JP7842267B1 - 表面処理アルミニウム材の製造方法 - Google Patents

表面処理アルミニウム材の製造方法

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Abstract

【課題】表面硬度が高く、疲労特性に優れた表面処理アルミニウム材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】表面処理アルミニウム材1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材2と、母材上に形成された保護皮膜3とを有している。保護皮膜3は、アルミニウムの酸化物からなり母材2を覆う第一層31と、アルミニウムの水和酸化物を含み第一層31を覆う第二層32とを有している。室温環境中において、応力比0.1、繰返し応力の周波数30Hzの条件で表面処理アルミニウム材1の引張軸力疲労試験を行った場合に、破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力で表される疲労強度が160MPa以上である。
【選択図】図1

Description

本発明は、表面処理アルミニウム材及びその製造方法に関する。
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム材は、種々の用途に利用されている。これらのアルミニウム材の表面には、耐食性の向上、耐傷性の向上及び意匠性の向上などの種々の目的を達成するために陽極酸化皮膜が設けられることがある。陽極酸化皮膜によりアルミニウム材に付与することができる機能は多種多様であるため、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム材の適用分野はますます拡大している。
例えば特許文献1には、陽極酸化皮膜の硬度、弾性率及び耐食性を向上させることを目的として、ケイ素が4.0~24.0質量%添加されたアルミニウム合金の陽極酸化処理をする際、処理時間を60分以内とし、前記処理時間内に10μm以上25μm以下の膜厚の陽極酸化皮膜を生成させるアルミニウム合金の陽極酸化処理方法が記載されている。
特開2022-155917号公報
しかし、アルミニウム合金材の表面に陽極酸化皮膜を形成すると、アルミニウム合金材の疲労寿命が短くなりやすいという問題がある。特に、封孔処理によって陽極酸化皮膜の細孔を閉塞した場合には、疲労寿命が顕著に短くなりやすいという問題がある。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、表面硬度が高く、疲労特性に優れた表面処理アルミニウム材およびその製造方法を提供しようとするものである。
本発明の一参考態様は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材と、前記母材上に形成された保護皮膜と、を有する表面処理アルミニウム材であって、
前記保護皮膜は、アルミニウムの酸化物からなり、前記母材を覆う第一層と、
アルミニウムの水和酸化物を含み、前記第一層を覆う第二層と、を有し、
室温環境中において、応力比0.1、繰返し応力の周波数30Hzの条件で前記表面処理アルミニウム材の引張軸力疲労試験を行った場合に、破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力で表される疲労強度が160MPa以上である、表面処理アルミニウム材にある。
本発明の態様は、前記の態様の表面処理アルミニウム材の製造方法であって、
前記母材を準備し、
前記母材に陽極酸化処理を施すことにより前記母材上に前記第一層を形成し、
その後、前記母材及び前記第一層を、50℃以上600℃以下の温度で3分以上48時間以下加熱し、
その後、前記第一層に封孔剤を接触させて前記第二層を形成する、表面処理アルミニウム材の製造方法にある。
前記表面処理アルミニウム材(以下、「アルミニウム材」という。)は、アルミニウムの酸化物からなる第一層と、アルミニウムの水和酸化物を含み第一層を被覆する第二層とを備え、母材上に形成された保護皮膜を有している。そのため、前記表面処理アルミニウム材は高い表面硬度を有している。
また、前記アルミニウム材は、前記特定の条件で引張軸力疲労試験を行った場合に、破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力で表される疲労強度が160MPa以上である。かかるアルミニウム材は、優れた疲労特性を有しており、荷重が繰り返し加わった場合においても亀裂の発生を抑制することができる。
