JP7543684B2 - 微生物燃料電池アノード形成用組成物、アノードおよび微生物燃料電池 - Google Patents

微生物燃料電池アノード形成用組成物、アノードおよび微生物燃料電池 Download PDF

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Description

本発明は、微生物燃料電池アノード形成用組成物に関する。
近年、生体触媒の酵素を用いたバイオ燃料電池、微生物を用いた微生物燃料電池などの生物燃料電池の開発が進められている。微生物燃料電池は、発電菌と呼ばれる微生物により有機物を分解する際に生じる電子を回収し、電気エネルギーとして利用する発電方法である。例えば、生活廃水や産業廃水などの浄化に用いた場合、廃水中の有機物の分解処理と発電が並行して行えるため、消費エネルギーを低減できる水処理方法としても期待されている(非特許文献1)。また、微生物燃料電池は、水や底泥、土壌などに含まれる有機物で発電出来るため、廃水や土壌における電源としての利用も期待出来る。
このような微生物燃料電池の構成には、二槽型と一槽型が知られている(特許文献1、非特許文献2)。アノードでの微生物による分解反応から生じた電子が外部回路を経由し、カソードにて還元反応で消費される点は共通している。二槽型はイオン交換膜などの隔壁で両極を分け、酸素やフェリシアン化カリウムなどの酸化剤をカソードで反応させている。一方、一槽型は隔壁が無く、一つの槽内にカソードおよびアノードを配置する。
微生物燃料電池に用いられるカソードおよびアノードの材料においては電極反応において導電性が必要であり、導電性の多孔質材料を使用するのが一般的である(特許文献1~3)。カソードでは電極上で酸素を還元する必要があるため、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス、または活性炭シートなどのカーボン材料や、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル、またはチタンなどの金属材料が使われる。さらに、それら材料に白金などの酸素還元触媒を担持させて使用することも知られている。一方、アノードでは有機物を分解して電子を取り出す発電菌を多くコンタクトさせるために、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス、または活性炭シートなどのカーボン材料や、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケル、またはチタンなどの金属材料が使われることが知られている(特許文献2、3)。それらの電極反応の効率はいまだ不十分であり、発電特性の向上が課題となっている。
これらの課題解決のために、アノード反応効率を改善する必要があり、微生物の担持量や活性を高めることが望ましい。また、微生物反応を妨げることのない電極部材、特に樹脂を選択する必要があり、かつ樹脂総量は少ない方が望ましい。例えば、特許文献4では、導電性カーボン材料と樹脂とを含む導電部で非導電性基材を被覆する積層体が開示されている。しかしながら、さらなる発電効率の向上は課題として残っており、さらには安定した発電効率を維持出来る耐久性まで両立出来るような技術が求められている。
特開2004-342412号公報 特開2010-102953号公報 特開2015-002070号公報 国際公開第2016/129678号パンフレット
微生物燃料電池による廃水処理システム最前線、(株)エヌ・ティー・エス Environmental Science&Technology,2004,38,4040-4046
本発明の目的は、発電量に優れたアノード用組成物、電極を提供し、発電特性や耐久性に優れる電池を提供することである。
本発明者らは、前記の諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
即ち本発明は、導電材と、水溶性樹脂とを含有する微生物燃料電池アノード形成用組成物に関する。
また、本発明は、さらに、水性樹脂微粒子を含有する前記の微生物燃料電池アノード形成用組成物に関する。
また、本発明は、水性液状媒体を含有する前記の微生物燃料電池アノード形成用組成物に関する。
また、本発明は、前記導電材の含有量が、アノード形成用組成物の全固形分の合計100質量%に対して80~99質量%であることを特徴とする前記の微生物燃料電池アノード形成用組成物に関する。
また、本発明は、前記導電材がカーボン材料を含み、前記カーボン材料が、グラファイト(A-a)とグラファイト以外のカーボン材料(A-b)とを含むことを特徴とする前記の微生物燃料電池アノード形成用組成物に関する。
また、本発明は、前記の微生物燃料電池アノード形成用組成物を用いることを特徴とする微生物燃料電池用アノードに関する。
また、本発明は、前記の微生物燃料電池用アノードを用いることを特徴とする微生物燃料電池に関する。
本発明によれば、発電量に優れたアノード用組成物、電極を提供し、発電特性や耐久性に優れる微生物電池を提供することができる。
図1は、実施例29~42および比較例8~10で用いた微生物燃料電池の構造を示す図である。
以下、詳細にわたって本発明の実施形態を説明する。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸および/またはメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレートとはアクリレートおよび/またはメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルアミドとはアクリルアミドおよび/またはメタクリルアミドを意味し、(メタ)アクリロイル基とはアクリロイル基および/またはメタクリロイル基を意味し、(メタ)アクリル系エマルションとはアクリル系エマルションおよび/またはメタクリル系エマルションを意味し、(メタ)アクリル系乳化重合物とはアクリル系乳化重合物および/またはメタクリル系乳化重合物を意味する。
<微生物燃料電池アノード形成用組成物>
