JP7486925B2 - 合金管 - Google Patents

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Description

本開示は、合金管に関し、さらに詳しくは、高温浸炭環境で使用される合金管に関する。
従来、化学プラント設備では、耐熱合金管として、質量%で10~40%程度のCrと質量%で20~70%程度のNiとを含有する合金管が使用されている。このような合金管はたとえば、オーステナイト系ステンレス鋼材や、Ni基合金管である。これらの合金管はたとえば、化学プラント設備の配管として利用されている。
ところで、最近では、シェール革命により、安価なシェールガスが生産されている。化学プラント設備において、シェールガスを原料ガスとして使用する場合を想定する。この場合、ナフサ等の従来の原料ガスと比較して、原料ガス由来の炭素(C)により、化学プラント設備部材(たとえば反応管)では、腐食現象である浸炭が生じやすい。そのため、化学プラント設備部材として用いられる合金管には、優れた耐浸炭性が求められる。以下、炭化水素ガスを含有し、温度が850℃以上の雰囲気を、本明細書では、「高温浸炭環境」という。
高温浸炭環境での耐浸炭性を向上するための合金管が、特開2018-62711号公報(特許文献1)及び、特開2013-198917号公報(特許文献2)に提案されている。
特許文献1に開示された鋳造製品は、質量%にて、C:0.05%~0.7%、Si:0%を超えて2.5%以下、Mn:0%を超えて3.0%以下、Cr:15.0%~50.0%、Ni:18.0%~70.0%、Al:1.0%~5.0%、希土類元素:0.005%~0.4%、W:0.5%~10.0%及び/又はMo:0.1%~5.0%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、さらに、任意元素として、Ti:0.01%~0.6%、Zr:0.01%~0.6%及びNb:0.1%~1.8%からなる群から選択される少なくとも一種を含有してもよく、任意元素として、B:0%を越えて0.1%以下を含有してもよい。この文献では、上述の鋳造製品に対して、1050℃未満の酸化性雰囲気下にて低温熱処理を施した後、1050℃以上の酸化性雰囲気下にて高温熱処理を施して、Al薄化層と基地との間にAl濃度の高いAl濃化層を形成する。つまり、特許文献1では、鋳造部品の表面にアルミナバリア層を形成し、アルミナバリア層は、Al濃化層と、Al濃化層上に形成されるAl薄化層とを備える(段落[0037]~[0054])。
特許文献2に開示された鋳造製品は、質量%にて、C:0.05~0.7%、Si:0%を越えて2.5%以下、Mn:0%を越えて3.0%未満、Cr:15~50%、Ni:18~70%、Al:2~4%、希土類元素:0.005~0.4%、並びに、W:0.5~10%及び/又はMo:0.1~5%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる第1鋳造体及び第2鋳造体を溶接する(段落[0021]~[0032])。その後、溶接された鋳造体を、酸素を20体積%以上含む酸化性ガスである酸化性雰囲気内で、900℃以上で1時間以上保持する(段落[0041])。これにより、鋳造体の表面にアルミナバリア層を形成することができる、と特許文献2には記載されている。なお、特許文献2に記載されたアルミナバリア層では、アルミナバリア層の内部に形成されているCr酸化物スケールがAl23により、製品の表面に押し上げられる場合がある旨が記載されている(段落[0047])。
特開2018-62711号公報 特開2013-198917号公報
上述の特許文献1及び特許文献2では、鋳造体の表面にAl23を含有するアルミナバリア層を形成する。しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された鋳造製品の場合、高温浸炭環境において、十分な耐浸炭性が得られない場合がある。
本開示の目的は、高温浸炭環境において、耐浸炭性に優れる合金管を提供することである。
本開示の合金管は、
化学組成が、質量%で、
Cr:10.00~25.00%未満、
Ni:30.00~60.00%、
Al:2.50超~3.50%、
を含有する母材と、
前記母材の表面上に形成される酸化皮膜とを備え、
前記酸化皮膜の最表面から深さ方向にビーム径100μmにてX線光電子分光法の深さ方向分析を実施し、深さ方向に48nmピッチで、原子%で、
酸素と結合しているAl濃度であるAl-O濃度、
酸素と結合しているCr濃度であるCr-O濃度、
酸素と結合しているFe濃度であるFe-O濃度、
酸素と結合しているNi濃度であるNi-O濃度、及び、
金属Fe濃度であるMet.Fe濃度を求めた場合、
最表面のAl-O濃度は70.0%以上であり、
前記Met.Fe濃度が前記Al-O濃度、前記Cr-O濃度、前記Fe-O濃度、及び、前記Ni-O濃度を超える深さ位置を母材界面位置と定義するとき、前記最表面から前記母材界面位置までの範囲において、前記Al-O濃度は、深さ方向に進むにしたがって低下し、
前記最表面から前記母材界面深さ位置までの範囲において、前記Cr-O濃度は15.00%未満であり、前記Fe-O濃度は5.00%未満であり、前記Ni-O濃度は1.00%未満である。
本開示の合金管は、高温浸炭環境において、耐浸炭性に優れる。
図1は、本実施形態の合金管における、特定酸化皮膜の最表面からのX線光電子分光法(XPS)の深さ方向分析結果例である。 図2は、図1と異なる、本実施形態の合金管における、特定酸化皮膜の最表面からのX線光電子分光法(XPS)の深さ方向分析結果例である。 図3は、母材の化学組成は本実施形態の範囲を満たし、かつ、特許文献1及び2に開示されている従前の酸化性雰囲気(大気雰囲気)にて、1080℃で5分保持して酸化皮膜を形成した場合の、XPSの深さ方向分析結果例である。
本発明者らは、高温浸炭環境において耐浸炭性を高めることができる合金管について検討を行った。本発明者らは、高温浸炭環境において、耐浸炭性を高めるためには、合金管の母材の表面に形成される酸化皮膜の形態が重要であると考えた。そして、酸化皮膜としては、ポーラスな構造となりやすいCr23を主体とする酸化皮膜よりも、Cr23よりも緻密な構造であるAl23を主体とする酸化皮膜を形成する方が、耐浸炭性には適していると考えた。そして、表面にAl23を主体とする酸化皮膜を形成するための母材の化学組成として、質量%で、Cr:10.00~25.00%未満、Ni:30.00~60.00%、Al:2.50超~3.50%を含有する化学組成が適切であると考えた。
本発明者らはさらに、上記化学組成の母材表面に形成されるAl23を主体とする酸化皮膜の形態について検討を行った。始めに、本発明者らは、酸化皮膜を形成するための熱処理として、特許文献1及び特許文献2に記載のように、酸素を20体積%以上含有する酸化性雰囲気で熱処理を実施した方が、雰囲気中の酸素とAlとの結合が促進され、Al23を主体とする酸化皮膜が安定して生成しやすいと考えた。しかしながら、酸化性雰囲気で熱処理を実施した場合、Al23を含有する酸化皮膜を厚く形成することはできるものの、高温浸炭環境において、Cの侵入を十分に抑制することはできなかった。
そこで、本発明者らは、合金管の母材表面に酸化皮膜を形成する熱処理において、雰囲気の酸素濃度を20体積%以上に確保するのではなく、あえて、酸素濃度を低減した雰囲気で熱処理をすることを考えた。そして、酸素分圧を低減した雰囲気で熱処理を実施すれば、皮膜中においてCr酸化物やFe酸化物、Ni酸化物の生成を顕著に抑えることが可能であり、かつ、他の合金元素の酸化物よりも、Al酸化物(Al23)を優先して生成できることを見出した。
