JP7423852B1 - Fe-Ni合金、合金管、及びその製造方法 - Google Patents

Fe-Ni合金、合金管、及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 LNG輸送用配管などの溶接管向けの加工において簡易に優れた防錆性を得られるFe-Ni合金、これを用いた合金管、及びその製造方法の提供。【解決手段】 Fe-Ni合金は、質量%で、C:0.020~0.040%、Si:0.10~0.30%、Mn:0.25~0.45%、P:0.0025~0.0050%、S:0.0001~0.0012%、Ni:35.5~36.5%、Cr:0.03~0.22%、Cu:0.01~0.10%、Al:0.0005~0.010%、Ti:0.0005~0.010%、N:0.0005~0.0050%、Mg:0.0003~0.0020%、Ca:0.0003~0.0015%を含有し、残部をFe及び不可避的不純物とした成分組成を有する。Fe-Ni合金管は、同合金からなる。その製造方法は、同合金からなる板材から溶接管を得て、熱処理で表面酸化皮膜を与える。【選択図】 なし

Description

本発明は、低温靱性に優れたインバーFe-Ni合金、これを用いた合金管、及びその製造方法に関し、特に、LNG輸送用配管向けに好適なFe-Ni合金、合金管、及びその製造方法に関する。
Niを30~50wt%程度含有するインバーFe-Ni合金は、成分組成の調整によって熱膨張係数を制御でき、電子部品材料として広く用いられている。また、構造部材への使用も提案されており、例えば、36%のNiを含有するFe-Ni合金については、熱膨張係数が小さいとともに、低温靱性にも優れることから、LNG輸送用配管などに使用されている。
例えば、特許文献1では、LNG輸送用配管向けのインバーFe-Ni合金として、Fe中に、質量%で、C:0.001~0.1%、Si:0.5%以下、Mn:0.1~1%、Ni:35~40%、Ti:0.1~0.5%、Nb:0.1~0.5%を含有した成分組成を有する合金を開示している。構造部材への適用には溶接加工が不可欠であるところ、インバー鋼の溶接が難しいことを述べた上で、溶接金属部の靭性と耐再熱割れ性に及ぼす析出強化型元素の影響が相反することから、TiとNbの添加量を制御すべきであることを述べている。
また、非特許文献1では、Fe-Ni系合金をLNG配管に適用したときに、施工時および運転時ともに、腐食環境に晒される場合が想定されるとした上で、応力腐食割れ(SCC)の発生対策について述べている。ここでは、圧縮残留応力付与及び塗装密着性向上を目的としたサンドブラスト処理と、カソード防食性付与のためのジンクリッチペイント塗装と、が行われ、顕著な成果が得られたとしている。
特開平11-364468号公報
インバー合金の応力腐食割れとその防止対策;本郷進,山本修二,竹田貴代子,高島顕,山川武人,幸英昭,小林英男;2003年52巻6号、p.308-315
ところで、インバーFe-Ni合金は非常に発錆しやすいとされている。例えば、LNG輸送用配管の製造工程やその施工工程において、作業の都合により数日から数カ月の保管を経ることがあるが、数日の放置で錆が発生してしまい修繕が必要となる。非特許文献1では、インバーFe-Ni合金を管材に加工後の塗装による防錆処理について述べているが、かかる塗装による防錆処理工程の追加は製造コストの上昇要因となる。そのため、構造材料としてのインバーFe-Ni合金自体の錆びにくさが求められた。
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、製造加工、特に、LNG輸送用配管などの溶接管向けの加工において簡易に優れた防錆性を得られるFe-Ni合金、これを用いた合金管、及びその製造方法を提供することにある。
本発明によるFe-Ni合金は、質量%で、C:0.020~0.040%、Si:0.10~0.30%、Mn:0.25~0.45%、P:0.0025~0.0050%、S:0.0001~0.0012%、Ni:35.5~36.5%、Cr:0.03~0.22%、Cu:0.01~0.10%、Al:0.0005~0.010%、Ti:0.0005~0.010%、N:0.0005~0.0050%、Mg:0.0003~0.0020%、Ca:0.0003~0.0015%を含有し、残部をFe及び不可避的不純物とした成分組成を有することを特徴とする。
かかる特徴によれば、熱処理により強固な表面酸化皮膜を簡易に形成させ得て、防錆性に優れる合金製品を与えることができるのである。
上記した発明において、前記成分組成は、
0.15≦Si+Cr≦0.40 ・・・・・・(1)
0.003≦2×Al+Ti≦0.017 ・・・(2)
の関係式を満たすことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、より防錆性に優れる合金製品を与えることができるのである。
上記した発明において、前記成分組成において、
Al≧Ti ・・・・・・(3)
