JP7382460B1 - 射出成形体及びその製造方法、複合繊維の製造方法、cnt付着炭素繊維及びその製造方法、並びに炭素繊維複合材の製造方法 - Google Patents

射出成形体及びその製造方法、複合繊維の製造方法、cnt付着炭素繊維及びその製造方法、並びに炭素繊維複合材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】機械的強度をより向上することができる射出成形体及びその製造方法、複合繊維の製造方法、CNT付着炭素繊維及びその製造方法、並びに炭素繊維複合材の製造方法を提供する。【解決手段】成形体10は、複合繊維11を強化繊維として射出成形される。複合繊維11の表面には、複数のカーボンナノチューブで構成された構造体が形成されている。カーボンナノチューブは、曲がった形状のものである。カーボンナノチューブは、曲面である炭素繊維の表面に対して様々な姿勢で付着して構造体が形成されている。サイジング剤は、カーボンナノチューブの官能基とカルボジイミド基とが反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触したカーボンナノチューブ同士を架橋する。【選択図】図1

Description

本発明は、射出成形体及びその製造方法、複合繊維の製造方法、CNT付着炭素繊維及びその製造方法、並びに炭素繊維複合材の製造方法に関する。
射出成形体は、溶融した熱可塑性樹脂を金型に射出して成形するため、大量生産に向いている。熱可塑性樹脂で形成されたマトリックス樹脂に強化繊維を含有させることで機械的強度を高めた射出成形体が知られている。例えば、特許文献1には、歯車の歯の部分に歯先に繊維が配向するように射出成形することで歯の機械的強度を高めることが開示されている。
一方、炭素繊維と、その炭素繊維の表面に付着した複数のカーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)で構成された構造体とを有する複合繊維(複合素材)が知られている(例えば、特許文献2を参照)。この複合繊維の構造体は、複数のCNTが互いに接続されたネットワーク構造を形成しているとともに、炭素繊維の表面に付着している。特許文献2の構造体は、曲がった形状のCNTを用いることでその厚みが大きくなっている。
特開2008-008404号公報 国際公開第2019/240094号
上記のような強化繊維を含有した射出成形体は、一定程度の機械的強度の向上があるが、より高い機械的強度が望まれている。しかしながら、射出成形体における炭素繊維の繊維体積含有率を増大しても機械的強度の大きな向上は得られていない。
本発明は、機械的強度をより向上することができる射出成形体及びその製造方法、複合繊維の製造方法、CNT付着炭素繊維及びその製造方法、並びに炭素繊維複合材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の射出成形体は、炭素繊維と、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成し、前記炭素繊維の表面に設けられた構造体と、前記接触部の少なくとも周囲に設けられ前記カーボンナノチューブの官能基と反応した構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋するサイジング剤とを有する複数の複合繊維と、前記複数の複合繊維を包埋し、熱可塑性樹脂で形成されたマトリックス樹脂とを備えるものである。
本発明の射出成形体の製造方法は、複合繊維と熱可塑性樹脂とを混練する混練工程と、前記複合繊維を含む熱可塑性樹脂を射出成形することにより、前記熱可塑性樹脂で形成されたマトリックス樹脂で前記複合繊維を包埋した射出成形体を得る成形工程とを有し、前記複合繊維は、炭素繊維、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成し、前記炭素繊維の表面に設けられた構造体及び前記接触部の少なくとも周囲に設けられ、前記カーボンナノチューブの官能基と反応した構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋するサイジング剤とを有するものである。
本発明の複合繊維の製造方法は、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成した構造体を炭素繊維の表面に形成する構造体形成工程と、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋するサイジング剤の原料を溶解したサイジング処理液に前記構造体を形成した炭素繊維を接触させ、前記サイジング剤を付与し複合繊維を得るサイジング処理工程と、前記複合繊維の前記サイジング剤をポストキュアするポストキュア工程とを有するものである。
本発明のCNT付着炭素繊維は、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成する構造体が表面に設けられた炭素繊維と樹脂とが一体になった複合物の前記樹脂を除去した生成物である。
本発明のCNT付着炭素繊維の製造方法は、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成する構造体が表面に設けられた炭素繊維と樹脂とが一体になった複合物を準備する準備工程と、前記複合物の前記樹脂を除去したCNT付着炭素繊維を得る除去工程とを有するものである。
本発明の炭素繊維複合材の製造方法は、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成する構造体が表面に設けられた炭素繊維と樹脂とが一体になった複合物を準備する準備工程と、前記複合物の前記樹脂を除去したCNT付着炭素繊維を得る除去工程と前記CNT付着炭素繊維をマトリックス樹脂に包埋した炭素繊維複合材を得る複合材作製工程とを有するものである。
本発明によれば、射出成形体の強化繊維として、曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成された構造体が炭素繊維の表面に形成され、構造体の直接接触したカーボンナノチューブ同士を架橋するサイジング剤が付与された複合繊維を用いているので、射出成形体の機械的強度をより向上することができる。また、サイジング剤をポストキュアすることにより、射出成形体の機械的強度をさらに向上することができる。
また、本発明によれば、構造体が表面に設けられた炭素繊維を含む複合物から樹脂を除去した生成物をCNT付着炭素繊維として、成形体の機械的強度を高くするような再生利用が容易にできる。
実施形態に係る成形体を模式的に示す説明図である。 複合繊維を示す説明図である。 CNTへのサイジング剤の付着状態を示す説明図である。 CNT同士が接触している接触部におけるサイジング剤の付着状態を示す説明図である。 CNTへのサイジング剤の別の付着状態を示す説明図である。 CNT同士が接触している接触部におけるサイジング剤の別の付着状態を示す説明図である。 成形体を作製する手順の概略を示す説明図である。 炭素繊維にCNTを付着する付着装置の構成及び分散液中における炭素繊維の通過位置を示す説明図である。 サイジング剤のポストキュアにおけるポストキュア温度とポストキュア期間の関係を示すグラフである。 加工物からリサイクルしたCNT付着炭素繊維を用いて炭素繊維複合材を製造する手順の例を示すフローチャートである。 実施例に用いた材料CNTの曲がった状態を示すSEM写真である。 実施例2の試験片の引張強さを示すグラフである。 実施例2の最大荷重を示すグラフである。 実施例2の最大荷重時の試験片の変位を示すグラフである。 実施例3の試験片の引張強さを示すグラフである。 実施例3の最大荷重時の試験片の変位を示すグラフである。 実施例3の試験片の破断面を示すSEM画像である。 比較例2の試験片の破断面を示すSEM画像である。 燃焼によって試験片のマトリックス樹脂を除去した後の複合繊維の状態を示すFE-SEM画像である。
[成形体]
図1に示すように成形体10は、熱可塑性樹脂で形成されたマトリックス樹脂Mに複合繊維11を強化繊維として包埋したものである。この成形体10は、射出成形により作製される射出成形体である。なお、図1では、便宜的に直方体形状の成形体10を描いてあるが、成形体10の形状は、どのようなものであってもよい。
マトリックス樹脂Mは、射出成形できる公知の熱可塑性樹脂であれば限定されない。この熱可塑性樹脂は、添加剤を含有していてもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂(PMMA等)、熱可塑性エポキシ樹脂等の汎用樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、超高分子量ポリエチレン、ポリカーボネート、フェノキシ樹脂等のエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。
[複合繊維]
図2に、上記成形体10を作製する際に用いられる複合繊維束12を示す。複合繊維束12は、複数の複合繊維11をまとめたものである。各々の複合繊維11は、炭素繊維13とその表面に形成された構造体14を有し、構造体14には、サイジング剤15(図3参照)が付与されている。構造体14は、複数のカーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)17が絡み合ったものである。
複合繊維束12は、例えば1万2千本の複合繊維11から構成される。複合繊維束12を構成する複合繊維11の本数は、特に限定されないが、例えば1万本以上10万本以下の範囲内とすることができる。なお、図1では、図示の便宜上、数本の複合繊維11を描いてある。
