JP2005023343A - 原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管 - Google Patents

原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管 Download PDF

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Abstract

【課題】管肉表層部での発生応力を低減させ、高温純水環境における耐粒界応力腐食割れ特性に優れた原子力用ステンレス鋼管を提供する。
【解決手段】Cr:15〜30%、Ni:8〜30%、C:0.001〜0.1%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下、N:0.001〜0.15%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ腐食性流体と接する面から少なくとも0.2mmまでの表層部の平均結晶粒度番号がJIS G0551で2以下であり、腐食性流体と接する面から少なくとも1mm以上の内部の平均結晶粒度番号が同7以上の組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼管。さらに、Mo:0.05〜3.0%またはV、Nb、Ti、Zrの各0.001〜1.0%、またはCa:0.0003〜0.010%のうちから1種以上を含有させてもよい。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軽水炉などの高温純水環境で問題となる粒界応力腐食割れに対する抵抗性に優れたステンレス鋼管に関するもので、さらに詳しくは、腐食性流体に接触する管肉の表層部では結晶粒径が大きく、管肉の内部では結晶粒径が小さい組織を有するステンレス鋼管に関する。
【0002】
【従来の技術】
原子力発電設備で用いられる管および容器は、酸素を含有する高温の純水環境に曝されるため、粒界応力腐食割れが発生するおそれがある。したがって、これらの材料には、C含有量を極低レベルに規定した低炭素316Lステンレス鋼などが使用されている。これらの材料は、特に、粒界におけるCr欠乏などに起因する粒界応力腐食割れに対する抵抗性を向上させる目的で、C含有量を低減し、Moを含有させた材料となっている。
【0003】
原子力設備における高温水環境での粒界応力腐食割れ性を改善する方法として、例えば、特許文献1には、固溶強化型Ni基合金の高耐食化と良好な機械的性質を得るため、最終投階の熱処理において前記合金を1000〜1100℃に加熱し、含有C量の60%以上を固溶させると共に、この加熱温度において結晶粒径を結晶粒度番号(JIS G0552)で4以上の細粒に調整した後、加熱温度から300℃までを200℃/sec以上の冷却速度で急冷する固溶強化型Ni基合金の耐食性改善熱処理法が開示されている。
【0004】
また、材料の結晶粒径を規定した材料として、特許文献2には、C、N、Mn、Ni、Cr、Si、Mo、Cu、Al、V、Tiなどの各元素の含有量の関数として表される応力腐食割れ指数および残留加工誘起マルテンサイト量の値が0%以上で、かつ、結晶粒径が2μm以下のオーステナイト結晶粒加工組織を有し、引張り強さおよび耐力が規定された耐応力腐食割れに優れた高強度・高耐力オーステナイト系ステンレス鋼線およびその製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、材料の表面の結晶粒径を制御した例としては、特許文献3に、酸化剤または燃料に接触すべき表面部分の平均結晶粒径が好ましくは10〜100μmの多結晶組織からなる固体高分子型燃料電池用セパレータが開示されている。
そして、特許文献4には、耐水蒸気酸化性と高温強度とを備えた鋼管として、鋼管の平均結晶粒度番号がNo.6またはそれ以下の粗粒組織とその内面側における厚さが50〜300μmで平均結晶粒度番号がNo.7またはそれ以上の細粒層とを有し、細粒層部のC+Nが0.15%以上であるオーステナイトステンレス鋼管が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1および2に開示されるような材料の厚さ方向の全域にわたって結晶粒を細粒化したオーステナイト系ステンレス鋼やNi基合金、および特許文献4に開示されているような材料の表面部分の結晶粒を細粒化したオーステナイト系ステンレス鋼管の何れにおいても、高温水環境下における粒界応力腐食割れの発生を充分に防止することはできない。また、特許文献3に開示されたセパレータ材料は、高温水環境とは腐食環境が大きく異なる環境下で用いられ、しかも表面部分の結晶粒径は100μm程度以下の比較的細粒の材料である。
