JPH07299579A - ガスシールドアーク溶接用ワイヤ - Google Patents

ガスシールドアーク溶接用ワイヤ

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JPH07299579A
JPH07299579A JP9450494A JP9450494A JPH07299579A JP H07299579 A JPH07299579 A JP H07299579A JP 9450494 A JP9450494 A JP 9450494A JP 9450494 A JP9450494 A JP 9450494A JP H07299579 A JPH07299579 A JP H07299579A
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JP
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wire
surface area
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oxygen
plating
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JP9450494A
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Seiichi Yokoshima
聖一 横島
Masato Konishi
正人 小西
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Kobe Steel Ltd
Original Assignee
Kobe Steel Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 ワイヤ送給性が優れ、通電点の変動を回避で
きて、ロボット溶接機等において使用する際にも良好な
アーク安定性を得ることができるガスシールドアーク溶
接用ワイヤを提供する。 【構成】 めっき皮膜の表面の測定対象領域における見
かけ上の表面積をSm、実表面積をSaとした場合に、
ワイヤ比表面積{(Sa/Sm)−1}を0.05以下
とし、めっき下地表面の測定対象領域における見かけ上
の表面積をSn、実表面積をSbとした場合に、下地比
表面積{(Sb/Sn)−1}を0.01乃至0.05
とし、更に、ワイヤ全酸素量を30乃至200ppm、
ワイヤ表面酸素量(ワイヤ全酸素量−ワイヤ中心酸素
量)を20乃至180ppmとする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、表面にめっき皮膜を有
するガスシールドアーク溶接用ワイヤに関し、特に軟鋼
及び高張力鋼等の金属材のアーク溶接に好適のガスシー
ルドアーク溶接用ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】アーク溶接において、アークが不安定に
なる原因としては、通電点が変動すること及びワイヤの
送給が不安定であること等がある。従来、アーク安定性
を向上させた銅めっきソリッドワイヤとして、粒界酸化
ワイヤが提案されている(特開昭56−144892
号)。この粒界酸化ワイヤは、ワイヤの下地表面を粒界
酸化して酸素富化層を形成した後、この下地表面に銅め
っきを施し、更に伸線加工することによってワイヤ表面
に横溝を形成し、この横溝内に液体潤滑剤を保持するこ
とによってワイヤ送給性を向上させたものである。ま
た、めっき前処理の前に少なくとも1パス以上の湿式伸
線加工を施して微量な残留物を取り除くことによりめっ
き密着性を向上させ、これにより通電点の変動を抑制し
アーク安定性を向上させたワイヤも提案されている(特
公平5−1120号)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、近年、
ロボット溶接機の普及に伴い、溶接ワイヤは更に過酷な
