JPH06315387A - ポリペプチドとポリペプチド組成物 - Google Patents

ポリペプチドとポリペプチド組成物

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JPH06315387A
JPH06315387A JP6077965A JP7796594A JPH06315387A JP H06315387 A JPH06315387 A JP H06315387A JP 6077965 A JP6077965 A JP 6077965A JP 7796594 A JP7796594 A JP 7796594A JP H06315387 A JPH06315387 A JP H06315387A
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gastric
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    • C12N9/16Hydrolases (3) acting on ester bonds (3.1)
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 膵リパーゼ欠乏症の経口治療薬として有用
な、酸に安定な胃リパーゼを大量に提供する。 【構成】 胃粘膜から分泌される哺乳類の胃リパーゼの
アミノ酸配列を少なくとも含んでなるタンパク質及びそ
れと機能的に等価な修飾又は置換タンパク質からなる群
から選択される胃リパーゼタンパク質と薬剤に使用可能
な賦形剤とからなる医薬組成物、上記胃リパーゼをコー
ドするDNA配列、上記DNA配列を含むベクター、並
びに上記ベクターを保有する宿主生物。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はポリペプチド並びにポリ
ペプチドからなる組成物に関する。このポリペプチドは
組換えDNA技術を用いて生産することができる。
【0002】
【従来の技術】高等動物の消化器系の重要な特色は食物
中の脂肪を分解することである。この消化プロセスは、
脂肪が消化管を通過する間にトリグリセリドを加水分解
してモノグリセリド、ジグリセリド、グリセロール、遊
離脂肪酸を生成する酵素の触媒作用によって可能にな
る。加水分解生成物は小腸粘膜上皮を通して吸収され
る。こうして吸収された加水分解生成物からトリグリセ
リドが再合成され、合成されたトリグリセリドはキロミ
クロンに取り込まれる。キロミクロンはリンパ系によっ
て吸収部位から遠く離れたところへ運ばれる。トリグリ
セリドの加水分解を行う酵素はリパーゼと呼ばれてお
り、胃腸管中に分泌される(Desnuelle,P.
(1972), The Enzymes, Vol.VII, 3
rd Edition, Academic Pres
s発行、並びにVerger,R.(1980),Meth
ods in Enzymology,64, 340−
392)。
【0003】トリグリセリドの加水分解に関与する酵素
は膵リパーゼ(EC 3.1.1.3)である。この酵素の
便利な供給源はブタであり、ブタの膵リパーゼについて
は詳細に研究されている。この酵素はブタ膵液中の全タ
ンパク質の約2.5%を占めており、均質に精製されて
いる(Verger,R.他(1969), Biochi
m. Biophys. Acta, 188, 272−28
2)。この酵素の全アミノ酸配列が決定されている(D
e Caro,J.他(1981), Biochim.Bio
phys. Acta, 671, 129−138)。この
酵素は449残基のアミノ酸からなるタンパク質部分
(MW=49859)とアミノ酸配列中の166番As
n残基に結合した炭水化物部分(MW=約2000)と
を含んでいる。従って、この酵素の全分子量は約520
00である。膵リパーゼの触媒作用はこの可溶性酵素と
不溶性トリグリセリド基質との間に相分離が存在するた
め複雑である。この酵素と基質が相互作用するために
は、コリパーゼと呼ばれる補酵素が必要である。コリパ
ーゼは低分子量タンパク質で溶液と脂質の界面に吸着し
てリパーゼに対するアンカー(anchor)として作用
し、酵素とその基質である脂質との相互作用を補助す
る。
【0004】膵リパーゼ活性は消失したトリグリセリド
又は生成した遊離脂肪酸やグリセロールの定量などの様
々な方法によって測定される(上記Desnuelle
並びにVergerの文献を参照)。リパーゼ活性の測
定には、放射性同位元素による標識、加水分解時のプロ
トンの放出、並びにリパーゼが脂質単層の物性に与える
影響も利用されている。いずれの測定方法でも膵リパー
ゼの活性の至適pHは中性乃至アルカリ性pH領域(p
H7〜pH9)にある(上記Vergerの文献参
照)。この酵素は酸性pHに対して非常に鋭敏で低pH
領域では急速に失活する。
【0005】ヒトの脂質吸収不良疾患の多くは膵リパー
ゼ分泌量の減少を特徴とする。嚢胞性繊維症に罹患した
患者の約80%に膵液分泌不全がみられる。膵リパーゼ
欠乏症は、誕生直後にその症状が現れ、その症状は患者
の一生を通して続く。
【0006】膵炎は膵臓の機能が阻害されている病態で
ある。膵炎は慢性アルコール中毒患者に多くみられる
が、そのため、このような慢性アルコール中毒患者は脂
肪吸収不良を起こして栄養不良状態に陥ることが多い。
【0007】また、発育中の胎児は高炭水化物栄養に頼
っており、その膵機能は少量の膵リパーゼを産生できる
程度にしか発達していない。胎生期の高炭水化物栄養
は、新生児が誕生して母乳を飲み始めるようになると高
脂肪食に換わる。脂肪は乳児のカロリー摂取量のおよそ
半分を占める。膵機能は臨月まで胎内にいた乳児ですら
充分でなく、特に未熟児では脂肪を十分に消化できずに
脂肪下痢(未消化の脂肪が便に混じること)を起こし、
エネルギーの損失を招くことになる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】膵リパーゼ欠乏症に罹
患した患者に対する現在の治療法は、ブタの膵臓から調
製した酵素の粗製製剤を極めて大量に経口投与するとい
うものである。膵リパーゼは低pH領域で失活するが、
胃の中もこのような低pH状態にあり、その結果、経口
投与された膵リパーゼは胃から腸へと運ばれる間にその
ほとんどが失活してしまう。このため、酵素の投与量を
大幅に増やしてもこの問題を根本的に解決することはで
きない。また、かかる酵素製剤は不純物を含んでおり、
ひどい味がするため、かかる酵素製剤を大量に投与する
のは多くの患者にとって耐えきれないものである。胃の
酸性領域を通過して空腸の比較的アルカリ性の高い雰囲
気下においてのみ酵素を放出するように処方された錠剤
もある(Gow,R.他(1981), The Lance
t, Vol.II, 8255, 1070−1074)。し
かし、膵臓病に罹患した多くの患者の空腸は異常な酸性
状態にあるので、このような錠剤は酵素を放出できなく
なり、有効に作用しない。
【0009】膵リパーゼ欠乏症に罹患した患者に対して
経口投与することのできるリパーゼ製剤に対する大きな
需要がある。
【0010】欧州特許公開EP−A1−0131418
号には、かかる製剤の一つである舌リパーゼ(舌由来の
酸安定リパーゼで、胃腔内で脂肪分解を行うことができ
るもの)が記載されている。本発明は胃リパーゼ標品を
提供するが、この胃リパーゼは胃の組織に由来するもの
で、胃腔内で脂肪分解を行うことができる。
【0011】本発明以前には、ヒトの胃リパーゼの存在
及びその酵素学的性質については予備的な研究しかなさ
れていなかった。ある総説(Desnuelle,P.
