JP7428181B2 - 二次電池電極用バインダー及びその利用 - Google Patents

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Description

本発明は二次電池電極用バインダー及びその利用に関する。詳細には、二次電池電極用バインダー、並びに、当該二次電池電極用バインダーを用いて得られる二次電池電極合剤層用組成物、二次電池電極及び二次電池に関する。
二次電池として、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等の様々な蓄電デバイスが実用化されている。これらの二次電池に使用される電極は、活物質及びバインダー等を含む電極合剤層を形成するための組成物を集電体上に塗布・乾燥等することにより作製される。例えばリチウムイオン二次電池では、負極合剤層用組成物に用いられるバインダーとして、スチレンブタジエンゴム(SBR)ラテックス及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む水系のバインダーが使用されている。また、分散性及び結着性に優れるバインダーとして、アクリル酸系重合体水溶液又は水分散液を含むバインダーが知られている。一方、正極合剤層に用いられるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液が広く使用されている。
各種二次電池の用途が拡大するにつれて、エネルギー密度、信頼性及び耐久性向上への要求が強まる傾向にある。例えば、リチウムイオン二次電池の電気容量を高める目的で、負極用活物質としてシリコン系の活物質を用いる仕様が増えてきている。しかしながら、シリコン系活物質は充放電時の体積変化が大きいことが知られており、繰り返し使用するにつれて電極合剤層の剥離又は脱落等が生じ、その結果、電池の容量が低下し、サイクル特性(耐久性)が悪化するという問題があった。このような不具合を抑制するためには、一般的にはバインダーの結着性を高めることが有効であり、耐久性を改善する目的で、バインダーの結着性向上に関する検討が行われている。
例えば、特許文献1では、リチウムイオン二次電池の負極合剤層を形成する結着剤としてポリアルケニルエーテルにより架橋したアクリル酸系重合体が開示されている。特許文献2には、エチレン性不飽和カルボン酸化合物と、特定の水溶解度を示すエチレン性不飽和結合を有する化合物と、を含む単量体組成物を重合して得られる共重合体を含むリチウムイオン二次電池電極用バインダーが開示されている。特許文献3には、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来の構造単位を特定量含む架橋重合体又はその塩であって、当該架橋重合体を中和し、水膨潤させた後の塩水中の粒子径が、特定の小粒径範囲を示す架橋重合体を含む非水電解質二次電池電極用バインダーが開示されている。
国際公開第2014/065407号 国際公開第2015/186363号 国際公開第2017/073589号
特許文献1~3に開示されるバインダーは、いずれも良好な結着性を付与し得るものである。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1~3に開示されるバインダー及び電極活物質を含む電極合剤層用組成物(以下、「電極スラリー」ともいう。)を用いた電極の製造に際し、溶媒乾燥時間の短縮による生産性向上のために、当該電極スラリーの固形分濃度を50質量%程度まで高めた場合、当該電極スラリーが高粘度化して均一塗工が困難となり、ひいては、結着性やサイクル特性に影響を与えることが問題となることがあった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電極スラリーの固形分濃度を50質量%程度まで高めた場合であっても、電極スラリーの均一塗工が可能であり、高い結着性及びサイクル特性を発揮することが可能な二次電池電極用バインダーを提供する。また、併せて、上記バインダーを用いて得られる二次電池電極合剤層用組成物、二次電池電極及び二次電池も提供する。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、架橋重合体を含むバインダーを用いた電極スラリーの固形分濃度を50質量%程度まで高めた場合であっても、当該架橋重合体に含まれるゾル分の割合を特定の値にすることによって、電極スラリーの均一塗工が可能であり、高い結着性及びサイクル特性を発揮することが可能となる事を見出し、本発明を完成した。
本発明は以下の通りである。
〔1〕架橋重合体又はその塩を含有する二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体又はその塩は、ゾル分率が5.0質量%未満である、二次電池電極用バインダー。
〔2〕前記架橋重合体又はその塩は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含む、前記〔1〕に記載の二次電池電極用バインダー。
〔3〕前記架橋重合体又はその塩は、中和度80~100モル%に中和された後、水媒体中で測定した粒子径が、体積基準メジアン径で0.1μm以上10μm以下である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の二次電池電極用バインダー。
〔4〕前記架橋重合体又はその塩は、pH8における水膨潤度が3.0以上、100以下である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の二次電池電極用バインダー。
〔5〕前記ゾル分のポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール換算による重量平均分子量が300,000以下である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の二次電池電極用バインダー。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の二次電池電極用バインダー、活物質及び水を含む、二次電池電極合剤層用組成物。
〔7〕集電体表面に、前記〔6〕に記載の二次電池電極合剤層用組成物から形成される合剤層を備える、二次電池電極。
〔8〕前記〔7〕に記載の二次電池電極を備える、二次電池。
本発明の二次電池電極用バインダーによれば、結着性に優れた合剤層を有するとともに、サイクル特性に優れた二次電池を得ることができる。このため、活物質にシリコン系活物質を含む場合であっても、二次電池の耐久性向上に寄与し得る。
架橋重合体又はその塩の水膨潤度の測定に用いる装置を示す図である。
本発明の二次電池電極用バインダーは、架橋重合体又はその塩を含有するものであり、活物質及び水と混合することにより二次電池電極合剤層組成物(以下、単に「本組成物」ともいう。)とすることができる。上記の組成物は、集電体への塗工が可能なスラリー状態の電極スラリーであることが、本発明の効果を奏する点で好ましいが、湿粉状態として調製し、集電体表面へのプレス加工に対応できるようにしてもよい。銅箔又はアルミニウム箔等の集電体表面に上記組成物から形成される合剤層を形成することにより、本発明の二次電池電極が得られる。
以下に、本発明の二次電池電極用バインダー、当該バインダーを用いて得られる二次電池電極合剤層用組成物、二次電池電極及び二次電池の各々について詳細に説明する。
尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
本発明のバインダーは、架橋重合体又はその塩を含む。当該架橋重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸に由来する構造単位を有していてもよい。
1.架橋重合体
<エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位>
架橋重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位(以下、「(a)成分」ともいう)を有することができる。架橋重合体が、係る構造単位を有することによりカルボキシル基を有する場合、集電体への接着性が向上するとともに、リチウムイオンの脱溶媒和効果及びイオン伝導性に優れるため、抵抗が小さく、ハイレート特性に優れた電極が得られる。また、水膨潤性が付与されるため、合剤層組成物中における活物質等の分散安定性を高めることができる。
上記(a)成分は、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体を重合することにより架橋重合体に導入することができる。その他にも、(メタ)アクリル酸エステル単量体を(共)重合した後、加水分解することによっても得られる。また、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロニトリル等を重合した後、強アルカリで処理してもよいし、水酸基を有する重合体に酸無水物を反応させる方法であってもよい。
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸;(メタ)アクリルアミドヘキサン酸及び(メタ)アクリルアミドドデカン酸等の(メタ)アクリルアミドアルキルカルボン酸;コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体又はそれらの(部分)アルカリ中和物が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の中でも、重合速度が大きいために一次鎖長の長い重合体が得られ、バインダーの結着力が良好となる点で重合性官能基としてアクリロイル基を有する化合物が好ましく、特に好ましくはアクリル酸である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてアクリル酸を用いた場合、カルボキシル基含有量の高い重合体を得ることができる。
