実施の形態1.
<電動機>
図1は、実施の形態1の電動機100を示す横断面図である。電動機100は、同期電動機であり、圧縮機8(図4)に組み込まれて圧縮機構部7を駆動する。電動機100は、軸線Axを中心として回転可能な回転子1と、回転子1を囲む固定子5とを有する。回転子1と固定子5との間には、例えば0.3~1.0mmのエアギャップが形成されている。
以下では、回転子1の回転中心を規定する軸線Axの方向を「軸方向」とする。軸線Axを中心とする径方向を「径方向」とする。軸線Axを中心とする周方向を「周方向」とし、図1等に矢印Rで示す。軸線Axと平行な面における断面図を縦断面図とし、軸線Axに直交する面における断面図を横断面図とする。
<固定子>
固定子5は、環状の固定子コア50と、固定子コア50に分布巻で巻かれた3相のコイル6とを有する。固定子コア50は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し、カシメ等により固定した積層体で構成される。電磁鋼板の板厚は、例えば0.1~0.7mmである。
固定子コア50は、軸線Axを中心とする環状のヨーク部51と、ヨーク部51から径方向内側に延在する複数のティース52とを有する。ヨーク部51の外周には、軸線Axを中心とする円周状の外周面51aを有する。外周面51aには、軸線Axに平行な平面部としての4つのDカット部51bが形成されている。
外周面51aは後述する圧縮機8(図4)の密閉容器80の内側に嵌合する。Dカット部51bと密閉容器80の内周面との間には、冷媒の通路が形成される。
ティース52は、ヨーク部51に周方向に等間隔に形成されている。ティース52の数は、ここでは18である。但し、ティース52の数は18に限らず、2以上であればよい。周方向に隣り合うティース52の間には、スロット53が形成される。スロット53の数は、ティース52の数と同じである。
コイル6は、分布巻で固定子コア50に巻かれている。コイル6は3相コイルであり、第1相のコイルとしてのU相コイル6Uと、第2相のコイルとしてのV相コイル6Vと、第3相のコイルとしてのW相コイル6Wとを有する。
U相コイル6U、V相コイル6VおよびW相コイル6Wは、径方向位置が互いに異なる。ここでは、U相コイル6Uが最も径方向外側に位置し、W相コイル6Wが最も径方向内側に位置し、V相コイル6VがU相コイル6UとW相コイル6Wの間に位置している。
U相コイル6Uは、3つのコイル部分U1,U2,U3を有する。コイル部分U1,U2,U3はいずれも、3スロットピッチで巻かれている。3スロットピッチとは、3スロット毎に巻かれていることを意味し、言い換えると、3つのティース52を跨ぐように巻かれていることを意味する。
同様に、V相コイル6Vは、3つのコイル部分V1,V2,V3を有する。コイル部分V1,V2,V3はいずれも、3スロットピッチで巻かれている。W相コイル6Wは、3つのコイル部分W1,W2,W3を有する。コイル部分W1,W2,W3はいずれも、3スロットピッチで巻かれている。
コイル6U,6V,6Wの各コイル部分は、スロット53内に配置されるコイルサイドと、固定子コア50の軸方向端面で延在するコイルエンドとを有する。固定子コア50の18の各スロット53には、コイルサイドが1つずつ配置されている。
U相コイル6Uのコイル部分U1,U2,U3は、直列に接続されている。同様に、V相コイル6Vのコイル部分V1,V2,V3は直列に接続されており、W相コイル6Wのコイル部分W1,W2,W3は直列に接続されている。
<回転子>
図2は、実施の形態1の回転子1を示す横断面図である。回転子1は、円筒状の回転子コア10と、回転子コア10に取り付けられた永久磁石20とを有する。回転子コア10は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し、カシメ等で固定した積層体で構成される。電磁鋼板の板厚は、例えば0.1~0.7mmである。
回転子コア10は、外周10aおよび内周10bを有する。外周10aおよび内周10bはいずれも、軸線Axを中心とする円形状である。回転子コア10の内周10bには、シャフト35が、焼嵌め、圧入または接着等により固定されている。シャフト35の中心軸は、上述した軸線Axである。
回転子コア10の外周10aに沿って、複数の磁石挿入孔11が形成されている。磁石挿入孔11は、その長手方向の中心を通る径方向の直線に直交する方向に延在している。磁石挿入孔11は、直線状に限らず、例えばV字状に延在していてもよい。磁石挿入孔11は、回転子コア10の軸方向の一端から他端まで到達している。
回転子コア10の各磁石挿入孔11に、永久磁石20が1つずつ挿入されている。すなわち、回転子コア10には、6つの永久磁石20が埋め込まれている。1つの永久磁石20は1磁極を構成し、回転子1の極数は6である。但し、回転子1の極数は6に限らず、2以上であればよい。
永久磁石20は、平板状であり、回転子コア10の周方向に幅を有し、径方向に厚さを有する。永久磁石20は、例えば、ネオジウム(Nd)、鉄(Fe)およびボロン(B)を含む希土類磁石で構成されている。
これらの永久磁石20は、隣り合う永久磁石20の外周側の磁極面の極性が逆になるように配置されている。すなわち、ある永久磁石20の外周側の磁極面がN極の場合、これに隣接する永久磁石20の外周側の磁極面はS極である。回転子1は、3つのN極と、3つのS極とを有する。
回転子コア10において磁石挿入孔11の周方向両端には、空隙であるフラックスバリア12が形成されている。フラックスバリア12と回転子コア10の外周10aとの間には、薄肉部が形成される。薄肉部は、隣り合う磁極間の短絡磁束を抑制するため、電磁鋼板の板厚と同じ幅に形成されている。
磁石挿入孔11の周方向の中心は、極中心である。極中心を通る径方向の直線を、磁極中心線Cと称する。
回転子コア10において磁石挿入孔11と外周10aとの間の領域を、磁極領域18と称する。磁極領域18の数は、磁石挿入孔11の数と同じである。ここでは、回転子コア10は、6つの磁極領域18を有する。
6つの磁極領域18のうち、4つの磁極領域18には、スリット131,132,133,134が形成されている。一方、他の2つの磁極領域18には、スリットは形成されていない。これら2つの磁極領域は周方向に隣り合っている。
