JP7469732B1 - ホットスタンプ用アルミめっき鋼板 - Google Patents

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Abstract

このホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、母材鋼板と、母材鋼板の少なくとも一方の面の上に設けられたアルミめっき層と、アルミめっき層の上に設けられた表面処理皮膜とを有し、表面処理皮膜は、針状化合物Xを含有し、針状化合物Xのうち、短径に対する長径の比率が4以上50以下、かつ、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1の割合が、個数%で、70%以上であり、針状化合物X1のうち、長径と平行な直線と、アルミめっき層の表面に平行な直線との交点における角度の内、小さい方の角度が0度以上40度以下である針状化合物X2の割合が、個数%で、70%以上である。

Description

本発明は、ホットスタンプ用アルミめっき鋼板に関する。
本願は、2022年07月14日に、日本に出願された特願2022-113179号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
近年、環境保護及び地球温暖化の防止のために、化学燃料の消費を抑制する要請が高まっており、この要請は、様々な製造業に対して影響を与えている。例えば、移動手段として日々の生活や活動に欠かせない自動車についても例外ではなく、車体の軽量化などによる燃費の向上等が求められている。しかしながら、自動車に関しては、単に車体の軽量化を実現することは安全性の低下につながる可能性があるので、製品品質上望ましくない。
そのため、車体の軽量化を行う場合には、安全性を確保した上で適切に実施される必要がある。
自動車の構造の多くは、鉄、特に鋼板により形成されている。そのため、鋼板の重量を低減することが、車体の軽量化にとって効果的である。また、このような鋼板に対する重量低減の要請は、自動車製造業のみならず、様々な製造業でも同様になされている。このような要請に対し、単に鋼板の重量を低減するのであれば、鋼板の板厚を薄くすることが考えられる。しかしながら、鋼板の板厚を薄くすることは、構造物の強度の低下につながる。そのため、近年では、鋼板の機械的強度を高めることにより、それ以前に使用されていた従来の鋼板より薄くしても、鋼板によって構成される構造物の機械的強度を維持又は高めることが可能な鋼板について、研究開発が行われている。
一般的に、高い機械的強度を有する材料は、曲げ加工等の成形加工において、形状凍結性が低下する傾向を示す。そのため、高い機械的強度を有する材料を複雑な形状に加工する場合、加工そのものが困難となる。このような成形性についての問題を解決する手段の一つとして、いわゆる「ホットスタンプ法(熱間プレス法、ホットプレス法、高温プレス法、もしくはダイクエンチ法とも呼ばれる。)」が挙げられる。
ホットスタンプ法では、成形対象である材料を高温に加熱してオーステナイトと呼ばれる組織に変態(オーステナイト化)させ、加熱により軟化した鋼板に対してプレス加工を行って成形し、成形後に冷却する。このホットスタンプ法によれば、材料を一旦高温に加熱して軟化させるので、その材料を容易にプレス加工することができる。更に、成形後の冷却による焼入れ効果により、材料の機械的強度を高めることができる。従って、このホットスタンプ法により、良好な形状凍結性と高い機械的強度とを有した成形品を得ることができる。
例えば、特許文献1には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板をホットスタンプ法により加工することで、自動車部材として利用可能な成形品を製造する技術が開示されている。
また、特許文献2および特許文献3には、炭素顔料などの有機物を主体とする皮膜をアルミめっき鋼板上に付与することで所望の温度まで加熱するための時間を早める技術が開示されている。
特開2003-126921号公報 特開2011-149084号公報 特表2017-518438号公報
ここで、特許文献1に記載のホットスタンプ法は、加工対象である鋼板を700~1000℃に加熱することが必要である。そのため、鋼板を所望の温度まで加熱するための時間を確保しなければならず、生産性の向上は不十分であった。
また、特許文献2及び特許文献3に記載のアルミめっき鋼板では、鋼板上の皮膜に含有される炭素顔料などがいずれも有機物であるため、アルミめっき鋼板が750℃以上の高温域に加熱されると、これら有機物はいずれも消失してしまう。そのため、特許文献2及び特許文献3に記載の技術においても、生産性の向上は不十分であった。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、ホットスタンプ部材の生産性をより向上させることが可能なホットスタンプ用アルミめっき鋼板を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した。その結果、ホットスタンプ用アルミめっき鋼板を用いてホットスタンプ部材を製造する際、鋼板が所望の温度(例えば、Ac3点以上)まで加熱される際の昇温速度を増加させることができれば、加熱時間の短縮を図ることができ、生産性の向上に寄与できることを知見した。具体的には、めっき層上に設けられる表面処理皮膜中に、短径に対する長径の比率が4以上50以下、かつ、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1を70%含み、かつ、針状化合物X1のうち、長径と平行な直線と、前記アルミめっき層の表面のなす角度の内、最も小さい角度が0度以上40度以下である針状化合物X2を70%以上含むことにより、昇温速度を大きく増加させ、その結果生産性を向上できることができることを知見した。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]本発明の一態様にかかるホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、母材鋼板と、前記母材鋼板の少なくとも一方の面の上に設けられたアルミめっき層と、前記アルミめっき層の上に設けられた表面処理皮膜とを有するホットスタンプ用アルミめっき鋼板において、前記表面処理皮膜は、短径に対する長径の比率が2以上である針状化合物Xを含有し、前記針状化合物Xのうち、短径に対する長径の比率が4以上50以下、かつ、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1の割合が、個数%で、70%以上であり、前記針状化合物X1のうち、長径と平行な直線と、前記アルミめっき層の表面のなす角度の内、最も小さい角度が0度以上40度以下である針状化合物X2の割合が、個数%で、70%以上である。
[2]上記[1]に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、前記針状化合物X1の含有率Rが、体積%で、2%以上60%以下であってもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、前記針状化合物X1の炭素濃度が、90質量%以上であってもよい。
[4]上記[1]~[3]の何れかにに記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、前記針状化合物X1の含有率Rを10箇所測定し、最大含有率をR1、最小含有率をR2とした場合、R2に対するR1の比率R1/R2が2.0以下であってもよい。
[5]上記[1]~[4]の何れかに記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、前記針状化合物X1が、グラファイトであってもよい。
[6]上記[1]~[5]の何れかに記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、前記表面処理皮膜が、樹脂を含有してもよい。
本発明の上記態様によれば、ホットスタンプ部材の生産性をより向上させることが可能なホットスタンプ用鋼板を提供できる。
本発明の一実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板の断面模式図である。 針状化合物の短径と長径を示す図である。 本発明の一実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板の断面模式図である。 本発明の一実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板の断面模式図である。
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。各元素の含有量に関する「%」は、「質量%」を意味する。
(ホットスタンプ用アルミめっき鋼板)
本発明の実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板(以下、「HS用アルミめっき鋼板」とも称する。)は、HS用アルミめっき鋼板を用いてホットスタンプ部材を製造するにあたって、かかるHS用アルミめっき鋼板を加熱する際の昇温速度を速めることを可能とする。すなわち、加熱時の昇温速度を大きくできる本実施形態のHS用アルミめっき鋼板を用いることで、ホットスタンプ部材の生産性を向上させることが可能となる。