複合繊維11を作製する際に用いられる原糸である炭素繊維13をまとめた炭素繊維束は、炭素繊維13同士が実質的に互いに絡まり合っていない、あるいは絡まり合いが少ないことが好ましい。このような炭素繊維束は、炭素繊維13を均一に開繊して各炭素繊維13にCNT17を均一に付着させやすい。炭素繊維13は、特に限定されず、ポリアクリルニトリル、レーヨン、ピッチなどの石油、石炭、コールタール由来の有機繊維の焼成によって得られるPAN系、ピッチ系のもの、木材や植物繊維由来の有機繊維の焼成によって得られるもの等を用いることができ、市販されているものでもよい。また、炭素繊維13の直径及び長さについても、特に限定されない。炭素繊維13は、その直径が約5μm以上20μm以下の範囲内のものを好ましく用いることができ、5μm以上10μm以下の範囲内のものをより好ましく用いることができる。炭素繊維13は、長尺なものが好ましく用いることができ、その長さは、50m以上が好ましく、より好ましくは100m以上100000m以下の範囲内、さらに好ましくは100m以上10000m以下の範囲内である。なお、成形体10において炭素繊維13が短く切断されていてもかまわない。
構造体14を構成するCNT17としては、後述するように曲がった形状のものが用いられている。これにより、直線性の高いCNTを用いた場合と比べて、炭素繊維13へのCNT17の付着本数が多く、構造体14の厚さが大きいとともにCNT17が不織布の繊維のごとく編み込まれたような構造体14が構成されている。
構造体14を構成するCNT17は、炭素繊維13の表面のほぼ全体で均等に分散して絡み合うことで、複数のCNT17が互いに絡み合った状態で接続されたネットワーク構造を形成する。ここでいう接続とは、物理的な接続(単なる接触)と化学的な接続とを含む。CNT17同士は、それらの間に界面活性剤などの分散剤や接着剤等の介在物が存在することなく、CNT17同士が直接に接触する直接接触である。
構造体14を構成する一部のCNT17は、炭素繊維13の表面に直接付着して固定されている。これにより、炭素繊維13の表面に構造体14が直接付着している。CNT17が炭素繊維13の表面に直接付着するとは、CNT17と炭素繊維13の表面との間に界面活性剤等の分散剤や接着剤等が介在することなく、CNT17が炭素繊維13に直接に付着していることであり、その付着(固定)はファンデルワールス力による結合によるものである。構造体14を構成する一部のCNT17が炭素繊維13の表面に直接付着していることにより、分散剤や接着剤等が介在せずに、炭素繊維13の表面に構造体14が直接接触した状態になっている。
また、構造体14を構成するCNT17には、炭素繊維13の表面に直接接触せず、他のCNT17と絡むことで炭素繊維13に固定されているものもある。さらに、炭素繊維13の表面に直接付着するとともに他のCNT17と絡むことで炭素繊維13に固定されているものもある。以下では、これら炭素繊維13へのCNT17の固定をまとめて炭素繊維13への付着と称して説明する。なお、CNT17が絡むまたは絡み合う状態には、CNT17の一部が他のCNT17に押え付けられている状態を含む。
構造体14を構成するCNT17は、上記のように炭素繊維13の表面に直接付着しているものの他に炭素繊維13の表面に直接接触していないが他のCNT17と絡み合うこと等で炭素繊維13に固定されているものがある。このため、構造体14は、従来の複合繊維の構造体のように炭素繊維の表面に直接付着したCNTだけで構成されるよりも多くのCNT17で構成される。すなわち、炭素繊維13へCNT17が付着する本数が従来のものよりも多くなっている。
上記のように、CNT17が炭素繊維13の表面に介在物無しで付着しているので、構造体14を構成するCNT17は、炭素繊維13の表面から剥離し難い。成形体10では、CNT17が複雑の絡んだ構造体14の空隙部に入り込んでマトリックス樹脂Mが硬化しているため、アンカー効果(機械的結合)によって複合繊維11とマトリックス樹脂Mとが強固に接合される。構造体14の空隙部は、その表面に露呈した開口及び構造体14の内部に形成された中空の空間である。また、構造体14は、その厚さが大きく、CNT17が不織布のごとく編み込まれたような構造であり、その構造体14にマトリックス樹脂Mが入り込んで硬化した複合領域の弾性率は、マトリックス樹脂Mよりも高く、炭素繊維13よりも低くなる。このような弾性率の変化により、炭素繊維13の周囲における応力集中が緩和される。複合繊維11は、上記のようなアンカー効果と応力集中の緩和によって、炭素繊維13ないし複合繊維11とマトリックス樹脂Mとの剥離が起き難くなり、結果として成形体10の引張強度等の機械的強度が向上する。
なお、炭素繊維13の表面にCNT17が付着すること及び厚さの大きな不織布状の構造体14を形成することによって向上する成形体10の特性としては、引張強度の他に、弾性率、振動減衰特性(制振性)、繰り返し曲げに対する耐久性等がある。
複合繊維束12の各々の複合繊維11の構造体14は、互いに独立した構造であり、一の複合繊維11の構造体14と他の複合繊維11の構造体14とは、同じCNT17を共有していない。すなわち、一の炭素繊維13に設けられた構造体14に含まれるCNT17は、他の炭素繊維13に設けられた構造体14に含まれない。
サイジング剤15は、図3に示すように、CNT17同士が互いに直接接触している接触部を包み覆う状態でCNT17に付与されている。この例では、サイジング剤15は、CNT17の表面に存在する官能基、例えばヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)等の親水基と、カルボジイミド化合物のカルボジイミド基(-N=C=N-)が反応することにより生じたカルボジイミド由来の構造を有するものである。すなわち、サイジング剤15は、カルボジイミド由来の構造を介して、直接接触したCNT17同士を架橋する。これにより、CNT17同士は、それらが互いに直接接触する接触部とサイジング剤15とで固定される。接触部におけるCNT17同士は、図4に示すように直接接触が維持されており、各CNT17の表面が近接した接触部の周りではCNT17同士がサイジング剤15により架橋されている。
CNT17の表面の官能基の付与手法は、特に限定されず、CNT17を作製したあとに行われる各種処理によって結果的に付与されてもよいし、官能基付与処理によって付与してもよい。官能基付与処理は、例えば、湿式にて行われる陽極電解酸化法やオゾン酸化法等を用いることができる。サイジング剤15を構造体14に付与するサイジング処理のときにCNT17の表面に官能基があれば、CNT17の表面に官能基を付与するタイミングは特に限定されない。
カルボジイミド化合物は、nを1以上の整数として、式(1)に示す構造を2以上含む化合物である。Rは、例えば炭化水素である。炭化水素としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられる。
Figure 0007382460000002
・・・(1)
カルボジイミド化合物としては、例えば特開2007-238753号公報等に記載されるように、水性樹脂用硬化剤等として用いられているものを用いることができ、市販されているものでもよい。カルボジイミド化合物の市販品としては、例えば「カルボジライトV-02」(商品名、日清紡ケミカル社製)等を挙げることができる。親水性セグメントをもつカルボジイミド化合物は、水に溶解して、CNT17同士を架橋させる水性架橋剤として機能する。
上記のように、サイジング剤15は、架橋剤となって、構造体14を構成する接触しているCNT17同士を架橋することにより、CNT17同士が付着している状態をより強固なものとし、構造体14をより崩壊し難くしている。
また、サイジング剤15は、図3に示されるように、炭素繊維13とこれに直接接触しているCNT17の接触部を包み覆う状態で炭素繊維13とCNT17とに付着している。サイジング剤15は、CNT17同士の場合と同様に、そのカルボジイミド基が、炭素繊維13及びCNT17の表面の官能基と反応をしたことにより生じたカルボジイミド由来の構造により、炭素繊維とCNT17とを架橋する。このように、サイジング剤15は、炭素繊維とCNT17とを架橋することにより、炭素繊維13にCNT17が付着している状態をより強固なものとし、炭素繊維13から構造体14を剥がれ難くしている。
上記のサイジング剤15によって、射出成形機において、複合繊維11を混入してマトリックス樹脂Mを形成する熱可塑性樹脂を混練している間における炭素繊維13からの構造体14の剥離、脱落、構造体14の全部または部分的な崩壊を効果的に抑制する。これにより、炭素繊維13ないし複合繊維11とマトリックス樹脂Mとの界面接着強度を確実に向上させ、ひいては成形体10の機械的強度の確実な向上を図り、さらに均一な好ましい特性を得る。
なお、CNT17同士の直接接触が維持され、かつ直接接触している接触部の周りでCNT17同士がサイジング剤15により架橋していれば、上記のようにCNT17がサイジング剤15により包み覆われていてもよく、図5及び図6に示すように、CNT17が包み覆われていなくてもよい。同様に、炭素繊維13とCNT17との直接接触が維持され、かつ直接接触している接触部の周りで炭素繊維13とCNT17とがサイジング剤15により架橋していれば、図5に示されるように、サイジング剤15がCNT17を包み覆っていなくてもよい。
この例のサイジング剤15は、上述のようにカルボジイミド由来の構造を有するものであるが、サイジング剤15は、CNT17の表面に存在する官能基とサイジング剤となる原料(化合物)の官能基とが反応した構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋するものであれば、特に限定されない。例えば、CNT17の表面に存在する官能基と、2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物のイソシアネート基が反応することにより生じたイソシアネート由来の構造を有するものも好ましい。この例のようにカルボジイミド由来の構造を有するサイジング剤15は、CNT17同士、炭素繊維13とCNT17とをより強固に架橋するため特に好ましい。
