JP7442082B2 - 光学ミラー - Google Patents

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Description

本発明は光学ミラーに関し、詳しくは光学性能の低下を低減させ、耐熱性にすぐれた円偏光ミラーもしくはゼロシフトミラーに関するものである。
従来より、基板上に形成された光学反射膜を覆うように形成された赤外光学膜を設けた円偏光ミラーが知られている(特許文献1)。特許文献1に記載の円偏光ミラーを構成する赤外光学膜は、図25に示すように、基板(Si、CuまたはBe)21上に形成された光学反射膜22を覆うように形成されている。この赤外光学膜は、ZnSまたはZnSeで形成された第一の高屈折層25と、この第一の高屈折層25の材料よりも屈折率が小さい材料のフッ化物で形成された第一の低屈折層26とを交互に配置した層構成の第一の多層群23と、この第一の多層群23よりも前記光学反射膜22側に位置し、Geで形成された第二の高屈折層27とZnSまたはZnSeで形成された第二の低屈折層28とを、前記光学反射膜22と接する層が前記第二の低屈折層28となり、前記第一の多層群23に接する層が前記第二の高屈折層27となるよう交互に配置した層構成の第二の多層群24とを有し、前記第一の多層群23は、前記第一の低屈折層26が前記第二の多層群24に接する層となるよう形成されている。
一方、特許文献2には、別の構成の円偏光ミラーが記載されている。この円偏光ミラーは、図26に示すように、基板(SiまたはCu)31上に、金属層としてCr層32と、AuまたはAg層33を設ける。Cr層32はAuまたはAg層33を基板31に強固に取り付けるためのものである。位相遅延層34~42は、s偏光とp偏光の間に90°の位相差を与えるものであるが、上層の37から42は6層のTh/ZnSe層よりなる。最下層の薄いZnSe層34は金属層33に対して強固な付着力を得るものである。第2層のTh層35と第3層のZeSe層26は、位相遅延にはほとんど寄与せず、反射率を向上し、吸収を減らす作用がある。そこでこの2層をエンハンスメント層と呼ぶことができる。このような構成により、剥離強度が強く、高出力の炭酸レーザ光に対する耐久性が高揚するというものである。
しかしながら、特許文献1、2に記載の円偏光ミラーは、すべて前提として誘電体多層膜で構成されていた。その結果、広い帯域にわたる波長特性、入射角度特性が劣っていた。
特開2014-228611号公報 特開平06-186423号公報 特開2016-136167号公報
「CO2レーザ用円偏光ミラーおよびゼロシフトミラーの開発」住友電気・第142号、23頁~28ページ、1993年3月
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解消するためになされたもので、広帯域特性を維持しながら入射角を広く選択することができる光学ミラー(円偏光ミラーおよびゼロシフトミラー)を提供することを課題とする。
また、本発明は誘電体が2種類の高屈折率層(高屈折率部)と低屈折率層(低屈折率部)のみより構成できる光学ミラー(円偏光ミラーおよびゼロシフトミラー)を提供することを別の課題とする。
さらに、本発明は誘電体多層膜による高反射層を用いずに、金属層の上に直接誘電体グレーティングを付加した幅広い楕円率の波長特性を有し、広帯域特性にすぐれた光学ミラー(円偏光ミラーおよびゼロシフトミラー)を提供することをも別の課題とする。
本発明によれば、上記課題を解決するため、第1に、方位角φ=45度で入射する直線偏光に対して、基板上に、高屈折率層と低屈折率層を交互に複数組積層してなる高反射層と、該高反射層の上に間隔を隔てて2次元配列される横断面が矩形の複数の柱状体部よりなる2次元周期構造体部から構成され、前記柱状体部が高屈折率部と該高屈折率部の上に設けられる低屈折率部を積層してなることを特徴とする光学ミラーが提供される。
第2に、上記第1の発明において、前記基板と前記高反射層との間に金属層を設けたことを特徴とする光学ミラーが提供される。
第3に、上記第1または第2の発明において、前記高屈折率層がGeであり、前記低屈折率層がZnSである光学ミラーが提供される。
第4に、方位角φ=45度で入射する直線偏光に対して、基板上に、金属層を設け、該金属層の上に間隔を隔てて2次元配列される横断面が矩形の複数の柱状体部よりなる2次元周期構造体部から構成され、前記柱状体部が高屈折率部と該高屈折率部の上に設けられる低屈折率部を積層してなることを特徴とする光学ミラーが提供される。
