以下、図面を参照して本発明の実施形態によるデジタル移相器について詳細に説明する。尚、以下で参照する図面では、理解を容易にするために、必要に応じて各部材の寸法を適宜変えて図示している。
〔第1実施形態〕
〈デジタル移相器〉
図1は、本発明の第1実施形態によるデジタル移相器の構成を示すブロック図である。図1に示す通り、本実施形態のデジタル移相器PS1は、第1移相回路100と第2移相回路200とを備える。第1移相回路100及び第2移相回路200は、高周波信号が流れる信号線LN1と共通帰線LN0(グランド線)とによって縦続接続されている。このようなデジタル移相器PS1は、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波等の高周波信号を入力とし、所定の位相だけシフトした高周波信号を外部に出力する。
第1移相回路100は、入力された高周波信号を所定の位相だけシフトして出力する。第1移相回路100は、移相量が周波数依存性を有する。例えば、第1移相回路100は、周波数が高くなるにつれて移相量が大きくなる周波数依存性を有する。第2移相回路は、第1移相回路100と同様に、入力された高周波信号を所定の位相だけシフトして出力する。第2移相回路200は、第1移相回路100における移相量の周波数依存性を緩和し得る移相量の周波数依存性を有する。例えば、第2移相回路200は、周波数が高くなるにつれて移相量が小さくなる周波数依存性を有する。このように、本実施形態のデジタル移相器PS1は、第1移相回路100の移相量の周波数依存性を、第2移相回路200によって緩和するようにしたものである。
〈第1移相回路〉
図2は、本発明の第1実施形態における第1移相回路の構成を示す回路図である。図2に示す通り、第1移相回路100は、第1回路110、第2回路120、及び第3回路130を備える。第1回路110は、第1ポートP100と第2ポートP110との間に接続された回路である。第2回路120は、第1ポートP100と共通帰線LN0との間に接続された回路であり、第3回路130は、第2ポートP110と共通帰線LN0との間に接続された回路である。このような第1移相回路100は、いわゆるπ型回路である。
第1移相回路100は、第1ポートP100と第2ポートP110との間において対称性を有する。このため、第1移相回路100は、高周波信号が第1ポートP100から入力される場合には、所定の位相だけシフトした高周波信号を第2ポートP110から外部に出力する。また、第1移相回路100は、高周波信号が第2ポートP110から入力される場合には、所定の位相だけシフトした高周波信号を第1ポートP100から外部に出力する。
第1回路110は、インダクタ111及び電子スイッチ112を備える、インダクタ111は、一端が第1ポートP100に接続されており、他端が第2ポートP110に接続されている。電子スイッチ112は、インダクタ111の両端の間に接続され、インダクタ111の両端の間を開放又は短絡する。この電子スイッチ112としては、例えば、FETを用いることができる。
第2回路120は、コンデンサ121、インダクタ122、及び電子スイッチ123を備える。コンデンサ121は、一方の電極が第1ポートP100に接続されており、他方の電極がインダクタ122の一端に接続されている。インダクタ122は、一端がコンデンサ121の他方の電極に接続されており、他端が共通帰線LN0に接続されている。電子スイッチ123は、インダクタ122の両端の間に接続され、インダクタ122の両端の間を開放又は短絡する。この電子スイッチ123としては、例えば、FETを用いることができる。
第3回路130は、コンデンサ131、インダクタ132、及び電子スイッチ133を備える。コンデンサ131は、一方の電極が第2ポートP110に接続されており、他方の電極がインダクタ132の一端に接続されている。インダクタ132は、一端がコンデンサ131の他方の電極に接続されており、他端が共通帰線LN0に接続されている。電子スイッチ133は、インダクタ132の両端の間に接続され、インダクタ132の両端の間を開放又は短絡する。この電子スイッチ133としては、例えば、FETを用いることができる。
第1回路110の電子スイッチ112、第2回路120の電子スイッチ123、及び第3回路130の電子スイッチ133は、第1移相回路100の移相量を変化させる際に、不図示の制御部によって制御される。具体的に、第1移相回路100を低遅延モードにする場合には、第1回路110の電子スイッチ112が閉状態になり、第2回路120の電子スイッチ123及び第3回路130の電子スイッチ133が開状態になるよう制御される。これに対し、第1移相回路100を高遅延モードにする場合には、第1回路110の電子スイッチ112が開状態になり、第2回路120の電子スイッチ123及び第3回路130の電子スイッチ133が閉状態になるよう制御される。尚、低遅延モードとは、第1移相回路100から出力される高周波信号の遅延が相対的に小さなモードであり、高遅延モードとは、第1移相回路100から出力される高周波信号の遅延が相対的に大きなモードである。
上記構成において、不図示の制御部の制御によって、第1回路110の電子スイッチ112が閉状態になり、第2回路120の電子スイッチ123及び第3回路130の電子スイッチ133が開状態になると、第1移相回路100が低遅延モードになる。これにより、第1移相回路100から出力される高周波信号の位相はφx1になる。これに対し、不図示の制御部の制御によって、第1回路110の電子スイッチ112が開状態になり、第2回路120の電子スイッチ123及び第3回路130の電子スイッチ133が閉状態になると、第1移相回路100が高遅延モードになる。これにより、第1移相回路100から出力される高周波信号の位相はφy1になる。このようにして、不図示の制御部によって第1移相回路100の移相量(位相φx1と位相φy1との差)が制御される。
〈第2移相回路〉
図3は、本発明の第1実施形態における第2移相回路の構成を示す回路図である。図3に示す通り、第2移相回路200は、第1回路210、第2回路220、及び第3回路230を備える。第1回路210及び第2回路220は、第1ポートP200と第2ポートP210との間に接続された回路であり、互いに並列接続されている。第3回路230は、第2回路220と共通帰線LN0との間に接続された回路である。このような第2移相回路200は、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波等の高周波信号を入力とし、所定の位相だけシフトした高周波信号を外部に出力する。
第2移相回路200は、第1ポートP200と第2ポートP210との間において対称性を有する。このため、第2移相回路200は、高周波信号が第1ポートP200から入力される場合には、所定の位相だけシフトした高周波信号を第2ポートP210から外部に出力する。また、第2移相回路200は、高周波信号が第2ポートP210から入力される場合には、所定の位相だけシフトした高周波信号を第1ポートP200から外部に出力する。
第1回路210は、可変コンデンサ211を備える。可変コンデンサ211の一方の電極は第1ポートP200に接続されており、他方の電極は第2ポートP210に接続されている。可変コンデンサ211は、第2移相回路200の移相量を変化させる際に、不図示の制御部によって制御される。
第2回路220は、直列接続された第1固定インダクタ回路221と第2固定インダクタ回路222とを備える。第1固定インダクタ回路221は、固定インダクタ221aを備えており、第2固定インダクタ回路222は、固定インダクタ222aを備えている。固定インダクタ221aの一端は第1ポートP200に接続されており、他端は固定インダクタ222aの一端に接続されている。固定インダクタ222aの一端は固定インダクタ221aの他端に接続されており、他端は第2ポートP210に接続されている。
第3回路230は、直列接続されたコンデンサ231と可変インダクタ232とを備えており、第2回路220に設けられた第1固定インダクタ回路221と第2固定インダクタ回路222との接続点Qに接続されている。コンデンサ231の一方の電極は接続点Qに接続されており、他方の電極は可変インダクタ232の一端に接続されている。可変インダクタ232の一端はコンデンサ231の他方の電極に接続されており、他端は共通帰線LN0に接続されている。可変インダクタ232は、可変コンデンサ211と同様に、第2移相回路200の移相量を変化させる際に、不図示の制御部によって制御される。尚、可変インダクタ232の詳細については後述する。
上記構成において、不図示の制御部が、可変コンデンサ211及び可変インダクタ232を制御し、可変コンデンサ211の容量の大きさ及び可変インダクタ232のインダクタンスの大きさを変えることにより、第2移相回路200の移相量が変化する。例えば、不図示の制御部が可変コンデンサ211の容量をCxに設定し、可変インダクタ232のインダクタンスをLxに設定すると、第2移相回路200から出力される高周波信号位相はφx2になる。また、例えば、不図示の制御部が可変コンデンサ211の容量をCyに設定し、可変インダクタ232のインダクタンスをLyに設定すると、第2移相回路200から出力される高周波信号の位相はφy2になる。このようにして、不図示の制御部によって第2移相回路200の移相量(位相φx2と位相φy2との差)が制御される。
〈可変インダクタ〉
図4は、本発明の第1実施形態における可変インダクタの要部構成を示す平面図である。図5は、図4中のII-II線に沿う断面図矢視図である。図6は、図4中のIII-III線に沿う断面矢視図である。図4~6に示す構成の可変インダクタID1は、図3に示す可変インダクタ232として用いられる。
図4に示す通り、可変インダクタID1は、信号線路10と、第1線路21と、第2線路22と、第1接地導体31と、第2接地導体32と、を備える。本実施形態における第1線路21は、第1平行線路21p1と、一対の上側パッド21d1、21d2と、を含む。本実施形態における第2線路22は、第2平行線路22p2と、第1交差線路22c1と、第3平行線路22p3と、第2交差線路22c2と、上側パッド22dと、を含む。また、本実施形態における可変インダクタID1は、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42と、複数の接続導体50と、複数の接続パッドP1~P4と、を備える(図5及び図6も参照)。
