 Sは主に介在物の形態で鋼中に存在するが、0.03%
を超えるとこの介在物量が著しく増加し、マトリクスを
脆化せしめることから、0.03%以下に規定する。
【0035】Cr:0.10〜2.00% Crはベイナイト焼入性を増加する元素であり、本発明
鋼のようにミクロ組織をベイナイト組織として高強度化
を図るために非常に重要な元素であるが、0.10%未
満ではベイナイト焼入性が低く、ミクロ組織が均一なベ
イナイト組織とならない。一方、2.00%を超えると
マルテンサイトが生成しやすくなって損傷の起点とな
り、またマトリクスの固有抵抗値を高くする。従って、
Cr量を0.10〜2.00%に規定する。
【0036】Mo:0.005〜2.00% Moは固有抵抗値の増加を低く抑えてベイナイト組織を
安定化する元素であり、本発明のように固有抵抗値を一
定の範囲として均一なベイナイト組織とするために非常
に有効な元素であるが、0.005%未満ではベイナイ
ト焼入性が低く、ミクロ組織が均一なベイナイト組織と
はならない。一方、2.0%を超えるとマルテンサイト
が生成し、損傷の起点となる。従って、Mo量を0.0
05〜2.00%に規定する。
【0037】V:0.005〜0.05% Vはマトリクス中のCと結び付いて圧延後に析出するこ
とから、頭部の内部まで析出強化により硬度を高くし、
レールの寿命を延ばすために有効である。ただし、ただ
し、その量が0.005%未満ではその効果を有効に発
揮することができない。また0.05%を超えて添加し
てもその効果は飽和してしまう。従って、Vを添加する
場合にはその量を0.005〜0.05%に規定する。
【0038】Nb:0.005〜0.01% Ti:0.001〜0.01% Nb,TiはVと同様にマトリクス中のCと結び付いて
圧延後に析出することから、頭部の内部まで析出強化に
より硬度を高くし、レールの寿命を延ばすために有効で
ある。その効果はVと複合添加とすることで著しいが、
Nbで0.005%未満、Tiで0.001%未満の添
加では有効ではない。またNb、Tiともに0.01%
を超えて添加してもその効果は飽和してしまうだけでな
く、析出物が粗大化しやすく別の損傷原因となる可能性
が生じる。従って、Nb、Tiを添加する場合には、そ
の量をNb:0.005〜0.01%、Ti:0.00
1〜0.01%に規定する。
【0039】以上のV,Nb,Tiはレールの寿命を延
ばす観点から、これらのうち1種又は2種以上を上記範
囲内で添加する。 Cu:0.05〜2.0% Ni:0.05〜2.0% Cu,Niは、いずれもベイナイト焼入性を向上する元
素であり、固有抵抗値上昇率を著しく上昇させることは
ない。しかし、これらが0.05%未満では、上記効果
が認められず、またこれらが2.0%を超えるとマルテ
ンサイトが生成しやすくなりシェリング損傷の起点とな
る。従って、Cu、Niを含有させる場合には、その量
はいずれも0.05〜2.0%に規定され、これらの1
種又は2種が添加される。
【0040】(2)ミクロ組織 本発明ではレール頭部を均一ベイナイト組織とする。ベ
イナイト組織は従来レールのパーライト組織と比較して
転位密度を増やして高強度化していることからC量をパ
ーライト鋼よりも低くすることが可能である。また、パ
ーライト組織では硬い炭化物(セメンタイト)が層状に
配向していることから摩耗し難いのに対し、ベイナイト
組織は炭化物がマトリクス中に微細な炭化物として分散
しているため、マトリクスの摩耗時に同時に除去される
ことからパーライト組織と比較して摩耗しやすいという
特徴を有している。
【0041】転動疲労損傷は、レール表面近傍において
疲労層が蓄積して発生する場合、もしくは白色層と母材
の境界から亀裂が生じてこれが進展して発生する場合が
考えられるが、いずれの場合においても蓄積した疲労層
もしくは生じた白色層を、列車が通過する時のレールと
車輪の接触により摩耗させて除去することにより損傷発
生を抑制することが可能である。従って、上述したよう
にレール頭部を所定の硬さを有する均一ベイナイト組織
にして摩耗しやすくすれば、転動疲労損傷性に優れたも
のとなるのである。このように白色層を摩耗により有効
に除去するためには、普通レール(JISによる、以下
同じ)と比較して摩耗量が多いことが必要であるが、著
しく摩耗量が多いとレール頭部の減肉が著しくなり、必
要な寿命が確保できない。本発明の成分組成の鋼で製造
され、以下に示す範囲の硬さを有するベイナイト組織で
あれば、摩耗量が普通レールより多く、減肉による寿命
の問題もない。なお、このようなベイナイト組織は、圧
延後、レール素材を空冷又は加速冷却することにより得
ることができる。
【0042】なお、レールの摩耗量については実際に敷
設した場合の摩耗量で評価することが最も望ましいが、
実敷設レールの接触条件をシミュレートした西原式摩耗
試験機を用いた比較試験により評価した値も有効であ
り、この比較試験の場合には普通レールの1.2〜3.