本発明の微生物燃料電池アノード形成用組成物(以下、アノード形成用組成物)は、少なくとも導電材と、水溶性樹脂とを含有するものである。本発明によれば、水溶性樹脂が導電材と共に含まれた微生物燃料電池アノード形成用組成物は、塗膜形成された後、水溶性樹脂の微生物との高い親和性により、アノードへの微生物の付着や育成が促進されるため、多くの微生物を担持できる。また、微生物と導電材や基材との結着が強化される。さらに、例えば水中に浸漬した場合に、水溶性樹脂の水との高い親和性による電極の電解液に対する濡れ性の向上とともに、水溶性樹脂の膨潤、あるいは水溶性樹脂の溶出による流路の形成により、微生物燃料電池の発電に必要なプロトンの拡散に優れた電極を提供できる。これらの効果により、本発明によれば、微生物燃料電池の発電特性に加えて耐久性をも向上することができる。
<導電材>
導電材について説明する。導電材は電極での電子伝導性を高め酸化還元反応を進めやすくするために含有される。本発明の導電材としては、カーボン材料や金属材料等が挙げられるが、これに限るものではない。また、2種類以上を併せて使用することもできる。
カーボン材料としては、導電性を有するカーボン材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、カーボン材料には、ヘテロ元素や卑金属元素がドープされていてもよい。
カーボン材料としては、グラファイト(A-a)とグラファイト以外の炭素材料(A-b)とを併用することが好ましい。グラファイト以外の炭素材料(A-b)は、単独で、もしくは2種類以上併せて使用することが出来る。グラファイト(A-a)とグラファイト以外の炭素材料(A-b)とを併用することにより、電極内部の電子パスが密になり、好適な表面形態により物質拡散性も高まるため、高い発電特性が得られる。
カーボン材料に含まれるグラファイト(A-a)の含有率[(A-a)/{(A-a)+(A-b)}×100]は、好ましくは5~99質量%であり、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは15~85%である。
グラファイトとしては、例えば人造黒鉛や天然黒鉛等を使用することが出来る。人造黒鉛としては、無定形炭素の熱処理により、不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般的には石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として製造される。天然黒鉛としては、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等を使用することが出来る。また、鱗片状黒鉛を化学処理等した膨張黒鉛(膨張性黒鉛ともいう)や、膨張黒鉛を熱処理して膨張化させた後、微細化やプレスにより得られた膨張化黒鉛等を使用することも出来る。
これら黒鉛の表面は、本発明の特性を損なわない限りにおいてバインダー樹脂との親和性を増すために、表面処理、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、シランカップリング処理、および酸化処理等が施されていてもよい。
これらの黒鉛の中でも、導電性の観点から、天然黒鉛が好ましく、球状黒
鉛、鱗状黒鉛、および膨張化黒鉛等の薄片状黒鉛が好ましい。
また、用いるグラファイトの平均粒径は、0.5~500μmが好ましく、特に、2~100μmが好ましい。
本発明でいう平均粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
市販のグラファイトとしては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となるが、カーボンブラックの分散性が低くなるため、具体的には、比表面積で、10m/g以上、3000m/g以下、好ましくは20m/g以上、1500m/g以下のものを使用することが望ましい。なお、比表面積は、窒素ガスを吸着質としたBET法(JIS Z 8803:2013)により測定できる。
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005~1μmが好ましく、特に、0.01~0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUER BLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC-300J、EC-600JD等のケッチェンブラック、デンカ社製のデンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のアセチレンブラックが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
活性炭としては、具体的にはフェノール系、ヤシガラ系、レーヨン系、アクリル系、石炭-石油系ピッチコークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等を賦活した活性炭を挙げることができる。同じ質量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m2/g以上が好ましく、より好ましくは500~5000m2/g、さらに好ましくは1000~3000m2/gである。
導電性炭素繊維としては石油由来の原料から焼成して得られるものが良いが、植物由来の原料からも焼成して得られるものも用いることが出来る。また、カーボンナノチューブには、グラフェンシートが一層でナノメートル領域の直径を有するチューブを形成する単層カーボンナノチューブと、グラフェンシートが多層である多層カーボンナノチューブがある。そのため、多層カーボンナノチューブの直径は、典型的な単層カーボンナノチューブの0.7-2.0nmに対して、30nmと大きい値を示す。
市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.0,EC1.5,EC2.0,EC1.5-P等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube9100、FloTube9110、FloTube9200、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T等が挙げられる。