第5に、上記第1から第4のいずれかの発明において、直線偏光のビームを円偏光に変換させる円偏光ミラーであることを特徴とする光学ミラーが提供される。
第6に、上記第1から第4のいずれかの発明において、円偏光に変換されたビームを、偏光状態を維持したまま伝送させるゼロシフトミラーであることを特徴とする光学ミラーが提供される。
第7に、上記第1から第6のいずれかの発明において、前記高屈折率部がGeであり、前記低屈折率部がZnSであることを特徴とする光学ミラーが提供される。
本発明は、誘電体多層膜の各層の厚さをわずかに変化させて位相変化を生み出す従来の発想とは根本的に異なり、高反射層と2次元周期構造体部より構成され、2次元周期構造体部により所望の位相変化を生み出した後に、高反射層で電磁界を反射させるという発想に基づいているため、広帯域特性を維持しながら入射角を広く選択することができる光学ミラー(円偏光ミラーおよびゼロシフトミラー)を提供することが可能となる。
また、本発明は誘電体が2種類の高屈折率層(高屈折率部、例えばGe)と低屈折率層(低屈折率部、例えばZnS)のみより構成できる光学ミラー(円偏光ミラーおよびゼロシフトミラー)を提供することが可能となる。
また、本発明は、誘電体多層膜による高反射層を用いずに、金属層の上に直接誘電体グレーティングを付加した幅広い楕円率の波長特性を有し、広帯域特性にすぐれた光学ミラー(円偏光ミラーおよびゼロシフトミラー)を提供することが可能となる。
さらに、本発明の光学ミラーは従来の光学ミラーに比べ、入射角変化に対する依存性が極めて小さいという有利性を有する。
(a)は本発明の第1実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の構造を模式的に示す斜視図、(b)は該光学素子(円偏光ミラー)の2次元周期構造体部を構成する柱状体部の1ユニットの平面図である。 前記第1実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の断面図である。 前記第1実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の楕円率の波長特性を、特許文献1(比較例1)の円偏光ミラーおよび特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の波長特性と比較して示す図である。 前記第1実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の楕円率の入射角度特性を、特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す図である。 前記第1実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の反射率の波長特性を示す図である。 本発明の第2実施形態に係る光学素子(ゼロシフトミラー)の楕円率の波長特性を、非特許文献1のゼロシフトミラーおよびAuコートしたゼロシフトミラーの楕円率の波長特性と比較して示す図である。 前記第2実施形態に係る光学素子(ゼロシフトミラー)の楕円率の入射角度特性を、非特許文献1のゼロシフトミラーおよびAuコートしたゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す図である。 前記第2実施形態に係る光学素子(ゼロシフトミラー)の偏波回転角の波長特性を示す図である。 前記第2実施形態に係る光学素子(ゼロシフトミラー)の反射率の波長特性を示す図である。 本発明の第3実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の構造を模式的に示す斜視図である。 前記第3実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の楕円率の波長特性を、特許文献1(比較例1)の円偏光ミラーおよび特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の波長特性と比較して示す図である。 前記第3実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の楕円率の入射角度特性を、特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す図である。 前記第3実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の反射率の波長特性を示す図である。 