スリット131,132,133,134が形成された磁極領域18を、「第1の磁極領域18A」と称する。スリットが形成されていない磁極領域18を、「第2の磁極領域18B」と称する。
より具体的には、第1の磁極領域18Aには、磁極中心線Cの各側に、スリット131,132,133,134が形成されている。スリット131,132,133,134は、磁極中心線C側からこの順に形成されている。
スリット131,132,133,134は、電磁鋼板を打ち抜いて形成した長孔であり、磁極中心線Cに平行に延在している。また、スリット131,132,133,134は、この順に、径方向の長さが長い。スリット131,132,133,134の周方向の幅は、同じである。
スリット131~134は、永久磁石20から出た磁束の回転子1の表面における磁束密度分布を滑らかにし、トルクリップルを低減する作用を奏する。スリット131~134は、スリット群13とも称する。
なお、第1の磁極領域18Aには、1つ以上のスリットが形成されていればよい。但し、磁束密度分布を滑らかにする効果を高めるためには、複数のスリットが形成されていることが望ましい。
第1の磁極領域18Aに対応する磁石挿入孔11を「第1の磁石挿入孔」と称し、その磁石挿入孔11内の永久磁石20を「第1の永久磁石」と称する場合もある。第2の磁極領域18Bに対応する磁石挿入孔11を「第2の磁石挿入孔」と称し、その磁石挿入孔11内の永久磁石20を「第2の永久磁石」と称する場合もある。
第1の磁極領域18Aの周方向両端には、サイドスリット14が形成されている。サイドスリット14は、フラックスバリア12の極中心側に形成され、周方向に延在している。サイドスリット14は、フラックスバリア12における磁気抵抗を増加させ、隣り合う磁極間の漏れ磁束を低減する作用を奏する。
第2の磁極領域18Bには、上記の通り、スリットは形成されていない。すなわち、第1の磁極領域18Aと第2の磁極領域18Bとは、スリットの有無の点で異なっている。
なお、第2の磁極領域18Bには、第1の磁極領域18Aと同様、サイドスリット14は形成されている。本実施の形態および後述する各実施の形態では、第1の磁極領域18Aおよび第2の磁極領域18Bの「スリット」には、サイドスリット14は含まれないものとする。
図3(A)は、回転子1を示す縦断面図である。図3(B)は、回転子1を示す斜視図である。回転子コア10の軸方向一端には、バランスウエイト31が取り付けられている。回転子コア10の軸方向他端には、バランスウエイト32が取り付けられている。
バランスウエイト31,32はいずれも、例えば真鍮で形成されている。バランスウエイト31,32は、例えば、図示しないリベット等により、回転子コア10に固定されている。
バランスウエイト31は、軸線Axを中心とする円板状の端板部31bと、周方向において端板部31bの一部に形成されたバランスウエイト部31aとを有する。バランスウエイト部31aは、例えば、軸線Axを中心とする半円環状に形成されている。バランスウエイト31の内周31cには、シャフト35が挿通されている。
同様に、バランスウエイト32は、軸線Axを中心とする円板状の端板部32bと、周方向において端板部32bの一部に形成されたバランスウエイト部32aとを有する。バランスウエイト部32aは、例えば、軸線Axを中心とする半円環状に形成されている。バランスウエイト32の内周32cには、シャフト35が挿通されている。
ここではバランスウエイト部31aと端板部31bとが一体に形成されているが、別体であってもよい。同様に、ここではバランスウエイト部32aと端板部32bとが一体に形成されているが、別体であってもよい。
2つのバランスウエイト部31a,32aは、軸線Axに対して互いに対称な位置にある。バランスウエイト部31a,32aの重量は、後述する圧縮機構部7(図4)で発生する遠心力に応じて決定される。
<圧縮機>
図4は、電動機100を備えた圧縮機8の基本構成を示す模式図である。圧縮機8は、ここではロータリ圧縮機であるが、スクロール圧縮機(図20)であってもよい。
圧縮機8は、圧縮機構部7と、圧縮機構部7を駆動する電動機100と、圧縮機構部7と電動機100とを連結するシャフト35と、シャフト35を回転可能に支持する軸受81と、これらを収容する密閉容器80とを備える。
密閉容器80は、鋼板で形成された容器である。密閉容器80の内側には、電動機100の固定子5が、焼き嵌め、圧入または溶接等により組み込まれている。軸受81は、電動機100を挟んで圧縮機構部7と反対の側に配置されている。
圧縮機構部7は、図4では電動機100の上方に示しているが、電動機100の下方に設けられていてもよい。圧縮機構部7は、シリンダ室71を有するシリンダ70と、シャフト35に固定された回転部としてのローリングピストン72と、シリンダ室71の内部を吸入側と圧縮側に分けるベーン73(図5(A))とを有する。
シリンダ室71は軸線Axを中心とする円形断面を有し、シリンダ室71の内部には、シャフト35に取り付けられたローリングピストン72が位置している。ローリングピストン72は円筒状であり、その中心は軸線Axに対して偏心している。シャフト35が回転すると、ローリングピストン72がシリンダ室71内で偏心回転する。
図5(A)は、シリンダ70を示す斜視図である。シリンダ70には、ベーン73が挿入されたベーン溝74が形成されている。ベーン溝74の一端はシリンダ室71に連通しており、ベーン溝74の他端は背圧室に連通している。
ベーン73は、ベーン溝74内に往復可能に設けられている。ベーン73は、スプリングにより、ベーン溝74からシリンダ室71内に押し出され、ローリングピストン72の外周面に当接している。
シリンダ70には、密閉容器80の外部からシリンダ室71内に冷媒ガスを吸入する吸入口75が形成されている。吸入口75は、例えば、吸入管によりアキュムレータに接続されている。
シリンダ70には、また、図示しない吐出口が設けられている。シリンダ室71内の冷媒ガスの圧力が規定圧力を超えると、吐出口に設けられた吐出弁が開口し、冷媒ガスがシリンダ室71から密閉容器80内に吐出される。
