JP7495299B2 - マルチコアファイバおよびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、マルチコアファイバおよびその製造方法に関する。
非特許文献1には、マルチコアファイバにおいて、クラッド部に対するコア部の比屈折率差を高比屈折率差(高Δ)にすることによって、コア間のクロストーク特性(以下、XT特性)を抑制することが開示されている。また、特許文献1には、希土類元素と数~数10atm%の窒素(N)とを含むコアを備え、高Δ特性を有する増幅用の希土類添加マルチコアファイバが開示されている。
特開平5-345632号公報
佐々木雄佑ら,"熱拡散コア技術を用いた小MFDマルチコアファイバの接続損失特性",信学技報,OCS2018-88,OPE2018-204(2019-02)
しかしながら、非特許文献1に開示されているマルチコアファイバにおいて、波長1550nmにおけるモードフィールド径(MFD)は、6.1μmまでであり、高密度化には限界があった。例えば、コア数が100を超えるようなマルチコアファイバについては、従来何ら検討されていなかった。一方、特許文献1においては、比屈折率差(Δ)を1%~10%にできる例が開示されているが、希土類元素がドープされた増幅用マルチコアファイバに関する最適化に限定されていた。特許文献1においては、1km以上の長距離を伝送する伝送用マルチコアファイバに関する最適化については、何ら検討されていない。一般に、増幅用光ファイバは数m~数十m程度の長さで用いられることから、長距離を伝送する伝送用光ファイバとは最適構造が大きく異なる。そのため、長距離を伝送可能で極めて高密度の構造を有するマルチコアファイバが望まれていた。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、長距離を伝送可能で極めて高密度のマルチコアファイバおよびその製造方法を提供することにある。
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明に係るマルチコアファイバは、複数のコア部と、前記複数のコア部の外周に形成されたクラッド部と、を備え、波長1550nmにおけるモードフィールド径が6μm以下であり、実効カットオフ波長が1530nm以下であり、長さ1kmにおける2つの隣り合う前記コア部の間のクロストークが-15dB以下であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、波長1550nmにおけるモードフィールド径が5.5μm以下であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記コア部は、純石英ガラス、またはゲルマニウム(Ge)、塩素(Cl2)、フッ素(F)、カリウム(K)、およびナトリウム(Na)からなる群から選ばれた少なくとも1種類のドーパントを含む石英系ガラスからなることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記複数のコア部におけるそれぞれのコア部の前記クラッド部に対する比屈折率差が1.2%以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記複数のコア部におけるそれぞれのコア部の前記クラッド部に対する比屈折率差が1.4%以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記複数のコア部におけるそれぞれのコア部の前記クラッド部に対する比屈折率差が1.7%以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記コア部の屈折率プロファイルは、単峰型プロファイルであることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記複数のコア部の隣り合うコア部どうしの中心間距離が25μm以下であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記複数のコア部の隣り合うコア部どうしの中心間距離が20μm以下であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記複数のコア部のうちの最も外周側に位置するコア部に対して外周側の前記クラッド部のクラッド厚が25μm以下であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記コア部の数は、100以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記コア部の数は、500以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記コア部の数は、1000以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、前記クラッド部の外径が750μm以下であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、ITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有する標準光ファイバに対する空間多重改善度が15以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバは、上記の発明において、ITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有する標準光ファイバに対する空間多重改善度が20以上であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、上記のマルチコアファイバを製造するマルチコアファイバの製造方法であって、コア形成部と前記コア形成部の外周に形成されたクラッド形成部とを備える複数の細径ガラスロッドを、整列配置して初期母材を形成する初期母材形成工程と、前記初期母材からマルチコアファイバを作製するマルチコアファイバ作製工程と、を含み、前記初期母材形成工程は、スタック法によって前記複数の細径ガラスロッドを配置する工程を含むことを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、上記の