金属材料としては、導電性を有する金属材料であれば特に限定されるものではないが、アルミニウム、チタン、ニッケル、鉄、スズ、銅等の卑金属や、銀、金、白金等の貴金属、ステンレス、真鍮、ジュラルミン等の合金等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。用いる金属材料は、粉末状であることが好ましい。用いる金属材料の粒径は、一次粒子径で0.005μm~1mmが好ましく、特に、0.01~100μmが好ましい。
導電材であるカーボン材料や金属材料のアノード形成用組成物中の分散粒径は、0.01μm以上、10μm以下に微細化することが望ましい。
導電材の平均比表面積は、5~300m/gが好ましく、20~100m/gはさらに好ましい。ここで、導電材の平均比表面積とは、アノード形成用組成物中に含まれる導電材の比表面積の相加平均をいう。例として、導電材として2種の導電材C1及びC2を使用する場合を示す。導電材C1の比表面積がA1 m/g、導電材C1の組成物中の添加量がB1 g、導電材C2の比表面積がA2 m/g、添加量がB2 gであった場合、導電材の平均比表面積は、以下の式1で表される。
(A1×B1+A2×B2)/(B1+B2) …式1
導電材の平均比表面積が5m/g以上である場合、アノードの表面積が大きくなり、微生物の吸着性が向上する。また、導電材の平均比表面積が300m/g以下であると、アノードの表面粗さが大きくなり、微生物の吸着性が向上する。
<水溶性樹脂>
本発明の水溶性樹脂とは、25℃の水99g中に樹脂1gを入れて撹拌し、25℃で24時間放置した後、分離・析出せずに水中で樹脂が完全に溶解可能なものである。上述のように、水溶性樹脂には、微生物担持量やプロトン拡散を向上する効果がある。
水溶性樹脂としては、アニオン性樹脂、カチオン性樹脂、アニオン性とカチオン性の性質を併せ持つ両性樹脂、またそれ以外のノニオン性樹脂に大別され、更にその樹脂が複数の単量体から構成されてもよい。また、水溶性樹脂は1種単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
アニオン性樹脂としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびそれらを一部あるいは全てを中和した骨格を含有する樹脂が挙げられる。例示すると、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、2-スルホエチルメタクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどの重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物およびそれらのアルカリ中和物等が挙げられる。
カチオン性樹脂としては、環状を含むアミノ基およびアミノ基の一部あるいは全て中和
した骨格や4級アンモニウム塩を含有する樹脂等が挙げられる。例示すると、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジンなどの重合性単量体の単独重合物、または他の重合性単量体との共重合物およびそれらの酸中和物が挙げられる。
両性樹脂としては、前記アニオン性骨格と前記カチオン性骨格を共に含有する樹脂が挙
げられる。例示すると、スチレン-マレイン酸-N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの共重合物などが挙げられる。
ノニオン性樹脂は、前記アニオン性、カチオン性および両性樹脂以外の樹脂である。例
示すると、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
また、水溶性樹脂は、前記以外にも次に例示する単量体を複数含む共重合体でも良い。
芳香環を有する単量体としては、スチレン、α-メチルスチレンもしくはベンジル(メタ)アクリレートを例示出来る。
鎖式飽和炭化水素基を有する単量体としては、具体的に例示すると、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数1~22のアルキル(メタ)アクリレートがあり、好ましくは炭素数2~12、さらに好ましくは炭素数2~8のアルキル基を有するアルキル基含有アクリレートまたは対応するメタクリレートが挙げられる。これらのアルキル基は分岐してもよく、具体例としては、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ブチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等、脂肪酸ビニル化合物が挙げられる。
更に、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン等、α-オレフィン化合物が挙げられる。
環状飽和炭化水素基を有する単量体としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ポリオキシアルキレン構造を有する単量体としては、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等、末端に水酸基を有し、ポリオキシアルキレン鎖を有するモノアクリレートまたはモノメタアクリレート等、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等、末端にアルコキシ基を有し、ポリオキシアルキレン鎖を有するモノアクリレートまたは対応するモノメタアクリレートがある。また、アルキルビニルエーテル化合物としては、ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等が挙げられる。
また、グリシジル(メタ)クリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のように環式化合物を用いても良い。