架橋重合体における(a)成分の含有量は、特に限定するものではないが、例えば、架橋重合体の全構造単位に対して10質量%以上、100質量%以下含むことができる。かかる範囲で(a)成分を含有することで、集電体に対する優れた接着性を容易に確保することができる。下限は、例えば20質量%以上であり、また例えば30質量%以上であり、また例えば40質量%以上である。下限が50質量%以上の場合、分散安定性、結着性及び二次電池としての耐久性が良好となる点で好ましい。下限は、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。また、上限は、例えば、99質量%以下であり、また例えば98質量%以下であり、また例えば95質量%以下であり、また例えば90質量%以下である。範囲としては、こうした下限及び上限を適宜組み合わせた範囲とすることができるが、例えば、10質量%以上、100質量%以下であり、また例えば20質量%以上、100質量%以下であり、また例えば30質量%以上、100質量%以下であり、また例えば50質量%以上、100質量%以下であり、また例えば50質量%以上、99質量%以下などとすることができる。
<その他の構造単位>
架橋重合体は、(a)成分以外に、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「(b)成分」ともいう。)を含むことができる。(b)成分としては、(a)成分以外のエチレン性不飽和基を有する単量体に由来する構造単位であり、例えば、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシル基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、又は非イオン性のエチレン性不飽和単量体等に由来する構造単位が挙げられる。これらの構造単位は、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシル基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、又は非イオン性のエチレン性不飽和単量体を含む単量体を共重合することにより導入することができる。
(b)成分の割合は、架橋重合体の全構造単位に対し、0質量%以上、90質量%以下とすることができる。(b)成分の割合は、1質量%以上、60質量%以下であってもよく、2質量%以上、50質量%以下であってもよく、5質量%以上、40質量%以下であってもよく、10質量%以上、30質量%以下であってもよい。また、架橋重合体の全構造単位に対して(b)成分を1質量%以上含む場合、電解液への親和性が向上するため、リチウムイオン伝導性が向上する効果も期待できる。
(b)成分としては、前記した中でも、耐屈曲性良好な電極が得られる観点から非イオン性のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位が好ましく、非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、脂環構造含有エチレン性不飽和単量体、水酸基含有エチレン性不飽和単量体等が挙げられる。
(メタ)アクリルアミド誘導体としては、例えば、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、t-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド化合物;N-n-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド化合物;ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
脂環構造含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロデシル及び(メタ)アクリル酸シクロドデシル等の脂肪族置換基を有していてもよい(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、並びに、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート及びシクロデカンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等のシクロアルキルポリアルコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
水酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
その他の非イオン性のエチレン性不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物;
(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェニルメチル、(メタ)アクリル酸フェニルエチル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル化合物;
(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル化合物等が挙げられ、これらの内の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本重合体又はその塩は、バインダーの結着性が優れる点で、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、脂環構造含有エチレン性不飽和単量体等に由来する構造単位を含むことが好ましい。また、(b)成分として、水中への溶解性が1g/100ml以下の疎水性のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を導入した場合、電極材料と強い相互作用を奏することができ、活物質に対して良好な結着性を発揮することができる。これにより、堅固で一体性の良好な電極合剤層を得ることができるため、前記した「水中への溶解性が1g/100ml以下の疎水性のエチレン性不飽和単量体」としては、特に脂環構造含有エチレン性不飽和単量体が好ましい。
本発明に係る架橋重合体又はその塩は、得られる二次電池のサイクル特性が向上することから、水酸基含有エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含むことが好ましく、当該構造単位を0.5質量%以上、70質量%以下含むことが好ましく、0.5質量%以上、50質量%以下含むことがより好ましく、1.0質量%以上、50質量%以下含むことがさらに好ましい。
非イオン性のエチレン性不飽和単量体の中でも、重合速度が速いために一次鎖長の長い重合体が得られ、バインダーの結着力が良好となる点でアクリロイル基を有する化合物が好ましい。
架橋重合体は塩であってもよい。塩の種類としては特に限定しないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム塩及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;マグネシウム塩、アルミニウム塩等のその他の金属塩;アンモニウム塩及び有機アミン塩等が挙げられる。これらの中でも電池特性への悪影響が生じにくい点からアルカリ金属塩及びマグネシウム塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。また、抵抗の低い二次電池が得られる観点から、リチウム塩が特に好ましい。
<架橋重合体の態様>
本発明の架橋重合体における架橋方法は特に制限されるものではなく、例えば以下の方法による態様が例示される。
1)架橋性単量体の共重合
2)ラジカル重合時のポリマー鎖への連鎖移動を利用
3)反応性官能基を有する重合体を合成後、必要に応じて架橋剤を添加して後架橋
重合体が架橋構造を有することにより、当該重合体又はその塩を含むバインダーは、優れた結着力を有することができる。上記の内でも、操作が簡便であり、架橋の程度を制御し易い点から架橋性単量体の共重合による方法が好ましい。
<架橋性単量体>
架橋性単量体としては、2個以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性単量体、及び加水分解性シリル基等の自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体等が挙げられる。
上記多官能重合性単量体は、(メタ)アクリロイル基、アルケニル基等の重合性官能基を分子内に2つ以上有する化合物であり、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アルケニル化合物、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの内でも、均一な架橋構造を得やすく、ゾル分率の調整が容易な点で多官能アルケニル化合物が好ましく、分子内に複数のアリルエーテル基を有する多官能アリルエーテル化合物が特に好ましい。
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性体のトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート;メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチレンビスアクリルアミド等のビスアミド類等を挙げることができる。
多官能アルケニル化合物としては、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、ポリアリルサッカロース等の多官能アリルエーテル化合物;ジアリルフタレート等の多官能アリル化合物;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物等を挙げることができる。
(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソプロペニル、(メタ)アクリル酸ブテニル、(メタ)アクリル酸ペンテニル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等を挙げることができる。
上記自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体の具体的な例としては、加水分解性シリル基含有ビニル単量体、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