発明において、前記スタック法において前記複数の細径ガラスロッドがスタックされるジャケット管を2本以上同心に配置することを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、上記の発明において、前記スタック法に用いられるジャケット管のうちの最外周に設けられる第1ジャケット管の長手方向に直角な断面形状が略円形状であり、前記第1ジャケット管に対して略平行かつ内側に挿入された第2ジャケット管の長手方向に直角な断面形状が略正六角形状であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、上記の発明において、前記ジャケット管との間に前記複数の細径ガラスロッドのうちの少なくとも1本をスタックすることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、上記の発明において、前記細径ガラスロッドの直径が550μm以下であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、上記の発明において、前記スタック法において前記複数の細径ガラスロッドがスタックされるジャケット管の外径/内径の比率が1.1~1.3であることを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、上記の発明において、前記細径ガラスロッドを切断する際に、コイル状に巻いてから切断することを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、上記の発明において、被覆を被せないことを特徴とする。
本発明の一態様に係るマルチコアファイバの製造方法は、上記の発明において、被覆を1層のみ被せることを特徴とする。
本発明に係るマルチコアファイバおよびその製造方法によれば、長距離を伝送可能で極めて高密度のマルチコアファイバを実現することが可能となる。
図1は、一実施形態によるマルチコアファイバの模式的な断面図である。 図2は、一実施形態によるマルチコアファイバの製造方法における準備工程を示す図である。 図3は、一実施形態によるマルチコアファイバの製造方法における初期母材形成工程を説明するための図である。 図4は、カットオフ波長を1520nmに設定した場合の屈折率プロファイルが単峰型プロファイルにおける比屈折率差(Δ1)とMFDとの関係を示すグラフである。 図5は、マルチコアファイバにおけるファイバ径とコア数との関係を、コアピッチごとに示すグラフである。 図6は、比屈折率差が1.2%のマルチコアファイバのコアピッチと2つのコア部の間のXTとの関係を示すグラフである。 図7は、比屈折率差を1.2%~2.0%に変化させた場合のコアピッチとXTとの関係を示すグラフである。 図8は、波長1625nmのリーケージ損失を0.001dB/km以下にするために必要な最低クラッド厚と比屈折率差Δ1との関係を示すグラフである。 図9は、一実施形態によるマルチコアファイバの、ITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有する標準光ファイバに対する空間多重度改善度を示すグラフである。 図10は、マルチコアファイバのファイバ径とコアピッチとの関係を示すグラフである。 図11は、マルチコアファイバのファイバ径とコアピッチとの関係を示すグラフである。 図12は、コアピッチと2コア間XTとの関係を示すグラフである。 図13は、コアピッチと2コア間XTとの関係を示すグラフである。 図14は、カットオフ波長の測定結果を示すグラフである。 図15は、損失スペクトルの測定結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。また、本明細書においては、カットオフ(Cutoff)波長とは、実効カットオフ波長であり、ITU-T(国際電気通信連合)G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
まず、本発明の一実施形態によるマルチコアファイバについて説明する。図1は、この一実施形態によるマルチコアファイバの模式的な断面図および一部拡大図である。なお、図示の便宜状、断面におけるハッチングは省略している。図1に示すように、一実施形態によるマルチコアファイバ1は、複数のコア部1aと、コア部1aの外周に形成されたクラッド部1bとを備える。コア部1aは相互に、例えば三角格子状に配置されている。すなわち、正三角形状に3つのコア部1aが配置されている。換言すると、コア部1aの配置は、正六角形状に配置された6つのコア部1aの中心に1つのコア部1aが配置された六方最密状でもある。本実施形態においてはコア部1aの数は、典型的には、100以上、好適には、500以上、より好適には1000以上である。これらの場合において、マルチコアファイバ1のクラッド部1bの外径(以下、適宜ファイバ径と記載する場合がある)は、750μm以下とすることが好ましい。
コア部1aとクラッド部1bとは、いずれも例えば石英系ガラスからなる。クラッド部1bは、コア部1aの屈折率よりも低い屈折率を有する。コア部1aは、屈折率調整用のドーパントが添加されていない純石英ガラス、またはゲルマニウム(Ge)、塩素(Cl2)、フッ素(F)、カリウム(K)、およびナトリウム(Na)からなる群から選ばれた少なくとも1種類のドーパントを含む石英系ガラスからなる。本実施形態においてコア部1aは、例えば、屈折率を高めるドーパントであるGeが添加された石英系ガラスからなる。一方、クラッド部1bは、屈折率調整用のドーパントを含まない純石英ガラスからなる。コア部1aの屈折率プロファイルは、好適には単峰型プロファイル(例えば、ステップ型プロファイル)であるが、W型プロファイル、W-seg型プロファイル、トレンチ型プロファイルなどにすることも可能であり、特に限定はされない。なお、本実施形態では、各コア部1aの屈折率プロファイルは互いに同一であるとするが、複数の異なる屈折率プロファイルであっても良い。
(製造方法)