信号線路10は、図4に示す通り、一方向に延在する直線状の帯状導体である。即ち、信号線路10は、一定の幅、一定の厚さ及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。信号線路10には、図4における紙面左側から紙面右側に向かって、つまり紙面左側の端部(入力端)から紙面右側の端部(出力端)に向かって信号電流が流れる。この信号電流は、上述したマイクロ波、準ミリ波、或いはミリ波の波長域を有する高周波信号である。信号線路10は、例えば、入力端が図3に示すコンデンサ231の他方の電極に接続され、出力端が図1に示す共通帰線LN0に接続される。
ここで、本実施形態では、信号線路10の長手方向(信号線路10が延在する方向)を、単に長手方向Xという。長手方向Xに沿って、信号線路10の入力端から出力端に向かう向きを、+Xの向き又は右方という。右方とは反対の向きを、左方又は-Xの向きという。信号線路10に交差する(例えば、直交する)方向を、交差方向Yという。交差方向Yに沿う一つの向きを、奥側又は+Yの向きという。奥側とは反対の向きを、手前側又は-Yの向きという。長手方向X及び交差方向Yの双方に交差する(例えば、直交する)方向を、上下方向Zという。上下方向Zに沿う一つの向きを、上方又は+Zの向きという。上方とは反対の向きを、下方又は-Zの向きという。上下方向Zから見ることを、平面視という。
信号線路10は、電気的には集中定数回路としてのインダクタンスL1を有する。このインダクタンスL1は、信号線路10の長さ等、信号線路10の形状に応じた大きさを有する寄生インダクタンスである。
第1平行線路21p1は、信号線路10の他方の側方(-Y側)に設けられた直線状の帯状導体である。第1平行線路21p1は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第1平行線路21p1は、信号線路10と平行(長手方向X)に延びている。第1平行線路21p1と信号線路10とは、交差方向Yに間隔を空けて配されている。
上側パッド21d1は、第1平行線路21p1の一端(-X側)に接続された長方形状の平板導体である。上側パッド21d1の長辺は交差方向Yに延びており、上側パッド21d1の短辺は長手方向Xに延びている。上側パッド21d1の一方の短辺(+Y側)は、第1平行線路21p1の一方の側縁(+Y側)と略同一の位置にある。また、上側パッド21d1の他方の短辺(-Y側)は、第1平行線路21p1の他方の側縁(-Y側)よりも手前側(-Y側)に位置する。つまり、上側パッド21d1の交差方向Yにおける寸法は、第1平行線路21p1の幅(交差方向Yにおける寸法)よりも大きい。
上側パッド21d2は、第1平行線路21p1の他端(+X側)に接続された長方形状の平板導体である。上側パッド21d2の長辺は交差方向Yに延びており、上側パッド21d2の短辺は長手方向Xに延びている。上側パッド21d2の一方の短辺(+Y側)は、第1平行線路21p1の一方の側縁(+Y側)と略同一の位置にある。また、上側パッド21d2の他方の短辺(-Y側)は、第1平行線路21p1の他方の側縁(-Y側)よりも手前側(-Y側)に位置する。つまり、上側パッド21d2の交差方向Yにおける寸法は、第1平行線路21p1の幅(交差方向Yにおける寸法)よりも大きい。
第2平行線路22p2は、信号線路10の一方の側方(+Y側)に設けられた直線状の帯状導体である。第2平行線路22p2は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第2平行線路22p2は、信号線路10と平行(長手方向X)に延びている。第2平行線路22p2と信号線路10とは、交差方向Yに間隔を空けて配されている。
第2平行線路22p2は、信号線路10に対して第1平行線路21p1とは逆側に設けられている。言い換えれば、第2平行線路22p2は、信号線路10が交差方向Yにおいて第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2の間に位置するように、配置されている。
第1交差線路22c1は、第2平行線路22p2の一端(-X側)に接続された直線状の帯状導体である。第1交差線路22c1は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第1交差線路22c1は、第2平行線路22p2の一端(-X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10から遠ざかるように延びている。つまり、本実施形態における第1交差線路22c1は、第2平行線路22p2の一端(-X側)から奥側(+Y側)に向けて延びている。第1交差線路22c1の手前側の端縁(-Y側)は、第2平行線路22p2の一方の側縁(-Y側)と略同一の位置にある。
上側パッド22dは、第2平行線路22p2の他端(+X側)に接続された長方形状の平板導体である。上側パッド22dの長辺は交差方向Yに延びており、上側パッド22dの短辺は長手方向Xに延びている。上側パッド22dの一方の短辺(-Y側)は、第2平行線路22p2の一方の側縁(-Y側)と略同一の位置にある。また、上側パッド22dの他方の短辺(+Y側)は、第2平行線路22p2の他方の側縁(+Y側)よりも奥側(+Y側)に位置する。つまり、上側パッド22dの交差方向Yにおける寸法は、第2平行線路22p2の幅(交差方向Yにおける寸法)よりも大きい。
第3平行線路22p3は、第1交差線路22c1の一端(+Y端)に接続された直線状の帯状導体である。第3平行線路22p3は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第3平行線路22p3は、第1交差線路22c1の一端(+Y側)から、信号線路10と平行(長手方向X)に延びている。つまり、本実施形態における第3平行線路22p3は、第1交差線路22c1の一端(+Y側)から右側(+X側)に向けて延びている。
第3平行線路22p3は、信号線路10の一方側(+Y側)において、第2平行線路22p2よりも信号線路10から遠い位置に設けられている。言い換えれば、第3平行線路22p3は、第2平行線路22p2が交差方向Yにおいて信号線路10と第3平行線路22p3との間に位置するように、配置されている。
図4に示す通り、交差方向Yにおいて、第2平行線路22p2の中心線と第3平行線路22p3の中心線との間の距離d1は、第2平行線路22p2の中心線と第1接地導体31の奥側の外縁(第3平行線路22p3側の外縁)との間の距離d2よりも大きい。また、第3平行線路22p3の右端(+X側)は、第2線路22の上側パッド22dの右側(+X側)長辺よりも右方(+X側)に位置する。
第2交差線路22c2は、第3平行線路22p3の一端(+X側)に接続された直線状の帯状導体である。第2交差線路22c2は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第2交差線路22c2は、第3平行線路22p3の一端(+X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10に近づくように延びている。つまり、本実施形態における第2交差線路22c2は、第3平行線路22p3の一端(+X端)から手前側(-Y側)に向けて延びている。
本実施形態における第2交差線路22c2の一端縁(-Y側)は、上側パッド22dの一方の短辺(-Y側)及び第2平行線路22p2の一方の側縁(-Y側)と略同一の位置にある。また、上側パッド22dと第2交差線路22c2とは、長手方向Xにおいて間隔を空けて配されている。また、本実施形態における第2交差線路の左側縁(-X側)は、信号線路10の右端縁(+X側)と略同一の位置にある。
また、本実施形態における第2交差線路22c2の一端(-Y側)は、不図示の導体によって、第2接地導体32と常時電気的に接続されている。言い換えれば、第2線路22の一端は、不図示の導体によって、第2接地導体32と常時電気的に接続されている。
以上説明した第1交差線路22c1、第3平行線路22p3、及び第2交差線路22c2は、奥側(+Y側)に凸となるU字状にループしたループ線路を構成している。
第1接地導体31は、信号線路10の入力端側(-X側)に設けられる板状の導体である。第1接地導体31は、電気的に接地されている。また、第1接地導体31の右側(+X側)の側縁には、長方形状の切欠き31aが形成されている。本実施形態では、この切欠き31aが形成されていることにより、第1接地導体31と信号線路10とが長手方向Xにおいて重なっていない。
また、本実施形態では、第1接地導体31のうち切欠き31aよりも左側(-X側)に位置する部分を「基部31b」と称し、切欠き31aよりも手前側(-Y側)に位置する部分を「第1突起部31c」と称し、切欠き31aよりも奥側(+Y側)に位置する部分を「第2突起部31d」という。第1突起部31c及び第2突起部31dの各々は、基部31bから右側(+X側)に向けて突出している。尚、第1接地導体31には、切欠き31a、第1突起部31c、第2突起部31dが形成されていなくともよい。例えば、第1接地導体31の平面視形状は矩形形状であってもよい。
第1突起部31c及び第2突起部31dの各々は、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状を有する。第1突起部31cは、上側パッド21d1と上下方向Zにおいて重なっている。第2突起部31dは、上下方向Zにおいて、第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部と上下方向Zにおいて重なっている。第1接地導体31は、図5に示す通り、信号線路10、第1線路21(上側パッド21d1)、及び第2線路22(第1交差線路22c1)よりも下方に位置する。