加水分解性シリル基含有ビニル単量体としては、加水分解性シリル基を少なくとも1個有するビニル単量体であれば、特に限定されない。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランン等のビニルシラン類;アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル等のシリル基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸トリメトキシシリルプロピル、メタクリル酸トリエトキシシリルプロピル、メタクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、メタクリル酸ジメチルメトキシシリルプロピル等のシリル基含有メタクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル等のシリル基含有ビニルエーテル類;トリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等のシリル基含有ビニルエステル類等を挙げることができる。
架橋重合体が架橋性単量体により架橋されたものである場合、上記架橋性単量体の使用量は、架橋性単量体以外の単量体(非架橋性単量体)の総量に対して0.3~5モル%であることが好ましく、0.7~5モル%であることがより好ましく、0.7~3モル%であることがさらに好ましく、1.5~3モル%であることが一層好ましい。架橋性単量体の使用量が0.3モル%以上であれば結着性及び電極スラリーの安定性がより良好となる点で好ましい。5モル%以下であれば、架橋重合体の安定性が高くなる傾向がある。
また、架橋性単量体の使用量は、架橋重合体の全構成単量体中、好ましくは0.7~20質量%であり、より好ましくは1.0~15質量%であり、さらに好ましくは2.0~10質量%であり、一層好ましくは3.0~10質量%である。
<架橋重合体のゾル分率>
架橋重合体又はその塩のゾル分率は、5.0質量%未満である。ゾル分率が上記である場合、優れた結着性を示す電極が得られるとともに、当該電極を含む二次電池のサイクル特性向上に対しても優れた効果を奏する。ゾル分率の下限値は、0.1質量%以上であってもよく、0.2質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよく、1.0質量%以上であっても良い。
本明細書におけるゾル分は、主に三次元架橋構造を有さない重合体から構成されるものであり、架橋重合体又はその塩に含まれるゾル分率は、公知の方法により調整することができる。すなわち、架橋剤の種類及びその使用量、重合体の一次鎖長等を調整することにより、ゾル分率を所望の範囲に設定することができる。例えば架橋剤使用量の増量や、一次鎖長を増大させることにより、ゾル分率は一般的に減少する。
<架橋重合体のゾル分の重量平均分子量>
架橋重合体又はその塩のゾル分の重量平均分子量は、ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール換算の値として300,000以下であることが好ましい。より好ましくは200,000以下であり、さらに好ましくは150,000以下であり、一層好ましくは100,000以下である。ゾル分の重量平均分子量が上記である場合、電極スラリーの塗工性に優れ、優れた結着性を示す電極が得られるとともに、当該電極を含む二次電池のサイクル特性向上に対しても優れた効果を奏する。ゾル分の重量平均分子量の下限値は、1,000以上であってもよく、2,000以上であってもよく、3,000以上であってもよく、5,000以上であってもよく、10,000以上であってもよい。
なお、上記架橋重合体のゾル分の重量平均分子量は、ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール換算の値であり、本明細書実施例に記載の方法により測定することができる。
<架橋重合体の粒子径>
本組成物において、架橋重合体が大粒径の塊(二次凝集体)として存在することなく、適度な粒径を有する水膨潤粒子として良好に分散している場合、当該架橋重合体を含むバインダーが良好な結着性能を発揮し得るため好ましい。
本発明の架橋重合体又はその塩は、該架橋重合体が有するカルボキシル基に基づく中和度が80~100モル%であるものを水中に分散させた際の粒子径(水膨潤粒子径)が、体積基準メジアン径で0.1μm以上、10.0μm以下の範囲にあることが好ましい。粒子径が0.1μm以上、10.0μm以下の範囲であれば、本組成物中において好適な大きさで均一に存在するため、本組成物の安定性が高く、優れた結着性を発揮することが可能となる。粒子径が10.0μmを超えると、上記の通り結着性が不十分となる虞がある。また、平滑性な塗面が得られにくい点で、塗工性が不十分となる虞がある。一方、粒子径が0.1μm未満の場合には、安定製造性の観点において懸念される。上記粒子径の下限は、0.2μm以上であってもよく、0.3μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよい。粒子径の上限は9.0μm以下であってもよく、8.0μm以下であってもよく、7.0μm以下であってもよく、5.0μm以下であってもよく、3.0μm以下であってもよい。粒子径の範囲は、上記下限値及び上限値を適宜組合わせて設定することができ、例えば、0.1μm以上、9.0μm以下であってもよく、0.2μm以上、8.0μm以下であってもよく、0.3μm以上、5.0μm以下であってもよい。
なお、上記水膨潤粒子径は、本明細書実施例に記載の方法により測定することができる。
架橋重合体が未中和若しくは中和度80モル%未満の場合は、アルカリ金属水酸化物等により中和度80~100モル%に中和し、水中に分散させた際の粒子径を測定すればよい。一般に、架橋重合体又はその塩は、粉末又は溶液(分散液)の状態では一次粒子が会合、凝集した塊状粒子として存在する場合が多い。上記の水分散させた際の粒子径が上記範囲である場合、当該架橋重合体又はその塩は極めて優れた分散性を有するものであり、中和度80~100モル%に中和して水分散することにより塊状粒子が解れ、ほぼ一次粒子の分散体、若しくは2次凝集体であっても、その粒子径が0.1~10.0μmの範囲内にある、安定な分散状態を形成するものである。
水膨潤粒子径の体積平均粒子径を個数平均粒子径で除した値である粒子径分布は、結着性及び塗工性の観点から好ましくは10以下であり、より好ましくは5.0以下であり、さらに好ましくは3.0以下であり、一層好ましくは1.5以下である。上記粒子径分布の下限値は、通常は1.0である。
また、本発明の架橋重合体又はその塩の乾燥時における粒子径(乾燥粒子径)は、体積基準メジアン径で0.03μm以上、3μm以下の範囲にあることが好ましい。上記粒子径のより好ましい範囲は0.1μm以上、1μm以下であり、さらに好ましい範囲は0.3μm以上、0.8μm以下である。
架橋重合体又はその塩は、本組成物中において、中和度が20~100モル%となるように、エチレン性不飽和カルボン酸単量体由来のカルボキシル基等の酸基が中和され、塩の態様として用いることが好ましい。上記中和度は50~100モル%であることがより好ましく、60~95モル%であることがさらに好ましい。中和度が20モル%以上の場合、水膨潤性が良好となり分散安定化効果が得やすいという点で好ましい。本明細書では、上記中和度は、カルボキシル基等の酸基を有する単量体及び中和に用いる中和剤の仕込み値から計算により算出することができる。なお、中和度は架橋重合体又はその塩を、減圧条件下、80℃で3時間乾燥処理後の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸塩のC=O基由来のピークの強度比より確認することができる。
<架橋重合体の分子量(一次鎖長)>
本発明の架橋重合体は、三次元架橋構造を有し、水などの媒体中でミクロゲルとして存在するものである。一般的に、このような三次元架橋重合体は溶媒に不溶であるため、その分子量を測定することはできない。同様に、架橋重合体の一次鎖長を測定し、定量することも、通常は困難である。
<架橋重合体の水膨潤度>
本明細書では、水膨潤度は架橋重合体又はその塩の乾燥時の重量「(W)g」、及び当該架橋重合体又はその塩を水で飽和膨潤させた際に吸収される水の量「(W)g」とから、以下の式に基づいて算出される。
(水膨潤度)={(W)+(W)}/(W
本発明の架橋重合体又はその塩は、pH8における水膨潤度が3.0以上、100以下であることが好ましい。水膨潤度が上記範囲であれば、架橋重合体又はその塩が水媒体中で適度に膨潤するため、電極合剤層を形成する際に、活物質及び集電体への十分な接着面積を確保することが可能となり、結着性が良好となる傾向がある。上記水膨潤度は、例えば4.0以上であってもよく、5.0以上であってもよく、7.0以上であってもよく、10以上であってもよく、15以上であってもよい。水膨潤度が3.0以上の場合、架橋重合体又はその塩が活物質や集電体の表面において広がり、十分な接着面積を確保することができるため、良好な結着性が得られる。pH8における水膨潤度の上限値は、95以下であってもよく、90以下であってもよく、80以下であってもよく、60以下であってもよく、50以下であってもよい。水膨潤度が100を超えると、架橋重合体又はその塩を含む本組成物(電極スラリー)の粘度が高くなる傾向が有り、合剤層の均一性が不足する結果、十分な結着力が得られないことがある。また、電極スラリーの塗工性が低下する虞がある。pH8における水膨潤度の範囲は、上記上限値及び下限値を適宜組合せることにより設定できるが、例えば、4.0以上、100以下であり、また例えば、5.0以上、100以下であり、また例えば、5.0以上、80以下である。
pH8における水膨潤度は、pH8の水中における架橋重合体又はその塩の膨潤度を測定することにより得ることができる。上記pH8の水としては、例えばイオン交換水を使用することができ、必要に応じて適当な酸若しくはアルカリ、又は緩衝液等を用いてpHの値を調整してもよい。測定時のpHは、例えば、8.0±0.5の範囲であり、好ましくは8.0±0.3の範囲であり、より好ましくは8.0±0.2の範囲であり、さらに好ましくは8.0±0.1の範囲である。
尚、当業者であれば、架橋重合体又はその塩の組成及び構造等を制御することにより、その水膨潤度の調整を行うことができる。例えば、架橋重合体に酸性官能基、又は親水性の高い構造単位を導入することにより、水膨潤度を高くすることができる。また、架橋重合体の架橋度を低くすることによっても、通常その水膨潤度は高くなる。
<架橋重合体又はその塩の製造方法>
架橋重合体は、溶液重合、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を使用することが可能であるが、生産性の点で沈殿重合及び懸濁重合(逆相懸濁重合)が好ましい。結着性等に関してより良好な性能が得られる点で、沈殿重合、懸濁重合、乳化重合等の不均一系の重合法が好ましく、中でも沈殿重合法がより好ましい。