条件で使用されるようになった。このため、上述の従来
の溶接用ワイヤでは、連続溶接の際に、通電チップと溶
接ワイヤとの間で間欠的にCuめっき皮膜の融着又は剥
離が発生し、安定したアークを得ることができないとい
う問題点がある。
【0004】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたも
のであって、ワイヤ送給性が優れていると共に通電点の
変動を回避でき、ロボット溶接機等において使用する際
にも良好なアーク安定性を得ることができるガスシール
ドアーク溶接用ワイヤを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明に係るガスシール
ドアーク溶接用ワイヤは、表面にめっき皮膜を有するガ
スシールドアーク溶接用ワイヤにおいて、下記数式1で
定義されるワイヤ比表面積が0.05以下であると共
に、下記数式2で定義される下地比表面積が0.01乃
至0.05であり、更に、ワイヤ全酸素量が30乃至2
00ppm、下記数式3で定義される表面酸素量が20
乃至180ppmであることを特徴とする。
【0006】
【数1】ワイヤ比表面積=(Sa/Sm)−1 但し、Sa;測定対象領域におけるめっき皮膜表面の実
表面積(mm2) Sm;測定対象領域におけるめっき皮膜表面のみかけ上
の面積(mm2
【0007】
【数2】下地比表面積=(Sb/Sn)−1 但し、Sb;測定対象領域におけるめっき下地表面の実
表面積(mm2) Sn;測定対象領域におけるめっき下地表面の見かけ上
の面積(mm2
【0008】
【数3】ワイヤ表面酸素量(ppm)=ワイヤ全酸素量
(ppm)−ワイヤ中心酸素量(ppm) 但し、本願においてワイヤ中心酸素量とは、ワイヤ表面
を50μm以上の厚さ研削除去した後のワイヤ中心部の
酸素量をいう。
【0009】
【作用】本発明においては、めっき皮膜の表面の比表面
積(ワイヤ比表面積)及びめっき下地の表面の比表面積
(下地比表面積)を特定の範囲にすると共に、ワイヤ全
酸素量及びワイヤ表面酸素量を特定の範囲とすることに
より、良好なアーク安定性を確保する。
【0010】但し、ワイヤ比表面積及び下地比表面積は
前記数式1,2により定義されるが、この数式1,2に
おける実表面積Sa,Sbは、夫々めっき皮膜表面及び
下地表面の微細な凹凸を3次元的に定量化したものであ
る。
【0011】以下に、比表面積の測定方法について説明
する。図1にワイヤ表面の微小部分を3次元直交座標系
で示すように、ワイヤの実表面2は凹凸を有しており、
その実表面2の面積Saは、この実表面2をX−Y面に
投影した見かけ上の表面3の面積Smよりも大きい。そ
こで、図2に示すように、ワイヤ1の表面に、その長手
方向(以下、横方向)の長さが600μm、周方向(以
下、縦方向)の長さが500μmの測定領域(測定視
野)をとり、これを図3に示すように平面に展開し、横
方向の長さを256分割し、縦方向の長さを200分割
して256×200個の有限の区間に分割する。そし
て、各メッシュの交点における実表面の位置(即ち、実
表面の高さ)を測定する。この実表面の高さは、図1の
3次元直交座標系で、X−Y面が測定視野になり、実表
面の高さH11、H12等はZ軸の値として求められる。こ
の高さH11、H12等の位置を隣接する3点毎に結ぶと、
図4のようになる。そこで、実表面を図4の各高さ位置
H11、H12、H21等を結ぶことにより得られる多数の三
角形の連結により近似することとし、図5に示すよう
に、これらの各三角形の面積S11、S12等を算出してこ
れを全て加算することにより、実表面積Saとする。
【0012】この測定視野におけるメッシュ交点におけ
る実表面の高さH11、H12等は、電子線三次元粗さ解析
装置により測定することができる。この三次元粗さ解析
装置はSEM(走査型電子顕微鏡)の一種であり、試料
面に対し略垂直方向に電子を照射し、二次電子を電子線
照射点から4等配の方向について4本の検出器で検出
し、その検出結果をマイクロコンピュータで演算処理す
ることにより三次元(X,Y,Z)の位置情報を得るも