第2接地導体32は、信号線路10の出力端側(+X側)に設けられる板状の導体である。第2接地導体32は、電気的に接地されている。詳細な図示は省略するが、第2接地導体32は、信号線路10、及び第2線路22(第2交差線路22c2)よりも下方に位置する。
第1接続パッドP1は、図5に示す通り、上述した上側パッド21d1と、上側中間パッド71aと、下側中間パッド71bと、上述した第1突起部31cと、を含む。上側パッド21d1、上側中間パッド71a、下側中間パッド71b、及び第1突起部31cは、平面視において互いに重なっている。また、上側パッド21d1、上側中間パッド71a、下側中間パッド71b、及び第1突起部31cは、上側(+Z側)から下側(-Z側)に向けてこの順に並んでおり、上下方向Zにおいて間隔を空けて配されている。
詳細な図示は省略するが、本実施形態における上側パッド21d1、上側中間パッド71a、下側中間パッド71b、及び第1突起部31cは、互いに略同一の形状を有する。つまり、上側パッド21d1、上側中間パッド71a、下側中間パッド71b、及び第1突起部31cは、長手方向X及び交差方向Yにおける位置及び寸法が、互いに略同一である。
図5に示す通り、上側パッド21d1と上側中間パッド71aとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、上側中間パッド71aと下側中間パッド71bとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、下側中間パッド71bと第1突起部31cとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。これにより、第1接続パッドP1は、第1平行線路21p1の一端(-X側)と第1接地導体31とを、常時電気的に接続している。
尚、本明細書において「接続導体50」は、上下方向Zに延在する導体であり、接続導体50の上端に接続される部材と接続導体50の下端に接続される部材とを電気的且つ機械的に接続する部材である。接続導体50は、例えば絶縁層(不図示)を上下方向Zに貫通するビアである。
第2接続パッドP2は、図5に示す通り、上述した第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部と、上側中間パッド72aと、下側中間パッド72bと、上述した第2突起部31dと、を含む。第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部、上側中間パッド72a、下側中間パッド72b、及び第2突起部31dは、平面視において互いに重なっている。また、第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部、上側中間パッド72a、下側中間パッド72b、及び第2突起部31dは、上側(+Z側)から下側(-Z側)に向けてこの順に並んでおり、上下方向Zにおいて間隔を空けて配されている。
詳細な図示は省略するが、本実施形態における上側中間パッド72a、下側中間パッド72b、及び第2突起部31dは、互いに略同一の形状を有する。つまり、上側中間パッド72a、下側中間パッド72b、及び第2突起部31dの各々は、長手方向X及び交差方向Yにおける位置及び寸法が、互いに略同一である。
図5に示す通り、第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部と上側中間パッド72aとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、上側中間パッド72aと下側中間パッド72bとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、下側中間パッド72bと第2突起部31dとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。これにより、第2接続パッドP2は、第2平行線路22p2の一端(-X側)と第1接地導体31とを、常時電気的に接続している。
第3接続パッドP3は、図6に示す通り、上述した上側パッド21d2と、上側中間パッド73aと、下側中間パッド73bと、下側パッド33aと、を含む。上側パッド21d2、上側中間パッド73a、下側中間パッド73b、及び下側パッド33aは、平面視において互いに重なっている。また、上側パッド21d2、上側中間パッド73a、下側中間パッド73b、及び下側パッド33aは、上側(+Z側)から下側(-Z側)に向けてこの順に並んでおり、上下方向Zにおいて間隔を空けて配されている。
ここで、下側パッド33aは、図4に示す通り、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状の平板導体である。下側パッド33aは、第2接地導体32とは別体に設けられる。下側パッド33aと第2接地導体32とは、第1電子スイッチ41の状態に応じて、電気的接続の有無が切り替わる。従って、下側パッド33aは、第1電子スイッチ41の状態に応じて、電気的接地の有無が切り替わる。
詳細な図示は省略するが、本実施形態における上側パッド21d2、上側中間パッド73a、下側中間パッド73b、及び下側パッド33aは、互いに略同一の形状を有する。つまり、上側パッド21d2、上側中間パッド73a、下側中間パッド73b、及び下側パッド33aは、長手方向X及び交差方向Yにおける位置及び寸法が、互いに略同一である。
図6に示す通り、上側パッド21d2と上側中間パッド73aとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、上側中間パッド73aと下側中間パッド73bとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。また、下側中間パッド73bと下側パッド33aとは、複数の接続導体50によって電気的且つ機械的に接続されている。これにより、第3接続パッドP3は、第1平行線路21p1の他端(+X側)と第1電子スイッチ41とを、常時電気的に接続している。
第4接続パッドP4は、図6に示す通り、上述した上側パッド22dと、上側中間パッド74aと、下側中間パッド74bと、下側パッド33bと、を含む。上側パッド22d、上側中間パッド74a、下側中間パッド74b、及び下側パッド33bは、平面視において互いに重なっている。また、上側パッド22d、上側中間パッド74a、下側中間パッド74b、及び下側パッド33bは、上側(+Z側)から下側(-Z側)に向けてこの順に並んでおり、上下方向Zにおいて間隔を空けて配されている。
ここで、下側パッド33bは、図4に示す通り、長辺が交差方向Yに延び、短辺が長手方向Xに延びる長方形状の平板導体である。下側パッド33bは、第2接地導体32及び下側パッド33aとは別体に設けられる。下側パッド33bと第2接地導体32とは、第2電子スイッチ42の状態に応じて、電気的接続の有無が切り替わる。従って、下側パッド33bは、第2電子スイッチ42の状態に応じて、電気的接地の有無が切り替わる。
詳細な図示は省略するが、本実施形態における上側パッド22d、上側中間パッド74a、下側中間パッド74b、及び下側パッド33bは、互いに略同一の形状を有する。つまり、上側パッド22d、上側中間パッド74a、下側中間パッド74b、及び下側パッド33bは、長手方向X及び交差方向Yにおける位置及び寸法が、互いに略同一である。
ここで、前述した通り、上側パッド22dの交差方向Yにおける寸法は、第2平行線路22p2の幅(交差方向Yにおける寸法)よりも大きい(図4も参照)。従って、第4接続パッドP4の交差方向Yにおける寸法の最大値は、第2平行線路22p2の幅(交差方向Yにおける寸法)よりも大きい。
また、前述した通り、本実施形態における第2交差線路22c2の一端縁(-Y側)は、上側パッド22dの一方の短辺(-Y側)と略同一の位置にある(図4も参照)。従って、第2交差線路22c2の少なくとも一部と第4接続パッドP4の少なくとも一部(本実施形態では全部)とは、長手方向Xにおいて対向している。
第1電子スイッチ41は、図4に示す通り、第3接続パッドP3の下側パッド33aと第2接地導体32とを開閉自在に接続するトランジスタである。本実施形態における第1電子スイッチ41は、図4に示す通り、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が第3接続パッドP3の下側パッド33aに接続され、ソース端子が第2接地導体32に接続され、またゲート端子がスイッチ制御部80に接続されている。
第1電子スイッチ41は、スイッチ制御部80からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて、ドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態或いは閉状態に切り替える。即ち、第1電子スイッチ41は、スイッチ制御部80によって、第1平行線路21p1の他端(+X側)と第2接地導体32との間を導通状態又は遮断状態にする。
第2電子スイッチ42は、図4に示す通り、第4接続パッドP4の下側パッド33bと第2接地導体32とを開閉自在に接続するトランジスタである。本実施形態における第2電子スイッチ42は、図4に示す通り、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が第4接続パッドP4の下側パッド33bに接続され、ソース端子が第2接地導体32に接続され、またゲート端子がスイッチ制御部80に接続されている。
第2電子スイッチ42は、スイッチ制御部80からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて、ドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態或いは閉状態に切り替える。即ち、第2電子スイッチ42は、スイッチ制御部80によって、第2平行線路22p2の他端(+X側)と第2接地導体32との間を導通状態又は遮断状態にする。