次に、マルチコアファイバ1の製造方法について説明する。詳細は後述するが、マルチコアファイバ1は、空間多重度の観点から、コア部1aのコア数が増加するのに伴って有利な特性を得ることができる。コア数が多いマルチコアファイバ1の製造方法としては、スタック法を採用するのが望ましい。しかしながら、コア数が1000程度と極めて多数になると、コア数の増加に伴ってスタックが困難になる。そこで本発明者は、製造方法に関して鋭意検討を行い、断面が略正六角形のジャケット管を用いると、空隙が自動的に制御されてスタックが容易になることを想到した。また、本発明者は、略正六角形のジャケット管と略円形状のジャケット管とを組み合わせることを想到した。これにより、スタックが容易になる効果に加えて、生成される光ファイバ母材の断面を略円形にでき、製造される光ファイバガラスの形状を円形に維持することが可能になるので、より高い汎用性が得られる。さらに、本発明者は、略正六角形のジャケット管と略円形上のジャケット管との間に生じる隙間に、後にコア部1aおよびクラッド部1bになる後述する細径ガラスロッド3を挿入する方法を想到した。これにより、マルチコアファイバ1のコア部1aをより高密度化できる。
以下に、スタック法を用いる場合のマルチコアファイバ1の製造方法の具体例を説明する。まず、準備工程について説明する。図2は、準備工程を示す図である。まず、公知のVAD(Vapor-phase Axial Deposition)法や、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、またはModified CVD法などのCVD法を用いて、コア母材2を形成する。図2に示すように、コア母材2は、コア形成部2aと、コア形成部2aの外周に形成されたクラッド形成部2bとを備えるロッド状のものである。コア形成部2aは、コア部1aを形成するためのものであり、コア部1aと同じ材質からなる。一方、クラッド形成部2bは、クラッド部1bを形成するためのものであり、クラッド部1bと同じ材質からなる。コア形成部2aは、クラッド部1bに対する中心部の比屈折率差Δ1が例えば1.2~2.0%になるように材質が選択される。また、コア形成部2aとクラッド形成部2bとの直径比を2:3~2:5とすると、後述する加熱延伸によりコア形成部2aを最終的に直径約10μmのコア部1aにした場合に、隣接するコア部1aどうしの中心間距離が約15~約25μmとなる。このように、隣接するコア部1aどうしの中心間距離は、コア形成部2aとクラッド形成部2bとの直径比により調整できる。なお、異種のコア部1aを用いたマルチコアファイバ1を製造する場合には、例えば互いに屈折率が異なるコア形成部2aを備えた異種のコア母材2を3種類程度の複数種類だけ形成する。
次に、これらの同種または異種のコア母材2を、例えば線引法や火炎延伸法などによって、スタック可能な寸法の細径ガラスロッドに加熱延伸して、コア母材である必要本数の細径ガラスロッド3を形成する。この加熱延伸は例えば光ファイバの製造に用いる線引き装置やガラス延伸装置を用いて実施することができる。本実施形態においては、必要本数が多いことから、線引装置を用いた方法を採用することが好ましい。また、細径ガラスロッド3の直径は、後の工程で束ねやすいように例えば1.0mm程度とする。なお、マルチコアファイバの細径化や高密度化などの観点から、細径ガラスロッドの直径は550μm以下でもよい。細径ガラスロッド3は、図2に断面を示すように、コア形成部3aとクラッド形成部3bとを備えるコア母材である。コア形成部3aとクラッド形成部3bとの直径比は、コア母材2におけるコア形成部2aとクラッド形成部2bとの直径比とほぼ同じとなる。次に、細径ガラスロッド3を、束ねやすい長さ、例えば500mmに切り分けて、多数の同種または異種の細径ガラスロッド3を準備する。
(初期母材形成工程)
次に、マルチコアファイバ製造工程の一部である初期母材形成工程について説明する。図3は、初期母材形成工程を説明するための模式図である。図3に示すように、まず、準備工程において準備した細径ガラスロッド3を例えば919本束ねて長手方向に直角な断面形状が略正六角形状のジャケット管4a内に整列させてスタックする。略正六角形状のジャケット管4aを用いることによって、略円形状のジャケット管に比して、六方最密構造が得やすくなり、細径ガラスロッド3をスタックさせる手間を格段に低減できる。これにより、ジャケット管4a内の細径ガラスロッド3は、六方最密構造(三角格子状)に配置される。なお、多数本の細径ガラスロッド3は、同種のコア部1aを用いたマルチコアファイバ1を製造する場合には、全て同種の細径ガラスロッド3が用いられる。一方、異種のコア部1aを用いたマルチコアファイバ1を製造する場合、多数本の細径ガラスロッド3は、異種の細径ガラスロッド3から適宜複数本ずつ選択した細径ガラスロッド3が用いられる。第2ジャケット管としてのジャケット管4aは、例えばクラッド部1bと同じ材質からなり、断面の正六角形の面積は919本の細径ガラスロッド3を挿入できる程度の面積とする。
一方、断面円形のマルチコアファイバ1と六方最密配置構造との間には大きな形状的な相違が存在するため、コア部1aの高密度化を実現するためには、相違部分の空間も有効に使用することが望ましい。そこで、断面が略六角形状のジャケット管4aの外側に、適切な寸法の略円形状のジャケット管4bをジャケット管4aに対して略平行で同心に配置して、2つのジャケット管4a,4bの間の隙間にも、細径ガラスロッド3を可能な限りスタックする構成が好ましい。すなわち、ジャケット管4aを挿入可能で、長手方向に直角な断面形状が略円形状のジャケット管4bに、細径ガラスロッド3が挿入された状態のジャケット管4aを挿入する。最外周に設けられる第1ジャケット管としてのジャケット管4bは、例えばクラッド部1bと同じ材質からなる。ジャケット管4bの円形状の直径は、ジャケット管4aが内接する直径以上である。その後、ジャケット管4a,4bの空隙、詳細にはジャケット管4aの外側でジャケット管4bの内側に、細径ガラスロッド3をスタックする。図3においては、920本程度の細径ガラスロッド3が挿入されたジャケット管4aと、ジャケット管4bとの隙間に、270本程度の細径ガラスロッド3を挿入する。なお、細径ガラスロッド3とジャケット管4bとの間の残りの隙間には、例えばクラッド部1bと同じ材質からなるロッド状の充填部材を適宜挿入して、隙間を充填しても良い。これにより、図3に示す、細径ガラスロッド3が六方最密状を成すように整列配置された初期母材6が形成される。
(マルチコアファイバ作製工程)