(1971), The Enzymes, Vol.VII, 3
rd Edition, Academic Press
発行)には、「胃リパーゼの件は未だ十分には研究調査
されていない。」と記載されている。
【0012】Szafran,Z.他の一連の報文に
は、胃の粘膜が酸安定リパーゼを分泌すると記載されて
いる(Enzyme, 30, 115−121 (198
3); Digestion, 18, 310−318 (1
978)並びにEnzyme,23, 187−193 (1
978))。この見解の実験的根拠は、胃粘膜組織と胃
吸引液のザイモグラム(タンパク質抽出物をポリアクリ
ルアミドゲル電気泳動にかけて酵素活性染色したもの)
の比較、並びにペンタガストリン処理した患者からペプ
シンと水素イオンとリパーゼ活性が同時に分泌される
(ペンタガストリンは胃粘膜からの分泌液と酵素の分泌
を刺激する)という研究結果に基づいている。胃液と胃
粘膜は、リパーゼ活性について染色すると、非常によく
似たザイモグラムを示す。ただし、十二指腸組織のザイ
モグラムは胃粘膜組織のものとは明らかに異なってお
り、十二指腸組織がこのような胃リパーゼを分泌しない
ことを示している。ペンタガストリンの投与量を変えて
連続的に投与した後ヒトの胃吸引液中に現れるペプシン
と水素イオンとリパーゼ活性を定量すると、それらの分
泌量がペンタガストリン投与量と連動していることを示
す結果が得られる。しかしながら、この研究から、胃粘
膜由来のリパーゼのタンパク質化学についての情報は何
等得ることができない。
【0013】ヒトの胃吸引液(胃腔の内容液)からリパ
ーゼが均一にまで精製されている(Tiruppath
i,C.及びBalsubramanian,K.A.(19
82), Biochim. Biiophys. Acta,
712, 692−697参照)。
【0014】この酵素標品は以下の性質をもつ。
【0015】a.分子量が約45000であること、並
びに b.酸性(pH3.5〜6.5)条件下で脂肪分解活性を
有すること。
【0016】このようにこの酵素は舌リパーゼに類似し
ており、上記報文の著者らはその起源を舌漿液腺に帰属
させている。しかし、上記の内容からすると、この酵素
の未同定の部分がヒトの胃粘膜に由来するということも
考えられる。すなわち、ヒトの胃吸引液中に存在するリ
パーゼは舌由来の酵素と胃粘膜由来の酵素の混合物では
ないかと考えられる。
【0017】
【課題を解決するための手段】今回、我々はヒトの胃の
粘膜が実際にリパーゼを分泌することを明らかにした。
このヒト胃リパーゼを舌リパーゼと比較すると、化学組
成は大体において類似しているが、特定の構造に関して
は異なっていることが判明した。
【0018】上記で引用した文献はすべて学術的な性格
を有する研究報告であり、胃リパーゼをリパーゼ欠乏症
の治療に使用することに関しては何等示唆されていな
い。我々は胃リパーゼをかかる用途に使用することがで
きると信じているが、それは胃リパーゼを大量かつ比較
的安価に生産することができて経済的に見合う場合に限
られる。これを動物又はヒトの組織から抽出して行うの
は明らかに実現不可能である。
【0019】本発明は、商業的に実施する価値のある量
の胃リパーゼを組換えDNA技術を用いて生産する方法
を提供する。
【0020】本発明は、その第一番目の態様において、
リパーゼ欠乏症の治療に使用するための胃リパーゼタン
パク質を提供する。
【0021】本明細書中において用いる「胃リパーゼタ
ンパク質」という用語は、真の意味での哺乳類の胃リパ
ーゼ(胃粘膜から分泌されるリパーゼ)、或いはこれら
真の哺乳類の胃リパーゼの修飾又は置換タンパク質であ
ってこれらと機能的に等価なタンパク質を意味する。胃
リパーゼは、例えばN末端アミノ酸残基としてメチオニ
ン残基を有する哺乳類胃リパーゼタンパク質(本明細書
中ではメチオニン−胃リパーゼタンパク質と呼ぶ)であ
ってもよい。好ましくは、この胃リパーゼタンパク質は
ヒトの胃リパーゼタンパク質である。
【0022】この胃リパーゼは組換えDNA技術で生産
するのが有利である。
【0023】本発明は、その第二番目の態様において、
メチオニン−胃リパーゼタンパク質の生産方法にして、
メチオニン−胃リパーゼタンパク質をコードする遺伝子
を含んだベクターで宿主生物を形質転換し、この形質転
換宿主生物中で上記タンパク質を発現させることからな
る方法を提供する。
【0024】遺伝子発現のため上記遺伝子は5′ATG
コドンを有していなければならないので、対応するポリ
ペプチドはN末端アミノ酸残基としてメチオニンを有す
ることになる。本明細書中で用いる「メチオニン−胃リ
パーゼタンパク質」という用語は、N末端アミノ酸残基
としてメチオニン残基を有するような真の哺乳類胃リパ
ーゼ(或いはこれら真の哺乳類の胃リパーゼの修飾又は
置換タンパク質であってこれらと機能的に等価なタンパ
ク質)を意味する。このメチオニン残基は真の胃リパー
ゼのN末端アミノ酸に直接結合しているのが好ましい
が、胃リパーゼの機能的活性が保持される限り上記メチ
オニン残基と胃リパーゼN末端アミノ酸との間に1又は
2残基以上の追加アミノ酸が存在していてもよい。好ま
しくは、宿主生物は細菌(例えば大腸菌(Escher
ichia coli))又は酵母(例えばサッカロミ
セス・セレビシェー(Saccharomyces
erevisiae))である。
【0025】本発明は、その第三番目の態様において、
胃リパーゼタンパク質の生産方法にして、胃リパーゼの
前駆タンパク質をコードする遺伝子を含んだベクターを
準備し、このベクターで宿主生物を形質転換し、しかる
後にこの形質転換宿主生物中で上記前駆タンパク質を発
現させ、この前駆タンパク質を切断して胃リパーゼタン
パク質を生じさせることからなる方法を提供する。
【0026】好ましくは、上記胃リパーゼ前駆タンパク
質は胃プレリパーゼタンパク質であり、宿主生物は上記
胃プレリパーゼタンパク質を切断して胃リパーゼタンパ
ク質を生じさせることのできる宿主生物である。最も好
ましくは、宿主生物は胃プレリパーゼを切断して胃リパ
ーゼを培地中(すなわち細胞外)に輸送することのでき
るものである。
【0027】本発明の第三番目の態様の変法において
は、上記胃リパーゼ前駆タンパク質は、胃リパーゼタン
パク質と異種タンパク質からなる融合タンパク質であ
る。かかる異種タンパク質は、宿主生物中で(好ましく
は大量に)産生され得るタンパク質の一部分又はそのタ
ンパク質全体とすることができる。好適な異種タンパク
質の具体例としては、β−ガラクトシダーゼ、クロラム
フェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)及
trpE遺伝子産物を挙げることができる。かかる融
合タンパク質には、その胃リパーゼタンパク質部分と異
