JP2021167446A - 二相ステンレス鋼材 - Google Patents

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誠也 岡田
Seiya Okada
悠索 富尾
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Abstract

【課題】621MPa以上の降伏強度と、優れた耐孔食性とを有する、二相ステンレス鋼材を提供する。【解決手段】本開示による二相ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.20〜1.00%、Mn:0.50〜7.00%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Al:0.100%以下、Ni:4.20〜9.00%、Cr:20.00〜30.00%、Mo:0.50〜2.00%、Cu:1.50〜4.00%、N:0.150〜0.350%、V:0.01〜1.50%、及び、残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成と、体積率で30.0〜70.0%のフェライト、及び、残部がオーステナイトからなるミクロ組織とを有する。降伏強度が621MPa以上であり、面積が0.10μm2以上のCu析出物の面積率が1.00%以上である。Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N≧30.0 (1)【選択図】図1

Description

本開示は、二相ステンレス鋼材に関する。
油井やガス井(以下、油井及びガス井を総称して、単に「油井」という)は、腐食性ガスを含有した腐食環境となっている場合がある。ここで、腐食性ガスとは、炭酸ガス、及び/又は、硫化水素ガスを意味する。すなわち、油井で用いられる鋼材には、腐食環境における優れた耐食性が求められる。
これまでに、鋼材の耐食性を高める手法として、クロム(Cr)含有量を高め、Cr酸化物を主体とする不働態被膜を、鋼材の表面に形成する手法が知られている。そのため、優れた耐食性が求められる環境下では、Cr含有量を高めた二相ステンレス鋼材が用いられる場合がある。一方、フェライト相とオーステナイト相との二相組織を有する二相ステンレス鋼材は、塩化物を含有する水溶液中で問題となる、孔食及び/又はすきま腐食に対する耐食性(以下、「耐孔食性」という)に優れる。
近年さらに、海面下の深井戸についても、開発が活発になってきている。そのため、二相ステンレス鋼材の高強度化が求められてきている。すなわち、高強度と優れた耐孔食性とを両立する二相ステンレス鋼材が、求められてきている。
特開平5−132741号公報(特許文献1)、特開平9−195003号公報(特許文献2)、特開2014−043616号公報(特許文献3)、及び、特開2016−003377号公報(特許文献4)は、高強度と優れた耐食性とを有する二相ステンレス鋼を提案する。
特許文献1に開示されている二相ステンレス鋼は、重量%で、C:0.03%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.5%以下、P:0.040%以下、S:0.008%以下、sol.Al:0.040%以下、Ni:5.0〜9.0%、Cr:23.0〜27.0%、Mo:2.0〜4.0%、W:1.5超〜5.0%、N:0.24〜0.32%、残部がFe及び不可避不純物からなる化学組成を有し、PREW(=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N)が40以上である。この二相ステンレス鋼は、優れた耐食性と高強度とを発揮する、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に開示されている二相ステンレス鋼は、重量%で、C:0.12%以下、Si:1%以下、Mn:2%以下、Ni:3〜12%、Cr:20〜35%、Mo:0.5〜10%、W:3超〜8%、Co:0.01〜2%、Cu:0.1〜5%、N:0.05〜0.5%を含み、残部がFe及び不可避不純物からなる。この二相ステンレス鋼は、強度を低下させることなく、さらに優れた耐食性を備える、と特許文献2には記載されている。
特許文献3に開示されている二相ステンレス鋼は、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.3%以下、Mn:3.0%以下、P:0.040%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2〜2.0%、Ni:5.0〜6.5%、Cr:23.0〜27.0%、Mo:2.5〜3.5%、W:1.5〜4.0%、N:0.24〜0.40%、及び、Al:0.03%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなり、σ相感受性指数X(=2.2Si+0.5Cu+2.0Ni+Cr+4.2Mo+0.2W)が52.0以下であり、強度指数Y(=Cr+1.5Mo+10N+3.5W)が40.5以上であり、耐孔食性指数PREW(=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N)が40以上である化学組成を有する。鋼の組織は、圧延方向に平行な厚さ方向断面において、表層から1mm深さまでの厚さ方向に平行な直線を引いた時、該直線に交わるフェライト相とオーステナイト相との境界の数が160以上である。この二相ステンレス鋼は、耐食性を損なうことなく高強度化でき、高加工度の冷間加工を組み合わせることで優れた耐水素脆化特性を発揮する、と特許文献3には記載されている。
特許文献4に開示されている二相ステンレス鋼は、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.2〜1%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.040%以下、S:0.010%以下、Sol.Al:0.040%以下、Ni:4〜6%未満、Cr:20〜25%未満、Mo:2.0〜4.0%、N:0.1〜0.35%、O:0.003%以下、V:0.05〜1.5%、Ca:0.0005〜0.02%、B:0.0005〜0.02%、残部がFeと不純物である化学組成を有し、金属組織が、フェライト相とオーステナイト相の二相組織にて構成され、シグマ相の析出がなく、かつ、面積率で、金属組織に占めるフェライト相の割合が50%以下であり、300mm2視野中に存在する粒径30μm以上の酸化物個数が15個以下である。この二相ステンレス鋼は、強度、耐孔食性及び低温靭性に優れる、と特許文献4には記載されている。
特開平5−132741号公報 特開平9−195003号公報 特開2014−043616号公報 特開2016−003377号公報
上述のとおり、近年、従来よりも高強度を有し、優れた耐孔食性を示す二相ステンレス鋼材が要求されつつある。具体的に、621MPa以上の降伏強度を有し、かつ、優れた耐孔食性を示す二相ステンレス鋼材が求められつつある。そのため、上記特許文献1〜4に開示された技術以外の他の技術によって、621MPa以上の降伏強度と、優れた耐孔食性とを有する、二相ステンレス鋼材が得られてもよい。
本開示の目的は、621MPa以上の降伏強度と、優れた耐孔食性とを有する、二相ステンレス鋼材を提供することである。
本開示による二相ステンレス鋼材は、
質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20〜1.00%、
Mn:0.50〜7.00%、
P:0.040%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.100%以下、
Ni:4.20〜9.00%、
Cr:20.00〜30.00%、
Mo:0.50〜2.00%、
Cu:1.50〜4.00%、
N:0.150〜0.350%、
V:0.01〜1.50%、
Nb:0〜0.100%、
Ta:0〜0.100%、
Ti:0〜0.100%、
Zr:0〜0.100%、
Hf:0〜0.100%、
W:0〜0.200%、
Co:0〜0.500%、
Sn:0〜0.100%、
Sb:0〜0.1000%、
Ca:0〜0.020%、
Mg:0〜0.020%、
B:0〜0.020%、
希土類元素:0〜0.200%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成と、
体積率で30.0〜70.0%のフェライト、及び、残部がオーステナイトからなるミクロ組織とを有し、
降伏強度が621MPa以上であり、
面積が0.10μm2以上のCu析出物の面積率が1.00%以上である。
Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N≧30.0 (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。対応する元素が含有されていない場合、その元素記号には「0」が代入される。
本開示による二相ステンレス鋼材は、621MPa以上の降伏強度と、優れた耐孔食性とを有する。
図1は、本実施例における粗大Cuの面積率(%)と、鋼材の降伏強度(MPa)との関係を示す図である。
まず、本発明者らは、621MPa以上の降伏強度と優れた耐孔食性とを有する二相ステンレス鋼材を、化学組成の観点から検討した。その結果、本発明者らは、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.20〜1.00%、Mn:0.50〜7.00%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Al:0.100%以下、Ni:4.20〜9.00%、Cr:20.00〜30.00%、Mo:0.50〜2.00%、Cu:1.50〜4.00%、N:0.150〜0.350%、V:0.01〜1.50%、Nb:0〜0.100%、Ta:0〜0.100%、Ti:0〜0.100%、Zr:0〜0.100%、Hf:0〜0.100%、W:0〜0.200%、Co:0〜0.500%、Sn:0〜0.100%、Sb:0〜0.1000%、Ca:0〜0.020%、Mg:0〜0.020%、B:0〜0.020%、希土類元素:0〜0.200%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有する二相ステンレス鋼材であれば、621MPa以上の降伏強度と、優れた耐孔食性とを両立できる可能性があると考えた。
ここで、上述の化学組成を有する二相ステンレス鋼材のミクロ組織は、フェライト及びオーステナイトからなる。具体的に、上述の化学組成を有する二相ステンレス鋼材のミクロ組織は、体積率が30.0〜70.0%のフェライト、及び、残部がオーステナイトからなる。なお、本明細書において「フェライト及びオーステナイトからなる」とは、フェライト及びオーステナイト以外の相が、無視できるほど少ないことを意味する。
次に本発明者らは、上述の化学組成を有し、体積率が30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなるミクロ組織を有する二相ステンレス鋼材の耐孔食性を高める手法を種々検討した。その結果、本発明者らは、二相ステンレス鋼材の化学組成がさらに、次の式(1)を満たせば、二相ステンレス鋼材の耐孔食性が高められることを知見した。
Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N≧30.0 (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。対応する元素が含有されていない場合、その元素記号には「0」が代入される。
Fn1=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16Nと定義する。Fn1は鋼材の耐孔食性に関する指標である。Fn1を高めれば、二相ステンレス鋼材の耐孔食性を高めることができる。すなわち、Fn1が低すぎれば、二相ステンレス鋼材の耐孔食性が低下する。したがって、本実施形態による二相ステンレス鋼材では、上述の化学組成を満たし、かつ、Fn1を30.0以上とする。
次に本発明者らは、上述の化学組成を満たし、Fn1を30.0以上とし、体積率が30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなるミクロ組織を有する二相ステンレス鋼材について、耐孔食性を維持したまま、降伏強度を高める手法を種々検討した。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
二相ステンレス鋼材では、σ相に代表される金属間化合物が析出する場合がある。σ相が析出した二相ステンレス鋼材は、優れた耐孔食性が得られない。そこで二相ステンレス鋼材を製造する場合、後述する好ましい製造方法に記載のとおり、溶体化処理が実施される。その結果、従来の二相ステンレス鋼材においては、鋼材中の析出物が大幅に低減されてきた。
一方、鋼材中の析出物は、鋼材の降伏強度を高める。すなわち、従来低減されてきた析出物を、あえて増加させることにより、二相ステンレス鋼材の降伏強度を高められる可能性がある。しかしながら、上述のとおり、析出物の種類によっては、鋼材の耐孔食性を低下させる場合がある。そこで本発明者らは、耐孔食性を低下させにくい析出物を、選択的に析出させることができれば、二相ステンレス鋼材の耐孔食性を維持したまま、降伏強度を高められるのではないかと考えた。
具体的に、本発明者らは、析出物のうち、銅(Cu)に着目した。Cuは、鋼材中にCu析出物として析出し、鋼材の降伏強度を高める。特に、面積が0.10μm2以上のCu析出物(以下、単に「粗大Cu」ともいう)が多く析出すれば、鋼材の耐孔食性を維持したまま、降伏強度を621MPa以上まで高められる可能性がある。
そこで本発明者らは、上述の化学組成を満たし、Fn1を30.0以上とし、体積率が30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなるミクロ組織を有する二相ステンレス鋼材における、粗大Cuと降伏強度との関係について、詳細に調査及び検討を行った。具体的に図を用いて説明する。
図1は、本実施例における粗大Cuの面積率(%)と、鋼材の降伏強度(MPa)との関係を示す図である。図1は、後述する実施例のうち、上述の化学組成を満たし、Fn1を30.0以上とし、体積率が30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなるミクロ組織とを有する二相ステンレス鋼材について、粗大Cuの面積率(%)と、降伏強度(MPa)とを用いて作成した。なお、粗大Cuの面積率と降伏強度とは、後述する方法で求めた。また、図1に記載の実施例は、いずれも優れた耐孔食性を示した。
図1を参照して、上述の化学組成を満たし、Fn1を30.0以上とし、体積率が30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなるミクロ組織を有する二相ステンレス鋼材では、粗大Cuの面積率が1.00%未満であれば、降伏強度が621MPa未満となることが明らかになった。一方、上述の鋼材においては、粗大Cuの面積率が1.00%以上であれば、耐孔食性を維持したまま、降伏強度が621MPa以上となる。
したがって、本実施形態による二相ステンレス鋼材では、上述の化学組成を満たし、Fn1を30.0以上とし、体積率が30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなるミクロ組織を有し、さらに、粗大Cuの面積率を1.00%以上とする。その結果、本実施形態による二相ステンレス鋼材は、621MPa以上の降伏強度と、優れた耐孔食性とを有する。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による二相ステンレス鋼材の要旨は、次のとおりである。
[1]
質量%で、
C:0.030%以下、
Si:0.20〜1.00%、
Mn:0.50〜7.00%、
P:0.040%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.100%以下、
Ni:4.20〜9.00%、
Cr:20.00〜30.00%、
Mo:0.50〜2.00%、
Cu:1.50〜4.00%、
N:0.150〜0.350%、
V:0.01〜1.50%、
Nb:0〜0.100%、
Ta:0〜0.100%、
Ti:0〜0.100%、
Zr:0〜0.100%、
Hf:0〜0.100%、
W:0〜0.200%、
Co:0〜0.500%、
Sn:0〜0.100%、
Sb:0〜0.1000%、
Ca:0〜0.020%、
Mg:0〜0.020%、
B:0〜0.020%、
希土類元素:0〜0.200%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成と、
体積率で30.0〜70.0%のフェライト、及び、残部がオーステナイトからなるミクロ組織とを有し、
降伏強度が621MPa以上であり、
面積が0.10μm2以上のCu析出物の面積率が1.00%以上である、
二相ステンレス鋼材。
Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N≧30.0 (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。対応する元素が含有されていない場合、その元素記号には「0」が代入される。
[2]
[1]に記載の二相ステンレス鋼材であって、
前記化学組成は、
Nb:0.001〜0.100%、
Ta:0.001〜0.100%、
Ti:0.001〜0.100%、
Zr:0.001〜0.100%、
Hf:0.001〜0.100%、及び、
W:0.001〜0.200%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
二相ステンレス鋼材。
[3]
[1]又は[2]に記載の二相ステンレス鋼材であって、
前記化学組成は、
Co:0.001〜0.500%、
Sn:0.001〜0.100%、及び、
Sb:0.0001〜0.1000%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
二相ステンレス鋼材。
[4]
[1]〜[3]のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材であって、
前記化学組成は、
Ca:0.001〜0.020%、
Mg:0.001〜0.020%、
B:0.001〜0.020%、及び、
希土類元素:0.001〜0.200%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
二相ステンレス鋼材。
以下、本実施形態による二相ステンレス鋼材について詳述する。
[化学組成]
本実施形態による二相ステンレス鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
C:0.030%以下
炭素(C)は不可避に含有される。すなわち、C含有量の下限は0%超である。Cは結晶粒界にCr炭化物を形成し、粒界での腐食感受性を高める。そのため、C含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐孔食性が低下する。したがって、C含有量は0.030%以下である。C含有量の好ましい上限は0.028%であり、より好ましくは0.025%である。C含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、C含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、C含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.005%である。
Si:0.20〜1.00%
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。Si含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の低温靱性及び熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は0.20〜1.00%である。Si含有量の好ましい下限は0.25%であり、より好ましくは0.30%である。Si含有量の好ましい上限は0.80%であり、より好ましくは0.60%である。
Mn:0.50〜7.00%
マンガン(Mn)は鋼を脱酸し、鋼を脱硫する。Mnはさらに、鋼材の熱間加工性を高める。Mn含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、MnはP及びS等の不純物とともに、粒界に偏析する。そのため、Mn含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高温環境における鋼材の耐孔食性が低下する。したがって、Mn含有量は0.50〜7.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.75%であり、より好ましくは1.00%である。Mn含有量の好ましい上限は6.50%であり、より好ましくは6.20%である。
P:0.040%以下
燐(P)は不可避に含有される。すなわち、P含有量の下限は0%超である。Pは粒界に偏析する。そのため、P含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐孔食性が低下する。したがって、P含有量は0.040%以下である。P含有量の好ましい上限は0.035%であり、より好ましくは0.030%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.003%である。
S:0.020%以下
硫黄(S)は不可避に含有される。すなわち、S含有量の下限は0%超である。Sは粒界に偏析する。そのため、S含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐孔食性が低下する。したがって、S含有量は0.020%以下である。S含有量の好ましい上限は0.018%であり、より好ましくは0.016%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
Al:0.100%以下
アルミニウム(Al)は不可避に含有される。すなわち、Al含有量の下限は0%超である。Alは鋼を脱酸する。一方、Al含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物系介在物が生成して、鋼材の低温靱性が低下する。したがって、Al含有量は0.100%以下である。Al含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Al含有量の好ましい上限は0.090%であり、より好ましくは0.085%である。なお、本明細書にいうAl含有量は、「酸可溶Al」、つまり、sol.Alの含有量を意味する。
Ni:4.20〜9.00%
ニッケル(Ni)は鋼材のオーステナイト組織を安定化する。すなわち、Niは安定したフェライト・オーステナイトの二相組織を得るために必要な元素である。Niはさらに、鋼材の耐孔食性を高める。Ni含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、オーステナイトの体積率が高くなりすぎ、鋼材の降伏強度が低下する。したがって、Ni含有量は4.20〜9.00%である。Ni含有量の好ましい下限は4.25%であり、より好ましくは4.30%であり、さらに好ましくは4.35%であり、さらに好ましくは4.40%であり、さらに好ましくは4.50%である。Ni含有量の好ましい上限は8.75%であり、より好ましくは8.50%であり、さらに好ましくは8.25%であり、さらに好ましくは8.00%であり、さらに好ましくは7.75%である。
Cr:20.00〜30.00%
クロム(Cr)は鋼材の耐孔食性を高める。具体的に、Crは酸化物として鋼材の表面に不働態被膜を形成する。その結果、鋼材の耐孔食性が高まる。Crはさらに、鋼材のフェライト組織の体積率を高める。十分なフェライト組織を得ることで、鋼材の耐孔食性が安定化する。Cr含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Cr含有量は20.00〜30.00%である。Cr含有量の好ましい下限は20.50%であり、より好ましくは21.00%であり、さらに好ましくは21.50%である。Cr含有量の好ましい上限は29.50%であり、より好ましくは29.00%であり、さらに好ましくは28.00%である。
Mo:0.50〜2.00%
モリブデン(Mo)は鋼材の耐孔食性を高める。Moはさらに、鋼に固溶して、鋼材の降伏強度を高める。Moはさらに、鋼中で微細な炭化物を形成して、鋼材の降伏強度を高める。Mo含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Mo含有量は0.50〜2.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0.60%であり、より好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.80%である。Mo含有量の好ましい上限は2.00%未満であり、より好ましくは1.85%であり、さらに好ましくは1.50%である。
Cu:1.50〜4.00%
銅(Cu)は鋼材中に粗大Cuとして析出し、鋼材の降伏強度を高める。Cu含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cu含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は1.50〜4.00%である。Cu含有量の好ましい下限は1.60%であり、より好ましくは1.80%であり、さらに好ましくは1.90%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは2.50%である。Cu含有量の好ましい上限は3.90%であり、より好ましくは3.75%であり、さらに好ましくは3.50%である。