前記表面処理アルミニウム材の製造方法においては、前記母材に陽極酸化処理を施すことにより第一層を形成する。そして、第一層を前記特定の範囲内の条件で加熱した後に第二層を形成する。このようして形成されたアルミニウム材は、高い表面強度を有するとともに優れた疲労特性を有している。
以上のように、前記の態様によれば、表面硬度が高く、疲労特性に優れた表面処理アルミニウム材およびその製造方法を提供することができる。
図1は、実施例における表面処理アルミニウム材の断面図である。 図2は、実施例の表面処理アルミニウム材の製造過程において、第一層が形成された母材の断面図である。 図3は、実施例における試験材A1及び試験材B1のS-N線図の説明図である。 図4は、実施例における試験材A2及び試験材B2のS-N線図の説明図である。 図5は、実施例における試験材A3及び試験材B3のS-N線図の説明図である。
(表面処理アルミニウム材)
前記アルミニウム材の母材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている。母材の形状は特に限定されることはなく、アルミニウム材の用途に応じて種々の形状をとり得る。例えば、母材は、圧延板や押出材などの展伸材であってもよく、鋳造材や鍛造材であってもよい。また、母材には所望の形状に成形するための機械加工が施されていてもよい。母材の形状が板状である場合、母材の厚みは特に限定されることはない。より具体的には、母材は、例えば、1mm程度の厚みを有する冷延板であってもよく、50mm程度の厚みを有する熱延板であってもよい。
母材は、押出材であることが好ましい。押出材は、比較的高い疲労強度を求められる用途に用いられる場合が多い。それ故、母材としての押出材の表面に前記保護皮膜を形成することにより、前述した効果をより有効に利用することができる。
母材の材質は、アルミニウム材の用途に応じて、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる群の中から適宜選択することができる。より具体的には、母材を構成するアルミニウムとしては、例えば、1000系アルミニウムを使用することができる。また、母材を構成するアルミニウム合金としては、例えば、2000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、4000系アルミニウム合金、5000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、7000系アルミニウム合金及び8000系アルミニウム合金を使用することができる。また、母材は、互いに異なる化学成分を有する2つ以上の層が積層されたクラッド材であってもよい。
母材は、6000系アルミニウム合金または7000系アルミニウム合金から構成されていることが好ましい。これらのアルミニウム合金は、アルミニウム合金の中でも比較的高い強度を有している。そのため、これらの合金から構成された母材の表面に前記保護皮膜を形成することにより、前記アルミニウム材の疲労強度をより高めることができる。
前記母材上には、母材上に積層された第一層と、第一層に積層された第二層とを含む保護皮膜が設けられている。保護皮膜の厚みは10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。この場合には、アルミニウム材の表面硬度をより確実に高めるとともに、アルミニウム材の耐食性をより向上させることができる。保護皮膜の厚みの上限は特に限定されることはないが、保護皮膜の厚みの製造上の上限は、例えば200μmである。前記アルミニウム材の生産性をより高める観点からは、保護皮膜の厚みは150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましい。
保護皮膜の厚みの好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した保護皮膜の上限と下限とを任意に組み合わせることができる。保護皮膜の厚みの好ましい範囲は、例えば、10μm以上200μm以下であってもよく、10μm以上150μm以下であってもよく、15μm以上100μm以下であってもよく、15μm以上60μm以下であってもよく、20μm以上60μm以下であってもよい。
