JP7382702B2 - 端子 - Google Patents

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Description

本発明は、端子に関し、特に、接触面積が小さいながらも接触抵抗の増加を抑制し、安定した電気接続性を維持できる端子に関する。
従来、銅(Cu)、銅合金などの導電性基材(以下、単に「基材」という。)上に、錫(Sn)、錫合金などのめっき層を設けためっき材料(表面被覆材)は、基材が有する、優れた導電性および高い強度と、めっき層が有する、優れた電気接続性および耐食性とを兼ね備えた高性能導体材料として知られている。このような高性能導体材料は、各種の端子、コネクタなどに広く用いられている。
ところで、近年、電子制御化が進む中でコネクタは多極化する傾向にある。コネクタの多極化に伴い、嵌合接続および切り離しの際に、雄コネクタの端子群と雌コネクタの端子群をそれぞれ構成する端子同士を挿抜するためには、より大きな力が必要となる。特に、自動車のエンジンルーム内などの狭い空間内に端子が位置している場合、作業者による小さな力では簡単に端子間の挿抜作業を行なうことができない。また、作業者が無理な力で押し込んだり引っ張ったりして端子間の挿抜作業を行なうと、端子の破損、断線等のおそれもある。このようなコネクタの多極化は、特に複数の小型端子を配したコネクタに求められており、具体的には、タブ幅(雄端子)にして1.0mm、0.64mm等の小型雄雌端子に対して特に強く要求されている。
そこで、コネクタ同士の嵌合接続および切り離しの作業負荷を低減する観点から、多極化したコネクタを構成する端子間の挿抜力を低減することが求められている。端子間の挿抜力が高いと、コネクタ同士の嵌合接続および切り離しの作業を行う作業者の負荷が増大してしまう。そのため、端子間の挿抜力を低減するための構造をコネクタにさらに追加して設けなければならず、このような構造の追加は、製品コストを上昇させる要因となる。
端子間の挿抜力を低減するための手段として、例えば、端子間の接触力を弱める方法がある。しかしながら、この方法では、端子を構成するめっき材料の表面が軟質な錫めっき層で形成されている場合、端子の接触面にフレッティング現象が起きて端子間に導通不良が発生することがある。
「フレッティング現象」とは、振動、温度変化などが原因で端子の接触面間に起きる微振動により、端子表面の軟質の錫めっき層が摩耗により一部が剥離し、剥離した摩耗粉が、酸化して比抵抗(比電気抵抗)の大きい摩耗粉になる現象である。この摩耗粉が端子の接触面間に介在すると、電気接続不良が起きる。このフレッティング現象は、端子間の接触力が低いほど起きやすい。
このため、端子間の接触力を弱めることなく挿抜力を低下させる構成、例えば、端子間の摩擦力を小さくする構成を採用することが望ましい。また、端子を自動車等の車両に使用する場合、車載の振動または熱サイクルにより、端子間の接触部分が微摺動によって摩耗し、接触部分における接触抵抗が増大することが想定される。そのため、低挿抜性だけでなく、接触部分の接触抵抗をできる限り低く抑え、継続して端子に大電流を流し得る電気接続性が必要である。
加えて、コネクタ同士を嵌合接続するために一方の端子を他方の端子に挿入する際、端子の接点部の表面を構成する錫めっき層は軟質であるため、錫めっき層は摩耗によって除去されやすい。それにより、端子同士の接触面に残存する錫量は減少または消失してしまう傾向がある。このような表面状態の端子を継続使用する場合、電気接続性が劣化する場合がある。このため、電気接続性は、劣化することなく安定して維持できることも必要である。
例えば、特許文献1には、導電性基材上に錫めっき層が形成された雄端子と雌端子とからなり、雄端子および雌端子のいずれか一方の端子の平面状表面に、長手方向に互いに離間した複数の溝または凹部が形成され、他方の端子に凸曲面状表面が形成された嵌合型接続端子が開示されている。
特許文献1において、雄端子と雌端子が嵌合して固定された状態で雄端子と雌端子との間に生じ得る接点における微摺動摩耗に伴って発生する摩耗粉(酸化錫粉)を接点部の表面に堆積するのを防止して、電気抵抗値の上昇を安価に且つ十分に抑制するため、端子の接点部の表面に溝または凹部が設けられている。