であり、かつ、Mo:0.01~0.10%、Co:0.01~0.25%、W:0.01~0.05%、B:0.0001~0.0010%の1種又は2種以上を含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、より防錆性に優れる合金製品を与えることができるのである。
また、本発明によるFe-Ni合金管は、上記したFe-Ni合金からなることを特徴とする。
かかる特徴によれば、熱処理により強固な表面酸化皮膜を簡易に形成させ得て、Fe-Ni合金管、特に、LNG輸送用配管向けFe-Ni合金管として防錆性に優れるのである。
上記した発明において、溶接管であって、溶接部とともに、上記したFe-Ni合金からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、熱処理により強固な表面酸化皮膜を簡易に形成させ得て、Fe-Ni合金管、特に、LNG輸送用配管向けFe-Ni合金管として、より防錆性に優れるのである。
上記した発明において、Fe及びSi、Mn、Crからなる複合酸化物からなり2~30μmの厚さの表面酸化皮膜を有することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、Fe-Ni合金管、特に、LNG輸送用配管向けFe-Ni合金管として、防錆性に優れるのである。
また、本発明によるFe-Ni合金管の製造方法は、上記したFe-Ni合金からなる板材を用意し、前記板材を管状に加工し溶接して溶接管とし、750~900℃に加熱保持し、Fe及びSi、Mn、Crからなる複合酸化物からなる2~30μmの厚さの表面酸化皮膜を与えることを特徴とする。または、上記したFe-Ni合金からなる板材及び溶加材を用意し、前記板材を管状に加工し前記溶加材を用いて溶接して溶接管とし、750~900℃に加熱保持し、Fe及びSi、Mn、Crからなる複合酸化物からなる2~30μmの厚さの表面酸化皮膜を与えることを特徴とする。かかる特徴によれば、防錆性に優れるFe-Ni合金管、特に、LNG輸送用配管向けFe-Ni合金管を得られるのである。
試験に用いた合金の成分組成の一覧表である。 溶接性及び防錆性に関する試験に用いた合金と試験結果の一覧表である。 溶接ビード外観の評価方法を説明するための図である。 溶接性についての追加試験結果の一覧表である。 防錆性についての追加試験結果の一覧表である。
上述したように、インバーFe-Ni合金は非常に発錆しやすい。そこで、本願発明者らは、主として焼鈍時の表面酸化皮膜の形成と防錆性との関係に着目して鋭意研究を重ねた。その結果、熱処理により形成される表面酸化皮膜によって防錆性を向上させるには、表面酸化皮膜の組成、密着性、及び、厚さの制御が重要であり、これには合金の化学成分、特に、微量成分の制御を必要とすることが判った。そして、以下のような合金の成分組成を採用することで、防錆性を向上させ得ることを見出した。
つまり、本実施例におけるFe-Ni合金は、Fe中に、質量%で、C:0.020~0.040%、Si:0.10~0.30%、Mn:0.25~0.45%、P:0.0025~0.0050%、S:0.0001~0.0012%、Ni:35.5~36.5%、Cr:0.03~0.22%、Cu:0.01~0.10%、Al:0.0005~0.010%、Ti:0.0005~0.010%、N:0.0005~0.0050%、Mg:0.0003~0.0020%、Ca:0.0003~0.0015%を含有する。このような成分組成とすることで、熱処理により強固な表面酸化皮膜を簡易に形成させ得て、この合金を用いて得られる合金製品に優れた防錆性を与え得る。また、同合金を用いて製造されたFe-Ni合金管は、熱処理により強固な表面酸化皮膜を簡易に形成させ得て、例えば、LNG輸送用配管などのように溶接管に加工した上で優れた防錆性を得られる。
また、この成分組成については、以下の関係式(1)及び(2)を更に満たすことが好ましい。関係式(1)では、低い熱膨張係数を維持しつつ、表面酸化皮膜を緻密化し安定化させるべく、Si及びCrの含有量を規定している。また、関係式(2)では、低い熱膨張係数を維持しつつ、緻密で密着性の良い表面酸化皮膜を形成させるべく、Al及びTiの含有量を規定している。
0.15≦Si+Cr≦0.40 ・・・・・・(1)
0.003≦2×Al+Ti≦0.017 ・・・(2)
さらに、この成分組成については、関係式(3)
Al≧Ti ・・・・・・・・・・・・(3)
を満たし、かつ、質量%で、Mo:0.01~0.10%、Co:0.01~0.25%、W:0.01~0.05%、B:0.0001~0.0010%の1種又は2種以上を含むことが好ましい。関係式(3)では、緻密で密着性の良い表面酸化皮膜を形成させるために有用なAl及びTiの含有量について、溶接時の溶け込み性や割れ感受性の低下をも防止すべく規定している。また、Mo、Co、W、Bの含有量については、詳細は後述するが、本実施例におけるFe-Ni合金としての品質や製造性を向上させる任意添加元素としてそれぞれが規定されている。なお、これら元素量の関係式において、元素記号はその元素の含有量を質量%で表した数値の意味である。
