JP7439610B2 - R-t-b系焼結磁石の製造方法 - Google Patents

R-t-b系焼結磁石の製造方法 Download PDF

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Description

本開示は、R-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
Fe14B型化合物を主相とするR-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素、TはFe又はFeとCo)は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品等に使用されている。
R-T-B系焼結磁石は、主としてRFe14B型化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるRFe14B型化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
R-T-B系焼結磁石は、高温で固有保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という)が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。不可逆熱減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高いHcJを維持することが要求されている。
R-T-B系焼結磁石において、RFe14B型化合物相中のRの一部を重希土類元素RH(Dy、Tb等)で置換すると、HcJが向上することが知られている。高温で高いHcJを得るためには、R-T-B系焼結磁石中に重希土類元素RHを多く添加することが有効である。しかし、R-T-B系焼結磁石において、Rとして軽希土類元素RL(Nd、Pr)を重希土類元素RHで置換すると、HcJが向上する一方、残留磁束密度B(以下、単に「B」という)が低下してしまうという問題がある。また、重希土類元素RHは希少資源である。これらの理由により重希土類元素RHの使用量を削減することが求められている。
そこで、近年、より少ない重希土類元素RHによってR-T-B系焼結磁石のHcJを向上させるために、R-T-B系焼結磁石表面にTb、Dy等の重希土類元素RHを供給し、粒界相を介して、重希土類元素RHを磁石表面から磁石内部に拡散させることが提案されている。これにより、主相外殻部(粒界近傍)に重希土類元素RHを多く分布させることができる。R-T-B系焼結磁石のHcJ発生機構は核生成型(ニュークリエーション型)であるため、主相外殻部(粒界近傍)に重希土類元素RHの薄いシェル層を分布させることにより、結晶粒全体の結晶磁気異方性が高められて、逆磁区の核生成が妨げられる結果、HcJが向上する。また、主相外殻部(粒界近傍)に重希土類元素RHの薄いシェル層(RH濃化層)を分布させることにより、Bの低下を抑制することができる。
特許文献1には、DyおよびTb等を含有する粉末をR-T-B系焼結磁石素材の表面に存在させた状態で焼結温度よりも低い温度で加熱することにより、この粉末からDyおよびTb等を焼結磁石素材の内部に拡散させる方法が記載されている。
特開2008-147634号公報
DyおよびTb等を含有する粉末をR-T-B系焼結磁石素材の表面に存在させた状態で熱処理を行う拡散工程は、例えば、複数のR-T-B系焼結磁石素材を搭載した支持板を拡散用熱処理炉内に搬送し、支持板ごとR-T-B系焼結磁石素材を加熱することによって実行され得る。このため、支持板は、拡散に必要な熱処理の温度(例えば800℃以上)に耐える材料から形成される。具体的には、支持板の材料としては、モリブデンおよびステンレス鋼が使用されている。また、R-T-B系焼結磁石素材と支持板との間には、両者の直接的な接触を避けるため、アルミナ粉末などの「敷き粉」が散布されている。拡散のための熱処理中にR-T-B系焼結磁石素材と支持板とが接触していると、R-T-B系焼結磁石素材またはR-T-B系焼結磁石素材に付着した粉末の一部が支持板に溶着し、R-T-B系焼結磁石素材を支持板から持ち上げるときにR-T-B系焼結磁石素材が破損する可能性がある。敷き粉は、このような溶着を抑制または防止する機能を果たすため、R-T-B系焼結磁石の製造歩留まりを向上させ得る。
しかし、本発明者の検討によると、支持板上に散布した敷き粉の一部が製造工程の途中に空気中に浮遊したり、製造装置および搬送装置などの各種装置に付着したりして、コンタミネーションの発生要因となり得ることがわかった。特に工場施設内の各種装置には多様なセンサが取り付けられているため、敷き粉がセンサのセンシング部に付着すると、装置の誤動作の原因となり、装置の稼働率が低下する恐れもある。このためには、敷き粉を用いることなくR-T-B系焼結磁石素材と支持板との溶着を抑制することが可能な支持板の開発が求められる。
