本実施形態に係る引戸装置は自閉式引戸装置であって、使用時には手動で開放され、手動開放後には機械式の自動閉鎖機構によって自動閉鎖する。点検時には、引戸は電動開放され、電動開放後には手動開放の場合と同様に、機械式の自動閉鎖機構によって自動閉鎖する。図1~図3を参照しつつ、本実施形態に係る引戸装置の構成について説明する。図1は、全閉姿勢にある引戸装置の正面図であり、図2は、電動開放後(点検時)の全開姿勢にある引戸装置の正面図である。図3は、図1における矢視方向から見た引戸装置の縦断面図である。
[A]引戸装置の基本構成
図1、図2に示すように、引戸装置は、第1スライド扉1と第2スライド扉2とからなる扉体と、戸先側縦枠3と、戸尻側縦枠4と、戸先側縦枠3と戸尻側縦枠4の上端間で水平状に延びる上枠5(図3参照)と、を備えている。図1、図2において、上枠5の前面は省略されており、後述する自閉装置6、引戸開放装置9が設けられる上面50(図1参照)のみが示してある。
引戸装置が取り付けられる躯体には、上端面12と左右の側端面13、14を三方とした切り欠き部が形成されており、当該切り欠き部から開口部Oが形成されている。より具体的には、図2に示すように、開口部Oは、切り欠き部の上端面12と、引戸の戸尻側に位置する側端面13と、引戸の戸先側の側端面14に位置して設けた戸先側縦枠3と、地面ないし床面FLとで囲まれた領域である。図1では、第1スライド扉1と第2スライド扉2によって開口部Oが閉鎖された状態を示し、図2では、第1スライド扉1及び第2スライド扉2が戸尻側の全開姿勢にあり、開口部Oが開放された状態を示す。図2は、第1スライド扉1及び第2スライド扉2を電動開放した状態を示すが、第1スライド扉1及び第2スライド扉2が手動開放された場合にも、後述するワイヤW2の水平部分の位置(すなわち、作動体20の位置)を除いて、図2と同様である(図6(C)参照)。
本実施形態に係る躯体は、開口部Oの戸尻側及び戸先側にそれぞれ位置する袖壁部D1と、開口部の上方及び戸尻側の袖壁部D1の上方に亘って位置する上壁部D2と、を備えている。戸尻側縦枠4は、開口部Oの戸尻側の側端面13から戸尻側に離間して、袖壁部D1の戸尻側部位及び上壁部D2の戸尻側端部に位置して設けてある。上枠5は、下端が上端面12に一致するように上壁部D2に設けてある(図3参照)。
1つの限定されない実施例では、本実施形態に係る引戸装置は、避難連絡坑と車道トンネルを連通する開口部に設置される避難連絡坑ドアの開き戸(車両用開口部を開閉する)に設けられる(特許文献1参照)。引戸装置が、避難連絡坑ドアの開き戸に設けられる場合には、躯体(袖壁部D1、上壁部D2を備える)は開き戸から構成される。すなわち、開口部Oは、開き戸(可動の躯体)に形成された人道用開口部であり、引戸装置は、人道用開口部を開閉するように開き戸に設けられる。この実施例では、引戸装置が使用される場合(使用時)は、典型的には、車道トンネルから避難連絡坑を通って避難する場合、すなわち避難時である。なお、本実施形態に係る引戸装置が避難扉を構成する場合は、避難扉は、避難連絡坑と車道トンネルを連通する開口部に設置される避難連絡坑ドアの一部として用いられる場合に限定されるものではない。例えば、開口部が引戸装置のみによって開閉されるようになっており、この引戸装置が避難扉であってもよい。
引戸装置の構成について、より具体的に説明する。第1スライド扉1の上端には扉幅方向に間隔を存して2つのハンガーローラアセンブリ1A、1Bが設けてあり、第2スライド扉2の上端には扉幅方向に間隔を存して2つのハンガーローラアセンブリ2A、2Bが設けてある。上壁部D2には、上枠5内に位置して、第1ハンガーレールHR1、第2ハンガーレールHR2が設けてある。図示の態様では、第1ハンガーレールHR1と第2ハンガーレールHR2は段違い状に異なる高さ位置で延びているが、この態様には限定されない。
第1スライド扉1は、ハンガーローラアセンブリ1A、1Bが第1ハンガーレールHR1上を移動することで、左右方向に開閉移動する。図4に示すように、第1スライド扉1の戸先側のハンガーローラアセンブリ1Aは、第1スライド扉1の上端に立ち上がり状に垂直に設けられたブラケット15Aと、ブラケット15Aに回転自在に支持されたハンガーローラ16Aと、からなる。図3、図4に示すように、第1スライド扉1の戸尻側のハンガーローラアセンブリ1Bは、第1スライド扉1の上端に立ち上がり状に垂直に設けられたブラケット15Bと、ブラケット15Bに回転自在に支持されたハンガーローラ16Bと、からなる。ハンガーローラ16A、16Bが第1ハンガーレールHR1上を転動することで第1スライド扉1がスライド移動する。なお、第1スライド扉1の下端には、振れ止めローラ21を受け入れる溝部21Aが形成されている。
第1ハンガーレールHR1は、第1スライド扉1のハンガーローラアセンブリ1A、1Bの移動範囲をカバーするように延びている。より具体的には、第1ハンガーレールHR1の戸先側端部は、全閉姿勢にある第1スライド扉1の戸先側のハンガーローラアセンブリ1Aに対応する位置にあり、第1ハンガーレールHR1の戸尻側端部は、全開姿勢にある第1スライド扉1の戸尻側のハンガーローラアセンブリ1Bに対応する位置にある。
第2スライド扉2は、ハンガーローラアセンブリ2A、2Bが第2ハンガーレールHR2上を移動することで、左右方向に開閉移動する。図3に示すように、第2スライド扉2の戸先側のハンガーローラアセンブリ2Aは、第2スライド扉2の上端に立ち上がり状に垂直に設けられたブラケット17Aと、ブラケット17Aに回転自在に支持されたハンガーローラ18Aと、からなる。図1に示すように、第2スライド扉2の戸尻側のハンガーローラアセンブリ2Bは、第2スライド扉2の上端に立ち上がり状に垂直に設けられたブラケット17Bと、ブラケット17Bに回転自在に支持されたハンガーローラ18Bと、からなる。ハンガーローラ18A、18Bが第2ハンガーレールHR2上を転動することで第2スライド扉2がスライド移動する。なお、第2スライド扉2の下端には、振れ止めローラ22を受け入れる溝部22Aが形成されている。