初期母材6には、1000程度のコア形成部3aが含まれる。この初期母材6を、ファイバ径(クラッド径)が例えば750μm以下になるまで加熱延伸する。これによって、直径が約750μm以下の1000個のコア部1aを備えるマルチコアファイバ1が作製される。このようなマルチコアファイバ1は、例えば1000コアのマルチコアファイバとも呼ばれる。
以上のように、本実施形態においては、スタック法における細径ガラスロッド3のスタックをジャケット管4a,4bの2重にして行う。これにより、多コア化に伴う初期母材形成工程の実行の煩雑化を抑制しつつ、高密度特性を実現可能になる。例えば、ジャケット管4aにスタックできる六方最密部分のコア部1aのコア数が919コアであっても、ジャケット管4a,4bの空隙にも細径ガラスロッド3を配置することによって、1000コア以上のマルチコアファイバ1を750μm以下のファイバ径で実現可能になる。なお、ジャケット管4a,4bの厚みは、リーケージ損失の抑制と制御性とのバランスを考慮して、マルチコアファイバ1の製造時に、20μmになるように設定される。これにより、マルチコアファイバ1は、光ファイバとしての扱いができる限界に近い750μm以下のファイバ径で、1000コア以上のコア部1aを1本の光ファイバに収めることが可能になる。
次に、マルチコアファイバ1の構造パラメータについて説明する。まず、超高密度なマルチコアファイバのXT特性を改善する方法として、カットオフ波長を長くする方法がある。ところが、カットオフ波長が1530nmより大きくなると、伝送に用いられるC-Band(1530~1565nm)の帯域でマルチモードになって、伝送特性が低下する可能性がある。そこで、本実施形態によるマルチコアファイバ1においては、コア部1aを高比屈折率差(高Δ)として、コア部1aの波長1550nmにおけるモードフィールド径(MFD)を、典型的には6μm以下、好適には5.5μm以下、より好適には5.0μm以下に抑制する。これにより、実効カットオフ波長(λcc)を1530nm以下に維持しつつ、マルチコアファイバ1の1kmの長さ当たりの2つの隣接するコア部1aの間のクロストーク(XT)を-15dB以下にできる。
マルチコアファイバ1の構造パラメータを上述した値にするためには、コア部1aの構造を最適化することが望ましい。すなわち、マルチコアファイバ1を通信に用いるためには、伝送損失が低いことが望ましい。そこで、本発明者が種々実験および鋭意検討を行った結果、コア部1aを構成する材料として、純石英ガラス以外にも、Ge、Cl2、F、K、およびNaの群から選ばれた少なくとも1種類のドーパントを含む石英系ガラスを用いても、伝送損失を低減できることを見出した。具体的には、C-bandにおける伝送損失を、1.0dB/km以下に低減できることを見出した。ここで、コア部1aの屈折率プロファイルとしては、例えば、単峰型プロファイル、W型プロファイル、またはトレンチ型プロファイルなどを用いることが好ましい。コア部1aを高密度化する観点からは、W構造部分やトレンチ構造部分がそれぞれのコア部1aどうしでオーバーラップしたり、特に内側のコア部1aにおいてカットオフ波長が増大したりする可能性があることから、上述した屈折率プロファイルの中では単峰型プロファイルが好ましい。
図4は、カットオフ波長λccを1520nmに設定した場合の屈折率プロファイルが単峰型プロファイルにおける比屈折率差(Δ1)とMFDとの関係を示すグラフである。図4に示すように、MFDを6μm以下に抑制するには、比屈折率差Δ1を1.2%以上にすることが望ましい。さらに、MFDを好ましい値の5.5μm以下にするには、比屈折率差Δ1を1.4%以上、MFDをより好ましい値の5.0μm以下にするには、比屈折率差Δ1を1.7%以上にすることが望ましい。すなわち、本実施形態によるマルチコアファイバ1において、それぞれのコア部1aのセンタコアの比屈折率差Δは、典型的には1.2%以上、好適には1.4%以上、より好適には1.7%以上である。
マルチコアファイバ1のファイバ径は、ハンドリングが良好に行えることを考慮すると、750μm以下が望ましい。一方、コア部1aの比屈折率差を高くすることを考慮すると、コア数は、典型的には100以上、1ファイバ当たりの空間多重度を向上させるためには、好適には500以上、より好適には1000以上である。図5は、マルチコアファイバにおけるファイバ径とコア数との関係を、コアピッチごとに示すグラフである。ここで、コアピッチとは、最隣接する2つのコア部の中心間距離である。図5においては、コアピッチL1を15~25μmの間で1μmごとにしている。図5から、マルチコアファイバ1のコア数を500以上とした場合の拡張性を考慮すると、ファイバ径を750μm以下にするためには、コアピッチL1は25μm以下が望ましい。さらに、空間多重度を重視してコア数を1000以上にすることを考慮すると、ファイバ径を750μm以下にするためには、コアピッチL1は20μm以下がより好ましい。すなわち、隣り合うコア部1aどうしのコアピッチL1は、典型的には25μm以下、好適には20μm以下である。
しかしながら、コアピッチL1を小さくし過ぎると、高密度化できる反面、長さ1kmにおけるXTが-15dB以上になる可能性が高くなる。図6は、比屈折率差Δ1が1.2%のマルチコアファイバ1のコアピッチL1と2つのコア部1aの間のXTとの関係を示すグラフである。図6から、マルチコアファイバ1の長さ1kmでのXTを-15dB以下に維持するためには、コアピッチL1は20μm以上が必要になることが分かる。すなわち、マルチコアファイバ1のコアピッチL1は、25μm以下でXTが-15dB以下を維持する距離を選択する必要がある。以上から、コア部1aの比屈折率差Δ1が1.2%の場合、コアピッチL1は、20μm以上25μm以下が望ましい。
さらに、コア部1aの比屈折率差Δ1が低くなるのに従って、コアピッチL1の適用可能な範囲は狭くなる。そのため、コア部1aの比屈折率差Δ1を大きくすることによって、適用可能なコアピッチL1の範囲を広くすることが可能になる。図7は、比屈折率差Δ1を1.2%~2.0%に変化させた場合の、コアピッチL1とXTとの関係をシミュレーションした結果のグラフである。なお、カットオフ波長λccは1520nmに設定した。比屈折率差Δ1を1.2%から1.4%に上げた場合、コアピッチL1は、25μm以下を前提として、20μm以上の範囲から19μm以上の範囲まで、範囲が拡がることが分かる。同様に、コアピッチL1の適用範囲は、比屈折率差Δ1を1.6%に上げた場合に18μm以上の範囲、比屈折率差Δ1を1.8%に上げた場合に17μm以上の範囲、比屈折率差Δ1を2.0%に上げた場合に16μm以上の範囲にまで拡がることが分かる。すなわち、比屈折率差Δ1を上げていくことによって、マルチコアファイバ1のコア部1aをより高密度化できることが分かる。