のである。
【0013】また、見かけ上の表面積Smは測定領域
(測定視野)の面積、即ち、Sm=500(μm)×6
00(μm)=300000(μm2)となる。
【0014】このようにして見かけ上の表面積Smと、
実表面の凹凸を考慮した実表面積Saを求めた後、前記
1式に従ってワイヤ比表面積を求める。
【0015】なお、実際に実表面積を求める場合には、
実表面積の測定領域においてめっき皮膜の表面に疵がな
いこと及びワイヤ表面の付着不純物等を十分に除去する
ことが必要である。また、この比表面積は、めっき皮膜
表面の複数箇所(例えば、3本の供試材について各3箇
所の合計9箇所)において求め、その平均値とする。
【0016】なお、図3に示すメッシュの分割数をより
細かくすることにより、実表面積の測定値をより一層真
値に近づけることができるが、前述の如く、500μm
×600μmの領域を200×256に分割することに
より、得られた比表面積はアーク安定性との間に優れた
相関関係を示し、ワイヤの評価が可能であった。一方、
メッシュをそれ以上細かくすると、コンピュータにおけ
る解析に時間がかかるなどの不都合が生じる他、ワイヤ
評価精度の向上は少なかった。このため、本発明におい
ては、測定領域(測定視野)を500μm×600μm
とし、これを200×256分割して求めた比表面積を
特許請求の範囲に規定した。
【0017】更に、下地比表面積も、めっき下地の見か
け上の表面積Sn及び実表面積Sbについて測定及び演
算する以外は、上述のワイヤ比表面積と同様にして求め
ることができる。
【0018】従来ワイヤの表面粗さは、SEM又はJI
SBO601、JISBO651で規定されている触針
法で測定されている。しかし、触針法では針先の曲率よ
りも小さな凹凸の検出が困難であり、また、触針法によ
り求めたワイヤ表面の状況は、SEMによる観察から得
られるワイヤ表面の状況と必ずしも一致していない。こ
のため、従来、このワイヤ表面の状況とアーク安定性と
の間には、相関関係が認められなかった。
【0019】しかし、本願発明のように、微細な凹凸を
3次元的に定量化する方法を用いて測定したところ、従
来相関がみられなかった表面粗さとアーク安定性は、一
定の関係があることが認められた。これは、ワイヤの表
面粗さを一定値以下に抑制することにより、ワイヤと溶
接チップとの接触面積が増大し、単位面積当たりの電流
密度が下がり、通電がスムーズに行われているためであ
ると考えられる。
【0020】なお、測定領域は、前述の如く、ワイヤ本
体表面を平面に展開した状態で、500μm×600μ
m(300000μm2)である。
【0021】以下に、本発明における数値限定理由につ
いて説明する。
【0022】ワイヤ比表面積:0.05以下 めっき皮膜の表面の任意の領域の見かけ上の表面積をS
m、実表面積をSaとした場合に、ワイヤ比表面積
{(Sa/Sm)−1}が0.05以下であることが必
要である。前記ワイヤ比表面積が0.05を超えると、
アーク安定性が低下する。このため、ワイヤ比表面積は
0.05以下とすることが必要である。
【0023】下地比表面積:0.01乃至0.05 めっき下地表面の任意の領域の見かけ上の表面積をS
n、実表面積をSbとした場合に、下地表面積{(Sb
/Sn)−1}が0.01乃至0.05であることが必
要である。下地比表面積が0.01未満の場合は、溶接
用ワイヤとして十分なめっき密着性を得ることができ
ず、下地比表面積が0.05を超えると、めっき後のワ
イヤ表面に比較的大きな凹凸が形成され、溶接時にワイ
ヤとコンジットライナーとの間で凸部のめっき皮膜が剥
離しやすくなる。このため、下地比表面積は0.01乃
至0.05とする。
【0024】ワイヤ表面酸素量:20乃至180ppm 溶接ワイヤに酸素を多く存在させることにより、溶融金
属の粘性が低下する。また、ワイヤ表面の酸素量をワイ
ヤ中心部における酸素量より多くすると、溶滴の表面と
内部とで粘性に差が生じるため溶滴の切れが向上し、溶
滴の振れを抑制することができて、その結果、アークが