図5(B)~(E)は、シリンダ70内での冷媒の圧縮動作を示す模式図である。ベーン73は、シリンダ室71の内周面とローリングピストン72の外周面とで形成される空間を、2つの作動室に仕切る。2つの作動室のうち、吸入口75に連通する作動室は、低圧の冷媒ガスを吸入する吸入室として機能し、他方の作動室は、冷媒を圧縮する圧縮室として機能する。
電動機100の回転子1が回転すると、シリンダ室71内では、シャフト35に取り付けられたローリングピストン72が、軸線Axに対して偏心した軸を中心として、図5(B)~(E)に矢印で示す方向に回転する。
図5(B)~(E)に示すように、ローリングピストン72がシリンダ室71内で偏心回転することにより、冷媒ガスが吸入口75(図5(A))からシリンダ室71内に吸入され、シリンダ室71内で圧縮される。シリンダ室71内で圧縮された冷媒ガスは、吐出口から密閉容器80内に吐出される。
圧縮機構部7の動作時には、図4に示すように、ローリングピストン72の偏心方向に遠心力F0が発生し、シャフト35に作用する。そのため、回転子1のバランスウエイト部31a,32aの重量は、圧縮機構部7で発生する遠心力F0に対して反対方向に遠心力を発生させるように設定される。
ここでは、軸線Axに対して、圧縮機構部7側のバランスウエイト部31aを、ローリングピストン72の偏心軸と反対側に配置し、軸受81側のバランスウエイト部32aを、ローリングピストン72の偏心軸と同じ側に配置している。また、バランスウエイト部31aの重量は、バランスウエイト部32aの重量よりも重く設定される。
これにより、圧縮機構部7からシャフト35が受ける遠心力F0を、回転子1のバランスウエイト部31a,32aで発生する遠心力で相殺し、シャフト35の振れ回りによる振動および騒音の発生を抑制することができる。バランスウエイト部31aで発生する遠心力を、遠心力F1とする。
<振動および騒音の低減作用>
次に、実施の形態1の作用について、図2を参照して説明する。固定子5のコイル6(図1)に電流が流れると、コイル6を流れる電流によって発生した磁束(以下、固定子磁束と称する)は、回転子コア10の外周部分である磁極領域18を周方向に流れる。
回転子コア10のスリット131~134は、永久磁石20の磁束(すなわちトルク発生に寄与する磁束)の流れを遮らずに、固定子磁束の流れのみを遮るように、径方向に延在している。
上述したように、回転子コア10の第1の磁極領域18Aにはスリット131~134が形成されているが、第2の磁極領域18Bにはスリットは形成されていない。
第2の磁極領域18Bでは、固定子磁束が周方向に流れるため、第2の磁極領域18Bが磁化された状態となり、回転子1を固定子5側に吸引する磁気的吸引力が発生する。一方、第1の磁極領域18Aでは、固定子磁束の流れがスリット131~134によって遮られるため、回転子1を固定子5側に吸引する磁気的吸引力は小さい。
このように、回転子1と固定子5との間の磁気的吸引力が第1の磁極領域18A側で小さく、第2の磁極領域18B側で大きいため、回転子1の第2の磁極領域18B側を固定子5に近づけようとする力fが発生する。
第2の磁極領域18Bを、バランスウエイト部31aと軸方向に重なり合う位置に形成することにより、上記の力fの方向を、バランスウエイト部31aの発生する遠心力F1(図4)の方向と一致させることができる。これにより、回転子コア10に、バランスウエイト部31aの役割の一部を担わせることができる。
その結果、バランスウエイト部31aを小型化しながら、圧縮機構部7の動作時のシャフト35の振れ回りを抑制し、振動および騒音を抑制することができる。
<トルクリップルの低減作用>
但し、第1の磁極領域18Aと第2の磁極領域18Bとでスリットの形態(ここではスリットの有無)が異なるため、回転子1の表面における磁束密度分布に高調波成分が含まれ、トルクリップルが増加する可能性がある。実施の形態1では、コイル6を分布巻で巻くことで、以下のようにトルクリップルを低減している。
図6は、実施の形態1の電動機100におけるU相コイル6Uと回転子1の磁極との関係を示す図である。なお、以下ではU相コイル6Uとの関連でトルクリップルの低減効果を説明するが、V相コイル6VおよびW相コイル6Wにも同じことが当てはまる。
上記の通り、固定子コア50には、U相コイル6Uの3つのコイル部分U1,U2,U3が巻かれている。コイル部分U1,U2,U3はいずれも、3スロットピッチで巻かれている。コイル部分U1,U2,U3の卷回方向は、同じである。
コイル部分U1,U2,U3はいずれも、スロット53内に配置されるコイルサイド61と、固定子コア50の軸方向端面で延在するコイルエンド62とを有する。
U相コイル6Uのコイル部分U1,U2,U3のコイルピッチは、機械角で60度である。回転子1の極数は6極であるため、コイルピッチは電気角で180度となる。また、極ピッチは60度である。
図6に示した状態では、回転子1の3つのN極に、U相コイル6Uのコイル部分U1,U2,U3が対向している。一方、回転子1の3つのS極には、U相コイル6Uのコイル部分U1,U2の間の部分、コイル部分U2,U3の間の部分、およびコイル部分U3,U1の間の部分が対向している。このように隣り合うコイル部分の間の部分を、コイル間部分と称する。
図7(A)は、回転子1の隣り合うN極とS極とを含む磁極対と、これに対向する固定子5と、回転子1の表面における磁束密度分布とを示す模式図である。図7(B)は、固定子5のU相コイル6Uを回転子1側から見た模式図である。
図7(A)に示すように、回転子1の表面における磁束密度分布を示す基本波形は、N極の極中心で最大となり、極間で0となり、S極の極中心で最小となる正弦波である。
回転子1のN極にU相コイル6Uのコイル部分U1が対向している状態で、回転子1のS極には、U相コイル6Uのコイル部分U1,U3の間の部分(コイル間部分)が対向する。このコイル間部分は、図7(B)に符号U1´で示すように、コイル部分U1,U3とは卷回方向が逆の仮想のコイル部分と考えることができる。すなわち、回転子1のS極には、巻線方向がコイル部分U1とは逆のコイル部分U1´が対向していると考えることができる。
U相コイル6UのN極側のコイル部分U1,U2,U3のコイルピッチは、上記の通り、機械角で60度、電気角で180度である。また、U相コイル6UのS極側のコイル部分U1´,U2´,U3´のコイルピッチも、機械角で60度、電気角で180度である。