本開示の実施形態は、上記の課題を解決することが可能な支持板を用いるR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、実施形態において、軽希土類元素RL(RLはNd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1種)を主たる(R全体の50質量%以上)希土類元素Rとして含有するRFe14B型化合物結晶粒を主相として有するR-T-B系焼結磁石素材(TはFe又はFeとCo)を用意する工程と、重希土類元素RH(RHはTb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1種)を含む合金の粉末から形成した拡散源粉末を用意する工程と、前記R-T-B系焼結磁石素材の少なくとも上面および下面に前記拡散源粉末を接触させる工程と、前記拡散源粉末が接触した状態のR-T-B系焼結磁石素材を支持板上に載置する工程と、前記支持板上に載置されたR-T-B系焼結磁石素材に対して、450℃以上前記R-T-B系焼結磁石素材の焼結温度以下の温度で1時間以上加熱する熱処理をして、前記拡散源粉末に含まれる重希土類元素RHを前記R-T-B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散する拡散工程とを含み、前記支持板の少なくとも上面は、アルミナの板から形成されており、前記上面の最大高さSzは、20μm以上100μm以下である。
ある実施形態において、前記アルミナは多孔質アルミナである。
ある実施形態において、前記多孔質アルミナの厚さは、1mm以上10mm以下であり、前記多孔質アルミナの気孔率は、15%以上35%以下である。
ある実施形態において、前記支持板の前記上面から下面までの領域は、前記多孔質アルミナから形成されており、前記支持板の厚さは、0.1mm以上20mm以下である。
ある実施形態において、前記重希土類元素RHを含む合金は、RHM合金粉末(MはNd、Pr、Ce、Cu、Ga、Fe、Co、Ni、およびAlからなる群から選択された少なくとも1種)である。
ある実施形態において、前記拡散工程では、前記支持板は、縦100mm×横50mmの矩形領域よりも広い領域の外側で下方から支持されている。
本開示によれば、R-T-B系焼結磁石素材に対する溶着が抑制される支持板を用いるため、敷き粉を用いる必要がなくなり、工場内における各種装置の動作に支障をきたすことなく、R-T-B系焼結磁石を製造することが実現し得る。
図1は、R-T-B系焼結磁石素材を載せたMo製支持板を模式的に示す斜視図である。 図2は、R-T-B系焼結磁石素材とMo製支持板との間に存在する敷き粉を示す断面図である。 図3は、R-T-B系焼結磁石素材をMo製支持板から持ち上げた状態を模式的に示す断面図である。 図4は、本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石の製造方法の工程を示すフローチャートである。 図5は、本実施形態における支持板の一部を模式的に示す断面図である。 図6Aは、本実施形態においてR-T-B系焼結磁石素材を載せた支持板を模式的に示す斜視図である。 図6Bは、本実施形態において支持板を積層するための支持枠を模式的に示す斜視図である。 図7は、本実施形態においてR-T-B系焼結磁石素材を載せた支持板および支持枠を積層した状態を模式的に示す斜視図である。
まず、図1から図3を参照して、アルミナ粉末などの「敷き粉」が散布されたMo製支持板を使用することによって生じる課題を説明する。
図1は、R-T-B系焼結磁石素材10を載せたMo製支持板20を模式的に示す斜視図である。図2は、R-T-B系焼結磁石素材10とMo製支持板20との間に存在する敷き粉40を示す断面図である。
図2に示されるように、R-T-B系焼結磁石素材10の表面には拡散源粉末30が付着している。拡散工程では、拡散のための熱処理炉の中で例えば450℃以上1000℃以下の温度に加熱されて拡散源粉末30が溶融し、拡散源粉末30に含有される元素がR-T-B系焼結磁石素材10の表面から内部に拡散する。敷き粉40は、溶融した拡散源粉末30がR-T-B系焼結磁石素材10とMo製支持板20との隙間に広がってR-T-B系焼結磁石素材10とMo製支持板20とを溶着することを防止する働きを担っている。このような敷き粉40は、例えば、コランダム型構造を有しており、公知の物を使用することができる。敷き粉40の粒子サイズは、例えば10~100μm程度である。粒子サイズは、メッシュ等によるふるい分けで選択される。敷き粉40は、例えば、Mo製支持板20の1cmあたり80mg程度となるように散布され得る。