HS用アルミめっき鋼板を加熱する際の昇温速度の向上を実現するために、本実施形態のホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、針状化合物を含有する表面処理皮膜を、アルミめっき層の形成されためっき鋼板の少なくとも一方の表面に有する。本実施形態では、上記のようにアルミめっき層の形成されためっき鋼板の少なくとも一方の表面に後述する所定の針状化合物を含有する表面処理皮膜を付与することにより、得られるHS用アルミめっき鋼板が加熱される際の昇温速度を速めることができる。なお、表面処理皮膜は、アルミめっき層の形成されためっき鋼板の両面に形成されてもよく、一方の表面だけであってもよい。また、表面処理皮膜は、アルミめっき層の形成されためっき鋼板の表面全面に形成されてもよく、当該表面の一部であってもよいが、ホットスタンプ部材の生産性をより向上させる観点からは、表面処理皮膜はアルミめっき層の形成されためっき鋼板の表面全面に設けられることが好ましい。
本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板において、母材となる鋼板(母材鋼板)の種類は、特に限定されるものではない。母材鋼板としては、例えば、各種の熱延鋼板、冷延鋼板を挙げることができる。本実施形態のホットスタンプ用アルミめっき鋼板を構成するめっき鋼板は、このような母材鋼板の少なくとも一方の表面の上にめっき層を備えるものである。めっき鋼板として、例えば、溶融アルミニウムめっきなどが施された鋼板が挙げられる。ただし、ホットスタンプに適用できるのであれば、本実施形態のめっき層は、溶融アルミニウムめっきに限定されるものではない。
従来、自動車用骨格部品などとして用いられる鋼板の多くは、熱延鋼板や冷延鋼板、又は、アルミニウムや亜鉛等のめっきが施されためっき鋼板であった。これら従来の鋼板は、放射率が低いために、輻射加熱に対する昇温速度は低い。
本実施形態のホットスタンプ用アルミめっき鋼板では、めっき層の少なくとも一方の表面に、後述する所定の表面処理皮膜を付与することで、ホットスタンプ加熱時の昇温速度を高めることができる。具体的には、所定の表面処理皮膜を有するHS用アルミめっき鋼板を加熱し、加熱後のHS用アルミめっき鋼板をホットスタンプすることにより、ホットスタンプ部材の生産性をより向上させることができる。
<表面処理皮膜>
図1は、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板の表面のうち一方の面の表面部の断面模式図を示す。なお、図1は説明のための模式図であり、表面処理皮膜13、アルミめっき層12および針状介在物X(X1)などの寸法や分布状態は、必ずしも好適な実施形態を示したものではなく、かつ、図1の寸法や分布状態に限定されるものではない。母材鋼板、アルミめっき層および表面処理膜の各寸法ならびに寸法比率、などはホットスタンプ用アルミめっき鋼板の所望の特性に応じて任意に設計可能である。
図1に示すにように、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板10は、例えば、母材鋼板11と、母材鋼板11の少なくとも一方の面の上に設けられたアルミめっき層12と、アルミめっき層12の上に設けられた表面処理皮膜13とを有する。表面処理皮膜13は、針状化合物Xを含有する。本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板10において、表面処理皮膜13が付与された側の表面(つまり、表面処理皮膜13の表面)は、放射率が高い。そのため、ホットスタンプ加熱時の昇温速度が大きく、結果、ホットスタンプ部材の生産性をより向上させることができる。
<<針状化合物>>
表面処理皮膜13に含まれる針状化合物Xは、短径に対する長径の比率が4以上50以下、かつ、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1を含有する。
本実施形態に係る表面処理皮膜13は、必要に応じて、バインダー成分や各種の添加剤等を更に含有してもよい。また、本実施形態に係る表面処理皮膜13は、シリカを含有していなくともよいし、ある範囲内でシリカを含有していてもよい。さらに本実施形態では、表面処理皮膜13中における針状化合物の含有量や、表面処理皮膜13の膜厚等を調整することで、ホットスタンプ加熱時昇温速度の向上を実現することが可能となる。
以下、表面処理皮膜13の構成要件について詳述する。
表面処理皮膜13は、図1に示すように、母材鋼板11の片面または両面に付与されたアルミめっき層12のさらに上に付与される。針状化合物Xは、表面処理皮膜13内に、存在している。つまり、表面処理被膜13は、針状化合物Xを含有している。後述するように、表面処理被膜13中の針状化合物X1の割合および針状化合物X2の割合が重要であり、表面処理被膜13中の針状化合物Xの含有量(含有率)を規定する必要はない。しかしながら、必要に応じて、表面処理被膜13中の針状化合物Xの含有量(含有率)は、体積%で、0.5%以上、1%以上または2%以上であってもよく、若しくは、(表面処理被膜13中の針状化合物Xの含有量を規定せず)表面処理被膜13中の針状化合物X1の含有量(含有率)を規定してもよい。なお、表面処理被膜13中の針状化合物Xの体積%は、後述の表面処理被膜13中の針状化合物X1の体積%の測定方法に準じて、測定することができる。
本実施形態に係る表面処理皮膜13に含まれる六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1の短径に対する長径の比率は4以上50以下である。当該比率の下限は、好ましくは6以上、より好ましくは8以上である。また当該比率の上限は、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
一般的に、結晶構造には、結晶を対称性によって分類した結晶系が、立方晶系、正方晶系、六方晶系、斜方晶系、単斜晶系、三斜晶系の6種類ある。対称性は、立方晶系が最も高い。結晶系は化合物の形状に影響を与えやすく、立方晶系の化合物では、対称性が高いため3次元の各軸方向に等方的に成長しやすい。一方、六方晶系では、異方性を持ちやすく、針状化合物を形成することができる。他の斜方晶系や単斜晶系等の化合物では、上記の短径に対する長径の比率の範囲内に入るものは少ない。
六方晶系の化合物では周囲からの熱吸収が速い。この理由は定かではないが、六方晶系の化合物では、単位格子の軸の長さが3方向とも同じである一方、3つの軸角のうち2つが90度で、残りの1つが120度であるために、3次元的に周囲からの熱(特に輻射熱)を吸収することができるためと考えられる。一方、他の結晶系では、軸角すべてが90度であるために、広く輻射熱を吸収することができない可能性がある。
本実施形態に係る表面処理皮膜13に含まれる針状化合物X1は六方晶系である。ただし、全ての針状化合物が六方晶系である必要はなく、他の晶系の針状化合物が含まれていてもよい。ただし、熱吸収の向上の観点から、皮膜中に含まれる全針状化合物に対する六方晶系の針状化合物X1の割合(針状化合物Xに対する針状化合物X1の割合)は、個数%で、70%以上とする。全針状化合物が六方晶系であってもよい。
針状化合物X1の短径に対する長径の比率が小さすぎると、針状化合物X1の単位体積あたりの表面積を十分に確保できず、加熱時の熱の吸収効率が不十分となるおそれがある。その結果、アルミめっき鋼板を加熱する際の昇温速度を十分に向上させることができず、生産性が劣る場合がある。本実施形態では、針状化合物X1の短径に対する長径の比率を4以上とすることで、針状化合物X1の単位体積あたりの表面積が大きくなり、加熱雰囲気からの輻射熱を効率よく吸収することができ、その結果、ホットスタンプ時のアルミめっき鋼板の昇温速度を速くすることができる。一方、針状化合物X1の短径に対する長径の比率が過度に大きいと、その針状化合物X1の近傍に存在する他の針状化合物による輻射熱の吸収が妨げられるおそれがある。その結果、結果、アルミめっき鋼板を加熱する際の昇温速度を十分に向上させることができず、生産性が劣る場合がある。本実施形態では、針状化合物X1の短径に対する長径の比率を50以下とすることで、他の近傍に存在する他の針状化合物の輻射熱の吸収の妨害を抑制できるため、皮膜全体において熱を効率よく吸収することができ、その結果、ホットスタンプ時のアルミめっき鋼板の昇温速度を速くすることができる。
ここで、表面処理皮膜13における針状化合物Xの結晶系、及び短径に対する長径の比率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDS)及び電子線回折を用いた表面処理皮膜の断面分析により、測定することが可能である。
具体的には、皮膜断面を観察面として、皮膜の膜厚×50μm×(試料の厚さ)約100nmのTEM観察試料を観察して得られるTEM像から針状化合物Xを選定し、当該針状化合物Xの電子線回折像から六方晶系などの結晶構造を特定できる。なお、TEM観察試料は、集束イオンビーム装置(「FIB NB 5000」日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、FIB加工にて作製する。加工時の加速電圧は40kVとする。また、観察面は、鋼板の圧延方向と垂直な断面(いわゆるC断面)とし、観察位置は、観察時に前記断面と直交するよう調整する。
ここで、本実施形態における「針状化合物X」とは、一方向にのみ大きく成長した化合物であって、EDS分析で炭素濃度の比率が±5質量%に収まる連続した化合物を1つの化合物と見なし、かつ、その化合物の短径と長径の比率において、短径に対する長径の比率が2以上のものを針状化合物Xとする。かかる針状化合物Xのうち、短径に対する長径の比率が4以上50以下である針状化合物X1を皮膜中に含有させることにより、ホットスタンプ用アルミめっき鋼板の昇温速度を向上させることができる。
短径と長径は、図2に示すように、以下の手順により求めることができる。
まず、針状化合物XのTEM像において、周囲とコントラストの異なる、かつEDS分析でC濃度が±5質量%に収まる連続したものを1つの針状化合物Xと判定する。次いで、図2の(a)~(c)に示す当該粒子に外接する長方形のうち、面積が最も小さくなる長方形(図2の場合は、(a))において、短い方の辺と長い方の辺をそれぞれ短径と長径と定義する。なお、例えば、C濃度が0~10質量%の範囲内にある針状化合物は、上述のC濃度に関する要件を満たすため、TEM像において周囲とコントラストの異なりかつ連続したものを、ひとつの針状化合物Xと判定する。