ところで、自動車用のワイヤーハーネスの終端部は、通常、雌端子で構成するのが一般的である。その理由は、相手側端子が補器類の雄端子である場合が多いからである。特許文献1の実施例では、雄端子において、雌端子と接触する接点部の平面状表面に溝を設けている。このように、雄端子に溝を設けることで低摩擦化を達成することも可能である。しかしながら、補器類側の雄端子には、半田濡れ性などの様々な制約があるため、汎用品である補器類側の雄端子において、通常、雌端子と接触する接点部の平面状表面は、溝、凹部等の形成などの特殊な構成が設けられることなく、平滑な基材表面にスズめっきを形成しただけの単純な構成であることが好ましい。このため、ワイヤーハーネスの終端部を構成する雌端子において、雄端子と接触する接点部の凸曲面状表面を改善することによって、低摩擦化を達成することが望まれている。
また、雌端子において、雄端子と接触する接点部の凸曲面状表面の曲率半径を小さくして、雄端子との接触面積を小さくすることにより低摩擦化を図ることは可能である。しかしながら、雌端子が有する基材の板厚が0.8mm以上の厚さである場合、接点部の曲率半径を小さくしすぎると、めっき割れの現象が生じやすくなる。この現象が生じると、継続使用によって、基材の構成元素(Cuなど)が接点部の表面に拡散しやすくなり、さらに、接点部の表面まで拡散した元素は、酸化によって接触抵抗を増加させてしまうおそれもある。
特開2013-101915号公報
本発明は、接触面積が小さいながらも接触抵抗の増加を抑制し、安定した電気接続性を維持できる端子を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]他方の端子の平面状表面をもつ接触部と接触する、凸状表面をもつ接点部を有し、
前記接点部は、延在方向の長さが幅方向の長さよりも長く形成され、且つ、
前記凸状表面に微小凹部が設けられている端子。
[2]前記凸状表面において、前記凸状表面の幅方向における凸曲面Aの曲率が、0.1mm-1以上10.0mm-1以下である、上記[1]に記載の端子。
[3]前記凸状表面において、前記凸状表面の延在方向における凸状面Bの曲率が、0mm-1以上0.15mm-1以下である、上記[1]または[2]に記載の端子。
[4]前記凸状面Bの長さL1が、0.5mm以上15mm以下である、上記[3]に記載の端子。
[5]前記凸状表面において、前記微小凹部の幅W1が0.1mm以上2.8mm以下である、上記[1]~[4]までのいずれかに記載の端子。
[6]前記凸状表面において、前記微小凹部の深さdが0.3μm以上50μm以下である、上記[1]~[5]までのいずれかに記載の端子。
[7]前記凸状表面において、前記凸状面Bの長さL1に対する前記凸状面Bの長さL1上に存在する微小凸部の幅W2の長さの総和の割合が、5%以上70%以下である、上記[4]に記載の端子。
[8]前記微小凹部は、穴または溝である、上記[1]~[7]までのいずれかに記載の端子。
[9]前記端子は、銅又は銅合金からなる基材と、
前記基材の表面を被覆するように配設され、Sn、Cu、Ag、Au、Pd及びNiからなる群から選択される1種以上の金属を用いて形成された少なくとも1層の表面被覆層と、を備える、上記[1]~[8]までのいずれかに記載の端子。
[10]前記端子は、前記基材と前記表面被覆層との間に、Sn、Ni、Pd及びCuからなる群から選択される1種以上の金属を用いて形成された少なくとも1層の中間層をさらに備える、上記[9]に記載の端子。
[11]前記中間層が、CuSn層を有し、且つ、
前記表面被覆層がSn層を有する、上記[10]に記載の端子。
[12]前記表面被覆層の厚さが、0.2μm以上2.0μm以下である、上記[9]~[11]までのいずれかに記載の端子。
[13]前記端子は、前記接点部を有する雌端子であり、
前記他方の端子は、前記接触部を有する雄端子である、上記[1]~[12]までのいずれかに記載の端子。
本発明によれば、他方の端子の平面状表面をもつ接触部と接触する、凸状表面をもつ接点部を有する端子であって、前記接点部は、延在方向の長さが幅方向の長さよりも長く形成され、且つ、前記凸状表面に微小凹部が設けられている。これにより、接触面積が小さいながらも接触抵抗の増加を抑制し、安定した電気接続性を維持できる端子を提供することができる。特に、従来の端子に比べて、車載の振動または熱サイクルにより、雄端子と雌端子との接触部分が(50μm程度の)微摺動によって摩耗し接触抵抗が増大することを抑制することができる。また、接触部分の接触抵抗を低く抑えることができるため、端子に大電流を流しても、発熱を抑制でき、安定した電気接続性を維持することができる。
