JP4767431B2 - 耐摩耗性と靭性に優れたパーライト系レール - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、重荷重鉄道のレールに要求される耐摩耗性と靭性を向上させたレールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
海外の重荷重鉄道では、鉄道輸送の高効率化の手段として列車速度の向上や列車積載質量の増加が図られている。このような鉄道輸送の効率化はレール使用環境の過酷化を意味し、レール材質の一層の改善が要求されるに至っている。具体的には、曲線区間に敷設されたレールではG.C.(ゲージ・コーナー)部や頭側部の摩耗が急激に増加し、レールの使用寿命の点で問題視されるようになった。
【0003】
しかしながら、最近の高強度化熱処理技術の進歩により、共析炭素鋼を用いた微細パーライト組織を呈した下記に示すような高強度(高硬度)レールが発明され、重荷重鉄道の曲線区間のレール寿命を飛躍的に改善してきた。
▲1▼ 頭部がソルバイト組織、または微細なパーライト組織の超大荷重用の熱処理レール(特公昭54−25490号公報)。
▲2▼ 圧延終了後あるいは再加熱したレール頭部を、オーステナイト域温度から850〜500℃間を1〜4℃/secで加速冷却する、130kgf/mm2 以上の高強度レールの製造法(特公昭63−23244号公報)。
【0004】
これらのレールの特徴は、共析炭素含有鋼(炭素量:0.7〜0.8%)による微細パーライト組織を呈する高強度レールであり、その目的はパーライト組織中のラメラ間隔を微細化し、レール頭部の硬さを向上させることにより耐摩耗性を向上させるところにあった。
【0005】
しかし近年海外の重荷重鉄道では、より一層の鉄道輸送の高効率化のために貨物の高積載化を強力に進めており、特に急曲線のレールでは、上記開発のレールを用いてもG.C.部や頭側部の耐摩耗性が十分確保できず、摩耗によるレール寿命の低下が問題となってきた。このような背景から、現状の共析炭素鋼の高強度レール以上の耐摩耗性を有するレールの開発が求められるようになってきた。
【0006】
これらの問題を解決するため、本発明者らは下記に示すようなレールを開発した。
▲3▼ 過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト密度を増加させた耐摩耗性に優れたレール(特開平8−144016号公報)。
▲4▼ 過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト密度を増加させ、同時に硬さを制御した耐摩耗性に優れたレール(特開平8−246100号公報)。
【0007】
これらのレールの特徴は、鋼の炭素量を増加し、パーライトラメラ中の耐摩耗性に優れたセメタイト相の密度を増加させ、さらに硬さを制御することによりパーライト組織の耐摩耗性を向上させるものであった。
【0008】
また鋼の炭素量、すなわちセメタイト相の密度を増加させると、レールの靭性が低下する。そこで本発明者らは、この靭性の低下を防止する目的で、下記に示すようなレールを開発した。
▲5▼ 熱間圧延時の温度、圧下率、圧延パス間時間の制御により、パーライト組織中のブロックサイズを微細化した耐摩耗性に優れたレール(特開平6−2
44440号公報)。
このレールの特徴は、熱間圧延時のオーステナイト粒径を微細化することにより、結果的にパーライト鋼のブロックサイズを細粒化し、靭性を向上させるものであった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記▲5▼に開示された発明レール鋼は、熱間圧延時のオーステナイト粒径を制御することにより、パーライトブロックサイズを細粒化し、ある一定範囲での靭性の向上が図れる。しかし、熱間圧延終了後からパーライト変態までの時間が長くなる場合や、熱間圧延終了後のレール温度が比較的高温度域で保持される場合は、熱間圧延時のオーステナイト粒径が粒成長により粗大化し、結果的にパーライトブロックサイズの細粒化が図れず、レールに安定的な靭性の向上を付与することが困難であった。
【0010】
その結果、脆性破壊に代表されるようなレールの不安定破壊の発生が増加し、レールの使用寿命の低下が問題視されるようになってきた。
そこで、上記のような鋼レールにおいて、安定した靭性の向上を付与した耐摩耗レールを開発することが新たな課題となっていた。