安定する。この場合に、ワイヤ表面酸素量=ワイヤ全酸
素量−ワイヤ中心酸素量である。
【0025】ワイヤ表面酸素量が180ppmを超える
と、めっきの密着性が劣化し、通電不良及びめっき皮膜
の脱落が発生すると共に、溶接金属中の酸素量が過剰に
なって靱性等の特性が劣化する。一方、ワイヤ表面酸素
量が20ppm未満の場合は、上述した効果を得ること
ができない。従って、ワイヤ表面酸素量は20乃至18
0ppmとする。
【0026】ワイヤ全酸素量:30乃至200ppm ワイヤ中には、原線の製造工程において、10〜20p
pm程度の酸素が必然的に含有される。ワイヤ表面酸素
量=ワイヤ全酸素量−ワイヤ中心酸素量であるので、ワ
イヤ全酸素量はワイヤ表面酸素量とワイヤ中心酸素量と
の和になる。本発明においては、前述のように、ワイヤ
表面酸素量を20ppm以上とする。従って、ワイヤ全
酸素量は30ppm以上であることが必要である。ま
た、ワイヤ全酸素量が200ppmを超える場合は、溶
接金属の靱性が低下すると共に、めっき密着性が低下
し、通電不良が発生する。このため、ワイヤ全酸素量は
30ppm乃至200ppmとする。
【0027】本発明においては、アーク溶接用ワイヤの
組成は特に限定されるものではない。しかし、特に高張
力鋼等の金属材の溶接に使用するワイヤとしては、C;
0.02乃至0.15重量%(Cuめっき皮膜を含むワ
イヤ全体に対する重量%:以下、同じ)、Si;0.5
乃至1.0重量%、Mn;1.0乃至2.0重量%を含
有すると共に、めっき皮膜を構成するCu量が0.1乃
至0.5重量%であり、P含有量及びS含有量をいずれ
も0.03重量%以下に規制し、残部がFe及び不可避
的不純物からなることが好ましい。また、これらの元素
に加えて、Tiを0.01乃至0.5重量%含有してい
てもよい。以下に、各元素の添加理由及び組成限定理由
について説明する。
【0028】C:0.02乃至0.15重量% Cは、溶接金属の強度向上に必要不可欠な元素である。
C含有量が0.02重量%未満の場合は、高張力鋼溶接
金属としては強度が不足する。また、C含有量が0.1
5重量%を超えると、割れ感受性が著しく高くなる。こ
のため、C含有量は0.02乃至0.15とする。
【0029】Si:0.5乃至1.0重量% Siは、脱酸元素として不可欠の元素であり、溶接金属
の降伏強度を高めるという効果がある。Si含有量が
0.5重量%未満の場合は、脱酸効果が十分でない。ま
た、Si含有量が1.0重量%を超えると、溶接金属の
靱性が低下する。このため、Si含有量は0.5乃至
1.0重量%とする。
【0030】Mn:1.0乃至2.0重量% Mnは、Siと同様に脱酸効果を有する元素である。M
n含有量が1.0重量%未満では、溶接金属の引張強さ
が十分でない。また、Mn含有量が2.0重量%を超え
ると、生産工程における伸線性が著しく低下する。この
ため、Mn含有量は1.0乃至2.0重量%とする。
【0031】P,S:いずれも0.03重量%以下 Pは、割れ発生防止の点から0.03重量%以下に抑制
することが必要である。また、Sは、高温割れ発生の原
因となるため、0.03重量%以下に規制することが必
要である。
【0032】Cu:0.1乃至0.5重量% Cuはめっき皮膜を構成する元素である。Cu量が0.
1重量%未満の場合は、めっき下地(鉄地)を完全に被
覆することが困難であり、鉄地が露出する虞れがある。
ワイヤ表面に鉄地が露出すると、ワイヤの接触抵抗が不
均一になり、アーク不安定の原因になる。一方、Cu量
が0.5重量%を超えると、めっき皮膜の内部応力が増
大するので、溶接時に、送給ローラ部及びコンジットラ
イナー内部においてめっき皮膜が剥離し、鉄地が露出し
て、アークが不安定になる。このため、Cu量は0.1
乃至0.5重量%とする。
【0033】Ti:0.01乃至0.5重量% Tiは脱酸効果を有する元素であり、必要に応じて添加
すればよい。Tiは、酸化物の生成により溶接金属のミ
クロ組織を微細化し、靱性を改善する効果がある。Ti
含有量が0.01重量%未満の場合は脱酸効果が不足す