図1は、本発明に従う実施形態の端子が有する凸状表面の概略平面図である。 図2は、本発明に従う実施形態の端子の接点部と他方の端子の接触部とが接した状態を示す拡大断面図である。 図3は、微小凹部が設けられていない場合の凸状表面を示す概略図であり、図3(a)は凸状表面の幅方向における側面図であり、図3(b)は凸状表面の延在方向における側面図である。 図4は、微小凹部が設けられた本発明に従う実施形態の端子が有する凸状表面を示す概略図であり、図4(a)は凸状表面の幅方向における側面図であり、図4(b)は凸状表面の延在方向における側面図である。 図5は、雌端子の接点部の性能を評価する試験を行うために用いた試験装置の概略図である。
次に、本発明に従う端子について、具体的な実施形態を挙げ、図面を参照しながら以下で説明する。
図1は、本発明に従う実施形態の端子が有する凸状表面の概略平面図であり、図2は、本発明に従う実施形態の端子と他方の端子との接点部を示す拡大断面図である。
[端子]
図2に示されるように、端子1は、他方の端子11の平面状表面13をもつ接触部12と接触する、凸状表面3をもつ接点部2を有している。このような端子1としては、例えば、自動車等の車両において、接続構造体を構成する雌型コネクタおよび雄型コネクタにそれぞれ配置される雌端子および雄端子が挙げられ、多極コネクタとして構成された、雌型コネクタおよび雄型コネクタにそれぞれ複数個配置する雌端子および雄端子が好ましい。特に、端子1は、凸状表面3をもつ接点部2を有する雌端子であることがより好ましい。また、他方の端子11は、雄端子および雌端子のいずれであってもよいが、特に、平面状表面13をもつ接触部12を有する雄端子であることが好ましい。なお、本発明の端子1において、凸状表面3以外に関する構成等は、従来の端子と同様の構成を有していることから、図示および詳細な説明については割愛する。
また、端子1は、基材4と、基材4の表面を被覆するように配設された少なくとも1層の表面被覆層(図示せず)とを備えている。
<基材>
基材4は、銅(Cu)または銅合金からなり、優れた導電性と高い強度を有している。銅合金としては、例えば、リン青銅、黄銅、洋白、ベリリウム銅、コルソン合金などが挙げられる。また、基材4の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、板、条、丸線、角線など種々の形状であってよい。
<被覆層>
表面被覆層は、例えば、錫(Sn)、銅(Cu)、Ag(銀)、Au(金)、Pd(パラジウム)およびNi(ニッケル)からなる群から選択される1種以上の金属を用いて形成されている。表面被覆層は、1種の金属で構成されていてもよく、2種以上の金属を用いた合金または金属間化合物、例えば、CuSn金属間化合物、CuSn金属間化合物、Ag-Sn合金、Ag-Sn金属間化合物、Sn-Pd合金またはSn-Pd金属間化合物等で構成されていてもよい。また、表面被覆層は、単層または複数の層で構成されていてもよく、基材4の表面上に、直接または中間層を介して形成することができる。なお、表面被覆層の形成は、電気めっきなどの湿式めっき法で行うのが好ましいが、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの乾式めっき法などの他の被膜形成法で行なってもよい。
端子1は、基材4と表面被覆層との間に、Sn、Ni、PdおよびCuからなる群から選択される1種以上の金属を用いて形成された少なくとも1層の中間層(図示せず)をさらに備えていてもよい。中間層は、1種の金属で構成されていてもよく、2種以上の金属を用いた合金または金属間化合物であってもよい。基材4、表面被覆層および中間層の具体的な層構成の例としては、基材4の表面上に、中間層としてCuSn層を有し、中間層上に、表面被覆層としてSn層を有する積層構造が挙げられる。また、中間層、表面被覆層の厚さは特に限定されるものではないが、基材4の最表面に形成された表面被覆層の厚さは、耐熱性、耐食性、微摺動摩耗性、コスト等の観点から、0.2μm以上2.0μm以下であることが好ましい。なお、中間層の形成は、上述した表面被覆層と同様の方法により行うことができる。
<接点部>
