JP5840881B2 - ピストン摺動部の潤滑構造 - Google Patents

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Description

本発明は、ピストン摺動部の潤滑構造に関するものである。
図3に示す如く、自動車等における一般的なエンジンでは、シリンダ1内に収容されたピストン2がピストンピン3を介しコンロッド4の小端部4aにより揺動自在に支持されており、該コンロッド4の大端部4bがクランクピン5を介しクランクシャフト6と連結されている。
そして、クランクピン5はクランクアーム6aによりクランクシャフト6の中心からずらした位置に支持されており、クランクピン5がクランクシャフト6の中心回りに円軌道(図3中の一点鎖線を参照)を描いて移動するようになっているので、コンロッド4がピストンピン3を中心に揺動しつつピストン2がシリンダ1内を昇降することになる。
一般的に、ピストン2がアルミ製である場合には、スチール製のシリンダライナ1aに対する熱膨張差が大きくなるため、ピストン2側が大きく熱膨張して焼付きを起こすような事態を未然に回避し得るようピストンクリアランスを多く確保する必要があるが、ピストンクリアランスを多く確保してしまうと、ピストンスラップ時に打音が生じてしまうという不具合が生じる。
このため、従来においては、ピストン2のスカート7(ピストン2のピストンリング装着部より下の部分)の外周面に耐焼付き性及び低摩擦特性を有する低摩擦コーティングを施してピストンクリアランスを詰め、これによりピストンスラップ時の打音低減とピストン2の摩擦低減を図るようにしている。
ただし、爆発圧力Aにより下方に押し下げられるピストン2は、コンロッド4の傾斜によりピストン2の図中左側が強くシリンダ1の内壁に押し付けられ、このような側圧を受けるスラスト側において、金属接触が発生する混合潤滑の状態が支配的となり、反スラスト側では、油膜を挟んで摩擦面同士が離れて滑る流体潤滑の状態が支配的となるが、流体潤滑が支配的な反スラスト側にまで全域に低摩擦コーティングを施してしまうことで摺動抵抗が増し、これにより燃費の更なる向上を図り得る余地が損なわれているという事実を見い出すに到った。
そこで、本発明者は、図4及び図5に示す如く、ピストン2のスカート7における反スラスト側の外周面に、前記ピストン2の摺動方向に向かって延びる縞模様を成すように低摩擦コーティングを施し、そのコーティング部8の相互間に前記ピストン2の摺動方向に潤滑油を逃がす非コーティング部9を残す一方、ピストン2のスカート7におけるスラスト側の外周面全域に低摩擦コーティングを施した構成を創案し、これを下記の特許文献1として既に出願している。
このようにすれば、コーティング部8と非コーティング部9との境界にコーティング厚さ分のギャップg(図5参照)が生じ、実質的なシリンダライナ1a側との潤滑面が各コーティング部8の存在する領域だけに限定され、これによりピストン2のスカート7における潤滑面積が低減されて摩擦力が大幅に減少することになる。
即ち、各コーティング部8の相互間に残る非コーティング部9は、ピストン2の摺動方向に開放されていて潤滑油を自由に逃がし得るようになっているため、各非コーティング部9では、流体潤滑の状態にすらならず、潤滑油の粘度も殆ど影響しない非常に摩擦抵抗の少ない状態となるため、実質的なシリンダライナ1a側との潤滑面は、各コーティング部8の存在する領域だけに限定されることになる。
しかも、ピストン2のスカート7における反スラスト側では、各コーティング部8とシリンダライナ1aとの間が、油膜を挟んで摩擦面同士が離れて滑っている状態の流体潤滑の状態となるが、各コーティング部8の存在する領域では、ピストンクリアランスが詰まってピストン2の摺動時における油膜厚さが薄くなり、これにより摩擦係数が小さく抑えられて摩擦力がより少なくなる。
即ち、図6に縦軸を摩擦係数とし横軸を油膜厚さとしたストライベック線図で示す通り、流体潤滑の領域では、油膜厚さが薄くなるほど摩擦係数μが小さくなるため、各コーティング部8の存在によりピストンクリアランスが詰まって油膜厚さが薄くなれば、その摩擦係数μが小さくなって摩擦力が少なくなる。
特開2010−106724号公報