すなわち本発明は、重荷重鉄道のレールに要求される耐摩耗性と靭性を同時に向上させ、より高寿命なレールを低コストで提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するものであって、その要旨とするところは次の通りである。
質量%で、C:0.60〜1.20%、Si:0.10〜1.20%、Mn:0.20〜1.50%、Cr:0.05〜1.00%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、AlNの含有量が0.010〜0.040mass%の範囲であり、前記鋼レールの頭部コーナー部および頭頂部表面を起点として、少なくとも深さ20mmの範囲における金属組織がパーライト組織であり、かつ、前記範囲における硬さがHv320以上であることを特徴とするパーライト系レール。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明者らは、レールの靭性向上を不安定にしているオーステナイト粒の粒成長を防止する方法を検討した。その結果、オーステナイト粒の粒成長は、基本的にはレール鋼の温度とよい相関があり、圧延後のレール鋼を冷却すること、すなわちレール鋼の温度を低下させることにより、粒成長が著しく抑制されることを実験により確認した。
【0013】
しかしこの方法では、実験室的にはオーステナイト粒の粒成長を防止することは可能であるが、レールの実製造では複雑な形状をしたレール断面の各部分の冷却を十分に制御することは非常に困難である。その結果、レール断面の各部分のオーステナイト粒が不均一となり、靭性が不安定となることや、また冷却が過剰となった場合は、温度の低下により部分的にパーライト変態が始まり、結果的にレール鋼の硬さが不均一となる問題が発生した。
【0014】
そこで本発明者らは、レール鋼の成分系を調整することにより、オーステナイト粒の粒成長を抑える方法に着目した。粒成長を抑える方法として、種々の析出物によるピンニング効果を検討した結果、高温度域ではレールに固溶し、レール最終圧延温度域(1000〜850℃)やその後の冷却課程で微細に析出し、レール鋼の製造過程において最も粒成長を抑制する効果が高い元素として、AlNの析出物が最も有効であることを見出した。
【0015】
さらに本発明者らは、オーステナイト粒の粒成長を適度に抑制し、同時にレールの諸特性に悪影響を及ぼさないAlNの析出量(含有量)を検討した。その結果、AlNの含有量が一定の範囲内であれば、耐摩耗性などのレールの基本特性に悪影響せず、オーステナイト粒の粒成長を十分に抑制できることを見出した。
【0016】
次に本発明者らは、AlNの含有量を一定の範囲内に収めたレール鋼を製造し、その靭性を調査した結果、AlNの含有量を一定の範囲内に収めたレール鋼は、AlNの含有量が一定の範囲を外れたレール鋼と比べて、オーステナイト粒の粒成長が抑制され、パーライトブロックの微細化効果により靭性が向上することを確認した。
【0017】
以上の結果から本発明者らは、レール鋼中のAlNの含有量をある一定の範囲内に収めることにより、耐摩耗性などのレールの諸特性に悪影響を及ぼさず、より一層レールの靭性が向上し、結果的に脆性破壊等の不安定破壊の減少により、レールの使用寿命が向上することを知見した。
【0018】
次に、本発明の限定理由について詳細に説明する。
(1)鋼レールにおけるAlNの含有量の規定:
本発明の鋼レールにおいて、AlNの含有量を0.010〜0.040mass%に限定した理由を説明する。
AlNの含有量が0.010mass%未満では、レール最終圧延温度域やその後の冷却課程においてAlNの析出量が少なく、AlN析出物によるピンニング効果が低下し、オーステナイト粒の粒成長を抑えることが困難となり、結果としてパーライトブロックサイズの微細化が図れず、レールの靭性が向上しないからである。また、AlNの含有量が0.040mass%を超えると、AlNの析出量が過剰となり、オーステナイト粒が著しく微細化し、その結果焼入れ性の低下によりパーライト組織の硬さが低下し、レール耐摩耗性を維持することが困難になることや、過剰なAlNの析出によりパーライト組織自体が脆化するためである。
【0019】
なお、オーステナイト粒の粒成長を抑え、パーライトブロックサイズを微細化し、パーライト組織のレール鋼において靭性を効果的に向上させるには、AlNの添加量は0.015〜0.025mass%の範囲にすることが最も望ましい。