第2ハンガーレールHR2は、第2スライド扉2のハンガーローラアセンブリ2A、2Bの移動範囲をカバーするように延びている。より具体的には、第2ハンガーレールHR2の戸先側端部は、全閉姿勢にある第2スライド扉2の戸先側のハンガーローラアセンブリ2Aに対応する位置にあり、第2ハンガーレールHR2の戸尻側端部は、全開姿勢にある第2スライド扉2の戸尻側のハンガーローラアセンブリ2Bに対応する位置にある。
引戸装置は、引戸(第1スライド扉1、第2スライド扉2)の全閉状態、引戸(第1スライド扉1、第2スライド扉2)の全開状態をそれぞれ検知する第1検知手段、第2検知手段を備えている。本実施形態では、第1検知手段は、扉全閉リミットスイッチLSW1であり、第2検知手段は、扉全開リミットスイッチLSW2である。以下に、扉全閉リミットスイッチLSW1、扉全開リミットスイッチLSW2について説明するが、リミットスイッチは検知手段の例示であって、第1検知手段、第2検知手段は、リミットスイッチに限定されるものではなく、他の種類のスイッチを採用してもよい。また、第1検知手段、第2検知手段は、スイッチ類を用いるものに限定されず、例えば、モータの電圧、電流、抵抗等を利用して扉体の状態を判断してもよい。
扉全閉リミットスイッチLSW1は、戸先側縦枠3の上方部位に設けてあり、第1スライド扉1の戸先側端面の上端部位と接触状態にある時にON状態となり、非接触状態時にはOFF状態となる。したがって、扉全閉リミットスイッチLSW1がON状態からOFF状態となった時に、全閉姿勢にある第1スライド扉1が開放移動を開始したと判定することができ、扉全閉リミットスイッチLSW1がOFF状態からON状態となった時に、第1スライド扉1が全閉状態となったと判定することができる。
扉全開リミットスイッチLSW2は、戸尻側縦枠4の上方部位に設けてあり、第1スライド扉1の戸尻側端面の上端部位と接触状態にある時にON状態となり、非接触状態時にはOFF状態となる。したがって、扉全開リミットスイッチLSW2がOFF状態からON状態となった時に、第1スライド扉1が全開状態となったと判定することができ、扉全開リミットスイッチLSW2がON状態からOFF状態となった時に、全開姿勢にある第1スライド扉1が閉鎖移動を開始したと判定することができる。
[B]自閉式手動引戸
第1スライド扉1、第2スライド扉2は、使用時には、手動で開放される。第1スライド扉1に設けた取手Hを掴んで、手動で、第1スライド扉1を開放させることで、第1スライド扉1、第2スライド扉2を開放方向に移動させて開口部Oを開放するようになっている。より具体的には、第1スライド扉1が開放方向にスライド移動すると、戸尻側に移動する第1スライド扉1の戸尻側部位が開放姿勢にある第2スライド扉2の戸尻側部位に係止し、第1スライド扉1と第2スライド扉2が一体で開放方向にスライド移動して全開姿勢となる。引戸装置は、手動で開放した第1スライド扉1を自動で閉鎖させる自動閉鎖機構を備えている。開放姿勢から自動閉鎖機構によって第1スライド扉1が閉鎖方向にスライド移動すると、戸先側に移動する第1スライド扉1の戸尻側部位が、閉鎖姿勢にある第2スライド扉2の戸先側部位に係止し、第1スライド扉1と第2スライド扉2が一体で閉鎖方向にスライド移動して全閉姿勢となる。
引戸装置の自動閉鎖機構は、ワイヤW1と、ワイヤW1を巻き取ることでワイヤW1を介して開放姿勢にある第1スライド扉1(及び第2スライド扉2)を閉鎖方向に移動させる自閉装置6と、を含む。自閉装置6は、上枠5の上面50の戸先側部位に位置して設けてある。自閉装置6は外部に位置してワイヤW1の巻取部である巻取ドラム60を備えており、巻取ドラム60にはワイヤW1の一端が固定されている。自閉装置6には、巻取ドラム60と並んで第1プーリ60´が設けてあり、巻取ドラム60から水平に引き出されたワイヤW1は、第1プーリ60´を経由して戸先側に向かって斜め下方に延び、上枠5内の戸先側部位に設けた第2プーリ7を経由して戸尻側に向かって水平に延び、ワイヤW1の他端は、上枠5内の戸尻側部位に設けた巻取装置8の巻取ドラムに巻き取られるようになっている。
自閉装置6のケーシング内には、互いに連動する多数の部品(図示せず)が内蔵されている。これらの部品は、巻取ドラム60と一体で回転する第1軸と、第1軸とギアを介して伝動連結された第2軸と、第2軸と一体で回転する第1巻取ドラムと、第1巻取ドラムに隣接する第2巻取ドラムと、ぜんまいバネと、を含み、ぜんまいバネは、第1スライド扉1の全閉姿勢時には第2巻取ドラムに巻き取られており、全閉姿勢からの第1スライド扉1の開放移動時に、第1巻取ドラムに巻き取られるようになっている。ぜんまいバネが第1巻取ドラムに巻き取られるにしたがって、ぜんまいバネには、元の状態(第2巻取ドラムに巻き取られた状態)に戻ろうとする力が蓄えられていく。すなわち、自閉装置6の巻取ドラム60は、ぜんまいバネを備えた付勢手段によって、ワイヤW1を当該巻取ドラム60に巻き取る方向に付勢されている。なお、自閉装置6の内部構造の詳細については、特許文献2を参照することができる。一方、巻取装置8も、ワイヤW1を巻き取る方向に付勢するための手段(例えば、ぜんまいバネ)を備えている。本実施形態では、自閉装置6の巻取ドラム60の巻取方向の付勢力は、巻取装置8の巻取ドラムの巻取方向の付勢力よりも大きい。