0倍の摩耗量であれば必要な寿命を確保しつつ、転動疲
労損傷性に優れたものとなる。
【0043】(3)硬さ 硬さについては、頭頂部・頭部コーナー部いずれの位置
においてもHvで240〜390の硬さ有することが必
要である。ベイナイト組織で、かつこの範囲の硬さを有
していれば、普通レールよりも摩耗量が多く、転動疲労
損傷性が良好である。この場合に、頭頂部はベイナイト
組織であれば摩耗量が多いため、その硬さを頭部コーナ
と同等としても問題はなく、むしろベイナイト組織で頭
頂部、頭部コーナー部を実質的に均一硬さとすること
は、複雑な熱処理が不要であるためコスト的に望まし
い。
【0044】また、頭部コーナー部はHvで240〜3
90あれば塑性フローは従来レールと同等であり、塑性
フローを起点とする損傷は発生しない。Hvで390を
超えると摩耗量が低下するため不都合が生じること、ベ
イナイト組織でHv390以上とするには合金添加量を
増加する必要があるため、コスト的に有効でないことか
ら390以下に規定する。
【0045】(4)電気抵抗(固有抵抗値) 本発明では室温における固有抵抗値ρ(20℃)が2
3.7μΩ・cm以下と規定する。列車の運行におい
て、信号の誤作動を防止することは極めて重要である。
このような信号の誤作動は、レールの電気抵抗が高くな
る程著しく、一部の鉄道会社では、信号の誤作動を引き
起こさないために、レールの室温における固有抵抗値ρ
(20℃)が23.7μΩ・cm以下となるように管理
し、信号の誤動作を防止している。すなわち、レールの
固有抵抗値がこの値を超えると信号の誤動作を引き起こ
しやすくなるのである。従って、室温における固有抵抗
値ρ(20℃)をこのように規定する。
【0046】
【実施例】以下、本発明の具体的な実施例について説明
する。 (実施例1)表5に示す組成、ミクロ組織、硬さを有す
る供試鋼について摩耗試験を行った。摩耗試験は、外径
30mm、幅8mmの試験片を供試鋼より採取し、鉄道
車輪材から同一寸法のタイヤ試験片を採取し、これらを
西原式摩耗試験機を用いて、在来線における接触状況と
して報告されている接触荷重135kg、すべり率−1
0%、潤滑剤無しの条件で接触させることで行った。そ
して、その際の摩耗減量と、比較として行った普通レー
ル材の摩耗減量との比をとり、その摩耗減量比によって
摩耗性を評価した。また、各供試鋼について固有抵抗値
を測定した。その結果を表5に併記する。なお、供試鋼
製造の際の加速冷却の有無も表5に併記した。
【0047】
【表5】
【0048】表5に示すように、本発明よりもC量が高
く、パーライト組織を示しているE−4,7,9につい
ては、E−4,9が硬さがHvで356,250と本発
明の範囲内を満たすが、摩耗減量比が0.95,1.0
0と1.2より低く、E−7は摩耗減量比が1.40と
良好であるが硬さがHvで200と本発明の下限値であ
る240未満である。
【0049】E−1,2,3,5,6,8はベイナイト
組織を呈しているが、E−2はCが0.14%と本発明
の範囲未満であることから、硬さがHvで229と低
く、摩耗減量比が3.58と多すぎる結果となってい
る。E−6はMnが3.05%と本発明の範囲を超えて
おり、硬さがHvで419と高く、摩耗減量比も1.1
9と摩耗性が不十分である。
【0050】ベーナイト組織を有するもので、全ての成
分が本発明の範囲内であるE−1,3,5,8は、硬さ
も本発明の範囲内であり、摩耗減量及び固有抵抗値も適
正な値となっていることが確認された。
【0051】(実施例2)表6の組成、ミクロ組織、硬
さを有する供試鋼について、実施例1と同様に摩耗試験
を行った。その際の摩耗減量比も表6に併記した。ま
た、実施例1と同様に固有抵抗値も測定した。供試鋼製
造の際の加速冷却の有無も表6に併記した。なお、供試
鋼は全てベイナイト組織を呈していた。
【0052】
【表6】
【0053】表6に示すように、Mnの含有量が本発明
の範囲よりも高いF−2は、硬さ及び摩耗減量比は良好
な値を示すが、固有抵抗値が本発明の範囲の範囲を超え