拡散のための熱処理中にR-T-B系焼結磁石素材10とMo製支持板20とが直接に接触していると、R-T-B系焼結磁石素材10がMo製支持板20に溶着し、R-T-B系焼結磁石素材10をMo製支持板20から持ち上げるときにR-T-B系焼結磁石素材10が破損する可能性がある。敷き粉40は、このような溶着を抑制または防止する機能を果たす。
しかし、前述したように、Mo製支持板20などの支持板上に散布した敷き粉の一部は、製造工程の途中に空気中に浮遊したり、製造装置および搬送装置などの各種装置に付着したりして、コンタミネーションの発生要因となり得る。それらは、装置の誤動作の原因となり、装置の稼働率が低下する恐れもある。
さらに、次のような課題もある。
図3は、拡散工程が終了した後、R-T-B系焼結磁石素材10をMo製支持板20から持ち上げた状態を模式的に示す断面図である。図3に模式的に示されるように、R-T-B系焼結磁石素材10の表面には希土類元素Rを含む層32が形成され、敷き粉40の一部がR-T-B系焼結磁石素材10に付着する。一方、Mo製支持板20上に残る敷き粉40は、拡散源粉末30が溶融した際に生じた合金溶融物によってMo製支持板20に固着する。このため、Mo製支持板20の表面に対しては、拡散工程が終了するごとに、サンドブラストなどによるクリーニング処理を施す必要がある。
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法によれば、上記の課題を解決することが可能になる。以下、本開示の実施形態を説明する。
本開示の実施形態におけるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、図4のフローチャートに示されるように、
・R-T-B系焼結磁石素材(TはFe又はFeとCo)を用意する工程(S10)と、
・重希土類元素RH(RHはTb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1種)を含む合金の粉末から形成した拡散源粉末を用意する工程(S20)と、
・R-T-B系焼結磁石素材の少なくとも上面および下面に拡散源粉末を接触させる工程(S30)と、
・拡散源粉末が接触した状態のR-T-B系焼結磁石素材を支持板上に載置する工程(S40)と、
・支持板上に載置されたR-T-B系焼結磁石素材に対して、450℃以上前記R-T-B系焼結磁石素材の焼結温度以下の温度で1時間以上加熱する熱処理をして、拡散源粉末に含まれる重希土類元素RHをR-T-B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散する拡散工程(S50)と、
を含む。
ここで、R-T-B系焼結磁石素材は、軽希土類元素RL(RLはNd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するRFe14B型化合物結晶粒を主相として有する。また、本開示において、拡散工程前および拡散工程中のR-T-B系焼結磁石を「R-T-B系焼結磁石素材」と称し、拡散工程後のR-T-B系焼結磁石を「R-T-B系焼結磁石」と称する。
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法で重要な点は、支持板の少なくとも上面(R-T-B系焼結磁石素材が載置される上面)が、アルミナの層から形成されており、かつ、前記上面の最大高さSz(表面粗さ)は、20μm以上100μm以下であることにある。本開示において、「アルミナ」は、95%以上がアルミナ(Al)のセラミックスであることが好ましく、多孔質アルミナであることがさらに好ましい。多孔質アルミナの気孔率は15%以上35%以下の範囲にあることが好ましい。アルミナの層の厚さは例えば1mm以上10mm以下である。支持板の全体がアルミナの層から形成されていてもよく、その場合、支持板をアルミナの板と呼ぶことができる。このような支持板を用いることにより、敷き粉を用いることなくR-T-B系焼結磁石素材と支持板との溶着を抑制することが可能になる。
上記の各工程について説明する前に、本実施形態における支持板の構成例について説明する。
<支持板の構成例>
図5は、本実施形態における支持板50の一部を模式的に示す断面図である。図6Aは、本実施形態においてR-T-B系焼結磁石素材10を載せた支持板50を模式的に示す斜視図であり、図6Bは、本実施形態において支持板50を積層するための支持枠60を模式的に示す斜視図である。図7は、本実施形態においてR-T-B系焼結磁石素材10を載せた支持板50および支持枠60を積層した状態を模式的に示す斜視図である。