る。また、Ti含有量が0.5重量%を超えると、ワイ
ヤの製造が困難になる。このため、Tiを添加する場合
は、その含有量を0.01乃至0.5重量%とする。
【0034】なお、不可避的不純物として、例えば、
W,Al,Ni,Cr,Mo,Nb,V,Sn,Zr,
Bi,Mg及びCa等がある。W,Al,Ni及びCr
の場合はいずれも0.15重量%以下、Moの場合は
0.5重量%以下、Nb,V,Sn,Zr,Bi及びM
gの場合はいずれも0.02重量%以下、Caの場合は
50ppm以下の含有量であれば、溶接用ワイヤとして
の特性に影響を与えない。
【0035】
【実施例】以下、本発明に係るガスシールドアーク溶接
用ワイヤについて、更に詳細に説明する。本願発明者等
は、アーク安定性が優れたガスシールドアーク溶接用ワ
イヤを提供すべく種々実験研究を行った。即ち、表面に
めっき皮膜を有するソリッドワイヤについて、伸線方法
(潤滑剤、伸線速度及びワイヤ温度等)、めっき前処理
における酸洗条件、めっきCu量及びめっきサイズ等を
種々異なるようにして溶接用ワイヤを製造し、各ワイヤ
のアーク安定性を調べた。その結果、各ワイヤにアーク
安定性の差が認められた。
【0036】その原因としては、ワイヤの送給が不安定
であること及びチップ−ワイヤ間における通電点が変動
することが考えられたので、先ず、送給性とアーク安定
性との関係について調べた。具体的には、溶接電流を流
さずにワイヤ送給性を調べたが、ワイヤ送給性と前述の
アーク安定性の試験結果との明確な相関関係は認められ
なかった。
【0037】そこで、本願発明者等は、アーク安定性は
チップ−ワイヤ間の通電点の変動に関係すると考えた。
通電点の変動はチップ−ワイヤ間の接触抵抗に関係し、
接触抵抗はワイヤの性状(ワイヤ表面粗さ、めっき下地
表面粗さ、ワイヤ表面の付着物及び下地表面の付着物)
に密接に関係すると考えられる。このため、ワイヤ表面
及びめっき下地表面の粗さをSEM(走査電子顕微鏡)
及び触針法(JISB0601,JIS B0651)
で測定し、アーク安定性との関係を調べた。具体的に
は、触針法によるワイヤ表面及びめっき下地表面の長手
方向の表面粗さの測定結果及び円周方向を真円度計によ
り測定した結果とアーク安定性との関係を調べたが、こ
れらの二次元的測定方法の結果とアーク安定性との間に
は明確な相関関係は認められなかった。
【0038】しかし、本願発明者等は、SEM及び触針
法によるワイヤ表面とめっき下地表面の測定を通し、本
発明の基礎となる2つの知見を得た。第1は触針法によ
るワイヤ表面及び下地表面の粗さとSEM観察から得ら
れるワイヤ表面及びめっき下地表面の状態は必ずしも一
致しないことであり、第2は触針法によるワイヤ表面及
びめっき下地表面粗さの結果は同一であっても、ワイヤ
通電性及びアーク安定性に差があることである。これら
の理由について検討をした結果、触針法による表面粗さ
測定では、針先の曲率よりも小さな曲率の凹部は測定不
能であり、微細な凸部は触針により破壊されてしまうた
め、SEM観察による表面状態と触針法によって得られ
た結果と良好な一致を得ることができないとの結論に至
った。
【0039】そこで、更に微細なワイヤ表面及びめっき
下地表面の粗さを電子線三次元粗さ解析装置により測定
した。この測定結果から、めっき下地表面の粗さが異な
るワイヤでは、ワイヤ表面の粗さが同程度であるにも拘
わらず、アーク安定性との密接な関係を得ることができ
た。
【0040】このようにして、従来の触針法では測定で
きないめっき下地の微細な凹凸及び三次元的凹凸度(ワ
イヤ比表面積)がアーク安定性に大きく影響しているこ
とが判明した。その理由は必ずしも明確ではないもの
の、ワイヤ表面の比表面積が同程度であっても、めっき
下地表面の比表面積が大きい(即ち、めっき下地表面の
凹凸が大きい)と、ワイヤ送給時にコンジットライナー
内でワイヤがライナーと接触し、めっき下地の凸部にお
いてめっき皮膜の剥離が起こりやすくなり、チップとワ
イヤとの間の通電点が不安定になり、その結果、溶接電
流が不安定となってアークが安定しないものと推定でき