沈殿重合は、原料である不飽和単量体を溶解するが、生成する重合体を実質溶解しない溶媒中で重合反応を行うことにより重合体を製造する方法である。重合の進行とともにポリマー粒子は凝集及び成長により大きくなり、数十nm~数百nmの一次粒子が数μm~数十μmに二次凝集したポリマー粒子の分散液が得られる。ポリマーの粒子サイズを制御するために分散安定剤を使用することもできる。

具体的な分散安定剤としては、リビングラジカル重合法により製造される分散安定剤、マクロモノマー型分散安定剤、ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。 尚、分散安定剤や重合溶剤等を選定することにより上記二次凝集を抑制することもできる。一般に、二次凝集を抑制した沈殿重合は、分散重合とも呼ばれる。
沈殿重合の場合、重合溶媒は、使用する単量体の種類等を考慮して水及び各種有機溶剤等から選択される溶媒を使用することができる。より一次鎖長の長い重合体を得るためには、連鎖移動定数の小さい溶媒を使用することが好ましい。
具体的な重合溶媒としては、メタノール、t-ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル及びテトラヒドロフラン等の水溶性溶剤の他、ベンゼン、酢酸エチル、ジクロロエタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン及びn-ヘプタン等が挙げられ、これらの1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。又は、これらと水との混合溶媒として用いてもよい。本発明において水溶性溶剤とは、20℃における水への溶解度が10g/100mlより大きいものを指す。
上記の内、粗大粒子の生成や反応器への付着が小さく重合安定性が良好であること、析出した重合体微粒子が二次凝集しにくい(若しくは二次凝集が生じても水媒体中で解れやすい)こと、連鎖移動定数が小さく重合度(一次鎖長)の大きい重合体が得られること、及び後述する工程中和の際に操作が容易であること等の点で、メチルエチルケトン及びアセトニトリルが好ましい。
また、同じく工程中和において中和反応を安定かつ速やかに進行させるため、重合溶媒中に高極性溶媒を少量加えておくことが好ましい。係る高極性溶媒としては、好ましくは水及びメタノールが挙げられる。高極性溶媒の使用量は、媒体の全質量に基づいて好ましくは0.05~20.0質量%であり、より好ましくは0.1~10.0質量%、さらに好ましくは0.1~5.0質量%であり、一層好ましくは0.1~1.0質量%である。高極性溶媒の割合が0.05質量%以上であれば、上記中和反応への効果が認められ、20.0質量%以下であれば重合反応への悪影響も見られない。また、アクリル酸等の親水性の高いエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合では、高極性溶媒を加えた場合には重合速度が向上し、一次鎖長の長い重合体を得やすくなる。高極性溶媒の中でも特に水は上記重合速度を向上させる効果が大きく好ましい。
架橋重合体又はその塩の製造においては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体成分を重合する重合工程を備えることが好ましい。例えば、(a)成分の由来となるエチレン性不飽和カルボン酸単量体を10質量%以上、100質量%以下、及び(b)成分の由来となる他のエチレン性不飽和単量体0質量%以上、90質量%以下を含む単量体成分を重合する重合工程を備えることが好ましい。
該重合工程により、架橋重合体には、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位((a)成分)が10質量%以上、100質量%以下導入され、他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位((b)成分)が0質量%以上、90質量%以下導入される。エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量は、また例えば、20質量%以上、100質量%以下であり、また例えば、30質量%以上、100質量%以下であり、また例えば、50質量%以上、100質量%以下である。
上記他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、スルホン酸基及びリン酸基等のカルボキシル基以外のアニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体化合物、並びに、非イオン性のエチレン性不飽和単量体等が挙げられる。具体的な化合物としては、上述した(b)成分を導入可能な単量体化合物が挙げられる。上記他のエチレン性不飽和単量体は、単量体成分の全量に対して0質量%以上、90質量%以下含んでもよく、1質量%以上、60質量%以下であってもよく、5質量%以上、50質量%以下であってもよく、10質量%以上、30質量%以下であってもよい。また、同様に上記架橋性単量体を使用してもよい。
重合工程において重合される単量体成分は、架橋性単量体を含んでいてもよい。架橋性単量体としては、既述した通り、2個以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性単量体、及び加水分解性シリル基等の自己架橋可能な架橋性官能基を有する単量体等が挙げられる。
架橋性単量体の使用量は、架橋性単量体以外の単量体(非架橋性単量体)の総量100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上2.0質量部以下であり、より好ましくは0.3質量部以上1.5質量部以下であり、さらに好ましくは0.5質量部以上1.5質量部以下である。
重合時の単量体濃度については、より一次鎖長の長い重合体を得る観点から高い方が好ましい。ただし、単量体濃度が高すぎると、重合体粒子の凝集が進行し易い他、重合熱の制御が困難となり重合反応が暴走する虞がある。このため、例えば沈殿重合法の場合、重合開始時の単量体濃度は、2~40質量%程度の範囲が一般的であり、好ましくは5~40質量%の範囲である。
なお、本明細書において「単量体濃度」とは、重合を開始する時点における反応液中の単量体濃度を示す。
架橋重合体は、塩基化合物の存在下に重合反応を行うことにより製造してもよい。塩基化合物存在下において重合反応を行うことにより、高い単量体濃度条件下であっても、重合反応を安定に実施することができる。単量体濃度は、13.0質量%以上であってもよく、好ましくは15.0質量%以上であり、より好ましくは17.0質量%以上であり、更に好ましくは19.0質量%以上であり、一層好ましくは20.0質量%以上である。単量体濃度はなお好ましくは22.0質量%以上であり、より一層好ましくは25.0質量%以上である。一般に、重合時の単量体濃度を高くするほど高分子量化が可能であり、一次鎖長の長い重合体を製造することができる。また、一次鎖長の長い重合体は、三次元架橋構造に組み込まれる傾向があるため、ゾル分率が低減される傾向がある。
単量体濃度の上限値は、使用する単量体及び溶媒の種類、並びに、重合方法及び各種重合条件等により異なるが、重合反応熱の除熱が可能であれば、沈殿重合では上記の通り概ね40%程度、懸濁重合では概ね50%程度、乳化重合では概ね70%程度である。
上記塩基化合物は、いわゆるアルカリ性化合物であり、無機塩基化合物及び有機塩基化合物の何れを用いてもよい。塩基化合物存在下において重合反応を行うことにより、例えば13.0質量%を超えるような高い単量体濃度条件下であっても、重合反応を安定に実施することができる。また、このような高い単量体濃度で重合して得られた重合体は、分子量が高いため(一次鎖長が長いため)結着性にも優れる。
無機塩基化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩などが挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
有機塩基化合物としては、アンモニア及び有機アミン化合物が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。中でも、重合安定性及び得られる架橋重合体又はその塩を含むバインダーの結着性の観点から、有機アミン化合物が好ましい。
有機アミン化合物としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン及びトリドデシルアミン等のN-アルキル置換アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン及びN,N-ジメチルエタノールアミン等の(アルキル)アルカノールアミン;ピリジン、ピペリジン、ピペラジン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、モルホリン及びジアザビシクロウンデセン(DBU)等の環状アミン;ジエチレントリアミン、N、N-ジメチルベンジルアミンが挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
これらの内でも、長鎖アルキル基を有する疎水性アミンを用いた場合、より大きな静電反発及び立体反発が得られることから、単量体濃度の高い場合であっても重合安定性を確保しやすい点で好ましい。具体的には、有機アミン化合物に存在する窒素原子数に対する炭素原子数の比で表される値(C/N)が高い程、立体反発効果による重合安定化効果が高い。上記C/Nの値は、好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、一層好ましくは20以上である。
塩基化合物の使用量は、上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体に対し、0.001モル%以上4.0モル%以下の範囲とすることが好ましい。塩基化合物の使用量がこの範囲であれば、重合反応を円滑に行うことができる。使用量は、0.05モル%以上4.0モル%以下であってもよく、0.1モル%以上4.0モル%以下であってもよく、0.1モル%以上3.0モル%以下であってもよく、0.1モル%以上2.0モル%以下であってもよい。
尚、本明細書では、塩基化合物の使用量は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に対して用いた塩基化合物のモル濃度を表したものであり、中和度を意味するものではない。すなわち、用いる塩基化合物の価数は考慮しない。