まず、図5を参照する。本開示の実施形態における支持板50は、前述したように、少なくとも上面58がアルミナの層から形成されている(図5では多孔質アルミナの例)。アルミナは、R-T-B系焼結磁石素材10および拡散源粉末30に含まれる金属元素との反応性が低く、化学的に安定である。また、アルミナの層(上面)の最大高さSz(表面粗さ)は20μm以上100μm以下である。表面粗さが、この範囲よりも小さいと、R-T-B系焼結磁石素材10と支持板50との間でいわゆる「面接触」が生じ、R-T-B系焼結磁石素材10の表面に付着していた拡散源粉末30の溶融物が、拡散工程中において、R-T-B系焼結磁石素材10と支持板50との間の隙間を満たし、溶着が生じやすくなる。支持板50の上面58の表面粗さを20μm以上100μm以下の範囲にすることにより、R-T-B系焼結磁石素材10と支持板50との間で、いわゆる「点接触」が生じるため、上記の溶融物がR-T-B系焼結磁石素材10と支持板50の非一様な隙間を埋めて両者の固着を防止できる。これにより、Al粉末などの敷き粉を用いることなくR-T-B系焼結磁石素材と支持板との溶着を抑制することが可能となる。表面粗さが100μmを超えて大きくなると、R-T-B系焼結磁石素材10の支持板50による支持が不安になり、支持板50上でR-T-B系焼結磁石素材10が滑って動きやすくなる。支持板50上でR-T-B系焼結磁石素材10が移動しやすいと、R-T-B系焼結磁石素材10を支持板50上に載置した状態で支持板50の搬送を行うとき、隣接して配置されたR-T-B系焼結磁石素材10どうしが衝突して欠けを発生させる可能性がある。
また、好ましくは、アルミナは多孔質アルミナである。サンドブラストなどにより、簡便に表面に微細な凹凸を形成させることができる。さらに、微細な凹凸により、拡散のための熱処理時に拡散源粉末30が溶融しても、支持板50の表面に濡れ拡がることが抑制されてより確実にR-T-B系焼結磁石素材と支持板との溶着を抑制することが可能となる。表面粗さは、R-T-B系焼結磁石素材10が載られている場所(範囲)において測定される。また、本開示において表面粗さは、Sz(最大高さ)の値を用いる。Szは、ISO25178表面性状(面粗さ測定)にて規定される値であり、Szは、ある面上における最大高さ(表面の最も高い点から最も低い点までの高さの差)である。20μm以上100μm以下の表面粗さを実現するには、例えば、サンドブラストによる粗面化処理を行ってもよいし、多数の小さなストライプ溝を含む表面テキスチャ構造を形成してもよい。
なお、薄板状の多孔質アルミナは、グリーンシートを焼成するシート成形方法によって製造され得る。このような方法で製造された多孔質アルミナの層には、わずかな撓みが生じ得るため、上面が完全な平坦性を有していない場合がある。その場合、サンドブラスト処理を行わない場合でも、R-T-B系焼結磁石素材10との接触は「点接触」に近く、溶着が生じる可能性が低減される。このような点接触を実現する撓みは、多孔質アルミナの層の表面におけるSzの値が20μm以上100μm以下の範囲にすることで定量的に規定され得る。
図6Aに示されるように、1枚の支持板50に多数のR-T-B系焼結磁石素材10を載せるためには、R-T-B系焼結磁石素材10の総重量を支える十分な機械的強度を有することが望ましい。例えば、図6Bに示す支持枠60を用いて、図7に示すようにR-T-B系焼結磁石素材10を積層する場合、支持板50の撓み量を可能な限りに小さくすることが好ましい。支持板50の許容され得る撓み量の最大値は、積層された状態で、支持板50が下方に位置するR-T-B系焼結磁石素材10に接触しないように決定される。
以下、各工程の詳細な例を説明する。
<R-T-B系焼結磁石素材を用意する工程>
軽希土類元素RL(RLはNd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するR2Fe14B型化合物結晶粒を主相として有するR-T-B系焼結磁石素材(TはFe又はFeとCo)10を用意する。
R-T-B系焼結磁石素材10は公知のものが使用できる。例えば、以下の組成を有する。
希土類元素R:27.5~35.0質量%、
B(B(ボロン)の一部はC(カーボン)で置換されていてもよい):0.80~1.20質量%、
Ga:0~0.8質量%、
添加元素M(Al、Cu、Zr、Nbからなる群から選択された少なくとも1種):0~2質量%、
T((TはFe又はFeとCo)及び不可避不純物:残部。
希土類元素Rは主として軽希土類元素RLを含有するが、重希土類元素RH(RHはTb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1種)を含有していてもよい。
上記組成のR-T-B系焼結磁石素材は、公知の任意の製造方法によって製造される。R-T-B系焼結磁石素材10は焼結上がりでもよいし、切削加工や研磨加工が施されていてもよい。