図8は、比較例の電動機100CにおけるU相コイル6Uと回転子1の磁極との関係を示す図である。電動機100Cの固定子15は、固定子コア150と、固定子コア150に集中巻で巻かれたコイル6とを有する。電動機100Cの回転子1は、実施の形態1の回転子1と同様である。
固定子コア150は、ヨーク151と、9つのティース152とを有する。9つのティース152のうち3つのティース152に、U相コイル6Uが集中巻で巻かれている。U相コイル6Uの3つのティース152に巻かれた部分を、コイル部分U1,U2,U3と称する。
図8に示した状態では、回転子1の3つのN極に、U相コイル6Uのコイル部分U1,U2,U3が対向している。回転子1の3つのS極には、U相コイル6Uの3つのコイル間部が対向している。これらのコイル間部は、巻回方向がコイル部分U1,U2、U3とは逆の仮想のコイル部分U1´,U2´,U3´と考えることができる。
U相コイル6Uのコイル部分U1,U2,U3のコイルピッチは、機械角で40度であり、電気角で120度である。これに対し、U相コイル6UのS極側のコイル部分U1´,U2´,U3´のコイルピッチは、機械角で80度、電気角で240度である。
なお、集中巻の場合、一般にコイルピッチという表現を使用しないが、ここでは各コイル部分(例えばコイル部分U1)の2つのコイルサイド61の間の角度を、コイルピッチと称する。
図9は、回転子1の一つの磁極対において、S極の磁極領域のみにスリットを形成した場合の、回転子1の表面における磁束密度分布を示すグラフである。
N極およびS極の磁極領域のスリットの有無により、図9に示すように、回転子1の表面における磁束密度分布は、基本波形である正弦波に偶数次の高調波成分を加えた波形となる。偶数次の高調波成分は、主に、4次の高調波成分である。
図10は、図9の磁束密度分布を基本波成分と高調波成分とに分けて示すグラフであり、併せて、実施の形態1のN極側の1つのコイル部分に対応する範囲と、S極側の1つのコイル部分に対応する範囲とを示すグラフである。
上記の通り、U相コイル6UのN極側のコイル部分U1,U2,U3のコイルピッチは、電気角で180度である。また、U相コイル6UのS極側のコイル部分U1´,U2´,U3´のコイルピッチも、電気角で180度である。
一般に、N極側のコイル部分に鎖交する磁束の磁束密度分布と、S極側のコイル部分に鎖交する磁束の磁束密度分布とが対称である場合には、奇数次の高調波成分のみが重畳され、偶数次の高調波成分は相殺される。
そのため、実施の形態1では、U相コイル6UのN極側のコイル部分(例えばコイル部分U1)に鎖交する磁束と、S極側のコイル部分(例えばコイル部分U1´)に鎖交する磁束とを重ね合わせることにより、4次の高調波成分が相殺される。
図11は、図9の磁束密度分布を基本波成分と高調波成分とに分けて示すグラフであり、併せて、比較例のN極側の1つのコイル部分に対応する範囲と、S極側の1つのコイル部分に対応する範囲とを示すグラフである。
上記の通り、U相コイル6UのN極側のコイル部分U1,U2,U3のコイルピッチは、電気角で80度である。一方、U相コイル6UのS極側のコイル部分U1´,U2´,U3´のコイルピッチは、電気角で240度である。
そのため、図11に示したように、S極側の1つのコイル部分(例えばコイル部分U1´)に対応する範囲には、N極側の1つのコイル部分(例えばコイル部分U1)に対応する範囲よりも、4次高調波成分が多く含まれる。
その結果、比較例では、実施の形態1のように4次高調波成分が相殺されず、U相コイル6Uに鎖交する磁束に4次高調波成分が含まれることになる。この場合、回転子1の回転時にU相コイル6Uで発生する誘起電圧にも4次高調波成分が含まれることになる。また、トルクリップルには、5次高調波成分(誘起電圧の4次高調波成分×電流の1次高調波成分)が重畳されることになる。
特に、様々な回転数で運転される圧縮機8では、圧縮機8の共振周波数とトルクリップルの周波数成分とが一致した際に、振動および騒音が発生しやすくなる。
これに対し、実施の形態1では、コイル6が分布巻で巻かれているため、回転子コア10の第1の磁極領域18Aと第2の磁極領域18Bとでスリットの形態が異なることによって発生する磁束密度分布の4次の高調波成分が打ち消される。そのため、回転子1の回転時にコイル6で発生する誘起電圧に含まれる4次高調波成分を減少させ、トルクリップルを低減することができる。
ここではU相コイル6Uを例にとって説明したが、V相コイル6VおよびW相コイル6Wについても同様である。また、図1,6に示した巻き方に限らず、コイル6U,6V,6Wが分布巻で巻かれていれば、高調波成分を低減する効果を得ることができる。
<実施の形態の効果>
以上説明したように、実施の形態1では、回転子コア10が第1の磁極領域18Aにスリット131~134を有し、第2の磁極領域18Bにスリットを有さない。そのため、回転子1と固定子5との間の磁気的吸引力が第1の磁極領域18A側と第2の磁極領域18B側とで異なり、回転子1を一方の側に付勢する力fが発生する。これにより、バランスウエイト部31aを小型化しながら、圧縮機構部7の動作時のシャフト35の振れ回りを抑制し、振動および騒音を抑制することができる。
また、コイル6が分布巻で巻かれているため、第1の磁極領域18Aと第2の磁極領域18Bとでスリットの形態が異なることによる磁束密度分布の高調波成分を減少させ、トルクリップルを低減することができる。これにより、振動および騒音の抑制効果を高めることができる。
上述した回転子1では、6つの磁極領域18のうち、2つが第2の磁極領域18Bであり、残りの4つが第1の磁極領域18Aであった。しかしながら、第1の磁極領域18Aおよび第2の磁極領域18Bの数は、これらの数に限定されるものではない。
例えば、図12(A)に示すように、6つの磁極領域18のうち、1つを第2の磁極領域18Bとし、残りの5つを第1の磁極領域18Aとしてもよい。また、図12(B)に示すように、6つの磁極領域18のうち、連続する3つを第2の磁極領域18Bとし、残りの3つを第1の磁極領域18Aとしてもよい。
また、上述した第1の磁極領域18Aは8つのスリット131~134を有していたが、第1の磁極領域18Aのスリットの数は1以上であればよい。
実施の形態2.