接点部2は、図1中、斜線で示される領域であり、延在方向Lの長さが幅方向Wの長さよりも長く形成されている。ここで、延在方向Lは、凸状表面3の長手方向でもあり、幅方向Wは、延在方向Lと直交する方向でもある。このように、接点部2において、延在方向Lの長さが幅方向Wの長さよりも長く形成されることにより、他方の端子の表面の酸化被膜(酸化スズなど)を削り取る回数が多くなる。そのため、後述する酸化被膜が除去される効果が大きく、接触抵抗を低くすることができる。一方、接点部2において、幅方向Wの長さが延在方向Lの長さよりも長い場合、他方の端子の表面の酸化被膜(酸化スズなど)を削り取る回数が少なくなる。そのため、後述する酸化被膜が除去される効果が小さく、接触抵抗が高くなってしまう。
<微小凹部>
図2に示されるように、凸状表面3に微小凹部5が設けられている。微小凹部5は、穴または溝であることが好ましい。例えば、自動車用のワイヤーハーネスなどの終端部は、通常、雌端子で構成するのが一般的である。そのため、ワイヤーハーネス側の雌端子が有する凸状表面3に加工等を施すこと、具体的には微小凹部5を設けることによって、安定した電気接続性を維持するための微摺動摩耗性の向上および接触抵抗の低減を達成することできる。一方、例えば、特許文献1に記載されている端子のように、補器類等の雄端子が有する平面状表面の接触部に、溝、凹部等などの加工を施すことは、半田濡れ性などの様々な制約の観点から、現実的ではない。
図3に示されるように、凸状表面3’において、延在方向の凸状面B’の長さL’上に微小凹部が設けられていない場合、より大電流を流す端子として使用するためには接触抵抗が十分低くなく、また微摺動摩耗性も十分ではない。微摺動摩耗性を向上させるためには、例えば、凸状表面3’において、凸曲面B’の曲率半径を小さくすること、すなわち曲率を大きくすることにより、凸状表面3’と他方の端子の平面状表面との接触面積が減少し、さらに、接触面における接触圧力が高くなる。これにより、微摺動が生じた際に、摩耗物が接触部の外に排出しやすくなるため、理論上、接触抵抗の上昇を抑制できると推察される。ここで、曲率とは、曲線または曲面の曲がりの程度を示す値であり、曲率半径の逆数で示される。例えば、曲率半径がrである円周の曲率は1/rである。曲がりの程度が大きいほど湾曲が大きくなり、曲率は大きくなる。
しかしながら、凸曲面B’の曲率を大きくすることにより接触面積を小さくしても、他方の端子の表面の酸化被膜との接触により、接触抵抗が高くなる傾向にある。本発明では、図2に示されるように、凸状表面3に微小凹部5を設けることにより、端子1の凸状表面3において、接触抵抗が低くなり、かつ微摺動摩耗性も向上させることができる。微小凹部5の形成に伴い、凸状表面3には微小凸部6が形成される。この微小凸部6の先端部が他方の端子11の表面の酸化被膜(酸化スズなど)を何度も削り取るため、酸化被膜が除去される効果が高まる。そのため、接触面積が小さいながらも接触抵抗が低下し、接触圧力が上昇するため微摺動摩耗性が向上するものと考えられる。
微小凹部5の断面形状は、特に限定はされないが、三角形状の他、台形、円形、多角形など種々の形状に設計することができる。また、微小凹部5は、量産性の観点からプレス加工による溝付けまたは穴形成加工により形成することが好ましい。
(凸曲面Aの曲率)
凸状表面3において、凸状表面3の幅方向における凸曲面(図4(a)に示される凸曲面A)の曲率は、0.1mm-1以上10.0mm-1以下であることが好ましく、0.2mm-1以上5.0mm-1以下であることがより好ましく、0.5mm-1以上4.0mm-1以下であることがさらに好ましい。凸曲面Aの曲率を0.1mm-1以上10.0mm-1以下の範囲に制御することにより、接触抵抗が低く、且つ、微摺動摩耗性が向上した端子を得ることができる。凸曲面Aの曲率が0.1mm-1未満であると、接触面積が増大し、接触圧力が低いため、微摺動摩耗性に劣る傾向にある。一方、凸曲面Aの曲率が10.0mm-1より大きいと、接触面積が小さくなり過ぎ、接触抵抗が高くなりやすい。
(凸状面Bの曲率)
凸状表面3において、凸状表面3の延在方向における凸状面(図4(b)に示される凸状面B)の曲率は、0mm-1以上0.15mm-1以下であることが好ましく、0mm-1以上0.1mm-1以下であることがより好ましく、0mm-1以上0.05mm-1以下であることがさらに好ましい。凸状面Bの曲率を0mm-1以上0.15mm-1以下の範囲に制御することにより、凸状表面3に設けられた微小凸部6の各々に、他方の端子11(雄端子)の平面状表面13がより良好に接触することができ、その結果、接触抵抗を低くすることができる。凸状面Bの曲率が0.15mm-1より大きいと、微小凸部6の一部が他方の端子11(雄端子)の平面状表面13に有効に接触しない場合があり、その結果、接触抵抗が高くなりやすい。尚、凸状面Bの曲率が0mm-1とは、凸状面Bが曲面ではなく、平面であることを意味する。