種タンパク質部分との間に、化学的又は酵素的な切断を
受けるような特異的部位が存在しているのが好ましい。
異種タンパク質が酵母のシグナル配列であって宿主生物
が酵母であってもよく、この好ましい実施態様において
は、宿主酵母により融合タンパク質が切断されて胃リパ
ーゼ成熟タンパク質が生産される。
【0028】本発明は、その第四番目の態様において、
胃プレリパーゼタンパク質を提供する。
【0029】本発明は、その第五番目の態様において、
メチオニン−胃リパーゼタンパク質を提供する。
【0030】本発明は、その第六番目の態様において、
胃リパーゼタンパク質と異種タンパク質からなる融合タ
ンパク質を提供する。
【0031】本発明は、その第七番目の態様において、
少なくとも胃リパーゼタンパク質のアミノ酸配列をコー
ドする遺伝子を提供する。好ましくは、この遺伝子は上
記本発明の第四、第五又は第六番目の態様のタンパク質
をコードする。
【0032】本発明は、また、少なくとも図3に示した
ヒト胃リパーゼ又はヒト胃プレリパーゼのアミノ酸配列
をコードする遺伝子も提供する。このDNA配列は図3
に示したものであるのが好ましい。
【0033】本発明は、その第八番目の態様において、
上記本発明の第7番目の態様の遺伝子を含んだベクター
を提供する。このベクターは、所定の宿主生物に適合化
させたもので、適当な選択マーカーとプロモーター並び
に用途に応じてその他の適当な調節領域を与えたもので
ある。
【0034】本発明は、その第九番目の態様において、
上記本発明の第八番目の態様のベクターで形質転換した
宿主生物を提供する。宿主生物は、胃リパーゼタンパク
質をコードする遺伝子を含んだベクターで形質転換した
ときにその遺伝子を発現するような生物であれば如何な
るものでもよい。好適な宿主生物には、細菌(例えば大
腸菌)、酵母(例えばサッカロミセス・セレビシェー)
並びに組織培養した哺乳類の細胞が含まれる。宿主生物
が細菌又は酵母である場合にはベクターはメチオニン−
胃リパーゼ又は融合タンパク質をコードする遺伝子を含
んでいるのが好ましく、宿主生物が組織培養した哺乳類
細胞である場合にはベクターは胃プレリパーゼをコード
する遺伝子を含んでいるのが好ましい。
【0035】本発明は、その第十番目の態様において、
胃リパーゼタンパク質の抗原決定基に対して特異的な抗
体を提供する。この抗体はポリクローナル抗体であって
もモノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナ
ル抗体のほうが好ましい。抗体は、免疫検定に使用でき
るように、検出可能なマーカー(例えば放射性同位体)
で標識してもよい。
【0036】本発明は、その第十一番目の態様におい
て、胃リパーゼタンパク質と薬剤に使用可能な賦形剤か
らなる医薬品組成物を提供する。この場合の胃リパーゼ
タンパク質は、本発明の第二又は第三番目の態様の生産
方法で生産したヒト胃リパーゼであるが好ましい。この
医薬品組成物はリパーゼ欠乏症の治療に用いるためのも
のである。好ましくは、この医薬品組成物は経口投与用
に調剤される。
【0037】この医薬品組成物は、錠剤、カプセル又は
糖衣錠のような単位服用量の形態とすることができる。
【0038】単位服用量の形態とするため、安定な胃リ
パーゼを、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、
マンニトール、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン
その他の賦形剤名度の固形微粉で医薬的に不活性な担体
と混合する。ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸
カルシウム、ポリエチレングリコールワックスのような
潤滑剤を添加してもよい。得られた組成物を単位服用量
の形態に押し固める。このような単位服用量の形態の薬
剤は、タルク、二酸化チタン、ゼラチン又はアラビアゴ
ムなどの添加剤を含んだ濃縮砂糖溶液でコート(被覆)
することもできる。単位服用量の形態の薬剤をラッカー
でコートしてもよい。単位服用量の形態の薬剤の識別を
容易にするため、コート剤に着色料を添加してもよい。
胃リパーゼの液体又は固体標品をカプセル化するため、
軟質又は硬質のカプセルを使用してもよい。
【0039】別法として、胃リパーゼは液状製剤として
調剤することもできる。液状の胃リパーゼ製剤を製造す
るには、安定な胃リパーゼを液体担体に添加すればよ
い。かかる液体担体は例えばシロップ又は懸濁液とする
ことができる。かかる液状製剤には、着色料、着香料、
甘味料及び/又は濃縮剤(増粘剤)を配合してもよい。
【0040】本発明は、その他の態様において、胃リパ
ーゼタンパク質を医薬的に使用可能な担体と混合するか
らなる、医薬品組成物の製造方法を提供する。本発明
は、また別の態様において、有効量の胃リパーゼタンパ
ク質を投与することからなる、リパーゼ欠乏症の治療法
を提供する。
【0041】本発明は、さらに、プラスミドpGL1
7、pCML1及びpMG197を提供する。
【0042】以下、添付図面を参照しながら、組換えD
NA技術を用いた胃リパーゼ生産のためのプロトコルに
ついて説明する。
【0043】胃リパーゼの生産に具体的に用いた手法は
次の通りである。ヒトの胃吸引液から胃リパーゼを精製
した。精製酵素標品について、そのN末端アミノ酸配列
配列を決定すると共にその構造を明らかにして、それに
対するポリクローナル抗体を得た。ヒトの胃組織から作
成したcDNAライブラリーをスクリーニングして(こ
の酵素と高い相同性をもつラット舌リパーゼのDNAク
ローンをプローブとして用いた)、この酵素に対する遺
伝子をクローニングした。ヒト胃リパーゼの全塩基配列
/アミノ酸配列を決定した。このヒト胃リパーゼクロー
ンをどのようにして適当な微生物中又は動物の組織培養
細胞中で発現させて組換えヒト胃リパーゼ産物を産生さ
せるかについては、本明細書中の以降の説明から明らか
になるであろう。
【0044】
【実施例】ヒト胃吸引液からのヒト胃リパーゼの精製 Tiruppathi他の方法(Biochim. Bi
iophys. Acta, 712, 692−697 (1
982))に従って、ヒトの胃の吸引液からヒト胃リパ
ーゼを精製した。この方法により純粋なヒト胃リパーゼ
が単離され、SDS−PAGE(Lammeli(19
70), Nature, 277, 68−685)で求め
たその分子量は約50000であった。図1に、ヒトの
胃リパーゼ標品のSDS−PAGEの結果を示す。レー
ンAはヒト胃リパーゼの精製標品(約5μg)であり、
レーンBはヒトの胃の吸引液の部分精製標品(約10μ
g)であり、レーンCは一群の基準分子量マーカーであ
る。この酵素は、1mg当り約600リパーゼ単位の活