水酸基を有する単量体としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール、アリルアルコール等が挙げられる。
また、ビニルアルコールの誘導体である単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステルが例示できる。これらのビニルエステルを共重合し、得られた共重合体を水酸化ナトリウムなどにより鹸化することで、水酸基を形成できる。
窒素含有の単量体としては、N-ビニル-2-ピロリドン、(メタ)アクリルアミド、N-ビニルアセトアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド等のモノアルキロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メチロール)アクリルアミド、N-メチロール-N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド等を例示できる。
更にその他の単量体としては、パーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2-パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート等の炭素数1~20のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート類;
パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、パーフルオロデシルエチレン等のパーフルオロアルキル、アルキレン類等のパーフルオロアルキル基含有ビニルモノマー、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシラノール基含有ビニル化合物及びその誘導体などを挙げることができ、これらの群から複数用いることができる。
エチニル化合物としては、アセチレン、エチニルベンゼン、エチニルトルエン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール等が挙げられる。これらは単独もしくは2種類以上を併用して使用することもできる。
水溶性樹脂の分子量は特に限定されないが、好ましくは質量平均分子量が5,000~2,500,000である。質量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)におけるポリエチレンオキサイド換算分子量を示す。
<水性樹脂微粒子>
本発明のアノード形成用組成物には、さらに、バインダー樹脂として水性樹脂微粒子を含むことが好ましい。水性樹脂微粒子は、樹脂が水中で溶解せずに微粒子の状態で存在するもので、その水分散体は一般的に水性エマルションとも呼ばれる。
水性樹脂微粒子が導電材及び水溶性樹脂と共に分散されたアノード形成用組成物は、塗膜形成された場合、粒子間及び基材との密着性に優れ、強度の高い微生物燃料電池用アノードを提供できる。
また、水性樹脂微粒子と導電材の結着は点接触によるため、微生物が付着しやすい表面形態を形成することができる。また、界面を反応場とする反応を阻害しにくい。更に、密着性に優れることから必要な樹脂は少量で済むため、結果、樹脂による抵抗が低減できる。即ち、導電材と水性樹脂微粒子とを含有するアノード形成用組成物を使用することで、発電性能に優れた微生物燃料電池を提供できる。
更に、水性樹脂微粒子は構成する単量体によっては安価に製造することも可能なため、微生物燃料電池用アノードの製造費を低減できる。
水性樹脂微粒子としては、(メタ)アクリル系エマルション、ニトリル系エマルション、ウレタン系エマルション、ジエン系エマルション(スチレン・ブタジエンゴム(SBR)など)、フッ素系エマルション(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など)等が挙げられる。水溶性高分子と異なり、エマルションは粒子間の結着性と柔軟性(膜の可とう性)に優れるものが好ましい。
また、本発明に用いる水性樹脂微粒子の粒子構造は、多層構造、いわゆるコアシェル粒子にすることもできる。例えば、コア部、またはシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コアとシェルによってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性、バインダーの機械強度を向上させることができる。
本発明に用いる水性樹脂微粒子の平均粒子径は、結着性や粒子の安定性の点から、10~500nmであることが好ましく、10~300nmであることがより好ましい。また、1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されるようになると粒子の安定性が損なわれるので、1μmを超える粗大粒子は多くとも5%以下であることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを表し、動的光散乱法により測定できる。
動的光散乱法による平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。架橋型樹脂微粒子分散液は固形分に応じて200~1000倍に水希釈しておく。該希釈液約5mlを測定装置[(株)日機装社製マイクロトラック]のセルに注入し、サンプルに応じた溶剤(本発明では水)および樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを本発明の平均粒子径とする。
<その他の樹脂>
本発明のアノード形成用組成物には、前述の水溶性樹脂や水性樹脂微粒子に当てはまらない、その他の樹脂をバインダー樹脂として含んでもよい。このような樹脂としては、有機溶剤に溶解させて使用する溶剤系樹脂などを使用することが出来る。本発明のアノード形成用組成物には、その他の樹脂を使用することで、導電材同士、あるいは導電材と基材を強く結着させることが出来るため、良好な発電特性や耐久性を向上させることが出来る。