また、上記のAlN量を満足させるには、鋼中のAl量を0.040mass%以下、好ましくは0.030mass%以下とし、N量を0.015mass%以下、好ましくは0.010mass%以下とする。
【0020】
(2)AlNを含有したパーライト組織の呈する範囲およびその硬さ:
まず、上記パーライト組織を呈する範囲を、頭部コーナー部および頭頂部の該頭部表面を起点として深さ20mmの範囲に限定した理由について説明する。
上記パーライト組織を呈する深さが20mm未満では、レール頭部の耐摩耗性や靭性を必要とされている領域としては小さく、十分な耐摩耗性や靭性の改善効果が得られないためである。また上記パーライト組織を呈する範囲が、頭部コーナー部および頭頂部の該頭部表面を起点として、深さ30mm以上であれば耐摩耗性や靭性の改善効果がさらに増し、より望ましい。
【0021】
次に、頭部コーナー部および頭頂部の該頭部表面を起点として、深さ20mmの範囲のパーライト組織の硬さをHv320以上に限定した理由について説明する。
本成分系において硬さがHv320未満では、レールの使用環境が過酷になるとレール頭部の摩耗が著しく進行し、さらに、場合によっては塑性変形起因の表面損傷が発生し、重荷重鉄道で要求されている耐摩耗性や耐表面損傷性を十分に確保することが困難となり、レールの使用寿命が著しく低下するため、パーライト組織の硬さをHv320以上に限定した。
【0022】
ここで、図1に本発明のAlNを含有したパーライト系レールの頭部断面表面位置での呼称、および耐摩耗性と靭性が必要とされる領域を示す。レール頭部において1は頭頂部、2は頭部コーナー部であり、頭部コーナー部2の一方は車輪と主に接触するゲージコーナー(G.C.)部である。上記パーライト組織は少なくとも図中の斜線内に配置されていれば、レールの耐摩耗性や靭性の改善が可能となる。
【0023】
さらに、図1中の斜線内のパーライト組織の硬さがHv320以上であれば、特に重荷重鉄道で要求されている耐摩耗性や耐表面損傷性を十分に確保することが可能となる。
したがって、AlNを含有したパーライト組織は、車輪とレールが主に接するレール頭部表面近傍に配置することが望ましく、それ以外の部分はパーライト組織以外の金属組織であってもよい。
【0024】
本発明レールの金属組織は、上記限定のようなパーライト組織であることが望ましい。しかし、レールの成分系やレールの熱処理製造方法によっては、パーライト組織中に初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、ベイナイト組織やマルテンサイト組織が混入することがある。しかし、これらの組織がある一定量混入しても、レールの耐摩耗性や靭性等には大きな悪影響を及ぼさないため、耐摩耗性と靭性に優れたパーライト系レールの組織としては、若干の初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、ベイナイト組織、マルテンサイト組織の混在も含んでいる。
【0025】
なお本発明においては、鋼レールの成分組成については特に限定するものではないが、安定してパーライト組織が得られる成分系、すなわちC:0.60〜1.20mass%、Si:0.10〜1.20mass%、Mn:0.20〜1.50mass%、もしくは高強度化のため、さらにCr:0.05〜1.00mass%を加えた成分を基本として、これにAlおよびNを添加することによりAlN含有量を調整する。
【0026】
上記成分にはさらに必要に応じて、Mo,V,Nb,B,Co,Cu,Ni,Ti,Mg,Caの各元素の1種または2種以上を添加し、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分系とすることが望ましい。
【0027】
上記のようなAlNの添加量で構成される鋼レールは、転炉、電気炉などの通常使用される溶解炉で溶製を行い、この溶鋼を造塊・分塊法、あるいは連続鋳造法によってレール圧延素材を製造する。次に、この圧延素材を熱間で圧延することによりレールを製造する。さらに、この熱間圧延した高温度の熱を保有するレールに、エアーやミストなどによる加速冷却や恒温保定を施すことにより、レール頭部にパーライト組織を安定的に生成させることが可能となる。
【0028】
なお、上記熱間圧延およびその後の冷却課程ではAlNが析出し、オーステナイト粒の粒成長を抑制する。ここで、オーステナイト粒の粒成長抑制効果をより一層高めるには、熱間圧延直後に適度な冷却を行い、鋼レール頭部の温度を低下させ、オーステナイト粒自体の粒成長力を低減し、AlNによるピンニング効果を高めることが望ましい。