また、本実施形態に係る表面処理皮膜13において、短径に対する長径の比率が4以上50以下で、かつ六方晶系の針状化合物X1のうち、長径と平行な直線と、めっき層12の表面のなす角度の内、最も小さい角度αが0度以上40度以下である針状化合物X2の割合(針状化合物X1に対する針状化合物X2の割合)が、個数%で、70%以上である。針状化合物X1の長径と平行な直線と、めっき層表面のなす角度のうち最も小さい角度αが40度を超えると輻射熱の吸収が不足し、昇温速度が大きくならない。これは、角度αが40度を超えた場合、赤外光をはじめとする電磁波が針状化合物X1に吸収されずに輻射率の低いアルミめっきに到達し、反射してしまうためであると推定される。そのため、HS用アルミめっき鋼板の昇温速度を高めるためには、表面処理皮膜13において、針状化合物X1のうち、角度αが0度以上40度以下である針状化合物X2の割合を十分に高めることが有効である。針状化合物X2の割合は100%(つまり、全針状化合物X1の角度αが0度以上40度以下)であってもよい。なお、本実施形態における角度αは、上述したTEM観察試料(皮膜の膜厚×50μm×(試料の厚さ)約100nm)を観察して得られるTEM像から測定することができる。
なお、針状化合物X1の長径と平行な直線とめっき表面のなす角度のうち最も小さい角度αとは、針状化合物X1の長径と平行な直線を直線Aと定義する場合、めっき表面に垂直かつ直線Aを含む面Z内において、前記面Zとめっき表面との交線Bと前記直線Aがなす角度の中で、小さい方の角度ということができる。
針状化合物X1の割合は、以下の方法によって求められる。
上述したTEM観察試料(皮膜の膜厚×50μm×(試料の厚さ)約100nm)を用いた上述の方法により、針状化合物Xと判定されたものの中から任意の10個の針状化合物Xを選び、その10個の中から、短径に対する長径の比率が4以上50以下、かつ、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1の個数割合(個数%)を求める。具体的には、針状化合物Xと判定されたものの中から任意に10個を選び、その10個の中で、そのうち短径に対する長径の比率が4以上50以下、かつ、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1が7個あれば、当該領域の針状化合物X1の割合は70%とする。このような測定を10回繰返し、得られた針状化合物X1の割合を平均することで、表面処理皮膜13における針状化合物X1の割合(個数%)を算出する。
針状化合物X2の割合は、以下の方法によって求められる。
上述したTEM観察試料(皮膜の膜厚×50μm×厚み100nm)を用いた上述の方法により、針状化合物X1と判定されたものの中から任意の40個の針状化合物X1を選び、その中で、角度αが0度以上40度以下を満足する針状化合物X2の個数割合(個数%)を求める。具体的には、針状化合物Xと判定されたものの中から任意に40個を選び、角度αが0度以上40度以下を満足する針状化合物X2が30個あれば、当該領域の針状化合物X2の割合は75%とする。この測定により、表面処理皮膜13における針状化合物X2の割合(個数%)を算出する。
ここで、表面処理皮膜13に含まれる針状化合物X1は、上記のとおり、六方晶系の結晶構造を有する。つまり、針状化合物X1は、カーボンブラックに代表される非晶質の化合物ではなく、結晶性の化合物である。針状化合物X1として非晶質の化合物を適用した場合には、ホットスタンプ時の昇温速度を十分に向上させることができない上、表面処理皮膜の密着性の確保も困難となる場合がある。
六方晶系の結晶構造を有する化合物としては、ランタンシリケート、二ホウ化マグネシウム、酸化ベリリウム(ベリリア)、酸化亜鉛、グラファイト(C)、β-石英、針ニッケル鉱(NiS)、ウルツ鉱(ZnS)などがある。
六方晶系の結晶構造を有する化合物を皮膜中に含有させることでホットスタンプ時の昇温速度が向上する理由は定かではないものの、輻射熱の吸収に特に有効である波長1~10μmの赤外線に対して活性な結合が数多く存在することが一因である可能性が考えられる。
図3に示すように、表面処理皮膜13の下層に(表面処理皮膜13とアルミめっき層12との間に)、下地処理皮膜14を設けてもよい。こうすることで、上層側の表面処理皮膜13のアルミめっき層12に対する密着性を向上させることができる。この場合、下地処理皮膜14として、例えばシランカップリング剤などの炭素、酸素、水素、窒素、ケイ素、ナトリウムなどの元素を含む皮膜があり、その上層に、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物を含有する表面処理皮膜13がある。なお、図3は説明のための単なる模式図であり、表面処理皮膜13、下地処理被膜14、アルミめっき層12および針状介在物X(X1)などの寸法や分布状態は、必ずしも好適な実施形態を示したものではなく、かつ、図3の寸法や分布状態に限定されるものではない。
また、表面処理皮膜13の耐食性をさらに高める目的で、表面処理被膜13の上層に皮膜15があってもよい。皮膜15としては、ケイ素や金属などの無機成分を含まない、あるいは微量であるポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂などの樹脂皮膜が挙げられる。皮膜15として樹脂皮膜がある場合は、図4に示すように、アルミめっき層12の上に下地処理皮膜14があり、その上に表面処理皮膜13があり、表面処理皮膜13の上に樹脂被膜があることが好ましい。なお、図4は説明のための単なる模式図であり、被膜15、表面処理皮膜13、下地処理被膜14、アルミめっき層12および針状介在物X(X1)などの寸法や分布状態は、必ずしも好適な実施形態を示したものではなく、かつ、図4の寸法や分布状態に限定されるものではない。
本実施形態に係る表面処理皮膜13には、上記針状化合物以外に、各種のバインダー成分や添加剤を含有させることができる。表面処理皮膜13は、例えば、樹脂、顔料を含むことが好ましい。表面処理皮膜13には、これらの成分以外にも、レベリング剤、消泡剤、着色剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含んでもよい。なお、表面処理皮膜13を形成するための塗布液は、水又は溶剤に、上記各成分を分散又は溶解して得られることが好ましい。
本実施形態において、表面処理皮膜13を付与する具体的な手法としては、塗装およびラミネートなどの方法が挙げられるが、これらの手法に限定されるものではない。表面処理皮膜13は、鋼板の一方の面のみに付与されてもよいし、鋼板の両面に付与されてもよい。
塗装によりアルミめっき層12表面の全面に表面処理皮膜13を付与する際には、まず、例えば短径に対する長径の比率が4以上50以下、かつ、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物を含む有機系もしくは無機系の処理液を準備する。その後、処理液をアルミめっき層12表面の全面にロールコーター、カーテンコーター、インクジェット等で塗装した後に、処理液中の揮発成分を乾燥させることによって、表面処理皮膜13が付与される。特にインクジェットによる塗装は、膜厚を連続的に変更できるため好ましい。
ここで、従来(例えば、特許文献2等)では、表面処理皮膜に炭素顔料などの有機物を含む場合、めっき鋼板が高温域(例えば750℃以上)に加熱されると、これら有機物はいずれも消失してしまう問題があった。しかし、本発明者らは、本実施形態に係る表面処理皮膜13の場合、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1を除く有機系化合物を消失させることなく高温域まで加熱できることを見出した。このように有機物を消失させることなく高温域まで加熱できるメカニズムは定かではないが、皮膜中に含まれる針状化合物の短径に対する長径の比率を適正化することで、処理液として用いる有機物を高温域でも耐えうる構造に変化させたのではと推察される。
本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板10は、上記のような特徴を有する表面処理皮膜13を備えることで、ホットスタンプ時の昇温速度を向上させることができる。そのため、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板10を素材として用いることで、ホットスタンプ材の生産性を向上させることができる。
上記のような表面処理皮膜13の実現にあたって、特徴的な、表面処理皮膜13が含有する物質(針状化合物)について、以下、より詳細に説明する。
[針状化合物X1の含有率R]
アルミめっき層12の表面のうち、表面処理皮膜13の付与された側において、表面処理皮膜13における六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1の含有率Rは、0.5体積%以上または1体積%以上であることが好ましい。含有率Rを1体積%以上とすることで、ホットスタンプ時の昇温速度を十分に速くすることが可能となる。含有率Rは、好ましくは2体積%以上であり、より好ましくは5体積%以上であり、さらにより好ましくは10体積%以上である。含有率Rは60体積%以下であることが好ましい。60体積%以下とすることで表面処理皮膜13のバインダー成分と基材であるアルミめっき層12の表面との電気的な引力を確保することができ、密着性を高めることが可能となる。含有率Rは、好ましくは40体積%以下であり、より好ましくは20体積%以下である。