N:0.150〜0.350%
窒素(N)は鋼材のオーステナイト組織を安定化する。すなわち、Nは安定したフェライト・オーステナイトの二相組織を得るために必要な元素である。Nはさらに、鋼材の耐孔食性を高める。N含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、N含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の低温靭性及び熱間加工性が低下する。したがって、N含有量は0.150〜0.350%である。N含有量の好ましい下限は0.170%であり、より好ましくは0.180%であり、さらに好ましくは0.190%である。N含有量の好ましい上限は、0.340%であり、より好ましくは0.330%である。
V:0.01〜1.50%
バナジウム(V)は鋼材の降伏強度を高める。V含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、V含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性及び熱間加工性が低下する。したがって、V含有量は0.01〜1.50%である。V含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。V含有量の好ましい上限は1.20%であり、より好ましくは1.00%である。
本実施形態による二相ステンレス鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、二相ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による二相ステンレス鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素]
上述の二相ステンレス鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Nb、Ta、Ti、Zr、Hf、及び、Wからなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の強度を高める。
Nb:0〜0.100%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Nbは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Nb含有量は0〜0.100%である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Nb含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
Ta:0〜0.100%
タンタル(Ta)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ta含有量は0%であってもよい。含有される場合、Taは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Taが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ta含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Ta含有量は0〜0.100%である。Ta含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Ta含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
Ti:0〜0.100%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Ti含有量は0〜0.100%である。Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Ti含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
Zr:0〜0.100%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Zr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Zrが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Zr含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Zr含有量は0〜0.100%である。Zr含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Zr含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
Hf:0〜0.100%
ハフニウム(Hf)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Hf含有量は0%であってもよい。含有される場合、Hfは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Hfが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Hf含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Hf含有量は0〜0.100%である。Hf含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Hf含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
W:0〜0.200%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、Wは炭窒化物を形成し、鋼材の強度を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、W含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、W含有量は0〜0.200%である。W含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。W含有量の好ましい上限は0.180%であり、より好ましくは0.150%である。
上述の二相ステンレス鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Co、Sn、及び、Sbからなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の耐食性を高める。
Co:0〜0.500%
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Co含有量は0%であってもよい。含有される場合、Coは鋼材の表面に被膜を形成して、鋼材の耐食性を高める。Coはさらに、鋼材の焼入性を高め、鋼材の強度を安定化する。Coが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Co含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、製造コストが極端に高まる。したがって、Co含有量は0〜0.500%である。Co含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Co含有量の好ましい上限は0.480%であり、より好ましくは0.460%であり、さらに好ましくは0.450%である。
Sn:0〜0.100%
スズ(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Sn含有量は0%であってもよい。含有される場合、Snは鋼材の耐食性を高める。Snが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Sn含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粒界に液化脆化割れを生じることにより、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Sn含有量は0〜0.100%である。Sn含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Sn含有量の好ましい上限は0.080%であり、より好ましくは0.070%である。