第一層は、アルミニウムの酸化物から構成されている。第一層は、細孔を有していてもよい。すなわち、第一層は、ポーラス型の陽極酸化皮膜であってもよい。また、第一層は、細孔を有しない、バリア型の陽極酸化皮膜であってもよい。陽極酸化皮膜の厚みをより容易に厚くする観点からは、第一層は、細孔を有していることが好ましい。また、第一層の細孔は第二層によって封孔されていることが好ましい。この場合には、アルミニウム材の表面硬度をより確実に高めるとともに、アルミニウム材の耐食性をより高めることができる。
第二層にはアルミニウムの水和酸化物が含まれている。アルミニウムの水和酸化物は、化学的な安定性が高いため、前記アルミニウム材を使用している間に変質しにくい。また、アルミニウムの水和酸化物は、耐食性にも優れている。
また、第二層は、例えば、母材に陽極酸化処理を施して第一層を形成した後に、第一層に含まれるアルミニウムの酸化物を水和させることにより形成される。アルミニウムの酸化物を水和させると、アルミニウムの酸化物の表面から水和酸化物が成長するため、アルミニウムの酸化物と水和酸化物との間に欠陥が形成されにくい。従って、第一層上にアルミニウムの水和酸化物を含む第二層を形成することにより、第一層と第二層との界面への欠陥の形成を抑制することができる。そのため、第一層上にアルミニウムの水和酸化物を含む第二層を設けることにより、高い耐食性を長期間に亘って維持することができる。
第二層は、より具体的には、アルミニウムの水和酸化物から構成されていてもよい。また、第二層は、アルミニウムの水和酸化物と、アルミニウム以外の金属元素の酸化物及び/または水酸化物とから構成されていてもよい。第二層に含まれる金属元素としては、例えば、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Zr(ジルコニウム)、Si(シリコン)、Ti(チタン)、Au(金)、Ag(銀)、Co(コバルト)、Mo(モリブデン)、Mn(マンガン)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Zn(亜鉛)、Fe(鉄)、Ir(イリジウム)及びSc(スカンジウム)等が挙げられる。すなわち、第二層は、アルミニウムの水和酸化物と、Ni、Cr、Zr、Si、Ti、Au、Ag、Co、Mo、Mn、Nb、Ta、W、Zn、Fe、Ir及びScからなる群より選択される1種または2種以上の金属元素の酸化物及び/または水酸化物とを含んでいてもよい。
JIS H8683-2:2013に規定された方法により封孔度試験を行った場合における、前記アルミニウム材の単位面積当たりの質量減少量は0.3g/dm2以下であることが好ましい。かかるアルミニウム材は、第一層が第二層によって十分に被覆されている。そのため、封孔度試験における質量減少量を前記特定の範囲内とすることにより、前記アルミニウム材の表面硬度をより容易に高めることができる。
なお、封孔度試験の具体的な方法は以下の通りである。まず、リン酸35mL及び無水クロム酸20gを水に溶解させ、1Lの試験液を準備する。次に、アルミニウム材から保護皮膜を含む試験片を採取し、試験片における保護皮膜の面積を測定する。この試験片の表面の汚れを除去した後、試験片の質量を測定する。その後、試験片を38℃±1℃の温度に保持された試験液中に15分±5秒間浸漬する。
試験液への試験片の浸漬が完了した後、試験片を流水で洗浄し、さらに脱イオン水または蒸留水で洗浄する。洗浄後の試験片を十分に乾燥させた後、試験片の質量を測定する。
以上により得られる、試験片の保護皮膜の面積A(単位:dm)、試験液への浸漬前の試験片の質量m(単位:g)及び試験液への浸漬後の試験片の質量m(単位:g)を用い、下記式(1)に基づいて単位面積当たりの質量減少量δ(単位:g/dm)を算出することができる。
δ=(m-m)/A ・・・(1)
室温環境中において、応力比0.1、繰返し応力の周波数30Hzの条件で前記表面処理アルミニウム材の引張軸力疲労試験を行った場合に、破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力で表される疲労強度が160MPa以上である。かかるアルミニウム材は、優れた疲労特性を有しており、荷重が繰り返し加わった場合においても疲労破壊の進展を抑制し、疲労寿命を向上させることができる。
前記アルミニウム材の引張軸力疲労試験は、より具体的には、JIS Z2271-1978に従い、25℃±5℃の室温環境中で行う。試験片に加える応力は引張応力とし、その応力比、つまり、最大応力に対する最小応力の比は0.1とする。また、引張応力の繰り返し周波数は30Hzとする。以上の条件で、試験片に加える応力を種々変更して引張軸力疲労試験を行い、試験片が破断した時の繰返し数を破断繰返し数とする。