Fe-Ni合金管の製造方法としては、例えば、以下の如きである。まず、原料を溶解して精錬し、連続鋳造にてスラブを得て、熱間圧延によって所定の成分組成を有する合金からなる板材を得る。板材の端部に機械加工によって開先を設けて管状に成形後、所定の溶加材(これについては後述する。)を用いて縦シーム溶接し溶接管とする。そして、焼鈍熱処理として750~900℃に加熱保持して、Fe及びSi、Mn、Crからなる複合酸化物からなる2~30μmの厚さの表面酸化皮膜を形成させる。かかる表面酸化皮膜によって、優れた防錆性を得られる。なお、溶加材には、合金管と同様の成分組成を有する合金を用いることが好ましい。
ここで、前述の焼鈍熱処理の目的は、溶接後の残留歪みの除去にあるが、表面酸化皮膜を形成させ優れた防錆性を得ることをも含むものである。焼鈍熱処理の温度については、保持温度が低すぎると焼鈍が不充分となり表面酸化皮膜の形成厚さも薄くなってしまう。一方、焼鈍熱処理の保持温度が高すぎると、酸化によるロスが大きく歩留り低下を招く。さらに、表面酸化皮膜が厚くなり過ぎて均一性を低下させ、均一な冷却を得られず部分的な剥離を招きやすくなる。そこで、焼鈍熱処理の保持温度は750~900℃、好ましくは780~880℃、より好ましくは800~870℃である。
また、焼鈍熱処理の保持時間は、板厚さなどの素材の寸法及び熱処理温度によって、適宜、選択できる。この保持時間については、均一な表面酸化皮膜を形成させるように一定程度以上の時間を必要とする。一方で、保持時間が長過ぎると表面酸化皮膜を厚くし過ぎて均一性を低下させ、部分的な剥離を生じさせてしまう。このため、焼鈍熱処理の保持時間は、2~30min、好ましくは、4~25min、より好ましくは5~20minである。なお、加熱保持後の冷却については、全体を均一に冷却することが好ましく、例えば、炉冷や空冷などの緩やかな冷却を採用することが好ましい。
以上のようにして得られる表面酸化皮膜は、溶接管に加工後にあっては管内面にも形成され、液体等を移送する管製品として必要な防錆性を確保し得る。なお、表面酸化皮膜は、Fe酸化物を主として、Si、Mn、Cr、あるいは、Al、Tiを含む複合酸化物層からなり、均一性や安定性を考慮して2~30μm、好ましくは5~25μm、より好ましくは7~20μmの厚さとする。
[溶接性及び防錆性の試験]
次に、所定のFe-Ni合金からなる素材板を用意し、素材板から切り出した溶接試験板による溶接性試験と、素材板を溶接加工して得た溶接管による防錆性試験について説明する。
<素材板の製造>
図1に示す合金1~18、及び、合金101~118の各成分組成の合金からなる素材板を用意した。詳細には、スクラップやNi母合金などの原材料を電気炉に投入して溶解し、AOD(Argon Oxygen Decarburization)及び/又はVOD(Vacuum Oxygen Decarburization)にて酸素吹精し脱炭させた。その後、Alと石灰石を投入してCr還元し、さらに石灰石と蛍石を投入し、合金溶湯上にCaO-SiO-Al-MgO-F系スラグを形成させ、脱酸、脱硫した。その後、合金溶湯を連続鋳造機にて鋳造しスラブとし、これを熱間圧延して厚さ20mm×幅2000mm×長さ10000mmの圧延板とした。圧延板は、を960℃×10min熱処理した後に、冷却槽で水冷し、酸洗あるいは研磨によって表面の酸化皮膜を除去し、溶接管用素材となる素材板を製造した。この素材板の一部は、切り出して後述する溶接性試験に供した。
ここで、図1の各合金の成分組成について、「式1」の欄は、(Si+Cr)の値、「式2」の欄は(2×Al+Ti)の値、「式3」の欄は、(Al-Ti)の値を示した。つまり、「式1」が0.15~0.40の範囲内であれば関係式(1)を満たすことになる。また、「式2」が0.003~0.017の範囲内、「式3」が正の値であるときに関係式(2)及び(3)をそれぞれ満たすことになる。
<溶接管の製造>
次いで、図2に示す実施例1~18、及び、比較例1~18の溶接管を製造した(例えば、実施例1では、図1に示す合金1を用い上記した製造方法で得られた素材板に対して、同様に、図1に示す合金1からなる溶加材を用いて溶接を行った溶接管であることを示している)。素材板は、幅785mm×長さ10000mmに切断し、幅方向の端部を機械加工してU開先またはX開先を設け、外径276.4mm×長さ10000mmの管状に成形した。そして、所定の溶加材を用い、プラズマ及びTIG溶接機で最大25KJ/cmの縦シーム溶接により溶接管とした。
ここで溶加材は、TIG及びプラズマ溶接用ワイヤであり、上述した素材板の製造工程中のスラブから作成される。つまり、スラブを1200~1000℃の温度範囲で熱間鍛造し100mmの角柱鋼片とし、更に、1200~900℃の温度範囲で熱間伸線し線径9.5mmの素線材とする。この素線材を冷間伸線と、1050~950℃の温度範囲での軟化焼鈍とを繰り返して、最終的に、線径1.6~1.2mmの巻き線状のソリッドワイヤとするのである。
<溶接性試験>
溶接性試験は、素材板から溶接試験板を切り出して、バレストレイン試験によって耐溶接高温割れ性を評価し、溶接部の性状観察により健全性を評価した。
-耐溶接高温割れ性-