なお、構造体14では、複数本のCNT17によって、上述のようにそれらが囲む空隙部19が形成される。構造体14内へのマトリックス樹脂Mの進入を妨げないようにするために、サイジング剤15は、その空隙部19をできるだけ閉塞しないようにすることが好ましい。空隙部19を閉塞しないようにするために、構造体14に付着しているサイジング剤15の質量の炭素繊維13の質量に対する比率であるサイジング剤質量比率Rmは、0.6%以上1.1%以下の範囲内とすることが好ましい。
炭素繊維13の径の大小により、炭素繊維13の単位長さあたりの質量が増減し、構造体14に付着させる好適なサイジング剤15の質量も増減する。しかし、一般的に強化繊維として成形体に用いられている炭素繊維13の径の範囲では、炭素繊維13の径の変化に対する好適なサイジング剤質量比率Rmの変化は微小であって、いずれの径の炭素繊維13であっても上記のサイジング剤質量比率Rmの範囲内であれば空隙部19の閉塞を防止できる。直径が4μm以上8μm以下の範囲内の炭素繊維13についてサイジング剤質量比率Rmが0.6%以上1.1%以下であれば空隙部19を閉塞しないことを確認している。なお、構造体14における一部の空隙部19が閉塞していても問題はなく、サイジング剤質量比率Rmが3%以下であれば、複合繊維11を問題なく使用できることを確認している。
炭素繊維13に付着したCNT17は、曲がった形状である。このCNT17の曲がった形状は、CNT17のグラファイト構造中に炭素の五員環と七員環等の存在により屈曲した部位(屈曲部)を有することによるものであり、SEMによる観察でCNT17が湾曲している、折れ曲がっている等と評価できる形状である。例えば、CNT17の曲がった形状は、CNT17の後述する利用範囲の平均の長さあたりに少なくとも1カ所以上に屈曲部があることをいう。このような曲がった形状のCNT17は、それが長い場合でも、曲面である炭素繊維13の表面に対して様々な姿勢で付着する。また、曲がった形状のCNT17は、それが付着した炭素繊維13の表面との間や付着したCNT17同士の間に空間(間隙)が形成されやすく、その空間に他のCNT17が入り込む。このため、曲がった形状のCNT17を用いることにより、直線性が高い形状のCNTを用いた場合に比べて、炭素繊維13に対するCNT17の付着本数(構造体14を形成するCNT17の本数)が大きくなる。
CNT17の長さは、0.1μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましい。CNT17は、その長さが0.1μm以上であれば、CNT17同士が絡まり合って直接接触ないしは直接接続された構造体14をより確実に形成することができるとともに、前述のように他のCNT17が入り込む空間をより確実に形成することができる。またCNT17の長さが10μm以下であれば、CNT17が炭素繊維13間にまたがって付着するようなことがない。すなわち、上述のように、一の炭素繊維13に設けられた構造体14に含まれるCNT17が他の炭素繊維13に設けられた構造体14に含まれるようなことがない。
CNT17の長さは、より好ましくは0.2μm以上5μm以下の範囲内である。CNT17の長さが0.2μm以上であれば、CNT17の付着本数を増やして構造体14を厚くすることができ、5μm以下であれば、CNT17を炭素繊維13に付着させる際に、CNT17が凝集し難く、より均等に分散しやすくなる。この結果、CNT17がより均一に炭素繊維13に付着する。
なお、炭素繊維13に付着するCNTとして、直線性の高いCNTが混在することや、上記のような長さの範囲外のCNTが混在することを排除するものではない。混在があっても、例えば、CNT17で形成される空間に直線性の高いCNTが入り込むことにより、炭素繊維13に対するCNTの付着本数を多くすることができる。
CNT17は、平均直径が0.5nm以上30nm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3nm以上10nm以下の範囲内である。CNT17は、その直径が30nm以下であれば、柔軟性に富み、炭素繊維13の表面に沿って付着しやすく、また他のCNT17と絡んで炭素繊維13に固定されやすく、さらには構造体14の形成がより確実になる。また、10nm以下であれば、構造体14を構成するCNT17同士の結合が強固となる。なお、CNT17の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)写真を用いて測定した値とする。CNT17は、単層、多層を問わないが、好ましくは多層のものである。
炭素繊維13に対するCNT17の付着本数は、構造体14の厚さ(炭素繊維13の径方向の長さ)で評価することができる。構造体14の各部の厚さは、例えば炭素繊維13の表面の構造体14の一部をセロハンテープ等に接着して剥離し、炭素繊維13の表面に残った構造体14の断面をSEM等で計測することで取得できる。炭素繊維13の繊維軸方向に沿った所定長さの測定範囲をほぼ均等に網羅するように、測定範囲の10カ所で構造体14の厚さをそれぞれ測定したものの平均を構造体14の厚さとする。測定範囲の長さは、例えば、上述のCNT17の長さの範囲の上限の5倍の長さとする。
上記のようにして得られる構造体14の厚さ(平均)は、10nm以上300nm以下の範囲内、好ましくは15nm以上200nm以下の範囲内、より好ましくは50nm以上200nm以下の範囲内である。構造体14の厚さが150nm以下であれば、炭素繊維13間の樹脂の含浸性がより良好である。
また、複合繊維11に対するCNT17の質量比であるCNT質量比Rcを用いて、炭素繊維13に対するCNT17の付着状態を評価することができる。所定の長さの炭素繊維13のみの質量(以下、CF質量という)をWa、その炭素繊維13に付着しているCNT17の質量(以下、CNT質量という)をWbとしたときに、CNT質量比Rcは、「Rc=Wb/(Wa+Wb)」で得られる。
CNT17は、炭素繊維13に均一に付着していることが好ましく、炭素繊維13の表面を覆うように付着していることが好ましい。炭素繊維13に対するCNT17の均一性を含む付着状態は、SEMにより観察し、得られた画像を目視により評価することができる。この場合、繊維軸方向に沿って炭素繊維13の所定の長さの範囲(例えば1cm、10cm、1mの範囲)をほぼ均等に網羅するように複数箇所(例えば10箇所)について観察して評価することが好ましい。
また、上述のCNT質量比Rcを用いて、炭素繊維13に対するCNT17の付着の均一性を評価することができる。CNT質量比Rcは、0.001以上0.008以下であることが好ましい。CNT質量比Rcが0.001以上であれば、成形体10において、上記のような構造体14による特性の向上の効果を確実に得ることができる。CNT質量比Rcが0.008以下であれば、構造体14の空隙部19へのマトリックス樹脂Mを形成する熱可塑性樹脂の入り込みが確実になされる。また、CNT質量比Rcが0.002以上0.006以下であることがより好ましい。CNT質量比Rcが0.002以上であれば、ほぼ全ての炭素繊維13間にて構造体14(CNT17)がより確実に機能する。CNT質量比Rcが0.006以下であれば、構造体14へのマトリックス樹脂Mの入り込みが確実になされ、また成形体10におけるマトリックス樹脂Mの比率が低い場合であっても構造体14がより確実に機能する。さらに、マトリックス樹脂Mの比率が低い場合であっても、炭素繊維間の樹脂には高濃度でCNT17が存在するため、その補強効果により成形体10の靱性強度を高めることができる。
1本の複合繊維11の長さ1mの範囲(以下、評価範囲と称する)内に設定される10点の測定部位の各CNT質量比Rcの標準偏差sが0.0005以下であることが好ましく、0.0002以下であることがより好ましい。また、標準偏差sのCNT質量比Rcの平均に対する割合は、40%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。10点の測定部位は、評価範囲をほぼ均等に網羅するように設定することが好ましい。標準偏差sは、炭素繊維13に付着したCNT17の付着本数(付着量)、構造体14の厚さのばらつきの指標となり、ばらつきが小さいほど小さな値となる。したがって、この標準偏差sが小さいほど望ましい。CNT17の付着本数、構造体14の厚さのばらつきは、複合繊維11及びそれを用いた成形体10のCNT17に由来の特性の違いとして現われる。標準偏差sが0.0005以下であれば、複合繊維11及び成形体10のCNT17に由来の特性をより確実に発揮でき、0.0002以下であれば、CNT17に由来の特性を十分かつ確実に発揮できる。なお、標準偏差sは、式(2)によって求められる。式(2)中の値nは、測定部位の数(この例ではn=10)、値Riは、測定部位のCNT質量比Rcであり、値RaはCNT質量比Rcの平均である。
Figure 0007382460000003
・・・(2)
[CNT質量比の測定]
CNT質量比Rcは、それを求めようとする測定部位について1m程度に複合繊維束12(例えば12000本程度の複合繊維11)を切り出して測定試料として、下記のようにして求める。
(1)CNT17の分散媒となる液(以下、測定液という)に測定試料を投入する。測定液としては、例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン、CAS登録番号:872-50-4)に分散剤を入れたものを用いる。分散剤は、CNT17を炭素繊維13に再付着させないために測定液に添加しているが、添加しなくてもよい。測定液の量は、例えば測定試料10gに対して100mlである。
(2)測定試料を投入する前の測定液の質量と、投入後の測定試料を含む測定液の質量との差分を計測し、これを測定試料の質量、すなわち炭素繊維13のCF質量Waとその炭素繊維13に付着しているCNT17のCNT質量Wbとの和(Wa+Wb)とする。
(3)測定試料を含む測定液を加熱して、炭素繊維13からそれに付着しているCNT17を完全に分離し、CNT17を測定液中に分散する。