これらの試験結果に基づき、縦軸に試験片に加えた応力の最大値を示し、横軸に破断繰り返し数を示したS-N曲線を作成する。そして、このようにして作製したS-N曲線を、日本材料学会標準:JSMS-SD-6-04「金属材料疲労信頼性評価標準(S-N曲線回帰法)」に従い、回帰モデルとして連続低下型の曲線モデルを用いて解析を行う。このようにして得られる回帰曲線における、破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力を前記アルミニウム材の疲労強度とする。
(アルミニウム材の製造方法)
前記表面処理アルミニウム材は、例えば、
前記母材を準備し、
前記母材に陽極酸化処理を施すことにより前記母材上に前記第一層を形成し、
その後、前記母材及び前記第一層を、50℃以上600℃以下の温度で3分以上48時間以下加熱し、
その後、前記第一層に封孔剤を接触させて前記第二層を形成することにより得られる。以下、前記アルミニウム材の製造方法をより詳細に説明する。
前記表面処理アルミニウム材を作製するに当たっては、まず、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材を準備する。母材の製造方法は特に限定されることはなく、公知の方法を採用することができる。例えば、母材は、鋳造、圧延及び熱処理を適宜組み合わせた方法により作製されていてもよい。母材の鋳造方法としては、DC鋳造及び連続鋳造のいずれを採用してもよい。また、母材は、鋳造材や鍛造材、展伸材に機械加工を施すことにより所望の形状に成形されていてもよい。前述したように、疲労特性を向上させる効果をより有効に利用する観点からは、母材の準備において、鋳塊に押出加工を行うことにより母材を作製することが好ましい。
また、前記製造方法においては、母材に陽極酸化処理を施す前に、必要に応じて脱脂、エッチング、デスマット、研磨及び研削などの陽極酸化処理の前処理を施してもよい。
前記製造方法においては、このようにして準備された母材に電解液中で陽極酸化処理を施すことにより前記母材上に前記第一層を形成する。陽極酸化処理においては、直流電解、つまり、母材と対極とを電解液に浸漬した状態で、母材と対極との間に直流電流を流す方法により母材の表面に第一層を形成することができる。
陽極酸化処理において用いる電解液は、例えば、硫酸やシュウ酸、リン酸などの電解質を含む酸性電解液であってもよく、メタホウ酸ナトリウムなどの電解質を含むアルカリ性電解液であってもよい。陽極酸化処理において用いる電解液は、金属イオンやアンモニウムイオンなどの無機陽イオンと、硫酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオンからなる群より選択される1種または2種以上の陰イオンとからなる無機電解質を含むことが好ましい。無機電解質を含む電解液を用いて陽極酸化処理を行うことにより、所望の構造を有する第一層をより容易に形成することができる。
陽極酸化処理における直流電流の電流密度は、例えば、1mA/cm以上100mA/cm以下の範囲から適宜設定することができる。また、陽極酸化処理における電解液の温度は、例えば、0℃以上40℃以下の範囲から適宜設定することができる。
陽極酸化処理において形成される第一層の厚みは、10μm以上であることが好ましい。第一層の厚みを10μm以上とすることにより、封孔後に得られる保護皮膜の厚みを十分に厚くし、前記アルミニウム材の耐食性をより高めることができる。
前記製造方法においては、陽極酸化処理を行った後、前記母材及び前記第一層を50℃以上600℃以下の温度で3分以上48時間以下加熱する。このように、第一層上に第二層を形成する前に前記特定の条件で第一層を加熱することにより、前記アルミニウム材の疲労強度を向上させることができる。
第一層の加熱によって前述した効果が得られる理由は現時点では必ずしも明確ではないが、例えば、以下の理由が考えられる。母材上に形成された第一層には複数の歪みが存在しており、これらの歪みは、個々の歪みの状態に応じた温度で加熱された際に解放されると考えられる。そのため、陽極酸化処理によって第一層を形成した後に第一層を加熱すると、第一層内に存在する歪みのうち、第一層の加熱温度に応じて歪みが解放され、内部応力が緩和されると考えられる。また、第一層の内部応力が緩和された後に第二層を形成することにより、荷重が繰り返し印加された場合においてもクラックが生じにくい保護皮膜を形成することができると考えられる。そして、このように、繰り返し荷重に対する保護皮膜の耐久性を向上させることにより、保護皮膜に生じるクラックを起点とした母材の疲労破壊の進展を抑制することができると考えられる。以上の結果、前記アルミニウム材の疲労特性を向上させることができると考えられる。