本発明の第4実施形態に係る光学素子(ゼロシフトミラー)の楕円率の波長特性を、非特許文献1の表2に記載のゼロシフトミラーおよびAuコートしたゼロシフトミラーの楕円率の波長特性と比較して示す図である。 前記第4実施形態に係る光学素子(ゼロシフトミラー)の楕円率の入射角度特性を、非特許文献1の表2に記載のゼロシフトミラーおよびAuコートしたゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す図である。 前記第4実施形態に係る光学素子(ゼロシフトミラー)の偏波回転角の波長特性を示す図である。 前記第4実施形態に係る光学素子(ゼロシフトミラー)の反射率の波長特性を示す図である。 (a)は本発明の第5実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の構造を模式的に示す斜視図、(b)は該光学素子(円偏光ミラー)の2次元周期構造体部を構成する柱状体部の1ユニットの平面図である。 前記第5実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の楕円率の波長特性を第3実施形態の円偏光ミラーおよび特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の波長特性と比較して示す図である。 前記第5実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の楕円率の入射角度特性を、第3実施形態の円偏光ミラーおよび特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す図である。 前記第5実施形態に係る円偏光ミラーの反射率の波長特性を示す図である。 前記第6実施形態に係るゼロシフトミラーの楕円率の波長特性を、第4実施形態のゼロシフトミラーおよび非特許文献1のゼロシフトミラーの楕円率の波長特性と比較して示す図である。 前記第6実施形態に係るゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性を、第4実施形態のゼロシフトミラーおよび非特許文献1のゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す図である。 前記第6実施形態に係るゼロシフトミラーの反射率の波長特性を示す図である。 特許文献1に記載の円偏光ミラーの構成を模式的に示す断面図である。 特許文献2に記載の円偏光ミラーの構成を模式的に示す断面図である。
以下、本発明を実施形態により詳細に説明する。
図1(a)は本発明の第1実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の構造を模式的に示す斜視図、図1(b)は該光学素子(円偏光ミラー)の2次元周期構造体部を構成する柱状体部の1ユニットの平面図である。
この円偏光ミラー1は、基板(Ge)2上に、低屈折率層5と高屈折率層6を交互に複数組積層してなる高反射層3と、該高反射層3の上に間隔を隔てて2次元配列される横断面が矩形の複数の柱状体部4Aよりなる2次元周期構造体部4とを設けて構成される。2次元周期構造体部4を構成する各柱状体部4Aは、高屈折率部7と該高屈折率部7の上に設けられる低屈折率部8を積層してなる。各柱状の誘電体間の空隙は空気部9となっている。入射波は図1(a)の左図に示すように、方位角φ=45度の直線偏光である。
第1実施形態の円偏光ミラー1は、高反射層3が、低屈折率層5と高屈折率層6を交互に4組積層して構成されている。本実施形態では、低屈折率層5がZnS(屈折率2.2)、高屈折率層6がGe(屈折率4.0)により形成される。
一方、第1実施形態の円偏光ミラー1の2次元周期構造体部4では、1ユニットの柱状体部4Aの高屈折率部7がGe(屈折率4.0)、低屈折率部8がZnS(屈折率2.2)により形成される。
このように、第1実施形態では、誘電体としてGeとZnSの2種類を用いる。また、高反射層3の上に設けられる2次元周期構造体部4の低屈折率部8は、無反射層の役割を行うように設計する。図1(b)に示す2次元周期構造体部4の各柱状部4Aの高屈折率部7の誘電体の幅wとwと厚さtは、位相調整における重要なパラメータである。第1実施形態の2次元周期構造体部4では、誘電体間の間隙を導波路配列として動作させ、EモードとEモードの位相差から、90°の位相差を実現する厚さtを、固有モード解析により実現している。円偏光ミラー1では、充填率fは、x軸方向とy軸方向で異なる(本実施形態では、x軸方向の充填率f=0.9、y方向の充填率f=0.5)。この差により、空隙に集中する直交する二つの電磁波の伝搬定数差が形成される。そして位相差が90°になるように厚さtを設定する。