本実施形態に係る自閉装置6は、自閉遅延機構を備えており、開口部Oの全開状態を所定時間保持した後で自閉装置6が作動するようになっている。自閉遅延機構は、ぜんまいバネを内蔵した機械式のタイマを備えている。本実施形態では、タイマは、全閉姿勢にある扉体の開放方向への移動(巻取ドラム60のワイヤW1の繰り出し方向の回転)に連動してセットされ、所定時間後(例えば、60秒後)に終了するようになっている。タイマが作動している間は、自閉装置6の作動が規制されており、タイマ終了によって、自閉装置6の作動規制が解除され、ぜんまいバネの付勢力によって巻取ドラム60がワイヤW1を巻き取る方向に回転して、ワイヤW1の水平部分が戸先側に移動することで第1スライド扉1が閉鎖移動する。
1つの態様では、自閉遅延機構は、巻取ドラム60と一体で回転する第1軸に設けられ、第1軸と一体で回転するピニオンと、ピ二オンに噛合した移動ラックと、第2軸の回転を規制する回転規制レバーと、第2軸に設けられ、第2軸と一体で回転するラチェットと、を備えている。移動ラックは、第1軸の回転に伴うピニオンの回転によって第1位置と第2位置との間で可動である。第1スライド扉1の全閉姿勢時では、移動ラックは第1位置にあり、第1スライド扉1の開放移動に連動して、第1位置から第2位置へと移動し、第1スライド扉1の全開姿勢時には、移動ラックは第2位置となる。移動ラックが第1の位置から第2の位置に移動した時に、回転規制レバーは下方に回動し、第2軸に設けたラチェットに係止することで、第2軸の第2の方向の回転を規制する。タイマは、移動ラックが第1の位置から第2の位置に移動することに連動して、セットされ、タイマの作動中は、タイマによって、回動規制レバーの上動が機械的に規制されている。タイマ終了によって、回転規制レバーの上方への回動規制が解除され、ラチェットとの係止状態が解除され、第2軸が第2の方向に回転可能となる。ぜんまいバネの付勢力によって第2軸が第2の方向に回転することに連動して、ワイヤW1の巻取ドラム60が第2の方向に回転して、ワイヤW1を巻き取っていき、ワイヤW1の水平部分が戸先側方向に移動することで、第1スライド扉1が閉鎖方向に移動する。なお、上記自閉遅延機構の構成は例示であって、自閉遅延機構を限定するものではない。
図3、図4に示すように、第1スライド扉1の戸先側のハンガーローラアセンブリ1Aの垂直状に延びるブラケット15Aの上方部位の内面にはハンガーローラ16Aが回転自在に設けてあり、ブラケット15Aの下方部位の外面には突出部150Aが設けてある。なお、図3では、第1スライド扉1の戸先側のハンガーローラアセンブリ1Aの垂直状に延びるブラケット15A及びハンガーローラ16Aは、戸尻側のハンガーローラアセンブリ1Bの垂直状に延びるブラケット15B及びハンガーローラ16Bの背面に隠れており、突出部150Aのみが現れている点に留意されたい。
突出部150Aの戸尻側部位には、緩衝部材としてのバネ152Aによって支持された当接部151Aが設けてある。ワイヤW1の水平部分は、突出部150A、バネ152A、当接部151Aを挿通して延びており、また、ワイヤW1の水平部分の所定部位には作動体19が設けてあり、作動体19が当接部151Aの戸尻側に位置して、当接部151Aに当接するようになっている。
図6を参照しつつ、全閉姿勢にある第1スライド扉(第2スライド扉は省略)の手動開放時の動きを説明する。図6において、(A)は全閉姿勢、(B)は開放移動中の姿勢、(C)は全開姿勢を示す。全閉姿勢にある第1スライド扉1(図6(A)参照)を自閉装置6の付勢力(ワイヤW1を巻き取る方向の力)に抗して手動で戸尻側(開放方向)にスライド移動させると、ハンガーローラアセンブリ1Aのブラケット15Aの当接部151AがワイヤW1上の作動体19に当接してワイヤW1を戸尻側へ移動させることで、ワイヤW1が自閉装置6の巻取ドラム60から引き出されながら戸尻側へ移動し、ワイヤW1が戸尻側へ移動した分は巻取装置8に巻き取られていき(図6(B)参照)、第1スライド扉1は全開位置まで移動する(図6(C)参照)。
図6(A)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はON状態、扉全開リミットスイッチLSW2はOFF状態であり、図6(B)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はOFF状態、扉全開リミットスイッチLSW2はOFF状態であり、図6(C)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はOFF状態、扉全開リミットスイッチLSW2はON状態である。第1スライド扉1の手動開放時には、ワイヤW2は不動であり、ワイヤW2上の作動体20の位置は不変である。
全閉姿勢にある第1スライド扉1が開放される時には、巻取ドラム60に巻き取られたワイヤW1が引き出されることで、巻取ドラム60、第1軸、第2軸、第1巻取ドラムが第1の方向に回転し、第2巻取ドラムに巻き取られているぜんまいバネは第1巻取ドラムに巻き取られていく。ぜんまいバネが第1巻取ドラムに巻き取られるにしたがって、ぜんまいバネには、元の状態(第2巻取ドラムに巻き取られた状態)に戻ろうとする力が蓄えられていく。第1スライド扉1が手動開放された後であって、かつ、自閉遅延装置によって開放姿勢が所定時間維持された後に、第1巻取ドラムに巻き取られたぜんまいバネが、元の姿勢に復帰するように、第2巻取ドラムに巻き取られていき、ぜんまいバネが第2巻取ドラムに巻き取られる時に、第1巻取ドラムが第2の方向に回転して第2軸が第2の方向に回転する。第2軸の第2の方向の回転力は、ギアを介して第1軸に伝達され、第1軸が第2の方向に回転して、ワイヤW1の巻取ドラム60が第2の方向に回転して、ワイヤW1を巻き取っていく。