尚、含有率Rは、TEM像において表面処理皮膜13に占める針状化合物X1の体積率(体積%)であり、以下の手順により求めることができる。TEM観察領域中の個々の針状化合物X1の寸法(例えば、針状化合物X1の直径にあたる短径および針状化合物X1の長さにあたる長径)から、個々の針状化合物X1の体積を算出し、その体積の合計を観察領域の体積(視野面積×厚さ)で除して、針状化合物X1の体積率を算出する。このような測定を10回繰返し、その体積率の10視野の平均を含有率Rとする。
[針状化合物X1の短径]
表面処理皮膜13に含有される針状化合物X1の短径は20nm以上であることが好ましい。母材鋼板の粗度やうねり、あるいは、皮膜形成時に処理液中の水などの揮発性成分の揮発する速度差等により、表面処理皮膜13の厚みが局所的に異なる場合がある。この場合、針状化合物X1の短径が20nm以上であることで、表面処理皮膜13で輻射熱を効率良く吸収できるため好ましい。針状化合物X1の短径は2μm以下であることが好ましい。2μm以下であることで、ホットスタンプ後の溶接時に、基材のアルミめっき鋼板と電極との接触点が確保しやすくなり、スポット溶接性を高めることができる。短径は、30nm以上または60nm以上、もしくは、1μm以下、700nm以下または500nm以下が好ましい。
[針状化合物X1の長径]
表面処理皮膜13に含有される針状化合物X1の長径は80nm以上であることが好ましい。針状化合物X1の長径が80nm以上であることで、上記短径の理由と同様に、表面処理皮膜13で輻射熱を効率良く吸収できるため好ましい。針状化合物X1の長径は100μm以下であることが好ましい。長径が100μm以下であることで、上記短径の理由と同様に、ホットスタンプ後の溶接時に、基材のアルミめっき鋼板と電極との接触点が確保しやすくなり、スポット溶接性を高めることができるため好ましい。長径は、150nm以上または300nm以上、もしくは、50μm以下、20μm以下または10μm以下が好ましい。
[針状化合物X1の炭素濃度]
針状化合物X1の炭素濃度が90質量%以上であることがより好ましい。炭素濃度が90質量%以上であることで、ホットスタンプ時に温度が上昇しても、分解などにより皮膜から針状化合物X1が消失することを遅らせることができ、熱を吸収する機能を高い温度領域においても維持することができる。さらに、針状化合物X1の炭素濃度が90質量%以上であると、針状化合物X1と雰囲気中の酸素との反応が、発熱反応となるため、昇温速度をより速めることができる。炭素濃度は90質量%以上であることが好ましい。なお、炭素濃度は、EDSの測定値から求めることができる。すなわち、電子線照射時の特性X線のスペクトルを測定し、エネルギーごとの検出強度を算出する。エネルギーの値から針状化合物を構成する元素を特定し、検出強度から当該元素の濃度を算出することができる。このような方法で、針状化合物X1を構成する炭素等の元の濃度を分析することができる。このようにして求めた針状化合物X1の炭素濃度は100質量%以下であることが好ましい。炭素濃度が100質量%以下であることで、上記発熱反応が進行して昇温速度をより速める効果が期待される。
[針状化合物X1の分散度]
表面処理皮膜中の化合物の形態が針状である場合では化合物の単位体積あたりの表面積が大きい。そのため、本実施形態に係るアルミめっき鋼板を加熱し、ホットスタンプ部材を製造する際、加熱雰囲気からの電磁波による輻射によって、表面処理皮膜全体に熱を効率よく吸収させることができる。加えて、加熱された雰囲気ガスとの接触による熱伝導によっても、熱を効率よく吸収することができる。その結果、表面処理皮膜の全体をムラなく迅速に加熱することが可能となる。このような効果を得るためには、皮膜中の化合物の形態を、短径に対する長径の比率が4以上50以下である針状とするとともに、このような針状化合物X1を表面処理皮膜内の全体に分散して存在させることが効果的である。
針状化合物X1の分散度は、前述の針状化合物X1の割合の測定時のデータを利用して算出する。具体的には、前述の針状化合物X1の割合の測定時には、任意の10個の針状化合物Xの中の針状化合物X1の割合を測定する作業を、10回繰り返すが、その10個の割合(含有率)の最大値をR1とし、その割合(含有率)の最小値をR2とする。そして、R2に対するR1の比率(R1/R2)を針状化合物X1の分散度とする。本実施形態では、R1/R2が2.0以下となるように、針状化合物X1を皮膜中に分散させることで、ホットスタンプ用アルミめっき鋼板の昇温速度をより向上させることができる。R1/R2が2.0を超えると輻射熱の吸収にばらつきが出るため、昇温速度を向上する効果にもばらつきが生じる懸念がある。このため、R1/R2は、2.0以下とすることが好ましい。R1/R2は、2.5以下または2.3以下としてもよく、1.8以下または1.6以下としてもよい。なお、R1/R2は、本実施形態の製造方法のうち、塗布後の乾燥時の60℃までの到達時間に影響される。具体的には、当該到達時間を10.0秒以下に調整することで、R1/R2を上記範囲内に制御できる。R1/R2は、R1/R2の定義から、その下限は1.0である。
[針状化合物X1の構成]
表面処理皮膜13に含有される針状化合物X1はグラファイトであることが好ましい。表面処理皮膜13中にグラファイトを含有する場合、ホットスタンプ加熱後には、皮膜成分が少なくなり、塗装後密着性等のホットスタンプ後の性能を維持することができる。
グラファイトの場合、官能基が少ないため分解が起きる時間が遅い。一方、類似の炭素系化合物であるカーボンブラックは官能基が比較的多いため、早い時間から分解及び酸化反応が起こりやすい特徴がある。
表面処理皮膜13中のグラファイトの含有量を5.0体積%以上とすることにより、アルミめっき鋼板の放射率を高めることができ、昇温速度を速くすることができる。表面処理皮膜13中のグラファイトの含有量は、8.0体積%以上であることが更に好ましい。表面処理皮膜13中のグラファイトの含有量を8.0体積%以上とすることで、より一層昇温速度を速めることが可能となる。
ここで、本実施形態でいう「グラファイト」とは、炭素濃度(C濃度)が85質量%以上であるものと指す。
一方、表面処理皮膜13中のグラファイトの含有量を40.0体積%以下とすることにより、放射率を高める効果を十分に得つつ、皮膜コストの上昇を抑制できる。表面処理皮膜中のグラファイトの含有量は、30.0体積%以下であることが好ましい。表面処理皮膜13中のグラファイトの含有量を30.0体積%以下とすることにより、皮膜コストをより一層抑制することが可能となる。
グラファイトの含有率は、針状化合物Xの中の針状化合物X1の割合(含有率)の測定時に、C濃度が85%以上という限定を加える以外は、前述の上記針状化合物X1の含有率Rとおなじ方法により求めることができる。
<<バインダー成分(樹脂)>>
本実施形態に係る表面処理皮膜13に含有されうるバインダー成分の含有量は、表面処理皮膜13の全体積に対して、40体積%以上であることが皮膜密着性を確保する上で好ましい。
バインダー成分として、公知の各種の樹脂を用いることが可能である。
樹脂は、特に限定されるものではない。例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、シランカップリング剤を加水分解・縮重合して得られるポリマー化合物が挙げられる。樹脂としては、これら樹脂を、ブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、ブチルメチル混合メラミン樹脂、尿素樹脂、イソシアネート樹脂、又はこれらの混合系の架橋剤成分により架橋させた樹脂も挙げられる。また、電子線硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂なども挙げられる。これらの中でも、バインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、および、ウレタン樹脂のいずれか一つ以上が好ましい。これらのバインダー樹脂は単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、バインダー成分として例えばポリウレタン樹脂を用いる場合、ポリウレタン樹脂は、ポリエーテル系のポリウレタン樹脂であることが好ましい。ポリエーテル系のポリウレタン樹脂を用いることで、ポリエステル系のポリウレタン樹脂と比較して、酸やアルカリによる加水分解の発生を防止することができるからであり、ポリカーボネート系のポリウレタン樹脂と比較して、硬くて脆い皮膜の形成を抑制することで、加工時の密着性や加工部の耐食性を担保することができるからである。
ポリウレタン樹脂が含有されているか否かは、赤外分光法により得られる赤外吸収スペクトルにおいて、3330cm-1(N-H伸縮)、1730cm-1(C=O伸縮)、1530cm-1(C-N)、1250cm-1(C-O)の特性吸収が観測されるか否かに基づいて、判断することができる。また、ポリウレタン樹脂の含有量についても、予め含有量が既知のサンプルを用いて、含有量と特性吸収の強度との関係を示した検量線を作成しておくことで、得られた特性吸収の強度から含有量を特定することができる。
また、上記のポリウレタン樹脂以外の樹脂についても、各樹脂に特有の官能基に由来する特性吸収に着目することで、上記ポリウレタン樹脂と同様に、含有の有無及び含有量を判断することが可能である。
樹脂を分散又は溶解させる処理液中の成分としては、水や溶剤を用いることが可能である。
<<添加剤>>
本実施形態に係る表面処理皮膜13には、本発明の効果を損なわない範囲で、皮膜形成前の処理液作製時の添加剤として、レベリング剤、水溶性溶剤、金属安定化剤、エッチング抑制剤等といった各種の添加剤を含有させることが可能である。
レベリング剤としては、ノニオン系又はカチオン系の界面活性剤として、例えば、ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイド付加物や、アセチレングリコール化合物等が挙げられる。
水溶性溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール及びプロピレングリコール等のアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。