上述したように、コア部1aのコアピッチL1を小さくしても、複数のコア部1aのうちの最も外周側に位置する最外層のコア部1aの外周側のクラッド部1bのクラッド厚D1が大きくなると、空間多重度が損なわれる。なお、クラッド厚D1は、最も外周側に位置するコア部1aの外縁と、クラッド部1bの外縁との最短距離で定義できる。そこで、最外層のコア部1aの外側のクラッド部1bのクラッド厚D1は、可能な限り小さくすることが望ましい。図8は、波長1625nmのリーケージ損失を0.001dB/km以下にするために必要な最低クラッド厚と比屈折率差Δ1との関係を示すグラフである。図8から、比屈折率差Δ1が1.2%~2.0%の間のいずれの場合であっても、クラッド厚D1が20μm以上であれば、低リーケージ損失の観点から問題が生じないことが分かる。反対に、クラッド厚D1が小さすぎるとマルチコアファイバ1の製造が困難になるが、マルチコアファイバ1の高密度特性を考慮すると、最外層のコア部1aのクラッド厚D1は、25μm以下が望ましい。
すなわち、図8から、コア部1aの比屈折率差Δ1が1.2%の場合、最外層のコア部1aの外側のクラッド部1bのクラッド厚D1は、19.5~25μmが望ましいことが分かる。同様に、図8から、コア部1aの比屈折率差Δ1が1.4%の場合のクラッド厚D1は18~25μm、比屈折率差Δ1が1.6%の場合のクラッド厚D1は17~25μm、比屈折率差Δ1が1.8%の場合のクラッド厚D1は16~25μm、比屈折率差Δ1が2.0%の場合のクラッド厚D1は15~25μmが望ましいことが分かる。上述したコアピッチL1の場合と同様に、比屈折率差Δ1を上げていくと、必要なクラッド厚D1(以下、必要クラッド厚D1ともいう)に関してもより小さな値になり、高密度化の観点からより好ましいことが分かる。一方、比屈折率差Δ1を上げると、損失の増大やMFDの縮小を伴うため、これらを考慮して最適な値を選択することが望ましい。具体的に、比屈折率差Δ1は、2.0%以下が望ましいが、必ずしもこの範囲に限定されるものではない。
図9は、マルチコアファイバ1におけるITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有する標準光ファイバ(以下、標準光ファイバと記載する場合がある)に対する空間多重度改善度を示すグラフである。図9においては、マルチコアファイバ1のコアピッチL1を、15μm、20μm、および25μmとし、最外層のコア部1aのクラッド厚D1を20μmとした場合を示す。また、標準光ファイバは、例えばファイバ径が125μmのシングルモード光ファイバ(SMF)である。
図6から、コアピッチL1を25μmとした場合に空間多重改善度が15倍以上、コアピッチL1を20μm以下にすると、空間多重改善度が20倍以上となることが分かる。すなわち、マルチコアファイバ1においては、標準光ファイバに対する空間多重改善度が、典型的には15以上、好適には20以上である。なお、空間多重改善度とは、マルチコアファイバ1の長手方向に直角の断面の面積に対するコア部1aの数の比率を、上述した標準光ファイバの長手方向に直角の断面の面積(1252μm2)に対するコア部の数(=1)の比率で除した値である。この場合、コア数が小さくなるに従って、空間多重度は低下する。そのため、マルチコアファイバ1のコア数は、少なくとも100以上が望ましく、好適には500以上、より好適には1000以上である。特に、コアピッチL1が小さい場合、コア数の増加に対して空間多重改善度が飽和しにくい傾向にあることから、マルチコアファイバ1のコア数は1000以上が有効である。
(実施例)
具体的な実施例について以下に説明する。本実施例においては、本発明がより好適に適用できる、六方最密構造の部分が919コアのマルチコアファイバ1の構造を例に説明する。このような極めて多数のコア部1aを有するマルチコアファイバ1の場合、ファイバ径の大きさが最大の制限要因になる。この点、ファイバ径が750μmを超えると、マルチコアファイバ1の取り扱いが非常に困難になる。さらに、上述した2重ジャケット管法を考慮すると、六方最密構造の919コアの部分は、700μm以下が望ましい。そこで、最外層のコア部1aの外側のクラッド厚D1を20μmに設定し、コアピッチL1とファイバ径との関係について検討を行った。
図10は、マルチコアファイバ1のファイバ径とコアピッチとの関係を示すグラフである。図10から、ファイバ径を700μm以下に維持するためには、コアピッチL1を19μm以下にする必要があることが分かる。そこで、図7に示すグラフにおいて、コアピッチL1を19μm以下に設定し、コア部1aの比屈折率差Δ1を変化させた。図7から、XTを長さ1km当たり-15dB以下に抑制するためには、比屈折率差Δ1を少なくとも1.4%以上に設定する必要があることが分かる。さらに、比屈折率差Δ1をさらに上げることによって、より高密度化することができる。
図7に示すグラフは、2コア間のXTとしてシミュレーション計算している。マルチコアファイバ1において実際には、1つのコア部1aに対して周囲の6つのコア部1aからXTを受けることになる。そこで、6つのコア部1aからXTを受けるものとして、改めてシミュレーション計算も行うと、6つのコア部1aからのXTを、1km当たり-20dB以下に抑制するためには、2つのコア部1aの間のXTは、-25dB以下に抑制することが望ましいことが判明した。
そこで、本発明者は、2つのコア部1aの間のXTを-25dB以下に抑制するためのプロファイルを検討した。本発明者は、比屈折率差Δ1を1.8%程度にしてコアピッチL1を19μmにするパターンや、比屈折率差Δ1を2.0%程度にしてコアピッチL1を18μmにするパターンなどを検討した。マルチコアファイバ1のコア部1aをなるべく高密度化する観点から、本発明者は、比屈折率差Δ1を2.0%程度にしてコアピッチL1を18μmにするパターンを選択した。その際の断面特性/光学特性を表1に示す。表1に示す必要クラッド厚D1は、波長1625nmのリーケージ損失を0.001dB/km以下に保つために必要なクラッド厚である。