バレストレイン試験では、素材板の一部を切り出して機械加工し、厚さ10mm×長さ120mm×幅50mmのバレストレイン試験用溶接試験板を切り出し、ダブルビード方式のバレストレイン試験によって凝固割れ及び再熱割れを観察した。詳細には、TIG溶接により第1ビードを入熱25kJ/cmの条件で形成し、次いで、同じ入熱条件で第1ビードとラップするように第2ビードを形成した。第2ビードを形成する途中で、試験片に対して2~5%相当の曲げ歪みを急激に与え、生じた割れをマイクロスコープにより観察して割れ長さを測定し、第2ビードに形成された全ての割れの長さを合算した総割れ長さを測定した。一方、再熱割れについて、第1ビードの再熱部付近に発生する総割れ長さを測定した。
凝固割れの評価については、総割れ長さが1mm以内であれば優良と評価して「◎」、1mmを越え2mm以下であれば良と評価して「○」、2mmを越え3mm以下であれば可と評価して「△」、3mmを超えれば不良と評価して「×」を図2のそれぞれの欄に記した。一方、再熱割れについては、再熱割れ無であれば優良と評価して「◎」、総割れ長さが0.3mm以下であれば良と評価して「〇」、0.5mm以下であれば可と評価して「△」、0.5mmを超えれば不良と評価して「×」を図2のそれぞれの欄に記した。
なお、今回評価した合金系では、耐高温割れ性が全般的に高く、バレストレイン試験における歪みを2%程度とした場合に差異が明確でなかった。そのため、試験機性能の最大値である5%の歪みを付加して行った。
-溶接部の性状-
溶接部の性状観察では、溶け込み深さと溶接ビード幅を測定し、溶接部の性状の健全性について評価した。素材板の一部を切り出して、厚さ10mmの溶接部観察用溶接試験板に加工し、溶接電流200A、溶接線150mmのTIGビードオン溶接を行った。溶接部を切断してその断面のマクロ組織を観察し、ビードの溶け込み深さをマイクロスコープで測定し、溶け込み深さが板表面から3.0mm以上であれば優良と評価して「◎」、2.5mm以上3.0mm未満であれば良と評価して「○」、2.0mm以上2.5mm未満であれば可と評価して「△」、2.0mm未満であれば不可と評価して「×」を図2のそれぞれの欄に記した。
また、図3に示すように、溶接ビード幅の最小値Wminと最大値Wmaxを測定し、その差異ΔWを求めた。差異ΔWが0.25mm未満であれば優良と評価して「◎」、0.25mm以上0.45mm未満であれば良と評価して「〇」、0.45mm以上0.65mm未満であれば可と評価して「△」、0.65mm以上であれば不良と評価して「×」を図2のそれぞれの欄に記した。
<防錆性試験>
防錆性試験では、純水噴霧試験、工場内暴露試験、表面酸化皮膜の調査を行い、溶接管の防錆性を評価した。
-防錆性/純水噴霧試験-
溶接管の防錆性について純水噴霧試験にて評価した。例えば、ステンレス鋼の防錆性の評価方法としては塩水噴霧試験が知られているが、図1に示した如きFe-Ni合金の防錆性では、錆の発生が多く、試験材毎の差異を明確にしづらいと予想された。そこで、塩水噴霧試験の試験液を純水に替えた「純水噴霧試験」を行った。試験液を蒸留水とした以外はJISに規定された塩水噴霧試験と同様である。つまり、試験温度を50℃とし、2時間噴霧+1時間休止を1サイクルとして3サイクルの噴霧サイクルの後、噴霧試験片を観察し防錆性を評価した。噴霧試験片には、溶接管を厚さ約20mm×幅25mm×長さ10mmに切り出して用いたが、表面酸化皮膜の有無の比較評価のため、溶接施工後、上記したような焼鈍熱処理を行って表面酸化皮膜を形成させた試験片と、さらに酸洗し表面酸化皮膜を除去した試験片とを用意した。なお、酸化皮膜を形成するための焼鈍熱処理の保持温度(熱処理温度)と保持時間は図2に示した通りである。
噴霧試験片の観察は、評価対象領域についてデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製/VHX-7000)を用いて発生した錆面積を測定した。詳細には、デジタルマイクロスコープの「自動面積計算」機能で色公差を5に設定し、錆とそれ以外を色で2値化して錆面積を求めた。錆面積/評価対象領域面積で発錆面積率を算出し、発錆面積率に対応するR.N(レイティングナンバ)で防錆性を評価した。R.Nが9.9以上であれば優良と評価して「◎」、9.9未満9.5以上であれば良と評価して「〇」、9.5未満、9.0以上であれば可と評価して「△」、9.0未満であれば不良と評価して「×」を図2のそれぞれの欄に記した。
-防錆性/工場内暴露試験-
更に、暴露試験によっても溶接管の防錆性を評価した。表面酸化皮膜を形成させた溶接管と表面酸化皮膜を除去した溶接管とのそれぞれについて、工場の製品置き場で20日間保管して錆の発生を観察し防錆性を評価した。使用した工場の製品置き場は、風雨環境にさらされないものの湿度管理等が行われていない通常の製造工場内の製品置き場である。錆の発生の観察は、目視で行った。外周側は直接目視し、内周側はカメラを通して目視し、観察面積500×500mmの範囲で錆個数を測定し、その合計を求めた。錆個数が100個以下であれば優良と評価して「◎」、100個を越えて150個以下であれば良と評価して「〇」、150個を越えて200個以下であれば可と評価して「△」、200個越であれば不良と評価して「×」を図2のそれぞれの欄に記した。
-防錆性/表面酸化皮膜の観察-