より具体的には、酸化皮膜の最表面から深さ方向にビーム径100μmにてX線光電子分光法の深さ方向分析を実施し、深さ方向に48nmピッチで、原子%で、酸素と結合しているAl濃度であるAl-O濃度、酸素と結合しているCr濃度であるCr-O濃度、酸素と結合しているFe濃度であるFe-O濃度、酸素と結合しているNi濃度であるNi-O濃度、及び、金属Fe濃度であるMet.Fe濃度を求めた場合、最表面のAl-O濃度は70.0%以上であり、Met.Fe濃度がAl-O濃度、Cr-O濃度、Fe-O濃度、及び、Ni-O濃度を超える深さ位置を母材界面位置と定義するとき、最表面から母材界面位置までの範囲において、Al-O濃度は、深さ方向に進むにしたがって低下し、最表面から母材界面深さ位置までの範囲において、Cr-O濃度は15.00%未満であり、Fe-O濃度は5.00%未満であり、Ni-O濃度は1.00%未満である。このような構成の酸化皮膜は、極めて緻密で均一なアルミナ皮膜となっており、酸化皮膜の最表面だけでなく、酸化皮膜中においても、Cr酸化物、Fe酸化物、Ni酸化物の含有が極めて少ない。このような形態の酸化皮膜を表面に形成している合金管では、極めて高い耐浸炭性が得られる。
以上のとおり、高温浸炭環境に用いることが可能な本実施形態の合金管は、従前とは異なるアプローチにより完成したものであって、以下の構成を有する。
[1]の合金管は、
化学組成が、質量%で、
Cr:10.00~25.00%未満、
Ni:30.00~60.00%、
Al:2.50超~3.50%、
を含有する母材と、
前記母材の表面上に形成される酸化皮膜とを備え、
前記酸化皮膜の最表面から深さ方向にビーム径100μmにてX線光電子分光法の深さ方向分析を実施し、深さ方向に48nmピッチで、原子%で、
酸素と結合しているAl濃度であるAl-O濃度、
酸素と結合しているCr濃度であるCr-O濃度、
酸素と結合しているFe濃度であるFe-O濃度、
酸素と結合しているNi濃度であるNi-O濃度、及び、
金属Fe濃度であるMet.Fe濃度を求めた場合、
最表面のAl-O濃度は70.0%以上であり、
前記Met.Fe濃度が前記Al-O濃度、前記Cr-O濃度、前記Fe-O濃度、及び、前記Ni-O濃度を超える深さ位置を母材界面位置と定義するとき、前記最表面から前記母材界面位置までの範囲において、前記Al-O濃度は、深さ方向に進むにしたがって低下し、
前記最表面から前記母材界面深さ位置までの範囲において、前記Cr-O濃度は15.00%未満であり、前記Fe-O濃度は5.00%未満であり、前記Ni-O濃度は1.00%未満である。
[2]の合金管は、[1]に記載の合金管であって、
前記母材の前記化学組成は、
Cr:10.00~25.00%未満、
Ni:30.00~60.00%、
Al:2.50超~3.50%、
C:0.250%以下、
Si:0.01~2.00%、
Mn:0~2.00%、
P:0.040%以下、
S:0.010%以下、
Nb:0.20~3.50%、
Ti:0~0.20%未満、
Mo:0~0.10%、
W:0~6.00%、
B:0~0.1000%、
V:0~0.200%、
Cu:0~5.00%、
Ca:0~0.0500%、
Mg:0~0.0500%、
希土類元素:0~0.100%、
N:0~0.030%、及び、
残部はFe及び、不純物からなる。
[3]の合金管は、[2]に記載の合金管であって、
前記母材の前記化学組成は、
Ti:0.01~0.20%未満、
Mo:0.01~0.10%、
W:0.01~6.00%、
B:0.0001~0.1000%、
V:0.005~0.200%、及び、
Cu:0.005~5.00%からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する。
[4]の合金管は、[2]又は[3]に記載の合金管であって、
前記母材の前記化学組成は、
Ca:0.0001~0.0500%、
Mg:0.0001~0.0500%、及び、
希土類元素:0.001~0.100%からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する。
[5]の合金管は、[2]~[4]のいずれか1項に記載の合金管であって、
前記母材の前記化学組成は、
N:0.001~0.030%を含有する。
以下、本実施形態の合金管について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[本実施形態の合金管の用途について]
本実施形態の合金管は、高温浸炭環境での使用に適する。ここで、本明細書において、「高温浸炭環境」とは、炭化水素ガスを含有し、温度が850℃以上の雰囲気を意味する。高温浸炭環境の上限は特に限定されないが、たとえば、1300℃である。本実施形態の合金管は、化学プラント設備の部材として好適である。たとえば、本実施形態の合金管は、化学プラント設備のエチレン製造用反応管、分解管等に利用される。なお、本実施形態の合金管は、高温浸炭環境以外の他の環境で使用されてもよい。たとえば、化学プラント設備と同様に高温環境となる火力発電ボイラ設備(たとえばボイラチューブ等)にも、本実施形態の合金管は当然に使用可能である。
[本実施形態の合金管の構成について]
本実施形態の合金管は、母材と、酸化皮膜とを備える。母材の形状は管状である。酸化皮膜は、母材の表面に形成されている。酸化皮膜は少なくとも母材(管)の内面に形成されている。酸化皮膜は母材(管)の外面と内面とに形成されていてもよい。
本実施形態の合金管の酸化皮膜は、上述のとおり、従前とは異なる形態の酸化皮膜である。以下の説明では、本実施形態の酸化皮膜を「特定酸化皮膜」という。
[母材の化学組成について]
本実施形態の合金管の母材の化学組成は、次の元素を含有する。
Cr:10.00~25.00%未満
クロム(Cr)は、後述の特定酸化皮膜形成工程において、及び、高温浸炭環境での使用時において、特定酸化皮膜の生成を促進する。Crはさらに、本実施形態の母材がCを含有する場合、母材中のCと結合して鋼中にCr炭化物を形成し、合金管の高温クリープ強度を高める。Cr含有量が10.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が25.00%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温浸炭環境において、合金管中のCrが雰囲気ガス(炭化水素ガス)由来のCと結合し、母材表面にCr炭化物を過剰に多く生成する。これにより、母材表面の固溶Crが局所的に欠乏する。そのため、母材表面でのAl23の形成が十分に促進されず、母材表面にAl23が均一に形成されない。そのため、本実施形態の特定酸化皮膜を十分に形成することができない。Cr含有量が25.00%以上であればさらに、上述のCr炭化物が、均一な特定酸化皮膜の形成を物理的に阻害する。したがって、Cr含有量は10.00~25.00%未満である。Cr含有量の好ましい下限は11.00%であり、さらに好ましくは12.00%であり、さらに好ましくは13.00%である。Cr含有量の好ましい上限は24.50%であり、さらに好ましくは24.00%であり、さらに好ましくは23.50%であり、さらに好ましくは23.00%である。
Ni:30.00~60.00%
ニッケル(Ni)は、オーステナイトを安定化させ、高温クリープ強度を高める。Niはさらに、合金管の耐浸炭性を高める。Ni含有量が30.00%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が60.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Alを含有する金属間化合物(たとえば、γ’相(Ni3Al)等)が過剰に多く生成して、合金管の高温クリープ強度及び熱間加工性が著しく低下する。したがって、Ni含有量は30.00~60.00%である。Ni含有量の好ましい下限は31.00%であり、さらに好ましくは31.50%であり、さらに好ましくは32.00%であり、さらに好ましくは33.00%である。Ni含有量の好ましい上限は55.00%であり、さらに好ましくは50.00%であり、さらに好ましくは45.00%であり、さらに好ましくは40.00%である。
Al:2.50超~3.50%