図7は、全開姿勢にある第1スライド扉(第2スライド扉は省略)の自動閉鎖時の動きを説明する図であり、(D)は閉鎖移動中の姿勢、(E)は全閉姿勢を示す。図7に示すように、自閉装置6によって、ワイヤW1の一端が巻取ドラム60に巻き取られていく時に、ワイヤW1の水平部分が戸先側に移動し(この時、ワイヤW1の他端側部位は、巻取装置8の巻取ドラムから引き出される)、当接部151Aに戸尻側から当接するワイヤW1上の作動体19が、当接部151Aを戸先側(閉鎖方向)に向かって移動させることで、ハンガーローラアセンブリ1A、すなわち、第1スライド扉1が戸先側(閉鎖方向)へ移動して開口部Oを閉鎖する。
図7(D)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はOFF状態、扉全開リミットスイッチLSW2はOFF状態であり、図7(E)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はON状態、扉全開リミットスイッチLSW2はOFF状態である。第1スライド扉1の自動閉鎖時には、ワイヤW2は不動であり、ワイヤW2上の作動体20の位置は不変である。
[C]引戸の電動開放機構
引戸装置は、電動開放機構を備えており、点検時にスライド扉1、2を電動開放可能となっている。引戸装置の電動開放機構は、ワイヤW2と、ワイヤW2を巻き取ることでワイヤW2を介して閉鎖姿勢にある第1スライド扉1(及び第2スライド扉2)を開放方向に移動させる引戸開放装置9と、を含む。
本実施形態に係る引戸開放装置9は、上枠5の上面50の戸尻側部位に位置して設けてある。図5に示すように、引戸開放装置9は、モータを備えた開閉機90と、開閉機90の出力軸900と、出力軸900と伝動手段(ベルトやチェーンが例示される)901を介して伝動連結された巻取ドラム91と、を備え、巻取ドラム91にはワイヤW2の一端が固定されている。上枠5内の戸尻側部位において、引戸開放装置9の下方に位置して、プーリ10が設けてあり、巻取ドラム91から垂直に下方に引き出されたワイヤW2は、プーリ10を経由して戸先側に向かって水平に延び、ワイヤW2の他端は、上枠5内の戸先側部位に設けた巻取装置11に巻き取られるようになっている。
開閉機90が開放信号を受信すると、モータが起動して第1の方向に回転し、出力軸900、巻取ドラム91が第1の方向に回転して、ワイヤW2の第1端部側を巻取ドラム91に巻き取り、ワイヤW2の水平部分を第1の方向(戸尻側)に移動させるようになっている。ワイヤW2の水平部分の戸尻側への移動によって第1スライド扉1が開放方向に移動する。第1スライド扉1の戸尻側端面が扉全開リミットスイッチLSW2と接触状態となって扉全開リミットスイッチLSW2がON状態となると、開閉機90に停止信号が送信され、モータの駆動が停止する。
巻取装置11の巻取ドラムは、ワイヤW2を巻き取る方向に付勢するための手段(例えば、ぜんまいバネ)を備えている。引戸開放装置の開閉機90は、扉体開放時には、自閉装置6の付勢力(ワイヤW1を巻き取る方向の力)及び巻取装置11の付勢力(ワイヤW2を巻き取る方向の力)よりも大きい力でワイヤW2を巻取ドラム91に巻き取って、ワイヤW2の水平部分を第1の方向(戸尻側)に移動させるようになっている。
引戸の電動開放機構は、ワイヤW2の水平部分の第1の方向への移動に応じて、第1スライド扉1を開放移動させるようになっている。第1スライド扉1の戸尻側のハンガーローラアセンブリ1Bの垂直状に延びるブラケット15Bの上方部位の内面にはハンガーローラ16Bが回転自在に設けてあり、ブラケット15Bの下方部位の外面には突出部150Bが設けてある。突出部150Bの戸先側部位には、緩衝部材としてのバネ152Bによって支持された当接部151Bが設けてある。ワイヤW2の水平部分は、突出部150B、バネ152B、当接部151Bを挿通して延びており、また、ワイヤW2の水平部分の所定部位には作動体20が設けてあり、作動体20が当接部151Bの戸先側に位置して、戸尻側に向かって当接部151Bに当接するようになっている。
第1スライド扉1の全閉姿勢状態において、引戸開放装置9によって、ワイヤW2の一端が巻取ドラム91に巻き取られていくと、ワイヤW2の水平部分が戸尻側に移動し(この時、ワイヤW2の他端側部位は、巻取装置11の巻取ドラムから引き出される)、ワイヤW2上の作動体20が当接部151Bを戸尻側に向かって移動させることで、ハンガーローラアセンブリ1B、すなわち、第1スライド扉1が戸尻側(開放方向)へ移動して開口部Oを開放する。
電動開放された第1スライド扉1は、手動開放の場合と同様に自閉装置6によって自動的に閉鎖するようになっている。自閉装置6は、ワイヤW1の第2の方向(戸先側)への移動によって第1スライド扉1を閉鎖方向に移動させるものであり、一方、引戸開放装置9は、ワイヤW1とは独立したワイヤW2の第1の方向(戸尻側)への移動によって第1スライド扉1を開放方向に移動させるものである。ワイヤW1とワイヤW2は異なる高さで第1スライド扉1の移動方向に水平に延びており、本実施形態では、ワイヤW1が下側に位置し、ワイヤW2が上側に位置する。戸先側のハンガーローラアセンブリ1Aの下方に形成した当接部151Aと戸尻側のハンガーローラアセンブリ1Bの下方に形成した当接部151Bは異なる高さで突出しており、本実施形態では、突出部150B(当接部151B)が上側に位置し、突出部150A(当接部151A)が下側に位置する(図3、図4参照)。