【0007】
上述したとおり、原子力用ステンレス鋼管の高温純水環境下における耐粒界応力腐食割れに対する抵抗性の向上については、なお改善すべき課題がある。
【特許文献1】
特開平5−140707号公報(特許請求の範囲および段落〔0007〕〜〔0010〕)
【特許文献2】
特開平8−246106号公報(特許請求の範囲および段落〔0019〕)
【特許文献3】
特開2001−6694号公報(特許請求の範囲および段落〔0006〕〜〔0013〕)
【特許文献4】
特公平4−53943号公報(特許請求の範囲および第3欄17行〜第6欄27行)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前述のとおり、従来技術では、オーステナイト系ステンレス鋼は高温水環境において粒界応力腐食割れを生じるおそれがある。
【0009】
この形態の応力腐食割れを支配する要因は、割れの発生する起点の存否および割れの伝播特性である。前記要因のうち、割れの起点となりやすいのは、表面介在物の存在による組織的不均一箇所や表面加工による硬化層の存在箇所である。一方、割れの伝播を加速するのは、伝播経路である粒界に存在する材料欠陥であり、具体的には、粒界におけるCrの欠乏による材料の鋭敏化、PやSのような不純物の粒界偏析などである。
【0010】
本発明は、従来技術の項で述べた問題に鑑みてなされたものであり、上記した粒界応力腐食割れの発生要因、特に割れの起点となりやすい表層部での発生応力を低減させることにより、高温純水環境における粒界応力腐食割れの発生に対する抵抗性の高い原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管を得ることを課題としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記したとおり、高温水環境における粒界応力腐食割れの発生を支配する要因は、割れの起点の生成および割れの伝播である。本発明者らは、上述の課題を解決するために、従来の問題点を踏まえて、特に割れの起点の生成防止の観点から、高温純水環境における耐粒界応力腐食割れ性の向上を検討し、以下の(a)〜(c)に示す知見を得た。
【0012】
(a)原子力用プラントの製造過程で材料表面に施される切削加工などにより形成される表面近傍の硬化層では、加工硬化により材料の内部よりも引張強度が上昇することから、引張強度が相対的に低い材料内部と同等の歪み量が加えられた場合には、前記硬化層では高い応力が発生し、割れの起点が形成されやすいと推察される。
(b)したがって、前記(a)の表面近傍の硬化層における結晶粒度を予め引張強度の低い粗粒とすることにより、表面近傍に歪みが加えられた場合の発生応力を低下させ、割れの発生頻度を低減できる。
(c)表面近傍の硬化層における結晶粒度の粗粒化の程度については、JISG0551で規定される平均結晶粒度番号が2以下であれば、充分な耐食性が得られる。
【0013】
なお、上記の(a)〜(c)に示す知見については、さらに詳しく後述するが、これらの知見は、従来の知見、すなわち、ステンレス鋼の耐粒界応力腐食割れ性は、結晶粒径の小さい方が優れており、その理由は、結晶粒径の小さい方が粒界への応力集中が少なく、また、不純物の偏析度合いも小さいことによるとされてきた知見とは全く異なる新しい知見である。
本発明は、上記の新しい知見に基いて完成されたものであり、その要旨は、下記の(1)〜(4)に示す原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管にある。
【0014】
(1)質量%で、Cr:15〜30%、Ni:8〜30%、C:0.001〜0.1%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下およびN:0.001〜0.15%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ腐食性流体と接する面から少なくとも0.2mmまでの表層部の平均結晶粒度番号がJIS G0551で2以下であり、腐食性流体と接する面から少なくとも1mm以上の内部の平均結晶粒度番号が同7以上の組織を有する原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管。