金属安定化剤としては、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)等のキレート化合物が挙げられる。
エッチング抑制剤としては、例えば、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン、グアニジン及びピリミジン等のアミン化合物類が挙げられる。
なお、上記のバインダー成分や添加剤の含有量についても、針状化合物の場合と同様にして、測定することが可能である。
<<シリカ>>
本実施形態に係る表面処理皮膜13は、先だって言及したように、シリカを含有していなくともよく、ある範囲内でシリカを含有していてもよい。より詳細には、本実施形態に係る表面処理皮膜13において、シリカの含有量は、0~0.3g/mであってもよい。シリカを0.3g/mを超えて含有する場合、温度上昇効果が望めない一方で高コストとなるため、経済性の点で好ましくない。また、シリカは電気伝導性が低い物質であるため、シリカを0.3g/mを超えて含有する場合、ホットスタンプ後の溶接性の点で好ましくない。シリカを含有させる場合における表面処理皮膜13中のシリカの含有量は、小さければ小さいほどよい。表面処理皮膜のシリカの含有量は、より好ましくは0.10g/m以下であり、更に好ましくは0.05g/m以下である。
<<表面処理皮膜の膜厚>>
以上のような成分を含有する表面処理皮膜13の平均膜厚は、例えば、0.5~15.0μmとすることが好ましい。表面処理皮膜13の平均膜厚が0.5μmより小さいと、ホットスタンプ時の昇温速度を十分に高めることができない。一方、表面処理皮膜13の平均膜厚が15.0μmを超えると、ホットスタンプ時の昇温速度を速める効果が飽和するのに対し生産コストが高くなるため、経済的に不利である。また、表面処理皮膜13の膜厚を厚くしようとすると、表面処理皮膜13の形成時、処理剤を塗布した後の乾燥に時間を要するため、生産性が低下する。表面処理皮膜13の膜厚を上記の範囲内とすることで、昇温速度を向上させることができる。表面処理皮膜の平均膜厚は、より好ましくは、1.0μm以上または2.0μm以上であり、12μm以下、10μm以下または7.0μm以下である。
<下地処理皮膜>
表面処理皮膜13とアルミめっき層12の間に、表面処理皮膜13の密着性を向上させるために下地処理皮膜14(化成処理層)が付与されてもよい。
下地処理皮膜14は、樹脂、シランカップリング剤、ジルコニウム化合物、シリカ、りん酸及びその塩、ふっ化物、並びに、バナジウム化合物から選択されるいずれか一つ以上を含んでもよい。これら物質を含むと、さらに、下地処理皮膜14用の化成処理剤塗布後の成膜性、水分や腐食性イオン等の腐食因子に対する皮膜のバリア性(緻密性)、めっき面への皮膜密着性などが向上し、皮膜の耐食性の底上げに寄与する。特に、下地処理皮膜14が、シランカップリング剤、およびジルコニウム化合物のいずれか一つ以上を含むと、皮膜に架橋構造を形成し、さらにめっき表面との結合も強化するため、皮膜の密着性やバリア性を高めることができる。
また、下地処理皮膜14が、シリカ、りん酸及びその塩、ふっ化物、並びに、バナジウム化合物のいずれか一つ以上を含むと、インヒビターとして、めっき表面や母材鋼板表面に沈殿皮膜や不動態皮膜を形成することで、耐食性を向上することができる。
[めっき層片面あたりの下地処理皮膜の付着量]
めっき層片面あたりの下地処理皮膜14の付着量は、固形分換算で、10~1000mg/mが好ましい。10mg/m未満では充分な加工密着性と耐食性が確保されず、1000mg/mを超えると加工密着性が低下することがある。
めっき鋼板片面あたりの下地処理皮膜14の付着量は、より好ましくは20~800mg/m、さらに好ましくは50~600mg/mである。
<アルミめっき層>
本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板10は、母材鋼板11の少なくとも一方の表面において、母材鋼板11と表面処理皮膜13との間の少なくとも一部に、アルミめっき層12を有する。アルミめっき層12を有することにより、ホットスタンプ後の塗装後耐食性をより一層向上させることができる。また、アルミめっき層12が存在することで、ホットスタンプの際に、加熱により鉄スケールが生成するのを防ぐことができる。鉄スケールは、加熱炉を汚染させたり、搬送のために用いられるロールに付着したりするため、製造上の負荷になる。そのため、鉄スケールが生成した場合には、鉄スケールを除去するためにショットブラスト等の工程が必要となり、経済上好ましくない。
<母材鋼板>
次に、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板10の母材鋼板11について説明する。母材鋼板11は、ホットスタンプ法に好適に利用可能な鋼板であれば、特に制限はない。本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板に適用可能な鋼板として、例えば、化学組成が、質量%で、
C:0.03~0.60%、
Si:0.01~0.60%、
Mn:0.50~3.00%、
P:0.050%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.100%以下、
Ti:0.01~0.10%、
B:0.0001~0.0100%、
N:0.010%以下、
Cr:0~1.00%、
Ni:0~2.00%、
Cu:0~1.000%、
Mo:0~1.00%、
V:0~1.00%、
Nb:0~1.00%、
Sn:0~1.00%、
W:0~1.00%、
Ca:0~0.010%、
REM:0~0.30%であり、
残部:Fe及び不純物である鋼板を例示できる。
また、母材鋼板11の形態としては、例えば熱延鋼板や冷延鋼板などの鋼板を例示できる。以下、母材鋼板の化学組成について、詳細に説明する。なお、以下の母材鋼板11の化学組成に関する説明において、「%」の表記は、特に断りのない限り「質量%」を意味する。
[C:0.03~0.60%]
Cは、目的とする機械的強度を確保するために含有される。C含有量が0.03%以上であることで、十分な機械的強度の向上が得られ、Cを含有する効果が十分に得られる。
そのため、C含有量は、0.03%以上であることが好ましい。C含有量は、より好ましくは0.20%以上である。一方、C含有量が0.60%以下であることで、鋼板の強度を硬化向上させつつ、伸び、絞りの低下を抑制できる。そのため、C含有量は、0.60%以下であることが好ましい。C含有量は、より好ましくは0.40%以下である。
[Si:0.01~0.60%]
Siは、機械的強度を向上させる強度向上元素の一つであり、Cと同様に、目的とする機械的強度を確保するために含有される。Si含有量が0.01%以上であることで、強度向上効果が十分に発揮され、十分な機械的強度の向上が得られる。そのため、Si含有量は、0.01%以上であることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.10%以上である。一方、Siは易酸化性元素でもあるため、Si含有量が0.60%以下であることで、鋼板表層に形成したSi酸化物の影響による、溶融Alめっきを行う際の濡れ性の低下が抑制され、不めっきの発生が抑制できる。そのため、Si含有量は、0.60%以下であることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.40%以下である。
[Mn:0.50~3.00%]
Mnは、鋼を強化させる強化元素の1つであり、焼入れ性を高める元素の1つでもある。更に、Mnは、不純物の1つであるSによる熱間脆性を防止するのにも有効な元素である。Mn含有量が0.50%以上であることで、これらの効果が十分に得られる。そのため、上記効果を確実に発現させるために、Mn含有量は、0.50%以上であることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは0.80%以上である。一方、Mnはオーステナイト形成元素であるため、Mn含有量が3.00%以下であることで、残留オーステナイト相が多くなり過ぎず、強度の低下が抑制される。そのため、Mn含有量は、3.00%以下であることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは1.50%以下である。
[P:0.050%以下]
Pは、鋼中に含まれる不純物である。P含有量が0.050%以下であることで、鋼板に含まれるPが鋼板の結晶粒界に偏析してホットスタンプされた成形体の母材の靭性を低下させることを抑制でき、鋼板の耐遅れ破壊性の低下を抑制できる。そのため、P含有量は0.050%以下であることが好ましく、P含有量はできる限り少なくすることが好ましい。必要に応じて、P含有量を0.045%以下または0.040%以下としてもよい。P含有量の下限は0%であるが、その下限を0.001%または0.005%としてもよい。
[S:0.020%以下]
Sは、鋼中に含まれる不純物である。S含有量が0.020%以下であることで、鋼板に含まれるSが硫化物を形成して鋼板の靭性を低下させることを抑制でき、鋼板の耐遅れ破壊性の低下を抑制できる。そのため、S含有量は0.020%以下であることが好ましく、S含有量はできる限り少なくすることが好ましい。必要に応じて、S含有量を0.015%以下または0.010%以下としてもよい。S含有量の下限は0%であるが、その下限を0.001%または0.002%としてもよい。
[Al:0.100%以下]
Alは、一般に鋼の脱酸目的で使用される。一方、Al含有量が0.100%以下であることで、鋼板のAc3点の上昇が抑制されるため、ホットスタンプの際に鋼の焼入れ性確保に必要な加熱温度を低減でき、ホットスタンプ製造上望ましい。従って、鋼板のAl含有量は、0.100%以下が好ましく、より好ましくは0.050%以下であり、更に好ましくは0.010%以下である。