(4)吸光光度計を用いて,CNT17が分散している測定液の吸光度(透過率)を測定する。吸光光度計による測定結果と、予め作成しておいた検量線とから測定液中のCNT17の濃度(以下、CNT濃度という)を求める。CNT濃度は、その値をC、測定液の質量をW1、この測定液に含まれるCNT17の質量をW2としたときに、「C=W2/(W1+W2)」で与えられる質量パーセント濃度である。
(5)得られるCNT濃度と測定試料を投入する前の測定液の質量とから測定液中のCNT17のCNT質量Wbを求める。
(6)(2)で求められるCF質量WaとCNT質量Wbとの和(Wa+Wb)と、CNT17のCNT質量(Wb)とから、CNT質量比Rc(=Wb/(Wa+Wb))を算出する。
上記吸光度の測定では、分光光度計(例えば、SolidSpec-3700、株式会社島津製作所製等)を用いることができ、測定波長としては例えば500nm等を用いればよい。また、測定の際には、測定液を石英製のセルに収容することが好ましい。さらに、分散剤以外の不純物を含まない分散媒の吸光度をリファレンスとして測定し、CNT17の濃度Cは、CNT17が分散している測定液の吸光度とリファレンスとの差分を用いて求めることができる。なお、CNT質量比Rcの測定においては、複合繊維束12からサイジング剤15を除去したものを用いる。但し、炭素繊維13の質量に対してサイジング剤15の質量が1/100程度である場合には、サイジング剤15の付着の有無、すなわちサイジング剤15の質量は、CNT質量比Rcの好ましい範囲に実質的に影響を与えることながないので、この場合には、サイジング剤15が付着している複合繊維11の質量を、CF質量WaとCNT質量Wbとの和(Wa+Wb)とみなすことができる。
CNT質量比Rcによって均一性を評価する場合には、評価する複合繊維束12の評価範囲(例えば、長さ1m)をほぼ均等に網羅するように10ヶ所の測定部位を設定する。これら10ヶ所の測定部位は、評価範囲の両端とその間の8カ所とし、各測定部位のそれぞれについて、上述の手順でCNT質量比Rcを求める。
[サイジング剤質量比の測定]
サイジング剤質量比率Rmの測定では、各複合繊維11の構造体14にサイジング剤15を付着させて作成した複合繊維束12から、例えば3本の複合繊維11を切り出して測定試料として、下記のようにして求める。測定試料として切り出す複合繊維11の長さは例えば5mとする。なお、測定試料とする複合繊維11の本数、長さは、これらに限定されない。
(1)CNT17の測定液に測定試料を投入する。測定液及び分散媒の条件は、上記のCNT質量比Rcを測定する場合と同じである。
(2)測定試料を投入する前の測定液の質量と、投入後の測定試料を含む測定液の質量との差分を計測し、これを測定試料の質量、すなわち炭素繊維13のCF質量Wa、炭素繊維13に付着しているCNT17のCNT質量Wb及びCNT17に付着しているサイジング剤15のサイジング剤質量Wcとの和(Wa+Wb+Wc)とする。
(3)測定試料を含む測定液加熱して、炭素繊維13からそれに付着しているCNT17を完全に分離し、CNT17を測定液中に分散する。
(4)CNT質量比Rcを測定する場合と同様に、吸光光度計を用いてCNT17が分散している測定液の吸光度を測定し、その吸光度と、予め作成しておいた検量線とから測定液中のCNT17のCNT濃度を求める。得られるCNT濃度と測定試料を投入する前の測定液の質量とから測定液中のCNT質量Wbを求める。
(5)使用している炭素繊維13(原糸)のカタログ値からCF質量Waを特定する。
(6)測定試料の質量(Wa+Wb+Wc)から、(5)で得られるCF質量Wa及び(4)で得られるCNT質量Wbを減算した差を求め、これを測定試料に付与されていたサイジング剤15のサイジング剤質量Wcとする。
(7)(5)で得られるCF質量Waと、(6)で得られるサイジング剤質量Wcとからサイジング剤質量比率Rm(=(Wc/Wa)×100%)を算出する。
なお、上記のサイジング剤質量比率Rmの測定において、炭素繊維13(原糸)のカタログ値からCF質量Waを特定する場合に、絡み防止用サイジング剤が付着していない炭素繊維13(原糸)の質量を特定する。ここでいう絡み防止用サイジング剤は、炭素繊維13(原糸)同士の絡み等を防止するために炭素繊維13(原糸)の表面に付着されているものであって、サイジング剤15とは異なる。ただし、絡み防止用サイジング剤の質量は、一般的に炭素繊維13のCF質量Waに対して1/100程度であって、このような場合には当該絡み防止用サイジング剤の付着の有無は、サイジング剤質量比率Rmの好ましい範囲に実質的に影響を与えることがない。したがって、このような場合には絡み防止用サイジング剤が付着している炭素繊維13の質量を、サイジング剤質量比率Rmを求める際のCF質量Waとみなしてもよい。
また、CF質量Waの特定は、カタログ値から特定することに限定されない。例えば、CNT17を分離した炭素繊維13の質量を実測してCF質量Waとしてもよい。さらに、測定試料とした複合繊維11に用いている炭素繊維13と同種であって、CNT17を付着させていない炭素繊維について質量を測定したものからCF質量Waを特定してもよい。
[成形体の製造方法]
図7において、成形体10は、構造体形成工程ST1、サイジング処理工程ST2、ポストキュア工程ST3、射出成形工程ST4を経て作製される。射出成形工程ST4は、混練工程ST4aと射出工程ST4bとを含む。
構造体形成工程ST1は、炭素繊維束の各炭素繊維13(原糸)のそれぞれにCNT17を付着させて構造体14を形成する。この構造体14の形成のために、CNT17が単離分散したCNT単離分散液(以下、単に分散液と称する)中に炭素繊維束を浸漬し、また分散液に機械的エネルギーを付与する。単離分散とは、CNT17が1本ずつ物理的に分離して絡み合わずに分散媒中に分散している状態をいい、2以上のCNT17が束状に集合した集合物の割合が10%以下である状態をさす。ここで集合物の割合が10%以上であると、分散媒中でのCNT17の凝集が促進され、CNT17の炭素繊維13に対する付着が阻害される。
図8に一例を示すように、構造体形成工程ST1で用いる付着装置21は、CNT付着槽22、ガイドローラ23~26、超音波発生器27等で構成される。CNT付着槽22内には、分散液28が収容される。超音波発生器27は、超音波をCNT付着槽22の下側よりCNT付着槽22内の分散液28に印加する。
付着装置21には、構造体14が形成されていない長尺(例えば100m程度)の炭素繊維束29が連続的に供給される。供給される炭素繊維束29は、ガイドローラ23~26に順番に巻き掛けられ、走行機構(図示省略)により一定の速さで走行する。この付着装置21には、各炭素繊維13に絡み防止用サイジング剤が付着していない炭素繊維束29が供給される。
炭素繊維束29は、開繊された状態でガイドローラ23~26にそれぞれ巻き掛けられている。ガイドローラ23~26に巻き掛けられた炭素繊維束29は、適度な張力が作用することで炭素繊維13同士が絡まり合うおそれが低減される。炭素繊維束29のガイドローラ23~26に対する巻き掛けは、より小さい巻掛け角(90°以下)とすることが好ましい。
ガイドローラ23~26は、いずれも平ローラである。ガイドローラ23のローラ長(軸方向の長さ)は、開繊された炭素繊維束29の幅よりも十分に大きくしてある。ガイドローラ24~26についても、ガイドローラ23と同様であり、それらのローラ長は、開繊された炭素繊維束29の幅よりも十分に大きくしてある。例えば、ガイドローラ23~26は、全て同じサイズであり、ローラ長が100mm、ローラの直径(外径)が50mmである。開繊された炭素繊維束29は、厚み方向(ガイドローラの径方向)に複数本の炭素繊維13が並ぶ。
ガイドローラ23~26のうちのガイドローラ24、25は、CNT付着槽22内に配置されている。これにより、ガイドローラ24、25間では、炭素繊維束29は、分散液28中を一定の深さで直線的に走行する。炭素繊維束29の走行速度は、0.5m/分以上100m/分以下の範囲内とすることが好ましい。炭素繊維束29の走行速度が高いほど、生産性を向上させることができ、走行速度が低いほど、CNT17の均一付着に有効であり、また炭素繊維13同士の絡み合いの抑制に効果的である。また、炭素繊維13同士の絡み合いが少ないほど炭素繊維13に対するCNT17の付着の均一性を高めることができる。炭素繊維束29の走行速度が100m/分以下であれば、炭素繊維13同士の絡み合いがより効果的に抑制されるとともに、CNT17の付着の均一性をより高くできる。また、炭素繊維束29の走行速度は、5m/分以上50m/分以下の範囲内とすることがより好ましい。
超音波発生器27は、機械的エネルギーとしての超音波振動を分散液28に印加する。これにより、分散液28中において、CNT17が分散した分散状態と凝集した凝集状態とが交互に変化する可逆的反応状態を作り出す。この可逆的反応状態にある分散液28中に炭素繊維束29を通過させると、分散状態から凝集状態に移行する際に、各炭素繊維13にCNT17がファンデルワールス力により付着する。CNT17に対する炭素繊維13の質量は、10万倍以上と大きく、付着したCNT17が脱離するためのエネルギーは、超音波振動によるエネルギーより大きくなる。このため、分散液28中において、炭素繊維13に一度付着したCNT17は、付着後の超音波振動によっても炭素繊維13から剥がれない。なお、CNT17同士では、いずれも質量が極めて小さいため、超音波振動によって分散状態と凝集状態とに交互に変化する。
分散状態から凝集状態への移行が繰り返し行われることで、各炭素繊維13に多くのCNT17がそれぞれ付着して構造体14が形成される。上述のように、CNT17として曲がった形状のものを用いることにより、CNT17とそれが付着した炭素繊維13の表面との間や付着したCNT17同士の間等に形成された空間に他のCNT17が入り込むことで、より多くのCNT17が炭素繊維13に付着し、構造体14が形成される。