重合開始剤は、アゾ系化合物、有機過酸化物、無機過酸化物等の公知の重合開始剤を用いることができるが、特に限定されるものではない。熱開始、還元剤を併用したレドックス開始、UV開始等、公知の方法で適切なラジカル発生量となるように使用条件を調整することができる。一次鎖長の長い架橋重合体を得るためには、製造時間が許容される範囲内で、ラジカル発生量がより少なくなるように条件を設定することが好ましい。
上記アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2-(tert-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
上記有機過酸化物としては、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(日油社製、商品名「パーテトラA」)、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(同「パーヘキサHC」)、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(同「パーヘキサC」)、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート(同「パーヘキサV」)、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン(同「パーヘキサ22」)、t-ブチルハイドロパーオキサイド(同「パーブチルH」)、クメンハイドロパーオキサイド(同「パークミルH」)、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(同「パーオクタH」)、t-ブチルクミルパーオキサイド(同「パーブチルC」)、ジ-t-ブチルパーオキサイド(同「パーブチルD」)、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド(同「パーヘキシルD」)、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(同「パーロイル355」)、ジラウロイルパーオキサイド(同「パーロイルL」)、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(同「パーロイルTCP」)、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(同「パーロイルOPP」)、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート(同「パーロイルSBP」)、クミルパーオキシネオデカノエート(同「パークミルND」)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート(同「パーオクタND」)、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート(同「パーヘキシルND」)、t-ブチルパーオキシネオデカノエート(同「パーブチルND」)、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート(同「パーブチルNHP」)、t-ヘキシルパーオキシピバレート(同「パーヘキシルPV」)、t-ブチルパーオキシピバレート(同「パーブチルPV」)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイル)ヘキサン(同「パーヘキサ250」)、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(同「パーオクタO」)、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(同「パーヘキシルO」)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(同「パーブチルO」)、t-ブチルパーオキシラウレート(同「パーブチルL」)、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート(同「パーブチル355」)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(同「パーヘキシルI」)、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(同「パーブチルI」)、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(同「パーブチルE」)、t-ブチルパーオキシアセテート(同「パーブチルA」)、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート(同「パーヘキシルZ」)及びt-ブチルパーオキシベンゾエート(同「パーブチルZ」)等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
上記無機過酸化物としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
また、レドックス開始の場合、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、亜硫酸ガス(SO)、硫酸第一鉄等を還元剤として用いることができる。
重合開始剤の好ましい使用量は、用いる単量体成分の総量を100質量部としたときに、例えば、0.001~2質量部であり、また例えば、0.005~1質量部であり、また例えば、0.01~0.1質量部である。重合開始剤の使用量が0.001質量部以上であれば重合反応を安定的に行うことができ、2質量部以下であれば一次鎖長の長い重合体を得やすい。
重合温度は、使用する単量体の種類及び濃度等の条件にもよるが、0~100℃が好ましく、20~80℃がより好ましく、重合温度は一定であってもよいし、重合反応の期間において変化するものであってもよい。
重合工程を経て得られた架橋重合体分散液は、乾燥工程において減圧及び/又は加熱処理等を行い溶媒留去することにより、目的とする架橋重合体を粉末状態で得ることができる。この際、上記乾燥工程の前に、未反応単量体(及びその塩)、開始剤由来の不純物等を除去する目的で、重合工程に引き続き、遠心分離及び濾過等の固液分離工程、水、メタノール又は重合溶媒と同一の溶媒等を用いた洗浄工程を備えることが好ましい。上記洗浄工程を備えた場合、架橋重合体が二次凝集した場合であっても使用時に解れやすく、さらに残存する未反応単量体が除去されることにより結着性や電池特性の点でも良好な性能を示す。
本製造方法では、塩基化合物存在下にエチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む単量体組成物の重合反応を行うが、重合工程により得られた重合体分散液にアルカリ化合物を添加して重合体を中和(以下、「工程中和」ともいう)した後、乾燥工程で溶媒を除去してもよい。また、上記工程中和の処理を行わずに架橋重合体の粉末を得た後、電極スラリーを調製する際にアルカリ化合物を添加して、重合体を中和(以下、「後中和」ともいう)してもよい。上記の内、工程中和の方が、二次凝集体が解れやすい傾向にあり好ましい。
2.二次電池電極合剤層用組成物
本発明の二次電池電極合剤層用組成物は、上記架橋重合体又はその塩を含有するバインダー、活物質及び水を含む。
本組成物における架橋重合体又はその塩の使用量は、活物質の全量100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上20質量部以下である。上記使用量は、また例えば、0.2質量部以上10質量部以下であり、また例えば0.3質量部以上8質量部以下であり、また例えば0.4質量部以上5質量部以下である。架橋重合体及びその塩の使用量が0.1質量部未満の場合、十分な結着性が得られないことがある。また、活物質等の分散安定性が不十分となり、形成される合剤層の均一性が低下する場合がある。一方、架橋重合体及びその塩の使用量が20質量部を超える場合、本組成物が高粘度となり集電体への塗工性が低下することがある。その結果、得られた合剤層にブツや凹凸が生じて電極特性に悪影響を及ぼす虞がある。
架橋重合体及びその塩の使用量が上記範囲内であれば、分散安定性に優れた組成物が得られるとともに、集電体への密着性が極めて高い合剤層を得ることができ、結果として電池の耐久性が向上する。さらに、上記架橋重合体及びその塩は、活物質に対して少量(例えば5質量%以下)でも十分高い結着性を示し、かつ、カルボキシアニオンを有することから、界面抵抗が小さく、ハイレート特性に優れた電極が得られる。
上記活物質の内、正極活物質としては遷移金属酸化物のリチウム塩を用いることができ、例えば、層状岩塩型及びスピネル型のリチウム含有金属酸化物を使用することができる。層状岩塩型の正極活物質の具体的な化合物としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、並びに、三元系と呼ばれるNCM{Li(Ni,Co,Mn)、x+y+z=1}及びNCA{Li(Ni1-a-bCoAlb)}等が挙げられる。また、スピネル型の正極活物質としてはマンガン酸リチウム等が挙げられる。酸化物以外にもリン酸塩、ケイ酸塩及び硫黄等が使用され、リン酸塩としては、オリビン型のリン酸鉄リチウム等が挙げられる。正極活物質としては、上記のうちの1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて混合物又は複合物として使用してもよい。
尚、層状岩塩型のリチウム含有金属酸化物を含む正極活物質を水に分散させた場合、活物質表面のリチウムイオンと水中の水素イオンとが交換されることにより、分散液がアルカリ性を示す。このため、一般的な正極用集電体材料であるアルミ箔(Al)等が腐食される虞がある。このような場合には、バインダーとして未中和又は部分中和された架橋重合体を用いることにより、活物質から溶出するアルカリ分を中和することが好ましい。また、未中和又は部分中和された架橋重合体の使用量は、架橋重合体の中和されていないカルボキシル基量が活物質から溶出するアルカリ量に対して当量以上となるように用いることが好ましい。