(凸状面Bの長さL1)
凸状表面3において、凸状面Bの長さ(図4(b)に示されるL1)は、0.5mm以上15mm以下であることが好ましく、1mm以上10mm以下であることがより好ましく、2mm以上8mm以下であることがさらに好ましい。凸状面Bの長さL1とは、延在方向における凸状面Bのうち、他方の端子11の平面状表面13をもつ接触部12と接触する凸状表面3の直線距離、すなわち、延在方向における接点部2の長さを意味する。凸状面Bの長さL1を0.5mm以上15mm以下に制御することにより、接触抵抗が低く、且つ、微摺動摩耗性が向上した端子を得ることができる。凸状面Bの長さL1が0.5mm未満であると、接触面積が小さくなり過ぎ、接触抵抗が高くなりやすい。一方、凸状面Bの長さL1が15mmより大きいと、接触面積が増大し、接触圧力が低いため、微摺動摩耗性に劣る傾向にある。また、凸状表面3において、微小凸部6のすべてを他方の端子11に接触させるためには、微小凸部6の高さをそろえる必要がある。しかしながら、凸状面Bの長さL1が15mmより長い場合、そのような長さに作製するための金型の調整、メンテナンス費用などに多大なコストがかかり、作製が困難である。そのため、凸状面Bの長さL1の上限は15mm以下であることが好ましい。
(微小凹部の幅W1)
凸状表面3において、微小凹部5の幅(図4(b)に示されるW1)は、0.1mm以上2.8mm以下であることが好ましく、0.2mm以上1.4以下であることがより好ましく、0.4mm以上1.0mm以下であることがさらに好ましい。微小凹部5の幅W1は、図4(b)に示されるように、凸状表面3の延在方向と平行な、1つの微小凹部5における2つの開口端位置間の直線距離を意味する。微小凹部5の幅W1が0.1mm未満であると、微摺動による接触抵抗の上昇の抑制効果が小さく、微摺動摩耗性に劣る傾向にある。また、微小凹部5の幅W1が2.8mmよりも大きいと、接点部が減少するため、接触抵抗が高くなりやすい。なお、微小凹部5の幅W1の範囲は、溝および穴のいずれの場合であっても、同様である。また、凸状表面3に形成される微小凹部5の幅W1は、凸状面Bの長さL1を超えることはない。そのため、微小凹部5の幅W1は、凸状面Bの長さL1よりも短い。
(微小凹部の深さd)
凸状表面3において、微小凹部5の深さ(図4(b)に示されるd)は、0.3μm以上50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上20μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。微小凹部5の深さdは、微小凹部5が溝および穴のいずれの場合においても同様である。微小凹部5の深さdは、図4(b)に示されるように、微小凹部5の開口端位置から引いた凸状表面3の延在方向と平行な接線から、微小凹部5の最も深い位置まで引いた垂線の距離を意味する。微小凹部5の開口端位置が異なる場合、垂線の距離が長い距離を微小凹部5の深さdとする。微小凹部5の深さdが0.3μm未満であると、微摺動により生じる摩耗物が接点部に介在しやすくなる。その結果、接触抵抗の上昇の抑制効果が小さく、微摺動摩耗性に劣る傾向にあるとともに、接触抵抗も高くなりやすい。また、微小凹部5の深さdが50μmよりも大きいと、微小凸部6が、接触荷重を支えることができずにつぶれ、微摺動により基材4が変形しやすい。これにより、接触抵抗が上昇し、微摺動摩耗性に劣る傾向にある。
(接触長さ比率)
凸状表面3において、凸状面Bの長さL1に対する凸状面Bの長さL1上に存在する微小凸部6の幅W2の長さの総和の割合(接触長さ比率P)は、5%以上70%以下であることが好ましく、5%以上50%以下であることがより好ましく、20%以上40%以下であることがさらに好ましい。接触長さ比率Pは、図4(b)に示されるような微小凸部6の幅W2の総和を、凸状面Bの長さL1で除した値をパーセンテージで示した比率である。例えば、幅W2の長さが同じである微小凸部6の数をnとした場合、接触長さ比率は、{(n×W2)/L1}×100であらわされる。ここで、微小凸部6の幅W2は、凸状表面3の延在方向と平行な、隣接する微小凹部5における一方の開口端位置から他方の開口端位置までの間隔、または、凸状表面3の端部に接する微小凸部6の一方の端部から他方の端部までの直線距離を意味する。接触長さ比率が5%未満の場合、全体的に接触面積が少ないため、接触抵抗が高くなりやすい。一方、接触長さ比が70%より大きい場合、全体的に接触圧力が低いため、微摺動摩耗性に劣る傾向にある。