アルミニウム(Al)は、母材表面に特定酸化皮膜を形成する。Alの酸化物であるAl23は、Cr23よりも熱力学的に安定である。そのため、高温浸炭環境において、母材表面にCr23を主体とする酸化皮膜ではなく、本実施形態の特定酸化皮膜を形成すれば、高温浸炭環境における合金管の耐浸炭性を顕著に高めることができる。Al含有量が2.50%以下であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Al含有量が3.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、製造工程中において、Alを含有する粗大な金属間化合物(たとえば、γ’相(Ni3Al)等)が過剰に多く生成して、合金管の高温クリープ強度及び熱間加工性を低下する。したがって、Al含有量は2.50超~3.50%である。Al含有量の好ましい下限は2.55%であり、さらに好ましくは2.60%であり、さらに好ましくは2.65%である。Al含有量の好ましい上限は3.45%であり、さらに好ましくは3.40%であり、さらに好ましくは3.35%であり、さらに好ましくは3.30%であり、さらに好ましくは3.25%である。本実施形態の母材の化学組成において、Al含有量は、全Al量(Total Al含有量)を意味する。
上述のとおり、本実施形態の合金管の母材の化学組成は質量%で、Cr:10.00~25.00%未満、Ni:30.00~60.00%、及び、Al:2.50超~3.50%、を含有する。
本実施形態の合金管の母材の化学組成は、上述の元素に加えてさらに、以下のC、Si、Mn、P、S、Nbを含有してもよい。つまり、母材の化学組成は、Cr:10.00~25.00%未満、Ni:30.00~60.00%、Al:2.50超~3.50%、C:0.250%以下、Si:0.01~2.00%、Mn:0~2.00%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Nb:0.20~3.50%を含有し、残部はFe及び不純物であってもよい。以下、各元素について説明する。
C:0.250%以下
炭素(C)は、Crと結合して合金中にCr炭化物を形成し、高温浸炭環境での合金管の高温クリープ強度を高める。Cが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、C含有量が0.250%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Cr炭化物が過剰に生成し、母材表面に本実施形態の特定酸化皮膜が十分に生成しない。そのため、高温浸炭環境において、耐浸炭性が十分に得られない。C含有量が0.250%を超えればさらに、鋳造後の母材において、粗大な共晶炭化物が生成する。この場合、合金管の靱性が低下する。したがって、C含有量は0.250%以下である。C含有量の下限は0%であってもよいが、C含有量の過剰な低減は製造コストを引き上げる。そこで、通常の工業生産を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.001%である。高温クリープ強度をさらに有効に高めるためのC含有量の好ましい下限は0.005%である。C含有量の好ましい上限は0.240%であり、さらに好ましくは0.235%であり、さらに好ましくは0.230%である。
Si:0.01~2.00%
シリコン(Si)は製鋼工程において、合金を脱酸する。Si含有量が0.01%以上であれば、合金が十分に脱酸される。しかしながら、Si含有量が2.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は0.01~2.00%である。Si含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Si含有量の好ましい上限は1.70%であり、さらに好ましくは1.60%であり、さらに好ましくは1.50%である。
Mn:0~2.00%
マンガン(Mn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mnは0%であってもよい。Mnは、合金管中のSと結合してMnSを形成し、合金管の熱間加工性を高める。Mnが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mn含有量が2.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の硬さが高くなりすぎる。この場合、合金管の熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、Mn含有量は0~2.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.50%である。Mn含有量の好ましい上限は1.80%であり、さらに好ましくは1.60%であり、さらに好ましくは1.50%である。
P:0.040%以下
燐(P)は合金管の溶接性及び熱間加工性を低下する。P含有量が0.040%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の溶接性及び熱間加工性が十分に得られない。したがって、P含有量は0.040%以下である。P含有量は0%であってもよい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、合金管の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%である。
S:0.010%以下
硫黄(S)は合金管の溶接性及び熱間加工性を低下する。S含有量が0.010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の溶接性及び熱間加工性が十分に得られない。したがって、S含有量は0.010%以下である。S含有量は0%であってもよい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は、合金管の製造コストを引き上げる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0.001%である。
Nb:0.20~3.50%
ニオブ(Nb)は、高温浸炭環境において、Laves相(Fe2(Nb、W))及び/又はガンマダブルプライム相(Γ’’相(Ni3Nb))に代表される金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、合金管の高温クリープ強度を高める。Nb含有量が0.20%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、高温クリープ強度がさらに高まる。一方、Nb含有量が3.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、合金管の靱性が低下する。したがって、Nb含有量は0.20~3.50%である。Nb含有量の好ましい下限は0.30%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは1.00%である。Nb含有量の好ましい上限は3.20%であり、さらに好ましくは3.10%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.90%である。
本実施形態の合金管の母材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、本実施形態の合金管の母材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の合金管の母材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素について]
本実施形態の合金管の母材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ti、Mo、W、B、V及びCuからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、いずれも合金管の高温クリープ強度を高める。
Ti:0~0.20%未満
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは、高温浸炭環境において、Laves相(Fe2Ti)及び/又はNi3Tiに代表される金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、高温浸炭環境において、結晶粒界及び結晶粒を析出強化して、合金管の高温クリープ強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が0.20%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上述の金属間化合物が過剰に多く生成して、合金管の靱性が低下する。したがって、Ti含有量は0~0.20%未満である。Ti含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Ti含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.12%である。