また、R-T-B系焼結磁石素材10は、その厚さ方向の寸法が1mm以上5mm以下であることが好ましい。厚さ方向とは、例えば、磁石が矩形状で、4mm×4mm×2mmの場合は、最小の寸法方向である2mmの方向が厚さ方向となる。また、寸法が同じ場合、例えば、2mm×2mm×2mmの場合は、2mmが厚さ方向となる。厚さ方向の寸法が1mm未満になると強度不足によるひびや割れが発生する可能性があり、5mmを超えると、R-T-B系焼結磁石素材10の中央部分にまで十分な重希土類元素RHを拡散させることが困難になる可能性がある。また、必ずしも厚さ方向が磁化方向である必要はなく、厚さ方向と異なる方向が磁化方向であってもよい。
<拡散源粉末を用意する工程>
重希土類元素RH(RHはTb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1種)を含む合金の粉末を含む拡散源粉末30を用意する。
拡散源粉末30は、例えばRHM合金粉末(MはNd、Pr、Ce、Cu、Ga、Fe、Co、Ni、およびAlからなる群から選択された少なくとも1種)である。
RHM合金粉末の作製方法は、特に限定されない。ロール急冷法によって合金薄帯を作製し、この合金薄帯を粉砕する方法で作製してもよいし、遠心アトマイズ法、回転電極法、ガスアトマイズ法、プラズマアトマイズ法などの公知のアトマイズ法で作製してもよい。鋳造法で作製したインゴットを粉砕してもよい。RHM合金粉末の典型例は、DyFe合金粉末、DyAl合金粉末、DyCu合金粉末、TbFe合金粉末、TbAl合金粉末、TbCu合金粉末、DyFeCu合金粉末、TbCuAl合金粉末、TbNdCu合金粉末、DyNdCu合金粉末、TbNdPrCu合金粉末、TbNdCePrCu合金粉末、TbNdGa合金粉末、TbNdPrGaCu合金粉末などである。また、RHM合金粉末は、好ましくはCuを含む。Cuを含むことにより、R-T-B系焼結磁石素材10の表層領域からさらに奥の領域(磁石の中央部分)にまで十分な重希土類元素RHを拡散させることができる。RHM合金粉末の粒度は、例えば500μm以下であり、小さいものは10μm程度である。
<R-T-B系焼結磁石素材10の表面に拡散源粉末を接触させる工程>
上記のR-T-B系焼結磁石素材10を用意した後、R-T-B系焼結磁石素材10の少なくも上面および下面に拡散源粉末30を接触させる。なお、R-T-B系焼結磁石の少なくとも上面および下面とは、支持板に載置したときに鉛直方向の下側になる下面および上側になる上面である。R-T-B系焼結磁石素材10の表面に拡散源粉末30を接触させる方法は特に問わない。例えば、スプレー法、浸漬法、ディスペンサーにより、拡散源粉末30をR-T-B系焼結磁石素材10の表面に塗布してもよい。また、R-T-B系焼結磁石素材10の表面に粘着剤を塗布し、粘着剤上に拡散源粉末30を散布してもよい。
本実施形態では、粘着剤が塗布されたR-T-B系焼結磁石素材10を、流動させた拡散源粉末の中に浸漬させる方法、いわゆる流動浸漬法(fluidized bed coating process)を用いる。拡散源粉末を流動させる方法はどのような方法でも良い。例えば、下部に多孔質の隔壁を設けた容器に拡散源粉末を入れ、隔壁の下部から大気又は不活性ガスなどの気体に圧力をかけて容器内に注入し、その圧力又は気流で隔壁上方の拡散源粉末を浮かせてもよい。容器の内部で流動する拡散源粉末中に、粘着剤が塗布されたR-T-B系焼結磁石素材10を浸漬させる(配置または通過させる)ことにより、拡散源粉末をR-T-B系焼結磁石素材10に付着させることができる。粘着剤が塗布されたR-T-B系焼結磁石素材10を浸漬する時間は、例えば0.5~5.0秒程度である。流動浸漬法によれば、容器内に拡散源粉末が流動(撹拌)されるため、比較的大きい粉末粒子が偏って磁石表面に付着したり、逆に比較的小さい粉末粒子が隔たって磁石表面に付着したりすることが抑制される。そのため、より均一にR-T-B系焼結磁石素材10に拡散源粉末30を付着させることができる。
<R-T-B系焼結磁石素材を支持板上に載置する工程>
図7に示されるように、表面に拡散源粉末30が付着した状態の複数のR-T-B系焼結磁石素材10を支持板50に載置し、支持枠60を介して積層する。支持板50および支持枠60の形状は、図示されている例に限定されない。量産性を高めるという観点から、支持板50は、例えば縦100mm×横50mmの矩形領域よりも広い領域(支持領域)の外側で支持枠60によって下方から支持されていることが好ましい。支持領域のサイズは、支持板50の厚さを例えば4mm以上にすれば、縦400mm×横150mmの矩形領域よりも拡大することができる。そのような構成を採用することにより、1層あたりに搭載可能なR-T-B系焼結磁石素材10の個数を十分に多くすることができる。一方、支持板50は、このような広さで十分に小さな撓みを実現することが求められる。本開示の実施形態によれば、アルミナが有する耐熱性および強度により、上記のような広さを有する支持板50であっても、比較的薄い厚さ(好ましくは3mm以下)で実現可能である。また、モリブデンやステンレス鋼製の板上に比較的薄いアルミナからなる支持板を載せ、拡散源粉末が付着した複数のR-T-B系焼結磁石素材を載置してもよい。