Figure 0007495299000001
表1から、コア部1aのコアピッチL1を、18μmという小さいコアピッチに設定しても、コア部1aの周囲の6つのコア部1aからのXTを-20dB以下に抑制できることが分かった。カットオフ波長λccも1530nm以下に抑制され、光伝送において典型的に使用されるC-BandやL-Bandの全体を使用可能であることが分かる。
(変形例)
次に、上述した実施例の変形例について説明する。表2は、変形例1~7において、比屈折率差Δ1を1.4~2.0%、コアピッチL1を17.0~19.1μm、必要クラッド厚D1を15.1~8.1μmとした場合の、カットオフ波長λcc、波長1550nmにおけるMFDおよび有効コア断面積(Aeff)、隣接コア間XT、周辺コアからのXT、および1000コア時の概略ファイバ径を示す。
Figure 0007495299000002
表2から、ファイバ径を750μm以下の705μm以下に維持しつつ、波長1550nmにおけるMFDが6μm以下の、4.64~5.56μm、λccが1530nm以下の1520~1525nm、長さ1kmにおける2つの隣接したコア間のXT-15dB以下の、-35.9~-15.0dBのマルチコアファイバ1を実現できることがわかる。
(その他の実施例)
次に、マルチコアファイバのその他の実施例として、製造のしやすさなども考慮したものを説明する。なお、以下の実施例では、ジャケット管4bのような断面形状が略円形状のジャケット管のみを用い、ジャケット管4aのような断面が略六角形状のジャケット管は用いなかった。まず、マルチコアファイバを線引きする際に、頻繁に断線せずにある程度長尺のマルチコアファイバとして線引きが可能な限界ファイバ径を調査したところ、その限界ファイバ径は約550μmであること、またファイバ径が750μmを超えてしまうと、マルチコアファイバとして線引きすることがほぼ不可能になることも確認した。そこで、製造のしやすさを考えると、ジャケット管の厚みは、経験的に安定した構造を得るために好適な厚みとして、ジャケット管の内径がスタックされた細径ガラスロッドの束構造の直径と略等しい状態で、外径が束構造の直径の1.1倍~1.3倍となる厚み、たとえば1.2倍となる厚みであることが望ましい。すなわち、マルチコアファイバ内でのひずみを小さく抑え、安定した構造を得るのに好適なジャケット管の外径/内径の比率は、1.1~1.3、たとえば1.2であることが望ましい。そこで、本実施例の検討の際には、製造のしやすさも考慮に入れて、1000コアのマルチコアファイバを仮定した場合のコアピッチとクラッド径との関係を調査した。
図11は、マルチコアファイバのファイバ径とコアピッチとの関係を示すグラフである。なお、図11では、製造のしやすさを考慮に入れて、ジャケット管4bのような断面形状が略円形状のジャケット管を用いた。
図11から明らかなように、ファイバ径を750μm以下にするためには、コアピッチを17μm以下にする必要があることが分かった。なお、このファイバ径は、細径ガラスロッドのスタックの外形状が、図3のジャケット管4aの内部におけるように、完全な六角形(六角スタック形状)となることを想定して計算されているので、実際には六角スタック形状と円形のジャケット管の内壁との間にはギャップが存在している。そのギャップの断面積は、六角スタック形状の断面積のせいぜい15%増程度に相当する。このギャップだけクラッド径を縮小しても大きな改善とは言えないので、そのギャップは、1000コア以上を確実に実現するために、クラッド径の縮小ではなく、さらなるコア(細径ガラスロッド)のスタックに使用することとした。
この前提の下で、データセンタ用などの用途を視野に入れたマルチコアファイバとして、100m伝送をターゲットにマルチコアファイバの最適化検討を行った。そこで、C-band伝送を実現するためにλccを1520nmとしつつΔ1とコア径とを変更しながら、コアピッチと100m伝送後の2コア間のXTとの関係を調査した。
図12は、コアピッチと2コア間XTとの関係を示すグラフである。図12の結果より、波長1550nm、伝送距離100mでの2コア間XTを-30dB以下に抑制するためには、Δ1(CoreΔ)を2%(コア径は4.63μm)に抑制する必要があることが分かった。なお、表3は、Δ1(CoreΔ)が2%、コア径が4.63μmの場合の光学特性を示す。2コア間XTが-30dBに抑制されていれば、周囲の6つのコア部からのトータルXTも-22dBに抑制することができる。なお、MFDは標準光ファイバのMFDはよりは小さくなるが、100m程度の短距離伝送であれば特に問題ないと考えられる。
Figure 0007495299000003
この設計をベースにスタック&ドロー法でマルチコアファイバの試作を行った。Δ1が1.99%のコア部と、17μmのコアピッチになるような適切なサイズとしたクラッド部とを有する母材をVAD法で準備し、直径550μmのファイバ状のガラスロッド(細径ガラスロッド)に線引きした。その後、ファイバ状のガラスロッドをコイル状に巻き、コイルの4か所で切断をして,スタック用のコアロッド(細径ガラスロッド)を作製した。この方法を用いることで、長い細径ガラスロッドを一括して処理して複数本にできるので、1000本以上のコアロッドを容易に得ることが出来た。これらのコアロッドを適切なサイズのジャケット管にスタックすることで、初期母材としての母材を作製した。そしてこの母材を被覆を被せることなしでも強度が保たれる約750μmのファイバ径に、被覆を被せることなしで数m線引きした。
線引きしたマルチコアファイバの断面を確認したところ、空孔の発生などによる構造乱れがある領域が存在するものの、1170個のコア部がファイバ径750μmの断面中にしっかりと配置されていることが確認された。このマルチコアファイバは、非常に柔軟という訳ではないものの、光ファイバとして多少曲げることも可能である。また、作製したマルチコアファイバの空間多重改善度は32であり、標準光ファイバの32倍の高密度化が実現されていることを確認した。また、構造乱れがない領域でのコアピッチの測定を行ったところ、平均的なコアピッチは約17.0μmであり、コア径は概ね4.6μm程度であった。よって,ほぼ設計通りのダイメンジョンを有していることが分かった。