次に、実施の形態2について説明する。図13は、実施の形態2の回転子1Aを示す断面図である。実施の形態2の回転子1Aは、第2の磁極領域18Bにスリットが形成されている点で、実施の形態1の回転子1と異なる。
回転子1Aの第2の磁極領域18Bには、5つのスリット230,231,232が形成されている。具体的には、磁極中心線C上にスリット230が形成され、スリット230の周方向両側に、スリット230側から順に、スリット231,232が形成されている。
スリット230,231,232は、磁極中心線Cに平行に延在している。また、スリット230,231,232は、この順に、径方向の長さが長い。スリット230,231,232の周方向の幅は、同じである。
回転子1Aの第1の磁極領域18Aには、実施の形態1の第1の磁極領域18Aのスリット131~134に加えて、磁極中心線C1上にスリット130が形成されている。スリット130は、スリット131~134よりも径方向長さが長い。スリット131~134は、実施の形態1で説明した通りである。
第1の磁極領域18Aのスリット130~134はスリット群13を構成し、第2の磁極領域18Bのスリット230~232はスリット群23を構成する。
第2の磁極領域18Bのスリット230~232は、第1の磁極領域18Aのスリット130~134よりも数が少ない。すなわち、1つの第2の磁極領域18Bのスリット数は、1つの第1の磁極領域18Aのスリット数よりも少ない。
言い換えると、1つの第2の磁極領域18Bのスリット230~232の面積の合計すなわち総面積A2は、1つの第1の磁極領域18Aのスリット130~134の総面積A2よりも小さい。
スリット230~232の径方向長さの平均は、ここではスリット130~134の径方向長さの平均と同じであるが、必ずしも同じでなくてもよい。また、スリット230~232の周方向幅は、ここではスリット130~134の周方向幅と同じであるが、必ずしも同じでなくてもよい。
また、第1の磁極領域18Aおよび第2の磁極領域18Bに、実施の形態1で説明したサイドスリット14(図2)を形成してもよい。
実施の形態1で説明したように、固定子5のコイル6に電流が流れると、コイル6の電流によって発生した固定子磁束が回転子コア10の磁極領域18を周方向に流れる。回転子コア10の第1の磁極領域18Aでは、スリット130~134が固定子磁束の流れを遮るが、第2の磁極領域18Bでは、スリット230~232の数が少ないため、固定子磁束が周方向に流れやすい。
そのため、回転子1Aと固定子5との間の磁気的吸引力は、第2の磁極領域18B側で第1の磁極領域18A側よりも大きくなり、回転子1Aを一方の側に付勢する力が発生する。この力の方向を、バランスウエイト部31aが発生する遠心力の方向と一致させることで、バランスウエイト部31aを小型化しながら、圧縮機構部7の動作時の振動および騒音を抑制することができる。
なお、図13に示した例では、第1の磁極領域18Aのスリット数は9であり、第2の磁極領域18Bのスリット数は5であるが、これらの数に限定されるものではなく、第2の磁極領域18Bのスリット数が第1の磁極領域18Aのスリット数よりも少なければよい。
実施の形態2の電動機は、以上の点を除き、実施の形態1の電動機100と同様に構成されている。
以上説明したように、実施の形態2では、回転子コア10の第2の磁極領域18Bのスリット数が第1の磁極領域18Aのスリット数よりも少ないため、回転子1Aを一方の側に付勢する力を発生することができる。これにより、バランスウエイト部31aを小型化しながら、圧縮機構部7の動作時の振動および騒音を抑制することができる。
また、コイル6が分布巻で巻かれているため、第1の磁極領域18Aと第2の磁極領域18Bとのスリット数の相違による磁束密度分布の高調波成分を減少させ、トルクリップルを低減することができる。これにより振動および騒音の抑制効果を高めることができる。
なお、実施の形態2では、第2の磁極領域18Bにスリット230~232が設けられているため、発生する付勢力は実施の形態1よりも小さい。しかしながら、第2の磁極領域18Bのスリット230~232により、回転子1Aの表面の磁束密度分布を滑らかにする効果が得られるため、誘起電圧の歪を抑え、トルクリップルを低減することができる。
図13に示した例では、回転子1Aの6つの磁極領域18のうち4つが第1の磁極領域18Aであり、2つが第2の磁極領域18Bであったが、第1の磁極領域18Aおよび第2の磁極領域18Bの数は、これらの数に限定されるものではない。
実施の形態3.