る。つまり、これまでの表面粗さ測定法では測定できな
いめっき下地表面の微細な凹凸がめっき密着性に影響を
及ぼし、更にアーク安定性に大きく影響を及ぼすと考え
られる。
【0041】しかしながら、単にめっき下地面の比表面
積を低下(即ち、めっき下地表面の凹凸を小さく)する
と、めっき処理工程においてワイヤがめっき浴との十分
な接触面積を得ることができず、溶接用ワイヤとして必
要なめっき密着性を得ることができなくなって、その結
果アークが不安定になる。
【0042】そこで、本発明においては、ワイヤ比表面
積{(Sa/Sm)−1}を0.05以下にすると共
に、下地比表面積{(Sb/Sn)−1}を0.01乃
至0.05とする。これにより、良好なワイヤ送給性を
得ることができると共に、めっき密着性も良好となる。
以下、ワイヤ比表面積及び下地比表面積の測定方法につ
いて説明する。
【0043】ワイヤ比表面積 スプールに巻き取られたワイヤ又はペールパックか
ら、長さが約20mmの3本の供試材を切り出す。な
お、各供試材は表面に疵がない部分を選んで切り出すこ
とが必要である。そして、これらの供試材の表面を、供
試材を腐食させる虞れがない有機溶媒(例えば、石油エ
ーテル、アセトン、四塩化炭素及びフロン等)を使用し
て超音波洗浄することにより、ワイヤ表面に付着してい
る汚れ及び油脂分等の不純物を取り除く。この場合に、
供試材が相互に擦れ合って疵が付くことを防止するため
に、供試材の超音波洗浄は1本づつ行うことが必要であ
る。なお、超音波洗浄時に使用する洗浄液は、前記有機
溶媒に替えて、加工工程において使用する潤滑剤を除去
するのに適した液(湯及びその他の脱脂液等)を使用し
てもよい。
【0044】各供試材の周方向に3等分した位置にお
いて、縦が500μm、横が600μmの領域(見かけ
上の表面積Sm=300000μm2 )における実表面
積を電子線三次元粗さ解析装置(例えば、ERA−80
00:(株)エリオニクス社製)を使用して測定する。そ
して、これらの実表面積の測定値の平均値を算出し、こ
れをワイヤの実表面積Saとする。なお、測定倍率は、
ワイヤ径に拘わらず一定(150倍)とする。
【0045】前記見かけ上の表面積Sm及び実表面積
Saにより、ワイヤ比表面積{(Sa/Sm)−1}を
算出する。
【0046】下地比表面積 スプールに巻き取られたワイヤから、長さが約20m
mの3本の供試材を切り出す。なお、各供試材は表面に
疵がない部分を選んで切り出すことが必要である。そし
て、これらの供試材の表面の銅めっき皮膜を薬品により
溶解して下地表面を露出させ、超音波洗浄により下地表
面に付着している不純物を除去する。この場合に、供試
材が相互に擦れ合って疵が付くことを防止するために、
供試材の超音波洗浄は1本づつ行うことが必要である。
【0047】その後、ワイヤ比表面積の測定と同様に
して、各供試材のめっき下地の実表面積を電子線三次元
粗さ解析装置により測定し、これらの実表面積の測定値
の平均値を算出して、これを下地の実表面積Sbとす
る。そして、見かけ上の表面積Sn及び実表面積Sbに
より、めっき下地比表面積{(Sb/Sn)−1}を算
出する。
【0048】ところで、適切な条件で溶接がなされてい
る場合は、上述のワイヤ比表面積及び下地比表面積のワ
イヤであればアークが安定した溶接を行うことができる
が、実験を進めていく上で、ワイヤの組成によっては電
流域を変えるとアークが安定しないことがあることが確
認された。このときのアーク現象をハイスピードビデオ
等で観察した結果、アーク長は安定しているものの、溶
滴が左右に振れていることによってアークが不安定にな
っていることが判明した。これは、特に溶滴移行時の溶
滴の不安定さに起因すると考えられる。そこで、本願発
明者等は、溶滴表面の粘性を溶滴内部における粘性より
も小さくすることにより溶滴の切れを向上させることを
検討した。ワイヤ表層の金属成分を、ワイヤ内部の金属
成分と異なるものとすれば溶滴表面の粘性を溶滴内部に
おける粘性よりも小さくすることは可能であるが、この
ようなことは現実的には難しく、工業生産に適用できる