マルチコアファイバの光学特性の測定においては、基礎実験として,高非線形ファイバから、コア部の1つに光を入射する実験を行った。すると、高非線形ファイバを用いることで、1つの選択したコア部に光を入射することができる事が確認された。このマルチコアファイバの長さは数mと短いものの、高Δと適切な設計により、光は安定して伝搬された。また、ファイバ径がある程度の太さを有しているので、被覆がないにも関わらず、ある程度の強度と柔軟性とを両立していることが分かった。これは、ある程度使用長さが決まっている範囲で、あまりタイトな曲げが要求されない用途などに適用可能な特性と考えられる。なお、ファイバ径が約750μmなどのある程度の太さを有している状態で、被覆を1層のみ被せて、ある程度の強度と柔軟性を両立させてもよい。
なお、1000ものコア部を配置するとなると、既に述べてきた様に、ファイバ径750μmというのは既に限界に近い径であり、これ以上のファイバ径の縮小はかなり難しい。一方で、750μmという大きな径で、安定してマルチコアファイバを線引きするのが困難であることも事実である。そこで、更なる高密度化のために下記の様なアプローチを検討した。
(1)ジャケット管とのギャップもフル活用することで六方細密スタック部のコア数を減らしても1000コアになるように制御する。この場合、スタックするコアロッドの本数を精密に制御する必要性がある。
(2)ジャケット管の厚みを減らす。この場合、コア部の配置などの構造乱れのおそれがある。
(3)カットオフ波長を短波長化してさらにコア径を減らす。この場合、XT特性が劣化するおそれがある。
(4)コアピッチを減らす。この場合、XT特性が劣化するおそれがある。
(3)、(4)は、他の何かの特性を犠牲にしないと実現は困難である。そこで、長波長の伝送帯域と伝送距離とXT特性を犠牲にする事でさらなるファイバ径の縮小を実現することを検討した(具体的には、データセンタ用途を考慮した、850nm帯での10m伝送にて-20dBのXT特性を実現することをターゲットとした。
上記ターゲットの実現のために、Δ1を2.0%とし、コア径を2.4μmにまで縮小させた。これにより,カットオフ波長を800nm以下の790nmまで短波長化した。これによって得られる小さなMFDによって、より小さなコアピッチの実現が可能となる。図13は、コアピッチと2コア間XTとの関係を示すグラフである。なお、波長は850nm、伝送距離は10mである。図13に示すように、-20dBの2コア間XTを維持しながらコアピッチを9.5μmまで抑制できることが確認された。なお、長波長の光の伝送は、曲げ損失の増大などによって厳しくなってしまうが、例えば850nm帯の様に使用波長帯域を限定すれば問題はない。ここで、使用波長帯とは、マルチコアファイバを光ファイバ通信に使用する際の信号光として伝搬させる光の波長帯である。
また、上記の(3)、(4)への対策に加えて、(1)、(2)に対する対策も検討した。(2)に関しては、構造乱れのおそれはあるものの、ジャケット管の倍率を1.20倍から1.15倍に縮小し、六角形スタック構造とジャケット管との隙間もなるべくフル活用する設計にする、すなわち、六角形スタック部分のコア数を減らして、隙間への配置との合計で10000コアを実現する様にした結果、コア部のΔ1を2%に維持したままで、ファイバ径を約400μmまで縮小できることが分かった。これによって、被覆層の付加などもより容易になり、前述の実施例に係る、ファイバ径が約750μmのマルチコアファイバと比べて、取り扱い性が良くなると考えられる。
以上のシミュレーション計算による検討結果に基づいて、ファイバ径が約400μmのマルチコアファイバを試作した。このマルチコアファイバには被覆層も形成し、被覆も含めて約500μmの外径とした数百mのサンプルを得た。このサンプルでは、1020コアを、ファイバ径約420μmにて実現できた。空孔の発生などによる構造乱れがある領域が存在するものの、構造乱れがない領域でのコアピッチの測定を行ったところ、平均的なコアピッチは約9.5μmであり、コア径は概ね2.5μm程度であった。
このマルチコアファイバのサンプルは、数百mの長さがあるので、ある特定のコア部に関して光学特性の測定を行った。まず、2mのカットオフ波長測定を行ったところ、図14に示すように約800nmであった。この結果から、22mのケーブルカットオフ波長は800nm以下になると考えられる。また,コア部の1つに関して損失スペクトルを測定した。図15は、損失スペクトルの測定結果を示すグラフである。なお、測定は、長さが20mのサンプルと長さが8mのサンプルに対して行った。図15に示すように、8mのサンプルではかなり長波長側までフラットな損失スペクトルが確認され、XTの影響が小さいことが確認された。一方の20mのサンプルでは,XTに起因すると思われる長波長側の損失増加が確認された。しかしながら、それでも波長900nm程度までは伝送損失の値は安定しており、10~20mの長さで使用する場合には、波長900nm未満での伝送に使用することは問題無いと考えられる。このように、シミュレーションで予想されたように光学特性を実現できることが確認された。
以上説明した本発明の一実施形態によれば、長距離の伝送が可能、かつより高密度でコア部1aのコア数が多いマルチコアファイバを容易に実現することが可能となる。
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において示された設計や製法はあくまで一例であり、本発明の技術的思想に基づいた、マルチコアファイバの構造、および製造方法の適用範囲は、必ずしも上述した実施形態および実施例に限定されず、必要に応じてこれと異なるマルチコアファイバの構造や製造方法を採用しても良い。
例えば、上述した一実施形態においては、ジャケット管4a,4bを2本同心に配置しているが、ジャケット管を2本以上同心に配置して、例えば3本以上のジャケット管を互いに同心に配置して用いることも可能である。
1 マルチコアファイバ
1a コア部
1b クラッド部
2 コア母材
2a コア形成部
2b クラッド形成部
3 細径ガラスロッド
3a コア形成部
3b クラッド形成部
4a,4b ジャケット管
6 初期母材

Claims (25)

  1. 複数のコア部と、
    前記複数のコア部の外周に形成されたクラッド部と、を備え、
    波長1550nmにおけるモードフィールド径が6μm以下であり、
    実効カットオフ波長が1530nm以下であり、
    長さ1kmにおける2つの隣り合う前記コア部の間のクロストークが-15dB以下であり、