保護皮膜の耐熱性をより高める観点からは、第一層の加熱温度は70℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましく、150℃以上であることが特に好ましい。第一層の加熱温度が50℃未満の場合には、第一層の内部応力の緩和が不十分となりやすい。そのため、この場合には、荷重が繰り返し印加された場合に保護皮膜にクラックが発生しやすくなり、前記アルミニウム材の疲労特性の低下を招くおそれがある。
一方、第一層の加熱温度が過度に高い場合には、加熱中に母材が溶融したり、母材の熱膨張に第一層が追従できず、第一層を加熱している間に第一層にクラックが発生したりするおそれがある。第一層の加熱温度を600℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは400℃以下、さらに好ましくは350℃以下、特に好ましくは300℃以下とすることにより、かかる問題を容易に回避することができる。
第一層の加熱温度の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した第一層の加熱温度の上限と下限とを任意に組み合わせることができる。例えば、第一層の加熱温度の好ましい範囲は、70℃以上500℃以下であってもよく、100℃以上400℃以下であってもよく、120℃以上350℃以下であってもよく、150℃以上300℃以下であってもよい。
また、第一層の加熱における加熱時間を3分以上48時間以下とすることにより、第一層の内部応力を十分に緩和し、アルミニウム材の疲労特性を向上させることができる。
第一層の加熱は、母材の熱処理を兼ねていてもよい。例えば、前記母材及び前記第一層の加熱において、前記母材に溶体化処理または人工時効処理からなる群より選択されるいずれか1種の熱処理を行うこともできる。第一層の加熱と同時にこれらの熱処理を行うことにより、母材の強度をより向上させることができる。その結果、前記アルミニウム材の疲労強度をより高めることができる。
前記製造方法においては、第一層を加熱した後に、第一層に封孔剤を接触させて第二層を形成する。封孔剤としては、例えば、温度80℃以上の温水や水蒸気、Ni、Cr、Zr、Si、Ti、Au、Ag、Co、Mo、Mn、Nb、Ta、W、Zn、Fe、Ir及びScからなる群より選択される1種または2種以上の金属元素のイオンを含む水溶液等の、アルミニウムの酸化物と反応して水和酸化物を形成可能な物質を使用することができる。温水または水蒸気を用いて封孔処理を行う場合には、第一層上に、アルミニウムの水和酸化物からなる第二層を形成することができる。
また、前記金属元素のイオンを含む水溶液を封孔剤として用いる場合には、第一層上に、アルミニウムの水和酸化物と、前記金属元素の酸化物及び/または水酸化物とを含む第二層を形成することができる。前記金属元素は、前記水溶液中において金属イオンとして存在していてもよく、錯イオンとして存在していてもよい。封孔剤としては、より具体的には、酢酸ニッケル水溶液、酢酸コバルト水溶液、フッ化ニッケル水溶液、クロム酸塩水溶液及びケイ酸塩水溶液などの、前記金属元素を含む金属塩の水溶液などを使用することができる。
耐食性及び耐熱性に優れたアルミニウム材をより容易に得る観点からは、封孔剤が温度80℃以上の温水であることが好ましい。封孔剤として温水を用いる場合には、第一層を、封孔剤としての80℃以上の温水に10分以上120分未満接触させることにより第二層を形成することがより好ましい。
前記表面処理アルミニウム材及びその製造方法の実施例を、図1~図3を参照しつつ説明する。本例の表面処理アルミニウム材1は、図1に示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材2と、母材上に形成された保護皮膜3と、を有している。保護皮膜3は、アルミニウムの酸化物からなり、母材2を覆う第一層31と、アルミニウムの水和酸化物を含み、第一層31を覆う第二層32と、を有している。室温環境中において、応力比0.1、繰返し応力の周波数30Hzの条件で前記表面処理アルミニウム材の引張軸力疲労試験を行った場合に、破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力で表される疲労強度が160MPa以上である。