Sb:0〜0.1000%
アンチモン(Sb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Sb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Sbは鋼材の耐食性を高める。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Sb含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の高温での延性が低下して、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Sb含有量は0〜0.1000%である。Sb含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Sb含有量の好ましい上限は0.0800%であり、より好ましくは0.0700%である。
上述の二相ステンレス鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg、B、及び、希土類元素からなる群から選択される1種以上の元素を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材の熱間加工性を高める。
Ca:0〜0.020%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは鋼材中のSを硫化物として固定することで無害化し、鋼材の熱間加工性を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.020%である。Ca含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Ca含有量の好ましい上限は0.018%であり、より好ましくは0.015%である。
Mg:0〜0.020%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは鋼材中のSを硫化物として固定することで無害化し、鋼材の熱間加工性を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Mg含有量は0〜0.020%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Mg含有量の好ましい上限は0.018%であり、より好ましくは0.015%である。
B:0〜0.020%
ホウ素(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、Bは鋼材中のSの粒界への偏析を抑制し、鋼材の熱間加工性を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、B含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、ボロン窒化物(BN)が生成し、鋼材の低温靱性を低下させる。したがって、B含有量は0〜0.020%である。B含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。B含有量の好ましい上限は0.018%であり、より好ましくは0.015%である。
希土類元素:0〜0.200%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは鋼材中のSを硫化物として固定することで無害化し、鋼材の熱間加工性を高める。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、REM含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、REM含有量は0〜0.200%である。REM含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。REM含有量の好ましい上限は0.180%であり、より好ましくは0.160%である。
なお、本明細書におけるREMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及び、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)〜原子番号71番のルテチウム(Lu)からなる群から選択される1種以上の元素を意味する。また、本明細書におけるREM含有量とは、これらの元素の合計含有量を意味する。
[式(1)について]
本実施形態による二相ステンレス鋼材の化学組成はさらに、次の式(1)を満たす。
Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N≧30.0 (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。対応する元素が含有されていない場合、その元素記号には「0」が代入される。
Fn1(=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N)は鋼材の耐孔食性に関する指標である。Fn1を高めれば、二相ステンレス鋼材の耐孔食性を高めることができる。すなわち、Fn1が低すぎれば、二相ステンレス鋼材の耐孔食性が低下する。したがって、本実施形態による二相ステンレス鋼材では、上述の化学組成を満たし、かつ、Fn1を30.0以上とする。
Fn1の好ましい下限は30.5であり、より好ましくは31.0であり、さらに好ましくは31.5である。Fn1は高い方が好ましい。しかしながら、上述の化学組成を有する本実施形態による二相ステンレス鋼材においては、Fn1の上限は、実質的に42.5である。
[ミクロ組織]
本実施形態による二相ステンレス鋼材のミクロ組織は、体積率で30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなる。本明細書において、「フェライト及びオーステナイトからなる」とは、フェライト及びオーステナイト以外の相が無視できるほど少ないことを意味する。たとえば、本実施形態による二相ステンレス鋼材の化学組成においては、析出物や介在物の体積率は、フェライト及びオーステナイトの体積率と比較して、無視できるほど小さい。すなわち、本実施形態による二相ステンレスのミクロ組織には、フェライト及びオーステナイト以外に、析出物や介在物等を微小量含んでもよい。
本実施形態による二相ステンレス鋼材のミクロ組織はさらに、フェライトの体積率が30.0〜70.0%である。フェライトの体積率が低すぎれば、鋼材の降伏強度、及び/又は、耐孔食性が低下する場合がある。一方、フェライトの体積率が高すぎれば、鋼材の低温靭性、及び/又は、熱間加工性が低下する場合がある。したがって、本実施形態による二相ステンレス鋼材のミクロ組織において、フェライトの体積率は30.0〜70.0%である。フェライトの体積率の好ましい下限は31.0%であり、より好ましくは32.0%である。フェライトの体積率の好ましい上限は68.0%であり、より好ましくは65.0%である。
本実施形態において、二相ステンレス鋼材のフェライトの体積率は、ASTM E562(2011)に準拠した方法で求めることができる。本実施形態による二相ステンレス鋼材から、ミクロ組織観察用の試験片を作製する。鋼材が鋼板の場合、板厚中央部から圧延方向5mm、板厚方向5mmの観察面を有する試験片を作製する。鋼材が鋼管の場合、肉厚中央部から管軸方向5mm、管径方向5mmの観察面を有する試験片を作製する。鋼材が棒鋼の場合、棒鋼の軸方向に垂直な断面の中心部から軸方向5mm、径方向5mmの観察面を有する試験片を作製する。なお、上記観察面が得られれば、試験片の大きさは特に限定されない。
作製した試験片の観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨された観察面を7%水酸化カリウム腐食液中で電解腐食して、組織現出を行う。組織が現出された観察面を、光学顕微鏡を用いて10視野観察する。視野面積は特に限定されないが、たとえば、1.00mm2(倍率100倍)である。各視野において、コントラストからフェライトを特定する。特定したフェライトの面積率をASTM E562(2011)に準拠した点算法で測定する。本実施形態では、得られたフェライトの面積率の10視野における算術平均値を、フェライトの体積率(%)と定義する。
[粗大Cuの面積率]