(内壁角度θ)
図4(b)に示されるように、微小凹部5は、その開口端位置から引いた凸状表面3の延在方向と平行な接線に対する内壁角度θが、20°以上70°以下の範囲であることが好ましく、30°以上60°以下の範囲であることがより好ましい。内壁角度θが20°未満であると、他方の端子11(雄端子)を挿入する際、微小凸部6の先端部が他方の端子11の表面の酸化被膜(酸化スズなど)を削りとる効果が小さい。そのため、酸化被膜が除去されにくく、接触抵抗が高くなりやすい。また、微摺動が生じた際に、摩耗物が接点部の外に排出されにくいため、接触抵抗が上昇しやすい。一方、内壁角度θが70°より大きいと、微摺動が生じた際に、微小凸部6によりめっきが削られる量が増大し、摩耗物が多量にでるため、接触抵抗が上昇しやすい。
(端子の製造方法)
次に、本発明に係る端子の製造方法の一例を以下で説明する。
まず、銅または銅合金からなる基材に、カソード電解脱脂と酸洗を順次施す前処理工程を行う。その後、基材上に、電気めっきにより、ニッケル層(中間層)、銅層、錫層を順に形成する。カソード電解脱脂条件および酸洗条件を、それぞれ表1および表2に、また、ニッケル層、銅層、錫層を形成するめっき条件を、それぞれ表3~表5に一例として示す。
次いで、めっき後にリフロー処理する。このリフロー処理によって、銅層中の銅と錫層中の錫とを相互に熱拡散させることによって銅-錫合金層(CuSn層)を形成させる。リフロー条件を表6に一例として示す。なお、形成した銅-錫合金層と、反応せずに残った錫層との表面露出割合は、リフロー前に形成した銅層と錫層のめっき厚の調整により実現することができる。また、錫層中の全ての錫を銅層中の銅と反応させて最上層を銅-錫合金層だけで形成することもできる。
その後、銅合金にめっきを施した条材に対し溝付け加工または穴形成加工を施すことにより、微小凹部を形成する。微小凹部は、所定の深さd(μm)、幅W1(mm)、内壁角度θ(°)を有する溝または穴となるように加工(コイニング加工)を施すことにより形成される。具体的には、高さh(μm)(D=d)、幅W1(mm)、C面角度θ°となるような凸状部を有する金型を用いることで形成する。
[前処理工程]
Figure 0007382702000001
Figure 0007382702000002
[ニッケル層形成工程]
Figure 0007382702000003
[銅層形成工程]
Figure 0007382702000004
[錫層形成工程]
Figure 0007382702000005
[リフロー処理工程]
Figure 0007382702000006
次に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例では、端子のうち、特に雌端子の接点部の性能を評価するため、張出し加工模擬接点を作製し、評価を行なった。
(実施例1~36)
[供試材の作製]
まず、厚さ0.25mm、幅40mm以上、長さ100mm以上の銅合金条(古河電気工業社製、商品名:FAS-680)を準備し、この銅合金条の両端部を5mm以上切断して除去し、幅30mm、長さ50mmの基材を作製した。
次に、基材に、表1に示すカソード電解脱脂および表2に示す酸洗を順次施す前処理工程を行い、その後、基材上に、表3~表5に示す電気めっき条件で、それぞれニッケル層(中間層)、銅層、錫層を順に形成した。その後、表6に示す条件でリフロー処理することで、銅層中の銅と錫層中の錫とを相互に熱拡散させることによって、基材上に、ニッケル層(Ni層)、CuSn層の各中間層と、Sn層の表面被覆層とをこの順に積層させた。