その他の樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、EVA系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、及びシリコン系樹脂等からなる群から選ばれる1 種以上を含むことができる。ただし、これらの樹脂に限定されるわけではなく、1種単独で用いても良いし、2 種以上併用しても良い。
次に、溶媒について説明する。アノード形成用組成物の材料を均一に混合する場合、溶媒を適宜用いることが出来る。そのような溶媒としては、水性液状媒体が好ましい。本発明に使用する水性液状媒体としては、水を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、導電性基材への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用しても良い。
水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用しても良い。
更に、アノード形成用組成物には、増粘剤、分散剤、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤などを必要に応じて配合できる。
<アノード形成用組成物の調製方法>
アノード形成用組成物の調製方法に特に制限はない。調製方法は、
(1)各成分を同時に分散してもよく、
(2)導電材を溶媒中に分散後、他の材料を添加してもよく、
(3)導電材と水溶性樹脂を溶媒中に分散後、他の材料を添加してもよく、
使用する導電材、水溶性樹脂により最適化することができる。
水性樹脂微粒子を添加する場合、導電材と水溶性樹脂とを水性液状媒体中に分散した後に、水性樹脂微粒子を添加してアノード形成用組成物を作製すると、分散時間の短縮などコストダウンに大きく貢献することができる。
本発明のアノード形成用組成物において、導電材の含有量は、導電性や基材への密着性等から、アノード形成用組成物の全固形分の合計100質量%に対して、好ましくは50~99.9質量%、さらに好ましくは80~99質量%、特に好ましくは85~99質量%である。導電材の含有量が50質量%以上であると、アノード内部での電子パスが発達し、十分な導電性が得られる。導電材の含有量が80質量%以上であると、表面に導電材が露出することによって導電材と微生物の間の電子パスが増加し、アノード反応が促進されるため、電池の発電特性が向上する。
水溶性樹脂の含有量は、アノード形成用組成物の全固形分の合計100質量%に対して、好ましくは0.5~20質量%、さらに好ましくは1~15質量%である。水溶性樹脂の含有量が0.5質量%以上であると、前述の通り、微生物をより多く担持でき、プロトン拡散性が良好なアノードが得られる。また、水溶性樹脂の含有量が20質量%以下であると、電解液中での耐久性が良好なアノードが得られる。
水性樹脂微粒子を含む場合、その含有量は、電極用組成物の全固形分の合計100質量%に対して、好ましくは1~40質量%、さらに好ましくは1~18質量%、特に好ましくは1~8質量%である。水性樹脂微粒子の含有量が1質量%以上であると、アノードの強度が改善する。また、水性樹脂微粒子の含有量が40質量%以下の場合、良好な導電性を有するアノードが得られる。さらに、水性樹脂微粒子の含有量が20質量%以下である場合、水性樹脂微粒子と導電材との点結着により、微生物の吸着に適した表面形態が形成される。さらに、水性樹脂微粒子の含有量が5質量%以下である場合、塗膜表面において導電材がより多く露出するため、微生物と導電材とが接触しやすくなり、アノード反応が促進される。
また、アノード形成用組成物の適正粘度は、組成物の塗工方法によるが、一般には、10mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
<分散機・混合機>
アノード形成用組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
例えば、ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社「フィルミックス」等のホモジナイザー類;ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機;または、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーター及びベッセルがセラミック製又は樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーター及びベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズ、または、ジルコニアビーズ、若しくはアルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。また、強い衝撃で導電材が割れやすいあるいは潰れやすい場合は、メディア型分散機よりは、ロールミルやホモジナイザー等のメディアレス分散機が好ましい。
<微生物燃料電池用アノード>
本発明の微生物燃料電池用アノードは、導電材と水溶性樹脂とを含有する。
本発明の微生物燃料電池用アノードは、種々の方法で得ることができる。アノードの構成としては、特に限定されるものではないが、例えば、あらかじめ微生物を導電材やアノード用組成物などへ混合してからアノードを作製しても良いし、あらかじめ電極を作製しておき、その後に微生物の植種を行っても良い。また、電極を電解液中へ設置した後に電解液中の微生物の吸着によりアノードとして機能させることも出来る。
アノード形成用組成物から電極を作製する場合、特に限定されるものではないが、例えば、
(1)導電材と水溶性樹脂とを混合したアノード形成用組成物を導電性基材へ塗工することにより作製した電極や、
(2)導電材と水溶性樹脂と水性樹脂微粒子とを混合したアノード形成用組成物を導電性基材へ塗工することにより作製した電極や、
(3)導電材と水溶性樹脂と水性液状媒体とを混合したアノード形成用組成物を導電性基材へ塗工することにより作製した電極や、
(4)導電材と水溶性樹脂と水性樹脂微粒子と水性液状媒体とを混合したアノード形成用組成物を導電性基材へ塗工することにより作製した電極、