Mo:0~0.10%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、Moは、母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、合金管の高温クリープ強度を高める。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が0.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の熱間加工性が低下する。したがって、Mo含有量は0~0.10%である。Mo含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Mo含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%である。
W:0~6.00%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、Wは、母材の母相であるオーステナイトに固溶して、固溶強化により、合金管のクリープ強度を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、W含有量が6.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の熱間加工性が低下する。したがって、W含有量は0~6.00%である。W含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。W含有量の好ましい上限は5.00%であり、さらに好ましくは4.00%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.16%である。
B:0~0.1000%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、Bは結晶粒界に偏析して、高温浸炭環境において、結晶粒界での金属間化合物の析出を促進する。これにより、合金管の高温クリープ強度を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、B含有量が0.1000%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の溶接性及び熱間加工性が低下する。したがって、B含有量は0~0.1000%である。B含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。B含有量の好ましい上限は0.0800%であり、さらに好ましくは0.0600%である。
V:0~0.200%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは、Tiと同様に金属間化合物を形成し、合金管の高温クリープ強度を高める。一方、V含有量が高すぎれば、合金中の金属間化合物の体積率が過剰に高くなり、熱間加工性が低下する。したがって、V含有量は0~0.200%である。V含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。V含有量の好ましい上限は0.150%であり、さらに好ましくは0.100%である。
Cu:0~5.00%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuはオーステナイトを安定化する。Cuはさらに、析出強化により合金管の常温での強度、及び、高温クリープ強度を高める。Cu含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が5.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の延性及び熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0~5.00%である。Cu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は4.00%であり、さらに好ましくは3.50%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは2.50%である。
本実施形態の合金管の母材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、合金管の熱間加工性を高める。
Ca:0~0.0500%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは、Sを硫化物として固定して、合金管の熱間加工性を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が0.0500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の靱性及び熱間加工性が低下する。Ca含有量が0.0500%を超えればさらに、合金管の清浄性が低下する。したがって、Ca含有量は0~0.0500%である。Caの好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0400%であり、さらに好ましくは0.0350%であり、さらに好ましくは0.0300%であり、さらに好ましくは0.0150%である。
Mg:0~0.0500%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは、Sを硫化物として固定して、合金管の熱間加工性を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が0.0500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、合金管の靱性及び熱間加工性が低下する。Mg含有量が0.0500%を超えればさらに、合金管の清浄性が低下する。したがって、Mg含有量は0~0.0500%である。Mgの好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0050%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0400%であり、さらに好ましくは0.0300%であり、さらに好ましくは0.0200%であり、さらに好ましくは0.0100%である。
希土類元素(REM):0~0.100%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは、Sを硫化物として固定し、合金管の熱間加工性を高める。REMはさらに、酸化物を形成して、合金管の耐食性、高温クリープ強度、及び、高温クリープ延性を高める。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、REM含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、酸化物等の介在物が過剰に多くなり、合金管の熱間加工性及び溶接性が低下する。したがって、REM含有量は0~0.100%である。REM含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、更に好ましくは0.004%である。REM含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%である。
本明細書において、REMとは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称である。本実施形態の合金管に含有されるREMがこれらの元素のうち1種である場合、REM含有量は、含有されている元素の含有量を意味する。本実施形態に含有されるREMが2種以上である場合、REM含有量は、それらの元素の総含有量を意味する。REMは、一般的にミッシュメタルに含有される。たとえば、製鋼工程において、ミッシュメタルを合金管に添加して、REM含有量が上記の範囲となるように調整してもよい。