スイッチ制御部80は、上述した第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42を制御する制御回路である。スイッチ制御部80は、2つの出力ポートを備えており、各出力ポートから第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42の各ゲート端子にゲート信号を個別に出力する。即ち、スイッチ制御部80は、上記ゲート信号によって、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42を開状態又は閉状態にする。尚、スイッチ制御部80は、図3に示す可変コンデンサ211及び可変インダクタ232を制御して第2移相回路200の移相量を変化させる不図示の制御部に設けられる。
次に、以上のように構成された可変インダクタID1の作用について説明する。
本実施形態における可変インダクタID1は、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42の導通状態に応じて動作モードが切り替えられる。即ち、可変インダクタID1の動作モードには、スイッチ制御部80によって第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42が閉状態に設定される低インダクタンスモードと、スイッチ制御部80によって第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42が開状態に設定される高インダクタンスモードと、がある。
低インダクタンスモードにおいて、スイッチ制御部80は、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42を閉状態に設定する。
第1電子スイッチ41が閉状態に設定されることにより、第1平行線路21p1の他端(+X側)は、第3接続パッドP3を介して、第2接地導体32と接続される(図4参照)。一方、第1平行線路21p1の一端(-X側)は、第1接続パッドP1を介して、第1接地導体31と常時接続されている(図4及び図5参照)。従って、第1平行線路21p1は、他端(+X側)が第1電子スイッチ41を介して第2接地導体32に接続されることによって、一端(-X側)と他端(+X側)との間に電流が流れ得る第1通電経路を形成する。
また、第2電子スイッチ42が閉状態に設定されることにより、第2平行線路22p2の他端(+X側)は、第4接続パッドP4を介して、第2接地導体32と接続される(図4参照)。一方、第2平行線路22p2の一端(-X側)は、第2接続パッドP2を介して、第1接地導体31と常時接続されている(図4及び図5参照)。従って、第2平行線路22p2は、他端(+X側)が第2電子スイッチ42を介して第2接地導体32に接続されることによって、一端(-X側)と他端(+X側)との間に電流が流れ得る第2通電経路を形成する。
そして、第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2の両端接続状態において、信号線路10に入力端から出力端に向けた信号電流が流れると、当該信号電流の伝播に起因して、第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2にリターン電流が生じる。当該リターン電流は、第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2を、他端(+X側)から一端(-X側)に向かって流れる。
即ち、第1通電経路を形成する第1平行線路21p1には、信号線路10における信号電流の通電によって、信号電流の通電の向きとは逆向きの第1リターン電流が流れる。また、第2通電経路を形成する第2平行線路22p2には、信号線路10における信号電流の通電によって、信号電流の通電の向きとは逆向き、つまり第1リターン電流と同じ向きの第2リターン電流が流れる。
ここで、第1平行線路21p1に流れる第1リターン電流及び第2平行線路22p2に流れる第2リターン電流は、何れも、信号電流の通電の向きとは逆向きである。従って、第1リターン電流及び第2リターン電流は、信号線路10と第1平行線路21p1との電磁気的な結合(相互誘導)及び信号線路10と第2平行線路22p2との電磁気的な結合(相互誘導)に起因して、可変インダクタID1の全体のインダクタンスを減少させるように作用する。信号線路10のインダクタンスをLslow、リターン経路(第1平行線路21p1及び第2平行線路22p2)のインダクタンスをLglow、信号線路10とリターン経路との相互インダクタンスをMlowとする。低インダクタンスモードにおける可変インダクタID1の全体のインダクタンスLlowは、Lslow+Lglow-Mlowとなる。
上述した通り、高インダクタンスモードでは、第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42が開状態に設定される。よって、第1平行線路21p1には上述した第1導電経路が形成されず、また、第2平行線路22p2には上述した第2導電経路が形成されない。従って、第1平行線路21p1に流れる第1リターン電流は極めて小さくなり、また、第2平行線路22p2に流れる第2リターン電流は極めて小さくなる。
これに対して、第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部は、第2接続パッドP2を介して、第1接地導体31と常時接続されている(図5参照)。また、第2交差線路22c2の一端(-Y側)は、上述した通り、第2接地導体32と常時接続されている。従って、第1交差線路22c1、第3平行線路22p3、及び第2交差線路22c2には、第2交差線路22c2の一端(-Y側)から第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部との間に電流が流れ得る第3通電経路が予め形成されている。このため、高インダクタンスモードでは、信号線路10における信号電流に起因して、第2交差線路22c2の一端(-Y側)から第3平行線路22p3を経由して第1交差線路22c1の手前側(-Y側)端部に向かう第3リターン電流が流れる。
ここで、第3リターン電流は、信号線路10と平行な第3平行線路22p3において、信号線路10における信号電流の通電の向きとは逆向きに流れる。また、第3リターン電流が流れる第2交差線路22c2、第3平行線路22p3、及び第1交差線路22c1は、信号線路10とは反対側(+Y側)に凸となるU字状にループしたループ線路を構成している。従って、リターン経路(第3リターン電流が流れる経路)がループ線路を構成していない従来の構成と比較して、リターン経路のインダクタンスを増大させることができる。これにより、可変インダクタID1の全体のインダクタンスを増加させることができる。信号線路10のインダクタンスをLshigh、リターン経路(第2交差線路22c2、第3平行線路22p3、第1交差線路22c1)のインダクタンスをLghigh、信号線路10とリターン経路との相互インダクタンスをMhighとする。高インダクタンスモードにおける可変インダクタID1の全体のインダクタンスLhighは、Lshigh+Lghigh-Mhighとなる。ここで、明らかに、Lglow<Lghigh及びMlow>Mhighが成り立つから、Lhigh>Llowが成り立つ。
尚、第3リターン電流がリターン経路のインダクタンスを増加させるように作用する原理は次のように説明できる。つまり、第3リターン電流が第2交差線路22c2を流れる際に発生させる磁界、第3リターン電流が第3平行線路22p3を流れる際に発生させる磁界、及び第3リターン電流が第1交差線路22c1を流れる際に発生させる磁界は、何れも、上記ループ線路の中心O(図4参照)において同一の向き(+Zの向き)である。このため、これらの磁界は互いに強め合う。従って、第3リターン電流が流れる線路がループ線路を構成していない従来の構成と比較して、第3リターン電流が生じさせる磁界を大きくし、リターン経路のインダクタンスを増大させることができる。また、ループの高さ(即ち、第3平行線路22p3の交差方向Yにおける位置、ならびに、第1交差線路22c1及び第2交差線路22c2の長さ)を調整することにより、リターン経路のインダクタンスの値を大きく変化させることができる。
図7は、本発明の第1実施形態における第1移相回路及び第2移相回路のシミュレーション結果を示す図である。尚、図7(a)に示すシミュレーション結果は、第1移相回路100の通過位相特性を示すものであり、図7(b)に示すシミュレーション結果は、第2移相回路200の反射係数及び通過位相特性を示すものである。図7(a),(b)に示すグラフでは、横軸に周波数[GHz]をとり、紙面左側の縦軸に位相[度]をとってある。図7(b)に示すグラフでは、紙面左側の縦軸に加えて、紙面右側の縦軸に反射係数[dB]をとってある。
図7(a)において、符号G1が付された曲線は第1移相回路100が低遅延モードに設定された場合の、第1移相回路100の位相の周波数特性を示す曲線である。符号G2が付された曲線は第1移相回路100が高遅延モードに設定された場合の、第1移相回路100の位相の周波数特性を示す曲線である。
図7(a)を参照すると、第1移相回路100は、少なくとも24~30[GHz]の周波数帯域では、周波数が高くなるにつれて、移相量(低遅延モードにおける位相と高遅延モードにおける位相との差の絶対値)が大きくなる周波数依存性を有することが分かる。例えば、周波数が24[GHz]である場合には、移相量Δθ11は約32.3[度]であり、周波数が30[GHz]である場合には、移相量Δθ12は約40.8[度]であることが分かる。
図7(b)において、符号G11が付された曲線は第2移相回路200が低遅延モードに設定された場合の、第2移相回路200の位相の周波数特性を示す曲線である。符号G12が付された曲線は第2移相回路200が高遅延モードに設定された場合の、第2移相回路200の位相の周波数特性を示す曲線である。また、符号G21が付された曲線は第2移相回路200が低遅延モードに設定された場合の、第2移相回路200の反射係数の周波数特性を示す曲線である。符号G22が付された曲線は第2移相回路200が高遅延モードに設定された場合の、第2移相回路200の反射係数の周波数特性を示す曲線である。