手段は現在のところ見あたらない。そこで、種々の実験
検討を行った結果、溶融した金属の粘性を変える因子の
一つとして、酸素があることを見い出した。即ち、溶融
金属中の酸素量が多くなると、溶融金属の粘性は低下す
る。従って、ワイヤ表面に酸素を多く存在させれば、溶
滴表面の粘性が内部よりも小さくなり、この粘性の差に
よって溶滴の切れが向上し、溶滴の振れが少なくなる。
このようにして、溶滴の振れを防止することができて、
アークを安定させることができる。
【0049】ワイヤ表面の酸素量は、以下に示す方法に
より制御することができる。即ち、ワイヤ素線の酸素量
は、製鋼の段階でどのような溶製方法を用いるかにもよ
るが、一般的に10〜60ppm程度になる。表面酸素
量は、原線の表面に生成している粒界酸化層の除去量を
調整することにより残存酸化物量を調整した後、伸線加
工を行うか、又は、原線表面の酸化物皮膜を一旦完全に
除去した後、再度表面酸化を行い酸化物皮膜を形成し、
その後伸線又はめっき加工を行うことによりコントロー
ルすることができる。前記表面酸化による酸化物皮膜の
形成方法としては、雰囲気調整を行った焼鈍炉内で酸化
物皮膜を形成した後、酸洗条件を適正に設定することに
より適量の酸化物皮膜を残存させる方法、又は化成処理
によって燐酸皮膜等の酸素を含む化合物層を素線表面に
形成させる方法等がある。なお、ワイヤ全酸素量は、ワ
イヤ素線酸素量に表面酸素量を加えた酸素量である。
【0050】ワイヤ表面の酸素量が180ppmを超え
ると、めっきの密着性が阻害され、通電不良及びめっき
皮膜の脱落が発生すると共に、溶接金属中の酸化物の量
が多くなりすぎて、靱性が低下するといった不具合が確
認されたので、ワイヤ全酸素量と共にワイヤ表面酸素量
の適切な範囲を実験によって求めた。即ち、本発明にお
いては、ワイヤ全酸素量を30乃至200ppmとし、
表面酸素量を20乃至180ppmとする。以下、ワイ
ヤ全酸素量及び表面酸素量の測定方法について説明す
る。
【0051】ワイヤ全酸素量 ワイヤ表面に付着している潤滑油等を有機溶剤を用いて
脱脂した後、JISZ 2613−1992に準じてワ
イヤ酸素量を測定する。
【0052】ワイヤ中心酸素量 ワイヤの表面部分を50μm以上の厚さ研削除去した
後、上述の全酸素量測定方法と同様にして、ワイヤ中心
部の酸素量を測定する。
【0053】ワイヤ表面酸素量 上述のワイヤ全酸素量及びワイヤ中心酸素量を求めた
後、ワイヤ表面酸素量(ppm)=ワイヤ全酸素量(p
pm)−ワイヤ中心酸素量(ppm)を計算することに
より、ワイヤ表面酸素量を求める。
【0054】以下、本発明に係るガスシールドアーク溶
接用ワイヤを実際に製造し、アーク安定性、溶接金属性
能及びめっき密着性を調べた結果について、比較例と比
較して説明する。
【0055】先ず、下記表1に示す組成のCuめっきソ
リッドワイヤを製造した。また、ワイヤ比表面積、下地
比表面積、ワイヤ全酸素量及びワイヤ表面酸素量を前述
の方法により測定した。これらの測定結果を、下記表2
に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】そして、これらのワイヤを使用し、下記表
3に示す条件でアーク溶接を実施して、アーク安定性を
調べた。その結果も、表2に併せて示す。
【0059】
【表3】
【0060】実施例1〜8はいずれもアーク安定性が優
れており、良好な溶接性を示した。比較例1,2は、い
ずれも比表面積及び下地比表面積が大きく、アークの安
定性が悪く、且つめっきの剥離が生じていた。比較例3
は、比表面積が大きく、アーク安定性が悪いものであっ
た。比較例4は、表面酸素量が小さく、溶滴移行が不安
定であった。比較例5,6は、全酸素量が大きいため溶
接金属の靱性が劣化したと共に、表面酸素量が大きいた
め、めっき密着性の低下による通電不良が発生し、アー
クの不安定が生じた。
【0061】比較例7は、表面酸素量が小さいため溶滴
移行が安定せず、アークが不安定であった。比較例8
は、比表面積及び下地比表面積がいずれも小さいため、