<拡散工程>
上記のように支持板50に搭載されたR-T-B系焼結磁石素材10に対して、450℃以上で、かつ、R-T-B系焼結磁石素材10の焼結温度以下の温度で、1時間以上加熱する熱処理を行う。この熱処理により、拡散源粉末30に含まれる重希土類元素RHをR-T-B系焼結磁石素材10の表面から内部に拡散させることができる。加熱温度が450℃以下であると、重希土類元素RHを含む液相量が少なすぎてR-T-B系焼結磁石の内部への拡散が不十分となり高いHcJを得ることが出来ない可能性がある。また、拡散のための熱処理温度が焼結温度を超えると、異常粒成長が発生し、B及びHcJが大きく低下する可能性がある。拡散のための熱処理温度は、好ましくは850℃以上950℃以下であり、この温度範囲で拡散を行うことにより、より高いHcJを得ることができる。また、熱処理は、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。
上述したように、加熱時間を1時間以上行うことにより、R-T-B系焼結磁石の表層領域において、重希土類元素RHを主相外殻部(粒界近傍)に拡散させることができ、磁石の表層領域からさらに奥の領域(磁石の中央部分)にまで重希土類元素RHを拡散させることができる。これにより、Bの低下を抑制しつつ高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができる。
本開示の拡散工程における加熱時間は、R-T-B系焼結磁石素材10の温度が設定温度になった時(例えば設定温度が920℃の場合は920℃になった時)を開始点とし、設定温度よりも20℃を超えて低くなった時(例えば設定温度が920℃の場合は900℃未満になった時)を終了点とする。熱処理を2回以上に分けて行う場合は、合計時間が30時間以上になればよい。また、R-T-B系焼結磁石素材10の温度は、例えば、R-T-B系焼結磁石素材10に熱電対をとりつけることにより測定することができる。加熱時間は、好ましくは8時間以上45時間以下であり、より好ましくは10時間以上36時間以下である。
拡散工程を行った後のR-T-B系焼結磁石は、磁気特性を向上させることを目的とした第二の熱処理を行ってもよい。第二の熱処理における温度、時間などの条件は、焼結磁石の熱処理条件として公知の条件(例えば、500℃で3時間)を採用することができる。また、最終的な磁石寸法の調整を研削などの機械加工等により行ってもよい。この場合、第二の熱処理の前に行っても、後に行ってもよい。第二の熱処理時には、支持板50をそのまま使用してもよい。
本開示の実施形態によれば、上記の拡散工程を行っても、R-T-B系焼結磁石素材10と支持板50との間における溶着が抑制または防止される。そして、敷き粉が不要になるため、前述した課題が解決される。
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
(R-T-B系焼結磁石素材を用意する工程)
R-T-B系焼結磁石素材がおよそ表1の符号1-Aの組成となるように秤量しストリップキャスト法により鋳造し、厚さ0.2~0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金を水素粉砕した後、550℃まで真空中で加熱後冷却する脱水素処理を施し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、粒径D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径)である。
前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100質量%に対して0.05質量%添加、混合した後磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
得られた成形体を4時間焼結(焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)し、R-T-B系焼結磁石素材(No.1-A)を複数個用意した。得られたR-T-B系焼結磁石素材の密度は7.5Mg/m以上であった。得られたR-T-B系焼結磁石素材の成分の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解-赤外線吸収法で測定した結果、0.1質量%前後であることを確認した。また、No.1-AのR-T-B系焼結磁石素材を切断、切削加工し、4.4mm×10.0mm×11.0mmの直方体(10.0mm×11.0mmの面が配向方向と垂直な面、4.4mm方向が厚さ方向であり、配向方向)とした。