図7(b)を参照すると、第2移相回路200は、少なくとも24~30[GHz]の周波数帯域では、周波数が高くなるにつれて、移相量(低遅延モードにおける第1の位相θLと、高遅延モードにおける第2の位相θHとの差の絶対値)が小さくなる周波数依存性を有することが分かる。例えば、周波数が24[GHz]である場合には、移相量Δθ21は約50.97[度]であり、周波数が30[GHz]である場合には、移相量Δθ22は約41.42[度]であることが分かる。
デジタル移相器PS1は、図1に示す通り、第1移相回路100と第2移相回路200とが縦続接続された構成であるから、デジタル移相器PS1の移相量は、第1移相回路100の移相量と第2移相回路200の移相量とを合計したものになる。具体的に、デジタル移相器PS1の移相量は、周波数が24[GHz]である場合には約83.27[度]であり、周波数が30[GHz]である場合には、約82.22[度]である。
図7(a)に示す通り、24~30[GHz]の周波数帯域内における第1移相回路100の位相差の違い(|Δθ11-Δθ12|)は、約8.5[度]であった。これに対し、24~30[GHz]の周波数帯域内におけるデジタル移相器PS1の位相差の違いは、約1.50[度](=|83.27-82.22|[度])になっている。つまり、第1移相回路100に対して、第2移相回路200が従属接続された構成とすることで、第1移相回路100の移相量の周波数依存性が緩和されたことが分かる。
尚、図7(b)を参照すると、第2移相回路200が低遅延モードに設定された場合及び高遅延モードに設定された場合の何れの場合であっても、第2移相回路200の反射係数が約-15[dB]以下になっている。これにより、第2移相回路200では、インピーダンス整合が良好であることが分かる。
以上の通り、本実施形態のデジタル移相器PS1は、移相量が周波数依存性を有する第1移相回路100に対し、第1移相回路100における移相量の周波数依存性を緩和し得る移相量の周波数依存性を有する第2移相回路200が縦続接続された構成である。ここで、第1移相回路100は、周波数が高くなるにつれて移相量が大きくなる周波数依存性を有し、第2移相回路200は、周波数が高くなるにつれて移相量が小さくなる周波数依存性を有する。
第2移相回路200は、第1ポートP200と第2ポートP210との間に接続された第1回路210と、第1回路210に並列接続された第2回路220と、第2回路220と共通帰線LN0との間に接続された第3回路230と、を備えている。そして、第1回路210、第2回路220、及び第3回路230の少なくとも1つは、可変インダクタID1を備える。本実施形態では、第3回路230が可変インダクタ232(可変インダクタID1)を備える。
可変インダクタID1は、信号線路10と、信号線路10と平行に延びる第1平行線路21p1を含む第1線路21と、信号線路10と平行に延びる第2平行線路22p2と、第2平行線路22p2の一方の端部から信号線路10の長手方向と交差する交差方向において信号線路10から遠ざかるように延びる第1交差線路22c1と、第1交差線路22c1の一方の端部から信号線路10と平行に延びる第3平行線路22p3と、第3平行線路の一方の端部から交差方向において信号線路10に近づくように延びる第2交差線路22c2と、を含む第2線路22と、第1平行線路21p1の一方の端部及び第2平行線路22p2の一方の端部に電気的に接続された第1接地導体31と、第2線路22の一方の端部に接続された第2接地導体32と、第1平行線路21p1の他方の端部と第2接地導体32との間に設けられた第1電子スイッチ41と、第2平行線路22p2の他方の端部と第2接地導体32との間に設けられた第2電子スイッチ42と、を備え、第1平行線路21p1と第2平行線路22p2との間に信号線路10が位置する。
このような構成のデジタル移相器PS1によれば、第1移相回路100の周波数依存性(周波数が高くなるにつれて移相量が大きくなる周波数依存性)を、第2移相回路200の周波数依存性(周波数が高くなるにつれて移相量が小さくなる周波数依存性)により、緩和することができる。
〔第2実施形態〕
〈デジタル移相器〉
図8は、本発明の第2実施形態によるデジタル移相器の構成を示すブロック図である。図8に示す通り、本実施形態のデジタル移相器PS2は、図1に示すデジタル移相器PS1の第1移相回路100を第1移相回路100Aに替えた構成である。このようなデジタル移相器PS2は、デジタル移相器PS1と同様に、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波等の高周波信号を入力とし、所定の位相だけシフトした高周波信号を外部に出力する。
第1移相回路100Aは、図1に示す第1移相回路100と同様に、入力された高周波信号を所定の位相だけシフトして出力するものであり、移相量が周波数依存性を有する。例えば、第1移相回路100Aは、周波数が高くなるにつれて移相量が大きくなる周波数依存性を有する。本実施形態のデジタル移相器PS2は、第1移相回路100Aの移相量の周波数依存性を、第2移相回路200によって緩和するようにしたものである。
第1移相回路100Aは、縦続接続された複数のデジタル移相回路300を備える。図8に示す例では、縦続接続された6個のデジタル移相回路300を備える。以下、第1移相回路100Aが備えるデジタル移相回路300の詳細について説明する。尚、第2移相回路200は、図3を用いて説明したものと同じ構成であるため、説明を省略する。
〈デジタル移相回路〉
図9は、本発明の第2実施形態におけるデジタル移相回路の要部構成を示す平面図である。図10は、図9中のII-II線に沿う断面図矢視図である。尚、図9及び図10に示すデジタル移相回路300の基本的な構成は、図4~図6を用いて説明した可変インダクタID1と同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
図9に示す通り、デジタル移相回路300は、図4~図6を用いて説明した可変インダクタID1とは、第2線路22の構成が異なる。具体的に、第2線路22は、第2平行線路22p2と、第1交差線路22c1と、第3平行線路22p3と、第2交差線路22c2′と、第4平行線路22p4と、第3交差線路22c3と、上側パッド22dと、を含む。
第2交差線路22c2′は、図4に示す第2交差線路22c2に替えて設けられる。本実施形態では、第3平行線路22p3の右端(+X側)が第2平行線路22p2の右端(+X側)よりも左方に位置する。また、本実施形態における第2交差線路22c2´は、図4に示す第2交差線路22c2とは異なり、平面視において第2平行線路22p2、信号線路10、及び第1平行線路21p1と交差するように延びている。
第2交差線路22c2′は、第2平行線路22p2、信号線路10、及び第1平行線路21p1と接触しないよう、これら第2平行線路22p2、信号線路10、及び第1平行線路21p1よりも上方に位置している。より具体的に、第2交差線路22c2′は、これら第2平行線路22p2、信号線路10、及び第1平行線路21p1が形成された導電層と絶縁層を挟んで対向する別の導電層に形成される。また、第2交差線路22c2′は、第3平行線路22p3よりも上方に位置し、第2交差線路22c2′の他端(+Y側)と第3平行線路22p3の右端(+X側)とは、不図示の導体(例えば、ビア)によって電気的に接続されている。尚、第2交差線路22c2′は、第2平行線路22p2、信号線路10、及び第1平行線路21p1よりも下方に位置していてもよい。但し、第2交差線路22c2′が第2平行線路22p2、信号線路10、及び第1平行線路21p1よりも上方に位置する構成は、配線を太くしやすく、これにより配線の抵抗値を下げやすいという点で好適である。
第4平行線路22p4及び第3交差線路22c3は、上下方向Zにおいて第2平行線路22p2、第1交差線路22c1、及び第3平行線路22p3と同じ位置にある。つまり、第4平行線路22p4及び第3交差線路22c3は、第2平行線路22p2、第1交差線路22c1及び第3平行線路22p3と同じ導電層に形成される。
第4平行線路22p4は、第2交差線路22c2′の一端(-Y側)に接続された直線状の帯状導体である。第4平行線路22p4は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第4平行線路22p4は、第2交差線路22c2′の一端(-Y側)から、信号線路10と平行(長手方向X)に延びている。つまり、本実施形態における第4平行線路22p4は、第2交差線路22c2′の一端(-Y側)から右側(+X側)に向けて延びている。第2交差線路22c2′の一端(-Y側)と第4平行線路22p4の左端(-X側)とは、不図示の導体(例えば、ビア)によって電気的に接続されている。
第4平行線路22p4は、信号線路10の他方側(-Y側)において、第1平行線路21p1よりも信号線路10から遠い位置に設けられている。言い換えれば、第4平行線路22p4は、第1平行線路21p1が交差方向Yにおいて信号線路10と第4平行線路22p4との間に位置するように、配置されている。また、第4平行線路22p4の右端(+X側)は、第1線路21の上側パッド21d2の右側(+X側)長辺よりも右方(+X側)に位置する。
第3交差線路22c3は、第4平行線路22p4の一端(+X側)に接続された直線状の帯状導体である。第3交差線路22c3は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第3交差線路22c3は、第4平行線路22p4の一端(+X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10に近づくように延びている。つまり、本実施形態における第3交差線路22c3は、第4平行線路22p4の一端(+X側)から奥側(+Y側)に向けて延びている。