本実施形態の合金管の母材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Nを含有してもよい。Nは任意元素であり、オーステナイトを安定化する。
N:0~0.030%
窒素(N)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、N含有量は0%であってもよい。含有される場合、Nは、オーステナイトを安定化する。Nが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、N含有量が0.030%を超えれば、合金管中に粗大な窒化物及び/又は炭窒化物が生成し、合金管の靱性が低下する。したがって、N含有量は0~0.030%である。N含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%である。N含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%であり、0.015%である。
[特定酸化皮膜]
本実施形態の合金管は、母材の表面に特定酸化皮膜を備える。本実施形態の特定酸化皮膜は、Al23を主体とする皮膜であって、特定酸化皮膜の最表面だけでなく、特定酸化皮膜中においても、Cr酸化物、Ni酸化物、Fe酸化物がほとんど存在していない。
具体的には、合金管の特定酸化皮膜の最表面から深さ方向にX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:以下、XPSという)の深さ方向分析を実施する。このとき、ビーム径を100μmとして、深さ方向に48nmピッチで深さ方向分析を実施する。XPSでは、元素の結合状態の分析を行うことができる。そこで、深さ方向分析において、結合状態も考慮して、各元素濃度(原子%)を次のとおり定義する。
(A)酸素と結合しているAl濃度(原子%)を「Al-O濃度」と定義する。
(B)酸素と結合しているCr濃度(原子%)を「Cr-O濃度」と定義する。
(C)酸素と結合しているFe濃度(原子%)を「Fe-O濃度」と定義する。
(D)酸素と結合しているNi濃度(原子%)を「Ni-O濃度」と定義する。
(E)金属Feの濃度(原子%)を「Met.Fe濃度」と定義する。
なお、上記以外の元素として、金属Niの濃度(原子%)を、「Met.Ni濃度」と定義する。
さらに、XPSの深さ方向分析において、Met.Fe濃度がAl-O濃度、Cr-O濃度、Fe-O濃度、及び、Ni-O濃度を超える深さ位置であって、特定酸化皮膜の最表面に最も近い深さ位置を、「母材界面位置」と定義する。
以上の前提において、特定酸化皮膜を備える本実施形態の合金管では、次の要件(I)~(III)を満たす。
(I)特定酸化皮膜の最表面のAl-O濃度は、原子%で70.0%以上である。
(II)特定酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲(つまり、特定酸化皮膜内)において、Al-O濃度は深さ方向に進むにしたがって低下する。
(III)特定酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲において、Cr-O濃度は、原子%で15.00%未満であり、Fe-O濃度は、原子%で5.00%未満であり、Ni-O濃度は、原子%で1.00%未満である。
図1及び図2は、本実施形態の合金管における、特定酸化皮膜の最表面からのXPSの深さ方向分析結果例である。図1では、実施例における「H2-H2O」雰囲気(表2参照)に相当する雰囲気であって、酸素分圧が4.702×10-19~6.636×10-18Paの雰囲気で1080℃で10分保持して特定酸化皮膜を形成している。図2では、実施例における「真空」雰囲気であって、酸素分圧が2.10×10-5~1.05×10-3Paの雰囲気で1080℃で10分保持して特定酸化皮膜を形成している。一方、図3は、母材の化学組成は本実施形態の範囲を満たし、かつ、特許文献1及び2に開示されている従前の酸化性雰囲気(大気雰囲気)にて、1080℃で5分保持して酸化皮膜を形成した場合の、XPSの深さ方向分析結果例である。図1~図3の縦軸は、各元素の濃度(原子%)を示し、横軸は、最表面(0nm)から深さ方向の距離(SiO2換算距離)(nm)を示す。SiO2換算距離とは、測定時のスパッタした時間を、SiO2を標準試料として同じ時間スパッタした場合の最表面からの距離に換算した値を意味する。以降の説明では、SiO2換算距離を、単に「距離」と記載して説明する。
図1~図3を参照して、図1及び図2に示す特定酸化皮膜では、図3の従前の酸化皮膜と比較して、最表面でのAl-O濃度が大きく異なる。具体的には、図1及び図2に示す特定酸化皮膜では、最表面のAl-O濃度が原子%で70.0%以上であるのに対して、従前の酸化皮膜では、最表面のAl-O濃度が70.0%を大きく下回る(要件(I))。
さらに、図1~図3を参照して、最表面から母材界面位置までの範囲を「D1」と定義した場合、本実施形態の特定酸化皮膜(図1及び図2)では、D1内において、つまり、特定酸化皮膜内において、48nmピッチで求めたAl-O濃度は、最表面から深さ方向に進むにしたがって低下する。つまり、最表面におけるAl-Oが最も高く、深さ方向に進むにしたがい、Al-O濃度は徐々に低下する。これに対して、従前の酸化皮膜(図3)では、D1内において、つまり、酸化皮膜内において、48nmピッチで求めたAl-O濃度は、深さ方向に進むにしたがい低下しておらず、むしろ増加している(要件(II))。
さらに、図1~図3を参照して、本実施形態の特定酸化皮膜(図1及び図2)では、D1内において、つまり、特定酸化皮膜内において、Cr-O濃度は、原子%で15.00%未満であり、Fe-O濃度は、原子%で5.00%未満であり、Ni-O濃度は、原子%で1.00%未満である。つまり、特定酸化皮膜内において、酸化物は実質的にAl酸化物が過半以上を占める。これに対して、従前の酸化皮膜では、D1内において、つまり、酸化皮膜内において、Cr-O濃度が原子%で15.00%以上、Fe-O濃度が原子%で5.00%以上、又は、Ni-O濃度が原子%で1.00%以上となる領域が存在する。つまり、従前の酸化皮膜では、酸化皮膜中に、Al酸化物だけでなく、Cr酸化物、Fe酸化物、Ni酸化物等のAl酸化物以外の他の酸化物もある程度存在する(要件(III))。
以上のとおり、本実施形態の合金管では、従前と異なる形態の特定酸化皮膜を備えることにより、高温浸炭環境において、優れた耐浸炭性が得られる。具体的には、67体積%のH2ガスと、30体積%のCH4ガスと、3%のCO2ガスとを含有する高温浸炭雰囲気において1100℃で96時間保持する高温浸炭試験後の合金管の表層のC含有量(質量%)から、高温浸炭試験前の合金管のC含有量(質量%)を差分して得られる侵入C量(質量%)が、1.50%以下となる。
要件(I)について、特定酸化皮膜の最表面のAl-O濃度の好ましい下限は原子%で75.0%であり、さらに好ましくは76.0%であり、さらに好ましくは77.0%である。要件(III)について、特定酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲において、Cr-O濃度の好ましい上限は原子%で14.50%であり、さらに好ましくは14.00%であり、さらに好ましくは13.50%である。同様に、特定酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲において、Fe-O濃度の好ましい上限は原子%で4.50%であり、さらに好ましくは4.00%であり、さらに好ましくは3.50%である。同様に、特定酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲において、Ni-O濃度の好ましい上限は原子%で0.80%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.50%である。