本例のアルミニウム材1を作製するに当たっては、まず、母材2に陽極酸化処理を施すことにより、図2に示すように母材2上に第一層31を形成する。その後、母材2及び第一層31を、50℃以上600℃以下の温度で3分以上48時間以下加熱して第一層31の内部応力を緩和する。そして、加熱された後の第一層31に封孔剤を接触させて第二層32を形成することにより、アルミニウム材1を得ることができる。
表1に、アルミニウム材1の具体例(試験材A1~A3)を示す。これらの試験材の作製方法は、例えば以下の通りである。
(試験材A1)
試験材A1を作製するに当たっては、まず、DC鋳造により合金番号A6061で表される化学成分を有する鋳塊を作製する。この鋳塊を555℃の温度に5時間保持して均質化処理を行った後、500℃の温度で熱間押出を行うことにより、直径15mmの丸棒状のアルミニウム押出材を作製する。
この押出材を適当な長さの小片に切断した後、この小片に溶体化処理を行う。溶体化処理においては、前記小片を525℃の温度で30分間加熱し、次いでファン空冷により焼入れを行う。溶体化処理を行った後、小片を175℃の温度に8時間保持して人工時効処理を行う。その後、小片に機械加工及びバフ研磨を行い、ASTM E446-2021に規定された試験片の形状に準じた形状に成形する。以上により母材2を得ることができる。
次に、母材2に陽極酸化処理の前処理を施す。具体的には、前処理として、まずエタノール浴中で母材2の超音波洗浄を行う。母材2に前処理を行った後、母材2に陽極酸化処理としての直流電解を行い、母材2の表面に第一層31を形成する。陽極酸化処理において用いる電解液は濃度15質量%の硫酸水溶液とし、電解液の温度は5℃とする。また、陽極酸化処理における電流密度は10mA/cmとし、処理時間は60分とする。このようにして形成される第一層31は、いわゆるポーラス型のアルマイト皮膜であり、図2に示すように、多数の細孔311を有している。なお、前述した条件で陽極酸化処理を行うことにより形成される第一層31の厚みはおよそ15μmである。
陽極酸化処理を行った後、母材2を170℃の温度に設定した加熱炉内で30分間加熱し、第一層31の内部応力を緩和する。
その後、第一層31を備えた母材2を、封孔剤としての温度100℃の温水に60分間浸漬することにより、第一層31上にアルミニウムの水和酸化物からなる第二層32を形成するとともに、第二層32によって第一層31の細孔311を封孔する。以上により、試験材A1を得ることができる。なお、このような条件で形成される保護皮膜3の厚みはおよそ15μmである。また、このような条件で第一層31の細孔311を封孔する場合、JIS H8683-2:2013に規定された方法により封孔度試験を行った場合における、アルミニウム材1の単位面積当たりの質量減少量は概ね0.01g/dm2となる。
(試験材A2)
試験材A2は、母材が7000系合金から構成されている点を除き、試験材A1と概ね同様の構成を有している。試験材A2を作製するに当たっては、まず、DC鋳造により7000系合金からなる鋳塊を作製する。この鋳塊を470℃の温度に6時間保持して均質化処理を行った後、450℃の温度で熱間押出を行うことにより、直径15mmの丸棒状のアルミニウム押出材を作製する。この押出材を適当な長さに切断した後、機械加工及びバフ研磨を行うことにより、ASTM E446-2021に規定された試験片の形状に準じた形状の母材2を作製する。
次に、母材2に陽極酸化処理の前処理を施す。具体的には、前処理として、まずエタノール浴中で母材2の超音波洗浄を行う。母材2に前処理を行った後、母材2に陽極酸化処理としての直流電解を行い、母材2の表面に第一層31を形成する。陽極酸化処理において用いる電解液は濃度15質量%の硫酸水溶液とし、電解液の温度は5℃とする。また、陽極酸化処理における電流密度は10mA/cmとし、処理時間は60分とする。
陽極酸化処理を行った後、母材2を120℃の温度に設定した加熱炉内で24時間加熱し、第一層31の内部応力を緩和するとともに母材2の人工時効処理を行う。
その後、第一層31を備えた母材2を、封孔剤としての温度100℃の温水に60分間浸漬することにより、第一層31上にアルミニウムの水和酸化物からなる第二層32を形成するとともに、第二層32によって第一層31の細孔311を封孔する。以上により、試験材A2を得ることができる。