正極活物質はいずれも電気伝導性が低いため、導電助剤を添加して使用されるのが一般的である。導電助剤としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、黒鉛微粉、炭素繊維等の炭素系材料が挙げられ、これらの内、優れた導電性を得やすい点からカーボンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンファイバー、が好ましい。また、カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。導電助剤は、上記の1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。導電助剤の使用量は、導電性とエネルギー密度を両立するという観点から活物質の全量100質量部に対して、例えば、0.2~20質量部とすることができ、また例えば、0.2~10質量部とすることができる。また正極活物質は導電性を有する炭素系材料で表面コーティングしたものを使用してもよい。
一方、負極活物質としては、例えば炭素系材料、リチウム金属、リチウム合金及び金属酸化物等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの内でも、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン及びソフトカーボン等の炭素系材料からなる活物質(以下、「炭素系活物質」ともいう)が好ましく、天然黒鉛及び人造黒鉛等の黒鉛、並びにハードカーボンがより好ましい。また、黒鉛の場合、電池性能の面から球形化黒鉛が好適に用いられ、その粒子サイズの好ましい範囲は、例えば、1~20μmであり、また例えば、5~15μmである。また、エネルギー密度を高くするために、ケイ素やスズなどのリチウムを吸蔵できる金属又は金属酸化物等を負極活物質として使用することもできる。その中でも、ケイ素は黒鉛に比べて高容量であり、ケイ素、ケイ素合金及び一酸化ケイ素(SiO)等のケイ素酸化物のようなケイ素系材料からなる活物質(以下、「ケイ素系活物質」ともいう)を用いることができる。しかし、上記ケイ素系活物質は高容量である反面充放電に伴う体積変化が大きい。このため、上記炭素系活物質と併用するのが好ましい。この場合、ケイ素活物質の使用量は、炭素系活物質及びケイ素系活物質の総量に対し、好ましくは2~80質量%である。ケイ素系活物質の使用量は、5~70質量%であってもよく、8~60質量%であってもよく、10~50質量%であってもよい。
本発明の架橋重合体を含むバインダーは、当該架橋重合体がエチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位((a)成分)を有する。ここで、(a)成分はケイ素系活物質に対する親和性が高く、良好な結着性を示す。このため、本発明のバインダーはケイ素系活物質を含む高容量タイプの活物質を用いた場合にも優れた結着性を示すことから、得られる電極の耐久性向上に対しても有効であるものと考えられる。
また、本発明の架橋重合体は、水酸基を有する特定の単量体に由来する構造単位((b)成分)を有する。架橋重合体が(b)成分を有する場合、電極スラリーの粘度の上昇を抑制又は低減することができる。かかる効果が得られる理由は明確ではないが、架橋重合体が当該重合体の側鎖に比較的フレキシブルな水酸基を有するため、重合体中のカルボキシル基と相互作用する結果、水中における架橋重合体の膨らみが抑制されたことによるものと推察している。ただし、上記推察は、本発明の範囲を制限するものではない。
炭素系活物質は、それ自身が良好な電気伝導性を有するため、必ずしも導電助剤を添加する必要はない。抵抗をより低減する等の目的で導電助剤を添加する場合、エネルギー密度の観点からその使用量は活物質の全量100質量部に対して、例えば、10質量部以下であり、また例えば、5質量部以下である。
本組成物がスラリー状態の場合、活物質の使用量は、本組成物全量に対して、例えば、10~75質量%の範囲である。活物質の使用量が10質量%以上であればバインダー等のマイグレーションが抑えられる。また、媒体の乾燥コストの面でも有利となることから、活物質の使用量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。一方、75質量%以下であれば本組成物の流動性及び塗工性を確保することができ、均一な合剤層を形成することができる。
本組成物は、媒体として水を使用する。また、本組成物の性状及び乾燥性等を調整する目的で、メタノール及びエタノール等の低級アルコール類、エチレンカーボネート等のカーボネート類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン等の水溶性有機溶剤との混合溶媒としてもよい。混合媒体中の水の割合は、例えば、50質量%以上であり、また例えば、70質量%以上である。
本組成物を塗工可能なスラリー状態とする場合、その固形分濃度が50質量%程度に限定されるものではなく、本組成物全体に占める水を含む媒体の含有量は、電極スラリーの塗工性、乾燥に必要なエネルギーコスト、及び生産性の観点から、例えば、25~90質量%の範囲とすることができ、また例えば、35~70質量%とすることができ、また例えば、45~70質量%とすることができる。
本発明のバインダーは、上記架橋重合体又はその塩のみからなるものであってもよいが、これ以外にもスチレン/ブタジエン系ラテックス(SBR)、アクリル系ラテックス及びポリフッ化ビニリデン系ラテックス等の他のバインダー成分を併用してもよい。他のバインダー成分を併用する場合、その使用量は、活物質の全量100質量部に対して、例えば、0.1~5質量部以下とすることができ、また例えば、0.1~2質量部以下とすることができ、また例えば、0.1~1質量部以下とすることができる。他のバインダー成分の使用量が5質量%を超えると抵抗が増大し、ハイレート特性が不十分なものとなる場合がある。上記の中でも、結着性及び耐屈曲性のバランスに優れる点で、スチレン/ブタジエン系ラテックスが好ましい。
上記スチレン/ブタジエン系ラテックスとは、スチレン等の芳香族ビニル単量体に由来する構造単位及び1,3-ブタジエン等の脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位を有する共重合体の水系分散体を示す。上記芳香族ビニル単量体としては、スチレンの他にα-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。上記共重合体中における上記芳香族ビニル単量体に由来する構造単位は、主に結着性の観点から、例えば、20~70質量%の範囲とすることができ、また例えば、30~60質量%の範囲とすることができる。
上記脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエンの他に2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。上記共重合体中における上記脂肪族共役ジエン系単量体に由来する構造単位は、バインダーの結着性及び得られる電極の柔軟性が良好なものとなる点で、例えば、30~70質量%の範囲とすることができ、また例えば、40~60質量%の範囲とすることができる。
スチレン/ブタジエン系ラテックスは、上記の単量体以外にも、結着性等の性能をさらに向上させるために、その他の単量体として(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体、(メタ)アクリル酸、イタンコン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体、(メタ)アクリル酸メチル等のエステル基含有単量体を共重合単量体として用いてもよい。
上記共重合体中における上記その他の単量体に由来する構造単位は、例えば、0~30質量%の範囲とすることができ、また例えば、0~20質量%の範囲とすることができる。
本組成物は、上記の活物質、水及びバインダーを必須の構成成分とするものであり、公知の手段を用いて各成分を混合することにより得られる。各成分の混合方法は特段制限されるものではなく、公知の方法を採用することができるが、活物質、導電助剤及びバインダーである架橋重合体粒子等の粉末成分をドライブレンドした後、水等の分散媒と混合し、分散混練する方法が好ましい。本組成物をスラリー状態で得る場合、分散不良や凝集のない電極スラリーに仕上げることが好ましい。混合手段としては、プラネタリーミキサー、薄膜旋回式ミキサー及び自公転式ミキサー等の公知のミキサーを使用することができるが、短時間で良好な分散状態が得られる点で薄膜旋回式ミキサーを使用して行うことが好ましい。また、薄膜旋回式ミキサーを用いる場合は、予めディスパー等の攪拌機で予備分散を行うことが好ましい。また、上記電極スラリーの粘度は、例えば、500~10,000mPa・sの範囲とすることができる。電極スラリーの塗工性の観点から、粘度の上限は、好ましくは7,000mPa・s以下であり、より好ましくは6,000mPa・s以下であり、さらに好ましくは5,000mPa・s以下であり、一層好ましくは4,000mPa・s以下であり、より一層好ましくは3,000mPa・s以下である。尚、スラリー粘度は、液温25℃の条件下、実施例に記載の方法により測定することができる。
一方、本組成物を湿粉状態で得る場合、ヘンシェルミキサー、ブレンダ―、プラネタリーミキサー及び2軸混練機等を用いて、濃度ムラのない均一な状態まで混練することが好ましい。
3.二次電池電極
本発明の二次電池電極は、銅又はアルミニウム等の集電体表面に本組成物から形成される合剤層を備えてなるものである。合剤層は、集電体の表面に本組成物を塗工した後、水等の媒体を乾燥除去することにより形成される。本組成物を塗工する方法は特に限定されず、ドクターブレード法、ディップ法、ロールコート法、コンマコート法、カーテンコート法、グラビアコート法及びエクストルージョン法などの公知の方法を採用することができる。また、上記乾燥は、温風吹付け、減圧、(遠)赤外線、マイクロ波照射等の公知の方法により行うことができる。
通常、乾燥後に得られた合剤層には、金型プレス及びロールプレス等による圧縮処理が施される。圧縮することにより活物質及びバインダーを密着させ、合剤層の強度及び集電体への密着性を向上させることができる。圧縮により合剤層の厚みを、例えば、圧縮前の30~80%程度に調整することができ、圧縮後の合剤層の厚みは4~200μm程度が一般的である。
4.二次電池
本発明の二次電池用電極にセパレータ及び電解液を備えることにより、二次電池を作製することができる。電解液は液状であってもよく、ゲル状であってもよい。
セパレータは電池の正極及び負極間に配され、両極の接触による短絡の防止や電解液を保持してイオン導電性を確保する役割を担う。セパレータにはフィルム状の絶縁性微多孔膜であって、良好なイオン透過性及び機械的強度を有するものが好ましい。具体的な素材としては、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン等を使用することができる。