本実施形態では、第1スライド扉1が全開状態となった時に、開閉機90のモータが所定量だけ第2の方向に逆回転し、出力軸900、巻取ドラム91が第2の方向に回転して、ワイヤW2の第2端部側を巻取装置11に巻き取ることで、ワイヤW2の水平部分を第2の方向(戸先側)に所定量移動させて、ワイヤW2上の作動体20を初期位置に復帰させるようになっている(図9(D)参照)。初期位置とは、第1スライド扉1の全閉姿勢時における作動体20の位置である(図4、図8(A)参照)。この時に、第1スライド扉1は全開姿勢を維持しており、第1スライド扉1の当接部151BとワイヤW2上の作動体20は離間している。したがって、自閉装置6によって、第1スライド扉1が閉鎖方向に移動する際に、当接部151Bが作動体20に当接して閉鎖移動を妨げるようなことがない。
図8を参照しつつ、全閉姿勢にある第1スライド扉(第2スライド扉は省略)の電動開放時の動きを説明する。図8において、(A)は全閉姿勢、(B)は開放移動中の姿勢、(C)は全開姿勢を示す。図8(A)の状態において、引戸開放装置9によって巻取ドラム91を第1の方向(巻取方向)に回転させると、ワイヤW2は、ワイヤW2の第1端側が巻取ドラム91に巻き取られ、第2端側が巻取装置11から引き出されることで、水平部分が戸尻側へ移動し、ワイヤW2上の作動体20が、ハンガーローラアセンブリ1Bの当接部151Bに当接してハンガーローラアセンブリ1Bを戸尻側へ移動させて、第1スライド扉1を開放方向に移動させ(図8(B))、第1スライド扉1は全開位置まで移動する(図8(C)参照)。
図8(A)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はON状態、扉全開リミットスイッチLSW2はOFF状態であり、図8(B)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はOFF状態、扉全開リミットスイッチLSW2はOFF状態であり、図8(C)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はOFF状態、扉全開リミットスイッチLSW2はON状態である。したがって、扉全閉リミットスイッチLSW1が第1スライド扉1の戸先側端面と接触状態であるON状態から非接触状態であるOFF状態となる時点を、全閉姿勢にある第1スライド扉1の開放方向への移動開始時とみなすことができ、扉全開リミットスイッチLSW2が第1スライド扉1の戸尻側と非接触状態であるOFF状態から、接触状態であるON状態となる時点を、第1スライド扉1が全開状態となった時点とみなすことができる。
全閉姿勢にある第1スライド扉1が電動開放される時には、手動開放時と同様に、巻取ドラム60に巻き取られたワイヤW1が引き出されることで、巻取ドラム60、第1軸、第2軸、第1巻取ドラムが第1の方向に回転し、第2巻取ドラムに巻き取られているぜんまいバネは第1巻取ドラムに巻き取られていく。ぜんまいバネが第1巻取ドラムに巻き取られるにしたがって、ぜんまいバネには、元の状態(第2巻取ドラムに巻き取られた状態)に戻ろうとする力が蓄えられていく。第1スライド扉1が手動開放された後であって、かつ、自閉遅延装置によって開放姿勢が所定時間維持された後に、第1巻取ドラムに巻き取られたぜんまいバネが、元の姿勢に復帰するように、第2巻取ドラムに巻き取られていき、ぜんまいバネが第2巻取ドラムに巻き取られる時に、第1巻取ドラムが第2の方向に回転して第2軸が第2の方向に回転する。第2軸の第2の方向の回転力は、ギアを介して第1軸に伝達され、第1軸が第2の方向に回転して、ワイヤW1の巻取ドラム60が第2の方向に回転して、ワイヤW1を巻き取っていく。
第1スライド扉1を電動開放した後であって、自閉装置が作動を開始する前に、第1の方向(戸尻側)へ所定量だけ移動したワイヤW2の水平部分を、所定量だけ第2の方向(戸先側)へ移動させて、ワイヤW2上の作動体20を初期位置に復帰させる(図9(D)参照)。第1スライド扉1が電動開放されると、扉全開リミットスイッチLSW2による第1スライド扉1の全開状態の検知によって、開閉機90のモータへの開放信号の送信が停止され、第1スライド扉1(及び第2スライド扉2)は全開姿勢で停止する。開閉機90のモータへの開放信号が停止すると、次いで、開閉機90のモータにモータを逆転させる信号が送信され、モータ、出力軸900、巻取ドラム91が第2の方向に所定量回転して、ワイヤW2の巻取ドラム91からの繰り出しを許容し、ワイヤW2は巻取装置11によって巻き取られて、ワイヤW2の水平部分が戸先側へ所定量移動し、ワイヤW2上の作動体20が初期位置に復帰する。図9(D)の状態では、第1スライド扉1は全開姿勢を維持しており、扉全閉リミットスイッチLSW1はOFF状態、扉全開リミットスイッチLSW2はON状態である。
図9(E)、(F)は、全開姿勢にある第1スライド扉(第2スライド扉は省略)の自動閉鎖時の動きを説明する図であり、(E)は閉鎖移動中の姿勢、(F)は全閉姿勢を示す。自閉装置6によって、ワイヤW1の一端が巻取ドラム60に巻き取られていく時に、ワイヤW1の水平部分が戸先側に移動し(この時、ワイヤW1の他端側部位は、巻取装置8の巻取ドラムから引き出される)、当接部151Aに戸尻側から当接するワイヤW1上の作動体19が当接部151Aを戸先側(閉鎖方向)に向かって移動させることで、ハンガーローラアセンブリ1A、すなわち、第1スライド扉1が戸先側(閉鎖方向)へ移動して開口部Oを閉鎖する。
図9(E)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はOFF状態、扉全開リミットスイッチLSW2はOFF状態であり、図9(F)の状態では、扉全閉リミットスイッチLSW1はON状態、扉全開リミットスイッチLSW2はOFF状態である。したがって、扉全開リミットスイッチLSW2が第1スライド扉1の戸尻側と接触状態であるON状態から、非接触状態であるOFF状態となる時点を、全開姿勢にある第1スライド扉1の閉鎖方向への移動開始時とみなすことができ、扉全閉リミットスイッチLSW1が第1スライド扉1の戸先側端面と非接触状態であるOFF状態から接触状態であるON状態となる時点を、第1スライド扉1が全閉状態となった時点とみなすことができる。第1スライド扉1の自動閉鎖時には、ワイヤW2は不動であり、ワイヤW2上の作動体20の位置は不変である。