本実施形態による二相ステンレス鋼材は、面積が0.10μm2以上のCu析出物の面積率が1.00%以上である。上述のとおり、本明細書では、面積が0.10μm2以上のCu析出物を「粗大Cu」ともいう。なお、本明細書においてCu析出物とは、Cu及び不純物からなる析出物を意味する。また、本実施形態では、フィールドエミッション電子線マイクロアナライザ(FE−EPMA)による元素分析において、Fe、C、Cr、Ni、Cu、Mn、Mo、Si、及び、Nのうち、Cuが6.00質量%以上検出される領域は、Cu析出物が存在すると判断する。すなわち、本実施形態では、「面積が0.10μm2以上のCu析出物の面積率が1.00%以上である」とは、FE−EPMAによる元素分析において、Fe、C、Cr、Ni、Cu、Mn、Mo、Si、及び、Nのうち、Cuが6.00質量%以上検出され、かつ、連続的に0.10μm2以上を占める領域の面積率が、1.00%以上であることを意味する。
上述のとおり、二相ステンレス鋼材では、従来、鋼材の耐孔食性を高める目的で、鋼材中の析出物を低減していた。一方、粗大Cuは、鋼材の降伏強度を高める。粗大Cuはさらに、鋼材の耐孔食性への影響が少ない。そのため、本実施形態による二相ステンレス鋼材では、耐孔食性への影響が少ない粗大Cuを、あえて積極的に析出させる。その結果、本実施形態による二相ステンレス鋼材は、耐孔食性を維持しながら、鋼材の降伏強度を高めることができる。
したがって、本実施形態による二相ステンレス鋼材は、粗大Cuの面積率を1.00%以上とする。上述の化学組成とミクロ組織とを有し、式(1)を満たす二相ステンレス鋼材において、粗大Cuの面積率が1.00%以上であれば、621MPa以上の降伏強度と、優れた耐孔食性とを両立することができる。本実施形態による二相ステンレス鋼材の粗大Cuの面積率の好ましい下限は1.02%であり、より好ましくは1.05%である。粗大Cuの面積率の上限は、特に限定されないが、たとえば、4.00%である。
本実施形態による二相ステンレス鋼材において、粗大Cuの面積率は、次の方法で求めることができる。本実施形態による鋼材から、粗大Cu観察用の試験片を作製する。鋼材が鋼板の場合、板厚中央部から圧延方向5mm、板厚方向5mmの観察面を有する試験片を作製する。鋼材が鋼管の場合、肉厚中央部から管軸方向5mm、管径方向5mmの観察面を有する試験片を作製する。鋼材が棒鋼の場合、棒鋼の軸方向に垂直な断面の中心部から軸方向5mm、径方向5mmの観察面を有する試験片を作製する。なお、上記観察面が得られれば、試験片の大きさは特に限定されない。
得られた観察面のうち、任意の60μm×60μmの視野を4視野特定する。特定した各視野を0.12μmピッチで500×500のピクセルに分割する。各ピクセルの面積は、0.0144μm2である。各ピクセルに対して、FE−EPMAによる元素分析を行う。FE−EPMAによる元素分析では、加速電圧を15kVとする。なお、測定対象元素はFe、C、Cr、Ni、Cu、Mn、Mo、Si、及び、Nとする。
ここで、FE−EPMAでは、装置の特性上、一定の体積を有する範囲について元素分析が実施される。すなわち、観察面に析出物が存在する場合でも、析出物のみの元素分析を実施することはできず、母材も同時に元素分析が実施される。したがって、観察面にCu析出物が存在する領域において、FE−EPMAによる元素分析を行った場合、Cu以外に母材由来の元素(Fe等)も検出される。
一方、本実施形態では、母材におけるCu含有量は、上述のとおり、1.50〜4.00%である。そのため、FE−EPMAによる元素分析において、Cu濃度が6.00質量%以上のピクセルは、少なくともCuの濃化が生じている。そこで、本実施形態では、FE−EPMAによる元素分析によって得られたCu濃度が6.00質量%以上のピクセルはCu析出物が存在すると判断する。
具体的に、FE−EPMAによって得られた元素分析結果から、Cu濃度が6.00質量%以上であるピクセルを「特定ピクセル」ともいう。ここで、複数の特定ピクセルが連続的に隣接する場合、当該複数の特定ピクセルが占める領域(以下、「特定領域」ともいう)には、1個体のCu析出物が存在すると判断する。具体的に、まず、1つの特定ピクセルに着目し、「第1特定ピクセル」とする。次に、第1特定ピクセルに隣接する特定ピクセルを、「第2特定ピクセル」とする。続いて、第2特定ピクセルに隣接し、第1特定ピクセル以外の特定ピクセルを、「第3特定ピクセル」とする。続いて、第3特定ピクセルに隣接し、第1特定ピクセル及び第2特定ピクセル以外の特定ピクセルを、「第4特定ピクセル」とする。このように、隣接する特定ピクセルを連続的に判断する。第n特定ピクセル(nは自然数)に該当する特定ピクセルが存在しない場合、第1特定ピクセル〜第n−1特定ピクセルまでが占める領域を、特定領域と判断する。
上述のとおり、このようにして特定した、連続的に隣接する特定ピクセルが占める領域(特定領域)には、1個体のCu析出物が存在する。すなわち、特定領域が7つのピクセル(0.10μm2)以上を含む場合、特定領域には面積0.10μm2以上の1個体のCu析出物が存在する。したがって、本明細書では、特定領域として7つのピクセル(0.10μm2)以上が含まれる場合、「粗大Cu」が存在すると判断する。粗大Cuが存在するとして判断された面積を、各視野においてそれぞれ求める。4視野において求めた粗大Cuの面積の合計と、4視野の総面積とに基づいて、粗大Cuの面積率(%)を求めることができる。
[降伏強度]
本実施形態による二相ステンレス鋼材の降伏強度は、621MPa以上である。本実施形態による二相ステンレス鋼材は、上述の化学組成を有し、さらに、式(1)を満たし、体積率で30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなるミクロ組織を有し、かつ、面積が0.10μm2以上のCu析出物の面積率が1.00%以上である。その結果、本実施形態による二相ステンレス鋼材は、降伏強度が621MPa以上であっても、優れた耐孔食性を有する。
本実施形態による二相ステンレス鋼材の降伏強度の好ましい下限は622MPaであり、より好ましくは624MPaであり、さらに好ましくは625MPaである。本実施形態による二相ステンレス鋼材の降伏強度の上限は特に限定されないが、たとえば、896MPaである。
本実施形態による二相ステンレス鋼材の降伏強度は、次の方法で求めることができる。具体的に、ASTM E8/E8M(2013)に準拠した方法で引張試験を行う。本実施形態による鋼材から、丸棒試験片を作製する。鋼材が鋼板である場合、板厚中央部から丸棒試験片を作製する。鋼材が鋼管である場合、肉厚中央部から丸棒試験片を作製する。鋼材が棒鋼である場合、棒鋼の軸方向に垂直な断面の中心部から丸棒試験片を作製する。丸棒試験片の大きさは、たとえば平行部直径6mm、平行部長さ24mmである。なお、丸棒試験片の軸方向は、鋼材の圧延方向と平行である。丸棒試験片を用いて、常温(25℃)、大気中で引張試験を実施して、得られた0.2%オフセット耐力を、降伏強度(MPa)と定義する。
[耐孔食性]
本実施形態による二相ステンレス鋼材は、上述の化学組成を有し、さらに、式(1)を満たし、体積率で30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなるミクロ組織を有し、かつ、面積が0.10μm2以上のCu析出物の面積率が1.00%以上である。その結果、本実施形態による二相ステンレス鋼材は、降伏強度が621MPa以上であっても、優れた耐孔食性を有する。本実施形態において、優れた耐孔食性とは、以下のとおりに定義される。
本実施形態による二相ステンレス鋼材の耐孔食性は、ASTM G48(2011) Method Eに準拠した腐食試験によって評価できる。本実施形態による鋼材から、腐食試験用の試験片を作製する。鋼材が鋼板である場合、板厚中央部から試験片を作製する。鋼材が鋼管である場合、肉厚中央部から試験片を作製する。鋼材が棒鋼である場合、棒鋼の軸方向に垂直な断面の中心部から試験片を作製する。試験片の大きさは、たとえば厚さ3mm、幅25mm、長さ50mmである。試験片の長手方向は、鋼材の圧延方向と平行である。
試験溶液は6%FeCl3+1%HClとする。試験片を比液量5mL/cm2以上の試験溶液に浸漬させる。試験開始温度は15℃とし、24時間毎に試験溶液の温度を5℃ずつ上昇させる。試験片に孔食が発生したときの温度を臨界孔食温度(CPT:Critical Pitting Temperature)と定義する。本実施形態では、得られたCPTが15℃よりも高い場合、二相ステンレス鋼材は優れた耐孔食性を示すと判断する。
[二相ステンレス鋼材の形状]
本実施形態による二相ステンレス鋼材の形状は、特に限定されない。本実施形態による二相ステンレス鋼材はたとえば、鋼管であってもよく、鋼板であってもよく、棒鋼であってもよく、線材であってもよい。好ましくは、本実施形態による二相ステンレス鋼材は、継目無鋼管である。本実施形態による二相ステンレス鋼材が継目無鋼管の場合、肉厚が5mm以上であっても、621MPa以上の降伏強度と、優れた耐孔食性とを有する。