その後、銅合金にめっきを施した条材に対し溝付け加工または穴形成加工を施すことにより、微小凹部を形成した。微小凹部は、深さd(μm)、幅W1(mm)、内壁角度θ(°)の溝または穴となるように加工(コイニング加工)を施すことにより形成した。具体的には、高さh(μm)(h=d)、幅W1(mm)、C面角度θ°となるような凸状部を1カ所または複数カ所有する金型を用いることで形成した。次いで、凸状表面の幅方向における凸曲面Aの曲率、凸状表面の延在方向における凸状面Bの曲率、凸状面Bの長さL1が、表7に示す値に相当するビード型となるように張り出し加工を施した。他方の端子の平面状表面をもつ接触部と接触するように、凸状面Bの長さL1をなす直線が、延在方向Lと平行になるように形成し、また、延在方向の長さが幅方向の長さよりも長くなるように形成した。以上の手順によって、雌端子の接点部を模擬した張出し加工模擬接点部を有する供試材をそれぞれ作製した。
(比較例1)
比較例1は、雌端子の凸状表面をもつ微小凹部を形成しないこと以外は、実施例3と同じ製造条件で作製した。
(比較例2~3)
比較例2と3において、実施例1~36と同じ銅合金条に同じようにめっきを施した条材に対して、凸曲面Aの曲率と凸状面Bの曲率が同じで、凸状面Bの長さL1が0である、すなわち、凸状表面が球面状である雌端子を作製した。比較例2では、凸曲面Aの曲率、微小凹部の幅W1、深さdが、実施例1の凸曲面Aの曲率、微小凹部の幅W1、深さdと同じになるように、比較例3では、凸曲面Aの曲率、微小凹部の幅W1、深さdが、実施例3の凸曲面Aの曲率、微小凹部の幅W1、深さdと同じになるように、それぞれ作製した。そのため、比較例2と3で作製した端子は、凸状表面が球面状であるため、接点部の延在方向Lの長さと幅方向Wの長さは同じであった。尚、比較例2と3では、微小凹部の深さdは、微小凹部を形成する前の球面状の頂点からの深さとした。
(比較例4~5)
比較例4は、凸状面Bの長さL1をなす直線が、延在方向Lと垂直になるように形成した以外は、実施例1と同じ製造条件で作製した。比較例5は、凸状面Bの長さL1をなす直線が、延在方向Lと垂直になるように形成した以外は、実施例3と同じ製造条件で作製した。
[測定および評価]
上記各供試材において、以下の方法で測定および試験を行い、性能評価を行なった。
<各供試材の形状の確認方法>
レーザー顕微鏡(型番「VK-8500」:キーエンス社製)により、端子の接点部(ディンプル)の頂点を概ね視野の中心にあわせ、視野が200μmから1000μmとなるよう観察し、2D高さマッピングを設定した。また、凸状面Bの長さL1が1000μm(1mm)よりも長い場合は、複数回に分けて張り出し部全体を観察した。微小凹部(溝)の深さd、幅W1、および微小凸部の幅W2は、以下の方法により測定した。幅方向の中心位置の断面プロファイルの各々の凹部、凸部に対し、d、W1、W2を測定し、その平均値をその試験片の値とした。凸状面Bの長さL1に対する凸状面Bの長さL1上に存在する微小凸部の幅W2の長さの総和の割合、すなわち、接触長さ比率Pは、微小凸部の数をnとして、P={(n×W2)/L}×100(単位:%)で算出した。表7にその測定結果を示す。尚、表7中、測定できない項目は「-」で表す。
<微摺動摩耗性>
微摺動摩耗性は、図5に示すような試験装置20を用いて評価した。雄試験片21には、雄端子として通常使用されている端子を用い、基材は実施例と同じFAS-680を使用した。基材の表面は、Ni層(厚さ:0.5μm)とCuSn層(厚さ:0.5μm)の中間層と、Sn層(厚さ:0.8μm)の表面被覆層とをこの順で被覆した。雄試験片21を水平な台22上に固定し、実施例1~36、比較例1~5で作製した試験片を雌試験片23とし、雄試験片21と雌試験片23とを接触させた。続いて、雌試験片23に、錘24を介して10Nの荷重をかけて雄試験片21に押し付け、横型荷重測定器25を用いて、雄試験片21を水平方向H(摺動方向)に摺動距離50μm、摺動周波数1Hzで5000往復させ、その際の接触抵抗を4端子法にて測定した。接触抵抗が10mΩを超えたときの摺動回数(M)を微摺動摩耗性の指標とした。Mの値が大きいほど、微摺動摩耗性に優れ、長期で安定して電気導通性を維持できることを意味する。Mが3000回以上である場合を「微摺動摩耗性に特に優れる」として「◎」、Mが3000回未満、500回以上である場合を「微摺動摩耗性に優れる」として「○」、Mが500回未満である場合を「微摺動摩耗性に劣る」として「×」と評価した。表7にその評価結果を示す。
<接触抵抗>