    前記複数のコア部の隣り合うコア部どうしの中心間距離が25μm以下である
    ことを特徴とするマルチコアファイバ。
  2. 波長1550nmにおけるモードフィールド径が5.5μm以下である
    ことを特徴とする請求項1に記載のマルチコアファイバ。
  3. 前記コア部は、純石英ガラス、またはゲルマニウム(Ge)、塩素(Cl2)、フッ素(F)、カリウム(K)、およびナトリウム(Na)からなる群から選ばれた少なくとも1種類のドーパントを含む石英系ガラスからなる
    ことを特徴とする請求項1または2に記載のマルチコアファイバ。
  4. 前記複数のコア部におけるそれぞれのコア部の前記クラッド部に対する比屈折率差が1.2%以上である
    ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  5. 前記複数のコア部におけるそれぞれのコア部の前記クラッド部に対する比屈折率差が1.4%以上である
    ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  6. 前記複数のコア部におけるそれぞれのコア部の前記クラッド部に対する比屈折率差が1.7%以上である
    ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  7. 前記コア部の屈折率プロファイルは、単峰型プロファイルである
    ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  8. 前記複数のコア部の隣り合うコア部どうしの中心間距離が20μm以下である
    ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  9. 前記複数のコア部のうちの最も外周側に位置するコア部に対して外周側の前記クラッド部のクラッド厚が25μm以下である
    ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  10. 前記コア部の数は、100以上である
    ことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  11. 前記コア部の数は、500以上である
    ことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  12. 前記コア部の数は、1000以上である
    ことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  13. 前記クラッド部の外径が750μm以下である
    ことを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  14. ITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有する標準光ファイバに対する空間多重改善度が15以上である
    ことを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  15. ITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有する標準光ファイバに対する空間多重改善度が20以上である
    ことを特徴とする請求項1~14のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  16. 使用波長帯が850nm帯である
    ことを特徴とする請求項1~15のいずれか1項に記載のマルチコアファイバ。
  17. 請求項1~16のいずれか1項に記載のマルチコアファイバを製造するマルチコアファイバの製造方法であって、
    コア形成部と前記コア形成部の外周に形成されたクラッド形成部とを備える複数の細径ガラスロッドを、整列配置して初期母材を形成する初期母材形成工程と、
    前記初期母材からマルチコアファイバを作製するマルチコアファイバ作製工程と、を含み、
    前記初期母材形成工程は、スタック法によって前記複数の細径ガラスロッドを配置する工程を含む
    ことを特徴とするマルチコアファイバの製造方法。
  18. 前記スタック法において前記複数の細径ガラスロッドがスタックされるジャケット管を2本以上同心に配置する
    ことを特徴とする請求項17に記載のマルチコアファイバの製造方法。
  19. 前記スタック法に用いられるジャケット管のうちの最外周に設けられる第1ジャケット管の長手方向に直角な断面形状が略円形状であり、前記第1ジャケット管に対して略平行かつ内側に挿入された第2ジャケット管の長手方向に直角な断面形状が略正六角形状である
    ことを特徴とする請求項18に記載のマルチコアファイバの製造方法。
  20. 前記ジャケット管の間に前記複数の細径ガラスロッドのうち少なくとも1本をスタックする
    ことを特徴とする請求項18または19に記載のマルチコアファイバの製造方法。
  21. 前記細径ガラスロッドの直径が550μm以下である
    ことを特徴とする請求項1720のいずれか1項に記載のマルチコアファイバの製造方法。
  22. 前記スタック法において前記複数の細径ガラスロッドがスタックされるジャケット管の外径/内径の比率が1.1~1.3である
    ことを特徴とする請求項1821のいずれか1項に記載のマルチコアファイバの製造方法。
  23. 前記細径ガラスロッドを切断する際に、コイル状に巻いてから切断する
    ことを特徴とする請求項1722のいずれか1項に記載のマルチコアファイバの製造方法。
  24. 請求項1~17のいずれか1項に記載のマルチコアファイバを製造するマルチコアファイバの製造方法であって、
    被覆を被せないことを特徴とする請求項1723のいずれか1項に記載のマルチコアファイバの製造方法。
  25. 請求項1~16のいずれか1項に記載のマルチコアファイバを製造するマルチコアファイバの製造方法であって、
    被覆を1層のみ被せることを特徴とする請求項1723のいずれか1項に記載のマルチコアファイバの製造方法。
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