分散液28に印加する超音波振動の周波数は、40kHz以上950kHz以下であることが好ましい。周波数が40kHz以上であれば、炭素繊維束29中の炭素繊維13同士の絡まり合いが抑制される。また、100kHz以上であれば、分散液28のキャビテーションが抑制されるため炭素繊維同士の衝突ダメージを抑制できる。周波数が950kHz以下であれば、炭素繊維13にCNT17が良好に付着する。炭素繊維13への機械的ダメージや絡み合いをより低減するためには、超音波振動の周波数は、100kHz以上が好ましい。
また、炭素繊維13に付着するCNT17の本数は、CNT17の分散状態から凝集状態への移行回数が10万回以上となることで、炭素繊維13同士の絡み合いが良好に抑制され、また構造体14の厚さの均一性を確保できることを、発明者らは見出した。なお、付着本数の最大値は、分散液28のCNT濃度によって変化し、分散液28のCNT濃度が高いほど大きくなる。ただし、分散液28のCNT濃度が、超音波振動を印加しているときにCNT17が分散状態をとり得ないほどの高濃度になると、炭素繊維13に対するCNT17の付着が行えなくなる。
このため、炭素繊維束29が分散液28中を走行している期間の長さ、すなわちガイドローラ24、25の間を走行している時間(以下、浸漬時間という)が、分散液28に印加する超音波振動の周期の10万倍またはそれ以上となるように、炭素繊維束29の走行速度、炭素繊維束29が分散液28中を走行する距離(ガイドローラ24、25の間隔)、分散液28に印加する超音波振動の周波数を決めることが好ましい。すなわち、超音波振動の周波数をfs(Hz)、浸漬時間をTs(秒)としたときに、「Ts≧100000/fs」を満たすようにすることが好ましい。例えば、超音波振動の周波数が100kHz、炭素繊維束29が分散液28中を走行する距離が0.1mであれば、炭素繊維束29の走行速度を6m/分以下とすればよい。また、炭素繊維束29を複数回に分けて分散液28に浸漬する場合でも、合計した浸漬時間が超音波振動の周期の10万倍またはそれ以上とすればCNT17の付着本数をほぼ最大にできる。
超音波発生器27から印加される超音波振動によってCNT付着槽22内の分散液28には、音圧(振幅)の分布が定まった定在波が生じる。この付着装置21では、分散液28中において、超音波振動の定在波の節すなわち音圧が極小となる深さを炭素繊維束29が走行するように、ガイドローラ24、25の深さ方向の位置が調整されている。したがって、炭素繊維束29が分散液28中を走行する分散液28の液面からの深さは、その深さをD、分散液28中に生じる超音波振動の定在波の波長をλ、nを1以上の整数としたときに、「D=n・(λ/2)」を満たすように決められている。なお、定在波の波長λは、分散液28中の音速、超音波発生器27から印加される超音波振動の周波数に基づいて求めることができる。
上記のように、分散液28中を走行する炭素繊維束29の深さを調整することにより、音圧による炭素繊維13の振動を抑制して、糸たるみによる糸乱れを防ぐことができ、炭素繊維13同士あるいは各炭素繊維13の表面に付着しているCNT17同士の擦れを抑えて、厚さの大きい構造体14を形成することができる。また、擦れが抑えられることによって、構造体14の厚さが大きくても、CNT質量比Rcのばらつきが抑えられ、上述の標準偏差sが小さくなる。なお、炭素繊維束29が分散液28中を走行する深さは、定在波の節から多少ずれてもよく、その場合にはn・λ/2-λ/8以上n・λ/2+λ/8以下の範囲内(n・λ/2-λ/8≦D≦n・λ/2+λ/8)とすることが好ましい。これにより、炭素繊維13の糸たるみによる糸乱れを許容できる範囲とすることができる。
分散液28は、例えば長尺のCNT(以下、材料CNTと称する)を分散媒に加え、ホモジナイザーや、せん断力、超音波分散機などにより、材料CNTを切断して所望とする長さのCNT17とするとともに、CNT17の分散の均一化を図ることで調製される。
分散媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類やトルエン、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、ノルマルヘキサン、エチルエーテル、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチル等の有機溶媒及びこれらの任意の割合の混合液を用いることができる。分散液28は、分散剤、接着剤を含有しない。
上述のように曲がった形状のCNT17の元となる材料CNTは、曲がった形状のものである。このような材料CNTは、個々の材料CNTの直径が揃っているものが好ましい。材料CNTは、切断によって生成される各CNTの長さが大きくても、CNTを単離分散することができるものが好ましい。これにより、上述のような長さの条件を満たすCNT17を単離分散した分散液28が容易に得られる。
この例の複合繊維11では、上述のように、CNT17として曲がった形状のものを付着させているので、CNT17とそれが付着した炭素繊維13の表面との間や付着したCNT17同士の間等に形成された空間に他のCNT17が入り込む。これにより、より多くのCNT17が炭素繊維13に付着する。また、強固にCNT17が炭素繊維13に付着して構造体14が形成されるので、炭素繊維13からCNT17がより剥離し難い。そして、このような複合繊維11を用いて作製される成形体10は、CNT17に由来して特性がより高くなる。
分散液28のCNT17の濃度は、0.003wt%以上3wt%以下の範囲内であることが好ましい。分散液28のCNT17の濃度は、より好ましくは0.005wt%以上0.5wt%以下である。
構造体形成工程ST1では、分散液28中から引き出された炭素繊維束29に付着している分散媒を蒸発させて乾燥する。構造体形成工程ST1の後、乾燥された炭素繊維束29に対してサイジング処理工程ST2を実施する。
サイジング処理工程ST2は、構造体14にサイジング剤15を付与するサイジング処理を行う。サイジング処理は、構造体14が形成された炭素繊維束29に対してサイジング処理液を付与する(接触させる)付与処理と乾燥させる乾燥処理とを含む。サイジング処理液は、原料(化合物)、この例では上述のカルボジイミド化合物を、溶媒に溶解することによりつくることができる。溶解に用いる溶媒は、適宜選択できる。例えばカルボジイミド化合物を溶解する溶媒としては、水、アルコール、ケトン類およびそれらの混合物等を用いることができる。
サイジング処理液の付与は、サイジング処理液が収容された液槽に炭素繊維束29を浸漬する手法、炭素繊維束29にサイジング処理液を噴霧する手法、炭素繊維束29にサイジング処理液を塗り付ける手法等、いずれの手法を用いてもよい。サイジング処理液は、CNT17同士の直接接触を維持した状態で、CNT17の表面に付与された状態になり、粘度が低いほど、CNT17同士の接触部近傍及び炭素繊維13とCNT17の接触部近傍に凝集しやすい。
サイジング処理工程ST2において、炭素繊維束29に対するサイジング処理液の付与量、サイジング処理液におけるサイジング剤の原料の濃度などを調整することで、所望とするサイジング剤質量比率Rmにすることができる。
サイジング処理液の付与処理後の乾燥処理は、サイジング処理液の溶媒(この例では水)を蒸発させ、CNT17同士の接触部、CNT17と炭素繊維13とを接触部のそれぞれの周りでそれらを架橋したサイジング剤15を形成する。これにより、複数の複合繊維11からなる複合繊維束12が得られる。乾燥の手法は、サイジング処理液が付与された炭素繊維束29を放置乾燥する手法、炭素繊維束29に空気等の気体を送る手法、炭素繊維束29を加熱する手法等の公知の乾燥手法を用いることができ、放置乾燥または気体を送るいずれかの手法に加熱を併用してもよい。
サイジング処理工程ST2に続くポストキュア工程ST3は、サイジング剤15の硬化を進め、サイジング剤15の強度を向上させるポストキュアを行なう。これにより、成形体10の作製に際して、構造体14の崩壊及び炭素繊維13からの剥がれをより効果的に抑制する。なお、ポストキュア工程ST3におけるポストキュアは、積極的に加熱することを要さず、例えば室温下においてサイジング剤15の硬化を進めてもよい。
この例では、ポストキュア工程ST3は、サイジング処理工程ST2を経た複合繊維束12を所定のポストキュア温度にし、そのポストキュア温度に応じたポストキュア期間だけポストキュア温度を維持することでポストキュアする。例えばポストキュア温度にされた雰囲気中に複合繊維束12を置くことでポストキュアを行う。ポストキュア温度とポストキュア期間は、複合繊維11を構成する各物質が劣化しない限り、任意に設定することができるが、アレニウスの式に従い、ポストキュア期間は、ポストキュア温度が低いほど長く設定するのがよい。この例では、ポストキュア温度を一定に保持する。例えば、ポストキュア温度が70℃の場合には、ポストキュア期間を0.5日(12時間)に設定し、より低温な20℃の場合には、ポストキュア期間をより長い16日(384時間)に設定する。
ここで、ポストキュア温度をT(℃)、ポストキュア期間をD(日数)としたときに、「T≧14.43ln(D)+60」を満たすようにポストキュアを行えば、構造体14の崩壊及び炭素繊維13からの剥がれが好ましく抑制されることを確認した。すなわち、図9に示すグラフにおいて、符号Eqに示される式「T=14.43ln(D)+60」の曲線上及び曲線Eqの上方のハッチングで示す領域内となるようにポストキュア温度とポストキュア期間を決めることが好ましい。なお、図9では、0℃から80℃のポストキュア温度の範囲について示してあるが、ポストキュア温度の範囲はこれに限定されない。また、上述のようにカルボジイミド化合物以外の化合物を用いてサイジング剤を付与する場合についても、ポストキュアを行なうことが好ましく、その際に上記のようなポストキュア温度Tとポストキュア期間Dとの関係を満たすようにするのがよい。