しかしながら、斯かる従来構造においては、ピストン2の摺動方向と平行に延びる縦縞パターンのコーティング部8を採用していたため、該各コーティング部8がシリンダライナ1a内面の同じ場所に押し付けられて摺動することになり、図7に示す如く、シリンダライナ1a内面のコーティング部8が当たる位置に筋状の軽微な段差10(表面粗さが小さくなることで生じた軽微な当たり)ができてしまい、シリンダライナ1aの耐久性に悪影響を及ぼすことが懸念された。
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、シリンダライナ内面に筋状の軽微な段差を生じることなく摩擦力の大幅な減少を図り得るようにしたピストン摺動部の潤滑構造を提供することを目的としている。
本発明は、エンジンのシリンダ内で往復動するピストンのスカートにおける反スラスト側の外周面に、前記ピストンの摺動方向に延びる縞模様を成すように低摩擦コーティングを施し、そのコーティング部の相互間に前記ピストンの摺動方向に潤滑油を逃がす非コーティング部を残したピストン摺動部の潤滑構造であって、各コーティング部をティアドロップ形状とし且つそのティアドロップ形状が隣り合うもの同士で交互に上下が逆向きになるように並べることにより、ピストンの摺動に応じ前記各コーティング部の摺動箇所がシリンダライナ内面の同一レベルにおいて前記シリンダライナの周方向に変化し且つ該シリンダライナの内面に対し前記各コーティング部が摺動する範囲が相互間で重複するようにしたことを特徴とするものである。
而して、このようにすれば、ピストンの摺動に応じ前記各コーティング部の摺動箇所がシリンダライナ内面の同一レベルにおいて前記シリンダライナの周方向に変化するようになっているので、各コーティング部の相互間に非コーティング部を残しながらも、各コーティング部の夫々がシリンダライナ内面に対して摺動する範囲が拡張され、しかも、その各コーティング部が摺動する範囲が相互間で重複するようになっているので、ピストンのスカートの反スラスト側と対峙する範囲内におけるシリンダライナ内面全域が各コーティング部により摺動されることになり、ここに筋状の軽微な段差が生じることが未然に回避される。
また、このようなコーティング部とした場合であっても、該コーティング部と非コーティング部との境界にコーティング厚さ分のギャップが生じ、実質的なシリンダライナ側との潤滑面が各コーティング部の存在する領域だけに限定されるため、ピストンのスカートにおける潤滑面積が低減されて摩擦力が大幅に減少する効果が従来通り得られる。
即ち、各コーティング部の相互間に残る非コーティング部は、ピストンの摺動方向に開放されていて潤滑油を自由に逃がし得るようになっているため、各非コーティング部では、流体潤滑の状態にすらならず、潤滑油の粘度も殆ど影響しない非常に摩擦抵抗の少ない状態となるため、実質的なシリンダライナ側との潤滑面は、各コーティング部の存在する領域だけに限定される。
しかも、ピストンのスカートにおける反スラスト側では、各コーティング部とシリンダライナとの間が、油膜を挟んで摩擦面同士が離れて滑っている状態の流体潤滑の状態となるが、各コーティング部の存在する領域では、ピストンクリアランスが詰まってピストンの摺動時における油膜厚さが薄くなり、これにより摩擦係数が小さく抑えられて摩擦力がより少なくなる。
更に、本発明においては、ピストンのスカートにおけるスラスト側の外周面全域に低摩擦コーティングを施すことが好ましく、このようにすれば、金属接触が発生する混合潤滑の状態が支配的となる前記スカートのスラスト側において、その全域が低摩擦コーティングで被覆されていることにより従来通りの耐焼付き性及び低摩擦特性を発揮させることが可能となる。
上記した本発明のピストン摺動部の潤滑構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
(I)本発明の請求項に記載の発明によれば、各コーティング部の相互間に非コーティング部を残しながらも、各コーティング部の夫々がシリンダライナ内面に対して摺動する範囲を拡張し、その各コーティング部が摺動する範囲を相互間で重複させて、ピストンのスカートの反スラスト側と対峙する範囲内におけるシリンダライナ内面全域を各コーティング部により摺動させることができ、シリンダライナの内面に筋状の軽微な段差を生じることなく摩擦力の大幅な減少を図ることができるので、前記筋状の軽微な段差によりシリンダライナの耐久性に悪影響が及ぶ虞れを払拭することができる。
(II)本発明の請求項に記載の発明によれば、金属接触が発生する混合潤滑の状態が支配的となるピストンのスカートにおけるスラスト側において、その全域を低摩擦コーティングで被覆して従来通りの耐焼付き性及び低摩擦特性を発揮させることができる。