ている。F−3は、各成分が本発明の範囲内であるが、
硬さが高く摩耗減量比が低くなっている。また、固有抵
抗値も本発明の範囲から外れている。Mn,Moの含有
量が本発明の範囲を超えるF−4は、硬さが本発明に規
定する範囲よりも低い低いため摩耗減量比が高すぎ、ま
た固有抵抗値も本発明で規定する範囲を超えている。M
n含有量が極めて低いF−7は固有抵抗値は本発明の範
囲内であるが、硬さが低すぎ、摩耗減量比が高すぎる結
果となった。Siを低下することにより固有抵抗値を下
げたF−9は、他の合金元素が比較的多量に添加されて
いる事から硬さが高く、摩耗減量比が1.0と低い値と
なった。これに対し、F−1,5,6,8は合金元素の
添加量を、組織、硬さ、及び固有抵抗値の観点から調整
しており、硬さ及び固有抵抗値が本発明の範囲内であ
り、摩耗減量比も適正な範囲であることが確認された。
【0054】(実施例3)表7の組成、ミクロ組織、硬
さを有する供試鋼について、実施例1と同様に摩耗試験
を行った。その際の摩耗減量比も表7に併記した。ま
た、実施例1と同様に固有抵抗値も測定した。供試鋼製
造の際の加速冷却の有無も表7に併記した。供試鋼のミ
クロ組織は、Hvが390を超えているものについて
は、一部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織となっ
た。なお、表7のミクロ組織の欄において、M+Bはマ
ルテンサイトとベイナイトとの混合組織を示す。
【0055】
【表7】
【0056】表7に示すように、合金元素の添加量が本
発明の範囲を満たしているG−1,3,5,7,9,1
1,13は硬さがHvで271〜335と本発明の範囲
内であり、摩耗減量比が1.43〜2.84と適正な範
囲となっていた。しかし、合金元素のうちMoの添加量
が本発明の範囲を超えているG−2、Cu添加量が本発
明の範囲を超えているG−4、Ni添加量が本発明の範
囲を超えているG−6,Mn添加量が本発明の範囲を超
えているG−8は、いずれもHv390を超える硬さを
示し、摩耗減量比が1.2以下、固有抵抗値が23.7
μΩ・cm以上であることが確認された。
【0057】(実施例4)ここでは、表8の組成を有す
る鋼を実際にレール形状に圧延し、圧延後空冷もしくは
加速冷却を行っている。そして、これら供試鋼の表面硬
さを各圧延材の頭頂面でHv10kgで測定した。ま
た、頭頂面から30mm深さの位置で内部硬さをHv1
0kgで測定した。摩耗減量比は、圧延材頭部(但し、
マルテンサイトとベイナイトの混合組織となっている供
試材についてはベイナイト単層部)から実施例1に示し
た摩耗試験用サンプルを採取し、実施例1と同様の試験
法により評価した。これらの値を表9に示す。また、各
サンプルの固有抵抗値及び供試鋼製造の際の加速冷却の
有無についても表9に併記した。なお、表9に表層組織
を示すが、その欄におけるM+Bはマルテンサイト+ベ
イナイトを示す。
【0058】
【表8】
【0059】
【表9】
【0060】供試鋼H−1、2はC,Si,Mn,Cr
含有量をほぼ同じにしてMoの影響を比較したものであ
るが、Mo含有量が本発明の範囲内であるH−2は内部
硬さの低下が少ないのに対し、Mo含有量が0.002
%と低いH−1は内部硬さが著しく低下している。
【0061】H−3,4はMoの含有量の高い領域にお
いて比較したものであるが、H−4はMo含有量が本発
明の範囲を超える2.1%であるため表層にマルテンサ
イトが生成しており、多量のMo添加は有効でないこと
が確認された。
【0062】H−5とH−6、H−7とH−8、H−9
とH−10は、それぞれC,Si,Mn,Cr,Mo含
有量をほぼ同じとして、Ni,Cuの単独もしくは複合
添加の影響を比較している。Ni,Cuの含有量を本発
明の範囲を超えて添加したH−6,8,10はいずれも
表層にマルテンサイトの生成が認められ、固有抵抗値も
高くなっていることが確認された。
【0063】H−11とH−12、H−13とH−1
4、H−15とH−16、H−17とH−18、H−1