Figure 0007439610000001
(拡散源粉末を用意する工程)
表2のNo.1-aに示す組成の合金粉末をアトマイズ法により作成することにより、拡散源粉末を用意した。得られた拡散源粉末の粒度は106μm以下であった。
Figure 0007439610000002
(R-T-B系焼結磁石素材の少なくとも上面および下面に拡散源粉末を接触させる工程)
次に、表1のNo.1-AのR-T-B系焼結磁石素材表面全面に粘着剤を塗布した。塗布方法は、R-T-B系焼結磁石素材をホットプレート上で60℃に加熱後、スプレー法でR-T-B系焼結磁石素材に粘着剤を塗布した。粘着剤としてPVP(ポリビニルピロリドン)を用いた。
次に、粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材(No.1-A)に対して、表2のNo.1-aの拡散源粉末を付着させた。付着方法は、容器に拡散源粉末を広げ、容器内で拡散源粉末を、粘着剤が塗布されたR-T-B系焼結磁石素材全面にまぶすように付着させた。
(拡散源粉末が接触した状態のR-T-B系焼結磁石素材を支持板上に載置する工程)
サイズが100mm×50m×2.5mmの多孔質アルミナの板を用意した。前記多孔質アルミナは、95%以上がアルミナ(Al)のセラミックスであり、気孔率は20%であった。更に多孔質アルミナの板をサンドブラストにより表面を荒らした。最大高さSz(表面粗さ)を測定したところ、Sz=40μmであった。サンドブラス後の多孔質アルミナの板(支持板)上に、拡散源粉末が接触した状態のR-T-B系焼結磁石素材を10個載置した。
(拡散工程)
管状流気炉を用いて、200Paに制御した減圧アルゴン中で、拡散源粉末(No.1-a)が接触した状態のR-T-B系焼結磁石素材を、900℃で8時間加熱する熱処理(拡散工程)を行った。更に拡散処理後のR-T-B系焼結磁石に対し、500℃で3時間加熱する第二の熱処理を行いR-T-B系焼結磁石を得た。
熱処理後のR-T-B系焼結磁石と支持板との溶着の有無を確認したところ、溶着は確認されなかった。
本開示により得られたR-T-B系焼結磁石は、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品等などに好適に利用することができる。
10・・・R-T-B系焼結磁石素材、20・・・Mo製支持板、30・・・拡散源粉末、50・・・支持板、58・・・支持板の上面、59・・・支持板の下面、60・・・支持枠

Claims (3)

  1. 軽希土類元素RL(RLはNd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1種)を主たる希土類元素Rとして含有するRFe14B型化合物結晶粒を主相として有するR-T-B系焼結磁石素材(TはFe又はFeとCo)を用意する工程と、
    重希土類元素RH(RHはTb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1種)を含む合金の粉末を含む拡散源粉末を用意する工程と、
    前記R-T-B系焼結磁石素材の少なくとも上面および下面に前記拡散源粉末を接触させる工程と、
    前記拡散源粉末が接触した状態のR-T-B系焼結磁石素材を支持板上に載置する工程と、
    前記支持板上に載置されたR-T-B系焼結磁石素材に対して、450℃以上、かつ前記R-T-B系焼結磁石素材の焼結温度以下の温度で1時間以上加熱する熱処理をして、前記拡散源粉末に含まれる重希土類元素RHを前記R-T-B系焼結磁石素材の表面から内部に拡散させる拡散工程と、
    を含み、
    前記支持板は、少なくとも上面側には、アルミナの層を備え、前記上面の最大高さSzは、20μm以上100μm以下である、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
  2. 前記アルミナは15%以上35%以下の気孔率を有する、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
  3. 記アルミナの厚さは、1mm以上10mm以下であ
    請求項2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
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