1つのポストキュア温度に対して最小のポストキュア期間でポストキュアを行う場合には、「T=14.43ln(D)+60」の関係を満たすようにすればよい。この場合、例えばポストキュア温度が70℃、60℃、50℃、40℃、30℃、20℃、10℃、0℃の場合には、その順番でポストキュア期間を0.5日、1日、2日、4日、8日、16日、32日、64日とすればよい。
なお、ポストキュアにおいて、ポストキュア温度を途中で低く変える場合には、その分、ポストキュア期間を長めに設定し、途中で高く変える場合には、その分ポストキュア期間を短めにすることができる。
射出成形工程ST4は、ポストキュア工程ST3を経た複合繊維束12を用い、射出成形により成形体10を作製する。射出成形工程ST4は、上述のように混練工程ST4aと射出工程ST4bとを含む。混練工程ST4aは、溶融した熱可塑性樹脂(以下、溶融樹脂と称する)と複合繊維11とを混練し、溶融樹脂中に複合繊維11を分散させて含有させる。射出工程ST4bは、混練工程ST4aで生成された複合繊維11を含む溶融樹脂を金型に射出することで成形体10を射出成形する。
成形体10の作製には、マトリックス樹脂Mを形成する熱可塑性樹脂を加熱溶融させた溶融樹脂を金型内へ射出する射出装置と金型の開閉及び金型へ射出される溶融樹脂の圧力に抗して金型を閉じた状態に保持する型締装置等からなる射出成形機が用いられる。
この例では、射出装置が可塑化ユニットと射出ユニットとを有するスクリュープリプラ式の射出成形機を用いる。可塑化ユニットは、可塑化シリンダ内において、熱可塑性樹脂を加熱して溶融した溶融樹脂と強化繊維(この例では複合繊維11)とを混練する。射出ユニットは、可塑化ユニットからの複合繊維11を含む溶融樹脂が射出シリンダ内に供給され、一定量の溶融樹脂が供給されるとプランジャにて射出シリンダ内の溶融樹脂を金型に射出し、複合繊維11を含む溶融樹脂を金型内に充填する。冷却工程を経て、金型が開かれて成形体10が取り出される。したがって、混練工程ST4aは、可塑化ユニットを用いて行われ、射出ユニットと金型及び型締装置を用いて行われる。
また、この例に用いた射出成形装置は、LFT-D(Long Fiber Thermoplastics -Direct)方式のものであり、可塑化シリンダには長尺の複合繊維束12がクリール等から連続的に供給される。例えば、複合繊維束12は、溶融樹脂を混練するスクリューの回転によって可塑化シリンダ内に引き込まれる。複合繊維束12の各複合繊維11は、スクリューのフライトとシリンダの内面との間に挟まれることで、また混練されている溶融樹脂から受ける応力によって、適当な長さにせん断され、混練によって溶融樹脂中に分散される。可塑化ユニットにおける圧力・温度等の混練条件は、マトリックス樹脂Mとなる樹脂材に適した条件として設定することができる。
可塑化ユニットにおける混練中における溶融樹脂は粘度が高く、構造体14には大きな応力が作用し、構造体14の炭素繊維13からの剥がれや構造体14の崩壊の原因になる。しかしながら、この例では、上述のようにサイジング剤15を用いてCNT17同士、炭素繊維13とCNT17とを強固に固定しているため、混練中に大きな応力が作用しても、構造体14の剥がれや崩壊が発生し難い。また、上述のサイジング剤15を構造体14に付与しているため、構造体14の剥がれや崩壊がより発生しがたく、さらにポストキュア工程ST3を経ることでサイジング剤15の強度を向上させているため、よりいっそう構造体14の剥がれや崩壊が発生しがたい。
なお、予め適当な長さに切断した複合繊維11と樹脂材のペレットとを、あるいは適当な長さに切断した複合繊維11を樹脂材に含有するペレットを可塑化シリンダに供給して成形体10を作製することもできるが、この場合においても複合繊維11が可塑化シリンダ内においてせん断される。一方で、成形体10の機械的強度の向上の観点からは、成形体10における強化繊維は長い方が有利である。この例のように長尺の複合繊維束12を可塑化シリンダ内に直接に供給するほうが、成形体10における複合繊維11がより長くなり、成形体10の機械的強度の向上に有利である、成形体10を作製する際に用いる射出成形機は、スクリュープリプラ式のものに限定されず、各種方式のものを用いてよい。
成形体10の複合繊維11の繊維体積含有率(Vf)と、機械的強度の1つである引張強さとは、正の相関性を有していることを確認しており、引張強さを高める観点から繊維体積含有率がより高いことが好ましい。一方で、繊維体積含有率を27%以上とすることにより、成形体10の引張強度のばらつきの抑制効果が顕著になることを確認しており、このような観点からは、繊維体積含有率を27%以上とすることが好ましく、成形体10としては27%以上であれば引張強度が確実に高い。なお、成形体10の複合繊維11の繊維体積含有率(Vf)は、スクリューの回転速度の増減等で調整できる。
成形体10における複合繊維11の繊維体積含有率(Vf)は、成形体10を燃焼させて前後の質量を用いて式(3)によって求められる。
Figure 0007382460000004
・・・(3)
式(3)中の値Wは、燃焼前の成形体10の質量、値WCFは、燃焼により成形体10からマトリックス樹脂Mを除去した残渣の質量、値dは、マトリックス樹脂Mの比重、値dCFは、炭素繊維13の比重である。この例では、複合繊維11におけるCNT17、サイジング剤15の体積、重さが炭素繊維13のものに対して非常に小さいため、炭素繊維13比重dCFを複合繊維11の比重と見做して複合繊維11の繊維体積含有率を求めている。なお、この燃焼法による繊維体積含有率の測定は、JIS K 7075-1991に準拠する。
炭素繊維13の比重dCFは、測定器(例えば、高精度電子比重計SD-200L(アルファミラージュ(株)製))により測定される値が用いられるが、カタログ値(炭素繊維13のメーカの公称値)を用いてもよい。マトリックス樹脂Mの比重dは、測定器により測定される値を用いる。
上記のように成形体10が作製されるが、その成形体10では、構造体14の空隙部19にマトリックス樹脂Mが入り込んで硬化している。このため、成形体10は、構造体14によるアンカー効果及び応力集中の緩和によって、炭素繊維13ないし複合繊維11とマトリックス樹脂Mとの剥離が起き難くなり、引張強度等の機械的強度が向上している。
なお、上記のように射出成形によって得られる成形体10を一次成形体として、この一次成形体にさらに成形加工を行って二次成形体を作製するようにしてもよい。例えば、一次成形体を平板状に作製し、この一次成形体にプレス加工を施すことで所望とする形状の二次成形体を作製してもよい。
上記のように作製される射出成形体に限らないが、マトリックス樹脂中の複合繊維は容易に再生利用(リサイクル)できる。図10に再生利用の一例を示す。製造工程ST11で製造される製造物31は、複合繊維11を含む樹脂であり、製造物31としては、複合繊維11を強化繊維とした成形体(炭素繊維強化プラスチック)や、成形体の作製に用いられる中間材であるプリプレグ等が挙げられる。
製造工程ST11は、例えば、製造物31がプリプレグである場合では、成形体のマトリックス樹脂となる樹脂と複合繊維11とからプリプレグを製造する工程であり、成形体を製造する場合では、その成形体の製造手法に応じた成形工程である。製造物31としての成形体の製造手法は、限定されず、上記のような射出成形、プリプレグを用いて作製するプレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、シートワインディング法及び内圧成形法、プリプレグを用いないハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、引き抜き成形法等が挙げられる。
回収工程ST12では、成形体の製造工程ST11で生じるプリプレグや成形体の端材、プリプレグの製造工程で生じる端材、不要となった成形体を複合物32として回収する。複合物32は、複合繊維11と樹脂とが一体になったものである。この複合物32は、プリプレグや成形体と同様に複合繊維11を樹脂に含有する形態や、複合繊維11の一部に樹脂が付着した形態等がある。この例では、回収工程ST12が準備工程である。
除去工程ST13により、回収された複合物32は、その樹脂が除去される。この樹脂の除去は、例えば複合物32を炉内で高温例えば500℃に加熱することにより、樹脂を熱分解または燃焼して除去する。なお、複合物32の加熱温度は、樹脂を熱分解または燃焼させることができ、かつ複合繊維11の炭素繊維13とその表面の構造体14を残すことができる温度として決められる。このときに、構造体14に付与されているサイジング剤15については、樹脂とともに熱分解または燃焼により除去されてもよく、除去されなくてもよい。これにより、生成物として、炭素繊維13と、その表面に構造体14が設けられた炭素繊維13とからなるCNT付着炭素繊維33が得られる。なお、このように得られるCNT付着炭素繊維33に対して洗浄を行なってもよい。また、除去工程ST13における樹脂の除去は、熱分解または燃焼に限定されず、例えば有機溶媒や酸・アルカリを用いた溶解法であってもよい。
複合材作製工程ST14では、除去工程ST13で得られるCNT付着炭素繊維33を強化繊維とした炭素繊維複合材34を製造する。すなわち、樹脂(マトリックス樹脂)中にCNT付着炭素繊維33を包埋した炭素繊維複合材34を作製する。炭素繊維複合材34としては、上記のような各種手法で作製される成形体やプリプレグである。複合材作製工程ST14で用いる樹脂は、作製する炭素繊維複合材34またはその作製手法に応じたものとすることができる。
例えば成形体を高温に加熱して樹脂を除去することで得られる炭素繊維は、その表面が不活性化するため、マトリックス樹脂との接着強度が低下する。このため、その炭素繊維を用いて炭素繊維複合材を作製するには、マトリックス樹脂との接着強度が大きくなるように炭素繊維に表面処理を実施する必要がある。
これに対して、CNT付着炭素繊維33は、炭素繊維13の表面に構造体14が形成されており、上述のように、構造体14の空隙部19にマトリックス樹脂が入り込んで硬化するので、表面処理を行なわなくてもCNT付着炭素繊維33とマトリックス樹脂との間に高い接着強度が得られる。この結果、機械的強度が高い成形体を作製できる。また、上記のような射出成形にCNT付着炭素繊維33を用いた際に、サイジング剤が除去されている場合には、熱可塑性樹脂を混練している間に、構造体14の部分的な脱落が生じる可能性がある。しかしながら、炭素繊維13の表面に残る構造体14により、機械的強度が高い射出成形体を作製できる。