(試験材A3)
試験材A3は、試験材A2と概ね同様の構成を有している。試験材A3を作製するに当たっては、まず、試験材A2の作製方法と同様の方法により、母材2の表面に第一層31を形成する。その後、母材2を400℃の温度で1時間保持した後、ファン空冷により焼入れを行うことにより、第一層31の内部応力を緩和するとともに母材2の溶体化処理を行う。その後、母材2を120℃の温度に設定した加熱炉内で24時間加熱することにより、母材2の人工時効処理を行う。
その後、第一層31を備えた母材2を、封孔剤としての温度100℃の温水に60分間浸漬することにより、第一層31上にアルミニウムの水和酸化物からなる第二層32を形成するとともに、第二層32によって第一層31の細孔311を封孔する。以上により、試験材A3を得ることができる。
(試験材B1)
表1に示す試験材B1は、試験材A1との比較のための試験材である。試験材B1の作製方法は、第一層を形成した後、加熱を行わずに第二層を形成する点以外は試験材A1の作製方法と同様である。
(試験材B2)
表1に示す試験材B2は、試験材A2との比較のための試験材である。試験材B2の作製方法は、母材2に人工時効処理を行った後に陽極酸化処理の前処理を行う点、及び、第一層を形成した後、加熱を行わずに第二層を形成する点以外は試験材A2の作製方法と同様である。なお、試験材B2における人工時効処理の条件は、試験材A2における人工時効処理の条件と同一である。
(試験材B3)
表1に示す試験材B3は、試験材A3との比較のための試験材である。試験材B3の作製方法は、母材2に溶体化処理及び人工時効処理を行った後に陽極酸化処理の前処理を行う点、及び、第一層を形成した後、加熱を行わずに第二層を形成する点以外は試験材A3の作製方法と同様である。なお、試験材B3における溶体化処理及び人工時効処理の条件は、試験材A3における溶体化処理及び人工時効処理の条件と同一である。
次に、試験材A1~A3及び試験材B1~B3の疲労特性の評価方法を説明する。前記試験材の疲労特性は、前記試験材の引張軸力疲労試験の結果に基づいて評価することができる。引張軸力疲労試験は、ASTM E446-2021に従い、25℃±5℃の室温環境中で行う。試験片に加える応力は引張応力とし、その応力比、つまり、最大応力に対する最小応力の比は0.1とする。また、引張応力の繰り返し周波数は30Hzとする。以上の条件で、試験片に加える応力を種々変更して引張軸力疲労試験を行い、試験片が破断した時の繰返し数を破断繰返し数とする。
これらの試験結果を、縦軸に試験片に加えた応力の最大値を表し、横軸に破断繰り返し数の常用対数を表したグラフにプロットすることによりS-N線図を作成する。図3に、試験材A1及び試験材B1のS-N線図の一例を示す。図4に、試験材A2及び試験材B2のS-N線図の一例を示す。図5に、試験材A3及び試験材B3のS-N線図の一例を示す。
このようにして作製したS-N曲線を、日本材料学会標準:JSMS-SD-6-04「金属材料疲労信頼性評価標準(S-N曲線回帰法)」に従い、回帰モデルとして連続低下型の曲線モデルを用いて解析を行うことにより、前述した試験結果の回帰曲線を決定する。そして、この回帰曲線において、破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力を決定する。以上の操作を各試験材について行い、これらの試験における破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力を疲労強度とする。表1に、各試験材における疲労強度を示す。
表1に示すように、試験材A1~A3の製造過程においては、第一層が前記特定の範囲内の条件で加熱された後に第二層が形成されている。そのため、これらの試験材の疲労強度は160MPa以上となる。それ故、これらの試験材は、表面硬度が高く、疲労特性に優れている。
これに対し、試験材B1~B3の製造過程においては、母材上に第一層を形成した後、第一層を加熱することなく第二層が形成されている。そのため、これらの試験材の疲労強度は160MPa未満となる。それ故、これらの試験材は、疲労特性に劣っている。
以上、実施例に基づいて前記表面処理アルミニウム材及びその製造方法の態様を説明したが、本発明に係る表面処理アルミニウム材およびその製造方法の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で適宜構成を変更することができる。
例えば、前記表面処理アルミニウム材は、以下の〔1〕~〔3〕に係る態様を採り得る。