本発明を実施する形態の一例を示す側面図である。 本発明の参考例を示す側面図である。 一般的なエンジンの機構を示す概略図である。 従来例を示す側面図である。 図4のV−V矢視の断面図である。 縦軸を摩擦係数とし横軸を油膜厚さとしたストライベック線図である。 シリンダライナ内面にできる軽微な段差を示す概略図である。
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
図1に示す如く、本形態例においては、先に説明した図4の従来例と同様に、ピストン2のスカート7における反スラスト側の外周面に、前記ピストン2の摺動方向に向かって延びる縞模様を成すように低摩擦コーティングを施し、そのコーティング部8の相互間に前記ピストン2の摺動方向に潤滑油を逃がす非コーティング部9を残す一方、ピストン2のスカート7におけるスラスト側の外周面全域に低摩擦コーティングを施すようにしているが、各コーティング部8を図4の従来例の如きピストン2の摺動方向と平行に延びる縦縞パターンに替えて、各コーティング部8をティアドロップ形状とし且つそのティアドロップ形状が隣り合うもの同士で交互に上下が逆向きになるように並べている。
即ち、本形態例においては、ピストン2の摺動に応じ前記各コーティング部8の摺動箇所がシリンダライナ1a内面の同一レベルにおいて前記シリンダライナ1aの周方向に変化する形状としてティアドロップ形状を採用しており、例えば、図1中のレベルLを基準とした場合、下方に向け拡幅するティアドロップ形状のコーティング部8(図1中の左から一番目のコーティング部8等)では、ピストン2の上昇に伴いレベルLにおける摺動箇所がシリンダライナ1aの周方向に拡張し、また、上方に向け拡幅する逆さのティアドロップ形状のコーティング部8(図1中の左から二番目のコーティング部8等)では、ピストン2の上昇に伴いレベルLにおける摺動箇所がシリンダライナ1aの周方向に縮小することになる。
尚、このようなティアドロップ形状のコーティング部8を交互に上下が逆向きになるように並べたことにより、各コーティング部8の相互間には、ピストン2の摺動方向に対し交互に逆向きに所要角度だけ傾斜した直線状の非コーティング部9が残されるようになっている。
また、ピストン2の周方向における各コーティング部8の最大幅部分の張り出し位置は、隣り合う相手側のコーティング部8の最大幅部分の張り出し位置を超えて張り出すようになっており、例えば、図1中の左から二番目に図示したコーティング部8の最大幅部分の張り出し範囲x内に、その左右のコーティング部8の最大幅部分が入り込んだ配置となっている。
即ち、ティアドロップ形状としたコーティング部8の最大幅部分の張り出し範囲xとは、シリンダライナ1aの内面に対し前記コーティング部8が摺動する範囲を示しており、換言すれば、シリンダライナ1aの内面に対し前記各コーティング部8が摺動する範囲が相互間で重複するようにしてある。
而して、このようなティアドロップ形状のコーティング部8とすれば、シリンダライナ1a内面の同一レベルに対し各コーティング部8の摺動箇所がピストン2の摺動に応じてシリンダライナ1aの周方向に拡張又は縮小するようになっているので、各コーティング部8の相互間に非コーティング部9を残しながらも、各コーティング部8の夫々がシリンダライナ1a内面に対して摺動する範囲が拡張され、しかも、その各コーティング部8が摺動する範囲が相互間で重複するようになっているので、ピストン2のスカート7の反スラスト側と対峙する範囲内におけるシリンダライナ1a内面全域が各コーティング部8により摺動されることになり、ここに筋状の軽微な段差が生じることが未然に回避される。
また、このようなコーティング部8とした場合であっても、該コーティング部8と非コーティング部9との境界にコーティング厚さ分のギャップが生じ、実質的なシリンダライナ1a側との潤滑面が各コーティング部8の存在する領域だけに限定されるため、ピストン2のスカート7における潤滑面積が低減されて摩擦力が大幅に減少する効果が従来通り得られる。
即ち、各コーティング部8の相互間に残る非コーティング部9は、ピストン2の摺動方向に開放されていて潤滑油を自由に逃がし得るようになっているため、各非コーティング部9では、流体潤滑の状態にすらならず、潤滑油の粘度も殆ど影響しない非常に摩擦抵抗の少ない状態となるため、実質的なシリンダライナ1a側との潤滑面は、各コーティング部8の存在する領域だけに限定される。