さらに、焼鈍熱処理ままの溶接管についての表面酸化皮膜を観察し、防錆性を評価した。焼鈍熱処理後の溶接管から表面酸化皮膜の断面を含む皮膜観察試料を切り出し、FE-SEMに付属のEDS(エネルギー分散型分光法)にて表面酸化被膜の組成、密着性、及び、厚さについて観察した。皮膜観察試料の調製による表面酸化皮膜の剥離、脱落を防止するために、小片とした皮膜観察試料にCuメッキを施し、観察予定位置より5mm程度離れた位置で断面を切り出し、埋め込み後、観察予定位置まで研磨した。研摩は湿式のみで行い、細かな砥粒の研磨紙を選択し、ゆっくり丁寧に作業した。研磨断面を1000μm長さに渡って観察し、表面酸化皮膜の剥離無しであれば優良と評価して「◎」、剥離部分が15μm未満であれば良と評価して「〇」、剥離部分が15μm以上30μm未満であれば可と評価して「△」、これよりも広い範囲で剥離を生じたのであれば不良と評価して「×」を図2のそれぞれの欄に記した。また、表面酸化皮膜の厚さが、2~30μmの範囲であれば良と評価して「〇」、その中でも5~20μmとなっていたものを優良と評価して「◎」、2~30μmの範囲外を不良と評価して「×」を図2のそれぞれの欄に記した。
<溶接部の健全性・防錆性についての評価>
図2に示すように、実施例1~18の溶接性試験では、凝固割れ、再熱割れを生じず、あるいは軽微であり、ビード形状、溶け込み性にも優れていて、溶接部の健全性については全て「可」以上の評価であった。S、Pの含有量を低減した上で、更に、Ca、Mg及びCuの含有量を適正化することによって、このような優れた結果を得られたと考えられる。また、実施例1~18の防錆性試験及び皮膜の観察では、焼鈍熱処理によって良好な表面酸化被膜が形成され、防錆性について全て「可」以上の評価を得た。Si、Cr、Al及びTiの含有量を制御することにより表面酸化皮膜を適正に形成させ、優れた結果を得られたと考えられる。なお、純水噴霧試験及び工場内暴露試験の両者において、表面酸化皮膜を除去した場合、いずれにおいても不良の評価となった。このことからも、表面酸化皮膜が優れた防錆性を得るために必要である。
なお、実施例1~3では、関係式(1)~(3)を全て満たさない合金1~3(図1参照)をそれぞれ用いているが、防錆性評価は、表面酸化皮膜を有する場合に全て可、であった。実施例4~6では、関係式(3)を満たさない合金4~6(図1参照)をそれぞれ用いているが、防錆性評価は良であった。さらに、実施例7~11では、関係式(1)~(3)を全て満たす合金7~11をそれぞれ用いているが、防錆性評価は優良であった。また、実施例12は、関係式(1)を満たさない合金12、実施例13及び14は、関係式(2)を満たさない合金13及び合金14をそれぞれ用いており、実施例15は、関係式(3)を満たさない合金15を用いているが、いずれも防錆性評価において、実施例7~11よりも低かった。これらのことから、関係式(1)~(3)を満たすことでより高い防錆性を得られると結論された。
なお、実施例1~18では、溶接管用の素材板とシーム溶接に用いる溶加材は同じ成分組成の合金からなる。よって、上記した溶接部の健全性については、溶加材を用いずに共付け溶接した場合でも同様の評価になると考えられる。
一方、比較例1の溶接性試験では、溶け込み深さにおいて不良の評価であった。Cの含有量が少なかったためと考えられる、
比較例2の溶接性試験では、溶け込み深さにおいて不良の評価であった。防錆性試験では、表面酸化皮膜を形成させても表面酸化皮膜の剥離、厚さ共に不良の評価であった。そして、純水噴霧試験及び工場内暴露試験のいずれにおいても不良の評価であった。Siの含有量が少なかったためと考えられる。
比較例3の溶接性試験では、再熱割れ及びビード幅において不良の評価であった。Siの含有量が多かったためと考えられる。
比較例4の溶接性試験では、凝固割れにおいて不良の評価であった。Mnの含有量が少なかったためと考えられる。
比較例5の溶接性試験では、再熱割れ及びビード幅において不良の評価であった。また、防錆性試験では、表面酸化皮膜の剥離、厚さ共に不良の評価であった。そして、純水噴霧試験及び工場内暴露試験のいずれにおいても不良の評価であった。Mnの含有量が多かったためと考えられる。
比較例6の溶接性試験では、凝固割れ及び再熱割れにおいて不良の評価であった。Pの含有量が多かったためと考えられる。
比較例7の溶接性試験では、凝固割れ及び再熱割れにおいて不良の評価であった。Sの含有量が多かったためと考えられる。
比較例8の溶接性試験では、凝固割れ及び再熱割れにおいて不良の評価であった。Cuの含有量が多かったためと考えられる。
比較例9の防錆性試験では、表面酸化皮膜の剥離、厚さ共に不良の評価であり、純水噴霧試験及び工場内暴露試験のいずれにおいても不良の評価であった。Alの含有量が少なかったためと考えられる。
比較例10の溶接性試験では、溶け込み深さ及びビード幅において不良の評価であった。Alの含有量が多かったためと考えられる。
比較例11の溶接性試験では、再熱割れ及びビード幅において不良の評価であった。また、防錆性試験では、表面酸化皮膜の剥離において不良の評価となり、純水噴霧試験及び工場内暴露試験のいずれにおいても不良の評価であった。Tiの含有量が少なかったためと考えられる。