【0015】
(2)前記(1)に記載の原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管において、さらに、質量%で、Mo:0.05〜3.0%を含有させてもよい。
【0016】
(3)前記(1)または(2)に記載の原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管において、さらに、質量%で、V:0.001〜1.0%、Nb:0.001〜1.0%、Ti:0.001〜1.0%およびZr:0.001〜1.0%のうちの1種または2種以上を含有させてもよい。
【0017】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管において、さらに、質量%で、Ca:0.0003〜0.010%を含有させてもよい。
【0018】
なお、「腐食性流体と接する面」とは、前記ステンレス鋼を腐食させる高温純水などの流体と接触する鋼管の表面を意味する。本発明においては、鋼管の内表面および外表面のいずれか一方であってもよいし、両方であってもよい。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明は、腐食性流体と接する面から少なくとも0.2mmまでの表層部の平均結晶粒度番号がJIS G0551で2以下であり、腐食性流体と接する面から少なくとも1mm以上の内部の平均結晶粒度番号が同7以上の組織を有するオーステナイト系ステンレス鋼管であり、以下にさらに詳しく説明する。
【0020】
前述したように、従来、ステンレス鋼の耐粒界応力腐食割れ性は、結晶粒径が小さい方が優れているとされている。また、その理由は、結晶粒径の小さい材料の場合の方が結晶粒界の境界面積が大きいことから、応力集中が少なく、また、不純物であるPやSなどの溶質元素の偏析の程度も小さくなることによるとされている。
【0021】
高温水環境における粒界応力腐食割れは、材料表層部の介在物や表層部の加工層が起点となって割れが発生し、これが結晶粒界を伝播する。表層部の介在物については、鋼中のS含有量やO(酸素)含有量を制限することによって、硫化物や酸化物の量を低減することができる。一方、材料の表面近傍では、原子力用プラントの製造段階において、溶接後に表面仕上げのためのグラインダーなどによる切削または研磨加工が施されるため、これらの加工により表層部には硬化層が形成される。
【0022】
図1は、材料の応力−歪み曲線におよぼす結晶粒の大きさの影響を模式的に示す図である。同図において、Aで示す曲線は結晶粒径が大きい場合の関係を示し、Bで示す曲線は結晶粒径が小さい場合の関係を示している。
【0023】
同図の関係から、結晶粒径の大きい材料と結晶粒径の小さい材料に同等の歪み(同図中のε)が加えられたとき、引張強度の低い結晶粒径の大きい材料に発生する応力(同図中のσ)は、引張強度の高い結晶粒径の小さい材料に発生する応力(同図中のσ)に比較して小さいと推察される。
【0024】
上記の曲線AおよびBにより示される発生応力の大小関係を考慮して、材料の表層部の硬化層、すなわち引張強度の高い材料を予め粗粒化しておくことにより、材料の表層部を前記図1中のBで示す曲線のように、発生応力が低い特性を有する材料に改善できる。
【0025】
そこで、鋭敏化熱処理を施した材料の表層部の結晶粒を熱処理により粗粒化した後、材料表面をグラインダーで研磨して二重U曲げ試験片を作製し、これを250℃、溶存酸素濃度30ppmの高温純水中に浸漬して、粒界応力腐食割れ試験を行い、最大割れ深さにより耐粒界応力腐食割れ性を評価した。なお、供試鋼としては、C:0.02%、Si:0.5%、Mn:1.5%、P:0.03%、S:0.001%、Cr:17.5%、Ni:12.3%、N:0.02%、Nb:0.03%の化学成分を有するオーステナイト系ステンレス鋼を使用し、その他の試験条件は、後述の実施例に記載した条件と同様とした。
【0026】
図2は、高温水中における応力腐食割れ試験結果を示す図である。同図の結果より、材料内部および表層部ともに結晶粒径の小さい平均結晶粒度番号7としたケース1の場合に比較して、材料内部は結晶粒径が小さい粒度番号7のままで、表層部の結晶粒を粗粒化して粒度番号3としたケース2では、表面歪みが加えられ加工硬化した後においても、応力腐食割れによる最大割れ深さは低減し、割れの発生頻度は低下することが判明した。
【0027】
