JP7419731B2 - エンジンのシリンダブロック - Google Patents

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この発明は、円筒状のシリンダライナが鋳込まれたエンジンのシリンダブロックに関する。
従来から、円筒状を成す鋳鉄製のシリンダライナを一体に鋳込んだアルミニウム合金製のシリンダブロックが一般的である。この種のシリンダブロックは、シリンダライナによってシリンダボアの内面の一部が形成され、そのシリンダボア内にピストンが往復動可能に嵌合されることで、エンジンの一部が構成されている。ピストン外周に設けられたピストンリングが、シリンダライナの内面に擦接することで、燃焼室内の気密性を保ちながら、部材の耐摩耗性、耐久性が高められている。
例えば、特許文献1には、シリンダライナの上端面の最外径部に凸状の係合部を備えることで、シリンダライナの外径側の稜線部の形状を、先鋭な角部のない弧状とした技術が開示されている。凸状の係合部がシリンダブロックの母材に係合することで、シリンダライナとシリンダブロックの母材との間での局所的な応力集中を防ぐことができるとされている。
また、特許文献2には、シリンダライナの外周面及びシリンダヘッド側の上端面に、溶射被膜を形成した技術が開示されている。シリンダライナの外周面及びシリンダヘッド側の上端面に溶射被膜が形成されることで、鋳込み固定された後のシリンダライナとシリンダブロックの母材との密着性、熱伝導性が高められるとされている。
特開2015-48828号公報 特開2011-202576号公報
従来のシリンダブロックでは、エンジンの稼働中にシリンダライナの上端面とシリンダブロックの母材との間の微小な隙間に、燃焼室側からの燃焼ガスが繰り返し侵入する傾向がある。燃焼ガスは、高圧の圧力波となって燃焼室側から隙間へ侵入する。
このような燃焼ガスの侵入によって、シリンダライナの上端面とシリンダブロックの母材との間の隙間の大きさは、拡縮を繰り返すこととなる。このため、シリンダブロックの母材には、その拡縮に伴う繰り返し応力に耐え得る強度と耐久性が求められている。このため、逆に、シリンダライナの上端面とシリンダブロックの母材との間の隙間への燃焼ガスの侵入が抑制できれば、シリンダブロックの長寿命化や経済設計が可能であると考えられる。
そこで、この発明の課題は、シリンダライナの上端面とシリンダブロックの母材との間の隙間への燃焼ガスの侵入を抑制することである。
上記の課題を解決するために、この発明は、円筒状を成す鋳鉄製のシリンダライナがアルミニウム素材を含むシリンダ母材に鋳込み固定されたエンジンのシリンダブロックにおいて、前記シリンダライナの上端面に形成されたアルミニウム素材を含む表面層と、前記上端面と前記表面層との間に形成される合金層とを備えたエンジンのシリンダブロックを採用した。
ここで、前記シリンダライナの上端面に形成された凹部又は凸部からなる屈曲形成部を有し、前記合金層は、前記凹部又は凸部に沿って形成されている構成を採用することができる。
また、前記凹部は、フラットな底面と、前記底面の内周側端から前記上端面に立ち上がる内側側面と、前記底面の外周側端から前記上端面に立ち上がる外側側面とを備え、前記シリンダライナの軸心に直交する基準面に対する前記内側側面の裾部から頂部に至る仰角は、前記基準面に対する前記外側側面の裾部から頂部に至る仰角よりも小さく設定されている構成を採用することができる。
これらの各態様において、前記シリンダライナの前記上端面と外周面との間の稜線部に、外径側へ向かうにつれて下方へ向かう傾斜角部を備え、前記表面層及び前記合金層は前記屈曲形成部から前記傾斜角部まで連続して形成されている構成を採用することができる。
この発明は、シリンダライナの上端面とシリンダブロックの母材との間の隙間への燃焼ガスの侵入を抑制することができる。
この発明の実施形態を示し、(a)はシリンダブロックの要部拡大図、(b)は(a)の要部拡大図である。 (a)~(g)は、それぞれ図1の実施形態の変形例を示す要部拡大図である。 シリンダブロックの斜視図である。 エンジンの縦断面図である。
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。図1は、この発明のシリンダライナ10が鋳込み固定されたシリンダブロック1の要部を示している。図2(a)~(g)はそれぞれその変形例である。また、図3はシリンダブロック1の全体像を、図4はシリンダブロック1を用いたエンジンEの縦断面を示している。