比較例12の溶接性試験では、凝固割れ、再熱割れ、溶け込み深さ、ビード幅のいずれにおいても不良の評価であった。Tiの含有量が多かったためと考えられる。
比較例13の溶接性試験では、凝固割れ及び再熱割れにおいて不良の評価であった。防錆性試験では、工場内暴露試験において不良の評価であった。Mgの含有量が少なかったためと考えられる。
比較例14の溶接性試験では、ビード幅において不良の評価であった。Mgの含有量が多かったためと考えられる。
比較例15の溶接性試験では、凝固割れ及び再熱割れにおいて不良の評価であった。防錆性試験では、工場内暴露試験において不良の評価であった。Caの含有量が少なかったためと考えられる。
比較例16の溶接性試験では、溶け込み深さ及びビード幅において不良の評価であった。Caの含有量が多かったためと考えられる。
比較例17の防錆性試験では、表面酸化皮膜の剥離、厚さ共に不良の評価であり、純水噴霧試験及び工場内暴露試験のいずれにおいても不良の評価であった。Crの含有量が少なかったためと考えられる。なお、表面酸化皮膜のEDSによる分析結果においてCrの含有が認められなかった。
比較例18の溶接性試験では、凝固割れ、再熱割れ、ビード幅において不良の評価であった。Nの含有量が少なかったためと考えられる。
このように、合金1~18であれば、実施例1~18に示したように熱処理により強固な表面酸化皮膜を簡易に形成させ得て優れた防錆性を与え得る。
[追加試験1]
図4に示すように、溶接試験板及び溶加材に互いに異なる合金を選択した場合について、a~dの溶接試験を行った。その結果、溶接試験板a~dのいずれにおいても溶接部に割れが発生し、安定したビードを得られなかった。
[追加試験2]
図5に示すように、素材板及び溶加材に互いに異なる合金を選択した溶接管について、a~oの防錆性試験、つまり、焼鈍熱処理の保持温度、保持時間を変化させた場合の防錆性の評価を行った。その結果、例えば、保持温度が高すぎる(k、n参照)と酸化皮膜が厚くなり過ぎ、剥離あるいはポーラスを生じて錆びの発生が多くなった。また、保持温度が低すぎると(j、o参照)、表面酸化皮膜が薄く不完全となって、製造工程に起因する小さなキズでも錆が発生してしまうなど、防錆性を低下させていた。
以上のように、追加試験1及び2を踏まえ、素材板及び溶加材に同じ合金を選択した溶接管である実施例1~18であれば、熱処理により強固な表面酸化皮膜を形成させることができて簡易に優れた防錆性を得られるのである。
ところで、合金1~18を含む本発明合金の成分組成の範囲は以下のように定められる。まず、必須添加元素について説明する。
Niは、Fe-Ni合金の熱膨張係数を制御する上で重要な元素である。熱膨張係数を小さく保ちつつ、防錆性を高める表面酸化皮膜を均一に形成させるために、その含有量をより精緻に規制することが必要である。このため、Niは、質量%で、35.5~36.5%の範囲内、好ましくは、35.6~36.4%の範囲内、より好ましくは35.7~36.3%の範囲内である。
Cは、機械強度を確保するために必要な元素であり、また溶加材としての使用において、溶接部の継手強度を母材部と同等にするために必要とされる。また、溶接時の溶け込み性を確保するためにも必要とされる。一方で、過剰に含有すると、炭化物を生成して、特に多層溶接の場合において溶接金属の低温靭性の劣化を招く場合がある。よって、優れた機械強度や低温靭性、低い熱膨張係数を得るためには、Cの含有量を厳しく制限する必要がある。これらを考慮して、Cは、質量%で、0.020~0.040%の範囲内、好ましくは0.022~0.037%の範囲内、より好ましくは0.025~0.035%の範囲内である。
Siは、脱酸剤として、さらには溶接時の良好な溶け込み性を維持するために有効な元素である。また、焼鈍により酸化物層の緻密化を促進して表面酸化皮膜を安定に形成させる元素である。一方で、過剰に含有すると、耐再熱割れ性を劣化させ、熱膨張係数を大きくしてしまう。これらを考慮して、Siは、質量%で、0.10~0.30%の範囲内、好ましくは0.12~0.28%の範囲内、より好ましくは0.14~0.26%の範囲内である。
Mnは、固溶強化元素であるため母材の機械強度の向上に寄与するとともに脱酸剤としても有効な元素である。また、MnSを形成してSの固定を促進し、熱間加工性と耐溶接割れ性を向上させる。一方で、過剰に含有すると、MnSが析出し耐溶接高温割れ性に影響するうえ表面性状も悪化させる。さらに熱膨張係数を増大させ、表面酸化皮膜を過剰に厚くしてしまう。これらを考慮して、Mnは、質量%で、0.25~0.45%の範囲内、好ましくは0.26~0.43%の範囲内、より好ましくは0.27~0.40%の範囲内である。
Pは、機械強度を確保するために一定量は含有させるべき重要な元素である。一方で、過剰に含有すると、粒界に偏析して熱間加工性を低下させ、溶接高温割れを起こすため、その上限は厳しく制限する。これらを考慮して、Pは、質量%で、0.0025~0.0050%の範囲内、好ましくは0.0027~0.0047%の範囲内、より好ましくは0.0030~0.0045%の範囲内である。