上記では、製造物として構造体にサイジング剤を付与した複合繊維を強化繊維として含む例について説明しているが、複合繊維11に代えて、サイジング剤が付与されていない構造体が表面に設けられた炭素繊維を強化繊維として含む製造物であってもよい。
[実施例1]
実施例1では、上記手順により複合繊維11のサンプル繊維A11、A12を作製し、CNT17の剥離実験を行って、サイジング剤15の効果を確認した。複合繊維11の作製の際に用いた分散液28は、上述のように曲がった形状を有する材料CNTを用いて調製した。図11に、分散液28の調製に用いた材料CNTのSEM写真を示す。この材料CNTは、多層であり、直径が3nm以上10nm以下の範囲であった。材料CNTは、硫酸と硝酸の3:1混酸を用いて洗浄して触媒残渣を除去した後、濾過乾燥した。分散液28の分散媒としてのアセトンに材料CNTを加え、超音波ホモジナイザーを用いて材料CNTを切断し、CNT17とした。分散液28中のCNT17の長さは、0.2μm以上5μm以下であった。また、分散液28中のCNT17は、曲がった形状と評価できるものであった。分散液28のCNT17の濃度は、0.12wt%(=1200wt ppm)とした。分散液28には、分散剤や接着剤を添加しなかった。
炭素繊維束29としては、トレカ(登録商標)T700SC-12000(東レ株式会社製)を用いた。この炭素繊維束29には、12000本の炭素繊維13が含まれている。炭素繊維13の直径は7μm程度であり、長さは500m程度である。なお、炭素繊維束29は、CNT17の付着に先立って、炭素繊維13の表面から炭素繊維13の絡み防止用サイジング剤を除去した。
炭素繊維束29を開繊した状態でガイドローラ23~26に巻き掛け、CNT付着槽22内の分散液28中を走行させた。炭素繊維束29の走行速度は、1m/分とし、分散液28には、超音波発生器27により周波数が200kHzの超音波振動を与えた。なお、ガイドローラ24、25の間を走行している浸漬時間は、6.25秒であった。この浸漬時間は、分散液28に与える超音波振動の1250000周期分である。分散液28中では、炭素繊維束29は、「D=n・(λ/2)」を満たす分散液28の液面からの深さDを走行させた。
分散液28から引き出された炭素繊維束29を乾燥させた後に、サイジング処理を実施して、構造体14を構成するCNT17にサイジング剤15を付与した複合繊維束12を得た。
サンプル繊維A11についてのサイジング処理では、カルボジイミド化合物として「カルボジライトV-02」(商品名、日清紡ケミカル社製)を水に溶解したサイジング処理液を用いた。また、サンプル繊維A12のサイジング処理では、エポキシ樹脂をアセトンに溶解したサイジング処理液を用いた。サイジング処理液のカルボジイミド化合物、エポキシ樹脂の濃度は、いずれもサイジング剤質量比率Rmが1.0%となるように調整した。サイジング処理液を付与後、溶媒である水を蒸発させて複合繊維束12を乾燥させた。
上記のようにサイジング処理を施した複合繊維束12の一部を切り出して取得した複数本の複合繊維11をサンプル繊維A11、A12とした。サンプル繊維A11、A12には、複数のCNT17が均一に分散して付着していることをSEM観察した。この結果、サンプル繊維A11、A12では、炭素繊維13の繊維軸方向の狭い範囲(局所的)でも、また広い範囲でも均一にCNT17が付着して構造体14が形成されていることが確認された。また、構造体14は、多数のCNT17からなる三次元的なメッシュ構造すなわち空隙部19を有する不織布状に形成されており、空隙部19のほとんどがサイジング剤15で閉塞されていないことが確認された。なお、この実施例1ではポストキュアをしなかった。
CNT17の剥離実験では、水と界面活性剤とを混合した混合液に、サンプル繊維A11とサンプル繊維A12とを別容器にて浸漬し、その混合液に超音波発生器から超音波振動を10分間与えた。混合液に浸漬したサンプル繊維の長さは、1m、混合液における界面活性剤の濃度は0.2質量%、混合液に与えた超音波振動の周波数は100kHzであった。
サンプル繊維A11の剥離実験では、混合液が僅かに濁った程度であり、炭素繊維13からのCNT17の脱落がほとんどないことが確認できた。サンプル繊維A12の剥離実験では、混合液が黒く濁ったが、剥離実験後に確認したところ炭素繊維13から脱落していないCNT17が確認された。すなわち、カルボジイミド由来の構造を有するサイジング剤15により、CNT17同士及びCNT17と炭素繊維13との接触がより強固なものとなり、構造体14の崩壊及び炭素繊維13からの構造体14の剥がれがより効果的に抑制されることが分かり、特に好ましいことがわかる。
[実施例2]
実施例2では、複合繊維11を強化繊維とした成形体10として、繊維体積含有率が異なる試験片A21~A23をそれぞれ複数作製し、繊維体積含有率の測定と引張試験を実施した。
試験片A21~A23は、スクリュープリプラ式の射出成形機(LFormer 100-AP、(株)東芝機械製)を用い、長尺の複合繊維束12を可塑化シリンダに連続的に供給して作製した。複合繊維束12は、実施例1のサンプル繊維A11と同じ条件で作製したが、この実施例2ではポストキュアを実施したものを用いた。ポストキュア温度は60℃、ポストキュア時間は、1日であった。マトリックス樹脂Mとする熱可塑性樹脂としてはMXナイロン(商品名、三菱ガス化学株式会社製)を用いた。試験片A21~A23は、順番に複合繊維11の繊維体積含有率が概ね20%、24%、27%となるように作製した。試験片A21~A23の形状、サイズは、ISO 3167:2002に準拠したA形ダンベル型として作製した。
また、比較例1として、原糸(炭素繊維)を強化繊維として、炭素繊維の繊維体積含有率が試験片A21~A23と概ね同じ試験片B21~B23をそれぞれ複数作製し、それぞれの引張強さを同様に測定した。試験片B21~B23は、試験片A21~A23と同様に作製した。試験片A21~A23、B21~B23のいずれにも、炭素繊維13としてトレカT700SC-12000(東レ株式会社製)を用いた。
作製した試験片A21~A23及び試験片B21~B23の各一部は、繊維体積含有率を測定するために用いた。繊維体積含有率は、燃焼法により求めた。試験片の燃焼は、室温から2時間で450℃に昇温し、その後450℃を10時間維持することでマトリックス樹脂Mを完全に除去した。この結果、試験片A21~A23の繊維体積含有率の各平均は、順番に20.39%、24.48%、27.32%であり、試験片A23のサンプルはいずれも27%以上であった。また、試験片B21~B23の繊維体積含有率の各平均は、順番に20.82%、26.08%、28.29%であった。
引張試験は、JIS K7161:2014に準拠して行い、試験片A21~A23の引張強さ(最大引張応力)を測定した。引張試験は、引張速度(試験速度)5mm/minとして行った。
引張試験により得られた実施例2、比較例1の引張強さを図12に、引張強さに対応した最大荷重(最大試験力)を図13にそれぞれ示す。さらに、最大荷重時の試験片の変位を図14に示す。図12ないし図14では、試験片A21~A23、B21~B23ごとの平均値を示してあり、エラーバーは実際の測定値の分布範囲を示している。
最大引張応力、最大荷重については、試験片A21は試験片B21に対して約2%、試験片A22は試験片B22に対して約10.4%、試験片A23は試験片B23に対して約11.1%の優位性があった。
また、上記測定結果から、最大引張応力、最大荷重については、複合繊維11を強化繊維とした場合、繊維体積含有率と引張強さとの間に正の相関性があり、繊維体積含有率が高くなるのにしたがって最大引張応力が大きくなることがわかる。これに対して、炭素繊維(原糸)を強化繊維とした場合、繊維体積含有率と引張強さとの間に正の相関性を見いだせなかった。さらに、複合繊維11を強化繊維とした場合では、その繊維体積含有率が27%(以上)では、最大引張応力、最大荷重のばらつきが非常に小さくなることがわかる。これに対して、炭素繊維(原糸)を強化繊維とした場合には、繊維体積含有率が高くなると最大引張応力、最大荷重のばらつきが大きくなることがわかる。
最大荷重時の変位は、炭素繊維(原糸)を強化繊維とした場合には、繊維体積含有率が高くなると小さくなる傾向があるが、複合繊維11を強化繊維とした場合では、繊維体積含有率によらずほとんど変化しないことがわかる。また、複合繊維11を強化繊維とした場合では、繊維体積含有率が高くなるのにしたがって最大荷重時の変位のばらつきが小さくなり、繊維体積含有率を27%(以上)では非常に小さくなることがわかる。
[実施例3]
実施例3として、マトリックス樹脂Mを形成する熱可塑性樹脂としてPA66(66ナイロン)を用い、複合繊維11を強化繊維とした成形体10として繊維体積含有率が異なる試験片A31、A32をそれぞれ複数作製した。また、比較例2として、熱可塑性樹脂としてPA66を用い、炭素繊維(原糸)を強化繊維とした試験片B31、B32を作製した。これらの試験片A31、A32及び試験片B31、B32について、実施例2と同様に、繊維体積含有率の測定と引張試験とを行った。
試験片A31、B31は、繊維体積含有率が約20%となるように作製し、試験片A32、B32は、繊維体積含有率が約24%程度となるように作製した。なお、試験片A31、A32、試験片B31、B32のその他の作製条件は、実施例2と同じである。試験片A31,A32、B31、B32の各一部を用いて繊維体積含有率を燃焼法により求めたところ、繊維体積含有率は、試験片A31が19.5%、試験片A32が24.0%、試験片B31が19.4%、試験片B32が23.6%であった。