[D]引戸の点検装置
図10、図11、図14に示すように、本実施形態に係る引戸の点検装置は、引戸の設置場所とは離隔した場所に位置する遠隔管理装置を備えており、遠隔管理装置からの開放信号の送信によって引戸を電動開放させ、電動開放時及び自動閉鎖時のデータを取得することで、遠隔操作で引戸の自動点検が可能となっている。遠隔管理装置と引戸装置はデータないし信号の送受信が可能となっており、点検時には、遠隔管理装置から引戸開放装置に開放信号を送信し、引戸開放装置が開放信号を受信すると、開閉機のモータが作動して、全閉姿勢にある扉体を全開姿勢へと開放移動させる。自閉遅延機構によって開口部全開状態が所定時間維持された後に、自閉装置が作動して、全開姿勢にある扉体を全閉姿勢へ閉鎖移動させる。このような扉体の電動開放動作、自動閉鎖動作に関連する所定の情報(データ)を取得することで、この情報を用いて点検を行う。本実施形態に係る点検装置は、点検項目についての正常・異常判定手段を備えており、算出ないし取得された情報と基準値とを比較することで、正常ないし異常を判定する。正常・異常判定手段は、遠隔管理装置に設けても(図10、図11参照)、あるいは、引戸装置に設けてもよく(図14参照)、あるいは、正常・異常判定手段の一部が遠隔管理装置に設けてあり、他の一部が引戸装置に設けてあってもよい。
点検時の扉体の状態(全閉姿勢、全開姿勢、移動時等)は、扉全閉リミットスイッチLSW1及び扉全開リミットスイッチLSW2の状態によって検知可能となっており、扉全閉リミットスイッチLSW1及び扉全開リミットスイッチLSW2の状態は、遠隔管理装置に送信され、遠隔管理装置で監視可能となっている。以下に、図11、図12を参照しつつ、詳細に説明する。
扉全閉リミットスイッチLSW1がON状態にあれば、扉体が全閉姿勢にあると判断でき、扉全閉リミットスイッチLSW1がON状態からOFF状態となったことをもって、全閉姿勢にある扉体が開放移動を開始したと判断でき、扉全閉リミットスイッチLSW1がON状態からOFF状態となった時T1を扉体の開放移動開始時とすることができる。
その後、扉全閉リミットスイッチLSW1がOFF状態、扉全開リミットスイッチLSW2がOFF状態であれば、扉体は全閉姿勢と全開姿勢の間にあると判断することができ、扉全開リミットスイッチLSW2がOFF状態からON状態となったことをもって、扉体が全開姿勢となったと判断でき、扉全開リミットスイッチLSW2がOFF状態からON状態となった時T2を扉体が全開完了時とすることができる。扉体の開放移動開始時T1と全開完了時T2から、扉体の開放時間t12を取得することができる。
その後、扉全開リミットスイッチLSW2がON状態の間は、扉体が全開姿勢を維持していると判断でき、扉全開リミットスイッチLSW2がON状態からOFF状態となったことをもって、全開姿勢にある扉体が閉鎖移動を開始したと判断でき、扉全開リミットスイッチLSW2がON状態からOFF状態となった時T3を扉体の閉鎖移動開始時とすることができる。扉体の全開完了時T2と閉鎖移動開始時T3から、扉体の全開姿勢維持時間t23を取得することができる。扉体の開放移動開始時T1と閉鎖移動開始時T3から、全閉姿勢にある扉体が移動を開始してから自閉動作を開始するまでの時間(本明細書では自閉時間と称する)t13を取得することができる。
その後、扉全開リミットスイッチLSW2がOFF状態、扉全閉リミットスイッチLSW1がOFF状態であれば、扉体は全開姿勢と全閉姿勢の間にあると判断することができ、扉全閉リミットスイッチLSW1がOFF状態からON状態となったことをもって、扉体が全閉姿勢となったと判断でき、扉全閉リミットスイッチLSW1がOFF状態からON状態となった時T4を扉体の全閉完了時とすることができる。扉体の閉鎖移動開始時T3と全閉完了時T4から、扉体の閉鎖時間t34を取得することができる。
手動引戸の点検項目には、自動閉鎖機構が適切に作動するか否かが含まれる。全開姿勢となった扉体が閉鎖移動を開始し、全閉姿勢となったことをもって、自動閉鎖機構が作動していると判断することができる。また、全開姿勢にある扉体が全閉姿勢となるまでの基準時間(基準値)を予め設定しておき、扉体の閉鎖時間t34と比較し、閉鎖時間t34が基準値の範囲外にある場合には、異常と判定してもよい。
手動引戸の点検項目には、自動閉鎖機構の自閉遅延機構が適切に作動するか否か、すなわち、全開姿勢となった扉体が適切な時間だけ全開姿勢を維持した後に自動閉鎖機構が始動するか否かが含まれる。本実施形態では、自動閉鎖機構の自閉動作の始動のタイミングは、自閉遅延機構のタイマによって設定されており、タイマが作動している間は、自閉動作が規制されており、タイマが終了することで、自閉動作の規制が解除され、自閉動作が始動する。自動閉鎖機構の自閉遅延機構のタイマの長さは、扉体が開放移動を開始してから全開姿勢となるまでの時間、望ましい全開姿勢維持時間を考慮して、設定される。
したがって、本実施形態では、自閉遅延機構が適切に作動しているか否かは、設定したタイマの時間に対応する基準時間(基準値)を予め設定しておき、扉体の開放移動開始時T1から閉鎖移動開始時T3までの自閉時間t13と比較し、自閉時間t13が基準値の範囲外にある場合には、異常と判定することができる。本実施形態では、タイマは全閉姿勢の扉体の開放動作に連動して作動を開始する。具体的には、扉体の開放動作時に巻取ドラムの回転に連動して動作する要素によって設定され、厳密には扉体の開放動作時とは異なる点に留意されたい。必要であれば、扉体の開放移動開始時とタイマ始動時のタイムラグを織り込んで基準時間を設定してもよい。