Sは、溶接時の溶け込み性を確保するために必要な元素である。一方で、過剰に含有すると、耐溶接高温割れ性に対して特に有害である。これらを考慮して、Sは、質量%で、0.0001~0.0012%の範囲内、好ましくは0.0002~0.0011%の範囲内、より好ましくは0.0003~0.0010%の範囲内である。
Crは、固溶強化元素であり機械強度の確保に寄与し、さらに防錆性を向上させる重要な元素である。また、Siと同様に、表面酸化皮膜を安定化させる元素でもあり、Siとともに表面に複合酸化物皮膜を形成し、表面酸化皮膜の緻密化を促進させて防錆性をより向上させる。一方で、過剰に含有すると、熱膨張係数が大きくなる。これらを考慮して、Crは、質量%で、0.03~0.22%の範囲内、好ましくは、0.05~0.20%の範囲内、より好ましくは、0.08~0.18%の範囲内である。
Cuは、FCC相の安定度の向上に寄与する元素である。一方で、過剰に含有すると、熱膨張係数が高くなる傾向にあり、かつ溶接時の溶接高温割れ感受性が高まる。これらを考慮して、Cuは、質量%で、0.01~0.10%の範囲内、好ましくは0.02~0.09%の範囲内、より好ましくは0.03~0.08%の範囲内である。
Alは、脱酸剤としての役割を担うとともに、適正な量を合金中に残留させると、防錆性を有する複合酸化物皮膜を効果的に形成し、緻密化させて安定化させる。一方で、過剰に含有すると、熱膨張係数を高くし、溶接の溶け込み性を劣化させ、また、溶接時の湯の粘性を高めてビード形状を悪化させる。これらを考慮して、Alは、質量%で、0.0005~0.010%の範囲内、好ましくは0.0010~0.008%の範囲内、より好ましくは0.002~0.007%の範囲内である。
Tiは、緻密で密着性の良い表面酸化被膜を効果的に形成するために必須の元素である。一方で、過剰に含有すると、熱膨張係数が高くなるとともに、溶接割れが発生しやすくなる。また、溶接時の湯の粘性を高め、ビード形状を悪化させる。これらを考慮して、Tiは、質量%で、0.0005~0.010%の範囲内、好ましくは0.0007~0.008%の範囲内、より好ましくは0.001~0.007%の範囲内である。
Nは固溶強化元素であり機械強度の確保に寄与する。一方で、過剰に含有すると、窒化物を形成して表面欠陥の発生を招く。また、高温割れ等の欠陥発生を助長するほか、溶接時の湯の粘性を高め、ビード形状を悪化させる。これらを考慮して、Nは、質量%で、0.0005~0.0050%の範囲内、好ましくは、0.0007~0.0040%の範囲内、より好ましくは0.0008~0.0035%の範囲内である。
Mgは、脱酸剤としての効果とともに脱硫作用も有し、耐溶接高温割れ性に及ぼすSの影響を軽減させることができる。一方で、過剰に添加すると、酸化物濃度を増加させて低温靭性を劣化させ、溶接ビード外観の劣化を招く。これらを考慮して、Mgは、質量%で、0.0003~0.0020%の範囲内、好ましくは0.0005~0.0017%の範囲内、より好ましくは0.0007~0.0015%の範囲内である。
Caは、脱酸剤としての効果とともに脱硫作用も有し、耐溶接高温割れ性に及ぼすSの影響を軽減させることができる。一方で、過剰に含有すると、酸化物濃度を増加させて低温靭性を劣化させ、アークを不安定としてビードの表面性状を大きく劣化させる。これらを考慮して、Caは、質量%で、0.0003~0.0015%の範囲内、好ましくは0.0004~0.0013%の範囲内、より好ましくは0.0005~0.0011%の範囲内である。
関係式(1)(0.15≦Si+Cr≦0.40)に関し、Cr及びSiは、優れた防錆性を示すために必要な元素で、表面酸化皮膜を安定化、緻密化させる。一方で、これらの元素を過剰に含有すると熱膨張係数を大きくする。これらを考慮して、Si+Crは規制されることが好ましく、質量%で、0.15~0.40%の範囲内、好ましくは0.17~0.38%の範囲内、より好ましくは0.20~0.35%の範囲内である。
関係式(2)(0.003≦2×Al+Ti≦0.017)に関し、Al及びTiは、いずれも緻密で密着性の良い表面酸化皮膜を形成するために必要な元素である。一方で、過剰に含有すると、熱膨張係数を高くし、溶接の溶け込み性を劣化させる。これらを考慮すると、より安定した表面酸化皮膜を形成させるために、相対的に効果を大とし悪影響を小とするAlをより多く含有させ、更にこれらの元素の総量を規制することが好ましい。そこで、2×Al+Tiの総含有量を規定することとし、2×Al+Tiは、質量%で、003~0.017%の範囲内、好ましくは0.005~0.016%の範囲内、より好ましくは0.007~0.015%の範囲内である。
次に、任意添加元素について説明する。
Moは、Fe-Ni合金の機械強度を効果的に上昇させる元素であり、母材部及び溶接金属部の機械強度の確保、防錆性の向上に有用な元素でもある。一方で、過剰に含有させると、熱膨張係数を高くして、さらには溶接割れの発生を助長する。これらを考慮して、Moは、質量%で、0.01~0.10%の範囲内、好ましくは0.02~0.09%の範囲内、より好ましくは0.04~0.08%の範囲内で任意に添加できる。