引張試験により得られた実施例3、比較例2の引張強さを図15に、最大荷重時における試験片の変位を図16にそれぞれ示す。また、図15、図16には、強化繊維を含まずPA66で形成されたマトリックス樹脂Mのみで作製した試験片C31の測定結果をあわせて示す。なお、図15、図16では、試験片A31、A32、B31、B32、C31ごとの平均値を示している。
図15からわかるように、マトリックス樹脂Mのみの試験片C31に対して、強化繊維を含む試験片A31、A32及び試験片B31、B31の引張強さが大きく向上しているが、複合繊維11を強化繊維とする試験片A31、A32は、炭素繊維を強化繊維(原糸)とする試験片B31、B32のいずれに対しても引張強さが大きい。また、ほぼ同じ繊維体積含有率の試験片同士を比較すると、繊維体積含有率が約20%の試験片A31は試験片B31に対して引張強さが5%増加し、繊維体積含有率が約24の試験片A32は試験片B32に対して引張強さが11%増加した。
図17に引張試験後の試験片A31の破断面を、また図18に引張試験後の試験片B31の破断面を、それぞれ走査型電子顕微鏡で観察した画像を示す。試験片B31では、強化繊維である炭素繊維(原糸)の表面が露出しており、マトリックス樹脂Mが炭素繊維(原糸)の界面で剥離して破壊された状態すなわち界面破壊が生じていることがわかる。これに対して、試験片A31では、複合繊維11の表面がマトリックス樹脂Mで覆われており、マトリックス樹脂Mの破壊すなわち凝集破壊が生じていることがわかる。このことから。構造体14によるアンカー効果及び応力集中の緩和によって、炭素繊維13ないし複合繊維11とマトリックス樹脂Mとの剥離が起き難くなっていることがわかり、複合繊維11が成形体10の引張強さをより向上させることがわかる。
試験片A31のマトリックス樹脂Mを燃焼によって除去した残渣中の複合繊維11の表面を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した画像を図19に示す。この画像によれば、成形体10の作製の際に、射出成形機での混練等によっても、複合繊維11は、その炭素繊維13の表面に構造体14が剥がれずに残っていることが確認できる。また、複合繊維11の表面にマトリックス樹脂Mの残留物が残らないため、そのままリサイクルすることができて、リサイクルの工程を簡略化できるといった点で有利である。
10 成形体
11 複合繊維
13 炭素繊維
14 構造体
15 サイジング剤
17 カーボンナノチューブ
M マトリックス樹脂

Claims (21)

  1. 炭素繊維と、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成し、前記炭素繊維の表面に設けられた構造体と、前記接触部の少なくとも周囲に設けられ前記カーボンナノチューブの官能基と反応した構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋するサイジング剤とを有する複数の複合繊維と、
    前記複数の複合繊維を包埋し、熱可塑性樹脂で形成されたマトリックス樹脂と
    を備えることを特徴とする射出成形体。
  2. 前記サイジング剤は、前記カーボンナノチューブの官能基とカルボジイミド基とが反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋することを特徴とする請求項1に記載の射出成形体。
  3. 前記サイジング剤は、前記カーボンナノチューブの官能基とイソシアネート基とが反応したイソシアネート由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋することを特徴とする請求項1に記載の射出成形体。
  4. 前記複数の複合繊維の繊維体積含有率が27%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の射出成形体。
  5. 前記構造体は、厚さが50nm以上200nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の射出成形体。
  6. 前記構造体を設けた前記炭素繊維は、前記構造体を設けた前記炭素繊維と樹脂とが一体になった複合物の前記樹脂を除去した生成物であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の射出成形体。
  7. 複合繊維と熱可塑性樹脂とを混練する混練工程と、
    前記複合繊維を含む前記熱可塑性樹脂を射出成形することにより、前記熱可塑性樹脂で形成されたマトリックス樹脂で前記複合繊維を包埋した射出成形体を得る射出工程と
    を有し、
    前記複合繊維は、炭素繊維、屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成し、前記炭素繊維の表面に設けられた構造体及び前記接触部の少なくとも周囲に設けられ、前記カーボンナノチューブの官能基と反応した構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋するサイジング剤とを有する
    ことを特徴とする射出成形体の製造方法。
  8. 前記サイジング剤は、前記カーボンナノチューブの官能基とカルボジイミド基とが反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋することを特徴とする請求項7に記載の射出成形体の製造方法。
  9. 前記サイジング剤は、前記カーボンナノチューブの官能基とイソシアネート基とが反応したイソシアネート由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋することを特徴とする請求項7に記載の射出成形体の製造方法。
  10. 前記混練工程は、長尺の前記複合繊維が連続的に供され、前記複合繊維を切断することを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載の射出成形体の製造方法。
  11. 前記混練工程は、前記射出成形体における前記複合繊維の繊維体積含有率が27%以上となるように、前記熱可塑性樹脂と前記複合繊維との比率が調整されることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載の射出成形体の製造方法。
  12. 前記構造体が設けられた前記炭素繊維と樹脂とが一体になった複合物の前記樹脂を除去して、前記複合繊維の前記炭素繊維及び前記構造体とする除去工程を有することを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載の射出成形体の製造方法。
  13. 前記混練工程の前に、前記複合繊維の前記サイジング剤をポストキュアするポストキュア工程を有する請求項7ないし9のいずれか1項に記載の射出成形体の製造方法。
  14. 前記ポストキュアは、前記複合繊維のポストキュア温度をT(℃)、前記ポストキュア温度を保持するポストキュア期間をD(日数)としたときに、「T≧14.43ln(D)+60」を満たすことを特徴とする請求項13に記載の射出成形体の製造方法。
  15. 屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され、前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成した構造体を炭素繊維の表面に形成する構造体形成工程と、
    直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋するサイジング剤の原料を溶解したサイジング処理液に前記構造体を形成した炭素繊維を接触させ、前記サイジング剤を付与し複合繊維を得るサイジング処理工程と、
    前記複合繊維の前記サイジング剤をポストキュアするポストキュア工程と
    を有する複合繊維の製造方法。
  16. 前記ポストキュアは、前記複合繊維のポストキュア温度をT(℃)、前記ポストキュア温度を保持するポストキュア期間をD(日数)としたときに、「T≧14.43ln(D)+60」を満たすことを特徴とする請求項15に記載の複合繊維の製造方法。
  17. 前記サイジング剤は、前記カーボンナノチューブの官能基とカルボジイミド基とが反応したカルボジイミド由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋することを特徴とする請求項15または16に記載の複合繊維の製造方法。
  18. 前記サイジング剤は、前記カーボンナノチューブの官能基とイソシアネート基とが反応したイソシアネート由来の構造を介して、直接接触した前記カーボンナノチューブ同士を架橋することを特徴とする請求項15または16に記載の複合繊維の製造方法。
  19. 屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成する構造体が表面に設けられた炭素繊維と樹脂とが一体になった複合物の前記樹脂を除去した生成物であることを特徴とするCNT付着炭素繊維。
  20. 屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成する構造体が表面に設けられた炭素繊維と樹脂とが一体になった複合物を準備する準備工程と、
    前記複合物の前記樹脂を除去したCNT付着炭素繊維を得る除去工程と
    を有するCNT付着炭素繊維の製造方法。
  21. 屈曲部を有する曲がった形状の複数のカーボンナノチューブで構成され前記カーボンナノチューブ同士が直接接触した接触部を有するネットワーク構造を形成する構造体が表面に設けられた炭素繊維と樹脂とが一体になった複合物を準備する準備工程と、
    前記複合物の前記樹脂を除去したCNT付着炭素繊維を得る除去工程と
    前記CNT付着炭素繊維をマトリックス樹脂に包埋した炭素繊維複合材を得る複合材作製工程と
    を有する炭素繊維複合材の製造方法。

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