また、上側パッド21d2と第3交差線路22c3とは、長手方向Xにおいて間隔を空けて配されている。また、本実施形態における第3交差線路22c3の一端(+Y側)は、不図示の導体によって、第2接地導体32と常時電気的に接続されている。言い換えれば、第2線路22の一端は、不図示の導体によって、第2接地導体32と常時電気的に接続されている。
また、図10に示す通り、デジタル移相回路300は、コンデンサ60と第3電子スイッチ43とを備える。コンデンサ60は、図10に示す通り、上部電極が信号線路10に接続され、下部電極が第3電子スイッチ43を介して第1接地導体31に接続される平行平板である。コンデンサ60は、平行平板の対向面積に応じた静電容量Caを有する。即ち、この静電容量Caは、信号線路10と第1接地導体31との間に設けられる回路定数である。
第3電子スイッチ43は、図10に示す通り、コンデンサ60の下部電極と第1接地導体31とを開閉自在に接続するトランジスタである。第3電子スイッチ43は、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子がコンデンサ60の下部電極に接続され、ソース端子が第1接地導体31に接続され、またゲート端子がスイッチ制御部80に接続されている。
第3電子スイッチ43は、スイッチ制御部80からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて、ドレイン端子とソース端子との導通状態を開状態或いは閉状態に切り替える。即ち、第3電子スイッチ43は、スイッチ制御部80によって、コンデンサ60の下部電極と第1接地導体31との間を導通状態又は遮断状態にする。具体的に、第3電子スイッチ43は、低遅延モードでは、コンデンサ60の下部電極と第1接地導体31との間を遮断状態にし、高遅延モードでは、コンデンサ60の下部電極と第1接地導体31との間を導通状態にする。
このようなデジタル移相回路300では、第1実施形態における可変インダクタID1と同様に、第1交差線路22c1、第3平行線路22p3、及び第2交差線路22c2′が、奥側(+Y側)に凸となるU字状にループしたループ線路を構成する。これに加えて、デジタル移相回路300では、第2交差線路22c2′、第4平行線路22p4、及び第3交差線路22c3が、手前側(-Y側)に凸となるU字状にループしたループ線路を構成する。つまり、高遅延モード時におけるリターン経路(第3リターン電流が流れる線路)が、2つのループ線路を含んでいる。このため、第3リターン電流が生じさせる磁界をより大きくし、リターン経路のインダクタンス(伝送系のインダクタンス)をより増大させることができる。
また、低遅延モードでは、第3電子スイッチ43が開状態に設定されるので、コンデンサ60は、信号線路10と第1接地導体31との間に接続されていない。即ち、コンデンサ60の静電容量Caは、信号線路10を伝播する高周波信号に影響を与えない。これに対し、高遅延モードでは、第3電子スイッチ43が閉状態に設定されるので、コンデンサ60は、信号線路10と第1接地導体31との間に接続される。これにより、高遅延モードでは、高周波信号が信号線路10の入力端(左端)から出力端(右端)まで伝播するまでの第2伝搬遅延時間THをより長くさせることができる。
このように、デジタル移相回路300では、高遅延モードにおいて、リターン経路のインダクタンス(伝送系のインダクタンス)をより増大させることができることに加え、第2伝搬遅延時間THをより長くさせることができる。その結果、デジタル移相回路300では、低遅延モード時の位相θLと高遅延モード時の位相θHとの差(移相量)をより大きくすることができる。
図11は、本発明の第2実施形態における第1移相回路のシミュレーション結果を示す図である。尚、図11(a)に示すシミュレーション結果は、縦続接続された全てのデジタル移相回路300が高遅延モードに設定された場合における第1移相回路100Aの通過損失、反射係数、及び位相特性を示すものである。図11(b)に示すシミュレーション結果は、縦続接続された全てのデジタル移相回路300が低遅延モードに設定された場合における第1移相回路100Aの通過損失、反射係数、及び位相特性を示すものである。図11(a),(b)に示すグラフでは、横軸に周波数[GHz]をとり、紙面左側の縦軸に位相[度]をとってあり、紙面右側の縦軸に通過損失及び反射係数[dB]をとってある。
図11(a),(b)において、符号G31,G32が付された曲線は、第1移相回路100Aの通過損失の周波数特性を示す曲線である。符号G41a,G42aが付された曲線は、第1移相回路100Aの入力側における反射係数の周波数特性を示す曲線であり、符号G41b,G42bが付された曲線は、第1移相回路100Aの出力側における反射係数の周波数特性を示す曲線である。符号G51,G52が付された曲線は、第1移相回路100Aの位相の周波数特性を示す曲線である。
図11(a),(b)を参照すると、第1移相回路100Aは、少なくとも24~30[GHz]の周波数帯域では、周波数が高くなるにつれて、移相量(低遅延モードにおける位相と高遅延モードにおける位相との差の絶対値)が大きくなる周波数依存性を有する。例えば、周波数が24[GHz]である場合には、移相量は約27.3[度]であり、周波数が30[GHz]である場合には、移相量は約38.35[度]である。
図7(b)を用いて説明した通り、第2移相回路200は、周波数が24[GHz]である場合には、移相量Δθ21は約50.97[度]であり、周波数が30[GHz]である場合には、移相量Δθ22は約41.42[度]である。デジタル移相器PS2は、図8に示す通り、第1移相回路100Aと第2移相回路200とが縦続接続された構成であるから、デジタル移相器PS2の移相量は、第1移相回路100Aの移相量と第2移相回路200の移相量とを合計したものになる。具体的に、デジタル移相器PS2の移相量は、周波数が24[GHz]である場合には約78.27[度]であり、周波数が30[GHz]である場合には、約79.77[度]である。
上述の通り、24~30[GHz]の周波数帯域内における第1移相回路100Aの位相差の違いは、約11[度](=|27.3-38.35|[度])であった。これに対し、24~30[GHz]の周波数帯域内におけるデジタル移相器PS2の位相差の違いは、約1.50[度](=|78.27-79.77|[度])になっている。つまり、第1移相回路100Aに対して、第2移相回路200が従属接続された構成とすることで、第1移相回路100Aの移相量の周波数依存性が緩和されたことが分かる。
以上の通り、本実施形態のデジタル移相器PS2は、移相量が周波数依存性を有する第1移相回路100Aに対し、第1移相回路100Aにおける移相量の周波数依存性を緩和し得る移相量の周波数依存性を有する第2移相回路200が縦続接続された構成である。ここで、第1移相回路100Aは、図9,図10に示す構成のデジタル移相回路300が複数縦続接続された回路であって、周波数が高くなるにつれて移相量が大きくなる周波数依存性を有する。第2移相回路200は、図3に示す構成であって、周波数が高くなるにつれて移相量が小さくなる周波数依存性を有する。このような構成のデジタル移相器PS2によれば、第1移相回路100Aの周波数依存性(周波数が高くなるにつれて移相量が大きくなる周波数依存性)を、第2移相回路200の周波数依存性(周波数が高くなるにつれて移相量が小さくなる周波数依存性)により、緩和することができる。
以上、本発明の実施形態によるデジタル移相器について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記第1実施形態のデジタル移相器PS1では、第1移相回路100と第2移相回路200とが縦続接続されており、上記第2実施形態のデジタル移相器PS2では、第1移相回路100Aと第2移相回路200とが縦続接続されていた。しかしながら、第1移相回路100又は第1移相回路100Aと第2移相回路200との間に他の回路が接続されていてもよい。言い換えると、第1移相回路100又は第1移相回路100Aと第2移相回路200とは、他の回路を介して縦続接続されていても良い。
また、上述した第1,第2実施形態では、第1移相回路100,100Aが、周波数が高くなるにつれて移相量が大きくなる周波数依存性を有し、第2移相回路200が、周波数が高くなるにつれて移相量が小さくなる周波数依存性を有するものであった。しかしながら、第1移相回路100,100Aは、周波数が高くなるにつれて移相量が小さくなる周波数依存性を有するものであっても、周波数帯域の中心が最も移相量が大きく、周波数帯域の上端及び下端に向かうにつれて移相量が小さくなる周波数依存性を有するものであってもよい。第1移相回路100,100Aがこのような周波数依存性を有するものである場合には、第1移相回路100,100Aの周波数依存性を緩和し得る移相量を有するように第2移相回路200を設計すればよい。
〔第1,2実施形態の変形例〕
〈第2移相回路の他の構成例〉
図12,図13は、第1,第2実施形態における第2移相回路の他の構成例を示す回路図である。尚、図12,図13においては、図3に示す構成に相当する構成については同一の符号を付してある。
図12に示す第2移相回路200Aは、図3に示す第2移相回路200の第2回路220を第2回路220Aに替え、第3回路230を第3回路230Aに替えた構成である。このような第2移相回路200Aは、図1に示す第2移相回路200よりも大きな移相量Δθを実現するものである。
第2回路220Aは、直列接続された第1可変インダクタ回路221Aと第2可変インダクタ回路222Aとを備える。第1可変インダクタ回路221Aは、固定インダクタ221aと可変インダクタ221bとが直列接続された回路であり、第2可変インダクタ回路222Aは、固定インダクタ222aと可変インダクタ222bとが直列接続された回路である。つまり、第1可変インダクタ回路221Aは、図3に示す第1固定インダクタ回路221に可変インダクタ221bを追加した構成であり、第2可変インダクタ回路222Aは、図3に示す第2固定インダクタ回路222に可変インダクタ222bを追加した構成である。