性を有していた(リパーゼ単位は、37℃において1分
間当りに生成する遊離脂肪酸のマイクロモル数)。
【0045】ポリクローナルウサギ抗ヒト胃リパーゼ抗
血清の調製 上記のようにして単離し、電気泳動で純粋にしたヒト胃
リパーゼ標品100μgをフロイントの完全アジュバン
ト1mlに加えてウサギに注射した。14日後にフロイ
ントの不完全アジュバントを用いて接種を繰り返した。
28〜30日後にウサギから採血すると共に、その後も
同じ日数をおいて採血して、抗血清を採取した。抗血清
の力価は標準的な免疫学的手法で求めた。
【0046】真のヒト胃リパーゼの特性、分子量測定 均一に生成されたヒト胃リパーゼ標品は、SDS−PA
GE上で単一のバンドとして泳動し、その見掛上の分子
量は約50000であった(図1)。ヒト胃リパーゼの
粗標品をセファデックスG150でゲル濾過したとこ
ろ、その溶出パターンから算出した分子量はポリアクリ
ルアミド電気泳動で求めた値とほぼ一致した。前記のT
iruppathi他(1982)の報告によれば、セ
ファデックスG100によるゲル濾過で求めた分子量は
45000である。これらの結果から、精製ヒト胃リパ
ーゼは分子量約50000のモノマーとして活性である
という結論が得られる。
【0047】ヒト胃リパーゼのN末端アミノ酸配列及び
アミノ酸組成 精製ヒト胃リパーゼのN末端アミノ酸配列をSmit
h, M.A.(1982),Biochemical Jo
urnal, 207, 253−260)によって決定し
た。同定したヒト胃リパーゼのN末端アミノ酸配列を以
下に示す。
【0048】
【表1】
【0049】ヒト胃リパーゼのアミノ酸組成を以下の表
に示す。
【0050】
【表2】
【0051】ヒト胃リパーゼにおけるグリコシル化の確
アスパラギンに糖鎖がN−グリコシド結合していること
は、精製したヒト胃リパーゼをストレプトミセス・プリ
カツス(Streptomyces plicatu
)由来のエンドグリコシダーゼH(エンド−β−N−
アセチルグルコサミニダーゼH)で分解することによっ
て確認した。1mMフェニルメチルスルホニルフルオリ
ド(PMSF),10μMペプスタチンA,50単位/
mlのエンドグリコシダーゼHを含む50mM酢酸ナト
リウム中に入れた1mg/mlヒト胃リパーゼ溶液(p
H5.5)を37℃でインキュベートした。別法とし
て、リパーゼを0.4%SDS中で煮沸し、SDS濃度
0.1%に稀釈した後、上記の通りインキュベートし
た。いずれの場合も、ヒト胃リパーゼの分解生成物はS
DS−PAGEで分離してクーマシーブルーで染色し
た。ヒト胃リパーゼをエンドグリコシダーゼHで分解す
ると、最小分子量が約41000の一群の低分子量分解
生成物が生じた。エンドグリコシダーゼHで分解する
と、糖タンパク質からN−結合炭水化物部分が除去され
る。かかる切断によって、糖鎖の取り除かれたタンパク
質の分子量は明らかに低下する。このような分子量の低
下は、糖鎖の取り除かれたタンパク質のSDS−PAG
E上での移動度が増加することによって確認することが
できる。このようなエンドグリコシダーゼH処理をヒト
胃リパーゼについて行うと分子量が約50000から4
1000へと低下するということは、酵素の約20%
(重量基準)が炭水化物からなっていることを示してい
る。
【0052】ヒト胃リパーゼのクローニング ヒトの胃組織の試料から調製したmRNAから作成した
cDNAライブラリーから、ヒト胃リパーゼをコードす
る遺伝子を単離した。ヒト胃リパーゼクローンは、欧州
特許公開EP−A1−0131418号の記載に従って
得られていたラット舌リパーゼのcDNAクローンとの
相同性に基づいて同定した。ヒトの胃壁の組織断片(幅
約2cm)を入手してすぐに液体窒素中に保存した。上
記組織断片には、完全な粘膜層、筋層及び漿膜層が含ま
れていた。RNAは、凍結粉砕した組織全体のグアニジ
ウムイソチオシアネート抽出(Maniatis他, M
olecular Cloning−A Labora
tory Manual,Cold Spring H
arbor Laboratory発行)により調製し
た。この抽出液をオリゴdTセルロースクロマトグラフ
ィーにかけてポリアデニル化RNAを単離した(Har
ris,T.J.R.他(1975), J. Gen. Viro
l., 29, 299−312)。
【0053】酸安定リパーゼをコードするmRNA種の
存在は、ノーザンブロッティング分析(Thomas,
P.S., PNAS USA, 77, 5201−5205
(1980))から示唆された。このノーザンブロッテ
ィング分析においては、胃由来のポリアデニル化RNA
を電気泳動で分子量の大きさによって分離し、ニックト
ランスレーション法(Rigby,P.W.J.他(197
7), J. Mol. Biol., 113, 237−25
1)で標識したラット舌リパーゼ遺伝子cDNAクロー
ンをプローブとして用いた。この標識遺伝子は、約15
00塩基の大きさのmRNA種と特異的にハイブリッド
形成した。このmRNA種は、ヒト胃リパーゼの大きさ
のタンパク質をその5′及び3′側の非翻訳配列と共に
コードすることができるような大きさのものであった。
【0054】ヒト胃リパーゼmRNAのcDNAを次の
ようにして調製した。第一の鎖の合成は、ポリ(dT)
プライマーを用いたプライミングとAMV逆転写酵素に
よる伸長反応によって行った(Retzel,E.F.他
(1980), Biochemistry, 19, 513
−518)。第二の鎖の合成は、文献記載の方法(Gu
bler,V.及びHoffman,B.(1983), Ge
ne, 25, 263−269)に従って、RNアーゼH
(リボヌクレアーゼH)、大腸菌DNAポリメラーゼI
及び大腸菌DNAリガーゼを作用させて行った。この二
本鎖cDNAの3′末端にポリ(dT)テールを付けた
(Villa-Komaroff他(1978), PNA
S USA, 75, 3727)。このポリ(dT)テー
ルの付いた断片を、PstI部位で切断してポリ(d
G)テールを付けたpBR322とアニールさせてその
中に組込んだ。こうして得た雑種プラスミドで、大腸菌
DH1株のコンピテント細胞を形質転換した(Mani
atis他(1982), Molecular Clon
ing−A Laboratory Manual,C
old Spring Harbor Laborat
ory発行)。形質転換体は、ニトロセルロースフィル
ター上でのコロニーハイブリダイゼーション法(Han
ahan,D.及びMeselson,M.(1980), G
ene, 10,63−67)でスクリーニングした。ハ
イブリダイゼーション用プローブは、ニックトランスレ
ーション法(Rigby,P.W.J.他(1977), J.