等が挙げられる。
<導電性基材>
本発明の電極で使用する導電性基材としては、耐腐食性、電気伝導性に優れ、表面積が大きく、反応物及び生成物の拡散に優れるものが良く、材質や形状は特に限定されない。例えばグラファイトペーパー(カーボンペーパー)、グラファイトクロス(カーボンクロス)及びグラファイトフェルト(カーボンフェルト)等のカーボン材料の他、ステンレスメッシュ、銅メッシュや白金メッシュ等の金属材料を用いることができるが、この限りではない。電極に用いる導電性基材には、予め撥水処理しても良い。例えば、PTFEの分散液をカソードに含浸させ、乾燥後400℃前後で加熱することで撥水性が発現する。また、PTFE分散液には導電材を分散させても良い。なお、撥水処理はこれらに限定されるものではない。
<塗工方法>
本発明のアノード形成用組成物を導電性基材に塗布する方法は、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。例示すると、グラビアコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、ダイコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等が使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
本発明の微生物燃料電池用アノードの体積抵抗率は、5×10Ω・cm未満であることが好ましく、さらに好ましくは5×10Ω・cm未満、さらに好ましくは1×10-1Ω・cm未満である。導電性が良好な電極ほど電池の電力を有効に取り出すことが可能となる。
<微生物燃料電池>
本発明の微生物燃料電池には、アノードのほかに、カソード、電解液、外部抵抗などが用いられる。アノードは微生物を含んでおり、カソードは還元触媒を含んでいる。アノードとカソードとは、電解液を介して接しており、カソードは酸化剤と触れることができる位置に配置されている。酸化剤としては、大気中に存在する酸素を用いることが好ましい。また、アノードとカソードとは、外部抵抗を経由して電気的に接続されている。ここで、外部抵抗とは、電気回路における電気抵抗を示す。
アノードでは、微生物の代謝によって有機物が酸化分解されると同時に、電子とプロトンが発生する。発生した電子はアノードに取り込まれ外部抵抗を経由してカソードへと移動する。発生したプロトンは、電解液中を通過して、カソード側へと移動する。また、カソードでは、還元触媒の作用によって、アノード側から移動してきた電子とプロトン、及びカソード付近の酸化剤が反応する。そして、上記の反応が繰り返されることで、カソードとアノードとの間に起電力が発生する。
微生物燃料電池に用いるカソードについては、詳細に後述する。
微生物燃料電池に用いる電解液は、プロトン伝導性を有し、微生物によって酸化分解される基質を含有する。基質は、電子を供与する微生物が代謝可能な物質であれば、特に限定されるものではない。例えば、糖類やタンパク質、脂質などの有機物の他、アンモニアなどの無機物などが挙げられ、それらを1種類以上含有してもよい。したがって、電解液は前記条件を満たす生活廃水、産業廃水、環境廃水(池、湖沼、河川、海)、土壌、汚泥等を用いることができる。また、微生物とアノードとの間で電子伝達を担うメディエーターを導入してもよく、メチレンブルーやニュートラルレッドなどが例示できる。
アノードにおいて電子を供与する微生物は、前記基質を酸化分解し電子を生成するアノード反応を生起するものであれば、単一種でも複数種であってもよい。また、微生物は電解槽内を浮遊あるいはアノード上へ固定化することで電解槽内に保持する。微生物種は特に限定されないが、Shewanella属やGeobacter属に属するものが例示できる。
微生物燃料電池の構成としては、電子供与微生物が保持されたアノードと、酸素還元触媒材料を含むカソードを、電解液として有機廃水等を含む電解槽に隔壁を設けず差し込んだ一槽型構成や、固体高分子形燃料電池のように、固体高分子膜を利用して、アノード槽とカソード槽を隔てた二槽型構成でもよい。更に、面で囲われた電解槽だけでなく、水田や湖沼、河川、海のように囲われていない環境でもよい。例えば、電解液を保持する電解槽内部と酸素を含む大気等の電解槽外部を隔てる液面、側面、底面にカソードが設置される形態や、外気を取り入れることができるカセット型の電極を液中に浸漬する等の形態が考えられる。このとき、カソードの触媒層が電解液と接し、その裏面が酸素を含む大気等と接するように設置される。これにより、電解槽外部から酸素を含む大気等が直接カソードへ流入し、電解液に接したカソード中の触媒上で反応が生起する。
<微生物燃料電池カソード>
以下、微生物燃料電池に用いられるカソードについて説明する。
(カソード用触媒)
カソードで使用出来る触媒について説明する。微生物燃料電池として機能する触媒であれば特に限定されるものではないが、酸素還元触媒を例に説明する。酸素還元触媒は貴金属触媒、卑金属酸化物触媒、炭素触媒、活性炭、還元酵素等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種類以上組み合わせて用いても良い。
(貴金属触媒)
貴金属触媒とは、遷移金属元素のうちルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金から選択される元素を一種以上含む触媒である。これら貴金属触媒は単体でも別の元素や化合物に担持されたものでも良い。中でも、触媒担持炭素材料が好例として挙げられる。触媒担持炭素材料とは、触媒粒子が触媒担時体としての炭素材料上に担持してなるものを指し、公知もしくは市販のものがある。
触媒粒子の炭素材料上への担持率は限定的ではない。触媒粒子として白金を用いた場合は、触媒粒子100質量%に対して、通常1~70質量%程度までの担持が可能である。
本発明に用いる触媒担持体としての炭素材料は、無機材料由来の炭素粒子および/または有機材料を熱処理して得られる炭素粒子であれば特に限定されない。