第1実施形態の構造では、導波モードの励振は、入射角の差異にほとんど依存しないため、ミラーとしての入射角依存性は緩和される。ここでは、入射波が10.6μm帯の設計例を示すが、可視光帯、通信波長帯でも屈折率の異なる2種類の透明な誘電体を利用すれば、同様に設計が可能である。
第1実施形態における円偏光ミラー1の各パラメータの数値例は次のとおりである。
高屈折率層、高屈折率部の屈折率 n=4.0(Ge)
低屈折率層の屈折率 n=2.2(ZnS)
低屈折率部の屈折率 nAR=2.2(ZnS)
空気層の屈折率 nair=1.0
柱状体部のピッチ Λ=2.0μm
入射ビームの波長 λ=10.6μm
高屈折率部の厚さ t:1.05μm
低屈折率部の厚さ tAR=1.2μm
高屈折率層の厚さ t=0.65μm
低屈折率層の厚さ t=1.2μm
柱状体部の幅 w=fΛ(fは充填率)
柱状体部のx方向の長さ w=1.8μm
柱状体部のy方向の長さ w=1.0μm
x方向の充填率 f=0.9
y方向の充填率 f=0.5
上記は最も好ましい構造値であるが、0.95以上の楕円率を得るには、1.00μm<t<1.10μm、0.891<f<0.907、0.4<f<0.525が許容される。
第1実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)の楕円率の波長特性を、特許文献3(比較例1)の円偏光ミラーおよび特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の波長特性と比較して図3に示す。入射角度θinは45°である。
特許文献3の比較例1の円偏光ミラーの層構成は表1のとおりである。
Figure 0007442082000001


また、特許文献2の図25の例の円偏光ミラーの層構成は表2のとおりである。
Figure 0007442082000002

特許文献3の比較例1の円偏光ミラーでは、本発明と同じZnS層とGe層の組み合わせで、Au膜を基板との間に設けている。一方、特許文献2の図25の例の円偏光ミラーではZnSeとThFの組み合わせであり、金属膜(Cr膜、AuまたはAg膜)の反射層を設けている。いずれも多層膜のみで構成されており、第1実施形態の円偏光ミラーの構成とは異なる。図3から明らかなように、第1実施形態の円偏光ミラーは、特許文献3や2の円偏光ミラーに対して幅広い楕円率の波長特性を有しており、広帯域特性を有していることがわかる。
図4に、第1実施形態に係る円偏光ミラーの楕円率の入射角度特性を、特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す。図4から明らかなように、実施形態1の円偏光ミラーは誘電体のみで構成されているが、特許文献2の円偏光ミラーに対する入射角変化に対する本実施形態1の有利さが顕著である。
図5に、第1実施形態に係る円偏光ミラーの反射率の波長特性を示す。第1実施形態の円偏光ミラーは誘電体のみで構成されているが、広帯域にわたり、96%以上の反射率を維持していることがわかる。
以上のように、第1実施形態の円偏光ミラーは、高反射層と2次元周期構造体部より構成され、2次元周期構造体部により所望の位相変化を生み出した後に、高反射層で電磁界を反射させるという発想に基づいているため、広帯域特性を維持しながら入射角を広く選択することができる。また、第1実施形態の円偏光ミラーは、2種類の高屈折率層(高屈折率部、例えばGe)と低屈折率層(低屈折率部、例えばZnS)のみより構成できる、従来の円偏光ミラーに比べ、入射角変化に対する依存性が極めて小さいという有利性を有する。
次に、本発明の第2実施形態の光学ミラー(ゼロシフトミラー)について説明する。ゼロシフトミラーはレーザビームのロスを最小限に止め、最大限のパワーを反射するための伝送ミラーである。また反射光のs偏光とp偏光における偏光特性の位相変化を最小限に保持するので、反射されるビームの偏光特性に影響を与えずに光路を変えることを可能にする。レーザからの出射光は直線偏光であるので、ゼロシフトミラーのみで反射されたビームは直線偏光を保つ。加工品質を損なわないためには円偏光が必要であるので、光路中の一箇所に円偏光ミラーを挿入し、その他の光路変更はゼロシフトミラーで行う。