シリンダブロック1はアルミニウム合金製であって、ダイカスト等の鋳造法によって製造されている。シリンダブロック1は、その下部にクランクケースが一体に成形されている。
図3及び図4に示すように、シリンダブロック1には、円筒状を成す鋳鉄製のシリンダライナ10が鋳造時の鋳込みにより一体に固定されている。すなわち、アルミニウム素材を含むシリンダブロック1の母材(以下、シリンダ母材Aと称する)に、鋳鉄製のシリンダライナ10が鋳込み固定されている。
シリンダライナ10の上端面10aの位置は、シリンダブロック1の頂面1aよりもやや下方にある。また、シリンダライナ10の下端面10dの位置は、クランクケースのやや上方にある。このため、シリンダ母材Aは、シリンダライナ10の上端面10a、外周面10b及び下端面10dの全域を覆うように、各面に密着している。すなわち、シリンダライナ10の上端面10aと外周面10b、下端面10dは、シリンダ母材Aに覆われる。
このため、燃焼室2の内壁を構成するシリンダボアの内面は、シリンダブロック1の頂面1a近くではシリンダ母材Aで構成され、その下部では、シリンダライナ10の内周面10cで構成されている。このシリンダボア内にピストン3が往復動可能に嵌合され、シリンダライナ10の内周面10cに、ピストン3の外周に設けられたピストンリングが擦接することで、燃焼室2内の気密性が保たれている。なお、ピストンリングが往復動する範囲は、全てシリンダライナ10によって燃焼室2の内壁が構成されている。
また、シリンダブロック1の頂面1aはフラット面で構成されている。エンジンEは、この頂面1a上にガスケットを介してシリンダヘッドが一体に結合されている。また、ピストン3は、コネクティングロッド4を介して、クランクケース内に収容されたクランクシャフト5に連結されている。
次に、シリンダライナ10とシリンダブロック1を構成するシリンダ母材Aとの固定構造について説明する。
図1に示すように、シリンダライナ10は、その上端面10aに形成された凹部又は凸部からなる屈曲形成部11を備えている。図1の例では、屈曲形成部11として凹部を採用している。凹部は、この実施形態のように、シリンダライナ10の上端面10aにおいて、周方向に沿って全周に連続的に設けられていることが望ましい。凹部の形状は、フラットな底面と、底面の内周側端から上端面10aに向かって直角に立ち上がる内側側面と、底面の外周側端から上端面10aに向かって直角に立ち上がる外側側面とを備えたものとしている。
また、シリンダライナ10の上端面10aと外周面10bとの間の稜線部に、外径側へ向かうにつれて下方へ向かう傾斜角部13を備えている。図1の例では、傾斜角部13として、外径側へ向かうにつれて直線状に下方へ向かう傾斜面を採用している。傾斜角部13は、この実施形態のように、シリンダライナ10の上端面10aにおいて、周方向に沿って全周に連続的に設けられていることが望ましい。
屈曲形成部11と傾斜角部13を含む上端面10aの表面全域に、アルミニウム素材を含む被膜部12が形成されている。すなわち、図1の例では、被膜部12は、屈曲形成部11よりも内周側(燃焼室2側)、屈曲形成部11、屈曲形成部11から傾斜角部13までの範囲、傾斜角部13の全域に連続している。
被膜部12は、アルミニウム粉末をレーザ溶射等の手法によって溶射することで形成される表面層12bと、その溶射によって、溶射したアルミニウム素材がシリンダライナ10の鋳鉄と溶け込んで形成される合金層12aとで構成されている。したがって、シリンダライナ10と表面層12bとの間に、シリンダライナ10の素材とアルミニウム素材とが溶け込んだ合金層12aが存在することになる。
一般的に、溶射とは、吹き付ける素材を融解あるいは溶融させて、それを母材の表面に噴射することにより行われる。このため、母材はあまり熱せられず、溶射された素材が母材と溶け込むことはなく、両者は機械的な結合となるのが通常である。しかし、この発明では、アルミニウム素材を含む表面層12bを溶射によって形成する際に、同時に、シリンダライナ10の素材である鉄(鋳鉄)と溶射された素材であるアルミニウムとの合金層12aを形成するようにしたので、表面層12bとシリンダライナ10との密着性を高めることができる。このとき、溶射する素材の溶射時における温度を、シリンダライナ10の素材である鉄(鋳鉄)の融点以上とすることが望ましい。