Mol.Biol., 113, 237−252)で標識
したラット舌リパーゼのコード領域であった。
【0055】ヒト胃リパーゼクローンの制限酵素地図
(図2)を作成した後、クローン化断片のすぐ3′側の
領域とハイブリダイズする合成一本鎖オリゴデオキシリ
ボヌクレオチドプライマーを用いてDNA配列を決定し
た(Sanger, F.S.他(1977), PNAS U
SA, 74, 5463−5467; Smith,A.
J.H.(1980), Methods in Enzym
ology, 65, 560−580, Academi
c Press発行)。クローンがリパーゼをコードし
ていることは、ラット舌リパーゼcDNAの配列との配
列の相同性、並びにcDNAクローンの予想DNA(図
3)と配列胃吸引液から単離した天然ヒト胃リパーゼの
N末端アミノ酸配列(表1)との比較から、明らかにな
った。かかるクローンの一つを調べたところ、胃プレリ
パーゼをコードする配列全体を含んでおり、その鎖長は
約1450bpであることが明らかになった(pGL1
7)。このクローンの5′末端は、このメッセージの
5′末端のヌクレオチドの20ヌクレオチド以内にある
ことが判明した。このことはプライマー伸長法で得た配
列によって実証された。このプライマー伸長法で用いた
合成オリゴデオキシリボヌクレオチドプライマーは、ヒ
ト胃リパーゼmRNA中のN末端アミノ酸配列をコード
する領域と特異的にハイブリダイズするものであった。
このプライマーをmRNAの5′末端まで伸長させて配
列を決定した。pGL17の制限酵素地図を作成した。
その地図を図2の線aに示す。この線の下に示した番号
は、図3に示した塩基番号に対応する。図2の線bは、
図3に示したDNA配列の範囲を示したものである。ヒ
ト胃リパーゼタンパク質配列の位置を図2の線cに示
す。「pre」と表示した太線部分は、ヒト胃リパーゼ
の「プレ」配列、すなわちシグナル配列の位置を示した
ものである。(図2に示す制限酵素部位の略号は次の通
りである。P=PstI、E=EcoRV、R=Eco
RI、A=AluI、B=BalI、Bc=BclI、
Ah=AhaIII。)
【0056】ヒト胃プレリパーゼ遺伝子のコーディング
鎖のDNA配列を図3に示す。DNA配列の下に示した
番号は塩基番号を表す。塩基番号1は、pGL17にク
ローン化したヒト胃リパーゼ配列の最初のヌクレオチド
である。記号「*」は終結コドンTAGを示し、その後
に3′非翻訳領域が続く。塩基の直ぐ上に示した文字
は、得られたアミノ酸配列をアミノ酸の一般的な一文字
記号で示したものである(A=アラニン、R=アルギニ
ン、N=アスパラギン、D=アスパラギン酸、C=シス
テイン、E=グルタミン酸、Q=グルタミン、G=グリ
シン、H=ヒスチジン、I=イソロイシン、L=ロイシ
ン、K=リシン、M=メチオニン、F=フェニルアラニ
ン、P=プロリン、S=セリン、T=スレオニン、W=
トリプトファン、Y=チロシン、V=バリン)。
【0057】これらのアミノ酸配列の上に下線を引いて
示した文字は、精製したヒト胃リパーゼから直接決定し
たN末端アミノ酸配列を表す。直接決定したアミノ酸配
列中の空白は同定できなかったアミノ酸を示す。アミノ
酸(−19〜−1)は推定シグナル配列を表し、アミノ
酸(+1〜379)の配列は成熟タンパク質のアミノ酸
配列を表す。下線(破線)は、グリコシル化される可能
性のある配列を示している。DNA配列から予想される
アミノ酸配列から、ヒト胃リパーゼの成熟タンパク質は
379個のアミノ酸残基からなるタンパク質であること
が分かる。この成熟タンパク質の予想分子量は4316
2であり、この値は糖鎖を除いた酵素のSDS−PAG
Eで得られた分子量とよく一致している。DNA配列か
ら予想される成熟タンパク質の全アミノ酸組成を、単離
タンパク質から直接得たアミノ酸組成と比較して表1に
示す。ヒト胃リパーゼの成熟タンパク質は潜在的グリコ
シル化部位(一般式:X−Asn−X−Thr又はSe
rのもの)を3か所含んでいる。ヒト胃リパーゼはブタ
膵リパーゼよりもアミノ酸残基が70個少なく、ブタ膵
リパーゼに対しては配列の相同性もアミノ酸組成の類似
性も低い。ただし、ブタ膵リパーゼの必須152番セリ
ン領域においては、ヒト胃リパーゼとブタ膵リパーゼの
間で高い相同性が存在する。このセリン残基は膵リパー
ゼの脂質界面への固定化に関与していると考えられてお
り(Guidoni,A.他(1981), Biochi
m. Biophys. Acta., 660, 148−1
50)、ミセル状のジエチル−p−ニトロフェニルリン
酸と反応する(Rouard,M.他(1978), Bio
chim. Biophys. Acta., 530, 22
7−235)。この残基はブタ膵リパーゼにおけるGl
y−His−Ser(152)−Leu−Glyという
配列中に存在するが、これはヒト胃リパーゼにおける次
のアミノ酸配列:Gly−His−Ser(153)−
Gln−Glyにおける位置と非常によく似た位置にあ
る。
【0058】この必須セリン残基付近にみられるもう一
つの類似点は、ブタ膵リパーゼにおける唯一のグリコシ
ル化部位である(166番Asn)がヒト胃リパーゼの
166番Asnにもみられることである。
【0059】成熟型ヒト胃リパーゼのアミノ酸配列はラ
ット舌リパーゼ(欧州特許公開EP−A1−01314
18号参照)のものと極めて高い相同性(約76%)を
有している。ただし、ヒト胃リパーゼのシグナル配列と
ラット舌リパーゼのシグナル配列とでは、アミノ酸配列
にかなりの相違がみられる。N末端側の5残基とC末端
側の2残基のみが一致している。ヒト胃リパーゼは、ラ
ット舌リパーゼに比べ、Cys残基が1個少なく、潜在
的グリコシル化部位が1か所少ない。他の保存されたC
ys残基とグリコシル化部位は、ヒト胃リパーゼとラッ
ト舌リパーゼのアミノ酸配列中でほぼ同じ位置にある。
【0060】ヒト胃リパーゼの(i)大腸菌,(ii)酵母,