【0029】
AlNの含有量の測定は、まず化学分析や発光(カントバック)分析により鋼レール中の全てのAl量や全てのN量の分析する。次に、同鋼レールを酸等により溶解させ、不溶性の粗大なAl2 O3 の生成量から、酸化物として生成しなかったAl量(全てのAl量−酸化物として生成したAl量)を算定する。さらに、酸化物として生成しなかった全ての鋼中Alが全てのNと結び付くものとして、AlNの生成量を求める。
【0030】
なお、TiやVを添加するとTiNやVNが生成し、Nの減少によりAlNの生成量が減少する。Tiの場合はAlよりもNとの結びつきが強いため、Tiと結合した残りの鋼中NがAlNとして生成すると仮定し、Vの場合はAlよりもNとの結びつきが低いため、鋼中のNが全てAlNとして生成すると仮定し、AlNの生成量を算定する。
【0031】
【実施例】
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に供試レール鋼の基本化学成分を示す。また表2は、本発明レール鋼と比較レール鋼に添加されたAlNの含有量、レール頭部の硬さと金属組織(レール頭表面下5mm位置)、さらにレール頭部から採取した衝撃試験における衝撃値の値を示す。ここで衝撃試験の試験片は、図2に示すようにレール頭表面下5mm位置から採取した。
また図3に、本発明レール鋼と比較レール鋼の炭素量と衝撃試験における衝撃値の関係を示す。
【0032】
ここで、衝撃試験における衝撃値の値は、実験の結果、脆性破壊に代表されるようなレールの不安定破壊の発生と密接な相関があることが確認されている。そこで、衝撃試験における衝撃値が増加することは、レールが高靭性であると同時に、レールの不安定破壊の発生頻度が低下することを意味する。
【0033】
なお、レールの構成は以下のとおりである。
・本発明レール鋼(6本) 符号A〜F
AlNの含有量が0.010〜0.040mass%であり、鋼レールの頭部コーナー部および頭頂部表面を起点として、少なくとも深さ20mmの範囲が硬さHv320以上のパーライト組織であることを特徴とする耐摩耗性と靭性に優れたパーライト系レール。
・比較レール鋼(6本) 符号G〜L
AlNの含有量が本発明の範囲外のレール。
【0034】
衝撃試験の条件は次のとおりとした。
試験片 :JIS3号2mmUノッチシャルピー衝撃試験片
試験温度 :常温(+20℃)
【0035】
図3に示すように、本発明レール鋼は比較レール鋼と比べて、AlNの含有量をある一定範囲内に制御することにより、同一炭素量で比較すると衝撃値が増加し、靭性を向上させることができた。
また本発明レール鋼は、AlNの含有量をある一定範囲内に制御することにより、表2の比較鋼レール(符号:J)に示すような硬度低下も見られず、レール鋼として必要な耐摩耗性と靭性を同時に付与することができた。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【発明の効果】
以上に示したように、少なくとも頭部表面がパーライト組織を呈する鋼レールにおいて、レール鋼中のAlNの含有量をある一定範囲内に制御することにより、耐摩耗性を確保すると同時に靭性を向上させ、レールの高寿命化を達成することができるので、産業上の効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】レール頭部断面表面位置の呼称およびAlNを含有したパーライト組織が必要な領域を示す図。
【図2】衝撃試験片の採取位置を示す図。
【図3】本発明レール鋼と比較レール鋼の炭素量と衝撃値の関係を示す図。
【符号の説明】
1:頭頂部
2:頭部コーナー部
Claims (1)
- 質量%で、
C :0.60〜1.20%、
Si:0.10〜1.20%、
Mn:0.20〜1.50%、
Cr:0.05〜1.00%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、AlNの含有量が0.010〜0.040mass%の範囲であり、前記鋼レールの頭部コーナー部および頭頂部表面を起点として、少なくとも深さ20mmの範囲における金属組織がパーライト組織であり、かつ、前記範囲における硬さがHv320以上であることを特徴とするパーライト系レール。
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