接触抵抗もまた、図5に示すような試験装置20を用いて4端子法により評価した。接触荷重は10N、通電電流10mA、開放電圧は10mVとした。雄試験片21は、上記微摺動摩耗性の評価で使用した端子を用いた。4端子法のプローブは、実施例1~36、比較例1~5で作製した試験片を雌試験片23とした。
接触抵抗Rc(Ω)は、電圧降下をVc(V)、電流値I(=0.010A)として、Rc=Vc÷Iにより計算した。試行回数(N)は10回とし、10回の平均値を、接触抵抗とした。接触抵抗値が低いほど、接触面積が小さいながらも接触抵抗の増加を抑制できたことを意味する。接触抵抗が、0.20mΩ以下である場合を「接触抵抗に特に優れる」として「◎」、接触抵抗が、0.20mΩより大きく、0.50mΩ以下である場合を「接触抵抗に優れる」として「○」、接触抵抗が、0.50mΩより大きい場合を「接触抵抗に劣る」として「×」と評価した。表7にその評価結果を示す。
Figure 0007382702000007
表7に示す評価結果から、実施例1~36は、いずれも微摺動摩耗性に優れ接触抵抗にも優れていた。その中で、実施例1~25は、摺動回数(M)が1000回以上、かつ接触抵抗値が0.3mΩ以下であり、いずれの特性も優れていた。特に、実施例2~4、6~7、10~11、14~15、18~19、22~24は、いずれも微摺動摩耗性が特に優れており、また、接触抵抗も、0.20mΩ以下と顕著に低く、特に優れていた。
一方、比較例1~5は、微摺動摩耗性が劣っているか、接触抵抗に劣っているか、または、微摺動摩耗性と接触抵抗のいずれもが劣っていた。
1 端子
2 接点部
3、3’ 凸状表面
4 基材
5 微小凹部
6 微小凸部
11 他方の端子
12 接触部
13 平面状表面
20 試験装置
21 雄試験片
22 台
23 雌試験片
24 錘
25 横型荷重測定器

Claims (12)

  1. 他方の端子の平面状表面をもつ接触部と接触する、凸状表面をもつ接点部を有し、
    前記接点部は、延在方向の長さが幅方向の長さよりも長く形成され、
    前記凸状表面に複数の微小凹部及び複数の微小凸部が設けられ、
    前記微小凸部の先端部のすべてが前記平面状表面に同時に接するように、前記微小凸部の高さが揃っており、且つ
    前記微小凹部は、その開口端位置から引いた前記凸状表面の延在方向と平行な接線に対する内壁角度θが、20°以上70°以下の範囲であることを特徴とする端子。
  2. 前記凸状表面において、
    前記凸状表面の幅方向における凸曲面Aの曲率が、0.1mm-1以上10.0mm-1以下である、請求項1に記載の端子。
  3. 前記凸状表面において、前記凸状表面の延在方向における凸状面Bの長さL1が、0.5mm以上15mm以下である、請求項1または2に記載の端子。
  4. 前記凸状表面において、前記延在方向と平行である前記微小凹部の幅W1が0.1mm以上2.8mm以下である、請求項1~3までのいずれか1項に記載の端子。
  5. 前記凸状表面において、前記微小凹部の深さdが0.3μm以上50μm以下である、請求項1~4までのいずれか1項に記載の端子。
  6. 前記凸状表面において、前記凸状面の長さL1に対する前記凸状面Bの長さL1上に存在する前記微小凸部の幅W2の長さの総和の割合が、5%以上70%以下である、請求項3に記載の端子。
  7. 前記微小凹部は、穴または溝である、請求項1~6までのいずれか1項に記載の端子。
  8. 前記端子は、銅又は銅合金からなる基材と、
    前記基材の表面を被覆するように配設され、Sn、Cu、Ag、Au、Pd及びNiからなる群から選択される1種以上の金属を用いて形成された少なくとも1層の表面被覆層と、を備える、請求項1~7までのいずれか1項に記載の端子。
  9. 前記端子は、前記基材と前記表面被覆層との間に、Sn、Ni、Pd及びCuからなる群から選択される1種以上の金属を用いて形成された少なくとも1層の中間層をさらに備える、請求項8に記載の端子。
  10. 前記中間層が、CuSn層を有し、且つ、
    前記表面被覆層がSn層を有する、請求項9に記載の端子。
  11. 前記表面被覆層の厚さが、0.2μm以上2.0μm以下である、請求項8~10までのいずれか1項に記載の端子。
  12. 前記端子は、前記接点部を有する雌端子であり、
    前記他方の端子は、前記接触部を有する雄端子である、請求項1~11までのいずれか1項に記載の端子。
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