次に、実施の形態3について説明する。図14は、実施の形態3の回転子1Bを示す断面図である。実施の形態3の回転子1Bは、第2の磁極領域18Bのスリットの数および周方向の幅が、実施の形態2の回転子1Aと異なる。
回転子1Bの第2の磁極領域18Bには、9つのスリット330,331,332,333,334が形成されている。具体的には、磁極中心線C上にスリット330が形成されている。スリット330の周方向両側に、スリット330側から順に、スリット331,332,333,334が形成されている。
第2の磁極領域18Bのスリット330,331,332,333,334は、磁極中心線Cに平行に延在している。また、330,331,332,333,334は、この順に、径方向の長さが長い。
回転子1Bの第1の磁極領域18Aには、実施の形態2と同様、スリット130,131,132,133,134が形成されている。第1の磁極領域18Aのスリット130~134はスリット群13を構成し、第2の磁極領域18Bのスリット330~334はスリット群33を構成する。
実施の形態3では、回転子1Bの第2の磁極領域18Bのスリット数は、第1の磁極領域18Aのスリット数と同じである。
第2の磁極領域18Bのスリット330~334のそれぞれの周方向の幅W2は、第1の磁極領域18Aのスリット130~134のそれぞれの周方向の幅W1よりも狭い。
言い換えると、1つの第2の磁極領域18Bのスリット330~334の総面積A2は、1つの第1の磁極領域18Aのスリット130~134の総面積A1よりも小さい。
なお、第2の磁極領域18Bのスリット330~334は、ここでは同じ周方向幅を有するが、必ずしも同じ周方向幅を有する必要はない。第2の磁極領域18Bのスリット330~334の周方向幅の平均値が、第1の磁極領域18Aのスリット130~134の周方向幅の平均値よりも小さければよい。
第2の磁極領域18Bのスリット330~334の径方向長さの平均は、ここでは第1の磁極領域18Aのスリット130~134の径方向長さの平均と同じであるが、必ずしも同じである必要はない。
また、第1の磁極領域18Aおよび第2の磁極領域18Bに、実施の形態1で説明したサイドスリット14(図2)を形成してもよい。
実施の形態1で説明したように、固定子5のコイル6に電流が流れると、コイル6の電流によって発生した固定子磁束が回転子コア10の磁極領域18を周方向に流れる。回転子コア10の第1の磁極領域18Aでは、スリット130~134が固定子磁束の流れを遮るが、第2の磁極領域18Bでは、スリット330~334の幅W2がスリット130~134の幅W1よりも狭いため、固定子磁束が周方向に流れやすい。
そのため、回転子1Bと固定子5との間の磁気的吸引力は、第2の磁極領域18B側で第1の磁極領域18A側よりも大きくなり、回転子1Bを一方の側に付勢する力が発生する。この力の方向を、バランスウエイト部31aが発生する遠心力の方向と一致させることで、バランスウエイト部31aを小型化しながら、圧縮機構部7の動作時の振動および騒音を抑制することができる。
なお、図14に示した例では、第1の磁極領域18Aのスリット数は9であり、第2の磁極領域18Bのスリット数も9であるが、これらの数に限定されるものではない。
実施の形態3の電動機は、以上の点を除き、実施の形態1の電動機100と同様に構成されている。
以上説明したように、実施の形態3では、回転子コア10の第2の磁極領域18Bのスリットの幅W2が第1の磁極領域18Aのスリットの幅W1よりも狭いため、回転子1Bを一方の側に付勢する力を発生することができる。これにより、バランスウエイト部31aを小型化しながら、圧縮機構部7の動作時の振動および騒音を抑制することができる。
また、コイル6が分布巻で巻かれているため、第1の磁極領域18Aと第2の磁極領域18Bとのスリット幅の相違による磁束密度分布の高調波成分を減少させ、トルクリップルを低減することができる。これにより、振動および騒音の抑制効果を高めることができる。
なお、実施の形態3では、第2の磁極領域18Bにスリット330~334が設けられているため、発生する付勢力は実施の形態1よりも小さい。しかしながら、第2の磁極領域18Bのスリット330~334により、回転子1Bの表面の磁束密度分布を滑らかにする効果が得られるため、誘起電圧の歪を抑えてトルクリップルを低減することができる。また、実施の形態2よりも第2の磁極領域18Bのスリット数が多いため、スリットの配置の自由度が増し、よりトルクリップルを低減しやすくなる。
図14に示した例では、回転子1Bの6つの磁極領域18のうち4つが第1の磁極領域18Aであり、2つが第2の磁極領域18Bであったが、第1の磁極領域18Aおよび第2の磁極領域18Bの数は、これらの数に限定されるものではない。
実施の形態4.
次に、実施の形態4について説明する。図15は、実施の形態4の回転子1Cを示す断面図である。実施の形態4の回転子1Cは、第2の磁極領域18Bのスリットの径方向の長さが、実施の形態3の回転子1Bと異なる。
回転子1Cの第2の磁極領域18Bには、9つのスリット430,431,432,433,434が形成されている。具体的には、磁極中心線C上にスリット430が形成されている。スリット430の周方向両側に、スリット430側から順に、スリット431,432,433,434が形成されている。
第2の磁極領域18Bのスリット430,431,432,433,434は、磁極中心線Cに平行に延在している。また、スリット430,431,432,433,434は、この順に、径方向の長さが長い。
回転子1Cの第1の磁極領域18Aには、実施の形態2,3と同様に、スリット130,131,132,133,134が形成されている。第1の磁極領域18Aのスリット130~134はスリット群13を構成し、第2の磁極領域18Bのスリット430~434はスリット群43を構成する。
実施の形態3と同様に、回転子1Cの第2の磁極領域18Bのスリット数は、第1の磁極領域18Aのスリット数と同じである。
第2の磁極領域18Bのスリット430~434の径方向長さの平均(長さL2)は、第1の磁極領域18Aのスリット130~134の径方向長さの平均(長さL1)よりも短い。
言い換えると、1つの第2の磁極領域18Bのスリット430~434の総面積A2は、1つの第1の磁極領域18Aのスリット130~134の総面積A1よりも小さい。
なお、第2の磁極領域18Bのスリット430~434の周方向の幅W2は、第1の磁極領域18Aのスリット130~134の周方向の幅W1と同じであるが、必ずしも同じである必要はない。