[Ti:0.01~0.10%]
Tiは、強度強化元素の1つである。Ti含有量が0.01%以上であることで、強度向上効果や耐酸化性向上効果が十分に得られる。そのため、上記効果を確実に発現させるために、Ti含有量は、0.01%以上であることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.03%以上である。一方、Ti含有量が0.10%以下であることで、例えば炭化物や窒化物の形成が抑制され、鋼の軟質化を抑制でき、目的とする機械的強度を十分に得ることができる。従って、Ti含有量は、0.10%以下であることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.08%以下である。
[B:0.0001~0.0100%]
Bは、焼入れ時に作用して強度を向上させる効果を有する。B含有量が0.0001%以下であることで、このような強度向上効果が十分に得られる。そのため、B含有量は、0.0001%以上であることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0010%以上である。一方、B含有量が0.0100%以下であることで、介在物の形成が低減されて鋼板の脆化が抑制され、疲労強度の低下を抑制できる。そのため、B含有量は、0.0100%以下であることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0040%以下である。
[N:0.010%以下]
Nは、鋼中に含まれる不純物である。N含有量が0.010%以下であることで、鋼板に含まれるNによる窒化物の形成が抑制されて、鋼板の靭性低下を抑制できる。更に、鋼板中にBが含有される場合に、鋼板に含まれるNがBと結合して固溶B量を減少させることが抑制され、Bの焼入れ性向上効果の低下が抑制できる。そのため、N含有量は、0.010%以下であることが好ましく、N含有量はできる限り少なくすることがより好ましい。
また、本実施形態に係るホットスタンプ用鋼板の母材鋼板は、更に、任意元素として、Cr、Mo、Ni、Cu、Mo、V、Nb、Sn、W、CaおよびREMからなる群から選ばれる1種以上の元素を含有してもよい。これらの元素の含有量の下限は0%である。
[Cr:0~1.00%]
Crは、鋼板の焼入れ性を向上させる元素である。かかる効果を十分にj得るためには、Cr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量を1.00%以下とすることで、その効果を十分に得つつ、コストの上昇を抑制できる。そのため、含有させる場合のCr含有量は、1.00%以下とすることが好ましい。必要に応じて、Cr含有量を0.70%以下または0.50%以下としてもよい。
[Ni:0~2.00%]
Niは、鋼の焼入れ性を高め、かつ、焼入れ後の鋼板部材の強度を安定して確保することを可能にする元素である。かかる効果を十分に発現させるためには、Ni含有量を0.10%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量が2.00%以下であることで、上記の効果を十分に得つつ、経済性が高められる。そのため、含有させる場合のNi含有量は、2.00%以下とすることが好ましい。必要に応じて、Ni含有量を1.20%以下、0.80%以下または0.50%以下としてもよい。
[Cu:0~1.000%]
Cuは、鋼の焼入れ性を高め、かつ、焼入れ後の鋼板部材の強度を安定して確保することを可能にする元素である。また、Cuは、腐食環境において耐孔食性を向上させる。かかる効果を十分に発現させるためには、Cu含有量を0.100%以上とすることが好ましい。一方、Cu含有量が1.000%以下であることで、上記の効果を十分に得つつ、経済性が高められる。そのため、含有させる場合のCu含有量は、1.000%以下とすることが好ましい。必要に応じて、Cu含有量を0.600%以下、0.400%以下または0.200%以下としてもよい。
[Mo:0~1.00%]
Moは、鋼の焼入れ性を高め、かつ、焼入れ後の鋼板部材の強度を安定して確保することを可能にする元素である。かかる効果を十分に発現させるためには、Mo含有量を0.10%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が1.00%以下であることで、上記の効果を十分に得つつ、経済性が高められる。そのため、含有させる場合のMo含有量は、1.00%以下とすることが好ましい。必要に応じて、Mo含有量を0.60%以下、0.40%以下または0.20%以下としてもよい。
[V:0~1.00%]
Vは、鋼の焼入れ性を高め、かつ、焼入れ後の鋼板部材の強度を安定して確保することを可能にする元素である。かかる効果を十分に発現させるためには、V含有量を0.10%以上とすることが好ましい。一方、V含有量が1.00%以下であることで、上記の効果を十分に得つつ、経済性が高められる。そのため、含有させる場合のV含有量は、1.00%以下とすることが好ましい。必要に応じて、V含有量を0.60%以下、0.40%以下または0.20%以下としてもよい。
[Nb:0~1.00%]
Nbは、鋼の焼入れ性を高め、かつ、焼入れ後の鋼板部材の強度を安定して確保することを可能にする元素である。かかる効果を十分に発現させるためには、Nb含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Nb含有量が1.00%以下であることで、上記の効果を十分に得つつ、経済性が高められる。そのため、含有させる場合のNb含有量は、1.00%以下とすることが好ましい。必要に応じて、Nb含有量を0.50%以下、0.20%以下または0.10%以下としてもよい。
[Sn:0~1.00%]
Snは、腐食環境において耐孔食性を向上させる元素である。かかる効果を十分に発現させるためには、Sn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Sn含有量が1.00%以下であることで、粒界強度の低下が抑制され、靭性の低下を抑制できる。そのため、含有させる場合のSn含有量は、1.00%以下とすることが好ましい。必要に応じて、Sn含有量を0.40%以下、0.10%以下または0.05%以下としてもよい。
[W:0~1.00%]
Wは、鋼の焼入れ性を高め、かつ、焼入れ後の鋼板部材の強度を安定して確保することを可能にする元素である。また、Wは、腐食環境において耐孔食性を向上させる。かかる効果を十分に発現させるためには、W含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、W含有量が1.00%以下であることで、上記の効果を十分に得つつ、経済性が高められる。そのため、含有させる場合のW含有量は、1.00%以下とすることが好ましい。必要に応じて、W含有量を0.60%以下、0.40%以下または0.20%以下としてもよい。
[Ca:0~0.010%]
Caは、鋼中の介在物を微細化し、焼入れ後の靱性及び延性を向上させる効果を有する元素である。かかる効果を十分に発現させるためには、Ca含有量を0.001%以上とすることが好ましく、0.002%以上とすることがより好ましい。一方、Ca含有量が0.010%以下であることで、その効果を十分に得つつ、コストを抑制できる。そのため、含有させる場合のCa含有量は、0.010%以下とすることが好ましく、0.004%以下とすることがより好ましい。必要に応じて、Ca含有量を0.008%以下、0.006%以下または0.0004%以下としてもよい。
[REM:0~0.30%]
REMは、Caと同様に鋼中の介在物を微細化し、焼入れ後の靱性及び延性を向上させる効果を有する元素である。かかる効果を十分に発現させるためには、REM含有量を0.001%以上とすることが好ましく、0.002%以上とすることがより好ましい。一方、REM含有量が0.30%以下であることで、その効果を十分に得つつ、コストを抑制できる。そのため、含有させる場合のREM含有量は、0.30%以下とすることが好ましく、0.20%以下とすることがより好ましい。必要に応じて、Ca含有量を0.10%以下、0.05%以下または0.02%以下としてもよい。
ここで、REMは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。REMは、例えば、Fe-Si-REM合金を使用して溶鋼に添加され、この合金には、例えば、Ce、La、Nd、Prが含まれる。
上記成分以外の残部は、Fe及び不純物である。母材鋼板11は、上記成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、製造工程などで混入してしまう不純物を含んでもよい。かかる不純物としては、例えば、Zn(亜鉛)、Co(コバルト)が挙げられる。
上記の化学組成を有する母材鋼板11およびアルミめっき層12からなるめっき鋼板の表面のうち、表面処理皮膜13が付与された部位は、ホットスタンプ法による加熱および焼入れにより、例えば、約1000MPa以上の引張強度を有するホットスタンプ部材とすることができる。また、ホットスタンプ法においては、高温で軟化した状態でプレス加工を行うことができるので、容易に成形することができる。
(ホットスタンプ用アルミめっき鋼板の製造方法)
以下、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、上述の構成を有すれば、製造方法は特に限定されない。下記の製造方法は、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板を製造するための一つの例であり、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板の製造方法の好適な例である。
<母材鋼板>