さらに、ケース3のように、材料内部の平均結晶粒度番号は7のままとし、材料表層部の結晶粒を、平均結晶粒度番号が2またはそれ以下となるまで粗粒化すれば、充分な耐応力腐食割れ性が得られることが明らかとなった。
以下に、本発明で規定した結晶粒度および鋼の成分組成範囲の限定理由ならびに好ましい範囲について説明する。
【0028】
1)管肉の表層部および内部の結晶粒度
前記のとおり、本発明では、腐食性流体と接する面から少なくとも0.2mmまでの表層部の平均結晶粒度番号をJIS G0551で2以下とする。表層部の厚さが0.2mm未満では表層部の結晶粒が粗粒化したとしても発生応力低減による粒界応力腐食割れ発生の低減効果が得られず、また、平均結晶粒度番号が2を超えて大きい範囲においても、耐粒界応力腐食割れ性の向上効果が得られないからである。
【0029】
一方、本発明では、腐食性流体と接する面から少なくとも1mm以上の内部の平均結晶粒度番号は7以上とする。腐食性流体と接する面から少なくとも1mmより内部の平均結晶粒度番号が7未満であると、粒界への応力集中が大きく、また粒界偏析元素の濃度も高くなるため、割れの伝播を阻止する効果が得られなくなり、耐粒界腐食性が低くなる。なお、腐食性流体と接する面から少なくとも1mm以上の内部の平均結晶粒度番号を8以上とすればさらに耐応力腐食割れ性が向上するので好ましい。
上記のように、肉厚方向に結晶粒径が変化した鋼管を得るためには、熱処理などにより鋼管の肉厚方向の全域にわたって結晶粒度番号を7以上とした鋼管を製造し、さらに、腐食性流体と接する面の表層部のみを、例えば1000℃以上などのように、材料の再結晶温度以上の温度で加熱処理するのが好ましい。表層部のみを加熱する方法としては、腐食性流体と接する面と反対側の面を冷却しながら腐食性流体と接する面の表層部を加熱するなどの方法によればよい。
【0030】
さらに、例えば、鋼管の内面表層部を加熱することにより内面表層部の結晶粒を粗粒化処理した後、外面表層部を同様に加熱することにより外面表層部の結晶粒を粗粒化処理を施すなどすれば、内面および外面の双方の面の表層部のみの結晶粒を粗粒化することが可能である。
2)ステンレス鋼の化学組成
C:0.001〜0.1%:
Cは、ステンレス鋼の強度および耐力を確保するために必要な元素であり、C含有量が0.001%未満ではその効果が得られない。一方、含有量が0.1%を超えて多くなると結晶粒界に炭化物が形成され、耐粒界応力腐食割れ性が損なわれる。そこで、C含有量の範囲を0.001〜0.1%とした。
【0031】
Si:0.1〜1.0%:
Siは、精錬過程における脱酸剤として必要な元素であり、脱酸の効果を得るためには、0.1%以上を含有させる必要がある。しかし、1.0%を超えて多く含有させると靭性が低下するので、靭性確保のため、その含有量は1.0%以下とした。
【0032】
Mn:0.1〜2.0%:
Mnは、脱酸に有効な元素であり、含有量が0.1%以上でその効果が得られる。一方、2.0%を超えて含有させると耐食性を劣化させるので、その含有量は2.0%以下とした。
【0033】
P:0.05%以下:
Pは、鋼中の不純物元素であり、その含有量は少なければ少ないほどよい。含有量が0.05%を超えるとPが結晶粒界に偏析し、耐粒界応力腐食割れ性を劣化させることから、含有量の上限を0.05%とした。
【0034】
S:0.05%以下:
Sは、鋼中の不純物元素であり、結晶粒界に偏析して耐粒界応力腐食割れ性を劣化させるばかりか、熱間加工性を低下させるため、含有量の上限を0.05%とした。
Cr:15〜30%:
Crは、耐食性を向上するために不可欠な元素であり、含有量が15%以上で充分な効果が得られる。しかし、30%を超える含有は、熱間加工性の劣化を招くので、含有量は30%以下とした。
【0035】
Ni:8〜30%:
Niは、耐食性を向上させるため、およびオーステナイト相を形成させるために有効な元素であり、Ni含有率が8%以上でこれらの効果が得られる。一方、30%を超えて多く含有されると上記の効果が飽和し、また、Niは高価な元素であることから経済性を損ねることとなる。そこで、Ni含有量の上限を30%とした。
【0036】
Mo:0.05〜3.0%:
Moは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる作用を有する元素であり、含有してもしなくてもよい。Moを含有させることによる耐食性の向上が要求される場合には、0.05%以上を含有させることによりその効果が得られる。一方、3.0%を超えて多量に含有させると金属間化合物が粒界に析出し、耐粒界応力腐食割れ性が劣化する。そこで、Moを含有させる場合の含有量の範囲は0.05〜3.0%とした。