なお、表面層12bは、シリンダライナ10との間に合金層12aが形成されている限りにおいて溶射以外の手法により形成してもよく、例えば、アルミニウム素材を融解させたもの、あるいは、溶融させたもの(溶媒で溶かしたもの)を塗布する手法、あるいは、その他各種のコーティング、メッキ、その他周知の手法を採用できる。ここで、この実施形態のように、表面層12bと合金層12aとを同時に形成してもよいが、シリンダライナ10に合金層12aを形成した後に表面層12bを形成してもよい。
このような表面層12bと合金層12aを形成したシリンダライナ10を、シリンダブロック1の製造時にシリンダ母材Aに鋳込み成形(インサート成形)することで、表面層12bとシリンダ母材Aとの密着性を高めることができる。表面層12bとシリンダ母材Aとが同じアルミニウム素材であることにより、両者の溶け込みが促進されるからである。また、前述のように、表面層12bとシリンダライナ10とは、その間に合金層12aが介在することで、互いの密着性が高められている。これは、一般に、アルミニウムよりも鋳鉄の方が融点が高いことも、溶け込み促進の要素の一つと考えられる。なお、シリンダライナ10を構成する鋳鉄素材に、アルミニウム素材を溶射するという点についても、この発明における新規な点の一つである。
以上のように、この発明では、シリンダライナ10の上端面10aに屈曲形成部11を設けて、その屈曲形成部11を含む上端面10aに、アルミニウム素材を含む表面層12bと合金層12aを形成したので、シリンダライナ10とシリンダ母材Aとの密着性がより一層高まるので、両者の隙間への燃焼ガスの侵入を抑制することができる。
この燃焼ガス侵入の抑制効果は、表面層12bとシリンダ母材Aとの溶け込み度合いの強化と、表面層12bとシリンダライナ10との間の合金層12aの形成と、屈曲形成部11の設定による、表面層12bと合金層12a、表面層12bとシリンダ母材Aとの間の隙間の屈曲構造(迷路構造)による相乗効果であると考えられる。隙間が屈曲構造(迷路構造)を有している箇所において、向かい合う部材同士の素材の溶け込みが促進されていることが有効である。さらに、応力が集中しやすい傾斜角部13において、表面層12bとシリンダ母材Aとの溶け込み度合いの強化が図られている点も、隙間の拡大防止に寄与している。
上記実施形態の変形例を図2(a)~(g)に示す。
図2(a)の例は、屈曲形成部11を構成する凹部の形状を、フラットな底面11aと、底面11aの内周側端から上端面10aに向かって傾斜して立ち上がる内側側面11bと、底面11aの外周側端から上端面10aに向かって傾斜して立ち上がる外側側面11cとを備えたものとしている。内側側面11bは、底面11aの内周側端を裾部として上端面10aとの接続点である頂部まで立ち上がっている。また、外側側面11cは、底面11aの外周側端を裾部として上端面10aとの接続点である頂部まで立ち上がっている。
ここで、シリンダライナ10の軸心に直交する基準面に対する内側側面11bの裾部から頂部に至る仰角αは、その基準面に対する外側側面11cの裾部から頂部に至る仰角βよりも小さく設定されている。すなわち、凹部の形状は、シリンダボアの軸心から遠い方の側面の立ち上がり角度βを、近い方の側面の立ち上がり角度αよりも大きく設定している。このため、表面層12bとシリンダ母材Aとの間の隙間へのガスの侵入がさらに効果的に抑制できる。これは、燃焼室2側から隙間の奥部に向かうにつれて、隙間の屈曲構造における屈曲角度が大きき(α<β)なるからである。
図2(b)の例は、屈曲形成部11を、内周側から外周側へ向かって並列する複数凹部で構成したものである。各凹部の底面は凹状に湾曲している。ただし、図2(b)では、屈曲形成部11を構成する凹部を、傾斜角部13を除く上端面10a全域に設けているが、燃焼室2に近い内周側は燃焼に伴う熱影響を受けやすい範囲でもあるので、屈曲形成部11は、図1や図2(a)に示すように、シリンダライナ10の内周面10cからやや離れた位置を内周側の端部とすることが望ましい。
図2(c)の例は、屈曲形成部11を、内周側から外周側へ向かって徐々に下方へ傾斜する底面11dを有する凹部で構成したものである。底面11dは凹状に湾曲している。凹部の内周側の端部は、シリンダライナ10の内周面10cよりもやや外周側に位置し、凹部の外周側の端部は、シリンダライナ10の外周面10bに至っている。