アーク安定性が悪いと共に、めっき密着性も満足できも
のではなかった。
【0062】
【発明の効果】以上説明したように本発明に係るガスシ
ールドアーク溶接用ワイヤは、ワイヤの送給性が優れ、
通電点の変動を回避できて、アーク安定性が良好であ
る。このため、本発明に係るガスシールドアーク溶接用
ワイヤは、ロボット溶接機等による軟鋼及び高張力鋼等
の金属材の溶接に極めて好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】ワイヤ表面の微小領域における実表面を3次元
直交座標系により示す模式図である。
【図2】ワイヤ表面の比表面積の測定領域を示す模式図
である。
【図3】実表面積を算出するために測定領域を分割する
メッシュを示す模式図である。
【図4】メッシュの各交点における実表面の高さ位置を
3次元直交座標系により示し、実表面を三角形の連結で
近似する模式図である。
【図5】図4の三角形の面積を算出する方法を示す模式
図である。
【符号の説明】
1;ワイヤ 2;実表面 3;見かけ上の表面 Sa;実表面積 Sm;見かけ上の表面積

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 表面にめっき皮膜を有するガスシールド
    アーク溶接用ワイヤにおいて、前記めっき皮膜の表面の
    測定対象領域における見かけ上の表面積をSm、実表面
    積をSaとした場合に、ワイヤ比表面積{(Sa/S
    m)−1}が0.05以下であると共に、めっき下地表
    面の測定対象領域における見かけ上の表面積をSn、実
    表面積をSbとした場合に、下地比表面積{(Sb/S
    n)−1}が0.01乃至0.05であり、更に、ワイ
    ヤ全酸素量が30乃至200ppm、下記数式で表され
    る表面酸素量が20乃至180ppmであることを特徴
    とするガスシールドアーク溶接用ワイヤ。 ワイヤ表面酸素量(ppm)=ワイヤ全酸素量(pp
    m)−ワイヤ中心酸素量(ppm)
  2. 【請求項2】 C;0.02乃至0.15重量%、S
    i;0.5乃至1.0重量%、Mn;1.0乃至2.0
    重量%を含有すると共に、めっき皮膜を構成するCu量
    が0.1乃至0.5重量%であり、P含有量及びS含有
    量をいずれも0.03重量%以下に規制し、残部がFe
    及び不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1
    に記載のガスシールドアーク溶接用ワイヤ。
  3. 【請求項3】 C;0.02乃至0.15重量%、S
    i;0.5乃至1.0重量%、Mn;1.0乃至2.0
    重量%、Ti;0.01乃至0.5重量%を含有すると
    共に、めっき皮膜を構成するCu量が0.1乃至0.5
    重量%であり、P含有量及びS含有量をいずれも0.0
    3重量%以下に規制し、残部がFe及び不可避的不純物
    からなることを特徴とする請求項1に記載のガスシール
    ドアーク溶接用ワイヤ。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH11320178A (ja) * 1998-05-12 1999-11-24 Kobe Steel Ltd ガスシールドアーク溶接用ワイヤ
JP2002239783A (ja) * 2001-02-16 2002-08-28 Nippon Steel Weld Prod & Eng Co Ltd ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ
JP2008105057A (ja) * 2006-10-25 2008-05-08 Kobe Steel Ltd ガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ

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