〔1〕アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材と、前記母材上に形成された保護皮膜と、を有する表面処理アルミニウム材であって、
前記保護皮膜は、アルミニウムの酸化物からなり、前記母材を覆う第一層と、
アルミニウムの水和酸化物を含み、前記第一層を覆う第二層と、を有し、
室温環境中において、応力比0.1、繰返し応力の周波数30Hzの条件で前記表面処理アルミニウム材の引張軸力疲労試験を行った場合に、破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力で表される疲労強度が160MPa以上である、表面処理アルミニウム材。
〔2〕前記母材が6000系アルミニウム合金または7000系アルミニウム合金から構成されている、〔1〕に記載の表面処理アルミニウム材。
〔3〕JIS H8683-2:2013に規定された方法により封孔度試験を行った場合における、単位面積当たりの質量減少量が0.3g/dm2以下である、〔1〕または〔2〕に記載の表面処理アルミニウム材。
また、前記表面処理アルミニウム材の製造方法は、以下の〔4〕~〔6〕に係る態様を採り得る。
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の表面処理アルミニウム材の製造方法であって、
前記母材を準備し、
前記母材に陽極酸化処理を施すことにより前記母材上に前記第一層を形成し、
その後、前記母材及び前記第一層を、50℃以上600℃以下の温度で3分以上48時間以下加熱し、
その後、前記第一層に封孔剤を接触させて前記第二層を形成する、表面処理アルミニウム材の製造方法。
〔5〕前記母材の準備において、鋳塊に押出加工を行うことにより前記母材を作製する、〔4〕に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
〔6〕前記母材及び前記第一層の加熱において、前記母材に溶体化処理または人工時効処理からなる群より選択される少なくとも1種の熱処理を行う、〔4〕または〔5〕に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
1 表面処理アルミニウム材
2 母材
3 保護皮膜
31 第一層
32 第二層

Claims (5)

  1. アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材と、前記母材上に形成された保護皮膜と、を有し
    前記保護皮膜は、アルミニウムの酸化物からなり、前記母材を覆う第一層と、
    アルミニウムの水和酸化物を含み、前記第一層を覆う第二層と、を有し、
    室温環境中において、応力比0.1、繰返し応力の周波数30Hzの条件で引張軸力疲労試験を行った場合に、破断繰り返し数が1.0×106であるときの最大応力で表される疲労強度が160MPa以上である、表面処理アルミニウム材の製造方法であって、
    前記母材を準備し、
    前記母材に陽極酸化処理を施すことにより前記母材上に前記第一層を形成し、
    その後、前記母材及び前記第一層を、50℃以上600℃以下の温度で3分以上48時間以下加熱し、
    その後、前記第一層に封孔剤を接触させて前記第二層を形成する、表面処理アルミニウム材の製造方法
  2. 前記母材が6000系アルミニウム合金または7000系アルミニウム合金から構成されている、請求項1に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法
  3. JIS H8683-2:2013に規定された方法により封孔度試験を行った場合における、単位面積当たりの質量減少量が0.3g/dm2以下である、請求項1または2に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法
  4. 前記母材の準備において、鋳塊に押出加工を行うことにより前記母材を作製する、請求項1または2に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
  5. 前記母材及び前記第一層の加熱において、前記母材に溶体化処理または人工時効処理からなる群より選択される少なくとも1種の熱処理を行う、請求項1または2に記載の表面処理アルミニウム材の製造方法。
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