アルミめっきに供する母材鋼板は、ホットスタンプ法に好適に利用可能な鋼板であれば、特に制限はない。母材鋼板の形態としては、例えば熱延鋼板や冷延鋼板などの鋼板を例示できる。
<アルミめっき層>
本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、母材鋼板の片面又は両面において、母材鋼板と表面処理皮膜との間の少なくとも一部に、アルミめっき層を有することが好ましい。アルミめっき層を有することにより、ホットスタンプ後の塗装後耐食性をより一層向上させることができる。また、アルミめっき層が存在することで、ホットスタンプの際に、加熱により鉄スケールが生成するのを防ぐことができる。鉄スケールは、加熱炉を汚染させたり、搬送のために用いられるロールに付着したりするため、製造上の負荷になる。そのため、鉄スケールが生成した場合には、鉄スケールを除去するためにショットブラスト等の工程が必要となり、経済上好ましくない。
アルミめっき層の種別は、特に限定されない。かかるアルミめっき層を構成する組成としては、アルミめっき、Al-Siめっき、Al-Si-Mg、Al-Si-Caめっき等がある。
例えば、アルミめっき層の化学組成(平均化学組成)は、質量%で、Al:85.0~95.0%、Si:2.0~15.0%、Fe:1~15.0%、Cr:0%以上1.0%未満、Mo:0%以上1.0%未満、Zn:0%以上1.0%未満、V:0%以上1.0%未満、Ti:0%以上1.0%未満、Sn:0%以上1.0%未満、Ni:0%以上1.0%未満、Cu:0%以上1.0%未満、W:0%以上1.0%未満、Bi:0%以上1.0%未満、Mg:0%以上1.0%未満、Ca:0%以上1.0%未満を含有し、残部は不純物であるめっき層であってもよい。
アルミめっき層におけるAl含有量が85.0%未満であると、ホットスタンプ後の耐食性(ホットスタンプ成形体における耐食性)が劣化する。そのため、Al含有量は、85.0%以上であることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは、88.0%以上である。一方、アルミめっき層におけるAl含有量が95.0%超であると、めっき密着性が劣化する場合がある。そのため、Al含有量は95.0%以下とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは92.0%以下である。
アルミめっき層におけるSi含有量が2.0%未満であると、めっき密着性が劣化する場合がある。そのため、Si含有量は2.0%以上とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは4.0%以上である。一方、アルミめっき層におけるSi含有量が15.0%超であると、めっき密着性が劣化する場合がある。そのため、Si含有量は15.0%以下とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは13.0%以下である。
Fe含有量は、好ましくは1.0%以上であり、15.0%以下である。
アルミめっき層の化学組成は、JIS K 0119:2008に準拠した蛍光X線法によって測定することができる。すなわち、目的元素の含有量が既知の試料を用いて、X線強度と含有量の関係を予め求める。これをもとに作成した検量線から、未知試料の各元素の含有量すなわち化学組成を求めることができる。
めっきの付着量は、片面につき10g/mから120g/mであることが好ましい。10g/m未満の場合、めっき層に欠陥が存在する場合ホットスタンプの過程において鉄のスケールが生成する場合がある。一方、120g/mを超えると、コストが高くなり経済的でない。好ましくは、30g/mから100g/mである。
また、アルミめっき層を形成させる方法は、溶融めっき法、電気めっき法、物理蒸着、化学蒸着等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
<表面処理皮膜>
表面処理皮膜の製造方法は特に限定されないが、例えば、各々の皮膜形成成分を混合し、ディスパーで攪拌し、溶解もしくは分散した表面処理剤をめっき層上に塗布した後、乾燥させる方法が挙げられる。
表面処理皮膜層に含有させる針状化合物の原料としては、短径に対する長径の比率が4以上50以下の六方晶系の結晶構造を有する化合物を用いる。六方晶系の結晶構造を有する化合物としては、ランタンシリケート、二ホウ化マグネシウム、酸化ベリリウム(ベリリア)、酸化亜鉛、グラファイト(C)、β-石英、針ニッケル鉱(NiS)、ウルツ鉱(ZnS)などがある。これらの中でも、炭素濃度が90質量%であるグラファイト(C)を用いることが好ましい。これら原料を溶媒(例えば水または溶剤)に分散させた表面処理剤を用いて表面処理皮膜を製造する。なお、使用する化合物の短径に対する長径の比率が不明な場合、必要に応じて、予備試験などにより、所要の短径に対する長径の比率などの針状化合物が含む表面処理被膜が得られることを確認してもよい。
短径が20nm以上、長径/短径の比率が4~50とし、かつ、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1の割合が、個数%で、70%以上とし、針状化合物X1のうち、前述の角度αが0度以上40度以下である針状化合物X2の割合が、個数%で、70%以上とするためには、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニウム水をpH11.0以上に調整した液で、液温30~50℃で1~7日間撹拌を続けることが有効である。すなわち、針状化合物の原料として六方晶系の結晶構造を有する化合物を用い、かつ、処理剤のpHおよび攪拌条件を適切な範囲に制御することにより、長径/短径の比率が4~50の範囲である針状化合物X1の割合および角度αが0度以上40度以下である針状化合物X2の割合を十分に高める(例えば、70個数%以上)ことが可能となる。
原料を水又は溶剤(アセトンなど)に分散させた処理液を用いる場合は、予めめっき層が付与された鋼板などの基材に処理液を塗布し、水又は溶剤を十分に乾燥した後にTEM観察し、短径が20nm以上、短径に対する長径の比が4~50であることを予め確認する。このようにしてスクリーニングした原料や製造方法を用いることで、バインダー成分と混合した表面処理皮膜を得ることができる。
さらに、表面処理皮膜において、針状化合物X1のうち、長径に平行な直線と、めっき層表面に平行な直線交点における角度のうち小さい方の角度αを0度以上40度以下である針状化合物X2の割合を高めるためには、前述の方法(pH調整や液温や攪拌時間など)を行った上で、更に、水又は溶剤に原料を分散させた処理液を塗装する直前に、撹拌子を入れた容器に40~70gの処理液を入れて80~120rpmで撹拌してから5.0秒以内に塗装することが有効である。なお、上記のように、pH11.0以上に調整した処理液を1日以上攪拌した容器のまま、攪拌中に塗装することも可能である。
また、処理液の粘度を3.0~10.0mPa・s、表面張力を20~60mN/mにすることも有効である。さらに、処理液を塗布した後の加熱乾燥時において、鋼板の温度が60℃に到達するまでの時間を3.0秒以上とすることも有効である。
表面処理剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、各々の皮膜形成成分を混合し、ディスパーで攪拌し、溶解もしくは分散する方法が挙げられる。各々の皮膜形成成分の溶解性、又は分散性を向上させるために、必要に応じて、公知の親水性溶剤等を添加してもよい。下地処理皮膜14用の化成処理剤中には、その性能が損なわれない範囲内で、pH調整のために酸、アルカリ等を添加してもよい。
表面処理皮膜層を形成するには、表面処理剤をめっき鋼板に塗布し、塗布膜を加熱乾燥する。化成処理剤の塗布方法は、特に限定されず、一般に公知の塗装方法、例えば、ロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬などを利用する方法が可能である。加熱乾燥温度としては、50~250℃がよい。50℃未満では、水分の蒸発速度が遅く充分な成膜性が得られないので、防錆力が不足することがある。250℃を超えると、有機物であるシランカップリング剤のアルキル部分が熱分解等のため変性を起こし、密着性や耐食性が低下することがある。加熱温度は70~160℃がより好ましい。
加熱乾燥方法は、特に制限はなく、熱風、誘導加熱、近赤外線、直火等を単独又は組み合わせた方法が挙げられる。
(ホットスタンプ部材の製造方法)
自動車用の骨格部品に例示されるような各種のホットスタンプ部材は、上記のような表面処理皮膜が少なくとも一方の表面の全面に付与されたホットスタンプ用アルミめっき鋼板を用いて製造できる。
まず、例えばコイル状の鋼板等の金属素材の少なくとも一方の表面の全面に対して表面処理皮膜を付与する。そして、切断やプレスで打抜く等の各種加工を施すことで、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板を得る。また、切断やプレスで打抜く等した鋼板に表面処理皮膜を付与することでも、本実施形態に係るホットスタンプ用アルミめっき鋼板を得ることができる。また、表面処理皮膜の膜厚を部分的に薄くすることで、例えばホットスタンプを施す前に複数の鋼板を溶接する用途において、通電しやすくなりスポット溶接性を高めることができる。
例えば以上のようにして表面処理皮膜を付与したホットスタンプ用鋼板を、ホットスタンプする。加熱装置としては、例えば、電気加熱炉、ガス加熱炉や、遠赤外炉、赤外線ヒータを備えた通常の加熱装置、等がある。表面処理皮膜を付与して放射率を高めた側の面は、輻射による伝熱効果が大きいために昇温速度が速い。そのため、金属組織がオーステナイト相に変態するAc3点以上の温度以上まで、迅速に昇温される。これにより、本実施形態に係るホットスタンプ部材の製造方法では、加熱時間の短縮を図ることで、ホットスタンプ部材の生産性をより向上させることができる。本実施形態では、具体的な加熱条件については、特に限定されるものではなく、用いる加熱装置等を適切に制御すればよい。