図1に示した構造の光学素子の設計思想はゼロシフトミラーにも適用可能である。第2実施形態のゼロシフトミラーも、基板上に、低屈折率層と高屈折率層を交互に複数組(4組)積層してなる高反射層と、該高反射層の上に所定の間隔を隔てて2次元配列される横断面が矩形の複数の柱状体部よりなる2次元周期構造体部とを設けて構成される。2次元周期構造体部を構成する各柱状体部は高屈折率部と該高屈折率部の上に設けられる低屈折率部を積層してなる。ただ、ゼロシフトミラーでは、第1実施形態とは異なり、二つの直交モードの伝搬位相差が生じないようにx方向の充填率fとy方向の充填率fを等しくする、すなわちf=fとする必要がある。厚さは動作が安定するのに十分であればよく、特性は寸法に依存性が小さい。構造パラメータ例を述べるとt=1.5μm、f=f=0.6である。許容する楕円率を|0.03|以下とすると、厚さは1.4μm<t<1.6μm、充填率は0.58<f=f<0.61である。
図6に、第2実施形態に係るゼロシフトミラーの楕円率の波長特性を、非特許文献1のゼロシフトミラーおよびAuコートしたゼロシフトミラーの楕円率の波長特性と比較して示す。入射角度θinは45°である。
Auコートしたゼロシフトミラーの構成は、Geの基板に、0.3μmの厚さのAu膜を設けたものとなっている。
図6から、Auコートしたゼロシフトミラーは、波長にほぼ無依存であるが、常にマイナスの位相差をもつ欠点がある。(Auコートのみでは位相誤差の微調整はできない)。このことは複数枚のミラーを重ねる際に不利となる。この欠点を解決するために、改良型のゼロシフトミラーが非特許文献1で提案されている。このゼロシフトミラーの波長特性は、実施形態1の円偏光ミラーと同程度である。
図7に、第2実施形態に係るゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性を、非特許文献1のゼロシフトミラーおよびAuコートしたゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す。
図7から明らかなように、実施形態2のゼロシフトミラーは、実施形態1の円偏光ミラーの場合と同様に、非特許文献1のゼロシフトミラーに比べて楕円率の入射角依存性は極めて小さい。Auコートのゼロシフトミラーも入射角度特性は小さいが、入射角が大きくなるにつれて、徐々に負の位相誤差が大きくなる性質がある。この点、実施形態2のゼロシフトミラーでは、広角度にわたって位相誤差が抑圧されている。
図8に、第2実施形態に係るゼロシフトミラーの偏波回転角の波長特性を示す。入射角度θinは45°である。図8から、第2実施形態のゼロシフトミラーでは、入射波の偏波角を維持できているため、偏波回転角Δφは0°を維持していることがわかる。
図9に、第2実施形態に係るゼロシフトミラーの反射率の波長特性を示す。図9から、第2実施形態のゼロシフトミラーは、広帯域に97%以上の反射率を維持していることがわかる。
次に、本発明の第3実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)について説明する。図10は、本発明の第3実施形態に係る円偏光ミラーの構造を模式的に示す図1(a)と同様の斜視図である。
図10において図1(a)と同様な要素には同じ符号を付して詳細説明を省略する。第3実施形態の円偏光ミラー1は、基板2上に、金属層10を介して低屈折率層5と高屈折率層6を交互に3組積層してなる高反射層3と、該高反射層3の上に間隔を隔てて2次元配列される横断面が矩形の複数の柱状体部4Aよりなる2次元周期構造体部4とを設けて構成される。2次元周期構造体部4を構成する各柱状体部4Aは高屈折率部7と該高屈折率部7の上に設けられる低屈折率部8を積層してなる。第3実施形態の円偏光ミラー1では、金属層10を基板2と高反射層3との間に設けることにより、第1実施形態の円偏光ミラー1に比べ、低反射層5と高反射層6の組からなる積層数を少なくすることができる。
第3実施形態でも、低屈折率層5がZnS(屈折率2.2)、高屈折率層6がGe(屈折率4.0)により形成される。
一方、第3実施形態の円偏光ミラー1の2次元周期構造体部4でも、1ユニットの柱状体部4Aの高屈折率部7がGe(屈折率4.0)、低屈折率部8がZnS(屈折率2.2)により形成される。
このように、第3実施形態では、金属層10に加え、誘電体としてGeとZnSの2種類を用いる。また、高反射層3の上に設けられる2次元周期構造体部4の低屈折率部8は、無反射層の役割を行うように設計する。図1に示す2次元周期構造体部4の各柱状部4Aの高屈折率部6の誘電体の幅wとwと厚さtは、位相調整における重要なパラメータである。第3実施形態の2次元周期構造体部4でも、誘電体間の間隙を導波路配列として動作させ、EモードとEモードの位相差から、90°の位相差を実現する厚さtを、固有モード解析により実現している。第3実施形態の円偏光ミラー1でも、充填率fは、x軸方向とy軸方向で異なる(本実施形態では、x軸方向の充填率f=0.9、y方向の充填率f=0.5)。この差により、空隙に集中する直交する二つの電磁波の伝搬定数差が形成される。そして位相差が90°になるように厚さtを設定する。