本実施形態の合金管の特定酸化皮膜の形態の特定は、次の方法で求めることができる。合金管のうち、特定酸化皮膜を含むサンプルを採取する。サンプルの大きさは特に限定されず、XPSの深さ方向分析が実施できる程度の大きさであれば足りる。たとえば、合金管の内面を含む弧状サンプルを採取する。弧状サンプルのサイズは特に限定されないが、たとえば、厚さ8mm×円弧長さ20mm×長さ10mmである。円弧長さ20mm×長さ10mmの面は、合金管の内面に相当させる。
採取されたサンプルを用いて、XPSの深さ方向分析を実施する。深さ方向分析では、ビーム径を100μmとして、深さ方向に48nmピッチで深さ方向分析を実施して、48nmピッチごとに、Al-O濃度、Cr-O濃度、Fe-O濃度、Ni-O濃度、及び、Met.Fe濃度をそれぞれ求める。求めた各元素の濃度を用いて、上記要件(I)~(III)を満たすか否かを判断する。
[合金管での特定酸化皮膜の形成箇所について]
本実施形態において、特定酸化皮膜は少なくとも合金管の内面に形成されている。特定酸化皮膜は合金管の外面と内面とに形成されていてもよい。
[製造方法]
以下、本実施形態の合金管の製造方法を説明する。以降に説明する合金管の製造方法は、本実施形態の合金管の製造方法の一例である。したがって、上述の構成を有する合金管は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の合金管の製造方法の好ましい一例である。
本実施形態の合金管の製造方法は、母材の素材を準備する工程(準備工程)と、必要に応じて、素材に対して熱間加工を実施して中間合金管を製造する工程(熱間加工工程)と、必要に応じて、熱間加工工程後の中間合金管に対して酸洗処理を実施した後、冷間加工を実施する工程(冷間加工工程)と、必要に応じて、素材準備工程で準備された素材、熱間加工工程後の中間合金管、又は、冷間加工後の中間合金管に対して、溶体化熱処理を実施する工程(溶体化熱処理工程)と、必要に応じて、素材又は中間合金管に対して酸洗処理を実施して、表面のスケールを除去して表面状態を調整する工程(酸洗処理工程)と、素材又は中間合金管に対して、低酸素雰囲気中で熱処理を実施して、特定酸化皮膜を形成する工程(特定酸化皮膜形成工程)とを含む。本実施形態の製造方法の工程パターンは、次のとおりである。
(1)準備工程、酸洗処理工程、特定酸化皮膜形成工程の順に実施
(2)準備工程、溶体化熱処理工程、酸洗処理工程、特定酸化皮膜形成工程の順に実施
(3)準備工程、熱間加工工程、酸洗処理工程、特定酸化皮膜形成工程の順に実施
(4)準備工程、熱間加工工程、溶体化熱処理工程、酸洗処理工程、特定酸化皮膜形成工程の順に実施
(5)準備工程、熱間加工工程、冷間加工工程、特定酸化皮膜形成工程の順に実施
(6)準備工程、熱間加工工程、冷間加工工程、溶体化熱処理工程、酸洗処理工程、特定酸化皮膜形成工程の順に実施
なお、上記(5)のように冷間加工工程後に特定酸化皮膜形成工程を実施する場合、特定酸化皮膜形成工程前に酸洗処理工程を実施しなくてよい。冷間加工工程において、冷間加工前に酸洗処理を実施するためである。以下、各工程について説明する。
[準備工程]
準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は第三者から供給されてもよいし、製造してもよい。素材はインゴットであってもよいし、スラブ、ブルーム、又は、ビレットであってもよい。素材を製造する場合、次の方法により、素材を製造する。上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。製造された溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを製造する。製造された溶鋼を用いて、連続鋳造法によりスラブ、ブルーム、ビレット(円柱素材)を製造してもよい。製造されたインゴット、スラブ、ブルームに対して熱間加工を実施して、ビレットを製造してもよい。たとえば、インゴットに対して熱間鍛造を実施して、円柱状のビレットを製造し、このビレットを素材(円柱素材)としてもよい。この場合、熱間鍛造開始直前の素材の温度は特に限定されないが、たとえば、900~1300℃である。
[熱間加工工程]
熱間加工工程は必要に応じて実施する。つまり、熱間加工工程は実施しなくてもよい。実施する場合、素材に対して熱間加工を実施して、所定の形状の中間合金管を製造する。具体的には、機械加工により、円柱素材の中心軸に沿った貫通孔を形成する。貫通孔が形成された円柱素材に対して、熱間押出を実施して、中間合金管(管材)を製造する。熱間押出開始直前の素材の温度は特に限定されないが、たとえば900~1300℃である。
熱間加工工程では、熱間押出に代えて、円柱素材に対してマンネスマン法による穿孔圧延を実施して、中間合金管(管材)を製造してもよい。穿孔圧延前の素材の温度はたとえば、900~1300℃である。
[冷間加工工程]
冷間加工工程は必要に応じて実施する。つまり、冷間加工工程は実施しなくてもよい。実施する場合、中間合金管に対して、酸洗処理を実施した後、冷間加工を実施する。冷間加工はたとえば、冷間抽伸である。冷間加工工程により、母材表面にひずみを付与する。母材表面にひずみが付与されれば、冷間加工後に特定酸化皮膜形成工程を行う場合(上記工程パターン(5)の場合)において、Alが母材表面に移動しやすくなる。冷間加工工程における減面率は特に限定されないが、たとえば、10~90%である。冷間加工前に実施する酸洗処理は、たとえば、後述の酸洗処理工程と同じ酸洗処理を実施すればよい。
[溶体化熱処理工程]
溶体化熱処理工程は必要に応じて実施する。つまり、溶体化熱処理工程は実施しなくてもよい。実施する場合、準備工程で準備された素材、熱間加工工程後の中間合金管、又は、冷間加工工程後の中間合金管に対して、溶体化熱処理を実施する。溶体化熱処理により、素材又は中間合金管中の析出物を固溶する。
溶体化熱処理は、次の方法で実施する。炉内雰囲気が大気雰囲気である熱処理炉内に、素材又は中間合金管を装入する。ここでいう大気雰囲気は、大気を構成する気体である窒素を体積で78%以上、酸素を体積で20%以上含有する雰囲気を意味する。大気雰囲気の炉内において、素材又は中間合金管を900~1300℃に加熱し、900~1300℃で保持する。保持時間はたとえば、1~60分である。
[酸洗処理工程]
酸洗処理工程は必要に応じて実施する。つまり、酸洗処理工程は実施しなくてもよい。実施する場合、準備工程で準備された素材、熱間加工工程後の中間合金管、又は、溶体化熱処理後の素材又は中間合金管、に対して、酸洗処理を実施する。酸洗処理により、素材又は中間合金管の表面に形成されたスケールを除去する。酸洗処理工程前の素材又は中間合金管の表面に形成されたスケールは、主としてFe酸化物からなり、Cr酸化物も含む場合がある。次工程の特定酸化皮膜形成工程前に、素材又は中間合金管の表面にFe酸化物及びCr酸化物が残存している場合、特定酸化皮膜形成工程を実施しても上述の特定酸化皮膜が形成されない。酸洗処理を実施して、素材表面又は中間合金管表面からスケールを十分に除去することにより、次工程の特定酸化皮膜形成工程にて特定酸化皮膜を形成することができる。
酸洗条件は特に限定されない。好ましくは、酸洗溶液として、硝酸及び弗酸の混合溶液を用いる。混合溶液はたとえば、体積%で5.0~8.0%の硝酸と、体積%で5.0~8.0%の弗酸とを含む水溶液である。
酸洗溶液槽内の酸洗溶液の温度を30~50℃に調整し、素材又は中間合金管を酸洗溶液槽に浸漬する。浸漬時間はたとえば、0.5~5.0時間である。以上の酸洗処理により、素材表面又は中間合金管表面から、スケールが十分に除去される。
なお、酸洗処理工程では、上述の酸洗処理後の素材又は中間合金管の表面に対して、ブラスト加工を実施してもよい。ここで、ブラスト加工とは、研削材に運動エネルギーを与えて素材又は中間合金管の表面に衝突させ、金属表面を切削又は打撃する加工を意味する。ブラスト加工はたとえば、研削材に砂を用いたサンドブラスト、研削材に鋼粒を用いたショットブラスト、研削材に鋳鉄グリッドや鋳鋼グリッド、アルミナグリッド、炭化珪素グリッド等を用いたグリッドブラスト、研削材に、鋳鉄ショットや鋳鋼ショット、カットワイヤ等を用いたショットブラスト等である。ブラスト加工を実施した場合、素材表面又は中間合金管表面にひずみを付与することができる。表面のひずみは、次工程の特定酸化皮膜形成工程において、Alの移動を促進する。ブラスト加工に用いられる研削材の素材及び形状、ショット加工の加工条件(研削材の投射速度、投射量、投射角度等)は、付与するひずみ量に応じて、適宜調整が可能である。なお、酸洗処理後にブラスト加工を実施しなくてもよい。