無機材料由来の炭素粒子としては、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、炭素繊維等が挙げられる。炭素材料は、種類やメーカーによって、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性など様々な物性やコストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択される。
熱処理して炭素粒子となる有機材料としては、熱処理後炭素粒子となる材料であれば特に限定されない。具体的な有機材料としては、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアニリン系樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂系樹脂、ポリイミダゾール系樹脂、ポリピロール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、メラミン系樹脂、ピッチ、褐炭、ポリカルボジイミド、バイオマス、タンパク質、フミン酸等やそれらの誘導体などが挙げられる。
これら炭素材料は、一種類または二種類以上で用いられる。
市販の触媒担持炭素材料としては、例えば、田中貴金属工業社製の
TEC10E50E、TEC10E70TPM、TEC10V30E、TEC10V50E、TEC66E50等の白金担持炭素粒子;
TEC66E50、TEC62E58等の白金-ルテニウム合金担持炭素粒子;
を購入することができるが、これらに限定されるものではない。
(卑金属酸化物触媒)
本発明に用いる卑金属酸化物触媒としては、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、タングステン、およびモリブデンからなる群より選択された少なくとも1種の遷移金属を含む酸化物を使用することができ、より好ましくはこれら遷移金属元素の炭窒化物や、これら遷移金属元素の炭窒酸化物を使用することができる。
前記卑金属酸化物触媒の組成式は、例えば、M1CpNqOr(ただし、M1は遷移金属元素であり、p、q、rは原子数の比を表し、0≦p≦3、0≦q≦2、0<r≦3である。)、M2aM3bCxNyOz(ただし、M2は、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、タングステン、およびモリブデンからなる群より選択される1種の金属であり、M3は、前記群より選択されるM2とは異なる少なくとも1種の金属である。a、b、x、y、zは原子数の比を表し、0.5≦a<1、0<b≦0.5、0<x≦3、0<y≦2、0<z≦3、かつa+b=1である。)で表される。また、これら化合物と導電性化合物を複合化した触媒も好適に使用することができる。
(炭素触媒)
炭素触媒は、1種または2種以上の、炭素材料と、窒素元素および卑金属元素を含有する化合物とを混合し、熱処理を行い作製された炭素触媒であって、従来公知のものを使用できる。炭素触媒に用いられる炭素材料は、無機材料由来の炭素粒子および/または有機材料を熱処理して得られる炭素粒子であれば特に限定されない。一般的に、炭素触媒の活性点としては、炭素粒子表面に卑金属-N4構造(卑金属元素を中心に4個の窒素元素が平面上に並んだ構造)に含まれる卑金属元素や、炭素粒子表面のエッジ部に導入された窒素元素近傍の炭素元素などが挙げられる。そのため、炭素触媒が、上記活性点を構成する窒素元素や卑金属元素を含有することは、酸素還元活性を有する上で重要である。更に、炭素触媒は、BET比表面積が20~2000m/gが好ましく、40~1500m/gがより好ましい。
(活性炭)
活性炭としては、具体的にはフェノール系、ヤシガラ系、レーヨン系、アクリル系、石炭-石油系ピッチコークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)等を賦活した活性炭を挙げることができる。同じ質量でもより広い面積の界面を形成することが可能な、比表面積の大きいものが好ましい。具体的には、比表面積が30m/g以上が好ましく、より好ましくは500~5000m/g、さらに好ましくは1000~3000m/gである。
(還元酵素)
還元酵素としては、酸素を還元出来るものであれば、特に限定されない。具体的には、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ等が挙げられ、1種類でも2種類以上であってもよい。また、必要に応じてメディエーターを含んでも良い。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。
<アノード形成用組成物の調製>
[実施例1]
導電材としてケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)8.8質量%、水溶性樹脂としてPVP K-30(ポリビニルピロリドン、ISPジャパン社製)0.2質量%、水性樹脂微粒子であるポリアクリルエマルション W-168(固形分50質量%、トーヨーケム社製)2質量%、溶媒として水89質量%、をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散して固形分が10質量%となるアノード形成用組成物(1)を得た。
[実施例2~14、比較例1~3]
表1に示す導電材、水溶性樹脂、水性樹脂微粒子、その他の樹脂、溶媒を用いて、アノード形成用組成物(1)と同様の方法でアノード形成用組成物(2)~(17)を作製した。なお、実施例10では、導電材として、鱗状黒鉛FB-150(日本黒鉛社製)8.64質量%とアセチレンブラックHS-100(デンカ社製)0.96質量%とを使用した。また、実施例11~13においては、導電材として、鱗状黒鉛FB-150(日本黒鉛社製)6.75質量%とケッチェンブラックEC-300JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.75質量%とを使用した。
<微生物燃料電池用アノードの作製>
[実施例15~28、比較例4~6]