また、第1の磁極領域18Aおよび第2の磁極領域18Bに、実施の形態1で説明したサイドスリット14(図2)を形成してもよい。
実施の形態1で説明したように、固定子5のコイル6に電流が流れると、コイル6の電流によって発生した固定子磁束が回転子コア10の磁極領域18を周方向に流れる。回転子コア10の第1の磁極領域18Aでは、スリット130~134が固定子磁束の流れを遮るが、第2の磁極領域18Bでは、スリット430~434の長さL2がスリット130~134の長さL1よりも短いため、固定子磁束が周方向に流れやすい。
そのため、回転子1Cと固定子5との間の磁気的吸引力は、第2の磁極領域18B側で第1の磁極領域18A側よりも大きくなり、回転子1Cを一方の側に付勢する力が発生する。この力の方向を、バランスウエイト部31aが発生する遠心力の方向と一致させることで、バランスウエイト部31aを小型化しながら、圧縮機構部7の動作時の振動および騒音を抑制することができる。
なお、図15に示した例では、第1の磁極領域18Aのスリット数は9であり、第2の磁極領域18Bのスリット数も9であるが、これらの数に限定されるものではない。
実施の形態4の電動機は、以上の点を除き、実施の形態1の電動機100と同様に構成されている。
以上説明したように、実施の形態4では、回転子コア10の第2の磁極領域18Bのスリットの長さL2が第1の磁極領域18Aのスリットの長さL1よりも短いため、回転子1Cを一方の側に付勢する力が発生する。これにより、バランスウエイト部31aを小型化しながら、圧縮機構部7の動作時の振動および騒音を抑制することができる。
また、コイル6が分布巻で巻かれているため、第1の磁極領域18Aと第2の磁極領域18Bとのスリット長さの相違による磁束密度分布の高調波成分を減少させ、トルクリップルを低減することができる。これにより振動および騒音の抑制効果を高めることができる。
なお、実施の形態4では、第2の磁極領域18Bにスリット430~434が設けられているため、発生する付勢力は実施の形態1よりも小さい。しかしながら、第2の磁極領域18Bのスリット430~434により、回転子1Cの表面の磁束密度分布を滑らかにすることができるため、誘起電圧の歪を抑えてトルクリップルを低減することができる。
また、実施の形態4では、第2の磁極領域18Bのスリットの長さが実施の形態2,3と比較して短いため、回転子1Cの表面の磁束密度分布を滑らかにする効果はその分だけ低下するが、固定子磁束が第2の磁極領域18Bを流れやすくなるため、より大きい付勢力を発生することができる。
図15に示した例では、回転子1Cの6つの磁極領域18のうち4つが第1の磁極領域18Aであり、2つが第2の磁極領域18Bであったが、第1の磁極領域18Aおよび第2の磁極領域18Bの数は、これらの数に限定されるものではない。
実施の形態5.
次に、実施の形態5について説明する。図16は、実施の形態5の回転子1Dを示す断面図である。実施の形態5の回転子1Dは、回転子コア10が軸方向に2つのコア部101,102を有している点で、実施の形態1の回転子1と異なる。
図17(A)は、図16の線分17A-17Aにおける断面図であり、第1のコア部101を示す断面図である。図17(B)は、図16の線分17B-17Bにおける断面図であり、第2のコア部102を示す断面図である。
図17(A)に示すように、第1のコア部101は、4つの第1の磁極領域18Aと、2つの第2の磁極領域18Bとを有する。
図17(B)に示すように、第2のコア部102は、4つの第1の磁極領域18Aと、2つの第2の磁極領域18Bとを有する。
さらに、図17(A),(B)に示すように、第1のコア部101の第2の磁極領域18Bと、第2のコア部102の第2の磁極領域18Bとは、軸線Axに対する周方向位置が互いに異なる。
より具体的には、第1のコア部101の第2の磁極領域18Bと、第2のコア部102の第2の磁極領域18Bとは、軸線Axに対して互いに対称な位置にある。
言い換えると、軸方向において、第1のコア部101の第1の磁極領域18Aと第2のコア部102の第2の磁極領域18Bとが重なり合い、第1のコア部101の第2の磁極領域18Bと第2のコア部102の第1の磁極領域18Aとが重なっている。
実施の形態5では、回転子コア10の第1のコア部101と第2のコア部102とで、発生する付勢力の方向が逆方向となる。
第1のコア部101の第2の磁極領域18Bの周方向位置を、バランスウエイト部31aの周方向位置に合わせ、第2のコア部102の第2の磁極領域18Bの周方向位置を、バランスウエイト部32aの周方向位置に合わせることで、バランスウエイト部31a,32aを小型化することができる。
図16に示すように、第1のコア部101は軸方向の寸法H1を有し、第2のコア部102は軸方向の寸法H2を有する。寸法H1,H2の比率は、バランスウエイト部31a,32aを小型化したい程度に応じて決定することができる。
なお、H1=H2の場合には、コア部101,102の表面の磁束密度分布に含まれる偶数次の高調波成分は相殺されるが、H1>H2あるいはH1<H2の場合には、高調波成分が相殺されずに残る。しかしながら、実施の形態1で説明したように、固定子5のコイル6が分布巻で巻かれているため、回転子1の回転時にコイル6で発生する誘起電圧に4次の高調波成分が含まれないようにすることができる。
図17(A),(B)に示した例では、コア部101,102の第2の磁極領域18Bにはスリットが形成されていない。しかしながら、図13に示したように、第2の磁極領域18Bに、第1の磁極領域18Aよりも少ない数のスリットを形成してもよい。また、図14に示したように、第2の磁極領域18Bに、第1の磁極領域18Aのスリットよりも幅の狭いスリットを形成してもよい。また、図15に示したように、第2の磁極領域18Bに、第1の磁極領域18Aのスリットよりも長さの短いスリットを形成してもよい。
実施の形態5の電動機は、以上の点を除き、実施の形態1の電動機100と同様に構成されている。
以上説明したように、実施の形態5では、回転子コア10が第1のコア部101と第2のコア部102とを有し、第1のコア部101の第2の磁極領域18Bと第2のコア部102の第2の磁極領域18Bとが軸線Axに対して互いに対称な位置にある。そのため、バランスウエイト部31a,32aを共に小型化しながら、圧縮機構部7の動作時の振動および騒音を抑制することができる。
図16に示した例では、コア部101,102の6つの磁極領域18のうち4つが第1の磁極領域18Aであり、2つが第2の磁極領域18Bであったが、第1の磁極領域18Aおよび第2の磁極領域18Bの数は、これらの数に限定されるものではない。