後述するように、本実施形態では、扉体が全閉姿勢から全開姿勢になるまでの扉体の位置情報と開放移動開始時T1からの時間が対応して記憶されており、扉体が任意の位置を通過した時点T1´から扉体の閉鎖移動開始時T3までの時間t1´3を計測することで、t1´3と所定の基準時間を比較するようにしてもよい。あるいは、予め設定されている基準時間が自閉時間t13に対応するものであるが、計測された時間が時間t1´3であるような場合に、時間t1´3を補正して、自閉時間t13を推定し、推定した自閉時間t13と基準時間を比較するようにしてもよい。また、扉体の全開姿勢維持時間t23に対応する基準時間(基準値)を予め設定しておき、扉体の全開姿勢維持時間t23と基準時間とを比較し、全開姿勢維持時間t23が基準値の範囲外にある場合には、異常と判定してもよい。
すなわち、本実施形態に係る時間取得手段は、扉体が電動開放されてから自動閉鎖するまでの時間を取得する手段として捉えることができる。取得される時間の始点である第1時点は、全閉姿勢にある扉体の開放移動開始時あるいは開放移動開始から全開姿勢となるまでの任意の時点(途中停止時、全開完了時T2を含む)であり、前記時間の終点である第2時点は、停止した扉体(全開姿勢を含む)の閉鎖移動開始時あるいは閉鎖移動開始から全閉姿勢となるまでの任意の時点(全閉完了時T4を含む)である。本実施形態では、前記第1時点は、全閉姿勢にある扉体の開放移動開始時T1であり、前記第2時点は、全開姿勢となった扉体の閉鎖移動開始時T3であり、前記時間を取得する手段は、前記扉体が開放移動を開始した時点から、自動閉鎖を開始する時点までの時間を取得する。
タイマの作動開始のタイミングは、扉体の開放移動開始時ないし開放移動開始に連動する開放初期時に限定されるものではなく、全閉姿勢にある扉体の開放移動開始後の所定の時点(全開完了時を含む)として設定してもよく、タイマ作動開始時点及びタイマの設定時間に応じて、適宜基準時間(基準値)を設定することができ、タイマ作動開始時点に対応する時点(必ずしも、タイマ作動開始時点と同一である必要はない)を取得することで、自閉遅延機構の作動の正常・異常を判定してもよい。
手動引戸の点検項目には、引戸の開放移動時の開放操作力(扉開放力)が適切であるか否かが含まれる。本実施形態では、この開放操作力は、N(ニュートン)で表される。手動引戸は避難時等に手動で扉体を開放移動させて人道用開口部を形成して避難するものであり、所定の大きさの力以下で開放可能でなければならない。本実施形態では、点検時に、遠隔管理装置から引戸開放装置に開放信号を送信することで、遠隔操作で、全閉姿勢にある扉体を全開姿勢まで電動開放させ、電動開放中の扉体の開放操作力を取得するようにしている。取得された開放操作力は、予め設定された基準値と比較され、取得された開放操作力が基準値の範囲外にある場合には、異常と判定される。
本実施形態に係る手動引戸の自動点検装置の初期設定時に、引戸開放装置によって、扉体を全閉姿勢(扉全閉リミットスイッチLSW1がON状態からOFF状態)から全開姿勢(扉全開リミットスイッチLSW2がOFF状態からON状態)まで電動で開放移動させ、開閉機のモータの回転数と扉体の位置との関係をエンコーダ(開閉機のモータに備わっている)の値として、開閉機の制御部(コンピュータの記憶部)に記憶する。扉体の全閉姿勢から全開姿勢までの距離がエンコーダによって測定・記憶され、また、扉体の全閉姿勢から全開姿勢までの開放時間t12を測定することで、扉体の全閉姿勢から全開姿勢までの工程を複数の区分ないしエリア(エリアは1区間の距離または時間で特定される)に分割することができる。
エンコーダにより検出される位置情報は、扉体の電動開放後に、モータを逆転させてワイヤW2の水平部分を戸先側に所定量だけ移動させてワイヤW2上の作動体20を初期位置に復帰させる時にも用いられる。第1スライド扉1が全閉姿勢にある時のワイヤW2上の作動体20の位置情報を第1スライド扉1の全閉位置の情報として開閉機の制御部(コンピュータの記憶部)に記憶しておくことで、モータを逆転させてワイヤW2の第1端部側を所定量繰り出すようにし、同時に巻取装置11によってワイヤW2の第2端部側を所定量だけ巻き取って、ワイヤW2上の作動体20を初期位置に復帰させる。
図13に示すように、本実施形態では、扉体の全閉姿勢から全開姿勢までの全体のストローク(距離)をN個のエリアに分割し、扉体の開放移動時に、各エリア毎に扉開放力を算出するようにしている。扉開放力を算出するタイミングは、例えば、1エリアの移動時間に対応する所定の時間(例えば、1.7秒)で設定することができ、所定時間毎に扉開放力がN回算出される。点検時に、扉体が電動開放される時に、1エリアごとの開放力を測定して記憶し、予め設定された基準値と比較することで、扉開放力が正常であるか異常であるかを判定する。図13に示すように、第1エリアの扉開放力を算出することで第1算出値が得られ、第1算出値と基準値を比較することで、第1算出値が基準値よりも小さければ「正常」と判定し、第1算出値が基準値よりも大きければ「異常」と判定する。第2エリア、第3エリア、・・・第Nエリアについても、それぞれの算出値が取得され、第1算出値と基準値を比較することで、算出値が基準値よりも小さければ「正常」と判定し、第1算出値が基準値よりも大きければ「異常」と判定する。各エリアは開放移動中の扉体の位置に対応しているため、扉開放力と扉体の位置との対応が得られ、例えば、特定のエリアのみで異常が検出された場合には、限定されないものの、そのエリアに対応する引戸の部材(扉体ではない側)の部位の不良を推測することが可能である。また、全エリアに亘って異常が検出された場合には、限定されないものの、扉体側の不良を推測することが可能である。