基材であるカーボンペーパー(大きさ10cm×10cm、東レ社製)上に、実施例1~14及び比較例1~3のアノード形成用組成物(1)~(17)を目付け量が2mg/cmとなるように添加した後、110℃で10分間加熱乾燥し微生物燃料電池用アノード(1)~(17)を作製した。
微生物燃料電池用アノード(15)は、塗膜が剥落したため、以降の評価を実施しなかった。
[比較例7]
基材であるカーボンペーパーをそのまま用いて微生物燃料電池用アノード(18)とした。
<微生物燃料電池>
[実施例29]
図1に示す微生物燃料電池により評価を実施した。500mLの容量を持つ容器内に、土(花と野菜の土:あかぎ農園社)400gと、カソード、アノードを配置し、土中に電解液である水道水250gを加えて微生物燃料電池を作製した。アノードは微生物燃料電池用アノード(1)を使用し、カソードはカーボンフェルトLFP-210(大きさ10cm×10cm、大阪ガスケミカル社製)を用いた。次に、カソードとアノードに配線を取り付けて外部抵抗(8kΩ)に接続し、微生物燃料電池を連続運転させた。
[実施例30~42、比較例8~10]
表1に示す通り、微生物燃料電池用アノード(1)の代わりに微生物燃料電池用アノード(2)~(14)、(16)~(18)を使用した以外は実施例29と同様にして、微生物燃料電池を連続運転させた。
(発電特性評価)
3週間後の微生物燃料電池の電圧と電流をテスターで測定して出力を算出した。下記に判断基準を示し、結果を表1に示す。
◎:発電特性 25μW以上(極めて良好)
〇:発電特性 20μW以上25μW未満(良好)
〇△:発電特性 15μW以上20μW未満(実用上問題なし)
△:発電特性 5μW以上15μW未満(不良)
×:発電特性 5μW未満(極めて不良)
(耐久性評価)
発電特性評価を実施した時点での発電特性を100%とし、さらに3週間後の発電特性を測定して発電特性の維持率を算出して評価した。下記に判断基準を示し、結果を表1に示す。
◎:発電特性維持率 80%以上(極めて良好)
〇:発電特性維持率 70%以上80%未満(良好)
〇△:発電特性維持率 60%以上70%未満(実用上問題なし)
△:発電特性維持率 40%以上60%未満(不良)
×:発電特性維持率 40%未満(極めて不良)
Figure 0007543684000001
表1に示す結果から、本発明のアノード形成用組成物を用いた場合、導電材と水溶性樹脂との組み合わせにより発電特性および耐久性が増大していることが分かる。これは、電極表面近傍に水溶性樹脂が存在することで微生物に対する親和性が高まり、微生物の担持量が増えたため、発電特性とともに耐久性も改善されたためと考えられる。また、水溶性樹脂の水との高い親和性による電極の電解液に対する濡れ性の向上とともに、水溶性樹脂の膨潤、あるいは水溶性樹脂の溶出による流路の形成により、プロトンの拡散が改善され、発電特性が向上したものと考えられる。また、全固形分の合計100質量%に対して、組成物中の導電材の含有率が、80質量%以上の場合、より高い発電特性を示した。導電材間の電子パスが十分存在することから、表面により多くの導電材が露出することによって導電材と微生物の間の電子パスが増加したためと考える。加えて、水溶性樹脂の含有率が20質量%以下の場合、耐久性がより良好であった。これは、電解液に触れた際に溶出・膨潤する成分が少ないことで、アノードの物理的強度が改善されたためと推察される。
さらに、水性樹脂微粒子を使用したものは発電特性や耐久性がより改善した。この理由として、粒子間や粒子-電極基材間を水性樹脂微粒子が点結着したため、微生物が付着しやすい表面形態が形成されて担持量が増加し、かつ、反応界面が増大したことで発電特性が向上したものと考えられる。また、水性樹脂微粒子による強固な結着により耐久性も向上したものと考えられる。また、全固形分の合計100質量%に対して、水性樹脂微粒子の含有率が15質量%以下の場合、発電特性や耐久性がより高かった。これは、水性樹脂微粒子と導電材との点結着により、微生物の吸着に適した表面形態が形成されたためと考察する。さらに、水性樹脂微粒子の含有量が8質量%以下である場合、発電特性が改善された。塗膜表面において導電材がより多く露出することで、微生物と導電材とが接触しやすくなり、アノード反応が促進されたものと考える。
また、導電材として、グラファイトとそれ以外の炭素材料を組み合わせることによって、電池性能が改善したことから、微生物の吸着に好適な表面形態が形成されたと考察した。また、導電材の平均比表面積が5m/g以上である場合、発電特性が向上した。これは、アノードの表面積が大きくなり、微生物の吸着性が向上したためと考える。また、平均比表面積が300m/g以下である場合、耐久性が改善した。アノードの表面粗さが大きくなり、微生物の吸着性が向上したものと考察する。
1容器
2カソード
3アノード
4土
5外部抵抗

Claims (7)

  1. 導電材と、水溶性樹脂とを含有し、前記導電材の含有量が、アノード形成用組成物の全固形分の合計100質量%に対して50質量%以上であり、前記水溶性樹脂の含有量が、アノード形成用組成物の全固形分の合計100質量%に対して0.5~20質量%である、微生物燃料電池アノード形成用組成物。
  2. さらに、水性樹脂微粒子を、アノード形成用組成物の全固形分の合計100質量%に対して1~40質量%含有する請求項1記載の微生物燃料電池アノード形成用組成物。
  3. さらに、水性液状媒体を含有する請求項1又は2記載の微生物燃料電池アノード形成用組成物。
  4. 前記導電材の含有量が、アノード形成用組成物の全固形分の合計100質量%に対して80~99質量%であることを特徴とする請求項1~いずれか記載の微生物燃料電池アノード形成用組成物。
  5. 前記導電材がカーボン材料を含み、前記カーボン材料が、グラファイト(A-a)とグラファイト以外のカーボン材料(A-b)とを含むことを特徴とする請求項1~いずれか記載の微生物燃料電池アノード形成用組成物。
  6. 請求項1~いずれか記載の微生物燃料電池アノード形成用組成物を用いることを特徴とする微生物燃料電池用アノード。
  7. 請求項記載の微生物燃料電池用アノードを用いることを特徴とする微生物燃料電池。
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