【0037】
N:0.001〜0.15%:
Nは、鋼の強度を確保するために必要な元素であり、含有量が0.001%以上でその効果が得られる。しかし、0.15%を超えて多量に含有されると溶接性が劣化するので、N含有量の上限は0.15%とした。
【0038】
V、Nb、TiおよびZr:1種または2種以上を各0.001〜1.0%:
V、Nb、TiおよびZrは、結晶粒を細粒化する効果を有する元素であり、含有してもしなくてもよい。結晶粒の細粒化が特に要求される場合には、これらの元素の1種または2種以上をそれぞれ0.001%以上含有させることによりその効果が得られる。一方、それぞれの元素を1.0%を超えて多量に含有させてもその効果は飽和する。そこで、これらの元素を含有させる場合の含有量の範囲はそれぞれ0.001〜1.0%とした。
【0039】
Ca:0.0003〜0.010%:
Caは、熱間加工性を向上させる作用を有する元素であり、含有してもしなくてもよい。熱間加工性の向上を必要とする場合には、0.0003%以上を含有させることによりその効果が得られる。一方、0.010%を超えて含有させてもその効果は飽和する。そこで、Caを含有させる場合の含有量の範囲は0.0003〜0.010%とした。
【0040】
【実施例】
本発明の効果を確認するため、種々の化学成分を有するステンレス鋼材について、材料の表層部および厚さ方向内部の結晶粒径を調整し、応力腐食割れ試験を行って、その結果を評価した。
【0041】
〔試験材の作製〕
表1に示す化学成分を有する18種類のステンレス鋼を溶製し、これらの鋼を用いてインゴットを鋳造し、1200℃に加熱後、熱間鍛造及び熱間圧延を施して厚さ5mmの板材を得た。
【0042】
【表1】
Figure 2005023343
【0043】
この板材を920〜950℃に加熱後、水冷による焼入れ処理を行い、板材の内部までほぼ均一に結晶粒度番号が7または8の細粒組織を有する板材を得た。さらに、この板材の一方の表層部を水冷しながら、もう一方の表層部を再結晶温度以上の1000℃に加熱する熱処理を行い、表層部の結晶粒を粗粒化した。そして、再度、同様の熱処理を行い、板材の両面について、表層部の結晶粒の結晶粒度番号を2以下とした。なお、一部の板材については、表層部の加熱温度を800℃と低くして同様な熱処理を行った。
【0044】
この板材に対してArガス雰囲気中において、650℃で30時間保持する鋭敏化熱処理を施して粒界にCr欠乏相を生成させ、表面をグラインダーにより研磨加工した後、下記の二重U曲げ試験用の試験片を切り出した。
【0045】
〔高温純水中における応力腐食割れ試験〕
幅10mm×長さ75mm×厚さ2mmの試験片2枚を重ね合わせて、内側が7.5R、外側が9.5RとなるようにU字曲げ加工を行い、二重U曲げ試験片とした。
【0046】
この試験片を、250℃、溶存酸素濃度30ppmの高温純水中に1000時間浸漬した後、取り出して板厚方向の割れ深さを光学顕微鏡を用いたミクロ観察により測定し、最大割れ深さにより耐応力腐食割れ性を評価した。
なお、最大割れ深さが100μm未満の場合を良好とし、それ以上の場合を不良とした。
【0047】
〔試験結果〕
熱処理条件、結晶粒度および腐食試験後の最大割れ深さを表1に示す。ここで、同表中の表層部の結晶粒度番号は、板材表面から0.2mmまでの表層部の平均結晶粒度番号をJIS G0551に規定する方法により表示したものであり、また、内部の結晶粒度番号は、板材表面から1mm以上の板厚方向内部の結晶粒度番号を同様の方法により表示したものである。
【0048】
試験番号1〜11は、本発明鋼である供試鋼番号1〜11を用いた本発明例についての試験であり、また、試験番号12〜18は、比較鋼である供試鋼番号12〜18を用いた比較例についての試験である。
【0049】
試験番号1〜11は、供試鋼の表面から0.2mmまでの表層部では平均結晶粒度番号が2の粗粒組織を有し、一方、表面から1mm以上の内部では平均結晶粒度番号が7または8の細粒組織を有する本発明鋼についての試験であり、最大割れ深さは、いずれも100μm未満の良好な耐応力腐食割れ特性を示した。
特に、Moを含有する供試鋼番号2を用いた試験番号2、MoおよびVを含有する供試鋼番号1を用いた試験番号1、Mo、V、Nbを含有する供試鋼番号3を用いた試験番号3、ならびにMoおよびTiを含有する供試鋼番号4を用いた試験番号4では、一層良好な耐応力腐食割れ性を示した。
【0050】