[特定酸化皮膜形成工程]
特定酸化皮膜形成工程は必須の工程である。特定酸化皮膜形成工程では、酸洗処理後の素材又は中間合金管に対して、低酸素濃度雰囲気内で熱処理を実施して、素材表面又は中間合金管の表面に対して、上述の特定酸化皮膜を形成する。
具体的には、次の条件で熱処理を実施する。酸素分圧が1.0×10-19~5.0×10-3Paの炉内雰囲気を有する熱処理炉を準備する。熱処理炉内に素材又は中間合金管を装入して、皮膜形成温度まで加熱する。皮膜形成温度は1000~1300℃である。皮膜形成温度にて1.0~30.0分保持する。保持時間経過後、素材又は中間合金管を熱処理炉から抽出して、放冷する。又は、保持時間経過後、素材又は中間合金管を、炉内で常温まで徐冷する。以上の工程により、上述の母材表面に特定酸化皮膜が形成される。
以上の製造方法により、上述の構成の母材及び特定酸化皮膜を備える合金管を製造できる。上述のとおり、本実施形態の合金管は、特定酸化皮膜を備えることにより、優れた耐浸炭性を有する。具体的には、67体積%のH2ガスと、30体積%のCH4ガスと、3%のCO2ガスとを含有する高温浸炭雰囲気において1100℃で96時間保持する高温浸炭試験後の合金管の表層のC含有量(質量%)から、高温浸炭試験前の合金管のC含有量(質量%)を差分して得られる侵入C量(質量%)が、1.50%以下となる。
[製造方法]
表1に示す化学組成を有する溶鋼を、真空溶解炉を用いて製造した。
Figure 0007486925000001
表1中の「-」は、対応する元素含有量が検出限界未満であったことを意味する。本明細書において、対応する元素含有量が検出限界未満である場合、その元素は含有されていないと判断する。表1中の合金番号の溶鋼を用いて、円柱状のインゴットを製造した。インゴットに対して熱間鍛造を実施して、円柱状のビレットを製造した。熱間鍛造直前の素材温度はいずれも、900~1300℃の範囲内であった。機械加工により、円柱状のビレットの中心軸に貫通孔を形成した。貫通孔が形成された円柱状のビレットに対して、熱間押出を実施して、中間合金管を製造した。熱間押出前のビレットの温度は、900~1300℃であった。
得られた中間合金管に対して、酸洗処理を実施した後、冷間圧延を実施した。酸洗処理では、酸洗溶液槽内の酸洗溶液温度を30~50℃に調整し、中間合金材を0.5~5.0時間浸漬した。なお、酸洗溶液として、体積%で5.0~8.0%の硝酸と、体積%で5.0~8.0%の弗酸とを含む混合溶液を用いた。浸漬時間経過後の中間合金管を酸洗溶液から取り出し、水洗した。冷間圧延時の減面率は10~90%であった。冷間圧延後の中間合金管に対して、溶体化熱処理を実施した。溶体化熱処理は、大気雰囲気内で実施し、熱処理温度は1250℃であり、熱処理温度での保持時間は3分であった。
溶体化熱処理後の中間合金管に対して、酸洗処理を実施した。酸洗処理の条件は、冷間圧延前の酸洗処理と同じとした。浸漬時間経過後の中間合金管を酸洗溶液から取り出し、水洗した。
酸化処理工程後の中間合金管から、厚さ8mm×円弧長さ20mm×長さ10mmの弧状サンプルを採取した。円弧長さ20mm×長さ10mmの面は、中間合金管の内面に相当した。つまり、上述のサンプルは、各試験番号の中間合金管の内面の一部を含んだ。以下、弧状サンプルのうち、中間合金管の内面に相当する面を、「内面相当面」という。サンプルの厚さ方向は中間合金管の肉厚方向に相当し、サンプルの円弧長さ方向は、中間合金管の円周方向に相当し、サンプルの長さ方向は中間合金管の長手方向に相当した。
各試験番号の弧状サンプルに対して、特定酸化皮膜形成処理工程を実施した。特定酸化皮膜形成処理工程での熱処理炉の炉内雰囲気の種類と、炉内雰囲気中の酸素濃度(Pa)と、皮膜形成温度(℃)と、皮膜形成温度での保持時間(分)は、表2に示すとおりであった。
Figure 0007486925000002
表2中の「雰囲気」欄の「H2-H2O」は、5~20ppmの水蒸気(H2O)を含有するH2雰囲気であることを意味する。「真空」は、雰囲気の圧力を5.00×10-3Pa以下とした雰囲気であることを意味する。「大気」は、雰囲気が大気と同じであることを意味する。「低真空」は、雰囲気の圧力を5.00×10-3Paよりも高く、1.00×10-1Pa以下の雰囲気であることを意味する。以上の製造工程により、母材と、母材表面に形成された酸化皮膜とを備える合金管(弧状サンプル)を製造した。
[酸化皮膜の分析]
各試験番号の合金管(弧状サンプル)の、内面相当面に対して、XPSの深さ方向分析を実施した。ビーム径を100μmとし、最表面から深さ方向に48nmピッチで、48nmピッチごとに、Al-O濃度、Cr-O濃度、Fe-O濃度、Ni-O濃度、及び、Met.Fe濃度をそれぞれ求めた。求めた各元素濃度を用いて、次の事項を求めた。
(i)最表面でのAl-O濃度(原子%)
(ii)酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1(図1~図3参照)において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下しているか否か
(iii)酸化皮膜から母材界面位置までの範囲D1(図1~図3参照)における、Cr-O濃度の最大値、Fe-O濃度の最大値、Ni-O濃度の最大値
上記(ii)については、範囲D1においてAl-O濃度が深さ方向に進むにしたがって低下している場合を合格(表2中の「Al濃度推移」欄で「P」:Passing)とし、Al-O濃度が深さ方向に進むにしたがって低下しなかった場合を不合格(表2中の「Al濃度推移」で「F」:Failure)とした。
[浸炭試験]
各試験番号の合金管を高温浸炭環境で保持した場合に侵入するC量(質量%)を、次の高温浸炭試験により調査した。具体的には、各試験番号の弧状サンプルを、67体積%のH2ガスと、30体積%のCH4ガスと、3%のCO2ガスとを含有する炉内雰囲気を有し、1100℃の熱処理炉に装入した。1100℃で96時間保持し、その後、熱処理炉から抽出して、放冷した。高温浸炭試験後の弧状サンプルの内面相当面に形成された酸化皮膜に対して、#600番の研磨紙で乾式研磨を実施して、酸化皮膜を除去した。
酸化皮膜を除去した後のサンプルの内面相当面から、深さ0.5mmピッチで4層分(つまり、内面相当面から深さ2.0mm分)の分析用切粉を採取した。各層の分析切分を用いて、JIS G1211-3(2013)に準拠した高周波燃焼赤外吸収法を実施して、各層のC含有量(質量%)を求めた。高温浸炭試験後の各層のC含有量から、高温浸炭試験前の母材のC含有量(質量%)を差分した値を、各層の侵入C量とした。得られた4つの侵入C量の算術平均値を、侵入C量(質量%)と定義した。得られた侵入C量を表2に示す。
[評価結果]
表1及び表2を参照して、試験番号1~3、14~21及び23では、化学組成が適切であり、製造条件も適切であった。その結果、酸化皮膜の最表面でのAl-O濃度は原子%でいずれも70.0%以上であった。さらに、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下していた。さらに、範囲D1における最大Cr-O濃度は15.00at%未満であり、さらに、範囲D1における最大Fe-O濃度は5.00%未満であり、最大Ni-O濃度は1.00at%未満であった。その結果、侵入C量(質量%)が、1.50%以下と低く、高温浸炭環境において、極めて優れた耐浸炭性を示した。
一方、試験番号4では、化学組成が適切であったものの、酸化皮膜形成処理において、皮膜形成温度が低すぎた。その結果、最表面でのAl-O濃度が70.0at%未満となり、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下してはおらず、深さ方向におけるAl-O濃度分布が不安定であった。さらに、範囲D1における最大Cr-O濃度が15.00at%以上であり、最大Fe-O濃度は5.00%以上、最大Ni-O濃度は1.00at%以上であった。その結果、侵入C量が1.50%を超え、耐浸炭性が低かった。