(iii)動物組織培養細胞中での発現 (i)大腸菌 欧州特許公開EP−A1−0121386号記載の二重
複製起点温度誘導性ベクター系をもとに、成熟型メチオ
ニン−ヒト胃リパーゼタンパク質(以下、単にヒト胃リ
パーゼと呼ぶ)の発現のためのプラスミドベクターを構
築した。上記欧州特許公開に開示された内容は文献の援
用によって本明細書中に取り込まれる。このプラスミド
は、上記クローン化遺伝子のPstIからAhaIIIま
でのDNA断片に存在する全プレリパーゼ遺伝子を用い
て構築した。この遺伝子の3′末端側はAccI−Bg
lII断片として単離し、5′末端側はFokI−Acc
II断片として単離した(図4参照)。一対のオリゴヌク
レオチドリンカーを5′FokI末端に結合させた。こ
れらのオリゴヌクレオチドはリパーゼ遺伝子の5′末端
を再構成するためのもので、ATG開始コドンを付け加
えると共に、シャイン・ダルガルノ−ATG領域にBg
lII部位を与え、かつpCT54(Emtage他(1
983), Proc. Natl. Acad. Sci., 3
671−3675)にクローニングするためのClaI
部位を与える。pCT54をClaIとBclIで切断
した後、次の3つの断片を連結することによって、pC
ML1を構築した。
【0061】 (1)ClaI−BclIベクター(pCT54由来) (2)5′末端側ClaI−AccI断片 (3)3′末端側AccI−BglII断片
【0062】この連結操作によって、シャイン・ダルガ
ルノ配列からATGまでの間隔が14塩基のpCML1
が得られた。
【0063】プラスミドpCML1の制限酵素地図を図
4に示す。trpプロモーターとヒト胃リパーゼ遺伝子
の開始コドンの領域における塩基配列を以下に示す。
【0064】
【表3】
【0065】大腸菌中でヒト胃リパーゼを発現させるた
めに用いたプラスミドはpMG197と名付けた。この
プラスミドは、欧州特許公開EP−A1−012138
6号記載の二重複製起点ベクターpMG165をもとに
構築したものである。pMG197は次のようにして構
築した。pCML1をBamHIとPstIで切断し、
ヒト胃リパーゼ遺伝子を保有する断片を単離した。pM
G171(欧州特許公開EP−A1−0121386号
記載のpMG165に関連)を同様にBamHIとPs
tIで切断し、上記のヒト胃リパーゼ遺伝子保有断片を
挿入して、pMG197を作成した(図5)。このプラ
スミドを単離して、大腸菌E103(S)株に導入して
形質転換した。
【0066】pMG197を保有する大腸菌を10リッ
トル培養器中で欧州特許公開EP−A1−012138
6号に記載の通り増殖させ、菌体を遠心で集めて−20
℃で保存した。
【0067】E103(S)/pMG197の菌体内に
存在するすべてのタンパク質について、Burnett
eの方法(Burnette,W.N.(1981), An
al.Biochem., 112, 195−203)でウ
ェスタンブロッティング分析を行った。この分析に際し
ては、全タンパク質をSDS−PAGEで分離した後、
ニトロセルロース膜に移した。ヒト胃リパーゼは、天然
のヒト胃リパーゼに対するポリクローナル抗血清を用い
て、抗原抗体複合体を125I−プロテインAで標識する
ことによって検出した(図6)。
【0068】図6において、記号Xで表示した矢印(レ
ーンA)は天然のヒト胃リパーゼの泳動位置を示す。記
号Yで表示した矢印は、欧州特許公開EP−A1−01
21386号に記載の通り温度誘導した後にE103
(S)/pMG197の菌体内で産生された新規タンパ
ク質の泳動位置を示す。レーンBとCは、それぞれ、温
度誘導後2時間及び3時間目に集菌した細胞から抽出し
た全タンパク質に対応する。誘導していない菌体につい
てはレーンDに示す。この分析の結果から、E103
(S)/pMG197がヒト胃リパーゼを見掛上380
00という分子量で泳動される主要タンパク質の一つと
して発現することが分かる。天然のヒト胃リパーゼの見
掛上の分子量(約50000)と組換えヒト胃リパーゼ
の見掛上の分子量(約38000)の差は、大腸菌がグ
リコシル化を行う能力をもたないことに帰因するものと
思われる。グリコシル化されていないヒト胃リパーゼの
分子量は、クローン化したDNA配列に基づくアミノ酸
配列から、43162と予想される。
【0069】ヒト胃リパーゼを、以下に述べるようにし
て、大腸菌から部分精製し、可溶化した。E103
(S)/pMG197の凍結菌体ペースト10gを、5
0mlの50mMトリス緩衝液(pH8),50mM・
NaCl,1mM・EDTA,0.1mM・PMSF中
に懸濁した。特記しない限り、操作はすべて4℃で行っ
た。懸濁した菌体を操作圧1500psiのプレンチプ
レスに3回かけた。破砕された細胞懸濁液を12000
で5分間遠心した。上清の試料は分析のために取ってお
き、ペレット画分(ヒト胃リパーゼ産物を不溶性成分と
して含む)を50mMトリス緩衝液(pH8),10m
M・EDTA,0.5%トリトンX100中に懸濁し
た。不溶性のヒト胃リパーゼ産物を含んだペレット画分
の懸濁液を上記と同様に再度遠心した。英国特許明細書
GB2100737B並びに英国特許出願GB2129
810A及び同GB2138004Aに記載の方法と同
様の方法で、尿素又はアルカリを用いて不溶性ヒト胃リ
パーゼを可溶化した。不溶性ヒト胃リパーゼを、50m
Mトリス緩衝液(pH8),8M尿素中に、タンパク質
終濃度1mg/mlとなるように室温で溶解した。50
mM炭酸/重炭酸ナトリウム緩衝液(pH10.7)の
溶液に対して透析して変性物を除去した。沈殿したタン
パク質は遠心により除去した。
【0070】図7に、ヒト胃リパーゼの発現及び可溶化
についてSDS−PAGE分析した結果を示す。発現し
たヒト胃リパーゼタンパク質を矢印で示す。E103
(S)/pMG197由来の全タンパク質をレーンAに
示す。ゲルスキャナーで定量した結果、発現したヒト胃
リパーゼは大腸菌の全タンパク質の約8%を占めてい