また、V、Nb、Ti、またはZrのいずれかを含有する供試鋼番号6〜9を用いた試験番号6〜9においても、同様に、一層良好な耐応力腐食割れ性を示した。
さらに、Caを含有する供試鋼番号10を用いた試験番号10、ならびにMo、V、Nb、Ti、ZrおよびCaを含有する供試鋼番号5を用いた試験番号5では、別途、高温での引張試験(グリーブル試験)により熱間加工性も良好なことを確認した。
【0051】
これらに対して、P含有量が0.07%と高く、また内部の結晶粒度番号が6であって結晶粒径が大きい供試鋼番号12を用いた試験番号12では、表層部の結晶粒は充分に粗粒化しているにも拘わらず、耐応力腐食割れ性が不良となっている。
【0052】
N含有量が0.19%と高く、また内部の結晶粒度番号が6であり粒径の大きい供試鋼番号13を用いた試験番号13においても、耐応力腐食割れ性は不良であった。
【0053】
Cr含有量が13.2%と低く、また表層部の加熱温度を800℃として再結晶温度よりも低下させた供試鋼番号14では、表層部の結晶粒度番号が3であり粗粒化が不充分であったため、これを用いた試験番号14では、耐応力腐食割れ性が劣る結果となった。
【0054】
表層部の加熱温度を800℃として再結晶温度よりも低下させた供試鋼番号15では、表層部の結晶粒度番号が4と、粗粒化がさらに不充分であり、また内部の結晶粒度番号は6であり粒径が大きいことから、これを用いた試験番号15では、さらに一層、耐応力腐食割れ性が劣った。
【0055】
内部の結晶粒度番号が6であり、内部の結晶粒径の大きい供試鋼番号16を用いた試験番号16では、表層部の結晶粒は充分に粗粒化しているにも拘わらず、耐応力腐食割れ性は不良であった。
【0056】
表層部の加熱温度を800℃と低下させた供試鋼番号17では、表層部の結晶粒度番号が4であって、供試鋼番号15と同様に粗粒化が不充分であり、これを用いた試験番号17では、耐応力腐食割れ性が劣っていた。
【0057】
内部の結晶粒度番号が5であり、内部の結晶粒径の大きい供試鋼番号18を用いた試験番号18では、表層部の結晶粒は充分に粗粒化しているにも拘わらず、耐応力腐食割れ性は不良であった。
【0058】
【発明の効果】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼管は、腐食性流体と接触する管肉表層部では粗粒結晶を、また内部では細粒結晶を有する金属組織からなるため、特に割れの起点となりやすい表層部での発生応力が低減され、高温純水環境における優れた耐粒界応力腐食割れ特性を有する。したがって、本発明のステンレス鋼管は、軽水炉などの原子力プラント用鋼管として好適であり、当技術分野の発展に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】材料の応力−歪み曲線におよぼす結晶粒の大きさの影響を模式的に示す図である。
【図2】高温純水中における応力腐食割れ試験結果を示す図である。

Claims (4)

  1. 質量%で、Cr:15〜30%、Ni:8〜30%、C:0.001〜0.1%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.05%以下およびN:0.001〜0.15%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ腐食性流体と接する面から少なくとも0.2mmまでの表層部の平均結晶粒度番号がJIS G0551で2以下であり、腐食性流体と接する面から少なくとも1mm以上の内部の平均結晶粒度番号が同7以上の組織を有することを特徴とする原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管。
  2. さらに、質量%で、Mo:0.05〜3.0%を含有することを特徴とする請求項1に記載の原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管。
  3. さらに、質量%で、V:0.001〜1.0%、Nb:0.001〜1.0%、Ti:0.001〜1.0%およびZr:0.001〜1.0%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管。
  4. さらに、質量%で、Ca:0.0003〜0.010%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の原子力用オーステナイト系ステンレス鋼管。
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