[製造方法]
上述の構成を有する本実施形態による二相ステンレス鋼材の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態による二相ステンレス鋼材の製造方法は、以下に説明する製造方法に限定されない。本実施形態の二相ステンレス鋼材の製造方法の一例は、素材準備工程と、熱間加工工程と、溶体化処理工程とを含む。以下、各製造工程について詳述する。
[素材準備工程]
本実施形態による素材準備工程では、上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は製造して準備してもよく、第三者から購入することにより準備してもよい。すなわち、素材を準備する方法は特に限定されない。
素材を製造する場合、たとえば、次の方法で製造する。上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。溶鋼を用いて造塊法により鋼塊(インゴット)を製造してもよい。必要に応じて、スラブ、ブルーム又はインゴットを分塊圧延して、ビレットを製造してもよい。以上の工程により素材を製造する。
[熱間加工工程]
本実施形態による熱間加工工程では、上記準備工程で準備された素材を熱間加工して、中間鋼材を製造する。本明細書において中間鋼材とは、最終製品が鋼板の場合は板状の鋼材であり、最終製品が鋼管の場合は素管であり、最終製品が棒鋼の場合は棒状の鋼材であり、最終製品が線材の場合は線状の鋼材である。熱間加工は、熱間鍛造であってもよく、熱間押出であってもよく、熱間圧延であってもよい。熱間加工の方法は、特に限定されず、周知の方法でよい。
中間鋼材が素管(継目無鋼管)の場合、熱間加工工程において、たとえば、ユジーン・セジュルネ法、又は、エルハルトプッシュベンチ法(すなわち、熱間押出)を実施してもよく、マンネスマン法による穿孔圧延(すなわち、熱間圧延)を実施してもよい。なお、熱間加工は、1回のみ実施してもよく、複数回実施してもよい。たとえば、素材に対して上述の穿孔圧延を実施した後、上述の熱間押出を実施してもよい。たとえばさらに、素材に対して、上述の穿孔圧延を実施した後、延伸圧延を実施してもよい。すなわち、熱間加工工程では、周知の方法により熱間加工を実施して、所望の形状の中間鋼材を製造する。
[溶体化処理工程]
本実施形態による溶体化処理工程では、上記熱間加工工程で製造された中間鋼材に対して溶体化処理を実施して、二相ステンレス鋼材を製造する。溶体化処理とは、中間鋼材中の化合物を、固溶させる熱処理を意味する。具体的に、溶体化処理工程は、中間鋼材を所望の温度で熱処理する工程(熱処理工程)と、熱処理された中間鋼材を急冷する工程(急冷工程)とを含む。以下、各工程について詳述する。
[熱処理工程]
本実施形態による熱処理工程では、上記熱間加工工程で製造された中間鋼材に対して、熱処理を実施する。具体的に、好ましくは、熱処理温度をTA℃、熱処理時間を10〜180分間とする、熱処理を実施する。本明細書において、熱処理温度とは、溶体化処理を実施するための熱処理炉の温度(℃)を意味する。本明細書において、熱処理時間とは、溶体化処理を実施するための熱処理炉内に中間鋼材が装入されてから、取り出されるまでの時間を意味する。
好ましくは、本実施形態において、熱処理温度TAは、次の式(A)を満たす。
850≦TA≦15Cu+3Cr−Mn−2Ni+850 (A)
ここで、式(A)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
Cu=15Cu+3Cr−Mn−2Ni+850と定義する。TCu(℃)は、上述の化学組成を有する中間鋼材を熱処理した場合に、粗大なCuが析出する温度域の上限に相当する。すなわち、熱処理温度TAがTCuよりも高い場合、二相ステンレス鋼材のミクロ組織中に粗大なCuが十分に析出しない。その結果、粗大Cuの面積率が1.00%よりも低くなり、二相ステンレス鋼材の降伏強度が621MPa未満となる。したがって、本実施形態の熱処理工程において、好ましくは、熱処理温度TAはTCu以下とする。
一方、熱処理温度TAが低すぎれば、中間鋼材中の析出物を溶体化する効果が十分に得られない場合がある。この場合、溶体化処理後の二相ステンレス鋼材中にσ相やCr2Nが残存して、鋼材の耐孔食性が低下する。したがって、本実施形態の熱処理工程において、熱処理温度TAは850℃以上とする。
したがって、本実施形態による熱処理工程では、熱処理温度TAを850℃〜TCuの範囲内にするのが好ましい。この方法によれば、上述の化学組成を有し、さらに、式(1)を満たし、体積率で30.0〜70.0%のフェライト及び残部がオーステナイトからなるミクロ組織を有する二相ステンレス鋼材において、面積が0.10μm2以上のCu析出物の面積率を1.00%以上にすることができる。
本実施形態の熱処理工程における、熱処理温度TAのより好ましい下限は855℃であり、さらに好ましくは860℃である。本実施形態の熱処理工程における、熱処理温度TAのより好ましい上限はTCu−5℃であり、さらに好ましくはTCu−10℃である。
熱処理工程において、熱処理時間が短すぎれば、溶体化処理工程後の二相ステンレス鋼材に、析出物が残存する場合がある。この場合、二相ステンレス鋼材の耐孔食性が低下する場合がある。一方、熱処理工程において、熱処理時間が長すぎれば、析出物を溶体化させる効果が飽和する。したがって、本実施形態による熱処理工程において、熱処理時間は5〜180分とするのが好ましい。
[急冷工程]
本実施形態による急冷工程では、上記熱処理工程において熱処理された中間鋼材を急冷し、二相ステンレス鋼材を製造する。急冷の方法は特に限定されず、周知の方法でよい。たとえば、シャワー水冷、ミスト水冷、油冷等により中間鋼材を冷却することができる。なお、急冷工程における冷却速度は特に限定されないが、たとえば、900℃から400℃における冷却速度が3℃/秒以上である。
なお、溶体化処理が実施された二相ステンレス鋼材に対して、必要に応じて、酸洗処理を実施してもよい。この場合、酸洗処理は、周知の方法で実施されればよく、特に限定されない。また、溶体化処理が実施された二相ステンレス鋼材に対して、冷間加工を実施した場合、鋼材の強度が高くなりすぎ、鋼材の靭性が極端に低下する。そのため、本実施形態による二相ステンレス鋼材に対しては、冷間加工は実施しない方が好ましい。
以上の工程により、本実施形態による二相ステンレス鋼材が製造できる。なお、上述の二相ステンレス鋼材の製造方法は一例であり、他の方法によって二相ステンレス鋼材が製造されてもよい。以下、実施例によって本開示をさらに詳細に説明する。
表1に示す化学組成を有する溶鋼を、50kgの真空溶解炉を用いて溶製し、造塊法により鋼塊(インゴット)を製造した。なお、表1中の「−」は、該当する元素の含有量が不純物レベルであったことを意味する。また、表1に記載の化学組成と、上述の定義から求めたFn1を表1に示す。
Figure 2021167446
得られたインゴットに対して、表2及び表3に示す圧延温度(℃)で加熱した後、熱間圧延を実施して、表2及び表3に示す形状の中間鋼材を製造した。なお、本実施例において、圧延温度(℃)とは、加熱に用いた加熱炉の温度(℃)とした。表2及び表3の「形状」欄については、以下のとおりであった。「鋼管A」とは、外径139.7mm、肉厚9.2mmの継目無鋼管形状を意味する。「鋼管B」とは、外径114.3mm、肉厚7.4mmの継目無鋼管形状を意味する。「鋼管C」とは、外径177.8mm、肉厚10.4mmの継目無鋼管形状を意味する。「鋼管D」とは、外径198.2mm、肉厚21.2mmの継目無鋼管形状を意味する。「鋼管E」とは、外径130.0mm、肉厚17.8mmの継目無鋼管形状を意味する。「鋼管F」とは、外径198.2mm、肉厚21.2mmの継目無鋼管形状を意味する。「鋼板」とは、板厚13mm、板厚方向に垂直な断面が一辺15mm×60mmの長方形である鋼板形状を意味する。「棒鋼」とは、長手方向に500mm、長手方向に垂直な断面が直径50mmの円形である円柱形状を意味する。
Figure 2021167446
Figure 2021167446