試験番号5では、化学組成が適切であったものの、酸化皮膜形成処理において、皮膜形成温度が高すぎた。その結果、最表面でのAl-O濃度が70.0at%未満となり、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下してはおらず、深さ方向におけるAl-O濃度分布が不安定であった。さらに、範囲D1における最大Cr-O濃度が15.00at%以上であり、最大Fe-O濃度は5.00%以上、最大Ni-O濃度は1.00at%以上であった。その結果、侵入C量が1.50%を超え、耐浸炭性が低かった。
試験番号6では、化学組成が適切であったものの、酸化皮膜形成処理において、皮膜形成温度での保持時間が短すぎた。その結果、最表面でのAl-O濃度が70.0at%未満となり、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下してはおらず、深さ方向におけるAl-O濃度分布が不安定であった。さらに、範囲D1における最大Cr-O濃度が15.00at%以上であり、最大Fe-O濃度は5.00%以上、最大Ni-O濃度は1.00at%以上であった。その結果、侵入C量が1.50%を超え、耐浸炭性が低かった。
試験番号7では、化学組成が適切であったものの、酸化皮膜形成処理において、皮膜形成温度での保持時間が長すぎた。その結果、最表面でのAl-O濃度が70.0at%未満となり、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下してはおらず、深さ方向におけるAl-O濃度分布が不安定であった。さらに、範囲D1における最大Cr-O濃度が15.00at%以上であり、最大Fe-O濃度は5.00%以上、最大Ni-O濃度は1.00at%以上であった。その結果、侵入C量が1.50%を超え、耐浸炭性が低かった。
試験番号8、12、13では、酸化皮膜形成処理における雰囲気中の酸素分圧が高すぎた。その結果、酸化皮膜の最表面でのAl-O濃度は原子%で70.0%未満となり、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下してはおらず、深さ方向におけるAl-O濃度分布が不安定であった。さらに、範囲D1における最大Cr-O濃度が15.0at%以上であり、最大Fe-O濃度は5.00%以上、最大Ni-O濃度は1.00at%以上であった。その結果、侵入C量(質量%)が、1.50%を超え、高温浸炭環境において、耐浸炭性が低かった。
試験番号9では、Cr含有量が低すぎた。そのため、最表面でのAl-O濃度が70.0at%未満となり、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下してはおらず、深さ方向におけるAl-O濃度分布が不安定であった。さらに、範囲D1における最大Fe-O濃度は5.00%以上、最大Ni-O濃度は1.00at%以上であった。その結果、侵入C量が1.50%を超え、耐浸炭性が低かった。
試験番号10では、Al含有量が低すぎた。そのため、最表面でのAl-O濃度が70.0at%未満となり、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下してはおらず、深さ方向におけるAl-O濃度分布が不安定であった。さらに、範囲D1における最大Cr-O濃度が15.00at%以上であり、最大Fe-O濃度は5.00%以上、最大Ni-O濃度は1.00at%以上であった。その結果、侵入C量が1.50%を超え、耐浸炭性が低かった。
試験番号11では、Cr含有量が高すぎた。そのため、最表面でのAl-O濃度が70.0at%未満となり、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下してはおらず、深さ方向におけるAl-O濃度分布が不安定であった。さらに、範囲D1における最大Cr-O濃度が15.00at%以上であり、最大Fe-O濃度は5.00%以上、最大Ni-O濃度は1.00at%以上であった。その結果、侵入C量が1.50%を超え、耐浸炭性が低かった。
試験番号22では、化学組成は適切であったものの、酸洗処理を実施しなかった。そのため、最表面でのAl-O濃度が70.0at%未満となり、酸化皮膜の最表面から母材界面位置までの範囲D1において、深さ方向に進むにしたがってAl-O濃度が低下してはおらず、深さ方向におけるAl-O濃度分布が不安定であった。さらに、範囲D1における最大Cr-O濃度が15.00at%以上であり、最大Fe-O濃度は5.00%以上、最大Ni-O濃度は1.00at%以上であった。その結果、侵入C量が1.50%を超え、耐浸炭性が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (5)

  1. 化学組成が、質量%で、
    Cr:10.00~25.00%未満、
    Ni:30.00%~60.00%、
    Al:2.50%超~3.50%、
    を含有する母材と、
    前記母材の表面上に形成される酸化皮膜とを備え、
    前記酸化皮膜の最表面から深さ方向にビーム径100μmにてX線光電子分光法の深さ方向分析を実施し、深さ方向に48nmピッチで、原子%で、
    酸素と結合しているAl濃度であるAl-O濃度、
    酸素と結合しているCr濃度であるCr-O濃度、
    酸素と結合しているFe濃度であるFe-O濃度、
    酸素と結合しているNi濃度であるNi-O濃度、及び、
    金属Fe濃度であるMet.Fe濃度を求めた場合、
    最表面のAl-O濃度は70.0%以上であり、
    前記Met.Fe濃度が前記Al-O濃度、前記Cr-O濃度、前記Fe-O濃度、及び、前記Ni-O濃度を超える深さ位置を母材界面位置と定義するとき、前記最表面から前記母材界面位置までの範囲において、前記Al-O濃度は、深さ方向に進むにしたがって低下し、
    前記最表面から前記母材界面深さ位置までの範囲において、前記Cr-O濃度は15.00%未満であり、前記Fe-O濃度は5.00%未満であり、前記Ni-O濃度は1.00%未満である、
    合金管。
  2. 請求項1に記載の合金管であって、
    前記母材の前記化学組成は、
    Cr:10.00~25.00%未満、
    Ni:30.00~60.00%、
    Al:2.50超~3.50%、
    C:0.250%以下、
    Si:0.01~2.00%、
    Mn:0~2.00%、
    P:0.040%以下、
    S:0.010%以下、
    Nb:0.20~3.50%、
    Ti:0~0.20%未満、
    Mo:0~0.10%、
    W:0~6.00%、
    B:0~0.1000%、
    V:0~0.200%、
    Cu:0~5.00%、
    Ca:0~0.0500%、
    Mg:0~0.0500%、
    希土類元素:0~0.100%、
    N:0~0.030%、及び、
    残部はFe及び、不純物からなる、
    合金管。
  3. 請求項2に記載の合金管であって、
    前記母材の前記化学組成は、
    Ti:0.01~0.20%未満、
    Mo:0.01~0.10%、
    W:0.01~6.00%、
    B:0.0001~0.1000%、
    V:0.001~0.200%、及び、
    Cu:0.01~5.00%からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
    合金管。
  4. 請求項2又は請求項3に記載の合金管であって、
    前記母材の前記化学組成は、
    Ca:0.0001~0.0500%、
    Mg:0.0001~0.0500%、及び、
    希土類元素:0.001~0.100%からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
    合金管。
  5. 請求項2~請求項4のいずれか1項に記載の合金管であって、
    前記母材の前記化学組成は、
    N:0.001~0.030%を含有する、
    合金管。
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