第3実施形態の構造でも、導波モードの励振は、入射角の差異にほとんど依存しないため、ミラーとしての入射角依存性は緩和される。ここでも、入射波が10.6μm帯の設計例を示すが、可視光帯、通信波長帯でも屈折率の異なる2種類の透明な誘電体を利用すれば、同様に設計が可能である。
第3実施形態における円偏光ミラー1の各パラメータの数値例は、金属層(Au)が0.3μmであることを除いて、第1実施形態の場合と同様である。構造パラメータの許容範囲も、第1実施形態と同じである。
第3実施形態に係る円偏光ミラーの楕円率の波長特性を、特許文献1(比較例1)の円偏光ミラーおよび特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の波長特性と比較して図11に示す。
図11から明らかなように、実施形態3の円偏光ミラーは、特許文献1や2の円偏光ミラーに対して幅広い楕円率の波長特性を有しており、広帯域特性を有していることがわかる。
図12に、第3実施形態に係る円偏光ミラーの楕円率の入射角度特性を、特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す。図12から明らかなように、実施形態3の円偏光ミラーは、特許文献2の円偏光ミラーに対する入射角変化に対する有利性が顕著である。
図13に、第3実施形態に係る円偏光ミラーの反射率の波長特性を示す。図13から、第3実施形態の円偏光ミラーは、広帯域にわたり、図5より反射率が向上していることがわかる。
以上のように、第3実施形態の円偏光ミラーは、金属層10を介して高反射層3と2次元周期構造体部4より構成され、2次元周期構造体部4により所望の位相変化を生み出した後に、高反射層3で電磁界を反射させるという発想に基づいているため、広帯域特性を維持しながら入射角を広く選択することができる。また、第3実施形態の円偏光ミラーは、誘電体として2種類の高屈折率層(高屈折率部、例えばGe)と低屈折率層(低屈折率部、例えばZnS)のみより構成でき、従来の円偏光ミラーに比べ、入射角変化に対する依存性が極めて小さいという有利性を有する。
次に、本発明の第4実施形態の光学ミラー(ゼロシフトミラー)について説明する。
図10に示した構造の光学素子は、前記と同様、設計思想はゼロシフトミラーにも適用可能である。第4実施形態のゼロシフトミラーも、基板上に、金属層を介して低屈折率層と高屈折率層を交互に3組積層してなる高反射層と、該高反射層の上に所定の間隔を隔てて2次元配列される横断面が矩形の複数の柱状体部よりなる2次元周期構造体部とを設けて構成される。2次元周期構造体部を構成する各柱状体部は高屈折率部と該高屈折率部の上に設けられる低屈折率部を積層してなる。ただ、ゼロシフトミラーでは、第2実施形態と同様、二つの直交モードの伝搬位相差が生じないようにx方向の充填率fとy方向の充填率fを等しくする、すなわちf=fとする必要がある。厚さは動作が安定するのに十分であればよく、特性は寸法に依存性が小さい。構造パラメータ例を述べるとt=1.5μm、f=f=0.6であり、許容範囲は第2実施形態と同じである。
図14に、第4実施形態に係るゼロシフトミラーの楕円率の波長特性を、非特許文献1のゼロシフトミラーおよびAuコートしたゼロシフトミラーの楕円率の波長特性と比較して示す。入射角度θinは45°である。
図14から、Auコートしたゼロシフトミラーは、波長にほぼ無依存であるが、常にマイナスの位相差をもつ欠点がある。(Auコートのみでは位相誤差の微調整はできない)。このことは複数枚のミラーを重ねる際に不利となる。この欠点を解決するために、改良型のゼロシフトミラーが非特許文献1で提案されている。このゼロシフトミラーの波長特性は、実施形態2のゼロシフトミラーと同程度である。
図15に、第4実施形態に係るゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性を、非特許文献1のゼロシフトミラーおよびAuコートしたゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す。