9とH−20、H−21とH−22、H−23とH−2
4は、それぞれC,Si,Mn,Cr,Mo含有量を同
程度として、Nb,V,Tiの単独もしくは複合添加の
影響を比較している。Nb,V,Tiを本発明の範囲を
超えて添加したH−12,14,16,18,20,2
2,24はいずれも内部硬さの低下の程度が本発明の範
囲の鋼であるH−11,13,15,17,19,2
1,23と同等であり、Nb,V,Tiの多量に添加し
てもその効果が飽和していることが確認された。
【0064】H−25,26はMnの影響を比較したも
のであるが、Mn含有量が本発明の範囲内のH−25は
表層硬さがHv379と請求範囲を満たしており、また
内部硬さの低下が少なく、摩耗減量比も1.37と適正
な値を示すのに対し、H−26はMnが高いために表層
にマルテンサイトが生成し、表層が著しく硬化するばか
りでなく、固有抵抗値も高いことが確認された。
【0065】H−27,28はCの影響について比較し
たもであるが、C量が本発明の範囲内であるH−27は
表層組織、表面硬度が本発明の範囲内であり、摩耗減量
比も適正な値であるのに対し、H−28はC量が高いこ
とから表層にマルテンサイトが生成し、表層硬さが著し
く高くなっている。
【0066】H−29,30はSiの影響について比較
したものであるが、Si量が0.51%と本発明の範囲
をわずかに超えるH−30は、表層組織、表層硬さ、内
部硬さ、摩耗減量比とも良好な値を示しているが、固有
抵抗値が高くなっている。
【0067】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
頭部を特定組成の均一ベイナイト組織とし、硬さを頭頂
部・頭部コーナー部のいずれの位置においてもHvで2
40〜390のとすることにより、摩耗量を普通レール
よりも増大させたので、耐転動疲労特性に優れ、かつ成
分組成を調節することにより低い電気抵抗を有するレー
ルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】摩耗減量比に及ぼすマトリクス組織、硬さの影
響を示す図。
【図2】白色層の硬さ、厚さに及ぼすC量の影響を示す
図。
【図3】レール頭頂面から内部までの硬さ分布に及ぼす
成分の影響を示す図。
【図4】鋼の固有抵抗値の計算値と実測値との関係を示
す図。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で、C:0.15〜0.55%、
    Si:0.05〜0.5%、Mn:0.10〜0.5
    %、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:
    0.10〜2.00%、Mo:0.005〜2.00%
    を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、頭部が
    均一ベイナイト組織であり、硬さが頭頂及び頭部コーナ
    ー部のいずれの位置においてもHvで240〜390の
    間であり、室温における固有抵抗値ρ(20℃)が2
    3.7μΩ・cm以下であることを特徴とする耐転動疲
    労損傷性に優れた低電気抵抗レール。
  2. 【請求項2】 重量%で、Nb:0.005〜0.01
    %、Ti:0.001〜0.01%、V:0.005〜
    0.05%の1種又は2種以上をさらに含有することを
    特徴とする請求項1に記載の耐転動疲労損傷性に優れた
    低電気抵抗レール。
  3. 【請求項3】 重量%で、Cu:0.05〜2.0%、
    Ni:0.05〜2.0%の1種又は2種をさらに含有
    することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐転動疲
    労損傷性に優れた低電気抵抗レール。
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