た。レーンBは、不溶性細胞抽出物の洗浄標品中に存在
するタンパク質組成を示す。ヒト胃リパーゼは、遠心で
得られたペレット中に存在する不溶性タンパク質の大部
分を占める。レーンCとDは、それぞれ、透析で尿素を
除去した後に存在する不溶性タンパク質及び可溶性タン
パク質を示す。この結果から、ヒト胃リパーゼが、可溶
性抽出物中の主要タンパク質として存在することが分か
る。
【0071】ほぼ同様の技術を用いて、ヒト胃プレリパ
ーゼや胃リパーゼ含有融合タンパク質をコードする遺伝
子を発現させることができる。例えば、クロラムフェニ
コールアセチルトランスフェラーゼ融合タンパク質をコ
ードする遺伝子を発現させることのできるベクターの調
製については、欧州特許公開EP−A1−131363
号を参照されたい。
【0072】(ii)酵母 欧州特許公開EP−A2−0073653号記載のプラ
スミドpMA91(pMA3013という名でも知られ
ている)をもとに、メチオニン−ヒト胃リパーゼタンパ
ク質の発現のためのプラスミドベクターを構築した。こ
れらのベクターには、酵母ホスホグリセリン酸キナーゼ
(PGK)プロモーター、及びメチオニン−ヒト胃リパ
ーゼ遺伝子を挟み込んだPGK遺伝子3′フランキング
配列が含まれている。プレリパーゼ遺伝子全体を保有す
るBglII断片の挿入によってプラスミドpMB1(図
示せず)を構築した。プラスミドpYC3(図8)は次
のようにして構築した。pMB1からリパーゼ遺伝子の
3′末端側を含むBglII−AccI断片を取り出し
て、前述のpCL1から得たリパーゼ遺伝子の5′末端
側のBglII−AccI断片に連結した。これをpMA
3013のBglII部位に挿入してpYC3を得た。プ
ラスミドpYC3を二倍体株MD50及び半数体株MD
40/4Cに導入して形質転換し、形質転換体を欧州特
許公開EP−A2−0073653号記載の通り窒素主
体培地中で増殖させた。集菌した菌体は−20℃で保存
した。
【0073】pYC3を保有する酵母MD50細胞の凍
結スラリーを50mMトリス緩衝液(pH7.5),1
mM・EDTA中に懸濁した。操作はすべて4℃で行っ
た。操作圧1500psiのプレンチプレスに3回かけ
て細胞を破砕した。800gで5分間遠心して未破砕細
胞を除去した。その上清(「全抽出物」と呼ぶ)を20
000gで5分間遠心して細胞残渣を分離した。その透
明な上清(「可溶性抽出物」と呼ぶ)は、SDS−PA
GEによるタンパク分析のために取っておいた。沈殿し
た細胞残渣を上記緩衝液に懸濁し、再度遠心して洗浄し
た。洗浄した細胞残渣を等量の上記緩衝液中に懸濁し、
その試料をSDS−PAGE用に取っておいた。上記の
操作を、pYC3を保有する酵母MD40/4C細胞、
並びに対照としてヒト胃リパーゼ遺伝子を含んでいない
他はpYC3と同じプラスミドを保有する酵母MD50
についても、繰り返した。これらの菌体から得られた全
タンパク質のSDS−PAGE分析の結果を図9に示
す。組換えヒト胃リパーゼタンパク質の泳動位置を矢印
で示す。レーンAとBは、それぞれ、対照プラスミドを
保有する酵母MD40/4Cから得た洗浄細胞残渣と可
溶性抽出画分を示す。ヒト胃リパーゼに相当するタンパ
ク質は全くみられない。レーンCとDは、それぞれ、p
YC3を保有する酵母MD40/4Cから得た細胞残渣
と可溶性抽出画分を示す。同様に、レーンEとFは、そ
れぞれ、pYC3保有酵母MD50から得た細胞残渣と
可溶性抽出画分を示す。pYC3を保有する2つの酵母
株MD40/4C及びMD50双方の細胞残渣画分に、
組換えヒト胃リパーゼの予想位置まで泳動されるタンパ
ク質がはっきりと観察された。ゲルスキャナーでこのタ
ンパク質を定量した結果、その発現レベルは培養バッチ
毎のバラツキはあるが全タンパク質の1〜3%であるこ
とが分かった。
【0074】酵母MD50/pYC3中に存在するタン
パク質について、ウェスタンブロッティング分析を行っ
た(図10)。図10において、記号Xで表示した矢印
(レーンA)は天然のヒト胃リパーゼの泳動位置を示
す。記号Yで表示した矢印は、MD50/pYC3中で
産生されたタンパク質の泳動位置を示す。レーンB、
C、Dは、それぞれ、全タンパク質、可溶性抽出物、及
び細胞残渣画分を示す。全タンパク質及び不溶性残渣画
分に、見掛上約40000という分子量で泳動されるヒ
ト胃リパーゼの明瞭なバンドが観察された。ヒト胃リパ
ーゼは可溶性抽出画分中にはほとんど検出されなかっ
た。ヒト胃リパーゼ遺伝子を含んでいない他はpYC3
と同じプラスミドを保有する酵母MD50の全タンパク
質、可溶性抽出物、及び細胞残渣画分を、それぞれ、レ
ーンE、F、Gに示す。この対照菌体中では、ヒト胃リ
パーゼは全く検出されなかった。この分析の結果から、
酵母MD50/pYC3がヒト胃リパーゼを発現するこ
とが実証された。pYC3を保有する酵母MD40/4
Cについてウェスタンブロッティング分析を行ったとこ
ろ、同様の結果が得られた。この場合にも、天然のヒト
胃リパーゼの見掛上の分子量(約50000)と組換え
ヒト胃リパーゼの見掛上の分子量(約38000)とが
異なっているのが観察された。これは、酵母菌体内で産
生されたヒト胃リパーゼをグリコシル化する能力を酵母
がもっていないことに帰因するものと思われる。脂質分
解活性を有するヒト胃リパーゼが酵母中に存在している
ことは、細胞の全抽出物、可溶性画分及び不溶性画分の
ヒト胃リパーゼ活性を測定することによって調べた。M
D50/pYC3、MD40(4C)/pYC3、及び
対照MD50の可溶性抽出物及び不溶性抽出物を、上記
50mMトリス緩衝液,1mM・EDTAの代わりにク
エン酸緩衝液(50mMリン酸ナトリウムにpH5.4
となるように50mMクエン酸を加えたもの)を用いて
上記と同様にして、調製した。活性測定は、25μlの
試料を取り、トリオレインを基質として37℃で行っ
た。表2に示す通り、組換えヒト胃リパーゼの活性を天
然のヒト胃リパーゼの活性と比較した。脂質分解活性