図15から明らかなように、第4実施形態のゼロシフトミラーは、第2実施形態のゼロシフトミラーの場合と同様に、非特許文献1のゼロシフトミラーに比べて楕円率の入射角依存性は極めて小さい。Auコートのゼロシフトミラーも入射角度特性は小さいが、入射角が大きくなるにつれて、徐々に負の位相誤差が大きくなる性質がある。この点、第4実施形態のゼロシフトミラーでは、広角度にわたって位相誤差が抑圧されている。
図16に、第4実施形態に係るゼロシフトミラーの偏波回転角の波長特性を示す。入射波の入射角θinは45°である。図16から、第4実施形態のゼロシフトミラーでは、入射波の偏波角を維持できているため、偏波回転角Δφは0°を維持していることがわかる。
図17に、第4実施形態に係るゼロシフトミラーの反射率の波長特性を示す。図17から、第4実施形態のゼロシフトミラーは、広帯域にわたり図9より反射率が向上していることがわかる。
次に、本発明の第5実施形態に係る光学素子(円偏光ミラー)について説明する。図18(a)は、本発明の第5実施形態に係る円偏光ミラーの構造を模式的に示す図1(a)、図10と同様の斜視図である。
図18において図1(a)と同様な要素には同じ符号を付して詳細説明を省略する。第5実施形態の円偏光ミラー1は、基板2上に、金属層11と、該金属層11上に間隔を隔てて2次元配列される横断面が矩形の複数の柱状体部4Aよりなる2次元周期構造体部4を設けて構成される。2次元周期構造体部4を構成する各柱状体部4Aは高屈折率部7と該高屈折率部7の上に設けられる低屈折率部8を積層してなる。
第5実施形態の円偏光ミラー1の2次元周期構造体部4でも、1ユニットの柱状体部4Aの高屈折率部7がGe(屈折率4.0)、低屈折率部8がZnS(屈折率2.2)により形成される。
このように、第5実施形態では、金属層11に加え、誘電体としてGeとZnSの2種類を用いる。また、金属層11の上に設けられる2次元周期構造体部4の低屈折率部8は、無反射層の役割を行うように設計する。図18に示す2次元周期構造体部4の各柱状部4Aの高屈折率部6の誘電体の幅wとwと厚さtは、位相調整における重要なパラメータである。第5実施形態の2次元周期構造体部4でも、誘電体間の間隙を導波路配列として動作させ、EモードとEモードの位相差から、90°の位相差を実現する厚さtを、固有モード解析により実現している。第5実施形態の円偏光ミラー1でも、充填率fは、x軸方向とy軸方向で異なる(本実施形態では、x軸方向の充填率f=0.9、y方向の充填率f=0.5)。この差により、空隙に集中する直交する二つの電磁波の伝搬定数差が形成される。そして位相差が90°になるように厚さtを設定する。
第5実施形態の構造でも、導波モードの励振は、入射角の差異にほとんど依存しないため、ミラーとしての入射角依存性は緩和される。ここでも、入射波が10.6μm帯の設計例を示すが、可視光帯、通信波長帯でも屈折率の異なる2種類の透明な誘電体を利用すれば、同様に設計が可能である。
第5実施形態における円偏光ミラー1の各パラメータの数値例は、次のとおりである。
高屈折率層、高屈折率部の屈折率 n=4.0(Ge)
低屈折率部の屈折率 nAR=2.2(ZnS)
空気層の屈折率 nair=1.0
柱状体部のピッチ Λ=2.0μm
入射ビームの波長 λ=10.6μm
高屈折率部の厚さ t:0.9μm
低屈折率部の厚さ tAR=1.15μm
柱状体部の幅 w=fΛ(fは充填率)
柱状体部のx方向の長さ w=fΛ
柱状体部のy方向の長さ w=fΛ
x方向の充填率 f=0.9
y方向の充填率 f=0.5
φ=45°
上記は最も好ましい構造値であるが、0.95以上の楕円率を得るには、0.855μm<t<0.95μm、0.891<f<0.907、0.4<f<0.51が許容される。
第5実施形態に係る円偏光ミラーの楕円率の波長特性を、第3実施形態の円偏光ミラーおよび特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の波長特性と比較して図19に示す。
図19から明らかなように、第5実施形態の円偏光ミラーは、第3実施形態や特許文献2の円偏光ミラーに対して幅広い楕円率の波長特性を有しており、広帯域特性を有していることがわかる。
図20に、第5実施形態に係る円偏光ミラーの楕円率の入射角度特性を、第3実施形態の円偏光ミラーおよび特許文献2(図25)の円偏光ミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す。図20から明らかなように、第5実施形態の円偏光ミラーは、特許文献2の円偏光ミラーに対する入射角変化に対する有利性が顕著である。