電解液は、活物質の種類に応じて一般的に使用される公知のものを用いることができる。リチウムイオン二次電池では、具体的な溶媒として、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネート等の高誘電率で電解質の溶解能力の高い環状カーボネート、並びに、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の粘性の低い鎖状カーボネート等が挙げられ、これらを単独で又は混合溶媒として使用することができる。電解液は、これらの溶媒にLiPF、LiSbF、LiBF、LiClO、LiAlO等のリチウム塩を溶解して使用される。ニッケル水素二次電池では、電解液として水酸化カリウム水溶液を使用することができる。二次電池は、セパレータで仕切られた正極板及び負極板を渦巻き状又は積層構造にしてケース等に収納することにより得られる。
以上説明したように、本明細書に開示される二次電池電極用バインダーは、合剤層において電極材料との優れた結着性と集電体との優れた接着性とを示す。このため、上記バインダーを使用して得られた電極を備えた二次電池は、良好な一体性を確保でき、充放電を繰り返しても良好な耐久性(サイクル特性)を示すと予想され、車載用二次電池等に好適である。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。尚、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り質量部及び質量%を意味する。
以下の例において、架橋重合体(塩)についての評価は、以下の方法により実施した。
(1)水媒体中での粒子径(水膨潤粒子径)の測定
架橋重合体塩の粉末0.25g、及びイオン交換水49.75gを100ccの容器に量りとり、自転/公転式攪拌機(シンキー社製、あわとり錬太郎AR-250)にセットした。次いで、撹拌(自転速度2000rpm/公転速度800rpm、7分)、さらに脱泡(自転速度2200rpm/公転速度60rpm、1分)処理を行い架橋重合体塩が水に膨潤した状態のハイドロゲルを作成した。
次に、イオン交換水を分散媒とするレーザー回折/散乱式粒度分布計(マイクロトラックベル社製、マイクロトラックMT-3300EXII)にて上記ハイドロゲルの粒度分布測定を行った。ハイドロゲルに対し、過剰量の分散媒を循環しているところに、適切な散乱光強度が得られる量のハイドロゲルを投入したところ、数分後に測定される粒度分布形状が安定した。安定を確認次第、粒度分布測定を行い、粒子径の代表値としての体積基準メジアン径(D50)、及び(体積基準平均粒子径)/(個数基準平均粒子径)で表される粒子径分布を得た。
(2)pH8における水膨潤度
pH8における水膨潤度は、以下の方法によって測定した。測定装置を図1に示す。
測定装置は図1における<1>~<3>から構成される。
<1> 空気抜きするための枝管が付いたビュレット1、ピンチコック2、シリコンチューブ3及びポリテトラフルオロエチレンチューブ4から成る。
<2> ロート5の上に底面に多数の穴が空いた支柱円筒8、さらにその上に装置用濾紙10が設置されている。
<3> 架橋重合体又はその塩の試料6(測定試料)は2枚の試料固定用濾紙7に挟まれ、試料固定用濾紙は粘着テープ9によって固定される。なお、使用する濾紙は全てADVANTEC No.2、内径55mmである。
<1>と<2>とはシリコンチューブ3によって繋がれる。
また、ロート5及び支柱円筒8は、ビュレット1に対する高さが固定されており、ビュレット枝管の内部に設置されたポリテトラフルオロエチレンチューブ4の下端と支柱円筒8の底面とが同じ高さになる様に設定されている(図1中の点線)。
測定方法について以下に説明する。
<1>にあるピンチコック2を外し、ビュレット1の上部からシリコンチューブ3を通してイオン交換水を入れ、ビュレット1から装置用濾紙10までイオン交換水12で満たされた状態とする。次いで、ピンチコック2を閉じ、ビュレット枝管にゴム栓で接続されたポリテトラフルオロエチレンチューブ4から空気を除去する。こうして、ビュレット1から装置用濾紙10までイオン交換水12が連続的に供給される状態とする。
次に、装置用濾紙10からにじみ出た余分なイオン交換水12を除去した後、ビュレット1の目盛りの読み(a)を記録する。
測定試料の乾燥粉末0.1~0.2gを秤量し、<3>にある様に、試料固定用濾紙7の中央部に均一に置く。もう1枚の濾紙でサンプルを挟み、粘着テープ9で2枚の濾紙を留め、サンプルを固定する。サンプルが固定された濾紙を<2>に示される装置用濾紙10上に載置する。
次に、装置用濾紙10上に蓋11を載置した時点から、30分間経過した後のビュレット1の目盛りの読み(b)を記録する。
測定試料の吸水量と2枚の試料固定用濾紙7の吸水量の合計(c)は(a-b)で求められる。同様の操作により、架橋重合体又はその塩の試料を含まない、2枚の濾紙7のみの吸水量(d)を測定する。
上記操作を行い、水膨潤度を以下の式より計算した。なお、計算に使用する固形分は、後述する方法により測定した値を使用した。
水膨潤度={測定試料の乾燥重量(g)+(c-d)}/{測定試料の乾燥重量(g)}
ただし、測定試料の乾燥重量(g)=測定試料の重量(g)×(固形分(%)÷100)
ここで、固形分の測定方法について以下に記載する。
試料約0.5gを、予め重さを測定しておいた秤量瓶[秤量瓶の重さ=B(g)]に採取して、秤量瓶ごと正確に秤量した後[W(g)]、その試料を秤量瓶ごと無風乾燥機内に収容して155℃で45分間乾燥してその時の重さを秤量瓶ごと測定し[W(g)]、以下の式により固形分を求めた。
固形分(%)=(W-B)/(W-B)×100
(3)ゾル分率の測定
濃度0.5質量%の架橋重合体水分散液を調製し、4000rpmで30分間の遠心分離を行った後、上澄み液を採取した。この上澄み液をイオン交換水で15倍希釈し、測定試料とした。ICP発光分析(ICAP 7600/Thermo Fischer Scientific社製)により測定試料中のLi(又はNa、K)濃度を測定した。
以下の式により、表1記載の仕込み値から算出されるLi(又はNa、K)濃度[M(ppm)]に対する前記測定試料中のLi(又はNa、K)濃度[M(ppm)]の割合から、ゾル分率を算出した。
ゾル分率(%)=M/M×100
(4)ゾル分の重量平均分子量の測定
濃度0.5質量%の架橋重合体水分散液を調製し、4000rpmで30分間の遠心分離を行った後、上澄み液を採取した。以下に記載の条件にて、この上澄み液の水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール換算による重量平均分子量(Mw)を得た。
○水系GPC測定条件
カラム:東ソー製TSKgel GMPW×1本(推定排除限界:5000万)
ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール標準物質分子量:
(Mp:ピークトップ分子量、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)
サンプル1:Mp=969000、Mw=1020000、Mn=884000
サンプル2:Mp=450000、Mw=480000、Mn=398000
サンプル3:Mp=222000、Mw=220000、Mn=197000
サンプル4:Mp=86200、Mw=87800、Mn=75800
サンプル5:Mp=42700、Mw=40100、Mn=30700
サンプル6:Mp=18600、Mw=17900、Mn=14900
サンプル7:Mp=6690、Mw=6550、Mn=6170
サンプル8:Mp=2100、Mw=2090、Mn=2030
サンプル9:Mp=599、Mw=601、Mn=560
サンプル10:Mp=238、Mw=238、Mn=238
検量線:上記ポリエチレンオキシド/ポリエチレングリコール標準物質分子量のMp値を用いて3次式で作成した。
溶媒:0.1M NaNO水溶液
温度:40℃
検出器:RI
流速:500μL/min
≪分散安定剤の製造≫
(合成例1:分散剤Aの製造)
攪拌機、温度計を装着した1Lフラスコに、RAFT剤としてS,S-ジベンジルトリチオカーボネート(Bоrоn Mоlecular社製、商品名「DBTTC」)2.0部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(日本ファインケム社製、商品名「ABN-E」)0.41部、スチレン75部、アクリロニトリル25部、及びアニソール67部を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、80℃の恒温槽でリビングラジカル重合を開始した。4時間後、室温まで冷却し反応を停止した。上記重合溶液を、メタノール/水=90/10(vоl%)から再沈殿精製、真空乾燥することで重合体(以下、「分散剤A」という。)を得た。
以下に記載の条件にて、THF系ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行った結果、ポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)は11,900、重量平均分子量は(Mn)15,500、Mw/Mnは1.30であった。
○THF系GPC測定条件
カラム:東ソー製TSKgel SuperMultiporeHZ-M×4本
溶媒:テトラヒドロフラン
温度:40℃
検出器:RI
流速:600μL/min
≪架橋重合体塩の製造≫
(製造例1:架橋重合体塩R-1の製造)
重合には、攪拌翼、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応器を用いた。
反応器内にアセトニトリル580部、イオン交換水2.38部、アクリル酸(以下、「AA」という。)100部、トリメチロールプロパンジアリルエーテル(ダイソー社製、商品名「ネオアリルT-20」)2.0部及び上記AAに対して1.0モル%に相当するトリドデシルアミン(BASF社製、商品名「Alamine 304-1」)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素置換した後、加温して内温を30℃まで昇温した。内温が30℃で安定したことを確認した後、重合開始剤として2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、商品名「V-70」)0.90部を添加したところ、反応液に白濁が認められたため、この点を重合開始点とした。なお、単量体濃度は15.0%と算出された。