扉体の開放移動中の当該扉体の開放操作力は、開閉機のモータの動作パラメータ(例えば、モータが動作する時の電圧)から算出することができる。事前に扉体開放時の電圧と操作力を紐付けて、電圧と開放操作力との関係を取得しておき、この関係を用いて、電圧から操作力を算出するようにしておく。点検時に、実際に扉体を電動開放させる時の電圧を取得し、取得した電圧から開放操作力を算出する。扉体が全閉姿勢から全開姿勢まで移動する間の電圧データを逐次取得するようにし、所定のタイミング毎に開放操作力を算出して、基準値と比較する。本実施形態では、各エリア毎に開放操作力を算出するようにしているが、各エリア毎の開放操作力は各エリアにおける電圧の代表値(所定のタイミング時の電圧、あるいは、各エリアの電圧の平均値、あるいは、各エリアの電圧の最大値等)に基づいて算出することができる。本実施形態では電圧を用いているが、上記記載は電流や抵抗を採用する場合にも援用できる。
本実施形態に係る自動点検装置は、扉開放力算出手段、時間計測手段、正常・異常判定手段、各計測値や算出値、基準値を記憶する手段を備えている。これらの手段は、コンピュータ(処理部ないしプロセッサ、RAM、ROM等の記憶部等を含む)によって実現することができる。このような点検処理を実行するコンピュータが設けられる場所は限定されず、遠隔管理装置に設けてもよく、あるいは、引戸装置に設けてもよく、または、遠隔管理装置及び引戸装置とデータの送受信が可能なクラウドコンピュータであってもよい。
図10、図11に示す態様では、扉開放力算出手段、時間計測手段、正常・異常判定手段が遠隔管理装置にあり、測定値(扉開放時のモータの電圧、扉体の開放移動開始時T1、扉体の全開完了時T2、扉体の閉鎖移動開始時T3、扉体の全閉完了時T4)が遠隔管理装置に入力され、遠隔管理装置において、扉開放力算出手段によって、開放操作力が算出され、時間計測手段によって所定の時間t12、t23、t13、t34が計測されるようになっており、これらの、測定値、算出値ないし計測値は、記憶部に記憶される。記憶部には、各算出値ないし計測値に対応する基準値が記憶されており、正常・異常判定手段によって、取得した値と基準値が比較され、異常か否かが判定され、異常であれば異常出力が行われる。なお、正常な場合に、正常出力を行ってもよい。
図10、図11において、1つの態様では、引戸装置の引戸開放装置に図示しない制御部(処理部ないしプロセッサ、記憶部を備えている)が設けられ、制御部によって開閉機のモータの作動が制御される。遠隔管理装置から送信される開放信号は、開閉機の制御部に送信してモータを作動させてもよい。扉全閉リミットスイッチLSW1、扉全開リミットスイッチLSW2の状態が制御部に入力され、例えば、開放信号出力中に扉全開リミットスイッチLSW2がOFF状態からON状態となった時に、モータへの開放信号の出力を停止する。また、引戸装置から遠隔管理装置へのデータの送信を、制御部を介して行ってもよい。
図14に示す態様では、扉開放力算出手段、時間計測手段、正常・異常判定手段、記憶部が引戸装置にあり、扉開放力算出手段、時間計測手段、正常・異常判定手段、記憶部は、引戸装置側に設けたローカルコンピュータ(処理部ないしプロセッサ、RAM、ROM等の記憶部等を含む)によって実現することができる。測定値(扉開放時のモータの電圧、扉体の開放移動開始時T1、扉体の全開完了時T2、扉体の閉鎖移動開始時T3、扉体の全閉完了時T4)がローカルコンピュータに入力され、ローカルコンピュータにおいて、扉開放力算出手段によって、開放操作力が算出され、時間計測手段によって所定の時間t12、t23、t13、t34が計測されるようになっており、これらの、測定値、算出値ないし計測値は、記憶部に記憶される。記憶部には、各算出値ないし計測値に対応する基準値が記憶されており、正常・異常判定手段によって、取得した値と基準値が比較され、異常か否かが判定され、異常であれば異常出力が遠隔管理装置に送信される。なお、正常な場合に、正常出力が遠隔管理装置に送信されるようにしてもよい。また、引戸装置と遠隔管理装置との間の信号ないしデータの送受信をローカルコンピュータを介して行ってもよい。
本実施形態に係る自動点検装置は、遠隔で引戸を電動開放し、扉の開放操作力や自閉時間等の動作確認を行うことを可能とするものであり、引戸の設置現場に赴かなくても、引戸の点検作業を行うことが可能となる。したがって、従来は諸事情で点検頻度が低かった引戸においても(例えば、避難連絡坑に設置される防災扉の場合、従来は半年に一度程度しか行えなかった)、定期的に点検作業を行うことができる。また、定期的に引戸を動かすことで、ベアリングの固着等の部品劣化のリスクを低減させることができる。
本実施形態に係る引戸の点検装置は、引戸の設置場所とは離隔した場所に位置する遠隔管理装置からの開放信号の送信によって引戸を電動開放させることで、遠隔操作で引戸の自動点検が可能となっているが、点検時に、現場において手元のリモコンから開放信号を無線で送信して引戸を電動開放させてもよく、あるいは、現場に設置した操作パネルから開放信号を有線で送信して引戸を電動開放させてもよい。また、点検時(及び使用時)の扉体の動作をビデオ撮影し、遠隔管理装置のディスプレイに表示するようにしてもよい。また、遠隔管理装置から管理者やメンテナンス要員の携帯端末等に異常を知らせる情報を送信してもよい。
本実施形態に係る引戸の点検装置は、点検時に手動引戸を電動開放する点に特徴を有するものであるが、扉全閉リミットスイッチLSW1、扉全開リミットスイッチLSW2を用いて、手動開放時の扉体の状態や自閉動作を監視するようにしてもよい。すなわち、図12のチャートは、手動開放にも適用することができる。