図2(d)の例は、屈曲形成部11を、同じく凹状に湾曲する底面11dを有する凹部で構成したものである。凹部の内周側の端部は、シリンダライナ10の内周面10cよりもやや外周側に位置し、凹部の外周側の端部は、シリンダライナ10の外周面10bよりもやや内周側に位置している。
図2(e)の例は、屈曲形成部11を構成する凹部の形状を、フラットな底面11fと、底面11fの内周側端から上端面10aに向かって傾斜して立ち上がる内側側面11gとを備えたものとしている。ここで、内側側面11gを、底面11fから直角に立ち上がる形態としてもよい。凹部の内周側の端部は、シリンダライナ10の内周面10cよりもやや外周側に位置し、凹部の外周側の端部は、シリンダライナ10の外周面10bに至っている。なお、この例では、凹部の形成範囲を、シリンダライナ10の厚さ方向中央よりも外周側に限定しているが、凹部の形成範囲は、シリンダライナ10の厚さ方向中央よりも内周側に入り込んでいてもよい。
図2(f)の例は、図2(e)の凹部の形状を図2(c)の形状に変更したものである。凹状の底面11hを有する凹部の形成範囲は、シリンダライナ10の厚さ方向中央よりも外周側に限定されている。
図2(g)の例は、屈曲形成部11の設定を省略し、シリンダライナ10の上端面10aを凹凸の無いフラット面としたものである。屈曲形成部11が無い仕様においても、シリンダライナ10の上端面10aに、アルミニウム素材を含む表面層12bと合金層12aを形成することにより、シリンダライナ10とシリンダ母材Aとの密着性を高める効果が期待できる。
上記の各実施形態では、屈曲形成部11を設定する際に、その屈曲形成部11を上端面10aよりも下方へ凹む凹部で構成したが、屈曲形成部11を上端面10aよりも上方へ突出する凸部で構成してもよい。凸部は、上記各例と同じように、シリンダライナ10の上端面10aにおいて、周方向に沿って全周に連続的に設けられていることが望ましい。なお、各実施形態において、必要に応じて傾斜角部13の設置を省略することが可能である。
また、上記の各実施形態では、表面層12b及び合金層12aは、シリンダライナ10の上端面10aの半径方向(ライナ厚さ方向)全域に形成したが、表面層12b及び合金層12aは、シリンダライナ10の上端面10aの一部であってもよい。ただし、屈曲形成部11を設定する場合、表面層12b及び合金層12aは屈曲形成部11全体を含む領域に、また、屈曲形成部11と傾斜角部13とを設定する場合、表面層12b及び合金層12aは屈曲形成部11から傾斜角部13まで連続して形成されていることが望ましい。
1 シリンダブロック
2 燃焼室
10 シリンダライナ
10a 上端面
10b 外周面
11 屈曲形成部
11a 底面
11b 内側側面
11c 外側側面
12 被膜部
12a 合金層
12b 表面層
13 傾斜角部
A シリンダ母材
E エンジン

Claims (4)

  1. 円筒状を成す鋳鉄製のシリンダライナが溶射被膜を介してアルミニウム素材を含むシリンダ母材に鋳込み固定されたエンジンのシリンダブロックにおいて、
    前記溶射被膜は、前記シリンダライナの融点以上の温度でアルミニウム素材が溶解又は溶融して前記シリンダライナの上端面に形成されたアルミニウム素材を含む表面層と、
    前記上端面と前記表面層との間に形成される合金層と
    形成されているエンジンのシリンダブロック。
  2. 前記シリンダライナの上端面に形成された凹部又は凸部からなる屈曲形成部を有し、
    前記合金層は、前記凹部又は凸部に沿って形成する請求項1に記載のエンジンのシリンダブロック。
  3. 前記凹部は、フラットな底面と、前記底面の内周側端から前記上端面に立ち上がる内側側面と、前記底面の外周側端から前記上端面に立ち上がる外側側面と、を備え、
    前記シリンダライナの軸心に直交する基準面に対する前記内側側面の裾部から頂部に至る仰角は、前記基準面に対する前記外側側面の裾部から頂部に至る仰角よりも小さく設定されている請求項2に記載のエンジンのシリンダブロック。
  4. 前記シリンダライナの前記上端面と外周面との間の稜線部に、外径側へ向かうにつれて下方へ向かう傾斜角部を備え、
    前記表面層及び前記合金層は前記屈曲形成部から前記傾斜角部まで連続して形成されている請求項2又は3に記載のエンジンのシリンダブロック。
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