可変インダクタ221bの一端は第1ポートP200に接続されており、他端は固定インダクタ221aの一端に接続されている。固定インダクタ221aの一端は可変インダクタ221bの他端に接続されており、他端は固定インダクタ222aの一端に接続されている。固定インダクタ222aの一端は固定インダクタ221aの他端に接続されており、他端は可変インダクタ222bの一端に接続されている。可変インダクタ222bの一端は固定インダクタ222aの他端に接続されており、他端は第2ポートP210に接続されている。尚、第1可変インダクタ回路221Aにおける固定インダクタ221aと可変インダクタ221bとの接続関係、及び、第2可変インダクタ回路222Aにおける固定インダクタ222aと可変インダクタ222bとの接続関係は入れ替えられていてもよい。
図3に示す可変インダクタ232と同様に、図4~図6に示す構成の可変インダクタID1が可変インダクタ221b,222bとして用いられる。つまり、可変インダクタ221b,222bは、図3に示す可変インダクタ232と同様に、図4に示す第1電子スイッチ41及び第2電子スイッチ42の閉状態と開状態とを切り替えることにより、インダクタンスを変化させることができる。可変インダクタ221b,222bは、可変コンデンサ211及び可変インダクタ232と同様に、第2移相回路200Aの移相量を変化させる際に、不図示の制御部によって制御される。
第3回路230Aは、直列接続された可変インダクタ232と可変コンデンサ233とを備えており、第2回路220Aに設けられた第1可変インダクタ回路221Aと第2可変インダクタ回路222Aとの接続点Qに接続されている。可変インダクタ232の一端は接続点Qに接続されており、他端は可変コンデンサ233の一方の電極に接続されている。可変コンデンサ233の一方の電極は可変インダクタ232の他端に接続されており、他方の電極は共通帰線LN0に接続されている。つまり、第3回路230Aは、図3に示す第3回路230のコンデンサ231を可変コンデンサ233に替え、可変インダクタ232と可変コンデンサ233との接続順を入れ替えたものである。可変コンデンサ233は、可変コンデンサ211と同様に、第2移相回路200の移相量を変化させる際に、不図示の制御部によって制御される。
上記構成において、不図示の制御部が、可変コンデンサ211,233及び可変インダクタ221b,222b,232を制御し、可変コンデンサ211,233の容量の大きさ及び可変インダクタ221b,222b,232のインダクタンスの大きさを変える。これにより、第2移相回路200Aの移相量が変化する。
図12に示す第2移相回路200Aは、第1回路210の可変コンデンサ211に加えて、第3回路230Aの可変コンデンサ233を備えている。また、第3回路230Aの可変インダクタ232に加えて、第2回路220Aの可変インダクタ221b,222bを備えている。このため、可変コンデンサ211,233の容量とともに、可変インダクタ221b,222b,232のインダクタンスを変えることができる。従って、第2移相回路200Aは、所望の移相特性を有しつつ移相量を動的に変更することができる。
図13に示す第2移相回路200Bは、図3に示す第2移相回路200の第1回路210を第1回路210Bに替え、第2移相回路200の第2回路220を第2回路220Bに替えた構成である。
第1回路210Bは固定インダクタ212を備える。固定インダクタ212の一端は第1ポートP200に接続されており、他端は第2ポートP210に接続されている。第2回路220Bは、直列接続された第1コンデンサ回路221Bと第2コンデンサ回路222Bとを備える。第1コンデンサ回路221Bは可変コンデンサ221cを備えており、第2コンデンサ回路222Bは可変コンデンサ222cを備えている。可変コンデンサ221cの一方の電極は第1ポートP200に接続されており、他方の電極は可変コンデンサ222cの一方の電極に接続されている。可変コンデンサ222cの一方の電極は可変コンデンサ221cの他方の電極に接続されており、他方の電極は第2ポートP210に接続されている。
上記構成において、不図示の制御部が、可変コンデンサ221c,222c及び可変インダクタ232を制御し、可変コンデンサ221c,222cの容量の大きさ及び可変インダクタ232のインダクタンスの大きさを変える。これにより、第2移相回路200Bの移相量が変化する。このような構成の第2移相回路200Bにおいても、所望の移相特性を有しつつ移相量を動的に変更することができる。
尚、図3,図12,図13に示す第2移相回路200,200A,200Bは、以下に示す構成(変形例)であってもよい。図3に示す第2移相回路200は、第2回路220の固定インダクタ221aに替えて可変インダクタが設けられ、且つ、固定インダクタ222aに替えて可変インダクタが設けられた構成であってもよい。また、図3に示す第2移相回路200は、第3回路230のコンデンサ231に替えて可変コンデンサが設けられた構成であってもよい。また、図3に示す第2移相回路200は、第3回路230のコンデンサ231が省略された構成であってもよい。
図12に示す第2移相回路200Aは、第3回路230Aの可変インダクタ232が省略された構成であってもよい。また、図12に示す第2移相回路200Aは、第2回路220Aの固定インダクタ221a,222aが省略された構成であってもよい。
図13に示す第2移相回路200Bは、第1回路210Bの固定インダクタ212に替えて可変インダクタが設けられた構成であってもよい。また、図13に示す第2移相回路200Bは、第1回路210Bが、固定インダクタ212と図4~6に示す可変インダクタID1とを直列接続した回路、又は、固定インダクタ212と後述する可変インダクタID2とを直列接続した回路であってもよい。或いは、図13に示す第2移相回路200Bは、固定インダクタ212と図14~17に示す可変インダクタID3~ID6(詳細は後述する)とを直列接続した回路であってもよい。また、図13に示す第2移相回路200Bは、第3回路230のコンデンサ231に替えて可変コンデンサが設けられた構成であってもよい。また、図13に示す第2移相回路200Bは、第3回路230のコンデンサ231が省略された構成であってもよい。
また、図3,図12,図13に示す第2移相回路200,200A,200B及び上述した変形例を構成する素子(コンデンサ、インダクタ)のうち、何れの素子の素子値(容量、インダクタンス)を固定とするか可変とするかは適宜選択して決めてよい。但し、図12に示す第2移相回路200A及びその変形例については、第1可変インダクタ回路221A及び第2可変インダクタ回路222Aを構成する素子を除く。
〈インダクタの他の構成例〉
図3,図12,図13に示す可変インダクタ232及び図12に示す可変インダクタ221b,222bとして用いられる可変インダクタ及び上述した変形例で用いられる可変インダクタは、図4~6を用いて説明した可変インダクタID1に制限される訳ではない。例えば、図9,図10を用いて説明したデジタル移相回路300から、図10に示すコンデンサ60及び第3電子スイッチ43を省略した構成のものを可変インダクタID2(図示省略)として用いることができる。また、これ以外に、図14~図17に示す構成のものを用いることもできる。
図14は、可変インダクタの他の構成例を示す平面図である。図14に示す可変インダクタID3は、図4~図6を用いて説明した可変インダクタID1を変形したものである。図14に示す可変インダクタID3は、図4~図6を用いて説明した可変インダクタID1とは第1線路21の構成が異なる。具体的に、図14に示す可変インダクタID3の第1線路21は、第1平行線路21p1及び上側パッド21d2に加えて、第4交差線路21c1と、第5平行線路21p2と、第5交差線路21c2と、を備える。尚、上側パッド21d1は省略されている。
第4交差線路21c1は、第1平行線路21p1の一端(-X側)に接続された直線状の帯状導体である。第4交差線路21c1は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第4交差線路21c1は、第1平行線路21p1の一端(-X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10から遠ざかるように延びている。つまり、本実施形態における第4交差線路21c1は、第1平行線路21p1の一端(-X側)から手前側(-Y側)に向けて延びている。第4交差線路21c1の奥側の端縁(+Y側)は、第1平行線路21p1の他方の側縁(+Y側)と略同一の位置にある。
第5平行線路21p2は、第4交差線路21c1の一端(-Y端)に接続された直線状の帯状導体である。第5平行線路21p2は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第5平行線路21p2は、第4交差線路21c1の一方の端部(-Y側)から、信号線路10と平行(長手方向X)に延びている。つまり、本実施形態における第5平行線路21p2は、第4交差線路21c1の一方の端部(-Y側)から右側(+X側)に向けて延びている。
第5平行線路21p2は、信号線路10の他方側(-Y側)において、第1平行線路21p1よりも信号線路10から遠い位置に設けられている。言い換えれば、第5平行線路21p2は、第1平行線路21p1が交差方向Yにおいて信号線路10と第5平行線路21p2との間に位置するように、配置されている。
図14に示す通り、交差方向Yにおいて、第1平行線路21p1の中心線と第5平行線路21p2の中心線との間の距離は、第2平行線路22p2の中心線と第3平行線路22p3の中心線との間の距離d1(図2参照)と同じ(又は、同程度)である。尚、第5平行線路21p2の右端(+X側)は、上側パッド21d2の右側(+X側)長辺よりも右方(+X側)に位置する。
第5交差線路21c2は、第5平行線路21p2の一端(+X側)に接続された直線状の帯状導体である。第5交差線路21c2は、一定の幅、一定の厚さ、及び所定の長さを有する長尺板状の導体である。第5交差線路21c2は、第5平行線路21p2の一端(+X側)から、交差方向Yにおいて信号線路10に近づくように延びている。つまり、本実施形態における第5交差線路21c2は、第5平行線路21p2の一端(+X端)から奥側(+Y側)に向けて延びている。