図21に、第5実施形態に係る円偏光ミラーの反射率の波長特性を示す。図21から、第5実施形態の円偏光ミラーは、広帯域にわたり反射率が向上していることがわかる。
以上のように、第5実施形態の円偏光ミラーは、金属層11を介して2次元周期構造体部4を設けて構成され、2次元周期構造体部4により所望の位相変化を生み出した後に、金属層11で電磁界を反射させるという発想に基づいているため、広帯域特性を維持しながら入射角を広く選択することができる。また、第5実施形態の円偏光ミラーは、誘電体として2種類の高屈折率部(例えばGe)と低屈折率部(例えばZnS)のみより構成でき、従来の円偏光ミラーに比べ、入射角変化に対する依存性が極めて小さいという有利性を有する。
次に、本発明の第6実施形態の光学ミラー(ゼロシフトミラー)について説明する。
図18に示した構造の光学素子は、前記と同様、設計思想はゼロシフトミラーにも適用可能である。第6実施形態のゼロシフトミラーも、基板上に、金属層と、該金属層の上に所定の間隔を隔てて2次元配列される横断面が矩形の複数の柱状体部よりなる2次元周期構造体部とを設けて構成される。2次元周期構造体部を構成する各柱状体部は高屈折率部と該高屈折率部の上に設けられる低屈折率部を積層してなる。ただ、ゼロシフトミラーでは、第2、第4実施形態と同様、二つの直交モードの伝搬位相差が生じないようにx方向の充填率fとy方向の充填率fを等しくする、すなわちf=fとする必要がある。厚さは動作が安定するのに十分であればよく、特性は寸法に依存性が小さい。構造パラメータ例を述べるとt=1.4μm、f=f=0.6であり、厚さの許容範囲は、1.3μm<t<1.5μm、充填率の許容範囲は第2実施形態と同じである。
図22に、第6実施形態に係るゼロシフトミラーの楕円率の波長特性を、第4実施形態のゼロシフトミラーおよび非特許文献1のゼロシフトミラーの楕円率の波長特性と比較して示す。入射角度θinは45°である。
このゼロシフトミラーの波長特性は、第2、第4実施形態のゼロシフトミラーと同程度である。
図23に、第6実施形態に係るゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性を、第4実施形態のゼロシフトミラーおよび非特許文献1のゼロシフトミラーの楕円率の入射角度特性と比較して示す。
図23から明らかなように、第6実施形態のゼロシフトミラーは、第2、第4実施形態のゼロシフトミラーの場合と同様に、非特許文献1のゼロシフトミラーに比べて楕円率の入射角依存性は極めて小さい。第6実施形態のゼロシフトミラーでは、広角度にわたって位相誤差が抑圧されている。
図24に、第6実施形態に係るゼロシフトミラーの反射率の波長特性を示す。図24から、第6実施形態のゼロシフトミラーは、広帯域にわたり反射率が向上していることがわかる。
以上、本発明をいくつかの実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は、これらの実施形態のみに限定されるものではなく、必要に応じて適宜変形、変更が可能であることはいうまでもない。
1 円偏光フィルター
2 基板
3 高反射層
4 2次元周期構造体部
4A 柱状体部
5 低反射率層
6 高反射率層
7 高屈折率部
8 低屈折率部
9 空気部
10 金属層
11 金属層

Claims (5)

  1. 方位角φ=45度で入射する直線偏光に対して、基板上に、高屈折率層と低屈折率層を交互に複数組積層してなる高反射層と、該高反射層の上に間隔を隔てて2次元配列される横断面が矩形の複数の柱状体部よりなる2次元周期構造体部から構成され、前記柱状体部が高屈折率部と該高屈折率部の上に設けられる低屈折率部を積層してなり、前記基板と前記高反射層との間に金属層が設けられていることを特徴とする光学ミラー。
  2. 前記高屈折率層がGeであり、前記低屈折率層がZnSであることを特徴とする請求項1に記載の光学ミラー。
  3. 直線偏光のビームを円偏光に変換させる円偏光ミラーであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ミラー。
  4. 円偏光に変換されたビームを、偏光状態を維持したまま伝送させるゼロシフトミラーであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ミラー。
  5. 前記高屈折率部がGeであり、前記低屈折率部がZnSであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光学ミラー。
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