Coは、Niと同じくFe-Ni合金の熱膨張係数を低く維持する元素である。密着性の高い表面酸化皮膜を形成させる効果とともに、耐溶接高温割れ性に及ぼすSの影響を軽減させることができる。一方で、過剰に含有すると、切削性を低下させ、溶接の開先加工面の品質の安定を困難にする。これらを考慮して、Coは、質量%で、0.01~0.25%の範囲内、好ましくは0.02~0.23%の範囲内、より好ましくは0.04~0.20%の範囲内で任意に添加できる。
Wは、Fe-Ni合金の機械強度を効果的に上昇させ、防錆性も向上させる元素である。一方で、過剰に含有させると、熱膨張係数を高くし、さらには溶接割れの発生を助長する。これらを考慮して、Wは、質量%で、0.01~0.05%の範囲内、好ましくは0.01~0.04%の範囲内、より好ましくは0.02~0.04%の範囲内で任意に添加できる。
Bは、熱間加工性を改善する有用な元素である。一方で、過剰に含有させると、管製造時の溶接ビードの割れや母材製造工程における凝固割れを生じやすくさせる。また、表面酸化皮膜をポーラスにして防錆性に悪影響を与える。これらを考慮して、Bは、質量%で、0.0001~0.0010%の範囲内、好ましくは0.0001~0.0009%の範囲内、より好ましくは0.0001~0.0007%の範囲内と厳しく制限した範囲で任意に添加できる。
関係式(3)(Al≧Ti)に関し、Al及びTiは、防錆性を有する複合酸化物を効果的に生成し、緻密で密着性の良い表面酸化被膜を形成するため、大気中での防錆性の確保に役立つ。一方で、どちらも過剰に含有させると、溶接の溶け込み性や割れ感受性を劣化させるといった悪影響がある。特に、Tiの方がこの悪影響を生じやすい。これらを考慮して、Al≧Tiとすることが好ましい。好ましくはAl>Tiである。
以上、本発明の代表的な実施例及びこれに基づく改変例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。

Claims (10)

  1. 質量%で、
    C :0.020~0.040%、
    Si:0.10~0.30%、
    Mn:0.25~0.45%、
    P:0.0025~0.0050%、
    S:0.0001~0.0012%、
    Ni:35.5~36.5%、
    Cr:0.03~0.22%、
    Cu:0.01~0.10%、
    Al:0.0005~0.010%、
    Ti:0.0005~0.010%、
    N :0.0005~0.0050%、
    Mg:0.0003~0.0020%、
    Ca:0.0003~0.0015%
    を含有し、残部をFe及び不可避的不純物とした成分組成を有することを特徴とするFe-Ni合金。
  2. 前記成分組成は、
    0.15≦Si+Cr≦0.40 ・・・・・・(1)
    0.003≦2×Al+Ti≦0.017 ・・・(2)
    の関係式を満たすことを特徴とする請求項1記載のFe-Ni合金。
  3. 前記成分組成は、
    Al≧Ti ・・・・・・(3)
    であり、かつ、
    Mo: 0.01~0.10%、
    Co: 0.01~0.25%、
    W:0.01~0.05%、
    B:0.0001~0.0010%
    の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1記載のFe-Ni合金。
  4. 前記成分組成は、
    Al≧Ti ・・・・・・(3)
    であり、かつ、
    Mo: 0.01~0.10%、
    Co: 0.01~0.25%、
    W:0.01~0.05%、
    B:0.0001~0.0010%
    の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項2記載のFe-Ni合金。
  5. 溶接管であって、請求項1乃至4のうちの1つに記載のFe-Ni合金からなることを特徴とするFe-Ni合金管。
  6. Fe及びSi、Mn、Crからなる複合酸化物からなり2~30μmの厚さの表面酸化皮膜を有することを特徴とする請求項5記載のFe-Ni合金管。
  7. 溶接管であって、溶接部とともに、請求項1乃至4のうちの1つに記載のFe-Ni合金からなることを特徴とするFe-Ni合金管。
  8. Fe及びSi、Mn、Crからなる複合酸化物からなり2~30μmの厚さの表面酸化皮膜を有することを特徴とする請求項7記載のFe-Ni合金管。
  9. 請求項1乃至4のうちの1つに記載のFe-Ni合金からなる板材を用意し、前記板材を管状に加工し溶接して溶接管とし、750~900℃に加熱保持し、Fe及びSi、Mn、Crからなる複合酸化物からなる2~30μmの厚さの表面酸化皮膜を与えることを特徴とするFe-Ni合金管の製造方法。
  10. 請求項1乃至4のうちの1つに記載のFe-Ni合金からなる板材及び溶加材を用意し、前記板材を管状に加工し前記溶加材を用いて溶接して溶接管とし、750~900℃に加熱保持し、Fe及びSi、Mn、Crからなる複合酸化物からなる2~30μmの厚さの表面酸化皮膜を与えることを特徴とするFe-Ni合金管の製造方法。
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