外温(水バス温度)を調整して内温を30℃に維持しながら重合反応を継続し、重合開始点から24時間経過した時点で反応液の冷却を開始し、内温が20℃まで低下した後、水酸化リチウム・一水和物(以下、「LiOH・HO」という。)の粉末52.4部を添加した。添加後室温下12時間撹拌を継続して、架橋重合体塩R-1(Li塩、中和度90モル%)の粒子が媒体に分散したスラリー状の重合反応液を得た。
得られた重合反応液を遠心分離して重合体粒子を沈降させた後、上澄みを除去した。その後、重合反応液と同重量のアセトニトリルに沈降物を再分散させた後、遠心分離により重合体粒子を沈降させて上澄みを除去する洗浄操作を2回繰り返した。沈降物を回収し、減圧条件下、80℃で3時間乾燥処理を行い、揮発分を除去することにより、架橋重合体塩R-1の粉末を得た。架橋重合体塩R-1は吸湿性を有するため、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。なお、架橋重合体塩R-1の粉末をIR測定し、カルボン酸のC=O基由来のピークとカルボン酸LiのC=O由来のピークの強度比より中和度を求めたところ、仕込みからの計算値に等しく90モル%であった。
上記で得られた架橋重合体塩R-1について水媒体中での粒子径(水膨潤粒子径)を測定したところ、2.6μmであり、粒子径分布は1.3と算出された。また、水膨潤度は83であり、ゾル分率は4.7質量%であり、ゾル分のMwは55,000であった。
(製造例2~16及び比較製造例1:架橋重合体塩R-2~R-17の製造)
各原料の仕込み量を表1に記載の通りとした以外は製造例1と同様の操作を行い、架橋重合体塩R-2~R-17を含む重合反応液を得た。
次いで、各重合反応液について製造例1と同様の操作を行い、粉末状の架橋重合体塩R-2~R-17を得た。各架橋重合体塩は、水蒸気バリア性を有する容器に密封保管した。
得られた各重合体塩について、製造例1と同様に物性値を測定し、結果を表1に示した。
Figure 0007428181000001
表1において用いた化合物の詳細を以下に示す。
AA:アクリル酸
CEAA:β-カルボキシエチルアクリレート(SIGMA-ALDRICH社製、商品名「アクリル酸2-カルボキシエチル」)
IBXA:アクリル酸イソボルニル
HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
T-20:トリメチロールプロパンジアリルエーテル(ダイソー社製、商品名「ネオアリルT-20」)
TMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート
TDA:トリドデシルアミン
AcN:アセトニトリル
MeOH:メタノール
V-70:2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製)
LiOH・HO:水酸化リチウム・一水和物
NaCO:炭酸ナトリウム
CO:炭酸カリウム
実施例1
架橋重合体塩R-1を用いた電極を作製し、その評価を行った。具体的な手順及び評価方法等について以下に示す。
<電極合剤層用組成物の調製>
SiOx(0.8<x<1.2)の表面にCVD法で炭素を10%コートしたものを準備し(以下、「Si系活物質」という。)、黒鉛とSi系活物質とを混合したものを活物質として用いた。また、バインダーとしては、架橋重合体塩R-1、スチレン/ブタジエン系ラテックス(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)の混合物を用いた。
負極合剤層用組成物の固形分濃度が50質量%となるように、水を希釈溶媒として、黒鉛:Si系活物質:R-1:SBR:CMC=90:10:1.0:1.0:1.0(固形分)の質量比でプライミクス社製T.K.ハイビスミックスを用いて2時間混合し、スラリー状態の電極合剤層用組成物(電極スラリー)を調製した。
(電極スラリーの粘度測定)
上記で得られた電極スラリーについて、E型粘度計(40rpm、25℃)にてスラリー粘度を測定したところ、3,910mPa・sであった。
<負極極板の作製>
上記電極スラリーを銅箔(厚み:20μm)の両面に塗布し、乾燥することにより合剤層を形成した。その後、合剤層の厚みが27μm、充填密度が1.3g/cmになるよう圧延した後、3cm正方に打ち抜いて負極極板を得た。
(塗工性)
上記負極極板の作製における電極スラリーの塗工性は、以下の基準に基づき評価され、「○」と評価された。
(評価基準)
○:表面に筋ムラ、ブツ等の外観異常がまったく認められない。
△:表面に筋ムラ、ブツ等の外観異常がわずかに認められる。
×:表面に筋ムラ、ブツ等の外観異常が顕著に認められる。
(90°剥離強度(結着性))
120mm×30mmのアクリル板上に両面テープ(ニチバン株式会社製ナイスタックNW-20)を介して100mm×25mmサイズの負極極板の合剤層面を貼付けた。日本電産シンポ株式会社製小型卓上試験機(FGS-TV及びFGP-5)を用いて、測定温度25℃、引張速度50mm/分における90°剥離を行い、合剤層と銅箔間の剥離強度を測定することにより結着性を評価した。剥離強度は24.2N/mと高く、良好であった。
(電池特性の評価)
次いで、架橋重合体塩R-1を用いた上記負極極板を含む電池を作製し、その評価を行った。具体的な手順及び評価方法等について以下に示す。
<正極極板の作製>
N-メチルピロリドン(NMP)溶媒中、正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LFP)を100部、導電剤としてカーボンナノチューブを0.2部、ケッチェンブラックを2部、気層法炭素繊維(VGCF)0.6部を混合して添加し、電極組成物用バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合し、正極用組成物を調製した。アルミニウム集電体(厚み:15μm)に前記正極用組成物を塗布乾燥することにより合剤層を形成した。その後、合剤層の厚みが88μm、充填密度が3.1g/cmになるように圧延した後、3cm正方に打ち抜いて正極極板を得た。
(電池の作製)
上記正極、負極及びセパレータを用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。電解液としてはエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(DEC)を体積比で25:75とした混合溶媒に、LiPFを1.0mol/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。
(サイクル特性の評価)
上記で作成したラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を、CC放電にて2.7から3.4Vの条件下、0.2Cの充放電レートにて充放電の操作を行い、初期容量Cを測定した。さらに、25℃の環境下で充放電を繰り返し、50サイクル後の容量C50を測定した。以下の式で算出されるサイクル特性(ΔC)は75%であり、以下の基準に基づくサイクル特性は「B」と評価された。なお、ΔCの値が高いほどサイクル特性に優れることを示す。
ΔC=C50/C×100(%)
(評価基準)
A:充放電容量保持率が80%以上
B:充放電容量保持率が70%以上80%未満
C:充放電容量保持率が60%以上70%未満
D:充放電容量保持率が60%未満
実施例2~16、及び比較例1
架橋重合体塩を表2の通りに用いた以外は実施例1と同様の操作を行うことにより電極スラリーを調製し、そのスラリー粘度を測定した。また、当該電極スラリーの塗工性、それを用いて得られた負極極板の剥離強度、及び電池のサイクル特性を評価した。結果を表2に示した。
Figure 0007428181000002
各実施例は、本発明に属する二次電池電極用バインダーを用いて二次電池電極及び二次電池を作製したものである。実施例1~16の結果から明らかなように、電極スラリーの固形分濃度が50質量%であっても、良好な塗工性を示し、いずれの電極も高い値の剥離強度が得られ、優れた結着性を示すものであった。さらに、電池の充放電保持率も60%以上であり、サイクル特性に優れるものであることが確認された。これらの中でも、構成単量体及び中和度が同一の架橋重合体塩において(R-1~R-5)、架橋性単量体の使用量に着目すると、その使用量が多い架橋重合体塩R-2~R-5を用いた電池の充放電保持率は非常に高く、優れた耐久性を有するものであることが分かった。また、水酸基含有エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を特定量含む架橋重合体塩R-8及びR-9を用いた電池の充放電保持率は非常に高く、優れた耐久性を有するものであることが分かった。
一方、ゾル分率が5質量%以上である架橋重合体塩R-17を用いた比較例1では、塗工性及び電極の結着性は劣り、サイクル特性は不十分なものであった。
本発明の二次電池電極用バインダーは、合剤層において優れた結着性を示すとともに、上記バインダーを使用して得られた電極を備えた二次電池は、良好な耐久性(サイクル特性)を示した。このため、車載用二次電池への適用が期待される。また、シリコンを含む活物質の使用にも有用であり、電池の高容量化への寄与が期待される。
本発明の二次電池電極用バインダーは、特に非水電解質二次電池電極に好適に用いることができ、中でも、エネルギー密度が高い非水電解質リチウムイオン二次電池に有用である。

Claims (6)

  1. 架橋重合体又はその塩を含有する二次電池電極用バインダーであって、
    前記架橋重合体又はその塩は、ゾル分率が5.0質量%未満であり、
    エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含む、二次電池電極用バインダー。
  2. 前記架橋重合体又はその塩は、中和度80~100モル%に中和された後、水媒体中で測定した粒子径が、体積基準メジアン径で0.1μm以上10μm以下である、請求項1に記載の二次電池電極用バインダー。
  3. 前記架橋重合体又はその塩は、pH8における水膨潤度が3.0以上、100以下である、請求項1又は2に記載の二次電池電極用バインダー。
  4. 請求項1~のいずれか1項に記載の二次電池電極用バインダー、活物質及び水を含む、二次電池電極合剤層用組成物。
  5. 集電体表面に、請求項に記載の二次電池電極合剤層用組成物から形成される合剤層を備える、二次電池電極。
  6. 請求項に記載の二次電池電極を備える、二次電池。
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