<コイルの接続状態>
次に、各実施の形態におけるU相コイル6U、V相コイル6VおよびW相コイル6Wの接続状態について説明する。
図18(A)は、U相コイル6U、V相コイル6VおよびW相コイル6Wの接続状態の一例を示す模式図である。U相コイル6Uのコイル部分U1,U2,U3は直列に接続され、V相コイル6Vのコイル部分V1,V2,V3は直列に接続され、W相コイル6Wのコイル部分W1,W2,W3は直列に接続されている。
U相コイル6U、V相コイル6VおよびW相コイル6Wは、中性点Nで結線されている。すなわち、Y結線で結線されている。
図18(B)は、U相コイル6U、V相コイル6VおよびW相コイル6Wの接続状態の別の例を示す模式図である。図18(B)では、U相コイル6U、V相コイル6VおよびW相コイル6Wは、デルタ結線で結線されている。各相のコイル6U,6V,6Wのコイル部分が直列に接続されていることは図18(A)と同様である。
各実施の形態では、回転子コア10の第1の磁極領域18Aと第2の磁極領域18Bとでスリットの形態が異なるため、コイル6U,6V,6Wにおけるコイル部分(例えばU相コイル6Uのコイル部分U1,U2,U3)に鎖交する磁束が不均一になる。そのため、コイル6U,6V,6Wにおけるコイル部分を並列に接続すると、コイル6U,6V,6Wのそれぞれに流れる電流が不均一になり、損失が発生する。
コイル6U,6V,6Wにおけるコイル部分を直列に接続することにより、コイル6U,6V,6Wに流れる電流の不均一を解消し、損失を低減することができる。なお、各相のコイルを構成するコイル部分の数は、3つに限定されるものではない。各相のコイルを構成するコイル部分の数をN個(Nは2以上の整数)とすると、N個のコイル部分が直列に接続されていればよい。
上述した実施の形態1~5は、適宜組み合わせることが可能である。例えば、回転子コア10の第1の磁極領域18Aのスリットに対して、第2の磁極領域18Bのスリットの数を少なくし、幅を狭くし、且つ長さを長くすることも可能である。
<圧縮機>
次に、各実施の形態の電動機100が適用可能な圧縮機300について説明する。図19は、圧縮機300を示す縦断面図である。図4に要部を示した圧縮機8はロータリ圧縮機であったが、各実施の形態の電動機100は、図19に示すスクロール圧縮機としての圧縮機300にも適用可能である。
圧縮機300は、圧縮機構部310と、圧縮機構部310を駆動する電動機100と、圧縮機構部310と電動機100とを連結するシャフト35と、シャフト35の下端部(副軸部)を支持するサブフレーム303と、これらが収容された密閉容器301とを有する。密閉容器301の底部の油だめ305には、冷凍機油304が貯留されている。
圧縮機構部310は、固定スクロール311および揺動スクロール312と、オルダムリング313と、コンプライアントフレーム314と、ガイドフレーム315とを備える。固定スクロール311および揺動スクロール312はいずれも板状渦巻歯を有し、圧縮室316を形成するように組み合わせられている。
固定スクロール311は、圧縮室316で圧縮された冷媒を吐出する吐出ポート311aを有する。また、固定スクロール311には、密閉容器301を貫通する吸入管306が圧入されている。また、密閉容器301を貫通するように、固定スクロール311の吐出ポート311aから吐出された高圧の冷媒ガスを外部に吐出する吐出管307が設けられている。
密閉容器301の内側には、電動機100が焼嵌めによって組み込まれる。また、密閉容器301には、電動機100の固定子5と駆動回路とを電気的に接続するためのガラス端子308が溶接により固定されている。
圧縮機300の動作は、以下の通りである。電動機100が回転すると、回転子1と共にシャフト35が回転する。シャフト35が回転すると、揺動スクロール312が揺動し、固定スクロール311と揺動スクロール312との間の圧縮室316の容積を変化させる。これにより、吸入管306から圧縮室316に冷媒ガスを吸入して圧縮する。
圧縮室316内で圧縮された高圧の冷媒ガスは、固定スクロール311の吐出ポート311aから密閉容器301内に排出され、吐出管307から外部に排出される。また、圧縮室316から密閉容器301内に排出された冷媒ガスの一部は、電動機100に設けられた穴部を通過し、電動機100を冷却する。
上記の各実施の形態の電動機100は振動および騒音を抑制しているため、電動機100を備えた圧縮機300の静音性を高めることができる。
<冷凍サイクル装置>
次に、各実施の形態の電動機を備えた圧縮機を有する冷凍サイクル装置400について説明する。図23は、冷凍サイクル装置400の構成を示す図である。冷凍サイクル装置400は、例えば空気調和装置である。
冷凍サイクル装置400は、圧縮機401と、凝縮器402と、絞り装置(減圧装置)403と、蒸発器404とを備えている。圧縮機401、凝縮器402、絞り装置403および蒸発器404は、冷媒配管407によって連結されて冷凍サイクルを構成している。すなわち、圧縮機401、凝縮器402、絞り装置403および蒸発器404の順に、冷媒が循環する。
圧縮機401、凝縮器402および絞り装置403は、室外機410に設けられている。圧縮機401は、図19を参照して説明した圧縮機300で構成されている。室外機410には、凝縮器402に空気を送風する室外送風機405が設けられている。蒸発器404は、室内機420に設けられている。この室内機420には、蒸発器404に空気を送風する室内送風機406が設けられている。
冷凍サイクル装置400の動作は、次の通りである。圧縮機401は、吸入した冷媒を圧縮して送り出す。凝縮器402は、圧縮機401から流入した冷媒と室外の空気との熱交換を行い、冷媒を凝縮して液化させて冷媒配管407に送り出す。室外送風機405は、凝縮器402に室外の空気を供給する。絞り装置403は、冷媒配管407を流れる冷媒の圧力を調整する。
蒸発器404は、絞り装置403により低圧状態にされた冷媒と室内の空気との熱交換を行う。冷媒は、空気との熱交換により蒸発し、冷媒配管407に送り出される。室内送風機406は、蒸発器404での熱交換により冷却された空気を、室内に供給する。
各実施の形態の電動機100は振動および騒音を低減しているため、当該電動機100を備えた圧縮機401を有する冷凍サイクル装置400の静音性を高めることができる。
以上、望ましい実施の形態について具体的に説明したが、本開示は上記の実施の形態に限定されるものではなく、各種の改良または変形を行なうことができる。