しかも、ピストン2のスカート7における反スラスト側では、各コーティング部8とシリンダライナ1aとの間が、油膜を挟んで摩擦面同士が離れて滑っている状態の流体潤滑の状態となるが、各コーティング部8の存在する領域では、ピストンクリアランスが詰まってピストン2の摺動時における油膜厚さが薄くなり、これにより摩擦係数が小さく抑えられて摩擦力がより少なくなる。
従って、上記形態例によれば、各コーティング部8の相互間に非コーティング部9を残しながらも、各コーティング部8の夫々がシリンダライナ1a内面に対して摺動する範囲を拡張し、その各コーティング部8が摺動する範囲を相互間で重複させて、ピストン2のスカート7の反スラスト側と対峙する範囲内におけるシリンダライナ1a内面全域を各コーティング部8により摺動させることができ、シリンダライナ1aの内面に筋状の軽微な段差を生じることなく摩擦力の大幅な減少を図ることができるので、前記筋状の軽微な段差によりシリンダライナ1aの耐久性に悪影響が及ぶ虞れを払拭することができる。
また、本形態例においては、ピストン2のスカート7におけるスラスト側の外周面全域に低摩擦コーティングを施しているので、金属接触が発生する混合潤滑の状態が支配的となる前記スカート7のスラスト側において、その全域を低摩擦コーティングで被覆して従来通りの耐焼付き性及び低摩擦特性を発揮させることができる。
即ち、図6のストライベック線図で示す通り、流体潤滑の領域においては、油膜厚さが薄くなるに従い摩擦係数μが小さくなるが、所定の油膜厚さを越えて金属接触が発生する混合潤滑に移行してしまうと、油膜厚さが薄くなるに従い摩擦係数μが急激に増加してしまう。
このため、混合潤滑が支配的なスラスト側にあっては、非コーティング部9を残してしまうことにより該非コーティング部9がシリンダライナ1a側と金属接触を起こして焼付きや摩耗損失を招いてしまうデメリットの方が大きいと考えられ、このようなデメリットを回避することを優先している。
更に、図2は本発明の参考例を示すもので、本参考例におけるコーティング部8、ピストン2の摺動に応じ前記各コーティング部8の摺動箇所がシリンダライナ1a内面の同一レベルにおいて前記シリンダライナ1aの周方向に変化し且つ該シリンダライナ1aの内面に対し前記各コーティング部8が摺動する範囲が相互間で重複するようになっているが、ここでは各コーティング部8をピストン2の摺動方向に対し同じ向きに所要角度だけ傾斜した帯形状としている。
このようにした場合にも、シリンダライナ1a内面の同一レベルに対し各コーティング部8の摺動箇所がピストン2の摺動に応じてシリンダライナ1aの周方向に移動するようになっているので、各コーティング部8の相互間に非コーティング部9を残しながらも、各コーティング部8がシリンダライナ1a内面に対して摺動する範囲が従来よりも拡張され、しかも、その各コーティング部8が摺動する範囲が相互間で重複するようになっているので、ピストン2のスカート7の反スラスト側と対峙した範囲におけるシリンダライナ1a内面全域が各コーティング部8により摺動され、ここに筋状の軽微な段差が生じることが未然に回避されることになる。
尚、本発明のピストン摺動部の潤滑構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
1 シリンダ
1a シリンダライナ
2 ピストン
7 スカート
8 コーティング部
9 非コーティング部

Claims (2)

  1. エンジンのシリンダ内で往復動するピストンのスカートにおける反スラスト側の外周面に、前記ピストンの摺動方向に延びる縞模様を成すように低摩擦コーティングを施し、そのコーティング部の相互間に前記ピストンの摺動方向に潤滑油を逃がす非コーティング部を残したピストン摺動部の潤滑構造であって、各コーティング部をティアドロップ形状とし且つそのティアドロップ形状が隣り合うもの同士で交互に上下が逆向きになるように並べることにより、ピストンの摺動に応じ前記各コーティング部の摺動箇所がシリンダライナ内面の同一レベルにおいて前記シリンダライナの周方向に変化し且つ該シリンダライナの内面に対し前記各コーティング部が摺動する範囲が相互間で重複するようにしたことを特徴とするピストン摺動部の潤滑構造。
  2. ピストンのスカートにおけるスラスト側の外周面全域に低摩擦コーティングを施したことを特徴とする請求項に記載のピストン摺動部の潤滑構造。
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