熱間圧延によって製造された各試験番号の中間鋼材に対して、表2及び表3に記載の条件で溶体化処理を実施して、各試験番号の鋼材を製造した。具体的に、各試験番号の中間鋼材に対して、表2及び表3に記載のTA(℃)(熱処理温度)、熱処理時間(分)で熱処理を実施した後、水冷した。なお、本実施例では、溶体化処理を実施する熱処理炉の炉温を、熱処理温度TA(℃)とした。さらに、溶体化処理を実施する熱処理炉に中間鋼材を装入してから、抽出するまでの時間を、熱処理時間(分)とした。各試験番号の鋼材の化学組成と、上述の式(A)とから求めたTCu(℃)を、表2及び表3に示す。さらに、各試験番号の中間鋼材に実施した熱処理について、熱処理温度(℃)を「TA(℃)」として、表2及び表3に示す。さらに、各試験番号の中間鋼材に実施した熱処理について、熱処理時間(分)を表2及び表3に示す。以上の工程により、各試験番号の鋼材を得た。なお、各試験番号の中間鋼材の形状と、対応する試験番号の鋼材の形状とは、同一であった。
[評価試験]
溶体化処理後の各試験番号の鋼材に対して、ミクロ組織観察と、粗大Cu面積率測定試験と、引張試験と、腐食試験とを実施した。
[ミクロ組織観察]
各試験番号の鋼材に対して、ASTM E562(2011)に準拠した上述の方法でミクロ組織観察を実施して、フェライト体積率(%)を求めた。まず、各試験番号の鋼材から、鋼材の圧延方向と垂直な断面を観察面として有する試験片を作製した。具体的には、鋼材の形状が鋼管の場合、肉厚中央部から試験片を作製した。鋼材の形状が鋼板の場合、板厚中央部から試験片を作製した。鋼材の形状が棒鋼の場合、軸方向に垂直な断面の中心部から試験片を作製した。作製された試験片を用いて、上述の方法でフェライト体積率を求めた。得られた各試験番号のフェライト体積率(%)を表2及び表3に示す。
[粗大Cu面積率測定試験]
各試験番号の鋼材に対して、粗大Cuの面積率を求めた。粗大Cuの面積率は、上述の方法を用いて求めた。まず、各試験番号の鋼材から、管軸方向5mm、管径方向5mmの観察面を有する試験片を作製した。具体的には、鋼材の形状が鋼管の場合、肉厚中央部から試験片を作製した。鋼材の形状が鋼板の場合、板厚中央部から試験片を作製した。鋼材の形状が棒鋼の場合、軸方向に垂直な断面の中心部から試験片を作製した。作製された試験片を用いて、上述の方法で粗大Cuの面積率を求めた。得られた各試験番号の粗大Cuの面積率(%)を表2及び表3に示す。
[引張試験]
各試験番号の鋼材に対して、ASTM E8/E8M(2013)に準拠した上述の方法で引張試験を実施して、降伏強度(MPa)を求めた。まず、各試験番号の鋼材から、引張試験用の丸棒試験片を作製した。具体的には、鋼材の形状が鋼管の場合、肉厚中央部から丸棒試験片を作製した。鋼材の形状が鋼板の場合、板厚中央部から丸棒試験片を作製した。鋼材の形状が棒鋼の場合、軸方向に垂直な断面の中心部から丸棒試験片を作製した。なお、丸棒試験片の軸方向は、鋼材の圧延方向と平行であった。作製された各試験番号の丸棒試験片に対して、ASTM E8/E8M(2013)に準拠して、引張試験を実施した。引張試験で得られた0.2%オフセット耐力を、降伏強度(MPa)と定義した。得られた各試験番号の降伏強度を「YS(MPa)」として表2及び表3に示す。
[腐食試験]
各試験番号の鋼材に対して、ASTM G48(2011) Method Eに準拠した上述の方法で腐食試験を実施して、耐孔食性を評価した。まず、各試験番号の鋼材から、腐食試験用の試験片を作製した。具体的には、鋼材の形状が鋼管の場合、肉厚中央部から試験片を作製した。鋼材の形状が鋼板の場合、板厚中央部から試験片を作製した。鋼材の形状が棒鋼の場合、軸方向に垂直な断面の中心部から試験片を作製した。なお、腐食試験用の試験片の大きさは、厚さ3mm、幅25mm、長さ50mmであり、試験片の長手方向は、鋼材の圧延方向と平行であった。
作製された各試験番号の試験片を、比液量5mL/cm2以上であり、15℃の試験溶液(6%FeCl3+1%HCl)に浸漬させた。試験片を試験溶液に浸漬してから24時間毎に、試験溶液の温度を5℃ずつ上昇させ、孔食の発生の有無を肉眼で確認した。孔食が発生したときの温度をCPT(℃)とした。得られた各試験番号のCPT(℃)を表2及び表3に示す。
[評価結果]
表1〜表3を参照して、試験番号1〜29の鋼材は、化学組成が適切であり、Fn1が30.0以上であった。さらに、製造方法も明細書に記載の好ましい製造方法であった。その結果、フェライトの体積率が30.0〜70.0%であり、粗大Cu面積率が1.00%以上であった。その結果、降伏強度が621MPa以上であり、CPTが15℃を超えた。すなわち、試験番号1〜29の鋼材は、621MPa以上の降伏強度と、優れた耐孔食性とを有していた。
一方、試験番号30及び31の鋼材では、溶体化処理の熱処理温度TAが高すぎた。その結果、粗大Cuの面積率が1.00%未満であった。その結果、降伏強度が621MPa未満となった。すなわち、試験番号30及び31の鋼材は、621MPa以上の降伏強度を有していなかった。
試験番号32の鋼材では、Fn1が30.0未満であった。その結果、CPTが15℃であった。すなわち、試験番号32の鋼材は、優れた耐孔食性を有していなかった。
試験番号33の鋼材では、Cr含有量が低すぎた。その結果、フェライトの体積率が30.0%未満であった。その結果、降伏強度が621MPa未満となった。すなわち、試験番号33の鋼材は、621MPa以上の降伏強度を有していなかった。
試験番号34の鋼材では、Cu含有量が低すぎた。その結果、粗大Cuの面積率が1.00%未満であった。その結果、降伏強度が621MPa未満であった。すなわち、試験番号34の鋼材は、621MPa以上の降伏強度を有していなかった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.030%以下、
    Si:0.20〜1.00%、
    Mn:0.50〜7.00%、
    P:0.040%以下、
    S:0.020%以下、
    Al:0.100%以下、
    Ni:4.20〜9.00%、
    Cr:20.00〜30.00%、
    Mo:0.50〜2.00%、
    Cu:1.50〜4.00%、
    N:0.150〜0.350%、
    V:0.01〜1.50%、
    Nb:0〜0.100%、
    Ta:0〜0.100%、
    Ti:0〜0.100%、
    Zr:0〜0.100%、
    Hf:0〜0.100%、
    W:0〜0.200%、
    Co:0〜0.500%、
    Sn:0〜0.100%、
    Sb:0〜0.1000%、
    Ca:0〜0.020%、
    Mg:0〜0.020%、
    B:0〜0.020%、
    希土類元素:0〜0.200%、及び、
    残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成と、
    体積率で30.0〜70.0%のフェライト、及び、残部がオーステナイトからなるミクロ組織とを有し、
    降伏強度が621MPa以上であり、
    面積が0.10μm2以上のCu析出物の面積率が1.00%以上である、
    二相ステンレス鋼材。
    Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N≧30.0 (1)
    ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。対応する元素が含有されていない場合、その元素記号には「0」が代入される。
  2. 請求項1に記載の二相ステンレス鋼材であって、
    前記化学組成は、
    Nb:0.001〜0.100%、
    Ta:0.001〜0.100%、
    Ti:0.001〜0.100%、
    Zr:0.001〜0.100%、
    Hf:0.001〜0.100%、及び、
    W:0.001〜0.200%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
    二相ステンレス鋼材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の二相ステンレス鋼材であって、
    前記化学組成は、
    Co:0.001〜0.500%、
    Sn:0.001〜0.100%、及び、
    Sb:0.0001〜0.1000%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
    二相ステンレス鋼材。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の二相ステンレス鋼材であって、
    前記化学組成は、
    Ca:0.001〜0.020%、
    Mg:0.001〜0.020%、
    B:0.001〜0.020%、及び、
    希土類元素:0.001〜0.200%からなる群から選択される1種以上の元素を含有する、
    二相ステンレス鋼材。
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