本実施形態における第5交差線路21c2の他端縁(+Y側)は、上側パッド21d2の他方の短辺(+Y側)及び第1平行線路21p1の他方の側縁(+Y側)と交差方向Yにおいて略同一の位置にある。また、上側パッド21d2と第5交差線路21c2とは、長手方向Xにおいて間隔を空けて配されている。また、本実施形態における第5交差線路の左側縁(-X側)は、信号線路10の右端縁(+X側)と長手方向Xにおいて略同一の位置にある。
また、本実施形態における第5交差線路21c2の他端(+Y側)は、不図示の導体によって、第2接地導体32と常時電気的に接続されている。言い換えれば、第1線路21の一端は、不図示の導体によって、第2接地導体32と常時電気的に接続されている。
以上説明した第4交差線路21c1、第5平行線路21p2、及び第5交差線路21c2は、手前側(-Y側)に凸となるU字状にループしたループ線路を構成している。
図15~図17は、可変インダクタの他の構成例を示す斜視図である。図15に示す可変インダクタID4は、信号線路1、2つの内側線路2(内側線路2a,2b)、2つの外側線路3(外側線路3a,3b)、2つの接地導体4(接地導体4a,4b)、複数の接続導体6、2つの電子スイッチ7(電子スイッチ7a,7b)、及びスイッチ制御部8を備える。
信号線路1は、所定方向に延在する直線状の帯状導体である。即ち、信号線路1は、一定幅、一定厚、及び所定長さを有する長尺板状の導体である。図15に示す例では、信号線路1には、手前側から奥側に向かって信号電流が流れる。尚、信号電流は、信号線路1の奥側から手前側に流れても良い。
内側線路2は、直線状の帯状導体である。即ち、内側線路2は、一定幅、一定厚、及び所定長さを有する長尺板状の導体である。内側線路2は、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。内側線路2は、信号線路1と平行に設けられている。内側線路2aは、信号線路1の一方側に所定の距離Mだけ離間して配置されており、内側線路2bは、信号線路1の他方側に所定の距離Mだけ離間して配置されている。所定の距離Mは、10μm未満に設定されている。より好ましくは、所定の距離Mは、例えば2μm以下であり、信号線路1に対して内側線路2を可能な限り接近させることが望ましい。例えば、信号線路1に対して内側線路2を製造限界又は製造限界近くまで接近させるのが望ましい。
外側線路3は、内側線路2よりも信号線路1から遠い位置に設けられる直線状の帯状導体である。即ち、外側線路3は、一定幅、一定厚、及び所定長さを有する長尺板状の導体である。外側線路3は、内側線路2と同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。外側線路3は、信号線路1と平行に設けられている。外側線路3aは、信号線路1の一方側において、内側線路2aよりも信号線路1から遠い位置に設けられており、外側線路3bは、信号線路1の他方側において、内側線路2bよりも信号線路1から遠い位置に設けられている。
接地導体4は、内側線路2及び外側線路3から所定距離を隔てた下方に配置され、内側線路2及び外側線路3に直交するように設けられている直線状の帯状導体である。即ち、接地導体4は、一定幅、一定厚、及び、所定長さを有する長尺板状の導体である。接地導体4a(第1接地導体)は、内側線路2a、内側線路2b、外側線路3a、及び外側線路3bの各一端側に設けられ、これら内側線路2a、内側線路2b、外側線路3a、及び外側線路3bの各一端に電気的に接続されている。接地導体4b(第2接地導体)は、内側線路2a、内側線路2b、外側線路3a、及び外側線路3bの各他端側に設けられ、外側線路3a及び外側線路3bの各他端に電気的に接続されている。尚、接地導体4bは、接地導体4aに対して平行に配置されている。
複数の接続導体6は、少なくとも接続導体6a~6fを含む。接続導体6aは、内側線路2aの一端と接地導体4aとを電気的且つ機械的に接続する導体である。接続導体6bは、内側線路2bの一端と接地導体4aとを電気的且つ機械的に接続する導体である。接続導体6cは、外側線路3aの一端と接地導体4aとを電気的且つ機械的に接続する導体である。接続導体6dは、外側線路3aの他端と接地導体4bとを電気的且つ機械的に接続する導体である。接続導体6eは、外側線路3bの一端と接地導体4aとを電気的且つ機械的に接続する導体である。接続導体6fは、外側線路3bの他端と接地導体4bとを電気的且つ機械的に接続する導体である。
電子スイッチ7は、例えばMOS型FET(電界効果トランジスタ)であり、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。閉状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通している状態である。開状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通しておらず、電気的な接続が遮断している状態である。
電子スイッチ7a(第1電子スイッチ)は、内側線路2aの他端と接地導体4bとの間に接続される。具体的に、電子スイッチ7aは、ドレイン端子が内側線路2aの他端に電気的に接続され、ソース端子が接地導体4bに電気的に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に電気的に接続されている。電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8の制御によって、内側線路2aの他端及び接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。尚、電子スイッチ7aのサイズは、例えば、接地導体4bの幅以上である。
電子スイッチ7b(第2電子スイッチ)は、内側線路2bの他端と接地導体4bとの間に接続される。具体的に、電子スイッチ7bは、ドレイン端子が内側線路2bの他端に電気的に接続され、ソース端子が接地導体4bに電気的に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に電気的に接続されている。電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8の制御によって、内側線路2bの他端及び接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。尚、電子スイッチ7bのサイズは、例えば、接地導体4bの幅以上である。
スイッチ制御部8は、電子スイッチ7(電子スイッチ7a及び電子スイッチ7b)を制御する制御回路である。例えば、スイッチ制御部8は、2つの出力ポートを備えている。スイッチ制御部8は、各出力ポートから個別のゲート信号を出力して複数の電子スイッチ7の各ゲート端子に供給することにより複数の電子スイッチ7のそれぞれを個別に開状態又は閉状態に制御する。尚、スイッチ制御部8は、図4,図9に示すスイッチ制御部80に相当するものである。
上記構成において、スイッチ制御部8により、電子スイッチ7a及び電子スイッチ7bが閉状態に制御されると可変インダクタID4は低インダクタンスモードになる。これに対し、スイッチ制御部8により、電子スイッチ7a及び電子スイッチ7bが開状態に制御されると可変インダクタID4は高インダクタンスモードになる。
低インダクタンスモードでは、内側線路2(内側線路2a,2b)を流れるリターン電流に起因して可変インダクタID4のインダクタンスが低減される。これに対し、高インダクタンスモードでは、リターン電流が外側線路3(外側線路3a,3b)を流れるため、低インダクタンスモードと比較して、可変インダクタID4のインダクタンスが増大する。このように、図15に示す可変インダクタID4は、電子スイッチ7a,7bの閉状態と開状態とを切り替えることにより、インダクタンスを変化させることができる。
図16に示す可変インダクタID5は、図15に示す可変インダクタID4とは、外側線路3と内側線路2との間において、接地導体4a及び接地導体4bが多層構造で形成されている点が異なる。尚、接地導体4a及び接地導体4bは、内側線路2aと内側線路2bとの間も多層構造で形成されてよい。
多層構造で形成された接地導体4aは、複数のビアホール(接続導体6a,6b,6c,6e)で互いに連結されている。多層構造で形成された接地導体4bは、複数のビアホール(接続導体6d,6f,6h,6i)で互いに連結されている。
このような構成により、外側線路3と内側線路2との間の接地導体4の抵抗値を下げることができ、高インダクタンスモードにおける高周波信号の損失を低減することができる。従って、高インダクタンスモードと低インダクタンスモードとにおける信号振幅のアンバランスを低減することができる。尚、図16に示す可変インダクタID5も、電子スイッチ7a,7bの閉状態と開状態とを切り替えることにより、可変インダクタID5のインダクタンスを変化させることができる。
図17に示す可変インダクタID6は、図15に示す可変インダクタID4とは、外側線路3bが省略されており、外側線路3が内側線路2の幅よりも広く形成されており、外側線路3と接地導体4a及び接地導体4bとが多層構造で形成されている点が異なる。尚、接地導体4a,4bの多層化と外側線路3の幅広化及び多層化とは、必要に応じていずれか一方のみが行われていてもよい、つまり、接地導体4a,4bの多層化のみが行われてもよく、外側線路3の幅広化及び多層化のみが行われてもよい。
このような構成により、可変インダクタID6の小型化を図ることができる。また、接地導体4a,4bのインピーダンスを低下させることができるため、可変インダクタID6の全体的な損失の低減を図ることができる。また、外側線路3のインピーダンスを低下させることができるため、低インダクタンスモードにおける可変インダクタID6の損失と高インダクタンスモードにおける可変インダクタID6の損失との差を縮小させることができる。尚、図17に示す可変インダクタID6も、電子スイッチ7a,7bの閉状態と開状態とを切り替えることにより、可変インダクタID6のインダクタンスを変化させることができる。