次に、加熱した鋼板を、成形及び冷却する。鋼材の金属組織がオーステナイト相に変態するAc3点温度以上にまで昇温された部位は、焼入れされて強度が高くなる。これにより、焼入れにより強度が向上したホットスタンプ部材を得ることができる。
以下、本発明の実施例について説明するが、実施例における条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例にすぎず、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
母材鋼板としては、高い機械的強度(引張強度、降伏点、伸び、絞り、硬さ、衝撃値、疲れ強さ等の機械的な変形及び破壊に関する諸性質を意味する。)を有する鋼板を使用することが好ましい。以下の実施例に示したホットスタンプ用鋼板に使用した、めっき前の母材鋼板の化学組成を、以下の表1に示した。
Figure 0007469732000001
表1に示した化学組成を有する母材鋼板(鋼No.S1~S10)に対し、表面処理皮膜を付与した。より詳細には、各母材鋼板について、幅100mm×長さ200mm、板厚1.6mmの鋼板を準備し、Al―10%Siめっき浴で溶融めっきした後、表面処理皮膜を両面の全面にわたって付与した。ここで、表1の表記「-」は、対応する元素含有量が、本実施形態に規定の有効数字(最小桁までの数値)において、0%であることを意味する。
処理液の製造方法は、表2に示す条件とした。すなわち、水または溶剤に溶質として、ランタンシリケート、二ホウ化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、β-石英、グラファイト、酸化ジルコニウムの粉末または分散液を用い、所定のpH、温度、撹拌時間で熟成した後、ロールコーターによってアルミめっき鋼板に塗布した。熱風炉での乾燥の際に60℃に到達するまでの時間を風速と炉内の温度により制御した。なお製造No.A9では、処理液への添加剤として、アセトンを用いた。
また、製造No.A14~A16(表3の符号B14~B16に対応)においては、バインダー成分を分散した液を、Al-10%Siめっき鋼板の表面にロールコーターを用いて塗布し、乾燥することで表面処理皮膜を付与した。製造No.A14では、バインダー成分としてとして、SiOの化合物を添加した水系処理液を用い、製造No.A15ではアクリル樹脂、製造No.A16ではポリウレタン樹脂をそれぞれ分散した液を用いた。
表面処理皮膜の膜厚は1.0~10μmの範囲内とした。
ここで、表2における下線は、本実施形態の好適な製造条件の範囲外であることを示す。
Figure 0007469732000002
その後、表面処理皮膜を付与した鋼板の中心部熱電対を接続して、各位置の温度を測定できるようにした。そして、設定温度920℃の電気加熱炉において鋼板を加熱し、皮膜を付与した鋼板が910℃に到達した時点で、加熱炉から鋼板を取り出した。鋼板を平金型で急速に冷却して、ホットスタンプ部材を得た。
表面処理皮膜を付与した部位の昇温速度、表面処理皮膜密着性を調査した。
各評価項目の評価方法は、以下の通りとした。
(1)昇温速度(昇温特性)
各鋼板に設けた熱電対から得られた温度変化と、電気加熱炉における加熱時間とから、各鋼板での昇温速度を算出し、評価を行った。詳細には、室温から910℃に達するまでの平均昇温速度を算出し、以下の評価基準に基づき評価を行い、評点「2」以上を合格とした。
(評点)
5:昇温速度5.0℃/s以上
4:昇温速度4.5℃/s以上5.0℃/s未満
3:昇温速度4.0℃/s以上4.5℃/s未満
2:昇温速度3.5℃/s以上4.0℃/s未満
1:昇温速度2.0℃/s以上3.5℃/s未満
(2)表面処理皮膜密着性
得られたホットスタンプ成形体に対し、リン酸化成処理、及び、厚み15μmの電着塗装を施し、170℃で20分間焼き付けて表面処理皮膜を付与した。その後、60℃の脱イオン水に250時間浸漬後に表面処理皮膜の剥離状態を確認した。評点「2」を合格とした。
(評点)
2:優位(剥離なし)
1:良好(面積率で3%未満の剥離あり)
上記で得られた評価結果を表3に示した。なお、表3に示す「針状化合物の炭素濃度」は、EDS分析による針状化合物X2の炭素濃度の平均値(単位:質量%)である。
Figure 0007469732000003
B1~B19が発明例であり、b1~b12が比較例である。針状化合物の粒径はいずれも20nm~400nmであった。
発明例B1~B19では、全針状化合物(比率が4未満、50超である針状化合物も含む)に対する長径/短径の比率が4~50の、結晶構造が六方晶系である針状化合物X1の割合(個数%)が70%以上、針状化合物X1のうち、表面処理皮膜の表面との角度αが0から40度である針状化合物X2の割合(個数%)が70%以上であった。これらの昇温速度(昇温特性)の評点は2以上であった。
一方、比較例b1では、使用した化合物が不適切であり、長径/短径の比率が4~50の、結晶構造が六方晶系である針状化合物X1の割合(個数%)が70%未満であった。また比較例b2では、使用した化合物が不適切であり、結晶構造が六方晶系でなかった。比較例b3は、使用した化合物が不適切であり、針状化合物X2の割合(個数%)が70%未満であった。
比較例b4は、使用した化合物がカーボンブラックであり、使用した化合物が不適切であった。比較例b5及びb8では、針状化合物X1の割合(個数%)および針状化合物X2の割合(個数%)が70%未満であった。比較例b6,b7,b9およびb10~b12では、少なくとも使用した化合物が不適切であり、針状化合物X1の長径/短径の比率が4~50の範囲を外れてしまった。その結果、比較例b1~b12は、その針状化合物X1の割合又は針状化合物X2の割合が低く、その昇温速度の評点は1であった。
なお、長径/短径の比率が4~50の、結晶構造が六方晶系である針状化合物X1の割合(個数%)、結晶構造、表面との角度αに加えて、含有率Rが2から60%となった発明例B7~B12で昇温速度の評点が3に向上した。
針状化合物X1の炭素濃度が90質量%のB13では、B12よりも昇温速度が向上し、グラファイトを用いた発明例B12~B16では、グラファイト以外の場合よりもさらに昇温速度の評点が向上した。
樹脂を含有した発明例B14~B16では、皮膜密着性の評点が1から2に向上した。
発明例B11は発明例B17よりも針状化合物X1の分散度が良好なため、昇温特性により優れた。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明の上記態様によれば、ホットスタンプ部材の生産性をより向上させることが可能なホットスタンプ用アルミめっき鋼板の提供が可能となるので、産業上の利用可能性が高い。
10 ホットスタンプ用アルミめっき鋼板
11 母材鋼板
12 アルミめっき層
13 表面処理皮膜
14 下地処理皮膜
15 皮膜

Claims (11)

  1. 母材鋼板と、
    前記母材鋼板の少なくとも一方の面の上に設けられたアルミめっき層と、
    前記アルミめっき層の上に設けられた表面処理皮膜と
    を有するホットスタンプ用アルミめっき鋼板において、
    前記表面処理皮膜は、短径に対する長径の比率が2以上である針状化合物Xを含有し、
    前記針状化合物Xのうち、短径に対する長径の比率が4以上50以下、かつ、六方晶系の結晶構造を有する針状化合物X1の割合が、個数%で、70%以上であり、
    前記針状化合物X1のうち、長径と平行な直線と、前記アルミめっき層の表面のなす角度の内、最も小さい角度が0度以上40度以下である針状化合物X2の割合が、個数%で、70%以上である
    ことを特徴とするホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  2. 前記針状化合物X1の含有率Rが、体積%で、2%以上60%以下であることを特徴とする請求項1に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  3. 前記針状化合物X1の炭素濃度が、90質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  4. 前記針状化合物X1の炭素濃度が、90質量%以上であることを特徴とする請求項2に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  5. 前記針状化合物X1の含有率Rを10箇所測定し、最大含有率をR1、最小含有率をR2とした場合、R2に対するR1の比率R1/R2が2.0以下であることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  6. 前記針状化合物X1が、グラファイトであることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  7. 前記針状化合物X1が、グラファイトであることを特徴とする請求項5に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  8. 前記表面処理皮膜が、樹脂を含有することを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  9. 前記表面処理皮膜が、樹脂を含有することを特徴とする請求項5に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  10. 前記表面処理皮膜が、樹脂を含有することを特徴とする請求項6に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
  11. 前記表面処理皮膜が、樹脂を含有することを特徴とする請求項7に記載のホットスタンプ用アルミめっき鋼板。
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