は、全抽出物、可溶性画分及び不溶性画分に検出され
た。ヒト胃リパーゼ遺伝子を欠く対照菌体では活性は全
く存在していなかった。全ホモジネート中に存在するリ
パーゼ活性並びにヒト胃リパーゼの発現レベルが全タン
パク質の約3%であることに照らせば、酵母MD40/
4C及びMD50中で産生されるヒト胃リパーゼのそれ
ぞれ約5%及び約18%が酵素として活性であると算出
できる。
【0075】
【表4】
【0076】ほぼ同様の技術を用いて、ヒト胃プレリパ
ーゼや胃リパーゼ含有融合タンパク質をコードする遺伝
子を発現させることができる。
【0077】(iii)動物組織培養細胞 Pavlakis,G.N.及びHamer,D.H.の報文
(Proc. Natl. Acad. Sci. USA,
, 397−401 (1983))に記載されたベクタ
ーをもとに、ヒト胃プレリパーゼ発現用のプラスミドベ
クターを構築することができる。これらのベクターは、
メタロチオネイン遺伝子プロモーターを含んでいて、ヒ
ト胃プレリパーゼを発現する。この系の産生する酵素は
細胞膜を通して分泌され、組織培養の培地中で上述のよ
うにして活性測定し、上記培地から精製される。組織培
養した動物細胞は、成熟型胃リパーゼを生産するための
プロセッシング機能を有しているものと思われる。
【0078】本発明の上述の説明は純粋に例示を目的と
して記載したものであり、本発明の要旨を変更しない範
囲で細部に変更を加えることができることはいうまでも
ない。
【図面の簡単な説明】
【図1】2種類のヒト胃リパーゼ標品のSDSポリアク
リルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)の結果を
示したものである。レーンAはヒト胃リパーゼの精製標
品であり、レーンBはヒト胃リパーゼ抽出物の部分精製
標品であり、レーンCは分子量基準マーカーである。
【図2】プラスミドpGL17の制限酵素地図である。
この図において、(a)は制限酵素地図であり、(b)
は図3に示したDNA配列の範囲を示したものであり、
(c)はヒト胃リパーゼタンパク質配列の位置をシグナ
ル配列(太線部分)の位置と共に示したものである。
【図3】ヒト胃プレリパーゼ遺伝子のコーディング鎖
(すなわちアンチセンス鎖)のDNA配列を、対応する
アミノ酸配列と共に示したものである。
【図4】プラスミドpCML1の制限酵素地図を示した
ものである。
【図5】プラスミドpMG197の制限酵素地図を示し
たものである。
【図6】プラスミドpMG197で形質転換した大腸菌
によって産生されたヒト胃リパーゼのウェスタンブロッ
ティング分析の結果を示したものである。
【図7】プラスミドpMG197で形質転換した大腸菌
によって産生されたヒト胃リパーゼのSDS−PAGE
の結果を示したものである。
【図8】酵母プラスミドpYC3の制限酵素地図を示し
たものである。
【図9】プラスミドpYC3で形質転換した酵母によっ
て産生されたヒト胃リパーゼのウェスタンブロッティン
グ分析の結果を示したものである。
【図10】プラスミドpYC3で形質転換した酵母によ
って産生されたヒト胃リパーゼのSDS−PAGEの結
果を示したものである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.5 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C07K 13/00 ZNA 8318−4H 15/12 8318−4H C12N 1/19 7236−4B 1/21 7236−4B 5/10 // C12N 9/20 9359−4B (C12N 1/19 C12R 1:865) (C12N 1/21 C12R 1:19) (C12N 5/10 C12R 1:91) (C12N 9/20 C12R 1:19) (C12N 9/20 C12R 1:865) (C12N 9/20 C12R 1:91)

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 胃粘膜から分泌される哺乳類の胃リパー
    ゼのアミノ酸配列を少なくとも含んでなるタンパク質及
    びそれと機能的に等価な修飾又は置換タンパク質からな
    る群から選択される胃リパーゼタンパク質をコードする
    DNA配列。
  2. 【請求項2】 胃粘膜から分泌される哺乳類の胃リパー
    ゼのアミノ酸配列を少なくとも含んでなるタンパク質及
    びそれと機能的に等価な修飾又は置換タンパク質からな
    る群から選択される胃リパーゼタンパク質をコードする
    DNA配列を含むベクター。
  3. 【請求項3】 請求項2記載のベクターにおいて、当該
    ベクターがpGL17であることを特徴とするベクタ
    ー。
  4. 【請求項4】 請求項2記載のベクターにおいて、当該
    ベクターがpCML1であることを特徴とするベクタ
    ー。
  5. 【請求項5】 請求項2記載のベクターにおいて、当該
    ベクターがpMG197であることを特徴とするベクタ
    ー。
  6. 【請求項6】 胃粘膜から分泌される哺乳類の胃リパー
    ゼのアミノ酸配列を少なくとも含んでなるタンパク質及
    びそれと機能的に等価な修飾又は置換タンパク質からな
    る群から選択される胃リパーゼタンパク質をコードする
    DNA配列を含むベクターを保有する宿主生物。
  7. 【請求項7】 医薬組成物にして、当該医薬組成物が、
    胃粘膜から分泌される哺乳類の胃リパーゼのアミノ酸配
    列を少なくとも含んでなるタンパク質及びそれと機能的
    に等価な修飾又は置換タンパク質からなる群から選択さ
    れる胃リパーゼタンパク質と薬剤に使用可能な賦形剤と
    からなることを特徴とする医薬組成物。
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